(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
102 名前:名無しさん 投稿日:2016/07/19(火) 22:19:28 ID:97ESyuuc0















31 少女への手掛かり

103 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:21:33 ID:97ESyuuc0

籠と呼ばれる輸送手段を乗り継いで七日目に、黒煙峡の麓にある小さな村にたどり着いた。
支払いの金を渡すと、輸送屋は逃げるように帰って行く。
その後姿を見送ることはせずに、目の前の光景に向かい合う。
昼間だというのに山全体には黒い霧がかかり、その色が移ったかのように雲も暗く汚れている。

山の麓に並ぶのは、たった数十軒ほどの集落。昼間だというのに誰も畑作業をしておらず、人の姿は見えない。
すぐに山に入っていこうかと思っていたが、異様な村の光景が少し気になって、
一番近くにあった家を訪ねてみた。

数度のノックを繰り返しても誰も出てこない。
不審に思って声をかけながら扉を開けた途端に、鼻を押さえなければならないほどの死臭があふれ出してきた。
吐き気を堪えて口元を覆いながら奥まで進むと、折り重なるように転がっている老夫婦の死体。

腐食の度合いから見ても、死後数か月は経過している。体に目立った損傷は無く、家の中も荒らされていない。
他の数軒を覗いてみても、どこも同じような惨状であった。

原因と思われるのは、集落と山の間を繋ぐように伸びる深い亀裂と、そこから立ち昇る黒い煙。
劔の研究室を借りて創り出していた特殊なマスクをすぐに身に付けた。
地名から予想して予め用意していたのは正解だったようだが、
黒煙を完全に防げるかどうかはわからない。

まぁ、無いよりはましなはずだ。

104 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:22:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) (全滅……か……輸送屋が逃げ帰ったわけだ)

全ての家を調べ終わるまでさして時間はかからなかった。
出来るなら埋葬をしてあげたかったが、そのための道具などはなく、今の僕には放置することしかできない。
少しだけ黙祷し最後の家を後にした。

大地にできた裂け目から噴き出す黒煙の量は少ないが、途切れることなくゆらゆらと立ち昇っている。
そのすぐ近くまで寄って覗き込む。
マスク越しで煙を吸い込んでいても、強い頭痛がすぐに現れた。
深穴を覗き込むのをやめて、空気が幾分綺麗な場所で深呼吸をする。

(´-ω・`) 「自然現象か……それとも生体現象か……」

もし黒煙を吐き出す現象が活発化しているのであれば、付近の集落にも伝えなければならない。
毒性から見ても、このまま放置していたのでは、その被害の規模は計り知れない。
可能であれば、原因を見つけてしまうのが一番いいのだけれど。

今日明日程度で解決できるような単純な問題ではないだろう。
影響を与えている範囲が広すぎるし、採取して持って帰るのは危険すぎる。

亀裂を避けながら山に向かう。
干からびた村の様子とは対照的に、不自然なほどの緑が覆いつくす斜面。
黒煙とのコントラストは、静かな山々を不気味に彩っている。

105 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:24:54 ID:97ESyuuc0

少し歩いただけで異常な状態にはすぐに気がついた。
目の前にある森からは、生き物の息遣いが一切感じられないことに。
それがどれだけ異常なことかは、錬金術師でなくてもわかる。

(´・ω・`) (行くか……)

獣道すら存在しない茂みの中で、白刃を振るう。
さほど抵抗なく道が開け、すぐに返す手でまた前方を薙ぐ。
そうやって創り出していった道を一歩一歩進んでいく。

山の斜面で剣が引っ掛かることはなかった。
それは、刃の鋭さゆえの事ではない。

樹が無いのだ。
背の高い植物も全て草であり、その茎は手でも折れるほどに柔らかい。

陽が沈んで星空だけが明かりになった頃、歩くのをやめて休憩することにした。
半日かけて登り続け、やっと中腹くらいまでは来たと思う。
振り返ってみてみれば、通ってきた道が蛇の這った後のように光って残っていた。

(´・ω・`) 「……燭草」

夜になると茎や葉から発光する気体を放出する珍しい植物。
本来なら受粉の為に虫を呼び出す光。
しかし、この山で近寄るものは何もなかった。

106 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:25:26 ID:97ESyuuc0

燭草程度の光では、足元まで照らすには心許ない。
いつどこに裂け目があるかもわからず、日が暮れてから動き回るのはリスクが高すぎる。
そう判断した僕は朝まで眠ろうかと、草の束を枕にじっと空を眺めていた。

うとうとし始めた頃、突然激しい耳鳴に襲われた。

(;´・ω・`) 「っ!」

次いで地面が揺れ、大地が避ける音が響く。
あまりの荒々しさに、世界がバラバラにちぎれているのではと心配になるほど。

たった一瞬の出来事だったが、目の前の光景は大きく様変わりしていた。
僕がつくってきた道はその姿を失い、代わりに何もかもを飲み込んでしまった空洞が存在していた。
夜よりも黒く、闇よりも昏い空間。

それが噴き出してきた黒煙の塊だと気付くまでに、時間はいらなかった。
もし、あの煙の中に巻き込まれていたら。
今頃は少なくとも意識を失っていたに違いないし、最悪、大地の破断に巻き込まれていた可能性もある。

それから朝まで、結局一睡もできなかった。
昇ってくる朝日に照らされて、僅かに残っていた黒煙も風に揺られてゆっくりと拡散していく。
黒煙が晴れて見えた斜面は、鋭い剣で切り裂いたかのように横一直線に割れていた。

107 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:26:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) (急いだほうが良いな)

劔錬金術店にあった地図を頼りにするならば、黒煙峡からはまだ山三つほど離れている。
それでこれほどの影響が出ているのであれば、中心部はどうなっているのか予想もつかない。
万が一にも浮遊館が失われてしまっては意味がないのだから。

下を眺めるのもほどほどにして切り上げ、昨日と同じように山道を行く。
当初予定していた山越えは片道六日。
食料は最低限のものを乾燥させ、圧縮したものを用意していた。
別に尽きてしまったとしても問題はないが、長旅は避けたい。

出来るだけ早く調査し、それと引き換えにロマンに聞かなければならないことがある。
休憩を減らし、その時その時で道を変え、より時間が短縮できるように黒煙峡を目指した。

地図に書かれていた場所にたどり着いたのは、麓の村を発ってから四日と半日。
それなりに無茶な旅をした結果、予定よりも大幅に削減することができた。

けれども、浮遊城まであと一歩のところで既に一時間ほども立ち止まっていた。
自然にできた山間の洞窟を抜けた先にあった、狭い足場に座って僕は考える。
ロマンは、このことをちゃんと説明してくれていたはずだと。

108 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:27:49 ID:97ESyuuc0


着地のことを考えんのであれば、方法なんぞいくらでも考えつく、と


これが、そういうことか。
目の前に広がる灰色の空。
気休め程度の幅しかない足元の遥か下方にあるのは、黒煙の海。

その中心に、ポツンと浮かぶものがあった。
ここからでは遠くてよく見えないが、家の形をしているような気もする。

(´・ω・`) 「あれじゃ、ないよなぁ……」

返事など返ってくるはずもないのに、思わずぼやいてしまった。
正直に言えば、隣に誰かがいて否定の言葉をかけてくれればどれほどよかったか。

誰だってこの状況を見れば諦める。
不老不死の僕が太鼓判を押すんだから間違いない。

(;´-ω-`) 「はぁ……」

仮に人間が皆不死だったとして、どれほどの人間があそこに向かって飛び降りられようか。
そんなつまらない自問自答を、もう二ケタ回以上も繰り返している。

109 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:28:20 ID:97ESyuuc0

リリが待っているのだと、心の中で何度も何度も叫ぶ。
自らを鼓舞し、一歩を踏み出すために。
大きく深呼吸を繰り返し、大事な荷物は壊れてしまわない様にクッション材で包んでおく。
旅行用にいつも使っているこの丈夫な袋に、さらに改良の錬金術を加えておいたのは正解だった。



声に出さずに、数字をカウントする。
この一回を逃してしまえば、もう二度と飛び降りられない気がしていた。



だからこそ目を瞑らず、正面から恐怖に立ち向かう。
着地地点を誤れば、何が起きるかもわからない。



殆ど無風状態で、落下は左右されない。
最初で最後の一歩を間違いなく、力強く飛び出せれば絶対に成功する。



帰る方法は必ず存在する。
もし仮になかったとしても、最悪の手段はいくつか思いついていた。



110 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:29:44 ID:97ESyuuc0


(´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


叫びながら、助走をつけ思いっきり踏み込んで空へ飛び出した。
ふんわりと放物線を描いた後、全身を襲う重力。
胃の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような嫌悪感。

自由落下は、もう止めることが出来ない。

着地地点と言うよりも、もはや着弾地点にちかいそれは、真下よりも若干前方。
思い切り飛び出したつもりでも、知らず体にブレーキがかかっていた。

落下時間は今までに経験したものよりもはるかに長く、それが逆に僕を冷静させていた。
このままでは、浮遊館でなく黒煙の海に落ちるということを。

水の中を進むように、両手両足をばたばたとさせる。
少しずつ、身体が目的の場所上空に近づいていく。

必死だった。
何もかもをかなぐり捨てて、リリの事すら脳内から吹きとんでしまうほどに。
たった一歩分の距離が、数千倍にも感じていた。

筋肉が悲鳴を上げても全身の動きは止めない。
届くかどうかという計算を、僕はやめていた。
ただひたすらに虫けらのように身体を動かす。

地面にぶつかる直前に、僕は意識を失った。

111 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:30:45 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「ヨうこそ」

頭上から声がかけられた。
こんなところに人が住んでいるとは思わなかったし、
衝突の衝撃で飛び散った全身の細胞が、まだ少し残っているグロテスクな惨状を目の前にして、
なんて落ち着いているのだろうとよくわからない心配をしていた。

身体が完全に再生したことを両手で触って確認した後、
ようやく声の主を見上げる。
衝突によってできた窪みの端に立っていたのは、黒光りする人型の金属。
鉄や銅とは決定的に異なっている見たこともないような素材。

関節部は人間と同様の形状をしており、筋肉の代わりに球体と数本の糸が繋がれている。
目に当たる部分には、眼球を模した光が一つだけ埋め込まれており、先程からくるくると回転していた。
驚き、口を開けたまま突っ立っていると、球体から赤や青の光を発し、再び声をかけてきた。

112 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:31:57 ID:97ESyuuc0

|::━◎┥ 「ヨうこそ」

先程と全く同じ抑揚で、それは繰り返す。

(;´・ω・`) 「あ、ああ。あなた……は……?」

自分が間抜けな質問をしているとよくわかっていたが、
聞かずにはいられなかった。
人間の声を保存しておいて、それを流しているだけの置物か。
それとも、中に人が隠れているのか。

|::━◎┥ 「ヨうこそ。コちらへ、ドうぞ」

問いかけに対する答えは無く、ただ一言付け加えた。
自分で作った穴から這いあがり、その金属の前に立つ。

下から見上げていた時はわからなかったが、意外と小柄である。
人間でいえば少年少女ほどだろう。

僕の動きを確認したのか、それともどこかで誰かが僕をからかうために操っているのか、
それは背を向けて歩きだした。

正面に建っていた屋敷は、ガラスのような透明な素材で覆われた巨大な建造物。
それなのに中は近くに寄ってものぞき込めず、凹凸の無いのっぺりとした箱型。
館と称されていたのは、ただ遥か遠くから見ただけであったからだろう。

113 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:32:33 ID:97ESyuuc0

想定外の大きさに気圧されつつも、先導する謎の案内人もどきに着いていく。
歩くたびに唸るような音を出していた。

両開きの扉は、人型の金属が近づくと自動的に開かれ、僕は中へと踏み込んだ。
教会のような内部を予想していたが、もはやここが僕の常識に当てはまらない世界だと理解した。
前後左右、見渡す限り空間を埋め尽くす植物。
林檎や蜜柑などの見知った果物から、野菜、果ては錬金術関連の植物までなんでもある。

よく見れば、一つのプランターには一種類の植物が、最高の状態で最低限存在していた。
果樹であれば、細い幹と果実が、野菜であれば一つ、または一本、草は一握り。

その名の通り道草を食いたくなるのを我慢し歩く。
前方には、此方を見向きもしない金属の人形。
理解不能なそれに対して、不思議と怖いとは思わなかった。

植物のエリアを真っ直ぐ横切り、二つ目の扉の前に立つ。
空間的には横長の長方形になっているのだろう。
左右のどちらも壁のようなものは見えない。

今度はすぐに開かず、数分間待たされた。
暇を持て余し、何度か人形に話しかけてみるも反応は無い。

辺りを見回していると、何の合図もなく扉が開いた。

114 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:34:00 ID:97ESyuuc0

扉はくぐった瞬間、ゆっくりと閉まっていく。
閉じ込められたのではないかという不安は、その部屋の光景を見て吹き飛んだ。

人が一人通れるくらいの幅の道と、両側には天井まで届く青い壁。
それを僕の常識は壁だと理解していた。
しかし、表面は波打ち、今にも零れだしてきそうなほど。
手を伸ばして触れてみると、指先が濡れていた。

(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

何の区切りもなく存在する淡水と海水の塊。
その中には、無数の魚が泳いでいた。
例によって、同じ魚は二匹といない。

液体の法則を完全に無視した現象を引き起こしている空間。
それは、錬金術であれば可能であるかもしれない。
だけどこの僕ですら、その手段は想像すらできなかった。

僕の驚きをよそに、金属の人形は歩き続ける。
またしばらく歩いて扉が一つ。
それを超えた先に、今度は動物がいた。

肉食草食の区切り無く、端が見えない草原を自由に闊歩する。
何処まで歩くのかと不安になっていたが、よくわからない金属の大きな箱が目の前で止まった。
扉が開き、人形に乗り込むように手招きされる。
僕が乗り込むと自動で扉は閉まり、激しい音を立てて、乗り物は動き出した。

115 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:35:29 ID:97ESyuuc0

馬車のようなものだろうが、先頭に動物は見えない。
ガラスの窓から見える景色は、目にもとまらぬ速さで後ろに流れていく。
馬よりもずっと早く、揺れも少ない乗り物。これがあれば、世界中を旅することがどれほど楽か。
初めての船や馬車で気持ち悪くなった僕だけれど、これに関しては平気だった。

建物の中なのに、照明の類は全くない。
にも拘らず明るいのは、太陽のような光が宙に浮いているおかげだ。
外の世界と連動しているのかどうかはわからないが、今の時間ならば方角的にも丁度その辺りである。

最後の扉は、今までよりもずっと小さく、人ひとりが通れるほどの大きさしかない。
乗り物はその前で止まり、僕らが下りた後、自動的に走り去った。

まるで人間のように、扉をノックする金属の人形。
中からの返事はない代わりに、扉がゆっくりと開く。

(´・ω・`) 「…………」

その部屋には湖があった。湖畔には小さな白い花が咲き乱れている。
風は無く、畔に一本の木が満開の花を咲かせていた。
根元には、薄紅色の花弁の絨毯。
その上に一人の女性が座っていた。

116 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:38:59 ID:97ESyuuc0

白い服に、白い髪。
まるで絵画を切り取ったかのような世界。

li イ ゚ー゚ノl| 「ようこそ」

一礼して下がっていく金属人形。
部屋に取り残された僕は、どうすればいいのかわからなかった。
彼女に近寄ることで、その世界を台無しにしてしまうかもしれないという漠然とした不安に襲われて、動けずにいた。

li イ ゚ー゚ノl| 「どうぞ、此方へおいでください」

白いテーブルと椅子が二脚、まるで最初からそこにあったかのように現れた。
樹を背もたれにしていた女性は立ち上がり、空席を手のひらで示す。
二度目の呼びかけで見えない糸から解放された僕は、用意された反対側の椅子に座る。

それを確認してから、女性は席に着いた。

li イ ゚ー゚ノl| 「遠路はるばる、よくいらっしゃってくださいました。
        なにか、お飲み物と食べるものを用意させましょう」

机の上に置いてある小型のベルを鳴らすと、柔らかな音色が清浄な空間に響き渡る。
それに何処からともなく聞こえる魚の撥ねる水の音と、鳥たちの鳴き声が重なり、まるで楽曲の様に。
聞き惚れていると、何処からともなく金属の人形が現れた。
先程のと全く同じ形であるが、顔の部分にある一つ目が違うため別の個体だろう。

117 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:40:12 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「不思議そうな顔をしていますね」

(;´・ω・`) 「これは……一体……」

金属人形がどこからともなく、暖かいお茶の入った湯呑を二つ取り出していた。
茶請けとして団子と羊羹が一口サイズに切り分けられたものと一緒に。

li イ ゚ー゚ノl| 「これは、はぐるまさんです」

(;´・ω・`) 「はぐるま……さん……?」

そのまま聞き返してしまった。
女性にとってのあたりまえが、僕にとっての常識とは全く違うらしい。
よく考えなくても、こんなわけのわからない場所に一人で住んでいるのだ。
その程度のことは当然なのだと、そのまま飲み込んでしまうことにした。

li イ ゚ー゚ノl| 「はぐるまさんは機械なんです」

(´・ω・`) 「機械……? これが……?」

車輪は、前に進む。
歯車は、力を変換する。

118 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:41:14 ID:97ESyuuc0

人間の力無しで動くことのできるものを機械と呼ぶのは知っている。
ただ僕の知っているそれらは、ここまで複雑な行動をすることはできない。

li イ ゚ー゚ノl| 「あんまり考えると、疲れてしまいますよ。
        それで、この場所にどのような要件があったのですか」

恐らく、僕には理解できない存在なのだろう。
普段ならもう少し粘っていたはずの僕は、女性に促されてそう認めてしまった。

(´・ω・`) 「……神州の巫女、桜とポルタツィアの残した碑文を探しに来ました」

li イ ゚ー゚ノl| 「碑文……? そんなもの有ったでしょうか……」

(´・ω・`) 「それでは初代巫女の桜のことを、何か知っていませんか」

li イ ゚ー゚ノl| 「桜でしたら私ですよ」

(´・ω・`) 「え?」

li イ ゚ー゚ノl| 「雪月院 桜と申します。以後、お見知りおきを」

神州の歴史は古く、ポルタツィアと関わりをもったのも千年以上昔の話だ。
その時に巫女であった人間が、今も生きているはずがない。
そう、人間であれば。

119 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:42:41 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「あなたは……」
 
li イ ゚ー゚ノl| 「随分と答えに辿り着くのが遅かったですね。それとも、それが限界ですか?
        でしたら、期待外れですね。半端者とはいえ少々評価していたのですが……甘い見積りでした」

ふぅ、と彼女は溜息をつく。
勝手に期待されて、勝手に裏切ったことにされてしまったが、それに関して僕が言えることは何もない。
そもそも、僕と彼女は初対面のはずである。
なぜそこまで言われないといけないのかわからない。

彼女は、一体何を知っているのだろうか。
妖艶な笑みの中に言葉の真意が隠されていて、その片鱗すら見えない。

(;´・ω・`) 「半端者…………」

li イ ゚ー゚ノl| 「不完全だということです。あなた自身は気づいていないのかもしれませんが。
        仕方のないことです。むしろ、中途半端な知識でよくあなたを生み出したものです」

(´・ω・`) 「あなたは、僕の何を知ってるんです」

li イ ゚ー゚ノl| 「ショボン・オーロ・ホーエンハイムの死体を利用したホムンクルスくずれだということ……ですかね。
        必要なら、知ることは出来ますよ」

120 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:43:56 ID:97ESyuuc0

会話がうまくいかないのは、きっと僕と彼女の認識が大きくずれているから。
まずは同じレベルにまで底上げしてもらわなければ、彼女が言いたいことを理解できないだろう。
彼女が、僕にわかるように説明してくれれば一番楽なのだけれど、
どうもそう丁寧にしてくれるつもりはないみたいだし。

(´・ω・`) 「質問を、してもいいですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「どうぞ」

(´・ω・`) 「あなたは、神州の初代巫女、桜で間違いないですよね」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ。先ほどもそう言いましたけどね」

嫌味を言われていることだけはわかった。
ただ、コミュニケーションをしたくないというわけではなさそうで、めげずに次の疑問を投げる。

(´・ω・`) 「どうしてここに住んでいるのですか。しかも、不老不死になって」

li イ ゚ー゚ノl| 「神州に初めてポルタツィアが現れた日、神州の人間の半分は何の前触れもなく死にました。
        神の選定と呼ばれた悲劇です。老若男女、区別なく、無差別に。
        その時のことは、今の神州では誰も知りはしないでしょうが……」

(;´・ω・`) 「半数も!?」

121 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:44:31 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「七大災厄とは、そういうことです。理由も無く、ただ災厄として存在している上位種。
        運よく……いえ、運悪く生き残った者達で、再び国として纏まりました。
        しかし、そんなことがあってすぐにうまくいくなんてありえません」

(´・ω・`) 「……でしょうね」

国民の二人に一人が死ぬのだ。まともな状況ではないし、荒れ放題だろう。
むしろ、国としてまだ機能していたこと自体が驚きだ。
今よりは社会構造が単純だったからこそなのかもしれない。

li イ ゚ー゚ノl| 「私は、私以外の家族を選定で皆失いました。女一人きりになって、生きていけるわけがありません。
        荒れ果てた町で、複数の男性に捕まり、乱暴を受けようとしていた時でした。
        突然、海の中に引き込まれたのです」

(´・ω・`) 「まさか、イヴィリーカの……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、知識の魚。生きる知恵。私の前に現れたそれは、生きたいか、と問うてきました。
        生きたければ、我が身を食べろと。私はその通りにしました。
        あなたの知る彼女と同様にね」

(´・ω・`) 「シュールのことですね」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ。大切な人々を自らの愚行で失い、その上に自らを失った哀れな女。
        他人の精神に宿ることで生き長らえ、自らの後始末のために不死者もどきを生み出したのですから。
        ショボンさんは、きっと彼女の一番の被害者ですね」

122 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:45:48 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「……あなたはシュールとは違うというのですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「同じですよ。根本的にはね。わかりやすく言うのであれば、彼女は私の姉弟子のようなものです」

シュールもまた、イヴィリーカにその命を救われていた。
文字通りその血肉から知識を与えられることは、子弟関係にあると言えなくもない。

li イ ゚ー゚ノl| 「ですが……決定的に異なる点が一つ。
        彼女がイヴィリーカに招かれたのは、ほんの子供の時。
        私がそうなったのは、既に成人した後でした」

(´・ω・`) 「それが、二人の差異を生み出した、と?」

li イ ゚ー゚ノl| 「彼女はイヴィリーカの腹の肉をその身に取り入れた。そして錬金術と言う知識を得た。
        それもたった一口だけで、です」

桜は、口元に湯呑を近づけて、ゆっくりと飲む。
その間言葉を発さず、悪戯に僕の不安を煽る。
わざとだと理解できても、彼女の口から紡がれるまでただ待つことしかできない。





         、 、 、 、 、 、
li イ ゚ー゚ノl|  「全部食べたら、どうなるでしょうね」




.

123 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:47:18 ID:97ESyuuc0

(;´・ω・`) 「っ!」

li イ ゚ー゚ノl| 「彼女が不完全だとする意味は、もうわかったでしょう」

イヴィリーカはこの世のすべての知識を統べると言われる七大災厄。
その体はありとあらゆる情報でできている。
それら全てをその身に取り込んだのであれば、彼女はまさしく人の身にて神となった存在。

(´・ω・`) 「……それでは、なぜこんなところにいるんです」

錬金術だけではない。
無限の知識を得ているのに、なぜ彼女はこんな場所で一人暮らしている。
神州の人々の生活レベルを数段上昇させることも容易い筈だ。
ポルタツィアの被害を抑えることだって。

li イ ゚ー゚ノl| 「錬金術も、機械も、それ以外のあらゆる知識を得ても、
        それを誰かのために役立てようとは思いませんでした」
        
(´・ω・`) 「……」

li イ ゚ー゚ノl| 「その時の私には……今でもそうですが、人の生死にも、世界の盛衰にも、国の興亡にも、
        関わることが愚かしく思えましたから。それに、神州にはあれがいます」

(;´・ω・`) 「七大災厄、ポルタツィア……」

124 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:48:54 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「どれだけ知識を得ても、全能とは程遠いですから。災厄には遠く及びません。
        ……本当に人間が神と呼ばれる存在があるとすれば、それは七大災厄で相違ないでしょうね」

(;´・ω・`) 「では、あなたがここにいるのは……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ご想像の通りです。私の生は、ポルタツィアによって制限されているのですよ。
        ですから、この世界に自ら関わることは出来ません。
        この館で一人、世界が終わるまで存在し続けるのでしょうね。
        世界と題された本を読むかの如く」

(;´・ω・`) 「…………」

あまりにも無慈悲にな生の宣告。
不老不死の身でありながら、ただの一人で誰も訪れないような場所で生き続ける。
それは地獄と呼ぶにはあまりにも生温い。

li イ ゚ー゚ノl| 「私の話はこれくらいでいいでしょう。あまりショボンさんの役に立つようなことはありません。
        ですが……」

僕は彼女の言葉を遮った。

(´・ω・`) 「……お願いがあります」

125 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:50:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、あるでしょうね」

柔和な笑みは、僕がそうすることを予測していたからだろう。
僕を半端者と呼んだ、彼女。
これまでの世界を眺め続けてきた彼女は知っているだろう。
不老不死である僕の望みを。

(´・ω・`) 「リリを助ける方法を教えてください」

li イ ゚ー゚ノl| 「……」

彼女は、すぐに返事をくれなかった。
先程のように隠し事を楽しんでいる様子ではない。

li イ ゚ー゚ノl| 「私は観測者になることを決めました。今日あなたがここを訪ねてくることを拒むことは簡単でしたが、
        それをしなかったのは何故なのか、自分でもわかりません。
        手助けはしません。それが私の決めた私です」

(´・ω・`) 「……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ですが、道を見出す言葉だけは授けましょう。多少なりともあなたの人生を知っている身で、
        このまま見て見ぬふりは出来ませんから。意外と、私にもまだ人間らしいところが残っているものですね。
        ……あなたの道標になるものは、既にあなたが持っています」

127 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:52:21 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「僕が?」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、よく考えてみるといいでしょう」

(´・ω・`) 「…………」

li イ ゚ー゚ノl| 「他にも聞きたいことが無いのであれば、質問に答えた代わりに一つ頼まれごとをしてもらえませんか?」

(´・ω・`) 「それを受けるのは構わないのですが、まだ聞きたいことがあります」

li イ ゚ー゚ノl| 「欲張りですね。……いいですよ。
        他人と話すのはこれが最後になるかもしれませんからね」

言葉の真意は読めない。
彼女が望めば、人と話す程度のことくらいいつでもできそうなのだが。

(´・ω・`) 「今、大和で巫女をしている少女の事です。ご存知かもしれませんが」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、知っています」

(´・ω・`) 「彼女は巫女としてその生を全うすることを望んでいない。
       あなたなら、彼女を運命の鎖から解き放てるのでは?」

128 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:53:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「出来るか出来ないかの話でしたら、出来ます」

その答えは、否定と同義。
理由は先ほど本人の口から聞いたものだろう。

(´・ω・`) 「するつもりはないと」

li イ ゚ー゚ノl| 「先程もお伝えしました。私は、もはや人間の手助けをするつもりはありません。
        ただ一つの役割を除いて、ね。それがあなたにお願いしようとしている内容ですが……」

(;´・ω・`) 「しかし……っ!」

li イ ゚ー゚ノl| 「七大災厄に深く関わるとどうなるか、あなたはよく知っているはずです」

抵抗には、より強い否定で返された。
かつて森林の王ティラミアに何度も殺され、
宵闇の冠エルファニアには半身を奪われた僕が、七大災厄の危険性を忘れるわけがない。

後に聞いた話は、僕の体験とは比較できないほど規模の大きな災厄。
シスターヴァは数週間で一大陸の文明を滅ぼし、ポルタツィアは国の人間をたった一瞬で半数にした

抗おうとする方が間違っている。
それが七大災厄。

(´・ω・`) 「イヴィリーカの知識を得たあなたなら……」

129 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:54:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「知識を得ただけで、イヴィリーカそのものになったわけではありません。
        今の私をもってしても、ポルタツィアが本気になれば数分ともたないでしょうね。
        この浮遊館ごと簡単に消滅させられるでしょうから」

全く未知の技術が余すとこなく使われている浮遊館。
その主である彼女の言う事であれば、間違っていないのだろう。
それでも、僕はリリの情報を得るためにどんなことをする覚悟もある。
芒を助けることが僕の望みに繋がるのであれば、躊躇う理由は無い。

li イ ゚ー゚ノl| 「……一つだけ言っておきます。あなたは余計なことに首を突っ込もうとしているのです。
        このまま素直に帰れば、遅かれ早かれいずれ目的には辿り着くでしょう」

(´・ω・`) 「可能な限り、早くなくてはいけないので」

li イ ゚ー゚ノl| 「はぁ……。徒労に終わりますよ」

人間を超えたはずの女性の溜息は、ひどく人間らしかった。
原因が僕にあるとわかっていたが、撤回するつもりはない。

(´・ω・`) 「構いません」

リリと会えるのなら、助けることができるのなら、
地獄の釜の中だって耐えられる。

130 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:55:34 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「別に、ポルタツィアの巫女なんて大層な呼ばれ方をしていますが、
        特別な誰かがしなければならないということはありません」

(´・ω・`) 「え? でも、ポルタツィアとの会話ができないって」

li イ ゚ー゚ノl| 「ショボンさん、この国に入国されたときにポルタツィアに会いませんでしたか」

(;´・ω・`) 「会ったというよりは……襲われかけましたが」

突然空から降ってきた子供のような容姿をしたポルタツィアに、こんかぎり脅された。
危険なものを捨てなければ、船を沈めると。
島までもう目と鼻の先の場所でのことだった。

そうだ。
僕はもっと早くに気付くべきだった。    、 、 、 、 、 、
その時ポルタツィアが何と言っていたか、わかっていた。

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアの言語を理解できないのではありません。
        理解するための全てを、神州住む人間及び神州に入国した人間は奪われているのです」

(;´・ω・`) 「待ってください。僕はどんな傷でも再生する不老不死のホムンクルスです。
        たとえ言語能力を奪われようと、すぐに再生するはずです」

li イ ゚ー゚ノl| 「自分に自信があるのは構いませんが、相手を考えてください。
        七大災厄はこの世の法則を上回る存在です。再生できないようにする程度のこと、造作もないでしょう」

131 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:56:35 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「僕が気づかないうちに?」

li イ ゚ー゚ノl| 「あなたに気付かせない様に。そして、巫女の家系にだけ伝わる言葉こそが、ポルタツィアの言語であり、
        その最初の一言を巫女から聞くことで全ての言葉を取り返す、という仕組みです」

それなら、僕はもうポルタツィアと話せるということになる。
だけど少女の言葉は二度三度聞いても、理解できなかった。
それはどう説明するのか。

桜に問うと、思っていたよりもずっと単純な返答が帰ってきた。

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアの目前でなければ意味がありません。それが引き継ぎの儀式で行われていることです。
        もっとも、何のために巫女と言う存在を要求しているのかはわかりませんがね」
   
(´・ω・`) 「芒のいる場所でポルタツィアを呼び出せばいいのか……」

li イ ゚ー゚ノl| 「しかし、難しい問題がまだ一つ残っていますが……それはあなたが考えるべきことでしょう。
        さて、いい加減に私の用件を伝えても?」

(;´・ω・`) 「いろいろとすいませんでした。……はい、大丈夫です」

li イ ゚ー゚ノl| 「この楔を、山際の亀裂に投げ込んでおいてください」

132 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 22:58:00 ID:97ESyuuc0

手渡されたのは掌ほどの大きさしかない金属製の楔。
複雑難解な錬金術が幾重にも重ねてかけられていること以外には、何もわからなかった。

li イ ゚ー゚ノl| 「最近この峡谷以外の場所で噴き出している黒煙を、此方に集めるためのものです。
        麓の人間には可哀想なことをしました」

(´・ω・`) 「黒煙の原因はあなたなのですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「……麓の方で噴き出してしまったのは、私の管理不足でした。
        そもそも黒煙は、この神州の良くないものの総体だということは……今知ったような顔をしていますね」

(´・ω・`) 「はい……。良くないものとは、つまり毒素ということですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「それだけではありません。
        他にも、大地の歪み、錬金術の負荷、怒りや恨みなどの負の感情など、
        神州中のマイナスを圧縮したものです。
        ポルタツィアによって、神州は争いが限りなく減ったとされていますが、
        その反動で、この場所で黒煙となって噴き出し、光によって浄化されるまで峡谷を漂っているのです」

(´・ω・`) 「……それが平和の代償ですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアに抑圧されている神州の国々は、目に見えない負担を与えられています。
        放っておけば溢れ出し、この地を人の住めない不毛の地に変えてしまうほどの。
        その管理こそが私が自らに課した最初で最後の役目です」

133 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:00:57 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「それは……おかしくないですか。神州で生み出されたはずの負荷が神州を滅ぼすなんて」

li イ ゚ー゚ノl| 「常に放出されていれば、あなたの言う通り国を滅ぼすほどの力はありません。
        しかし、この黒煙峡に揺蕩う瘴気は、長年の間貯め込まれた凝縮された負荷です。
        普通の人間が耐えられるはずがありません」

(´・ω・`) 「植物が枯れていないのは」

li イ ゚ー゚ノl| 「植物は考えませんから。思念が混ざった黒煙は、思考する動物にのみ影響を与えるのです。
        さて、それではショボンさん。その楔を適当に放り投げてもらえば大丈夫ですので」

(´・ω・`) 「わかりました」

li イ ゚ー゚ノl| 「最後に警告を一つ。こういった場所というのは世界中に存在します。人知を超える様な空間が。
        もしそう言った場所に気付いた時は、近寄らないようにしたほうが良いですよ。
        これは余計なことかもしれませんけどね」

(´・ω・`) 「いえ、いろいろとありがとうございました」

深く頭を下げる。
桜は、傍に待機していたはぐるまさんを呼ぶ。

li イ ゚ー゚ノl| 「麓の集落まで送らせましょう。
        浮遊館の下に落ちてしまっては、いくらショボンさんでもそう易々とは脱出できないでしょうから」

機械人形のはぐるまさんは、その両腕でがっしりと僕を掴んだ。
嫌な予感がしたときにはもう遅く、急激な重力負荷を感じて意識を失った。

134 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:03:49 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



( ФωФ) 「ふむ、ご苦労であったな」

(´・ω・`) 「ああ、本当に」

機械人形に送られた後、桜との約束通り楔を亀裂に投げ込んだ。
噴き出していた細い煙は唐突に終わり、それ以降何かが噴き出してくることはなかった。
しばらく様子を見て安全を確認した後、僕は大和城に再び忍び込み、
最上階の部屋でロマンと芒に黒煙峡での出来事を話していた。

( ФωФ) 「驚いたであるな。碑文ではなく本人がいたと」

(´・ω・`) 「しかもとんでもない設備を作って、ね。
       何がどうなってるのかさっぱりわからなかった」

( ФωФ) 「是非とも行ってみたいものである」

もし許されるなら、僕だってゆっくり見学させてもらいたかった。
長居をするつもりはなかったけれど、頼んでも認めてくれなかったに違いない。

135 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:05:22 ID:97ESyuuc0

/ ゚、。 / 「それで、どうすればいいのでしょうか」

芒が話を本筋に戻す。
錬金術師である僕とロマンにとっては宝の山である浮遊館の情報も、
彼女にとってはさほど重要なものではない。
二度とたどり着くことのできないであろう夢の世界についてずっと話していても仕方がないので、芒の質問に答える。

(´・ω・`) 「まずは代役を探さないといけない。ポルタツィアの呼び出し方も考えないと。
       適当な場所で突然呼び出すわけにもいかないし……」

そんなことをすればどうなるか。
運が良くても五体満足ではいられないかもしれない。

かといって大和の儀式を利用するのにはもっと無理がある。
大勢の目の前で突然の引継ぎを行っても、納得はしてもらえないだろう。

( ФωФ) 「あてがないのである」

/ ゚、。 / 「うん……」

頭を突き合わせて悩んでいても、答えは出なかった。
神州の巫女と言う特別な立場を受け入れてくれて、なおかつ民衆の否定を受けない人物。
そんな人間が身近にはいない。

136 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:06:25 ID:97ESyuuc0

( ФωФ) 「どん詰まりであるな」

神州における巫女の立場は、決して軽くない。
重要な祭典には必ず参加しなければならず、一月に一回、ポルタツィアの言葉を聞く儀式もある。
おいそれと城下に降りることは出来ず、食事や衣服、果ては生涯の相手すらも与えられる。
そのような生活をよしとする人間はそうはいない。
だが、それでも。

(´・ω・`) 「浮遊館の情報は伝えた」

興味が無いわけではなかった。浮いている島に存在する館そのものに。
場所を教えてもらったことで簡単にたどり着くことができたし、
予想以上のものも多く見れた。

でも、二人にとってのこれからは、僕には関係ない。
依頼は完遂した。

ロマンが言っていたように、これは交換条件なのだから。
浮遊館の調査情報と、リリの居場所の。
対価を要求することを責められる謂れはない。

( ФωФ) 「うむ……いいだろう。引継ぎの方法が分かっただけでも、充分である」

137 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:07:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「リリは何処にいる?」

( ФωФ) 「吾輩が見つけたのは、その娘が見つかった場所である。
         複合錬金術を利用した三十年前の世界調査の最中であった」

(´・ω・`) 「世界調査……」

( ФωФ) 「記録用の錬金術を生体強化した鶫に乗せ放てば、丁度一年後世界中を回って帰ってくる。
         ただし百羽放っても戻ってくるのは七、八羽である。そのうちの一羽が、
         氷に閉じ込められた少女を見ていたようである。
         方角と経過時間的には、大陸中央の最北端付近であろうな」

氷の大地と呼ばれる、大陸最北端の国々。
彼女が身を投げた河からは相当な距離がある。

(´・ω・`) 「氷に閉じ込められていた?」

( ФωФ) 「そうだ。鮮明な映像ではなかったが、人間ではないと確信があった。
         普通、人間が海に落ちて氷漬けになって死んだとすれば、氷の圧力ででもっと醜く歪む。  
         だがその娘は、死んでいるとは思えないくらい綺麗な状態だったのである。
         運よく次の年も同じルートの鶫が帰って来たので確認したが、
         その娘の姿はなかった。氷が溶かされたか、それとも何者かの手によって移動されたかはわからないであるが」

138 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:08:53 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「それを見せてもらいたいんだけど」

( ФωФ) 「……説得はしてみるのである。三日後、昼過ぎ頃に門番に訪ねてみるがよい」

錬金術の研究結果は、他人に見せるものではない。
一国の研究機関ともなれば、なおさらだ。

(´・ω・`) 「そろそろ帰るよ」

出発してから三週間、劔には何の連絡もしていない。
どこかでのたれ死んでいると思われて、残してきた研究を捨てられても困る。

( ФωФ) 「うむ……」

/ ゚、。 / 「それじゃあね」

晴れない気持ちを胸に大和城を出る。
芒の問題が解決しなかったことが原因であることはわかっていたけれど、
どうしても優先しなければならないことがある。

すっかり暗くなって、道端には誰も歩いていない。
どこの家も明かりが消えており、すっかり寝静まった夜の城下街を歩く。

139 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:10:33 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「起きてるのか……」

予想に反してまだ明かりのついていた劔錬金術店。
その扉を叩くとしばらくして出てきた大柄な店主は、驚きながらも中に入れてくれた。

「死んだのかと思ってたよ」

(´・ω・`) 「何とか無事でした」

「まぁいいさ。それで、どうだったんだい」

(´・ω・`) 「浮遊館は見つからなかったです」

真実を伝えたところで悪戯に犠牲者を増やすだけであろう。
この旅であったことは、最初から話さないと決めていた。

「ほらね、言ったろう。まぁほんと、良く生きて帰ったよ。今日はゆっくり休みな。
 なにか採って来たんなら、処理しといてあげるよ」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

いつになく優しい劔の言葉に甘え、旅の帰り道でとってきた素材を全て渡して横になった。
徒労にはならなかったとは言え、達成感は無い。
不安そうな芒の表情が目を瞑る度に思い出された。

三日後、もし大和城で見せてもらえたものがリリであったら、すぐに神州を発とう。
ポルタツィアの巫女に関する事実は余すところなく伝えたし、
ロマンがいれば、計画を実行することもできる。

久しぶりの柔らかいベッドの上で、つらつらと考え事をしているうちに寝てしまった。

140 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:11:04 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「それ、混ぜてから持ってきて」

(´・ω・`) 「はい」

陽鼠の粉末と、八咫烏の粉末を言われた通りに混ぜた後渡す。
浮遊館から帰ってきてから三日間、付きっ切りで劔の錬金術を手伝っていた。
僕が出かけている間に注文が相次いだらしく、珍しく納期に追われているのだそうだ。

そのおかげで僕が帰って来た時もまだ研究室にいたのだという。
ロマンとの約束は昼過ぎであったが、朝から手伝いをしているうちにもう目前まで迫っていた。
劔が忙しそうに錬成をしているせいでなかなか言い出せず、
今もこうして流されるままに錬金術を手伝っている。

(;´・ω・`) 「あの……」

「次、そっちの棚から活力草と鋸草」

(´・ω・`) 「はい」

141 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:12:03 ID:97ESyuuc0

大柄なからに似合わず、劔の調合は繊細だ。
目分量で投入することは決してなく、きっちり量っている。

完成する錬金術にしても評判が高いのも納得の出来だ。
しばらく錬金術の手伝いをしていたおかげで、遠隔錬金術の複雑な工程も大凡理解できた。
神州の素材あっての錬金術であり、西方の国で再現するのは難しそうだが。

(´・ω・`) 「劔」

「なんだい、あ、其れ持ってきな」

言われたものを手渡す。

(´・ω・`) 「用があるので出かけてきます」

「この糞忙しいときにかい?」

劔は錬金術の調合を続けたまま、振り向かない。
了承の代わりに飛んできた指示に従って、素材を棚から降ろして机の上に並べた。

「いいよ、好きにしな。出来るだけ早く戻って来なよ」

(´・ω・`) 「……すいません、ありがとうございます」

142 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:13:13 ID:97ESyuuc0

頭を下げ、研究室の扉を出た。
騒がしい扉向こうとは対照的に、店の中には誰もおらず静けさを保っている。

商品の受け渡しをする机に貼られた夥しい数のメモを見れば、相当な量の依頼を引き受けているのだとわかる。
一人で処理しきれる量ではない。
僕をあてにしてくれていたのだろう。
頼られるのはうれしいが、今はそれどころではない。

恩を仇で返す結果になってしまうかもしれないが、戻ってくるかどうかはわからない。
大和城で氷漬けの少女の情報を見せてもらえれば、もう神州にとどまる理由は無いのだから。

来客に気付くための鈴の音を店内に残し、僕は大和城に向かった。
劔の研究所から歩いてもさほど時間がかかる距離ではない。
それでも、早足になってしまっている自分に気付いていた。

門番の内一人は、僕が話しかける前に声をかけてきた。

「錬金術師のショボン殿とお見受けしますが」

(´・ω・`) 「そうです」

「よかった、来られないのかと思いました」

143 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:14:12 ID:97ESyuuc0

「お待ちしておりました。最上階にて芒様とロマン様がお待ちです」

(´・ω・`) 「どうもありがとうございます」

二人の門番に礼を言い、門をくぐった。
入るのは初めてではないけれど、それを気取られない様に辺りを見回しながら歩く。
城内に入ってからは、階段を一気に駆け上った。

階段の途中、何かを運んでいる女性とぶつかりかけながら、
躓き、転びそうになりながら。息を切らせて上りきった。

( ФωФ) 「そう焦らんでも逃げはしないのである」

(;´・ω・`) 「すまない……」

/ ゚、。 / 「何とか許可をもらいました。これがそうです」

芒から受取ったのは一枚の紙切れ。
それは鮮明に描写された絵画のようであった。

吹雪に覆われた白い大地の中心に、巨大な水晶の如き氷。
その中に一日とて忘れたことはない少女が、当時の姿そのままで閉じ込められていた。
見間違えることはない。

その少女はリルケット・リファリア。

144 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:15:53 ID:97ESyuuc0

不死の身体に人間の心を持つ少女。

(´・ω・`) 「間違いない……」

その傍にはあまり見たことのない形の雪像があった。
人間のような外見でありながら、腕が左右に三本ずつで合計六本。
その背からは地面にまで細長い縄のようなものが無数に垂れ下がっている。。
おまけに顔に当たる部分にあるのは巨大な一つの瞳。

( ФωФ) 「北方の神話に現れる獣の姿を模したものであるな。
         付近に住む人間が氷漬けの彼女をなにかと勘違いしたのであろう」

(´・ω・`) 「すぐに行かせてもらう」

( ФωФ) 「……もう一つ伝えねばならんことがある。
         現在、この神州を出ることは叶わぬ」

(´・ω・`) 「どういうことだ」

今日が無ければ明日、明日が無ければ明後日。
もし氷漬けの少女がリリであったなら、最も早い便で華国に戻ると決めていた。

145 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:16:42 ID:97ESyuuc0

/ ゚、。 / 「昨日、華国行の船が何者かの襲撃を受けたのです。
       船員は皆無事でしたが、誰一人として何が起きたのか正確に理解していませんでした。
       辛うじて、錬金術のようなものが使われたということだけが分かっています」

( ФωФ) 「もう一つ、襲撃者は不死者を出せと要求してきたようである」

(´・ω・`) 「不死者……」

( ФωФ) 「今この神州にいる不死者は桜を除けばおぬしだけであろう。
         桜の存在を知る者は吾輩達以外にはおらぬ故、おぬしが目的であるとみて間違いない」

身柄を差し出せと言われるようなことは身に覚えがない。
特に近年は割とおとなしくしていた自覚もある。

(´・ω・`) 「……取り敢えず、会ってみるさ」

( ФωФ) 「行くのか?」

(´・ω・`) 「どうせ神州を離れるつもりだったんだ。丁度いいさ。船さえあるなら……」

( ФωФ) 「吾輩が用意してやる。ただし、その面倒事も一緒に片付けてもらいたい」

華国への定期便が止まっているのであれば、ロマンの提案に乗らざるを得ない。

146 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:17:09 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「すぐに出発できるか」

( ФωФ) 「ふむ、芒」

/ ゚、。 / 「はい! 何ですか?」

( ФωФ) 「錬金船を一隻貸し出すのである。準備を」

/ ゚、。 / 「わかりました! ちょっと待っててくださいー」

少女は慌ただしく部屋を飛び出していく。
残された僕は、おとなしく座って待っているつもりだった。
気が変わったのは、目の前にある外套が改めて視界に入ったから。

(´・ω・`) 「気になってたんだけど、どういう構造なんだ」

( ФωФ) 「む……」

飾られている外套は、自らの力で動くことは出来ない。
僕が近寄ったところで、別に危険性は無いだろう。
シルクのように滑らかな肌触りでいて、容易に綻びない様な厚手の生地。
複雑な錬金術が織り込まれているせいか、見た目よりも重量がある。

( ФωФ) 「男に触られる趣味は無いのである。さっさとその手を離せ」

147 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:17:43 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「感覚はあるのか?」

( ФωФ) 「……無い。あるわけが無かろう。一体どれほど苦労してこの布を作ったと思っておる」

(´・ω・`) 「そうだ、それで聞きたいことがあったのを思い出した。
       番人が護っている錬金術は自分たちで作ったものなのか?」

( ФωФ) 「そうである。想心錬金術師のディートリンデは過去を遡る想起の鈴、
         金属錬金術師のサスガ双子は成形銀に錬金術効果を上乗せする濫觴の双珠、
         空間錬金術師のキツネは、精神を無理やり引き寄せる夢幻の扇、
         複合錬金術師の吾輩は、強化外套拾参式」

古代錬金術の遺品。
そのどれもが特定の分野において極端な性能を誇っている。
桜の浮遊館には見劣りするが、僕では錬成不可能な品々。

(´・ω・`) 「しかし、拾参式って……」

( ФωФ) 「吾輩がこの外套に詰め込んだ錬金術の数である。
         残念ながら、詰め込みすぎたせいで一つ一つのパフォーマンスは若干劣ってしまったのだが」

(;´・ω・`) 「十三も……」

148 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:19:09 ID:97ESyuuc0

僕ができるのはせいぜい五つ程度。
それも数十年かけて研究して、だ。

( ФωФ) 「なんだ、紹介してほしいのであるか」

(´・ω・`) 「……興味が無いと言えば嘘になるよ。その提案に乗るのは口惜しいけどね」

( ФωФ) 「可愛げのない奴である」

(´・ω・`) 「そんなものは無くて結構」

芒が戻ってくるまではどうせ動くこともできない。
強化外套の錬金術を教えてもらえるのであれば、ぜひお願いしたいところだ。

( ФωФ) 「着てみるがよい」

かけてある強化外套に両腕を通す。

芒のサイズで飾っていたため小さいかと思っていたが、腕を片方通した時に僕に丁度の大きさになった。
先程まで聞こえていた声は、頭の中に直接響く。

149 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:19:47 ID:97ESyuuc0

確かに外套が勝手に喋るのでは不便だ。
それに対する返答も頭の中で返せばいいようだ。おかげで独り言をつぶやく変な奴にはならなくて済む。

( ФωФ) 「強化外套の錬金術、内心話。外套を身に纏ったものであれば、声を発することなく会話できる」

(´・ω・`) 「身体が軽い……?」

( ФωФ) 「強化身、体の構造が丈夫になるのである。基礎能力の上昇値は大体三倍から十五倍。
         子供も大人も最終地点はほぼ同じである」

出会い頭で僕が芒に抑え込まれたのはこの力のせいか。
抵抗できない程ではなかったにしろ、勢いに負けてそのまま連れ去られてしまった。
動揺で反応が遅れてしまったせいとするのは言い訳だろう。

( ФωФ) 「外套それ自体を使用者がある程度自在に動かせる、操作翼。
         合わせて、外套に伸縮自在性を与えておる。それが伸縮布である。         
         包み込んだものを抑え込む封檻獄。おぬしを捕まえた時のであるな。
         無抵抗の生き物であれば、多少の間捕らえておくことができる」

(´・ω・`) 「なんだ、抵抗すれば脱出は簡単だったのか」

( ФωФ) 「もともとの用途は輸送用である。動物を捕獲しておくことは考慮しておらんのでな」

150 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:20:19 ID:97ESyuuc0

/ ゚、。 / 「戻りました……ってあれ? 二人とも何処にいるんです?」

(´・ω・`) 「え?」

( ФωФ) 「今の吾輩達の姿は限りなく見えにくくなっておる。透過影は数分ともたないがな」

/ ゚、。 / 「ロマン、びっくりしました。そこにいたのですね」

( ФωФ) 「すまぬ。準備は出来たであるか?」

/ ゚、。 / 「もう用意してくれていると思います。少ししたら港に来てくれって言われましたから」

( ФωФ) 「そうであるか。さて、ショボン」

(´・ω・`) 「ああ」

強化外套を芒に返す。
両腕が隠れきってしまうほどの大きさだったそれは、みるみる縮み少女にぴったりのサイズになった。

151 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:22:17 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「世話になった」

/ ゚、。 / 「いえ、こちらこそありがとうございました」

(´・ω・`) 「礼を言われるようなことは何も……」

/ ゚、。 / 「いえ、浮遊館を調べていただいたおかげで、チャンスをもらえました。
        これが船の場所までの地図です」

(´・ω・`) 「ありがとう。……うまくいくことを祈ってる。それじゃ」

/ ゚、。 / 「お元気で」

一人と一つに見送られ、大和城から真っ直ぐ港へ向かう。
劔に一言でも伝えておこうかと考えたけれど、やめておくことにした。
彼女は今忙しいであろうし、どうせ顔を出しても手助けすることは出来ない。

港までの距離は随分近く感じた。
地図に示された場所に着いた時、目の前にあったのは岸に結ばれた一隻の船。
中に積み込まれているのは日持ちする食料と柔らかな毛布。
ご丁寧にショボン様へ、と書かれた立て看板まであった。

日除け用の屋根がついた帆のない形状は、ジョルジュのものとは似て非なる船。
後部には錬金術で創られた推進用の回転羽根が二つ。
メモ書きの通りに船室で二、三の動作を行ったところ、船はゆっくり動き始めた。

白い波を作り、蒼の海を割いて進む。
神州を離れ、華国に戻るために。

152 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:23:06 ID:97ESyuuc0
















31 少女への手掛かり  End


154 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:27:10 ID:97ESyuuc0
   【時系列】

0 記録 → 0 記憶
   ↑
   ↓
22 アタラシキイノチ 誕生編
23 フシノヤマイ
24 テニイレタキセキ
25 シズカナムクロ
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです 少女編
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末
   |
17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
19 ホムンクルスと戦禍の傷跡
20 ホムンクルスと不在の代償
21 ホムンクルスと戦争の終結
   |

155 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/19(火) 23:27:39 ID:97ESyuuc0
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   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです
   │
   │
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり



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