(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
228 名前:名無しさん 投稿日:2016/07/21(木) 22:02:54 ID:Ua0yhxCg0















33 大空を舞う翼

229 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:04:19 ID:Ua0yhxCg0

(; ^ω^) 「疲れたお……」

(;´・ω・`) 「流石に……しんどいね……」

見下ろせば雲が見えるほどに高い山道を僕とブーンは歩いていた。
華国を出発してからもう何十日と経ったか。

延々と続くブーンの愚痴を無視しながら海岸線に沿って南下していたが、
途中でルートを変更せざるを得なくなった。
結果、こうして山に登っているわけである。

(; ^ω^) 「きゅ……休憩を……」

(;´・ω・`) 「しょうがないな……」

この数日間は、いつ終わるとも知れない山岳地帯が目の前にあり続けた。
腰を下ろすのにちょうどいい岩を見つけ、荷物を地面に置く。
肩が少しばかり軽くなったところで、両手を真上にあげて伸ばした。

( ^ω^) 「ふぃー……あと何日続くんだお、この山道」

隣で道に身体を投げ出していたブーンが空を見上げながら問いを投げかけてきた。

230 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:05:37 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「さぁね。一週間くらいじゃないのか」

地図を見もせずに適当に答えた。
標高の高さ故か、今日もまた晴れている空。
それ自体はありがたいことなのだが、そのせいで十分に用意してきたはずの水分も尽きかけていた。

貴重な水をブーンは全く躊躇わずに飲み干す。
水分が喉を通る小気味のいい音が、僕の堪忍袋をキリキリと締め上げる。

(´-ω-`) 「ブーン……山を下りるまで雨が降らなかったらどうするつもりだ?」

( ^ω^) 「まだショボンのが半分以上残ってるはずだお」

(´・ω・`) 「僕は今お前をこの下に突き落として口減らしするか考えているところだから、
       もう少し考えて発言したほうが良いんじゃないか」

(; ^ω^) 「お……顔が本気だお……」

水だけじゃない。食料だって想定よりも二倍近いペースで減っている。
このままじゃ次の街までサバイバル生活しないといけない。
捕まえられるような生き物がいるような場所ならどれだけよかったか。

231 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:08:37 ID:Ua0yhxCg0

辺りを見回しても何もない。
植物すらほとんど生えていないこの場所で、食料と水が無くなったらと思うと肝が冷える。
そもそも当初のルートで大規模な崩落が起きてなければ、僕らは今頃目的地にもっと近づいていただろう。
自然現象に文句を言っても仕方がないのはわかっているが、タイミングの悪さに溜息が出る。

( -ω-) 「こうしてると眠たくなってくるおね」

(´・ω・`) 「そのまま永眠してくれても構わないが」

( ^ω^) 「おー……空が近いおね」

ブーンは背中から倒れ込み、真上を見上げる。
雲が足元にあるせいで、頭上にあるのは絵の具をこぼしたかのような真っ青な空。
太陽の光がやけに強く感じられるのも気のせいではない。

そのせいなのか気温は少々高めである。
標高がどれだけあるかは知らないが、冷え込んでくる季節はもう目と鼻の先なはずだ。
お湯の上を歩いているかのような安心感が、逆に不安となって心に押し寄せていた。

(´・ω・`) 「ブーン……気づいてるか?」

( ^ω^) 「……この暖かさかお」

232 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:09:28 ID:Ua0yhxCg0

雪山を超えることも想定した重装備は、外気温によってその性質を変化させる錬金術の旅具。
予め設定していた温度よりも熱ければ風通しが良くなり、
寒ければ熱を逃がさないようになっている。

(´・ω・`) 「山脈それ自体が発熱してるんじゃないかな」

( ^ω^) 「わからんお。でも、そういう特殊な風土には特殊な生物が住みつくのが常だお。
        今のところそう言った様子もないし……」

通常には有り得ない様な環境が存在する時、
そこにはほぼ間違いなくその原因となる錬金術の素材か、
その恩恵を享受する生物か、そのどちらもが生息している。

錬金術師の間では常識であり、だからこそこの暖かい山脈にも何らかの種の住処となっているだろう。
こういった場所を好むのは大抵が危険な動植物であるが。

( ^ω^) 「さて、行くかお」

(´・ω・`) 「ブーンから言うなんて珍しいね。僕はてっきり声をかけるまで動かないかと思ってたよ」

( ^ω^) 「そこを越えたらそろそろ下りになってると思うんだお」

233 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:10:09 ID:Ua0yhxCg0

ブーンが指さした辺りはここらで一番高く、その向こう側は見えない。
シュールの地図と照らし合わせてみても、山脈の中間地点は近かった。

(´・ω・`) 「よっし」

( ^ω^) 「ふっー……ショボン、そう言えば出発前に何を作ってたんだお」

(´・ω・`) 「あー色々。例えばこれとか」

僕はジョルジュに頼み、研究室をブーンと周にそれぞれ一部屋ずつ貸してもらった。
最初の日に旅に最低限必要なものの意見を出し合い、残りの期間は全て錬金術につぎ込んだ。

寒冷地でも温暖地でも使えるマントに、軽くて丈夫な靴、
服は長旅でも汚れにくい特別な素材。
身の回りの最低限の品から、テンヴェイラを捕らえるための特殊な錬金術まで。

余った時間を使って創り出したのは道中で役に立ちそうな道具。

艶やかな球体は握りこぶしよりも幾らか大きいほどで、掌の上で鈍色に光る。
その錬金術を説明するために、継ぎ目のない球体から一本だけ零れている極細の糸を引く。

234 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:11:45 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「お!?」

(´・ω・`) 「強靭な糸は役に立つからね。でも持ち運ぶには不便だし、絡まってしまえば役に立たない」

( ^ω^) 「どうなってんだお、これ」

引けば引くだけ糸が足元に折り重なっていく。
球体は失われた体積分だけ小さくなった。

(´・ω・`) 「合金なんだ。球形でしか存在していない無端銅と延性が最も高い鎖状鉛を特定条件下で混ぜ合わせた」

( ^ω^) 「よくそんなこと思いつくおね」

(´・ω・`) 「欲しいと思ったから作った。錬金術師らしいだろ?」

( ^ω^) 「それで、それはどうするんだお」

垂れ下がった細い糸を指さすブーン。
僕は腰に結んだ剣を僅かに持ち上げて、切り離した。

(´・ω・`) 「この通り、一度引き出してしまったら元の球形には出来ないんだけどね」

235 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:12:34 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「強度は落ちるけど、水分を幾らか足したらいけるかお?
        純水よりは金剛水のほうが良いかお」

(´・ω・`) 「それはありだな。次の機会に早速やってみる。ブーンも何か作ったんだろ」

( ^ω^) 「あんまり役には立たないかもしれないけど、いろいろ作ってみたお」

ブーンの背負う荷物は僕のものよりも二倍近い。
出来るだけ荷物を減らそうとした僕とは違い、たぶん思いつくもの全てを実行して持ってきたのだろう。

(´・ω・`) 「例えば?」

( ^ω^) 「うーん、ちょっと探すの面倒だから取り出さないけど、
        昔、朱天っていう武器を持っていた武器錬金術師の事を覚えているかお?」

(´・ω・`) 「……ハートクラフトか」

( ^ω^) 「あれの毒に似たものを創ってみたお。生き物を泥酔状態にする毒。
        他にも、再生する布や溶かすことで液体の温度を極端に落とす粉末、
        想定している毒をすべて無効化する多機能解毒薬、衝撃を与えると発光する棒状の金属」

(;´・ω・`) 「手当たり次第作ってるな……」

236 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:13:56 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「何が役に立つかわからんお。使い道がなければ後で捨てるなり売るなりすればいいし」

(´・ω・`) 「それだけ重い荷物を背負ってるから疲れるんだよ」

( ^ω^) 「かもしれなけど、準備万端に越したことはないお。ほら、もうすぐ頂上だお」

視界を塞いでいた峰を超えると、遥か下方まで雲一つなく澄み渡った世界が広がっていた。
緩やかな下り坂が山々の合間を抜けて伸びている。
そのどれを通っても目的の場所に近づけるはずだった。

しかし、僕らの足は止まったまま前に進まない。
喜ぶべき事態に覆いかぶさって来たのは、不穏な影。
現状を理解した僕らの口をついて出てきたのは全く同じ言葉だった。

(;´・ω・`) 「まずいな……」

(; ^ω^) 「まずいおね……」

僕らが立っている道を下って行った先にある峰に、幾つもの巣があった。
大木と言って差し支えない樹木を寄せ集め、その中心に二つ三つの卵がある簡素な巣。
卵の大きさは人間ほどもあり、既に雛が生まれ囀っているところもあった。

(;´・ω・`) 「初めて見た……」

237 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:15:20 ID:Ua0yhxCg0

その鳥の名前は多くの人間が知っている。
人類の敵にして、空を統べる王たる生物。

(; ^ω^) 「厄介だおね……」

七大災厄と呼ばれる種は生物という枠組みを超えた存在であり、お互いに干渉しあうことはほとんどない。
それぞれが自らの境界を理解しており、交わることがないからだ。
それら七つの生物種の中で最強を論ずる意味はない。

彼らが互いに全力で戦い合えば、人類はいとも容易く滅び、この世界は無になる。
それぞれが僕らの理解の範疇を超える規格外の性能を持つためだ。

それはもはや神と形容しても問題ないほどに。


それとは別に、生物としての最強は確かにこの世界に君臨している。
過去、あらゆる時代において版図を争ってきた五種類の生物達。


五つの種の中でもっとも繁栄し、最も広大な地で活動するのは僕ら人間。
原初は木の棒や尖った石などの道具を用い、近年は錬金術を用いて戦う。
単体では最弱であるものの、その知恵で生き残って来た。

238 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:16:15 ID:Ua0yhxCg0

反対に、この生物は七大災厄を除き単体で世界最強。
空を自由自在に舞う機動力と、岩をも削り取る頑強な爪。
翼は鋼のように固く、柳のようにしなやかで軽い。


荒天鷲。


幾度となく人類と争ってきた仇敵。
眼下に見えるのはその住処であった。

( ^ω^) 「この山の暖かい温度が孵化に最適なんだおね」

(´・ω・`) 「どうする?」

下に道は全ていずれかの巣の横を通らなければならない。
今目に見える範囲には一羽だけ、見張りの親鳥がその翼を休めていた。

( ^ω^) 「巣の数からして少なくても十近くのつがい。多く見積もっても全部で三十羽くらいかお」

(´・ω・`) 「避けて通るに越したことはないけど、陽が落ちてからだと難しいだろうね」

夜目が効く相手に対して、こちらは灯りが無ければ手元を確認することもできない。

239 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:16:38 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「今日できるだけ近づいて、明日の朝から昼にかけて、見張り以外の親鳥がいないうちに突破しよう」

( ^ω^) 「了解だお」

転げ落ちないように気を付けながら、細い山道を下りる。
ゆっくりと日が沈みだし、羽搏く音が遠くから聞こえ始めた。

一羽、また一羽と巣に戻ってきては体を丸めて眠っていく。
完全に陽が沈むまでに数えられたのは二十五羽。
その後もしばらく羽音は続き、付近が無音に包まれたのは夜も更けた頃だった。



・  ・  ・  ・  ・  ・



( ^ω^) 「ショボン……あれ……」

異変に最初に気付いたのはブーンだった。
陽が昇る前には荒天鷲の群れが東の空へと飛び立っていき、巣の中に残っていたのは昨日とは異なる一羽。
僕らが巣の間を抜けようとしていた時、一つ向こうの巣の方から小さな話し声が聞こえた。

240 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:18:15 ID:Ua0yhxCg0

隠れて様子を窺っていると、少しずつ卵が巣の外へと動いていく。
見張りの一羽はその変化には気づいていない。

妙な装束で全身を覆った集団は、大きく重たい荒天鷲の卵を巣の外へと運び出した。

(;´・ω・`) 「何してるんだ……死にたいのか……」

天を劈く鳴き声が、明確な殺意を伴って山頂付近を吹き抜けた。

(;´・ω・`) 「隠れろっ!」

(; ^ω^) 「おっ!」

ただ通りすがっただけで盗人と判断されてはたまらない。
頭上から降り注いだ荒天鷲にとって小さな欠片は、人間にとって一つ一つが致命な威力を誇る。
卵を盗んでいた連中がただの人間であったなら、肉片へと変わっていただろう。

拡がる土埃を吸い込まない様に口元を抑え、ただじっと潜んで耐える。
岩石の霰は止み、敵の様子を窺いながら荒天鷲は上空を旋回していた。

( ^ω^) 「生きてる人はいるかお……?」

241 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:18:59 ID:Ua0yhxCg0

(´-ω-`) 「助かるわけがない……」

確認しようと巣の端から顔を出したのと、空からどろりとした液体が落ちてきたのは全くの同時だった。

(;´・ω・`) 「っ!?」

僕らも気づかれたのかと思い焦って顔を引くが、二つ三つと続いて落ちてきたその正体はすぐにわかった。
地面に零れ、その温度のあまり白い煙を立ち昇らせているのは、荒天鷲の血液。

(; ^ω^) 「……信じられんお」

一際大きな塊が地面に落下し、そのまま動くことをやめた。
全身を貫かれ血みどろに染まった荒天鷲の死体。

(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

現存する生物の中で頂点に位置すると言われているその鳥を、ただの一瞬で殺したことも。
その傷ついた身体を蟻のように分解し、素材として分けていく手際の良さも。
普通の人間でありえないなら、答えは一つしかない。

(;´・ω・`) 「……っ! 錬金術か……」

242 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:20:47 ID:Ua0yhxCg0

遥か上空にいる相手に対して、それも最高峰の種を屠る威力の錬金術。
仮に人間同士の争いで使用されれば、甚大な被害は免れ得ない

( ^ω^) 「ショボン、作れるかお?」

(´・ω・`) 「出来るけど……」

素材もある。知識もある。それでも簡単じゃない。
これ程の威力がある危険物を、人間の錬金術師が生み出した可能性があるという事。
素直に錬金術の進歩と喜んでいいわけがない。

( ^ω^) 「卵が……」

(´・ω・`) 「……もう帰ってきてる」

威嚇ではなく、警告。
先程の見張りの一声は、万が一の時のために仲間を呼んでいたもの。

(´・ω・`) 「ブーン、もう少し奥に隠れていよう」

正直に言えば状況を確認していたいが、巻き込まれるのはごめんだ。
テンヴェイラ捕獲用の装備を失くしてしまうわけにもいかない。

243 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:21:42 ID:Ua0yhxCg0

(; ^ω^) 「っ……」

荒天鷲すら殺し得る錬金術を持っていながら、わざわざ朝方の時間帯を狙った理由は一つ。
大軍に対応することができないか、殺し尽してしまうわけにはいかないかのどちらか。
前者であるということは悲鳴と叫び声ですぐに確認できた。

嵐が通り過ぎるのを巣の影に隠れて待つ。
三十分と経たずに、山頂には再び平穏が訪れた。

(;´・ω・`) 「厄介なことになったな……」

(; ^ω^) 「だおね……」

可能な限りの小声でブーンと話す。
僕らが隠れている巣に親鳥が戻ってきて動かない。
辛うじて見つかっていないようだが、もはや時間の問題だろう。

( ^ω^) 「餌を取りに行くのやめたのかお……?」

(´-ω-`) 「いや……」

否定の先を続けるのは躊躇われた。
ブーンも薄々と勘づいている。
荒天鷲は肉食であるし、必要のない狩りは行わない。

244 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:23:18 ID:Ua0yhxCg0

巣の数に対して二倍の親鳥がいると仮定すれば、犠牲者の数は三十を超えているはずだ。
極力聴覚を意識しないように心掛ける。

(´・ω・`) 「今は僕らよりも荒天鷲の方がよく見えるだろうね」

( ^ω^) 「陽が昇るまでこの状態かお……」

ごつごつとした岩肌は皮膚に食い込み、すぐ真上に荒天鷲がいる中で後数時間は過ごさないといけない。
地面が暖かいお陰で凍えることがないのが唯一の救いだ。

(´・ω・`) 「何だと思う?」

( ^ω^) 「わからんお。でも、戦闘経験は無さそうだお」

統率された一部隊であれば、荒天鷲が戻って来始めた時、すぐに退避に専念したはずだ。
半端な抵抗は相手の怒りしか買わず、全滅と言う最悪の結果を迎えてしまった。

戦闘に関しては恐らくほぼ素人。
だけど、空を飛んでいる荒天鷲を撃ち落とせるだけの錬金術の扱い方を心得ている人間。
それは錬金術師以外にありえない。

集団の全員がそうとは限らないが、落ちてきた死体の様子から見れば最低でも二、三人はいる。

245 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:24:48 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「そもそも連中はなんで荒天鷲の卵を盗もうとしてたんだ」

( ^ω^) 「わからんお。荒天鷲の卵って何か用途があったかお」

(´・ω・`) 「いや……」

希少な素材であるが故に過去を遡ってもほとんど研究の資料がない。
錬金術師達の行動原理は様々だが、幾つかの目標が存在する。

誰も知らないものを研究し、その特性や効果を明確にすることはそのうちの一つ。
荒天鷲の卵であれば、世の多くの錬金術師からはその功績を認められることだろう。

だけど、複数人の錬金術師が集まって共同研究する理由にしては弱すぎる。
素材を手に入れるまでの過程の方が難しい今回の場合には、当てはまらない。

( ^ω^) 「最近、錬金術師が集まって研究することが増えてきたんだお。
        セント領主家の事件の後くらいから、明確に」

(´・ω・`) 「共同研究か……メリットはあると思うけど……」

( ^ω^) 「僕らからしたら理解しがたいおね。結構成果も出してたけど。
        新たな研究員の募集とか発表内容が錬金術師の雑誌に載ってるお。
        十人を超える規模の集団も幾つかはあるんじゃないかな」

246 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:25:42 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「あの時みたいな研究はしてないだろうな……」

錬金術師が皆、常識を持っていて善意で研究しているわけではない。
悪用しようとする者は少なからずいるし、それに同調して金を稼ごうとする者もいる。
そういった術師達が作った集団がセント領主家という厄介な隠れ蓑を得て、
その行動原理のために戦争の引き金となった。

( ^ω^) 「もしやっているとしても表立って動いてはいないからわからんお。
        不老不死の研究をしましょう、なんて呼びかけがあったら妨害しにいくんだけどね」

(;´・ω・`) 「それもそうだな。っつつ……身体が痛くなってきた」

(; ^ω^) 「僕はだいぶ前からだお……」

僕よりも体重の重いブーンの方が岩肌が食い込むのだろうか。
それとも脂肪があるから幾分楽なのだろうか。
その辺ははっきりとわからないが、出来れば両手両足を伸ばしてゆっくりできる場所に移動したい。

頭上の荒天鷲は先ほどから毛づくろいするだけだ。
既に諦めつつあるが、この体勢もかなりきつい。

(´・ω・`) 「ブーン、そっち側の端からどこか隠れられそうな場所は見えるか」

( ^ω^) 「ちょっと待ってくれお」

247 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:26:22 ID:Ua0yhxCg0

音を立てないように地面を張って進む。
巣の外周を回って、僕とは反対側へ。

( ^ω^) 「ショボン……」

戻ってきたブーンは明らかに狼狽えている様子だった

(´・ω・`) 「なんだ」

(; ^ω^) 「人が……まだ生きてるお……」

(´・ω・`) 「さっきの連中か……」

(; ^ω^) 「うん」

少しだけ顔を出して一つ向こうに見える巣の辺りを探すが、こちらからは見えない。
地形が変わるレベルで降り注いだ岩石のせいで、生きている人間なんて最初からいないと思い込んでいた。

(; ^ω^) 「助けに行けないかお……?」

(´・ω・`) 「無理だ」

248 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:27:12 ID:Ua0yhxCg0

依然として荒天鷲の半数以上が巣に残っているし、
準備もなしにその視線を掻い潜ることなんてできるわけがない。

(; ^ω^) 「でも……」

(´・ω・`) 「どういう状態なんだ」

動けるようなかすり傷程度であれば、とっくに逃げているはずだ。
未だにあの場にとどまっているということは、身動きすら取れないような重傷だろう。
仮に食料となる未来から助けることができたとしても、今の僕らじゃ傷を手当てすることができない。
長旅の準備をしてきたとはいえ、傷薬は一切持ち込んでないのだ。

( ^ω^) 「ここから見えるだけだと……片足が潰されてるお。後、頭からも血が出てる。
        あのままじゃ……」

(´-ω-`) 「ブーン、頼む。諦めてくれ」

( -ω-) 「……」

生きている命を失わせたくないという気持ちがわからないわけではない。
僕だって救うことができる命が目の前で消えそうならば、可能な限り力を尽くす。
けれどもどう考えたって、今この場でその人間を助けることは出来ない。

249 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:27:57 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「そうだ……!」

(´・ω・`) 「ブーン……? 何するつもりだ?」

持ってきた荷物の袋の中身を物色し、一つの黒い塊を取り出した。

( ^ω^) 「投げた方向へと動き続ける錬金術と光を乱反射する錬金術を仕込んでるお。
        これなら囮に……」

(´・ω・`) 「駄目だ。仮にそれに気づいたとしても空から見れば僕らの動きは丸わかりだ」

( ^ω^) 「お……」

(;´・ω・`) 「静かにっ……」

思わず口を塞いで息を止める。
頭上で響いた何かが割れるような音、次いでけたたましい鳴き声。

(´・ω・`) 「生まれたか……」

親の荒天鷲が盗人達の死体の辺りへと移動し、岩石の間から一つ掴んで戻って来た。
耳を塞いでも、それは聞こえてくる。
堅いものを砕き、柔らかいものを引きちぎる不快な音。

250 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:30:06 ID:Ua0yhxCg0

それは長く続かず、親鳥は不意に空へと羽搏いていった。
他の巣を護っていた荒天鷲も同様に上空へと舞い上がり旋回軌道をとる。

そのうちの一羽が同朋の亡骸を掴み持ち上げ、山脈の向こうへと運んでいく。

( ^ω^) 「今なら……っ!」

(´・ω・`) 「ブーン!!」

止める隙は無かった。
走り出したブーンが見つからないようにと願うだけで、僕は巣の影から動かない。
荒天鷲の群れ戻って来始めた時、ブーンは男を抱える様にして巣の影まで連れてきた。

ただでさえ狭い場所に人が増えたせいで、
身体が外から見えているんじゃないかと不安になる。

(´・ω・`) 「無茶を……」

( ^ω^) 「おー……大丈夫かお……?」

「っぅ……」

(´・ω・`) 「とりあえず止血しよう」

251 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:31:57 ID:Ua0yhxCg0

生憎包帯も持ってはいない。
少々もったいないが、錬金術で編み込んだ特別な布を割いて使うしかないだろう。
連れてきてしまったからには最善を尽くす。

( ^ω^) 「助かるかお……」

(´・ω・`) 「分かってると思うけど、今のままだと厳しい」

出血量は少なくないし、頭の傷は落石が掠った時のものだろう。
深くはないが脳にダメージを与えている可能性が高い。
傷口をきちんと消毒できなければ壊死してしまう恐れもある。

男の意識は現実と夢の境界線上を彷徨っているのだろう。
視線の先がゆらゆらと揺れている。

( ^ω^) 「しっかりするんだお」

(´・ω・`) 「やめろ、無理やり起こすな」

頭の上に荒天鷲が戻ってきた今、男が目を覚ました時に騒がれてしまってはたまらない。
いつ爆発するとも知れない危険物を、
わざわざ拾ってきてまで手元に置いているのだという自覚を持って欲しい。

252 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:33:08 ID:Ua0yhxCg0

「うぅ……」

厄介なことになった、とは言えない。
損得計算を抜きに考えれば、ブーンの行動を責めることは出来ないからだ。

(´・ω・`) 「この男を助けるためには、出来るだけ早く下山する必要がある」

荷物の中で折りたたまれた地図を最低限拡げ、向かう先にある村を探す。
山を下りた先に集落があると印がしてあるが、この地図が何年前に作られたものかはわからない。
今のところこの地図が正確だったのは、崩落する道の直前まで。

この山脈を登った時点でそのコースを外れてしまったわけで、
もはやこの先に何があるかを予想することは出来ない。

( ^ω^) 「山を下りるのにどのくらいかかるお?」

(´・ω・`) 「登って来たのと同じくらいはあるね。四日ないし五日くらいだろう」

( ^ω^) 「…………」

(´・ω・`) 「正直、もつかどうかって言われると……。置いて行くというつもりはないけどね」

( ^ω^) 「……すまんお」

253 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:35:10 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「いいさ、君のことはよくわかってる」

「っう……俺は……」

男が目を覚まし、起き上がろうとした肩を出来るだけ優しく支えて抑えた。
頭の下に置いた荷物を枕代わりにしていた体勢に押しとどめるために。

「あんたらは……」

(´・ω・`) 「静かに。あなたは取り敢えず助かった。だけどここはまだ荒天鷲の巣のすぐ真下だ。
       騒がれると見つかってしまう」

「っ……! 他の……仲間は……」

( -ω-) 「……」

ブーンが首を横に振った。
男は自らの境遇を理解したのだろう。
目を閉じて何かの文言を聞き取れないほどの小さな声で、繰り返し呟いていた。

「……足の感覚が全くない」

254 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:35:44 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「かなり深い傷だ。一応止血はしているが……」

「そうか……」

( ^ω^) 「聞きたいことがあるんだけど、いいかお」

「話していると気が紛れる。あんたらにも聞きたいことはあるが、助けてもらったんだ。
 そちらの後にしてもらって構わない」

( ^ω^) 「何の目的で荒天鷲の卵を狙ったんだお」

「クライアントからの依頼だ。研究費を相当額寄付してもらっていたからな」

( ^ω^) 「仲間は全員が錬金術師だったのかお」

「……そうだ」

二ケタ以上の錬金術師を抱えることが個人でできるとは思えない。
そうなれば必然、国家規模での後ろ盾が関わっている可能性がある。

255 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:36:18 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「最初の一匹を撃ち落としたあの錬金術も自分たちで創り出したのかお」

「……いや、あれに関してはクライアントがどこからか手に入れてきた設計図に従っただけだ。
 錬成に時間はかかるし、素材はどれも高価なものばかりだったからな。数本しか作れなかった。
 今になって思えば……準備にはもう少し金をかけておくべきだったな」

( ^ω^) 「貫通性能の高い弾を高速で射出する錬金術かお」

「……ここにいるってことは一部始終を見てたってことか。見てただけで仕組みまでわかるとはな。
 高名な錬金術師様だったりするのか……っつつ……」

(´・ω・`) 「あまり喋って体力を無駄に使わないほうが良い」

( ^ω^) 「そうだおね……ごめんだお。無理に答えてくれなくてもいいお」

「いや、話をさせてくれ。その方が痛みを忘れていられる」

( ^ω^) 「さっき言ってた聞きたいことってなんだお」

「あんたら二人……ただものじゃないと思ってな。
 こんなところに来てる時点で相当な変人だろ。山脈の危険地帯はここの荒天鷲の生息地だけじゃない」

256 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:38:27 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「僕らは別の道を使う予定だったんだけど、そっちが通れなかったから仕方なくね」

あの落盤事故さえなければ、こんな厄介な山脈頼まれたって来るつもりはない。
研究目的で自ら来ることはあるかもしれないけど。

 「あぁ……海岸沿いを南下してたのか……」

( ^ω^) 「知ってるのかお」

「三年くらい前に起きた地殻変動が原因だったはずだ。
 直接見たわけではないからどういった様子なのかは知らないが」

( ^ω^) 「広範囲にわたって陥没してて、徒歩じゃ危なくて歩けないお」

「そうか……」

男は話すことをやめ、自分のいる場所を首を動かしながら確認していた。

(´・ω・`) (まずいな……せめて下山だけでもできれば)

きつく縛ったはずの布は既に半分以上が赤く染まっている。
男の唇は紫色に、呼吸は浅く、肌は白く変色してきていた。
傷口は悪化の一途をたどり、体力は次第に失われていく。

257 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:40:53 ID:Ua0yhxCg0

よくもっても二、三時間程度だということはわかりきっていた。

( ^ω^) 「ショボン、無理やりにでも下りるしか……」

(´・ω・`) 「……」

時間が足りなかった。
苔くらいしか生えていない山岳地帯を抜けるのに、最低でも後四日。
天候やルートによっては五日以上。

仮に道なき道をとれば、足元に見える森にたどり着くまでにかかる時間は五分くらいか。
その衝撃に耐えられるわけもないので却下だが。

( ^ω^) 「さっきの紐をもったまま飛び降りて、森の中で傷口を塞ぐための植物を探すのはどうだお。
        それを先端に結んで引っ張れば……」

(´・ω・`) 「そんな長さはないし、どうやって荒天鷲の眼を潜り抜ける。
       空中じゃあどんなに錬金術を駆使しても勝ち目はない。
       最悪何処かわからないところに放り投げられるぞ」

(#-ω-) 「じゃあ……どうすればいいんだお……」

「なぁ」

( ^ω^) 「なんだお」

258 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:41:47 ID:Ua0yhxCg0

「一つ頼みを聞いてもらえないか。俺の故郷に持って帰ってほしいんだ」

男が胸元から取り外したのは、銀色の小さな板。
彫ってあるのは男の名前だろう。戦時に傭兵達が身に付けているものと似ていた。
ただ一つ違うとすれば、それが錬金術によって創られたものであるという事。

(´・ω・`) 「白狼銀・……」

「俺の自慢の一作だ……。別に大した価値はないが。家族にとっての報せになる」

(´・ω・`) 「それを確実に届ける約束はできない」

これから僕らが向かう場所を思えば、荷物が無事であると考える方が愚かだろう。
一歩踏み間違えれば身体ごと失ってしまうかもしれない地。
朱く煮えたぎる溶岩が河川の様に流れ出るギルン山脈では。

「別に……そもそも誰にも知られず朽ちてたかもしれないんだ。可能性が与えられたから縋っているだけだ」

( ^ω^) 「何処に住んでるんだお」

「城塞都市国家フラクツク。そこで暮らしている。そのプレートに書いてある住所で……。
 あんたらに会えてよかったよ。一人死んでいくことを覚悟してたからな」

(; ^ω^) 「諦めるなお……」

259 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:43:34 ID:Ua0yhxCg0

「あんたは変わった人だな。自分達も危険な状況にありながら、見ず知らずの俺を助けてくれるなんて。
 今後の……道中少しでも楽になればいいな……」

(; ^ω^) 「っ!!」

男はゆっくりと瞼を落とした。
問いかけても反応はなく、胸だけが静かに上下している。

(´・ω・`) 「ブーン……」

白銀狼を握り締めている手は微かに震えていた。
どこにぶつけることもできない怒りが、ほんの少しだけ零れ出てきていた。

(  ω ) 「わかってたお。わかってたんだお。こんな場所じゃまともに治療できないことは……」

(;´・ω・`) 「っ! 伏せろ!! ブーン!!」

突如として僕らが隠れていた巣の一部が吹き飛んだ。
掌よりも大きな瞳に睨まれ、身体が縛り付けられたかのように動かなかった。

(; ^ω^) 「やっ……べおっ……」

260 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:44:28 ID:Ua0yhxCg0

それはブーンも同様なようで、激しい風が目の前を吹き抜けた瞬間、その姿が視界から消えた。
数秒遅れて振り向けば、そこにあったのは右腕が千切れかけたブーンの姿。
背にしていた荷物を庇ったのだろう。咄嗟の判断にしてはよかったと一安心した時、僕もまた地面に転がっていた。

(;´メω・`) 「ぐ……ぎぃ……」

即座に被害を確認し、全身への命令を下す。
ただひたすら走るようにと。

(; ^ω^) 「ショボン! こっちだお!」

再生したブーンに呼ばれ、下り坂を走る。
異変に気付いた他の荒天鷲達が次々と上空へと飛び上がっていく。

(メ ^ω^) 「ぐげっ……」

そのうちの一匹がブーンの肩口を掴み飛び上がろうとした。
咄嗟にその足を掴んだ僕はブーンと共に上空へと飛び上がった。

(;´・ω・`) 「まず……」

肩口を深くえぐられたブーンは再生途中で、背負った荷物のベルトも片方が千切れていた。
僕がぶら下がっているせいで傷口は拡がっていくばかり。

261 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:45:05 ID:Ua0yhxCg0

肩口を深くえぐられたブーンは再生途中で、背負った荷物のベルトも片方が千切れていた。
僕がぶら下がっているせいで傷口は拡がっていくばかり。

(; ^ω^) 「いてえええええ!!」

(;´・ω・`) 「我慢……しろ……っ!」

脚から腰へ、そしてその背中によじ登る。
服が引っ張られて首が閉められているブーン。
申し訳ないが、今は気にしている余裕はない。

(; ω ) 「く……苦し……」

(;´・ω・`) 「っ!」

真下に見えるのは緑の海。
風を切る音は、いつの間にか複数になっていた。
ブーンの肩を掴んだままの爪を叩き折る。

(; ^ω^) 「おおおおおおおお!!!」

262 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:47:48 ID:Ua0yhxCg0

空中に放り出された僕らを狙うように、巨大な翼をもつ荒天鷲が迫る。
真っ直ぐに向けた剣先とぶつかり合った鋼のような翼。
腕ごと持っていかれたかのような衝撃が全身を突き抜けた。

(;´・ω・`) 「ぐぅう!」

(; ^ω^) 「どうすればいいお!?」

(´・ω・`) 「とにかく、巣の辺りに戻るわけにはいかない! 僕の荷物を掴んでいてくれ!」

落下しながらの会話は喉が避けるほどの大声でやっと届く。
空中で荷物袋の中に手を突っ込み、必要な道具を取り出す。

(´・ω・`) 「覚悟しろよ」

(; ^ω^) 「おっ!?」

二つの粘土を混ぜ合わせる。
一つ一つは無害なものでも、二つの存在が重なり合ったときに普段とは全く違う反応を起こす。
錬金術によってパズルの欠片の様に二つに分離させた粘土が、
僕の両手の中で本来の性質を取り戻した。

263 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:49:17 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「簡易製造火薬」

( ^ω^) 「出来るだけ痛くないように頼むお」

(´・ω・`) 「出来ない相談だ」

起爆の方法はいたって簡単。
ごく少量の唾を指で掬い、火薬の表面に塗り込む。
連鎖反応を起こし、想定通り十秒後に爆発した。



・  ・  ・  ・  ・  ・



( -ω-) 「っつつ……ショボン生きてるかお」

(´-ω-`) 「二回くらい死んだんじゃないか」

264 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:50:15 ID:Ua0yhxCg0

身体をゆっくりと起こす。爆発の衝撃で鼓膜が吹き飛んだせいか聞こえてくる音が若干新鮮に感じる。
怪我は既に完治していたが、無事ですまないものもあった。

(´・ω・`) 「荷物の中がぐちゃぐちゃだな」

( ^ω^) 「僕はそんなに整理してなかったからあんまり変わらないお」

(´・ω・`) 「知ってたよ。とりあえず、ここがどこだかってことだけど……」

( ^ω^) 「僕らは北側に吹き飛んできたお。
        南側の森とは植物も結構違ったし、爆発した時の太陽の位置から見ても間違いないおね」

(´・ω・`) 「なんとか予定通りってことか」

荷袋に手間をかけておいてよかった。中に入っていた錬金術に目立った損傷はない。
一度地面に広げて並べ、それを順番に仕舞っていく。

( ^ω^) 「方角だけわかったら、なんとかなるかお」

(´・ω・`) 「地図にはこの辺の地域に関してあんまり書いてないんだよね」

265 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:51:44 ID:Ua0yhxCg0

山岳地帯の南側を抜ける予定だったはずだったこともあり、それ以外のコースのことはあまり詳しく聞いていない。
シュールがあまり話したそうにしていなかったこともあるが、
地図に載っている場所を全て説明してもらうわけにもいかなかったのだから仕方ない。

(´・ω・`) 「とりあえず西側を目指そう。山脈が途切れた所で南下。もう一度海岸沿いへ出る。
       その後は予定通り港湾都市コルキタから船を使う」

( ^ω^) 「この森を抜けないといけないおね」

(´・ω・`) 「あんまり珍しいものはないけど……っとブーンあそこの木の影まで歩いてくれ」

( ^ω^) 「お……?」

僕らが数秒前まで立っていた場所に、尖った岩石が突き刺さった。
その全体の半分以上が土の中に埋まり、衝撃に驚いた付近の鳥たちが一斉に飛び立つ。
羽音に紛れて降り注いだ氷柱のような岩石群は適当に放り投げられたのだろう。
最初の一発以外はてんで見当違いなところへと突き刺さっていた。

(´・ω・`) 「まだ狙ってきてるね。別に僕らが何かしたわけじゃないんだけどね」

( ^ω^) 「ここが森じゃなかったらと思うとぞっとするおね。あんなのに狙われたらしんどいお」

266 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:53:10 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「荒天鷲の住処がこんなところにあるとわかったのは収穫だった。
       素材としての興味もあるしね」

( ^ω^) 「命がいくつあっても足りんからやめとけお。
        ……それでショボン、聞きたいことがあるんだけど」

(´・ω・`) 「なんだ」

( ^ω^) 「城塞都市のえっと……フラツクツ? ってどこにあるか知ってるかお」

(´・ω・`) 「フラクツクだな。この大陸の中央より少し北側、かなり大きな都市国家だ。
       山の斜面と平地を国土としている」

訪れたことはないが、その噂はよく聞く。
都市を囲うように組み上げられた城壁は高く、厚い。
最も内側の城壁の中に生活空間が詰め込まれ、
二つ目の城壁までが田園地帯、一番外側が放牧地帯と区切られていたはずだ。

都市の背後にある山には巨大な水源があり、そこから流れ出た河は都市の中を通って海までつながっている。
数々の国家が興亡してきたこの大陸の中で、最も長く続いているとされている国家。
それが城塞都市国家フラクツク。

267 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:54:31 ID:Ua0yhxCg0

国民の三倍を超える敵に壁外を囲まれても耐えきった。
誰が組んだのかわからない城壁には、何故か錬金術の痕跡があるらしい。
効果も影響も不明な錬金術。

(´・ω・`) 「結局、組み立てに用いられた石の加工に錬金術が使われてたんじゃないかっていうのが通説になっているね」

( ^ω^) 「はー詳しいおね」

(´・ω・`) 「行ってみたかったからね。いろいろあって結局無理だったけど」

かつてリリと暮らしていた頃にその国の話を初めて耳にした。
二人でいろいろ話し合って、取り敢えず見に行こうとしたけれど、
すぐ隣の国まで行ったところで諦めざるを得なかった。

その国で城塞国家の過去数年間の入国拒否者数とその理由を教えてもらったからだ。
三重の堅牢な城壁に囲まれた国が最も恐れるのは、疫病や裏切り、内通による内部からの崩壊。
そのため、基本的に移民は受け付けていない。

旅行者ですら日に数人までとの上限が決められており、厳しい監視がつく。
観光すら見張りの元で行わなければならず、錬金術を用いた道具類は持ち込み不可。

( ^ω^) 「いつか行くことがあったら、届けたいおね」

268 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:55:10 ID:Ua0yhxCg0

ブーンの握る銀のタグ。
それを家族に届けないほうが幸せなのではないかとも思う。
死を確定させてしまうよりは、何処かで生きているという見せかけの希望があるほうが。

考えたところで、最終的に決めるのはタグを受け取ったブーンだ。
僕はあえて口を出さないようにした。

森林を行く僕らの周りには、定期的に岩石が降ってくる。
人間程度なら簡単に潰せてしまえそうなほど大きなもの。
木々を薙ぎ倒しては転がって止まる。

(´・ω・`) 「何処にいるかも見当ついてないくせに、随分としつこいな」

( ^ω^) 「まぁ、仲間を殺された彼らの気持ちもわからんでは無いお」

(´・ω・`) 「僕らは関係なんだけどっと、危ないな」

目の前に落ちてきた岩石が地面にめり込む。
それを避けて進む。
森を埋め尽くす植物はこれだけの騒ぎにも我関せずだ。

269 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:55:56 ID:Ua0yhxCg0

道を創り出しながら歩く。人間が通ったような跡はない。
随分と長いこと放置されてきた自然なのだろう。
普段なら運が良かったと思うところだが、今の状況ではただただ面倒なだけだ。

(´・ω・`) 「珍しい植物もあんまり見ないね」

( ^ω^) 「あったらショボンを引き離すのが面倒だから助かるお」

(´・ω・`) 「流石に今集めたりはしないさ」

( ^ω^) 「どうだかわからんお」

(´・ω・`) 「それより、本当にこっちであってるんだろうな」

( ^ω^) 「そのまま進んでくれお。地図は嘘はつかないから心配するなお」

(´・ω・`) 「地図はそうでもブーンが間違うことがあるだろ」

最初からその心配しかしてない。
方位磁針が逆だったと言われても驚かないつもりだ。
ある程度の制裁は加えるが。

270 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 22:59:14 ID:Ua0yhxCg0

( ^ω^) 「疑ってるおね」

(´・ω・`) 「そりゃあね」

(; ^ω^) 「否定されないところがつらいお……」

(´・ω・`) 「それで、今どのへんなんだ」

( ^ω^) 「たぶんこのあたりだお」

ブーンの指が円を描いたのは、荒天鷲が住処としてた山脈から南に少し向かった辺り。
乱雑な文字で”森”とだけ書かれて射線を引いた一帯。
早急に抜けてしまうつもりだったが、森はまだまだ続きそうだ。

(´・ω・`) 「町とかは無いよね」

( ^ω^) 「何の記述も無いお。というかシュールも何があるのか知らないんじゃないかお」

(´・ω・`) 「そりゃ彼女だって万能じゃないんだから。
       誰も入ったことのない森の情報なんて持ってないでしょ」

( ^ω^) 「それはそうだけど……」

271 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 23:03:32 ID:Ua0yhxCg0

(´・ω・`) 「僕らは道を外れちゃってるわけだしね。
       となるともう少し気を付けたほうが良いかもね」

荒天鷲から無事逃れることができて僕らは安心しきっていた。
森の中に危険な生物がいないとは限らないのに。

( ^ω^) 「今はとにかく進むお。荒天鷲が諦めるくらいまで」

(´・ω・`) 「それには賛成だね」

天然の屋根の下を僕らは歩く。
偶に降ってくる少々大きな霰は無視しながら。
森の出口を目指して。

272 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 23:04:37 ID:Ua0yhxCg0
















33 大空を舞う翼  End

275 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/21(木) 23:07:10 ID:Ua0yhxCg0
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです
   │
   │
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり
   │
32 血の遺志    最終編
33 大空を舞う翼


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