- 3 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:04:18.00 ID:zO8ihfWc0
(*゚∀゚)想いの重さのようです
- 5 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:07:07.72 ID:zO8ihfWc0
***
寂れた駅前のデパート 屋上
壊れたような狂った音声でしゃべり続けるパンダの乗り物
突然動き出す錆だらけのヘリコプター
退廃的なそれらを彩る灰色の空と、ぽつぽつとした小降りの雨
ペンキの剥がれたベンチに、俺達は並んで座っている
(,,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「…………」
手は繋がれている
これはモララーなりの『甘え』の表現で、何も言わずに自分の手を握ってくる
そこ以外からは、急速に体温が奪われていっていた
自分も過去、モララーには何度も助けられてきた
特に気持ち悪いとも思わず、自然に繋ぎ続けることが出来る
モララーだから なのかもしれない
- 6 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:09:20.19 ID:zO8ihfWc0
会話は無い
モララーに誘われて、こんなところまでのこのことついてきてしまった
ベンチをハンカチでぬぐい、モララーは座るよう勧めてきた
従って座ると、モララーもその隣に座った
黙ったまま手を繋いで、俯いている
色素の薄い髪が、綺麗に艶を帯びていた
(,,゚Д゚)「………・・」
( ・∀・)「…………」
(,,゚Д゚)「なぁ」
( ・∀・)「あのさ」
一瞬の沈黙ののち、モララーは視線で続きを促してきた
- 7 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:11:23.82 ID:zO8ihfWc0
(,,゚Д゚)「…………えーと、な。俺、今回の件について、全く把握できてないんだ」
( ・∀・)「……うん」
(,,゚Д゚)「しぃは引き籠るし、お前は塞ぎ込んで、こうやって自分から甘えて来るまで何かを隠し持ってるし
ミルナは……なんつーか、気落ちってレベルじゃないよな」
( ・∀・)「……」
(,,゚Д゚)「なんかあったのか?」
( ・∀・)「ギコ」
質問は、モララーの呼びかけによって遮られた
耳を傾けるが、モララーはしばし無言だった
- 10 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:14:07.33 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「…………例えば、さ」
(,,゚Д゚)「お?」
( ・∀・)「例えだから、本気にしないでね」
(,,゚Д゚)「おう」
モララーは顔を上げ、しっかりと目を合わせた
( ・∀・)「俺達、友達だよな?」
唐突な問いだった
何を当たり前のことを と思うが、それを確認するということは、そういうことに関する話ということだ
(,,゚Д゚)「……おう」
( ・∀・)「…………ちょっとだけ、醜い話をするね」
そう言って、視線を目の前 ――― 退廃した公園を背にし、フェンスの向こうを見遣った
- 15 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:17:42.04 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「俺さ、時々嫉妬するんだ」
(,,゚Д゚)「嫉妬?」
( ・∀・)「んー……おんなじ友達なのに、ミルナとジョルジュは仲良いよね」
(,,゚Д゚)「だな」
( ・∀・)「……それが楽しそうで、羨ましいんだ」
( ・∀・)「俺もあのくらい仲のいい人が欲しい ……って、嫉妬するんだ
気持ち悪かったらごめんね」
(,,゚Д゚)「気持ち悪くねぇよ お前には、俺がいる」
( ・∀・)「っ…………あ、りがとう」
モララーの肩がピクリと跳ねた
意図は、はかりかねた
- 16 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:18:57.97 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「…………もし、もしもだよ?」
(,,゚Д゚)「おう」
( ・∀・)「ギコは僕に……そうだな、彼女とかできたら、どう思う?」
(,,゚Д゚)「あー?そら、なんつーか、『おめでとう』って言うさ」
( ・∀・)「それだけ?」
( ・∀・)「一緒に遊んだりする時間が減ったりするんだよ? ……こうして甘えることも、なくなる」
(,,゚Д゚)「そらまぁ、寂しいさ でもよ、友達の幸せを祝わないで本気で妬む奴なんているかぁ?」
( ・∀・)「…………か、な」
本心だったはずだ
しかし、納得しきれていないような声を聴いた途端、無性に湧き上がる不快感に、つい眉を顰めてしまった
- 18 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:20:08.52 ID:zO8ihfWc0
(,,゚Д゚)「……………………前言撤回」
( ・∀・)「え?」
モララーが呆けたようにこっちを向く
なんとなく気恥ずかしくて、顔を背ける
(,,゚Д゚)「寂しい 少しだけ、嫉妬する」
(,,゚Д゚)「……その、彼女に」
( ・∀・)「それは、どういう……?」
(,,゚Д゚)「……中学から、お前は俺を支えてくれたろ?だから、お前の幸せなら本心から祝福したい
けどよ、俺の支えが居なくなったらと思うとな、少し寂しい」
(,,゚Д゚)「………………なーんて、いい加減一人立ちしなきゃ困るんだけどなぁ」
少しだけ空気を軽くしてみた
結果はどうかわからない
ただモララーは、その切なそうな顔をほころばせた
- 19 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:21:42.75 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「あはは ギコの甘えんぼさーん」
(,,゚Д゚)「てめっ」
( ・∀・)「……大丈夫だよ 彼女なんかつくらないから」
(,,゚Д゚)「いや、つくれよww」
( ・∀・)ははは …………じゃあ、さ」
(,,゚Д゚)「あん?」
また少し、含みのある声
( ・∀・)「これも例えだよ?ひかないでよ?」
(,,゚Д゚)「なんだよ」
( ・∀・)「俺達は友達だけど、もしギコに彼女ができたら」
- 22 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:23:03.76 ID:zO8ihfWc0
モララーが視線を逸らした
艶を通り越して水滴が滴る横髪だけが、目の前にある
( ・∀・)「…………俺は多分、一回だけギコを襲う」
(,,゚Д゚)「アッーwwwwいや笑い事じゃねぇ!!」
( ・∀・)「あはは あ、でも、抱きつくだけだよ?」
(,,゚Д゚)「つーかなんで襲われるんだよ」
( ・∀・)「友達だから?」
(,,゚Д゚)「意味わかんねぇよ」
( ・∀・)「今まで俺が大事に大事にしてきたギコちゃんが、女の子に取られるから?」
(,,゚Д゚)「ギコちゃんやめい」
- 24 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:24:53.02 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「なんだろう……嫉妬、かな」
( ・∀・)「俺も、ギコに支えられてる」
(,,゚Д゚)「そうかぁ?」
( ・∀・)「現に甘えてるじゃん 寂しくなるのかもしれない」
(,,゚Д゚)「さっきの俺と、似たような感じか」
( ・∀・)「きっとね」
(,,゚Д゚)「……俺達、彼女つくれなくね?」
( ・∀・)「ギコならできるさ」
(,,゚Д゚)「お前だってできるだろ」
( ・∀・)「俺はいらないよ」
- 28 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:25:53.60 ID:zO8ihfWc0
(,,゚Д゚)「俺 彼女作ったらお前に襲われんだろ?」
( ・∀・)「だから抱きつくだけだってばwwww
大丈夫だよ ギコに彼女が出来ても、俺達の関係は変わらない」
モララーの声が、少しだけ硬かった
ずっと傍に居た自分にしかわからないくらい、ちいさな変化だった
(,,゚Д゚)「…………で」
(,,゚Д゚)「結局、どういうことなんだ?」
( ・∀・)「今言った通りだよ」
- 29 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:27:03.15 ID:zO8ihfWc0
はは とモララーは笑ってみせた
結局しぃのことも、ミルナの事にも触れていない
何かの比喩なのかとも思うが、思い当たることはない
( ・∀・)「俺達は、変わらない 今こうして確認したように
でも、変化を求めちゃった子がいた ただ、それだけ」
( ・∀・)「…………それだけで、こんなことになっちゃうんだ」
(,,゚Д゚)「?」
モララーの声が鼻声に近い
握る手が強くなったので、そっと握り返してやった
- 31 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:28:00.18 ID:zO8ihfWc0
***
あたしは、馬鹿だ
(* ∀ )「…………」
何もする気力が、起きない
ベッドから、起き上がることができない
体が重い
起きたくも、ない
暗い部屋が心地良かった
全てから隠されてる気がして
見えない何かから苛まれ続けてる気がして
これでいい
これがいい
- 34 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:30:03.11 ID:zO8ihfWc0
今の自分の心境に そっくりだと思った
もう会えない
会わないと決めた
原因は自分にある
わかっているからこそ、自責の念が消えない
自責したところでしぃの心の傷が治るわけでもない
わかっている
わかってはいるが、後悔が止まない
軽率な行動を 心から悔やんだ
そしてまた 同じ思考のループに嵌っていることに気付く
(* ∀ )「…………ばか」
包まった毛布は 一向に温かくはならない
心が、冷え切っているせいだろうか
- 36 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:31:40.65 ID:zO8ihfWc0
寒い 寂しい
足を投げ出すようにして倒れていた体を、膝を抱えて胎児のように蹲る
(* ∀ )「しぃ……」
ごめんな
ここで悔いていても、しぃには届かない
- 38 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:33:09.67 ID:zO8ihfWc0
***
( ゚д゚)「…………」
ドアの前
一枚の壁越しに、すすり泣く声が聞こえる
唸るような 喘ぐような
そんな噛み殺したものも、時々聞こえてくる
慰めた方がいいのだろうか
放っておいたほうがいいのだろうか
迷ったまま、ドアノブにかけた手が動かない
( ゚д゚)「…………」
_
( ゚∀゚)「……おい」
- 40 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:34:23.37 ID:zO8ihfWc0
唐突に表れたのはジョルジュ
勝手知ったる家で、勝手に上がり込むのが当たり前になっている
ジョルジュは眉間に皺を寄せ、ノブを握っている手の手首を掴み、ノブから引き離させた
抵抗はしない
そのまま自室に引き込まれた
ベッドに投げられ、クッションで受け身をとる
ジョルジュはその前に仁王立ちをし、右腕を腰に当てている
_
( ゚∀゚)「気持ちはわかるが、今は放っておいてやれ」
( ゚д゚)「……」
見透かされている
- 41 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:36:08.68 ID:zO8ihfWc0
- _
( ゚∀゚)「あれは自分でやった結果だ。十分後悔させてやれ。
あれは、自制できなかったツーのせいだ。十分考える時間を与えてやれ」
( ゚д゚)「だが」
_
( ゚∀゚)「甘やかすな。しぃのことも考えろ。
お前がギコだったら、どうする?」
( ゚д゚)「…………」
ジョルジュの言うことは全面的に正しかった
何もしてやれない自分が、もどかしい
結局誰にも何もしてやれないまま、自分だけはジョルジュに全てにおいて助けられている
情けない
悔しい
もどかしかった
- 44 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:38:06.39 ID:zO8ihfWc0
***
茶色い豆電球
それ以外の光が一切ない
自分の部屋
女の子の部屋だなぁ
そう言って笑ったのは ツーちゃんだっただろうか
お兄ちゃんがバイトで稼いで買ってくれた大きなテディベアを暫く眺めていたのは覚えている
ベッドに座ってクッションを抱き締めたりもしていた
(*゚−゚)「……そういえば、このクッションだっけ…?」
ベッドの上で、今抱えていたクッションに視線を落とす
なんとなく懐かしくて、少しだけ恋しかった
- 46 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:40:03.02 ID:zO8ihfWc0
ツーの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない
太陽のような 真夏に咲くひまわりのような…………
(*゚−゚)「…………ツーちゃん……なんで返事くれないんだろう」
(*;−゚)「……自分を責めたりしてないかな」
ほろり
頬を伝う熱を帯びた滴
何度も零れ落ちて、もう枯れたと思っていた滴
(*;−;)「……ツーちゃん…………追い込む癖があるからなぁ……」
(*;−;)「ツーちゃん……いまなにしてるんだろう?」
(*;−;)「なんで……返事くれないんだろう…………」
溢れて来るのは 友達としての楽しかった日々
(* ― )「…………もう……」
友達には、戻れないのかなぁ
- 48 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:42:09.26 ID:zO8ihfWc0
恋愛感情は 異性間の間に生まれる物だと思っていた
ツーの「想い」も、友達としての「思い」だと思っていた
だからそれに甘え、仲良くしてきた
それが、崩れてしまう
何度も考えたが、ツーはどうしても恋愛感情として見ることが出来ない
というよりも、友達としての「ツー」しか、想像が出来なかった
仲良く買い物に行く姿は想像できるが、
例えばツーとキスなどといったような、そういうことをする関係が、なんとなく想像できない
隔てる壁が、ある
その壁を、どうすればいいのかわからない
越えればいいのか
背を向ければいいのか
わからない
わからない
- 49 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:43:23.19 ID:zO8ihfWc0
ただ胸に、ぽっかりとあいた穴のようなものが消えない
苦しくて 虚しくて
寂しくて それでもツーが……
(* ― )「…………だめだ」
体を起こす 髪がさらりと揺れた
一人で考えても何にもならない
未だに直らない悪い癖
それでも一人で抱えることが出来ない時は………… ―――――
(*゚−゚)「…………お兄ちゃん…………」
昔から直らない 悪い癖
- 51 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:44:33.20 ID:zO8ihfWc0
***
ギコに呼び出され、話を聞いた
なんとなく予想はしていたが、こうも的中すると頭が痛くなってくる
( ゚д゚)「…………」
妹が何をしたのか 大体では把握していたが、被害者側から聞かされると、また頭が痛い思いがあった
( ゚д゚)「…………で、しぃさんは、うちの馬鹿妹と、元の仲に戻りたい……と?」
(*゚−゚)「はい」
( ゚д゚)「うちの方でも状況は把握していますが…………この状況で、それでも?」
(*゚−゚)「はい」
彼女の意志は固い
何を思い、そこまでして仲を戻したいのか
傷付いてなお、元の関係に戻りたいのか 理解できなかった
自分だったら、どうだろうか
戻りたいと、思うのだろうか
- 53 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:45:34.36 ID:zO8ihfWc0
***
(,,゚Д゚)「…………」
一人で聞く勇気はなかった
結局 知るのが恐かったのかもしれない
ツーという、しぃの友達…… ―― だったもの、だと自分は思う ―― ……の兄である、ミルナを巻き込んだ
ミルナは事情を、ミルナなりに知っていたらしい
終始低姿勢で、正座を崩さず、沈痛な面持ちで聞いていた
何も知らない自分よりも、ずっと長く重く悩んでいたらしい
隈がそれを物語っている
話を聞き終えたミルナは、眉間を揉み解した後、拳を膝に置いてすっと頭を垂れた
( ゚д゚)「……うちの馬鹿が、本当にすまないことをした」
- 54 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:46:38.94 ID:zO8ihfWc0
(,,゚Д゚)「みっ…」
(*゚−゚)「謝らないでください」
しぃが、言葉を遮った
(*゚ー゚)「ツーちゃんは、元気ですか?気に病んではいませんか?」
( ゚д゚)「…………しぃさんこそ、大丈夫でしたか」
ミルナが頭を恐る恐る上げ、しぃを見た
しぃはにこりと笑って、ミルナに答えた
(*゚ー゚)「私は、もう大丈夫です。 泣きましたし、お兄ちゃんにも、ミルナさんにも打ち明けています」
(*゚ー゚)「……ですが、ツーちゃんは……」
しぃの言葉が濁った
ミルナの表情も曇る
- 56 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:47:38.77 ID:zO8ihfWc0
ツーという子は、自責を続けているらしい
二人の表情は曇っていく
自分はやはり、話についていけてない
蚊帳の外
そんな言葉が、脳裏を掠めていった
( ゚д゚)「ツーは今、部屋に籠っています」
ミルナが、訥々と語り出した
( ゚д゚)「学校以外、部屋から出てきません 食事も、摂りません」
(,,゚Д゚)「っ…」
( ゚д゚)「ジョルジュ曰く、放っておけとの事ですが、やつれていくツーを見ると、兄としても辛いものがあります」
(,,゚Д゚)「……そりゃあ…………なぁ……」
- 58 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:48:22.66 ID:zO8ihfWc0
( ゚д゚)「ギコも、そう思っただろう」
(,,゚Д゚)「だな。しぃも、大分やつれた」
(*゚−゚)「そっ、そんなこと……!」
しぃが身を乗り出して反論する
眉間に皺を寄せてしまった
フィットした服装
目に見えて、胴回りが細くなっているのがわかる
心なしか、顔も一回り小さくなった気もする
毎日見ているはずだが、改めて注視してみると、確かに変化がある
ミルナの表情も険しい
しかし、きっとツーという子の方が酷いのだろう
ミルナには悪いが、我が妹でなくて良かったと安心してしまった
- 59 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:49:09.92 ID:zO8ihfWc0
***
あれから何日経っただろうか
もうわからない
わかる必要もないし、わかりたくもない
しぃがいないこの学校で、今まで通りの高校生活を送ればいい
(*゚∀゚)(……なーんて、割り切れたらなぁ……)
溜息を吐いて、鞄を担ぎ上げる
部活にも行く気になれず、友達に軽く挨拶をして背を向けた
/ ゚、。 /「高美連近いぞ」
同じ美術部のダイオードが肩を掴んで引き止めた
高校美術連盟 だっただろうか?近隣の高校の美術部が、一堂に会して絵の展示をする 年に一回の美術展
勿論、ラウンジ高で美術部をやっているしぃも参加するのだろう
顔を合わせるつもりはなかった
- 60 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:50:05.22 ID:zO8ihfWc0
(*゚∀゚)「悪い 今の気分じゃ、絵を駄目にする気がする」
/ ゚、。 /「けど……」
(*゚∀゚)「最悪、出展出来ない ……仕方ないだろ」
/ ゚、。 /「……」
(*゚∀゚)「ごめんな」
ダイオードは真面目だ
自分は絵が描きたくて美術部に入っただけだが、ダイオードは美大を見据えている
気分や調子で絵が左右されてしまうことくらい、ダイオードは身をもって理解しているだろう
言い訳に過ぎないが、ダイオードには丁度良かった
(*゚∀゚)「じゃーな」
軽く手を振って、教室を出た
何となく、今描いている絵を脳裏に描き出してみる
油彩だ
混沌と塗りたくった背景の中に 一輪だけ真っ白い花が咲いている
しぃだ
- 62 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:51:15.34 ID:zO8ihfWc0
(*゚∀゚)「…………チッ」
灰色の高層ビル 赤黒い人影 青い手形 ビーズを混ぜてぐちゃぐちゃにした黒い妊婦
何重にも緻密に塗り重ねて、その真ん中にちいさな白が咲いている
美術の講師と考えに考え、時間をかけていったしぃの絵を パレットナイフでぐちゃぐちゃに塗り重ねに行こうかと思ってしまった
全て真っ黒に、染めてしまいたい衝動に駆られていた
そんなことをしたら、講師はどんな顔をするだろう
とてもできたことではない
ならばどうするか
あの絵はお蔵入りにしよう そう思った
皆が 講師が 自分が忘れてしまうまで、倉庫の奥で眠ってもらおう
自分が卒業した頃に、顔も知らない後輩があれを上から塗り潰す想像をしながら、校門を潜った
(*゚−゚)
そこには、しぃがいた
- 64 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:52:10.46 ID:zO8ihfWc0
最初 意味が解らなかった
幻覚かとすら思った
思わず二度見し、足を止めてしまった
こちらに気付いたしぃは、鞄を両手で抱えて駆け寄って来る
(;*゚∀゚)「く……来るな!!」
咄嗟に口から出たのは、制止ではない 拒絶だった
しぃは足を止める
目元は見開かれていた
(;*゚∀゚)「近づくな!もう会わないって決めたんだ!!」
拒絶の言葉を並べる
自分の意志に罅が入ってしまう気がした
ここで折れてしまっては意味がない
意志は、それほど軟なものではあってはいけない そう自分に言い聞かせた
- 65 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:52:52.62 ID:zO8ihfWc0
しぃの表情は段々と曇り、徐々に湿り気を帯びてきている
(*゚−゚)「…………ツーちゃん……」
(;* ∀ )「来るな!触れれば傷つけるだけだ!!もういやだ!あんなことはしたくない!!」
泣いて拒絶するしぃが脳裏を過る
じん……と、一瞬だけ体に熱が走った気がして、罪悪感と自己嫌悪が身を包んだ
此処がどこか などと、冷静に考えている余裕はない
しぃを視界から消すことに必死だった
俯いていやいやと首を振る自分が、とても幼い子供に見えた
前髪が視界を覆い、目の前からしぃを隠す
このまま何も見ず、身を翻して逃げ出してしまおうと思った
しぃにとって、自分は有害以外の何物でもない
- 66 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:53:32.73 ID:zO8ihfWc0
(;* ∀ )「あたしはしぃの傍に居ちゃいけなかったんだ!あたしは……!! ――― 」
早く、
片足を下げた時、その動き自体を止められた
10月の、乾き始めた空気を遮る温もり
(;* ∀ )「っ…………な、んで……」
視界の端には、打ち捨てられた鞄
目の前を覆うのは、栗色の髪
(* − )「…………」
身体を覆う しぃの腕
- 68 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:54:08.86 ID:zO8ihfWc0
回された腕は細く、胸に当たる体は温かい
しぃの香りが 鼻先を掠めた
(;* ∀ )「…………なんでなんだよ」
傷付けただろうが……
空気のような声が、するりと口から洩れた
(* − )「……ツーちゃん」
(* − )「なんで…ツーちゃんが避けるの?私は、ツーちゃんに会いたかった」
(* − )「……私が、ツーちゃんを遠ざけたなら、ごめんね……」
(*;− )「…………苦しめて、拒絶して…………ごめんねぇ……」
ほろりと、熱い滴がうなじに落ちた
- 69 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:54:49.80 ID:zO8ihfWc0
(*;−;)「ツーちゃんが…いないなんて…………ねぇ、ツーちゃん 自分からいなくならないでよ」
絡まる腕の力が、強まる
自分の腕は、未だに宙を掻いていた
(;* ∀ )「…………あたしがいたら、またしぃを傷付けるかもしれないだろ だからもう、あたしはしぃから離れなきゃ……」
(*;−;)「私は、傍に居たい」
(;* ∀ )「……でも、…………」
(*;−;)「……私から、逃げないで」
腕を解いて、胸に宛てた
そのまま頭を胸に埋めて、しぃは肩を震わせて泣き出した
(;* ∀ )「…………」
宙を掻いていた手は、ようやくしぃの頭に置かれた
- 71 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:55:29.32 ID:zO8ihfWc0
(* − )「……ごめんね、ツーちゃん いっぱい考えたけど、やっぱりツーちゃんとは、友達でいたい」
(;*゚∀ )「……っ」
わかってはいた
覚悟もしていた
そのつもりでいた
しかしそれでも、言われてしまうと苦しいものがあった
(* − )「これは、友愛 私がツーちゃんに抱いているのは、友愛」
(* − )「恋愛としては、やっぱり受け入れられない ごめん……でも、友達としてなら、愛せるよ」
(*゚ー゚)「……だから、戻ろう? 昔の関係に」
(*;∀ )「…………」
- 72 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:56:11.88 ID:zO8ihfWc0
言葉が、出なかった
頭に置いた手を、肩に回す
そのまま強く、抱き締めた
意志が、脆く崩れ去っていく
「友達に戻る」という甘言に、精神が脅かされていく
それでもいい と、思えてしまう
腕の中に、しぃがいる
過ちを犯したあの日から、ぽっかりと空いて埋まらなかった胸の中が、温かいもので満たされていく
結局自分は、甘さに負けてしまった
- 74 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:57:03.83 ID:zO8ihfWc0
自分の体格でも包むことが出来てしまう小さな体を、きつくきつく、抱き締めた
(*;∀;)「……友愛…………そう、友愛……」
ほろりと、熱いものが頬を転がっていった
熱いそれは、しぃを抱く手の甲にあたって砕けた
感情がほぐされていく
温もりが、自分を甘やかしていく
(*;ー;)「……うん、友愛…………ごめんね…………」
(*;∀;)「いいんだ …………友愛 なら、しぃの傍に居られるんだね……」
- 76 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:57:37.31 ID:zO8ihfWc0
―――――
(* ∀ )『わかったよ 戻るよ しぃ』
(* ∀ )『俺達は、友達なんだ 今までも、これからも』
―――――
まるで昔の自分達に戻ったみたいだった
- 77 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:58:11.16 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)『俺は、ギコと肉体関係を持ちたいわけじゃない。ギコの心に触れたい』
( ・∀・)『友愛・親愛を超えた 尊敬……所謂敬愛に近い、愛だね』
モララーも言っていた
愛なのだと
女性同士の同性愛というと、誰もが口にする疑問がある
『どうやって繋がるの?』
性交だけが愛情表現ではないことを、モララーは教えてくれた
心に触れられていれば、それで満足なのだ
それが、愛なのだ
しぃが望むなら、『友愛』も愛のかたちではないだろうか
- 78 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:58:55.96 ID:zO8ihfWc0
しぃを抱き締める力を緩める
ゆっくりとしぃがはなれていく
俯いた頭と、離れ際に自分の服の袖を掴んだままのしぃの小さな手が見える
(*゚∀゚)「…………」
(*゚−゚)「…………」
一瞬の 間
言葉を、紡ごうとした
(*゚∀゚)「し……」
(*゚ー゚)「私達、友達だからね!!」
顔をあげ、満面の笑みでそう言い放つしぃ
一瞬、面食らってしまった
- 80 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 20:59:56.92 ID:zO8ihfWc0
(*゚∀゚)「…………」
(*゚∀゚)「…………おう!」
笑みで返した
二人でおかしくなって、二人でくすくすと笑い合う
それがおかしくて、また笑う
もう一度しぃを抱き締めて、「友達 友達」と繰り返した
しぃは温かく、胸に開いた空洞が満たされていくのを感じた
***
( ゚∀゚)「一件落着、だな」
( ゚д゚)「……」
(,,゚Д゚)「……まぁ、元通りって……ことか?」
( ・∀・)「…………あー……一安心」
- 82 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:01:02.98 ID:zO8ihfWc0
校門から少し離れたところ
塀から覗いている自分達は、恐らく周囲から見れば異質だろう
校門前の彼女達も十分異質だが、それを見守る男衆というのもどうかと思う
そしてその彼女達の兄は、複雑な顔をしている
それでもギコの顔から影が消えていて、自分は安心した
( ・∀・)(……ツーちゃんも、もう大丈夫だろうな)
兄達の与り知らぬ部分を心配していた自分だが、こういう形で治まるのも悪くないだろうと思えた
ツーの想いは、「友愛」のかたちでまとまってしまったが、彼女がそれでいいなら、これが最善の終わり方なのだと思う
( ・∀・)(終わりじゃない……始まり、かな)
「友愛」という愛情を抱え、これからはしぃを慈しんでいくのだろう
もう捻じ曲がらないよう、たまに話をきいてやるのもいいかもしれない
- 83 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:01:31.18 ID:zO8ihfWc0
( ・∀・)「さぁ、大団円 もう俺達が関わる事じゃないから、帰ろう」
未だに塀に張り付いている二人とその近くに立っている一人に声をかける
塀組は渋々といった感じで立ち上がる
ギコは飯にでも誘った方がいいかもしれない
( ・∀・)「どうする?ファミレスでも寄ってく?」
(,,゚Д゚)「……そう、する」
( ・∀・)「二人は?」
同意し、自分の傍に寄ってくるギコ
ミルナとジョルジュに目を向けた
( ゚д゚)「いや、俺は……」
( ゚∀゚)「わり 俺達これからカラオケなんだわ」
- 85 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:02:20.16 ID:zO8ihfWc0
ちらり と、ミルナがジョルジュを見たのがわかった
打ち合わせてなどいない とでも言いたげな表情
少しだけ、気になった
( ・∀・)「そうなの?」
( ゚∀゚)「わりぃな。また今度」
(,,゚Д゚)「んじゃ、今日は此処で解散か」
( ゚д゚)「……モララー」
( ・∀・)「何?」
( ゚д゚)「すまなかったな うちの馬鹿が」
( ・∀・)「気になんかしてないさ ツーちゃんにはちょっとお話を聞かなきゃだけど、きっともう大丈夫だよ」
- 86 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:02:57.69 ID:zO8ihfWc0
( ゚д゚)「本当にすまない」
ミルナがもう一度、謝罪の言葉を口にした
頭を下げようとするのを、肩を掴んで阻止した
( ・∀・)「俺がやりたいだけだったんだから、気にしなくていいよ」
( ゚д゚)「…………ありがとう」
( ・∀・)「おう」
(,,゚Д゚)「じゃあ、また明日な」
ギコが鞄を担ぎ直し、手を振った
二人も小さく手を振って返してくれた
僕は何かに違和感を覚えたまま、ギコに並んで歩き出した
- 88 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:04:03.77 ID:zO8ihfWc0
(*゚∀゚)想いの重さのようです 第五話
- 89 名前: ◆zynqho4iRI 投稿日:2011/11/08(火) 21:04:32.22 ID:zO8ihfWc0
- .
それから数時間後、僕達の日常は崩れ去った
長岡ジョルジュ 緊急入院
時枝ミルナ 留置所
ツーちゃんから伝えられたとき、思わず舌打ちをしてしまった
了
戻る 次へ