( ^ω^)砂上狩人のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:10:24.96 ID:cqRW3h/Q0
【鷹の季節 砂漠にて】

 この日、僕らはようやく目的のパイス砂漠を見渡す崖の上に到着した。
 入り組んだ山道を一週間も歩き通した甲斐があったというものだ。

 からっと晴れた砂漠には見渡す限りの白い砂の大地。
 熱を帯びた一粒一粒が風に舞い上げられ、輝く。

 僕はいっぺんで、何にもない、このとんでもなく広い砂漠が気にいってしまった。
 太陽の容赦ない照りつけに目を細めながら、僕は歯をむき出しにして笑う。

( ^ω^)「着いたお!」

 相棒はというと、露骨に嫌そうな顔をしてフードを被りなおした。

(;'A`)「……やだよ俺、熱いの勘弁」

 影に隠れた頬を滝のように汗が流れている。
 ドクオは寒暖に耐性がほとんどないのだ。

( ^ω^)「馬鹿め! こういう時こそ用意した香辛料たっぷりの肉を喰らうのだお!」

 カルマルドラゴンという食用トカゲを、こんがり焼いた物をがぶり。
 食欲そそる香辛料のピリリとした風味に、よく効いた塩が、くう、よだれが止まらん!

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:12:21.83 ID:cqRW3h/Q0
(;'A`)「それ、臭み、苦手」

(;^ω^)「えええ、これも味わいのひとつでしょうに……精もつくお?」

 その時、天高く舞う鳥が鳴いた。

 キョロロロ、ヒョロー、ピョッピョッピョッ。

 珍妙な歌声はパイス砂漠原種のワーテル鳥のものだ。
 鷹の近種で、彼らは繁殖期に向けて求婚中なのだとか。

 それをぼんやりと眺めた後に、僕は思いついた。

( ^ω^)「あれ食べてみるかお?」

(;'A`)「試してみる価値はあるかもしれぬ……あちぃ……」

(*^ω^)「そうと決まれば!」

 荷物の中から二つ折りの板をずるりと引っ張り出し、組み立てる。

(;'A`)「お前、自分が遊びたいだけだろ」

(*^ω^)「何をおっしゃる」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:14:39.50 ID:cqRW3h/Q0
 セラ素材のボードは、切断面をくっつけて上から簡単な呪文をかけるだけで、頑丈で強靭な一枚板になる。

(*^ω^)「僕はただ可哀想な相棒のために滋養の付きそうなものを狩りにだね」

(;'A`)「言い訳はいいよ。まあ、こんだけだだっ広くて熱源が多かったら『乗り』たくもなろうさ」

 さすが旧来の友人、よく分かってる。

(;'A`)「トソンがいたら何も言わずに飛び出してるだろうから、それに比べりゃお前はマシだよ」

 背負っていたバックグラッブをドクオに渡し、くたびれたローブも頼む。
 腰周りの短剣とスペルガンのセットを確認してから、僕はボードを抱えた。

(*^ω^)「えっと、それじゃ、いってきます」

(;'A`)「寝床準備しておくから。この辺りの岩場に戻って来いよ」

(*^ω^)「ん? え? ごめん、なんか言ったかお?」

(;'A`)「ああもう、なんでもねーよ。いいから早く行って来い」

 手をひらひらとするのを見て、僕は崖から飛び下りた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:18:25.17 ID:cqRW3h/Q0
 温度の高いぬるりとした大気が汗ばんた身体にまとわりつく。

( ^ω^)(砂漠なのに、いいマナの密度。風もある。ここ、最高の環境だお)

 頭から落ちていく間に、ボードを身体の前面に当てる。
 ほどよい空気抵抗が振動を起こして、確かな手応えを起こす。

 空を切り、空を舐め、空を走る……。

( ^ω^)「いやぁあっほっぉおおおう」

 ボードに青白い光が魔方陣のように宿る。
 その間、岩肌との距離はひどく近い。

 だが、それくらいの方が風に乗りやすい。
 太陽に温められた岩山や砂の近くは粘りのある、「足場になりやすい」空流があるからだ。

(  ω )「キャッチ!」

 ボードが安定した途端、前方向への加速が始まる。

 ――これこれ、この感じ!

 砂漠に激突する瞬間、僕は身体を起こして大空高く跳ね上がる!
 重力だとか、音だとか、要らないものは全て地面に置いていってしまえ!

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:20:40.98 ID:cqRW3h/Q0
 ぐんぐん高度は上がっていく!

 空と砂漠と雲とがぼやけて混ざり合い、視界にはギラギラの太陽だけがある!

 僕は全身に風を浴びるべく、両腕を広げて天高く――ワーテル鳥達より高く――舞い上がった!

(*^ω^)「サイコ――――ッ!」

 僕は、聴こえているか分からないが、遥か後方の相棒に呼びかけた。

(*^ω^)「ドクオ――ッ! 砂竜狩りの依頼受けて正解だったお――ッ!?」

 そう、僕らは「砂竜」狩りに訪れた狩人なのだ。

(*^ω^)「風きンもちいいいいい!!」

 まあ、今は仕事の話は後回しだけど!



    ( ^ω^)砂上狩人のようです


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:23:09.87 ID:cqRW3h/Q0
 パキリ!

( ^ω^)「はっ」ジュルリ

 燃焼石が熱で割れて、僕は我に返った。
 脳内に広がる青空に反して、目前にあるのは焚き火と、それを挟んで相棒のドクオ。

 僕たちは砂漠を見下ろす崖から少し降りた、岩場の間にキャンプを張っていた。

('A`)「トリップしてんなっつーの」

(;^ω^)「いや、あまりにもテンション上がるライドだったもので」

('A`)「あんさあ……。遊ぶものいいけどちゃんと周辺の位置関係確認したか?」

( ^ω^)「あ」

('A`)「あ、じゃねーよ。お前、俺らは仕事に来てんだぞ」

 ドクオという男はこういう人間だ。
 段取り含めたマネージメントは主に彼の仕事で、僕が実行、と。

('A`)「ワーテル鳥の味が及第点じゃなかったらチョップしてるとこだぜ……」

 蒸した肉を食いちぎりながらドクオはつぶやく。

(;^ω^)「ドクオのチョップはマジで死ぬから勘弁してくれお」

 ちなみに件の鳥肉はけっこう筋張ってて、あまり僕の好みではなかった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:26:12.99 ID:cqRW3h/Q0
('A`)「いいか? 俺たちの仕事は帰還までの日数を除いたら一週間しかないんだぞ」

 岩山を抜けてくるのに一週間、仕事に一週間。
 狩ったものを担いで帰るから、一週間強。

('A`)「砂竜は知能も高いし頑丈だ。加えて、ここは奴らのホームグラウンド。ちょっとでも周りのこと知らなきゃなんねえんだよ。
    分かってんのか? お前が周辺把握してるか否かでかなり成功率に関わってくるんだって。なあ、おい」

(;^ω^)「あうあう」

 肉で頬を叩くのはいただけないが、仕事を忘れていたので反論できず。
 しかし、こいつ夜になると元気だな。

 パキリ。

('A`)「さて、まあ明日きちんとそれはやるとして」

 切り替えの早いのがドクオのいいところだと、僕は思う。

('A`)「大気粘度」

( ^ω^)「お、良好だったお。今までにないくらい」

('A`)「限界速度」

( ^ω^)「毎時300カネン以上、ちなみに限界高度は――」

('A`)「ああ、いい、いい。相手はそこまで空飛ばないから」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:29:11.86 ID:cqRW3h/Q0
 僕は眉を潜める。
  _,
( ^ω^)「竜なのに飛ばないの?」

('A`)「砂竜はどっちかっていうと砂の中を泳ぐタイプ。蛇に近いな」

 ウソ?

( ´ω`)「竜なのに飛ばないの……」

('A`)「露骨に寂しそうな顔すんなよ。つか、それくらい常識だろ」

 いや、だって、空中バトルで錐揉みになりながら、とか想像してたから……。

('A`)「安心しろ、かなり動きは早いらしい」

( ´∀`)「それを先に言いたまえ」

('A`)「誰だお前」

 さて、ここらで依頼を受けた時の状況を振り返ってみよう。

 さかのぼること一週間とちょっと――

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:31:51.15 ID:cqRW3h/Q0
***

 貿易都市コデイン。
 山岳地帯に切り開かれた、美しい街並みを古くより残す街だ。

 特筆すべきはドワーフの巨匠ドワナルドが設計した市庁舎で、地下八階にも及ぶ(地下方向だけれど)高層建築は未だに類を見なく――
 と、いうのはいいんだ。

 僕らは流れ者なんだから観光する気もなかったし。
 コデインのやや薄汚い地区にある冒険者ギルドで路銀を稼ごうとしていたところで、僕らは出会った。

爪'ー`)「お、お兄さん達なかなかやりそうじゃん?」

 っていうか絡まれた。
 頭ぼっさぼさのお兄ちゃんに。

('A`)「は?」

 無愛想、人見知り、コミュ力不足甚だしいキングオブ内弁慶ドクオに代わり、僕が会話をする。

( ^ω^)+「まあ、やりますけどね。実際かなりのもんっすよ」

爪'ー`)「いいねー、いい面構えだよ。君達になら任せられそうな気がするよ」

 猫背に無精髭、よれたズボンに突っ込んだ酒瓶。
 浮浪者臭マックスな男は見れば見るほど年齢不詳度が上昇した。

 まさかと思うかは知らないが、そう、この人こそが今回のキーパーソン。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:34:04.53 ID:cqRW3h/Q0
( ^ω^)「なんっすか? 自分ら、仕事選ぼうかと思ってたんでアレなんっすけど」

爪'ー`)「わりっすね! いやさ、youたちにちょっと依頼をと思ってさ!」

( ^ω^)「おっ、ω高い! いや、お目が高い!」

 本来は僕が交渉、ドクオが吟味。
 な、ところを適当にごり押ししてしまったのが今回のキモ。

('A`)「ちょ、おま」

爪'ー`)「ちょっとお仕事頼んでもいいかな?」

( ^ω^)「いいとも!」

爪'ー`)「マジ超助かるわ。砂竜の素材狩猟を誰に頼んだもんかなっと悩んでたとこなんよ」


 砂竜。


 この一単語でギルドの酒場スペースで飲んでいた多くの冒険者が酒を吹き出した。

('A`)「え、さ、さ、さ砂竜って」

「おいおいおい、なんじゃそら。冗談も大概にせえよ!」

 遠くの髭面坊主が野次を飛ばすのもお構いなしに、僕は話を続けた。

 酒に飲まれていたんだよね、この時の僕は。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:36:45.12 ID:cqRW3h/Q0
爪'ー`)「支払いは前金半分、現物と交換で残り半分払うわ。よろー」

( ^ω^)「経費は?」

('A`)「おい、おいおい、おい、ナイトウ、待て待て待て」

 人前だと声がちっちゃいドクオ君。

爪'ー`)「ああ、もちろん一月分、常識の範囲内ならこっち持ちで」

 提示された金額がなかなかよろしかったのと、その辺の保証もおいしく、僕は即決してしまった、と。

(#'A`)「聞け!」

( ゚ω゚)「ホングボゥァッ!!」

 ここで喰らったパンチで僕は夕飯を全部吐き出した。
 が、出し尽くした後で、頭ぼさぼさ兄ちゃんは見つからず、金と依頼書がテーブルにおいてあるだけ。

 さらりと受諾したことになったいたのだった。
 まあ、ダイジェストで行けばこんな感じだったような気がする。

***

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:38:49.74 ID:cqRW3h/Q0
('A`)「正直に言うぞ。失敗しそうだったら無理すんな。今回のは安請け合いできるほど簡単な依頼じゃない」

 ドクオはいつだって簡単に「死にそう」だとかいう言葉を使いたがらない。
 言いたくなるような場面でも、ぎりぎり踏みとどまる。

 それは彼が生死というものに人一倍敏感だからだ。

( ^ω^)「なるように、なる。というか、なんとかしてください、ドクオさん」

 だからこそ、彼の立てる策はかなり安全第一で信用がおける。

('A`)「うーわホントお前そういう感じだよな」

( ^ω^)「でも、本当にそれほどの依頼なのかお?」

('A`)「ぶっちゃけ、人数は、俺らの四倍くらいかけてようやく安全、ってくらいのもんだ。
    それを無理くりやってのけようってんだから、はあ……」

 ドクオ曰く、鷹の季節の砂漠は色んな獣がうろついていているのだとか。

 例えば山岳に住む、山羊の近種、ギヲーマ。
 この時期、メスを巡ってオス同士の争いが熾烈を極め、カリカリしまくってるらしい。

 メスはメスで外敵から胎に抱えた子を守るべく、角の根元から毒を分泌し、と。
 そんな躍起になってる動物達を退けて辿り着くだけでも精一杯。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:41:08.76 ID:cqRW3h/Q0
 と、いうのが一般的な冒険者の見解で、ほとんどが二の足踏む原因となる前情報。

( ^ω^)「そんなに苦労した覚えはないけど」

('A`)「そら俺がルート選び慎重にして避けて避けて逃げて逃げてだったからだっつーの」

 はあ、とドクオ。

('A`)「それにしたって、砂竜は凶暴になってるだろうしな」

( ^ω^)「竜はいつだってそうじゃないのかお?」

('A`)「奴らは今頃から雷雨の季節にかけて一番活発になるんだそーな」

( ^ω^)「奴らも繁殖期?」

('A`)「知らね。でも単独で生きる期間が長い種だから、たまにはそういうこともあるかもしれん」

 触らぬ神に祟り無し、逆鱗に触れざるものに笑顔あり、か。

('A`)「逆鱗云々はいわねーよ」

( ^ω^)「ですおね」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:43:03.87 ID:cqRW3h/Q0
 竜というのは厄介な生き物で、低俗で好戦的な種ほど仲間意識が強いらしい。
 血縁に仇なす外敵を認知するや否や、根絶やしにするほどの勢いで反撃を開始する。

 かなり蛇足的な話になるが、歴史的に有名なのは「ウィリエの大虐殺」か。

 疫病の治療にその地域の黒い飛竜の毒牙が有用であることを知ってしまったのが始まりだ。
 竜への認識が「人間以外の動物」でしかなかった頃、ウィリエ国で大々的な竜殺しが推奨された。

 そりゃ、最初の頃は兵士だってびびりまくってたそうだ。
 黒い飛竜、ウィンザイム・エルゾ種は長い長い毒牙にトゲ付きの長い尻尾、精神汚染をする鳴き声持ってたから。

 でも、はぐれた一頭を打ち倒し、二頭目の寝込みを襲い、次には早速恐怖も薄れていたんだとか。
 大軍率いて竜の巣に突入にまで踏み切った頃には、ちょっとした害獣退治と変わりない感覚だったんだってね。

 で、油断しきったところに洞窟の中ではウィンザイム・エルゾの待ち伏せ。

 そりゃーもう面食らったそうだ。
 簡単なものとはいえ、戦略らしい戦略を使われたんだから。

 しかも残存勢力は人間側の予想を遥かに超える数。
 予想外の事態にパニくってるうち、怪音波を受けた兵隊は何がなんだか分からなくなって、同士討ち。

 生き延びた兵士も国に帰って殺人鬼になったとかならなかったとか。
 飛竜は王都を襲うし、かなり酷い目にあったらしい。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:45:14.92 ID:cqRW3h/Q0
('A`)「きっと竜の身体は研究すれば色んな利用法があるはずだ。だけど、ひでえ目にあった前例があるからな」

( ^ω^)「なのに砂竜狩りは承認されるこの不思議」

 僕は「スペルガン」の薬莢を確かめながら、あぐらをかく。

('A`)「砂竜は賢いからだろ。攻撃してきた相手だけを特定して反撃する。それに、コデインまで移動できる種じゃない」

( ^ω^)「ああ、砂を泳ぐから」

('A`)「そゆこと。ま、どんなビックリ技を持ってても不思議じゃないがな」

 解体したスペルガンを組み立てながら、僕は笑った。

( ^ω^)「なんとかなるお」

('A`)「楽天家め」

( ^ω^)「ペシミストよかマシだお」

(#'A`)「楽天家のせいでこんな昼クソ暑く夜クソ寒いとこに来る羽目になったから怒ってんだよ!」

(;^ω^)「スマンかった」

 でも物事はなんでも楽しんだ方が得じゃないっすかね?

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:48:31.46 ID:cqRW3h/Q0
 ドクオがワーテル鳥の骨をバリバリと噛み砕いてから、ため息をついた。
 貧弱な胴体のクセに、顎など妙なところが丈夫だ。

('A`)「ったくよー……。ん」

 ぴくり、ドクオが細すぎる目を少し開く。

( ^ω^)「どうしたんだおドクオ……、お?」

 はいはい、そういうことか。

( ^ω^)「ちょい待ち、すぐ準備できるから」

 銃身に拳より少し小さいくらいの弾丸を装填する。
 単発式の魔法筒に込めるのは、『焔』の呪術。

('A`)「距離なんかのアナウンスはいりますか」

( ^ω^)「結構ですお。できたっと」

 僕は準備完了したスペルガンを肩越しに真後ろへ向け、そして――

「グォオォォオオオオオオ」

 獣の叫びに被せるように発砲、術式展開した。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:51:00.23 ID:cqRW3h/Q0
 銃口から放たれるドス黒い赤は焔。
 闇を発する火焔が、僕の後方に放たれる。

 わざわざ的を見るまでもない。
 造作もない作業でしかないのだから。

('A`)「的中」

( ^ω^)「分かってる」

 振り向けば、ギヲーマ――それもかなり大型で立派な角を持っている――の声も無く焼かれていく姿があった。

('A`)「明日干し肉にしておくわ」

( ^ω^)「よろしく頼むお、調理番長」

('A`)「で、いまんとこは生のままがいいから火を消して欲しいんだが」

(;^ω^)「ぬお」

 焔に拮抗する術式を展開、鎮火をして、その日は就寝することにした。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:54:19.91 ID:cqRW3h/Q0
 狩り一日目。
 下調べ。

 僕は地形把握のために地上から40コンティアほどの高さを飛んでいた。
 視野とスピードを確保するにはこれくらいが丁度いい高度だった。

 砂丘の高低差は最大30コンティアはある。
 徒歩で登ったらかなり骨が折れただろう。

( ^ω^)「砂漠なのに結構動物がいるもんだお」

 どうやらパイス砂漠はイイカンジにオアシスが点在しているらしい。
 完璧な砂だらけの場所かと思いきや、小さな湖くらいある水場と、それを囲む緑がちらほらと見つかる。

( ^ω^)「なるほどー、確かに獣が好んで住むはずだお」

 人はどちらかと言えば遮蔽物があった方が落ち着くので、だだっ広い砂漠より山岳地帯の方を好んでいる。
 平地に住む人間なんて見たことも聞いたこともない。

 もっとも、ドワーフほど壁や天井を好む種族もいないだろうけど。

( ^ω^)「ちょっと水飲み休憩、っと」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:57:27.36 ID:cqRW3h/Q0
 降りたのは椰子に囲まれた水場だ。
 獣が少なく、危険もほとんどないだろう。

( ^ω^)「ふいーっしょ、っとぉ!」

 水際で四つん這いになり、勢いをつけて頭を突っ込む。
 きりりと冷えた水に驚きながら、水中で叫ぶ。

「おばばばぼごぼあばっばっびび!!」

(;;^ω^)「どはっ!」

 もう一度。

「おばばばぼぼばごばがびび!!」

(;;^ω^)「ぶあっふ!」

 やばい、楽しくなってきた。

「なんて言ってんの?」

(;;^ω^)「王様の耳はロバの耳!!」

「あそう」

 もう一度頭を水中に――。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 18:58:56.33 ID:cqRW3h/Q0
 アンタ誰?

(^ω^;;)「お?」

ξ゚听)ξ「何よ」

 何よ、ってアンタが何よ。

( ^ω^)「あの」

ξ゚听)ξ「何か用?」

 何か用っていうか。

( ^ω^)「えーっと」

ξ゚听)ξ「鈍い奴。何よホント」

 話しかけたのはお前だろうというか。

 どんなシチュエーションでも”全裸で水面に立つ少女”を見て思考が追いつくわけないというか。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:01:15.97 ID:cqRW3h/Q0
 目が泳ぎに泳いで目がスイミー、いやスイマー。
 口をついて出た言葉は、たった一言。

( ^ω^)「ちっぱい」

 これが僕の脳みその限界だった。
 少女はため息をついて、頭を振り振り口を開く。

ξ゚听)ξ「は、やっぱこれだから人間って奴は。意味不明だわ」

 呼び覚まされる数々の似たような経験。
 が、いずれもそこまで楽しい展開にはならなかったような……。

(;^ω^)(いかん! こんな感じで酷い目にあったのは一度や二度ではない!)

 本能がよろしくない何かを感じ取り、僕は立ち上がった。
 息子が立ち上がってないのは、少女の容姿が僕の好みをばっちり外しているからだった。

ξ゚听)ξ「アンタ旅人?」

(;^ω^)「イエス」

 じりじりとボードに近寄って、逃げる準備開始。
 起動呪文を唱えて抱えて走って、飛ぶまでに、えーと、4秒あればいけるか?

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:03:43.09 ID:cqRW3h/Q0
ξ゚听)ξ「ふーん……。仲間いないの?」

(;^ω^)「ノー」

ξ゚听)ξ「ちょっと! アタシ喋ってんじゃないの、こっち向きなさいよ!」

(;´ω`)(うぜええええ)

ξ゚听)ξ「何ソレ、アンタの板? なんかあんの? それどーすんの?」

 水面歩いてくるな、とりあえず服を着ろ、そして無表情は止めてくれ。

(;´ω`)(今か、今だな、逃げるなら今だな、よし逃げよう、すぐ逃げよう)

ξ゚听)ξ「アタシが訊いてんのよ。ねえ、ソレなんなの?」

(;^ω^)「しっ、失礼します! 『アンロック』!」

 起動呪文を発しながら、僕は駆け出した。
 湿った地面を踏みしめて、そして僕は――。

 滑って転んでヘッドスライディングを演じた。

「ぎゃふーん!!」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:09:03.39 ID:cqRW3h/Q0
 ――と、ここまでは覚えている。

ξ゚听)ξ「起きた?」

(;´ω`)「お〜?」

 目の前には青い空をバックに、逆さ向きの少女の顔。
 まつ毛長いなー、この子。

 じゃない。

(;^ω^)「ほああああああああ!!」

 膝枕はまだよしとして僕、捕まっちゃってるじゃないか!
 結局係わり合いになってしまったド畜生!

ξ#--)ξ「うっっるさっっ!」

(  ω )「オブシッ」

 顔面に振り下ろされる拳側面の攻撃を、人はパウンドと呼ぶ。

 鼻っ柱がめこんと凹んだ気がした。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:10:28.10 ID:cqRW3h/Q0
 正座で向き合って、僕は謝る。

( `*´)「いや、すんません」

 顔って意外に柔らかいんですね、僕初めて知りました。

ξ゚听)ξ「アタシもちょっとやりすぎたわ、ごめん」

( `*´)「ホントすんません、色々許してください。できることならこのまま逃がしてください」

ξ゚听)ξ「逃がす? それ無理」

 即答だった。

( ^ω^)ポン

( ^ω^)「あ、戻った」

 まともな視界が戻ったところで、ようやく目の前の人物に注目する。

 歳の頃14歳ほどの少女。
 髪は金色ツインテール&カール。

 胸はささやかさを演出し、猫の額、雀の涙ほど。
 忘れちゃいけない要素がこれですな

 全裸。

(;´ω`)(誰かこの子に服を買ってあげてー)

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:12:15.50 ID:cqRW3h/Q0
 西の都だったかで出会った男性の胸毛よりかは見た目いいけどもさ。

ξ゚听)ξ「質問に答えて、っていうか話し相手になりなさい」

 居丈高っていうのかしら、こういうの。

(;´ω`)「はい。なんでしょう」

ξ゚听)ξ「あの板何?」

(;´ω`)「サーモ・ボード。マナと熱を動力に浮かぶ魔導機械だお」

ξ゚听)ξ「熱を動力ってどういう意味?」

(;´ω`)「中の魔導機構が地熱なんかをエネルギーに変換して、前進したり浮いたりする力を得るんだお」

ξ゚听)ξ「意味不明」

(;´ω`)「あー」

 帰りたい。

(;´ω`)「空飛ぶ不思議な板っきれだお。おk?」

ξ゚听)ξ「なんだ、不思議な板なのね。始めっからそういえばいいじゃない。馬鹿じゃないの?」

 帰りてえ!

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:14:02.97 ID:cqRW3h/Q0
 質問内容は限りはなかった。

 出身、年齢、目の細さについて、装備、旅をして何年目か。
 もう矢継ぎ早に繰り出してくるので正直覚えてない。

ξ*゚听)ξ「ねえねえ、それでそれで?」

(;´ω`)「ドワーフの男女の見分け方なんて知らんお。っていうか彼らにそんなこと訊いたら殺されちゃうお」

 実体験だが、「あなたは男ですか」と質問すると大概、拳で返答される。

 一人目は男だったらしい。
 尋ねなきゃ分からんほど俺が女々しくみえるのか、とお怒りになったようだ。

 二人目は女だったらしい。
 あまりにも無礼な質問だったので、怒り心頭だったとか。

 知らんがな。

ξ*゚听)ξ「うそー。オモシロー」

(;´ω`)「今度知り合いにコツでも聞いておくお。ねえ、そろそろ行ってもいい?」

ξ*゚听)ξ「どこに行くの? これからナイトウ、アンタどうすんの?」

 好奇心そのものという顔で、少女は訊く。
 なんだよその学生に進路訊くみたいな言い方。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:16:06.50 ID:cqRW3h/Q0
(;´ω`)「仲間のところに帰るんだお。仕事があるからホントこれ以上は勘弁」

ξ゚听)ξ「シゴトってなあに?」

 シゴトはシゴトだ、と返そうとして、不毛な質疑応答が期待されたので僕は考える。

(;^ω^)「こう、その人が生きるために必要なことで、誰かのためになること、だお」

 どうだ。

ξ゚听)ξ「……ふーん。誰かのためにやることなんだ」

( ^ω^)「そうだお。だから僕は行かねばならぬ、だお」

ξ゚听)ξ「……」

ξ^ー^)ξ「なら行ってよし!」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ「え、何よ」

( ^ω^)「あ、いや、なんでも」

 僕はあらかた地理を把握して、手元の地図に情報を書き写すと、日暮れ前にはキャンプに戻った。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:18:02.34 ID:cqRW3h/Q0
 600カネン四方の地図には、こんな物が始めから描かれていた。

 北の方には僕たちがキャンプを張っている岩山。
 南西には渓谷、東側には草原らしきマーク。

 実際には渓谷なんて枯れてしまっていたし、草原も記載されている位置よりもずっと東にあった。
 地図が作られた頃より砂漠化が進んでいたらしい。

 僕が書き加えたのはオアシスの位置と、やや南方に五箇所点在していた石の社。
 他には砂丘の位置も書いておこうとしたが、刻一刻と変動するものは意味がないと消されてしまった。

('A`)「社のあたりにいるとか依頼書には書いてあったな」

( ^ω^)「……」

('A`)「しかし、妙だな。南西の渓谷、オアシスがこんなにあるなら枯れるわけがないんだが」

( ^ω^)「……」

('A`)「おい、豚ッ」

( ^ω^)「なんだてめえシャモジ!」



(;A;)「意味わかんないけどなんか深く傷付いた」

( ;ω;)「ごっ、ごめん」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:20:12.95 ID:cqRW3h/Q0
('A`)「お前どうしたんだよ。上の空じゃねーか」

( ^ω^)「それが、また散策中に妙なモンと遭遇してしまいまして」

 てん、てん、てん、と沈黙。

('A`)「マジかよ。何系?」

 今までに出くわしたのをまとめると、獣人系、鉄人(職人的な意味で)系、自称未来人系、電波魔法少女なんかがある。
 それらの情報と照会して、言うなれば、あれは。

( ^ω^)「全裸少女」

 何度も言うが僕の脳みそなんてこんな程度の処理能力だ。

('A`)「はあ。あのな、見た目のことはともかくとして、見た目、みた、えっ?」

('A`)「えっ」

(#'A`)「全裸少女って、てめえなんで連れてこねえんだ馬鹿野郎!」

( ^ω^)「連れてきたら怒るクセに。っつーか連れてきても喋れないだろお前」

(;A;)「そぉだけどさあぁ、俺だってたまにはそういうのものさぁあああ」

 人前だと声がちっちゃいドクオ君は僕といるときが一番喋るんです。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:22:11.81 ID:cqRW3h/Q0
(つA`)「で、どう感じた?」

( ^ω^)「やっぱ人ではないお。かといって、エルフの一種にしちゃあ物を知らなさすぎ」

 人間が水面に立てないことはないが、彼女はそれには当てはまらない。
 高浮力ブーツか反重力魔導服くらい着用していなければ実現不可能なので、「全裸であるから」余計にあり得ないのだ。

 かと言って、高尚な種族(笑)であるエルフが軽々しく人間に話しかけてくるはずもなく。
 まあ、例外はいたけどもあれは特例中の特例だ。

 質問攻めにするのは元来人間の方で、あちらさんの方が知識量が多いのが常。
 以上の2点から、彼女は人間でも人間外のヒト型種族でもないことが分かる。

('A`)「するってーと、ヒト型を借りた妖精か何か、ってことか?」

( ^ω^)「恐らく」

 ふむ、とドクオが考え込む。

('A`)「お前、正直に答えろよ」


 細い左目が見開かれ、あらわになる白濁した眼球。
 嘘を見抜くドクオの呪われた眼球だ。


 それを睨み返しながら、僕は鼻息を噴出した。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:24:17.12 ID:cqRW3h/Q0
  _,
( ^ω^)「僕らの間でそういうのは無しって決めたのはドクオだお」

 自分で言い出した癖に気を抜くと「眼」を使うんだから。
 長い付き合いなんだからそんな呪いに頼らないで欲しいものだ。

 交渉手段としてはウソが見破れるのは助かるけど、友人に使うものでもないでしょう。
 などと考えていると、ドクオは目を閉じて小さく謝った。

 僕に対する質問なんて聞かなくても分かる。
 つまるところ、ドクオはこう言いたいのだ。

 「ナイトウ、お前はその存在に興味を持ったんじゃないか」って。

('A`)「どうよ」

( ^ω^)「あー。うん」

 2秒だけ考えるフリをして、頷く。

( ^ω^)「興味、あるお。結構」

 まあ、訊くということは確信があってからこそなのだから、今更隠しもしない。

('A`)「……仕事に支障きたすなよ」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:26:30.57 ID:cqRW3h/Q0
 この辺のツーカーが通じるのが、長い付き合いのいいところだ。
 僕は、物事のいいところを見つけさせたら自身の右に出るものはないと思う。

( ^ω^)「すまんこ」

 パキリ、と燃焼石が砕けきって火が小さくなった。
 そろそろ寝よう。

 余った干し肉をしっかりとバックグラッブに仕舞い込んで、僕は魔力カーテンの中に身を収めた。
 恒温に保ってある小さな結界の中は、寒い夜の砂漠でも心地よい。

 睡魔が魔手を伸ばし始めた頃、ドクオが僕の肩を叩いた。

( -ω-)「ん」

('A`)「例のそのよく分からん存在なんだが」

( -ω-)「なんぞ」

('A`)「全裸のうちに一度俺にも会わせて」

 こいつはよー、ホントによー。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:28:10.89 ID:cqRW3h/Q0
 狩り二日目。
 索敵。

('A`)「できれば今日明日中に砂竜の居所を掴んでおいてくれ。行動を開始できるようにしたい」

( ^ω^)「早期発見の際には?」

('A`)「接近はするな。今日は様子見だ。体長、速度、行動パターンを探れ。間違っても刺激するなよ」

( ^ω^)「了解。それじゃあ一番の目星、社の中心点辺りを見てくるお」

 アンロック。
 サーモ・ボードを起動する。

( ^ω^)「……あれ」

('A`)「どうした」

( ^ω^)「『アンロック』」

 起動、しようとする。

( ^ω^)「『アァンウォロッコォ』……。『スタンダップ』!……『ヴァジュラオン』!……『シャザーム』」

 発音とか単語選びも凝って見たり。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:30:20.29 ID:cqRW3h/Q0
 南方にある沿岸国訛りを真似て、ようやくボードが青い光を放つ。

('A`)「お前なんかしたのかよ」

(;^ω^)「いや、まったく覚えが。そういや昨日もこんなことが……」

('A`)「そいつもガタがきてんのかもな。何年使ってたっけ?」

( ^ω^)「10……いや、11年?」

('A`)「参ったな。それ整備できる人間なんていないだろ。仕事が滞るのは勘弁だな」

 これを譲ってくれた人はもう墓の下だし、製造した人もどこにいるのかわからない。

( ^ω^)「トソンに相談するしかないお」

('A`)「うへぇぁ。世界が終わってもアイツにだけはもう会うまいと思ってたのに」

 世界が終わっても、ね。

( ^ω^)「んじゃ、ちょっくら偵察いってきまっす」

 サーモ・ボードを抱えたまま、僕は崖から飛び降りた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:30:41.49 ID:cqRW3h/Q0


 地図でいうところの南西、渓谷に、やつはいた。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:32:03.63 ID:cqRW3h/Q0
「ガララララララ」

 いがらっぽい喉が立てるような音を響かせる胴体の一部。
 それが砂浴びをするかのように、枯れ果てた渓谷の底でうねっているのを見た。

(;^ω^)「予想外にデカいお……」

 尾だか胴だか頭だか分からない一部分だけでも、直径で20コンティアはある。
 砂漠に同化する色合いの体表面は見るからにザラついていて、滑らかな他の竜族とのイメージを異にする。

( ^ω^)「あんな相手とやるのかお……」

::( ^ω^)::ブルッ

 武者震い。

 あんな相手とやるなんて。

 否、あんな相手とやれるなんて。

( ^ω^)「ワクワク……!」

 サーモ・ボードではるか下方の砂竜を眺めながら、僕は頬がほころぶのを抑えきれずにいた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:34:07.63 ID:cqRW3h/Q0
 それからしばらく、僕は砂竜の動向を探った。

 活発化しているはずの砂竜は、見た目穏やかだった。

 しかし、今は下手に刺激するべきではない……。

 砂竜は砂浴びをした後、渓谷から砂漠へと北上し静かに静かに砂中を泳いで行った。

 何度かその姿を見失いかけたが、なんとか不自然に盛り上がった砂から進路を予測し、追跡を続けた。

 痕跡は途中で文字通り蛇行を繰り返し、やがて、砂竜は社の間を通過した。

( ^ω^)「寝床はこの辺、と」

 頭の中に必要な情報を叩き込みつつ、ボードを走らせる。

 社は概ね五角形を作るように配置されており、そのちょうど中心で砂竜の残した痕跡は途絶えていた。

( ^ω^)「見たとこ、マナの集中するポイント、か」

 マナ、すなわち魔力素は様々な生物に少なからず影響をしている。

 それゆえ、マナの集まる場所を神聖視する人間たちが、社や祠を作り囲うことがある。

 これらもその一種なのだろう。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:36:49.21 ID:cqRW3h/Q0
( ^ω^)「ずいぶんといいお住まいで……」

 どうやら周辺に野生の生物の影はないようで、とても静かな所だ。
 風と砂が起こす、さらさらとした音色だけが耳に届いてくる。

 マナが充実しているせいか、この周辺はサーモ・ボードの感触が少し「硬い」。
 スピードを出すには持ってこいのシチュエーションというわけだ。

 覚えておいて損はないだろう。

 そんなことを考えながら、水筒を取り出し、水をあおる。
 砂漠地帯のライドはかなり乾燥する。

 喉を潤し唇を舐めると、塩分の味がした。
 きっと気付かぬうちに汗を大量にかいているのだろう。

 帰りにオアシスで(特にあの女の子のいない場所で)また水を採っておこう。



( ^ω^)

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:37:10.89 ID:cqRW3h/Q0


( ^ω^)


ξ゚听)ξ


 あっれえええええええ?

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:38:24.94 ID:cqRW3h/Q0
ξ゚听)ξ「シゴトってのは終わったの? ねえねえ、終わったの?」

 だって、僕、違う場所選んで、えええええ?

ξ゚听)ξ「こーたーえーなーさーいーよー」

 いやっ、そんな、まさか水辺ならどこでも現れるのか?

ξ゚听)ξ「ね、え、ってばー」グリグリ

 いかん、ほっぺたつままれてる、それも手加減なしだ畜生!

< ´ω`)「いや、まっはいひゅうでございまひゅ」

ξ゚听)ξ「ちぇ、なーんだつまんない」パチン

 いってえ、これいってえ、くそう。

( ´ω`)「すんません、なんかすんません」

 下手に出れば見逃してくれるよね?

ξ゚听)ξ「じゃあちょっとでいいから話し相手になってよ」

 無理っすか。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:40:07.44 ID:cqRW3h/Q0
ξ゚听)ξ「何ができるのこれ?」

( ´ω`)「それはスペルガンだお。あ、危ないお、人に向けちゃ、いや向けんなっつってんだろガキ」


 それから


( ´ω`)「ワーテル鳥って美味しく調理できないのかお」

ξ゚听)ξ「そこらを飛んでる鳥? 食べようと思ったことないわ」


 ちょっとお話をして


( ´ω`)「帰っていい?」

ξ゚听)ξ「ダメ」

 ようやく本題へ


( ´ω`)「てか君はなんなの?」

 入ったはいいが

ξ゚听)ξ「あたしもよくわかんないのよね」

 答えが得られず、ド畜生。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:42:11.56 ID:cqRW3h/Q0
('A`)「関わるな。お前、絶対それにこれ以上関わるな」

( ^ω^)「分かってる、明らかに面倒なことが待ってるお」

 ワーテル鳥のガラでダシをとったスープに塩を加えながら、ドクオは再三同じことを言った。

('A`)「やれ、封印解いてくれだの、記憶が戻っただの」

(;^ω^)「あー、もう、ごめんだお。お仕事のついでにサブクエスト増やしても得したことほとんどないお」

 そりゃたまにはイイ思いすることもあるけど、世の中そればかりじゃない。


 もしもお節介だけで世界が回せるなら、「世界は崩壊に向かって行ったりしない」。


 スープの味見をしてから、ドクオは匙をこちらに振り振り言った。

('A`)「逆鱗に触れざるものに笑顔あり、と昔の大賢人も言ってる」

 いわねーよ、と返しながら、僕はギヲーマの肉を口に運んだ。
 クセのある味わいだが、持ってきた乾パンとの相性は抜群だった。

 野趣溢れるこの風味、ギヲーマの乳でチーズでも作ったら酒に合いそうだ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:44:05.43 ID:cqRW3h/Q0
 シンプルなワーテル鳥のガラスープはなかなかに美味だった。
 筋張った肉から染み出した旨味が唾液腺をぎゅうと刺激し、体を温めた。

( ^ω^)「ほふほふ」ズズ…

('A`)「あと何年くらいもつだろうな」

( ^ω^)「……世界が、かお?」

 頷くドクオ。

('A`)「経済的にはどの国も安定し始めた。ある程度の安寧はどこでも得られる」

( ^ω^)「僕の読みでは……ズズ……。天災が起きて大地ごとやられるんじゃないかと」

('A`)「やっぱりお前もそう思う?」

( ^ω^)「だって、知能の高すぎる竜ともある程度折り合いついてるし、世界滅亡のシナリオはそれくらいしか思いつかないお」



 ――僕らは、世界の看取り人だ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:46:14.26 ID:cqRW3h/Q0
 スープのおかわりをよそいながら、僕は言う。

( ^ω^)「戦争らしい戦争も起きているっちゃ起きているけど、それほど戦乱の世ってわけでもない」

('A`)「確かに」

( ^ω^)「ま、なんにせよ僕らが生まれてきたということは間違いなく」

('A`)「そ、世界は滅びる、というわけだ」

 僕らは生まれながらにして、世界の滅亡に立ち会うことが運命付けられている。

 それは前世も、その前も同じだった。

 生まれながらにして僕たちは、世界の終焉を知っている。

 遠くない将来、この世は、終わる。

( ^ω^)「何も変えられないほど無力な僕たちに何をしろってんだお、まったく」

('A`)「神というやつがいたなら、相当なサディストだよな」

 僕らは十分に達観してしまっている。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/29(日) 19:47:08.89 ID:cqRW3h/Q0
 しかし、それでもできる限り、僕らは楽しく生きようと決めた。

 この狩りだってそうだ。

 たとえ困難な狩猟だとしても、僕たちは投げだしたりしない。

 楽観的に、命は大事に、一日一善、快便快腸ってね。

( ^ω^)「あーあ、飽きないおね」

 椀を砂で洗いながら、僕は呟いた。

('A`)「何がだ?」

( ^ω^)「無論、こんな生活、だお」

('A`)「お前の場合はライドできりゃなんでもいいんだろ」

( ^ω^)「違いねえお」

 ドクオはトラップの魔方陣をチェックしながら、短く笑った。


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