('A`)ドクオと見えない敵のようです

2 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 00:56:00.71 ID:cq9lgEFbO
世界は争いで満ちている。

銃火が飛び交い、戦場を彩り、屍は肥やしとなっていく。
戦場を跋扈する兵士達は己の義務と国と矜持を守る為に戦い続ける。

己の敵と相対して。

しかし、戦場には姿を現わさない、兵士達がいた。

表の舞台には立たず、裏で暗躍する兵士達。
敵に悟られぬよう、ひっそりと活動する見えない味方。
その存在を秘匿する為に、味方にすら見えない、味方。

至る所で国益を脅かす者を排除する為に活動する者達。

不可視の敵。

“インビジブルエネミー”

彼等は、一部の政府高官や軍人達の間で、そう呼ばれていた。

4 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 00:58:12.24 ID:cq9lgEFbO



              ('A`) ドクオと見えない敵のようです



                   Phase.1 403


5 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:00:02.58 ID:cq9lgEFbO

******

観光ホテルやオフィスビルが立ち並ぶ道を、男が歩く。
道路を走る自動車の排気音に、
スニーカーが歩道に鳴らした足音は掻き消された。

オオカミ製の安価で燃費に優れた車が、
自分の背を追い越していくのを彼は眺めていた。

温暖な気候であるカナソクの強烈な日光が視界に差しかかるが、
サングラスがそれを遮断し、男の目をガードする。
ここの太陽の光にも慣れっこといった風に、彼の肌は浅黒く焼け上がっていた。

サングラス越しの瞳は何も写さず、ただ、前だけを見ている。

先程通り過ぎて行った自動車は、既に視界の端へと消えてしまっていた。
交差点に差し掛かり、男は信号が赤になっているのを見て足を止める。

赤が点滅し、青になると、信号待ちの人々が歩きだし、
道路を行きかう人々の肌は皆黒く焼き上がっており、
この国の気候に適した民族衣装や、袖の短い服やズボンを履いていた。

7 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:04:15.49 ID:cq9lgEFbO
向かい側の道路へと渡り、赤いビルの脇を通り抜けた男は、
オリーブドラブのシャツに、少し色あせたジーンズを履いている。

男と、彼等との違いはあまり見られなかった。
迷い無く歩みを進めて行く姿はこの街の住人と変わりなく、
それは彼もまたこの街の住人となった証であった。

彼は、すっかりとこの国に溶け込んでいた。

ボサボサに伸びた髪に、無精髭を生やした男は歩き続ける。

二年間もの間任務で滞在したこの街の地形は、完璧に把握している。
迷う筈もなく、彼は自分が隠れ続けてきた、
この街の住人として暮らしてきた家に、セーフハウスへと向かって行く。

警戒心を絶やさず、しかし、そのことを相手には悟らせず、
一般人と同じ気配を発するように意識しながら、彼は歩く。

無表情の裏に、攻撃と防御の意志を隠して、男、
鬱田ドクオはミッションを終え、仮の住まいへと帰宅する。

8 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:08:18.74 ID:cq9lgEFbO

******

(-■A■) 「ふぅ……」

ドアを開けて中へ入ると、まず、俺は浅く息を吐いた。
身体に籠もっていた熱が抜けていくようで、全身が冷えていくように感じられた。

サングラスを外して足元を見やり、履き古したスニーカーを脱ぐ。

玄関へ上がり、その足のままで俺は居間へと向かって行く。
部屋の中には陽があまり差しておらず、薄暗くなってしまっていた。
壁に付けられたボタンを操作し、部屋を明るくする。

蛍光灯に照らされた四畳一間の部屋が目の前に広がっていく。
ベッドが置かれているのみで、テレビなどの娯楽品は置かれておらず、
狭い部屋でも少しは広く見えていた。

長時間歩き続けることで熱を持った靴下を脱ぎ棄て、ベッドに腰を掛けた。

ギシ、とパイプベッドが軋む音が鳴る。
安物だからこのような音が鳴るのか、俺が重いからなのかは分からないが、
このベッドの軋みを気にしたことは一度も無かった。

9 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:10:37.24 ID:cq9lgEFbO
ただ、眠るという行為が果たせるのならば、
身体の疲れを癒すことが出来るのならば、それだけで良かった。

その目的を果たせるのなら、安物だろうが軋もうが関係は無い。

足元に上半身を傾けて、ベッドの下に手を伸ばす。

大きな黒のボストンバッグを掴み取り、
その中から俺は掌に収まる程の、傍から見れば携帯電話にも見える、
小型の無線機を取り出した。

片手でボタンをスムーズに操作して周波数を合わせ、“モラル”へと繋げる。

('A`) 『中間報告。403、現状に異常無し』

すぐに、暗号名“モラル”の、
ケースオフィサーの声がクリアに聞こえてきた。

( ・∀・) 『了解。以前伝えたように、明日帰還せよ』

11 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:13:03.74 ID:cq9lgEFbO

('A`) 『了解』

連絡はこれで終わりか。

そう思い、“モラル”が回線を切るのを待っていると、
“モラル”は更に言葉を続けてきた。

( ・∀・) 『403』

名を、コードネームを呼ばれ、俺は“モラル”の言葉に意識を傾ける。

( ・∀・) 『391が死亡した。二日前から定時連絡が取れておらず、
       “IEU”を捜索に当たらせたのだが、セーフハウスで彼の死体が発見された』

('A`) 『………』

“391”
            オイナリ
IDナンバー391、渋澤老哉。
ニューソクの諜報部に勤め、長年スパイとして暗躍してきた、
経験が豊富なベテラン中のベテラン。

そんな渋澤が任務先で死体として発見されたようだ。

13 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:17:04.05 ID:cq9lgEFbO
他殺。

敵によって、テロリストの手にかかって殺された。
死亡と聞いて初めに浮かんだものは、それだった。

年齢は50を目前に控えており、身体能力は衰えてきてはいたが、
並大抵の人間では彼を殺すことはできないだろう。
しかし、セーフハウスで、と言うところが疑問に残る。

自殺。それとも、病死?

任務の始まった二年前から、
一切の交流が無くなった渋澤の死因に思考を巡らせていると、
“モラル”の口から無線機越しに、答えが伝えられた。

( ・∀・) 『何者かによって殺害されていたようだった。
       十中八九“ラドン”の手によるものだと考えられる』

冷静な、一切の感情の籠もらない声で、殺されたと告げられた。

それも、情報収集をしていた対象である、
“ラドン”のテロリスト達の犯行。奴らにこちらの行動と居所がバレた。
瞬時に、俺はそう予測した。


16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:25:22.55 ID:cq9lgEFbO

( ・∀・) 『単なる偶然だとは思いたいが、情報が漏れたのかも知れん。
       391が担当していた地域の近くを担当していた406を“IEU”に保護させた。
       既にこちらに帰還している。403、君も気を付けたまえ』

('A`) 『了解』

短く、そう応答をして、俺は回線が切れたのを確認した。

右手に握っていた無線機の電源を切り、ボストンバッグの中へとしまい込む。
荷造りの済んだバッグは膨れていた。荷造りとは言っても、
衣類以外に荷物は無く、そう時間のかかる物では無かった。

武器をニューソクから持ち込まず、現地で調達した為に荷物は軽量だ。

武器を手に入れることは、治安が良いとは言えないこの国、
カナソクでは難しいことでは無かった。

ニントンという街の闇市で購入した、腰に差したハンドガンを抜く。

手に馴染んだ重みを感じつつ、マガジンを取り出して装填数を確認。
グロック26という、携帯性に優れた小型のこのハンドガンの最大装填数は十発だ。
マガジンの目盛りを見れば、“10”と刻まれた場所まで弾丸が詰め込まれている。

おまけに、既にチャンバーにはもう一発弾丸が込められている為、計十一発だ。
予備の弾薬もある。もし敵が現れたとしても、充分に戦うことが出来るだろう。

17 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:27:20.95 ID:cq9lgEFbO
だが、

……391は、渋澤は殺された。

油断していたのかもしれない。

不意を打たれて抵抗する間もなく殺されただけかもしれない。

だが、敵がこちらを襲撃してくるとすれば、
装備を整えてくることは間違いないだろう。
だとすれば、こちらに勝ち目は無い。

いくら警戒していようとも、こちらはたったの一人なのだから。

しかし、それでも出来ることはある。
この国を出れば、ニューソクまで逃げ切れば良い。
それに、まだこちらの情報が敵に渡ったと、決まったわけではない。

……明日、空港に辿り着くまでが勝負、か。

状況を整理し、敵の襲撃に備えてベッドの下に潜り込み、身体を休める。
眠ることはできないが、瞼を閉じるだけでも、疲れが癒されていくようだった。

右手にグロックを握り、人差し指を安全装置に掛けたまま、
俺は覚醒と睡眠の狭間を彷徨い続けた。

18 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:29:27.19 ID:cq9lgEFbO

******

カナソクへ諜報活動に訪れたのは、二年前のことだった。

ニューソクに対してテロ行為を行う組織、
ラドンの幹部フォックスがカナソクに逃げ込んだとの情報を得て、
ニューソクの情報機関、ニューソク国防情報局は四名のエージェントを送り込んだ。

国防情報局第三課と呼ばれるところに所属する四名だ。

暗号名391、403、404、406。

その中の、403が俺だった。

第三課は他機関との情報交換を一切行わず、
一部の者を除いて、俺達の潜伏先は知らされてはいない。

もちろん、カナソクにもこのことは知らせてはいなかった。

このことは幸いだった。

二年間情報収集を行っていく内に、この国の実態を知っていくことで、
俺はそう実感することが出来た。
この国が、何をしているのかを知ることで。

21 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:33:23.61 ID:cq9lgEFbO
カナソクは、ラドンと、テロリストと手を組んでいた。

世界最強の軍事力を持つと謳われる、
ニューソクと真っ向から対立するテロ組織だ。
カナソクにとって、ラドンの利用価値は高い物なのだろう。

それだけならば、まだ可愛い物だ。

それだけならば、テロ支援国家というだけで済む。
しかし、この国はそんな生易しい物では無かった。

カナソクは、国を挙げての人身売買と薬物の売買を行っていた。
奴隷市場と薬物市場を、国が経営していたのだ。
フォックスの隠れ家を探す為にこの国を調べ上げて行くうちに、俺はそれを知った。

無法者の、犯罪者の巣窟だ。

報告は行ったが、俺達は任務の為にそれを止めることではない。

今ここでニューソクが動きを見せれば、
カナソクに潜伏するラドンのメンバーはここを去ってしまうかもしれない。

22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:37:48.46 ID:cq9lgEFbO
黙認しておく他に、第三課に選択の余地は無かった。

カナソクの非道な行いを見過ごして捜査を行い続け、
先日、406と391が共同してラドンの居場所をつきとめた。
391、渋澤の担当区域の近隣を捜査していたエージェントだ。

そして前日、俺達に帰還命令が通達された。
―――そして今日、渋澤が殺されたと伝えられた。

……陽が昇ってきたようだ。
カーテンの隙間から漏れる光が視界の端に差しこんでくるのを、俺は認めた。

ずっと握りしめていたグロックのグリップから手を放し、ジーンズにさし込む。
シャツの裾を被せれば、外からはグロックの銃身は見えなくなる。
ベッドの下から剥いでていき、立ちあがって背筋を伸ばした。

縮んでいた筋が伸び切きっていくと、
疲労が身体から散っていくようで気持ちが良い。

ベッドの上に置いてある小型の時計を見て時刻を確認すると、既に四時になっていた。

23 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:39:43.02 ID:cq9lgEFbO

飛行機の搭乗時刻は六時四十五分。
移動の時間を考えてもまだ少し余裕があるが、ここを出る事にしよう。

台所へと向かって蛇口のハンドルを捻り、
流れ出てきた水を両手で受けて顔に被せる。

冷やかな感触が顔を突きさすようで、眠気が少し軽減され、
重くなっていた瞼が少し軽くなった気がした。

顔に滴る水を腕で拭って、俺は踵を返して玄関へと向かった。
履き慣れたスニーカーを足にして、ドアノブに手を掛ける。

その時には既に眠気など微塵も無くなっており、
経験とセンスによって磨き抜かれた、
気配を読み取るセンサーを周囲へと伸ばしていた。

……403、これよりニューソクへの帰還を行う。

24 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:42:15.55 ID:cq9lgEFbO

******

男が一人、建設途中の高層ビルの中を掛けて行く。

剥きだしの鉄骨に背を預け、ポケットの中から手鏡を取り出した男は、
向かい側の通路を映し出して様子を覗った。

荒い息を漏らして肩を揺らし、男は手鏡をしまう。

鏡には鉄骨と通路が映し出されるだけで、追っ手が映ることは無い。
安全を確認した彼は、肩に掛けたボストンバッグから小型の無線機を取り出し、
声を吹き込んだ。

(=;゚ω゚) 「こちら404、現在ラドンと思われる敵勢力に追われている。
      所定通りの帰還ルートへは向かえそうにない。指示を」

そう言い終えると、404は息を整えながら応答を待つ。

瞬間、聞こえてきたものは、
ケースオフィサーである“モラル”の声ではなかった。

向かい側から聞こえてくる、足音。

小さく、地面に振動は伝わってはこないが、
404はそれをかすかに聞き取った。

無線機をポケットにしまい込み、片手に握ったサブマシンガンの冷たい感触を確かめ、
気配を嗅ぎ取ろうと周囲に警戒心の網を張り巡らせ、
自分の身を隠している鉄骨から、一歩遠ざかって行った。

26 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:46:54.76 ID:cq9lgEFbO

(=゚ω゚)「……ッ!!」

即座に404は前足を鉄骨へと投げ出し、疾走を開始する。

スコーピオンの連射は続けたまま、敵を牽制しながら通路に飛び出し、
一目散に外へと向かう通路へと駆け抜ける。
隣の通路へと入り込んだ彼は、入口の端に隠れてマガジンを交換。

リロードを即座に行った404は追っ手の気配を感じ取り、
入口から、先ほど自分が来た道へ銃だけを覗きこませて発砲。

地面に弾丸が爆ぜるのを確認する間もなく、404は疾走を再開した。

( ・∀・) 『――――応答をしろ、404!』

銃声に掻き消されそうな無線ごしの声が鼓膜を震わし、
404はスコーピオンを持つ手とは反対の手で、
無線機をポケットから引っ張り出して口元まで持っていく。

28 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:49:11.48 ID:cq9lgEFbO
走りながらも声を出そうと、肺から酸素を取り込むが、

(=;゚ω゚) 「――――くッ!」

言葉は飲み込まれ、代わりに力の籠もった声が吐き出された。
そして、それよりも早くスコーピオンの銃身が、彼の目前へと突き出される。

まだ足場すらままならない、吹き抜けとなった建設途中の上階から、
人影が一つ、突如として飛び降りてきたのだ。

迷わず、404は引き金を絞った。

近距離から放たれる、弾丸の嵐。
薬莢が宙を舞い、銃声が木霊する。
人影は身に降り注いだ鋼鉄の雨の洗礼を受けた。

が、

次に響く音は連続した金属音であった。
遅れて火花の塵が404の目前で飛び散っていく。

30 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:52:11.33 ID:cq9lgEFbO
連射に合わせて舞って行くそれの正体は、弾かれる弾丸だ。

引き金から指を起こし、404は敵の姿を確認した。

(=;゚ω゚) 「なっ、何でそんな物が、何でお前のような者がここにいるんだっ!」

404は動揺していた。

目の前に存在する、敵の姿が信じられずに。

突然現れた敵は、全身にゴム質の防護繊維を覆っていた。
青い布地にハードポイントなどが設けられたそれは、
どこかウェットスーツに似た外見をしている。

そのスーツの下には筋肉が隆起しており、それが敵の強靭さを物語っていた。


|/゚U゚| 「………」

31 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 01:55:59.80 ID:cq9lgEFbO
(=;゚ω゚) 「――――“強化骨格”ッ!!」

青の強化骨格スーツを纏い、右手に日本刀を持つ、
強化骨格を移植した敵は404の姿を視界に収めると、
小さく口を開き、呟いた。

|/゚U゚| 「……目標、確認」

低く、耳の奥に沈んでいくような感情を窺わせない声。

忍者の頭巾に似たバイザーから覗く瞳は404を射抜いており、
赤く、血に染まったように見える。

右手に持った日本刀の切っ先に左手を添え、404の喉元へと突き付け、

|/゚U゚| 「排除」

短く言葉を発した。

前方へと体重を傾けて腕を手一杯伸ばし、
リーチを最大限にまで延長させ、敵は一歩を前へと繰り出す。

その一歩で身を弾丸の如く射出させれば、
刃の先端にほんの少し重みを加えるだけで、突きの動作になる。
真っ直ぐに伸び、繰り出された刺突は視認するのも困難な速度であり、
404には避ける術が無かった。

32 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:01:14.93 ID:cq9lgEFbO
(=;゚ω゚) 「ちっ……ッ!」

しかし、微かに404は反応してみせた。後方に重心を落として体勢を崩すことで、
致命傷は負わずに済んだのだ。肩に食らいついた刃の感触と痛みに舌打ちしつつも、
彼は攻撃したことで隙の出来た敵に、忍者にカウンターの銃撃を浴びせる。

だが、銃身を振って銃口を忍者に合わせたその時には、
既に忍者は次の一撃へと行動を開始していた。

咄嗟に引き金を引くも、銃弾は虚空を裂き、壁に穴をあけるのみだ。

強化骨格の人工筋肉によるパワーアシストを受けた忍者の反射神経と反応速度に、
なんのパワーアシストも持たない生身の404が、追い付けるはずもなかった。

ましてや至近距離。

忍者は、筋肉が委縮したことによって抜けにくくなった日本刀を抜こうとする。
その行動はそのまま、攻撃へと繋がった。
突き立った刃を突き立てたままに、日本刀を袈裟切りに振り下ろしたのだ。

刀身が肉を断ちながら降下していき、胸に達するか否かというところで、
404は忍者が刀を持つ腕を両手で押さえこんだ。

33 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:02:51.12 ID:cq9lgEFbO
(=; ω )ノ 「ぐぅ……あ」

日本刀が身を切り裂くことで生まれる痛みに、404は鈍い声を漏らした。
額からは汗が、肩からは血が流れ出て、忍者の腕を押さえる両手は痙攣を始める。
押し返そうと、全身の力を使って腕を押していくが、忍者の腕はビクともせず、
日本刀は徐々に404の身体を切り裂き始めて行った。

そこで、404は身を深く落とし、

(=#゚ω゚) 「はあぁっ!!」

忍者の下腹まで潜り込んでタックルをぶちかました。
防護繊維によって衝撃は緩和されてしまうが、
忍者は、404のタックルを受けて、一歩を後ずさった。

前方へと全体重を掛け、404は押していく。

懐へと潜り込まれたことで刃を振れなくなってしまった忍者は、
404を切り捨てることも出来ず、ただ、押されていくだけであった。

35 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:08:32.57 ID:cq9lgEFbO
背に、壁が激突する。

404は、忍者が壁に押し付けられたのを確認すると、
即座にスコーピオンを忍者の喉元へと突き付けた。

零距離。

いくら強化骨格スーツと言えど完全に銃弾が防ぎ切れるわけではない。
密着し、刀さえ封じてしまえば、いかにサブマシンガンと言えども、
まだ忍者を撃ち抜けるだけの望みはある。

(=#゚ω゚) 「くたばれ機械人形!!」

|/゚U゚| 「………」

咆哮した404はスコーピオンの引き金を引き絞った。
絶対的な窮地に立たされているにも関わらず、
忍者は冷たい視線と無表情を404に向ける。

渇いた銃声が通路に一つ響きわたった。

続いて肉を穿つ音がし、血が地面を汚していく。

36 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:11:37.55 ID:cq9lgEFbO
銃弾を受け、倒れて行ったのは404だった。

(=; ω) (まずったよう)

彼は内心に毒を吐きながら、倒れていった。

背中に食らった銃弾は腹を突き破り、内臓を貫通した。

忍者にばかり気を取られ後方の敵に警戒していなかった、
404のミスが生んだ結果だ。

救援が送られる望みは無く、ここから離脱するだけの力も残されていない。

404は、ふと、上を見上げてみた。
そこには忍者の顔があり、赤い瞳孔が彼を捉えている。


|/゚U゚| 「目標、沈黙」


|/゚U゚| 「排除」

37 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:14:25.43 ID:cq9lgEFbO

******

|/゚U゚| 「排除」

そう言う強化骨格の姿が、イヨウには機械に見えた。
……こいつ、ホントに人間かよう。

そして次に、自分の友人に似ているように見えた。
任務中とは言え、ここまで無機質な声音と表情を出来る者は、そうはいない。

何かが欠けてでもいない限り、人間としての大切な物が欠けてでもいない限り、
こういった表情を出来る者はそうはいない。
……アイツと同じか、それとも精神制御か。

恐らく、戦闘に最適化した精神を持つよう、
何らかの仕掛けが施されているのだろう。
それが人為的な物なのか、自然の物なのかは分かりそうにはない。

どちらにせよ、
……馬鹿げた奴が、馬鹿げた奴等は、どこにでもいるもんなのかよう。
この忍者を生み出した、カナソク、もしくはラドンの者達、
そして自分の国の仲間と上司を思い浮かべて、イヨウは苦笑する。

頭上に、日本刀の刃が構えられた。忍者の赤い瞳が、イヨウを捉えて離さない。

……任務失敗か。
離脱は不可能。ニューソクへの帰還は不可能。
任務失敗と判断したイヨウは、片手に構えたままのスコーピオンをこめかみに押し付け、
引き金を倒した。潔い自決を選んだ彼の頭に、血の花が一輪咲いた。

38 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:17:33.35 ID:cq9lgEFbO
******

空には日が昇り始め、薄闇が徐々に晴れつつある。

早朝の少し冷たい空気を肌に感じながら、
403、鬱田ドクオは街中を歩いていた。

彼の足の向く先はバスステーションのある方向であり、
セーフハウスを出てから既に10分程が過ぎている。
バスステーションはセーフハウスから歩いて20分程でたどり着ける距離だ。

もう10分も歩き続ければたどり着くだろうと、ドクオはぼんやりと時間を計算する。

('A`) (2年、か)

街の中を眺めれば、既に見慣れた建物がいくつも、
ドクオの視界の中に映った。

その建物を見て、彼は2年間の任務を振り返る。

39 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:20:31.35 ID:cq9lgEFbO
(-A-) (……問題はなかったな、今までは)

そう、問題は一度もなかったのだ。

順調にことは進んでいたのだ。
しかし、今更になって、最後の最後になって、問題が起きてしまった。
何処で情報が漏れた、と推測するが、

('A`) (それは俺の仕事じゃない)

自分の管轄ではないと、そう判断して彼は思考を中断した。

何も考えずに、何も感じずに、ただ任務のみを果たしていればいい。
それが彼の、鬱田ドクオの教訓であった。

今まで生きてきて、生き延びてきて得た、唯一の教訓。

何かを迷っていれば、その間に撃たれる。
何かを躊躇すれば、その間に敵を撃つ機会を失う。
何かを患って入れば、その間に任務をしくじる。

41 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:24:57.98 ID:cq9lgEFbO

己を作戦の、任務達成の為の一つの部品とすることこそが、
自分の仕事では大切なことだ。

ドクオは過去に、まだ少年であった頃にそう学び、
以来、彼は己の感情を消すようになった。

内の意識を消し、外に意識を張りめぐらせる。

そうすることで敵を察知する。
そんな技術を身につけることが出来たのは、
そういう“意識”を手にしたおかげなのかもしれない。

この瞬間もまたドクオは外に意識を飛ばし、敵を察知していた。

( ゚д゚ )

2分程前からずっと後ろから付いてきている、
スーツを来た目つきの鋭い、ガタイの良い男。

ドクオは彼を、敵として認識していた。

スーツ男が自分のことを本当に付けてきているのか確かめるため、
バスステーションへと行く道から少しずれてしまうが、
ドクオは交差点を曲がった。

43 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:29:18.43 ID:cq9lgEFbO
そしてそこから向かう場所は、
人気が少なく、建物が密集した裏通りだ。

薄暗い裏通りを歩き、見知らぬ事務所の裏口にたどり着き、
ドクオはそこで立ち止まる。

('A`) 「………」

( ゚д゚ )

いる。

付いてきている。

そして今、自分の背後に近づいてきている、と、ドクオは判断した。
足音は消せても、殺気だけは消し切れていない。

男が、足を止めたのを彼は感じる。

次に、殺気の色が濃くなるのを、ドクオは感じた。
どす黒く、背筋を凍らせるような感触。

44 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:32:07.56 ID:cq9lgEFbO
ドクオは、肩にかけていたボストンバッグのショルダーを外し、

('A`) 「――――ッ!」

身を独楽の如く回転させて背後へと振り返り、
ボストンバッグを男の目前へと放り投げた。

(;゚д゚ ) 「―――ッ!?」

ハンドガンを抜いていた男は、
虚を突かれたのか思わず身を後方に一歩引き、
ショルダーバッグから距離を取る。

まさに、男が今銃を抜いた、その時の行動であった。

背中に目でも付いているかのような、絶妙なタイミング。

ボストンバッグ視界を遮られた途端、ドクオは男の懐へと突っ込んでいく。
腰に隠しているハンドガンを使おうとはしない。

ここで発砲をすれば第三者に気づかれてしまい、警察に通報されかねないからだ。
長くここに滞在することになってしまえば、その分だけ命を狙われる可能性は増え、
カナソク政府へニューソクの諜報活動が露見する可能性が増える。

よって、ドクオは銃を使わず、接近戦で敵に対処することを選んだ。

45 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:34:35.83 ID:cq9lgEFbO
踏み込み、ボストンバッグの下へと潜り込む。
すると、男は既にそちらへと銃口を向けていた。

ドクオの行動を予測し、予め狙いをその一点に飲み絞っていたのだ。

彼が腕を伸ばして銃を奪い取ろうとしても、
足を延ばして胴に蹴りを食らわせようとも、
男が引き金を引くよりも早くそれを行うことは不可能だ。

サプレッサーの付けられたハンドガンの銃口がドクオを覗く。
そして、引き金に掛けられた指が倒されていき、

( ゚д゚ ) 「………ッ!!」

銃弾は虚空へと向けて放たれた。

ドクオが拳を叩きこむことで吹き飛んできたボストンバッグにぶち当たり、
男は体勢を崩してしまったのだ。

よろけ、一歩を後ろへと下げて体勢を立て直そうとするが、遅い。

銃を向けようとしたその時には、既にドクオは彼に掴みかかっていた。
懐に潜り込み、ハンドガンを構える両の手をホールドし、
そのまま腕と腕の間に左の肘を通して男の顎に直撃させる。

46 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:36:53.85 ID:cq9lgEFbO
(;゚д゚ ) 「グッ!!」

衝撃に男は上半身を仰け反らせ、苦い声を漏らす。

ドクオの攻撃は更に続き、顎に入れた左肘を引いてシャツの襟を掴み、
右の腕で左の肩を掴む。そこから右の足で左の足を払うことで、
重心が傾いてしまった男は左側へと大きく倒れていった。

すかさず左の膝を男の胸へと突き、押さえつける。

それでも男は銃を離そうとはせず、
強引にドクオへと銃口を突き付けようとした。

顔に向けて銃を振られ、引き金が引き倒されようとする。
対し、ドクオは慌てずに身を仰け反らせ、
体重と腕力を用いて掴んだままの男の腕を引く。

すると、骨の外れる快音が一つ、裏通りに響いた。

( ;゚д゚ ) 「グゥォォォォッ!!」

人間のものでは無いような、痛みに狂った叫びがあがる。
力強い声とは裏腹に男の左腕は力を失い、
ドクオに呆気なく銃を奪われてしまった。

47 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:38:49.33 ID:cq9lgEFbO
('A`) 「………」

痛がる男を無機質な瞳でドクオは見つめ、奪った銃を突きつける。

('A`) 「仲間はいるのか、いないのか、吐け」

感情の籠もらない、機械のような声で彼は告げる。
任務遂行の為の部品となった彼に、
もはや感情と呼べるものは存在しなかった。

今、男に突きつけられている銃口は、ドクオが望んだ答えが得られなければ、
容赦なく男の額に弾丸を叩きこむことだろう。

( ゚д゚ ) 「………」

だが、男は口を割ろうとはせず、ただドクオを見据えていた。
もはや諦めたとでも言うような目だ。

48 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:39:53.77 ID:cq9lgEFbO
('A`) 「………」

その目を見たドクオは、

('A`) 「………ッ!」

銃を左手に持ち替えて男の口を押さえ、右手で首を締め上げた。
口を閉ざされたことで空気の逃げ道が完全に塞がれ、
男は呼吸をすることも、苦しみに声を上げることもできなくなってしまった。

身をバタバタと振って逃れようとするが、
顔がみるみる赤く染まりあがっていき、徐々に力は失われていった。

( д ) 「―――!」

やがて、首の骨をへし折られて、男の動きは止まった。

脈が止まったのを確認し、ドクオはハンドガンを放り捨てて男の元を離れる。
男と戦闘を開始して、ここまでにかかった時間は3分程。

回り道をしてしまったが、早めにセーフハウスを出たために予定がずれる恐れもない。

しかし、他にも敵がいるのかもしれない、と警戒をして、
ドクオは少々早足気味にバスステーションへと向かっていった。

49 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2009/12/24(木) 02:41:13.16 ID:cq9lgEFbO

******

バスステーションにたどり着き、空港行きのバスに乗り込んだ俺は、
車内に敵が潜んでいるのを警戒した。

だが、それから一時間何も起こらず、
何の問題もなく空港へたどり着き、
一般客へ紛れ込んで旅客機に乗り込むことに成功した。

何も問題はない。

敵に襲われたと、ケースオフィサーに伝えるべきか迷うところであったが、
盗聴されてしまう恐れがあるため、控えることにした。

……内通者がいるかもしれないしな。

警戒しておくにこしたことはない。

だから俺は、誰も聞くことのない報告を、頭の中に呟いた。

「403―――任務を継続する」


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