( ^ω^)は島を守るようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/02(火) 20:51:10.04 ID:Bdy8edaX0
 
 
 
それはこれまでと何ら変わることのない儀式の様なものだった。
死を悲しみ、埋葬し、日常へ還る。

悲しみは尽きることはない。
嘆きは底知れない。

それでも自分達は、生きる為には前を向いて歩き続かなければならないのだ。

( ^ω^)「……」

巨大フェイスの侵攻から1週間が過ぎていた。
まだ夏の暑さが色濃く残る晩夏の日、内藤はVIP食堂の前に1人たたずんでいた。
腕や腹に包帯は巻いているが、奇跡的に軽症で済んでいて、歩くのに不自由はしていない。

1週間。
忘れてしまうには短いはずの時間。
その短い時間を遡れば、ここにドクオはいた。

やる気の感じられない、不機嫌そうな顔で出迎えてくれていたのだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/02(火) 20:52:47.29 ID:Bdy8edaX0

( ^ω^)「……」

亡くなった者が生前よくいた場所に行くのは、いつまで経っても慣れないと内藤は思う。
行けば当然思い出し、悲しみと後悔が押し寄せてくる。

それを思い出として振り返ることが出来るようになるのに、どれだけの時間が必要なのだろうか。

内藤は食堂のドアに手を掛けた。
ドクオがいなくても店は開いている。

島を守るのは、何も戦う事だけではない。
こうやって日常を維持することも守る事なのだ。
だからこの食堂は、ドクオが守ったこの食堂は残された皆で守り続けるのだ。

('、`*川「いらっしゃい」

( ^ω^)「ペニサスさん……」

出迎えてくれたのは予想していなかった顔、基地のオペレーターであるペニサスだった。
内藤は一瞬足が止まったが、ほんのわずかな逡巡の後、適当な席に着いた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 20:54:22.18 ID:Bdy8edaX0

('、`*川「昼食?」

( ^ω^)「はいですお」

短いやり取りの後、訪れる沈黙。
互いがここにいる事が、互いにとってどういう意味を持つのか。
聞くべき事も、言うべき事も、全てが自分の中で消えてしまう。

('、`*川「……何にする?」

店員と客。
普遍的な関係に置き換える事で辛うじて時間は流れて行った。

( ^ω^)「焼きそばを」

内藤は目の前に置かれた水の入ったコップに目を落とし、メニューを見ることも無く注文する。
ペニサスは無言のまま内藤を見詰め、静かに頷いた。

('、`*川「……ちょっと待っててね」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 20:56:03.33 ID:Bdy8edaX0

厨房から音が聞こえる。

野菜を洗う音。
野菜を切る音。
焼きそばを炒める音

どれも以前ここで聞いた音とどこか違う。
明らかにリズミカルで手際の良い音だ。

きっと出来上がりも違う味で、多分あれより数段良い出来なのだろう。

時間にして十数分、湯気立つ一枚の皿を手にペニサスが厨房から戻って来る。

('、`*川「お待たせ」

( ^ω^)「おー」

内藤の前にむらの無い、鮮やかなソース色の焼きそばが置かれる。
正直な所、ペニサスの事をがさつだと認識していた内藤だが、料理の方はそうでもないらしい。

( ^ω^)「いただきますお」

('、`*川「どうぞ、召し上がれ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 20:57:48.28 ID:Bdy8edaX0

( ^ω^)「美味いお」

('ー`*川「そりゃ良かった」

ペニサスの焼きそばの味は見た目通り美味しかった。
よく考えたらペニサスがドクオに料理の指導をしていたのだ。
ドクオより下手ということは有り得ない。

内藤はものの数分で食べ終わり、箸を置いた。
足りなかったのではと気を回すペニサスに内藤は無言で首を振った。

美味しかったが食べたかった味ではない。
ここに来た理由を考えれば当たり前の事で、絶対に口に出来ない言葉だ。

( ^ω^)「……」

('、`*川「……」

再び訪れる沈黙。
それはある意味必然の事。
当然口に出るはずの話題を意図的に避けてる為の対価。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 20:59:17.93 ID:Bdy8edaX0

('、`*川「週に数回ね、ここに入る事にしたの」

あいつの代わりにとペニサスは言う。
ペニサスの方から沈黙を破ったのは年長者の責だろうか。

内藤は黙って頷く。

('、`*川「誰かがやらなきゃいけない事だしね。私も料理は好きだし」

内藤は無言でペニサスの話を聞いていた。
料理の話、店の話、島の話、そしてドクオの話。

ペニサスが語るドクオの姿は内藤も良く知っているその姿で、目を閉じればまだ鮮やかに思い出すことが出来る。
それがいつしか消えて逝くのは寂しい事だが、こんな風に同じ思い出を語れる相手がいれば忘れずにいられるかもしれないと
内藤はいつしか微笑んでいた。

('、`*川「何? 私何か面白い事言った?」

( ^ω^)「いえ、そうじゃないですお」

内藤は理由は言わず否定した。
ドクオの思いは届いていなかったかもしれないけど、ドクオはちゃんとペニサスの中にいたのだ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:01:00.96 ID:Bdy8edaX0

('、`*川「……」

( ^ω^)「何ですかお?」

そんな内藤の思いを見透かすかのように、ペニサスは内藤の顔をじっと見詰める。
見詰め返す内藤の目に映るのは、悲しみを色濃く湛えたその瞳。

('、`*川「私ね、ドクオの気持ちには気付いてた……」

( ^ω^)「……そうですかお」

ほんのわずか、言葉に詰まりはしたものの、その事自体はそう驚くべき事ではなかった。
自他共に鈍いと認める内藤ですらドクオの気持ちは何となく察せられていたのだ。
面倒見の良く、他人の相談に良く乗ってあげたりしているペニサスが気付いていてもおかしくはない。

('、`*川「私も別にそれが嫌とかじゃなかった」

('、`*川「出来の悪い弟みたいな感じだったけど」

家族として、愛していた。
ペニサスの言葉はそういうことだ。

ドクオが望んだそれとは違う。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:02:31.26 ID:Bdy8edaX0

いや、ドクオもそれを望んでいたのだろうか?
彼女を姉として、家族として慕っている節はあった。

どちらにしろドクオは、ペニサスがいなければ戦う事は出来なかった。

それが裏を返せば、ペニサスがいなければ戦う事はなかったと、ペニサス自身がそう思わないで欲しいと内藤は切に願う。

('、`*川「でも私は、あいつの気持ちをはぐらかして、まっすぐに向き合ってはあげられなかった」

その理由は内藤には察する事が出来ない。
でも、それは個人の自由なのだから、ペニサスが責任を感じる事ではないと内藤は思う。

自分達は皆、自分が守りたいものの為に戦っているだけなのだ。
見返りが欲しくてやっているわけではない。

自分の為なのだ。

(;、;*川「私は……あいつを……」

( ^ω^)「ごちそうさまでしたお」

内藤はテーブルに焼きそばの代金を置き、立ち上がる。
どうしようもなく薄情だが、自分ではペニサスの涙は拭けないと内藤は思う。
だから、泣きたい時に泣かせてあげたいと思う。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:04:01.06 ID:Bdy8edaX0

ドクオはきっと、ペニサスに泣いて欲しくはないだろうが、ドクオの為に泣いてくれているのだ。
しばらくは我慢して欲しい。

(;、;*川

でもいつか必ずペニサスさんの涙は止まる。
彼女は強い人だから。

自分がやるべき事の為に、ドクオの代わりに島を守る為にきっと。
内藤はそうを信じている。

( ^ω^)「ドクオさんは幸せだったと思いますお。ペニサスさんのお陰で」

食堂のドアに手を掛け、振り向かずに内藤は言う。
気休めではない。
自分がドクオの立場なら、きっとそう思う。

思いが届き、守りたいものが守れた。
それだけで自分は幸せだと思う。
自分が生きた意味を果たせたと思う。

ドクオもそう思うはずだ。
自分達はきっと同じ思いを抱えて同じ空を飛んでいた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/02(火) 21:05:52.53 ID:Bdy8edaX0

( ^ω^)「だから、がんばって生きましょう。ドクオさんの為にも」

内藤はドアを開け、食堂を出る。
一際高くなった嗚咽を背に受けながら。

内藤は暖簾を上げ、ドアのプレートをひっくり返し、準備中とした。

( ^ω^)「……」

悲しむ事が出来るのは、このひと時の平和の間だけだ。
またフェイスの侵攻があれば、泣く事すら叶わない。

だから今だけは、自分の気持ちに正直に涙して欲しい。

泣く事を止めた自分の代わりに。

( ^ω^)「さて、行くかお」

内藤は歩き出す。
歩く度に、抱えるものが重くなる。
それでも内藤は歩く。

この島を守る為に。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:07:24.01 ID:Bdy8edaX0



( <●><●>)「失礼しました」

司令室を出るワカッテマスの足取りは重い。
何度も経験した事とはいえ、仲間を失う事はとてつもなく辛い事だ。

司令であるミルナも、この一週間ずっと沈痛な面持ちだ。
自分より歳若い人間に先に逝かれるのは何ともやりきれない。

作戦の最高責任者であるミルナは、自分が一番ドクオの死に対して責任があると考えている。
しかしそれをミルナの所為だとは死んだドクオですら思っていないだろう。

あの場で取れた作戦には限りがあり、なおかつ結果も残せた。
人の生命を単純な計算に置き換える事は出来ないが、誰もが最善を尽くした結果なのだ。

それでも誰もが後悔する。
失った生命の重さに。

ミルナに限らず、共に戦場に出ていた3人は特にだ。

自分があの場で墜とされていなければと、己の力不足を激しく後悔していた内藤。
自分のミスが無ければ内藤の機体の損傷も無く、あの場で戦力を分ける事も無かったと唇を噛み締めていたハインリッヒ。
ドクオを守ると言っておきながら、最後まで守り通せなかったと拳を叩き付けていたジョルジュ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:08:53.63 ID:Bdy8edaX0

しかしそれを誰が責められるだろうか。

彼らは最善を尽くしたのだ。

内藤があの場で盾にならなければ、ドクオはコアまで辿り着けなかったかもしれない。
規格外の運用を強いたレルヒェがあそこまで戦えたのはハインリッヒの腕のなせる技だし、彼女が内藤を守らなければ、
内藤が代わりに死んでいたかもしれない。
そしてジョルジュがギリギリまで攻撃を防いでいたからこそ、ドクオの右腕を守れたのだ。

彼らが責められる謂れも、悔いる必要性もないはずなのだ。

ワカッテマスはそう思う。

しかしそれでも、人は失った生命の重さに耐え切れず、どこか逃げ道を用意する必要があるのかもしれない。
自分を苛む事でまた立ち上がれるのかもしれない。

( <●><●>)「……とは言え、気持ちの問題だけでもないのですが」

誰に言うでもなくぼやく。
基地の副司令であるワカッテマスには悲しみよりも先に考えなければならない事が山ほどある。

その最たるものは戦闘要員だ。
残されたSAは3機。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:10:04.62 ID:Bdy8edaX0

ドクオが命を賭して帰り着いてくれたおかげで、クレーエも使えない事はないが乗りこなせる人間がいない。
もう1台、作業用のシュペヒトもありはするが、作業用は作業用。
使えても盾程度にしかならない。

結果、今後もやはり3機で島を守らなければならないということだ。
さらに言えば搭乗者の負傷、機体の損傷もあり、しばらくは3機をフル活用する事も出来ない。
またいつフェイスが襲って来るとも限らない現状、色々な対抗手段をワカッテマスは考える必要がある。

( <●><●>)「対抗手段ですか……」

正直な話、それは無いとワカッテマスは考えている。
勿論、悲観的に諦めたわけでなく、冷静に分析しての事だ。

一方的な消耗戦。

片や限りある生命、機体。
片や無尽蔵に沸く戦力。

どう考えても先は見えている。

そうなれば自分たちが生き延びる道は1つ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:11:24.73 ID:Bdy8edaX0

( <●><●>)「あの話も、真剣に考える時期に来ましたかね……」

多くの反対にあうだろう事は必至だ。
しかし、このまま何もせず手をこまねいているわけにもいかない。

ワカッテマスもまた、守るべきものがあり、守るべき責務を負う。
その為には心を鬼にしても下さねばならぬ決断がある。

しかし……

( <●><●>)「……またこの島で祭りをやりたかったですね」

ワカッテマスも他の皆と同じく、この島が好きだ。
他人に恨まれる事より、自分の気持ちを納得させる事の方が辛いのかもしれない。

ワカッテマスは首を振り、ブリッジに向かい歩き出す。
今はまだ、その時期ではない。
だがしかし、準備は進めておこうとワカッテマスは心に決めた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:13:08.65 ID:Bdy8edaX0



流れる時は人の想いを静かに凪ぐ。

暑さが去り、穏やかに舞う落ち葉をくぐり、冷たい空気が肌を刺す雪の季節に辿り着く。
過ぎた時を忘れる事は決して出来ないが、その重みに耐えられるぐらいには心を鎮めてくれる。

あれからいくばくかは沈静化したフェイスの襲撃に、戦いの終わりを見る者もいたが、それを嵐の前の静けさだと言う者もいた。
どちらにせよ、これまでと同じく内藤達は変わらぬ戦いの日々を送る。


( ^ω^)「左側面、フェイスの殲滅を確認!」

巨大な鋼鉄の塊が空を薙いだ。
その体躯に明らかに不釣合いな巨大な刀を構えたシュトルヒが旋回し、仲間の下に向かう。

よく見ればそのシルエット自体もこれまでと大きく異なり、左右非対称な姿形が確認出来る。

从 ゚∀从「よし、このままフォーメーションを維持。中央のクラックに向かうぜ」

フォーメーションの中央、セイクリッド・ライフルでシュトルヒの援護を終えたハインリッヒが宣言する。
その言葉に従うようにレルヒェの左前方に位置していた真紅の機体が前進を始めた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:14:37.08 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「ジョルジュ! 突出すんなよ?」
  _
( ゚∀゚)「いい加減わーってるって」

真紅の機体、ジョルジュのシュヴァルベは右手を軽く挙げ、現状速度を維持する。
内藤のシュトルヒも、シュヴァルベに速度を合わせ前進する。

戦える機体が3機に減った事で、彼らはまたその戦い方を変えざるを得なかった。
これまでの様に大きく散開し、各自が個別にフェイスを撃破、クラックを発見次第、長距離からの射撃でクラックを破壊する
戦い方は難しくなった。

現在は3機が前方2、後方1の三角形のフォーメーションを組み、連携してフェイス、およびクラックを破壊している。

クラックの発見位置、数によってはこれまで通り、セイクリッド・ランチャーによる長距離射撃で破壊する事もあったが、
その際に自由に動ける気体が1機だけと、防御面においてかなり不安のある構成になってしまう。

その代わりとして用いられた対抗策、それはあの巨大フェイスの進行時に提示されたもう1つの兵器。

ミセ*゚д゚)リ「──vw─目標1、距離前方……ってもう見えてるよね?──vw─」

通信機から少々適当すぎるミセリの指示が届くが、確かにレーダーにも映り、既に目標の視認は出来ている。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:16:05.76 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「今回も1つだけか?」

(゚、゚トソン「─vwv─そのようですね─vw─vw─」

从 -∀从「ふーむ……これは本格的に沈静化したと見ていいものかね?」

(-、-トソン「─wv─……そうしたいところですね……でも……─vw─」

从 ゚∀从「ま、そうだな。アタシらは常に最悪の事態に備えるだけだ。用心してしすぎる事はない」

ハインリッヒはそう言って頷き、視線を前方のクラックに戻す。
クラックを守るガーダーの数も2機と、やはりフェイスの侵攻は弱化してると思わずにはいられない。
  _
( ゚∀゚)「速攻、行くぜ?」

从 ゚∀从「おめえはそれしかないのかよ? だがまあ、しかし……」

( ^ω^)「今回はそれで正解ですお」

その言葉と同時に、内藤のシュトルヒが速度を上げる。
ほんのわずか遅れて、しかしすぐさまシュトルヒを抜き去り、ジョルジュのシュヴァルベが最前列に出る。
  _
( ゚∀゚)「お前は後詰めだろが。雑魚は俺に任せとけよ!」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:17:45.56 ID:Bdy8edaX0

ジョルジュのシュトルヒが空を駆け、無数のフェイスを翼で切り裂く。
これまでと何ら変わるところのない、ただのフェイスに遅れを取るほど緩い戦いをして来たわけではない。
一瞬にして内藤の進路は確保される。

从 ゚∀从「よし、行け、内藤!」

( ^ω^)「了解!」

レルヒェからの援護を背に受け、内藤はシュトルヒを一直線にクラックへ向ける。
巨大な鉄の塊、長大な刀状のそれを二本の右手で脇に構え、一気に距離を詰める。
  _
( ゚∀゚)「行けッ! トライアングルアタックだ!」

(;^ω^)「誰がカチュアだお!?」

目前のフェイスがレルヒェの射撃で爆ぜる。
防御は既に考えていない。
親友から受け継いだ名を持つこの刀で、同じく受け継いだ腕でクラックを斬り裂くだけだ。

( ^ω^)「ベノム・ブレイド!!!」

下段から跳ね上げるように斬り上げる。
ただ一閃、それだけでクラックはガーダーごと空に消えた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:19:02.91 ID:Bdy8edaX0

ミセ*゚∀゚)リ「──vw─目標の消失を確認! みんな、お疲れー──vw─」
  _
( ゚∀゚)「呆気ねーな。疲れるほどもねえ」

从 ゚∀从「疲れねーで済むならそれに越した事はねーよ。内藤、お疲れ」

( ^ω^)「お疲れ様でしたお」

任務を終えた3機はフォーメーションを維持したまま帰投する。
損傷はほぼ無し、文句の付け様もない出来だが、彼らは皆心のどこかで不安を感じていた。

楽な戦いであればそれでいい。
戦わずに済むならそれがいい。

そう思ってはいるが、今のフェイスの侵攻がどうにも手ごたえがなさ過ぎて引っかかる。
巨大フェイスの侵攻以降、あれほどの激しい侵攻は一度もない。

それが戦いの終焉に向かっているのならそれはそれで歓迎すべき事態だが、内藤達にはどうしてもそういう風には
考えられなかった。

それはただの勘というレベルでしかなかったが、長く戦いの場に身を置いた内藤達は自分達の感じるそれを頼りに
生き残ってきたのもまた事実である。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:20:47.15 ID:Bdy8edaX0



( ´_ゝ`)「お疲れさん。今日も特に言うべき事はないな」

帰投した3人を兄者と弟者が迎える。
この戦闘内容なら、兄者が言うように特に反省会と称したミーティング等を行う必要はないだろう。
手際も被害状況もほぼ満点の出来だ。

(´<_` )「損傷はほぼ0か。ブーン、ヴェノムの調子はどうだ?」

( ^ω^)「問題ないですお。バランスも以前より安定してますお」

ヴェノム、内藤のシュトルヒが携えていた巨大な刀の呼称だ。
あれだけの大きさを誇る武器ともなると、ロールアウト直後はまず機体のバランスを取るという点で大きな問題があった。

( ´_ゝ`)「3本目の制御はどうだ?」

( ^ω^)「それも思った以上にAIが上手くやってくれてるみたいですお」

機体の出力を上げたり、刀身自体に制御用の推進装置を埋め込むなどの手段も駆使したが、最終的にはシュトルヒの腕を
増やすという少々乱暴な手段でその問題を解決した。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:22:18.63 ID:Bdy8edaX0

用いられた腕はクレーエの右腕。
もともとシュトルヒのそれよりも高出力に耐え得る設計であったため、刀身のバランスを取る為の推進装置を増やしても
問題はなかった。

その代わり、クレーエにあった武装は取り外されているし、それ自体の制御の為のシステムを新たにシュトルヒに積んだ。
現在シュトルヒの操縦席の後方には、巨大なAI用のコンピュータが設置されている。

ξ゚听)ξ「意外って何よ、意外って? 私が組んだプログラムに文句でもあるの?」

内藤の言葉尻を耳聡く捕らえたツンが、不機嫌そうに内藤に詰め寄る。
他意はなかった内藤だが、確かに失言とも取れる言葉だ。

(;^ω^)「そ、そういう意味じゃないお」

ξ゚听)ξ「じゃあ、どういう意味よ?」

問い詰めるツンだが、本気で怒っているというわけでもない。
飲み物を内藤に手渡しながら、今回の戦闘でのAIの調子を細かく聞きだしている。
  _
( ゚∀゚)「しっかし、妙に歯ごたえねーよなー」

ジョルジュは両手を広げ馬鹿にしたように呟く。
戦いが楽な事に関しては歓迎すべき事態だが、一時期の状況を考えればこの手ごたえのなさは却って不気味だと思っている。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:23:46.32 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「戦闘中、何か変わった物は観測出来たか?」

ハインリッヒの問いに弟者は無言で首を振る。
単なる力押しのフェイスの侵攻でしかなかったと解説を加えた。

ξ゚听)ξ「その辺はまあ確かにね。AIが人の曖昧なくせの様なものを理解する為には組み直すか学習させるしかないわね」

( ^ω^)「逆にこちらがその辺を理解して遅らせればいいんだおね」

真面目ながらもどこか楽しそうに会話する2人を横目に見ながら、ハインリッヒは弟者との会話に集中する。

从 ゚∀从「もともと策を弄してくる連中とは言えなかったが……」

これまでに見られた進化とも言えるフェイスの強化はこのところ全くなされていない。
これまでの傾向からすれば、また巨大フェイスが侵攻してきてもおかしくない話なのだがそれも1度もない。

(´<_` )「この状況をどっちと見るかだな……」

弾切れか、温存か。
前者なら歓迎すべき事態で、希望も見えてくる話なのだが後者なら最悪だ。
そんな考え方がフェイスにあるのかはわからないが、何らかの思惑の下にフェイスが戦力を温存している可能性も考えられる。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:25:16.85 ID:Bdy8edaX0

从 -∀从「幸いっつーか、悲しい事にか、誰も楽観的な見方してねーんだよな……」

(´<_` )「そこは島の皆の慎重さを褒めるべきだろう」

この状況に慣らされ、猜疑心の塊になったとは思いたくない事だが、有事に備えるにはこの緊張した空気を維持しておいた方が
生き延びられる可能性も高まる。

从 ゚∀从「通信も相変わらずなんだろ?」

(´<_` )「ああ、まだあまり手を広げてはいないがな」

この島だけでなく、全世界でフェイスの勢力が弱まりつつあるのなら他の残存地域から何らかのアプローチがあってもおかしくない。
この島の他に生きている人間がいればの話だが。

こちらからも通信を飛ばしたりはしているが、さほど強力な通信設備をないのと、セイクリッドを大量に発するような機器を海上に
浮かべるのは新たなフェイスを呼び込む可能性もあるのでそれほど力を入れているわけでもなかった。

一度だけ大きな手を打った事もあるが、あれから半年以上も時が過ぎている。
失敗と考えるしかない状況だ。

( ´_ゝ`)「まあ、とにかく今は我慢さ」

現状維持、専守防衛に務めるしかないと兄者が2人の話に割って入る。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:26:35.15 ID:Bdy8edaX0

(´<_` )「……だな。被害を最小限に、出来れば戦力の強化も……」

そうは言ったものの、現在の所、これ以上の戦力の増強は望める話ではない。
機体こそ残されたものの、ドクオが乗っていたクレーエは搭乗者がいない。
加えてその右腕は現在シュトルヒに運用されている。

从 -∀从「乗れそうなやつはいねーしな……」
  _
( -∀-)「乗せたくもねーよ」

この過酷な空を、島の誰にも飛ばせたくないとジョルジュを始め、搭乗者の皆は思う。

死に最も近いこの空を。

( ´_ゝ`)「んじゃ、そういうことで。俺は帰るからな」

重く静かになった空気を、兄者の軽い言葉が破る。
機体の損傷がほとんどないとはいえ、開発部の主任が戦闘直後に帰るのは如何なものかと弟者は眉を潜める。

(´<_` )「おい、兄者、機体の整備は……」

( ´_ゝ`)「それは整備部の仕事だろうが。俺は開発部だぞ?」

そういって兄者は右手をひらひらと振って見せ、エレベーターの方へ向かう。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:28:22.74 ID:Bdy8edaX0

確かに兄者の言葉は正論ではある。
開発部が整備部の手伝いをするのは作業が追い着かない場合だ。
今回程度の損傷なら整備部の手だけで事足りる。

しかしながら、これまでも手伝うことが常となっていた開発部の人間は、今現在も何も言われずとも自然に整備を手伝っている。
その責任者が帰るのはどうなのかと弟者は思う。

(´<_` )「おい、兄者」

( ´_ゝ`)「すまん、約束があるんだ」

そういって兄者はエレベーターに乗り込む。
いつもなら弟者の言う事には軽口を挟みながらも従う兄者にしては珍しい姿だ。

从 ゚∀从「まあ、約束があるなら仕方ねーじゃねーか」

(´<_` )「ああ……」

ほんのわずか落ち込んでいるようにも見えた弟者にハインリッヒが声を掛ける。
フェイスの侵攻は突発的だから、事前にしていた約束がそれと重なったのなら兄者にも罪はないと。

从 ゚∀从「しかし兄者は誰と約束してたんだ? ひょっとして……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:29:35.48 ID:Bdy8edaX0

(´<_` )「ああ、女性だ」

从*゚∀从「うッそ、マジで!? あの兄者が女性と? 信じらんね」

あの兄者の様子からひょっとしてと考えていたハインリッヒだが、それが正解した事に信じられないような気持ちを覚えた。
なんせあの兄者だ。
今まで兄者がモニターの外の生身の女性に興味を示した事などなかったはずだ。

从*゚∀从「で、誰だよ? ひょっとしてオペレーターの……いや、あいつらも今は任務中だよな。基地の人間じゃないのか」

1人騒ぐハインリッヒとは対照的に、弟者は若干疲れた顔でそれを見ている。
どうやらジョルジュも兄者が誰の下へ向かったのか理解しているらしく、弟者と似た反応だ。

从*゚∀从「何だ、お前ら? テンション低いな? ひょっとしてあの兄者に先を越されたのが悔しいのか?」

(´<_` )「……」
  _
( ゚∀゚)「……」
.  _,
从 ゚∀从「何だ、お前ら、その反応は?」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:30:46.86 ID:Bdy8edaX0

(´<_` )「……いや、そのな」

ハインリッヒの訝しげな視線に弟者は渋々と重い口を開く。

(´<_` )「兄者が向かったのは、渡辺さんのとこだ……」
.  _,
从 ゚∀从「は……?」

ハインリッヒは目を丸くし、自分の聞き間違いかともう一度弟者にその名を聞き直す。
しかし聞こえてくる答えは変わらず、兄者は渡辺さんの家に向かったという事だ。
.  _,
从 ゚∀从「渡辺さんってあの渡辺さんだよな?」

(´<_` )「多分その渡辺さんだ。この島には渡辺さんは1人しかいない」
.  _,
从;゚∀从「って事はあれか……渡辺の……」

( ^ω^)「渡辺のおばあちゃんだお」

どうやら事情を知っていたらしい内籐が口を挟む。
渡辺さん、渡辺のおばあちゃんは花屋を営むこの島最年長の人物だ。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:32:06.22 ID:Bdy8edaX0
.  _,
从;゚∀从「何でまた……」

(´<_`;)「祭りの晩の件だよ……」
.  _,
从;゚∀从「ああ……あの時の……」

祭りの晩、兄者がお気に入りだった古い子供向けアニメの主人公の声をあてているのが若き日の渡辺さんだと知った兄者は、
あれから何度も渡辺さんの家を訪問しては話し込む様になっていた。
渡辺さんも渡辺さんで、兄者の訪問を孫が出来たようでとても喜んでいたと弟者は言う。

(´<_`;)「兄者はまあ、好きだの愛してますだの空気を読まない発言してるが、渡辺さんはそんな感じだ」

至ってプラトニックな関係、言うまでもなく健全な間柄だと弟者は補足する。
.  _,
从 -∀从「なるほどなー」

ハインリッヒは少し考え込むような仕草をして見せたが、次の瞬間には笑顔で言う。

从 ゚∀从「いいんじゃね、そういう愛の形でも」

(´<_`;)「おいおい、あんまり無茶言うなよ」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:33:33.26 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「渡辺のおばあちゃん、随分と昔に連れ合い亡くしてんだし、法的にも問題ないだろ?」

(´<_`;)「しかしだな……」

从 -∀从「こんな世界だ。どんな形であれ、生きる甲斐があった方が良いんじゃないかな?」

(´<_` )「……そうだな」

ハインリッヒの言葉に、弟者は頷く。
別に兄者の交際を快く思っていないわけではなかったが、それが大っぴらになるのは兄者にとって良くないかと勝手に
考えてしまっていた。

しかしながらこの島にそんな兄者を悪く言う人間もいないだろうし、ハインリッヒの言うように、生き甲斐はあった方が良い。
弟者は自分の考えのなさを反省する。

从 ゚∀从「そういうわけだから、お前も兄者に負けずに彼女の1人ぐらい作れよ?」

(´<_` )「……ああ、努力するよ」

弟者はそこで話を切り、少し痛む心を抱えながら整備に向かう。
向く先がわかっている視線の間に立つ度胸は自分にはないと自嘲的に笑った。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:34:48.38 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「さて、アタシらも帰るかね。今日は司令からの話もないだろ?」

( ^ω^)「そ──」

( <●><●>)「いえ、私からあります」

(;^ω^)「うぉっ!?」

いつの間にか背後に立っていたワカッテマスが内藤達の会話に割って入る。
いつも通りの黒目がちの目を見ても何を考えているかは察する事が出来ない。

从;゚∀从「心臓に悪い登場の仕方すんなよ……」
  _
( ゚∀゚)「で、話って?」

( <●><●>)「はい、これなんですが……」

そう言ってワカッテマスは手近にあったモニターを操作し、島周辺の地図の映像を映し出させる。

( ^ω^)「また何か出たんですかお?」

フェイスが出現したのならこんな悠長な会話をしている場合でもないし、サイレンも鳴っているだろう。
差し迫った事態ではないのかと考えはしたが、表情の変わらないワカッテマスの顔からはその辺りの判断はつかない。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:36:04.23 ID:Bdy8edaX0
  _
( ゚∀゚)「海上……随分遠いな」

地図は縮小され、島の防衛ラインの遥か先まで映し出されている。
ワカッテマスはその地図の一点、島の東南部を指し示していた。

( <●><●>)「この辺りに一瞬、わずかながらセイクリッド反応が確認されました」

( ^ω^)「!」

从 ゚∀从「それは、いつの事だ?」

確認されたのは戦闘終了直後。
戦闘後、記録をまとめていた際にこの場所にセイクリッド反応がほんのわずかな時間だけあったのが確認されたらしい。

( <●><●>)「詳細は不明です。単なる漂流物の可能性もありますが……」

从 ゚∀从「人が乗ってる可能性もある……か」
  _
( ゚∀゚)「同時にフェイスの可能性も」

何にせよ、行ってみない事にはわからないとジョルジュは言う。
そしてそのまま弟者の方へ向かう。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:37:26.55 ID:Bdy8edaX0

从 ゚∀从「出られるか?」

(´<_` )「話は聞いた。一部の武装以外は3機とも問題ないが……」
  _
( ゚∀゚)「俺だけで大丈夫だろ?」

从 ゚∀从「いや、3機の方が何かあった場合には対処しやすいだろ? 内藤、行けるか?」

( ^ω^)「問題ないですお」

内藤は頷き、早速シュトルヒの方へ向かう。

ξ゚听)ξ「気を付けなさいよ?」

背後から声を掛けたツンに片手を挙げて答え、整備の人間に状況を説明し、シュトルヒに乗り込んだ。
他の2人も同じ様に機体に搭乗する。

从 ゚∀从「ナビゲートは?」

(゚、゚トソン「私が」

ハインリッヒの声に前方のモニターからオペレーターのトソンの声が答える。
脇のモニターに先のワカッテマスが示した地図も表示された。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:38:50.54 ID:Bdy8edaX0
  _
( ゚∀゚)「残業、お疲れさん」

(゚、゚トソン「お互い様ですよ。お疲れ様です」

3機はカタパルトは使わず、リフトを使い地表へ出た。
まだ日は高く、穏やかな海が広がっている。

从 ゚∀从「んじゃ、行きますか」

ハインリッヒのその言葉を合図に3機は次々と島を飛び立つ。
そのまま自然にフォーメーションを固め、警戒速度で目的地に向かい前進する。

( ^ω^)「しかしまた、何でこんな地点の観測を?」
 _,
(-、-;トソン「ああ、それでなんですが……」

内藤が問うた疑問に、トソンは若干眉をひそめ説明する。

(゚、゚トソン「現在、戦闘ごとに色々な観測を行っているのはご存知ですよね?」

从 ゚∀从「情報収集は以前からやってるよな?」

フェイスの分析、出現地点の傾向、クラックの位置、色々な情報は当然の様にこれまでも集められている。
現在、フェイスの侵攻の沈静化に伴い、その収集範囲を広げているらしいのだが、それにしてもこの観測地点は少々
島から離れ過ぎている。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:40:01.77 ID:Bdy8edaX0

(゚、゚トソン「その設置指示やコントロールなどもこちらでやっているのですが……」

トソンはそこで一旦言葉を切り、再び眉をひそめ、盛大なため息と共に言葉を続けた。
 _,
(-、-;トソン「馬鹿が馬鹿やらかしましてね……」

  ミセ*゚∀゚)リ

( ^ω^)「ああ……」

すぐに全員の頭に同じ顔が浮かび上がり、それで納得したようだ。
1人のオペレーターのミスで、本来設置するはずのなかった場所まで観測用のブイが流されてしまったとトソンは言う。
  _
( ゚∀゚)「ま、今回はあの嬢ちゃんの怪我の功名だな。あんま責めてやるなよ」

(゚、゚トソン「少々納得いきませんが、確かに結果論ではそうですね……」

モニターの中のトソンが地図を指し示す。
警戒速度とはいえ、戦闘状態でない空域なら目標地点まではさほど時間はかからない。
通信状態も良好で、ノイズを挟む事もない。

( ^ω^)「この近辺ですおね?」

(゚、゚トソン「はい、この辺りで観測されています」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:41:23.26 ID:Bdy8edaX0

トソンの答えに3機は散開し、それぞれ海中に潜る。
警戒の為、1機は海上に残る事も考えたが、それよりも早く捜索を終えて帰投する方が良策だろうと判断した。
  _
( ゚∀゚)「こちらシュヴァルベ。これといってなんも見かけねえ。……海中は穏やかなもんだな」

フェイスが海の中を侵攻してくる事はない。
その事から、海水が弱点なのかと考えられた事もあったが、単に挙動が遅れるのを嫌うだけなのか、フェイスを海中に
落としても何の変化も見られなかった。

从 ゚∀从「こちらレルヒェ。同じくだ。平和そのものだねぇ……」

ハインリッヒは機体を旋回させ、海面の方を向く。
日の光が海中を照らし、蒼く、静かな世界がとても心地よく感じられた。

この時が永遠に続けばどんなに幸せか。
そんな思いがハインリッヒの中に唐突に浮かんだ。

ハインリッヒは首を振り、機体を再び旋回させる。
今は夢を見ている時間ではないと自分に言い聞かせた。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:42:37.97 ID:Bdy8edaX0

( ^ω^)「こちらシュトルヒ。こっちも同じですお。何も……」

そう言い掛けて内藤は言葉に詰まった。
視界の端に、何か見えた気がしたのだ。

(゚、゚トソン「どうしました、SA07?」

( ^ω^)「……」

内藤はトソンの問いには答えず、目を凝らし、海底を見る。
やはりどこか違和感があると気付いた内藤は、シュトルヒをその方向へ向けて前進させた。
  _
( ゚∀゚)「おい、内藤……」

ジョルジュの呼び掛けを内藤は片手を挙げて制し、そのままゆっくりとシュトルヒを目標地点に接近させる。
しばらく進むと、違和感の元、海底に出来た大きなくぼみに辿り着いた。

(゚、゚トソン「海溝ではなさそうですね……」

シュトルヒのカメラ越しに様子を窺っていたトソンが呟く。
内藤は軽く頷き、シュトルヒをくぼみの中へ侵入させる。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:43:59.59 ID:Bdy8edaX0

( ^ω^)「何も……いや……」

一見、何もない岩と砂だけの海底だが、どこか不自然な所がある。
少なくとも、最近何かが進入した形跡が見られる。

( ^ω^)「!」

(;^ω^)「見つけましたお! こ、これは……」

从;゚∀从「どうした!? 何が……」

普段ではあまり聞く事のない、内藤の驚愕した叫びに、ハインリッヒは急ぎレルヒェをシュトルヒの元へ向ける。
同じくジョルジュのシュヴァルベもシュトルヒの元へ向かった。
  _
(;゚∀゚)「おい、内藤……一体何が……」

(;^ω^)「トソンさん……これ……」

(゚、゚;トソン「待ってください、今照合中です……」

从;゚∀从「こいつは……」

(゚、゚;トソン「……出ました。ええ、間違いありません」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:45:19.64 ID:Bdy8edaX0

(゚、゚;トソン「SA06……ナハティガルの残骸です……」

SA06、島に所属する機体の1機で、現在は特殊任務で島を離れていたはずの機体。
その機体の残骸がここにあるという事実は、島にとって最悪の答えを提示したかに見えた。

(;^ω^)「いや、待つお!」

内藤は、シュトルヒをナハティガルの元に向かわせ、機体に張り付く。
遠目からはぼろぼろに見えた機体だが、コックピット近辺は破壊されず残っている。

(;^ω^)「こちらSA07、SA06、聞こえますかお? SA06、しぃさん?」

内藤達がここに来たのはセイクリッド反応が確認されたからだ。
であるならば、その時まではまだSA06は動いていた可能性はある。

内藤は接触回線で何度も呼びかけるが、SA06からの返答はない。
  _
(;゚∀゚)「クソッ、駄目か……」

从;゚−从「内藤……ひとまず回収するぞ……」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/02(火) 21:46:42.66 ID:Bdy8edaX0

(;^ω^)「しぃさん、しぃさん! 僕ですお! 内藤です! 聞こえますか! ギコさんもあなたを──」

「──wwヘ√レwv──らwwヘ──ル──君─vw─」

(゚、゚;トソン「!」

(;^ω^)「しぃさん!」

「──wwヘ√レw√レwvギ─wwヘ──君─vw──」

(;^ω^)「しぃさん!」

「──wヘ√レwvギコ─vw─君─vw──」
  _
(;゚∀゚)「内藤、機体を回収だ、急げ!」

(;^ω^)「り、了解!」

内藤はシュトルヒでナハティガルを抱え上げる。
半壊した機体から漏れるか細い声は、島に辿り着くまで1人の男の名を呼び続けていた。



    ( ^ω^)は島を守るようです  後編 終わり



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