- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:34:26.85 ID:6RNPZ15m0
しぃが好きだ
それに気付いたのは、しぃを守りたいと思った時だった
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:34:54.29 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)想いの重さのようです
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:36:43.98 ID:6RNPZ15m0
その知らせは、兄によってもたらされた
雨季に入ったせいで連日続く雨
その雨を窓越しに見ながら、小さな喫茶店で約束の人物を待っていた
場所を指定したのはその相手だ
ファミレスなどにしなかったのは気遣いだろう
レトロな雰囲気の、小さな喫茶店
垂れ眉のマスター一人で経営しているらしい
にっこりと笑って、二杯目の紅茶を淹れてくれた時だった
( ・∀・)「遅れてごめんね」
カロン
ドアベルが、来客を告げる
そしてその来客者は、開口一番に詫びを入れた
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:39:44.33 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「支度に手間取っちゃった ごめんねツーちゃん」
モララー
兄 ミルナの友達で、同性愛者
今日は彼に話を聞いてもらう為に、兄にセッティングしてもらったのだ
モララーは向かいに座ると、マスターにミルクティを注文した
( ・∀・)「ミルナから話は聞いているよ」
(*゚∀゚)「あー……」
( ・∀・)「緊張しないでいいよ あ、一応初めましてだっけ?」
モララーは人差し指を顎に添え、にっこりと微笑んだ
( ・∀・)「茂羅モララー ミルナと同じラウンジ高校二年で、ジョルジュと同じクラスだよ」
(*;゚∀゚)「時枝ツー ヴィップ高校の一年です」
( ・∀・)「あはは 緊張しすぎ ジョルジュにやるように、気さくでいいんだよ」
モララーはテーブルに肘をつき、指を組んで顎を乗せた
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:43:13.59 ID:6RNPZ15m0
***
七年前
公園の真ん中で泣いている子がいた
年は同じ位だろう 服が汚れていた
知らない子なので放置してもよかったが、泣いている子を放置するなど、兄に言おうものなら怒鳴られるだろう
責任感に近い感情を覚えつつ、その子に近付いた
(*゚∀゚)「なに、泣いてるんだ」
(* )「っ………ひっく……………」
彼女は俯いたまま、顔も上げようとしない
当時の自分は、自他共に認める短気だった
(*゚∀゚)「…………おい」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:47:02.98 ID:6RNPZ15m0
肩を掴んで無理矢理こちらを向かせる
今思えば、我ながら強引だ
人助けでもなんでもない
(*;-;)「…………」
元は可愛いのだろうが、その顔は土で汚れ、肩まである栗色の髪はぐしゃぐしゃにされていた
(*゚∀゚)「…………どうした」
どうしたもこうしたもない
胸や背、スカートに 土と一緒に足跡が付いている
どう考えてもいじめだった
小学校四年生
中学年と呼ばれる学年で、大胆ないじめが多い年だ
ちなみに高学年になると陰湿になるらしいと兄が言っていた
(*;-;)「……なんでも、ない」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:49:32.34 ID:6RNPZ15m0
彼女は少し考えた後、それだけを口にした
(*゚∀゚)「何でもないわけねーだろ」
(*;-;)「…こ……転んだ、だけ……」
(*゚∀゚)「転べば背中に足跡が付くのか」
(*;-;)「……………………」
彼女は、無言で涙を流した
顔がぐしゃぐしゃに歪む
土と涙が混ざって、顔が更に汚れてしまっていた
目線の高さを合わせる為、しゃがみ込む
彼女は少し、後退った
膝でにじり寄り、袖で顔を乱暴に拭った
袖が汚れることは気にならなかった
目に入らないようにだけは、注意した
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:51:00.75 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「お前、何処の子だ 見ない顔だな」
(*;-;)「……シベリア」
(*゚∀゚)「じゃあ隣だな 俺はラウンジなんだ」
(*;-;)「…………」
(*゚∀゚)「お前、なんでこんなことになってんの?」
(*;-;)「………………」
彼女は喋らない
唇を、強く噛んでいた
(*゚∀゚)「喋んなきゃわかんねーよ」
(*;-;)「…………うちの、学校の、ことだから……」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:52:32.72 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「ラウンジの俺にゃわかんねーってか?
そんなこと言ってると、俺がシベリアに乗り込んで無差別にのして回るぞ」
(*;-;) そ
(*;-;)「だ……だめ……!!きちゃだめ!こないで!」
(*゚∀゚)「じゃあ言えよ」
(*;-;)「…………」
俯こうとした頭を、前髪をがっしと掴んで持ち上げた
(*゚∀゚)「俺のにーちゃんの教えだ よーく聞け
ひとつ、困ってる人には手を差し伸べる
ふたつ、弱い子には旅をさせよ
みっつ、自分でそれを見届けろ」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:53:41.13 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「にーちゃん自身喧嘩に強いわけじゃないけど、やられてやられっぱなしじゃないんだ
倒されたら起き上がる 同じ力じゃびくともしないように強くなる
心は常に強くないといけない 心が強い奴は、人間として強いんだ」
(*゚∀゚)「わかるか?お前が何されたか、何が起きてんのかしんねーけど、心が折れたらそこまでなんだ」
(*;-゚)「…………」
(*゚∀゚)「やられたらやりかえせ 正々堂々と。いじめは良くない。やらせちゃいけない」
(*゚∀゚)「殴れとは言わない。悪口もよくない。「やめて」って、きちんと言うんだ 自分の口で」
彼女の両肩をがっしと掴んで話を括った
彼女は喋らない
しかしもう、涙はなかった
(*゚∀゚)「俺が付いててやる 行こう」
何故だろう
この時、自分が付いて行ってやる義理はなかったはずだ
使命感に近いものに、支配されていた
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:55:28.37 ID:6RNPZ15m0
小さく頷いた彼女を、家まで送っていった
根個 というらしい
帰り道に そういえば名前を聞き忘れたな と思った
そのうち聞けばいい そう思って、帰路についた
***
(*゚∀゚)「 ――――― と、最初はこんなんだったんです」
( ・∀・)「なるほどねー ツーちゃんが小4……俺らが小5…………
ぁー……あーwwwwそれ、知ってるwwwwギコがね あ、しぃちゃんの兄で俺の友達のギコ
あいつが、しぃちゃん苛めた子らをフルボッコにして問題になったよwwwwwww」
(*;゚∀゚)「え――――」
( ・∀・)「ま、シスコンだし」
(*゚∀゚)「あ、それは聞いてます」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:56:56.98 ID:6RNPZ15m0
紅茶を一口啜る
少しだけ冷めてしまっていた
あれから結局、しぃに会うことはなかった
いつ どこに 誰に言いに行くのか
全く頭になかったツーは頭を抱えた
ついでに、隣の学区まで行ったせいで帰宅が遅くなり、門限が厳しくなった
ツーの約束が果たされることはなかったが、しぃの兄により解決していたらしい
ずっと昔のことだが、少しだけ安心した
モララーもミルクティのおかわりを注文し、また続きを促した
慣れのせいかもしれない モララーが聞き上手なのかもしれない
先程よりも、ずっと話しやすかった
(*゚∀゚)「話は、中学まで飛びます」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:58:07.06 ID:6RNPZ15m0
***
あれから二年を経て、しぃと再会することになる
しかし最初は、お互いに気付けなかったのだ
セーラー服に身を包み、桜が咲く中で行われた入学式
そしてクラス分け
男勝りだったツーは女友達も少なく、クラス分けに一喜一憂することもなかった
教室に入り、黒板に書かれた番号を確認する
クラス分け表の名前の横にあった数字を探し、そこへ座った
色々な生徒がはしゃぎ、嘆き、教室内は騒然としていた
何をするでもなくそれらを眺めていた時、その風景の中に違和感を感じた
小さな背
逆に背負われているように見える大きな指定鞄
肩甲骨辺りまである栗色の髪
女子が一人、誰かと一緒に居るわけでもなくあわあわと右往左往していた
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 20:59:33.85 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)(……迷子?)
黒板には番号しか書かれていない
表を見た時の番号を覚えておかないと席にはたどり着けない
多分、覚え損ねたか度忘れをしたのだろう
席を立って、声をかけた
(*゚∀゚)「どうかしました?」
(*;゚听)「はわわわ・・・あ・・・あ……」
(*;゚∀゚)「落着け」
(*;゚听)「すいません……席が…………」
(*゚∀゚)「やっぱり 名前は?」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:00:07.17 ID:6RNPZ15m0
(*;゚听)「根個しぃ といいます」
根個
何処かで聞いた苗字だった しかし、いつだったかわからない
この時は、思い出せなかった
(*゚∀゚)「『ね』……俺が時枝の『と』だから、俺の前辺りじゃね?空いてる席がまだいくつかあるなぁ……
ちょっと聞いてやるよ」
(*;゚听)「ぁ……すいません……」
+ + +
(*゚∀゚)「根個―!ここであってるらしいぞ!」
(*゚―゚)「あ、ありがとうございます!!」
彼女の満面の笑みが、とてつもなく可愛かった
彼女は、自分の二つ後ろの席だ
にこにこと安堵の笑みを浮かべる彼女を、ずっと見ていた
抱いた感情は、靄がかかっていて違和感しか残らなかった
そしてその靄を抱えたまま、学校生活を送ることになる
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:03:23.02 ID:6RNPZ15m0
しぃとは、すぐに打ち解けた
何人か友達も出来、教室の隅で固まって雑談をすることが増えた
その輪の中心には、しぃがいた
単に、しぃの席が列の最後尾にあり、そこが固まりやすいだけだった
……と、信じたい
自分もその輪に混ざり、雑談に加わった
周りは女の子女の子した子ばかりで、自分はボーイッシュなキャラ付けをされていたように思う
しぃも例に洩れずふんわり女の子で、そっちの間の抜けた会話に自分が毒舌で突っ込みを入れる
そんなスタイルが出来上がっていた
内心は、穏やかではなかった
その頃はまだこの感情に名前などなく、宛ても解らず、ただの靄でしかなかった
ただその靄が、心の中を引っ掻き回すのだ
ずたずたに どろどろに
この感情の名前がわからなかった
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[しぃの口がおかしい] 投稿日:2011/09/15(木) 21:06:35.11 ID:6RNPZ15m0
心をズタズタにしていく感情の名前に気付いたのは、とある日常の、ほんの些細な出来事からだった
我がラウンジ中は、元シベリア小とラウンジ小の児童が通う学校だ
自分はラウンジ方面への帰路についていた時だった
自転車を引いて、ラウンジに向かう坂を上っていた時だ
ふと 何気なく振り返った
坂は急な斜面の為、ある程度登れば、シベリアの市街地と、そこへ繋がる道が一望出来る
たまに振り返っては、景色を眺める時があった
その日も、ただふと景色を一望したくなり、坂の上から振り返ったのだ
夕方のシベリア市街地 人並
シベリア市街に続く道
そこに見える、栗色の髪を靡かせる後姿
しぃだ すぐにわかった
そしてその隣にいる、元ラウンジ小の友達
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:10:19.58 ID:6RNPZ15m0
彼女が、シベリア方面の塾に通っていることは知っている
彼女がシベリアに向かっていても、何ら不思議はない
しぃとも友達だ
行く方面が一緒なら、一緒に歩いていても、何の不思議もない
しかし
胸が痛んだ
どす黒い毒に犯されるかのような、
ささくれた爪で胸を掻き回されるような、
そんな感情
理解した 靄の正体も、この不快な感情の名前もわかってしまった
解りたくなかった
ただの友達として笑っていたかった
理解してしまった今、もう今まで見ていた世界には戻れない
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:13:11.01 ID:6RNPZ15m0
不快感は、嫉妬 なのだ
靄は、やましい感情なのだ
恋だなんて可愛い乙女チックな感情ではない
独占欲なのだ
支配欲なのだ
しぃが、欲しかったのだ
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:15:28.89 ID:6RNPZ15m0
感情に気付いた途端、自分に嫌気を覚えた
嫌悪感を感じた
しぃは友達だ
しぃの隣にいるアレも、自分の友達だ
しかし、しぃの友達でもある
あの友達を、一瞬でも妬んでしまったしまった自分が嫌いだった
自分が、酷く醜く感じた
そしてしぃに抱いた感情
支配欲 そして独占欲
理解して、認知して、尚しぃが欲しいと叫ぶ自分の胸の中が
気持ち悪かった
友達を、支配したがる そんな感情が正常である わけがなかった
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:19:35.44 ID:6RNPZ15m0
そこからは地獄だった
日常
しぃに群がる、『友達』
談笑し、笑い合い、弄り合い、
触れ合い、撫で合い、抱き締め合う
そんな女子特有のスキンシップに、嫌悪感を抱いた
しぃに触るな
しぃを撫でるな
しぃに抱きつくな
そんなどす黒い感情を抱きながら、今までと同じ表情 言動を貫き通した
毒舌は鋭さを増した 『友達』も、しぃも、自分も皮肉った
当時は少し、どうにかしていたんだと思う
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:21:20.66 ID:6RNPZ15m0
ふと思い立ち、しぃ達のグループから離れた
見なければ、腹も立つまい そう思ったからだった
苦し紛れの、自分への言い訳だった
そう思い、ラウンジ小の頃によく遊んでいた小さなグループに移ることにした
何か思いつめた顔をするようなしぃを、視界に入れないようにして生活した
一年ほど、しぃ達から離れた
しぃ以外の女子は、気にも留めなかった
少しだけ陰口があったようだが、そんなものは気にならなかった
自分の中の感情を抑えるのに、精一杯だった
月日が経ち、二年生になり、しぃ達とクラスも別れ
秋が終わる頃
夕方、帰宅しようとする自分を、しぃが呼び止めた
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:23:29.77 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「……なに」
(*゚-゚)「……つーちゃん、あの時の子でしょ」
前日まで背中の中ほどまで伸ばされていたしぃの髪は、肩より少し下くらいに切り揃えられていた
乾いた風が、短くなった髪をさらりと揺らす
紅葉と日没の影を背に立つしぃは、一種の幻想風景のようだった
(*゚-゚)「小学校の時、私を助けてくれたの、ツーちゃんでしょ」
(*゚∀゚)「…………」
しぃも、気付いていた
自分も、一年の途中で気付いたのだ
根個 という苗字
栗色の髪
少しだけ成長した、しかし面影の方が強い 面差し
気付いていたのだ
気付いたから、傍に居た
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:25:24.26 ID:6RNPZ15m0
当時の使命感が、頭をもたげたためだった
当時のしぃはいじめにあっていた
今のところ、しぃをいじめる輩はいない
しかし、中学校は、小学校から直接上がってくる
またしぃがいじめられないとも限らなかった
だから、傍に居た
まるで自分を、しぃを守る番犬に見立てて、ずっとしぃの傍に居た
それはいつしかしぃに対する執着に変わり、独占欲に変わった
だから、離れた
自分がしぃを傷つけない為に、離れた
わかっていた
自分も、わかっていたのだ
しぃが、あの時いじめられていた子だと
守ってやりたい、と 思った子だと
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:27:23.97 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「…………気付いてたよ、とっくに」
(*゚∀゚)「だから、友達になった。だから傍に居たんだ」
(*゚-゚)「じゃあ、なんで…」
(*゚∀゚)「―― 俺が、しぃに依存を始めたから」
しぃの言葉を遮った
この際だから、はっきりと言ってしまおうと思った
(*゚∀゚)「俺がしぃを、友達以上の存在だと認知し始めたから」
(*゚∀゚)「『傍に居て、またいじめられないよう見守っていたい』 最初は、それだけだった」
(*゚∀゚)「だから俺は、しぃの傍に居た
しぃの隣じゃなくてもいい 誰かがしぃの隣に居てもいい
しぃの、半歩後ろが、俺の定位置だった」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:29:09.88 ID:6RNPZ15m0
胸の奥が、ずきりと痛んだ
懐古だからだろう
自分から手放した、ちいさな誇りだった
(*゚∀゚)「…………だけど、それだけじゃなくなった」
(*゚-゚)「…………」
(*゚∀゚)「―――誰かと笑い合うしぃを見るのが、耐えられなくなった」
(*゚∀゚)「自分の中で、しぃを特別扱いしすぎたんだ」
(*゚∀゚)「だから、離れた」
(*゚∀゚)「これ以上傍に居ちゃいけない しぃに依存するし……多分、依存の域を超える」
(*゚-゚)「……域を超えると、どうなるの?」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:31:18.14 ID:6RNPZ15m0
(* ∀ )「…………」
束縛、する
なんて、言えるわけがなかった
(* ∀ )「…………とにかく、もう傍にはいられない」
それだけしか、言えなかった
しぃの表情が曇る
(*゚-゚)「……私は、ツーちゃんを友達だと思ってる
だからツーちゃんがいきなり輪から抜けた時、自分が何かしたのかなって、すごく考えた」
(*゚-゚)「私は、自分を上手く表現できない。自分自身がわからないことが、たくさんある」
(*゚-゚)「だからもし、私に何か悪いところがあったなら、教えてほしい」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:33:36.11 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「そんなのっ…――― 」
(*゚-゚)「もしなかったなら、戻ってきてほしい」
しぃは表情を変えないまま、一筋だけ、涙を流した
夕暮れが 闇が濃くなってきていて、しぃの背後の朱も、少しずつ色を変えていた
暗くなりかけた秋空の中で、しぃの涙だけが、透明に零れた
(*;-゚)「…………寂しい、よ…………」
(*゚∀゚)「っ…………」
胸が、熱くなった
感情が、情動が、衝動が、渦巻くように暴れ回った
頭半分程低いしぃの頭を、その小さな体を 強く抱き締めた
しぃのさらさらした髪を指で梳き、冷えた制服を纏ったしぃを抱き締めた
その体は、震えていた
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:35:08.97 ID:6RNPZ15m0
(* ∀ )「わかったよ 戻るよ しぃ」
(* ∀ )「俺達は、友達なんだ 今までも、これからも」
(* ∀ )「…………友達、なんだ」
それは戒めか、縛めか
***
( ・∀・)「……枷、だね」
(*;゚∀゚)「はい」
モララーはすっぱりと言い切った
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:37:27.96 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「まぁ、その場合、仕方ないよね」
(*゚∀゚)「まぁ」
( ・∀・)「……で、友達に戻って、無事三年生も過ごした、と」
(*゚∀゚)「はい」
モララーは冷え切った二杯目のミルクティーを飲み干すと、三倍目に蜂蜜ミルクティーを注文した
自分はまだ、半分程残っている
( ・∀・)「……で、現在に至る訳か
高校は離れちゃったんだよね?」
(*;゚∀゚)「っ……はい」
( ・∀・)「しぃちゃん、こっちにいるもんね」
そう
自分はヴィップ しぃはラウンジだ
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:40:08.41 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「リアルタイムで無自覚で他人と仲良くしてんの毎日話されれば、そりゃー悶々ともするよねぇ」
(*゚∀゚)「……むしろ、最近イライラしちゃって」
( ・∀・)「それもミルナから聞いてるよ。大丈夫 むしろそれが普通だから」
(*゚∀゚)「……ありがとう、ございます?」
マスターが運んできた蜂蜜の香りがするミルクティを一口啜ると、その姿勢のままこちらに目を向けてきた
( ・∀・)「連絡はとってるんだよね?」
(*゚∀゚)「はい メールは毎日してます ……あと、月一くらいで手紙が」
( ・∀・)「文通?いいねぇ風情があるよ
男はそういう面倒なことはしないからね ある意味羨ましいよ やりたいわけではないけれど」
(*;゚∀゚)「はぁ……」
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:42:08.41 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「あ、でも、手紙で、七月には一度会えるかもって!」
( ・∀・)「ひゅー 良かったじゃないか」
( ・∀・)「…………で、今日俺が呼ばれたわけか」
(*゚∀゚)「…………はい」
そう
今日は、その為にセッティングされた
しぃに会う
その前に、自分の気持ちを整理しておきたかった
今、しぃは純粋な友達だ
少なくともしぃは、そう考えている
自分も、友達として向かうべきなのだ
わかってはいる
わかってはいるが、この気持ちを少しでも伝えたい気持ちもある
だからモララーに相談することにしたのだ
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:44:08.34 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「ぶっちゃけ、お勧めしない」
開口一番 結論が叩き出された
(*゚∀゚)「…………」
(*゚∀゚)「ですよねー」
( ・∀・)「今、いっそ告白してみようかとか考えたでしょ」
(*゚∀゚)「……告白というか……アプローチ程度に」
( ・∀・)「心の準備が出来ていない、なーんにもしらない
同性愛なにそれおいしいのまぁ私には関係のない世界ね なんて相手が考えてたら、どうする?
ドン引きどころの話じゃないよ。女の子だから距離置かれるくらいだろうけど、男だったら縁切られるね」
(*; ∀ )「…………」
モララーの言葉に容赦はなかった
正しいアドバイスをしてくれているのだから感謝すべきなのだろうが、正直、気落ちしてしまう
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:46:53.04 ID:6RNPZ15m0
モララーがまた、指を組んだ
肘をテーブルに乗せ、指の所に顎を乗せる
兄がやったら絶対に似合わないだろうが、モララーがやると自然と絵になった
( ・∀・)「同性愛って、難しいんだよ」
モララーはそう言うと、窓の外に目を向け、その切れ長の目を細めた
( ・∀・)「……簡単に伝えていい想いじゃないんだよ こういうのはさ」
モララーが何を考えているのか、なんとなくわかった
モララーにも、想い人がいるのだ そして、想いを秘めたままにしようとしている
秘めるということは、駄目だったときに失ってしまうようなリスクを背負ってまで告げていい相手ではないということ
つまりは身近な人物なのだろう
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:48:21.39 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「僕は、今の彼には告げないって決めている」
( ・∀・)「失いたく、ないからね」
そう言って、窓の外を見たまま笑ってみせた
その笑顔は、泣き顔に似ていた
( ・∀・)「…………僕の話を、していいかい?」
(*゚∀゚)「はい」
( ・∀・)「……ごめんね」
モララーは、そう言ってティーカップを傾けた
( ・∀・)「…………四年前、かな」
静かに語り出したモララーの視線は、テーブルに向けられている
回想するように、追想するように そして回帰するように、遠い目をしていた
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:49:37.01 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「中学一年
彼……ギコ、なんだけどさ」
ギコ
根個ギコ
しぃの兄だ
何かを感じずにはいられなかった
( ・∀・)「当時、同じクラスだったんだ
あんまりべたべたつるむような仲じゃなかったけど、それなりに仲は良かった
同じシベリア出身だからね」
モララーは、シベリアとラウンジの境に住んでいる
あと1キロほどこちら側だったら、ラウンジ小に通うはずだったらしい
( ・∀・)「ギコはよく、隣のクラスに居る、君の兄達のところに行っていたよ
ミルナと仲良くなったのは少し後だけど、ジョルジュは同じバスケ部だったからね」
余談だが、兄ミルナは文芸部だった
ジョルジュとモララーとギコがバスケ部だった
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:50:23.96 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「でね、ツーちゃんも心当たりあると思うけど、四年前の七月、ミルナに変化なかった?」
(*;゚∀゚)「っ…………あり、ました」
四年前の七月
兄の訃報が知らされた
そして次の日には遺体の喪失
更に三日後 死んだはずの兄は動き、行方不明中だったジョルジュと共に発見された
その件については、二人とも口を割らなかったので、真相は闇の中だ
病院から戻ってきた兄は、拒食症に陥っていた
一日何も飲まず、何も食わなかった
丸一日部屋に籠り、不定期で飛び出しては、ジョルジュの家を訪れていた
当時は情緒不安定とかそんなものを超えている気がしたが、とりあえず兄は生きていて、少ししたら以前と同じように学校にも通うようになった
拒食だけは、今でも治っていない
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:52:42.77 ID:6RNPZ15m0
(*;゚∀゚)「あの頃の兄は、兄の行動は、未だによくわかりません」
( ・∀・)「だろうね。なんで死んで行方不明になって発見された時には生きてんだよ
しかも未だに飯食わないのに、餓死しないし」
(*;゚∀゚)「……兄貴、なにもんなんだろう」
( ・∀・)「神のみぞ知る―――なんてね」
( ・∀・)「でさ、その頃、ギコが二人に違和感を感じてたんだ」
(*゚∀゚)「違和感?」
( ・∀・)「ミルナは拒食 ジョルジュはリスカ 二人に何かあったんだろうってね」
(*゚∀゚)「……確かに」
( ・∀・)「ギコ、すっごく心配しててさ 二人のことで心配して、悩んで、ギコまでげっそり痩せちゃった」
(*;゚∀゚)「そんなことが……」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:54:36.80 ID:6RNPZ15m0
そこでモララーが、ふっと笑った
意味は、はかりかねた
( ・∀・)「俺は、なんかもうわけがわかんな過ぎて手放しだったけど、
ギコは自分を追い込むほどに心配して、悩んで、何かしてやれないかずっと考えてた
時には「なんて無力なんだ」とか言って泣いてたりもしてさ
……なんていうんだろう ツーちゃんに言うのは不謹慎なんだけど、そんなに必死になれるギコの方に、興味をひかれちゃってね」
モララーの笑みが優しい
愛しんでいるのだろう
( ・∀・)「頻繁にご飯に誘って、話を聞いてやるふりをして、食事をしっかり摂らせた
精神病なんかについて調べる為に、二人で図書館に通い詰めた
泣いてるギコを抱き締めて「一人で悩むな」なんてクサい台詞を言ってやった」
( ・∀・)「ミルナとジョルジュは相変わらずだけど、明るく話せるし
俺は、隙あらば二人の為に身を削ろうとするギコを、支えたいと思った」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:55:10.56 ID:6RNPZ15m0
( ・∀・)「俺は、そんなギコが好きだ 支えたい 守りたい ……その辺は、ツーちゃんに似てるのかな」
( ・∀・)「誰かの為に必死になれる そんなギコが、俺は大好きなんだ
……たまには自分も見てほしいときはあるけど、
それでもやっぱり、俺じゃなくても誰かの為に必死になるギコを見てるだけで、俺は幸せなんだ」
( ・∀・)「同性愛ってね、誤解されることの方が多いけど、同性同士の肉体に興味を持つだけが全てじゃないんだ
……勿論、そういう人もいるけど、そういう人だって、肉体だけを求めるわけじゃない
心を求めるのは、同性愛も異性愛も一緒だよ」
モララーがにっこりと笑う
その笑顔が爽やかで、今まで自分の中にあった偏見の葛藤が解消されていく気がした
( ・∀・)「俺は、ギコと肉体関係を持ちたいわけじゃない。ギコの心に触れたい」
( ・∀・)「……そりゃ、あの手に触れたいとか、抱き締めたいとか、そういう気持ちはある
でもそれは多分、『誰かの為に尽くすギコに触れたい』『ギコを癒したい』 そういう気持ちの表れなんだと思う」
( ・∀・)「同性を愛していることにかわりはないけど……こんな俺にも、ホモだって指を指して言えるかい?」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:56:24.72 ID:6RNPZ15m0
微笑んだまま、そう問うた
勿論、そんなこと出来るわけがなかった
同性愛 というものに対する認識すら、変わっていくような気がした
( ・∀・)「俺のは、友愛・親愛を超えた 尊敬……所謂敬愛に近い、愛だね」
(*゚∀゚)「…………」
( ・∀・)「話を聞いてて思ったけど、ツーちゃんの想いだって、立派な愛じゃないか
敬愛 親愛 それも、庇護からくるもの
後半少し歪んでしまったみたいだけど、今ならまだきっと正せる
しぃちゃんを傷つけない形で愛せると、いいね」
庇護からくる 愛
しぃを守りたいと思う 初心
何か大切なものを、得ることが出来た気がした
ただの独占欲と支配欲が 『守りたい』という意識のもとにあることを、自覚した
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:57:06.47 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)「今日は素晴らしいお話、ありがとうございました」
話を終え、支払いを済ませた
支払いはモララーが「ミルナから預かっているんだ」と笑ってみせたが、真偽のほどは定かではない
(*゚∀゚)「七月、もう一度初心に戻ってしぃに接してみたいと思います!」
( ・∀・)「それがいい 頑張ってね」
(*゚∀゚)「はい!ありがとうございました!」
別れた後も、清々しい気持ちでいっぱいだった
しぃにアプローチをかまそうなんて考えていた計画は綺麗さっぱり消え失せ、しぃとの時間を精一杯楽しもうと思った
友達として
頭の中でプランを練り直す
清々しい気持ちで帰路についた
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/09/15(木) 21:58:08.84 ID:6RNPZ15m0
(*゚∀゚)想いの重さのようです 第二話 了
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