(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
857 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2016/03/13(日) 21:18:05 ID:WnKPcChE0













29 古の錬金術師

858 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:19:04 ID:WnKPcChE0

イ从 ー ノi、 「ふふふ……面白い出会いでございますね」

(´-ω-`) 「はぁ……知っていたんだろ」

イ从゚ ー゚ノi、 「キツネにはわからぬことだらけでございます。
        華国を建国時から支え続ける仙帝が、不老不死の男性でありますことも、
        私がお招きした男性が、その方と交友があることも、
        何も知らぬままでございますよ」

そう言って狐の仮面を取ったその顔は、十分に状況を楽しんでいる笑顔であった。
  _
( ゚∀゚) 「……」

(´・ω・`) 「……」

イ从゚ ー゚ノi、 「おや、なんとも複雑な因縁があるようでございますね」

睨み合う僕らを前にして、キツネは悠長な言葉を投げかける。

当たり前だ。

ジョルジュと僕とでは考え方が大きく違う。
それが原因で数百年以上も昔に別れたのだから。

859 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:20:06 ID:WnKPcChE0
  _
( ゚∀゚) 「俺は帰る。こいつを送って行くなんて真っ平ごめんだ」

イ从゚ ー゚ノi、 「お待ちください。私はあなたにお願いをしたわけではありません。
        これは仕事の依頼でございますよ。あなたが私にするように」
  _
( ゚∀゚) 「ちっ……」

(´・ω・`) 「お前に頭を下げてでも、僕は神州に行きたいわけだが……。一つ、気になることがある。
       仙帝というのはお前のことなのか」

話に聞く仙帝の功績と、ジョルジュの性格は相いれないように思える。
国を興して、それを陰で支え続けるなど人間嫌いのすることではない。
  _
( -∀-) 「……」

イ从゚ ー゚ノi、 「その質問に答えさせるのは酷でありましょうね。
        なにせ、過去全ての事実を話さねばならないのですから」
  _
( ゚∀゚) 「言うんじゃねぇ」

イ从゚ ー゚ノi、 「あなたがそういうのであれば、私はわざわざ話しません。
        ですが、これだけは。神州に行くには、穏やかな精神でいる必要がございます。
        お互いいがみ合っている人間が乗る様な船では、すぐに沈められるでしょうね」

860 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:20:58 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「沈められる……?」

イ从゚ ー゚ノi、 「おや、勉強不足にございませんか。突然決まったことでありますから、仕方のないことでしょうが。
        神州がなぜそう呼ばれているか、それならわかりますでしょう?」

神州の名は、僕の知る文献ではすべて統一されている。
大陸の最東端に位置する国より一週間の船旅で辿り着くことができる島国。
争いは無く、皇族が支配を続ける平和な土地。

戦争ばかり繰り返す大陸西方の国からすれば、幻想のような情報ばかり見る。
何処までも嘘くさく、信じられるものではなかった。
複数の人間が同じ共同体で暮らしていれば、意見がぶつかり合うことは当たり前なのだから。

(´・ω・`) 「全ての揉め事は神の采配によって解決される、だったか。神が暮らし統治する国であると。
       正直、疑わしいけどね」

イ从゚ ー゚ノi、 「あながち嘘や誇張ではございません。ですが、あなたがたの思う神とはまた異なったものでしょう。
        神州の民が崇めるのは、浮雲の帝、ポルタツィア。七大災厄そのものですから」

(;´・ω・`) 「なっ!?」

イ从゚ ー゚ノi、 「雲の上に住まう七大災厄がうちのひとつ。
        溜息で雨雲を吹き飛ばし、涙は湖になり、居眠りをしては下界に落ちて地震を引き起こす、あの」

861 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:23:46 ID:WnKPcChE0

ポルタツィアの姿は人間そのもので、人間を生み出したのではないかとすら言われている七大災厄。
極東の地、その雲の上にいるという程度の認識しかなかった。
余りにも遠い場所のことであったし、住処を変えないため、出会うことはないと思っていたからだ。

イ从゚ ー゚ノi、 「彼の災厄は神州に害する者の入国を拒み、船を転覆させてしまいますので。
        いがみ合ったままのお二人で辿り着けるとは思いませんが」
  _
( ゚∀゚) 「だったら別のやつに頼めばいいだろ」

イ从゚ ー゚ノi、 「あまりに密航者の犠牲が多かったものですから、華国では個人での航行を禁止していますでしょう」
  _
( -∀-) 「くそっ」

イ从゚ ー゚ノi、 「お話をする場は設けましょう」

キツネが両の手を打ち合わせると、桃の木は全て小さくなり地面にのまれた。
白いクロスがかけられた長方形の机は、ラウンドテーブルへとその形を変え、土の地面は石畳になった。
木製の椅子から座り心地の悪い大理石の椅子になったところで空間の変化は終わり、
何故か一つだけできた豪華な椅子に彼女が座る。

862 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:24:29 ID:WnKPcChE0

僕とジョルジュは向かい合うように椅子に掛けた。
いつの間にか喧騒は聞こえなくなっており、沈黙が場を支配する。

イ从゚ ー゚ノi、 「どちらも何も言わないのでは、言いたいことも伝わらないものでしょう。
        何百年にも及ぶ蟠りがそう簡単に解けるわけでもありませんか。
        いいでしょう、私が一つ力を貸しましょう」
  _
( ゚∀゚) 「ちょっと待て、こんなことして何の得がある。
      お互い相手が許せねぇんだ。今更蟠りもクソもあるか」

イ从゚ ー゚ノi、 「お二人のために、では納得されないのでございましょうね。
        ええ、私には明確な目的があります。お二人とも既にご存知かと思われますが、友人を殺す、というものです。
        その結果を得る為であれば、私は自らを含めすべてを利用するでしょう
        つまり、お二人の仲を取り持つことが、私の益となるのです。
        それに……いえ、これはわざわざ言う事ではないでしょう」
  _
( ゚∀゚) 「相変わらず腹の立つ含み方をしやがる。てめぇにメリットがあるかもしれないが、俺にはないね。
      そいつだって、無理すりゃ一人で神州に行けるだろうよ」

イ从゚ ー゚ノi、 「……そういうと思っておりましたよ。ですので、これを用意しました」

863 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:25:22 ID:WnKPcChE0

キツネがラウンドテーブルを叩くと、石でできたそれが水面のような波紋を作った。
すぐに全体へと広がり、水盆のように表面が天井を映し出す。

イ从゚ ー゚ノi、 「ディートリンデの持つ古代錬金術の力を少し借りたものでございます。
        実際には私が見聞きしたことを、ここにいる人間に補足してもらいながら映し出すのが限界ですが」

深い闇が晴れるかのように、次第に明瞭になっていく。
同じ錬金術を扱っているとは思えない。

(´・ω・`) 「これは……」

それは、若かりし頃のジョルジュ。
とは言っても、不老不死のホムンクルスであるから、見た目は今と全く変わりはしない。

  _
( -∀-) 「ふん……」

机の上を見ようともしないジョルジュ。
そこまで嫌がっておきながら席を立たないのには、何か理由があるのだろう。

映像の中でしばらく採取をしていたジョルジュは、両手いっぱいに荷物を持つと小さな小屋へと戻る。
家の中には、僕とブーン、そしてクールが待っていた。

これは、僕らがまだ一緒に暮らしていた頃の様子。

864 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:26:07 ID:WnKPcChE0

  ○



(´・ω・`) 「お帰り、遅かったね」
  _
( ゚∀゚) 「ちょっとな」

( ^ω^) 「どうせ町でも行ってたんだお」
  _
( ゚∀゚) 「うっせぇな……俺の勝手だろ」

(´・ω・`) 「別に町に行くのは構わないけれど、細心の注意を払うようにね」

最近、ショボンはいつもこんな調子だ。
俺たちのことを見てるのか、見ていないのか。

今までにも定期的に沈み込むことはよくあった。
俺らもよく知らない過去のことだろうが。
そのうち元に戻るんだろうし、ブーンくんみたいにいちいち気にする必要はねぇか。

865 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:26:48 ID:WnKPcChE0
  _
( ゚∀゚) 「ショボン、聞きたいことがあるんだが」

(´・ω・`) 「ん、ああ。なんだい?」
  _
( ゚∀゚) 「晴れ蝿と白紋茸の効能を教えてくれ」

(´・ω・`) 「ああ」

( ^ω^) 「そのくらい自分で調べろお」

ブーンくんが指さしたのは、数多の書物が所狭しと詰め込まれた本棚。
四人で暮らすには狭い家なのに、そのせいでさらに居住スペースが圧迫されてやがる。

今朝からその本棚の前から一歩も動かないクールちゃんは、
ちらっとだけこっちを見ると、重たそうに腰を上げ興味無さそうに料理に向かった。
今日は彼女が晩御飯の当番の日だったか。

クールちゃんはここ最近、なにか思いつめたようにずっと研究書を読んでは錬金術を繰り返してる。
久しぶりの料理すらあまりやる気がないようだ。
  _
( ゚∀゚) 「聞きゃわかるんだから、わざわざ読む必要はねーだろ」

866 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:28:20 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「いいよブーン。晴れ蝿は素材として加えると、湿気を吸い取ってくれる。
       他にも、すり潰せば栄養素に、特殊な溶剤と一緒にすれば、雑菌の繁殖を抑えることもできる。
       白紋茸は、素材から塩分を除きたいとき、毒虫にやられた傷を応急手当てする時に使う。
       素材としてはあまり優秀ではないかな」
  _
( ゚∀゚) 「白紋茸を餌にした垂ミミ豚は病気に効くか?」

(´・ω・`) 「どんな病気か分からないから何とも言えないけど、垂ミミ豚は食料で体の構成を変化させるからね。
       白紋茸を食べさせてたらそういう効果が出るかもしれない。
       ただ単純に病気に対して強い効能を出そうとするなら、兎草や活力草、獅子草の方がいい」
  _
( -∀-) 「そうか……」

(´・ω・`) 「そんなことを聞いてどうするんだ?」
  _
( ゚∀゚) 「いや、別に関係ねぇよ」

そう、ショボンには関係ない。
これは俺の問題だから。

( ^ω^) 「ジョルジュ、そんなに町に言って何してるんだお。
       かわいい女の子でも見つけたのかお?」
  _
(; ゚∀゚) 「ブーンくんはそればっかだな」

( ^ω^) 「かわいい女の子こそが潤いだお」

867 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:29:59 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「手を出したりしてないだろうね……」

( ^ω^) 「失礼な! ブーンは見目麗しい女の子にしか興味はないお。
       そして悪戯はしないことをモットーにした紳士スタイルだお!」

(´-ω-`) 「僕は何を間違えたんだろうか……」
  _
( ゚∀゚) 「知るかよ。ブーンくんの身体を錬成する時に迷い幼精でも混ぜたんじゃねぇか?」

(´・ω・`) 「幼子攫いか……たぶん入って無いと思うんだけど……」

何気ない街中で子供が迷子になる原因の一端を担っているのが、迷い妖精。
別名、幼子攫い。

子供にしか見えず、触れず、大人がふと目を離した隙に連れ去ってしまう。
運が良ければすぐに見つかるが、神隠しとなって帰ってこなくなった子供も多い。
その殆どは女の子であるが、未だにその理由は解明されていない。

それを素材としてを混ぜていれば、女の子好きになっているのも納得がいく。

868 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:31:59 ID:WnKPcChE0

(; ^ω^) 「真面目な議論はやめてほしいお……」
  _
( ゚∀゚) 「ふんっ。クールちゃんはどう思うよ」

川 ゚ -゚) 「私は別に……ブーンが何でできてようと、あまり興味はない」

( -ω-) 「冷たいお……」

(´・ω・`) 「大丈夫、三人共素材は同じだから」
  _
( ゚∀゚) 「っていうが……男と女だし、こんだけ性格も体格もバラバラになるもんかね」

(´・ω・`) 「やれやれ、それじゃあ晩御飯にしようか。
       今日の当番は……クールか……」
  _
( ゚∀゚) 「クールちゃん、今日は食べれるものを頼むぜ」

869 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:33:13 ID:WnKPcChE0

前回の料理は酷く、ホムンクルスである俺らが三日三晩吐き続けたほど。
それから料理当番を外されて一ヶ月。
今日が復帰戦になるわけだが、不安が重くのしかかってくる。

川 ゚ -゚) 「あれだって愛情をたっぷり込めたんだが……」

話しながらも手元で黒と茶色の混じったような細長い"何か"を引きちぎっている。
鳴き声のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいだと思い込むことにした。
  _
(; ゚∀゚) 「愛情以外にもわけのわかんねぇもん入れてただろうが」

(; ^ω^) 「もうこりごりだお……」

川 ゚ -゚) 「今日は自信作だ。錬金術の本に書いてあったものをそのまま試したからな。
      もう少しで出来上がるから待っててくれ」

投げ出されたままの本が机の端に置いてあった。
今日、クールちゃんがずっと読んでいたその本のタイトルは、異端生物と錬金毒のススメ……
  _
( ゚∀゚) 「」

870 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:33:53 ID:WnKPcChE0

・  ・  ・  ・  ・  ・


  _
( ゚∀゚) 「わりぃな、いつも来れなくてよ」

「ごほっ……ううん、気にしないで……」
  _
( ゚∀゚) 「調子はどうだ?」

「あんまり」

ベッドに横になっている女性は、一月ほど前に道端で倒れていたのを見つけ、
誰もが見て見ぬふりをしているのを不思議に思い、医者に連れて行った。
だが、町に一人しかいない医者には診療を断られた。

村人たちは途方に暮れていた俺に話しかけてくることもなく、
俺は暫くしてから目を覚ました女性に家の場所を聞き、背負って連れてきた。
それからというもの、三日に一度ほど様子を見に来ているが、一向に良くなる様子はない。

871 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:35:18 ID:WnKPcChE0
  _
( -∀-) 「くそっ……病気の名前くらいわかりゃあな」

「気にしないで、来てくれているだけでも嬉しい」

錬金術師が薬を作るときは、決まって医者の手助けがいる。
俺や、恐らくショボンにも病気の原因や症状はわからなければ、錬成のしようがない。
次第に弱っていく姿を見ていることしか、俺にはできなかった。
  _
( ゚∀゚) 「なんで……村人たちは一つも話しちゃくれない」

「この村はそういうしきたりだから……」

彼女はそう答えるのみ。
他の村人同士は道端でも話しているが、俺が近づくとすぐに逃げていく。
一度、無理やり捕まえて話を聞こうとしたが、全く口を開かず、諦めるしかなかった。
  _
( ゚∀゚) 「原因さえわかりゃ直してやれるかもしれねぇんだ」

「気持ちだけで……ごほっ……ありがと……。
 これはね……呪いだから……村人と話すと、感染しちゃうから……」

872 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:35:59 ID:WnKPcChE0
  _
(#゚∀゚) 「馬鹿な、話すと感染する呪いなんてあるもんか」

「あるんだよ……今日も眠くなって来ちゃった……」
  _
( ゚∀゚) 「……また来る」

「うん」

呪いなんてものは存在するわけがない。
彼女が患っているのはただの病気だ。
その原因さえ突き止めることが出来れば、錬金術ですぐにでも治療薬が創り出せる。
気に食わないが、ショボンに頼めばそれこそすぐにでも。
  _
( ゚∀゚) 「おい、お前」

「…………」
  _
(#゚∀゚) 「お前だよ、聞いてんのか!」

「ひぃ……」

帰り道、道端でこそこそしている男を見つけ、胸ぐらを掴む。

873 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:36:44 ID:WnKPcChE0

「やめ……離して……」
  _
( ゚∀゚) 「離してほしけりゃ、教えろ。
      なんで、誰もあいつに話しかけてやらねぇ。医者ですら手助けしない」

「そ、それは……呪いだから……」
  _
(#゚∀゚) 「だからその呪いって何なんだ」

思わず手に入れる力が強くなり、男の顔がみるみる真っ青になっていく。
声にならない音を、口から泡と一緒に吐き出していることに気付き、慌てて手を放した。

「はぁっ……はぁっ……し、死ぬかと……はぁっ……。
 の、呪いは呪いさ。この村に昔っから伝わる。両腕に斑点が出来てただろ……あれが呪いだ。
 十年に一度、村人の中から一人だけかかる。話したら呪いが感染してしまうんだ!
 だ、だから、しょうがなく!」
  _
(#゚∀゚) 「話したらうつる? 現に俺はうつってねぇだろうが。それに、話さなくたって病状ぐらいは見れんだろ。
      医者はみねぇ、お前らは倒れているのに見て見ないふりをする、おかしいんじゃねぇか?」

874 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:38:58 ID:WnKPcChE0

「他所からたまに来る人に、言われたくはない」
  _
(#゚∀゚) 「あぁ!?」

「こ、この村にはこの村のやり方がある……あまり関わらないでくれ」
  _
(#゚∀゚) 「てめぇっ……!」

「そういうことです、旅の方。若いのを離してもらえませぬか」

熱くなっていたので気づかなかったが、村長らしき男と他数人がすぐ後ろにまで来ていた。
それぞれが包丁や鉈、斧などで簡単に武装しているのは、警戒心の表れだろう。

俺は投げ捨てる様に手を離した。
尻もちをついた若者を睨むように見下ろす。

そのまま村人たちのそれぞれの居場所に戻って行った。
  _
(#゚∀゚) 「っち……」

875 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:40:04 ID:WnKPcChE0





(´・ω・`) 「ジョルジュ視点の過去、か」

イ从゚ ー゚ノi、 「ええ、その通りでございます。
        私が聞かせていただきました話をここで再構成しているだけでございますので、
        実際の過去とは異なるかもしれませんが」
  _
( ゚∀゚) 「何も変わらねーよ。ご丁寧に心の声まで拾いやがって」

イ从゚ ー゚ノi、 「友人の想心錬金術のおかげでございます」

(´・ω・`) 「それで、キツネは僕に何を見せたいんだ?」

イ从゚ ー゚ノi、 「時間を追って説明した方が分かりやすいかと思いましたが、
        急かされるのであれば、結論から先に申し上げた方がよろしいでしょうか。
        私の口から言うのは憚られるのですが……」
  _
( -∀-) 「好きにしろ」

相変わらず、ジョルジュは不貞腐れたように背もたれに体重を預けている。
この場を離れるわけにもいかない理由が合うのだろうか。

イ从゚ ー゚ノi、 「では、これを見ていただくのがいいでしょう」

キツネはその細い指で二、三度テーブルを小突く。
拡がった波紋は、漣のように重なってはお互いを打ち消し合う。
一つの情景が、モザイク状からより鮮明な映像へ移ろいながら浮かび上がる。

876 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:43:36 ID:WnKPcChE0




  _
(#゚∀゚) 「糞っ!!」

俺が彼女の家を訪れた時、一際大きな炎の塊が、窓から零れ落ちてきた。
全身をなめるような熱と、爆ぜる音、焼け焦げた臭いがその他の感覚をすべて奪う。

停止した思考回路とは別の何かが、反射的に体の実権を握り紅に染まる家に我が身を投げ込んだ。
熱した鉄板を押し付けられるような痛みは、どこか客観的に脳内に響く。

玄関から向かって一番奥、突き当たりにある寝室の扉を蹴破り、中に入った。
そこに横たわっていた彼女は、穏やかに眠るがごとく両の眼を閉じたまま動かない。

その体は何故か鉛のように重く、抱えて這うのがやっと。
赤く焼け爛れた両手両足は思うように動かず、廊下に出たあたりで俺は眩暈と頭痛で意識を失った。


意識を取り戻したのは、それから数時間くらい経ったころだと思う。
正確な時間は覚えていないし、口の中は煤で満たされていて暫く咽込み続けた。

877 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:44:18 ID:WnKPcChE0
  _
( ゚∀゚) 「誰だ……」

焼け跡の中から衣服を一切身に付けず、しかし無傷で立ち上がった俺を見て、
村人たちは皆一様に頭を下げて祈り始めた。
その気持ちの悪い呟きの斉唱が、耳の奥にざらざらとした違和感を押し付け、吐き気を催す。

背中の重みは立ち上がったと同時に崩れて消えた。
溢れる怒りは、哀しみを蒸発させてなお余りある。
  _
(#゚∀゚) 「なんでだ!!」

喚き散らしたところで、帰ってくる反応は一切なかった。
手近なところにいる男の胸ぐらを掴み上げ、引きずり起こす。
怯えた目をしながらも、ただひたすらに祈りの言葉を口にし続ける。
  _
(#゚∀゚) 「何が起きたのか教えろ」

辺りの人間は一人、また一人と祈りを終えて帰っていく。
それがしきたりとして決められたことなのか、それとも皆が自発的に行っていたのかは、結局のところ分からなかった。

878 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:44:59 ID:WnKPcChE0

「決まってたんだ。呪いが発症してから三か月で、家ごと火葬にするのは」
  _
(#゚∀゚) 「ふざけるな! あれは呪いなんかじゃない! ただの病だった!」

三か月の間、何もしていなかったわけじゃない。
可能な限りショボンには錬金術の薬品調合を聞いたし、
それをもとにひたすら動物実験に明け暮れた。

家にあまり長居しないようになって、そのことをブーンくんには随分としつこく言われたが。
あれだけ留守にしたのだから、町に出入りしていたことに気付かれていたかもしれない。

ただ、救いたい一心だった。
錬金術による薬の効能があれば、救えるかもしれない一人の女性を。

それは叶わなかった。
盲目的に呪いと信じる村人たちの手によって、彼女はその命の灯を吹き消された。


彼女の命を奪った者達に、生きる価値などあるのだろうか。
その生を全うさせてやれなかった自分への怒りは、すぐに村人たちへの恨みに転化した。
他に取るべき手段がいくつもあったにも拘らず、最悪の手段に手を染めてしまったのは、ただ幼い心故だった。

879 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:46:08 ID:WnKPcChE0

それから、俺はショボンの知識を盗むことに努力を傾注し始める。
時に危険な採取に向かい、完成した錬金術の出来はすぐに確かめた。

不幸にして、当時の俺にとっては幸いにして、実験台には事欠かなかった。
小さい村ではあったけれども、百人以上の人間がいたのだから。


不老不死を生み出すことのできる錬金術が存在するならば、
失われた命が取り戻される錬金術があってもいいはずだと、
自分勝手に思い込んでいた。

結局、人体実験がショボンに見つかり、俺は唯一持っていた繋がりすら断ち切られ一人きりになった。


長い時間の孤独は、俺を壊すのに十分であり、
失われたもの全てを取り返すために、多くを奪ってきた。

結局、残ったものも得たものも何もないと気付くまで随分とかかってしまったが。

880 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:47:08 ID:WnKPcChE0




(;´・ω・`) 「ジョルジュ……君は……」

僕は、自らの過ちを知った。
当時、危険な錬金術を始めた彼を、理由も聞かずに諫めようとしたこと。
そして、人体実験へと手を伸ばした彼を、ただ見捨てることでしか対処できなかったことも。

生まれたばかりの子供だった彼を、情緒が完全に形成されていなかった彼を、
僕は導いてやることもせずに、ただ生みの親としての責任から逃れただけだった。
リリのことで頭が一杯だったと、言い訳はできない。

ジョルジュにとっては、僕しかいなかったのだから。
その後の彼の非道は、僕自身にも責任がある。
それを知らずに、いや、知ろうとせずに責め立てていた。

(;´・ω・`) 「僕は……すまない……」

まず、何を差し置いてもその言葉が必要だった。
たとえ許されることが無くても。
  _
( -∀-) 「謝るな。俺の行為は誰の責任でもない。俺自らの意思で行ったことだ。
       それが絶対的悪であるということも十分承知していたさ」

881 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:49:43 ID:WnKPcChE0

突き放すような言葉を返されてしまった僕は、それ以上何も続けることは出来なかった。
それでも、今、ジョルジュが華国で仙帝として生きている理由が、少しだけ見えた気がした。
  _
( -∀-) 「それに……随分と都合のいいように描写してくれたな、狐面」

イ从゚ ー゚ノi、 「私の印象が混ざっていることは否めませんが」
  _
( -∀-) 「鬱陶しい……。ショボンを連れて行きゃいいんだろ」

イ从゚ ー゚ノi、 「最初からそう答えていただければ、手間が省けたのでございますが」
  _
( ゚∀゚) 「一週間待て。その間に食料やら渡航の準備を済ませる」

(´・ω・`) 「それじゃあ、その間は華国でも観光させてもらうよ」
  _
( ゚∀゚) 「じゃあな」

それだけ言い残し、ジョルジュの姿は霧に紛れて消えていった。
外がどうなっているのか知る由もないが、都につながっているというのは嘘ではなさそうだ。

882 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:51:17 ID:WnKPcChE0

席を立つと、椅子は地面に溶けて消え、石のテーブルもまた同じように沈んで消えた。
時間を早送りしているかのように、桃の木が育ち、喧騒が戻ってくる。

(´・ω・`) 「気になっていたんだけど、キツネ。これは一体どうなっている?」

イ从゚ ー゚ノi、 「これ、とは」

目の前でたった今起きた現象は、常識では説明しきれない。
錬金術以外でおよそこのようなことが出来るわけもないが、
これだけの変化を起こす錬金術は僕ですら全く想像ができない。

イ从゚ ー゚ノi、 「そうですね。神州に行かれるのですから、少しお伝えしておきましょうか」
        さて、東洋の錬金術についてはどの位のことを御存知なのでしょう」

(´・ω・`) 「本で読む程度かな。実際に行おうともしたけど、素材が手に入らなかったから。
       こちらの錬金術は、目的が違うんだったか」

イ从゚ ー゚ノi、 「技術として扱われてきた西洋錬金術の系統も発展しておりますが、
        特に秀でているのは東洋錬金術の中でも、空間錬金術と遠隔錬金術と呼ばれる二分野でございましょう」

883 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:52:29 ID:WnKPcChE0

空間錬金術は、ある特定の場所に対して行う錬金術であり、
その地を踏む人間その他動植物に恩恵や損害を与えることができる。
遠くから手を触れずに使用することができるものを総じて遠隔錬金術と呼び、
特に連絡を取る手段として重宝されている。とキツネに説明された。

イ从゚ ー゚ノi、 「つまり、繋がりに主軸が置かれているのが東洋の錬金術の特長でございます。
        西方では争いごとに錬金術を用いられることも多いようですね」

(´・ω・`) 「ああ、人を殺す為じゃないかって錬金術はいくらでもある」

イ从゚ ー゚ノi、 「謀殺や誅殺、暗殺に用いられた錬金術は、この東方でも少なくはないでしょう。
        ですが、短絡的に物事を解決しようとしたために多くの犠牲者が常におりました。
        それを避けようと錬金術師が知恵を絞った結果、話し合うための発展を遂げたのが東洋の錬金術です」

(´・ω・`) 「話し合いで解決しないこともあるだろう」

イ从゚ ー゚ノi、 「ええ。錬金術の悪用が完全になくなったわけではありません。
        ですが発展した遠隔錬金術のおかげで、東洋では多くの国が共存することができたのでございます。
        ただ一つ、神州を除いては、ということになりますが」

884 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:53:28 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「神州とはいったいどういう国なんだ」

イ从゚ ー゚ノi、 「有史以前から存在した最も古い文明だと聞いたことがございます。
        実のところ、私どもも立ち入ったことがありませんので、良く知らないのです。
        錬金術師が多く、日常的に錬成が行われているとも聞いておりますが、
        私が知っています話というのは、全てあちらに住む知人からのものでございますので、
        相当偏っているものと推察できます」

一瞬曇ったキツネの顔から、あまりくみしやすい相手ではないことが察せられる。

イ从゚ ー゚ノi、 「本人曰く、神州ではかなり名の知れているようなので、すぐに出会うことができるかと思われます。
        その者の名を、ロマン・ド・モントー。"黒き外套"の古代錬金術の番人でございます。
        話が大分逸れてしまいましたね。
        先ほどお話し致しました、空間錬金術でこの場所は維持されているのでございます」

(;´・ω・`) 「まさか……でもそれなら華洛に繋がっているのはおかしい。
        いや、それは遠隔錬金術で……」

885 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:55:10 ID:WnKPcChE0

イ从゚ ー゚ノi、 「あまり私が説明するところもないかと思われますが、この空間はすべて、夢のようなものでございます。
        現実のどこにも存在せず、意識のみが私という空間の主のもとに集められているような状態です。
        華国全土何処からでもこの空間に御案内することができますが、肉体を移動させることは通常叶いません。
        それを今回のみは、肉体も移動できるようにしているのでございます」

(;´・ω・`) 「それは助かるけど……古代錬金術は本当に何でもありだな」

イ从゚ ー゚ノi、 「現在私がいる祭壇は、このような日の為に用意された仕掛けがあるものでございまして、
        強力な錬金術を二重掛けしているような状態ですので。
        私本来の力では、華国一帯はおろか、数百歩程度が限界でございます」

(´・ω・`) 「だとしても、他人の精神を抜き取るなんて荒業……」

精神だけを無理やりはぎとったところで、肉体に影響が出るわけではない。
そもそも二つは繋がっているとはいえ別物であるのだし、同じ軸線上に存在し得ないのだから。
解放した後の精神が肉体に戻る保証もない。
もしも戻ることなく彷徨ってしまえば、意識が薄れ消えゆくまでホムンクルス以上の孤独を味わうことになる。

イ从゚ ー゚ノi、 「自ら帰らないことを決めた方はいらっしゃいましたが、
        戻ろうとして戻れなかった方は、今のところいらっしゃらないようでございますす。
        働くこともなく、毎日毎日酒を浴びるように飲んで暮らす堕落した生活を続けることができるのですから、
        現実を捨ててでもこちらに来たいと思われる方は多いでしょうね」

886 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:56:03 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「成程ね。さて、そろそろ僕も行くよ。ありがとう」

イ从゚ ー゚ノi、 「そう言えば……大事なことを忘れておりました。
        華洛の城内には来雲英 周の研究所がございます。
        滞在中で構いませんので、そちらを訪ねていただきたいのです。
        彼女は、きっとあなたを待っていることでございましょう」

(´・ω・`) 「友人を殺せという話の続きじゃないだろうな」

イ从゚ ー゚ノi、 「ご想像の通りでございますが、あなたにとっても重要な話でございます。
        それでは、旅がうまくいくように、此方から祈っておきます。
        すぐに再び会うことになりますでしょうし、どうぞお気を付けて」

(´・ω・`) 「ああ」

ジョルジュが向かった出口へと足を踏み入れた。
桃の木が背後に流れるように消え、光に包まれた道を歩く。
すぐに終わりは来たようで、桃園とは比べ物にならないほど多くの人の声が聞こえ始めた。

振り向いたところにある姿見鏡は、曇っていて鏡の役割をはたしていない。
木の廊下を真っ直ぐに進めば、小部屋に行き当たり、そこには女性が一人待っていた。

887 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:56:44 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「ジョルジュは?」

「現在、渡航の準備と手続きをされに行っております。
 あなた様が来られましたら、此方を渡すようにと」

それは木製の手形。
墨で書かれた許可の文字と、朱印。

(´・ω・`) 「これは?」

「華国には許可制限区域が多くありますので、迂闊に踏み入られては法によって裁かなければなりません。
 この手形は華国役人であります徐 楼就(ジョウ ロウジュ)様からお渡しするようにと。
 この都の中を自由に歩き回ることができる許可証です」

一瞬戸惑ったが、すぐにそれがこの国でのジョルジュの名前だと理解する。
有難く受取り、出口までの案内をお願いした。
長く続く廊下は丁寧に朱色で塗られ、曇りなく磨かれている。

(´・ω・`) 「今どこに向かっているんだ?」

888 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:57:35 ID:WnKPcChE0

「それを聞かれるかと言われてましたので、此方に地図を用意しています。
 ここは、華洛にある洛城でして、初代皇帝が建てた城です。地図の真ん中あたりでしょうか」

巻物の地図は扱いに慣れていないせいで使いにくかったが、
なんとか歩きながら引っ張り出して目的の場所を見つけた。

「中心部には皇帝と上級役人が住んでおります。今はその南側の門に向かっているところで、
 門の外には華洛の市街が遥か山の麓辺りまで続いています」

(´・ω・`) 「随分と大きな都なんだな」

歩きながら横目で見るとあちこちに中庭があり、そのどれもが凝った造りをしている。
建造には相当な費用がかかっただろう。

「周辺国の中では最大規模です。と、見えました。
 後、その札は支払いの際に見せる事でも使用できますので、食事や宿等はそれで済ましてください」

(´・ω・`) 「助かるけど、後で確認するのか?」

「ええ。国賓の方々の中でも限られた方にしか渡していませんので、失くしたりしないようにお願いします。
 城内には錬金術師の方専用の貸し切り部屋もあるのですが、ご案内しましょうか?」

889 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:58:39 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「それはぜひ」

「この角を曲がってすぐ……」

「あ~~もーーーー!!」

廊下を突き抜けるような勢いで飛んできた大声と、積み上げたなにかが崩れる音。
バタバタと足音をさせながら走ってきたのは、汚れた白衣を着た女性。
床まで届くような後ろ髪とは多少的に、前髪は短めでダークブルーの瞳がよく見えた。

「おっと、お客さんかな」

(´・ω・`) 「どうも」

o川*゚ー゚)o 「アリーゼ・キュートね、よろしく! 恥ずかしいところを見られちゃったな」

「いつも恥ずかしいので、気にすることはありませんよ。キュート様。
 他の方々に迷惑なので、廊下を走るのはやめてください」

o川*゚ー゚)o 「厳しぃねー。で、あなたも錬金術師ね?
        しかも……ふむふむ、なかなかな実力のようだね!」

(´・ω・`) 「初めまして、ショボンです」

o川*゚ー゚)o 「……!……変わった名前なんだね。ま、良かったら私の研究室でも来てよ。
        お茶くらいなら用意するよ」

890 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 21:59:19 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「はい、時間があればまた」

o川*゚ー゚)o 「じゃぁ~ね~~!」

女性は、そのまま慌ただしく走っていき消えた。
両手に持っていた試験管の中身は確認できなかったが、かなり有能な錬金術師なはずだ。

「すいません、彼女の隣の部屋になるのですが……」

(´・ω・`) 「気にしないよ」

「こちらの部屋です」

引き戸を開けると、錬金術の機材が所狭しと並べられていた。
隠れ里の大罪館に置いてあるような情報冊子が本棚に、
恐らくは素材を粉末化したものが瓶に入っている。
柔らかそうなベッドと、机や椅子、メモ用紙の束など至れり尽くせり。

(´・ω・`) 「これを自由に使ってもいいの?」

自分でそろえようとするならいくらかかるかもわからない。
錬金術師の研究室としては文句なく一級。

891 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:00:30 ID:WnKPcChE0

「ええ、そのために用意しているので。では、名前をかけておきます」

扉の横には札が有り、女性がそこに名前を書く。
使用用途や滞在期間を書くための欄もあるようだが、そこは空いたままにしていた。

「さて、では門に向かいましょう」


門まで送ってもらった後、案内の女性と別れ華洛の街並みを眺めながら歩く。
背の低い木造建築が殆どで、家の間は詰まっている。
火事が起きればひとたまりもないだろうな。

すれ違った住人は、異国風の見た目をしている僕が気になるようであちこちから視線を感じる。
国賓もいるくらいだから、旅行客も頻繁なのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

都の、それも中心にある城の近くに暮らす人々は生活にも余裕があるのだろう。
あちこちで立ち止まって談笑をしていた。

892 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:01:10 ID:WnKPcChE0

・  ・  ・  ・  ・  ・



大通りを一通り見て回り、幾つかの買い物を済ませ城に戻った。
中心街にある錬金術の店には寄ってみたが、あまりぱっとしないものも多く、
城内で会った彼女の部屋を訪ねた方が幾分か面白そうだ。

(´・ω・`) 「ん……あれは……」

出るときには気づかなかったが、門を入ってすぐ右手に小さな錬金術の店があった。
看板に書いてある文字はボロボロで読めないが、城内に店を構えるくらいだから相応の腕はあるのだろう。
そう思って扉をくぐると、奥から少女が出てきた。

黒髪を肩のところで切りそろえ、簪を挿している。
少女は、カウンターの向こう側に座ると両手を差し出した。

lw´‐ _‐ノv 「相談料!」

893 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:02:50 ID:WnKPcChE0

満面の笑みに対して、想定外の言葉が脳を硬直させる。

(´・ω・`) 「えっと、店主は」

lw´‐ _‐ノv 「失礼だな、わたしだよ」

(;´・ω・`) 「いや……」

lw´‐ _‐ノv 「来雲英錬金術店へようこそ。わたしが店主の来雲英 周。
        こう見えても、今年で35歳になるんで、よろしく……」

(´・ω・`) 「は?」

lw´‐ _‐ノv 「で、どんな錬金術道具が欲しいの?」

(;´・ω・`) 「ちょっと寄ってみただけなんだ。看板も読めなかったけど、錬金術師の店に見えたから
       まさかコキラ一族だとは思わなかったし……」

lw´‐ _‐ノv 「冷やかしかね……丁度暇してたから別にいいけど。
        看板見えなくなってるんだ。そろそろ直さなきゃなぁ……。
        はい、まぁお茶でも飲みなよ」

894 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:03:31 ID:WnKPcChE0

嘘かと疑うくらいに余りにも見た目と実年齢と乖離しすぎている少女にお茶を出されるのは、複雑な気分だった。
だが、雰囲気は大人の女性そのもので、嘘を言っているようにも見えない。

(´・ω・`) 「コキラ一族だというのは本当か?」

lw´‐ _‐ノv 「隠すことでもないでしょ。どうせほとんど残っていないんだし」

(´・ω・`) 「どういうことだ?」

lw´‐ _‐ノv 「最近、一族がどんどん音信不通になってるから。
        特に大陸西側の方ね。何か起きてるんじゃないかな。私に何の被害もないから放っているけど。
        それで、何の用かな」

(´・ω・`) 「あなたがコキラ一族の方だとしたら、聞きたいことがある」

lw´‐ _‐ノv 「ん、御希望に添えれるかどうかはわからないけど、言ってみなさい」

(´・ω・`) 「いくつか要件があるんだが、最初に済ますべきはキツネのことだ」

lw´‐ _‐ノv 「キツネ?」

(´・ω・`) 「名前は……孤 范だったか。古代錬金術の番人だと言えばわかるだろう」

895 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:04:53 ID:WnKPcChE0

lw´‐ _‐ノv 「む……ああ、そういう事か。それならちょっと待って。彼女は今寝ているから。
       起こしてくる。そこにでも座ってなさい」

少女は奥の部屋に消えていった。
指示された場所に座り、部屋の中の錬金術を見回して時間を潰す。
棚に飾ってある品は、どれも繊細な錬金術で、僕ですら簡単には再現できそうにないほど。
見た目からは想像もできない程、優れた術師のようだ。
一匹の猫を抱えてできたのは、部屋の中を二週も見回した後だった。

lw´‐ _‐ノv 「お待たせっと」

(´・ω・`) 「!!!」

少女が抱きかかえてきたのは、つやのある毛並みをした白猫。
寝起きなのだろうが、ふてぶてしい顔には覚えがあった。
 ∧  
(゚、。`フ 「ぬ……久しぶりじゃな」

(´・ω・`) 「ええっと……なんだっけ」

こける猫というものは、その時初めて見た。
尻尾の毛が立っているところを見ると、名前を忘れられて怒っているのかもしれない。
そんな自尊心がある猫がいるわけがないとも思ったが、目の前にいるようで。

896 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:06:34 ID:WnKPcChE0
 ∧  
(゚、。`フ 「でぃじゃ!ディートリンデ!
      全く、不死者でも中身はぽんこつのようじゃな!」

(´・ω・`) 「ああ、そうだった。なんでこんなところにいるんだ?」
 ∧  
(゚、。`フ 「察しも悪くなったようじゃの。ホムンクルスと言えど脳は経年劣化するのか」

(´・ω・`) 「忘れることはあるさ。訳の分からないことを言いたいだけ言って消えた猫のことなんてね。
       こんなところで会うとは思ってなかったけど」

lw´‐ _‐ノv 「あーちょっと待って、彼女が変わってほしいって」

(´・ω・`) 「え?」

少女は、突然目の前の机を、拳で二度打ち鳴らす。
一度閉じられてから再び開けられた瞳.は、
色こそ変化していないものの、その印象にミステリアスな雰囲気を内包していた。

897 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:07:19 ID:WnKPcChE0

その瞳とどこかで一度会ったことがあると、確信する。
答えは、最初の一言で得られた。

lw´‐ _‐ノv 「久しぶりだね、ショボン君。きっと君は私のことを覚えていないし、一応名乗らせてもらおうかな。
        シュール・オリンクス。錬金術師だよ」

(;´・ω・`) 「っ! あの時の!」
 ∧  
(゚、。`フ 「なんじゃ、お互い知っているのかの」

lw´‐ _‐ノv 「ええ、でぃ」

細い指先で喉元をくすぐられ、ごろごろと鳴き声を漏らすでぃ。
その様子からは、元が人間であったとは信じられない。

(´・ω・`) 「なぜ、キツネは僕があなたに会うように言ったんだ」

lw´‐ _‐ノv 「私こそがすべての元凶だからね」

898 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:08:00 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「っ!!」

lw´‐ _‐ノv 「誤解しないでね。確かに私自身も意識のみでしか存在していない」

腰の剣に手をやって睨みつける僕に対して、全く怯みもしない。

(´・ω・`) 「どういうことだ」

lw´‐ _‐ノv 「キツネが殺してほしいといったのは、私の意識で間違いないよ。
        けどそれは、今は何処にいるとも知れない悪意の塊のほう」

(´・ω・`) 「今ここにいる意識が悪意じゃない証明は出来るのか」

lw´‐ _‐ノv 「それは難しいかな。でも、キツネが言ってたでしょ。彼女は身体を得るつもりだって。
        既に身体を得ている私は違うと、そう判断できると思うけど?
        キツネと同じ番人であるでぃもここにいるしね」

(´・ω・`) 「……」

キツネのいう事を信じるとして、彼女のいう事とは矛盾しない。
悪意の塊の意識が、人間の身体なんて脆いものを器にするわけがないとも思う。

899 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:08:42 ID:WnKPcChE0
 ∧  
(゚、。`フ 「信じられんのかの。皆が皆、好き勝手説明するからじゃな。
      だからわらわは何も言わなかったのいうのに」

彼女の場合、ただめんどくさかっただけではないかと思うが。
一人と一匹はただ座してこちらの反応を見るのみ。
危害を加えてくる様子もないのだから、話を聞かなければならない。
僕にとって大事な話を。

lw´‐ _‐ノv 「何から話すべきかな……キツネからはどこまで聞いているの?」

(´・ω・`) 「旧大陸であった話、それから、何らかの原因で暴走した悪意を殺してほしいと」

lw´‐ _‐ノv 「あーそっか、大体は聞いているんだね。それなら説明の手間が省けていいや。
        ショボン君の大切な女性は、今彼女の手にある可能性が高い。
        このまま放っておけば、その娘の精神は失われてしまう。
        あなたはどうするの?」

(´・ω・`) 「助けに行く。当然だ」

lw´‐ _‐ノv 「そう言ってくれると思ったよ。でも、今のショボン君じゃ私を……彼女を止められない。
        やって見なきゃわかるっていうつもりだった? でも無理。それが現実」

900 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:09:22 ID:WnKPcChE0

言いたいことを先に言われ、ただ黙り込むだけ。
拳を強く握り込むことにしか、怒りの矛先はなかった。

(´・ω・`) 「だったら……だったらどうすればいい」

lw´‐ _‐ノv 「彼女を止める方法はたった一つだけ。彼女を生み出した存在にその殺し方を聞けばいい」

(´・ω・`) 「何を言っているんだ。それなら目の前に……」

lw´‐ _‐ノv 「彼女は私から生まれたけど、今の私が作ったわけじゃない」

(´・ω・`) 「どういう事だ」

lw´‐ _‐ノv 「あっれー范たちにも話したことあるはずなんだけどなぁ」
 ∧  
(゚、。`フ 「忘れとるんじゃろう」

lw´‐ _‐ノv 「じゃ、錬金術師のお姫様のお話してあげる。残酷で、救いようのない人殺しの話をね」

901 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:10:03 ID:WnKPcChE0

周は、いやシュールだろうか。奥の部屋から大きな鏡を持ってきた。
無機質な表面を彼女が叩くと、水面の様に震え逆転した世界は消えた。

lw´‐ _‐ノv 「出して」

(´・ω・`) 「何を」

lw´‐ _‐ノv 「持ってるでしょ、でぃの鈴」

それは、腰に結んだ袋の中の二つの鈴。
この旅路で使うことはないと思っていたが、なんとなく拠点にしていた研究所から持ってきていた。
貴重なものであったし、留守中に空き巣に入られて無くなったでは困るものだ。

(´・ω・`) 「これをどう使うんだ」

手渡した鈴を、しかしすぐにでぃに渡した。
でぃが触れた鈴は紐が自然に外れ、拳大の大きさにまで膨れ、宙に浮かぶ。

(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

余りにも現実離れした光景に息をのんでいる間に、シュールが鏡を僕の前まで持ってきていた。
訝しがる時間もなく背中を強く押され、鏡の中に……落とされた。

902 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:10:44 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「は? え? はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

咄嗟に伸ばした手も鏡面には触れることすらできず、
重力に囚われた身体は頭から一直線に落下し、地面らしき場所に無様に転がった。
内臓が飛び出るかと思うほどの衝撃は、しかしすぐに溶けて消えた。
ホムンクルスとしての再生能力ではなく、この空間の特性がそうさせるのだと理解した時、
僕を突き落とした犯人が隣に優雅に着地する。

lw´‐ _‐ノv 「どうだったー?」

(´-ω-`) 「最低の気分だ。で、次はどうやって驚かせてくれるつもりだ?」

lw´‐ _‐ノv 「やだなぁ、冗談じゃない冗談! どうせ死にはしないんだからね。
        さて、でぃー聞こえる? 始めちゃって!」

返事こそなかったが、白い部屋は暗転し、指先すら見えないほどの暗闇に満たされた。
隣にあるシュールの存在感は消えておらず、これは悪戯ではないのだろう。

lw´‐ _‐ノv 「私の記憶。最も、私自身もほとんど覚えていないのだけれど。
        でぃの力を利用して、やっと再現できてるんだから」

903 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:12:24 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「じゃあ、これは……」

lw´‐ _‐ノv 「私の記憶を見せるための部屋。記憶を、記録してある場所。
        全てを見て知って。ショボン君に必要なことだから」

シュールが指さし先がゆっくりと明るくなっていく。


暗闇だと思っていたのは、闇夜の森。
誰かが必死で走っていた。切れそうな息を必死でつなぎながら、恐怖に身を固まらせまいと。
振り向いたのは年端もいかぬ少女。

背後を追っていたのは、狼だった。

「いやっ……来ないで!」

木の根に足を引っかけ、少女は転がり泥まみれになっていた。
近寄らせまいと、手元に落ちているものを投げるが、
手のひらよりも小さな礫は、当たったところでさした威力もない。
それを避けることもなく、群れを為した狼は、少女の周りでぐるぐると円を描く。

904 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:13:05 ID:WnKPcChE0

「誰か……助けて……」

少女を囲う群れは次第に距離を狭めていく。
腹を空かせているのであろう狼は、慈悲の言葉などに耳を貸しはしない。
そのうちの一匹が飛びかかり、その爪を突き立てようとした瞬間、少女はその場から消えていた。


lw´‐ _‐ノv 「私は、小国の姫として生を受けたんだけどね、お転婆で……。
        退屈な日々に飽き飽きとしていて、よく城を抜け出してたんだ。
        でも、夜に森の中に入った私は、運悪く狼の群れに見つかって。
        そこで出会ったのが、彼女……といっても性別はないと思うけど。
        喋り方がなんとなく女性の様だったからね」

隣で語っているシュールの説明が耳に届いた。
その間も光景は絶え間なく変化する。
つい先ほどまで森の中にいた少女は、光の海に沈んでいく。
キラキラと、輝く欠片のみが漂う静かな海。

905 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:13:51 ID:WnKPcChE0

「息が……できる……」

少女の数百倍はあろうかという細長く巨大な影が、頭の上を横切った。
突然の状況に怯え、戸惑う少女。
通り過ぎた影はぐるりと旋回しながら潜ってきて、ゆっくりと少女の前で止まった。

蛇のように細長い姿。
白く艶やかで鱗のない魚で、赤く小さな瞳が三つ。
見定めるかのように、少女の前に浮遊し続ける。

「あなたは……」

『名は─────』

透き通った音は、しかしその意味を解することができなかった。

「え??」

『ヒトにはイヴィリーカという記号で呼ばれている』

906 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:14:32 ID:WnKPcChE0

「助けて……くれたの……?」

『ヒトの娘よ、今、お前は死の淵に瀕している。
 知識を得て生き延びるか、それともここで朽ちて死ぬか。
 選択肢を提示しよう』

「……生きたい!」

『では知識を与えよう。我が肉を喰らうがいい』

少女は、差し出されたイヴィリーカの腹の肉を食いちぎった。
そこから溢れ出てきたのは真っ赤な血液ではなく、黒と白の奔流。

lw´‐ _‐ノv 「あれはね、情報体だったんだよ。この世界の、ありとあらゆる情報。
        天海にはね、この世界の理がすべて保存されているんだって」

(´・ω・`) 「それも、イヴィリーカから得た知識か」

lw´‐ _‐ノv 「そうだよ。この時に、私はこの先"錬金術"と呼ばれる知識を手に入れたんだ
        なんで七大災厄であるイヴィリーカが私を救ったのかもわからないし、
        そんな知識を与えてくれたのかもわからない。ただ、この時を境に私は錬金術師として歩み始めたんだ」

907 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:15:23 ID:WnKPcChE0

映像から色が落ち、線が千切れまたくっついて、ぐるぐると螺旋を描きながら多くの色が零れだし、
再び見れるものになっていた時、かつての少女は大人になっていた。

「私、シュール・オリンクスはタントス、ナークラッド、ワーキルリマ、ベンの四国同盟、
 盟主として人々の安寧を護り続けると誓います」

壮麗な教会の二階部分、大きく張り出した半円形の足場の上で、
優雅なドレスを着こんだ女性が誓いの言葉を並べ立てた。
それは、旧大陸が一つに纏まった瞬間。
空が割れんばかりの歓声と、拍手が響き渡った。

lw´‐ _‐ノv 「錬金術の知識を手に入れてから、十数年後。
        私は、当時争いの絶えなかった四国を、一つにしてみせた。
        最初は魔術や呪術だと忌避されていた錬金術も、次第に民衆へ浸透していった。
        幸せな日々だった」


場面は変わり、千年以上前だというのに今と比べても遜色ない研究室。
シュールの前に、五人の人間が立っていた。
錬金術師の装備を除いて、服装に全く統一感が無い。

908 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:16:06 ID:WnKPcChE0

「お招きいただきありがとうございます。
 シュール様のお力となれますように、存分に力を震わさせていただきます」

最初に口を開いたのは、ゆったりとした絹の服を身に纏った背の低い女性。
それがキツネだとわかるのに時間はかからなかった。

「うん、それで……」

「研究をさせてもらえるっていうから来たんだが、本当であるか?」

乱暴な言葉遣いは背が高い男性のもの。
白のシャツに黒の上着。当時の服飾についてはさっぱり知らないが、恐らくフォーマルなものだろう。

「おぬし、無礼ではないかの
 女王様の御前であるぞ」

でぃは今も昔も喋り方が変わっていないようだ。
女性にしては高めの身長と今の様子がなかなか一致しなかったけれど。

909 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:16:51 ID:WnKPcChE0

「こっちは客である。それらしく扱ってもらわぬとな」

言い争いになるかと思ったとき、部屋のテーブルに勝手に座っている二人組の声が聞こえた。
双子にしてもあまりにも似すぎている。もし二人が冗談で入れ替わっていても、多くの人間は気づけないだろう。

「おっぱい……大きいな」

「アニジャ……声に出ているぞ……」

「どなたも、個性的な方ばかりでございますね」

「お、こっちは……ふむ、控えめふぐぅぁ!!」

全てを言い終える前に、狐の振るった扇が双子の兄を椅子から叩き落とした。
空気の塊が投げつけられたのだろう。
あまりに優れた錬金術のせいで、これが遥か昔の事実だということを忘れそうになるほどだ。

「あ、アニジャ! 大丈夫か!」

「失礼な非文化人でございますね」

910 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:17:32 ID:WnKPcChE0

「あの……みんな、聞いてくれないかな」

めいめいに騒いでいた五人の影は、女王の言葉でやっと静まった。

「錬金術が巷に拡がってからまだ日が浅いというのに、よく来てくれたね。
 皆、各分野において相当な力量を持っている。
 お互いに有益な情報交換を出来る様にしよう。歓迎するよ、ようこそ我が国へ」

「研究室は何処だ?」

「まずは、お互いのことを知り合うのが先ではございませんか」

「賛成じゃ。名前を知らぬ人間となれ合うつもりはないのでの」

「俺から名乗らせてもらおう。俺はアントニーノ・サスガ」

頬をさすりながら椅子に座りなおす。

「俺がオットリーノ・サスガ。双子の錬金術師だ」

911 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:21:31 ID:WnKPcChE0

「どのような錬金術をされるのでございますか」

「「俺らは金属を主にした錬金術が得意だ」」

「わらわはディートリンデ・クリンゲル。感情や記憶など人の心に影響を与える錬金術を扱っておる。
 想心錬金術と呼んでおる」

「弧 范と申します。空間を左右することと、錬金術の遠距離間における作用のことでしたらお任せください。
  空間錬金術とでも言えばいいでしょうか」

「俺か……吾輩は複合錬金術の限界を探しているのである」

「む……なんじゃ。複合錬金術? そんな頭の痛くなるものをよく研究しようと思ったものじゃの」

「相当な手間がかかることでしょう」

「……そのための下準備にはかなりの時間がかかるが、達成感はただの錬金術には及びもしないのである。
 無論、吾輩ほどの錬金術師ではないと行なえぬことであるがな」

「わらわには出来んと?」

「そうは言って無いのである。そこそこのものは作れるであろうよ」

912 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:24:52 ID:WnKPcChE0

「腹の立つ言い方じゃな。まるで自分の方が上であると言っているように聞こえるが」

「そう言っているのである」

「むっ……」

「お二人とも落ち着いてください。シュール様が困っているのでございますよ」

「や、なかなかに個性の強いのが揃ったね。
 いろいろと学べそうだ。それじゃ、皆の研究室を案内しよう」


lw´‐ _‐ノv 「異国から招いた五人の優秀な錬金術師。
        彼らの力を借りて、四国同盟は更なる発展をするはずだった」

(´・ω・`) 「旧大陸は、シスターヴァに襲われて滅びたと」

lw´‐ _‐ノv 「何十、何百万もの命が失われた。
        私たちの引き起こしたことだよ」

913 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:25:39 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「何が起きたんだ」

lw´‐ _‐ノv 「これから、それを説明する……でぃ!」

あの白い猫の名をシュールが呼ぶと、映像を投影していた不思議な空間は、
椅子が二脚だけ置かれた質素な部屋になった。


その片方に座り、シュールはいつの間にかあった湯気の出るコーヒーカップを口元に運ぶ。
話していると喉が渇くんだ、と苦笑いをするが、この空間で渇きを満たせるわけがない。
そう指摘すると、気分だよ、と笑った。

lw´‐ _‐ノv 「私の知識はイヴィリーカから与えられたものだったと話したね。
        そして、有り余る知識は旧大陸に繁栄をもたらした。
        でも、その反面、私自身を蝕んでいたんだよ」

(´・ω・`) 「知識が人を・……」

lw´‐ _‐ノv 「信じられない? ショボン君ならわかるんじゃないかな。大切な人が失われそうな時、
        自らの知識があれば助けられる。でもそれは、自然の理に逆らうことで。
        人の死、人格、気持ち、それに加えて社会の在り方まで全て思うがままに変化させることができる。
        そう言った禁忌の知識。それに対する使ってはいけないという意識と、使うべきだという意識」

914 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:26:46 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「知識の有効利用の境界線」

無闇やたらに超えてはいけない一線。その境界線の向こうの知識が必要になることは何度もあった。
大切な人が死に瀕した時、全てを失って一人きりになった時。
世界を蝕む禁断の果実を、僕は……そしておそらくシュールも齧ってしまった。

lw´‐ _‐ノv 「そう。五人を救うためなら、一人を殺してもいいのかってね。
        社会の為の殺人が許容されていいのか。その答えは、イヴィリーカの知には無かったから。
        気づかない間に心はだんだんと壊れていって、自分の中にもう一人の自分がいることに気付いた。
        それが、五人の錬金術師と研究し始めた五年後」

(´・ω・`) 「知識を得た時から考えれば……十数年、か」

lw´‐ _‐ノv 「対策はすべて無駄だった。
        過去未来全ての時代を合わせても及びもしない錬金術師ですら、別れた意識を修復することは不可能だった。
        その頃から、自分の意識が飛んでいる時間が増え始めた。
        五人に協力してもらって、何とか連合国家盟主としての体裁は保てていたけれど、
        根本的解決にはなっていなかった」

915 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:28:13 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「イヴィリーカには会えなかったのか?」

lw´‐ _‐ノv 「天海はいつどこに出現するか誰にもわからない。探しては見たけど、無駄足に終わったよ。
        別れた意識は戻らない、それが私たちの共通認識だった。
        戻らないなら、破棄してしまう。それが私たちの得た結論」

(´・ω・`) 「意識を半分も失ってしまえば、人間としての感情が薄れてしまうんじゃないのか。
       下手をすれば、生きた人形みたいに……」

それは、死んでいるのと同じだ。

lw´‐ _‐ノv 「仕方がなかったんだよ。それほどまでに私の中の黒い意識は脅威だったから。
        放っておけば、人類すら滅ぼしかねない程に。
        生半可な方法だと、黒の意識は活動しかねかったからね。
        その時私たちのできる最大限の対処を取ることにした」

(´・ω・`) 「シスターヴァがそうだった、ってことか」

lw´‐ _‐ノv 「シスターヴァって、砂の粒一つ一つが生きている砂嵐みたいなものなんだ。
        それが一つの生き物みたいに存在している。
        手に入れるのにずいぶん苦労した。シスターヴァを使った錬金術で、私の黒い意識を水晶に閉じ込めた。
        外の世界に干渉すらできない様に、厳重に」

916 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:28:53 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「それはどうしたんだ」

lw´‐ _‐ノv 「人が溢れている旧大陸では何者かの手に渡るおそれがあって、持ち出す必要があった。
        だから、私たち六人は今この大陸の西方どこかの森深くに埋めた……。
        当然一度ですべて分離できるわけもなく、残った滓のような悪意を再度封印する必要があった。
        それは、シュール・オリンクスとしての身体が失われた後の話だ」

ノイズ音と共に、部屋が再び暗くなった。


それは、砂に埋もれた巨大な都市。
美しかった建物はその色を奪われ、砂礫に呑まれていた。


lw´‐ _‐ノv 「シスターヴァを怒らせてしまったんだよ。旧大陸は七大災厄の怒りをかって滅んでしまった。
        私たちが……滅ぼしてしまった」

(´・ω・`) 「……」

街一つ、国一つ、そんな規模ではない。
大陸を滅ぼすほどの力を振るった七大災厄。

917 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:30:49 ID:WnKPcChE0

lw´‐ _‐ノv 「でぃ。もういいよ」

シュールは何処ともなしに呼びかける。
光が瞬き、鏡の世界から僕は解放された。
気づいた時には、元の世界の椅子に座っていた。
 ∧  
(゚、。`フ 「戻ったかの」

lw´‐ _‐ノv 「ええ、待たせてごめんね」
 ∧  
(゚、。`フ 「退屈しておったが、まぁ、ぬしのそんな顔が見れたのじゃから、よしとしようかの」

(´・ω・`) 「はは……」

うまく笑えている自信がない。
シュールの過去は壮大すぎて、どういった感情を得るべきか迷っていた。

lw´‐ _‐ノv 「過去の私が黒い意識を封じ込めた方法はシスターヴァの欠片による錬金術。
        それが分かれば、ショボン君ほどの術師なら水晶を破壊することができるんじゃない」

918 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:31:29 ID:WnKPcChE0

(´・ω・`) 「いや、待ってくれ。黒い意識を当時完全に消滅させることは出来なかったのか。
       それさえできていれば、こんな問題にはなっていなかったはずだ」

lw´‐ _‐ノv 「……」
 ∧  
(゚、。`フ 「それはの、意識の消滅がシュールの死につながる恐れが高かったからじゃ。
      わらわ達はそれを防ぐために、封印という身勝手な手段をとった。
      結果的には、悪いようにしか転がらなんだがの」

(´・ω・`) 「じゃあ、もし僕がその意識を殺せば……」

lw´‐ _‐ノv 「気にしなくていいよ。死ぬのは私だけで、この身体の持ち主である周は死なないから」

(´・ω・`) 「憑りついている状態ってことか」

lw´‐ _‐ノv 「コキラ一族っていうのは、私の黒い意識がもし万が一活動を始めた時に、対抗するために残した一族。
        代々女系で、彼女たちの中にオリジナルである私の意識が紛れ込むように設計したの。
        でも、それもこの周の代で限界。歴代最高の知識と実力を兼ね備えている周だからこそ、
        私はこうやって長いこと表に出てこれている。この娘、何歳に見えた?」

(´・ω・`) 「十と少しの少女に」

lw´‐ _‐ノv 「そうだよね。身体が成長しない先天的な病。
        子を為すことができないから、私の意識はどうせここで途切れるの。
        だから気にせずに、殺しちゃってくれないかな」

919 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:32:23 ID:WnKPcChE0
・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「……」


国賓として与えられた、
まだ、話していないことも多くあったようだけど、
一度に聞いても重過ぎると断って逃げ帰ってきた。

ただ話を聞いていただけでこれだけの疲労感があるのだから、
今日一日で続きなど聞けたものではない。

結局、ワカッテマスの血液もそのままだし、明日にでもまた訪ねればいい。
どのみち、一週間はこの華洛で足止めをくらっているのだから。



一人には広すぎる部屋。
椅子に座り、窓の外を眺めていた。

今日得た知識を消化するために、他の活動を全て停止させる。

920 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:33:10 ID:WnKPcChE0

シュールに存在した二つの意識

五人の錬金術師

旧大陸の滅亡と七大災厄の脅威


到底信じられない話ばかりであったが、目の前にその証拠があった。
古代錬金術の番人たち、そして当の本人の意識。

まだ、話していないことも多くあったようだけど、
一度に聞いても重過ぎると断って逃げ帰ってきた。

ただ話を聞いていただけでこれだけの疲労感があるのだから、
今日一日で続きなど聞けたものではない。

結局、ワカッテマスの血液もそのままだし、明日にでもまた訪ねればいい。
どのみち、一週間はこの華洛で足止めをくらっているのだから。

921 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:36:46 ID:WnKPcChE0

・  ・  ・  ・  ・  ・



lw´‐ _‐ノv 「今日も来たのか」

(´・ω・`) 「まるで来てほしくなかったみたいな言い草だな」

lw´‐ _‐ノv 「あなたが来れば、私の時間が減るのだから、当然でしょ」

それもそうだ。
シュールが表に出ている間、周は自らの身体すら動かすことが叶わない。
とんだ邪魔者というわけだ。
 ∧  
(゚、。`フ 「何の用かの」

眠たそうに欠伸をしながら話しかけてきたのは、陽の当たる窓際で丸くなる白猫。
人語を喋り、古代錬金術である想起の鈴を護る番人。
その名をディートリンデといい、かつて旧大陸で名をはせた錬金術師のうちの一人。
時の流れというのは残酷で、高名な人物ですら怠け者に変えてしまったが。

922 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:37:44 ID:WnKPcChE0

それだけ言うと、周からシュールへとその意識は入れ替わった。

lw´‐ _‐ノv 「その一回分はね、ショボン君、君の血に使ってほしいんだよ」

(´・ω・`) 「僕の血を遡っても意味はない。
       ホムンクルスであって、人の命を持たない僕は、先祖や祖先という概念が存在しないんだから」

lw´‐ _‐ノv 「……ショボン君には、過去を見てもらわなきゃいけない。
        その過去の中に、もう一人の私へと至るためのヒントがあるはずだから……」

(´・ω・`) 「過去の中に……? 僕があなたに初めて会ったのは、今日が二回目のはずだ。
       以前だって、別段特別な話をした記憶はない」

lw´‐ _‐ノv 「それよりも前に、私はショボン君に会ってるんだ……。
        その時の私が何をしたのか、事細かに思い出せるのは血が薄れていないショボン君だけ」

(´・ω・`) 「……世代を重ねすぎたからか」

lw´‐ _‐ノv 「うん、世代を継げば、それだけ祖先の血は薄くなっていく。
        私が人間であったころの記憶は別として、
        その後にこうして意識のみで生きてきた記憶は私の……周の血の中には極僅か。
        でも、ショボン君は違う」

923 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:38:25 ID:WnKPcChE0

子を為せば、血筋は半分に薄まる。
三世代目には元の四分の一、四世代では八分の一に。
十も二十も世代を繋いでいけば、百年以上も昔のことなんて掘り起こせるはずはない。

不老不死の滅びない身体は、過去から未来へ永遠に劣化しない情報の輸送手段。
僕の血液は、自分自身を護る僕によって守られ続ける。

(´・ω・`) 「数百年変わらず生き続けてきているせいで、僕の血は薄まっていない」

lw´‐ _‐ノv 「一世代前の記憶なら、でぃの錬金術を用いれば鮮明に思い出せるはずだ」

(´・ω・`) 「だけど、僕と御主人様は血が繋がっているわけじゃない」

苛立ちを隠しきれず刺々しくなってしまった僕の反論を、シュールは完全に無視した。
端から議論するつもりはない、といった態度。

lw´‐ _‐ノv 「范に試練を頼んだのは私」

(;´・ω・`) 「っ!!」

924 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:39:07 ID:WnKPcChE0

思い出すも悍ましいキツネに見せられた夢。
何故それが試練なのかは、そう言えば結局教えてもらえなかった。
だけど、あれがシュールの仕掛けたことだと思えば納得がいく。
キツネは、試練の意味を説明しなかったんじゃない。知らなかったのだ。

lw´‐ _‐ノv 「ショボン君には、一つの事実を乗り越えてもらう必要があるから」

(´・ω・`) 「いったいどういう事だ」

lw´‐ _‐ノv 「ここに座って」

無理やり肩を押さえられ、シュールの店には場違いなほどゆったりとしたソファーに押し込められた。

(;´・ω・`) 「って!」

右腕にいつの間にか突き刺された針は、心臓の鼓動に合わせて赤い液体を吸い込んでいく。
傷口は修復せず、痛みは途切れることなく続いていた。

lw´‐ _‐ノv 「過去の想起は死と紙一重。絶対に考えることをやめちゃ駄目。
        精神が記憶の狭間に閉じ込められたら、ショボン君でもきっと戻ってこれない」

925 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:41:21 ID:WnKPcChE0

(;´・ω・`) 「そんなに危険なことをいきなりか……」

lw´‐ _‐ノv 「経験よりほかで納得してもらうことは出来ないと思うから」

(;´・ω・`) 「それじゃ納得できな」

lw´‐ _‐ノv 「でぃ!」
 ∧  
(゚、。`フ 「わかっとる。リラックスすればよい。じきに終わる」

鈴の音が連続して鳴り響く。
それに合わせて、歌うようなでぃの声が聞こえた時、唐突に眠気に襲われた。

(´+ω-`) 「な……に……が……」

意識は鈴の音と共に暗闇の渦の中へと引き込まれていき、
まずは両足の感覚が、次いで両腕、胴体、首、頭と何も感じなくなった。





「これだけは忘れないで。君は、君だから」





それが、最後に聞こえた言葉だった。

926 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/03/13(日) 22:42:05 ID:WnKPcChE0














29 古の錬金術師  End


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