(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
404 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:28:45 ID:XuZMeezA0















36 紅の災厄

405 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:33:08 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「冬は死んだんだな。きっと……」

わざわざ口に出すまでもないことだったが、敢えてそうでもしなければやっていられなかった。
噴き出す汗を拭いながら、灼熱の大地へと足を踏み出す。
流れ込んだ海が沸騰するほどの熱を持つ溶岩地帯を避け、出来る限り冷えて固まった場所を選んで歩く。

余った期間を利用して船のコーティング剤を錬金術で用意しておいたのは正解だった。
木造の船では到底この温度には耐えられない。
それは人間も同じことだろう。

運び手の男もずっと接舷し続けていることは出来ない。
合流予定時刻までの間は予定通り涼しい浮島で待機しているはずだ。

(; ^ω^) 「あっちぃお……」

(:´・ω・`) 「あぁ……」

何度目になるかもわからない水分補給を終え、少し盛り上がった場所に腰を下ろした。
耐熱の錬金術を二重掛けした布で作成したマントを間に挟めば、高温の岩の上にも座れる。
靴は念入りに三重掛けしたものを用意していたが、今のところは問題なさそうだ。
これが溶けるるようなことがあれば、すぐにでも引き返さなければならない。
素足でこの焼ける大地を歩くなんてただの拷問だ。

406 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:33:36 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「これでまだ一日しか経ってないんだ……信じられないよ」

(; ^ω^) 「全く、さっさとテンヴェイラの鋏を手に入れて帰るお」

(;´・ω・`) 「何処に出現するかまでは流石のシュールも解らなかったんだろうね」

七大災厄を探す当てはなく、丸一日も彷徨っていた。
熱気のせいでほとんど眠れず、歩いているだけでも疲労は通常の数倍の速度で溜まっていく。

(; ^ω^) 「解ってたとしても、目印も何もないから教えようがないお」

右を見ても左を見ても前を見ても黒と赤の混じり合った世界でしかなく、方角以外に頼りになるものはない。
背中側にある海と、ほんの少しだけ漂って来る潮の香りだけが心の支えだ。

(;´・ω・`) 「その通りだ」

シュールの研究室にあったテンヴェイラに関する書物と、彼女が新たに調べてくれた記した真新しい冊子。
二つの情報を統合すれば、予測生息域は背の低い山々が連なるギルン山脈において、
最も整った形状をしているニゴラゴ山。

408 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:34:32 ID:XuZMeezA0

火口から同心円状に拡がったなだらかな峰と、
特殊な性質を多く含む地層が積層状態になっているそれは、厚い雲に覆われて薄暗い中でも目立つ。

( ^ω^) 「あれだおね。あんまりきれいだとは思えないお……」

(´・ω・`) 「たぶん誰もギルン山脈の中からあれを見てないからじゃないかな。
       海から見れば、灰が降っていても目立つだろうし、形だけで言えば確かにきれいだしね」

標高はさほどないものの傾斜は長い。
暑さに加えて上り坂がじわじわと体力を削る。

( ^ω^) 「なんか雲行きが怪しいおね」

空に舞い上がって漂っている灰が渦を巻いて動いている。
風が殆どないにもかかわらず。
天変地異の前触れだと言われても素直に納得してしまいそうなほどの光景。

(´・ω・`) 「むしろ都合がいいんじゃないのか」

( ^ω^) 「お?」

(´・ω・`) 「僕らの目的は七大災厄の素材。この場所が異常現象で満ちているってことは、
       原因になる何かがあるってことだ」

409 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:35:22 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「七大災厄が……テンヴェイラが活発になってるってことかお」

(´・ω・`) 「その可能性は低くないと思う」

シュールは出現地域を予測してくれたが、それが当たっているとは限らない。
テンヴェイラは地中奥深く、高圧高温の溶岩の中に眠っているとされている。
火山活動により地上にまで吹き上げられた個体のみが現在観測されているものだ。

その最大の脅威は火山災害を誘発する特性。
かつて火口に出現したテンヴェイラによって、島民の大半が亡くなったと言い伝えられている。
生き残ったのは船に乗ることができた極一部の人々。
その時にできたのがギルン山脈。

島が大陸に繋がるほど環境を変化させたその行為は、まさに災厄と呼ぶのにふさわしい。

( ^ω^) 「冷気が弱点なんだお?」

(´・ω・`) 「そのはずなんだけどね」

地上での生活をすることが出来ず、数分の活動時間しか持てない。
水などで冷却することが出来ればなお短くなるはずだと、シュールは記していた。

(´・ω・`) 「短期決戦だ。とにかく出現したら持ってきた超圧縮水をありったけぶつける。
       出来るだけ鋏は残しておきたいから、狙うのは本体正面。甲羅はたぶん僕らじゃ破壊できない。
       関節部分ならこの剣でも破壊できるはずだから、そこを狙う」

410 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:35:59 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「接近戦をしろってことかお……無茶をいうお」

(´・ω・`) 「遠距離で仕留めるだけの武器が作れるんならそれでもいいんだけどね」

射出、投擲による攻撃が当たるかどうかは、使用者の熟練度に大きく影響される。
いくら強力に仕立て上げようと当たらなければ意味がなく、
命中を補正する錬金術を埋め込めば、威力はかなり落ちてしまう。

それならば最初っからダメージ覚悟で接近戦に持ち込んだほうが良い。
通常の攻撃であれば死ぬことは無い筈だ。

(´・ω・`) 「絶対に鋏の間合いに入るなよ」

エルファニアの突進が掠った時の衝撃と痛みはまだ覚えている。
直撃していれば不老不死と言えど、どうなっていたかはわからない。

( ^ω^) 「間合いってどれくらいだお」

(´・ω・`) 「鋏の正面十歩。幅はおそらく人間二人から三人分」

( ^ω^) 「広すぎるお……」

411 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:36:22 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「テンヴェイラに削られたとされる開口部がそれだけの大きさをしていた。
       個体差があればまだ広くなるかもしれない」

( ^ω^) 「どう考えても避けられないお……」

(´・ω・`) 「いや、動きは緩慢なはずだ。注意していれば掠る程度で済ませられる」

(; ^ω^) 「おーおっ!? ……今揺れたおね」

(´・ω・`) 「まだ揺れる、何処かに掴まれ!!」

適当な岩にしがみついた瞬間に、身体が浮かび上がるほどの衝撃があった。
地面の中で大量の火薬を爆発させたのかと思えるほどでありながら、
音は全くせず、先程まで少しばかりあった生き物の気配が一気に消えた。

静寂。

( ^ω^) 「ショボン!」

(;´・ω・`) 「っ!!」

412 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:36:54 ID:XuZMeezA0

ブーンが指さしたのは黒い煙を噴き出すニゴラゴ山の火口部分。
噴火そのものではないが、もはや時間の問題かと思えた。
キラキラと光る粒子と共に立ち昇り、空の黒雲に溶けていく。

(´・ω・`) 「急ぐぞ」

大規模な噴火が起きる瞬間には近くにいる必要がある。
地上と地中深くの大気や圧力、その他諸々の差異に酔っている間に仕掛けるのが一番安全だ。

( ^ω^) 「だんだん熱くなってきてないかお」

(´・ω・`) 「うん、麓よりはかなりね。水分補給はしとけよ。
       いくら僕らでもこう汗をかきすぎると眩暈で立ち上がれなくなるぞ。
       それに……そろそろ持ってきた奴を巻いておこう」

( ^ω^) 「了解だお」

紺色の布切れを一枚荷物から引っ張り出し、それを口元に巻き付ける。
噴火時に吐き出される毒性物質から身を護るためのものであるが、
保水性の高い布のおかげで少しだけ息がしやすくなった。

413 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:37:22 ID:XuZMeezA0

火口の淵に立った僕らの数歩先。
朱く煮えたぎる溶岩が静かに揺れていた。

( ^ω^) 「すげぇお……」

(´・ω・`) 「数百年生きてるけど、流石に初めて見た」

落ちれは百年は再生できないだろうことが容易に予想できる溶岩溜り。
その淵のギリギリの場所から覗き込んでしまうのは、
危険と隣り合わせの魅力に僕らが心を引き付けられているから。

発する光が流動する溶岩群で遮られて、秒でその姿を変えたようにも錯覚する。
内部から噴き出してきた気体が大きな泡を作っては弾け、
それに合わせるかのように炎の花が咲く。

一秒として同じ姿を見せない光景は、警戒心すら奪い取ってしまっていたことに気付くまで時間がかかった。

(´・ω・`) 「ブーン、少し離れて待とう。揺れて落ちたらどうにもならない」

( ^ω^) 「どのくらい待てばいいんだお」

(;´・ω・`) 「最悪は火口を刺激する爆発物を放り込むつもりだけど、一時間くらいか……なっ!?」

414 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:37:58 ID:XuZMeezA0

予期せぬ揺れと、存在が消失したとしか思えないニゴラゴ山の山腹。
その裂け目から流れ出て来る赤い流れと、煙の中から現れた巨大な紅の鋏。

僕らは大きな勘違いしていた。


黒煙も、振動も災厄の予兆であると。

噴火をしなければ、地中深くから出てこないと。

現れてしまえば、暴れまわり世界を壊してしまうと。


僕らは忘れていた。七大災厄の持つ力とその恐ろしさを。

何故この季節になっても雪どころか、寒いと感じることがほとんどなかったのか。

何故大陸を吹きぬける風が暖かいのか。



季節すらも変えてしまうことができるのは、七大災厄そのものであるということを、忘れていた。

415 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:38:34 ID:XuZMeezA0

(#´・ω・`) 「避けろっ!!!」

咄嗟にブーンを突き飛ばし、自分自身は反対側へと飛ぶ。
僕らの間を突き抜けていったのは一陣の風。
それは、目に見えない死の概念そのものが僕らの感覚器官全てに発した警告。

当たれば死ぬ。
ホムンクルスとして生まれて長い間忘れていた感情が、瞬間的によみがえった。

裂け目から現れたテンヴェイラはそれほど大きくない。
人間の腰ほどの高さに、甲羅と一体化している左右の鋏。
そのせいか可動域は殆どない。

短く太い脚が四対。こちらは大きく動くように見える。
背の甲羅にのっている溶岩は半分ほど黒ずんでいた。

(; ^ω^) 「助かったお……」

(´・ω・`) 「とにかく、用意してきた分全部を投げろ。正面に入らなければ鋏は当たらない!」

威圧感を全身に感じながらも叫ぶ。
かつて出会い戦った他の災厄と同じプレッシャーには、もう慣れた。

416 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:39:03 ID:XuZMeezA0

二手に別れ、荷物の中から引っ張り出した立方体の水をテンヴェイラに向けて投げる。
直撃した直後に白煙を上げて爆発するのは、
高密度の水分が瞬間的に熱せられた影響だ。
それらをものともせずに、鋏は空間を削り取る。

(´・ω・`) (十秒に一回、それも片方ずつか……)

背中の溶岩は水を当てる度に黒ずんでいく。
八割以上が真っ黒になり炎すらあげなくなったところで、用意していた圧縮水が尽きた。

( ^ω^) 「ショボン! こっちはきれたお!」

(´・ω・`) 「僕もだ!」

元からそれだけで倒せるとは思っていない。
どれだけこちらが準備したところで、それを優に超えて来るのが七大災厄たる所以。

今回はワカッテマスとティラミアを欺いて新緑元素を得た時とは違う。
あの時よりも十分な備えはしてきたし、敵について知ってもいる。
だからこそ油断してはいけないとよく理解していた。



つもりだった

417 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:39:38 ID:XuZMeezA0

最初に感じたのは冷たさだった。

熱された鉄板のような場所に身体が倒れているにもかかわらず。
瞼が重く、眠ってしまいそうになるのを耐える。
つい先ほどまでの自分が何をしていたのかすら思い出せず、そのまま目を閉じようとした。

(; ^ω^) 「ショボン!! 起きろお!」

ブーンの呼ぶ声と、遅れてきた激痛で意識が覚醒させられた。

(メ´ ω `) 「っぁあああああああああ!!」

(; ^ω^) 「生きてるかお!?」

(メ´ ω・`) 「あぁ……何が……」

肩を掴んで起き上がる。
テンヴェイラは口元から大量の泡を噴き出しながら、両の鋏をゆっくりと開け閉めしていた。
それは攻撃ではなく、威嚇を意図したもの。

( ^ω^) 「とにかく、今のうちに下がるお」

418 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:40:12 ID:XuZMeezA0

(メ´・ω・`) 「待ってくれ腕の感覚が……」

( ^ω^) 「あるはずないお」

半ば引きずられるようにしてテンヴェイラとの距離をとる。
右腕が根元から引きちぎられていた。
既に再生は始まっているが、本来の速度よりもずっと遅い。

(メ´・ω・`) 「くそっ……」

( ^ω^) 「よく避けたお。僕はもう直撃して駄目かと思ったんだお」

(メ´・ω・`) 「どうなったのかは覚えてない」

(; ^ω^) 「未だに信じられんお。鋏の攻撃範囲が急にねじ曲がったんだお……」

(メ´・ω・`) 「成程……」

攻撃それ自体は見えなかったが、恐怖を感じて咄嗟に身体を傾けたおかげで助かった。
斬撃故に直線でしか放てないと思い込んでいたが、鞭のようにしならせることもできるのか。

419 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:41:16 ID:XuZMeezA0

いくら発生が遅いとはいえ、太刀筋を放った後に自在に操られるのでは手も足も出ない。
これが本来のテンヴェイラの力。
このまま時間切れを待つ方法もあるが、もし溶岩の中に戻られてしまえば必要な素材が手に入れられない。

(メ´・ω・`) 「あれを使おう」

( ^ω^) 「でも、防がれたら後がないお」

(メ´・ω・`) 「どのみち逃げてるだけじゃ勝てない。切断攻撃は絶対に受けるな」

右腕の再生は遅々として進まない。
背負っていた荷物を全て置き、必要な錬金術だけを持つ。

( ^ω^) 「僕が囮をやるお」

(メ´・ω・`) 「行くぞ!」

僕らは同時に飛び出し、テンヴェイラへと駆け寄る。
何を考えているのか、それとも何も考えていないのかテンヴェイラは赤黒い泡を膨らませ続けていた。
身体の正面が埋め尽くされるほどに拡がった泡の中に、握っていた道具を投げ込む。

420 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:41:59 ID:XuZMeezA0

テンヴェイラ自身が持つ温度によってすぐに発火点に達し、泡を全部吹き飛ばした。
ブーンは正面に潜り込み、真っ直ぐ剣を突き込んだ。
堅い甲羅に弾かれながらも、その注意を引き付けるために何度も。

腕がない状態がこんなに走りにくいとは思わなかった。
転びそうになりながらも必死に走る。
甲羅と一体化している鋏の一部をを砕くのは容易じゃない。
狙いは相手の足を止め、攻撃手段を封じること。

鋏を閉じた時に発生する攻撃は、鋏を固定してしまえば放てないはず。
そう思って用意していたのは高温帯で真価を発揮する固着剤。
温度が上がるほど強度を増す素材を用いた錬金術。

左の鋏が閉じる直前、その隙間に差し込んだ金属製の筒。
閉じきった時の圧力で弾け、中に入った固着剤が鋏の間から溢れ出る。
攻撃は地面に突き刺さり、大きく削り取った。

(メ´・ω・`) 「ブーン!」

十秒後に反対側の鋏による攻撃が行われる。

( ^ω^) 「分かってるお!」

421 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:43:54 ID:XuZMeezA0

片方を塞がれたテンヴェイラは、僕へとその攻撃対象を変えようと動く。
その足の先にはブーンがあらかじめ放り投げておいた爆薬。
踏まれた衝撃で二つの素材が混じり合い、連鎖的に爆発反応を引き起こす。

一瞬でも動きを止められれば充分。
僕が投げた筒をブーンがキャッチし、右の鋏へと挟み込む。

(メ´・ω・`) 「閉じる力は強くても、開く力がそれと同じとは限らない」

( ^ω^) 「おおっ!」

黒ずんで炎の消えた部分の甲羅は、紅く燃えているところと比べて格段に強度が下がる。
ブーンはその甲羅に飛び乗り、全体重をかけて杭を打ち込む。
返しがついた特性の杭は、差し込んで僅かに捻るだけで抜けなくなる。

(メ´・ω・`) 「これで……終われ!」

杭の底部にある抑えのピンを剣で斬り飛ばす。
内部に溜まった溶解液がテンヴェイラの体内へと流れ込んでいく。

(; ^ω^) 「っ!」

完全に固着していたはずの鋏が砕けながら大きく開く

422 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:44:36 ID:XuZMeezA0

(メ´・ω・`) 「離れろっ!!」

最後に放たれた一撃はテンヴェイラの周りの空間と、自身のほぼ全身を飲み込んで消えた。
後に残ったのは二つの巨大な鋏。
片方はひび割れて崩れかけてはいるが、十分な量が手に入った。

(メ´・ω・`) 「ふぅ……」

( ^ω^) 「怪我は……まぁ再生してるおね」

(メ´・ω・`) 「一日くらいはかかるかもしれない。不便この上ない」

( ^ω^) 「まぁ命が助かったんだからよかったんじゃないかお」

痛んで砕けた鋏は、荷物の袋の中に放り込む。
無事な方の鋏をブーンが担ぎ、運び屋の男と待ち合わせている場所に向かって歩き始めた。

423 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:45:26 ID:XuZMeezA0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「服の袖がなくなってるじゃねぇか」

(´・ω・`) 「気にしないでくれ。いろいろあってな。それにそっちも他の客がいるみたいだけど」

「噂の遭難者らしい。合図の光が上がるまで待機している予定の島があったろ。
 あそこまで何とかたどり着いたんだと。運がいい奴らだ」

「いやぁ、見つけてもらわなかったら飢えて死んでいるところでした」

「本当に、本当に感謝します」

「っけ。港に着いたら金は払ってもらうぞ」

「ええ、命の値段くらいはお支払いします」

(´・ω・`) 「まぁいいさ。僕らはちょっと疲れたから休ませてもらうよ」

424 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:46:17 ID:XuZMeezA0

船室は十人程度が横になれるほどには広い。
もともとは貨物船だったこともあり、スペースには余裕がある。
二人程度の乗客が増えた所で何ら問題はないだろう。

僕らはテンヴェイラの鋏を布で覆い、身体で隠すようにして眠る。
極限近くまで溜まっていた疲労は、夢と現実の境目すら容易に取り去ってしまう。
何時間休んでいたのかわからない程の深い眠りから目を覚ました時には、
運び手を含めて全員が船室で寛いでいた。

( ^ω^) 「起きたかお……?」

(´・ω・`) 「あぁ……どのくらい寝ていた?」

( ^ω^) 「もう夜らしいから、たぶん十二時間くらいじゃないかお」

(´・ω・`) 「随分と長かったな」

( ^ω^) 「まぁ、それだけ疲れてたんだお」

ブーンは船旅用の保存食を頬張りながら、何かを走り書きしていた。
覗き込むようにして文字を追う。
箇条書きに並びたてられたそれらはテンヴェイラの鋏の利用方法。

425 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:46:49 ID:XuZMeezA0

必要量以上が手に入ったため、他の錬金術に回す余力が出来た。
確かにもう二度と手に入ることはない素材。
幾つもの案の中から最善の錬金術に使用したいと思うのは当然だ。

「何しにニゴラゴ山へ来たんですか」

(´・ω・`) 「……錬金術の研究です」

「あぁ、同業だったのですか」

( ^ω^) 「ということは二人も?」

「そうです。研究で必要な素材を手に入れるためにね。あんな化け物がいるなんて運が悪かった」

「お二人は大丈夫だったのですか?」

(´・ω・`) 「僕らは鉱石を幾つか採取しただけですから」

「仲間もほとんどが殺され、なんとか私たちだけが逃げ延びたのです」

( ^ω^) 「そうなのかお……」

(´・ω・`) 「お互い命があってよかったです。帰ったらギルン山脈について報告しなければならないですね」

426 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:47:48 ID:XuZMeezA0

ブーンが余計なことを言う前に口を挟む。
荒天鷲の時からあった違和感。
それは生き残った二人の男達からも感じていた。

「何をです?」

(´・ω・`) 「化け物がいたのでしょう?」

「あ、ええ、そうですね。他の錬金術師が犠牲になる前に情報を流しておかないと。
 ですが、どこに伝えればいいのでしょう……」

(´・ω・`) 「僕らも余所者なので」

運び手の男は一人毛布を被って横になっていた。
聞こえているはずの僕の声も無視しているのか、それとも本当に寝ているのか。

「やれやれ、ところで手に入れたのは何の素材ですか?」

(´・ω・`) 「ただの鉱物ですよ」

テンヴェイラの鋏は隠しきれないほどに大きい。
布で包んで隠しているそれを、生き残った男達が求めているのは明白であった。

427 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:48:11 ID:XuZMeezA0

「そうですか。研究のお役に立つといいですね」

(´・ω・`) 「どうもありがとうございます」

男達は船室から出ていき、僕らはテンヴェイラの鋏を気にかけながら再度の睡眠をとった。
域の船旅と同様で、一度潮流に乗れば後は待っているだけでコルキタまでたどり着く。
水深が浅く、大型船では通ることができない海路。

「あいつら、船を何で失ったんだろうな」

(´・ω・`) 「……起きてたのですか」

「ふん、俺をイカれた錬金術師どもの諍いに巻き込むな。面倒な」

( ^ω^) 「向こうが絡んできたんだお……」

「知らん」

(´・ω・`) 「船の高温対策を怠っていたか、それとも想定が甘かったのか。
       コルカタの運び手が一緒にいたはずですが……」

428 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:49:16 ID:XuZMeezA0

いくら彼らが優れた錬金術師であったところで、この航路を辿れるとは思えない。
海路には道標はなにもなく、運び手の勘と感覚によって見つけられるものだからだ。
僕とブーンでさえ、もう一度海路でギルン山脈に行くことは叶わない。

( ^ω^) 「なーんか胡散臭いんだお」

(´・ω・`) 「僕の予想でしかないけど……。十数人でギルン山脈に来て、テンヴェイラと戦闘。
       敗北して逃げ延びたのが数人。その中で生き残ったのがあの二人だけなんじゃないか」

「俺が待機している予定の島は狭くて、人間を隠す場所なんてありはしない。
 地面を掘り起こしている様子もなかった」

( ^ω^) 「埋める以外にも処理する方法はあるお。あんまり考えたくないのもあるけど」

(´・ω・`) 「問題はむしろ船の残骸かな。どうやって処理したんだろう」

「木材……簡易の屋根を付けた場所はあった……だが船を使えばもっとまともなものが作れたはずだ」

(´・ω・`) 「船自体も大破してたんだと思いますよ。それで、あの島に流れ着いた」

「そこまでして何が欲しかったんだか……」

( ^ω^) 「わからないお……」

「まぁ問題を起こさないつもりなら別にいい。連れて帰ってやるくらいならな。
 なにかしでかしたら海に叩き落としてやる」

429 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:50:48 ID:XuZMeezA0

・  ・  ・  ・  ・  ・



(;´メω・`) 「はぁっ……はぁっ……生きてるか……ブーン……」

(;メ-ω^) 「どう見ても死んでるお……」

心臓に突き刺さった杭が背中を突き破り、背後の船室の壁まで達していた。
起き上がろうとしても、杭の役割を果たしている金属は動かず、引き抜こうにも両手は塞がれている。
溢れ続ける血液は消滅し続け、心臓は異物による破壊と再生を繰り返す。

横目で見ればブーンも同様に磔にされており、両手と腹部に計三本の杭。
ご丁寧に柄の根元まで深く差し込まれている。

(´メω・`) 「くっそ……船に穴まで空けていったな」

冷たい海水がゆっくりと船室を満たしていく。
僕らが不死であると気付いた時の男達の行動は早かった。
両手を壁に固定するように貫かれ、身動きがとれない。

剣であれば多少強引にでも両手を自由にできるが、
杭の刺さった手を動かしたところで痛みだけがひどくなるだけだ。
腰の辺りまで上がってきた水位のせいで両足の感覚がなくなっていく。

430 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:51:59 ID:XuZMeezA0

甲板にいるはずの船乗りの男は、もうとっくに逃げだしているだろう。
沈み始めた船の船室をわざわざ助けに来るほどの付き合いも無い。
これだけの船だ。前金だけでは払いきれないかもしれないが。

(; ^ω^) 「おぉお……さみぃお……」

(´・ω・`) 「テンヴェイラが死んだからだな……。さて、どうしたものか」

十日ほど前までが嘘のように気温は下がり、帰り道の途中で雪が降る日もあった。

( ^ω^) 「僕の荷物に……足が届くかお?」

(´・ω・`) 「ああ、なんとか」

痛む両腕と胸を無視し、可能な限り足を伸ばす。
つま先を荷物の紐にかけ、少しずつ引っ張っていく。
テンヴェイラの鋏にしか興味のない連中で助かった。
水浸しの鞄の中をかき混ぜる様に足を突っ込んだ。

(;メ^ω^) 「……なんかちょっとドキドキして心臓が痛」

ブーンが言い終らないうちに船室は丸ごと吹き飛んだ。

431 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:54:04 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「ぶはっ……寒い寒い……」

全身ずぶ濡れになり、奥歯がガタガタと震える。
錬金術のローブは体寒耐熱ではあるが、こうも全身が水に濡れてしまっては用をなさない。
剣だけを掴んでいた僕は港に上がった。

( ^ω^) 「おー……なんとか、これだけは確保できたお」

遅れてブーンが顔を出す。
その手に掴んだ二人分の荷物の袋。
中に仕舞っているのはテンヴェイラの鋏の一部。
爆発や海水の影響はないようで、白い蒸気を立ち昇らせていた。

(´・ω・`) 「とりあえず、シュールの研究所に向かおう。このままじゃ流石にまずい」

( ^ω^) 「一刻も早くあったかい湯を浴びたいお……」

(´・ω・`) 「同感だ」

空は暗く、今にも振り出しそうなほど。
今以上に気温が下がる前にと、僕とブーンは駆け足気味に大通りを抜ける。
偶然止まっていた馬車に乗り込んで、研究所に戻って来た。
すぐに巨大な釜いっぱいに湯を沸かし、それに浸したタオルで身体を拭く。

432 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:54:53 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「おー……一息ついたお」

(´・ω・`) 「全く。あの二人は……どうしてやろうか」

「どの二人の事?」

二階から降りてきたのは小柄な女性。
その身に不死の魂を宿した錬金術師。
研究所の持ち主であり、待ち合わせていた人物。

(;´・ω・`) 「シュール!」?

(; ^ω^) 「いつの間に来たんだお?」

lw´‐ _‐ノv 「こんな夜中に話声がするし泥棒かと思ったよ。せっかく深い眠りに付けてたんだけどね。
        あぁ、はいはい。シュールね。今呼びますよ」

(´・ω・`) 「周、明日にしよう。ちょっと僕らもいろいろありすぎて整理が追いつかない」

lw´‐ _‐ノv 「わかった。そうしてくれるとありがたいね。そこの暖炉も使ってくれたいいから。それじゃあおやすみ」

( ^ω^) 「おやすみだおー」

433 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:55:17 ID:XuZMeezA0

眼を擦りながら二階に戻っていくシュール。
その仕草は幼い子供にしか見えない。

(´・ω・`) 「テンヴェイラの鋏はどう保存すればいいだろう」

( ^ω^) 「だんだん温度が高くなってるおね」

海の中に一度は沈んだはずのその甲殻は、紅白の斑模様を浮かび上がらせている。
既に素手では持てないほどの熱さ。
置いてあるだけで木の机が黒く焦げていく。

(´・ω・`) 「このままじゃ不味いだろうけど、水につけておくのはよくないと思う」

( ^ω^) 「取り敢えず小型炉の中にでも置いとくしかないんじゃないか」

(´・ω・`) 「欠片だから扱いやすくて助かったね」

奪われた完全な状態の鋏であれば、保存方法に苦労しただろう。
素材としてはほぼ同様の扱いができるはずだ。
念の為に適当な防熱シートを重ねた上に小型炉を動かし、交互に様子を見ながら休んでいた。

434 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:55:48 ID:XuZMeezA0

爆発することも無ければ、室内の温度が上昇することもほとんどなく、
素材として死んでしまったのかと不安になり何度も夜中に確認した。
炉の中で生きているかのように熱を発し続ける鋏。

七大災厄の素材、それもほとんど本体であるそれは、恐らく今までで一番扱いの難しい素材だ。
生半可な錬成に利用すれば後悔するだけでなく、大事故につながりかねない。

研究所に戻ってきたのは思っていたよりも遅かったらしく、
うつらうつらしながら考え事をしていたら、空が次第に白けてきた。
暗闇の中からその頭を出した太陽は、眠らない都市に平等に降り注ぐ。
広場を行き交う車輪と蹄鉄の音が次第に多くなり、都市の朝を告げて走る。

それから一時間ほどして、シュールは一階に降りてきた。
ブーンはまだ寝息を立ており、揺さぶって起こす。

lw´‐ _‐ノv 「ふぁぁ……寝不足だよ」

(´・ω・`) 「すまない」

lw´‐ _‐ノv 「謝らないで。私も協力するよ。どうせ華国にいたところで何かをするわけではないしね。
        それにこちらの方が面白そうだし。さて、シュールを起こすよ」

435 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:56:29 ID:XuZMeezA0

慣れた動作でもう一つの意識へと切り替える周。

(´・ω・`) 「久しぶり」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね。ショボン君。ブーン君も」

( ^ω^) 「おーもうついてたんだおね」

lw´‐ _‐ノv 「三日日ね」

(´・ω・`) 「テンヴェイラの鋏、手に入れたよ。事情があって欠片だけだけれど」

lw´‐ _‐ノv 「これだけの大きさがあれば十分だよ。大変だったと思うけど、本当にありがとう」

体格と似合わない深いお辞儀。
僕自身の為でもありるため、それを受けるのは些か気まずく、
返答に困った僕は話を変える。

(´・ω・`) 「それで、これからどうすれば?」

lw´‐ _‐ノv 「あぁ、うん。不死殺しの錬金術を完成させる。そのために必要なもう一つの条件。
        サスガの双子を探さないといけない」

436 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:56:53 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「探すって……どこにいるのかもわからないのに?」

lw´‐ _‐ノv 「正確な場所はわからないんだけど、全く手掛かりが無いわけじゃない」

( ^ω^) 「手掛かり?」

lw´‐ _‐ノv 「でぃ、おいで」
 ∧  
(゚、。`フ 「わらわはもう少し寝ておきたいのじゃが」

(;´・ω・`) 「えっ!?」

(; ^ω^) 「おっ!?」

僕らの驚きは全くの同時。
研究室の本棚の上からこちらを見下ろす、白い毛並みの猫。
元は人間であり、その魂を不老不死の猫に移し替えた錬金術師。

古代錬金術師と自称するその猫は、小さな黒いマントを羽織っていた。
 ∧  
(゚、。`フ 「ぬしらが帰って来た時からおったのじゃがな。全く気付かなかったの」

437 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:57:32 ID:XuZMeezA0

それもそのはずだ。
手元で作業するためだけの最低限の明かりしかつけていなかったのだから。

(´・ω・`) 「その外套は……」
 ∧  
(゚、。`フ 「ふん、思っている通りじゃ」

( ФωФ) 「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしておるな。吾輩がここにおることがそんなにおかしいか?」

(´・ω・`) 「……芒は大丈夫なのか」

( ФωФ) 「大丈夫であろう。彼女は巫女として生きることを受け入れた。
         つらい役目を誰かに押し付けるよりは、自身が、とな。
         決心は固い。そう簡単には折れぬであろう」

(´・ω・`) 「そうか……それで、なんでここに来た?」

( ФωФ) 「吾輩達がこうまでして生き残ってきた目的を果たす為である」

イ从゚ ー゚ノi、 「漸くこの役目から解放されるのでございますね」

(´・ω・`) 「キツネか?」

イ从゚ ー゚ノi、 「お久しぶりでございます」

438 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:58:00 ID:XuZMeezA0

シュールの腰に結ばれた扇。
華国にいた空間を操る古代錬金術師の番人。
その実物を見たのは初めてだ。

(´・ω・`) 「勢ぞろいだな。このために神州まで行っていたのか」

lw´‐ _‐ノv 「まぁね」

( ^ω^) 「ジョルジュは来てないのかお?」

lw´‐ _‐ノv 「彼には一つ用事をお願いしてるんだ。だいぶ渋られたけどね」

(´・ω・`) 「用?」

lw´‐ _‐ノv 「いくつか必要な素材があってね。それを取りに行ってもらってる。
        集合場所も決めてるから大丈夫だ」

イ从゚ ー゚ノi、 「お話し中のところすいません。この姿でお話しするのも何となくですが違和感がございます。
        せっかく集まったのですから、皆で机を囲むのもよろしいのではないでしょうか」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね、お願いするよ」

イ从゚ ー゚ノi、 「はい」

439 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:58:29 ID:XuZMeezA0

扇が開き、空間を形成する。
精神だけが招かれた世界の中心にはラウンドテーブルが一つ、その周りには六脚の椅子。
ご丁寧に湯気の出るティーカップが並び、それぞれの席に座るのは錬金術師。

キツネは紺色の着物を身に付け、長い黒髪を後頭部で巻き上げている。
以前会った時と違い、金色の細い線が柔らかく舞っているような絵柄。
僕らを招いた世界の主は、優雅に紅茶の入ったカップを傾けていた。

( ФωФ) 「やれやれ、相変わらずの場所であるな」

スーツ姿の男は、被っていた帽子を脱ぎ捨てた。
それは空間に溶けるように消えていく。
何処か紳士然とした背格好に似合わない乱暴さで座り、カップの中身を一息で飲み干した。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「人間の身体は懐かしいの」

白いローブで身を包んだでぃは、指先の感覚を確かめる様に手を動かす。
猫であった時の感覚が抜けていないのか、耳の上あたりで跳ねた髪の毛の中に獣耳が動いている。
精神だけのこの空間であるから、自らの感覚や意識が姿に強く反映されるのだろう。

lw´‐ _‐ノv 「皆の姿を見るのも久しぶりだね」

440 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:59:01 ID:XuZMeezA0

シュールは四国を統一した時の派手な白いドレス。
波打った綺麗な金髪は肩にかかり、美しさをより一層際立たせている。
フリルで覆われているドレスは、他の三人と比べると随分と目立つ。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「ぬしはその恰好、気に入っておるのか?」

lw´‐ _‐ノv 「うーん、ついね」

イ从゚ ー゚ノi、 「よくお似合いでございますから」

lw´‐ _‐ノv 「そうかな? ありがとう」

( ФωФ) 「服装などどうでもよかろう」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「そう言うぬしも昔の恰好ではないか」

( ФωФ) 「ふん、合わせただけである」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「変わらんの」

( ФωФ) 「貴様こそ猫の耳がついておるぞ。どうやら心まで獣になってしまったようであるな」
 ∧_∧
(;#゚;;-゚) 「にゃっ!?」

441 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 20:59:42 ID:XuZMeezA0

焦って頭の上を押さえるでぃ。
髪の隙間から生えた獣耳は、へこむだけで消えない。
精神のみの世界では、身体は自身の感覚がそのまま反映される。
常日頃から猫としてあったでぃは、その耳をなくすことを諦めた。

イ从゚ ー゚ノi、 「ディートリンデさん、ロマンさんも、懐かしいのはわかりますがそういう会ではありませんよ。
        お二人が困っているではありませんか」

(;´・ω・`) 「ははは……流石にこの面子相手だと気後れするね」

( ^ω^) 「だお」

長い歴史を持つ錬金術、その始まりにして頂点である術師達。
普段の雰囲気と違うせいか、同卓することすら恐れ多いと感じてしまう。

lw´‐ _‐ノv 「まぁ座りなよ、二人とも」

(´・ω・`) 「そうさせてもらうよ」

lw´‐ _‐ノv 「さて、私たちが見たワカッテマスの過去と、
        ロマが見つけたリリさんの様子からいくつか特定できることがあったんだ」

442 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:00:14 ID:XuZMeezA0

( ФωФ) 「氷の彫刻と渡り鳥が通ったルートを照らし合わせて見つけることができた集落は五つ。
         その中であれだけの大きさのものを隠せる場所があるのはたった一つ。
         ヴァントヨークの大氷窟だけである」

(´・ω・`) 「聞いたことがない場所だ」

( ^ω^) 「氷でできた洞窟だお? 立ち入りが制限されてるっている」

(´・ω・`) 「どこにあるんだ?」

lw´‐ _‐ノv 「確か、今は名前が変わったんじゃなかったかな。
        コルカタから遥か北方、年中雪に覆われた氷窟都市国家ファーワル。
        一応、その国が管理しているというか……ファーワルそのものだね」

北方の国々はあまり訪れたことがない。
雪の中で行き倒れたらどうなるかわからないし、装備を整えるのも大変だ。
草木が少しでも生えていれば飢えは凌げるのに、冬の地ではそれもできない。

イ从゚ ー゚ノi、 「灼熱の地の次は極寒の地。大変でございますね」
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「どうせ死なぬのじゃ。旅行みたいなものであろう」

443 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:00:42 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「流石にテンヴェイラと戦ったときは死ぬかと思ったけどね」

( ФωФ) 「むしろ死ななかったことが不思議であるがな」

( ^ω^) 「確かに……七大災厄を殺して五体満足っていうのも驚きだおね」

一撃を受けたとはいえ、何とか再生することもできた。
事前にしてきた準備をほとんど使いきったのだから、簡単だったというわけではない。
ないのだが、確かにあまりにもうまく行き過ぎた。

lw´‐ _‐ノv 「それはたぶん、随分前から地上側にいたからなんじゃないかな」

(´・ω・`) 「どういうことですか?」

lw´‐ _‐ノv 「テンヴェイラは遥か地中の溶岩流の中に生存してるから、地上で長くは生きられない。
        普通は噴火に巻き込まれて冷えた大地まで出て来るからすぐ死ぬはずなんだけどね。
        運よく地中の溶岩溜に逃げ延びたんじゃないかな。命を削りながら何とか生きてきた」

( ФωФ) 「運が良かったであるな。そもそも人間如きが万全の七大災厄を殺せるはずが無かろう」

イ从゚ ー゚ノi、 「弱体化しているかもしれない、ということもシュール様は存じていたということでしょう」

lw´‐ _‐ノv 「その辺は賭けだったんだけどね。テンヴェイラについてはずっと探してたし、
        どうも去年の夏あたりから気温が変な感じしてたから、調査していたかいがあったね」

444 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:01:10 ID:XuZMeezA0

運が悪かったらどうなっていたのかはあまり考えるべきではないな。
もしテンヴェイラが本調子であったなら今頃は物言わぬ屍になっていただろう。
.∧_∧
(#゚;;-゚) 「それで、次はどうするのじゃ」

lw´‐ _‐ノv 「うん、それなんだけどね。あまりよくない状況なんだ」

( ^ω^) 「よくない状況?」

lw´‐ _‐ノv 「二人がテンヴェイラに挑んでいる間に、大陸北部について調べてたんだけどね。
        大量の錬金生物があちこちに出現してるらしい」

(´・ω・`) 「錬金生物……」

思い出すのはセント領主家が生み出した泥状の生物。
攻撃意思しか持っていないただの塊。
速度は遅く大した機能も持たないくせに数が多く耐久値が高い。
集団で襲われたら厄介極まりない敵。

lw´‐ _‐ノv 「詳しい状況は入ってきてないけどね。そういう異質な生き物があちこちで闊歩してるって話ね。
        別にそれだけならさほど脅威じゃないんだけどね」

445 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:01:34 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「錬金生物……」

思い出すのはセント領主家が生み出した泥状の生物。
攻撃意思しか持っていないただの塊。
速度は遅く大した機能も持たないくせに数が多く耐久値が高い。
集団で襲われたら厄介極まりない敵。

lw´‐ _‐ノv 「詳しい状況は入ってきてないけどね。そういう異質な生き物があちこちで闊歩してるって話ね。
        別にそれだけならさほど脅威じゃないんだけどね」

錬金生物とは言え生き物である以上殺せば死ぬ。
多少の犠牲を覚悟するのであれば一般人であっても駆除はさほど難しくないだろう。
だがそれはあくまで敵が単体だった場合だ。

複数、しかも連携を取り始めれば手に負えない。
対抗するためには強力な軍隊が必要になる。

(´・ω・`) 「それで、何が起きているんだ」

lw´‐ _‐ノv 「錬金生物の大軍勢によって大陸北部の都市国家が陥落してる。この半年で三件も」

(; ^ω^) 「!?」

( ФωФ) 「吾輩調べであるから、ほぼ間違いないのである」

446 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:01:55 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「実際には四つの都市が強襲されたんだ。黒い甲殻型の巨大な虫らしいんだけどね。
        騎士協会が総出で対応したみたいだけど、間に合わなかったみたい」

(´・ω・`) 「ってことは」

lw´‐ _‐ノv 「うん、国を滅ぼしたそれらはまだ放し飼いってことかな。もしくは飼い主の元に戻ったか」

( ^ω^) 「あれ? 四つの国って」

lw´‐ _‐ノv 「うん。一つだけそれらを撃退できた国がある。城塞都市国家フラクツク。
        その錬金生物を迎撃できた唯一の国に、彼らがいるはず」

(; ^ω^) 「フラクツク……!」

その名前はつい最近聞いた覚えがあった。
荒天鷲の巣で命を落とした錬金術師。その男から預かりものはブーンが大事に持っている。

lw´‐ _‐ノv 「どうしたの?」

( ^ω^) 「いや……別に何でもないお」

(´・ω・`) 「少し縁があってね。それで、その場所にクールとサスガの双子がいるのか?」


449 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:23:47 ID:XuZMeezA0

.∧_∧
(#゚;;-゚) 「必ずとは言えぬが、かなり確率が高いであろうな。
      流れてきた話を聞くと不死の英雄がなんじゃとか言っておったが」

イ从゚ ー゚ノi、 「クール様のことでしょうか?」

(´・ω・`) 「……たぶんそうだと思う」

( ^ω^) 「すぐ行くお?」

lw´‐ _‐ノv 「ええ、勿論です。ここからかなり距離がありますからね」

イ从゚ ー゚ノi、 「それでは」

キツネの一言の後、意識のみの世界から解放された僕ら。
戻ってきた現実の感覚を確かめる様に両手を組んで伸ばす。

(´・ω・`) 「……っと。厄介な旅になりそうだなぁ……。
       僕らは全然準備できてないんだけど」

テンヴェイラを倒して戻って来たばかりだ。
道具の手入れをしておかなければ、長旅の最中にいつ不具合が起きるかわかったものではない。
ついでに言えば、僕の上着は服の袖から無くなっている。
流石にこの格好で冬の旅をするのは無理だ。

450 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:24:09 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「用意はしておいたよ。人数分ね」

シュールが戸棚を開くと、そこに新しい旅用の服が並んでいた。
たった三日でこれだけの用意をしたシュールの技術力は、いまさら驚くことでもない。

(´・ω・`) 「それにしても早く着いたね」

lw´‐ _‐ノv 「ショボン君は時間かかりすぎじゃないかな。海岸沿いを南下してたらそんなにかからない様な」

(´・ω・`) 「道が崩落してたから、山を登って迂回してから来たんだ」

lw´‐ _‐ノv 「あーなるほど。私たちは崩れた所をそのまま通ったからね」

(;´・ω・`) 「どうやって!?」

lw´‐ _‐ノv 「ロマを私が着て、でぃを抱いただけだよ」

身体能力を引き上げるロマンの外套があれば、確かに渡り切ることは可能かもしれない。

( ^ω^) 「ロマンの外套ってそんなにすごいのかお?」

(´・ω・`) 「規格外だね。まぁ、想定し得る錬金術を全て埋め込んだようなものだから」

lw´‐ _‐ノv 「二人とも無理やり通ればよかったのに」

451 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:24:51 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「いや、流石に降りたら登れなくなるし」

( ^ω^) 「もし反対側も駄目だったら手詰まりになっちゃうお」

あの時、崩落した海沿いの道を無理やり通ることも考えた。
死なないという特性を持つ以上、飛び降りても何ら問題は無い。
無いのだけれど、出来れば避けたかった。
ブーンが言った理由と、崩れた原因がわからないこともあって、僕らは山道を選んだ。

lw´‐ _‐ノv 「時には大胆さも必要だよ」

(´・ω・`) 「そうだったみたいだね」

( ^ω^) 「まぁ、あれは仕方ないお。三日位の差なら丁度良かったんじゃないかお」

lw´‐ _‐ノv 「準備する時間がもらえたからね」

(´・ω・`) 「そういえば、シュールは旅の間どうするんだ?」

通常の意識は周であり、旅の道中はどちらの意識が優先されるのか気になった。
場合によっては僕がロマンを羽織ったほうが良いだろうと。

452 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:25:42 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「これからしばらくは私が出てるつもりだよ。咄嗟の判断もしやすいしね。
        周にも許可をもらったから大丈夫。最期の旅だからね……」
   
(´・ω・`) 「最後?」

lw´‐ _‐ノv 「気にしなくていいよ。さて、そろそろ出発しようかな」

( ^ω^) 「おー馬とかは用意してるのかお」

lw´‐ _‐ノv 「買う予定の話はもうしているから大丈夫。お金はあるんだよね」

(´・ω・`) 「金貨にする時間は無かったけど、それなりの錬金術はブーンが」

( ^ω^) 「馬四頭程度に替えられる自信はあるお」

もともとが錬金術で商売をしていたブーンである。
どのようなものが売れるか、役に立つかはよく知っているだろう。

lw´‐ _‐ノv 「錬金術師がやってるところでね。身体強化が施されている中で一番質がよさそうなのを選んでおいたんだ。
        これからの道中はかなり厳しいだろうからね。通常の数倍はするけど大丈夫?」

453 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:26:19 ID:XuZMeezA0

( ´ω`) 「おー……それは……」

lw´‐ _‐ノv 「まぁ、足りなければ私たちが用意した分もあるから大丈夫。
        最悪この建物を国に売ればそれなりの値段はつくだろうしね」

(´・ω・`) 「ここを? いいのか?」

ずっと鍵を持っていたほどである。
そう簡単に手放していいものではないだろう。

lw´‐ _‐ノv 「まぁ、別にね。深い思い出があって取ってるわけじゃないんだよ。
        ただ場所が便利だったからなんだ。この国が一番素材を手に入れやすいしね。
        さて、お喋りはやめて出発するよ」

(´・ω・`) 「わかった」
 ∧  
(゚、。`フ 「やっと話がまとまったのじゃな」

( ФωФ) 「こちらは待ちくたびれたのである」

( ^ω^) 「お、すまんおね」

イ从゚ ー゚ノi、 「謝るようなことではないのでございます。二人が少々気が短いものですから」

シュールが一番にドアを開けて出ていく。
その後ろに続く黒いマントを羽織った白い猫。
手に入れた紅の災厄の素材を大事にしまい込み、僕らはその背を追った。

454 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:27:12 ID:XuZMeezA0
















36 紅の災厄  End


456 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 21:28:03 ID:XuZMeezA0
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです
   │
   │
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり
   │
32 血の遺志    最終編
33 空を舞う翼
34 地を穿つ角
35 港の都市
36 紅の災厄


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