( ^ω^)は島を守るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:40:39.85 ID:+dkwiQl/0
 
基地内に用意された宿直用の部屋。
基地という施設の用途の必然性に伴い、こういった部屋はいくつも用意されている。
 
从 -−从「……」
 
静寂に包まれた闇の中、ハインリッヒは身じろぎ一つせず、真っ白い布団に包まっていた。
寝息すら立てないほど静かに眠っているように見えるが、ハインリッヒはまだ眠っていなかった。
 
正確には、眠れなかったのだが。
 
从 ゚−从「……何だろな」
 
戦場を飛んだ回数は既に両の手の指どころか足の指を挙げても足りないぐらいだ。
それでも、実際にレルヒェのシートに座り、発進を待つその間は緊張する。
いつまで経っても慣れる事はない。
 
2度と帰って来れないかもしれない危険な空を飛ぶのだ。
慣れなくて当然なのだ。
 
いつもは、フェイスの襲来があれば即戦いに赴き、戦闘が終わるまでは帰ってくる事はなかった。
だが今回は違う。
 

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/27(水) 21:42:52.39 ID:+dkwiQl/0
 
眼前にフェイスの姿がありながらも、今は待つしかないのだ。
簡単に寝てしまえと言う方が無理があるのかもしれない。
 
从 -∀从「……散歩でもしてくっかね」
 
薄手の上着を羽織り、ジーンズを履いてベッドから起き上がる。
来た時は浴衣であったため、これは非常時用に置いておいたものだ。
 
从 ゚∀从「……また着れるのかな」
 
部屋の隅にかけられた紫の浴衣に目を向ける。
いささか派手な色合いだが、このくらいの方が私には似合うと渡辺が言っていたのをハインリッヒは思い出していた。
 
从 -∀从「ま、誰も感想を述べたやつはいなかったんだけどな」
 
デリカシーのない連中ばかりだから仕方ないとハインリッヒは自嘲気味に呟いた。
 
从 ゚∀从「さて……」
 
部屋を出て、取り敢えず足の向くまま歩き出した。
宿直用の部屋は多々あれど、今休んでいるのは自分達だけなのかもしれない。
 

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:45:03.49 ID:+dkwiQl/0
 
他の皆は今頃忙しく準備に追われているだろう。
祭りの準備で動き回ったばかりだというのにご苦労な事だ。
 
その苦労に自分達は報いねばならぬとハインリッヒは強く思う。
 
从 ゚∀从「……で、足の向いた先がこの部屋か」
 
とある一室の前で立ち止まり、さして躊躇いもせずドアを開ける。
ドアには鍵は掛けられておらず、音も無く静かに開く。
  _
( -∀-) グガァー
 
从 ゚−从「こいつは……よく眠れるもんだ」
 
部屋の主であるジョルジュはぐっすり眠っているようだ。
勿論、眠れる方がいい事だし、任務を全うしようとしているだけなのだが、ハインリッヒは少し呆れていた。
 
从 ゚∀从「まあ、この図太さは見習わなきゃならんのかもね」
 
ハインッリヒは部屋を出てドアを閉める。
少し話し相手にでもなってもらおうかと思ったが当てが外れてしまった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:47:18.14 ID:+dkwiQl/0
 
从 -∀从「後は……ドクオはテンパってるだろうし、となると……」
 
从 ゚−从「……」
 
しばし黙考するハインリッヒ。
流石にこんな夜中に兄以外の男の部屋に訪れるのは甚だよろしくないとは思う。
だがしかし……
 
从 -∀从「……そりゃ駄目だろ」
 
ハインリッヒは首を振り階段の方へ向かい歩き出す。
少し夜風にでも当たるべく、ブリッジの上、展望台のようになっている場所へ行く事にした。
 
カツカツと、無人の階段を歩く音だけが響き渡る。
ブリッジに人はいるだろうが、恐らく篭りっきりなのだろう。
 
从 ゚∀从「明日か……」
 
考えれば考えるほど不安になる。
作戦が上手くいくのか。
この島を守れるのか。
 
そして皆が無事に帰って来れるのか。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:49:32.64 ID:+dkwiQl/0



( ^ω^)「……」
 
内藤は夜空を見上げていた。
ブリッジの上、展望台の手すりに寄りかかり、星の瞬く空を眺めている。
蒸し暑い夏の夜だが、頬を撫でる潮風のお陰で汗はかかずに済んでいた。
 
( ^ω^)「……」
 
わずかに視線を下げれば、哨戒艇に照らされる異形の姿がかすかに見て取れる。
 
不思議と恐れは無い。
相手が何であれ、島を守る為に戦うのが自分の役割なのだから。
 
死んでいった仲間達との約束。
そして、自分自身の願い。
 
( ^ω^)「……」
 
内藤は1つ後悔していた。
先程司令に上申した件だ。
 
何も言わずにシュトルヒで突貫し、セイクリッド・サークルを使うべきだったのではないかと。
 

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:51:57.84 ID:+dkwiQl/0
 
( -ω-)「……」
 
しかし、それは叶わなかったであろうとも思う。
補給の済んでいなかったシュトルヒが再出撃するにはもう少し時間が必要だったし、あの状況下でこっそり出撃出来る
はずもなかった。
 
そういった経緯もあり、結果的に諦めざるを得なかった手段だが、本当の所はどうだったのだろう。
理に叶った作戦が立てられはしたものの、成功率が高いとはお世辞にも言えない。
加えて、アタッカーに及ぶ危険性も高い。
 
であればやはり、自分が生命を投げ打ってでもセイクリッド・サークルを使うべきだったのではと考えてしまう。
 
あの時のギコの様に。
 
( ^ω^)「ギコさん……」
 
ギコなら何と言っただろうか。
馬鹿げた事を言うなと殴られたかもしれない。
何も言わず、ギコ自身がセイクリッド・サークルを使っていたかもしれない。
 
( ^ω^)「……」
 

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:54:09.69 ID:+dkwiQl/0
 
内藤は死にたくて空を飛んでいるわけではない。
しかし、誰かの生命を糧に生き長らえるなら、いっそ自分がと思う事は幾度あった。
それは内藤に限った事ではないのかもしれないが、皆が生命を投げ打ってでも島を守ろうとしているのは嫌が応にも気付く。
 
( ^ω^)「無理なのかお……?」
 
今の戦いは明らかに消耗戦だ。
それもこちらが一方的に見える、生命の消耗戦。
戦える人間も機体も減った。
 
自分はこの島を守れるのか、内藤はその問いに答えられなかった。
 
( ^ω^)「!」
 
不意に背後のドアが開く気配がした。
こんな所に誰がと内藤は思ったが、その疑問はすぐに解消された。
 
ξ゚听)ξ「やっぱりここだったのね。あんたは相変わらず高いとこが好きよね」
 
( ^ω^)「ツン……」
 

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 21:57:06.58 ID:+dkwiQl/0
 
歩み寄るツンの手には缶ジュースが二本握られていた。
ツンはそのうちの一本を内藤に手渡し、内藤の横で手すりに寄りかかる。
 
ξ゚听)ξ「ちゃんと休んでるか気になって覗いたら案の定ね」
 
( ^ω^)「ごめんお」
 
ツンは笑ってこれを飲んだら休めと内藤に言う。
内藤は頷き、プルタブを起し、缶ジュースを開ける。
缶の口からコーヒーの香りが広がり、内藤の鼻を掠めた。
 
ξ゚听)ξ「……」
 
( ^ω^)「……」
 
無言で並んで空を見上げる内藤とツン。
言葉を奪ったのは満天の星空が、それとも眼前の脅威か。
二人はただ、輝く星々を見つめ続ける。
 
ξ゚听)ξ「……あ、流れ星」
 
( ^ω^)「お……」
 

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:00:22.40 ID:+dkwiQl/0
 
内藤がツンが指差す方向に目を向けるも、星は既に流れた後だ。
これだけの星空だ。
流れ星もそう珍しくはないが、つい見てしまうのは何故だろうか。
 
( ^ω^)「何かお願いしたのかお?」
 
ξ゚听)ξ「早すぎて無理ね」
 
それを契機に、二人の間で交わされるたわいもない会話。
星を見る時は常に願いを考えておくものだとか、願いが多過ぎて絞れないとか本当に些細な話だ。
 
( ^ω^)「僕的には、松中さんとこの海鮮お好み焼きがMVPだったお」
 
ξ゚听)ξ「あれは良かったわね。でも、ちょっとボリュームが大き過ぎたわ」
 
( ^ω^)「そこがいいんじゃないかお」
 
話はいつしか今日の祭りの話に移る。
もっぱら食べ物の話しかない内藤に、ツンは呆れながらも応じる。
なんだかんだで内藤に付き合い、そのほとんどを少しずつは味わった。
 
どれもこれも美味しくて、今日だけは全てを忘れた楽しめたと思っていた。
思っていたが……。
 

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:02:42.16 ID:+dkwiQl/0
 
ξ゚听)ξ「……」
 
ツンはそっと視線を下げる。
暗闇の向こう。時折ライトに照らされる壁のような巨大なフェイス。
今日の幸せを、一瞬にしてぶち壊した元凶。
 
フェイスが完全にいなくならなければ、自分に、内藤に、島の皆に本当の意味での平和は訪れないのだろう。
 
それがいつの日になるかは、全くわからない。
ひょっとしたら、そう思う事もあるが、それは決して口に出してはいけないとツンは思う。
 
絶望が希望を凌駕するのは容易い事なのだから。
 
ξ゚听)ξ「ドクそばはMVPじゃないの?」
 
ツンは再び空を見上げ、たわいもない言葉を紡ぎ出す。
自分以上に不安のはずの、戦場の空へ向かう内藤に余計な心配は掛けられない。
 
( ^ω^)「うーん、ドクオさんの焼きそばも良かったけど、あれはもう1歩だお」
 
ξ゚听)ξ「あら、散々試食してた割には冷たいわね。流石に飽きた?」
 

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:05:16.60 ID:+dkwiQl/0
 
( ^ω^)「そうじゃないお。あれは、来年に期待だお」
 
ξ゚听)ξ「来年?」
 
( ^ω^)「そうだお。今年はもう1歩のとこで受賞を逃したから、来年またがんばれって言うんだお」
 
ξ゚ー゚)ξ「来年……そうね、確かにもう一味足りなかったわね」
 
ツンは内藤が言わんとすることを理解した。
冷静で物事に興味なさ気に見えるドクオだが、意外と乗せられやすく、負けず嫌いな所があるのもツンは知っている。
 
内藤にそう言われれば、来年もあの焼きそばを作らざるを得ないだろう。
 
この戦いを生き抜き、また来年も。
 
( ^ω^)「来年はきっともっと美味しくなってるお!」
 
ξ゚ー゚)ξ「そうね。他の料理の腕も上がるだろうし、たまにはあの食堂に食べに行ってやってもいいわね」
 
内藤とツンは顔を見合わせて笑う。
些細な事が自分達にとって大切な事なのだと、二人はよくわかっていた。
幸せな時間をかみ締める様に二人は心から笑う。
 
その時、わずかに開けられたドアが音も無くまた閉じるのを、笑い合う二人が気付く事は無かった。
 

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>14 何か似たねえ] 投稿日:2010/01/27(水) 22:07:43.41 ID:+dkwiQl/0



('A`)「不思議だ……何故か落ち着く……」
 
大方の予想通り、眠れずにいたドクオだが、今はとても落ち着いていた。
先程まで部屋の中をうろうろし、その後廊下をうろついていたのだが、今は大人しく静かな気持ちで座っていた。
 
('A`)「何だろうこれ? これが魂の記憶というやつか?」
 
一人ぶつぶつと呟くドクオ。
狭い個室内にその声が響く。
 
('A`)「これぞ聖域。ずっと俺のターン」
 
よくわからない事を呟きながら腕を組み背を反らす。
片側だけ点けられた蛍光灯の明かりがその顔を照らす。
素で顔色が悪く見える不健康な顔色だが、平常心を保っているのは戦いに臨む前としては良い事なのだろう。
 
('A`)「そうか、ここが俺の帰るべき場所……」
 

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:10:12.86 ID:+dkwiQl/0
 
('、`*川「なわきゃないでしょうが」
 
(;'A`)「うぉ!? ペニサス!? 何故我が聖域に!?」
 
てっきり誰もいないと思っていた場所に聞き慣れた声が響き焦るドクオ。
ペニサスはそんな事は意に介さず、ドクオに出て来るように告げる。
 
(;'A`)「いや、その、そもそも何でお前がここに」
 
('、`*川「何でここに? じゃないわよ。ちゃんと寝てるか様子を見に行ったら部屋にいないし、どこにいるのかと思ったら……」
 
そう言ってペニサスは個室のドアを強めに叩く。
人一人が入れるほどの狭い個室に乾いた音が響いた。
 
('、`*川「何でずっとトイレなんかに篭ってるのよ?」
 
(;゚A゚)「我が聖域を“なんか”とは何だー!」
 
('、`#川「いいからさっさと出ろ!」
 
出なきゃ上から水をぶっ掛けるというペニサスの脅しに渋々とドクオはドアを開ける。
悪戯を見つかった子供の様な罰の悪い表情を浮かべたドクオは、ペニサスに手を引かれトイレを出た。
 

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:13:44.30 ID:+dkwiQl/0
 
('、`*川「全く……何やってんだか」
 
(;'A`)「仕方ねーじゃねーか、妙に落ち着くんだし。大体、何で男子トイレにお前が入って来んだよ?」
 
('、`*川「あんたが30分以上も出て来ないからよ。倒れでもしたのかと思うじゃないの……」
 
その言葉でドクオはペニサスがずっと待っていてくれた事に気付き、更に複雑な表情を浮かべる。
嬉しいとも思うしすまないとも思う。
加えて、それも仕事なのだろうなと諦めた様な気持ちも。
 
('A`)「時間取らせて悪かったな……」
 
('、`*川「珍しく殊勝ね。まあ、あんたに振り回されるのは慣れてるわよ」
 
(;'A`)「いつもはむしろ俺の方が振り回されてねーか?」
 
今は身体を休める事に専念しろと言うペニサスに、もう少し歩いてから休むと答えるドクオ。
放っておいてもちゃんと休むから気にするなと言うドクオだが、ペニサスは首を振り、無言で一緒に歩き出す。
 
('A`)「……」
 
('、`*川「……」
 

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:16:18.44 ID:+dkwiQl/0
 
空調の音以外は聞こえない廊下をただ無言で歩く。
言っておくべき事は多々あるはずなのだが、そのどれもが言葉にならず、もどかしい思いを抱えながら。
 
('A`)「……」
 
('、`*川「……」
 
階段を上がり、展望台の方へ向かう。
しかし、ドクオはふと思い当たる事があり、歩みを止めた。
 
('、`*川「どうしたの?」
 
('A`)「いや、あっちはさ、多分ブーン達がいるんじゃないかなと」
 
('、`*川「ああ……」
 
二人は揃って向きを替え、ブリッジの方へ向かう。
そのままブリッジを素通りし、外への扉を開け非常階段の方へ出た。
 
('A`)「いい風だ」
 
('、`*川「本当ね」
 

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:20:08.73 ID:+dkwiQl/0
 
('A`)「……」
 
('、`*川「……」
 
再び訪れる沈黙。
流れるのは時間と数多の星。
 
どれくらい時間が経ったかわからない。
平穏なこの時はそれはそれで幸せなのかもしれない。
 
しかし、ドクオは顔を空に向け、意を決して口を開く。
 
('A`)「色々ありがとな」
 
('、`*川「そういう言い方はしない」
 
すぐさまダメ出しの言葉を浴びせられ、ドクオはきょとんとした表情を浮かべる。
ペニサスは人差し指をドクオの眼前で振って見せ、言葉を続ける。
 
('、`*川「それじゃもう帰って来れないみたいな言い方でしょうが」
 
('A`)「……すまん」
 

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:23:03.43 ID:+dkwiQl/0
 
全く持ってその通りだとドクオは思うが、毎回毎回死を覚悟して戦場に向かうのだ。
自然にそういう考え方をしてしまうのだろうなと、ドクオはどこか他人事のように思っていた。
 
まともな神経じゃ怖くて戦えないから、弟者にスコアカウンタを付けて貰って、ゲーム感覚で楽しんでいる様に誤魔化してみても、
どこかで冷静に死ぬ事を受け止めてしまっている。
 
元々、希望も何もない状態でこの島に来たのだからそれも仕方のないことなのかもしれない。
死ねば楽になると、そう思ってもいた。
 
しかし……
 
('A`)「すまん」
 
ドクオはもう一度謝罪の言葉を述べた。
まっすぐにペニサスを見詰めて。
自分を変えてくれた人に向けて。
 
('、`*川「無茶を押し付けてるのはわかってるわ。……ごめんね」
 
そう意って目を伏せたペニサスを、ドクオは心の底から美しいと感じた。
傍若無人に見えて、その実繊細で細やかな心配りの出来るペニサス。
ドクオはそんな彼女に支えられて今日まで生き抜いて来たのだ。
 

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:25:57.01 ID:+dkwiQl/0
 
('A`)「謝るなよ。……大丈夫、ちゃんと帰ってくるから」
 
手を伸ばせば、届く距離に彼女はいる。
しかし、ドクオは動けなかった。
 
それが少なくとも、諦めの気持ちでそうしたわけじゃないとドクオは自分に言い聞かせる。
また次が、帰ってくれば次があるのだ。
 
('、`*川「ええ、ちゃんと帰ってきなさいよ」
 
今は自分の方を向いてくれていなくても、いつかきっと。
ドクオは笑顔を浮かべ、ペニサスに応じる。
戦場に向かう前に話せて良かったと心から思う。
 
('A`)「当たり前だ、俺を誰だと思ってるんだ?」
 
('、`*川「甲斐性無しの引きこもり」
 
('A`)「……鬱だ」
 
('、`*川「……だった馬鹿で、今は島を守ってくれる強い男ね」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:29:29.09 ID:+dkwiQl/0
 
からかう様な笑みを浮かべ、ペニサスはドクオを見詰める。
ドクオはその視線をまっすぐに受け止め、力強く答える。
 
('A`)「……そうだ。俺が島を守る。きっとだ」
 
再び笑顔のドクオに、ペニサスが親指でサインを送る。
ドクオもそれに応じ、お互いに拳を突き合わせた。
 
('、`*川「がんばんなさいよ」
 
('A`)「おう」
 
無数の星が流れる空の下、それぞれがそれぞれの思いを抱き、戦いに備える。
それぞれの思いは、1つの同じ思いに繋がる。
 
島を守る。
 
その想いを胸に、生き抜くための明日を迎える。
 
 
 

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:32:06.00 ID:+dkwiQl/0
 
 
 
( ^ω^)「おはようですお!」
 
明けて翌日、熱気の篭る格納庫内に内藤の明るい声が響く。
時刻は朝九時、作戦開始時刻まで残り三時間だ。
 
( "_ゝ")「おお、来たか、おはよう」
 
("<_" )「おはよう。ちゃんと眠れたか?」
 
( ^ω^)「ばっちりですお! お二人は完徹みたいですおね……」
 
( "_ゝ")「まあな。しかし、その甲斐あってきっちり仕上がったぞ」
 
("<_" )「後は微調整のみ。何とか間に合ったな。皆に感謝せねばなるまい」
 
( ^ω^)「ご苦労様ですお」
  _
( ゚∀゚)「つーか、お前ら顔ぐらい洗って来いよ」
 
从 ゚∀从「最後まできっちり調整頼むぜ?」
 
内藤に続き、ジョルジュとハインリッヒの兄妹も格納庫に姿を見せる。
ジョルジュはいつもの様に手に持っていた缶コーヒーを、兄者達に投げ渡した。
 

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:36:37.00 ID:+dkwiQl/0
 
("<_" )「ああ、わかってる。最後の最後まで気を抜くつもりは無いさ」
 
从 -∀从「ま、信用してるさ。いつも生命預けてんだしな」
  _
( ゚∀゚)「んで、出来の方は予定通りか?」
 
( "_ゝ")「ああ、予定通りだが多少デカく感じるかも知れんな……」
 
そう言って兄者は後方を指差す。
そこには右肩だけ異様に肥大したクレーエの姿があった。
 
(;^ω^)「確かに、思ったよりも大きいですおね」
 
("<_" )「あのデカブツのコアまでの距離を換算するとこのくらいの出力は入りそうなんでな……」
 
詳しく説明をしようと弟者は言い掛けたが、肝心のドクオの姿が見えない事に気付く。
 
("<_" )「……大丈夫か?」
 
从 ゚∀从「正直、ダメ臭い」
 
(;^ω^)「いや、ドクオさんはちゃんと来ますお!」
 

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:40:39.26 ID:+dkwiQl/0
 
ξ゚听)ξ「どうかしらね、あのヘタレは」
 
(;^ω^)「お……ツンまで……、てか、おはようだお」
 
各機体の制御プログラムの最終調整が終わったツンも内藤達に合流する。
兄者達と同様に徹夜したはずだが、その顔に疲労の色は見られない。
これが十代と二十代の越えられない壁なのかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「ちゃんと来るさ、あいつは」
 
ジョルジュが内藤の肩を優しく叩き、あいつらも冗談で言ってるだけだとなだめる。
たった数時間で怖気づいてしまうような男に自分は任務を譲ったりしないとジョルジュは思う。
 
(;^ω^)「お……」
 
心配そうな表情を浮かべる内藤の肩越しに、エレベーターのドアが開くのが見えた。
ジョルジュは満足そうな笑みを浮かべ、片手を挙げる。
  _
( ゚∀゚)「よう、英雄、眠れたか?」
 
('A`)「寝過ぎて身体がだるいです。……時間まで寝てていい?」
 
いつも通り、やる気のなさそうな表情で答えるドクオに、居合わせた面々は笑みを浮かべる。
ドクオなら、自分達ならやれると、確信めいた気持ちが浮かび上がった。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:44:07.95 ID:+dkwiQl/0
 
( <●><●>)「残念ながらその申し出は却下ですね」
 
从;゚∀从「うおっ!? どっから湧いて出た!?」
 
いつの間にかハインリッヒの後方に立っていたワカッテマスが、ドクオの言葉に答える。
どうやらハインリッヒ達が来る以前から格納庫にいたようで、点検が終わったから戻って来たのだと言う。
 
( <●><●>)「作戦の最終的な確認と、装備の説明がありますので」
 
('A`)「ええ、頼んます」
 
( <●><●>)「説明といっても特に変わっていないので、最終的な時間だけですね」
 
ワカッテマスは手元の資料に目を落とし、事務的に読み上げる。
内容は暗記しているはずだが、念には念を入れてしっかりと確認しながら告げる辺りは相変わらずと言える。
 
( ´_ゝ`)「んじゃ、次はあれの説明だな」
 
(´<_` )「セイクリッド・ステーク、名前は結局これに落ち着いた様だ」
 
ワカッテマスの説明が終わると、顔を洗って戻って来た兄者達が話を引き継ぐ。
こちらも大幅な変更はないが、数点注意事項があるという。
 

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:47:12.75 ID:+dkwiQl/0
 
( ´_ゝ`)「見ての通り肩が多少大きくなってしまった」
 
(´<_` )「無論、相応の強度は持たせてあるが、極力被弾は避けて欲しい」
 
('A`)「一発ももらうつもりは無いさ」
 
平坦な調子で珍しく自信に満ちた答えを返すドクオに、居合わせた皆は驚きの表情を浮かべた。
しかし、ジョルジュだけは満足げに頷く。
  _
( ゚∀゚)「ったり前だ。あんなノロマな攻撃、避けられねーほどヘボじゃねーだろ?」」
 
( ´_ゝ`)「その意気だ」
 
(´<_` )「後詰めは無いと思ってくれよ」
 
そんなものは最初から当てにしていないとドクオは言う。
無論、万全を期すなら万が一の手段は考えておくべきだが、任務に当たるものが失敗してもよいと
考えているようではどこかに油断が生まれてしまうので、兄者達はただ頷いた。
 
一応、別の手もこれから準備する予定だが、使わないに越した事は無いと兄者と弟者は考えている。
 

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:51:02.94 ID:+dkwiQl/0
 
( <●><●>)「作戦と呼べるほどのものでもないですが、一応説明します」
 
ワカッテマスが左手に持っていたボードに目を落とし、淡々と説明を始める。
まずドクオ以外の三機が出撃し、フェイスの右手から攻撃を開始する。
 
( <●><●>)「当然、こちらは囮ですが、攻撃を引き付けるという意味でも本気で仕掛けてください」
 
从 ゚∀从「わーってるよ。あわよくば墜とすつもりでやるさ」
 
(´<_` )「無茶し過ぎるなよ」
 
弟者のやんわりとしたツッコミに、ハインは軽く頷く。
しかし、頭ではわかっていても、ジョルジュやハインリッヒは状況次第では熱くなり過ぎて突出する恐れがあると弟者は見ている。
弟者は内藤に目で合図を送り、内藤もそれを理解しているのか、無言で大きく頷いた。
 
( <●><●>)「それから十分後にドクオさんのクレーエが出撃、それと同時にミラージュを展開してください」
 
('A`)「了解」
  _
( ゚∀゚)「見つかるようなヘマすんじゃねーぞ?」
 
('A`)「さてね……それは向こうさん次第だろうが……」
 

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:55:52.83 ID:+dkwiQl/0
 
あれだけの量と幅を持つ巨大なフェイスの攻撃の前にはミラージュはあくまで気休めに過ぎないとドクオは考えている。
完全に隠れ切るなら囮はいらない。
出来ないからこそ攻撃を分散させる必要があるのだ。
 
('A`)「全部かわす。心配するな」
  _
( ゚∀゚)「……バーカ、心配なんざしてねーよ」
 
( <●><●>)「期待してますよ。……それで、音響壁を突破後ですが」
 
巨大フェイスに接近後、コアをセイクリッド・ステークで撃ち抜くのだが、表皮からコアまでの距離が通常のフェイスよりは
かなり遠い。
そこでステークを撃ち出すわけだが、その際に若干のセイクリッドのチャージが必要になる。
 
( ´_ゝ`)「無論、動きながら溜められはするが、出力をそちらに回すので機動力は若干落ちる」
 
(´<_` )「チャージは攻撃の直前、そしてそのタイミングで他の三機は派手に暴れて引き付けて欲しい」
 
('A`)「了解」
 
( ^ω^)「わかりましたお」
 

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 22:58:12.07 ID:+dkwiQl/0
  _
( ゚∀゚)「それまでにあの腕全部ぶった斬ってやるさ」
 
从 ゚∀从「調子に乗って墜とされんなよ?」
 
SA搭乗者四人、それぞれが力強く言葉を返す。
準備は既に整った。
後は出撃の時を待つだけだ。
 
( <●><●>)「作戦開始まで残り二時間七分四十二秒です。それまで各自英気を養っておいてください」
 
ワカッテマスのその言葉を合図に、全員がそれぞれ思い思いの行動を取る。
 
内藤とツンは朝食を取りに食堂へ。
ハインリッヒはワカッテマスと共にブリッジに。
ミルナも交えて最終的な確認をするようだ。
 
ジョルジュは風に当たってくると残し、ふらりとどこかへ消えた。
 
そしてドクオは……。
 

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:00:26.73 ID:+dkwiQl/0
 
('A`)「……」
 
ブリッジのドアをじっと見詰める。
作戦開始まであとわずか。
中は戦争のようなという喩えが当たり前過ぎるほどの忙しい時間を送っていることだろう。
 
('A`)「……」
 
話すべき事は昨夜話した。
いや、本当は全然話し切れていないのだが、それは生きて帰ってからだと決めたのだ。
 
その気持ちだけで十分だ。
 
ドクオは拳を握り、ブリッジのドアに向ける。
そのまま軽く前に突き出した。
 
('A`)「……よし、行くか」
 
ドクオは小さく、しかし力強く呟き歩き出した。
戦場の空に向かうため、己が愛機の元に向かう。

戦うと決め、帰って来ることを誓った男の眼には、恐れの色は微塵も浮かんでいなかった。
 

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:03:03.01 ID:+dkwiQl/0
 
 
 
(゚、゚トソン「SA全機搭乗を確認」
 
ミセ*゚ー゚)リ「作戦開始まであと3分です」
 
从 ゚∀从「オーケー、野郎共、覚悟は出来たか?」
  _
( ゚∀゚)「ハッ、覚悟も何も、いつも通りサクッと片付けて帰るだけだ、問題ねえ」
 
( ^ω^)「いつでもオーケーですお」
 
('A`)「……問題ない」
 
作戦開始まで残りわずか。
内藤達はSAに搭乗し、その時を待つ。
 
いつも通りの緊張と高揚が入り混じった感覚に包まれて、内藤は前方のモニターを見据える。
そこにはブリッジからの映像、既に第四次防衛ライン近辺まで迫った巨大フェイスの姿が映されている。
 
( ^ω^)「……大丈夫、やれるお」
 
昂ぶる気持ちを抑え、前方のモニターを再度注視する。
不意にモニターが切り替わり、司令であるミルナの姿が映し出される。
ミルナはいつも通りの厳しい、しかし落ち着いた声で言う。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:05:29.54 ID:+dkwiQl/0
 
( ゚д゚ )「作戦開始まで残りわずかだ。……皆、頼んだぞ」

从 ゚∀从「ああ、任せてくれ」
  _
( ゚∀゚)「大船に乗った気で見ててくれよ」

( ^ω^)「がんばりますお」

('A`)「……」

それぞれが思い思いの言葉を返す。
しかし、ドクオだけが無言だ。

( ゚д゚ ) 「……」

('A`)「……」

その目がしっかりと向けられているミルナに、思う所は多いのだろう。
しかし、ドクオはわずかな沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

('A`)「……必ず、やり遂げます」

( ゚д゚ ) 「……ああ、君に任せたよ、ドクオ君」

('A`)「そして……」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:08:31.29 ID:+dkwiQl/0
 
( ゚д゚ ) 「……」

('A`)「きっと帰ってきます」

( ゚д゚ ) 「ああ……待っている」

('、`*川「……」

ミセ*゚ー゚)リ「間もなく作戦開始時刻です」

(゚、゚トソン「SA02、03、07各機、出撃準備良し」

作戦開始時刻、まずジョルジュのシュヴァルベ、ハインッリヒのレルヒェ、そして内藤のシュトルヒと次々に基地を飛び立つ。
ドクオはその姿をモニター越しに見ながら、この上なく昂ぶる心を、静かに押さえ込むことに没頭していた。

('A`)「……」

必要なのは冷静な判断。
勢いに任せて吶喊するわけには行かない。
どんな状況に陥ろうとも、この作戦を成功させなければ自分にもこの島にも未来はないのだ。

ドクオはただ、その時をひたすら待ち続けた。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:11:05.16 ID:+dkwiQl/0
 
 
  _
(#゚∀゚)「ちぃッ! うざってえな!」

蒼穹を舞うシュヴァルベの後方に無数の触手が追尾する。
あわや接触というところでシュヴァルベを急旋回させ、そのままかわした触手を翼で切り裂く。
  _
( ゚∀゚)「ハッ! 俺を捕らえようなんざ10年早──」

ジョルジュの言葉が終わるより早く、左右から無数の触手がシュヴァルベに迫る。
油断したわけではないが、先日の段階より確実に強化、この場合は進化というべきか、巨大フェイスの攻撃に厚みが増している。

从#゚∀从「出過ぎだ、バカ!」

ハインリッヒの怒号と共に、白いセイクリッドの光が軌跡を描く。
シュヴァルベに迫っていた触手の片方の群れがレルヒェのセイクリッド・ライフルによって霧散した。
  _
( ゚∀゚)「ナイス!」

ジョルジュはシュヴァルベを右に旋回させ、残った触手を全て斬り墜とす。
しかし、再び新たな触手がシュヴァルベに迫る。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:13:14.79 ID:+dkwiQl/0
  _
(#゚∀゚)「ああ、クソッ! キリがねえ!」

( ^ω^)「援護しますお」

内藤のシュトルヒがシュヴァルベの背後に着く。
後方から迫る触手の群れを、その手のセイクリッド・ブレードで全て斬り墜とす。

3人の役割は陽動なのだから、バラバラに戦う必要はない。
もともとそういう位置取りで戦っていたのだが、シュヴァルベの機体特性とジョルジュの性格上、どうしてもシュヴァルベが
突出しがちになっていた。

从#゚∀从「ドクオがこいつを墜とすまでキリなんざつかねーんだ! 出過ぎんなって!」
  _
( ゚∀゚)「わーってるよ……けどな……」

三度迫る触手の群れに、ジョルジュはシュヴァルベを突っ込ませる。
  _
( ゚∀゚)「動かずにちまちま戦うのは性に合わねーんだよ!」

一瞬にして触手の群れは空に消え、シュヴァルベはそのままスピードに乗り前方、巨大フェイスの方へ突き進む。

从#-∀从「言ってるそばからあのバカは……」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:16:14.77 ID:+dkwiQl/0
 
( ^ω^)「追うお!」

从 ゚∀从「ああ、お前も無茶すんじゃねーぞ」

( ^ω^)「了解ですお」

頷きながらも内藤は、それは無理な注文だと考えていた。
既にこの状況がだいぶ無茶ではある。
やる前からわかってはいたことだが、圧し掛かるプレッシャーが尋常ではない。

絶え間なく襲い来る触手の群れに一瞬の油断が命取りになることは、考えるまでもなく理解出来る。

( ^ω^)「大腕、来ますお!」

4本の巨大な触手、大腕のうち左の2本が大きく薙ぎ払うように下から迫る。
当たれば一撃で墜とされる可能性もあるこの攻撃が最も注意すべきものだ。
その巨大さ故に速度もないのが救いだが、とてつもない攻撃範囲を誇る。
  _
( ゚∀゚)「当たるかよ!」

シュヴァルベ、シュトルヒ、レルヒェと次々に大腕をかわす。
風圧に多少姿勢を崩されはしたものの、無傷でやり過ごせた。

(;^ω^)「危ねっ!?」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:18:38.27 ID:+dkwiQl/0

从 ゚∀从「もっと大きく避けろ。あれで体勢を崩されて、後続に捕まるぞ?」

内藤は了解の意を返し、シュトルヒを加速させる。
再び空いたシュヴァルベとの距離を詰めるためだが、囮にしても出過ぎだと心配になる。

(;^ω^)「ジョルジュさん、これ以上は──」
  _
( ゚∀゚)「あの大腕、斬るぜ?」

内藤の危惧を知ってか知らずか、ジョルジュは更なる前進を試みる。
明らかに無謀と思える所行だが、内藤が答える間もなくシュヴァルベは巨大フェイスの大腕目掛けて降下を開始する。

从;゚∀从「無茶し過ぎだ! 戻れ、ジョルジュ!」
  _
(#゚∀゚)「うおらぁぁぁぁッ!」

ハインリッヒの制止も振り切り、ジョルジュの咆哮と共にシュヴァルベは空を翔る。

(;^ω^)「行きますお」

从;゚∀从「悪ぃ、付き合ってやってくれ」

続いてシュトルヒ、レルヒェもシュヴァルベを追う。
ジョルジュの無謀な行動にハインリッヒは苛立ってはいたが、シュヴァルベに単独行動を取らせるわけにも行かない。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:20:49.76 ID:+dkwiQl/0

( ^ω^)「あれを1本でも落とせばきっとドクオさんが楽になりますお。だから……」

そんなハインリッヒの苛立ちを和らげるような、戦場に似つかわしくない、優しげな声が届く。
兄の無謀な行動の理由はハインリッヒにもわかってはいたが、現在、隊を預かる身としては最も勝算の高い行動を選ぶ必要がある。

しかしながら内藤の気遣いは有難いと素直に思えた。
ハインリッヒはモニターに映るその顔に、少しだけ浮かんだ気持ちを抑え頷く。

从 -∀从「……ああ、わかってるよ」

ハインリッヒは覚悟を決める。
死ぬ覚悟ではない。
生き抜く覚悟、守る覚悟だ。

从 ゚∀从「一点集中、ジョルジュ! 上の方を狙え!」
  _
( ゚∀゚)「了解ッ! 援護は任せたぜ!」

3つの白い軌跡が巨大フェイスに向かう。
その心に迷いなく、ただ守るために剣を振るう。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:24:04.31 ID:+dkwiQl/0
 
 
 
(゚、゚トソン「巨大フェイス、右大腕切断確認」

ミセ*゚∀゚)リ「ナイス、ジョルるん!」
_
(#゚∀゚)「変な名前で呼ぶんじゃねぇぇぇぇ!」

('A`)「……」

モニターに映し出されるシルエットの形状から巨大な線が剥落した。
ジョルジュが斬り落とした大腕が落ち行く様をドクオはクレーエのモニターで見届けた。

('A`)「無茶しやがる……」

しかしこれで自分の進入経路は定められた。
空を舞う3機は踵を返し、巨大フェイスの左側へ向かう。
空いた右側から接近しろということだ。

('、`*川「SA05、出撃準備」

('A`)「いつでも」

モニターが切り替わり、ペニサスの姿が映し出される。
作戦開始まで残り2分。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:28:12.39 ID:+dkwiQl/0

('、`*川「……」

('A`)「……」

ドクオはただ、ペニサスの顔を見詰めていた。
出撃前に襲われる圧迫感、恐怖は不思議と浮かんでこなかった。

ごく自然な気持ちで、ごく当たり前の事をしに行くだけなのだ。
恐れることは何もない。

ドクオはただその時を待った。

('、`*川「作戦開始です、SA05発進」

('A`)「了解。SA05、クレーエ、出る」

クレーエの乗るカタパルトが重厚な音を立て動き出す。
ドクオはこの空に投げ捨てられるようなカタパルトの感覚がいつまでたっても慣れなかった。

('、`*川「……ドクオ」

サブモニターにペニサスの顔が映る。
隠密行動を取る今回の作戦では、一切支持を受けずにドクオ個人の判断で作戦を遂行する必要がある。
空に出た瞬間、通信は切れる手筈になっていた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:31:09.66 ID:+dkwiQl/0

('A`)「何だ?」

('、`*川「帰ってきなさいよ」

ただ一言、低い、しかし強い調子でペニサスは言う。
ドクオはただ、小さく頷く。

('A`)「……ああ」

('、`*川「必ず、ね?」

('A`)「了解」

もう1度、今度は力強く頷き、クレーエは空に舞った。
ミラージュが展開され、通信が切断される。

('A`)「……」

十分話したとは言えない。
伝えられたことはほとんどない。
ただ自分はそこにいて、助けられて来ただけだ。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:33:26.56 ID:+dkwiQl/0

('A`)「……だから」

クレーエの高度を下げ、水面に波が立たぬ程度の高度を保つ。
フェイスは視覚情報で判断してないので、波を立てても問題はないはずだが、その辺りは気分的なものだ。

('A`)「帰ってから伝えよう」

モニターに映る巨大フェイスを見詰め、ドクオは決意を固める。
これまでの生き方を悔いるより、これからの生き方を夢見る。

こんな世界でも、夢を見るぐらいは自由だ。

('A`)「まずはあいつを墜とす」

生き抜くため、守るため。
そして伝えるためにドクオは空を駆る。

ドクオは徐々に滾る心を鎮め、クレーエを慎重に巨大フェイスに接近させる。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:36:00.16 ID:+dkwiQl/0



从#゚∀从「ブリッジ! 状況は!?」

(゚、゚トソン「──wヘ√レ─クレーエは予定通り発進完了。目標到達まで残り5分です─vw──」

大腕の1つは墜としたハインッリヒ達囮の面々だが、残りの3本を墜とすまでには至らなかった。
流石にこれだけの波状攻撃の中を無傷というわけには行かず、この場を死守するのが精一杯だ。
_
(#゚∀゚)「ああ、クソッ! 近付けねえ!」

从#゚∀从「下手に動くんじゃねーよ!」

敵を墜とせるに越したことはないが、囮として敵を引き付ける必要がある以上、無茶をして墜とされるのだけは絶対に
避けねばならない。
3機は陣形を固め、その場で攻撃を凌ぐ事に終始した。

(;^ω^)「またかお!?」

無傷の左の上腕が内藤達に向けて振るわれる。
立て続けに2連、大空を薙ぐその巨大な軌跡に3機は大きく回避行動を取らざるを得ない。
それにより崩れた陣形に細い触手が群れを成し襲い掛かる。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:40:17.44 ID:+dkwiQl/0

从#゚∀从「チッ!」

元来遠距離からの狙撃が主な運用方であるハインリッヒのレルヒェは、3機の中で最も回避性能に乏しい。
とっくに墜とされていてもおかしくないほどの攻撃を凌いでいるのは、ハインリッヒの腕によるものか。
しかし、機体の消耗は激しく、危うい状況だ。
  _
( ゚∀゚)「おい、ハイン、お前は下がって──」

从#゚∀从「下がってられるか!」

再び巨大な触手が3機の眼前に迫る。
今度は右、1本だけだがかすりでもすれば簡単に行動不能に陥るだろう。

3機はさらに上空へとかわす。
こうも立て続けに来られるのは厳しいものだが、その分囮としての役割は果たしているとも言える。

(;^ω^)「ハインさん!」

从;゚∀从「やべッ!?」

最も低い高度に位置していたレルヒェに触手が殺到する。
陣形が縦に大きく広がってしまっていたのが災いした。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:43:25.43 ID:+dkwiQl/0
  _
(#゚∀゚)「クソッ!」

急降下を掛けるシュヴァルベだが、如何せん距離が有り過ぎる。
届く前にいくつもの触手がレルヒェを薙ぐ。

从;゚д从「ぐッ──」

とっさに展開したシールドで数本の触手を防ぐが大きく体勢を崩された。
そこに触手の追撃が迫る。

(#^ω^)「このぉぉぉぉッ!!!」

一閃。

シュトルヒのセイクリッド・ブレードが触手を斬り払う。
防を捨て、攻にだけ専心した一撃がレルヒェに迫る全ての触手を斬り墜とした。

从;゚∀从「内藤!!!」

霧散する触手の中、まっすぐに墜ちていく鉄の塊。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:47:40.92 ID:+dkwiQl/0

( ^ω^)「大丈夫……まだ行けますお」

左腕を墜とされながらも、内藤はシュトルヒの体勢を立て直し、新たな触手の元へ向かう。

从;-∀从(クソッ……すまねえ……)

明らかに自分のミスだ。
その所為で味方を危険に晒すなど、隊長としてあってはならないことだ。
しかしながら、今はその事を後悔する暇もない。
  _
( ゚∀゚)「行けるか?」

いつの間にかレルヒェのそばに降下して来ていたシュヴァルベが接触回線で声を掛けて来る。
ハインリッヒは自分の力不足を痛感しながらも気丈に返す。

从 ゚∀从「当たり前だ!」

セイクリッド・ライフルを構え、前方のシュトルヒに迫る触手を次々に撃ち墜とす。
今はただ戦う事だけを考えるしかないと、ハインリッヒは照準を睨む。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:52:10.06 ID:+dkwiQl/0



('A`)「……あれは?」

高高度から何かが飛来する。
それがシュトルヒの腕だと視認するのにさして時間はかからなかった。
そしてそれが意味する事を考えれば、焦る気持ちが加速する。

(;'A`)「もう少しだ……持ち堪えてくれよ」

巨大フェイスに近付くに連れ、クレーエの方にも散発ながら触手の攻撃が迫って来た。
ミラージュの性質上、位置の特定はされ辛くとも、そこに何かしらのセイクリッド反応は存在する。
近付けば必然的に攻撃は激化する。

それを避けるため、出力を落とし、セイクリッド反応を弱め、囮の方へ攻撃が向く様に仕向けてある。
その結果、もどかしい気持ちを抱き続けながらの接近を果たさなければならない。
この気持ちに耐え切るの事がある意味ドクオに取っての最大の難関とも言える。

('A`)「よし……」

何度目かの触手の攻撃をかわし、巨大フェイスに迫る。
既に囮の3機よりは敵の懐に飛び込んだことになる。

('A`)「あとは高度を上げ、コアを狙う──」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/27(水) 23:57:42.09 ID:+dkwiQl/0

突然、モニターに映る巨大な影が振動を始めた。

(;'A`)「何──」

この振動はどこかで見た事がある。
そう思った次の瞬間には、鋭い痛みが耳を刺していた。

(゚、゚;トソン「─v─音響壁!?vヘ√レ───」

(;^ω^)「何でこのタイミングで!?」

各機に被害なし。
当然だ。
直接的に衝撃が届いたわけでもなく、元よりあの程度の振動でダメージを受けるほどSAの装甲は脆くもない。

しかし──

(;'A`)「クソッ!!!」

高度を上げ掛けたクレーエの元に右の大腕が迫る。
それをかわしたクレーエの元に、細い触手が殺到する。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:00:17.49 ID:UHMEPlqy0

ミセ;゚д゚)リ「─vw─ミラージュが解除された!?─v─」

('、`;川「─v─ドクオッ!!!vヘ√レ──」

(#'A`)「ざけんなッ!!!」

両腕のブレードを展開し、旋回して触手を斬り刻む。
第一陣は切り抜けたが、再び大量の触手がクレーエの元に迫る。

(#'A`)「ちぃッ!」

(´<_`:)「─v─どうやら音響壁の振動でミラージュを霧散させたらしいな─vw─」

普段あまり見せることない焦りの色浮かべた弟者の顔がサブモニターに映る。
最も、状況を考えればそれしかないと、ドクオ自身は既に理解していた。

(;゚д゚ )「─v─クッ、作戦変更だ、全機───vw─」
  _
(#゚∀゚)「行くぜ、お前ら!」

从#゚∀从「わかってる!」


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:02:27.01 ID:UHMEPlqy0

(;^ω^)「合流して守りますお!」

作戦変更を告げるミルナの声よりも先に、内藤達3人はドクオの元へ向かう。
こうなれば囮もさほど意味を成さない。
巨大フェイスがより肉薄しているクレーエの方を狙う可能性は高い。

(#'A`)「お前ら──」
  _
(#゚∀゚)「てめえはその馬鹿デカい右腕を守って、あいつに近付くことだけを考えてろ」

シュヴァルベの翼が、

( ^ω^)「露払いは任せてくださいお!」

シュトルヒのブレードが、

从#゚∀从「行け、ドクオ!」

レルヒェのライフルが、クレーエに迫る無数の触手を墜とす。

(#'A`)「了解!!!」

4機一丸となり、コアを目指し上昇を掛ける。
大腕が左右から迫り、無数の触手が全方向から襲い掛かる。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:04:39.35 ID:UHMEPlqy0

(;^ω^)「くおッ!?」

从;゚д从「内藤ッ!」

シュトルヒの左足の膝から下が消え去った。
辛うじて体勢を維持し、セイクリッド・ブレードを構え直す。

(;^ω^)「まだ行けますお!」
  _
(;゚∀゚)「無茶すんな、退け!」

(#^ω^)「この状況で退けるわけないでしょうが!」

内藤はそのままシュトルヒをクレーエの前方に飛び出させる。

(#^ω^)「ドクオさん!」

(#'A`)「ああ!」

迫る触手を一手に引き受け、シュトルヒはその場に立ち塞がる。
ドクオは内藤を囮に、機体を一気に上昇させた。

(#'A`)「ステーク、チャージ開始!」

そのまま右手のセイクリッド・ステークのエネルギーチャージを始める。
ドクオは内藤が作った一瞬の隙をチャージの時間に当てた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:06:57.21 ID:UHMEPlqy0

(;゚ω゚)「がッ!?」

触手の一本がシュトルヒの右足を砕いた。
完全にバランスを失った機体は吸い込まれるように落下して行く。

从;゚д从「内藤ーッ!!!」
  _
(#゚∀゚)「内藤を追え、ハイン!」

从;゚д从「え?!」
  _
(#゚∀゚)「こっちは俺が守る! お前は内藤を守れ!」

从;゚−从「けど──!?」
  _
( ゚ー゚)「……皆で島へ帰るんだろ?」

从;゚−从「──!」

ほんの一瞬、兄が見せた笑顔にハインリッヒは自然に頷いていた。
戦場に似つかわしくない、内藤のそれと似た兄の笑みにハインリッヒはただそれに従っていた。

从 ゚∀从「頼む、兄貴!」
  _
( ゚∀゚)b「任せろ!」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:09:11.68 ID:UHMEPlqy0

ハインリッヒのレルヒェはその言葉を背に急降下を掛けた。
堕ちながらも未だ剣を振るう仲間の元に。
守るため、戦う道を選んだ男の下に。

从;゚−从「内藤──!」

そして自分が、戦う理由のために。

从#゚∀从「堕ちろ!」

シュトルヒに迫る触手を次々に撃ち墜として行く。
最高速度を維持しながら、驚異的な命中率だ。

(;゚ω゚)「ハインさん、こっちはいいから──」

从#゚∀从「うるせー、今は生き伸びる事だけを考えてろ!」

音もなく飛び散る触手の群れ。
蒼い空広がるに透明な輝きをまといながら2機は勢い良く着水した。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:11:33.21 ID:UHMEPlqy0
  _
( ゚∀゚)(生きろよ、2人共……)

上空の2機にも空を埋め尽くさんばかりの触手が迫る。
どれだけ多くの触手を墜としてもまだ襲い掛かる、この恐ろしいまでの再生能力には舌を巻かざるを得ない。
  _
(#゚∀゚)「ドクオ!」

(#'A`)「チャージ完了!」

ドクオの返答を聞く前に、既にジョルジュは巨大フェイスのコアの前に踊り出していた。
全てを引き付け、全てを斬り払う。
それがこの場でのジョルジュの最後の役割だ。
  _
(#゚∀゚)「もういっちょ!」

シュヴァルベの翼をはためかせ、ジョルジュは触手を斬り墜とす。
既に機体の限界は当に越した。
この一度で決めなければ、次のチャンスは作れない。
  _
(;゚д゚)「かはッ!?」

1本の触手がシュヴァルベの翼を貫く。
耐用強度限界を超えた運用に、最も酷使した翼が保たなかった。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:18:09.09 ID:UHMEPlqy0

(:'A`)「!?」
  _
(;゚∀゚)「馬鹿野郎ッ! 行け!」

シュヴァルベへの追撃をドクオがクレーエの左腕のワイヤーで防いだ。
その間隙を縫い、今度はクレーエに向け触手が殺到する。
  _
(#゚∀゚)「やらせるかよッ!」

折り重なる2機を触手が貫く。
その刹那、無数の透明なきらめきを撒き散らし、1機は海へ、1機は空へ舞った。
  _
(;-∀-)「……あとは……頼む」

両翼を失い、堕ちて行く真紅の機体。

(#'A`)「おおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!」

片腕を失った漆黒の機体がまっすぐに突き進む。
無数の触手が、残された活路を斬り刻む。

右足が飛び、首が飛ぶ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:21:38.65 ID:UHMEPlqy0

それでも守った最後の希望が、引き絞った右腕がコアへ向けて解き放たれる。


(#'A`)「セイクリッド・ステェェェェクッ!!!」


眩い光の奔流。


漆黒から放たれた光は一直線に全てを貫いた。













80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:24:41.27 ID:UHMEPlqy0

「──wwヘ√レwv──wwヘ──vヘ√レ────」


暗い真っ暗な世界だ。
どことなく馴染みがあり、自分にとっては慣れ親しんだ世界かもしれない。


「─v──vw──vw──vヘ√レ──vw───」


きっと俺は、ここで生まれて、ここに帰るのだろう。


「──wwヘ√レwv─オwwヘ──vヘク√レ───」


不思議と安らいだ気持ちだ。
それが何から来るのか、俺自身が理解するのにそう時間はかからなかった。

俺は自分のやるべき事を果たしたのだから。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:28:11.48 ID:UHMEPlqy0

「─v─ドク──vw──vヘ√レ──vw───」

見えるはずのない青一面の世界。
聞こえるはずのない漣の音。

その合間を縫って聞こえてくる、ノイズ混じりの呼び声。

あれは……

俺は……


('、`;川「─v─ドクオ!─vヘ√レ──」

('A`)「……」

耳に届く涼やかな声。
俺が最も欲した声。
守りたかった人。

('、`;川「─vドクオ!─vv─聞こえてる!?vヘ√レ─返事をして!!vw──」

俺は……


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:50:32.05 ID:UHMEPlqy0

('A`)「……まだ……約束……」

まだ約束を果たしていない。

('、`;川「─vwドクオ!!!vヘ√レ──」

('A`)「……約束……帰る……」

必ず帰るという約束を。
俺は……

('A`)「……」

通信機がいかれたらしい。
もうあの人の声は届かず、自分の声も届かなくなった。

ただモニターに浮かぶ顔が、悲しげな眼差しでドクオを見詰める。

不意に体が浮かび上がる感覚に包まれた。
深い海の底から、引き上げられる感覚。

文字通り俺の身体、クレーエが海の底から引き上げられようとしていた。
  _
(;-∀-)「……生きてるか?」

('A`)「……ジョル……」
  _
(;-∀-)「いい、喋るな」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:52:50.63 ID:UHMEPlqy0

満身創痍のシュヴァルベが、身体と右腕しか残っていないクレーエを抱きかかえる。
2機はゆっくりと水中を進み、やがて海上へ出た。

('A`)「やつ……は……?」
  _
(;-∀-)「お前は良くやったよ……安心しろ」

('A`)「そう……か……」

ドクオは不意に意識が遠のくのを感じた。
目的を果たした安心からか、張り詰めていた気持ちが和らぐのを感じた。

('A`)「ジョル……ジュ……」
  _
(;-∀-)「いいから喋るな。あと少しで帰れる」

('A`)「いや……聞いてくれ……」
  _
(;゚∀゚)「ああ……」

ドクオの言葉にジョルジュは背けていた目をドクオの方に向ける。
その意味を悟らせるに十分なほど真っ赤に染まったパイロットスーツを直視した。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/01/28(木) 00:56:21.40 ID:UHMEPlqy0

('A`)「ありがとな……こんな俺に付き合ってくれて……」
  _
(;゚∀゚)「何言ってんだ、仲間だろ、俺達は? それに俺達は……」

('A`)「……」
  _
( ゚∀゚)「親友だ」

ジョルジュの言葉にドクオはわずかに口の端を緩めた。
まだ大丈夫のはずだと、気が焦るジョルジュだが速度を上げる事は機体と搭乗者の両方の損傷で難しい。

('A`)「……あとさ」
  _
( ゚∀゚)「何だ?」

('A`)「ごめん」
  _
(;-∀-)「──何がだ?」

('A`)「あと……頼む……」
  _
(;-∀-)「……ふざけんなよ」

ジョルジュはわずかに機体の速度を上げる。
海岸まで辿り着けば、救護班が待機している。
そこまで辿り着けばきっと……

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/28(木) 01:00:29.71 ID:UHMEPlqy0

('A`)「俺は……」
  _
( ゚∀゚)「……」

クレーエから接触回線で届くドクオの声は、どこか朦朧とした響きでジョルジュの耳に届く。
既に自分が何を言っているのか理解出来ていないのかもしれない。
ただ心にあるドクオの思いが、ジョルジュの胸を刺す。

('A`)「帰るんだ……」
  _
( ゚∀゚)「ああ……帰ろう……」

('A`)「俺は……」
  _
( ゚∀゚)「……」

(-A-)「俺は……島に……帰るんだ……」
  _
( -∀-)「ああ……帰ろうぜ、俺たちの島へ……」

2機はもつれ合うように砂浜へ着陸した。

必ず島へ帰る。

その約束を果たし、1人の男は静かに逝った。


    ( ^ω^)は島を守るようです  中々々々々編 終わり


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