( ^ω^)は島を守るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:45:19.28 ID:60f7X83c0
 
その日はあっさりとやって来てしまった。
今日を過ぎ、明日になれば脱出計画の最終準備の為、島の人間総出で準備にかからねばならない。
そしてその明日も過ぎると、明後日は島から脱出するその日になる。

だから今日が島での最後の普通の日という事になる。

( ^ω^)「普通の日って何だお……」

内藤ホライゾンは寝起きに不意に浮かんだ自問に、まだ覚め切ってない頭を回転させ、答えを探す。
この約1年と半年の間、島を守り戦いながら生きる事が普通の日であった。
しかしながら先ほど浮かんだ疑問は、恐らくその期間を指すものではないだろう。

多分、まだフェイスが現れる前の平和な日の事だ。

( ^ω^)「今だって普通の日はあるんだお」

フェイスの襲撃を退けてからしばらく、学校に通ったり馬鹿話をしたり、自分も年相応の普通の日を満喫していたはずだと
内藤は思う。
しかし同時に、いつも心のどこかで有事に備え、気を張り詰めていた事も事実だ。

( ^ω^)「……これからどうなるんだろうかお」

島から脱出する事により、これまでの日々からは大きく変わる事になる。
それが良い方に変るのならば諸手を挙げて賛成する。
しかし、どう変わるかは誰にもわからない。

わかっているのは、変えなければ自分達が生きられないという事だけだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:46:26.11 ID:60f7X83c0

( -ω-)「このままここにずっといられたらよかったのにね」

それが叶わない事である事は理解している。
自分達は最善の道を選び、その道を進む為に全力を尽くすべきだという事も。

( ^ω^)「起きるお!」

内藤は堂々巡りに入り、滅入るだけの思考を切り捨てて、自分を鼓舞するように宣言すると布団から飛び起きる。
今更同じ事で悩まない。
そう決めたのだ。

それに一旦島を捨てても、この戦いに勝利した暁にこの島へ戻って来る事も出来るのだ。
内藤は気持ちを前向きに切り替え、部屋を出て洗面所に向かう。
肌寒い季節ではあるが、敢えて水で顔を洗い、眠気をすっきりと落とす。

( ^ω^)「さて、どうするかお」

島での最後の普通の日という事ではあるが、今日は学校は休みである。
基地に勤める人間の一部は、今日も準備に取り掛かっているが、内藤達SAの搭乗者や子供達は基本的に今日は自由な時間を
与えられている。

( ^ω^)「何はともあれご飯にするお」

内藤は濡れた顔をタオルで拭い、そのタオルを首にかけたまま台所に続く扉を開けた。

从 ゚∀从「おう、おはよう。随分とのんびり寝てやがるな」

( ^ω^)「……」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:47:26.80 ID:60f7X83c0

最初はまだ寝ぼけているのかと思っていた。
しかしながら自分の眼前にいる微塵も似合わない薄いベージュのエプロンを着けたハインリッヒの姿と、食卓の上に並ぶ
料理らしき物は、何度目を擦ろうとも消える事はなかった。

( ^ω^)「何、この不法侵入者?」

从 ゚∀从「随分なご挨拶だな。人がちゃんと朝の挨拶してんだろうが。おはようございますはどうした?」

内藤は右手に持ったお玉で孫の手様に自分の肩を叩くハインリッヒを無視し、視線を食卓に向ける。

( ^ω^)「……どういう事だお?」

ξ゚听)ξ

内藤は食卓の椅子に無言で座るツンに向かい話しかけた。
ツンがここにいる事で、ハインリッヒがこの家に入り込めた理由の説明は付くが、ハインリッヒが朝食を作っているという
大惨事の説明は付いていない。

ξ--)ξ「さあね」

ツンは肩を竦め、すげなく答えるだけだ。
ここ最近、少しだけやつれたように見えるツンを気遣いながらも、内藤はツンに向かいもう1度理由を聞く。

ξ゚听)ξ「知らないわよ。私だって朝一からハインに引っ張り出されただけなんだから」

因果応報じゃないのと、ツンはまたもすげなく言葉を結んだ。

( ^ω^)「因果応報……」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:48:51.44 ID:60f7X83c0

恐らく、先日ハインリッヒをからかった事を言っているのだろう。
確かにからかいはしたが、あれは自分なりにハインリッヒを心配しての行動だったのだと内藤は思っている。
それに対し、この仕打ちはひど過ぎると内藤は力なく台所に崩れ落ちた。

从#゚∀从「おい、何でそんなに凹んでんだ? アタシがわざわざ朝ご飯を作ってやったってのによ?」

( ´ω`)「朝ご飯というのは1日の始まりを告げる大切な食事なんだお」

从 ゚∀从「ああ、それがどうした?」

( ´ω`)「その出鼻を挫かれると、1日中憂鬱な気持ちでいっぱいになるお」

从#゚∀从「ほほう、つまりはこのハインちゃんが作った朝ご飯が残念な出来だと?」

昨日の今日で何をわかりきった事をと内藤はくるりと後ろを向く。
そのままふらふらと台所を出ようとする内藤の肩を、ハインリッヒがむんずと掴んだ。

从#゚∀从「てめえ、どこ行くつもりだ?」

( ´ω`)「勿論、朝ご飯を食べに外にだお」

从#゚∀从「朝ご飯ならここにあるだろうが!」

ハインリッヒは怒鳴りながら内藤をツンの横に無理矢理座らせる。

( ´ω`)「おー……」

ξ゚听)ξ「……」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:49:40.11 ID:60f7X83c0

ちょっと待ってろと言い残し、ハインリッヒはコンロの方に向かう。
どうやら味噌汁らしき物を温め直しているようだと、諦めきった視線で内藤はそれを眺めていた。

从 ゚∀从「ほら食え。それ食え。遠慮なく食えよ」

( ´ω`)「お……」

にこやかに内藤とツンの前に味噌汁のお椀を置き、ハインリッヒは内藤の向かいの席に腰掛ける。
対照的に内藤は、この世の終わりの如く沈んだ顔のまま出されたお椀をただ見ていた。

从#゚∀从「いや、食えよ?」

ξ゚听)ξ「……いただきます」

( ´ω`)「お?」

ハインリッヒの執拗な押し付けを、断固として断るつもりであった内藤だが、あろう事か隣に座るツンがハインリッヒの
作った朝ご飯という名の化学兵器に箸を伸ばした。

(;゚ω゚)「ちょ、ツン!? 何やってんだお? それは口に入れていいものじゃないお! ぺッてしなさい、ぺッて!」

从#゚皿从「てめえ、何で朝ご飯が口に入れちゃ駄目なものなんだよ!」

(;゚ω゚)「これは朝ご飯じゃなくて化学兵器だお!」

ξ゚听)ξ「大丈夫よ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:51:03.06 ID:60f7X83c0

今にも一触即発の状況で言い争う2人の間に静かな声が割って入る。
内藤が声の主、ツンの方を見ると、ツンは極めて平静な顔で味噌汁を1口すすった。

(;^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「何の為に私がここにいたと思ってるのよ?」

(;^ω^)「お……」

ツンは内藤の前のお椀を指差す。
内藤はツンの顔色を窺いながら、恐る恐るお椀に手を伸ばし、ゆっくりと口をつけた。

( ^ω^)「……味噌汁の味がするお。少し何かじゃりっとするけど」

从#゚∀从「味噌汁なんだから味噌汁の味がするのは当たり前だろうが」

( ^ω^)「一昨日の不確定名、味噌汁らしき物は油の味しかしなかったお」

从;゚∀从「あれはあれだ。もう忘れろ!」

内藤は事の推移がわからず、ツンの方を見る。
ツンは溜息を1つ吐き、状況の説明を始めた。

かいつまんで話せば、ハインリッヒが一昨日のリベンジをしたかったからだという。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:52:23.02 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「自分だけでやっても失敗するだろうからって、私に手伝ってくれって朝っぱらから頼みに来たのよ」

( ^ω^)「それは賢明な判断だお。しかし、朝からすまんおね」

ξ--)ξ「今あんたに体調崩されるわけにもいかないしね」

( ^ω^)「全くだお。今戦えなくなるわけにはいかないお」

从 ゚∀从「何かさっきからすげー失礼な事言ってね?」

( ^ω^)「気の所為だお」

ξ゚听)ξ「気の所為よ」
.  _,
从 ゚∀从「……」

不満気な顔を見せるハインリッヒを余所に、内藤とツンは箸を動かす。
時折り切り損ないの野菜が目に付いたりはしたが、概ね味はまともな物であった。

( ^ω^)「ツンの料理の腕は改めてすごいと思うお」

从 ゚∀从「作ったのはアタシなんだが」

( ^ω^)「ハインにこれだけちゃんとしたものを作らせるられるのがすごいんだお」

从#゚∀从「ほほぅ……言うじゃねえか」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:53:41.57 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「まあ、味付けがアバウトなだけで筋は悪くなかったからね」

ハインリッヒはやんわりとなだめる様にフォローするツンに目を向ける。
本末転倒だとわかっているが、自分がそうせざるを得なかった理由もわかっていた。

敵わないし、叶わない。
そして何より自分もツンは気の合う友人で、妹の様に大切に思っているのだ。

( ^ω^)「ごちそうさまだお」

从 ゚∀从「……美味かったか?」

( ^ω^)「まあ、マシな方……美味かったお」

从 -∀从「……そっかそっか。ごちそうさん」

そう言ってハインリッヒは箸を置き、立ち上がる。
未だ着けたままであったエプロンを外し、小脇に抱える。

从 ゚∀从「んじゃ、リベンジもなった事だし、アタシは帰るわ。片付けはやっといてくれよ」

( ^ω^)「お? もう帰るのかお?」

ξ゚听)ξ「食後のお茶ぐらい飲んでいけば?」

从 ゚∀从「ありがたい申し出だが、アタシにも予定があってね」

今日の様な日に予定のない人間の方が珍しいだろ、とハインリッヒは言う。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:55:21.70 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「僕は特に予定ないお」

当然、脱出の為の準備、身支度等は必要なわけだが、1人身の内藤にはこれといって支度するような事もない。
精々自分の着替えぐらいだろう。
1人が船に持ち込める荷物の量も限られているし、ほとんどの物はここに置いていくしかないのだ。

从 ゚∀从「おいおい、島を自由に見て回れるのはもう、今日ぐらいしか残ってねーんだぜ?」

( ^ω^)「お……」

内藤は言葉に詰まり、視線を下げる。
心は決めたつもりでも、やはりまだ島を捨てる事を完全に受け入れられたわけではないのだ。

ξ゚听)ξ「ブーン……」

( ^ω^)「……そうだおね。ちょっと色々回ってくるかお」

内藤は心配そうな顔をするツンに向かい笑顔を見せて言った。
同じくハインリッヒの方にも笑顔を向け、ありがとうと礼を述べた。

从 -∀从「別に礼を言われるほどのこっちゃねーだろ」

そもそも礼を言いたいのはこっちの方なんだと続くはずの言葉は自身の中に止め、内藤に向かって平素のように少し馬鹿にした
ような笑みを浮かべる。

从 ゚∀从「ま、折角だから2人で色々見て回ってくるといいんじゃねーの?」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:56:36.82 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「お、そうだお──」

ξ゚听)ξ「私はすぐ基地に行くけど? まだ仕事が残ってるし」

(;^ω^)「最近ちょっと根詰めすぎじゃないかお?」

ξ--)ξ「大した事ないわよ。それに、仕方ないでしょ? もう時間はないんだし、やれる事はやっておかないと」

从 -∀从「もうここまで来りゃ、後は何やろうが大して変らねえし、腹括るしかないと思うんだがな」

ξ--)ξ「私が出来る事は、直前までの準備しかないの」

ξ゚听)ξ「それ以降はあんた達に託すしかないんだし、それまで万全を尽くしたいのよ」

( ^ω^)「ツン……」

ツンの言い分が正しいのは内藤にもよくわかる。
しかし、ハインリッヒの言う様に、残された短い時間で劇的に変る様な事もないだろうし、脱出の日に備えて体調を整える方が
有意義ではないかと思いもする。

从 ゚∀从「……無理すんじゃねーぞ」

ξ゚ー゚)ξ「無理はしないわ。自分に出来る事をやるだけよ」

( ^ω^)「……」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:58:05.06 ID:60f7X83c0

そう言って笑うツンを見ると、内藤は何も言えなくなった。
自分が同じ立場に立たされたら、最後は他人に任せるしかないとしたら、同じ様にその直前まで出来るだけの事をするはずだから。

( ^ω^)「んじゃ、基地まで送ってくお」

ξ゚听)ξ「別にいいわよ。あんたはゆっくり休んでなさいよ」

( ^ω^)「折角だから僕も基地の様子見に行くお」

ついでだから気にするなと言う内藤に、ツンは少し眉根をひそめる。
.  _,
从 ゚∀从(そこは送って行きたいからとか言えよな……)

ハインリッヒは内藤のデリカシーのなさに呆れながらも、少し微笑んでしまっていた。
もう少し時間があったら、もっと前に出会っていたら、そんな思いが胸をちくりと刺す。

从 ゚∀从「んじゃ、アタシは行くぜ? またな、お2人さん。仲良くケンカしろよ」

( ^ω^)「まただお。つか、ケンカ?」

ξ゚听)ξ「別に怒ってないわよ。またね、ハイン。朝食ご馳走さま」

ハインリッヒは2人の言葉に背を向けたまま片手を挙げて返す。
もう少しだけ、このゆっくりとした時間を楽しみたかったと思いはしたが、邪魔をするのも野暮だとハインリッヒは理解していた。

从 -∀从(アタシもブーンぐらい鈍かったらな……)

そんな思いを抱きながら、ハインリッヒは内藤の家を後にする。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 21:59:42.11 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「じゃあ、ちょっと食器片付けるから」

( ^ω^)「そのくらい僕がやるお?」

ξ゚听)ξ「いいから。それに、あんたも出かけるなら身支度ぐらいして来なさいよ」

ツンに押しやられるようにして台所から出た内藤は自分の部屋に戻る。
身支度と言われたが、特に支度する様な物もない。
明後日に控えた脱出の支度も既に済んでいる。

( ^ω^)「……」

手持ち無沙汰になった内藤は自分の部屋を見回した。
本土からこの島に戻って来て、約1年半あまりを過ごした部屋にはそれなりに愛着はある。
それ以前にも小学生時代まではこの部屋で暮らしてはいたが、これといって思い出もない。
ありふれた普通の部屋だと内藤は思う。

( ^ω^)「この部屋ももうすぐ見納めだおね」

島を捨てれば、恐らくフェイスの侵攻でこの辺りの建物は全て破壊されるだろう。
たとえここに戻って来れる機会が出来たとしても、その時にはこの家は残っていない。

そう思うと急に感慨深くなった内藤は、自分の部屋を出て、全ての部屋を見回る事にした。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:00:45.86 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

( ^ω^)「いや、ちょっと部屋を見てたんだお」

一通りの部屋をざっと見回った頃、台所から出て来たツンと出くわした。
ツンは内藤のその言葉と表情で、内藤の気持ちをすぐに察する事が出来た。

ξ゚−゚)ξ「私も、1週間前ぐらいに自分の家を隅々まで見回してきたわ」

( ^ω^)「お……」

ξ゚−゚)ξ「不思議な物よね。何の変哲もない家のはずだったんだけど、とてもかけがえのない物のように見えたわ」

( ^ω^)「……」

内藤は何も言わず、ゆっくりと頷く。
島への愛着は、この島に住むものならば誰しもが持ち合わせているであろう。
考え過ぎるとまた、心が鈍る事を恐れ、内藤はそのまま玄関に向かう。
ツンも無言でその後に従った。

ξ゚听)ξ「そんな薄着で大丈夫?」

( ^ω^)「見た目よりは暖かいから大丈夫だお」

だいぶくたびれてよれよれの薄いジャンパーを羽織っている内藤。
厚手のダッフルコートを纏ったツンに比べて、どうにも寒そうないでたちだ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:02:42.50 ID:60f7X83c0

玄関の扉を開け、2人は外に出る。
灰色の薄暗い空が一面を覆っている。

ξ゚听)ξ「この分だと雪が降るかもね」

( ^ω^)「どうだろうかおね」

島は本来ならば温暖を通り越して熱帯に近い気候であったのだが、1年を通して気温が上がりにくかった。
それがフェイスの出現のに因る影響なのか、今の所はわかっていないと弟者が言っていたのを内藤は思い出していた。

ξ゚听)ξ「それじゃ、行きましょうか」

見上げていた視線を下ろし、ツンは歩き出す。
内藤は空を見上げたまま、同じ様に歩き出した。

ξ゚听)ξ「それで、今日はどうするの?」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「色々見て回るんでしょ?」

( ^ω^)「ああ、その事かお」

どこに行くかは特に考えていなかったと内藤は正直に答える。
相変わらずねとツンは、呆れた様に溜息を吐いた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:04:23.53 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「まあ、どうせ行く場所なんてそんなにはないお」

ξ--)ξ「それもそうね」

そう言ってツンは右の方を指差す。
視線をそちらに向けるまでもなく、その方向にあるものが何か内藤にはすぐに理解出来た。

ξ゚听)ξ「ちょっと寄って行きましょうか」

( ^ω^)「賛成だお」

2人は右に曲がり、なだらかな坂を登る。
通いなれた通学路を歩くのも、これで最後になるのかもしれないと改めて内藤は思う。

校門をくぐり、グラウンドに足を踏み入れる。
それほど広くもないグラウンドだが、人っ子1人いないと妙に広く感じてしまう。

ξ゚听)ξ「流石に誰もいないのかしらね」

( ^ω^)「もう、必要なものの運び出しは終わってるんだろうね」

学校にあるもので、持ち出すものは大してないのかもしれない。
学ぶ為には必要なものだったが、ただ生き残る為だけなら必要のないものだ。
持ち出せる量に限りがある以上、勉学の道具の優先度は下がるのだろう。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:06:58.92 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「安心しなさい。教科書は必要な分だけ積み込んであるから」

(;^ω^)「それは必要なくないかお?」

ξ゚听)ξ「向こうの教科書じゃ、子供達は読めないでしょ? 英語の勉強からやらなきゃいけなくなるし」

ξ゚ー゚)ξ「それとも、あんたも英語の勉強して向こうの教科書使う?」

(;^ω^)「ノーサンキューだお。うん、教科書は持って行く方がいいおね」

首を竦め、本当に嫌そうな顔で言う内藤に、ツンは思わす吹き出していた。
勉強嫌いの内藤が考えていた事など、ツンには手に取る様にわかっていた。

2人は並んでグラウンドを通り、校舎の中へ入る。
やはり校舎の中にも誰もいないようで、静けさが凛とした寒さと相俟って肌を刺す様な感じがした。

( ^ω^)「何だか不思議な感じがするお」

ξ゚听)ξ「そうね。この時間に誰もいない学校ってのも珍しいわよね」

2人はまるで初めて来た場所のように辺りをキョロキョロと見回しながら自分達の教室に向かう。

( ^ω^)「お、開いてるお」

ξ゚听)ξ「そりゃ、開いてるでしょうね」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:08:40.34 ID:60f7X83c0

もう、使わなくなるから開け放たれているわけでもなく、もともと鍵を掛けていないのだ。
狭い島だし、住民は皆顔見知りで、さらにフェイスの侵攻以降、外部から人が来る事もない。
泥棒などいようもないので、家の鍵すら掛けていない住民もいる。

もっとも、フェイスの侵攻以前からそうしている住民も多数いる。
元から大らかな空気が流れている島なのだ。

( ^ω^)「僕は習慣的に鍵掛けちゃうお」

ξ゚听)ξ「島の外にいたあんたはそうでしょうね」

かく言うツンも一応鍵は掛けてある。
いくら皆を信用してると言っても、最低限の礼節と、過ちを起こさない環境作りのため、鍵は掛けておいた方がいいだろう
と判断している。

( ^ω^)「お」

ξ゚听)ξ「……」

2人は示し合わせたかのように自分の席に座る。
教室の中ほどに位置する、2つ並んだ席に。

( ^ω^)「ここも見納めかと思うと、名残惜しいおね」

ξ--)ξ「あんたはちっとも真面目に授業受けてなかったじゃないの」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:10:28.19 ID:60f7X83c0

(;^ω^)「それとこれとは話が別だお」

( ^ω^)「それに、勉強は苦手だったけど、ここでこうやって皆と一緒に授業を聞くのは楽しかったお」

ξ゚听)ξ「……わかってるわよ」

自分の席に座り、平素のように少しだけ身体を相手の方に向け、話す2人。
流石に本来の授業中に無駄話などしていれば、トソンの命中率の低いチョークが飛んできたものだが、授業に関する
わからない事を聞いたりするのは見逃してくれていた。

( ^ω^)「……行くかお」

ξ゚听)ξ「ええ」

座ったまま、しばらく教室全体を眺めて、2人は立ち上がった。
椅子を引き、机の位置を整え、教卓の方に向かって2人は深々とお辞儀をした。
これもまた、示し合わせたかの様に2人同時だった。

内藤もツンも相手が今、どうしたいのかを何となく察する事が出来ている。
それは付き合いの長さのなせる業であり、お互いがお互いを思う結果でもあるのだろう。

2人は顔を上げ、教室の後ろの扉の方に向かう。
2人は学校を出るまでずっと並んで無言で歩いていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:12:30.15 ID:60f7X83c0

ξ゚听)ξ「じゃあ、私は基地に行くけど」

( ^ω^)「送るって言ったお。僕もちょっと寄って行くお」

ツンは内藤の言葉に頷き、2人は歩幅を合わせ、基地に向かう。
全てがいつも通りなのに、これが最後だというのは不思議なものだと内藤は漠然と考えていた。

( ^ω^)「お?」

不意にツンが足を止めた。
考え事をしていた内藤は、反射的に足を止めた所為で前につんのめりそうになる。

( ^ω^)「どうしたんだお」

ツンは右手を曲げ、手の平を空に向けてそれを見詰めていた。

ξ゚听)ξ「やっぱり雪になるかもしれないわね」

( ^ω^)「降りそうな空だおね」

そう言って内藤は一面灰色に覆われた空を見上げる。
内藤の家を出た時も、ツンが空模様を気にしていた事を内藤は思い出した。

( ^ω^)「雪になると少々厄介だおね」

ξ゚听)ξ「え? 厄介? ……あ、ああ、そうね」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:14:12.27 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「お?」

内藤はてっきりツンが雪が脱出計画や戦闘の事を気にしているのだと思っていたが、最初の面食らった反応を見る限り、
どうやら何か別の事を考えていたらしい事に気付いた。

ξ゚听)ξ「何でもないわよ。それより、ほら、行くわよ?」

(;^ω^)「自分が立ち止まったくせに……」

内藤の後頭部を軽く小突き、急かせるツンに内藤は不満を漏らす。
時に理不尽だと思う事もあるが、いい加減慣れたもので、内藤はツンと共に歩き出す。

その後はたわいもない話をしながら基地への扉をくぐり、格納庫までエレベーターで降りていった。

( ^ω^)「おいすー」

( ´_ゝ`)「よう、ブーン、今日も同伴出勤とは仲睦まじいね」

(´<_` )「やあ、ブーン、来て早々なんだが、今日は明日に備えてゆっくり休めよ」

ξ゚听)ξ「いつも通り阿呆面で阿呆な事言いますよね、兄者さんは」

( ^ω^)「今日はのんびり島を見て回ろうかと思ってますお」

格納庫に着くなり飛んで来るいつも通りの言葉に、内藤とツンの2人はいつも通り調子で答える。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:16:01.30 ID:60f7X83c0
  _
( ゚∀゚)「何だ、お前らもやっぱり来たのか」

( ^ω^)「お、どうもですお、ジョルジュさん」

男性にしては少し甲高いジョルジュの声と共に投げ渡される缶コーヒーを受け取り、内藤は適当な椅子に腰掛ける。
格納庫全体が忙しない空気に満ち溢れている感じがするのは、恐らく自分の気の所為ではないのだろうと内藤は思う。
やはり皆、ツンと同じ様にギリギリまでやれる事をやり、万全を期したいと考えているのだろう。
そうしなければ不安で落ち着かないというのもあるのかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「ほれ、ツンにもやるよ」

ξ゚听)ξ「ありがとうございます」

ツンは缶コーヒーを受け取ると、自分の仕事があるからと早々に奥に引っ込んでしまった。
内藤はそれを無言で目で追うに留めた。

(´<_` )「ん? 2人で島を見て回るんじゃないのか?」

( ^ω^)「違いますお」

最後ぐらい一緒に見て回ればいいのにと呟く弟者に、内藤はいつも通りの笑みで、ツンは間違ってませんと答えた。
弟者は少しだけ寂しそうな顔を見せながら、そうかと頷いた。

( ´_ゝ`)「あれ? 今、ブーン達に渡したのって俺達の分のコーヒーじゃね?」
  _
( ゚∀゚)「細かい事は気にすんな」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:19:12.66 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「まだ整備をやってるんですかお?」

なおもブツブツと不平を言う兄者を見ないようにし、内藤は缶コーヒーの蓋を開ける。
いつもの事だが、そのいつもが後どれだけ続くのかを考えると途端に切なくなる。

(´<_` )「ああ、万全を期したいからな」

( ^ω^)「皆真面目ですおね」

(´<_` )「お前らはもう、休む事が万全を期すためにやる事だと思えよ」

心も、身体もと弟者は内藤に向かって言う。
内藤自身も、今更足掻いた所で、自分の腕が劇的に上がるような事もないとわかってはいるのだが、皆が皆、こうやって
働いているのに自分だけが、と感じてしまう。

そんな内藤の気持ちを、弟者は簡単に察する事が出来た。

(´<_` )「最終的にはお前達の働きにかかってくるかもしれないんだ」

だから今は休んでおけと、弟者は重ねて言う。

( ^ω^)「やっぱりこのまま何事もなく終わるとは考えていないんですおね」

(´<_` )「まあな……」

侵攻して来る4匹の巨大フェイスの内、1匹を撃破した後、不可思議な行動を取った残りの3体の巨大フェイスの意図は
未だ掴めていないままだ。
合流しようとしていた西と南のフェイスも、合流後はそこで動きを止めている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:23:20.84 ID:60f7X83c0

( ´_ゝ`)「そう思うからこそ、こうやって新たに武装を取り付けてるんじゃないか」

内藤と弟者の話に兄者が割って入る。
いつの間にかその手には缶コーヒーが握られていた。
  _
( ゚∀゚)「そろそろ誰か来そうかなと思ってな」

視線を向けた内藤に向かい、余分に缶コーヒーを買って来てたとジョルジュは言う。
内藤はジョルジュの勘の良さに感心しながら、話を元に戻す。

( ^ω^)「今から新武装ですかお? それは色々難しいんじゃないですかお?」

開発時間をさることながら、ここまで来たら運用テストをする時間もないだろうし、いきなり実戦投入するのはどうなのかと
内藤は難しい表情を浮かべた。

( ´_ゝ`)「心配するな。付けるのはシュヴァルベだけだ」
  _
( ゚∀゚)「俺から頼んだんだよ」

今度の戦いは恐らく防衛戦になるだろうからとジョルジュは言う。

( ´_ゝ`)「今の翼、シュヴァルベウイングを使った戦い方だと、どうしても動き回る必要が出てくるからな」

(´<_` )「その名前は少しダサいと思うが、取り敢えず足を止めても戦える武装だな」

2人の説明で新武装を取り付ける意義はわかったが、それが実戦に間に合うかどうかの答えにはなっていない。
そんな内藤の考えを見透かすかのようにジョルジュは言う。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:27:59.99 ID:60f7X83c0
  _
( ゚∀゚)「心配すんな。今までだって色々とぶつけ本番で使ってきたじゃねえか」

(;^ω^)「そう言われると確かにそうですが、あんまり大丈夫な答えになってないですお」

確かにジョルジュの言う通り、これまでも多くの事をいきなり実戦でテストして来てはいる。
そもそも、SA自体もそうだ。
それに加え、内藤の様な民間人が何の訓練もなしにSAに乗ったのだ。
  _
( ゚∀゚)「今更だろ、そんな事はさ」

あくまで軽い調子で言うジョルジュに、内藤も苦いながらも笑顔を向けざるを得なかった。
悲観的に考えても仕方ないのだ。
少なくとも、ジョルジュがその事をわかってそうしているのは内藤も理解している。
それが彼なりの責任感なのだろうと。
  _
( ゚∀゚)「それに、使うのは俺だ。俺を信じろ。お前が信じる、俺を信じろ」

(;^ω^)「どんな武装を追加したかわかった気がしますお」

自分の胸をビシりと刺し、快活に笑うジョルジュに、内藤は不思議な安心感を覚える。
そこに根拠も何もないが、ジョルジュならきっとやってくれるという信頼が内藤にはあった。

誰もが今、自分がやるべき事を考えて行動しているのだと改めて内藤は思う。
それが島を守る為ではなく、捨てる為にやっているのだと思うと複雑な気持ちになるが、それもまた、自分達が
生き残る為には仕方のない事のなのだ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:33:45.73 ID:60f7X83c0

内藤はそれから少し話をし、基地を出た。
いつも通りの、たわいのない話だったが、この場面でそういう話が出来るのを頼もしく思うべきだと内藤は考える。

( ^ω^)「さて、どこに行くか……お?」

(*゚ー゚)「あら? ブーン君も来てたの?」

格納庫からエレベーターで地上階に戻ると、エレベーターの前でしぃと鉢合わせた。
しぃは上に登るエレベーターをそのまま行かせ、内藤に話しかける。

(*゚ー゚)「その様子だともう帰るとこかな?」

内藤は朝からの話をしぃに伝える。
しぃはそれを終始笑って聞いていた。

(;^ω^)「ツンがいなきゃ笑えない話になってたとこですお」

(*゚ー゚)「君がハインちゃんをあんまりからかうからでしょうが」

( ^ω^)「あれは一応僕なりに……」

(*゚ー゚)「塞ぎ込んでたハインちゃんを景気付けた?」

( ^ω^)「お? しぃさんも気付いてましたかお?」

しぃは頷き、同時にそれも無理のない事だと言う。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:38:41.00 ID:60f7X83c0

(*゚ー゚)「誰だってこの状況下で平静でいるのは難しいだろうし、それに……」

( ^ω^)「それに?」

(;*゚ー゚)「あ、いや、何でもない」

( ^ω^)「お?」

(*゚ー゚)「そんな事よりブーン君、これから島を回るんでしょ? ツンちゃんは誘わないの?」

しぃは若干慌てて言葉を濁し、話を逸らす。
前回の戦闘の時、ジョルジュが随分と焦っている様に感じたのだが、内藤はそれに気付いていなかった事を思い出したのだ。
ハインは当然、それに気付いており、その事がハインの不安を増徴させているのだろうとしぃは考えている。

(;^ω^)「ツンは忙しいって言ってますお。つか、皆そんな事言いますおね?」

(*゚ー゚)「そりゃ言うでしょ、最後なんだし」

ジョルジュの事は気付いていない内藤にわざわざ話して、心配事を増やす必要はないとしぃは思う。
後で自分がジョルジュ自身に話し、その焦りを取り除くべきかとも考える。

(;^ω^)「取り敢えずは1人でいいですお。んじゃ、僕は行きますお」

(*゚ー゚)「どの辺にいる?」

( ^ω^)「食堂で昼食取って、その辺適当に回って、たぶん西の丘の方に行きますお」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:41:16.89 ID:60f7X83c0

(*^ー^)「うん、わかった。ツンちゃんにはそれとなく伝えておくね」

(;^ω^)「だから別に1人でいいですお」

大丈夫、大丈夫としぃは言いながら右手を大きく振り、エレベーターに乗り込む。
内藤は何が大丈夫なのだろうと思いながらも、それを見送った。

( ^ω^)「さてと……」

静かになった廊下を、何とはなしに見回す。
普段よりは基地に詰めている人間は格段に少ない。
最終的な作業は明日に予定されており、今日は皆、今の内藤と同じ様に自由な時間を与えられている者が大半だ。

( ^ω^)「……」

一通り辺りを見回した後、自分の左肩の方を見やる。
強がっていたわけではないが、確かに1人で回るのも少し寂しいかなと感じてしまう自分がいた。

( ^ω^)「まあ、いいお」

内藤はそう口にして歩き出す。
島での時間は最後なのかもしれない。
けれど、2人でいる時間、皆といる時間は脱出してもまたやって来るのだと自分に言い聞かせて。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:46:39.43 ID:60f7X83c0



(*゚ー゚)ゝ「チョリッス」

( ´_ゝ`)ゝ「チョリッス!」

(´<_`;)「それは挨拶なのか? しぃさん、おはようございます」

エレベーターから降りるなり、妙に高いテンションで謎の挨拶をするしぃと、それに応える兄者を見ながら弟者は溜息を吐く。
どいつもこいつも大人しく休むという事をしないのだなと。

(*゚ー゚)「私はずっと休んでた様なものだしね」

(´<_`;)「極限状態で漂流してて、その後大して療養してないんだし、あんまり無茶をしないでくださいよ」

(*^ー^)「大丈夫、大丈夫。おねーさんこう見えても結構頑丈なんだから」
  _
( ゚∀゚)「そらまあ、あのがさつの塊のようなギコのおっさんと付き合ってたんだ。丈夫にもなるだろ」

(*^ー^)「象が踏んでも壊れない!」
. _
(;゚д゚)「ごはっ!? 踏んでもじゃなくて踏んでるじゃねえか!」

横合いから茶々を入れてきたジョルジュを蹴り倒し、しぃはその背を踏む。
このくらいやった方がいつもの調子を取り戻してくれるのではないかと、一応は考えての行動だ。

(´<_`;)「じゃれ合うのはいいが、あんまり馬鹿やってケガとかすんなよ」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:50:13.30 ID:60f7X83c0

(*゚ー゚)「流石にそこまでお馬鹿じゃないよ」
. _
(;゚д゚)「ゲボァッ!?」

最後に捻る様に踏み込み、しぃはジョルジュの背から飛び降りる。
ジョルジュは転がる様にその場から退避し、よろよろと立ち上がる。

(´<_`;)「大丈夫か?」
. _
(;゚∀゚)「まあ、何とか」

意外にダメージは軽い様なジョルジュだが、しぃに言わせれば、しぃの体重は軽いのだからそう効くものでもないだろうとの事だ。

(´<_`;)「あんまり無茶しないでくださいよ」

(*゚д゚)「ギコ君をおっさん扱いするからだよ」
  _
( ゚∀゚)「十分過ぎるくらいおっさんだったじゃねーか」

(*゚ぺ)

(´<_`;)「いや、だから止めとけって。しぃさん、それからジョルジュ」

再び行動を起こしそうだったしぃを、弟者がすぐに止める。
ジョルジュはそれを横目にそっぽを向き、呟く様に言葉を口にした。
  _
( ゚∀゚)「まあ、おっさんはおっさんでも、いいおっさんだったけどな」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:53:53.27 ID:60f7X83c0

(*゚ー゚)「おっさんじゃないもん。でも、いい人だったよね」

思い出にするにはまだ過ぎた時間は短く、さりとて思い出さずにはいられない人。
湿っぽい空気と共に思い出すのではなく、楽しい思い出と共に思い出す事で、前向きに今を生きられる。
意識してそう考えていたわけではないが、しぃもジョルジュも自然にそうしていた。
故人を思い出す事が悲しみにしか繋がらないのは寂し過ぎるから。

(*゚ー゚)「それで、ジョルジュ君はどうしてそうナーバスなのかな?」
  _
( ゚∀゚)「……あ? 何の事っスか?」

唐突に本題を切り出したしぃに、ジョルジュはわずかに返答に詰まる。
それが答えだと言わんばかりに、しぃはジョルジュの眼前で伸ばした右手の人差し指をちらつかせた。

ジョルジュは観念したかのようにゆっくりと首を振り、格納庫の隅の方を指差す。
2人はそこに移動し、話を続ける。

(*゚ー゚)「ハインちゃんが露骨に心配してたでしょ?」
  _
( -∀-)「……すんません」

(*゚ー゚)「私に謝る必要はないよ。でも、話せるなら話してね。私でも、何か力になれるかもしれないし」
  _
( ゚∀゚)「いや、何かあるってわけじゃないんスよ。ただ……」

(*゚ー゚)「ただ?」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:56:13.07 ID:60f7X83c0
  _
( -∀-)「……不安で」

(*゚−゚)「……」

いつになく素直な、そして至極当たり前の事を言うジョルジュに、今度はしぃが言葉に詰まった。
この状況で不安を抱いていない人間はいないだろうし、最前線で戦う自分達が大きな不安を抱えていても何ら不思議はない。
  _
( -∀-)「やるべき事も、やれる事もわかってはいます。けど……」
  _
( ゚∀゚)「それで皆を守れるのか、俺には自信がないんです」

(*゚−゚)「それは……」

私にもない。
そんな言葉を続ける事はしぃには出来ない。
たとえそれが本心だったとしても、本来なら自分が言ってはならない事だ。

(*゚ー゚)「大丈夫だよ、何とかなる」
  _
( ゚∀゚)「……」

(*- -)「……なんて気休め言っても、ジョルジュ君にはわかっちゃうよね」
. _
(;゚∀゚)「え……」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 22:58:40.86 ID:60f7X83c0

(*- -)「私も不安だよ。それに自信もない」

しぃは目を閉じ、静かに自分の思いを吐き出す。
言ってはならない言葉だが、言わずともジョルジュは気付いてしまうのだろう。
自分と同じ様に、どんな時でも楽観的な態度を装い、皆を鼓舞して来たのだ。
きっと誤魔化せないとしぃは思う。

(*゚ー゚)「でも、私達は今までだって自信なんかなくても戦ってきたし、乗り越えてきた」

(*゚ー゚)「さっきジョルジュ君が言ったように、私達に出来る事は限られてる」

(*゚ー゚)「私達がやるべき事は、それに全力を尽くすことだけだよ」
  _
( ゚∀゚)「けど、守れなければ……」

自分がいない間、ずっと皆を勇気づけて来たジョルジュだが、年長者であり軍人でもある自分が戻って来た事で、
緊張の糸ががぷっつりと切れたのかもしれない。
きっと辛かったのだろう。

今までそれを決して表には出さず、ここまで戦い抜いて来たジョルジュに、しぃは感謝と尊敬の念を抱いた。
しぃはジョルジュの目をしっかりと見据え、力強く宣言する。

(*゚ー゚)「必ず守るよ。全力でね」

(*゚ー゚)「大丈夫、きっと守れるよ。私とジョルジュ君、それに皆がいるんだから」

(*^ー^)「ね?」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:00:40.51 ID:60f7X83c0
  _
( ゚∀゚)「しぃさん……」

(*^ー^)「……こんな事しか言えなくてごめんね」
  _
( ゚∀゚)「……」

笑顔のまま謝罪するしぃの姿に、ジョルジュは言葉に詰まった。
こんな事しか言えない、気休めの言葉しかかけられないとしぃは言うが、今の自分達に言える事はそれだけで、
そして……
  _
( ゚∀゚)「……いえ、その通りですよ」
  _
( ゚∀゚)「大丈夫、きっと守れます」
  _
( ゚∀゚)「俺が、俺達が守りますから、大丈夫です」

(*゚ー゚)「ジョルジュ君……」

気休めにしか聞こえない言葉を、気休めではなく、真実にする。
それが自分に出来る事で、自分達がやるべき事なのだとジョルジュは改めて思う。
  _
( ゚∀゚)「すみません、少し弱気になってました」

(*゚ー゚)「謝る事じゃないよ。それが普通なんだと思う」

(*゚ー゚)「私がいない間、島を、みんなを守ってくれてありがとう、ジョルジュ君」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:03:12.35 ID:60f7X83c0
  _
( ゚∀゚)「俺だけの力じゃありませんよ。それに……」
  _
( -∀-)「守れなかったものもありましたから……」

守れなかったもの、今ここにいない人間の顔を2人は瞬時に思うい浮かべていた。
そこには2人にとって掛け替えのない人間だった者の顔もある。

(*゚ー゚)「それでも君は立派に戦い、守った。それだけは確かだから、胸を張って」

(*^ー^)「ね?」

しぃは自分よりだいぶ背の高いジョルジュの両肩を両手で叩く。
背伸びをして、にっこりと微笑んで。
  _
( ゚∀゚)「はい」

ジョルジュは力強く返事をし、同じ様に微笑んだ。
普段はあまり見せないジョルジュの素直な笑顔に、しぃは安心したように大きく頷いた。

(*゚ー゚)「それじゃ、明日からもがんばろうね」
  _
( ゚∀゚)「はい、ご心配かけました」

ジョルジュはしぃに一礼し、新武装の調整があるからと兄者達の方へ向かう。
しぃはその背が乱雑に積み上げられた機材の陰に見えなくなるまで、ジョルジュの姿を見送った。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:06:26.06 ID:60f7X83c0

(*- -)「何だか、ギコ君に少し似てきたなぁ……」

姿形は全然似ていない。
ルックスでいえばジョルジュがだいぶ上だし、体格はギコの方がずっと筋肉質だ。
それに加えてギコが寡黙なのに対し、ジョルジュはどちらかといえば饒舌な方だ。

それでもしぃは2人が似てきたと感じた。

(*゚ー゚)「不器用だけど、仲間思いでまっすぐなとことかね」

(*^ー^)「そう思わない、ギコ君?」

しぃは格納庫の灰色の天井を見上げ、空に向かって手を伸ばし、問い掛ける。
ギコや自分の背を見ながら戦って来た皆が、いつの間にか自分の隣に並ぶ頼れる仲間になっていた。
それは嬉しくもあり、少しだけ寂しい事でもある。

もう彼らは、ギコやしぃに守られていた頃の子供ではないのだ。
自分と銜を並べて戦う、立派な戦士なのだ。

(*゚ー゚)「私もがんばらなきゃね」

しぃは掲げていた手を勢いよく振り下ろし、歩き出す。
明日に向け、戦う為に歩き出した。


 

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:10:28.93 ID:60f7X83c0



(´・ω・`)「お待たせ」

( ^ω^)「待ってたお」

目の前に焼きそばの皿が置かれると同時に、手を合わせ、内藤は焼きそばすぐさま口に運ぶ。
そんな内藤の様子にショボンは、もう1皿作るべきかと考えていた。

(´・ω・`)「おかわりは?」

( ^ω^)「大盛りで頼むお」

(´・ω・`)「はいはい」

案の定告げられる注文に、ショボンは呆れた笑みを浮かべながら厨房へ戻る。
そして2人分の材料を取り出した所で考え直し、もう1人前を追加した。

( ^ω^)「ショボンはもう、準備は済んでるのかお?」

(´・ω・`)「準備? ……ああ、一応ね」

しばらくの後、ショボンが1.5人分の焼きそばを抱えて戻って来るなり内藤は尋ねる。
ショボンは一瞬何の事かわからなかったが、すぐさま内藤が何の事を聞いているのかを理解した。

今日までこの食堂が開いているとは思ってもいなかったと、内藤は続けて言う。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:15:19.34 ID:60f7X83c0

(´・ω・`)「大して持って行くものもないし、持っていける量も少ないしね」

(´・ω・`)「それに脱出が決まってから、島も見るだけは見たよ。だから、今日は暇でね」

( ^ω^)「流石にショボンは準備がいいおね」

(´・ω・`)「誰かさんがだらしないからね。予め何でもやっておく癖がついたのさ」

( ^ω^)「だらしない人間はどこにでもいるおね」

(´・ω・`)「うん、僕の目の前にもね」

2度目のおかわりを告げた内藤の前に、ショボンはすぐさま焼きそばを差し出す。
たわいもない友達同士の会話を、2人は存分に楽しんだ。

(´・ω・`)「……結局、僕は戦えなかったな」

( ^ω^)「お? 何の事だお?」

食事を終え、温かいお茶を入淹れ終わったショボンがポツリと呟いた。
言うつもりはなかったはずの言葉が思わず漏れたのか、ショボンは罰の悪い顔をみせたが内藤はその言葉を耳聡く拾う。

(´・ω・`)「僕にも出来る事があると、ずっと思ってた」

( ^ω^)「そりゃあるお。ショボンは気が利くし、色々頼りにしてたお。宿題とか宿題とか宿題とか」

(´・ω・`)「ハハ……ありがとう」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:20:24.55 ID:60f7X83c0

内藤の言葉にはにかむようにショボンは微笑む。
内藤がお世辞で言っていない事は、付き合いの長いショボンにはすぐにわかった。
しかしショボンはすぐに表情を引き締め、言葉を続ける。

(´・ω・`)「でも、僕は戦う事は出来なかったんだ」

( ^ω^)「それは……」

ショボンのような子供が戦う必要はない。
そんな言葉を幾度となく島の大人達からは聞いて来た。

しかしその言葉を、目の前の内藤からは聞きたくない。
自分と同い年の内藤からは。

(´・ω・`)「君は戦って来た」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「この食堂で一緒に働いていたドクオさんも」

いつもやる気なさ気な空気を課も着だしていたその姿が脳裏に浮かぶ。
その姿がいつ頃からか、少しだけ自信が垣間見える様になり、頼り甲斐のある背中に変わっていった。

(´・ω・`)「島を守る為に戦って来たんだ」

ショボンは内藤の目をまっすぐに見詰める。
内藤は目をそらすことなく、静かに口を開く。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:24:15.77 ID:60f7X83c0

( ^ω^)「守る事も……この島の日々を守る事も戦いだったお」

(´・ω・`)「それは……わかってはいるさ。でも僕は……」

(´-ω-`)「……ごめん、こんな事を君に言うつもりじゃなかった」

言いかけた言葉をつぐみ、目を伏せてショボンは内藤に謝罪する。
これでは内藤を責めているようだと、ショボンは自分の考えのない言葉を恥じた。

( ^ω^)「わかってるお」

( ^ω^)「皆を守れる力が欲しいって、きっと誰もが思ってる事だお」

自分もそう思っている、内藤はショボンに向かい、はっきりとそう言った。
そんな内藤に、君には力があるじゃないかと、ショボンが言い返すより早く内藤は続ける。

( ^ω^)「僕には守れなかったものがいっぱいあるお」

(´・ω・`)

( ^ω^)「その度に僕は、自分の力の無さが悔しかったお」

(´・ω・`)「……君は立派に島を守って来たよ」

( ^ω^)「ありがとだお」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:31:18.32 ID:60f7X83c0

(´・ω・`)「お世辞とか慰めじゃない。ブーンはブーンが出来る最大限の事をやって来たんだ」

( ^ω^)「ありがとうだお、ショボン」

内藤はショボンに笑顔を向け、立ち上がる。
ショボンの様な気持ちは、島の男なら誰もが1度は抱いたものだともわかっている。

自分が運良く、同時に運悪くSAに乗る事になったのはただの偶然だ。
でも、誰かが自分の代わりに傷つくのなら、自分が傷付いた方が気が楽だ。
だから、きっと自分は運が良かったのだと内藤は思う。

英雄になりたいわけじゃない。
でも、島を、皆を守れるなら英雄にだって何にだってなりたいと内藤は思う。

( ^ω^)「向こうに行っても、またご飯作ってくれお」

(´・ω・`)「そういうのは、男に向かって言う台詞じゃないと思うけど……」

(´・ω・`)「うん、わかった。だからちゃんと食べに来なよ」

( ^ω^)「把握。んじゃ、ご馳走さまだお」

(´・ω・`)「どういたしまして。またのお越しをお持ちしております」

仰々しく深々と頭を下げるショボン。
2人は見詰め合い、軽い笑みを浮かべる。

必ず約束を果たす事を心に決め、内藤は食堂の扉を勢い良く開け放った。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:34:53.48 ID:60f7X83c0



( <●><●>)「ふぅ……」

ようやく資料の整理を一段落着けたワカッテマスは、疲れた様に大きく息を吐いた。
この島を放棄すると決めた今、この島の設備に関わる資料等は不要なものとなるのだが、ワカッテマスはそれも整理し、
持ち出すデータの中に収めておいた。

いつかこの島に戻れる日が来る事を信じて、ワカッテマスは自分が出来る最大限の事をやろうと決めていた。

(゚、゚トソン「少し根を詰め過ぎではないのですか?」

( <●><●>)「私の倍近い速さで資料整理をこなしている貴女に言われたくはないですね。ありがとうございます」

ワカッテマスの机の上にカップに注がれたコーヒーが差し出される。
皮肉で言ったつもりはないのだが、どうも揶揄した様にも聞こえるので、すぐ様ワカッテマスは先の言葉を謝罪する。

(゚、゚トソン「褒め言葉として受け取っておきますから、お気になさらず」

(゚、゚トソン「申し付けてくだされば、そちらの資料も整えましたのに」

( <●><●>)「これは本来なら不要なデータですからね」

職権乱用は出来ないと、ワカッテマスは真面目な顔で言う。

(-、-トソン「……それも必要なデータですよ」

( <●><●>)「……そうなるといいですね」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:37:08.61 ID:60f7X83c0

どうやらトソンはワカッテマスが何の資料を整理していたか知っていたようだ。
誰にも話していなかったはずなのに、ワカッテマスはトソンの察しの良さに苦笑する。

(゚、゚トソン「簡単な話ですよ。私もやろうと考えてましたので」

既に誰かがやり掛けていたので、すぐにワカッテマスがそれをやっている事に気付いたとトソンは言う。

( <●><●>)「考える事は皆同じというわけですか」

(゚、゚トソン「帰れるならば帰りたいと、きっと誰もが思うのでしょうね」

ワカッテマスはトソンの言葉に頷き、コーヒーを口に含む。
少し苦めに淹れてあるのは、自分の好みを考慮してくれた結果なのだろうと察した。

( <●><●>)「フェイスの侵攻でここが荒れ果てたとしても、皆さんはそう思われるのでしょうかね」

(゚、゚トソン「そうだと思いますよ」

( <●><●>)「そうですか……そうですよね」

間髪入れず答えたトソンから目をそらす様に、ワカッテマスはコーヒーカップの中の覗き込む。
この島がどんなに荒れ果てようと、島の人間はいつかここに帰る事を願うであろう事はワカッテマスも予測はしていた。
しかし、もし、この島が跡形も無くなくなってしまったら、島の皆はどう思うのだろうか。

( <●><●>)(私がしようとしていることは、果たして正しい事なのでしょうかね……)

自分はこの島を守る為にこれまで行動して来た。
けれどもう間もなく、守るべき島を離れる事になる。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:39:50.32 ID:60f7X83c0

しかし、島を離れはしても、守りたい人々はまだ残っているのだ

だとしたら自分はやはり、守りたい人々の為に最善となる行動を取るべきである。
それがたとえ、皆を悲しませる事になっても、皆を守り、生き抜かせる為なら。
ワカッテマスは自らの問いの答えをそう結び、顔を上げる。

( <●><●>)「ところで、トソンさんはご自分の脱出の準備はよろしいのですか?」

(゚、゚トソン「ええ、学校の教材の持って行くものの指示は出してお願いしてありますし、終わったとの報告も受けてます」

( <●><●>)「いえ、学校とかではなく、自分自身の私的なものの話ですよ」

(゚、゚トソン「ああ、なるほど」

(゚、゚トソン「私的なものは特には。せいぜい着替えがあれば大丈夫ですし」

部屋も普段から片付けてあるので、念を入れて掃除するような事もないとトソンは続ける。
常日頃からのトソンの様子を考えれば頷ける話だが、トソンも妙齢の女性だ。
もう少し、思い出の品やら何か持って行きたいものがあってもよさそうなものだとワカッテマスは思う。

(゚、゚トソン「正直、副司令にだけは言われたくない言葉ですよね」

( <●><●>)「それは確かにそうかもしれませんね」

同じ質問をされたらきっとトソンと同じ様な答えを返すであろう自分の姿が、ワカッテマスには容易に想像が付く。
自分もトソンと同じ様に、物は大切に使うが執着は無く、その場で最善のものがあればよいと考えるだろう。
部屋にしても同じ様に掃除は小まめに行っているし、普段から基地に篭る事も多かったので物も少なく綺麗なものだ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:43:34.63 ID:60f7X83c0

自分達がどこか似たもの同士である事に、ワカッテマスは気付いていた。
そしてその事が、自分のやろうとしていることをトソンに気付かれているのかもしれないという危惧を抱かせた。

( <●><●>)「……私は、将来的に最善となる手を選択しただけなのですがね」

(゚、゚トソン「何の話です?」

( <●><●>)「いえ、何でもありませんよ」

( <●><●>)「ただ、皆が無事に生き延びられ、いつか平和が訪れるといいなという話です」

(゚、゚トソン「訪れますよ、きっと」

( <●><●>)「……そうですね。きっとまた平和な日々が訪れますよね」

(゚ー゚トソン「ええ」

普段はあまり希望的憶測で物を言うトソンではない。
そんなトソンがそう言ってくれるのは、やはり気を使ってくれているのだろうとワカッテマスは思う。
それとも学校での時のように、子供を徒に心配させないよう明るく振舞ってくれているのかもしれない。

ワカッテマスは軽く首を振り、自分がきっとしていたであろう悲壮な顔を払うように精一杯微笑んで見せた。

( <へ><へ>)「さて、それでは希望の明日に向かって作業を続けましょうか」

(゚、゚トソン「はい(この笑顔だけはどうにも慣れませんね……)」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:46:34.76 ID:60f7X83c0



( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「そっち、もう片付けといてくれ。それは持っていかないからな」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「終わったらお前らは先に上がれ。いいから、家族を大事にな」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「すまん、船の方は再度点検してくれ。燃料の計算があってない」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……ところで兄者よ?」

( ´_ゝ`)「……ん、どうした、弟者よ?」

(´<_` )「さっきから何をぼうっとしている? 開発部の方はもうやる事無いんだろ?」

( ´_ゝ`)「まあな。ジョルジュのあれも終わってるしな」

(´<_` )「だったら今日はもう帰ればいいだろ?」

( ´_ゝ`)「他の開発部の皆が整備部の手伝いをしてるのに、俺だけ帰れるわけ無かろう?」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/18(土) 23:50:21.93 ID:60f7X83c0

(´<_` )「前は帰ってたじゃないか」

( ´_ゝ`)「前は前、今は今だ」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「……」

格納庫では最終整備に忙しい整備部の弟者と対照的に、どこか心ここにあらずの兄者がいた。
以前、といっても兄者が渡辺とお付き合いしだしてからだが、時間が空けば即、渡辺に会いに行っていた兄者が
何故か今日は居座っている。

しかし弟者はそれがどういう事か、全てわかっているつもりだった。

(´<_` )「何か言いたい事があるのか?」

( ´_ゝ`)「山ほどな」

(´<_` )「奇遇だな、俺もだよ」

( ´_ゝ`)「弟者よ、俺は……」

(´<_` )「皆まで言うな兄者よ、わかってる。俺はわかってるから」

弟者はゆっくりと首を振り、それ以上言わなくていいと兄者を制す。
弟者には兄者がこの脱出計画をどうするつもりなのかわかっていた。
あの会議の日、自分を制したその目を見た時から。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:01:29.26 ID:le0YcFPn0

( ´_ゝ`)「……そうか。そうだよな。お前なら気付いてたよな」

(´<_` )「兄者自身の人生だ。兄者がそれを選ぶのなら、俺は何も言えない」

(´<_` )「それがどんな事であろうが、俺は兄者を信じている」

( ´_ゝ`)「弟者……」

(´<_` )「兄者も、自分が選んだ道を信じてくれよ

( ´_ゝ`)「ああ、勿論だとも」

( ´_ゝ`)「ありがとう、弟者」

(´<_` )「礼はいらん。俺が同じ立場にあったら、兄者はきっと俺と同じ事を言ってくれただろ?」

( ´_ゝ`)「ああ、きっとな」

( ´_ゝ`)「だから俺も言っておこう。自分の選んだ道を信じろよ、弟者」

(´<_` )「兄者……」

笑顔を見せていた兄者が、不意に真面目な顔をし、先ほど弟者が兄者に向けた同じ言葉を告げる。
その目はどこか楽しそうで、誤魔化せそうも無い、有無を言わせぬものがあった。

( ´_ゝ`)「隠せると思っていたか?」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:06:58.94 ID:le0YcFPn0

(´<_` )「……いや、バレるよな、それはお互い様だし」

( ´_ゝ`)「ああ、俺達は双子で似たもの同士だからな」

(´<_` )「正直、性格はあまり似ていないと思いたいのだが、そうだな、兄者よ」

( ´_ゝ`)b「流石だな、俺達」d(´<_` )

親指を突き立て、同じポーズでニヤリと微笑む兄弟。
語らずとも伝わり、何を差し置いてもお互いを慮る2人は、それぞれ別の道を行く事を理解しあった。

その道が遠からず同じ場所に繋がる事を、2人は既にわかっていたのかもしれない。
だとしてもそれが自分達の選んだ道であり、自分達が決めた事だ。
決して後悔は無いと2人は言うだろう。

ξ゚听)ξ「何、2人して見詰め合ってんのよ。気持ち悪い」

そんな2人の空気をぶち壊すような声が割って入る。
一応空気は読んで、しばらく離れた位置で2人の様子を眺めていたツンが、そろそろ頃合かと2人に声を掛けた。

(;´_ゝ`)「気持ち悪いは無いだろ、ツンよ」

(´<_`;)「そうだぞ、兄者はともかく、俺は気持ち悪くないだろ?」

(;´_ゝ`)「え、いや、同じ顔じゃん? つーか、さっきまでの俺達一心同体な空気はどこへ?」

(´<_` )「気持ち悪い事を言うんじゃないぞ、兄者よ」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:08:41.97 ID:le0YcFPn0

ξ--)ξ「同じ顔で何言ってんだか……」

なんだかんだで結構長い時間をこの格納庫で兄者達兄弟と共に過ごしているツンには、それが弟者の照れ隠しである事も
わかっていたし、2人が馬鹿みたいに仲がいい事もわかっている。

どこかすっきりした顔をした2人を見れば、この2人がどんな話をしていたのか、ツンにも想像は付く。
恐らく2人はこの島を出る事に対してきちんと折り合いを付けられたのだろうと。

(´<_` )「それはともかくツンよ、どうしたんだ? 何かトラブルか?」

ξ゚听)ξ「トラブルってわけじゃないけど……」

( ´_ゝ`)「というかツンよ、何故まだここにいる?」

ξ゚听)ξ「は?」

( ´_ゝ`)「ブーンと一緒に島を回らなくていいのか?」

ξ゚听)ξ「何でそういう話になるのよ」

ツンは兄者を睨み付け、ブーンは関係ないと再度言う。
実の所、ブーンに十分関係のある話をしに来たのだが、どう切り出すべきかツンは迷っていた。

ξ゚听)ξ「シュトルヒのヴェノムの制御AIについてなんだけど」

(´<_` )「その話か……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:13:33.90 ID:le0YcFPn0

ここの所、ツンが根を詰めてやっている作業が、シュトルヒのAIの高速化と最適化だ。
先日の巨大フェイスとの戦闘の際、シュトルヒがヴェノムを取り落としたのは、自分が組んだAIの処理が
追い着いてなかったからだとツンは理解していた。

あの時は内藤がかばってくれはしたが、その事はツンだけでなく兄者も弟者も気付いていた。

ξ゚听)ξ「ここのね、判断基準でちょっと時間がかかり過ぎてるようなんだけど」

(´<_` )「……なあ、ツンよ。これ以上の高速化は無理がある事はお前も気付いてるんだろ?」

ξ;゚听)ξ「そんな事は……」

(´<_` )「時間を掛けてブーンの考え方や癖に慣らしていけばまだいけるかもしれない」

( ´_ゝ`)「だが、それは1日や2日でどうにかなる話じゃない」

ξ;゚听)ξ「それは……」

わかっている。
何度も考えた結果、自分の技術も時間も、圧倒的に足りていない事をツンはよくわかっていた。

(´<_` )「それはツンの所為じゃない」

( ´_ゝ`)「教本もない中、あそこまで1人で組み上げたツンの実力は相当のものだ」

言葉に詰まるツンを、2人は口々に慰める。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:16:20.88 ID:le0YcFPn0

無い袖は触れない現状の中、自分は自分に出来る事を精一杯やったとツン自身も思う。
だがそれは完璧ではなく、探せばまだいくつも穴のあるものだ。
ツンに限らず、兄者や弟者、それに搭乗者である内藤も含め、誰もが完璧に自分の仕事をこなせているわけではない。
どこかしら苦手な部分もあり、それを別の何かで補ったりして、何とか回しているのが現状だ。

ξ;゚听)ξ「……わかってるけど、……わかってるけど!」

しかしそれでも、ツンはやらなければならない理由がある。

ξ;--)ξ「それでも私がやらなきゃ、あいつを守れないのよ!」

(´<_` )「ツン……」

自分達が出来る事は、内藤達SA搭乗者を戦いの空に送る所までしかない。
だから、そこに至るまでに出来るだけ完璧に仕上げなけねばならないと、開発整備に関わる人間は誰しもが考えている事だ。

( ´_ゝ`)「お前は最善を尽くした。たった一週間足らずであの戦闘の時よりも20%も反応速度を上げた」

ξ;--)ξ「でも、まだ完璧じゃない。これだとまだ、あの時の様なミスを起こすかもしれない」

(´<_` )「ツン、残念だが俺達に出来るのはここまでだ」

ξ;゚听)ξ「そんな事──」

(´<_` )「これ以上は負荷が高まり過ぎて、熱暴走で逆に致命的なエラーを起こしかねない」

ξ;--)ξ「──ッ」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:21:27.13 ID:le0YcFPn0

( ´_ゝ`)「……あとはブーンの腕を信じよう」

(´<_` )「そうだ、きっとブーンがツンのAIを完璧に使いこなしてくれるさ」

ξ; − )ξ「……」

ツンは2人の言葉に押し黙る。
2人の言い分が正しい事は、実際に作業をしている自分が一番よくわかっている。
けれど自分がここで満足したら、また前回の様な事が起こるかもしれない。

そしてそれが、自分の大切な人の生命を奪うかもしれないのだ。
だからツンは、あれからずっとここで寝る間も惜しんでAIの整備を続けて来た。

それがツンにとっての、大切な人を守る為の戦いだったのだ。

ξ; − )ξ「私は……」

('、`*川「私はさ、イマイチAIとかってよくわかんないんだけどさ」

ξ;゚д゚)ξ「へ?」

守れないのか、そう諦めに等しい言葉を吐こうとしたツンを遮る様に、いつの間にか現れたペニサスが割って入る。
何のつもりだと問うような弟者の視線も気にせず、ペニサスは言葉を続ける。

('、`*川「要はAIにブーン君の事をよりよく理解させればいいのよね?」

( ´_ゝ`)「まあ、平たく言えばそういう事だな」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:25:58.77 ID:le0YcFPn0

(´<_` )「しかし、それをやるには時間が足りないという話だ」

ξ;゚−゚)ξ「……」

再び繰り返される絶望的な話に、ツンは目の前が闇に閉ざされたような感覚に囚われる。
けれど今は藁にでも何にでも縋りたい気持ちで、話を続けるペニサスの方をしっかりと見詰めた。

('、`*川「だったら、発想を逆転させればいいんじゃないの?」

( ´_ゝ`)「逆転?」

('、`*川「最初っから、あの子を理解してる前提のものをAIにすればいいんじゃないの?」

(´<_` )「……おいおい、まさかそれって」

ξ;゚听)ξ「それよ!!!」

唐突に、闇が晴れた様な気がした。
自分を覆っていた幾重にも折り重なった、無限にも等しき絶望の闇が。
たった1つの言葉で、ツンはもう1つの、自分が取り得る最良の手段に気付いたのだ。

(´<_`;)「ちょっと待て、ツンよ。それがどういうことかわかって……」

( ´_ゝ`)「無駄だ、弟者よ。既に我々の話は聞いていない」

ξ*^竸)ξ「さっすがペニサスさん! 頼りになるぅー!」

('、`;川「いや、まあ、思い付きで言っただけだから、そんなに大した事は……ってか、近い、顔近いから」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:30:37.01 ID:le0YcFPn0

それまでの陰鬱な顔を一変させ、溢れんばかりの笑顔でツンはペニサスに抱き付く。
ツンがここまで感情を露にする事を見慣れていない兄者は、戸惑ったような表情を浮かべていたが、やがてツンと
同じ様に笑顔を浮かべていた。

(´<_`;)「おい、兄者。まさか兄者もペニサスさんの案に賛成するつもりなのか?」

( ´_ゝ`)「そりゃこの喜び様を見せられたらするしかないだろ」

(´<_`;)「それがどういう事かわかって言ってるのか?」

( ´_ゝ`)「どうもこうも、それが一番生存確率の上がる方法なら、そうするべきだ」

(´<_`;)「無茶苦茶だ。それがどれだけ過酷な事か、ツンに耐えられると思っているのか?」

ξ゚听)ξ「耐えてみせるわよ」

(´<_`;)「簡単に言うな、簡単に」

尚も難色を示す弟者だが、客観的に見れば弟者の言い分の方が正しい事はツンも兄者も理解している。
しかしそれ以上に、ツンは譲れない理由がある。

ξ゚听)ξ「簡単じゃないわよ」

ξ゚听)ξ「それがどういう事か、失敗すればどうなるのかもわかってるわ」

(´<_`;)「だったらわかるだろ、どうするべきか──」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:34:14.71 ID:le0YcFPn0

ξ>д<)ξ「でもッ!」

ツンが吼える様に叫ぶ。
弟者の声は気圧される様に掻き消え、代わりに熱を帯びたツンの声が響き渡る。

ξ゚−゚)ξ「何も出来ずにただ指をくわえて見てるのはもう嫌なの!」

ξ;−;)ξ「全部あいつに背負わせて、ただここで帰りを待つだけの方が耐えられないのよ……」

(´<_`;)「ツン……」

ずっと押し殺して来た感情を爆発させ、人目をはばからず涙を流すツンの姿に、弟者はそれ以上何も言えなくなった。
嗚咽を響かせ、泣き続けるツンを抱き寄せようとした兄者をペニサスが張り倒し、やさしく抱きしめる。

('、`*川「よしよし。待つのは辛いものよね……あなたもそう思うでしょ?」

(-<_- )「……そうだな」

ペニサスの言葉に思わず目を閉じた弟者の目蓋の裏には、よく知る女性の晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
自分や兄者がしようとしているを考えれば、自分にツンを責める権利は無いと弟者は気付く。

( ´_ゝ`)「よし、じゃあ、早速取り掛かるか。いいな野郎ども?」

ξ;−;)ξ「え?」

兄者の声を張り上げ、高らかに宣言すると、周りからは大きな歓声が上がる。
ツンは一瞬何が起こったかわからず、ペニサスのその豊かな胸から顔を離し、目を擦った。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 00:40:12.51 ID:le0YcFPn0

('、`*川「……まあ、あれだけ怒鳴ってれば、周りには筒抜けでしょうね」

ξう−;)ξ「……」

ξ///)ξ「──なッ!?」

ようやく事態を察したツンが顔を真っ赤に染め、睨み付ける様に見回すが、格納庫にいた面々はニヤニヤと意地の悪い笑みを
浮かべたり、握り拳を見せて応援してくれたりと様々な反応を返す。

('、`*川「大丈夫よ、聞いてたら絶対反対するであろう2人はここにいないからね」

ばつの悪さから今にも怒鳴り散らしそうなツンをペニサスがなだめる。
ペニサスが言う所の絶対反対するであろう2人、内藤とミルナは2人とも基地内にはいない。

ξ//〜/)ξ「むぅ……」

ξ*--)ξ

ξ゚听)ξ「……うん、今はそんな細かい事を気にしてる時間も無いわ」

平素なら恥ずかしさのあまり全員を殴り倒し、その記憶を飛ばす事に努めるだろうツンだが、今はそんな事をしている時間も無い。
ツンの言葉に、その場にいた全員が心得たとばかりに頷く。

( ´_ゝ`)「よし、特急でシュトルヒのコックピットをばらすぞ!」

再び声を張り上げた兄者に応える様に、周りから歓声が上がる。
ツンと内藤を祝福する声もいくつも聞こえ、ツンは照れながらも軽く手を上げて応じた。
そんな普段では絶対見られないようなツンのしおらしい態度に、周りの皆は笑顔を浮かべずに入られなかった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:00:49.30 ID:le0YcFPn0

ξ*゚ぺ)ξ「全くもう……デリカシーの欠片も無い連中なんだから」

('、`*川「まあまあ、それだけあんた達2人の事を気にかけてたって事で許してあげなさいよ」

内藤とツンの2人の仲は、本人達が明言しないだけで実際は島中の公認カップルと思われていた。
しかしながら鈍い内藤と素直じゃないツンの性格が災いし、なかなか進展せず、周りをやきもきさせる事もしばしばであった。
そんな年若い2人を皆は自分の弟妹の様に温かく、今日まで見守り続けて来たのだ。

ξ*--)ξ「そりゃわかってるけどさ……」

('、`*川「はいはい、愚痴は後々」

いつになく幼い振る舞いを見せるツンの姿に、浮かぶ笑みを抑えきれないまま、ペニサスはツンの頭を無造作に撫でる。
想いをぶつけられる相手がいることを、大事にして欲しいと願って。

ξ゚听)ξ「よし、じゃあ、私も組み込みに……」

(´<_` )「いや、それはこっちでやるよ」

既に最新の状態にアップデートされたAIは先ほどツン自身がシュトルヒに組み込んだ。
それをシュトルヒの内装の変更と共に、こちらで移しておくからと弟者はそのくらい自分やると言うツンに
休息を取る事を提案する。

(´<_` )「やると決めたなら後はそれに備え、体調を整えろ。それが今お前のやるべき事だ。違うか?」

ξ゚听)ξ「……ごめん。ありがとう、皆」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:04:28.99 ID:le0YcFPn0

弟者の強めの、しかしやさしい言葉にツンは素直に頷く。
弟者の言う様に自分がやるべき事は他にあるのだ。

('、`*川「んじゃ、休む前に一仕事頼まれてくれないかな?」

(´<_` )「ん? 雑用なら他の誰かにやらせるが……」

('、`*川「チッチッチ、これはツンちゃんにやって欲しい事なの」

ξ゚听)ξ「私に?」

突然の事に、これといって思い当たる節もないツンは首を傾げてペニサスを見る。
ペニサスは左右に振った指をツンに突きつけ、その後エレベーターの方を指差した。

('、`*川「まあ、ある種の家族サービスと……」

ξ゚听)ξ「と?」

('、`*川「私からのプレゼント、って所かしら」

わけがわからないといった顔を見せるツンに、ペニサスは1つの頼み事を伝える。
ツンは綻びそうになる顔を無理やり仏頂面で隠して、了解の意を返した。


 
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:08:09.98 ID:le0YcFPn0



( ^ω^)「お?」

( ゚д゚ )「内藤君か」

ショボンの食堂を出た後、足の向くまま島を巡っていた内藤だが、気付けばいつもの場所に辿り着いていた。
島の西のはずれにある、仲間達が眠る墓に。

内藤はそこで基地司令であるミルナと遭遇した。
葬儀に参列しているミルナの姿は何度も見た事があったが、こうやってここで出会うのは初めての事だ。

墓前には既にいくつもの花束が供えられてある。
今日はミルナだけでなく、何人もの人間がここを訪れたのだろう。
途中で渡辺の店に立ち寄った際にも、渡辺がそんな風な事を言っていたのを内藤は思い出していた。

( ゚д゚ )「君も墓参りかね?」

黒ではないが普段通りきっちりとしたスーツに身を包んだミルナが内藤に尋ねる。
ミルナの普段と変わらぬその姿に、内藤は何となく安心感を覚えていた。

( ^ω^)「はい。それと……」

( ^ω^)「皆にお別れを……」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:11:45.40 ID:le0YcFPn0

何かを押し殺し呟く様に言う内藤に、ミルナは深々と頭を下げる。
まだ10代の子供に、感情を殺す術を教えてしまったのは間違いなく自分達なのだとミルナは申し訳ない気持ちになる。

( -д- )「すまなかったな、君には辛い思いばかりさせて」

( ^ω^)「ミルナさんが謝る話ではないですお」

辛いのは皆同じで、むしろこの決断を下さねばならなかったミルナの方がよっぽど辛かったはずだと内藤は言う。
SAで戦う事にしてもそうだ。
奇しくも先ほどのショボンとの会話と同じ様な話になったが、実際に自分で戦えた方が気持ちは救われていたのだ。

( ゚д゚ )「君は本当に強いな。何だかロマネスクさんと話している様な気にもなるよ」

( ^ω^)「じいちゃんですかお……」

内藤の祖父、ロマネスクはこの島では知らぬ者はいないぐらい有名な人だった。
もっとも、この島の人間の中に知らない人間がいることの方が稀だったのだが、ロマネスクは武術の達人で、島で剣道や
柔道を教えていた。
ミルナも子供の頃にその教えを受けた人間の1人だ。

( ゚д゚ )「私はそちらの方の才能はなかったからね。稽古は苦手だったのだが、ロマネスクさんと話すのは楽しかったよ」

( ^ω^)「そうなんですかお」

内藤の知らない頃のロマネスクの話をミルナは懐かしげに語る。
知らない頃の話ではあるが、そこにいるロマネスクはやはり自分の祖父のなのだと頷ける姿だった。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:14:49.01 ID:le0YcFPn0

( ゚д゚ )「色々と豪快な人だったよ。ああいう人を英傑というのだろうね」

( ^ω^)「英傑かはわかりませんが、豪快通り越して無茶苦茶なとこはありましたおね」

早くに両親をなくした内藤は、幼い頃からロマネスクに育てられた。
思い返せばロマネスクの家に住み始めた頃には既に、木刀を手にしていた記憶がある。
ロマネスクは子育ての一環として、自分が最も得意とする、武術をもってして内藤を育てようとした。

それが正しかったのかどうかはわからないが、少なくとも、今自分が戦う事には役立っていると祖父に感謝している。

( ゚д゚ )「君の強さ、そしてやさしさを見れば、確実に立派に育っているとさ」

( ^ω^)「じいちゃんには感謝してますお」

時に厳しく、時にやさしく自分を育ててくれたロマネスクの事を内藤は好きであった。
その祖父を好いてくれる人が自分の他にもいる事が嬉しかった。

( ゚д゚ )「……君とこうやって普通の話をするのも初めてな気がするね」

( ^ω^)「そう言われるとそうですおね」

仲が悪いというわけではない。お互いが顔を合わせる場面が、基地司令とSA搭乗者としての場面ばかりだっただけだ。
内藤とツンが子供の頃、よく一緒に遊んでいたが、その時ミルナは仕事が忙しく、あまり家に寄り付かない男だった。

( ゚д゚ )「本当はもっと早くに色々と話したい事があったんだがな」

( ゚д゚ )「ツンの事とか」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:20:10.22 ID:le0YcFPn0

( ゚д゚ )「ツンの事とか」

( ゚ д ゚ )「ツンの事とか」

(;^ω^)「いや、ちょ、近い! こっち見んなお」

父親としては自分の娘のほぼ恋人のような内藤に、複雑な思いがあるのは仕方がない事だろう。
ツン本人は否定するが、島の誰もがその仲の良さは知る所である。

( ゚д゚ )「冗談だよ」

(;^ω^)「お……」

( ゚д゚ )「さっきも言ったように、君は強く、そしてやさしい男だ」

( ゚д゚ )「……君になら、ツンを任せられると思ってるよ」

( ^ω^)「ミルナさん……」

( ゚д゚ )「しかし、ツンを泣かせたら許さんからな? ……まあ、私が言えた義理はないのだが」

若い頃は仕事ばかりで家庭を顧みなかった自分の姿を思い返し、ミルナは自嘲気味に呟く。
妻を亡くして以降は、悔い改め、家庭的な人間になろうともしてみたが、結局ツンとの溝は埋められなかったのではないかと
後悔している。

( ^ω^)「……すみませんお。ツンには、僕の代わりに泣いてもらってますお」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:25:07.43 ID:le0YcFPn0

( ゚д゚ )「え……?」

( ^ω^)「ツンは泣けない僕の代わりに泣いてくれる、やさしい子ですお」

( ゚д゚ )「代わりに……」

( -д- )「そうか……」

目の前の少年が、ずっと笑顔を絶やさずにいられる理由をミルナは悟った。
1人ではないから強くいられるのだと。

( -ω-)「すみませんお」

( ゚д゚ )「いや、君が謝る話じゃないさ。むしろ、自分の娘のやさしさを誇るべき所なんだろうね」

( -д- )「すまない、我々大人が不甲斐ないばっかりに……」

互いに目を閉じ、謝罪の言葉を述べる。
自分だけの力ではどうにもならない事だとわかっていても、関わっている自分がいるなら申し訳なく思ってしまう。
自分がもっと強ければ、島の皆はそんな思いをずっと抱えて戦って来た。

ミルナは内藤の方へ足を踏み出し、その方に両手を乗せた。

( ゚д゚ )「約束してくれ内藤君、いや、ホライゾン君」

( ゚д゚ )「平和になった暁には、絶対にツンを泣かせる事のない日々を送ってくれ」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:29:11.30 ID:le0YcFPn0

( ゚д゚ )「そして、私に何かあったらツンの事をよろしく頼む」

( ^ω^)「お断りしますお」

(;゚д゚ )「そうか……って、えー!? そこで断っちゃうの?」

まさかの拒否の言葉に、思わず前のめりに倒れそうになるミルナを受け止め、内藤は笑顔で言葉を続ける。

( ^ω^)「前者はともかく、後者は聞けませんお」

( ^ω^)「ミルナさんもちゃんと一緒に平和な世界を生きるんですお」

( ^ω^)「一緒に、ツンの事を見守って行きましょうお」

( ゚д゚ )「……ホライゾン君」

( ^ω^)「皆を守りますお」

( ^ω^)「僕は島を、この島を守れなかったから……」

( ^ω^)「だから絶対に、今度こそ皆を守りますお」

( ゚д゚ )「ありがとう……」

( ^ω^)「約束ですお」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:35:27.82 ID:le0YcFPn0

ξ;゚听)ξ「男同士で何抱き合ってんのよ?」

(:^ω^)「お? いや……」

(;゚д゚ )「あれ? ツンちゃん? どうしてここに?」

突然現れたツンの姿に、ミルナは慌てて内藤を押す様な形で勢いよく離れる。
あまりに勢いが良すぎて、墓石で転ぶミルナの姿をツンは覚めた目で見詰める。

ξ゚听)ξ「何してたのよ?」

(:^ω^)「いや、まあ、何と言うか男同士の会話を……」

更なる誤解を招きそうな内藤の言葉にツンは眉をひそめ、ミルナの方を再び見やる。
ようやく立ち上がり、ズボンに付いた草を払うミルナの姿に溜息を吐いた。

( ^ω^)「ツンはどうしてここに?」

ξ゚听)ξ「職場放棄した基地司令を迎えによ」

そう言って墓地の入り口の方を親指で指差す。
それに応じる様に、軽自動車からクラクションが鳴らされた。

( ^ω^)「ああ……」

内藤はどこと無く、ツンの様子が少しおかしい事に気付いてはいたが、敢えてそれを口にする事はしなかった。
状況が状況だけに、思うことは多々あるだろうし、心やさしいこの幼馴染なら、それで物寂しい気持ちになる事もあると思い、
普段通り何事も無かったように振舞う事にした。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 01:39:40.67 ID:le0YcFPn0

ξ゚听)ξ「というわけでお父さん、ペニサスさんが探してたわよ?」

( ゚д゚ )「ん、ああ、もうそんな時間か。すまないな」

ミルナは腕時計に目を落とし、ツンの方に軽く謝罪した。
しかしその顔は、自分を迎えに来てくれたのがツンであった事に喜びを隠し切れないのか、笑顔が浮かんでいた。

( ゚д゚ )「わざわざありがとう、ツン」

ξ--)ξ「そんなのはいいから、早く戻ってあげなさいな。お父さんがいないと決められない事もあるんでしょ?」

心なしかツンの言葉が普段より柔らかく聞こえるのは、きっと気の所為ではないのだろう。
ツンも父であるミルナ事を嫌っているわけではないのだが、小さい頃に疎遠だった事や、意地っ張りな自身の性格が
災いして、自分でもどういう態度で接していいかよくわかってないだけなのだ。

( ゚д゚ )「ああ、そうするよ。……しかし、そうしていると母さんにそっくりだな」

ξ;゚听)ξ「と、突然何よ?」

自身の負い目からか、普段はミルナの方から亡くなった妻、ツンの母親の話をする事は少ない。
そのミルナが母の話を持ち出した事で、ツンは動揺して言葉を詰まらせた。

( ゚д゚ )「いや、ただ、立派に育ってくれた、という事だけさ。ありがとう」

ξ;゚听)ξ「何それ、急に言われてもわけわかんないんだけど?」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 02:00:33.30 ID:le0YcFPn0

ξ--)ξ「それに、本来なら礼を言うのは育ててもらった私の方でしょ? ……ありがとう、お父さん」

( ゚д゚ )「……ツン」

(*゚д゚ )「そこはパパと呼んでくれないかな?」

ξ#゚听)ξ「うるさい、調子に乗るな! さっさと車に乗りなさいよ!」

ツンはミルナを押しやる様に車の後部座席に押し込む。
内藤は、照れ隠しにしてはいささか乱暴だなとその様子を笑顔で眺めていた。

ξ#゚听)ξ「何、ニヤニヤしてんのよ?」

( ^ω^)「お? これが僕の普通の顔だお?」

平然と答える内藤をツンが小突く。
今度はその様子を見たミルナが微笑む番だった。

( ^ω^)「さあ、ツンも車に乗るお。僕は自転車だからそれに乗って帰るお」

ξ゚听)ξ「え、あ、そうね……」

内藤の言葉に一瞬寂しげな表情を浮かべるツン。
内藤はそれに気付く事無く、助手席のドアに手を掛けた。

( ^ω^)「お?」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 02:03:37.72 ID:le0YcFPn0

内藤がドアを開けようとノブを引くが、鍵がかかっているようでドアは開かない。
内藤は助手席の窓をコンコンと叩き、その事を運転席の人物に伝えようとする。

ミセ*゚д゚)リノ「悪い、の○太、この車、2人乗りなんだ」

(;^ω^)「は?」

運転席にいた人物、ミセリは助手席の窓を開け、窓から身を乗り出して開口一番、そんな事を言い出した。
そしてそのまま、運転席に戻り車のエンジンをかける。

(;^ω^)「ちょ、いや、どう見ても4人は乗れる車……って、危な!?」

ミセ*゚∀゚)リ「イヤッホゥッ!」

内藤がまだ抗議を続けているのもかまわず、ミセリは車をバックで急発進させる。
内藤は思わずその場から後方に飛び退った。

ミセ*゚д゚)リノシ「んじゃ、まったねー! あ、司令、飛ばしますからしっかり掴まっててくださいね?」

(;゚д゚ )「え? いや、安全運転でよろしくゥ────ッ!?」

ミルナのか細い叫びを残し、車は一気に坂を走り降りていく。
内藤が自分を取り戻した時には、既に車の姿は影も形も見えなくなっていた。

(;^ω^)「何だったんだお、一体……」

ξ;--)ξ「あの馬鹿は……」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 02:06:54.12 ID:le0YcFPn0

ξ゚听)ξ「まあ、でも、かえって良かったわ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「ミセリの運転は終始あんな感じだからね。正直乗りたくなかったのよ」

ミセリは運転荒いしスピード狂だからと、疲れた様に溜息を吐くツンに、内藤は納得がいった様に頷いた。

ξ*--)ξ「その、良かったっていうのは、あんたの自転車の後ろの方がまだマシだったからよ。それだけだからね」

ミセリがツンをこの場に残した事と、ミセリがスピード狂である事は直接的に繋がらないのだが、内藤はそんな事を
気にするでもなく再び頷く。

内藤とツンは2人並んで全ての墓に祈りを捧げ、別れを告げる。
その名を呼び、思い出を語り、感謝の笑顔を向けた。
今は前に進む為に、悲しみは胸に秘め、強い想いだけを受け継いで。

( ^ω^)「僕は……僕達はきっと皆を守りますお」

( ^ω^)「そしていつかここに帰って来ますお」

( ^ω^)「だから今は、笑って見送ってくださいお」

決意の言葉をはっきりと述べる内藤の腕を、傍らのツンは強く握る。
内藤の決意を守る為、自分はこの手を掴むのだと。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 02:11:17.88 ID:le0YcFPn0

( ^ω^)「んじゃ、帰るかお。家でいいのかお?」

ξ゚听)ξ「晩御飯……にはまだちょっと早いけど、あんた、今日はどうするの?」

( ^ω^)「食べるお」

ξ;゚听)ξ「それは聞くまでも無くわかってるわよ。どこで食べるのか聞いてるの」

( ^ω^)「特に考えてなかったお」

ξ゚听)ξ「それじゃ、私が作ってあげようか?」

( ^ω^)「それはありがたいお。是非お願いするお」

ξ*゚听)ξ「そう? じゃあ、少し時間も早いし、ゆっくり目に帰ってお腹を空かせましょうか」

( ^ω^)「おk、折角だから海でも見ながらゆっくり帰るお」

ξ゚ー゚)ξ「いいわね、そうしましょうか」

内藤とツンは並んで自転車の方へ向かう。
幾度と無く繰り返した行動だが、恐らくこれが最後になるのだろうと内藤は理解していた。

( ^ω^)(いや、これで最後にはしないお……)

いつかフェイスとの戦いを終わらせ、またこの島に帰って来るのだ。
内藤は先ほど仲間の前で誓った決意を、心の中で口にした。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/19(日) 02:14:17.67 ID:le0YcFPn0

( ^ω^)「乗ったかお? それじゃ、行くお」

内藤はツンが自分の背に掴まったのを確認すると、自転車をゆっくりと走らせた。
灰一面の冬の曇り空の下、2人は冷たい風に包まれ、坂道を下る。

ξ゚听)ξ「流石に風が冷たいわね」

( ^ω^)「もっとくっつけば風当たんないお」

ξ*゚听)ξ「そ、そうね……」

内藤の言葉に、ツンはその背中に顔を埋める様にしがみつく。
これまで守って来てくれたこの背中を、今度は自分が守る番だと、ツンは両腕に力を込めた。

(;^ω^)「ちょ、苦しいお。締め過ぎだお」

ξ;゚听)ξ「あ、ごめん。つい……」

ツンは腕の力を緩め、顔を上げる。
その大きな背中は、確かな現実感を持って目の前にある。

ξ*--)ξ(今度は私が……絶対に守るから……)

ツンは自分の大切なものを決して見失わないよう、しっかりとその目に焼き付けた。



    ( ^ω^)は島を守るようです  後々々々々編 終わり


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