( ^ω^)は島を守るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/19(月) 22:34:10.70 ID:feoVABiLO
 
( うω`)「んお……」
 
いつもとは少し違う空気の朝に、内藤は目を覚ました。
正しくは、いつもと変わらないはずの朝なのだが、何となく内藤がそう感じただけだった。
 
( ^ω^)「祭りの空気だおね……」
 
祭りの前日、島の多くの人々がその準備に当たっている。
いくら小さい島とはいえ、町の中心から少し離れた内藤の家までその喧騒が伝わってくるはずはないのだが、
言葉通り、島の空気がいつもと違うのを内藤は感じ取っていた。
 
( ^ω^)「さて、起きるかお」
 
時刻は午前十時。
学校が休みとはいえ、いささか遅い起床だ。
 
顔を洗い、簡単な朝食を取った内藤は、居間に座ったまま考える。
 
( ^ω^)「……起きたはいいけど、どうするかお」
 
本来なら、島の若者であるはずの内藤は祭りの設営を手伝うつもりだったが、その申し出は丁重に断られた。
その理由の一つは、非常時に備える為。
もう一つは、設営で怪我等をされるのを恐れた為だ。
 
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:36:22.71 ID:feoVABiLO
 
そういった答えが、島の人々、祭りの実行委員から返って来た。
なるべく内藤を皆と同じに扱うと決めたミルナ達だが、島の防衛に関わる問題であれば首を立てに振らざるを得ない。
 
同じく、祭りの手伝いから外されたジョルジュたちが言うには、それも気を使われているだけだとの事だった。
祭りぐらいは雑用などせず、楽しんで欲しいからだと。
 
祭りは皆と準備する時間が楽しいのもあるんだが、とジョルジュは少し残念そうに笑っていたが、確かに頷ける意見であった。
だが同時に、島の皆の心遣いに感謝を覚えたのも事実だ。
 
( ^ω^)「基地にでも行くかお……」
 
他にやる事がないわけでもないが、皆がこの暑さの中、額に汗して働いているのだから自分も最低限の務めは果たそうと
内藤は立ち上がった。
 
有事に備える。
それが自分の努めだと。
 
( ^ω^)「祭りぐらい平和にすごさせて欲しいもんだお」
 
言葉の通じない相手に言っても仕方のないことだと、内藤は首を振る。
玄関のドアを開け、内藤は照りつける日差しの中を歩き出した。
 
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:38:24.13 ID:feoVABiLO
 
 
 
( ^ω^)「お?」
 
('A`)「ん?」
 
祭りの喧騒から遠ざかるように基地を目指す途中、内藤は見慣れた小さな背中を見つけた。
内藤よりはだいぶ年上のドクオだが、背こそ高いものの肉付きは明らかに内藤に大きく劣る。
 
( ^ω^)「ドクオさん、おいすー」
 
('A`)「ああ、内藤か。お前も基地に?」
 
( ^ω^)「お前もって、ドクオさんもですかお?」
 
ドクオは今日の祭りに焼きそばの屋台を出店するはずだ。
当然、その準備に追われているものだと内藤は思っていた。
 
('A`)「行くよ、午後から」
 
なんでも、店自体の設営は島の皆がやってくれる事になったらしい。
理由は内藤のそれと同じだ。
流石に実際の食材の準備などは自分でやるので午後から向かうらしい。
 
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:40:05.65 ID:feoVABiLO
 
('A`)「その前に一応顔出しとかないとな」
 
非常時に備えるのも仕事だからとドクオは言う。
ドクオは平時も食堂勤務の合間に格納庫に機体を確かめに行っている。
整備部の腕を信用していないとかではなく、自分の目で機体を見ておきたいだけなのだと。
 
自分の生命をを預ける機体を。
 
2人は並んで基地に向かって歩く。
話題は必然的に祭りの話になるが、これまでも毎日の様に試食に訪れていた内藤は、これといって目新しい話もない。
焼きそばの出来に関しても、一応は商品になるぐらいには漕ぎ着けられたのではないかと内藤は思っている。
 
('A`)「まあ、何でも食っちまうお前に保障されてもな……」
 
(;^ω^)「ひどス」
 
冗談だと、ドクオは笑う。
ドクオは内藤に多大な感謝をしていた。
 
元々、人付き合いが上手くはないドクオにとって、人見知りをしない人当たりの良い内藤はこの島に来た当初からさほど
気兼ねなく話せた唯一の存在といっても過言ではない。
その内藤を通じて、他の人間ともいつの間にか普通に話せるようになっていた。
 
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:43:05.60 ID:feoVABiLO
 
内藤がいなかったとしても、この島の人間は自分を受け入れてくれるような人ばかりではあっただろうが、ドクオ自身が
進んで馴染む努力はしなかっただろう。
 
内藤がいたからこそ、ドクオは自然に自分がこの島の一員になれたと思っている。
 
('A`)「そういやお前、今日の祭りは誰と回るんだ?」
 
( ^ω^)「お? みんなと回るお?」
 
('A`)「……クラスのか」
 
予想通りといえば予想通りの答えにドクオは曖昧にうなずいた。
ほんのわずか違う答えを期待もしたが、やはり内藤に限ってそれはないようだ。
 
('A`)「あー……、その誰かと2人で回る約束とかはしてたりしないのか?」
 
望みは薄いと思いつつも、自分の気持ちを知り、さり気なく応援してくれている彼女のために、
ドクオは敢えて聞いてみることにした。
 
( ^ω^)「お? 誰とだお?」
 
('A`)「うん……、わかった。今のは聞かなかったことにしてくれ」
 
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:46:02.33 ID:feoVABiLO
 
ドクオは軽く頭を振り、話題を変えるべく別の話を振ることにした。
しかしながら島全体の空気がそうさせるのか、気づけばいつしか祭りの話になってしまっている。
 
( ^ω^)「目標、全出店制覇だお!」
 
(;'A`)「さすがにそれは腹壊すだろ……」
 
ほどなくして基地にたどり着いた2人はカードキーを差し、エレベーターで格納庫に降りる。
格納庫にたどり着くとすぐに、鳴り響く機械の駆動音に混じっていつもの陽気な声が2人を迎えた。
 
( ´_ゝ`)「よう、2人で来るとは珍しいな」
 
(´<_` )「というか、祭りの準備はいいのか、ドクオ?」
 
普段よりは静かに感じられるのは、恐らくここからも祭りの準備に狩りだされているからなのだろう。
 
('A`)「午後から」
 
それまでに機体を見ておきたいと、内藤にしたのと同じ説明を2人にも告げる。
兄者達もドクオがそうしたい気持ちは十分に理解しているので、整備の状況の説明を弟者が始めた。
 
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:49:08.15 ID:feoVABiLO
 
(´<_` )「……こちらとしては万全だとしか言い様はないんだがな」
 
('A`)「だろうな。その点は信用してるよ」
 
2人連れ立ち、何事かを話しながらクレーエの元へ歩いて行く。
そんな2人の様子を見て、残された兄者は肩をすくめて内藤に話しかける。
 
( ´_ゝ`)「あいつらは少々真面目すぎるよな」
 
( ^ω^)「そうですおね。でも、丁度良いバランスですお」
 
弟者に比べてかなり楽天家を通り越した兄者はもとより、自分を始めとしてSAの搭乗者は皆どちらかと言えば
大雑把で適当な人間が多いと内藤は思っている。
1人ぐらいドクオの様に神経質すぎるくらい慎重に考える人間がいた方がバランスが良い。
  _
( ゚∀゚)「中々言うじゃねーか。まあ、俺もその意見には賛成だが」
 
いつかと同じ様に手に持っていた缶コーヒーを投げ渡しながら、ジョルジュが内藤に声をかける。
ジョルジュもまた、内藤と同じく今日は暇を持て余しているらしい。
配達の仕事も、ほとんどの人間が祭りに集まる今日は必要がないということだ。
 
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:52:03.68 ID:feoVABiLO
 
( ´_ゝ`)「俺の分は?」
  _
( ゚∀゚)「ちゃんとあるから心配すんな」
 
そろそろ来る頃だろうからと、内藤やドクオの分まで買って来たとジョルジュは缶コーヒーを1本兄者に手渡した。
 
( ^ω^)「今日はハインさんは?」
  _
( ゚∀゚)「ん? ああ、あいつは祭りの準備」
 
( ^ω^)「お? 何か手伝ってるんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「いや、そういうんじゃなくて……ってか、ツンと一緒じゃねーの?」
 
ジョルジュの言葉に首を傾げる内藤。
ツンが他の同級生と同じく祭りの手伝いをするのならわかるが、自分と同じSA搭乗者のハインリッヒは手伝いから
外されているものだと内藤は考えていた。
 
(´<_` )「自分の準備、身支度だろ?」
 
('A`)「ツンからも聞いてるだろ?」
 
( ^ω^)「おー?」
 
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:55:13.59 ID:feoVABiLO
 
( ´_ゝ`)「俺の分は?」
  _
( ゚∀゚)「ちゃんとあるから心配すんな」
 
そろそろ来る頃だろうからと、内藤やドクオの分まで買って来たとジョルジュは缶コーヒーを1本兄者に手渡した。
 
クレーエの確認から戻って来た弟者とドクオが話を引き継ぐが、内藤は未だ話を理解出来ていない。
ジョルジュからコーヒーを受け取ったドクオは呆れた様子で言葉を続ける。
 
('A`)「ツンは言ってなかったか? 浴衣の話」
 
( ^ω^)「ゆか……た?」
 
(;'A`)「お前……俺の店でツンが話してたじゃねーか」
 
本当に覚えていない様子の内藤にドクオは呆れるを通り越して気の毒そうな視線を向ける。
最も、その支援を向ける相手は本来ならその話を忘れられた彼女に向けるべきかもしれない。
 
(´<_` )「今年は浴衣を新調するんだって、ツンちゃん嬉しそうだったな」
  _
( ゚∀゚)「そう、それ。新調って言っても、渡辺のばあちゃんのお古を仕立て直すとからしいけどな」
 
( ´_ゝ`)「女の子はそういうの好きだよな」
 
( ^ω^)「……」
 
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:00:15.54 ID:feoVABiLO
 
('A`)「……思い出したか?」
 
(;^ω^)「そんな話もあったような……」
 
明らかに覚えてない顔で答えた内藤に、その場にいた全員が深いため息をついた。
  _
( ゚∀゚)「お前はホントに駄目だな」
 
('A`)「ああ、駄目だな」
 
( ´_ゝ`)「駄目過ぎる」
 
(;^ω^)「お? なんだお? そんなに駄目かお?」
 
(´<_` )「まあ、お前は色気より食い気だよな」
 
弟者の言葉に内藤を除く皆は深く頷いた。
そんな皆の様子に内藤は首を大きく傾け、わけがわからないといった顔をしてみせたが、誰もその理由を
説明することないまま、話は別の方向へ流れていった。
 
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:01:56.97 ID:feoVABiLO
  _
( ゚∀゚)「んな事よりあれだ。俺のシュヴァルベをもっと速くしてくれよ」
 
( ´_ゝ`)「あれ以上は無理だ。速度を上げるなら出力を上げなきゃならん」
 
(´<_` )「出力を上げるためにはメインエンジンを拡張しなければならない」
 
その為には、機体のフレーム自体を大きくしなければならないと兄者の言葉を引き継いだ弟者は言う。
そうすると必然的に大きくした分の重量で速度は落ちる事になり、結果的には大差がないということらしい。
  _
( ゚∀゚)「んだよ、しけてんな……」
 
(´<_` )「今でも結構ギリギリなんだよ。というか、あれ以上出力を上げるとお前にかかる負荷が大き過ぎるしな」
  _
( ゚∀゚)「おいおい、俺様をなめてもらっちゃ困るぜ?」
 
ジョルジュは常日頃から鍛えているので平気だと主張するが、そういう次元の話ではないと弟者は切り捨てる。
 
( ´_ゝ`)「まあ、これ以上速くするなら機体のフォルムを整えて、空気抵抗を減らすぐらいが関の山だろうな」
 
ジョルジュのシュヴァルベは、その運用の目的上、既にかなり鋭角的なデザインになっている。
その名前が示す燕のさながらに。
 
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:04:20.11 ID:feoVABiLO
  _
( ゚∀゚)「それだ! もっと尖らせればいいんじゃね?」
 
(´<_` )「……善処はしよう。しかし、それも装甲強度との兼ね合いでだな」
  _
( ゚∀゚)「どうせ被弾しない事前提なんだ。細かい事は気にすんじゃねーよ」
 
ジョルジュの物言いに弟者は渋面で難色を示す。
確かにジョルジュが言うように、シュヴァルベは回避を基本とした防御手段を想定して設計されているが、
それでも搭乗者の生命を守る最低限の強度は必要である。
 
しかし悩む弟者を余所に、兄者はいつも通りの軽い調子でジョルジュに返事をする。
 
( ´_ゝ`)「OK、前向きに考えておくよ」
  _
( ゚∀゚)「おお、流石兄者。話がわかんじゃねーか」
 
(´<_` )「おい、兄者、そんな安請け合いしていいのか?」
 
兄者も自分が何で返事を渋ったかわかってはいるはずだと弟者は思う。
それに加え、既にほぼ限界まで特化された機体が多少手を加えた所でそれほど劇的にスペックの向上が図れるとは思えない。
こうも簡単に肯定の返事を返した兄者の真意が弟者にはわからずにいた。
 
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:07:04.67 ID:feoVABiLO
 
( ´_ゝ`)「まあ、実際の話、それほど削れるとこはないし、大して効果は望めないかもしれんが……」
 
(´<_` )「しれんが?」
 
( ´_ゝ`)「こういうのは搭乗者の気分の問題じゃね?」
 
兄者が言うには、可能な限り搭乗者が望むように整備を施し、気分良く送り出す事が自分達の仕事ではないかということだ。
機械といっても最終的には人が動かすものだ。
その力を最大限発揮させるためには、人側のテンションも高めてやるべきだろうと主張する。
 
(´<_` )「なるほど……言いたい事はわからんでもないが……」
 
非科学的というか何と言うかと、弟者はぼやくように呟く。
機体の開発や設計、整備に携わり、論理的、科学的に考える事を旨とする弟者には若干以上理解しがたい考えではあった。
無論、人間側の習熟度が機体の操作に関わる事は理解できてはいたが。
 
( ^ω^)「でも、間違いではないと思いますお」
 
気分的な問題は意外と大きいと思う、内藤はそう言って頷いた。
それまで口を挟まず聞いていた内藤までもが兄者の意見を支持したのを見て、弟者は肩をすくめ、ジョルジュに、善処する
と短く答えた。
 
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:09:05.16 ID:feoVABiLO
 
('A`)「根性論だな」
  _
( ゚∀゚)「おう、こういうもんは気合で何とかなるもんだろ?」
 
( ´_ゝ`)「ああ、気力があれば分身して避けれたり、必殺技が使えたりするもんだ」
 
(´<_`;)「兄者よ、そのどこの世界の理屈かわからん話は止めておけ」
 
( ^ω^)「おっおっお」
 
内藤達の話はいつしか趣味の話、日常の話と逸れて行き、内藤の成績の話、ドクオの店の客、ジョルジュの運転の話など、
たわいもない事で盛り上がった。
 
そこにある笑顔はごく当たり前の若者のそれで、明日をも知れない自分達の置かれた境遇を感じさせないものだった。
 
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:11:06.53 ID:feoVABiLO
 
 
 
( <●><●>)「ようやく開催ですね……」
 
(;゚д゚ )「……そうだな」
 
ワカッテマスは資料を挟んだボードを左手に抱えたままブリッジの窓から島を眺め、いつも通りの落ち着いた声でミルナに話しかけた。
応じるミルナの顔が若干強張っているのは、ワカッテマスがいつものスーツ姿ではなく、オレンジを基調としたアロハに短パン、
サンダル履きといういささか場にそぐわない格好をしているからであろう。
 
( <●><●>)「どうかされましたか?」
 
(;゚д゚ )「いや、どうと言うか何と言うか……」
 
1週間前の放送での微妙な砕け具合が評価されたワカッテマスは、それならばと率先して祭りの盛り上げ役として実行委員を
買って出た。
 
この1週間、ワカッテマスは基地で執務をこなす傍ら、祭りの運営に関しても様々な事に尽力してきた。
そしてその中で、祭りにもっとも大事なのは空気を盛り上げる事だという結論に至ったわけである。
 
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:13:51.12 ID:feoVABiLO
 
( <●><●>)「そろそろ見慣れた頃ではないのですか?」
 
(;゚д゚ )「そうかもしれんが……、やはり君がとなるとどうにもな……」
 
ミルナの言わんとする事を理解しているワカッテマスは、空いている方の右手を上げ、アロハの袖を軽く振って見せた。
まずは形からという考えの元、ワカッテマスがこの格好をしてから既に5日ほどは経過している。
元々制服などあるわけでもないが、皆それなりにフォーマルな格好をしている基地内では当初はひどく場違いに見えたものだ。
 
特にプライベートでもスーツ姿しか目撃された事のないワカッテマスのアロハ姿が与えた衝撃はかなりのものだった。
 
しかしながら、ワカッテマスの考え、祭りを盛り上げようと努力している姿勢を基地の皆は理解し、次第に他の職員もワカッテマス
程ではないにしろ、明るめでラフな格好をして来るようになった。
 
今ではきちっとしたスーツ姿をしているのはミルナとトソンぐらいなものだ。
 
( <●><●>)「無論、祭りが終われば元に戻しますよ?」
 
( ゚д゚ )「まあ、別に仕事に差し障りがあるわけでもないのだから構わないんだがな」
 
( <●><●>)「いえ、形から入る事で空気を作るのも有効だと今回の事で学びましたしね」
 
この姿は今日までですとワカッテマスは言う。
ミルナは無言で頷いた。
 
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:16:55.17 ID:feoVABiLO

( <●><●>)「……次に着るのは、また来年ですよ」
 
( ゚д゚ )「……そうだな、また……来年だな」
 
また来年、ワカッテマスは口調を強めそう宣言した。
きっとまた、来年も祭りが開催出来るのだと、自分達には未来があるのだと、ワカッテマスは言う。
 
決して明るいとは言えない先行きの不安を、今この時は誰にも感じさせてはいけないと、そう思ってこの一週間、空気を作ってきたのだ。
今日のこの日のために。
 
( ゚д゚ )「また来年も、必ず祭りを開こう」
 
( <●><●>)「ええ、必ず」
 
2人は顔を見合わせ、軽く笑う。
傍から見れば無表情の2人が見詰め合っているだけだが、それなりに親しいものが見れば、2人が笑っているのだと気付く事だろう。
 
( <●><●>)「……というわけで、司令もこれを着ませんか?」
 
そう言ってワカッテマスはいつから手にしていたのか、右手に持ったアロハをミルナに差し出す。
ワカッテマスとお揃いのオレンジ色のアロハ。
ミルナ用にサイズはちゃんと合わせてある。
 
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:19:31.38 ID:feoVABiLO
 
(;゚д゚ )「え……いや、だから私はいいと……」
 
( <●><●>)「せっかくのお祭りなんですから、トップがそんなお堅い格好では空気が重くなりますよ?」
 
ワカッテマスは右手を伸ばし、アロハをミルナの胸元に近付ける。
ミルナは一歩後退り、アロハをワカッテマスに押し返す。
 
( <へ><へ>)「そんな照れないでくださいよ。確かにちょっと想像出来ませんが、着てみれば意外と似合うかもしれませんよ?」
 
(;゚д゚ )「いや、照れてるわけでは……というか似合わない前提なの?」
 
笑顔で詰め寄るワカッテマスにじりじりと後退るミルナ。
これはこれでそれぞれ平穏な一時を楽しんでいるのかもしれない。
 
(;゚д゚ )「来年! 来年着るから!」
 
( <へ><へ>)「善は急げですよ。それに来年の事を言えば鬼が笑います」
 
(;゚д゚ )「え、さっき君も来年の話してたよね?」
 
少なくとも、今は戦いの事など考えずに済んでいるのだろうから。
きっとまた来る未来を信じていられるのだから。
 
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:21:13.63 ID:feoVABiLO
 
 
 
( ^ω^)「……遅いお」
 
(´・ω・`)「女の子は準備に時間がかかるものさ」
 
空が茜色に染まる頃、内藤はショボンと共に学校の門の前に佇んでいた。
既に町の中心部辺りからは祭囃子が鳴り響いて来ていた。
島全体が忙しない、しかし、賑やかで陽気な空気に包まれている。
 
落ち着いた様子のショボンと、気もそぞろな内藤。
対照的な空気を纏い、2人は約束の人物達が来るはずの方向を見つめている。
 
( ^ω^)「……焼きそば、お好み焼き、大判焼き──」
 
(;´・ω・`)「ちゃんと皆ブーンの分は用意してくれてるから大丈夫だって」
 
内藤の呟きが耳に入ったショボンはやんわりと内藤をなだめる。
このお祭りを待ち望んでいたという点では、内藤はこの島でも1、2を争うほどだろう。
主に夜店の食べ物という一点だけではあるが。
 
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:23:45.81 ID:feoVABiLO
 
川д川「こんばんはー」
 
( ><)「こんばんはなんです!」
 
o川*゚ー゚)o「ちーっす」
 
(;´・ω・`)「やあ、待ってたよ」
 
再び内藤の方から呟きが聞こえ出した頃に、待ち望んでいたクラスメートや下級生達の姿が見えた。
ショボンはホッと胸を撫で下ろし、そちらの方に目を向ける。
 
貞子を始め、下級生達も皆一様に涼しげな浴衣姿だ。
ショボンや内藤も例外ではなく、それぞれに浴衣を着用している。
 
(´・ω・`)「あれ? ツンは……」
 
ツンの姿が見当たらない事に気づいたショボンが貞子に声をかけるが、返事は貞子からではなく、少し離れた
暗がりの中から届く。
 
ξ゚?゚)ξ「待たせたわね」
 
ショボンが声の方に目を向けると、何故か少し離れた位置で止まっているツンの姿が見えた。
考えずとも何となく理由を察せられたショボンは、それとなく内藤の方を目で示唆した。
 
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:26:43.23 ID:feoVABiLO
 
(*^ω^)ノシ「おー! 皆早く行くおー!」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
(;´・ω・`)「……」
 
しかし内藤は既に門の前を離れ、駆け出さんばかりの勢いで町の中心部の方へ向けて足踏みをしている。
 
(;´・ω・`)「ええと……その……」
 
ξ゚听)ξ
 
(;´・ω・`)「その浴衣、すごく似合ってるね」
 
ξ゚听)ξ「そう……ありがとう……」
 
(;´・ω・`)「ぼ、僕達も行こうか?」
 
ξ゚?゚)ξ「そうね。夜店の食べ物が全部あのバカに食べられる前に行きましょうかね」
 
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:30:14.06 ID:feoVABiLO
 
そう言ってツンはサンダル履きとは思えぬ速さでショボンに視線を合わせることなく歩いて行く。
ショボンは大きなため息をつき、心の中で内藤に恨み言を言いながらその後を追った。
 
(*><)「お祭り、すっごく楽しみだったんです!」
 
(*^ω^)「僕もだお!」
 
o川*゚ー゚)o「何から行く?」
 
(*^ω^)「そうだおね、お好み焼き……も捨てがたいけど、やっぱり焼きそば……」
 
下級生達と楽しそうに前を歩く内藤を見ながら、貞子はようやく追いついてきたショボンに声をかける。
 
川д川「花より団子の見本だよね、お疲れ様」
 
(;´・ω・`)「わかってたなら向こうの方をフォローして欲しかったな……」
 
向こうの方と言いながら、ショボンは目でツンの方を示す。
自分がなだめるより、貞子がなだめた方がもう少しマシな結果になっていたはずだとショボンは思う。
 
川д川「まあ、ほっとけばいいって」
 
あの2人ならどうせ勝手に上手く行くのだからと貞子は言う。
 
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:34:20.54 ID:feoVABiLO
 
(´・ω・`)「そうなんだろうけどね……」
 
ケンカをしても、というよりは内藤がツンの機嫌を損ねるだけなのだが、気付けばいつの間にかいつも通り仲良く話している。
そんな2人の関係を、ショボンはこの1年間ずっとそばで見てきた。
 
(´・ω・`)「性格なんだろうね」
 
いらぬ世話を焼いてしまうのは、と自嘲気味にショボンは笑う。
そんなショボンに、貞子は笑みを浮かべて言う。
 
川ー川「友達思いの良い性格だと思うよ?」
 
(´・ω・`)「ありがとう」
 
2人並び、微妙な距離を保ちつつ内藤達の後を追う。
祭りの喧騒が2人の耳にも段々とはっきり聞こえるようになって来た。
 
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:37:07.19 ID:feoVABiLO
 
 
 
(;'A`)「はい、焼きそば3つお待たせ」
 
笛や太鼓の音が響く中、ドクオは額に汗を浮かべながら焼きそばを作り続けていた。
それほど多いはずはない島の人口だが、そのほとんどが祭りに来ているのではと錯覚するほどの賑わいだ。
 
(;'A`)「はい、2つですね。少々お待ちを」
 
中でも、ドクオの店はかなり繁盛していた。
 
今回、唯一SA搭乗者で店を出しているという事もあるが、普段店に来る常連客は元より、多くの島民が感謝と激励、
それと物珍しさを兼ねて足を運んでいた。
 
( ^ω^)「おー、すごい繁盛してるおね」
 
ξ゚?゚)ξ「へー、意外ね……」
 
('A`)「何だ、お前らか。何しに来たんだ? 冷やかしなら帰ってくれ。見ての通り忙しいんだ」
 
憎まれ口を叩きながらも手を止める事のないドクオ。
少なくとも、何とか商品になるだけの見た目は保てているようだ。
 
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:40:08.59 ID:feoVABiLO
 
( ^ω^)「何しにって、焼きそば食べに来たに決まってるお!」
 
('A`)「お前……あんだけ試食してんだから、他の店で食えば良いだろ?」
 
(´・ω・`)「まあまあ、そう言わずにね、やっぱり祭りの雰囲気の中で食べたいからね」
 
そう言いつつも少し嬉しそうな表情が浮かんだ事にショボンは気付いていた。
今回の事でドクオが内藤達に並ならぬ感謝の念を抱いている事は言われずともわかっている。
 
(´・ω・`)「この子達にも食べさせてあげたいしね」
 
そう言ってショボンは傍らでドクオの調理を興味深げに眺めていた下級生達を指し示す。
 
(*><)「上手なんです!」
 
o川*゚ー゚)o「美味そうな匂いー」
 
('A`)「……仕方ねえな、前のお客さんの焼き終わるまで待ってろ」
 
(*^ω^)「お! わかったお」
 
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:43:11.75 ID:feoVABiLO
 
それからしばらくして出来あがった焼きそばを、ドクオはおごりだと言って内藤達に手渡した。
流石にそれは悪いと内藤達は言うが、子供が遠慮をするなとドクオは押し付ける。
 
それが内藤へのドクオの感謝の気持ちなのだと、当の本人以外は皆気付いているようだった。
 
(;^ω^)「おー……、いいのかお?」
 
('A`)「いいって事よ。その代わり、あとで感想聞かせろよ?」
 
お前達もな、と内藤の傍にいたビロード達にも声をかける。
 
(*><)「はいなんです! ありがとうなんです!」
 
o川*゚ー゚)o「ゴチになりまー」
 
それを見て内藤も渋々握っていた硬貨を引っ込める。
内藤達はドクオに礼を言って店を離れ、折角だから温かい内に食べようと座れる場所に移動する事を決めた。
 
('A`)「やれやれ……って、くつろいでる暇もねえな」
 
引っ切り無しに訪れる客。
その誰もが、幸せそうな顔に満ちている。
 
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:46:13.47 ID:feoVABiLO
 
とてもじゃないが平和とは言えないこの世界で、今日だけは全てを忘れて楽しんでいるのかもしれない。
そんな楽しみの一端を、自分が担える事は本当に嬉しい事だとドクオは思っていた。
 
同時に、誰かの為、そんな事に喜びを感じている自分がいる事に気付くと妙に照れくさくも感じた。
 
(;'A`)「いらっしゃい……って、多いな。毎度ご贔屓に……」
 
よく食堂に来てくれる客を目にしたドクオの口から自然に言葉が口を吐いていた。
いつの間にか、内藤達以外とも極めて自然に話せる様になっている。
この島に来てから、大きく変わった事の1つだ。
 
美味いという評判を聞いて来たという客に、しかめっ面で否定しつつもその腕を振るうドクオ。
この一年、島を守る為に振るってきた腕は、今日一日、焼きそばを作り続ける為に振るわれる。
 
しかしそのどちらも、島の皆を笑顔にする為だという事にドクオは気付いているのだろうか。
 
(;'A`)「やべ、ソース切れそう……」
 
ソースの焦げた匂いに誘われるかのように、ドクオの店に客足が途絶える事はなかった。
 
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:50:03.28 ID:feoVABiLO
 
 
  _
( ゚∀゚)「……」
 
从 ゚∀从「……」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
(´<_` )「……」
 
雑踏する祭りの通りから少し離れた神社の境内に、4人の男女が静かに佇んでいた。
ジョルジュやハインといったSA搭乗者はどこに行っても歓待され、お金を払う余地さえなく商品を
手渡されるので、流石に悪い様な気がしてここに移動して来た。
 
兄者達は単純に人込みが苦手なので軽く回って非難してきた所で、ジョルジュ達と出くわしただけだ。
  _
( ゚∀゚)「まあ、皆楽しそうなんで満足なんだがな……」
 
ジョルジュは苦笑交じりに、歓待ぶりが嫌でここに逃げてきたわけじゃない事を補足する。
傍らのハインも頷くが、同じ様に苦笑が浮かんでいる。
 
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:55:12.26 ID:feoVABiLO
 
( ´_ゝ`)「お前らはしょうがないさ。普段は抑えているが、本来なら島の英雄なんだからな」
 
祭りの無礼講で、それが表に出過ぎているんだろうと兄者は言う。
 
英雄、その言葉にジョルジュは少し顔を曇らせた。
兄者の言っている事の意味はわかるし、島の人々がそう思うのもわかる。
自分が同じ立場なら、島の為に戦うSA搭乗者に羨望の眼差しを向けただろう。
 
だが実際の所、自分はただ運良く生き残れているだけに過ぎないとジョルジュは思う。
戦っているのも、自分が生き残りたい為、自分の大切なものを守りたい為だ。
 
感謝されるような事ではなく、英雄視されるような事でもない。
 
(´<_` )「お前の大切なものの中にはこの島も入ってるんだろ? なら、それでいいじゃないか」
 
口に出したはずのない考えを見抜かれ、ジョルジュは弟者の方に視線を向けた。
よく考えたらそんな話をこの2人にはした事があったかもしれないとジョルジュは思い出した。
 
从 ゚∀从「まあ、厚意は素直に有難く受け取っとくが……」
  _
( ゚∀゚)「……とくが?」
 
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:00:07.70 ID:mlHlA7pnO
 
从 -∀从「こちとらレディなんだぜ? そんな食い物ばっか渡されても太るってーの」
 
そう言って肩をすくめるハインリッヒ。
珍しく考え過ぎているジョルジュのフォローで場を和ませるつもりだったのだろう。
  _
( ゚∀゚)「レwwwデwwwィwwwww」
 
( ´,_ゝ`)「レwwwデwwwィwwwww」
 
从 ゚−从「よし、お前らちょっと殺す」
 
(´<_` )「やれやれ……」
 
響く怒声と悲鳴を聞き流し、弟者は社殿の階段に腰を下ろす。
毎度毎度仲の良い兄妹だと思う。
 
口ではああ言うが、ジョルジュがハインリッヒをすごく大切にしているのはよくわかっている。
ジョルジュが戦う事を決めたのは、きっとハインリッヒがいたからだ。
 
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:02:10.09 ID:mlHlA7pnO
 
(´<_` )「そのくらいにしといてやれよ」
 
2人がほど良くボロ雑巾化した辺りで、弟者はやんわりと口を挟む。
ハインリッヒはまだ悪態を吐いていたが、手に持った兄者を放り投げて弟者の方へ歩み寄って来た。
 
从 ゚∀从「お前はもう回んないの?」
 
(´<_` )「まあ、見るものは見たしな」
 
町中を指差すハインリッヒに弟者は一瞬兄者の方へ目を走らせ、ゆっくりと頷いて答えた。
 
从 ゚∀从「あのバカのお守りはほっといて、好きなようにやりゃいいだろうに」
 
(´<_` )「他に一緒に回る相手もいないしな」
  _
( ゚∀゚)「一緒に回ってくれる彼女とか作れよ」
 
(´<_` )「その言葉、そっくり返してやるよ」
 
驚くべき速さで復活したジョルジュのからかう様な口ぶりに、弟者は憮然とした口調で答える。
作ろうと思って簡単に作れる話なら苦労はないと弟者は思う。
 
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:04:23.39 ID:mlHlA7pnO
 
ましてや、弟者の想い人には──
 
从 ゚∀从「お前ら2人とも、野郎とばっかじゃれてねーでもっと青春を謳歌しろよ」
 
(´<_` )「……相手の意思もある話だからな」
  _
( ゚∀゚)「俺は今はいいや」
 
少しトーンを落とした弟者の声にかぶせる様にジョルジュが言う。
ハインリッヒは意外そうに弟者からジョルジュの方へ目を向けた。
 
从 ゚∀从「何でだよ?」
 
SA搭乗者の中でぽっちゃり型で精悍とは言い難い内藤や、来世に望みを託すしかないドクオと比べ、
ジョルジュは妹に似てかなり整った顔立ちをしている。
実際、基地内の女性職員や島民からの人気も高い。
 
その性格で若干引かれる事はあるが、どう考えてももててる方だと弟者は知っている。
  _
( ゚∀゚)「うーん……今彼女とか作ると、何かその……」
 
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:06:09.15 ID:mlHlA7pnO
 
(´<_` )「その?」
  _
( ゚∀゚)「死亡フラグみてーじゃね?」
 
从 ゚∀从「……」
 
(´<_` )「……」
 
笑えない冗談だ、と弟者は思う。
しかし、淡々と言うジョルジュからは本気でそう考えている節も感じられた。
 
その事により気負いすぎる事を嫌がっているのかもしれない。
大切なものが増える事を怖がっているのかもしれない。
 
そして何より、死ぬのが怖くなる事を恐れているのかもしれない。
 
(´<_` )「……バ──」
 
从 -∀从「そういうのは内藤の前では言ってやるなよ?」
 
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:08:06.39 ID:mlHlA7pnO
 
冗談にして笑い飛ばそうとした弟者の言葉をハインリッヒが真面目な口調で遮った。
そう言えるのが、彼女の強い所なのだと、弟者は心の中で1つため息をついた。
  _
( ゚∀゚)「あいつらは大丈夫さ。何か、そういうの関係なく生き残るタイプだろ、きっとな」
 
あっけらかんと言うジョルジュに、弟者もハインリッヒも思わず笑顔を浮かべ、同意するしかなかった。
自分達は脇役でもあの若い2人はきっとヒーロー、ヒロインとしてこの戦いを生き抜き、後世にこの話を伝えてくれると
心のどこかで信じていた。
 
何の根拠もない、勝手な押し付け紛いの期待だ。
それでもあの2人なら生き残ってくれる、そんな風に思わせてくれる。
 
(´<_` )「……守らなきゃな」
  _
( ゚∀゚)「ああ……」
 
从 -∀从「守るさ……必ずな」
 
自分達の生命に換えても。
 
島を守る。
若い生命を、未来を守る。
 
彼らは夜空の下、同じ思いを抱え、決意を新たにする。
 
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:10:19.28 ID:mlHlA7pnO
  _
( ゚∀゚)「んで、兄者は彼女とか作んねーの?」
 
いつの間にか復活して、何やらごそごそと持参した機器を弄っていた兄者に向け、ジョルジュが尋ねる。
しかし、兄者が答える前に別の場所から答えが返って来る。
 
(´<_` )「作らないんじゃなくて──」
 
从 ゚∀从「出来ねーだけだろ」
 
( ´_ゝ`)「失敬な……。ちゃんと彼女はいるぞ?」
 
そう言って兄者は2人の方に先ほど弄っていた機器、ノートPCを向ける。
その画面には、メルヘンな色使いの1人の少女が画面狭しと動き回っていた。
 
从;゚∀从「……何これ?」
 
(*´_ゝ`)「こないだ倉庫から発掘した、数世代前のアニメ、マジカル☆ナベちゃんだ!」
 
(´<_` )「彼……女……?」
 
(*´_ゝ`)「彼女というよりむしろ嫁?」
 
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:12:02.76 ID:mlHlA7pnO
 
从;-∀从「オーケー、わかった、聞いて悪かったな……」
 
呆れる弟者とハインリッヒを余所に、多少興味を示したジョルジュに向かってそのアニメの良さを力説する兄者。
その熱弁はいつかのランチャーの時と同じ類のものだという事にハインリッヒは気付いていた。
 
( ^ω^)「んお?」
 
ξ゚听)ξ「あら?」
 
从 ゚∀从「ん?」
 
そんなやり取りの中、暗がりをこちらに歩いてくる人影が2つ。
それが内藤とツンだという事に気付くのにさほどの時間は必要としなかった。
 
从 ゚∀从「噂をすれば……というやつか」
 
(´<_` )「おや、お2人さん、こんなとこに来てどうしたんだ?」
 
( ^ω^)「おいすー」
 
ξ--)ξ「別に……疲れたからちょっと休憩よ」
 
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:14:03.79 ID:mlHlA7pnO
  _
( ゚∀゚)「なるほど、ご休憩という──」
 
从#゚∀从「黙れ、バカ兄貴」
 
ξ#゚听)ξ「死ね」
 
( ^ω^)「お?」
 
内藤に付き合い、ほぼ全店を回って制覇したが流石に疲れたのでしばらく休むつもりだったとツンは説明する。
本当はまだ食べたりないだろう内藤は残して1人で来るつもりだったが、何か付いて来たと言葉を添えて。
ショボン達はビロード達を送りに一旦帰ったという。
 
从;゚∀从「全店回ったのか?」
 
ξ;゚听)ξ「まあね。私らは全部で食べたわけじゃないけどね」
 
そうはいうものの、内藤に付き合って回ったという事は相応の歓待を受けたはずだ。
しばらくは体重計が恐怖の象徴だろうとハインリッヒは心の中で黙祷を捧げた。
 
ξ゚听)ξ「あんたらは何してたの?」
 
(´<_` )「まあ、似た様なものかな」
 
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:16:05.12 ID:mlHlA7pnO
 
弟者はここに来た経緯を説明する。
少しは人込みに慣れなさいというツンの厳しいツッコミを弟者は笑っていなした。
 
( ^ω^)「兄者は何観てるんだお?」
 
( ´_ゝ`)「俺の心の聖書」
  _
( ゚∀゚)「こう、見えそうで見えないのが良いよなー」
 
(*^ω^)「お……」
 
ξ゚−゚)ξ「……」
 
从 ゚−从「……」
 
(´<_` )「……はぁ」
 
2人の冷たい視線に気付かない内藤に弟者はため息をつく。
手が出る前に止めるべきかと思った矢先、意外な声が割って入った。
 
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:18:07.45 ID:mlHlA7pnO
 
从'ー'从「あら、懐かしいわね」
 
( ´_ゝ`)「は?」
 
ξ゚听)ξ「渡辺さん!? どうしてここに?」
 
どこから現れたのか、いつの間にか兄者の背後から画面を覗き込んでいた渡辺がツンの声に振り向く。
 
从'ー'从「どうしてって、お祭りに来たんだけどツンちゃんとハインちゃんの姿が見えたんで……」
 
ツン達2人というよりは仕立て直した浴衣の事ではあろうが、ちゃんと着れてるか気になって来てみたと渡辺は言う。
 
从 ゚∀从「大丈夫ですよ、お陰さまで良い着心地です」
 
普段あまり口にする事のない敬語でハインリッヒが両手を挙げ、袖を振って見せた。
同じくツンも大丈夫だと礼を言う。
 
从'ー'从「それなら良かったわ。2人とも、似合ってるわね」
 
ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございます」
 
从 ゚ー从「どうもです」
 
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:20:03.79 ID:mlHlA7pnO
 
从'ー'从「うん、それじゃあ、お祭り楽しんでね」
 
2人の様子に満足がいったのか、渡辺は別れを述べ、その場を去ろうとする。
しかしそれを慌てた調子で兄者が引き止める。
 
(;´_ゝ`)「ちょ、ちょっとお待ちください!」
 
从'ー'从「うん? 何かな、兄者ちゃん?」
 
(;´_ゝ`)「さっき懐かしいって……」
 
从'ー'从「ああ、それの事ね」
 
渡辺はそれと言って兄者の手の上のモニターを指差す。
そこにはスタッフクレジットと共に少々調子の外れた明るさだけが取り得の様な歌が流れている。
 
(;´_ゝ`)「これをご存知なのですか?」
 
放映時期を考えれば、御歳80を越える渡辺の世代がが知っていてもおかしくない頃の作品だ。
実際にリアルタイムで見ていた可能性もある。
 
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:23:26.08 ID:mlHlA7pnO
 
从'ー'从「知っているというか……それ、ちょっと巻き戻せる?」
 
( ´_ゝ`)「あ、はい」
 
兄者は言われるまま、映像を巻き戻す。
 
从'ー'从「あ、そこで止めて。……ほら、これ」
 
渡辺が指を指した位置、スタッフクレジット画面の最初の方に1つの名前が書かれている。
 
( ´_ゝ`)「“渡辺春香”……ああ、マジカル☆ナベちゃんの中の人の……渡辺……?」
 
何かに気付いたのか兄者がゆっくりと画面から渡辺の方に顔を向ける。
そして画面と渡辺を交互に見比べ震える手で渡辺を指差した。
 
从'ー'从「そう、それ私」
 _
(;゚∀゚)「うお、マジすか!?」
 
(;^ω^)「これ、渡辺のおばあちゃんの声なんですかお?」
 
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:26:08.54 ID:mlHlA7pnO
 
その場にいた皆がそれぞれ驚きの声を上げる。
アニメ自体には全く興味のなかった弟者達も、流石にこれには驚いたようだった。
 
ξ;゚听)ξ「言われてみれば、確かにどことなく声が似てますね」
 
从;゚∀从「うおー、何かすげーな……」
 
从*'ー'从「昔、むかーしのお話だからね。今観るとやっぱり恥ずかしいね」
 
渡辺は照れくさそうに弁解するが、どことなく嬉しそうでもある。
 
(´<_` )「ん? 兄者よ、どうかしたか?」
 
先ほどから渡辺を指差したまま、無言で震え続けていた兄者に弟者は声をかける。
嫁等と主張していたキャラクターの今を目の当たりにして、ショックが大きすぎたのかと弟者は思う。
画面の中のキャラクターが年を老いる事はないのだが。
 
(  _ゝ )「…………さい」
 
(´<_` )「兄者?」
 
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:28:40.00 ID:mlHlA7pnO
 
(*´_ゝ`)「結婚してください!」
 
兄者はそう叫ぶや否や、渡辺の両手を勢いよく掴む。
あまりに突然の事に皆の動きが止まる。
 
从*'ー'从「もう、兄者ちゃんは冗談が好きね」
 
唯一、告白を受けた渡辺だけが冷静にあしらえているのは年の功というものか。
しかしながらその頬が少し染まっているのは、女性はいくつになっても乙女ということだろうか。
 
(*´_ゝ`)「冗談じゃないです。俺は本気です。こんな天使のような素敵な声の持ち主がこんな近くにいたなんて……」
 
从*'ー'从「天使なんて褒めすぎよ、兄者ちゃん」
 
尚も執拗に食い下がる兄者に、悪い気はしないのか段々と話が盛り上がってるようにも見える。
ようやく正気を取り戻した弟者だが、既に手遅れのような気もしていた。
 
从;゚∀从「おい、そろそろ止めなくていいのかよ?」
 
ツッコミはお前の役目だろうと、ハインリッヒが小声で弟者に言う。
 
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:31:10.33 ID:mlHlA7pnO
 
(´<_` )「……別に、良いんじゃないか? 恋愛は個人の自由だし」
 
少なくとも、画面の中のキャラクターに恋するよりは健全だろうと弟者は言う。
渡辺はだいぶ前に連れ合いを亡くしているはずだから、法的にも問題はないだろう。
 
ξ;゚听)ξ「そういう問題?」
 
(´<_` )「好きにさせるさ。誰だって恋する権利はある。……時間がある時にやっておくべきだろ」
 
呟くように付け加えた言葉に、ツンやハインリッヒは弟者が言わんとする事の意味を察した。
確かに、時間は無限ではない。
殊に、自分達にとっては明日その時間も無くなるかもしれない身の上だ。
 
(*´_ゝ`)「じゃ、じゃあ、まずはデートからで……お祭り、一緒に回りませんか?」
 
从*'ー'从「ふふふ、そのくらいなら付き合ってあげましょうかね」
 
どうやら話はまとまったらしく、兄者と渡辺は2人並んで祭りの喧騒の方へ歩いていった。
2人とも、良い笑顔だったと弟者は思う。
 
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:33:23.21 ID:mlHlA7pnO
 
从;゚∀从「えーっと……」
 
ξ;゚听)ξ「……どうしよっか?」
 
何とも言い様のない空気に包まれた残された面々は、互いの顔を見回す。
珍しく呆気に取られた顔のジョルジュが印象的だったが、内藤はあまり状況を理解していないようだった。
 
(´<_` )「お前達も行って来れば良いんじゃないかな?」
 
祭りはまだ終わりじゃないと、助け舟を出すように弟者はその場の皆に言う。
 
ξ;゚听)ξ「そ、そうね……ブーンもまだ食べたりないだろうし」
 
(*^ω^)「お! もう1周してもいいのかお?」
 
从;゚∀从「まだ食うのかよ」
 
早速走り出す内藤を、呆れた表情を浮かべたツンが追おうとする。
しかし、他に誰も付いて来ない様子に気付くと、ツンは立ち止まる。
 

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:35:33.77 ID:mlHlA7pnO
 
ξ゚听)ξ「行かないの?」
  _
( ゚∀゚)「そりゃまあ……お邪魔だろうし」
 
ジョルジュの言わんとせん事を理解したツンは、怒った様な照れた様にも見える表情を浮かべ、いいから来いと怒鳴りつける。
 
ξ;゚听)ξ「1人だと大変なのよ!」
 
主に体重が、そう続けられるのであろう言葉に、苦笑いを浮かべたハインリッヒが歩み寄る。
 
从 ゚∀从「しょうがねーなー……んじゃ、付き合いますかね」
 
渋々といった感じでありながらも、どこか嬉しそうに見える顔に弟者には見えた。
ジョルジュは何も言わず、ただ少し笑っている様だった。
 
ξ゚听)ξ「恩に着るわ。2人はどうするの?」
 
ジョルジュはドクオの様子、弟者は兄者達の様子をそれぞれ見てくるからと、この場で別れる事になった。
待ちくたびれてる内藤の傍に走り寄るツン達を見届けると、残された2人は立ち上がった。
 
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:38:08.01 ID:mlHlA7pnO
  _
( ゚∀゚)「良かったのか?」
 
(´<_` )「……」
 
何が、と聞き返そうとしたがそれは言葉にならなかった。
ジョルジュはどちらにも気付いているのだろうか。
 
いつもずっと見ているのだから気付いているのかもしれないと弟者は思う。
 
(´<_` )「兄者を放っておくわけにもいかんからな」
  _
( ゚∀゚)「出来た弟さんですな……」
 
(´<_` )「過保護なだけじゃないかな……お互いに」
  _
( -∀-)「……違いねえ」
 
ジョルジュは片手をひらひらと振って見せ、歩き出した。
言葉通りドクオの所にでも向かうのだろう。
 
同じく弟者も立ち上がり、皆が消えた方角、町の方に目を向ける。
 
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:40:02.92 ID:mlHlA7pnO
 
(´<_` )「……皆が幸せなら、それで良いんだよ」
 
誰に言うでもなく漏れた言葉が自分の耳に届く。
綺麗な言葉、そして本心からの言葉でもある。
 
皆が幸せに生きる為に、自分はここにいるのだと思っているから。
 
(´<_` )「さて、兄者を探すかな」
 
どうせ浮かれてバカやってるだろうからすぐに見つかるはずだ。
そう見当を付け、弟者は町の方へ向かい歩き出した。
 
皆がいる町の方へ。
 
自分が生きる場所へ。
 
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:42:08.08 ID:mlHlA7pnO
 
 
 
('A`)「……ふう」
 
開店からの来客ラッシュが片付き、ようやく一息つけたドクオは一際明るい光を放つ、中央の広場の方へ目を向けた。
時間的にそろそろ盆踊りの2部が開催される頃だ。
子供向けの早い時間にある1部と、一般向けの2部構成になっていると誰かに聞いた覚えがあった。
 
そちらの方に人が取られているお陰で、今は少し暇が出来ているのだろうとドクオは分析する。
 
('A`)「本当はもっと暇でもいいはずなんだがな……」
 
商品として出せるぐらいにまでは上達したとはいえ、もっと美味い物を出す出店がいくらでもある。
そんな中で一番とも思えるほどの賑わいをみせているのは、自分がSA搭乗者だからというのは自覚していた。
 
同時に、そんな事は関係なく、自分だから来てくれている客がいるのも理解できていた。
難しく考える必要はないと、ドクオはほんの少し、今回の事で素直になれた気がしていた。
 
('A`)「俺に出来るのは最善を尽くすだけ……だな」
 
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:00:18.85 ID:mlHlA7pnO
 
鉄板の火を弱め、材料を確認する。
これならそう遅くない内に完売してしまうかもしれない。
そうすればようやく、長かった焼きそばとの付き合いから解放されるのだが、それも少し寂しく感じている自分がいた。
 
('A`)「店のメニューには残しておくか……」
 
('、`*川「あれ、最初からなかったっけ?」
 
(;'A`)「うお!? いつの間に?」
 
中腰で野菜を確認していたドクオの背後から覗き込む様にしてペニサスが立っていた。
ドクオは中腰のまま横にずれ、ゆっくりと振り向く。
 
('A`)「何の用だよ? 店の中まで入ってくるんじゃねーよ」
 
('、`*川「客に向かってその態度は何よ? ちゃんとやってるか様子を見に来てあげたんじゃないの」
 
そう言って狭い店内の様子を漁り回るペニサスだが、予想以上にドクオがちゃんとこなしている事がわかると、
満足げに頷いた。
 
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:02:10.39 ID:mlHlA7pnO
 
('A`)「これだけ多くの人間が見てくれていたんだ。やらなきゃ申し訳が立たないだろ?」
 
('、`*川「……そうね」
 
ずっと1人だと思っていたドクオ。
しかし実際は、常に誰かしら自分の事を見てくれていた人はいたのだ。
ただ、それに気付かなかっただけ。
 
自分がバカみたいに僻んでいただけなのだとドクオは改めて自分の愚かさを思い知らされた。
 
('、`*川「人は間違うものよ。でも、気付いたらそこで変えればいい。生きてさえいたら、またやり直せるわよ」
 
('A`)「……だな」
 
自分はまだやり直せる。
自分はこの島で生きているのだから。
 
ドクオは無言で点検作業に戻る。
何も言わずとも行動で示せばいい、自分がやるべき事はわかっているのだから。
 
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:04:04.32 ID:mlHlA7pnO
 
('、`*川「……で、焼きそばは?」
 
('A`)「あん?」
 
('、`*川「私は客だと言ったでしょうが?」
 
('A`)「何だよ、折角一息吐いてたのに空気の読めねえ客だな……」
 
('、`*川「やかまし。いいからさっさと作りなさい。2人前ね?」
 
('A`)「へーへー……」
 
鉄板の火力を上げ、油を引く。
2人前に思うところがなくはなかったが、雑念を振り払い、調理に専念する。
いつかの様な醜態を晒すわけにはいかない。
 
('、`*川「ふーん……手際良くなったね……」
 
('A`)「何食作ったと思ってんだ?」
 
麺に水を差し、全体に満遍なく火を通し、ソースを絡ませる。
焦げたソースの匂いが食欲をそそる。
 
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:06:02.87 ID:mlHlA7pnO
 
('A`)「完成っと……」
 
('、`*川「ちゃんと焼きそばの色してるわね」
 
('A`)「味もちゃんと焼きそばだから安心しろ」
 
プラスチックのパックに入れ、紅生姜と青海苔をまぶす。
つけるか聞くべきだったかもしれないが、この客は細かい事を気にするタイプでもないだろうから気にしない事にした。
 
('A`)「ほれ、熱い内に食べてもらえるとありがたい」
 
('、`*川「サンキュー。……その手は何?」
 
('A`)「何って、お代だよ、お代。金払えよ」
 
('、`*川「私から金取るの?」
 
(;'A`)「取るよ、誰からでも」
 
内藤達からはお代を受け取っていない事は当然黙っている。
その1食分の行き先が、あの人であるならお代は受け取らない方が筋かもしれないとも考えはしたが。
 
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:08:06.68 ID:mlHlA7pnO
 
('、`*川「仕方ないわね……。じゃあ、これ」
 
そう言ってペニサスは焼きそばを1つドクオに手渡す。
 
('A`)「……何だこれ?」
 
('、`*川「何だって、焼きそばよ? 知らない?」
 
(;'A`)「いや、そうじゃなくてだな……」
 
からかう様に言うペニサスに、ドクオは渋っ面で返す。
まさか作ったものを突き返されるとは思っていなかったので、内心はかなり動揺していた。
 
('、`*川「冗談よ。どうせあんた、晩飯食べてないんでしょ? 今の内に食べときなさいよ」
 
('A`)「……は?」
 
('、`*川「これは私からのおごりよ」
 
('A`)「……おごりって、そういうのちゃんと金払っては買ってから言えよ」
 
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:10:16.36 ID:mlHlA7pnO
 
ようやくペニサスの意図が理解出来たドクオは、渋い表情を浮かべたまま、焼きそばを受け取る。
 
かなわないなと、そんな思いで。
 
同時に、ちゃんと見てくれていた事への感謝の気持ちで。
 
('A`)(……全く)
 
 
だから好きになったのだろう。
 
 
あの日からずっと。
 
自分の運命を変えたあの日から。
 
引っ叩かれ、クレーエに初めて乗ったあの日から。
 
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:12:06.01 ID:mlHlA7pnO
 
('、`*川「おお、普通に美味いわ」
 
(;'A`)「って、ここで食うのかよ!」
 
店の前で立ったまま焼きそばを頬張るペニサスに呆れつつ、手渡された焼きそばのパックを開く。
 
('A`)「……うめぇ」
 
自分の全てを込めた焼きそばは、とても美味いと感じた。
この島での全て。
今の自分の全て。
 
この焼きそばを多くの島の人間が食べてくれた事に、ドクオは限りない喜びを感じていた。
 
('A`)「……ありがとな」
 
('、`*川「ん? 何?」
 
呟くような礼の言葉は、自分にとっての最大の恩人で、絶対に守りたい人には届かなかった。
しかし、今はそれでいい。
いつかきっと、面と向かってちゃんと言える日が来るはずだとドクオは思う。
 
自分がもっと、誇れる自分になった時。
島が平和を取り戻したその時に。
 
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 01:14:50.40 ID:mlHlA7pnO
 
('A`)「何でもねーよ……」
 
今はそれでいいのだ。
 
('、`*川「そう? ……お? そろそろ盆踊りも終わるかな? また客も来るだろうからさっさと食べ──」
 
ペニサスの言葉を掻き消す様に、突如として鳴り響くサイレンの音。
この島において最大級の警戒を現すこの音がなるその理由はただ1つ──
 
(;'A`)「──こんな時に!?」
 
('、`;川「ドクオ!」
 
('A`)「わかってる!」
 
エプロンを投げ捨てるように脱ぎ去り、ドクオは店を飛び出し基地の方に走る。
慌てふためく人々の声が、ドクオの耳に届く。
本当の平和を取り戻さない限り、彼らには祭りを楽しむ権利もないと言うのだろうか。
 
('A`)「クソッタレが!」
 
ならば自分が取り戻す。
ドクオがこの空で戦う理由はその為なのだから。
 
 
    ( ^ω^)は島を守るようです  中々々編 終わり
 

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