(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
519 名前:名無しさん 投稿日:2016/07/24(日) 22:33:15 ID:XuZMeezA0















38 命の期限

520 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:34:19 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「ショボン君」

(´・ω・`) 「なんだ」

lw´‐ _‐ノv 「みんなを集めてきてもらっていいかな」

(´・ω・`) 「わかった」

十日後、彼女の予想よりは若干遅く、ようやく全ての準備が終わった。
不死殺しが完成するまでの間、僕らはそれぞれが最後の旅の準備をしていた。
食料や武器、便利な錬金術品まで四人で協力して創り出した物は過去最高の出来。

川 ゚ -゚) 「ん、時間通りだな」

呼びに行こうと思った時に、三人共が戻って来た。
時間を約束していたわけではなかったが、
出ていく前にシュールの作業を見て終わりを予想していたのかもしれない。

暗い表情のブーンは、恐らくタグを持って行ってきたのだろう。
家族の人間に何と言われたかはわからないが、あまり良い方向ではなさそうだ。

523 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:37:10 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「ブーン……」

(  ω ) 「わかってるお……」

俯きながらも、何処か納得したような表情をしていた。
遺族の反応は予想内のものだったのだろう。

( ^ω^) 「今は……こっちに集中するお」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね。そろそろ大詰めだよ」

(´・ω・`) 「不死殺しの、ですか」

lw´‐ _‐ノv 「随分とかかっちゃったけどね。素材の下処理も終わったし、これから本番。
        ま、もうそんなに時間もないんだけどね」

(´・ω・`) 「時間がないって……」
 ∧  
(゚、。`フ 「察してやるんじゃの」

( ФωФ) 「さて、吾輩からであるかの」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね」

524 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:39:54 ID:XuZMeezA0

外套に詰め込まれた錬金術はほぼ全て流し落とされた。
残っているのはロマン自身の意識だけ。

(´・ω・`) 「何か……芒に伝えておこうか」

( ФωФ) 「ふん、今更言い残しておくことは無いのである。彼女にはすべてを伝えておいた。
         ……だが、そうであるな。彼女の生きている姿を見に行ってやってほしい。
         吾輩がいなければ一人きりになってしまうであるからな」

(´・ω・`) 「約束しよう」

( ФωФ) 「安心して逝ける。元より長生きしすぎた」

lw´‐ _‐ノv 「……今までありがとう」

( ФωФ) 「礼を言われるようなことは無いのである。吾輩は自分の意思で生き方を決めたのだ。
         時間もないのであろう。長い付き合いだったが………………出会えてよかったと思えておる」

lw´‐ _‐ノv 「強化外套拾参式の素材は岳龍皮。
        堅く尖った岩肌のような表面には、四つの素材の中でも特に錬金術との親和性が高い」

( ФωФ) 「これでやっと……ゆっくりできるのであるな……」

525 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:40:28 ID:XuZMeezA0

シュールは岳龍皮を、透明な液体で満たされた大きな釜の中に沈める。
素材としての役割を果たすために、ロマンの精神はゆっくりと溶けていく。
溶解した岳龍皮は釜の中で黒い塊となって漂う。

( ´_ゝ`) 「次は俺たちだな」

(´<_` ) 「今更罪悪感に抱かれる必要はない。ロマンも俺たちもみんな望んで選んだからな」

lw´‐ _‐ノv 「……うん、そうだね。ごめんね……」

( ´_ゝ`) 「さて、この世とも遂にお別れだが」

(´<_` ) 「あまり死ぬことに対して思うこともないな」

( ´_ゝ`) 「ああ、だが未練が一つだけある」

(´<_` ) 「なんだ、アニジャ」

神妙な面持ちでこちらに向き直ったアニジャ。
今までの雰囲気とは大きく違い、初めて見る様子に思わず息をのんだ。


( ´_ゝ`) 「まだクールのおっぱいを揉んでいない」

526 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:40:50 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「……」


川 ゚ -゚) 「…………」


(´<_` ) 「…………」


(´・ω・`) 「…………」


( ^ω^) 「…………」


イ从゚ ー゚ノi、 「……」

 ∧  
(゚、。`フ 「……」

  _
( ゚∀゚) 「……」


(´<_` ) 「アニジャ、こういう時くらい我慢できんのか」

527 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:41:15 ID:XuZMeezA0

( ´_ゝ`) 「こういう時だからこそだろ。最期の願いなら聞いてくれるかもしれないじゃないか」

川 ゚ -゚) 「……断る」

即答するクール。

( ´_ゝ`) 「ぐっ……」

(´<_` ) 「こんなアニジャですまなかったな。いろいろと楽しかったぞ」

川 ゚ -゚) 「私もだ。多くを教えてもらったし、助けてもらった」

( ´_ゝ`) 「置物として過ごしてきた数百年を思えば、クールと旅をした近頃は楽しかったな」

(´<_` ) 「一度はバラバラになっていた俺たちもクールのおかげで再会できたしな」

( ´_ゝ`) 「そうだな。もうおっぱいは、諦めよう」

(´<_` ) 「もう少し早く諦めてくれればよかったんだが……」

lw´‐ _‐ノv 「二人とも、苦労を掛けたね」

528 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:41:44 ID:XuZMeezA0

( ´_ゝ`) 「労いの言葉はもう充分だ。
        もし生まれ変わるようなことがあれば、またシュールと過ごせることを願っておく」

(´<_` ) 「そうだな。きっとまた双子として会いに行こう」

lw´‐ _‐ノv 「うん」

川 ゚ー゚) 「……その時は私にも会いに来い。胸を触らせてやることはないがな」

( ´_ゝ`) 「残念だ」

サスガ双子がその心を宿すは赤と青の双珠。
シュールはそれらを、釜の中に沈めた。

lw´‐ _‐ノv 「濫觴の双珠は一点を除いて全く同一の存在である二つの珠。
        双子洞窟の最深部に存在している蒼珠と緋珠。
        特に金属との錬金術に強力な触媒効果を持っている」

黒い靄の外側で光る赤と青。
シュールがかき混ぜても三つは決して重ならず、それぞれが入り乱れた文様を描く。

529 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:42:49 ID:XuZMeezA0

イ从゚ ー゚ノi、 「私の順番でございますね」

lw´‐ _‐ノv 「キツネ……」

イ从゚ ー゚ノi、 「やっとでございますね、シュール様」

lw´‐ _‐ノv 「随分とかかっちゃったね」

イ从゚ ー゚ノi、 「私はいつまでも待つつもりでございましたよ。
        目的が達成されたわけではございませんが、私たちの役目はここまででございますね」

lw´‐ _‐ノv 「ショボン君が継いでくれるから、安心して任せられる」

イ从゚ ー゚ノi、 「少々ずるいやり方であると思いますが……」

(´・ω・`) 「ほんとにそうだな。どう考えても僕には断れない」

lw´‐ _‐ノv 「あまりよくない偶然だったけどね……。
        たぶん、こういったことが無くてもやってくれたんじゃないかな」

(´・ω・`) 「……仮定に対して明確な返事は出来ないな」

530 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:43:18 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「ショボンならきっと手伝ったと思うおね」

川 ゚ -゚) 「私もそう思う」

(´-ω-`) 「はぁ……」

イ从゚ ー゚ノi、 「さて、仙帝……。いえ、ジョルジュ。聞いておりますか」

( ゚∀゚) 「なんだ」

話を振られたジョルジュは壁際に座ったまま答える。

イ从゚ ー゚ノi、 「華国を任せましたよ」
  _
( ゚∀゚) 「言われるまでもない」
 
イ从゚ ー゚ノi、 「そうでございましょうね。ですからもう一つ。
        どうかシュール様の目的を達するまでの協力をお願いします」
  _
( ゚∀゚) 「っち……」

531 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:43:49 ID:XuZMeezA0

イ从゚ ー゚ノi、 「さて、シュール様。私はもう構いません」

lw´‐ _‐ノv 「話が終わって無いんじゃ……」

イ从゚ ー゚ノi、 「仙帝は賢い方でございます。どちらがより益になるかなど考えるまでも無いでしょう」

lw´‐ _‐ノv 「……ありがとうね」

扇を開いたまま釜の中へと沈める。
骨組みが先に溶け、白い扇面が薄く広がって浮いていた三つの素材を包み込んだ。

lw´‐ _‐ノv 「夢幻乃扇はその全てに蜃気楼葉桜の幹を使っている。
        見ることは出来ても触れることは出来ない蜃気楼。
        葉桜はあらゆる素材を繋ぎ合わせることのできる特別な緩衝材になる」
 ∧  
(゚、。`フ 「最後はわらわか」

(´・ω・`) 「まさかその猫の姿のままじゃないだろうな」

生きた動物の姿のまま錬金術に利用するのは流石に抵抗があった。
実際に行うのは僕ではなくシュールであるが。

532 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:44:55 ID:XuZMeezA0

生きた動物の姿のまま錬金術に利用するのは流石に抵抗があった。
実際に行うのは僕ではなくシュールであるが。
 ∧  
(゚、。`フ 「そんなわけがなかろう。他の者達と同じように想起の鈴がわらわの意識じゃ」

首元を掲げる。
そこに結ばれているのは記憶を呼び戻す金色の鈴。

(´・ω・`) 「だったら何故」
 ∧  
(゚、。`フ 「わらわがこうであることを望んだからじゃ。精神だけとなってこの世界に干渉が出来なくなるよりも、
      例え人間でなくともこの世界に関わり続けたいとな。
      意識を分かつことは簡単じゃった。シュールの前例もあったことだしの」

lw´‐ _‐ノv 「猫に錬金術を適応させる方が苦労したね。なにせ不老不死なんてその時はまだ夢物語だったから」

(´・ω・`) 「でぃはでぃのままってことか?」
 ∧  
(゚、。`フ 「しばらくはの。いずれこの意識も消えてなくなる。
      ぬしの頼まれ事くらいは見守ることができるじゃろうな。
      さて、頼むぞ」

lw´‐ _‐ノv 「わかったよ」

533 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:45:55 ID:XuZMeezA0

優しく抱きかかえ、首輪の鈴を取り外す。
床におろされたでぃはじっとシュールの動きを見つめている。
白く広がった膜の中心に置かれた鈴。

その点を中心に同心円状に波紋が広がる。
最初はゆっくりと、次第に強く激しく。

lw´‐ _‐ノv 「鳴金は人間が近くにいることで鳴り響く金属。
        思いが強ければ強いほど、感情が激しければ激しいほど、より高く鳴る。
        原理は誰にも解明できてないんだよね。
        別の世界で繋がっているとか、とんでも理論を唱えている人もいるくらいに」

波だった表面から青と赤の光が拡がり、しばらくしてから再び白が全てを包み込んだ。
綺麗な球体となって釜の中心に収まった。
 ∧  
(゚、。`フ 「ふむ、特に問題は無さそうじゃの」

( ^ω^) 「わかるのかお?」
 ∧  
(゚、。`フ 「わらわを侮るなよ。これでもぬしらよりも遥かに高度な錬金術をシュールと共に研究してきたからの」

534 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:46:41 ID:XuZMeezA0

川 ゚ -゚) 「これで終わりか?」

lw´‐ _‐ノv 「これが最後かな」

シュールが取り出したのは透明な立方体。
水分が固められたかのように僅かな振動で表面が揺れる。
中心では黒とも紫とも表現できる線が暴れていた。
その光が目に入った瞬間に、テンヴェイラと相対した時のように鳥肌が立つ。

(´・ω・`) 「なんだそれは……」

lw´‐ _‐ノv 「正直、こんなにうまくいくとは思ってなかったよ。
        この中に入ってるのは、テンヴェイラの鋏が持つ断裁の性質そのもの」

川;゚ -゚) 「性質そのものだと? そんなことは不可能だ」

lw´‐ _‐ノv 「不可能じゃなかったからこそここにある。運に助けられた部分も多いけどね。
        テンヴェイラの鋏が砕けた欠片であったこと、空魂との相性がよかったんだ」

向こう側にどこまでも続いていそうな無数の線の集合体。
空間すら断ち切る威力。

535 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:47:08 ID:XuZMeezA0

lw´‐ _‐ノv 「ちょっと離れていてね。たぶん大丈夫だと思うけど、失敗する可能性もあるから」

指示に従って壁際まで逃げる。
シュールはまるで卵を割るかのような動作で、水の塊を開いた。
刺々しい塊は重力を無視する速度で少しずつ釜の表面へと近づいていく。
ときに膨れ上がろうとしては見えない力に押さえつけられている。

着水した瞬間は僕の場所からは見えなかった。
ただ音もなく、釜が縦に数十分割され、中の水が部屋の床を汚した
残っていたのは、壺の底に刺さった一本の棘。
髪の毛よりもなお細く、注意深く観察しなければ見逃してしまうほど。

lw´‐ _‐ノv 「……ふぅ」

シュールは溜息と共に、その棘に鉱芯を重ね合わせた。
鋼色の光を発し、鉱芯が一気に膨れ上がる。
それをシュールは誰もいない窓際に向かって振り抜いた。

lw´‐ _‐ノv 「完成だね」

シュールの言葉の直後、家屋が一直線に避けた。
初めからそうであったかのように。

536 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:47:39 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「……冗談だろ」

窓の外、空に浮かぶ雲までもが分断されていた。

lw´‐ _‐ノv 「ごめんね、家を壊しちゃって」

シュールは小型のナイフのような形状になったそれに、用意していた布を巻きつけて縛る。
その後机の上に置いて、散らばったゴミの片づけを始めた。
呆気にとられていた僕らは、その作業を見てようやく我に返る。

川 ゚ -゚) 「いや、私は構わないが……」

(´・ω・`) 「これがテンヴェイラの力か……」

lw´‐ _‐ノv 「まぁ、これっきりなんだけどね」

( ^ω^) 「どういうことだお?」

lw´‐ _‐ノv 「今放った斬撃はテンヴェイラの力を落ち着かせるためなんだ。
        これでこの武器は、正真正銘の不死殺しへと相成った。取り扱いには十分気を付けてね」

(;´・ω・`) 「あ、あぁ」

537 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:48:06 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「今の攻撃が何回も出せたら楽なんじゃないかお」

lw´‐ _‐ノv 「分かってるとは思うけど、そう簡単じゃないんだよ。
        テンヴェイラの力は集中させなきゃいけない。斬撃に乗るようじゃ駄目だ。
        刀の表面に纏っているくらいがちょうどいい」

(´・ω・`) 「これで、シュールのもう一つの意識を殺せるんだな」

lw´‐ _‐ノv 「確実に。ただしショボン君……」

(´・ω・`) 「わかってる。これは僕らにとっても脅威だという事だな」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね」

不死殺し。その言葉の意味を解らない僕らではない。
僕らホムンクルスにとっても危険な武器だ。

(´・ω・`) 「具体的にはどうなる」

lw´‐ _‐ノv 「不死殺しの持つ特性は、錬金術の完全な破壊。
        どうなるかは試してみないとわからないけど、錬金術で構成された身体は崩壊する。
        錬金術そのものであるホムンクルスはドロドロに溶けて原型が無くなるんじゃないかな」

538 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:48:45 ID:XuZMeezA0

(; ^ω^) 「とんでもないおね……」

川 ゚ -゚) 「一つ聞いてみたいのだが、痛みはあるのか?」

lw´‐ _‐ノv  「無いよ。それくらい強力だから」
  _
( ゚∀゚) 「敵に利用されないように気をつけろってことか」

lw´‐ _‐ノv 「そうだね。……っと、そろそろかな」

(´・ω・`) 「どうした?」

バランスを崩したシュールが壁に寄りかかり、そのままへたり込んだ。

lw´‐ _‐ノv 「もう少しくらい大丈夫だと思ってたんだけど、無理をしすぎたから……」

この十日間、シュールは片時も離れずに錬金術を行っていた。
昼夜も問わず、最低限の休憩だけを挟んで。
その間はずっと表に出ていたシュールの意識。

(;´・ω・`) 「待て、まだ聞きたいことが……」

lw´ _ ノv 「後は……よろしくね……周に……謝っ……」

539 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:49:40 ID:XuZMeezA0

全身の力が抜け、シュールは寝息を立て始めた。
目が覚めた彼女は、恐らくもう彼女ではない。
本来の持ち主へと体の自由は返される。

(´・ω・`) 「……」

その小柄な体を持ち上げてベッドに運び、そっと寝かせた。
身体を揺らされた彼女に起きる気配はない。

( ^ω^) 「どうするんだお」

(´・ω・`) 「もうここにとどまる理由は無い」

川 ゚ -゚) 「……行くのか」

(´・ω・`) 「時間がないんだ」
  _
( ゚∀゚) 「ったくよ……で、どうするんだ」

(´・ω・`) 「ここからさらに北に進んだ先、ファーワルにある大氷窟。
       そこに彼女がいる」
  _
( ゚∀゚) 「さらに寒いところかよ」

( ^ω^) 「だからこそ準備してきたんだお」

540 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:50:24 ID:XuZMeezA0

川 ゚ -゚) 「確かに、必要以上に用意はしてきた。だが、相手はシュールの片割れなわけだろう。
      簡単に終わるとは思えないがな」

(´・ω・`) 「それでも行かなきゃいけない」

川 ゚ -゚) 「わかっているさ。別に反対なわけじゃない」
  _
( ゚∀゚) 「さっさと終わらせるぞ。俺は国に帰ってまだやるべきことがある」

(´・ω・`) 「ブーン、行こう!」

( ^ω^) 「了解だお!」

四人分の荷物はすでに用意していた。
シュールが創り出した不死殺しを懐に仕舞い、見張り小屋から外に出る。
冬の空で太陽が己を主張し、平原の雪は半分ほどが溶けていた。

(´・ω・`) 「絶好の出発日和だな」

541 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:50:59 ID:XuZMeezA0

川 ゚ -゚) 「周だったか。書き置きか何かを残しておいたほうが良いんじゃないか」

(´・ω・`) 「シュールが既に用意していた。机に置いてあったから目が覚めた時に気付くだろう」

( ^ω^) 「さて、目指すはファーワルだおね」
  _
( ゚∀゚) 「外にいる大群に捕まらなきゃいいがな」

(´・ω・`) 「……考えたくもない」
  _
( ゚∀゚) 「これだけの天気で雪用の装備に変えた馬もいれば遅れはとらねぇだろ」

川 ゚ -゚) 「あれら目的はこのフラクツクだろう。わざわざ四人しかいない私たちを追いかけて来るとは思えない」

( ^ω^) 「いざとなっても流石兄弟監修の武器があるから余裕だお」

胸の中の不安は消えないままに、馬に跨って城下を目指した。

542 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:55:50 ID:XuZMeezA0

・  ・  ・  ・  ・  ・


  _
(; ゚∀゚) 「誰だったよ。フラクツクが目的だって言ったの」

川;゚ -゚) 「知らん、それよりもっと急げないのか」

(;´・ω・`) 「雪の上をそんなに早くはしれるわけがないだろ」

( ^ω^) 「この速度で走ってれば追いついて来れないお」

(´・ω・`) 「そうだけどさ……」

僕らが第一の城壁を出るまで大人しかった軍勢は、
門が開くや否や動き始めた。

一面の白を丁寧に塗り潰しながら。
北に向けて走る僕らの背を追いかけるように、群れは方向転換をしてきた。

馬よりも遅いようで、しばらく走っていただけでほとんど見えないほど遠くにいる。
ここ数日の晴天も幸いして、雪原は思っていたよりも移動しやすい。

543 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:56:35 ID:XuZMeezA0

一週間ほどかかる見込みであったが、それよりも早く着くだろう。
予定が早まったところで何の問題もない。
  _
( ゚∀゚) 「そう言えば聞こうと思って忘れてたんだが、ファーワルってあのファーワルか」

川 ゚ -゚) 「その聞き方でわかると思ってるのか」
  _
( ゚∀゚) 「確かにな。確か氷の洞窟と一体化した国だよな」

(´・ω・`) 「一体化してる?」
   _
( ゚∀゚) 「氷の洞窟が国自体を包み込んでるような場所だぞ?」

(´・ω・`)  「あぁ、それで制限されているのか。シュールがそんなことを言ってた気もする……」

( ^ω^) 「クールは知ってたのかお?」

川 ゚ -゚) 「しばらくフラクツクに滞在していたが、ファーワルの話は少し聞いたことがある程度だ。
      周辺国とも密に交流をしていたが、国が立体迷路みたいになっているそうだな。
      あの変な蟲に包囲されてからは知らない」

錬金生物に滅ぼされた国は、全てフラクツクの隣国である。
そこにすら情報が入ってきていないということは、今どうなっているのか誰も知らないのだろう。

544 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:57:29 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「調査に出たりはしなかったのか?」

川 ゚ -゚) 「貿易量は急減したが、フラクツクとファーワルは別に共同体じゃない。
      この辺りの危険は増したが、わざわざリスクを負って調べることではなかったよ。
      フラクツクは襲撃を容易く蹴散らしたからな。他の三国とは違う」
  _
( ゚∀゚) 「……あんな弱そうな奴らに本当に三つも国が滅ぼされたのか?」

(´・ω・`) 「僕も伝聞でしか知らない……行けば分かるさ」
  _
( ゚∀゚) 「は?」

(´・ω・`) 「ファーワルは滅ぼされた国の一つだ」
  _
( ゚∀゚) 「あそこは軍隊だって所持していたし、錬金術師だっていたはずだ」

(´・ω・`) 「行ったことがあるのか?」
  _
( ゚∀゚) 「昔少しだけな。滅びたなんて信じられん。フラクツクほどではないが、それなりに歴史のある国だぞ。
      それこそ内部からでも攻撃されない限り……」

(´・ω・`) 「ファーワルにリリと、シュールの悪意がいる」

545 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:58:01 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「は?」

(´・ω・`) 「ファーワルは滅ぼされた国の一つだ」
  _
( ゚∀゚) 「あそこは軍隊だって所持していたし、錬金術師だっていたはずだ」

(´・ω・`) 「行ったことがあるのか?」
  _
( ゚∀゚) 「昔少しだけな。滅びたなんて信じられん。フラクツクほどではないが、それなりに歴史のある国だぞ。
      それこそ内部からでも攻撃されない限り……」

(´・ω・`) 「ファーワルにリリと、シュールの悪意がいる」
  _
( ゚∀゚) 「おいおい……あそこにそれがいるなんて聞いてないぞ……」

( ^ω^) 「ジョルジュは何も聞かなかったし、不死殺しができるまでいつも出かけてたから……」
  _
( ゚∀゚) 「ったく……手伝えと言うんなら説明しろよな」

川 ゚ -゚) 「まぁ確かにな。だがショボンにも余裕がなかったんだろ。
      私みたいに全ての説明を受けていたわけではなかったみたいだしな」

546 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:58:30 ID:XuZMeezA0

シュールは最低限の事しか教えてくれていなかった。
番人の命を犠牲にしなければ不死殺しは創れないことにしたってそうだ。
胸に手を当てると、奥にしまっている小さなナイフが僅かに熱を発したように感じた。

(´・ω・`) 「説明してなかったことは謝るさ。何か他に聞いておきたいことはあるか」
  _
( ゚∀゚) 「シュールの悪意はどういう姿をしてる? それがわからなきゃ壊すことができないだろ」

(´・ω・`) 「わからない。彼女は水晶に閉じ込めた、と言っていたけれど。それがどんな水晶なのかは……」
  _
( ゚∀゚) 「どのみち自分から動いたりすることは出来ないわけだ」

(´・ω・`) 「そうなるね」
  _
( ゚∀゚) 「案外楽な依頼かもしれないな」

( ^ω^) 「気楽すぎるお」
  _
( ゚∀゚) 「ブーン君こそ珍しいな。普段はそんなに難しく考えないだろ」

( ^ω^) 「ジョルジュもシュールの実力を目の当たりにしたお?
        あれだけの知識を持っている人間が敵なんだお。もっと警戒すべきだお」

547 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:58:59 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「ジョルジュもシュールの実力を目の当たりにしたお?
        あれだけの知識を持っている人間が敵なんだお。もっと警戒すべきだお」

川 ゚ -゚) 「話だけしてても仕方がないだろう。あと七日もあればファーワルに着く。
       問題はそれからだ。どうやってその悪意とやらを探すか」

考えうる手段をとるための準備はしてきた。
だが、それらが必ずしもうまくいくとは限らない。
失敗した時の為にも常に他の案は考えておくのがいいだろう。

旅の間には他に何もすることのない時間が山ほどある。
馬の背にのっていれば偶に方位だけを確認すれば済むのだから。

(´・ω・`) 「いくつか目途は付けているけど、もし違ったら虱潰しにするしかないかな」

( ^ω^) 「目途?」

(´・ω・`) 「ワカッテマスの記憶を見た時に、あの男が歩いていた道を覚えてる。
       今も昔も同じ場所にいればいいんだけどね」
  _
( ゚∀゚) 「なるほどな。他に気を付けることはあるか」

(´・ω・`) 「錬金生物かな」

548 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 22:59:29 ID:XuZMeezA0

かつてセント領主国を護っていた強化兵士。
それと同等以上の性能を持つ兵士がいてもおかしくはない。
アルギュール教会とシュールの悪意が完全な傘下とは限らないが、ワカッテマスは教会のトップであった。
それが二人きりで会うほどの関係にあることは間違いない。

川 ゚ -゚) 「一体が少々強いのは構わないが、数が多いのは面倒だな」

( ^ω^) 「だおね。僕ら四人で相手にするのは大変だお」
  _
( ゚∀゚) 「そんときの為に錬金術を散々用意しておいたんじゃねぇのか」

( ^ω^) 「持ち運べる量には限りがあるから、物量作戦で来られたら困るお」

(´・ω・`) 「蟲の軍隊はもうだいぶ後ろだ。気にしなくていい」

単純な構造であるからこそあれだけの数を用意できたのだろう。
いくらシュールの悪意であっても、複雑な命令を聞くことのできる生物を量産することなんてできはしない。
  _
( ゚∀゚) 「結局のところ行き当たりばったりってことか」

( ^ω^) 「僕たちらしいお」

川 ゚ -゚) 「確かに。昔を思い出すな」

549 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:00:26 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「クールちゃん、こういうの一番嫌いだったじゃねーか」

川 ゚ -゚) 「年月は人を変化させるということだ。私も少しは寛容になったのだろう」

( ^ω^) 「僕には厳しいけどね」

川 ゚ -゚) 「自分に甘い奴に優しくしたっていいことはないさ。
       っと。ショボン、どうした?」

(;´・ω・`) 「……嘘だろ」

小さな川を越えたところで、僕は手綱を引いて歩みを止めていた。
渓谷を埋め尽くした黒の軍隊。先回りされたわけではない。
まるで人間のごとく丁寧に列を為し、それぞれの中心には先程の集団にはいない巨大生物がいた。

こちらを認識し、全体が前へと進む。
立ち尽くす僕らとの距離が少しずつ狭まっていく。
左右は切り立った崖のように急で、逃げ道は背後にしかない。

川 ゚ -゚) 「どうする?」

(´・ω・`) 「……迂回できないことはないと思う」

550 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:00:58 ID:XuZMeezA0

数は多いが、後ろの集団と同様に鈍足であることに疑いようはない。
問題は、これだけの数を引き連れたままファーワルへと向かわなければならないこと。
既に滅んでしまったと聞いてはいるが、生き残っている人間がいる可能性はある。

規模は後方の二倍程度。
生存者がいる都市に侵入されてしまえば、甚大な被害は免れえない。

そして、もう一つ厄介なのは迂回するのにどれだけ時間がかかるかわからないこと。
予めシュールと決めたルートを外れてしまって、僕らはコルカタにたどり着くのに二倍以上の時間を要した。
下手な進路変更はそれと同様のことを引き起こしかねない。
  _
( ゚∀゚) 「早く決めろよ。逃げるにしても、戦うにしても」

層は厚く、直線距離を突き破ることは出来ないだろう。
戦えば必然、敵の全てを打ち倒す必要がある。
そうなれば背後の敵はさほど気にする数ではない。

ホムンクルスであるが故に、戦っても無傷で突破することは容易い。
その後に対する備えが心許なくなるが、これ以上の兵隊を生み出すほどの資源があるかどうか。
たとえ生命体を生み出す錬金術として確立された方法があったとしても、
素材の用意を避けては通れない。

ならば

551 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:01:38 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「突破する。後顧の憂いはここで取り払っておこう」
  _
( ゚∀゚) 「了解した。俺はでかいのを中心にやる。武器がそっち向きだからな。
      試す機会が欲しかったところだ」

ジョルジュの武器は両手持ちの大剣。
鞘から抜き放たれた刀身は鋼色に輝く。剣先が雪原を撫で、積もった雪はゆっくりと窪んでいく。
見た目には何の変哲もない剣を構えて、ジョルジュは軍勢に飛び込んだ。
  _
(#゚∀゚) 「らぁっ!」

横薙ぎが叩き込まれた数匹は、動きを止めた。
一瞬を引き延ばしたかのように、傷口がゆっくりと開いていき、半分になって崩れ落ちる。

( ^ω^) 「ジョルジュの剣ってどんな能力だお?」

川 ゚ -゚) 「切断の継続。あの剣で与えられた傷口は広がり続ける」

(;´・ω・`) 「えげつないな……」

( ^ω^) 「早く行ってあげようお」

552 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:03:25 ID:XuZMeezA0

餌に集る蟻のように、ジョルジュを中心に巨大な渦が形成されていく。
このままではさすがの彼でも危ないだろう。

(#^ω^) 「おおおっ!!」

ブーンが持つのは刃のついていない斧槍。
彼が選んだのは、最も使い慣れた武器と同じ形状。
殺傷力は最低限に抑えつつも、威力は波の武器を遥かに凌ぐ。

川 ゚ -゚) 「"砕く"と"響く"。ブーンの武器の持つ性質だ」

(´・ω・`) 「知ってるさ、殺すことを受け入れないあいつらしいやり方だ」

川 ゚ -゚) 「私の武器の話はしたかな?」

(´・ω・`) 「聞いてないけど、僕らも行こう」

ブーンは斧槍を左右に何度も叩き付け、道を切り開いていく。
ジョルジュはあっという間に巨大生物の背に駆け上がっていた。

川 ゚ -゚) 「それもそうだな。さて……」

553 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:03:51 ID:XuZMeezA0

荷物を担いだままの二人とは違い、クールと僕は最低限の道具だけ取り出した。
残りを馬の背に括り付けてから駆け出す。
前を行く二人の後ろを追うように戦場に飛び込んだ。
振るう剣は容易に敵を切り裂き、抵抗を感じない。

目の前にいる羽虫を潰すように、ただひたすらに斬りつける。
脚部と腹部は柔く、最も堅い後背部ですら僕らの錬金術武器は止まらない。
一撃で戦闘不能にした亡骸を踏み越えながら、次の獲物を狩る。

(´・ω・`) 「っと」

のろまな攻撃を避けることは容易かった。
目の前に叩き付けられた大木のような前足。鎧に身を包んだ巨象。
二、三度斬りつけたところでビクともしない。

川 ゚ -゚) 「ショボン! 目か頭を狙え!」

(´・ω・`) 「わかった!」

何処からか聞こえてきたクールの叫び声に返答だけして、
蟲を片付けながら背後へと回る。
両後ろ足の間に入って何度も剣を振るった。

554 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:04:58 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「っ!!」

叩き付けられた太く長い尾を辛うじて剣で受け止めた。
剣に入った小さな罅は刀身全体を埋め尽くし、砕け散って光の粉となる。

(´・ω・`) 「蟲にも感情があるんだろうか……だとすれば少しくらいは驚いてくれればいいかな」

無くなってしまった刀身を振るう。
後ろ両足の間を移動しながら。粒子となった硝子が剣の後を追って鞭のような斬撃を生み出す。
剣が元の姿を取り戻したと同時に、戦象は崩れ落ちた。

(´・ω・`) 「ふぅ……」
  _
( ゚∀゚) 「思ってたよりも数が多いな……」

(´・ω・`) 「まだ大きい奴が残ってるぞ」
  _
(; ゚∀゚) 「馬鹿言うな、これでももう二桁は殺してる」

散らばった骸で足の踏み場すらない。
全体の半分ほどは殺しただろう。

555 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:05:56 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「動き続けるってのは……やっぱりきついな」

雑魚とは言え攻撃を受ければ痛みもある。
筋肉が限界を告げ始めるが、動くことをやめるわけにはいかない。
冬の空の下で、汗をかき湯気を出しながら。
  _
( ゚∀゚) 「さっさと片付けなきゃ後ろのが追いついてくるぞ」

(´・ω・`) 「わかって……る!」

頭部を破壊して動きを止める。
慣れてきたせいか、殺すための動作が少なくて済むようになっていた。
  _
(; ゚∀゚) 「おい、ブーン君やべぇぞ」

(;´・ω・`) 「くそ……っ!」

必死に武器を振るうブーンの周囲には、黒い壁が出来上がっていた。
砕ききれない残骸が山と積み重なっている。
強引に道を作り駆け寄った。

(´・ω・`) 「大丈夫か?」

(; ^ω^) 「なんとか……だお……」

556 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:06:39 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「だからそんな武器はやめとけって言ったんだ」

川 ゚ -゚) 「まだ数が多いな……」

一カ所に集まった僕らを囲うのは十重二十重の敵。
残る数体の巨象と、減らない蟲。

(;´・ω・`) 「くっそ……」

川 ゚ -゚) 「ショボン、そろそろ抜けれる程度には片付けた。全部を倒していたらキリがない」

(´・ω・`) 「だね……」

凍るような寒さの中で、吹き出る汗は止まらない。
お互いの死角を庇いながらを剣を振り回し、押し潰されない様に適度な距離を保つ。

( ^ω^) 「……だけどどうやって逃げるお」

黒色の奔流は出口を見つけることすらままならない。
均衡状態を作り出すことでやっとなのだから。
  _
( ゚∀゚) 「ちょっと時間をくれ。対応できそうな道具がある」

557 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:07:14 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「わかった」

ジョルジュを中心に、三方をそれぞれが護る。
死ぬことを怖れない敵は、闇雲に距離を詰めて来る。

川 ゚ -゚) 「……まだか? あれが来たら厄介だぞ」

象型の錬金生物が蟲を踏みつぶしながら一歩ずつ迫ってくる。
味方すら塵程度にしか考えていない行進は止まることがない。
死守しているこの場所を踏み抜かれてしまえば、均衡は一気に崩れる。

(#゚∀゚) 「耳を塞げっ!」

掛け声と同時に立ち昇る黒と白の乱流。
衝撃波と共に踏み荒らされた雪原から立ち昇った五つの柱。
吹き荒れる風は視界を塞ぐほど。

ぽっかりと空いた空洞のように、爆発付近の錬金生物は失われていた。
  _
( ゚∀゚) 「ちょっと威力がありすぎたか……まぁいい。走れ!」

動きが止まった隙に、一直線に包囲網を切り裂いた。
幸いだったのは、錬金生物が馬には目もくれなかった点。
少し離れた場所にとどまっていたその背に飛び乗り、大きく迂回しながら走った。

558 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:07:49 ID:XuZMeezA0

狭くなっている場所とは言え、大半の敵は既に物言わぬ亡骸となっており、
通り抜けられるだけの隙間はあった。
後を追ってくる集団のの姿が次第に見えなくなっていく。

(´-ω-`) 「はぁ……」

( ^ω^) 「何とか撒けたおね」

川 ゚ -゚) 「これだけ正確に進路を予測されているなら、道を変えるべきだったか?」

(´・ω・`) 「ここを大回りしていくとなると、それだけでも一週間以上かかる。
       だからこそ敵が待ち伏せてたのかもしれないけど」

手元の地図を確認しながら答える。

( ^ω^) 「僕たちが来るってことが分かってたってことかお?」

川 ゚ -゚) 「そうとしか考えられないが、何処から情報が漏れた?」

(´・ω・`) 「……わからない」

旅の目的地を知っているのはシュールと古代錬金術師たちの番人、そして僕ら四人だけのはずだ。

559 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:09:02 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「相手はシュールの悪意。バレた原因をいまさら考えたところで意味はないだろ」

川 ゚ -゚) 「蓋をしていいほどの小さな問題ではないと思うが。
      北上するルートまで予想されているのは不気味だな」

(´・ω・`) 「シュールの考えが読まれているってことか」

( ^ω^) 「どうするんだお? 今から道を変えるかお?」

(´・ω・`) 「……待ち伏せを怖れて遠回りすることは、相手の思う壺だろう」

川 ゚ -゚) 「このまま馬鹿正直に指示された道を進むのか?」

(´・ω・`) 「……ここからは道も広くなってるし、隠れる場所は無い。
       天気が崩れる前にファーワルに着きたい」

不老不死者とは言え、吹雪の中を進むことはできない。
目印にできるものが何もない平原で闇雲に動き回れば、すぐに遭難してしまう。
  _
( ゚∀゚) 「出来るだけ急ごう。さっき戦った集団に監視役が紛れてれば面倒なことになる」

( ^ω^) 「おーっし、一気に駆け抜けるお!」

560 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:10:33 ID:XuZMeezA0

・  ・  ・  ・  ・  ・



山のような氷の塊が網目のように立体的に広がった上に存在する都市。
そのあちこちに見える家々は、乱反射した光に照らされて青白く輝く。

(´・ω・`) 「見えた。あれが氷窟都市ファーワル」

( ^ω^) 「すげぇおね……」

陽の光を浴びてなお溶けない永久凍土は、もはやこの地方に住む人々にとって大地と変わらない。
氷の上で作物を育て、氷の上で動物を狩る。
極寒の地で、どんな人たちが暮らしてきたのだろうか。

(´・ω・`) 「はぁ……」

月明かりが強い夜。
照らされたファーワルの都市には明かりが一つも見えない。
  _
( ゚∀゚) 「人の気配はないが……うじゃうじゃと感じるな」

561 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:11:02 ID:XuZMeezA0

姿が見えなくても、錬金術によって生み出された存在は肌を刺激する。
少なくともこの前の渓谷に戦った数の数倍はいるであろうと。

川 ゚ -゚) 「どうする? 夜に紛れて近寄るなら、そんなにチャンスは多く無い」

強すぎる空の光のせいで、一体は柔らかく照らされている。
夜の闇と振り始めた白に紛れたところで、すぐに見つかってしまうだろう。

(´・ω・`) 「白昼堂々、よりはいいかな」

長距離を一気に駆け抜けてきたせいで疲労はある。
だが、のんびり休憩している余裕はない。

川 ゚ -゚) 「……十分ってところか」

空を見上げクールが呟く。
満天の星空の中心で、最も明るい光を放つ月。
幅が広く厚みのある雲がちょうどその端にかかったところであった。

静かに積み重なる雪は真っ直ぐに空から地面へと落ちていく。

(´・ω・`) 「行こう」

562 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:12:33 ID:XuZMeezA0

雲が月その全体を覆い隠した時、僕らは丘を下り始めた。
直線距離にしておよそ一時間ほどだろうか。
手の届きそうなほど近くにありながら、その道の遥か先にあるように思えた。

新雪を踏み抜く音だけが静かな夜に響く。
誰も口を発することは無く、ただ全身の感覚に精神を集中させていた。
僅かな変化すら見逃さないよう。

川 ゚ -゚) 「……おかしくないか」

平野を半分ほど進んだところでクールが口にした疑問。

川 ゚ -゚) 「私たちがどういった道を通っているのか分かっているとして、なぜここまで何の襲撃もない」

渓谷を越えてから、僕らの進行を阻むものは何一つなかった。
あれだけの錬金生物を準備できる時間があるのであれば、他にも罠を仕掛けられたはずだと。
僕もまた同じ疑問を抱えていた

(´・ω・`) 「あの渓谷で食い止めるつもりだったんじゃないか。
       あれだけの数を用意するのは相当手間がかかっただろう」
  _
( ゚∀゚) 「いや、仮に俺が敵の立場なら、渓谷ごと吹き飛ばしていた。
      それをしなかったのは、錬金生物と俺らをわざと戦わせて、なおかつ抜けさせるためじゃないのか」

563 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:14:04 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「……だったら、不味いんじゃないかお」
  _
( ゚∀゚) 「あくまで最悪の場合だ。強行軍を続けて俺らが最も疲労したこの広場は、絶好の狩場ということになる。
      だが、錬金生物の気配はファーワルの中にしかない。それが俺にもわからねぇ」

川 ゚ -゚) 「錬金術が利用されている仕掛けならある程度なら私たちは感じ取れる。
      そうでないとすれば?」

(´・ω・`) 「通常の罠で僕らに致命傷を与えることはできない。足止めにもならないだろうね」

川 ゚ -゚) 「なら、私たちに感知できない錬金術を作成したとか」

(´・ω・`) 「有り得ない可能性じゃないけど、それは無理だと思う。
       僕らが錬金術の雰囲気を感じ取るのは、シュールでも説明できない。
       それの裏をかくなんてことができるはずが……」

全身に走ったひりつくような空気の揺らぎ。
冷たい風が吹き抜けたのと勘違いする程に小さな、それでいて確かな感覚。

(#´・ω・`) 「下がれっ!!!!!!!」

564 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:15:14 ID:XuZMeezA0

雪の平原が横一直線に避け、開いた暗闇から続々と流れ出てきた黒き奔流。
視認出来るほどの距離になって、それらが幾つかの種類に別れていることが分かった。

最も数が多いのは、先程から戦い続けた甲殻系の蟲。
それに並ぶように現れたのは、狼のように荒々しい四足歩行の獣。
百を超える巨大な象は全身に鋭い金属片を巻き付けている。

まるで手当たり次第試したかのように、その大群は様々な生物種を模していた。
  _
( ゚∀゚) 「気が付かなかったな……」

(´・ω・`) 「ここはもうファーワルの領土内だったってことか」

僕たちが平野だと思っていたこの場所の地下深くには、ファーワルの氷窟がずっと拡がっているのだろう。
分厚い氷に阻まれて、僕らは足元に蠢く錬金生物を見逃してしまっていた。

川 ゚ -゚) 「逃げられると思うか?」

( ^ω^) 「目的地を前にして、どう考えても無理だお……」

川 ゚ -゚) 「やれやれ、これは本腰を入れた方がよさそうだ」

565 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:15:49 ID:XuZMeezA0
  _
( ゚∀゚) 「出し惜しみしている余裕はない、特にブーン。分かってるんだろうな」

( ^ω^) 「……大丈夫だお」

統率された軍隊のように、前進する大集団。
遠くからでも十を超える種類の敵が分かる。

(´・ω・`) 「一カ所で戦った方がよさそうだな……」
  _
( ゚∀゚) 「せめて背中側に壁になるものがあれば違うんだけどな」

川 ゚ -゚) 「無い物ねだりだな。取り敢えず、遠距離を用意してきたのは私くらいだろうからな」

馬の背に乗せてあった弓を手に取り、矢を番えるクール。
彼女が放った矢は、光の尾を残しながら闇夜を引き裂いた。
着地地点は見えなかったが、敵軍の前衛の中心が破裂した。

巻き込まれて押し潰されていく仲間には目もくれず、一直線に駆け出す敵の最前線。
クールの放つ弓矢はそれを狩り続ける。
一片の容赦すらなく、一動作ごとに敵は四肢や頭部を失い空を舞った。

川 ゚ -゚) 「まったく、キリがないな」

566 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:18:22 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「その弓矢どうなってるんだお……?」

川 ゚ -゚) 「弓は別に普通のものだし、矢も幾つかの錬金術を織り込んだだけだ」

表情を変えずに全ての矢を射切ったクール。
敵の最前線は完全に崩壊しており、残った数十匹も火柱に巻き込まれて命の火を吹き消された。
  _
( ゚∀゚) 「さて、諦める気になったか……」

(´・ω・`) 「最後の一匹まで戦う覚悟だろうね……」

煙の中から飛び出してきた第二陣。
蛇のように細長い身体を持ち、地面を張っている生物と、
獅子のような鬣をたなびかせた獣。
全身を墨で塗りつぶしたかのように黒で埋め尽くされており、その数は視認できない。

僕は馬の背から取り出した筒を敵軍に向ける。
衝撃に備えながらその底部にある紐を引き抜く。
手元が爆発したかのような衝撃と、足元の雪を解かすほどの高熱が、迫り来る敵の中央部を貫いた。

(´・ω・`) 「錬金砲改」

567 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:19:04 ID:XuZMeezA0

以前錬成したものよりもさらに強力な威力と、指向性を付加した上位互換。
今度は握っている持ち主の周りにはほとんど影響を与えない。
青白いバーナーは数秒経たずに完全に消滅した。
敵の中心に巨大な扇状の傷跡を残して。

左右に薄く広がっていた残りの敵はブーンがまとめて片付けた。
平地の雪が殆ど溶けて消え、氷の大地が明るみに出る。
先程の強火力でさえ表面がほんのり湿る程度にしか溶けていない。

(´・ω・`) 「近いな……」

第三陣として突撃をしてきたのは角礫犀を思い起こさせる太い角を持った生物。
圧倒的な物量に押し下げられていく戦線。

川 ゚ -゚) 「囲まれるのだけは避けたいが……」
  _
( ゚∀゚) 「用意してきた道具もそのうち尽きる。覚悟はしておいたほうが良い」

剣が届く範囲まで近づいてきた生物を一匹ずつ確実に殺していく。
突進は避け、折り返そうと速度を落としたところを狙いながら。
後ろにいる馬を失ってしまわぬように、前に進む。

568 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:19:30 ID:XuZMeezA0

剣と槍を振り回し、次々と現れる敵を薙ぎ倒す。
死骸を飛び越えて次の獲物の命を奪い続ける。

第四陣、第五陣と後から追加され続ける敵を観察する余裕すらなかった。
最も効率が良くなるように武器を振るう。

錬金術の道具は最も効果的な場面を選んで投入した。
小柄な敵は百以上と同時に倒し、巨大な敵は一撃で致命傷を与える。

時に火柱が立ち上り、時に風が激しくうねった。
誰が使った錬金術か確認する間もない。

(;´・ω・`) 「はぁ……っ……」
  _
(; ゚∀゚) 「くそっ……まだか……」

大型の錬金術はほぼ使い果たした。
手に持つ武器と、残った僅かな錬金術を用い、押しとどめる。

川;゚ -゚) 「ショボンッ……! いったん退こう!」

(; ^ω^) 「クールに……同意……だおっ」

(;´・ω・`) 「そうだ……なっ……!!」

569 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:22:00 ID:XuZMeezA0

振り向いた直後、背後に逃がしていた馬たちの姿が雪煙の中に消えた。

川;゚ -゚) 「しまっ……」

目の前の対処に焦っていたせいで判断が遅かった。
僕らが既にファーワルの氷窟上に踏み込んでいるのだとすれば、
足元の空洞が目の前で終わっているとは限らないということに気づけなかった。

目の前に現れた大軍隊だけに意識を向けていたせいで、零れ落ちていた憂慮すべき可能性。
背後に現れた巨大な生物と、その足もとに沸き続けている蟲型の生物。
逃げ道は、完全に塞がれた。

(; ^ω^) 「お……」

強力な錬金術を最初から温存することなく使ってきたことが裏目に出た。
性能も、能力も何もかもわからない巨大生物に背後をとられ、
正面には未だ尽きることのない大軍隊。

川;゚ -゚) 「ショボン、ここは……私たちがひきつける。一人だけでも」

(;´・ω・`) 「そういうわけには……いかない」

570 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:22:39 ID:XuZMeezA0

馬を失ってこの包囲網を抜けるだけの機動力は無い。
思いつく限りの手段は考え尽した。
もはや戦って切り抜ける以外の方法は無く、それこそが最悪の最善解。

(; ^ω^) 「みんな……錬金術はどのくらい残ってるお」

川;゚ -゚) 「私はあと三個だ」
  _
(; ゚∀゚) 「俺は無い」

(;´・ω・`) 「僕は後一本だけ……錬金砲がある」

(; ^ω^) 「……僕は残ってるけど……あんまり強力なのは無いお」

(; ゚∀゚) 「ブーン君らしいな」

(; -ω-) 「僕が……もうちょっと考えていたら……」

川;゚ -゚) 「今更そんなことを責める奴はいない。私たちはそれを織り込み済みで用意して来たんだからな」

(; ^ω^) 「ジョルジュ……クール……」

571 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:23:12 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「相手の策はこれで出尽くしたはずだ。耐え抜けさえすればいい。
        行くぞっ!!」

前は僕とクールが、後ろはブーンとジョルジュが分かれて立つ。
目前にまで迫った敵に対して剣を構える。
汗で濡れた両手をマントで拭って握り直し、敵の戦列に飛び込んだ。

(;´・ω・`) 「おおおおおおおおっ!」

硝子の剣は何度も砕け、その度に刀身を取り戻す。
失われることのない切れ味は抵抗感すらほとんどなく敵を切り裂く。

(;´・ω・`) 「がっ……」

川;゚ -゚) 「ショボン……っ!」

死角から飛び込んできた何かに弾き飛ばされた。
その正体を判断するまでも無く、受け身をとって近場の敵を切り殺す。
すぐさまクールの横にまで駆け戻り、背中合わせに死体の山を築いた。

川;゚ -゚) 「生きてたか……」

(;´メω・`) 「クールこそ……」

572 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:24:14 ID:XuZMeezA0

限界を超えた精神を持ちこたえるための軽口の応酬。
ただお互いがまだ戦えることだけを確認した。
破れた腹から噴き出した血液は氷の大地を汚す前に消える。

目の前の敵に向かって、一瞬一瞬に限界を超える力を引きずり出す。

(#^ω^) 「ショボン!!」

背後から聞こえたブーンの声で、確認もせずに剣を振るう。
剣先が捕らえた太い触手は千切れて飛んで行った。

(メ´メω・`) 「くそっ……何か……」

包囲網は次第に狭まっていく。
再生が追いつかないほどに全身に傷が刻まれ、
隣で戦っていたクールが倒れた。

それを庇うように死力を振り絞る。

川; -゚) 「……すまない」

足元をふら付かせながら起き上がる彼女。
震えた剣で捉えた敵には、もはや行動不能になるほどの深い傷を与えられていなかった。

573 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:24:37 ID:XuZMeezA0

(メ´-ω-`) 「……頼む」

東の空を焦がし始めた太陽に縋るような気持ちで祈る。
希望を願って仰いだ空は、何も答えることなく雪を降らせ続ける。
  _
(; ゚∀゚) 「ブーン!! 立てっ!! くそっ……!」

無理もない。戦い続けてきた僕らはとっくに限界なんて超えていた。
全ては僕の失策だ。
動きをよまれていることがわかっていながら、それでも道を変えようとはしなった。
自らの目的の為に、関係のない仲間を巻き込んだ。

(;´ ω `) 「僕の……僕のせいで……」

朝日の元に照らさた氷の世界。
夜を徹して戦い続けても、敵軍の数はまだ半分以上も残っている。偶然に生まれた戦いの切れ目の中で、
ブーンとクールが倒れ、ジョルジュすらも激しい呼吸を繰り返しながら座り込んでいた。

一歩一歩迫る絶望という名の淵。

574 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:25:47 ID:XuZMeezA0

もはや心に残った最後の炎が消えかかった瞬間。

平野に覆い重なるように高く高く吹き鳴らされれた角笛。
突如として現れたのは、西側の大地を埋め尽くす黒の騎士。
光を受けて輝くのは、掲げられた旗に施された銀の蛇。

(;´ ω `) 「あ……」

その光景に僕は膝から崩れ落ちた。
三方を敵に囲まれ、もはや生き残る術はない。
仲間を得た敵軍から届くのは歓ぶ獣の叫び。

全てを無為にしてしまった自分の浅はかさを恨んだ。
失ってしまうであろう仲間に、愛する人にかける言葉は見つからない。
諦めを得てしまった心は、固まってひび割れていく。
その音が自分の中に響き、僕は世界を遮断するために目を閉じた。

氷を踏み馴らす無数の蹄。
丘を駆け下りてきているであろう大集団から逃れる術はない。
ただこの身が蹂躙されるのを待つ。

永遠とも思える時間の最中、体内で唯一時を刻む鼓動は、生を諦めたかのように急激にその鳴りを潜める。
踏み馴らされる大地から伝わる揺れは、心の隅に残っている希望すらも砕く。

(´ ω `) 「…………」

575 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:26:57 ID:XuZMeezA0





























.

576 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:27:47 ID:XuZMeezA0

くぐもった剣戟の音だけが鼓膜に届き、いつまで待っても襲ってこない痛み。
その疑問の答えを得るためだけに、僕はおそるおそる目を開けた。

戦意を失って崩れ落ちた僕ら四人の直前で二手に分かれた騎士の集団は、
北側と南側にいる敵の獣を蹴散らしていた。

(;´・ω・`) 「なっ……」

僕らを囲むように陣を組む黒い騎士達。
見覚えのある面をつけた一人の騎士が、僕らの前に降り立った。

( /‰Θ) 「久しぶりだね……ショボン」

(;´・ω・`) 「お前は……不老の錬金術師……か……?」

声だけで以前会った人間と同一人物だと判断できるほど僕の記憶は正確ではない。

( /‰Θ) 「ああ、この面が邪魔だったね」

(;´・ω・`) 「……っ!!」

面を外したその男の片目は閉じたまま。
長い白髪を後ろに流し、顎鬚を整えた初老の男。
血管の浮き出た細い腕を差し出され、その手を掴んだ僕は力強く引き起こされた。

577 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:30:03 ID:XuZMeezA0

( -∀・) 「諦めたのかい?」

(´・ω・`) 「まさか」

( -∀・) 「そう答えてくれると思ったよ」

(´・ω・`) 「どうしてここに?」

( -∀・) 「いろいろな状況が重なってね、説明するのはちょっと時間がかかる。
       でも、一言に無理やりまとめて言うとすれば……」





( -∀・) 「いつかの約束を果たしに来たよ」





(´ ω `) 「っ!」

578 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:31:15 ID:XuZMeezA0

かつてを生きていた青年との約束。
異なる時間を生きる僕らの間で結ばれたそれは、決して果たされることが無いと思っていた。
記憶の片隅に辛うじて残っていただけのその約束を、目の前にいる彼はどんな思いで抱えて生きてきたのか。
最初から不老不死であった僕には想像もつかない。

( -∀・) 「馬は用意させる。錬金術の道具だって僕のでよければたくさん余ってる」
  _
(; ゚∀゚) 「ショボン、どういうことだ」

川 ゚ -゚) 「私もできれば説明してもらいたいが……」

( ^ω^) 「そんな時間がもったいないのはよくわかってるお」

(´・ω・`) 「みんな……全部終わった後に必ず話す。だから今は、着いてきてくれないか」

( ^ω^) 「勿論だお!」

川 ゚ -゚) 「ったく……」
  _
( ゚∀゚) 「しょうがねぇ」

( -∀・) 「おい、あれを持ってきてくれ!」

579 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:32:22 ID:XuZMeezA0

モララルドの呼びかけに応じて、数人の騎士が連れてきた四頭の馬。
目の前にあるファーワル中心部の大空洞までに使うには、少しばかり贅沢すぎる。
それでも、疲労困憊の僕らはその申し出を有難く受けることにした。

馬の背に跨り、荷物を背負い直す。
先程使い損ねた残りと、モララルドに分けてもらった幾つかの道具。
準備は整った。

(´・ω・`) 「……行って来る」

( -∀・) 「いってらっしゃい」

(´・ω・`) 「まだ敵は多い。大丈夫か?」

( -∀・) 「僕が用意した錬金術の武器防具、それに鍛え抜かれた彼らがいれば負けるわけがないさ。
        それに、騎士教会もすぐに来てくれるはずだ」

(´・ω・`) 「いつの間に……」

( -∀・) 「アルギュール教会がいつまでも自分の手元にあると思って油断したんだろうね。
        情報を得ることはそんなに難しくはなかった」

(´・ω・`) 「なら、ここは安心して任せられる」

580 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:32:59 ID:XuZMeezA0

依然として激しい戦いを繰り広げるアルギュール教会兵と黒き獣。
統率された彼らの動きによって、一瞬で僕らが通り抜けることができるだけの隙間が出来上がった。
その隘路を全速力で駆け抜ける。

最前線に飛び込み、敵の合間を縫ってファーワル中心部を目指す。
途中、敵が最初に現れた巨大なクレバスを迂回し、ただひたすら真っ直ぐに。
予期せぬ増援に慌てた敵陣は大きく崩れ、僕らに鎌っている余裕はないようだ。
  _
( ゚∀゚) 「あんな隠し玉があったんなら黙っておかずに教えてほしかったがな」

川 ゚ -゚) 「ショボンも知らなかったんだろ?」

(´・ω・`) 「あの仮面の男には一度会ってたことがある。その時にはまさかモララルドだとは思ってなかったけどね。
       いや……今でも信じられない。アルギュール教会に関わったせいで十数年を無駄にした彼が、
       もう一度その人生うちに教会に関わるなんて……」

( ^ω^) 「それだけ恩を感じてたってことだお? 僕らは彼の恩義に応える必要があるお。
        モララルドがこの日のために犠牲にした全てに応えること。
        それだけじゃないお。シュール達古代錬金術師が繋いでくれた遺志にも。わかってるおね」

(´・ω・`) 「勿論だ」

581 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:33:31 ID:XuZMeezA0

今日この日の為に費やされてきた時間も、削られてきた精神も、犠牲になった魂さえも。
僕らはそれらの全てを背負っている。
何一つとして無駄にするわけにはいかない。

川 ゚ -゚) 「入り口が見えてきたが、この中を探索するのは時間がかかりそうだな。
       錬金術の罠なんか幾らでも用意できそうだ」

(´・ω・`) 「大丈夫。最深部に至るまでの経路は知っている」

かつて家族であった男。
全てを失い、絶望の果てに自らさえも失った彼が遺してくれた。
あれから十数年と経過しているが、巨大な氷に閉ざされた彼女を容易に移動させることは出来ない。

入り口と呼べるほどの場所は無く、網目のような氷の隙間で一番広い場所を通り抜ける。
氷の柱はいくつも枝分かれして天井を支えており、
荒々しい岩石のような表面を透過した太陽の光は洞窟内を蒼く照らしだす。

ファーワルの中心部に位置するこの氷の洞窟は、かつてはヴァントヨーク大氷窟とも呼ばれ多くの旅人が訪れていた。
今は生き物の姿など一つも無く、異質な満たされている。

( ^ω^) 「寒いおね……」

外にいた時と比べて急激に温度が下がっていた。
十分な装備をしてきたはずにも拘らず、指先が凍える。

582 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:34:13 ID:XuZMeezA0

川 ゚ -゚) 「様子がおかしいな」
  _
( ゚∀゚) 「何かやろうとしてやがるんだろ」

肌を突き刺すような感覚は、洞窟を奥に進むごとに強くなる。
それが寒さだけが理由でないことはわかっていた。

(´・ω・`) 「急ごう」

同じような通路が続く場所を、記憶を頼りに駆け抜ける。
ほんの少しの距離がひたすらに長く感じた。
氷の上に立つ家々の間を通り、大氷窟の中心部へと。

過去の記憶を見れば、そこは歩いてもいける距離。
馬であればほんの数分だ。
手綱を握る力が強くなり、頭一つ分だけ三人よりも前を走っていた。

僕らが突き当たったのは円形の広場。
その最奥に、巨大な氷は鎮座していた。
彼が届けてくれた遺志の通りに。


最愛の女性を閉じ込めたまま。

583 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:34:54 ID:XuZMeezA0


(;´・ω・`) 「リリ!!」


駆け寄ろうとした瞬間に、何かが足元を吹き抜けた。
僕らを運んでくれた馬たちは、その命をただの一薙ぎで奪われた。
  _
(; ゚∀゚) 「ぐっ……!?」

川;゚ -゚) 「なっ……!?」

地面に投げ出された僕らの前に佇んでいたのは、剣を握った巨人。
剣の切っ先は溶岩のように火を噴き、零れ落ちては大地の氷を溶かしている。

( ^ω^) 「お・……」




「あれれ……いったい何やってるんだろうね。まったく、役に立たないなぁ……。
 正直突破されるとは思ってなかったよ」



.

584 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:35:42 ID:XuZMeezA0

暗闇の奥から聞こえてきたのは、ワカッテマスの記憶で聞いた声。
そして、直に耳にして確信した。

(´・ω・`) 「あなただったのか……」

从'ー'从 「久しぶりだね。ショボン君」

最後に見た時よりは幾分か小さくなった水晶。その中から届く声。
始まりの錬金術師というのは、嘘ではなかったということか。
その横に二人、黒いフードを被った男達が幾つかの作業をしていた。
それは、彼女の意識を水晶から切り離す工程で間違いない。

( ^ω^) 「ワタナベクス様……?」

川 ゚ -゚) 「隠れ里の主か。堂々とそんなことをしていたとはな」

从'ー'从 「別に隠していたつもりはなかったけどね。
       あの子はあんまり情報をばら撒かないでくれたおかげで随分とやりやすかったよ」
  _
( ゚∀゚) 「んじゃ、あれを壊せば終わりなわけだな……っとぉ」

一歩踏み出したジョルジュの目の前に叩き付けられた大太刀。
砕けた氷が宙を舞う。

585 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:38:16 ID:XuZMeezA0

从'ー'从 「できるものなら、ね」
  _
( ゚∀゚) 「……なんだこれは」

从'ー'从 「分かってる癖に聞くんだね」

(´・ω・`) 「テンヴェイラの鋏……そういうことか」

从'ー'从 「そう、依頼したのは私。他にもいろいろと頼んでたんだけどね。
       一番欲しいものしか手に入らなかったよ。その武器の意味は分かるよね、ショボン君。
       隠しているそれと同じだよ」

(;´・ω・`) 「……だからどうしっ!?」

咄嗟に一歩下がる。
ついさっきまで頭があった場所を、巨人の剣が通り抜けていた。
鼻頭から滴る生暖かい液体が止まる気配はなく、
鈍い痛みを訴え続ける。

从'ー'从 「心配しなくてもそれだけ浅いとすぐには死にはしないよ。
       最期に氷から解放された彼女とも会えるかもね」

586 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:38:56 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「お前の意識がリリを埋め尽くした後の事だろ」

从'ー'从 「その通りだね」

( ^ω^) 「……心をよむ能力は随分と鈍ったようだおね?」

从'ー'从 「……。よめたところで今はあまり意味はないけどねー」

古代錬金術師達と同じである。
自身が様々な錬金術の影響下にあるうちは、そう簡単に意思だけを取り出すなんてことは出来ない。
今の彼女は、かつての能力をほとんど失っている。
  _
( ゚∀゚) 「ショボン、いいか?」

刀を抜いたジョルジュは、目の前の巨人を睨みつける。
二倍以上の体格を持つ相手に対して一歩も引かずに。

川 ゚ -゚) 「私もあまり気が長い方じゃない。こんな茶番はすぐに終わらせよう」

从'ー'从 「ここまで来て諦めたりはしないだろうね……。でも、後で後悔するかもよ。
       今逃げ出してもう少し長生きしておけばよかった、ってね」

587 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:39:49 ID:XuZMeezA0

( ^ω^) 「そんなぬるい覚悟できてないんだお」

(´・ω・`) 「お前を壊して、僕は失ったものを取り戻す」

从'ー'从 「……錬人。その四人を殺して」

彼女の命令が為されると同時に、深紅の剣が視界を横切った。
僕らはただの横薙ぎを躱して距離をとる。
テンヴェイラの鋏を利用した剣の性質は、わざわざ説明を受けるまでも無く理解していた。

( ^ω^) 「四対一で卑怯な気もするけど……」

ブーンの武器が空を切る。
目標を逸れて激突した地面の氷の表面は一瞬で細かく砕けた。

( ^ω^) 「僕がひきつけるから! ショボンはっ……とっ……」

巨人の持つ大太刀のリーチは長く、当たれば致命傷になり得る。
単純に振り回されているだけで容易に近づくことは出来ない。

(;´・ω・`) 「くそっ……!」
  _
(#゚∀゚) 「馬鹿っ! 無茶するなっ!」

588 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:40:28 ID:XuZMeezA0

振り回され炎の残滓を飛び散らせる刃の隙間を掻い潜りながら、巨人の脇を抜ける。
確かな手ごたえのあった硝子の剣は、音を立てて崩れた。

(;´・ω・`) 「なっ!? ぐっ……」

驚きで生まれた油断は刹那。
目の前に迫っていた炎を残った柄で防いだ時には、両足が浮いていた。

(;´・ω・`) 「がっ……」

骨が軋む音。氷の壁に叩き付けられた僕を狙った切っ先は目の前で止められた。
クールとジョルジュの剣に挟まれ、押さえられる。
巨人は追撃を諦め、剣を引く。

川 ゚ -゚) 「成程、不老不死への有効性があるだけなのか」
  _
( ゚∀゚) 「恐らくは身体の方だろうな。何かがあるのは。
      見てみろショボン。お前の剣はもうなおってやがる」

右腕に刻まれた縦一直線の火傷痕は消えていく。
その先にある剣は違和感なく元通りになっていた。

589 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:41:03 ID:XuZMeezA0

从'ー'从 「どうかなどうかな? 私の自信作だよー」

(´・ω・`) 「趣味が悪いな」

从'ー'从 「出来がよければいいんだよ」

(#^ω^) 「おおおおっ!!」

巨人の背後から振り下ろされた一撃は、その背を打つ。
全身に行き渡った振動は、行き場を失くして末端部で弾けた。
飛び散った指の欠片は地面に落ちる前に消える。

( ^ω^) 「ふっ!!」

連撃は三度目で弾かれ、無理をした四度目は避けられた。
大地に伝わった振動は、地氷を微かに砕く。

从'ー'从 「……ふむ、改良の余地がありそうだね」

590 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:41:37 ID:XuZMeezA0

(´・ω・`) 「ブーン!!」

( ^ω^) 「わかってるお!!」

ブーンの斧槍は刃がついておらず、その衝撃を増幅して伝播する錬金術によって強化されている。
そのおかげで体内に錬金術妨害用の仕掛けを施された巨人に対しては、現状最も有効な武器。
それでも高い再生力を持つ巨人を削り切ることができない。
  _
( ゚∀゚) 「落ち着け」

ブーンの助太刀をしようと踏み出した途端に、後ろ手を捕まれた。

川 ゚ -゚) 「あれに大した命令が理解できるとは思わん。
      ならば、何らかの基準で動いているはずだ。それを見極めれば私たちの勝ちだ」

从'ー'从 「そんな小さな声で話さなくたって、どうせ私には何もできないんだから。
       まぁ、離れたままそっちにいてくれるなら嬉しいんだけどね」
  _
( ゚∀゚) 「そうだな。お前自身が動けないというのは、俺たちが付け入る最大の隙になるだろうよ」

从'ー'从 「もうあんまり時間もないけど、悠長にしていて大丈夫なのかな?」

591 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:42:05 ID:XuZMeezA0

ワタナベクスの声は最初のころと比べてぼやけて聞こえてくる。
それはシュールの施した封印が弱まりつつあるということ。

彼女と共にいる二人の錬金術師は、暗がりの中で薬品を混ぜ合わせている。
ワタナベクスが最後の手足に選んだだけのことはあり、離れた場所からでもその優秀さはよくわかった。
  _
( ゚∀゚) 「いざとなったらあれらを殺す。いいな?」

(´・ω・`) 「……ああ」

川 ゚ -゚) 「この際、多少の犠牲は仕方ない。だが出来る限りは尽くそう」

(; ^ω^) 「はぁ……はぁっ……相談は終わったかお?」

汗だくのブーンが斧槍を構えたまま下がって来た。
巨人は自らの護るべき場所に仁王立ちしたまま動かない。
透明で美しかった氷の大地は、ブーンの武器による攻撃の余波で表面のほぼ全体が白く曇っている。

(´・ω・`) 「怪我はないか」

( ^ω^) 「なんとかお……出来れば……殺さないでくれお」

(´・ω・`) 「聞こえてたのか。……わかってる……少し休んでろ」

592 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:42:45 ID:XuZMeezA0

从'ー'从 「爆弾でも投げ込んでみる?」

(´・ω・`) 「そんな簡単じゃないことくらいわかってるさ」

目標は巨人の刀。
モララルドから貰った大気を圧縮して閉じ込めた危険物。
投げた瞬間に耳を塞ぐ。
破裂音は両手を容易く貫いて直接脳に届いた。

(;´-ω・`) 「ぐっ……」

从'ー'从 「そんなもので壊れるわけが」

川 ゚ -゚) 「ただの一発ならそうだろうが、これでどうかな」

クールが一瞬遅れて撒いた赤の粒子。
大気中で一つ一つに最小単位の炎が灯る。
ふわふわと漂い、氷窟内壁に当たった炎から一際強い光と熱を放って消えた。

从'ー'从 「なっ!?」
  _
( ゚∀゚) 「どうやってこいつが俺らを認識してるのかさっぱりわからねぇが、結局のところ錬金術だろ。
      内部にあれほど面倒な性質を閉じ込めてあるんだ。だったらここしかねぇだろうがよっ!」

593 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:43:07 ID:XuZMeezA0

鉄仮面の根元、首に当たる部分をジョルジュの両手剣が通り抜けた。
切断の強化を得た剣もまた、一瞬その光を失う。

从'ー'从 「正解だけど外れ。その人形が命令を詰め込まれているのは頭にだけ。
       だけど、切り離したところで何ら意味はないよね」

川 ゚ -゚) 「意味ならあるさ」

从'ー'从 「ん?」

(´・ω・`) 「お前とその化け物の意識を、僕から逸らすことができた」

手に掴んだ筒は青い炎を噴き出す。
超高温の塊は、人形の首があった部分を空間ごと焼き尽くした。

从'ー'从 「残念、はずれ」

(´・ω・`) 「いや、直撃さ」

「ワタナベクス様!! いつでも移し替えられます!」

从'ー'从 「そう? それじゃあ」

「ですが……!!」

594 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:43:45 ID:XuZMeezA0

先程まで錬成に熱中していた錬金術師の二人は、空のガラス容器を地面に落としていた。
粉々に砕け散ったフラスコと、風に舞って散らばった何らかの粉末。
手元を全く見もせずに、男達は目の前にあったはずの巨大な氷を指さす。

中央部分に、人間の二倍ほどの大きさが空いた氷を。

从;'ー'从 「なっ!? 私の身体は何処に!」

( ^ω^) 「だから言ったお。お前が動けないことが敗因だと」

氷塊の肩の部分、錬金砲の被害を免れた場所にブーンが立っていた。
その腕にはマントを被せたリリを抱いて。

⌒*リ´- -リ 「あ……あぁ……」

( ^ω^) 「無理に話さなくていいお。身体が慣れるまで少し時間がかかると思うから」

从#'ー'从 「その男を殺せ!!」

ワタナベクスが叫ぶ。
その声に巨人は反応するが、彼女の意図を正確には読み取れていなかった。
リリを抱えるブーンではなく、僕らに向けて振り回される大太刀。
それを防ぎきることは容易ではなかった。

595 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:44:10 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「くそっ……」

捌ききれる速度と質量を大幅に上回る猛攻撃。
クールとジョルジュの手助けがあって、何とか立ち回る。
それでも再生しない傷は増え続け、血液を失っていく。

「があああああ!!!」

再生した頭部にあいた空洞から漏れ聞こえてくる叫び声のようなくぐもった音。
僕が立っていた場所に叩き付けられ、氷を砕いて刀身の半分が埋まった。

( ^ω^) 「ショボン! 大丈夫かお?」

リリを連れて戻ってきたブーン。
巨人は剣を握ったまま動かない。

(´・ω・`) 「リリ……!」

⌒*リ´- -リ 「しょ……ぼ……」

(´-ω-`) 「ごめんね……本当にごめん」

細い身体を抱き寄せ、その体温を感じる。
小さな鼓動を押し潰してしまわない様に優しく、それでいて二度と離さぬように強く。

596 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:45:04 ID:XuZMeezA0

从#'ー'从 「……もう満足した? だったら私の身体、返してくれないかな」

(´・ω・`) 「いまさら何ができる」

二人の錬金術師はただの人間。
ワタナベクスに至っては手も足もない水晶玉の本体だけ。
許容範囲を超える指示を受けたせいか、巨人は沈黙したまま動かない。

从#'ー'从 「…………何ができるかって? 少しくらいうまく行ったからって甘く考えすぎなんじゃないかな?
       私は何でもできる。なんでも、ね。……お前たちとは生きてきた時間が違うんだよ!!」

ワタナベクスの精神が封じ込められた水晶は、視界を埋め尽くすほど強く輝いた。
突如起き上がった巨人は、光に吸い込まれるかのように歩く。
光が収まった時、僕らの前にいたのは人間の形をした生き物。

手には人間サイズに圧縮されたテンヴェイラの刃を握り、
身体の線が見えるほどの薄い服を着た小柄な女性の姿。

从'ー'从 「全く……遊んでいる時間はないから、すぐに終わらせてあげるね」

言葉と同時に目の前に突然現れた剣を辛うじて受け止めた。

597 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:45:35 ID:XuZMeezA0

(;´・ω・`) 「ぐっ……」

⌒*リ;´・-・リ 「ショボン!!」

(´・ω・`) 「下がっててくれ!」

身体を得た彼女は、跳躍する。
壁と天井を足場に、所狭しと洞窟内の空間を飛び回る。
人間にはあるまじきい身体能力を存分に発揮するワタナベクス。

一つ一つが瀕死の重傷に至る攻撃を、秒より短い時間で判断して防ぐ。

从'ー'从 「あはははははははははは」

背中合わせになった僕らは、四方向から襲い来る凶刃を弾き、往なす。
  _
(; メ∀゚) 「くっそ」

川;゚ -゚) 「相手のスタミナ切れを待つしかない。一対一じゃ勝てない」

(メ^ω^) 「ぐっ……おっ……!!」

(;´・ω・`) 「ブーン!!!!」

598 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:46:34 ID:XuZMeezA0

最初に崩れたのは左隣に立っていたブーンだった。
武器その物が重く受けには向いておらず、巨人と一人で渡り合っていた分体力の残りも少なかったせいだ。
脇腹に深々と突き刺さった不死殺しのナイフ。

从'ー'从 「ひとりめぇ!」

傷口を抑えながら倒れ、呻くブーン。
溢れ出る血液は止まる気配がない。

川;゚ -゚) 「ぐっ!」

その直後にクールが倒れた。背中を斜めに切り裂いた刃。
噴き出す血液は、氷の地面を濡らす。
  _
(#゚∀゚) 「くそがっ……!」

クールの背にいたワタナベクスの首を狙うジョルジュ。
命を奪おうとする両手剣を片腕で止め、反対側の剣で胸を切り裂く。
その様子は別の世界のようにゆっくりと進んで見えた。

(;´・ω・`) 「くっそぉおおおお!!」

599 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:49:46 ID:XuZMeezA0

意思に追いつかない重たい身体。
こちら側に伸びてきた小さな足は、僕を壁際にまで弾き飛ばした。

(メ´ ω・`) 「がっ……はっ……!」

腹に突き刺さったままの短刀。
それは貫通して背後の氷壁にまで届いていた。

从'ー'从 「残念だったね。最初からあきらめていれば、希望なんて持たずに済んだのに」

(メ´ ω・`) 「ぐ……」

柄を持った彼女に押され、刃はさらに奥深くへと沈む。
とめどなく溢れ出て来る血は氷を紅く染める。

从'ー'从 「ん? 何か言いたいことはあるかい? 」

(メ´ ω・`) 「はっ……ゆ……だ……」

从'ー'从 「聞こえないよー?」

(メ´ ω・`) 「油断した……な……。お前……も……」

600 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:51:22 ID:XuZMeezA0

彼女の後ろ、無言で立ち上がったのは肩で息をする不死者。
ブーンは地面に落ちていた武器を拾い上げる。
赤く染まった腹部を押さえながら、片手で斧槍を高く掲げた。

从'ー'从 「いまさら何が出来……」

(#^ω^) 「おおおおおおおおおおっ!!」

叩き付けられた斧槍は錬金術で強化された振動を余すところなく地面に伝える。
先程までの戦闘で甚大なダメージを受けていた氷の地面に深い亀裂が走り、
付近一帯の氷を砕いた。

从;'ー'从 「なっ!?」

足場を失った彼女は、重心を崩して後ろに倒れていく。
掴んだままになっていた短刀は壁から抜け、僕は自由になった。
左手でその腕を掴み、右手で懐の中の刃を取り出す。

从;'ー'从 「くそっ……!」

ワタナベクスに先程までの力は無く、空中に浮いた身体を逃がさない様に抱き寄せる。

601 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:52:04 ID:XuZMeezA0

从#'ー'从 「離せ! やめろ! 離せえええ!」

ゆっくりと、確実にナイフをその胸に突き刺した。

从# ー 从 「があああああああああああああああああああああああああああああ」

落下した距離と速度は僕らを殺すのに十分で、数秒間意識が途絶えた。
腹部の傷は治っておらず、強い痛みですぐに意識を取り戻す。

⌒*リ´・-・リ 「ショボン……っ!」

飛び降りてきたリリに助け起こされる。
温かな感触に抗えず、抱きしめた。

(メ´ ω・`) 「リリ……っ!」

⌒*リ´ - リ 「っ!」

震える彼女を、強く。

602 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:54:45 ID:XuZMeezA0

ワタナベクスの身体は前方に転がっていた。
胸に不死殺しが刺さったまま。

从;'ー'从 「がっ……くっそ……」

血だまりの中から起き上がったワタナベクスは、震える手で不死殺しを引き抜く。
それを床に投げ捨て、こちらに向かって一歩また一歩と歩いてくる。

(メ´ ω・`) 「嘘だろ……」

从;'ー'从 「はっ・……錬金術を完全に……分解してしまうのか……。
        もうこの身体は限界だな……。上で待っていればいいものを……わざわざ降りてきた愚か者。
        その身体をもらう……」

(;´・ω・`) 「リリ……ッ! 逃げろッ!」

⌒*リ´・-・リ 「もう二度とあなたを置いて逃げたりはしません……!」

从#'ー'从 「さぁ、私を受け入れろ」

(;´・ω・`) 「ぐっ……」

蹴飛ばされ、リリと引き離された。
その場に残されたのは彼女を、崩壊し始めた肉体のワタナベクス。
駆け寄ろうとしても、起き上がるための力がすぐに腕に入らない。

603 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:55:52 ID:XuZMeezA0

⌒*リ´・-・リ 「っ……!」

僕の前に立つリリの首元を、両手でゆっくりと閉めるワタナベクス。
彼女に抵抗できるだけの力は無い。

从'ー'从 「ようやく……ようやく人間として生きられる……!!」

⌒*リ´ - リ 「ショボン…………」

(メ´ ω・`) 「あぁ……。……僕は君の傍にいる」

這うようにして地面に転がっていた不死殺しを掴み、ふらつく足取りで起き上がった。
呼ばれた名前は、僕の心へと直接力を与えてくれる。
そのままワタナベクスに寄りかかるようにして再度その胸に突き刺し、思いっきり引き下ろした。
人形の腹は大きく避け、傷口の周辺から崩れていく。

从 ー 从 「あ……あぁ……」

(メ´・ω・`) 「消えろ……」

ワタナベクスは人間としての形を失っていく。

从 ー 从 「あはは…………ははははははははははははははははははは!!!!!」

604 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:57:13 ID:XuZMeezA0

その上半身に残った腕が、不死殺しを掴む。
無理やり引き抜いたナイフを、可動域が増えた関節が振りかぶる。
矛先はリリの胸元。

判断は一瞬。

(´ ω `) 「……!!!」

とっくに限界を超えていたはずの身体は、勝手に動いていた。
彼女を庇うように投げ出した僕を、背中から脇腹まで貫通した不死殺し。

⌒*リ´ - リ 「ショ……ボン……」

(´;ω;`) 「あ……あぁ……」

溢れ出る涙は、抑えるることができなかった。
腹部を貫き、リリにまで届いていた切っ先からは目を逸らすことは出来ない。

从 ー 从 「あははっは……ははは……みんな……みんな死んでしまえ!!」

氷窟内には呪いのようなワタナベクスの言葉だけが響いていた。

605 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:58:09 ID:XuZMeezA0

(´ ω `) 「リリ……」

⌒*リ´・-・リ 「ショボン……大好き……」

(´・ω・`) 「僕もだよ」


傷口が熱く燃える。錬金術そのものを破壊する刃。
ワタナベクスすら殺し尽すほどの特性は、この身に宿る錬金術を全て溶かしてしまうだろう。
僕ら二人は、きっと……。


せめて腕の中の温もりを忘れないようにと、意識のある限りただ強く抱きしめていた。

606 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/24(日) 23:59:41 ID:XuZMeezA0
















38 命の期限  End?
607 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:00:01 ID:5/yFzr5I0





























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608 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:00:29 ID:5/yFzr5I0





























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609 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:00:57 ID:5/yFzr5I0


緑に覆われた草原を一陣の風が吹き抜ける。その風に乗って鳥たちが飛び立ち、すぐ近くの山の影に消えていく。
山から下って来た小川が、草原の湖へと流れ込んでいく。
誰もいない静かな水面で魚が勢いよく跳ねた。


山と草原のぶつかる場所で風を別ったのは、小さな煙突が一つある煉瓦で組みたてられた家。
外壁には補修の後がいくつもあり、長い年月を過ごしてきたのだと一目で察せられた。


家の周囲には畑があり、これからの暑い季節に向けて身を実らせようと、
幾つもの植物が小さな花を咲かせている。


手入れの行き届いた庭には、煙突と並ぶほどに背の高い樹が一本。
足元には梯子がかけてあり、剪定用の鋏が投げ出されていた。


小さな窓が二つ、中にいるのは老いた二人の男女。

610 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:01:34 ID:5/yFzr5I0


「……」


ばたんと、重たい本を閉じる音がした。
女性は膝の上に乗せていた本を読むのをやめ、それを傍らのテーブルの上に動かす。
その音で目を覚ましたのか、椅子に深くかけた男性はゆっくりと体を起こした。


「起こしてしまいましたか」


「いや、そろそろお昼ご飯だろうと思ってね」


男性のお腹が老人に似合わない盛大な音を立てて鳴る。
部屋に飾られた時計は真ん中よりも少し右に傾いていた。


「うふふ。それでは何か作りましょうか」


「少しでいいよ」

611 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:02:09 ID:5/yFzr5I0


「食べる量が減りましたね」


「そうかな?」


「ええ」


女性は立ち上がり、ゆっくりと食事を作る。
ナイフで野菜を刻み、乾燥肉と一緒に油を引いた鍋で温めていた。


「そういえば、読み終わった?」


「いえ、まだ半分ほどです」


料理の手を止め、振り向いて答える女性。
男性は本を置いたテーブルまで歩き、その表紙を撫でる。

612 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:03:06 ID:5/yFzr5I0


「どうだったかな」


「楽しんでいますよ。ですが、少々私には重たすぎますね」


「なるほど、幾つかの冊数に分けてみようか」


「そうしていただけると読みやすくて助かります」


出来上がった料理を大皿に乗せて机の上まで運ぶ女性。
男性は本を隅に避け、二人分の食器を用意していた。


「神の恵みに感謝します」
「神の恵みに感謝します」


女性の言葉に続けるように、男性も同じ言葉を呟いた。

613 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:03:55 ID:5/yFzr5I0


「うふふ……あなたがこの言葉を言うなんて不思議ですね」


「神様なんて信じていないてことかな?」


「少なくとも、昔はそうでしたね」


「僕も変わったという事さ……今日もおいしいね」


「ありがとうございます」


談笑しながら食事をする二人。
そのせいか、たった一皿分の料理が無くなるのにだいぶ時間がかかっていた。
最後の一口を食べ終え、男性は食器を重ねる。


「そういえば、今日だったかな」

614 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:04:41 ID:5/yFzr5I0


思い出したかのようにカレンダーの日付を確認する男性。


「そうでしたね」


壁際にかけられた暦の数字を確認して答える女性。
今日を示す数字には小さな朱い丸印が付けられている。


「彼らは元気にしているだろうか」


「きっと」


「もうそろそろ来る頃だろう」


片付けを終えた二人がテーブルに戻った時、玄関のドアが軽く叩かれた。
山の麓にある小さな家。
その扉の前で、三つの影が立ち止まっていた。

615 名前:名無しさん 投稿日:2016/07/25(月) 00:06:35 ID:5/yFzr5I0
















(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです  End


618 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 00:09:05 ID:5/yFzr5I0
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
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   │
16 ホムンクルスは試すようです
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   │
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり
   │
32 血の遺志    最終編
33 空を舞う翼
34 地を穿つ角
35 港の都市
36 紅の災厄
37 終の願望
38 命の期限



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