( ^ω^)砂上狩人のようです

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:29:01.48 ID:NdBY4SoG0

現在地
・パイス砂漠
  広大な砂漠の一部。山脈、渓谷、草原に三方面を囲まれた土地。
  貿易都市コデインまで成人の足で一週間ほどの位置。

前回までに使用された所持品
・サーモ・ボード
  大気中の熱量とマナ(魔力素)を浮力、推進力に変えるセラ素材(軽くて硬い)の板。
  「アンロック」の呪文によってその魔力性を顕現させる。地熱の影響を受けるため、高高度の飛行には向かない。

・バックグラップ
  背負う形で用いる荷物入れ。ベルトで掴む(グラップ)するように全体を縛るのでそう呼ばれる。

・スペルガン
  マナを弾丸に封じ込めることで様々な術式を展開(発動)するツール。単発式で、中折れ型。
  射出された術は球形をしており、衝撃、あるいは時間で展開する。

・燃焼石
  この世界で最もポピュラーな魔力石のひとつ。
  多孔質の石に火の術を閉じ込めることで、必要時に燃焼現象を引き出すことができる。
  条件次第だが、拳大の大きさで最長6時間、旅先で十分な火力を発揮してくれる。見た目に反して軽い。

単位
1コンティア≒150p相当(酒場の女性コンティアが棚の上から物を取るのに困っている様から)
1カネン≒400m相当(徒競走競技カネンの一回分の走行距離から)

サーモ・ボードは毎時300カネン≒120q/hほどで飛ぶ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:29:25.87 ID:NdBY4SoG0

登場人物

( ^ω^) ナイトウ(ブーン)
  サーモ・ボードを乗りこなす楽天家。スペルガンの扱いは一流(?)。
  乾物、クセのある食べ物が好物。砂竜狩りに来た狩人。世界の看取り人。

('A`) ドクオ
  呪われた左眼を持つペシミスト(ナイトウ談)。料理の腕前は一流(?)。
  顎が丈夫らしい。砂竜狩りに来た狩人。世界の看取り人。

ξ゚听)ξ ?
  オアシスの近くに現れる妖精の一種(ナイトウ談)。
  全裸で水の上を歩く。面倒そうな設定を持っているに違いない(再びナイトウ談)。

爪'ー`) ?
  貿易都市コデインでナイトウ、ドクオに砂竜の素材狩りを依頼した人物。
  金払いの良さに反して身なりはみすぼらしく、信用に値するか?といったところ。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:31:20.82 ID:NdBY4SoG0


   【鷹の季節 パイス砂漠 渓谷付近にて】



    ――油断したつもりは、ないのだが――

.

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:32:08.28 ID:NdBY4SoG0
***

 来る!

 本能が体を突き動かした。

(;゚ω゚)「おおおおおお!!!」

 ボードを翻し、背面飛びの状態で横方向へと降下。

 全力でボードにしがみついて体を縮めると、「それ」が空中を横切っていった。

 岩山が容易く切り裂かれ、音を立てて崩れる。

 竜の最も得意とする攻撃手段「ブレス」だ。

 砂竜の、砂を高圧で吐き出すそれは、凄まじい切れ味を発揮した。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:33:38.06 ID:NdBY4SoG0
(;゚ω゚)「!」

 態勢を整えつつ遥か後方にいる――それでいてあの威力!――砂竜を見やると、
 その尖った頭部を再びこちらに向けているところだった。

 旋回していく僕に合わせて、正確に。

 三叉の嘴をすぼめるようにして、大気が中央の穴へ吸い込まれていく。

 もう一発来る!


 ざらついた、砂嵐のような轟音が耳をつんざいた。


 舳先を真上に向け、空気をボード全体で受ける。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:34:40.57 ID:NdBY4SoG0
 ボードは一瞬のうちに劇的な失速を起こし、その進行を止めた。

 そうして地面から宙へと撫でるようなブレスを寸前で回避。

 ブレスの射線から漏れた砂が鋭くボードの裏を叩き、その余波が僕にも十二分に伝わってくる。

「ガララララララ!!!」

 怒り猛るように砂竜は啼く。

 嘴が三方向にがばりと開かれ、輪状に並んだ三重の乱杭歯を覗かせた。

 噛みつかれれば抜け出せずにそのまま……いや、これ以上は想像するのをよそう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:36:32.45 ID:NdBY4SoG0
 嘴の周囲に三つある眼は退化しているのか、白濁しており、ほとんど用を為していないようだ。

 それらはあらぬ方向を睨みつけていたが、鎌首は依然、正確にこちらを捉えたままだった。

 その様子にひるみ、砂竜から隠れるように岩場の影へ。

 三つ子のように連なった岩の後ろへ走り、姿をくらまして逃げようとする。

(;゚ω゚)(とにかく態勢を立て直さないと……)

 岩肌のごく近くを舐めるように、身を細かく振りながら走っていく。


 砂竜「セッティエムソン」との戦いが、長丁場になりそうだと予感した。

***



       セッティエムソン 『第七感』


       ( ^ω^)砂上狩人のようです


.

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:38:31.32 ID:NdBY4SoG0
 三日目。
 下調べ二日目。

 二度目の下調べを兼ねて僕はサーモ・ボードを走らせた。
 道々オアシスに例の少女の影がないかを確認して、水分補給をしたり、昼食に戻って報告をしたりした。

 特にこの日は特筆すべき点はない。
 強いて言うならドクオが寝ぼけて僕の魔力カーテンを奪ったことか。

::(( ゚ω゚))::

('A`)「正直すまんかった」

 おかげさまで凍えた状態で朝を迎えることになった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:39:42.86 ID:NdBY4SoG0
 そして四日目。
 下準備。

('A`)「このトラップには『雷』を籠めてある。今まで通り、設置後にそこへ誘導しろ」

 ドクオが床に置いた木札を指でなぞった。
 表面には難解な魔方陣が描かれている。

 何もドクオだってこれまで遊んでいたわけじゃない。
 僕から得た位置情報を元に効果的に罠を仕掛ける場所を考察し、それに合わせた調合を行っていたのだ。

( ^ω^)「痺れ罠だおね? 把握、っと」

 地図の裏に在庫数を書き入れ、バックグラップにトラップをしまう。

('A`)「こっちは爆発系」

 そう言って取り出されたのは、片手で握り込める程度の小瓶が6本。
 これはどちらかというと携行武器で、いつもなら攻撃開始の日に渡されるものだ。

( ^ω^)「おっ、今これを渡すのかお? っていうか砂竜ってのは結構硬いって噂じゃ?」

('A`)「まあ、一応な。前倒しの護身用と思ってとっとけ」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:41:28.54 ID:NdBY4SoG0
('A`)「もしも道すがら襲われたら口にでも放り込んでやればいい」

 確かに外殻が硬いのは脆い内部を守るため、っていうのはよくある話だ。
 昔話でも、大抵勇者は口の中を攻撃する。

('A`)「俺は過去に学ぶ男なの」

 と、いうことだそうな。

 他に持たされたのはギヲーマの毒角と、昼食に炒り豆、干し肉。
 しっかりとバックグラップにしまい込むと、僕はボードをアンロックした。

( ^ω^)「それじゃ行ってくるお!」

('A`)「ああ、くれぐれも設置し間違いは勘弁な。資材はありったけ使ってるんだから」

( ^ω^)「大丈夫に決まってるお!」

 僕を誰だと思っていやがる!

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:42:59.32 ID:NdBY4SoG0

 思って


( ´ω`)「やんべえ、間違えた」


 いやがる……。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:44:18.41 ID:NdBY4SoG0
 地図に書き込まれた×の位置に痺れ罠を仕掛けたと思ったら、地図が上下反対でした、という。

( ´ω`)「しかも発動しちゃってるから下手に触れないお……」

 木札は大気中のマナを吸ってパチパチと火花を散らしている。
 触った場合、間違いなく僕の体積だと、気絶するのに充分すぎるほどの電流が流れて倒れてしまう。

 下手をするとそのまま感電死、なんてことも……。

( ´ω`)「そのままミイラ……。これ以上痩せたくないお」

 腹の余った肉? そんなの知らん。

( ^ω^)「ま、まあこういうこともあるお! 次、次!」

 じりじりと照りつける太陽の下、変に焦っても仕方がない。
 そう、過去を生かそう! 次も同じ失敗しなければいいんだ!

( ^ω^)「『アンロック』!」

 砂丘の上から駆け下りながら、ボードで大気をキャッチする。
 一気に高度を上げ、ぶら下がった状態から板の上へと身を移す。

 空を切ってライドしているうちに、失敗は記憶の彼方へと吹っ飛んで行った。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:46:15.66 ID:NdBY4SoG0
( ^ω^)「よいしょっと」

 1枚目を設置。

( ^ω^)「2枚目っと」

 そして3枚目、4枚目……

( ^ω^)「設置完了!」

 したことにしておこう。

 設置したのは痺れ罠9枚。
 砂竜の寝床からジグザグに、山脈方面へと繋いだ。

 プランAでは、砂竜を搖動し、途中で攻撃。
 最終的にドクオがキャンプ付近で迎撃。

 僕が道々体力を削り、ドクオが大出力の術式で倒す。
 まあ、言ってしまえばいつものパターンだ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:48:11.54 ID:NdBY4SoG0
( ^ω^)「さて、もう昼時かお」

 腹時計が昼食刻を告げていた。
 流れ行く白い砂の大地の彼方に渓谷を眺めながら、手頃な日陰を探す。

( ^ω^)「オアシス……は却下だおね」

 すると現時点から近いのは南西の渓谷の方だ。
 手頃な岩場に腰掛けて豆でもかじろう。

( ^ω^)「しっかしいい天気すぎるお」

 空を見上げれば雲一つない晴天で、雨季の様子などまったく想像が付かない。
 話に聞くと、目も開けられないほど強い雨が降り、鼓膜を突き破らんばかりの雷が鳴り響くらしい。

 まあ、そんな時期に狩りをするなんて考えられないけども。


(*^ω^)「ぶーんぶんぶん♪」

 鼻歌混じりに空を切り、ボードの端を蹴ってジャンプ。
 ボードを横に1回転させるトリック、キックフリップをメイクして、着地。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:49:46.68 ID:NdBY4SoG0
 続いて360°(スリーハンドレット)。
 大気をざっくりと切り取るように回って、再び進行。

 そうして僕はいくつかのトリックをキメ、今度は地面スレスレへと下降した。

(*^ω^)「おー」

 速度を落とし、砂に片手を突っ込んで地面に線を描く。
 さらさらとした手応えが、スムーズなサーモ・ボードのライドと対称的で楽しい。

 周囲には白く広大な砂丘。
 遠くをギヲーマの親子が歩いていく。

 周囲を窺うように砂キツネが砂中から顔を出している。
 耳に入ってくる風音は柔らかく、心地良い。

( ^ω^)「こんなに世界は楽しいのに……」

 滅びる運命にあるなんて、なんともったいないことか。

 ため息をひとつ漏らして、砂から手を引き抜く。
 風を浴びると擦れた部分が少しだけひりひりとした。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:51:29.94 ID:NdBY4SoG0
 低空飛行のまま渓谷の上まで差し掛かった頃、僕の腹の虫も限界を告げていた。
 バックグラップの中で愛しい愛しい携行食が待っている。

( ^ω^)「美味しく食べてあげるおー」

 本当は新鮮な豆と肉や野菜と煮込んで暖かい料理が食べたいところだが、あいにく調理する材料も道具もない。
 余計な荷物はドクオのところに置いてきている。

 次第に砂漠から岩が突き出すようになり、渓谷が近付いてきた。
 少し、高度を上げる。

 あと5カネンも飛べば谷に到着だ。


 と、その時、いつものアレが襲ってきた。



 途端に高揚感が消え失せ、じわじわと知覚が浸食される。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:51:55.80 ID:NdBY4SoG0


 「前世の記憶」が僕を支配していく。

.

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:53:09.96 ID:NdBY4SoG0
 視界の中にある青い空が、もうもうと立ち上る黒煙に塗りつぶされる。

 大地の白に鮮血が流れ行く。……ああ、これは何回目の「崩壊」の様子だろう。

 蘇る記憶の片鱗から、阿鼻叫喚の場面が切り出され、眼前に広がる。

 銃剣に貫かれた女性の悲鳴が耳にこだまする。

 男達の怒声が肌を震わせる。

(;^ω^)「くっ……」ぐらっ

 ボードの速度を一気に落とし、降下する。

 辛うじて柔らかい砂上を選んで降り立つと、マナの余波で砂が舞い上がった。

 僕は動かない。

 いや、動けない。

 足に根が張ったようだった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:55:02.12 ID:NdBY4SoG0
 サーモ・ボードを砂の上に落とした。

 膝を付き、頭の中に響く音から意識を遠ざけようとし、強く眼を閉じた。

 これは今の僕の記憶ではない、と自分に言い聞かせる。

 心臓が喉元までせりあがってきたかのようだ。

 さっきまで聞こえていなかった喧噪に包まれ、自分が何者かを見失いかける。


(; ω )「ハァ……ハァ……」




 ――波が納まるまでに、しばらくかかった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:57:11.26 ID:NdBY4SoG0
(;^ω^)「……ふぅ」

 首筋が強く脈打っているのが聞こえる。
 幼い頃は「崩壊」の記憶を見る度にパニックに陥っていた。

 今では比較的冷静に耐えることができる。
 だが、僕ら世界の看取り人とて、生まれながらにして成熟しているわけではない。

 物心ついてしばらくは、どうして自分だけが凶悪な白昼夢に襲われてしまうのか悩んだ。
 ドクオに出会い、自らが何者であるかを悟った時、それはようやく解消された。

('A`)『お前も見るのか』

 僕はドクオと会って、安心した。
 自分は独りではなかったのだと。

('A`)『俺だけじゃなかったのか……』

 反して、ドクオは悲しそうにうつむいたのを覚えている。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 00:59:42.24 ID:NdBY4SoG0
 立ち尽くしたまま、僕は水筒を口に近付けた。
 ぬるい水を飲み下すと、何故か昔食べた、薄い粥の味を思い出した。

 僕らは共に孤児だった。
 僕の両親は早くに亡くなり、ドクオはその呪われた眼のせいで捨てられたのだ。

 三食まともに食べられたことなんか数えるほどしかなかったように思う。
 回ってくる食事は大体が残飯に近いもの。それでも食べなければやっていけなかった。

 当時の思い出と言ったら、世話を見てもらっていたドワーフの親父に怒鳴られていたことくらいか。

 ドクオは……詳しいことを語りたがらない。
 ただ、時折見せる肌の傷、その「腕」から壮絶な人生を送ってきたことが分かる。

 放浪していたドクオと僕が出会えたのは、偶然だろうか。
 それとも、看取り人としての運命性が故だろうか。

 結果として今が楽しいからそれはどうでもいいっちゃいいのだけれど。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:01:25.93 ID:NdBY4SoG0
( ^ω^)「……行くかお」

 ボードを抱え、背の高い岩を目指す。
 そこの日陰で食事を摂ろう。

 ゆっくりと歩きだした――時だった。


 目指していた岩が爆散した。


( ゚ω゚)「ッ!?」

.

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:02:27.36 ID:NdBY4SoG0
 咄嗟に、飛散する石つぶてや砂をボードで防ぐ。
 硬い音は連なり、両手に衝撃が走る。

 ボードの影から顔を出すと、立ち上る砂煙の中、地面から太く長い「何か」が突き出す姿が見えた。
 そのシルエットは緩やかな螺旋を描いて天へと伸びていく。

 まるで太陽に向かって今まさに聳え立っていくように。

( ゚ω゚)「お、お、お」

 思わず後ずさりをして、その様子を見守ってしまう。

 見上げる、見上げる、見上げる……。
 「何か」の長さは10コンティアをゆうに超え、なおも伸びていく。

 捻じれながら、その頭部はゆっくりと、こちらへ。

( ゚ω゚)(デカい……!)

 砂煙が晴れる。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:03:18.28 ID:NdBY4SoG0


 冗談みたいに巨大な蛇のような化け物。


 砂竜『セッティエムソン』が、そこにはいた。


.

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:05:59.10 ID:NdBY4SoG0
( ゚ω゚)「……」

 それはあまりにも思いがけない遭遇。

 近過ぎる彼我の距離。

 僕の思考は停止してしまっていた。

 ボードを盾のように構えたまま、突っ立っていた。



     「ガラララララララ!!!」


(;゚ω゚)「ッ!」


 咆哮を全身で受け、ようやく硬直が解ける。

 音の放流を浴びた瞬間に、本能がこう叫んだ。

 逃げろ! と。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:07:21.94 ID:NdBY4SoG0
( ゚ω゚)「『アンロック』!」

 サーモ・ボード上に青白い魔方陣が浮き上がる。

「ガラララララララ!!」

 同時に砂竜が嘴を三方向に開き、けたたましく啼いた。

 びりびりと肌が震えるのを感じながら、一心不乱に走り出す。

 一にも二にもなく、僕は背を向けていた。

 これはヤバい!

 そう強く心に思った時、


 僕は宙へと「打ち上げられていた」。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:08:07.68 ID:NdBY4SoG0


 事態を把握したのは地面に叩きつけられた後だった。


      (  ω )「がっはっ!!」


 ――地中からの尻尾による攻撃!


.

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:09:49.10 ID:NdBY4SoG0
 仰向けに転がる僕の上へと、岩石が雨霰と降り注ぐ。

 辛うじて手放さなかったボードでそれらをやり過ごす。

 なんという威力だ!

 直撃しなかったのはひとえに運が良かったとしか言いようがない。

 衝撃によって萎えかけた脚へ鞭打って立ち上がる。



 それは、ちょうど、砂竜が尻尾を叩きつけてくるのと同時だった。



(  ω゚)「うおおおおお!?」


 真横に、飛び退く。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:10:53.77 ID:NdBY4SoG0


 三度、大地が揺らいだ。


.

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:11:50.81 ID:NdBY4SoG0
 ――僕はボードを投げ出しつつも、なんとか回避を成功させていた。

( ゚ω゚)「危……ッ!」

 しかし、それもまさに紙一重。
 足先があと少しで下敷きにされるところだった。


 尻尾は微振動をし、さらなる追撃を予感させた。


 即座にその場から抜け出し、ボードを拾い上げに向かう。

( ゚ω゚)「急げ急げ急げ」

 大気を捕まえようと走り抜ける。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:13:01.89 ID:NdBY4SoG0
 充分な速度を得られなければ逃走する前に捉えられてしまう。
 よくて失速、墜落。

 どちらにせよ、最悪の事態は免れないだろう。

「ガラララララララ!!!」

 獲物を潰せなかったことがそれほど怒りを誘ったのか、その咆哮は長かった。

 機会は今しかない!

(;゚ω゚)「急げ急げ急げ」

(;‐ω゚)「――――!」

(;‐ω‐)「――――!!!!」




 ……キャッチ!

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:16:08.06 ID:NdBY4SoG0
 超低空へと滑るようにサーモ・ボードは走りだした。
 一気に距離を引き離しにかかる。

「ガラララララララ!!!」

 追いかけてくる咆哮から逃れるべく、前傾姿勢を取り速度を上げていく。

 持ちうる性能の上限表しているのか、ボードはわずかに振動し始めた。
 僕はそれを抑え込むように両足に力を込める。


 数秒後、ボードは毎時300カネンに到達。


(  ω゚)「ふっ!!」


 後部を踏み込み、垂直方向へと舞い上がる。

 限界まで高度を上げ、攻撃範囲外へ。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:18:03.86 ID:NdBY4SoG0
 上昇の頂点へと達した瞬間、下方に視野を向けた。

 一瞬の無重力状態の中で、口を開けた砂竜の位置を確認する。

 同時に腰のホルダーからスペルガンを手に取り、

(  ω゚)「喰らえおッ!!」

 発砲。

 籠められた術は「冷気」。

 青い光球が砂竜の胴体へと迫る。



 炸裂。



 展開した術式はバキバキと音を立てて体表面の一部を凍りつかせていく。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:19:39.35 ID:NdBY4SoG0
 しかし――

「ギャアアアアア!!」

( ゚ω゚)(チィッ! 単発じゃ効果が薄いかお!?)

 いたずらに怒りを煽っただけの結果になったようだった。

(  ω )「もう一発ッ!」

 手探りで弾薬を漁りつつ、排莢。

 ボードを旋回させながら再装填しようとした時、大気を吸い込むような音が耳に届いた。


 ……何かが来る!


***

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:21:20.30 ID:NdBY4SoG0
 ブレスを二度避け、息も絶え絶えに僕は逃げ続けた。

 小さな岩山の裏へ裏へと隠れ、高度を出さぬようにする。

 口がカラカラだった。

 水を飲んだのが何時間も前のことのように思えた。

(;^ω^)「撒いたかお……?」

 振り返っても、後ろにあるのは岩・岩・岩。
 こちらからは砂竜の姿が確認できない。

(;^ω^)「……ビビった」

 いくらか心に余裕ができ、ぽろりと本音がこぼれる。

(;^ω^)「確かに一筋縄ではいかない相手だお」

 今ならドクオが依頼受諾を渋ったのがよく分かる。
 酒に飲まれていたとしても、さすがに楽観的過ぎたようだ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:24:08.00 ID:NdBY4SoG0
 後悔はしないが、反省はする性質だ。
 失敗は次に生かそう。

 スペルガンに弾丸を再装填し、腰のホルダーにしまう。

(;^ω^)「お前じゃちょっとあいつには届かないかお?」

 腰元を叩きながら呟いた。

 世に出回る、携行性を持つスペルガンは基本的に単発式だ。
 弾丸の大きさ故仕方のないことだが、一般に手数が必要な場面で困らせられることになる。

 だが、連発式のスペルガンは巨大な据え置き型で、城塞都市などにしかない。
 しかも弾詰まりなどの欠陥が多く見受けられ、実用性には乏しいとか。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:26:09.59 ID:NdBY4SoG0
 また一つ岩山を避けながら、思案する。

 バックグラップにはドクオに渡された爆発小瓶もあるにはあるが、
 先ほどの外殻への攻撃に対する反応から見て、間違いなく口腔内で爆発させないことには有効打となり得ないだろう。

(;^ω^)「むずいお……」

 5コンティアほど、高度を上げる。

 周辺の様子を探るためだ。

 見たところ、砂竜の影はどこにも見えない。

 ……ドクオのところへ帰り着こう。

 太陽の位置から方角を確認。

 随分と東へと逃げ続けてきたようだった。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:27:20.81 ID:NdBY4SoG0
 さらに高度を5コンティア上げる。

 地表よりも流れの早い大気に頬を撫でられ、さっきまでの息苦しさから解放されるようだった。

( ^ω^)「はあ……風が気持ちいいお」

 飛行は順調だった。

 岩場を抜け砂漠の上を心地よく走り抜けていく。

 じっとりとかいていた汗が、風で乾いて、爽快だった。

( ^ω^)「あと一時間もすれば到着か」




     「…………ガラララララ………」





( ゚ω゚)「お!?」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:28:14.86 ID:NdBY4SoG0


        真下から

       やつは現れた。


.

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/02(木) 01:32:25.87 ID:NdBY4SoG0
 ボードごと弾き飛ばされながら、僕の脳裏に浮かんだことは何か。

 それは至極単純な疑問だった。

 僕は死ぬのか? ということではない。

 どうして? だ。


 「どうしてコイツは正確にこちらの位置を割り出したのだろう」 だった。


 砂上へと体が投げ出されている。

 落ちる。落ちる。落ちる。

 そして、落下の衝撃と共に、僕は意識を失った。


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