(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 19:29:47 ID:hIo2mFDI0
30 災厄の巫女
- 17 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:33:19 ID:hIo2mFDI0
(;´-ω・`) 「っ!!」
目を覚ました時、僕はシュールの店の椅子に座っていた。
夢に入った時と全く同じ状態で。
lw´‐ _‐ノv 「お帰り。気分はどうかな」
(´-ω-`) 「……最悪だ」
それは悪夢のような現実。
それは信じられない過去。
∧
(゚、。`フ 「真実はどうであったかの」
(´-ω-`) 「……知っていたのか」
lw´‐ _‐ノv 「うん。隠していたことは謝るよ。ショボン君を、道具として使ったことも。
それでも、他人を犠牲にしてでも私には為さなければならないことがあった。
私は……何を残していたかな」
(´・ω・`) 「もう一つの意識を消し去る方法を」
lw´‐ _‐ノv 「それで、もう一人の私は何処にいるの」
(´-ω-`) 「……」
- 18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:35:45 ID:hIo2mFDI0
答えられなかった。
過去から残されたメッセージはそれだけだったと。
静寂が言葉よりも雄弁に伝えてくれた。
lw´‐ _‐ノv 「……そう」
(´・ω・`) 「すまない」
lw´‐ _‐ノv 「気にしないで。なんとなくそんな気がしてたから。
もし彼女の場所が分かってるのなら、どれだけ時間が経ったってそれを忘れるわけがないよね」
過去彼女の言葉を、今彼女に伝える。
黒い意識を見つけるためのヒントを。
(´・ω・`) 「一つ、頼みがある」
lw´‐ _‐ノv 「何かな」
(´・ω・`) 「テンヴェイラについて、可能な限り調べてほしい」
lw´‐ _‐ノv 「七大災厄だね。それは、私が?」
- 19 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:37:56 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「意識を閉じ込めた水晶を破壊するための手段だと言っていた」
lw´‐ _‐ノv 「わかった。周と協力してやっておくよ」
(´-ω-`) 「少し……疲れたから。もう帰るよ」
∧
(゚、。`フ 「なんじゃ、不甲斐ないの」
平常心を取り繕っているだけで、内心は相当に疲労していた。
当たり前だ。
自分の生まれてきた理由がメッセンジャーだった、なんて知りたくもない事実を知らされ、
挙句リリに至るための手掛かりはほとんどなかった。
荊の道は徒労だったと言って何ら差し支えない。
それはシュールも同じようで、先程までと比べても勢いがない。
瞳に暗い影を落としているのはなんだろうか。
今の僕に他人を気遣う余裕はなく、でぃの揶揄いも軽く受け流して周の店を後にした。
そこから自分の研究室までの記憶はない。
- 20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:38:45 ID:hIo2mFDI0
歩いてきたのか、倒れて誰かに運ばれたのか。
気づいた時にはベッドに横になり、汚れた天井のシミを眺めていた。
平面上に囚われたまま、何とか逃げ出そうともがき苦しむシミは、今にも零れ落ちてきそうだ。
ぼんやりと、思考を振り回す。
もう何度目になるかわからない、出口のない問題。
僕が生きてきた意味。そして、これから生きる意味。
生きる目的。
僕は、どうすればいい……どうしたいんだろう。
浮かんできた答えはたった一つ。
リリに会いたい
- 21 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:39:15 ID:hIo2mFDI0
一緒に暮らしていた期間は、僕の人生の中ではほんの一時期だけ。
それでも、その間は残りのすべてを凌駕するほどの思い出と幸せに満ち溢れていた。
リリに、もう一度会いたい
彼女を見つけるためには、古代錬金術の力が必要になる。
だから、ぼくは決断した。
神州に行くことを。
それは誰に与えられたものでもない。
自分の意志。そして決意。
(´・ω・`) 「リリ……もう少し待っていてくれ。必ず、迎えに行く」
天井を蠢くシミはいつの間にか消えていた。
もしかしたら、最初っから無かったのかもしれない。
不安が見せた幻影ならば納得がいく。
僕はもう迷わない。
- 22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:40:11 ID:hIo2mFDI0
- ・ ・ ・ ・ ・ ・
_
( ゚∀゚) 「遅かったな」
(´・ω・`) 「ここは……?」
_
( ゚∀゚) 「華国の皇帝相談役、仙帝の住処さ」
(´・ω・`) 「いきなり目隠しを強要して案内されたから、処刑でもされるのかと思ったよ」
_
( ゚∀゚) 「……行くぞ、船は準備してある。ここから一週間以上かかるんだ。
あまり長いこと留守にするわけにはいかねぇし」
聞きたいことは多くあったが、ジョルジュがそれを避けようといているのはすぐにわかった。
機嫌を損ねられても困るわけで、ただ言われたことに従っておくのが賢明だろう。
ついて来いと言われ、自分がどこにいるかわからぬまま歩く。
長い廊下を渡りきった先にある砂利と岩石で造られた庭園を抜け、
真っ赤な門の前にたどり着いた。
- 23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:40:47 ID:hIo2mFDI0
それを開けた先にあったのは二人で乗るには大きすぎる船。
睡眠をとるための小屋も船上にあり、本来ならこぎ手が必要になるほどの大きさだが、その姿は見えない。
(´・ω・`) 「錬金術か」
_
( ゚∀゚) 「ああ、速度はたいして出ないが、人手がいらない。俺専用の船だ。
どうしても神州に行きたいやつを連れて行ったり、皇帝が華国の辺境に向かうのに使ってる」
国中を網目のように河川が通っている華国では、遠距離の場合船での移動がメインになる。
それは市民も皇帝も変わりはない。
しかし、これだけ立派な船であれば、盗賊どもに狙ってくださいと言っているようなものだ。
ほぼ間違いなく対策はとられているだろう。
何せジョルジュが関わっている時点で、ただの船なわけがない。
(´・ω・`) 「これだけの船が自由に動けば他の邪魔にもなるんじゃないか」
_
( ゚∀゚) 「河川はすべて国家の管理だ。許可なく利用すれば罰せられる。
さっさと乗れ、いつまでたっても出発できやしねぇ」
(´・ω・`) 「それじゃ、遠慮なく」
辺りをふらふらと見まわしていた僕は、急かされ桟橋から飛び乗った。
僕の体重程度ではほとんど揺れず、安定性はかなりのものだ。
- 24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:41:19 ID:hIo2mFDI0
- _
( ゚∀゚) 「吐くなら河に吐けよ」
ジョルジュが幾つかの動作を行うと、初めはゆっくり、次第に速度を上げて舟は河を下りだした。
赤い都の城壁は長く両側を覆っている。
河川は、恐らく城の中を横切っているのだと予想ができる
(´・ω・`) 「船はここに来るまでに慣れた」
_
( ゚∀゚) 「そうかよ」
僕らは無言のまま、代わり映えのない両岸を飽きもせず眺めていた。
時折河岸の子供たちが手を振ってきたり、時を報せる鐘が聞こえてくる。
穏やかな日常風景を眺めながら、海に向かって下っていく。
城内を出てからしばらく進んだ折、
ずっと胸の奥にしまっていた疑問は、自然と口をついて出来てた。
(´・ω・`) 「なんで、仙帝なんてやってる」
_
( -∀-) 「……」
(´-ω-`) 「すまない……答えたくないなら」
_
( ゚∀゚) 「覚えてるか。俺らが最後に会った日」
- 25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:41:55 ID:hIo2mFDI0
忘れもしない。
セントショルジアト城での出来事。
僕はジョルジュを倒し、その先の玉座の間から海に突き落とされた。
再び訪れた時にジョルジュの姿は無く、誰一人として話題にするものもなかった。
_
( ゚∀゚) 「お前が海に落とされた後、俺はすぐにセント領主家を去った。
お前に邪魔をされたら目的が達成できないと思ったからな。
俺は大陸東側に向かった」
(´・ω・`) 「それで華国に?」
_
( ゚∀゚) 「当時はまだその名前じゃなかったがな。錬金術の道具一つなかった旅だ。
何度も行き倒れ、その度に誰かが助けてくれた。
お前にとっちゃ残念なことかもしれないが、他人に優しくされたからと言って、俺は別に何とも思わない」
(´・ω・`) 「別に、情にほだされたとは思ってないさ。君のことだ。
そんな簡単なことで心変りなんてするはずがないだろう」
_
( ゚∀゚) 「よくわからねぇ信頼の得方だな」
(´・ω・`) 「……よく知っているさ、君たちのことはね」
- 26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:44:01 ID:hIo2mFDI0
- _
( ゚∀゚) 「……。
この地で俺はキツネと会った。あの糞御嬢様とな。最初は錬金術の研究ができる環境を作るためだった。
小さな国でキツネの手助けを受けながら、なんとか錬金術師として暮らしていた。
なんであいつが俺を手伝ってくれたのかは今でも皆目見当がつかねぇ」
(´・ω・`) 「古代錬金術師の番人はそういうのばかりだ。
気まぐれ猫に、変人兄弟。ほんと、錬金術じゃないと信じたいくらいに」
_
( ゚∀゚) 「はっ……。そのうち、戦争に巻き込まれた。俺は俺の研究室を護るためだけに戦った。
戦いの規模は大きく無く、錬金術をほとんど知らない相手に対して俺が一方的に虐殺しただけだ。
だが、国は護られた。朝に扉を開けるたびに何かしら置いてあったくらいには役に立ったらしい」
(´・ω・`) 「無茶をする……そんな戦い方をすればどうなるかわかるだろうに」
争いは争いしか生まない。
誰だって知っていることだ。だからと言って、ただ蹂躙されろと言うわけではないけど。
ジョルジュほどの錬金術の実力があれば、相手を殺さずにおくことくらいできたはずだ。
_
( ゚∀゚) 「相手がどうなろうが興味なかった。
キツネはやはり国を護られたのですね、とかなんとか言ってたが無視した。
国を興せば俺にとっていい結果になるといわれたが、それも無視した。
今になって思えば、あいつの目的のために踊らされたんだろうな」
- 27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:44:38 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「……古代錬金術の番人がしそうなことだ」
_
( ゚∀゚) 「何十年かして、もう一度同じ国が攻め込んできた。
その時に丁度採取で研究所を留守にしていた俺は、全ての研究を失った」
(´・ω・`) 「留守中に研究室を破壊されるなんて考えただけでもぞっとするね……。
価値が分からない連中が入っていい場所じゃない。
それだけ恨まれていたんだろうな」
_
( ゚∀゚) 「ああ、そうだった。勿論、きっちり落とし前はつけさせたがな。こう何度も攻められてちゃ話にならない。
俺は隣国を合併して国を興した。攻めてくる国を返り討ちにしてたら気づけば今の立場さ」
(´・ω・`) 「ある意味才能があったってことか」
_
( ゚∀゚) 「ふん。だからなショボン。別に昔の俺も今の俺も変わっちゃいない。ただ、研究目的が少し変化しただけだ」
(´・ω・`) 「わかってるさ。それでキツネに頭が上がらないんだね」
_
( ゚∀゚) 「…………」
ジョルジュは答えてくれなかった。
- 28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:47:21 ID:hIo2mFDI0
- ・ ・ ・ ・ ・ ・
_
( ゚∀゚) 「もうすぐだ」
船旅は順調だった。
嵐もなければ、魔の海域に迷い込むこともなく、
深海生物がこちらを飲み込もうとするようなこともなかった。
既に水平線には陸地が見えている。
あと半日もあれば、上陸することができるだろう。
その後のことはあまり決めていないが、取り敢えずは古代錬金術の番人を探さなければならない。
キツネはそのあたりのことをあまり詳しくは教えてくれなかったが、
話を聞いていた通り随ならじきに辿り着ける。
(´・ω・`) 「ジョルジュは……神州にいる古代錬金術師の番人について知っているのか?」
_
( ゚∀゚) 「ん……ああ……」
船の上で会話を交わしたのも二、三度だったが、いくらか話しやすくはなっていた。
一方で、僕らの間に空いた亀裂は未だ埋まる様子は見せなかったが。
- 29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:49:47 ID:hIo2mFDI0
それも無理からぬことだ。
勘違いしてしまった僕と、人を害してしまったジョルジュとの間の隔たりは、
そう簡単になくなるものではない。
_
( ゚∀゚)「何度か往復しているからな。会ったことはあるが、いけ好かない奴だ。
ある程度覚悟してな」
(´・ω・`) 「そこまで言われると、怖いもの見たさってものがあるんだけど……。
どこにいるとかは?」
_
( ゚∀゚) 「知らねぇ。狐面のヤローが言ってたように、神州じゃかなり有名だ。
探しゃすぐに見つかる」
(´・ω・`) 「そうか……っと、あれはなんだ?」
答えを期待しての質問ではなかった。
ただ目の前にひらけた空から、一直線に雲が落ちてきただけ。
世界を半分に切り裂くかの如く、激しい水しぶきが立ち上がる。
_
(; ゚∀゚) 「くそがっ……!!」
時が止まったのかと勘違いする程に、水柱は中空に留まり続けていた。
ふわふわと浮かぶ雲のような物体が、ゆっくりと柱の上に集まり形どっていく。
- 30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:50:22 ID:hIo2mFDI0
(にゅうこくーきょひー)
頭の中に直接響く音。
それが、後から人間の言葉の意味に変化する。
頭の中をいじられているような気持ち悪さと、それを容易く行ってしまう存在に対する恐怖。
二つの感覚がそれぞれ主導権を得ようとして思考を乱す。
_
(; ゚∀゚) 「おいおいおい……」
(;´・ω・`) 「どういう事だジョルジュ」
_
(; ゚∀゚) 「お前、何か危険なものもってねぇか?」
(;´・ω・`) 「は?」
_
(; ゚∀゚) 「あれが……ポルタツィアだ。目を絶対に合わせるな」
青色の下地に雲の白い模様が描かれた着物を身に付けた幼子の姿。
両手両足には綿のように白い雲が巻き付いている。
頭の上に烏帽子と呼ばれる神州の被り物をして、それは僕らの前に落ちてきた。
確実に水面に直撃したはずなのに、その服は全く濡れていない。
創森熊とは違い、対面することによるプレッシャーすらないものの、
その存在感は七大災厄の一角をなすことを疑うべくもない。
- 31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:51:06 ID:hIo2mFDI0
(;´・ω・`) 「……」
(あぶないものはーもちこまないでー)
軽くふるわれた腕は、海面を叩き割った。
裂け目からは海底が見え、潰れた海の生き物の死骸が転がっている。
(;´・ω・`) 「……は?」
_
(; ゚∀゚) 「おいおい……」
その一撃は警告としては充分な効果を発揮した。
(;´・ω・`) 「どういうことだ」
_
(; ゚∀゚) 「くそっ……いいか、荷物を全部捨てろ。
じゃなきゃ、俺らはここで海の藻屑だ」
船の上の錬金道具を順番に海に放り投げていくジョルジュ。
その中には貴重なものもあったが、止める間すらなかった。
- 32 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:51:48 ID:hIo2mFDI0
食料以外のほとんどの錬成品が海に沈んだ時、ポルタツィアはゆっくりとその高度を上げ、
空の雲へと戻っていった。
_
(; ゚∀゚) 「……助かったか」
(;´・ω・`) 「あれがポルタツィア……か……」
_
( ゚∀゚) 「俺も初めて見たが、とてもじゃねぇが七大災厄とは思えないな」
(´・ω・`) 「わざわざ僕らにわかる言葉で警告をしてくれるとはね」
海面を叩き割るのも言葉ではある。所謂、肉体言語というものだろう。
通常交わされる言葉よりもなおわかりやすかった。
_
( ゚∀゚) 「いきなり沈められたって話もよく聞くがな。というより、沈められた以外の話を聞かねぇ。
今日はたまたまいい気分だったってことか」
災厄の帝が戻っていった雲は、他のものよりも高くに揺らめている。
時たま色が変化し、七色になっているあたり、本当に機嫌がいいのかもしれない。
そもそも、七大災厄に感情があるかどうかは不明なわけだけど。
(´・ω・`) 「ポルタツィアの素材が、神州では割と簡単に手に入ると聞いてるが、どうなんだ」
_
( ゚∀゚) 「知らねーよ。ロマに聞いてみろ。ロマン・ド・モントーに」
- 33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:18:33 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「何処にいるか教えてもらえるとありがたいんだけどね」
_
( ゚∀゚) 「っち……。大和で聞けばすぐわかる。俺らが向かってる港がそこだ」
(´・ω・`) 「大和……神州で一番大きな国」
小国が乱立している神州には国家の上下は存在せず、
全ての国、地域が同格に扱われている。
その中でも最も人口が多く、巨大な国土を持つ地域は大和と呼ばれていた。
大和の国民は殆どが錬金術を取り扱うことができるらしいことはシュールに教えてもらったが、
俄かには信じられない。
遠目に見える街の雰囲気も、別段変わったものは無さそうだ。
華国と同じように背の低い建物が密集しており、その殆どが木材によって建てられている。
加工された材木はよくしなり、撤去や建て替えも容易。
恐らく、ポルタツィアが引き起こす地震に適した住居として発展してきたのだろう。
_
( ゚∀゚) 「一つだけ忠告しといてやる。城に行くときは気をつけろ。
災厄の血族が暮らしているからな。余計なことをすればトラブルに巻き込まれるだけだ」
(´・ω・`) 「災厄の血族……?」
_
( ゚∀゚) 「最悪とも言っていいがな。説明するのも面倒だ。自分で聞いて回れ」
- 34 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:19:34 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「忠告だけ受け取っておくよ。っと、着いたか」
港には幾艘も大型魚船が並び、今朝水揚げされたばかりであろう新鮮な魚介類を運び出す男たちが大勢いた。
「おおぃ! 華国の役人さんよ! 何か買って帰るかい?」
_
( ゚∀゚) 「結構だ!」
こちらに気付き、大声で話しかけてきた漁師もいた。
随分と商魂たくましいことだが、ジョルジュは相手にする気もなさそうだ。
一言だけ叫び返し、僕に降りる様にと顎で陸地を示した。
(´・ω・`) 「助かったよ。帰るときはどうすればいい」
_
( ゚∀゚) 「この国から出るのは簡単だ。貿易専用の定期便が出ているからな。
金を払えば簡単に乗せてくれる」
(´・ω・`) 「お金がないんだけどね」
先程ポルタツィアと出会ったときに、金貨だけでなく大事な錬金術の道具もいくつか捨ててしまっていた。
これでは稼ぐことができない。
残念ながらジョルジュが金を用意してくれるわけもなく、僕は柔らかい砂浜に足を降ろした。
長旅のせいか、陸地に立ってもなお身体が揺れる感覚が残る。
- 35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:20:34 ID:hIo2mFDI0
- _
( ゚∀゚) 「そんなものは自分で何とかしろ。じゃーな」
(´・ω・`) 「……気を付けて」
ジョルジュは手を振ることもなく船を動かして遥か水平線へと向かった。
それを最後まで見送らずに振り返り、陸地を改めて見回す。
簡素な木の桟橋が並び、木造の船が見える範囲では一列に停泊している。
そのどれもが錬金術による恩恵を受けているであろうことは一目瞭然。
出来ればその辺の人を捕まえて話を聞きたいが、手がすいている人はいなそうだ。
仕方なしに、何の宛てもなく市場の間を抜けていく。
国外の人間が珍しいのか多くの視線を感じる。
誰一人として話しかけてこないのは、警戒心もあるだろうか。
わざわざ神州に赴く人間は非常に少ない。
悪意がないことはポルタツィアが通していることから確認されているだろうけど、
かといって打ち解けて話せるようになるわけでもないようだ。
- 36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:21:16 ID:hIo2mFDI0
魚の市場を抜けると、商業区へと繋がっていた。
取れたての新鮮な野菜や山菜、ひと手間もふた手間もかけられた干物や漬物を売っている店が並ぶ。
僕が生まれて育ってきた大陸西方の国々とは違い、
買い物客は皆きちんと列をなして待っている。
人のよさそうな店主に横から話しかけようとしたが、後ろに並ぶように言われてしまった。
物を買うわけでもないのに並ぶわけにもいかず、すごすごと引き下がり手の空いている人を探す。
通りのほとんどは昼時なせいか人で溢れており、人気のない店の番は俯いており話しかけにくい。
(´・ω・`) 「あったな」
表通りから一本はずれ、裏道に入った時目的の店を見つけることができた。
ひっそりと建っている控えめな装飾の錬金術店。窓は布で覆われており、中の様子はうかがえない。
看板には劔錬金術店と書かれている。
意味はわからないが、ずっと立ち止まっているわけにもいかずドアを軽くノックして入ってみた。
「はいよー」
(´・ω・`) 「お邪魔します」
椅子に座ってフラスコを振っていたのは恰幅の良い女性。
臙脂色の中身は光を受けてゆっくりと泡立っていた。
- 37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:22:20 ID:hIo2mFDI0
「珍しいね。外の国の一見さんか。何か用かい。
といっても、大体想像はつくけどね」
(´・ω・`) 「今し方来たばかりでして……幾つか聞きたいことがあるんですが」
「だろうね。港に一番近い錬金術店だけあって、そういうお客さんはたまに来るんだ。
何から知りたいんだい」
(´・ω・`) 「ロマン・ド・モントー」
「ああ……わざわざあんな奴に会いに来たのかい?」
(´・ω・`) 「何処にいるのか知っているのですか」
「何処も何も、ここから外に出たら海とは逆方向に城が見えるだろう。
その中の一番高い城にいるさ」
(´・ω・`) 「ありがとうございます」
すぐに向かおうと扉に手をかけた時、後ろから引き留められた。
「城には許可が無きゃ入れないよ」
(´・ω・`) 「なんとかしてみます」
- 38 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:23:36 ID:hIo2mFDI0
「ったく、話を聞かないねぇ。待ちなって言ってんの」
半分以上外に出ていた身体は、襟首を掴まれて部屋の中に引き戻された。
あまり意識していなかったとは言え、目の前の女性は見た目だけでなく力も強いようだ。
抵抗するのを諦め、おとなしく椅子に座る。
大柄な店主の女性は、暖かいお茶と菓子をもって対面に座った。
どうやら僕の分はない様で、自分だけ湯気の出ている湯呑を口元に運ぶ。
その間、何もすることが無くただただ室内を観察していた。
椅子から半分以上尻が出ているように見えるが、本人は気にならないのだろうか。
などと失礼なことを考えていると、店主は話を始めた。
「あんた、錬金術師だろ」
(´・ω・`) 「……はい。そうですが」
ある程度の技能を得た錬金術師であれば、他人がそうであるかないかはすぐにわかる。
服装であったり、所持している道具だったり、話し方や目線の先など。
特にこういう店であれば錬金術の素材や実験器具には事欠かない。
- 39 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:24:37 ID:hIo2mFDI0
「錬金術師なら見てみたいだろうね、古代錬金術を。だけどね、諦めな」
(´・ω・`) 「諦めろ、とは……」
「知っての通り、ロマネスクは外套の古代錬金術だ。身に付ける者を危機から遠ざけるほどの力を持った、ね」
(´・ω・`) 「外套なんですね」
「知らずに来たのかい!? 無鉄砲だね。嫌いじゃないよ、若さゆえの行動力はね。
でもま、相当な変人……変錬金術、か。話しをする人間を選ぶんだ」
(;´・ω・`) 「まさか、若くてきれいな女……とか……」
頭の中を過ったのは双子の古代錬金術師の番人。
その兄の女性癖は優秀な錬金術師だったとは思えないほどひどかった。
「惜しいっちゃあ惜しいかな。違うちがう。彼はね、お喋りな奴が嫌いなのさ。
ろくすっぽ知りもしない奴とは面倒くさがって話してくれないよ」
(´・ω・`) 「話嫌い……」
「ま、話に行ってみるといいさ。明日の朝、ポルタツィアの巫女が下りて来るからね」
- 40 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:25:19 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「聞いてばっかりで申し訳ないんですが、巫女とは?」
そもそもポルタツィアの情報自体ほとんど持っていない。
店の中に他の客はいないし、聞けば話好きの店主が教えてくれるだろう。
「ポルタツィアの巫女。この神州でポルタツィアの声を聞くことができる血族の事さ。
その殆どは城に住んでいて普段表に出てくることはない。明日はひと月に一度の信託の日。
当然、彼女は外套を着て城下に出て来る」
(´・ω・`) 「その時であれば、話ができるかもしれないいうことですね」
「運が良ければ。いいかい。無茶するんじゃないよ。ポルタツィアに嫌われたら、存在ごと消滅させられるんだから。
あんた、放っておいたら何かをしでかしそうな顔をしているからね。これは老婆心からの忠告だよ」
(´・ω・`) 「ありがたく受取っておきます」
「さぁさ、話は終わりだ。行った行った」
(´・ω・`) 「あ、あの。最後に一つ」
「なんだい」
- 41 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:45:30 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「ポルタツィアの資料をもらえませんか」
「ったく……。まぁ、わざわざ来たんだ。今回はサービスにしといてあげるよ。
その代わり、錬金術の道具や素材をそろえるときはウチを利用しなよ」
(´・ω・`) 「有難うございます」
受取った本を片手に店を後にした。
表通りまで戻って、一番近い城に向かって歩く。
別に中に入れなくてもいいが、すぐ足元で見て見たかった。
歩きながらは迷惑だとわかりながらも、ポルタツィアに関する文献を読み進める手は止まらない。
流石に神州で手に入れた冊子に書いてある内容は、質と量が違う。
神州に初めてポルタツィアが確認されたのは、記録に確認できる限り千年以上も昔。
その瞬間からこの土地はポルタツィアの支配下になった。
それまで争っていた国々は、突如として一つの標のもとに争いをやめた。
それがポルタツィアを崇める宗教とその開祖である一族。
一族の幼い娘達はポルタツィアの巫女として各地に派遣され、その声を聞き争いの仲裁をはかった。
- 42 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:46:56 ID:hIo2mFDI0
神州を一括管理したただ一人の巫女。その初代の巫女の名前は桜。
その後に続くように少女たちは皆、花の名前を与えられ国を治めてきた。
錬金術による生産技術の向上と、ポルタツィアによる審議により、
神州において武力を用いた大規模な争いはほぼ完全に消滅した。
それが、ポルタツィアが出現してからたった数十年の出来事。
神州では、平和な日々が今も続いている。
ポルタツィア。
神州に顕現した神。
見た目はその当時の帝の姿を模したと言われているが、身に付けていたのはその当時よりも遥か昔の儀礼用の服。
それ故、神州にその姿を現したのが千年ほど前というだけであり、
それよりも以前から神州に存在していたとされている。
目を合わせた者を後悔と罪悪感の果てに自死させる瞳。
自然環境を自由自在に操るほどの圧倒的な災厄。
悪しき心を持つ者の入国を許さず、大きな揉め事には介入を行う。
その足跡は神州の至る所にあり、素材も神州に住む民にとっては親しみやすい。
反面、扱いには非常に注意しなければならないため、この本を手に取った錬金術師の方々は、
安易な考えで錬成に使用するのはやめるように。
- 43 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:49:57 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「あんまり……大きくないな」
西方の国にあるものと比べると、城と呼ぶには規模が小さい。
土台は天然の岩石を驚くほど緻密に組み、その上に立っている。
木材を主として建造されているため、火がつけばよく燃えそうだ。
塀は少し助走をつければ乗り越えられそうなほどの高さ。
戦争の危機が無くなってから、侵略に怯える必要が無くなったからだろう。
門は固く閉ざされているが、見張りが二人あまり鋭くない槍を肩にかけ座っていた。
(´・ω・`) 「入れそうだなぁ」
とはいえ、正面からすんなり入れてもらえるわけもない。
塀に沿って裏側に回ってみる。
昼間は人目が多くて無理だろうけど、夜であれば侵入できそうだ。
一刻も早く古代錬金術師の番人に会って、聞かなければならない。
リリの居場所について。
夜になるまでは適当に時間を潰せばいい。
「っ! すいません!」
考え事をしながら歩いていて、お腹の辺りに小さな衝撃があった。
それが黒髪の少女だと気付いた時、唐突に意識が断ち切られた。
- 44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:53:01 ID:hIo2mFDI0
- ・ ・ ・ ・ ・ ・
(;´-ω-`) 「ここは……」
目が覚めたのは灯り一つない暗い空間。
頭の上に空いた穴から零れ落ちて来る月の光だけが、唯一この場所を照らしていた。
横になっている地面はごつごつと硬く、潮の香りと湿気、肌寒さを感じる。
恐らくは海辺の洞窟みたいな場所ではなかろうか。
「気づかれましたか……?」
灯りに照らされた少女は、僕の頭より少し先に座っていた。
長く艶やかな黒髪と、人形のような白い肌はあまりに幻想的でしばし息をのんだ。
「大丈夫ですか?」
(´・ω・`) 「あ、ああ……」
徐々に冷静な思考が戻ってくる。
少女が身に付けている服と装飾は明らかに一般庶民のものではなく、高貴な身分であろうことは、容易に想像がつく。
そしてそれとは全く似合わない黒の外套を羽織っていた。
- 45 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:53:36 ID:hIo2mFDI0
そもそも、普通の人間にこの僕を気絶させこんな場所に運んでこれるわけがない。
(;´・ω・`) 「君は……?」
/ ゚、。;/ 「あっ……えっと……芒……です」
(´・ω・`) 「君が僕をここに?」
/ ゚、。;/ 「はい……すいませんでした……驚いちゃって……」
驚いたくらいでホムンクルスの意識を断ち切れるわけはない。
その外套こそが探し求めていたものであろう。
「ふん、流石に気づいたであるな」
/ ゚、。;/ 「ロマっ!?」
( ФωФ) 「隠しても無駄であるよ。この男は錬金術師である。それも、相当優秀な」
どういった仕組みになっているのかはわからないが、外套から声が響く。
(´・ω・`) 「あなたを探していた。ロマン・ド・モントー」
- 46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:54:18 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「誰の差し金であるか? いや、聞かなくても大凡わかっているであるが」
/ ゚、。;/ 「差し金? どういうこと、ロマ」
( ФωФ) 「芒。昔、吾輩の話をしたことがあったであろう」
/ ゚、。 / 「ロマが錬金術の番人になった時の事? 確か……シュール様って人がロマをこうしたって」
( ФωФ) 「うむ。最近連絡があったであろう。そろそろ運び屋が来る、と。
この男がそうなのであろうな」
(´・ω・`) 「教えてくれ。リリは……今どこにいる」
( ФωФ) 「断る」
(;´・ω・`) 「なっ」
否定の言葉で気づかされた思い違い。
彼女が創り出した錬金術の番人であれば、皆彼女と同じ目的を持っていると。
千年を超える時間を生き続け、それでもなお全く変わりはしないと。
彼らは人間だった。
最初からそう設計されていたわけではない。
- 47 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:57:35 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「今の吾輩は、芒と生きることに何よりも重きを置いている。
この神州にはいくら彼女の悪意とは言えど侵入は出来ないのである。
ポルタツィアによって守られ続けている限り。わかったら、帰るがよい」
(;´・ω・`) 「いや、待ってくれ……」
( ФωФ) 「リリ……といったな。吾輩が垣間見た少女のことかどうかは知らぬが、
彼女の悪意のもとにいるのであれば、もう間に合わぬであろうよ」
(´-ω-`) 「……お願い……します……。どうか、知っていることを教えて……ください」
両手を地面につき、頭を下げる。頼れるのは彼だけなのだ。
シュールの悪意の居場所は、誰も知らず、一人で探しているのでは絶対に間に合わない。
/ ゚、。;/ 「ロマ……」
( ФωФ) 「芒は気にする必要が無いのである……。……では、交換条件であるよ。
今の芒の置かれている状況を解決してくれるのであれば、手伝うのである」
(´-ω-`) 「何でもする」
- 48 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:58:39 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「途中で諦めなければよいのだがな。……気づいていたとは思うが、芒はポルタツィアの巫女である。
かつて、芒は民宿を営む両親の子として暮らしていた。
だが先代の巫女が病に臥せ、若くして亡くなってしまった。
その代わりにと彼女が無理やり連れてこられたのだ」
/ ゚、。 / 「……」
( ФωФ) 「芒は巫女として生きることを望んでおらん。
狭い部屋の中に閉じ込められ、毎月の催事には命を懸けてポルタツィアの声を聞き、
ある年齢になれば結婚相手すら与えられ、子を為すことを義務とされる」
(´・ω・`) 「ポルタツィアの言葉は……特別な血筋のものにしか聞くことができないと」
( ФωФ) 「……芒は亡くなった山茶花の妹である」
血筋に拘らなければならなない故の。
( ФωФ) 「母親は芒を出産した後、しばらくして息絶えた。
当然、すぐにでもどちらにかに役目を継がせなければならない。
周りの者達は判断した。姉である山茶花を役目につけ、妹は民宿の老夫婦に預けたのだ。
芒と言う名前のみが、唯一彼女が母親から与えられたものである」
- 49 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:00:20 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「姉が亡くなれば妹に目が向くのは当然、か」
( ФωФ) 「それまで普通の暮らしをしていたのである。突然、巫女になれと言われても、どだい無理なものであろう」
(´・ω・`) 「芒はどう思ってるんだ」
/ ゚、。 / 「巫女なんてやりたくない。これからもずっと、父上と母上と一緒に暮らしていきたいのに……」
( ФωФ) 「この調子でな、最近の神託は滞っているのである。
だが、あまりポルタツィアの機嫌を損ねると何が起こるかわからん。
城の人間も、町の人間も、良くは思っていないであろうよ」
七大災厄たるポルタツィアがその怒りをばら撒けば、犠牲者は二桁では収まらなだろう。
誰もがこの目の前の少女に、巫女という重役を押し付けている。
(´・ω・`) 「血……か……」
/ ゚、。 / 「どうしたんですか」
(´・ω・`) 「いや、芒には関係が無いんだけどね、ちょっと思うことがあって」
( ФωФ) 「ふん、そもそもなぜその血族しかポルタツィアと会話が出来ぬのであるか」
(´・ω・`) 「もうずっと昔のことだ。調べようもないさ」
- 50 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:01:18 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「わかっている。さて、この問題、おぬしに解決できるのであるか」
(´・ω・`) 「……」
簡単な問題ではないだろうことは予想がついていたけど、これは明らかに僕が出来る範疇を超えている。
下手に芒を攫おうとでもすれば大和国全体を揺るがしかねない。
場合によっては七大災厄と直接かち合う羽目になる。
それだけはごめんだ。
過去にティラミアと戦った時もそうだし、エルファニアが目の前を通り過ぎた時のことはまだ覚えている。
人智を超えた存在である七大災厄は絶対に敵に回してはいけない。
となれば、ポルタツィアの声を聞くことのできる新たな巫女を立てるしかない。
(´・ω・`) 「巫女の系譜はどこかで調べられるのか」
( ФωФ) 「吾輩が覚えている限り、大和国の巫女は分家をとっていない」
(´・ω・`) 「何年ぐらいだ」
( ФωФ) 「百五十年」
(;´・ω・`) 「……他の国の巫女は」
- 51 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:02:47 ID:hIo2mFDI0
大和国直系の巫女が無理ならば、他所の国から連れてくるしかない。
生まれを偽ってでも。
( ФωФ) 「神州はいくつもの国からなっているが、
ポルタツィアの声を聞くことのできる巫女の血族で今も残っているのは五つ」
(;´・ω・`) 「たった五つか……」
( ФωФ) 「巫女を中心とした一つの集合体となっているのである。最も大きなここ大和以外には、
南北に長く連なる武蔵、ここより西の小さな島国、阿波、
神州最大の神社がある出雲、神州最西端の島国、日向。
これら五つの土地にのみ巫女は存在している。芒、地図を書いてやれ」
/ ゚、。 / 「うん」
少女の手は、落ちていた石を拾って地面に神州の全体図を書き始めた。
全体的に左右に長細い神州の地図は、ある程度頭の中に入っている。
左側に大きなものが一つ、それと大和国の間にもう一つ島がある。
/ ゚、。 / 「ここが私たちの住む大和」
神州の最も中心に位置している。
やけに船旅の時間がかかっていた気がしたが、
ジョルジュはわざわざ大和から一番近い港まで運んでくれたからだろうか。
- 52 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:03:42 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「つまり、この残り四つのうちどれかに巫女の血族がいなければ、芒の立場は変えられないってことか。
ただ気になるんだけど、ポルタツィアの声を聞くことのできるのは、本当にその血族だけなのだろうか」
( ФωФ) 「どういうことであるか」
(´・ω・`) 「僕が神州に来たとき、ポルタツィアが空から落ちてきた。
積み荷を捨てる様に言われたから、ほとんどの錬金術を海に捨ててしまったわけだけど……。
あの時、確かにポルタツィアの声を聞いた気がする」
( ФωФ) 「吾輩はそのような話、初めて聞いた」
/ ゚、。 / 「……」
( ФωФ) 「それが本当なら、わざわざ芒がポルタツィアの声を聞く必要がないではないか」
(´・ω・`) 「仮定の話なんだけど。もし、初代巫女がポルタツィアの指示を受けていたら……?
人々に、自分の血族しか声を聞くことができないと伝えたのかもしれない」
( ФωФ) 「ポルタツィアにメリットが無いのである」
確かにそうだ。
七大災厄ともあろうものが、わざわざそんな細かいことをするだろうか。
いや、それなら逆はどうだ。
- 53 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:04:41 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「初代巫女が勝手に、そうやって噂を広めたとすれば……」
( ФωФ) 「それなら有り得る話であるな。当時から神として崇められていたポルタツィア。
その声を直接聞くことができるのであれば、相当な権力を手にしていたのである。
ただし、その説がまかり通るためには二つほどの関門がある」
(´・ω・`) 「一つは、ポルタツィアが他の人間に話しかけないこと」
( ФωФ) 「もう一つは、必要な時に、確実にポルタツィアにコンタクトできること。
荒唐無稽である。吾輩は、より可能性が高い方を信じる」
/ ゚、。 / 「僕たちの血筋がポルタツィアによって創り出されたってことだよね」
( ФωФ) 「そうであるな。でなければ、数世紀に跨って女系の血で繋いでいけるわけがないのである。
遡ってみても、男が生まれたことなんて数えるほど」
もし、一つの国を治めたいのであればその力を振るえばいい。
間接的に、しかもより面倒な方法をポルタツィアが選ぶだろうか。
(´・ω・`) 「先祖代々伝わる文章とか、そういうのはある?」
- 54 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:05:56 ID:hIo2mFDI0
/ ゚、。 / 「あるけど……」
( ФωФ) 「一族の碑文があるらしいのであるが、何処にあるか誰にもわからぬ。
最初の巫女が治めたのがこの大和の地であると文献には残っているが、
其れらしいものは未だに見つからぬ」
とんだ面倒を言われたものだ。
だがリリの情報と交換条件となれば、受けないわけにはいかない。
(´・ω・`) 「打つ手なし……か……」
( ФωФ) 「地道な調査をしていたが、数年かけてもろく碌に情報が集まらないのである。
それこそ、邪魔をされているかのように、な」
情報収集を得意とする錬金術師であった番人に見つけられない情報を、
どうすれば僕が見つけられるだろうか。
一つ、手っ取り早い手段は最初から思いついていた。
失敗すれば、僕一人では抱えきれないほどの莫大な代償を支払う羽目になる。
(´・ω・`) 「ポルタツィアに……直接聞いてみればいい」
- 55 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:06:31 ID:hIo2mFDI0
(#ФωФ) 「やめるのである! 怒らせでもすれば何が起きるかわからないのだ」
/ ゚、。 / 「……手伝いませんよ」
(´・ω・`) 「生憎、七大災厄とは縁があってね。恐らく呼び出すことくらいならできるだろうね」
(#ФωФ) 「貴様は己の欲の為に一国を巻き込む気であるか!」
(´・ω・`) 「うまくすれば、芒も役目から解放される」
(#ФωФ) 「だが……」
僕だってできれば取りたくない手段だ。
怒ったエルファニアが掠っただけでも、半身を丸ごと持っていかれた。
七大災厄と呼ばれる意味を体感した恐怖と苦痛は、今も覚えている。
直撃したらどうなっていたかなどと考えたくはない。
(´・ω・`) 「迷惑をかけるつもりはない。家出中のところ申し訳ないけど、この場所を貸してもらえるかな」
/ ゚、。;/ 「ロマ……」
( ФωФ) 「構わぬが、安易にポルタツィアと接触しようとするな。行くぞ、芒」
- 56 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:07:08 ID:hIo2mFDI0
/ ゚、。 / 「うん……」
( ФωФ) 「吾輩達は離れさせてもらう。この場所は好きに使うがよかろう」
少女は似合わない大きなフードを被り、人間の限界を超えた脚力で洞窟の入口へと向かっていき見えなくなった。
人体を強化と、サイズの伸縮、自由操作の三つを兼ね備えた錬金術。
ロマンの外套は過去に僕が見た古代錬金術の中でも、破格の性能を持つようだ。
(´・ω・`) 「さて、どうしようかな」
七大災厄と縁がある、とは言ったものの今は手元に何もない。
いきなり拉致されてこの場所に連れてこられたのだから当然だけれど。
せめて錬金術の道具さえあれば。
簡単な道具しかなくても、それなりのものは創り出せる。
だけど今は、その簡単な道具を買うお金すらない。
素材を売ってお金にすることもできるけど、神州ではどのような素材が一般的で、
高値で取引されているものは何があるのか、という情報もない。
先程の芒という名の少女は、身分からみてもそこそこのお金を持っていたはずだ。
情けない話ではあるが、少しでも集っておくべきだったか。
色々考えた挙句、徒歩で洞窟を脱出することにした。
大見得を切ったものの、すごすごと町に戻る羽目になるとは情けない。
まぁいい。
一週間もあれば下準備位なら整うはずだ。
肌寒いくらい冷え込んだ洞窟の一本道を、出口に向かって歩き始めた。
- 57 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:16:22 ID:hIo2mFDI0
・ ・ ・ ・ ・ ・
「いきなり戻ってきたかと思えば、道具を貸してくれ? 随分と甘く見られたもんだね。
下町の錬金デブババアがと呼ばれている私が」
どう見ても三十ほどの女性に対するババアはただの悪口だし、
恰幅の良いことをここまで気にしていない女性も初めて見た。
下町の錬金デブババアこと、劔錬金術店に戻ってきた僕は、器具の貸し出しをお願いしていた。
しかも、後払いで。
当然そんな無茶な要求が通るわけもなく、こうしてお叱りを受けている僕であった。
「あんた、神州の錬金術事情を知っているのかい」
(´・ω・`) 「多少は」
来る前にシュールやジョルジュからいくつか教えてもらった。
錬金術師の数が相対的に多いこと。
そして、西方の国々とは異なる系譜の錬金術が発展してきたこと。
「不十分だね。神州の錬金術師は、一つの大きな目標を持って研究している」
- 58 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:20:37 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「目標……?」
「ポルタツィアの完全なる支配」
(;´・ω・`) 「なっ……!」
「今は神州の守り神であるポルタツィアだけど、いつ気分を変えて滅亡の引き金を引くかわかったものじゃない。
ついこの前だって、悪戯で落ちてきたあれのせいで百人規模の犠牲者が出てる。
神州の安寧はそういった犠牲の上に成り立っているんだよ」
七大災厄は、人間の限界を超えているからそう呼ばれている。
いくら神州において数千人以上の錬金術師がいたとしても、到底及ぶはずがない。
だが、それは不可能であるとは言えなかった。
実際に犠牲者が出ている以上、ポルタツィアを恨む者が出るのは当然だし、
敵うわけがないと言ったところで、災厄を打ち倒すための研究をしている術師達が、それを止めるわけもないからだ。
(´・ω・`) 「出来ると思ってるのですか」
「やらなきゃいけない。滅ぶ前にね。
研究には当然お金もいる。だからあんたみたいな余所者に器具を売って、
利益を減らす必要はないってこった。嘘だと思うんなら、どっか他の錬金術師の店でも行ってみな」
- 59 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:33:16 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「別に疑っていません。それなら、実験器具を貸してくださいますか」
「話を聞いていたのかい、あんた」
呆れた顔をする女性に、畳みかけるようにさらに続ける。
(´・ω・`) 「つまり、こうすればいいというこですよね。
僕はあなたの役に立つものを作りましょう。あなたの許可なしには外で売買しない、使用もしない。
言うなれば、従業員として、ここで働かせてください」
「……変わった子だねぇ。いいよ、その代わり、役に立たなければすぐにホッぽりだすからね」
(´・ω・`) 「有難うございます」
「中を案内するから着いてきな」
錬金術師の研究室は往々にして物が溢れていて、散らかっている。
優秀な術師であればあるほど扱う素材の量は少なくないし、実験器具はいくらあっても足りない。
試験管やフラスコのような使い捨ての道具もストックが必要になるからだ。
だけどこの錬金術師の研究室は大きく違った。
きちんと整えられた棚に、ラベリングした素材が並んでいる。
実験器具も不要なものは仕舞ってあり、通路スペースがかなり広く取られていた。
- 61 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:34:15 ID:hIo2mFDI0
「人を見た目で判断しちゃあいけないよ。私の研究室を汚してもたたき出すからね」
(´・ω・`) 「はい、忘れないようにします」
「ふん。さて、じゃあ好きに使ってみな」
(;´・ω・`) 「今からですか?」
「当たり前だよ。無能を雇うだけの余裕はないんだ。あんたの実力を判断させてもらうよ」
思った以上に事がうまく運んでいると油断していた。
錬金術の実演をするのは簡単だけど、素材の数も種類もあまり多く無い。
おまけに、素材のほとんどが見たことすらない。おそらく神州にしか存在しない動植物だろう。
(´・ω・`) 「……わかりました」
それでも、やってみるしかなかった。
ぐるりと一周して、器具と素材を一通り確認する。
綺麗に掃除されていた台の上に、専用器具を用いて幾つかのフラスコを固定していく。
研究室と店が一体になっているというのは、客が来るという事。
置いてある素材にも過激なものは多く無く、一般人向けの錬金術がメインだろう。
- 62 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:35:16 ID:hIo2mFDI0
それに、研究室内は良く嗅いだことのある匂いがする。
燻した兎草の発する香り。
その効用は集中力の維持。
考えなければならない。今この場で僕にできる最高の錬金術を。
奥の椅子、どう見ても特注のそれに、店主はじっと座っていた。
こちらの手元を見逃さないように見つめている。
素材は知っているものだけを使うことにした。
一度でも本で読んだことがあれば、何とはなしにその効果も用途もわかる。
変に難しすぎる錬金術に挑戦して失敗するよりも、今できることをした方がいい。
手元に用意したのは、兎草、豚真珠、金色鈴蘭、鳴かず蟋蟀の粉末。
ただ何となく、思いついた順番で加工して混ぜていく。完成形をイメージしながら。
鳴かず蟋蟀の粉末は、熱すれば喉に良い薬になる。風邪にかかった時に良く処方される。
金色鈴蘭はそれ以上の効果がある。だけど、こちらは声そのものを暫く変質してしまうため、
そのままでは大人は使いづらい。
二つの素材を混ぜ合わせ、反発する効能は兎草で抑え込む。
小一時間で出来上がるのは、喉に良い粉末薬。
それだけではなく、豚真珠を砕いたものと混ぜ、水を入れながら再度温めると、
口の中に入れるのにちょうどいいサイズで丸まって固まる。
- 63 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:36:21 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「これでどうですか」
店主に差し出したのは深みのある緑色の個体。
光を受けて手のひらの上で僅かに光る。
「ふぅん、飴みたいなものだね。綺麗な萌葱色じゃあいか。正直予想以上だよ」
店主は一つ指でつまみ、口の中に放り込んだ。
「甘くておいしいね。器具の使い方や素材の理解を見るつもりだったけど、
まさか即興でここまでするとは……いいよ。雇ってあげるさ。
そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
(´・ω・`) 「ショボンです」
「私は劔。よろしく頼むよ」
およそ女性には似つかわしくない名前の錬金術店で、僕は働かせてもらうことになった。
- 64 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:38:35 ID:hIo2mFDI0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(;´・ω・`) 「ふぅ……」
「少しは休憩したらどうだい」
(´・ω・`) 「これが終わったら、そうさせてもらいます」
劔は基本的に朝は遅く、夜は早い。
錬金術店とは別の場所に住んでいて、研究室を寝泊りするのに貸してくれていた。
最初の三日間は一睡もとらずに神州の錬金術書を読み漁った。
素材と効果がただひたすら羅列してあるだけの図鑑と、
神州の歴史、錬金術基本書から応用書まで、三日間かけて読んだのはおよそ家にあるうちの半数以上。
遠隔錬金術と空間錬金術の専門書はまだ少ししか読めていないけれど、
大凡のことは理解ができたし、実際に簡単なものであれば錬成することができた。
「とんだ拾いものだったね。で、いつまでいるんだい?」
- 65 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:39:13 ID:hIo2mFDI0
作業を終わらせて休憩室に向かうとホールケーキを切り分けてくれるでもなく、直接食べている劔。
西方でよく見るタイプのケーキは、知人にもらったものだという紹介だけはしてもらえたが。
掘削していくようにどんどんなくなっていくケーキを見ながら答える。
(´・ω・`) 「長ければ三か月。短ければ一ヶ月ほどの予定です」
「それはまた、随分と短いんだね」
(´・ω・`) 「目的を果たすまでですから」
「あぁ、結局降りてこなかったからね、巫女様」
神州に着いた翌日、僕は劔と一緒に信託の広場へと向かった。
そこには朝から多くの人が集まっており、それだけこの神託が重要な儀式なのだと理解した。
しかし、既定の時刻を過ぎても巫女である少女は現れず、昼になる前に人だかりは消えていった。
前日のことは劔には話していなかったが、恐らく少女は拒否したのだろう。
巫女としてポルタツィアの声を聞くことを。
今もあの外套を身に纏いながら城の中の一室にいるに違いない。
- 66 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:39:48 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「意外とあっさり引き下がるのですね」
正直、暴動の一つや二つは起きるかもしれないと覚悟していた。
ポルタツィアの影響は大きく、その声を聞く巫女が使命を疎かにすれば、
災厄が降りかかるかもしれないのだから。
「みんな知っているのさ、当代の巫女がただの女の子だったときのことをね。
だから、無理強いしない。天真爛漫で笑顔がかわいい子だったんだ」
(´・ω・`) 「成程、それでなんですね」
「民宿の娘としてこの町にずっとなじんできてたんだ。神州は人のつながりを大事にする。
知り合いの子供、近所の子供はみんな自分の子供のように接するのさ」
それは、西方では存在しない考え方だった。
争いの多かった国々では、近隣との関係はそこまで成熟しない。
ここでは、家が集まって国になるのではなく、国が一つの家となっているのだと気付かされた。
「それで、来月も、再来月も待つのかい」
(´・ω・`) 「いえ……機会があれば、直接窺ってみたいと思います」
- 67 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:40:19 ID:hIo2mFDI0
「無理だと思うけどね、ま、好きにしな。私の役に立ってる間は追い出さないでおいてあげるよ。
……食べるかい」
さらに残った最後の一切れをそのまま差し出してきた。
それに首を振ってこたえ、研究室に戻る。
後ろからは、しばらく出かけるから店の様子を見ておくようにと、声がかけられた。
それには聞こえる程度に返事をしておく。
玄関が開けば、鈴が鳴るのですぐにわかる。
そもそも、この一週間で客が訪ねてきたのは十数回程度。
一日に一人二人しか来ないのだから、店番だって、僕がいない間はどうせおいていなかっただろう。
研究室にある素材を見直す。
用途も効能もほとんど理解してしまったし、ただ使用するだけでは物足りない。
それなら、と採取に出ていこうとしたところを家の番を任されてしまった。
黙って出かけるかどうか悩んでいたところで、今日最初の鈴が鳴った。
(´・ω・`) 「いらっしゃーい」
適当に返事をしながら店の方に向かう。
劔の得意分野は遠隔錬金術のオーダーメイド。
客の要望に沿ったものを創り出すらしい。
訪ねてくる人間の目的をよく聞くように、と最初の日に教えてもらっていた。
- 68 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:41:38 ID:hIo2mFDI0
接客用の椅子に座っていたのは、黒い外套を羽織った小柄な人間。
嫌な予感は、どうも外れなかったようだ。
「どうも……」
(;´・ω・`) 「っ!?」
それは、三日前に会った少女。
大和の巫女であり、現在は役目を放棄して閉じこもっているはずだ。
(;´・ω・`) 「何をしに来たんだ」
( ФωФ) 「相談を」
(´・ω・`) 「家主が帰ってくると困るんだ。どこか別の場所にしよう」
( ФωФ) 「大丈夫である。この時間は錬金術師の集会が行われておる。
三日前に海辺に現れたポルタツィアの調査報告が上がってくるはず。すぐには帰ってこない」
(´・ω・`) 「……相談内容は」
( ФωФ) 「芒」
- 69 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:44:54 ID:hIo2mFDI0
/ ゚、。 / 「ポルタツィアの……この前の碑文の話です」
(´・ω・`) 「何処にあるかわからないんだよね」
/ ゚、。 / 「ええ、なのでを調べてもらいました」
(;´・ω・`) 「調べてって……たった三日で……」
この国の錬金術師人口が多いのは知っているし、研究しやすい風土のおかげで、
かなり発展してきているのも間違いない。
庶民レベルでもかなりの錬金術品が流通しているのだから、
その元締めと言えなくもない巫女の立場であれば、出来なくもない……のか。
( ФωФ) 「違う。殆ど目途はついておったし、過去の文献を纏めてもらっただけである」
(´・ω・`) 「ただでさえとんでも外套のくせに、調査もできるのか」
( ФωФ) 「吾輩の予測を立証してもらったにすぎぬよ。
最初の巫女、桜がポルタツィアに出会ったとされる場所がこの大和に幾つかある」
/ ゚、。 / 「嘆きの丘の虹柳、春日山の海底洞窟、黒煙峡の浮遊館、桜湖墳、そして僕が住む大和城。
大和城を除いては場所はわかっていても殆ど調査できてないんです」
- 70 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:45:58 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「吾輩がこの大和に来てから数十年間もかけて調べたのだ。
場所は特定したものの、危険も多くて調べきれておらん」
(´・ω・`) 「それを調べてこいと……?」
( ФωФ) 「早とちりであるな。確率が一番高いのは浮遊館なのだ」
(´・ω・`) 「名前からして浮いているようなんだけれど」
( ФωФ) 「浮遊館の足元は、深く削れているのだ。それはかつて地面にあった証拠である。
ポルタツィアの別名は浮雲の帝。雲の上に住んでいるあれが最初に顕現した場所としては、
最も確率が高い。
だが、足元の谷は底が見えない黒い毒霧に覆われておる。生半可な人間では立ち入ることが出来ん」
(´・ω・`) 「だけど僕なら」
( ФωФ) 「おぬしなら出来るであろう。着地のことを考えんのであれば、方法なんぞいくらでも考えつく」
(´・ω・`) 「……」
( ФωФ) 「すぐに決めなくてもいいのである。吾輩と芒は城に戻る。
芒、地図を」
- 71 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:46:59 ID:hIo2mFDI0
/ ゚、。 / 「これです」
おずおずと少女が渡してくれた一枚の紙を受け取る。
表には大和の全体図が、裏には浮遊館と思われる場所とメモが書き込まれていた。
( ФωФ) 「これは命令でも、頼み事でもないことを重々承知しておくのである。
これは交換条件、であるよ。
おぬしの欲しがる情報と、吾輩の欲しがる情報の。芒、帰るのである」
/ ゚、。 / 「は、はい」
少女は目元まで黒いフードを被り、店を出ていった。
誰もいなくなった店内に、鈴の残響が広がる。
行くべきか、行かないべきか。
浮遊館のある黒煙峡は、ここからそう遠いわけではない。
いきなりポルタツィアを呼び出そうとするよりはまっとうな手段だろう。
必要な情報を手に入れるためには行ってみるしかない。それなのに、僕は迷っていた。
今までになく嫌な予感がしていた。心が何者かに触られているかのような、漠然とした不安。
黒煙峡という地名に聞き覚えは無く、またその場所の想像は全くできなかったけれど。
- 72 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:47:38 ID:hIo2mFDI0
ふと思いついて劔の研究室の本棚を見れば、目的の物はすぐに見つかった。
先程、ロマンが遺した言葉。
それらはただ一つを除いて、本の背表紙を飾っていた。
黒煙峡に関する資料は、乱雑に詰め込まれた本と本の間に数枚の資料が束ねてあるだけ。
見つけることができたのは、ただの偶然。
ともすれば見落としかねない程の薄い冊子。
研究書の厚さは、危険度に反比例する。
長年の経験から見つけた一つの事実。
どんな情報でも無いよりはましであり、ボロボロの冊子を手に取って開いてみる。
一枚目にはロマンに貰った地図を簡略化したもの。
二枚目から、黒煙峡に関する記述が続いていた。
黒煙峡とは、その名の通り黒い煙を吐き出す亀裂が無数に存在する峡谷のことである。
山々が抉れるように削れ、峡谷に落ちて戻ってきた者はいない。
原因の一つに、有毒な黒煙がある。
- 73 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:48:26 ID:hIo2mFDI0
- 一呼吸でも体内に取り込んでしまえば、一年間患った末に命を落とす。
火山の噴火のように、定期的に激しい黒煙が立ち上るため、
付近の山中には鳥や動物すら近寄らない。
死の森と呼ばれることもあったが、何故か植物は環境に影響を受けることなく生存している。
そのことから、黒煙峡付近に住む植物を研究し、
黒煙の毒物を解明することに成功した。
しかし、我々の力が及んだのはそこまでだった。
毒物の効果が分かっても、それに対抗する手段は無く、
結局のところ、黒煙峡は謎に包まれたままである。
黒煙峡に存在する浮遊感と呼ばれている建物。
その姿を見た者は少なくなく、実在はほぼ間違いないと言われている。
浮遊館は、初代の巫女である桜が、ポルタツィアと出会った推測されている場所の一つ。
黄金色に光る木材でできた二階建ての屋敷で、
中にはポルタツィアと桜が交わした制約が刻まれた碑文がある。
それが通説であるが、同じような場所が他にもある以上、ただの推測に過ぎない。
なんらかの要因で黒煙の排出が止まり、調べることができない以上、
我々は、そこにある物を夢想するしかないのだ。
- 74 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:49:13 ID:hIo2mFDI0
最後のページに書き込まれていた日付は、今からちょうど三十年前。
それから新しい資料が入っていないということは、誰も向かっていないという事だろう。
黒煙峡に関係するかもしれない残りの四冊を本棚から机の上に移し、読み始めた。
劔が帰ってきたのは、虹柳の本を半分ほど読み終えた頃。
両手を埋め尽くすほどの素材を抱えて、扉を蹴り開けて入ってきた。
「ちょっと、見てないで手伝いな!」
(;´・ω・`) 「あ、すいません」
受取った素材を、用途に分けて保存瓶に詰めていく。
どうやら、集会に参加してきただけではないらしい。
出ていった時には小ぎれいだった服は潮の香りがした。
「何見てるんだい」
(´・ω・`) 「ん……それより、採取に行ったんですか?」
「そうだよ。ツレの錬金術師が穴場を見つけてね。珍しいものが取り放題だったわけさ。
って、あんた。そんな資料なんか出してどうした」
- 75 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:49:45 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「いや……」
机の上に出しっぱなしにしていた四冊の本。
せめて一冊だけならばただ何となくと言い訳ができたものだが、劔はすぐに察してしまった。
「碑文かい? 誰に聞いたのか知らないけどね、そんなものはありはしないよ」
(´・ω・`) 「……え?」
「碑文の伝説を信じた馬鹿どもが何人も命を落としてんだ。
そろそろ、夢を見るのは終わりだよ。ポルタツィアと初代巫女の間には何もなかったのさ。
桜が選ばれたのも、ただの偶然じゃないかね」
(´・ω・`) 「でも、噂として残っているのであれば……」
「確かに、神州じゃあ誰もが知っている。
だけどね、虹柳も、海底洞窟も、桜古墳も、何処にも見つからなかったし、
大和城も隈なく探したけれど、碑文なんてものはなかった」
(´・ω・`) 「浮遊館は……」
「やめときな。あんなところに行ってちゃ、いくら命があっても足りやしない。
無謀な能無しと同じで、骸すら見つからない状態になるのが落ちさ」
- 76 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:50:31 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「……」
「さ、無駄なことを考える前にさっさと片付けちまいな。
これから私は依頼されてた商品の錬成をしなきゃいけない。見てみるかい?」
貴重な遠隔錬金術を見せてくれると言う。
普段なら一二もなく飛びつく話だが、今僕の頭の中を占めているのは別の話。
その有難い申し出を断り、少し外を出あるいてくると劔に伝えた。
不満そうな顔をしながらも、帰ってきて誰もいなかったら使うようにと鍵を放り投げられた。
それを受け取り、三日ぶりに大和の町を出歩く。
町の活気は神州にたどり着いた初日とさして変わるところもなく、大和城の方へと歩を向けた。
城門には、相変わらずやる気のない門番。
定刻が来たのか、槍を片手に門の内側へと入っていった。
しばし、空白の時間ができる。
逡巡は、一瞬。
開かれたままの門の間を、自然に潜り抜け、すぐそばの茂みに身を伏せて隠れた。
壁内は広く、あちこちに丁寧に整えられた緑の植物がある。
それらは、丁度良く僕の身を隠してくれた。
(´・ω・`) (入ったはいいものの……)
- 77 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:51:11 ID:hIo2mFDI0
内側には見張りがおらず、城内へ続く扉は開け放たれている。
しばらく様子を窺っていると、先程の二人が戻ってきた。
そのまま門まで向かい、職務に就く。
二人の死角になってから場内へと進入した。
漆喰の壁と木張りの床。
物音はほとんどせず、幾つかの横開きの扉を開けてみたが、だれも使っている様子はない。
突き当たりには階段があり、僕はもう隠れることをやめた。
上の階へと進むたびに部屋数が少なくなる。
城の構造上仕方のないことではあるが、西の国々にはあまりない建築様式に妙な違和感を感じていた。
途中話し声が聞こえる部屋はあったものの、
誰とも出くわすことなく、最上階の部屋にまでたどり着いた。
( ФωФ) 「入るがよい」
/ ゚、。;/ 「え?」
( ФωФ) 「その襖の外に立っている男に声をかけたのだ」
- 78 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:52:10 ID:hIo2mFDI0
隙間なく閉じられた部屋の前で暫く迷っていると、部屋の中から呼びかけられた。
中に入れば、高級そうな座布団の上に座している芒。
ロマンは外套を飾る場所に丁寧にひっかけられていた。
/ ゚、。;/ 「どうやってきたのですか?」
( ФωФ) 「この城の警備はたいして厳しくないである。
であるが……それでもわざわざリスクを冒してきた理由を聞こう」
(´・ω・`) 「黒煙峡に行くためには、移動手段がいる。だけど、お金は全く持ってないからね」
( ФωФ) 「行く気になったであるか」
(´・ω・`) 「その前に幾つか、気になることがあるんだ」
ロマンは、初代の桜とポルタツィアの間に交わされたなにかが碑文に記されている、と言っていた。
では、それが桜の血族に関係する呪いや制約のようなものだったとすれば。
彼女しかできないことであると確定してしまえば、どうあがいても芒は現在の役割を捨て去ることができない。
それはどうなのかとロマンに問う。
( ФωФ) 「……碑文の内容は全く想像できないのである」
- 79 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:53:11 ID:hIo2mFDI0
(´・ω・`) 「存在しない可能性は?」
( ФωФ) 「それは無いのである。芒の母親に当たる菘、
その母親の蓮華、それより以前から吾輩はこの神州にいたのである。
その時からポルタツィアに関してはずっと調査していたのだ。
それだけの時をかけても、多くはわからなかった。
たった一つ、桜とポルタツィアが実際に会っていたであろうことを除いて」
(´・ω・`) 「どうしてそう言える?」
/ ゚、。 / 「僕が説明します。僕の家系には代々、その当主しか知らない言葉があるんです。
僕は、その言葉を知らなかったのですが」
芒は、僕に座る様に座布団を渡してくれた。。
それを有難く受けとって、彼女の正面に座る。
/ ゚、。 / 「僕の母は、僕が生まれて一年も経たないうちに死にました。
僕を産んだ時の負担が原因だったと聞いています。
当時すでに三歳だった姉は巫女として迎え入れられ、
母親を殺した僕は城内で忌み子として町の宿屋の夫婦に預けられました。
これは、ロマンから最近聞いた話です」
- 80 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:54:04 ID:hIo2mFDI0
産まれてくる時に、母体に負担を強く与えてしまう赤子がいることは聞いたことがある。
大陸西方でも同様に、母殺しの汚名を着せられることが多い。
運が良ければ教会に引き取られて育てられるが、最悪の場合、その場で処分される。
生まれながらにして、病毒と同じ扱いを受けるのだ。
/ ゚、。 / 「弱り切った母親は、ある日、姉の山茶花を呼び出し、誰もいない部屋で少しの間話をしたそうです。
大和の神官たちの中で相当な信頼を得ていたロマンすら、その会話の内容は聞いていません」
( ФωФ) 「菘の時も、蓮華の時も、吾輩だけでなく全員が部屋から閉め出されていた。
何かを伝えていることまではわかっていたが、肝心の中身は誰が聞いても教えてもらえなかったのである。
山茶花は病によって急死した。そのせいで、芒と話す時間は一切なかったのだ」
/ ゚、。 / 「私は、そういった言葉があることすら知りませんでした。
いきなりこの大和城に呼ばれ、姉の死を知り、巫女として扱われるようになったのです。
原因はわかりませんが……最初の儀式のとき、私はポルタツィアと接触することができませんでした」
(´・ω・`) 「ポルタツィアを呼び出すためには、何かが必要だと?」
/ ゚、。 / 「いえ、ロマンの予想が正しいのなら、会話を交わすのに、だと思います」
- 81 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:54:54 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「ポルタツィアの言葉を理解するために、
巫女にはその言葉が証として送られていたのではないか、という推測である。
大和でも代々引き継いできた言葉は、しかし途切れてしまった。
だから、芒の前にポルタツィアが現れなかったのだ」
(´・ω・`) 「いや、待て。僕はこの神州に上陸する前にポルタツィアにあっている。
その時に、会話こそしていないけれど、その言葉を聞いた」
/ ゚、。 / 「それは、小柄な男の子の姿ではなかったですか?」
(´・ω・`) 「ああ」
/ ゚、。 / 「巫女になってから一ヶ月ほどたったある日、僕の前にも、同じものが来ました。
ただ一言だけ話してすぐにいなくなりましたが。
その次の神託の日にはポルタツィアが現れて、その声を聞くこともできたのです」
(´・ω・`) 「なんて言われたんだ」
/ ゚、。 / 「────」
芒の口から聞こえたのは、ただ息が漏れる音。
発音は無く、口の形も一定。
理解できない言葉かと想像していたけれど、現実はより厳しかった。
- 82 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:55:35 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「聞き取れぬのか、それとも理解できぬのか」
既に試していたのであろうロマンの言葉からは、困惑が読み取れた。
/ ゚、。 / 「他の人に試してみたこともあるんですが、やはり聞こえないのですね」
(´-ω-`) 「うーん……」
( ФωФ) 「ポルタツィアの声を聞いたという話は、ないわけではない。
ただ、実際に資料として残っているものはほとんどなく、その中には嘘をついているものもいただろう」
僕の勘違いではない。
あの時、確かにポルタツィアは声を理解できるように発していた。
それは警告のためだったからなのだろうか。
それとも、僕らがまだ知らない事実があるのか。
(´・ω・`) 「碑文を見つけるしかないんだろうね」
( ФωФ) 「吾輩は最初からそう言っておるつもりだが」
ロマンの言葉を疑ったわけじゃない。
ただ、自分で考えてみないと気が済まなかったのだ。
(´・ω・`) 「最後に一つ。今日言っていた場所の中で、黒煙峡以外の場所について」
- 83 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:56:30 ID:hIo2mFDI0
( ФωФ) 「虹柳、桜古墳、海底洞窟、大和城についてか」
(´・ω・`) 「今日、僕が居候させてもらっている錬金術師の研究室で、虹柳に関する物だけ少し読んだんだけど、
彼女はそういった場所は空想で存在しないと言う。
でも、ただの作り話には思えない」
虹柳は、雨の上がった後に嘆きの丘に現れる柳。
見る角度からによって様々な色に変化するのと同時に、
見えていても絶対にたどり着けないという特徴から名づけられたらしい。
本には、出現場所、その錬金術的用途、特徴、実際の実験事例まで事細かに書いてあった。
詳細な成分データと、緻密なスケッチ。
相当な錬金術の腕前が無ければ、あの本を執筆することは出来ない。
( ФωФ) 「その作者は確認したのであるか?」
(´・ω・`) 「いや……」
( ФωФ) 「恐らく、それはこの大和に百年以上前に滞在していたふろう者のものである。
吾輩の前に現れ、吾輩の正体を見抜いた相当な術師であった。
知っているのではないか?」
- 84 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:58:01 ID:hIo2mFDI0
いくら僕自身が不死者であっても、高名な錬金術師が全て知り合いなわけではない。
( ФωФ) 「突然この大和に現れ、三冊の書物を残して去って行った。
それぞれが虹柳、桜古墳、海底洞窟についてである」
(´・ω・`) 「その優秀な術師が、それらの地には何もなかったと?」
( ФωФ) 「吾輩は本を書く前に一度しか会っておらん。それ故、彼女の目的も知らん。
だが、当時の巫女が、彼女が国に帰る前に話しておったはずだ。
確か……目的は手に入れられそうにないけど、面白い資料が手に入ったからいいや、だったと思う」
(´・ω・`) 「碑については」
( ФωФ) 「勿論、聞いたようであるが、碑? なにそれ。あ、黒煙峡? 危ないから行ってないよ、と」
(´・ω・`) 「黒煙峡だけは、誰も立ち入れていないのか」
( ФωФ) 「そうである」
/ ゚、。 / 「一応、お礼も考えています。その、リリさんの情報を。
それと……大和器を」
- 85 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:58:54 ID:hIo2mFDI0
芒が取り出したのは小さな金色の器。
それを支えている力の入りようから見ても、ほぼ純金で間違いが無さそうだ。
(´・ω・`) 「それは?」
/ ゚、。 / 「大和の錬金術発展に貢献した人に、その報酬として渡す大和器です。
えーっと、ショボンさんでしたっけ。これは黒煙峡の調査が終了した暁に」
(:´・ω・`) 「うーん、器はいらないかなぁ……」
/ ゚、。 / 「大和器は純金でできたものですよ? 僕はこれでご飯を食べようとは思わないですけどね」
(´・ω・`) 「そう言えば、お金で思い出したことがある」
( ФωФ) 「そこの戸棚に入ってあるものを持っていくがよい。この前の時点で用意させてある」
/ ゚、。 / 「こっちですよ」
ロマンは自力で動くことができないのか、そこと言われても何処かわからなかった。
芒に手を引かれ、数少ない調度品の前に案内される。
古びた大型の箪笥にある引き出しは、取っ手も全て木材でできていた。
湿気で歪んでいるせいか、少女が思いっきり引いて開ける。
- 86 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 21:59:40 ID:hIo2mFDI0
渡されたのは、純金の粒が入った袋。
それも、結構な重さがある。
神州の物価はほとんどわからないけれど、普通に暮らすのであれば三か月分ほどであろう。
(´・ω・`) 「こんなにも?」
( ФωФ) 「黒煙峡ほどの場所に行くのであれば、様々な錬金術が入用であろう。
それで揃えるがよい」
/ ゚、。 / 「それじゃ、受けてくれるんですね?」
(´・ω・`) 「受けざるを得ないんだけどね。全く、面倒なことだけれど」
( ФωФ) 「吾輩も嫌がらせでやっているのではない。頼んでいるのである」
(´・ω・`) 「わかっている。興味が無いわけじゃないからね。
一月ほど待たせると思うけど」
( ФωФ) 「構わないのである」
/ ゚、。 / 「帰りは大丈夫ですか? 送って行きましょうか?」
(´・ω・`) 「いや、いい」
話し込んでいるうちに、陽が沈んでしまっていた。
気持ちはありがたいが、二人で行動していたら見つかる可能性も高くなる。
もし少女と一緒にいる姿を目撃されてしまったら言い訳のしようがないため、
僕は着てきたローブを目深に被り、最上階の部屋を後にした。
- 87 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:02:26 ID:hIo2mFDI0
30 災厄の巫女 End
- 88 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 22:06:34 ID:hIo2mFDI0
- │
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26 朽ちぬ魂の欲望 <上>
27 朽ちぬ魂の欲望 <下>
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16 ホムンクルスは試すようです
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28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
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