( ^ω^)は島を守るようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:12:48.88 ID:TpNVs4gD0


蒼き空に一際白い大きな閃光が煌いた。


(;^ω^)「セイクリッドの光!? 誰が!!!」

爆散し、空を舞うダストにより通信が一時切断され、司令部からの情報は得られない。
それ以前に、今はそれを気にかけていられる余裕はない。
一つ間違えば、あれは未来の自分の姿なのだから。

(;^ω^)「くっそ──弾切れかお!」

機体の高度を下げつつ後退する。
とは言え、自分のいる位置が最終防衛ラインなのだ。
これ以上下がるわけにはいかない。

右手の98mmマシンガンを後方に投げ捨て、腰のブレードを引き抜く。
この位置にいて弾切れを起こしたという事実が、戦局の様体がどういう流れなのか否が応にも察せられる。

「──wwヘ√レwv──ますかwwヘ──ら司令vヘ√レ────」

通信機から響くノイズだらけの音声。
本来添えられるはずの映像はまだ復帰していない。
最も司令部に近いであろう自分でこの有様だ。
もっと前線にいる他の仲間にはまだノイズすらも届いてないかもしれない。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:14:29.52 ID:TpNVs4gD0

通信機を手動で調整し、電波を拾う。
程なくして、こんな切迫した場面でも落ち着いたオペレーターの声が届く。

「─v─SA07、応答願います─vw──SAvヘ√レ───」

(;^ω^)「こちら、SA07・シュトルヒ! さっきの光は誰ですかお!?」

「──良かった──vw─内藤君、無事でしたか──」

(;^ω^)「こっちは平気ですお。あれは、あの光は誰の機体ですお?」

安堵のため息を漏らすオペレーターの言葉を遮り、同じ質問を繰り返す。
誰が欠けようとおかしくない戦場の空だ。
一人欠けた所で果たすべき責務は変わらない。

知ったところでどうにもならない事に固執するのは、彼、内藤ホライゾンが生粋の軍人などではなく、
本来ならば一介の高校生である事に起因するのだろう。

「──SA04・アルバトロスです……─vw─」

(;^ω^)「アルバトロス……プギャーさんかお……」

先程よりは明らかに落ちたトーンでオペレーターはその名を告げる。
光、機体の動力源であるセイクリッド・エナジーが放つ白色のそれがプギャーの機体から確認出来たという事は、
それはそのまま機体の消滅を意味する。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:16:25.30 ID:TpNVs4gD0

撃墜の状況から判断するまでもなく、生存の確率はゼロだ。
そんな事は織り込み済みで皆この機体に搭乗している。


各々の目的の為に。


そして生き伸びる為に。


(;^ω^)「それで、状況は? こちらにもかなりの数が来てますが、前線は突破され──」

刹那、飛来する金属の塊。
弾丸の様に一直線に内藤の機体、シュトルヒの方へ飛来するが、その形状は小型の円筒形のものではなく、
長い槍の様な形をしている。

(;^ω^)「ちぃッ──!」

内藤はシュトルヒの右手のブレードにセイクリッドを繋げ、振動を開始させる。
先ほどの98mmマシンガンの様な実弾を扱う武器と異なり、彼らの機体、SAシリーズの主武装は
セイクリッド・エナジーを用いた構造となっている。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:18:05.89 ID:TpNVs4gD0

故ハロー・セイクリッド博士により発見されたセイクリッド・エナジー(SacredEnergy)。
白色に輝く神々しさと、発見者の名前から名付けられたれは、低燃費かつクリーン、
そして高出力と三拍子揃ったこの新しい燃料は、瞬く間に世界のあらゆる国に広がった。

しかし、そんな燃料の世代交代に、当然ながら旧来の化石燃料を供給していた国からは大きな反発があった。
その結果、世界には紛争が起こりはしたものの、既に経済的に疲弊していたそれらの国々は淘汰され、
世界の流れは新しい燃料を容認した。

こうしてセイクリッドは家電に始まり、車や航空機、そして当然の様に兵器開発にも行き着いた。
従来の兵器、戦車や戦闘機、艦船などは軒並みその質を高め、世界の軍事バランスこそ大幅に崩れはしなかったものの、
一度紛争が起これば、その被害は大幅に拡大する様になった。

この事態を憂慮したという建前の元、世界各国は新時代の主導権争いを優位に進める為、
独自に新しい主戦兵器の開発を進める。

その一つが汎用性の高い、人型を模した兵器。

これまでは出力の問題状、化石燃料では起動させる事さえ困難で、核でも使わない限り実用化は困難だとされていた。
しかしその性質上、動力に核を使うのは戦略的にも人道的にも問題が大きく、タブー視されている。

セイクリッドの発見により、核の様な問題を考慮必要する事なくそれ以上の出力を得られる様になり、一気に実現化が進み、
様々な人型兵器が開発された。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:20:30.93 ID:TpNVs4gD0

余談だが、セイクリッドの大きな功の一つに核を全廃に至らせた事がある。
より安全で高出力の燃料がある以上、化石燃料以上に問題のある核、原子力を廃止する事に各国は容易に合意に至った。
故に、この世界には現在核兵器と呼ばれる様な物は存在しない。

だが、当然の如くそれを代替するものがセイクリッドを用いて作られようになるのは歴史の再現性のなせる業か。
その業が世界の半分を消滅させた。

しかし、そのまま激化の一途を辿ると思われた人間同士の紛争は、意外な原因により鎮火した。

突如として現れた人ならざる者の存在、フェイス(Fatih)。

彼らは金属の甲殻を纏った巨大な有機生命体で、その出自は不明、だが目的は明確で、セイクリッドの光を求め、
人類に対し圧倒的な力を振るい、侵攻を始めた。

フェイスは知性や感情等は一切持ち合わせず、ただ本能のままに、セイクリッドを求め、食らい、そして消滅した。

何故フェイスが自らをも滅ぼすセイクリッドを求めるのか、未だ持って謎のままだが、
その生活の全てをセイクリッドに依存していた人類は、それを容易には捨て去る事も出来ず、
無限と錯覚せんばかりに湧き続けるフェイスに、いくつもの国が消え、多くの人々が死んでいった。

そんな終わりを待つだけの世界の中でも、生き残った人々は戦い続ける。
その先に何の光も見出せないとしても。


内藤ホライゾン。

彼もこの世界に生き残った一人。

生き延びる為、守るべきものの為、彼は鋼鉄の機体に乗り、この蒼き空を駆ける。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:23:24.59 ID:TpNVs4gD0


(;^ω^)「効くかおッ!」

セイクリッドの浸透により、振幅が最大に至った刃、所謂、高周波ブレードを薙ぎ、フェイスの攻撃を斬り払う。
槍状に伸ばされたフェイスの腕部は、ブレードに触れた部分からあっさりと切り墜とされる。
相当の硬度を有するフェイスの装甲だが、セイクリッド・ブレードの前では無に等しい。

(#^ω^)「この、クラゲ野郎ぉぉぉぉッ!」

ブレードを薙ぎ払った体勢のまま、内藤はシュトルヒを一気に加速させ、先ほどの攻撃を放ったフェイスの
胸元に飛び込む。

そのままブレードを逆手に一閃、フェイスの頭部と思わしきコアを斬り裂いた。

斬られたフェイスは、生物らしき断末魔の叫びなど一切上げることなく、ほんのわずか収縮し、そのまま静かに弾け飛ぶ。
フェイスは死して何も残さず、ただ透明の煌きと共に消えて逝くのみだ。

フェイスのこの性質も、未だその生態の謎が遅々として解明されない原因に一役買っているのだが、今の内藤に
そんな事を気にかけている余裕はない。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:22:06.07 ID:TpNVs4gD0

間髪入れず新たなフェイスの攻撃がシュトルヒを襲う。

(;^ω^)「次!」

再びブレードを振るい、次々とフェイスを斬り墜して行くシュトルヒ。
鋭角的なフォルムの純白の機体が蒼い空に映える。
その強さは、圧倒的とも言わんばかりにフェイスを凌駕している。

(;^ω^)「ああ、クソッ! キリがねえお」

単体同士の戦いなら、まず内藤の乗るシュトルヒが負けることはないだろう。
だがしかし、フェイスの真の恐ろしさはその物量にある。

形状は先ほど内藤が嘲弄した様に、海月に似た姿をしている。
空を漂い、ゆっくりと侵攻し、その触手状の腕を伸ばし攻撃してくる。
シュトルヒの機動性をもってすれば、回避は容易だが、それは一体から攻撃を受けた場合だ。

蒼い空を埋め尽くさんばかりに漂うフェイスからの一斉攻撃。
連携など何も取れてない、ただ射程内の目標に伸ばされるだけの攻撃だが、なまじ統制が取れていない分、
予測はほぼ不可能だ。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:25:09.15 ID:TpNVs4gD0

「──SA07─vw─SA07─ww─聞こえますか──」

何十体目かわからないフェイスを斬り裂いたかわからない頃に、内藤の下に司令部から通信が入る。
先ほどのオペレーターよりは若干高く、陽気な印象を受ける声だ。

(;^ω^)「聞こえてますお! 戦況は!?」

通信機に怒鳴りながらも、シュトルヒを操る腕は止まる事はない。
この空で戦い続ける事十ヶ月あまり、一介の高校生であったはずの内藤は既に歴戦の勇士と呼べるほど
生き延びる為の作業を繰り返して来た。

ミセ*゚д゚)リ「──vw─ちょっと、怒鳴る事ないでしょ?──vw─」

不満気な声と共に、映像が復活したモニターに若い女性の姿が映る。
内藤よりは少し年長の、サブオペレーターであるミセリは続けざま悪態を吐く。

(;^ω^)「不平は後で聞きますから! 今は戦況!」

ミセリの悪態を遮り、さらに怒鳴る内藤。
怒鳴れば怒鳴り返されるという毎度の悪循環に陥るのだが、今の内藤にはその事に気付く余裕などありはしない。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:27:09.05 ID:TpNVs4gD0

('、`*川「──vw─はい、そこまで──内藤君、戦線を押し上げるわよ」

蛙のつぶれたような声と共に、ミセリの姿がフェードアウトし、代わりにモニターにはさらに年配の女性、
メインオペレーターであるペニサスの姿が映し出される。

司令部には三人のオペレーターが在籍しており、彼女がその責任者だ。

(;^ω^)「押し上げるって、ここの守りは──!?」

('、`*川「─vw─既にちょっと上がっちゃってるの、気付いてる?─wwヘ√レwv──」

そう言われて内藤はコンソールを覗き、現在地を確認する。
内藤は拠点である司令部が存在するVIP島から北側約5km地点にある、第四次防衛ライン周辺に配備されていたはずだ。
それが今は約10km地点、第三次防衛ラインまで突出している。

(;^ω^)「いつの間に……」

('、`*川「──w─こちらの守りは問題ないわ。駆逐しつつの前進だしね」

本来ならば責められるべき失態である。
内藤に与えられた任務は第四防衛ラインの死守。
ここを越えられれば、最終防衛ラインしか残されておらず、内藤が乗る人型兵器、SAも配備されていない。

だがしかし、命を受けた内藤は軍人ではなく、作戦を決めた司令も、それを告げたオペレーターさえも軍人ではない。
彼らにそれを求めるのは酷な話で、加えて自身が軍人ではない事による恩恵を授かっている部分は多々あるのだ。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:29:20.90 ID:TpNVs4gD0

('、`*川「──vw─左翼中部のアルバトロスがやられたわ──」

(;^ω^)「クッ──」

頭では理解していても重く圧し掛かる事実。
人が、仲間が死んだという事実も、戦場においてはただ戦局が変化したに過ぎない。
少なくとも、今はそう割り切らなければ自分が生き延びる事が出来ないのだ。

('、`*川「──v-中央部のアードラーが左翼よりになるから、内藤君はその空いた右翼に──vw─」

(;^ω^)「ちょっとタンマ!」

休むことなく襲い掛かる触手の群れ。
通信の間も休むことなく捌き続けていた内藤だが、その数がさらに増して来た。
フェイスはより強いセイクリッドの光に反応する性質がある。
どうやらフェイスが中央よりに集結して来ている様だ。

(;^ω^)「何で──!」

内藤はシュトルヒの腰部に格納された小型の球状の物体を取り出し、前方へ投げつける。
数十メートル先のフェイスの集団に当たる直前、それは目映い光を放ち、一瞬遅れて轟音が空を揺るがす。
セイクリッドエナジーを凝縮した、小型のセイクリッド爆弾とも言うべき代物だ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:31:21.08 ID:TpNVs4gD0

(;^ω^)「よし! でも、残り1つかお……」

セイクリッドは安全なエネルギーだ。
単純な衝撃や燃焼等では増幅、爆発する事はない。
手順を踏んだ人の手やプログラムにより、意図的に増幅させる他はない。

従って、機体に直結させて使うブレード等の装備武器と違い、セイクリッドを爆弾として扱うためには、それ自体にコンピュータを
内蔵させなければならない。
故に、内藤が使用したセイクリッド爆弾は、それなりに作成に手間がかかり、この状況においては貴重な物だ。

セイクリッド爆弾が引き起こした閃光の先には、フェイスは一体も見受けられない。
だが、機体を前進させ、再度通信機にコールしようと手を伸ばしかけた所で、下方から接近する無数の触手の存在に気付く。

(;^ω^)「下!? チッ──」

機体を減速させ、上空に回避行動を取り掛けた刹那、空から一筋の光が降る。
光は内藤の下方のフェイスを貫き、爆散させた。

从 ゚∀从「おいおい内藤ちゃん、油断し過ぎじゃねーか?」

(;^ω^)「ハインさん!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:32:46.62 ID:TpNVs4gD0

ハスキーな声と共に口角の吊上がった挑発的な目付きの女が内藤のモニターに映る。
立て続けに四度、空から光が降り注ぎ、下方のフェイスはその姿を空に消した。

(;^ω^)「すみません、助かりましたお」

从 ゚∀从「礼はいい。それよりまた来るぞ」

内藤より遥か上空に位置した機体、レルヒェに乗るハインリッヒは新たな敵影を目敏く見付けていた。
十メートル程の機体とほぼ同サイズの長大な銃、セイクリッドライフルを構え上空からそれを射抜く。
彼女の役割は狙撃による後方支援、そして──
  _
( ゚∀゚)「オーケィ! 後は俺がやる!」

ハインリッヒによく似た口角の吊上がった、ジョルジュの男にしては甲高い声が内藤の機体に響く。
その声と共に後方から内藤を一気に追い抜き、フェイスの群れへ突っ込んだ。
  _
( ゚∀゚)「オラオラオラァァァァッ! どきやがれぇぇぇぇッ!!!」

SAシリーズの中で最速を誇るジョルジュの機体、シュヴァルベは内藤のシュトルヒよりもさらに鋭角的なフォルムの
背中に生えた翼状の刃でフェイスを切り裂く。
無謀とも取れる突貫だが、最速の翼は光の軌跡を描きながらフェイスの触手にかすりもせず、次々とフェイスを無に返す。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:34:38.04 ID:TpNVs4gD0
.  _,
从 ゚∀从「あのバカ兄貴は……」

悪態を吐きつつも、ハインリッヒは的確にシュヴァルベの後方のフェイスを撃ち墜していく。
ハインリッヒが乗るレルヒェのもう1つの役割は、兄であるジョルジュのサポート、本人はお守りと主張するそれだ。
何度も死線を潜り抜けてきた兄妹の息の合った連携に、付近のフェイスが瞬く間に姿を消していく。

从 ゚∀从「内藤、通信は聞いてるか?」

狙撃の手を休める事なくハインリッヒは内藤に通信を入れる。
内藤は兄妹の援護の間に、司令部から凡その配置の確認を終えていた。

( ^ω^)「ええ、確認しましたお」

从 ゚∀从「よし、んじゃ、ここいらはアタシらに任せておっさんの援護に回りな」

( ^ω^)「え? 僕の配置はもっと右じゃ……?」

撃墜された左翼中部のアルバトロスの分、中央に位置していたアードラーが左にずれる。
内藤はさらにその空いた右翼よりの中央に向かう手筈だったはずだ。

从 ゚∀从「こいつらの動き、おかしいだろ?」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:36:11.91 ID:TpNVs4gD0

( ^ω^)「フェイスですかお? 確かに妙に中央よりに──」

そこまで言い掛けて内藤は一つの事に気付く。
フェイスはより強いセイクリッドの光に向かう習性がある。
内藤達が乗るSAシリーズは、機体ごとに多少の出力の差はあれど、その実フェイスからすれば誤差範囲程度というのが
これまでの戦闘での内藤達の結論だ。

それが何故かこちらに向かって来るより優先的に中央に向かっている。

そこから導き出される答えは一つ。
中央に何かしら高出力のセイクリッドの光を放つ何かがあるという事だ。
.  _,
从 ゚∀从「おっさんがまた暴走してやがる」

(;^ω^)「ギコさん……」

中央、最前線に位置しているアードラーの搭乗者ギコは、内藤達と違い職業軍人だ。
元々、内藤達の国には軍という物は存在しないはずだったので、その表現には多少の語弊があるが、アルバトロスの搭乗者である
プギャーが逝った今、内藤達の中では唯一の本職という事になる。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:38:18.54 ID:TpNVs4gD0

だがしかし、時に内藤達以上に命令を守らぬという凡そ軍人らしからぬ面をも併せ持つ。

とは言え、その点においては仕方がない一面もある。
後方から戦況は見ているとは言え、指令を出す方が軍人ではないのだ。
軍人である本人の自己判断で動いた方が最善のケースもある。

そしてギコはその最善のケースの場合のみ独断で行動を起こす。
ハインリッヒは暴走と揶揄したが、その事はわかった上で茶化しているに過ぎない。

从 ゚∀从「あとはわかるな?」

ギコが行動を起こす理由があり、また無茶をしようとしている。
ハインリッヒが言いたかったのはそういう事だ。

( ^ω^)「はい、今すぐ向かいますお!」

内藤はシュトルヒの向きを変え、中央部へ向かい機体を加速させる。
この場は二人に任せる事が最善だという事は考えるまでもなく理解出来た。
  _
( ゚∀゚)「俺らもここいらを片付けたら中央に向かう!」

从 ゚∀从「おっさんを任せたぜ?」

内藤はシュトルヒの向きはそのまま、右手だけを軽く挙げ、二人に別れを告げる。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:40:36.14 ID:TpNVs4gD0

司令部に先程のハインリッヒとの会話を踏まえた目的変更の打診をし、フェイスを斬り墜しながら中央へ向かう。

( ^ω^)「……中央にだいぶ集まってるおね」

幾層にも重なるフェイスの群れ。
中央に近付くにつれ、その厚みは増し、その攻撃も熾烈をきわめる。

(#^ω^)「ああ、もう、きりがねーお!」

殲滅より合流、その事を念頭に内藤はシュトルヒの速度を落とさず、フェイスの群れの中を突き進む。
討ちもらしたフェイスは先の二人が処理してくれるはずだ。
ブレードの振りを最小限に、しかし確実に内藤の駆るシュトルヒはフェイスのコアを斬り裂く。

(#^ω^)「いくらなんでも多過ぎじゃね?」

戦場の全体を把握しているわけでもなく、中央に集まりつつあるとは言え、今までにない程の数のフェイスが群がる。
やはり何かしら、これまでとは違う不測の事態が起こっている可能性は高い。

(#^ω^)「クラックはどこだお!?」

飛び交う触手をかわし、内藤はレーダーを盗み見る。
そこにはまだ、クラック・ポイントと呼ばれるフェイスの出現位置を示すマーカーは表示されていない。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:43:04.83 ID:TpNVs4gD0

フェイスは空から現れる。

正確には、空が歪み、そこに次元の裂け目と思わしき現象が発生し、そこから湧き出るようにフェイスは出現する。
それがクラック・ポイントで、この戦場において、内藤達が潰すべき目標点であり、それを破壊しない事には、
この戦闘が終わる事はない。

無論、内藤達が全滅するというもう一つの終わりを除いてだが。

( ^ω^)「ギコさん! 応答願いますお! ギコさん!? クラックは見つかりましたかお!?」

厄介な事に、クラック・ポイントはそれ自体がほぼ空と同質で、部分的にフェイスと同じ要素で構成されているだけのものだ。
したがって、レーダーによる探索はかなり近付かなければ識別が難しい。
少なくとも、司令部からの探索ではクラック・ポイント自体がよほど近くにない限りは見つけられない。

故に、内藤達自身が探索し、見付けた場所を司令部ないし全員の機体に直接送信し、伝達するという流れになる。
内藤のレーダーにその位置が示されてないという事は、まだ誰もクラック・ポイントを見つけられていないという事実を示す。

今回のクラック・ポイントの位置が北側にあるということだけはフェイスの進行方向からして間違いはないだろうが。

( ^ω^)「まだ、墜ちてはいないおね──!」

レーダーにはギコの搭乗機、アードラーを示す青色のマーカーがこの前方に存在している。
無数のフェイス反応に囲まれ、その状況は決して楽観視出来ないが、まだ健在だ。
内藤自身も、自分達のリーダーで最も頼りになる男が簡単に墜とされる事はないと信じてやまない。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:46:11.46 ID:TpNVs4gD0

( ^ω^)「……他の反応は?」

さらにレーダーを目で追い、他の機体の反応を確かめる。
赤と紫、先ほど別れたジョルジュとハインリッヒの機体のマーカーは確認出来た。
撃墜されたプギャーの機体を示すオレンジのマーカーは当然確認出来ない。

そして──

(;^ω^)「黒は……?」

もう一機、この戦場に存在するはずの内藤の僚機を示す最後の一機のマーカーが確認出来ない。

(;^ω^)「チッ──またッ!」

ブレードを振り下ろし、爆散させたフェイスの背後からさらに無数の触手がシュトルヒ目掛け接近する。
内藤は回避を諦め、そのまま加速し、両肩にあるシールドを展開させ触手をいなす。

再度ブレードを跳ね上げ、別の触手を斬り墜し、最前列のフェイスにブレードを振るう。

(#^ω^)「次ッ──っと!?」

敢え無く消え去ったフェイスの先には、同様にコアを斬られ、消えて逝く複数のフェイスの姿があった。
その中央には霧散するフェイスの残骸とは逆に、徐々にその形を明らかにする黒い機体が一機。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:48:26.20 ID:TpNVs4gD0

('A`)「お前、何でこっち来てんの?」

( ^ω^)「ドクオさん! 司令部から状況聞いてないですかお?」

内藤の下に落ち着いたというよりは、覇気を欠いた無気力な声が通信機越しに届く。
内藤同様、SAシリーズの搭乗者であるドクオは、その声に似つかわしい覇気のない表情で、聞いてないという短い言葉を返し、
再び機体を透過させる。

いつの間にかレーダーに映っていた黒いマーカーはドクオの機体、クレーエが姿を消すと同時に表示されなくなった。

(;^ω^)「ちょ、説明聞いてから消えてくださいお!」

ドクオの機体、クレーエは隠密行動を前提として設計されており、他のSAシリーズとは一線を画している。
元は光学迷彩とジャマーによる目視、レーダー共に外す様に作られていたが、そのどちらも使用せず、セイクリッド反応自体を追う
フェイス相手ではそれはあまり意味を成さない。

故に現在は、セイクリッドを機体の周囲に薄く広く散布する事により、フェイスからの攻撃を分散させるミラージュと呼ばれる
システムを使用している。
したがって、フェイスを相手にする時は、光学迷彩で姿を消す行為はあまり意味がない。
本人の言では、気分、という事だった。

クレーエのミラージュ展開時は、通信は遮断され、レーダーにも映らなくなる故、同士討ちの危険性もあるのだが、
その辺りはそんなヘマをする程ヘボではないと言う本人の言葉に皆頷いて、好きにさせている。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:51:06.69 ID:TpNVs4gD0

('A`)「おっと……、で、どういう状況なんだって?」

内藤の叫びが聞こえたはずはないのだが、ドクオは再びミラージュを解除し、その姿を現す。
襲い来る触手の群れを、両手首の内側から伸びる直刀の刃で斬り刻みながら内藤に説明を促す。

(;^ω^)「斯々然々! んで、クラックは見つかりましたかお?」

('A`)「……なるほど。いや、まだだ」

指令は聞いていないと言うドクオだったが、本来ならば最左翼に位置していたはずのドクオがここまで中央に寄っているのだ。
聞かずとも、状況は漠然と把握していたのだろう。

('A`)「ま、確かにおかしいな。数も多過ぎる」

クレーエの長い両腕を広げ、機体を高速で独楽の様に回転させながらフェイスの群れに突っ込むドクオ。
機体のバランサーが働いてるとは言え、よくも酔わないものだと、いつもながら内藤は感心せざるを得ない。

(;^ω^)(どこのゲルマン忍者だお……)

淡々と、的確にフェイスを斬り墜していく様は、極めて冷静に任務をこなす軍人のそれだが、
だがドクオは軍人等には程遠い、これまで家事手伝い、もっと言うならば引き篭もりと呼ばれる生き方をしていた。

逆に言えばドクオはこの戦いを、クレーエを駆り、フェイスを墜とす事をどこかゲームの様な感覚で受け止めているからこそ、
この空で戦えているのかもしれない。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:53:33.29 ID:TpNVs4gD0

('A`)「スコアカンストしそうだな。帰ったらもう一個桁増やしてもらうか……」

冗談とも本気とも付かない呟きを残し、ドクオはさらに機体を前進させる。
内藤もそれを追い、ドクオの邪魔にならない程度の距離を開け、シュトルヒを併走させる。

('A`)「先に行け。その話だと、ギコさんがヤバいんだろ?」

クレーエ、シュトルヒ共にその機動力に大差はないが、ミラージュを展開するクレーエは、足を止めて戦う方が向いている。
加えて、クレーエより装甲が厚く、両肩にシールドを備えている分、突破力はシュトルヒの方が優れている。

( ^ω^)「了解ですお!」

既に何度も共に戦った相手だ。
各々の性質、そして役割は十分に理解している。
内藤は何の躊躇いもなく、この場をドクオに任せる事に決めた。

('A`)「俺もここいらを殲滅させたらすぐ向かう」

その言葉を最後に、再びクレーエの姿を消すドクオ。
内藤は再び機体を加速させ、一直線にギコの下に向かう。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:56:18.64 ID:TpNVs4gD0

(#^ω^)「ギコさん! 聞こえてますかおーッ!?」

再び通信機に向けて怒鳴る内藤。
フェイス自体が天然のジャマーの様な存在だ。
固定施設である司令部とは違い、引っ切り無しに動いているはずのアードラーに通信が届くにはフェイスの数が多過ぎるのかもしれない。

(;^ω^)「保つかお……!?」

三本縦に並んで襲って来た触手をブレードで一薙ぎにし、コンソールを確認する。
機体の強度、搭乗者の身体、長期戦になると様々な物が悲鳴を上げる。

そしてセイクリッド。
いくら低燃費とはいえ、無限に使えるわけではない。
使い続ければいずれ尽きる。

セイクリッドが尽きてしまえば現在シュトルヒの手にある高周波ブレードも、ただの鋼鉄の棒と化し、フェイスを簡単に墜とす事は難しくなる。
そして機体自身のセイクリッドが尽きれば、後はただ何も出来ず死を待つのみだ。

そうなる前に島に戻り、補給を受ける必要が出て来る。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 22:58:12.42 ID:TpNVs4gD0

だが、今内藤が心配しているのは自分の機体の話ではない。
最後尾でセイクリッドをさして消費せず、結果的に温存されていた形の内藤のシュトルヒはまだ十分のセイクリッドを残している。
内藤が危惧するのは自分ではなく──

(#^ω^)「ギコさんッ! 出力落とせお! 上げ過ぎだお!」

近付くにつれ、ようやく視認出来たギコの機体、アードラーは目視で確認出来るほどの白い粒子を全身に纏っていた。
背のメインエンジンのみならず、各スラスター、接合部からセイクリッドの粒子が溢れ出している。

(,,゚Д゚)「内藤か……このまま戦線を押し上げるぞ」

(;^ω^)「ちょ、人の話聞いてますか、ギコさん? フォローするんで出力下げてください! 持ちませんよ!?」

野太い声に相応しい厳しい顔の男がシュトルヒのモニターに映る。
内藤達SA部隊のリーダー、ギコは、焦る内藤とは対照的に落ち着いた声音で作戦を告げる。
その表情に疲労の色が濃く見えるが、未だ持って眼だけは確固たる意思を持つ強い光を放っている。

(,,゚Д゚)「いいから聞け、大丈夫だ、直にこの戦闘は終わる」

(;^ω^)「しかし──」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:00:11.27 ID:TpNVs4gD0

(,,゚Д゚)「第一次防衛ライン近辺にクラックはある」

(;^ω^)「見つけたんですかお!?」

咄嗟にレーダーを覗き見るが、まだクラック・ポイントのマーカーは表示されていない。
大量のフェイスに囲まれた状態だったギコが、まだその位置情報を各機に送信していなくても仕方がない状況ではある。

(,,゚Д゚)「ああ、だからこの戦闘はもう終わるんだ。いや、俺達が──」

( ^ω^)「終わらせますお!」

静かながら力あるギコの言葉に、内藤は同じく力強く答える。
ようやく見えた希望に、長時間の戦闘で疲弊した身体に活力が戻る。

そんな内藤の様子を見たギコは、現金なものだと呆れるではなく、どこか慈しむ様な本人にしては柔らかい笑みを浮かべた。
内藤はそんなギコの様子には気付かず、シュトルヒを急降下させる。

(#^ω^)「おぉぉぉぉッ!!!」

アードラーの下方から狙いを付けていたフェイスに向かいシュトルヒを突進させる。
ブレードを両手で持ち、横に構えたまま次々とフェイスを斬り裂き、爆散させる。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:02:21.98 ID:TpNVs4gD0

(,,゚Д゚)「よし、このままあと10km、こいつらを連れてランデブーだ」

( ^ω^)「了解! ……でも、こいつらとランデブーは正直勘弁願いたいとこですお」

(,,゚Д゚)「全くだ──しかしッ!」

ギコはアードラーを急上昇させ、纏わり付いていたフェイスを引き剥がす。
白く立ち込めるセイクリッドの奔流に、内藤が何も気付けなかったのは仕方がない話かもしれない。

(,,゚Д゚)「こいつらを墜とさなければ、俺達の島は守れない!」

一閃。

ギコはアードラーを降下させ、右手のポールウェポン、長大な両刃斧型のセイクリッド・アックスを薙ぎ払う。
刃のみならず柄の部分からも薄く噴出するセイクリッドと武器そのものの硬度が加わり、
その軌跡に触れたフェイスは音もなく弾け飛ぶ。

(#^ω^)「僕達が、島を守るんだお!!!」

ギコの言葉に呼応するかの如く、内藤は吼え、ブレードを片手に縦横無尽に空を駆ける。
いくつものフェイスが透明の煌きを放ち、空に消えた。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:03:41.94 ID:TpNVs4gD0


島を守る。


それが彼らの目的。
それが彼らの生きる為の術。


彼らが拠点とするVIP島。
わずか二十数平方キロメートル四方の小さな島。


来るべき有事に備え、在りし日の日本という国が本土防衛の為、秘密裏に建設した基地の一つ。


この国最後の防衛拠点。
この国最後の人々が生きる場所。



そして内藤達が帰れる唯一の場所でもある。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:05:17.45 ID:TpNVs4gD0

(,,゚Д゚)「あと5kmだ──」

内藤の援護を受け、ギコはアードラーを加速させる。
群がるフェイスを次々と叩き斬るものの、果てることなくフェイスはその手を伸ばし続ける。

(#^ω^)「ようやく半分かお。しかし、多過ぎじゃないですかお?」

先ほどから内藤は何度となく、今回のフェイスの異常さを訴えるが、ギコは思う所があるのか、それには何も言わず、
ただ今は進めとだけ内藤に告げる。
どんな事態であれ、自分達がやるべき事は変わらないという事をよく理解しているだけかもしれない。

(,,゚Д゚)「どけッ!」

アードラーは両手でセイクリッド・アックスを頭上に振りかぶる。
そのまま得物を回転させ、群がるフェイスを巻き込みながら急上昇をかける。

( ^ω^)「こっちも行くお!」

内藤はシュトルヒを上昇したギコを追う様に加速させる。
運良くギコの斬撃を逃れたフェイスを斬り墜しながら後に続く。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:07:13.11 ID:TpNVs4gD0

現在、フェイスはよりセイクリッド反応の強いギコのアードラーを優先的に狙って来ているので、
内藤の方には比較的危険が少ない。
合流出来た事だし、後は共に前進するのみなのだからギコに出力を落とす様に告げたが、ギコは大丈夫だと
答えになっていない答えを返した。

(,,゚Д゚)「もうすぐだからこのまま行く」

(;^ω^)「しかし──」

(,,゚Д゚)「それに──ようやく来たか」

(;^ω^)「!」

空から白い一筋の光が走り、内藤の右前方に集まっていたフェイスが霧散する。

上空からの狙撃。
その機体の名が示す通り、遙か高高度からのレルヒェのセイクリッド・ライフルが内藤達二人を援護する。

( ^ω^)「ハインさん!」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:09:13.19 ID:TpNVs4gD0

从 ゚∀从「あいよ、お待たせ──!」

続けざまに一筋、二筋。
ハインリッヒがトリガーを引く度に上空から降り注ぐ光に、フェイスは成すすべなく消えて逝く。

同時に内藤の左前方に見慣れた白い光の軌跡が描かれ、フェイスに覆われていた空が蒼い輝きを取り戻す。
  _
( ゚∀゚)「わりぃ、この俺様ともあろう者が遅くなった」

モニターに映る陽気な、そして頼もしい顔。
ジョルジュとハインリッヒの二人は後方の敵を殲滅し、内藤達に合流して来た。

(,,゚Д゚)「おせーぞ、お前ら?」

从 ゚∀从「おいおい、おっさんがちゃんとこいつら止めてねーから手間取ったんじゃねーか」
  _
( ゚∀゚)「こらこら、おっさんはもう若くねーんだからあんま無茶言ってやるな、妹よ」

(,,゚Д゚)「吐かせ、ガキ共が」

( ^ω^)「おーい、おじ様方? 今は戦闘中ですお?」
  _
( ゚∀゚)「俺をおっさんと一緒にすんな、このガキンチョが」

从 ゚∀从「ほう、内藤よ、アタシを年寄り扱いたぁ良い度胸だな」

('A`)「やれやれ、元気な事で……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:11:07.45 ID:TpNVs4gD0

いつの間にか後方のフェイスを討ち果たし、忍び寄っていたクレーエがミラージュを解き、姿を見せる。
戦場という場に不釣合いなやり取りに呆れた様に呟くが、そのドクオも親しい人が見ればそれとわかる程度には
頬を緩めていた。

(,,゚Д゚)「よし、揃ったな」

从 ゚∀从「おんや、ドックン、随分と重役出勤ですな」

('A`)「ドックンと呼ぶな、女装ジョルジュ」

从#゚д从「あ? 今なんつった? もう一遍言ってみろや?」
  _
( ゚∀゚)「何故妹が怒り有頂天なのかわからない件」

( ^ω^)「そりゃ嫌でしょうから」
  _
( ゚∀゚)「あれ、そうなの? この超絶イケメンの俺様が女装したら問題なくイケてね?」

('A`)「帰ったら鏡という真実の扉を開くアイテムをプレゼントするよ」

( ^ω^)「あれ? ドクオさん家、鏡ありましたっけ?」

('A`)「……今の家に入った時全部割った」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:13:54.19 ID:TpNVs4gD0
  _
( ゚∀゚)「現実って時に残酷だからな」

从#゚д从「んなこといいから、さっきの発言取り消しやがれ、この顔面──」

从 ゚−从「あ、ごめん、顔の事は流石に人として触れちゃダメだよね、悪かった」

('A`)「時にやさしさが僕を切り刻む。鬱だ、死のう……」

(#,,゚Д゚)「お前らその辺にしとけよ」

内藤達が軽口を叩き合う最中にも、フェイスの攻撃は止む事はなく続いていた。

しかし──

ジョルジュのシュヴァルベがフェイスを斬り裂く。

ハインリッヒのレルヒェがフェイスを撃ち貫く。

ドクオのクレーエがフェイスを寸断する。

ギコのアードラーがフェイスを粉砕する。

内藤のシュトルヒがフェイスを薙ぎ払う。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:16:06.23 ID:TpNVs4gD0

(,,゚Д゚)「……」

頼もしい仲間だ。
緊張感のないやり取りに悪態は吐いたものの、それもお互いの信頼の証。
これ以上ない素晴らしき戦友達の姿に、彼らをこれまで指揮してきたギコは、自然と笑みがこぼれるのを感じていた。

(,,゚Д゚)「これなら……大丈夫だよな……」

( ^ω^)「お? ギコさん、何か言いましたかお?」

開きっ放しの回線から、先のギコの呟きは意図せずして内藤に届いてしまっていた様だった。
モニターに映る、人懐っこい表情を浮かべる少年、内藤ホライゾン。
運命の女神の残酷な悪戯が、内藤がシュトルヒに乗る事を余儀なくした。

当初は悩み、泣き、怒り、戦闘が終わる度に有らん限りの感情を爆発させていた内藤。
根がやさしい男だった。
やさし過ぎると言ってもいいくらいに。

そんな内藤が、ましてやまだ十代の子供が戦場に立ち、生きる為に戦う事になったのだ。
途中で捻じ曲がり、潰れてしまってもおかしくなかった。

(,,゚Д゚)「……」

( ^ω^)「お?」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:18:08.07 ID:TpNVs4gD0

しかし内藤は、運命に真っ向から立ち向かった。
己が戦う意味を見つけた。
この世界で生きる意味を見つけた。

戦士として、人として限りなく成長したのだ。

ずっと内藤と共に同じ戦場に立ち、その成長を間近で見守って来たギコには感慨深いものがあった。
この戦いの始まる前から身寄りのない、家族のいない内藤。
この戦いで内藤と同じ境遇になったギコ。

内藤より一回り以上年上のギコが、その姿に失くした家族を重ねる事は自然な流れだったのかもしれない。

(,,゚Д゚)「……いや、いつ見ても緊張感のない面だなと」

(;^ω^)「おぉ!? ギコしゃん、なんば言いよっとですかお?」
  _
( ゚∀゚)「それには同意せざるを得ない」

从 ゚∀从「ミスター・丸ぽちゃ」

('A`)「癒し系男子(笑)」

(#^ω^)「お前ら……ちょっと表出ろお」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:20:16.91 ID:TpNVs4gD0

尚も騒ぐ面々に目を細め、ギコは前面のメインモニターに視線を戻す。
彼らは戦いを楽しんでいるわけでは決してない。
しかし、人として生きる事を忘れない為には、こんな場面でも笑える強さが必要なのかもしれない。

多くの生命が失われていったこの空を駆ける為には。

(,,゚Д゚)「……行くぞ」

静かに、そしてギコは力強く言い放つ。
通信機の向こう側の面々はそれぞれ了承の意を返す。
その顔からは先ほどまでの弛緩した表情は一瞬にして消え去っていた。

('A`)「あと2km」
  _
( ゚∀゚)「先行するぜ!」

从 ゚∀从「内藤、左翼に回れ。アタシが右だ」

( ^ω^)「了解ですお!」

(,,゚Д゚)「……頼むぞ、お前ら」

陣形を変え、ギコのアードラーが全員の中央、最後尾に位置する。
後方支援に向く機体とは言い難いが、ギコの機体の消耗度を全員が察して内藤達は自発的に動いた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:22:22.98 ID:TpNVs4gD0

(,,-Д゚)「……ッ……あと少し──」
.  _
(#゚∀゚)「うぉぉぉぉらぁぁぁッ!!!」

从#゚∀从「墜ちやがれッ!!!」

('A`)「──消えろ」

(#^ω^)「はぁぁぁぁッ!!!」

裂帛の気合をその身に込め、視界に入るフェイスをことごとく撃ち墜して行く内藤達。
目標地点まであとわずか。
はっきりとした形で見える希望が彼らに力を与える。
  _
( ゚∀゚)「見えた!」

('A`)「クラック・ポイント確認……ポイント測定……送信」

最も前方に位置していたジョルジュがフェイスの出現地点、クラック・ポイントの発見を告げる。
随行していたドクオが素早くその位置を測定し、全員の機体に正確な位置情報を送る。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:24:23.13 ID:TpNVs4gD0

从;゚∀从「……こちらも確認した……おい、おっさん、これはどういうことだ?」

(;^ω^)「こちらも確認しました……けど……これって……」

右翼のハインリッヒ、左翼の内藤も同様の作業を行う。
それぞれの機体にクラック・ポイントの位置を送信、レーダーには3つの黄色い特徴的なマークが浮かび上がる。
 _
(;゚∀゚)「おいおいおい、こりゃどういうこった?」

(;'A`)「クラックが三ヶ所……?」

(;^ω^)「ギコさん!?」

(,,゚Д゚)「ああ、見ての通りだ」

落ち着いた声でギコが見たままの状況の肯定を告げる。
クラック・ポイントが三ヶ所。
これまでの戦いでは常にクラック・ポイントは1ヶ所しか存在しなかった。

だがしかし、フェイスもただ漫然と侵攻するのではなく、これまでにも幾度か変化、進化とも呼べる様変わりを見せて来た。
この空で何が起きようとも不思議はないと、内藤達はよく理解しているはずだった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:26:09.39 ID:TpNVs4gD0
 _
(;゚∀゚)「三ヶ所だと……」

(;'A`)「……どうするんだ?」

从#゚∀从「どうもこうもねえだろ!?」

想定外の状況にたじろぐ兄を一喝し、ハインリッヒはレルヒェを加速させる。

从#゚∀从「いつも通り! いつも通りが掛けるの三だ!!!」

そう言うや否や、上空からセイクリッド・ライフルでクラック・ポイントを狙撃する。
光の帯は一直線にクラック・ポイントへ向かうが、その前に立ちはだかるフェイスの周辺の大気が震え、ライフルの一撃は
大きく逸らされる。

从;゚∀从「んなっ!?」
 _
(;゚∀゚)「いや、そこはいつも通りじゃん」

(;'A`)「遠距離からの射撃は効かないのはわかってるよな?」

クラック・ポイントの周辺に、他のフェイスとは異なり全く動かない、全体的に赤みが強いフェイスがそれぞれ三体。
内藤達がガーダーと呼ぶフェイスが、クラック・ポイントへの狙撃を阻害した。

ガーダーは音を発し、その振動で障壁を作り、クラック・ポイントへの攻撃を防ぐ役割を担っている。
故にクラック・ポイントを破壊する為には、まず三体のガーダーを墜とす必要がある。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:29:01.11 ID:TpNVs4gD0

从;゚∀从「う、うっせえ、ちょっとド忘れしただけじゃねーか!」

(;^ω^)「……」

口ではそう言うものの、ハインリッヒも兄同様、かなりの狼狽している事実が先の様な軽率な行動に繋がったのだろう。
内藤はそう思いはしたものの、敢えて口にはせず、事態の突破口を必死に考える。

(;^ω^)(三ヶ所になったとはいえ、クラックはクラックだお)

ハインリッヒが言う様に、いつも通り、シュヴァルベとシュトルヒが突っ込み、レルヒェとクレーエが周りのフェイスを
墜しながらサポート、そしてアードラーがガーダーを撃ち砕けば済む事だ。

(;^ω^)「ギコさん……」

(,,゚Д゚)「……」

だが、三ヶ所クラックがあるという事は、そこから出現するフェイスの量も三倍という事だ。
今回の戦いで、フェイスの量がこれまでにないほどの量だったわけはこれで説明がついたが、この場に置いてもそれだけの
量のフェイスを相手にするという事は、サポートの手が足りなくなる事は目に見えている。

いつも通り突っ込む事は軽率過ぎる行動で、下手をすれば全滅しかねないだろう。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:32:51.09 ID:TpNVs4gD0
 _
(;゚∀゚)「……ま、やるしかねーんだ」

すぐに気を持ち直し、覚悟を決めたジョルジュの発言で全員に緊張が走る。
確かに内藤達に出来る事は限られている。
こうやって考えている間にもフェイスは無尽蔵に湧き出し、こちらの消耗が激しくなる。

だが……

(;^ω^)「危険ですお! 何かしら、策がないと──」

('A`)「ないだろ、何も?」

同じく意を決したらしいドクオが、内藤の言葉を即座に否定する。
その判断は正しいと内藤も頭ではわかっているが、無策でこの場を乗り切れるとは到底思えない。

(;^ω^)「ですが──」

内藤達に失敗は許されない。
ここで全滅すれば内藤達は己が生命だけではなく、その背に守る島の全ての人々の生命も失うのだ。
己が守りたいものの為、内藤達は是が非でもこの戦いに勝ち、生き残らねばならない。

从 -∀从「待っててもジリ貧だ。アタシも突っ込む。まず一つ、全員で墜とせば何とか──」

遙か上空からレルヒェが降下してくる。
言葉通り、周りのフェイスは無視で全員で一塊となって突貫するつもりなのだろう。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:35:16.94 ID:TpNVs4gD0

(;^ω^)「……やるしか……ないのか?」

間断なく襲い掛かるフェイスを斬り墜しながら、内藤もそれしかないと判断しせざるを得なかった。
手が届く寸前で儚く消え去った希望に、疲弊した身体は一気に重さを増す。
頬を伝う汗が嫌な熱を帯びるが、身体は逆に身震いするほどの寒さを感じた。

その寒気の正体を内藤は理解していたが、頭を振り、スロットルレバーを握り直し覚悟を決める。

( ^ω^)「行きましょう!」
  _
( ゚∀゚)「うっし、一丁やるか!」

('A`)「……ああ」

从 ゚∀从「お前らヘマすんなよ?」

(,,゚Д゚)「……」

気を吐き、自らを鼓舞する内藤達。
なけなしの気力を振り絞り、心を奮い立たせ目標を見据える。

そんな内藤達の姿を、この場での最終的な決断を下すべき任を負ったギコは何も言わず、しかしわずかに
満足げな表情を浮かべていたが、内藤達は誰一人そんなギコの様子に気付かなかった。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:38:20.71 ID:TpNVs4gD0

( ^ω^)「ギコさん!」

(,,゚Д゚)「……駄目だ」

命令の決定を促した内藤の言葉をギコは軽く首を振り、否認した。
思ってもみなかったギコの反応に、次の言葉を継げずにいる内藤に代わり、ジョルジュが軽い調子で割って入る。
  _
( ゚∀゚)「ああん? おっさん、寝ぼけてんのか?」

ジョルジュのシュヴァルベが翼を大きく展開させる。

从 ゚∀从「おいおい、おっさんよぉ、のんびりしてる時間はねーだろが?」

ハインリッヒのレルヒェが銃身を上げる。

('A`)「他に手もない」

ドクオのクレーエが両刃を合わせる。

そんな皆の様子に、内藤は一つ頷き、再度ギコに問う。

( ^ω^)「ギコさん! 行きましょう!」

そしてシュトルヒのブレードを正眼に構え、いつでも突撃出来る様、姿勢を固める。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:40:21.86 ID:TpNVs4gD0

(,,゚Д゚)「駄目だ」

(;^ω^)「ギコさん!?」

(,,゚Д゚)「全機この場から離脱。──セイクリッド・サークルを使う」
 _
(;゚∀゚)「──んな!?」

从;゚−从「!?」

(;'A`)「……え?」

(;^ω^)「な──!?」

ギコは普段と何ら変わる事のない、勤めて平静な口調で作戦を告げる。
対照的に他の面々は一様に驚愕し、二の句を継げずにいた。

(,,゚Д゚)「聞こえたか? 全機この場から早急に離れろ。……後は俺がやる。それでこの戦いは仕舞いだ」

再び同じ口調でギコは作戦を告げる。
怒鳴らずともよく響く、落ち着いた静かな声音で。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:42:41.74 ID:TpNVs4gD0

わずかな間の後、ようやく我に返った内藤は、若干声を震わせながらギコにその真意を問う。

(;^ω^)「ど、どういうことですかお!?」

(,,-Д゚)「……腹を……やられた」

そう言ってギコは、アードラーの腹部を指す。
セイクリッドの粒子が一際強く噴出している箇所、アードラー腹部の装甲は大きく裂け、内部の機器が露出していた。
その爪跡は、腹部にあるコックピットにまで達し、アードラーと同じくギコの腹部にも深々と突き刺さっていた。

(;^ω^)「い、今すぐ戻って治療を!」

(,,-Д゚)「……もう遅い。それに、この場を放棄して戻れるわけがないだろ?」
 _
(;゚∀゚)「ふざけんなッ! だからって──」

(,,゚Д゚)「他に手はあるか?」

この場を離れ、島に戻るならばギコ単機でも戻れるかもしれない。
だがそうすると、現在五機でも攻めあぐねているこの場を残された四機で攻略せねばならなくなる。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:44:55.97 ID:TpNVs4gD0

(;'A`)「た、戦える人間が減る事は、今の俺達にとって途轍もない痛手に──」

ただこの場の戦術的話だけでは説得出来ないと踏んだドクオは、大局的に見た今後の話を持ち出し、ギコを止めようとした。

(,,゚Д゚)「運良くこの傷で一生命を取り留めたとしても、治るまでどのくらいかかる?」

治ったとしても、再び戦える身体でいられるかわからない。
避けた腹、折れた脚、歪む視界。
既に気力だけで意識を保っている様な状態だ。

(;'A`)「で、ですけど、機体は──」

(,,゚Д゚)「誰が乗る? いや、誰をこの地獄の様な空に飛ばせたいんだ?」

(;'A`)「──ッ!」

誰かが戦わなければ島は守れない。
島を守るため、自分達はこの過酷な空で戦っている。

いくつもの生命が消えた空。
それがいつ自分の生命に変わっても不思議はない空。

この空で戦う事を知っているからこそ、思い浮かぶ穏やかな笑顔に、この苦しみを分け与えようとは絶対に思えない。

それに、戦える人間自体がいないからこそ、内藤の様な少年までもが戦っているのだ。
元より選べる選択肢ではない事は十分理解している。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:47:07.19 ID:TpNVs4gD0

从#゚∀从「──てめえ、最初ッからそのつもりだったな?」

(,,゚Д゚)「……」

激昂し、アードラーに詰め寄るハインリッヒのレルヒェ。
その怒りの大半は、アードラーの損傷とギコの決意に気付けなかった自分にも向けられている。

从#゚∀从「島がセイクリッド・サークルの効果範囲に入らない地点まで戦線を上げた、そうだな?」
 
(,,-Д-)「……フッ、流石だな。これからはお前が指揮を取れ。ジョルジュよりはお前の方が頭が良いしな」

从#゚∀从「てめえ、自分が何言ってんのかわかってんのか?」
 
(,,゚Д゚)「……ああ、わかってるさ」

当然ギコはわかっている。
自分の言葉の意味を。
セイクリッド・サークルを使う事の意味を。

(,,゚Д゚)「俺がこれ以上戦えない事も、これが一番、被害が少なくて済むという事も」
 
从;゚−从「クッ──」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/16(木) 23:49:08.73 ID:TpNVs4gD0

セイクリッド・サークル。
発動点から半径約20kmにも及ぶ爆発を引き起こす、言うなれば強化型のセイクリッド爆弾だ。
その威力も内藤が使ったそれと比べると桁違いに大きい。

既にこの世界からは全廃された核爆弾のそれに近い存在だ。
この近辺のフェイスのみならず、ガーダー諸共クラック・ポイント一掃するには十分過ぎる威力を持つ。

ならば何故、それほどまでに有効な兵器であるセイクリッド・サークルを使わなかったのか。

答えは簡単だ。

(,,゚Д゚)「俺はここまでだ。すまない、後は頼んだ」

セイクリッド・サークル等という装備は公には存在しない。

あるのはただの機体のオーバーロード。


とどのつまりは自爆だ。


円形に広がる光から、内藤達がそう呼んでいるに過ぎない。
戦場で最も聞きたくない、隠語の類だ。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:07:11.88 ID:8TcP/biJ0

(;^ω^)「ギコさん! 待ってくださいお!」
 _
(;゚∀゚)「まだだ! まだ他に手が──!」

(;'A`)「ギコさん!」

从;゚−从「……何でだよ」

(,,゚Д゚)「……守る為さ」

島を守る為。
皆が生き残る為。

ギコは、己が置かれた状況を的確に分析し、その為に最も適した手段を選んだに過ぎない。

(;^ω^)「でも……、でもッ!!!」

尚も食い下がる内藤だが、共に戦場を駆け抜けたギコの決意が揺らぐ事がないのは頭のどこかでわかってしまっている。
それでも何かを言わなければ、縋らなければ、仲間を失う事に耐えられない。
それが戦争なのだと、割り切る事など出来ないのだ。

(,,゚Д゚)「内藤……強くなったな」

( ^ω^)「……え?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:09:32.65 ID:8TcP/biJ0

仲間の死に戦場だろうがどこだろうが涙して、震え上がっていた幼い少年はもうどこにもいない。
ここにいるのは、戦士の目で、仲間を必死に守ろうとする勇敢な男だ。
これなら大丈夫、後を託すに十分に足るとギコは軽い安堵の笑みを浮かべ、内藤を見る。

(,,゚Д゚)「島を頼む」

( ^ω^)「!!!」

(,,゚Д゚)「メインエンジン、ロック解除、コントロールをセミオートからマニュアルに」

『照合── Accept ──』

ギコの声に呼応し、機械的な音声と共にアードラーのコンソールからキーボードが迫り出して来る。

セイクリッドを暴走させるには、手動ないしプログラムにより意図的に活性化させる必要がある。
通常、制御システムにより一切の暴走は起こさないよう制御されているが、それをカットする事により、
手動で暴走を引き起こすことが出来る。

セイクリッド・サークルは公のものではない。
搭乗者達が自分達の判断で使用を決めたものだ。

しかし、制御システムをオフに出来る手段が実装されている事自体が、セイクリッド・サークルの存在を
公が認めらているようなものかもしれない。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:12:24.15 ID:8TcP/biJ0

(;^ω^)「ギコさんッ!」

(,,゚Д゚)「全機、この場より急速離脱。以降の指揮はSA03に委譲」

(;^ω^)「ギコさんッ!!!」

从; −从「全機……撤退……」

(;^ω^)「は、ハインさん!?」

後事を託されたハインリッヒの声が重々しく通信機から響く。
その表情は、当人が滅多に被ることのないヘルメットのバイザーに隠れて窺い知れない。

(; A )「SA05、了解……」
.  _
(#゚∀゚)「ドチクショォォォォ!!! SA02! 了解!!!」

立て続けに二つの声がシュトルヒの内部に響き渡る。
一つは重々しく沈んだ、もう一つは猛々しく怒りに溢れた声が。

(,,゚Д゚)「行け、内藤!」
 
(; ω )「ギ、ギコさん……」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:14:20.52 ID:8TcP/biJ0

(,,゚Д゚)「……」

(; ω )「……」

今まで、幾度となく仲間の死に直面して来た。
お互い戦場を駆ける身、明日は我が身なのだ。
死に対し、麻痺したかのごとく冷淡に向き合わなければこの空で戦い続ける事など出来なかった。

しかし──

(,,゚Д゚)「……すまない」

お前のような心優しい少年を戦いに巻き込んでしまって。
これから先も、お前を戦いの中に置いてしまう事を。

(,,゚Д゚)「……そして、ありがとう」

これまで共に戦い、島を守ってくれて。
その笑顔で、人間らしさを忘れないでいさせてくれて。

ギコはそんな思いを込めて、二つの言葉を内藤に告げた。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:17:45.66 ID:8TcP/biJ0

(; ω )「……ギコさん」

(,,゚Д゚)「俺からの最後の命令だ。行け、内藤。行ってお前は島を守れ!」

(; ω )「──クッ」

最後の命令。
これを聞いてしまえば、もう二度と、この人からの命令は受けられなくなる。
ここが今生の別れとなるのだ。

それでも、内藤は──

( ^ω^)「SA07、了解! 全速でこの場を離脱します」

いつもの顔で、歯を食いしばりながらも笑顔でギコの最後の命令を受諾した。

(,,-Д-)「……フッ」

白い光の帯を残し、飛び去る四機の機影。
最高の仲間達は最後まで自分にとって最高の仲間でいてくれたことに感謝をしつつ、ギコは最終操作を始める。

残されたアードラーにフェイスは殺到するが、今更無理に墜とす必要はない。
あとは凌いで、セイクリッド・サークルを発動させるだけだ。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:20:56.98 ID:8TcP/biJ0

(,,゚Д゚)「最終コード確認」

『入力スタンバイ── CODE? ──』

(,,゚Д゚)「内藤……まだ聞こえるか?」

「──wwヘ√レwv──聞こえ──vwすお──」

既に遙か遠くまで離脱しつつある内藤のシュトルヒから、音声のみの通信が届く。
もうギコに命令する権限はない。
伝えるべき事は全て伝えた。

戦いの中で、日々の生活の中で、ギコは内藤に言うべき事は全て言ったつもりだった。

だが一つだけ、自分の事に関して一つだけ言っておかなければならない事があった。
伝えるべきか迷ったが、最後に少しだけ、わがままを言わせてもらおうとギコは思う。
部下である内藤にではなく、気の置けない友人で、家族当然だった内藤に。

(,,゚Д゚)「ブーン、あいつに……しぃに、約束を守れなくてすまないと伝えてくれ」

ギコは内藤を普段の呼び方、内藤の幼馴染が呼ぶあだ名で呼んだ。
上官ではなく、一人の友人として、そして家族として。

「──wヘ√レv──了─vw─いえ──わかりましたお!──wwヘ√レwv─」

(,,-Д-)「ありがとう」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:23:21.20 ID:8TcP/biJ0

(,,゚Д゚)「CODE──C・I・E・-・──」

激しさを増すフェイスの攻撃をいなしながら、ギコはアードラーをゆっくりと前進させる。
これから確実に向かうはずの死に、不思議と何の恐怖も感じなかった。

(,,゚Д゚)「──1・4・──」

誇れる生を貫いた。
素晴らしき仲間に後を託した。
やるべき事は全てやったのだ。

心残りがないわけでもない。
だが、これが自分の選んだ道なのだ。

(,,゚Д゚)「──1・0──」

『CODE── Accept ──』

機械的な言葉と共に、アードラーのメインエンジンが臨界点を無視し、活性化を促す。
振動音と共に、機体温度が上昇し、全身が白い光に包まれる。

(,,-Д-)「……先に逝く。……生きろよ」

既に全ての機能が暴走状態にあるアードラーの中で、ギコの最後の呟きは誰にも届く事はなく消える。
その刹那、空が白一色に染まり、轟音とともに全てが無に帰した。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:25:22.51 ID:8TcP/biJ0

空がその蒼さを取り戻すと共に、この戦いは終わりを告げた。

二つの尊い生命を吸った空は、戦いの前と同じ蒼さで内藤達を包む。

从 −从「SA03より司令部へ、目標の消滅を確認」

(゚、゚トソン「こちら司令部……状況を確認しました。残存機体は直ちに帰投してください」

事務的に告げるハインッリッヒに、サブオペレーターの一人、トソンの声が応じる。
唇を噛み締めたその表情は、全ての状況を理解した上で努めて事務的に振舞う強さが見て取れる。
その背後から聞こえるすすり泣く声は、もう一人のサブオペレーターであるミセリのものであろう。

('A`)「こちらSA05、残存フェイスの確認済ませた後に帰投する」

誰もが事務的に、己が役割をこなす。
島に帰り着くまではまだ戦士として振舞わなければならない。
死んでいった二人に恥ずかしくない様、その生命を無駄にしない様に。
  _
( ゚∀゚)「SA02、了解。俺が右な。ドクオ、反対側よろしく」

こんな世界でも強く誇り高く生きる為に。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:27:17.06 ID:8TcP/biJ0

( ^ω^)「SA07、了解しましたお。中央は僕が行きますお」

(゚、゚;トソン「内藤君は帰投した方が……」

( ^ω^)「大丈夫ですお。消耗度からいったらシュトルヒが一番軽いですお」

内藤は生きる。
生きる為にやるべき事をこなしていく。

生きる為にあるのが戦いだけだとしても。
その先に、何の希望が見えないとしても。

从 ゚∀从「んじゃ、アタシが上空から見て回るからさっさと終わらすか」

('A`)「ああ、そうしよう」
  _
( ゚∀゚)「うっし、おっさんがヘマしてねーか見て来るぜ!」

( ^ω^)「時々大ポカやらかしてましたからね、ギコさん」

从 ゚∀从「色々だらしなかったよな、あのおっさん」

('A`)「この間シャツのボタンがだんちでした」
  _
( ゚∀゚)「ジーンズの時はノーパン派だったらしいぜ?」

( ^ω^)「それ、ジョルジュさんの事じゃないですかお?」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/17(金) 00:30:57.79 ID:8TcP/biJ0

从#゚∀从「いや、それは履いとけよ。つーか、てめえ、アタシのジーンズに脚を通してねーだろな?」

('A`)「あれ、ジョルジュ、こないだの白いジーンズ──」
  _
( ゚∀゚)「てへッ」

从#゚∀从「てめえ、死ね! マジで死ね! つーか殺す! こっから撃ち抜いてやる!」

( ^ω^)「おー、ホントに撃ちおったお」

嘆き、悲しんだ所で死んだ者が生き返るわけではない。
生前の二人を知る内藤達は、自分達が重く沈んでしまう事を彼らが望んでいない事はよくわかっている。

だから内藤達は、いつも通りの自分達でこの空を駆ける。
例えこの中の誰が欠けようとも、戦い続けられる様に。

自分達が生きる為に。

そして──

( ^ω^)「この島を、守る為に」

内藤はまた、果てのない戦いに身を投じる。
内藤の乗るシュトルヒは、白い軌跡を描き、空にその身を躍らせた。



    ( ^ω^)は島を守るようです   終わり


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