( ^ω^)は島を守るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:15:34.84 ID:PeIFOlEH0
 
(;^ω^)「しぃさんの容態は?」

ξ゚听)ξ「大丈夫、生命に別状はないわ」

从;゚ー从「そうか……良かった……」

ξ゚听)ξ「外傷はないみたいだったけど、衰弱が激しいわ」
  _
( ゚∀゚)「……」

ξ--)ξ「一体、どれだけの時間、ナハティガルの中にいたんだか……」

(;^ω^)「しぃさん……」

機体を回収した内藤達は、すぐにナハティガルのコックピットをこじ開け、無事搭乗者であるしぃの救出に成功したが、
肝心のしぃの意識はなかった。
ただうわ言の様に1人の男の名を呼ぶその姿に、内藤は胸を刺される様な痛みに襲われた。

ツンが述べた様に、しぃの容態は生命にこそ別状はないものの、到底会話出来る状態ではなく、回復にしばらく時間がかかる
であろうという事だ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:16:54.70 ID:PeIFOlEH0
  _
( ゚∀゚)「何にせよ、生きててくれて良かったよ」

从 ゚∀从「ああ、全くだ。よく帰って来てくれたぜ」

( ^ω^)「……」

満面の笑みを浮かべるジョルジュ達を余所に、内藤の顔は優れなかった。
しぃが生きて帰って来てくれた事は本当に嬉しいが、自分には頼まれた役割がある。
あの優しげな顔を、きっと悲しみに染めるであろう役割が。

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「何かあった?」

相変わらず鋭い子だと内藤は思う。
そして自分の事をよく見てくれていると、内藤は感謝すると同時に、背負うのは自分だけで良いと笑顔を返す。

( ^ω^)「何でもないお。安心したらちょっと疲れちゃっただけだお」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:18:21.34 ID:PeIFOlEH0
  _
( ゚∀゚)「だな。今日はもう、流石にやることねーだろうから帰るか」

从 ゚∀从「ああ、帰ろうぜ。報告は……」

( <●><●>)「ええ、把握してるので必要ありません」

从;゚∀从「お前、いっつも何気なくいるよな……」

ハインリッヒはいつの間にか自分の背後に立っていたワカッテマスに驚きながらも、手間が省けたとその肩を叩く。
ワカッテマスは内藤達SA搭乗者は、いつも通り今日から数日間は休む様に伝える。

(;^ω^)「しぃさんの事は……」

( <●><●>)「この数日間は話せる様な状態ではないでしょうし、もし意識が回復されたなら連絡致しますよ」

内藤は頼みますと、ワカッテマスに頭を下げた。
そんな内藤に、ワカッテマスはそっと耳打ちする。

( <●><●>)「……通信は皆聞いていました」

(;^ω^)「!」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:20:34.54 ID:PeIFOlEH0

( <●><●>)「ですから、その時はよろしくお願いします」

(;^ω^)「ええ……」

内藤は再び頭を下げ、先に行っていたジョルジュ達の元へ走っていく。
その姿を見送るワカッテマスの目には、どこか悲しみの色が宿っていた。

( <●><●>)「本来は子供に押し付けるような役目ではないのですが……」

それでも、故人の望みは叶えてあげたいとも思う。
それにギコとしぃの2人にとって、内藤は弟の様な、もっと言えば子供の様な存在であったとも言える。
故にギコは、その役割を内藤に託したのかもしれない。

内藤ならきっと生き残ってくれると信じて。
そして、しぃがきっと生きていると信じて。

( <●><●>)「出来れば、あなたにも生きていて欲しかったですね……」

ワカッテマスは天井を見上げ呟く。
今は下を、後ろを向いてはならない時期なのだと自分に言い聞かせて。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:22:06.76 ID:PeIFOlEH0

(´<_` )「おっと、ここにいたか、副司令」

そんなワカッテマスの元に現在ナハティガルの調査、修理を行っているはずの弟者が現れた。
ワカッテマスは弟者の顔を見て、悪い知らせではないと察しがついた。
しかしながら良い知らせでもないのかと、少し不思議な面持ちで弟者に問い掛ける。

( <●><●>)「何かありましたか?」

(´<_` )「ああ、あった」

弟者は短くそう答え、ワカッテマスにUSBメモリを手渡す。

( <●><●>)「これは?」

(´<_` )「ナハティガルにあった記録さ。しぃさん、こいつだけは守り通したかったみたいだな……」

機体の通常記憶装置になく、非常時の際、もっと言えば大破した際にも残る様に設計されたパーツに仕込まれていた
記録を吸い出したものだと弟者は説明する。

( <●><●>)「……中身は?」

中身が何なのか、ワカッテマスには見当がついている。
今聞いたのは、弟者が中身を見たかどうかという話だ。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:23:57.36 ID:PeIFOlEH0

(´<_` )「……最初の方だけな」

自分も見当は付いていたと弟者は言う。
ワカッテマスは頷き、司令の所に向かうと弟者に告げた。

( <●><●>)「今、席を外しても整備は問題ないですか?」

(´<_` )「俺も話に加われと? OK、問題ないですよ……出来れば兄者も呼びたかった所だが」

兄者は渡辺の所に行ったままで、呼び戻してはいなかった。
緊急事態ではあったが、それほど人手が必要というわけでもなかったので、そのままにしておいた。
しぃの件自体をまだ島内に正式に発表してないという事もあり、いたずらに島民を不安がらせる必要もないと判断したのだ。

( <●><●>)「……折角の幸せな時間を奪うのも野暮というものですからね」

(´<_` )「……そういうわけじゃないですよ。別に兄者がいなくても、作業には支障がないだけです」

現に今、自分も席を外せてるのだからと、弟者はぶっきらぼうに答える。
しかしワカッテマスは、それが弟者の兄への優しさだという事はわかっていた。

( <へ><へ>)「相変わらずのツンデレさんですね……フフフ」

(´<_`#)「……あんたのその笑顔、時々本気で殴りたくなるよな」

弟者は半ば本気でそう思いながら、先を行くワカッテマスに付き従う。
この事が島にもたらすであろう変化に様々な思いを巡らせながら。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:25:39.54 ID:PeIFOlEH0



それから数日の間、島には何事もない平穏な日々が流れていた。
普通の暮らしが出来るという、何でもない事が幸せだと思える日々が。

( ^ω^)「ショボン、宿題見せて──」

ξ#゚听)ξ「自分でやれっつってんでしょうが!」

(´・ω・`)「うん、流石に普通に学校来れてる時ぐらいは自分でやった方がいいかなと思うね」

( ´ω`)「おー……ショボンまでそんなこと言うのかお?」

(´・ω・`)「君の為を思って言ってるんだけどね」

( ´ω`)「お?」

(´・ω・`)「今のままだと、平和になった後にろくな仕事に付けないよ?」

( ´ω`)「平和になったらここで野菜作ったり魚獲ったりして暮らすからいいんだお」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:27:37.27 ID:PeIFOlEH0

(´・ω・`)「それもまあ、魅力的な生き方だけどね……最低限の勉強はやっておいた方が……」

( ´ω`)「もう十分だお。三角形の角度がわかってもお腹は膨れない──」

ξ#゚听)ξ「いいから自分でやんなさい!」

(;^ω^)「イエス、マム!」

何かと理由をつけて宿題をサボろうとする内藤だが、ツンはそれを許さない。
いつも通りのやり取りの後、諦めてノートを開く内藤の前にツンが座る。
結局手伝うのならば、最初からそう言って一緒にやればいいのにとショボンは心の中で思う。

<ガラガラガラ

(゚、゚トソン「おはようございます」

それから程なくして担任のトソンが訪れたが、どことなくいつもと違って見える。
簡単に言えば元気がない。

ここの所は比較的に平和な日々が続いているとはいえ、平時にも何かとやる事が多いトソンである。
疲れていてもそれは仕方ないのだが。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:29:45.85 ID:PeIFOlEH0

ξ゚听)ξ「先生、大丈夫ですか?」

その事にいち早く気付いたツンが声を掛ける。
常日頃からトソンが無理をするのを見て来て、時には強硬手段で休ませているだけはあるらしい。

(゚、゚トソン「え? ……ああ、すみません、大丈夫ですよ」

トソンはツンの言葉に、自分がどんな顔をしているのか気付いたのだろう。
考え事をしていただけだとツンに言い、朝のホームルームを始める。

(゚、゚トソン「欠席はなし……と。今日は特に連絡はありません……が」

トソンはそこで言葉を切り、内藤の方に視線を向ける。

( ^ω^)「?」

(゚、゚トソン「内藤君、放課後、食事を取ってからで構わないので中央公民館に来てもらえますか?」

( ^ω^)「お?」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:31:25.09 ID:PeIFOlEH0

ξ゚听)ξ「先生」

トソンの言葉に、何事かを察したツンが手を挙げる。
トソンは無言で頷き、手を下ろすように示す。

(゚、゚トソン「そうですね、ツンさんもお願いします」

ツンも無言で頷き、トソンはそこでホームルームを終わらせた。
次の授業は体育なのでトソンは教室を出る。

後に残された生徒達の間に少しのざわめきが起こるが、名指しされた当の内藤本人は、まったく事態が理解出来ないのか、
友人達に何を聞かれても首を捻るばかりだ。

( ^ω^)「どういう事だお?」

ξ゚听)ξ「どうもこうもないでしょ?」

何かあった、ただそれだけだとツンは言う。
しかし、いくら察しの悪い内藤でもそのくらいはわかる。
自分が呼ばれるわけも、それは当然その話に自分、正しくはSA搭乗者の自分が必要だからだろう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:33:21.37 ID:PeIFOlEH0

ただ、1つ気になっているのは呼ばれた場所だ。

( ^ω^)「何で基地じゃないんだお?」

ξ゚听)ξ「……」

普段トソンからこういった話がある場合は基地のブリーフィングルームやブリッジ、格納庫辺りで行われるのが常だった。
それが今回に限って中央公民館というのはどういう事なのか。
内藤にはその理由がわからずにいる。

ξ゚听)ξ「……それだけ人が集まるからじゃないかしら」

( ^ω^)「お? どういう……」

( ^ω^)「お! ひょっとしてまた祭りの話とかするのかお? クリスマスとかあるおね」

内藤の言葉にツンは少しやさしげな笑みを浮かべ、どうだろうかと曖昧にはぐらかした。

ξ--)ξ「まあ、放課後になればわかるわよ

ツンは内藤の肩を軽く叩き、その話を打ち切り席に着く。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:35:12.14 ID:PeIFOlEH0

普段から基地の情報や機密が耳に入る機会の多いツンは、恐らく自分の想像通りの事が起こるであろうと予測している。
であるならば今は、残されたこの平和な時を楽しみたいと切に思う。

ξ--)ξ(この島での……時間を……)

残された時間があとどれだけあるのか、ツンにはわからない。
永遠に続くものはないとわかっていても、続いて欲しいと願うのは自然なことだと思う。
この島が好きで、この島の人々が好きだから。

だからツンはそれを願う。
心からのささやかな願い。

ξ゚听)ξ(……祭りか)

ツンには内藤の平和な発想が羨ましく思え、同時にこの上なく素敵に思えた。
内藤は戦いよりも、平和の中で生きる方が合っているのだとツンは思う。

(;´ω`)φ「サイン? コサイン? タン……? 牛タン食べたいお……」

あの日見た、涙を捨てた内藤の背中。
そんな悲しい背中は、見ていたくないとツンは思う。

ξ--)ξ(だから私は……)

授業の始まりを告げるチャイムに、ツンは浮かび上がった思いを振り払い、ノートを開いた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:37:05.36 ID:PeIFOlEH0



( ^ω^)「おー。結構人が集まってるおね……」

(´・ω・`)「ホントだね。何の話し合いだろう?」

ξ゚听)ξ「ほら、アンタ達」

放課後、内藤とツンそれにショボンは中央公民館に足を運んでいた。
ショボンはここに来るつもりはなかったのだが、内藤の強引な誘いで引っ張られて来てしまった。

(´・ω・`)(やる事あったんだけどな……)

ショボンは放課後、仕事がない時は内藤達には内緒で人知れずトレーニングをしている。
何の為かと聞かれれば、それは当然戦う為である。

ドクオがいなくなった今、クレーエが運用されずに残ってはいるが、それを乗りこなす人間がいない。
ならば自分がと、ショボンはいつか志願しようと考えている。

内藤達にそれを伝えてないのは、伝えれば確実に反対されると踏んでいるからだ。
内藤を始め、SA搭乗者の皆はこれ以上島の人間をSAで戦わせたくないと考えている。
過酷な空を飛ぶのは自分達だけで十分だと。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:38:57.60 ID:PeIFOlEH0

(´・ω・`)(……でも、君は飛んでるよね、僕と同じ年の君は)

( ^ω^)

ショボンは隣に座り、ツンと何事かを楽しげに話している内藤をそっと盗み見る。
別に、内藤に劣等感を抱いているわけではないし、内藤達SA搭乗者がそう考えてしまうのもわかる気はしている。

むしろ内藤に対しては尊敬の念すら抱いているほどだ。
あれほど過酷な戦いに身を投じながらも、笑顔を絶やさずにいれる内藤の強さと優しさに。

( ^ω^)

だからこそ、ショボンも共に戦いたいと思っている。
尊敬する友人に比肩出来るよう、ショボンは強くなりたいと願っていた。

( ^ω^)「お? ショボン、僕の顔に何かついてるかお?」

(´・ω・`)「いや、何でもないよ。ちょっと考え事をしてただけさ」

さらにドクオの事もある。

たまに食堂の仕事もしていたショボンはドクオともそれなりに親しい間柄だった。
年長とはいえ、何かと手間のかかったドクオはお世辞にも兄とは言い難い存在だったが、世話好きのショボンはそれなりに
ドクオといる時間が好きであった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:40:50.84 ID:PeIFOlEH0

そんなドクオが残した機体を、思いを受け継ぎ、守ってくれた島を自分も守りたいと願うのは自然なことなのだとショボンは思う。

( ^ω^)「そうかお? でも、あんまり考え過ぎは良くないお。禿げるお?」

(;´・ω・`)「いや、その位じゃ禿げないだろうけどさ……」

内藤の話にペースを乱されたのか、ショボンは大きくため息を吐き、椅子に深く座り直す。
内藤はそんなショボンの様子を横目に見てから、視線を正面、壇上の方へ向けた。
そこにはまだ誰も立っていないが、この集まり様ならもうしばらくすればワカッテマス辺りが開催の挨拶に立つだろうと
内藤は予測している。

( ^ω^)「しかし、随分人が多いおね」

なるほど、この規模の集まりなら基地のブリーフィングルームでは入り切らなかっただろうと内藤は思う。
それ以前に島のお年寄り達が集まったりする場合は、その物々しさから来る威圧感を避けるために基地で行われる事は
少なかった。
集まった人々の顔を見れば、恐らく軍事面の話ではないのだろうと内藤は判断した。

( ^ω^)「何の話かおね?」

(´・ω・`)「うーん、そうだねー……」

再びショボンに話しかけるが、ショボンも何の話か把握してないらしい。
周りの人達の顔を見回しても、どうやらそれは同じ様だ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:41:53.97 ID:PeIFOlEH0

( ^ω^)「お? ジョルジュさん達だお」
  _
( ゚∀゚)从 ゚∀从

入り口の方に目を向けると、丁度扉を開けて中に入って来るジョルジュとハインリッヒの姿を見付けた。
内藤は2人に声を掛けようとしたが、その顔を見て途中で言葉が止まってしまった。

(;^ω^)「お……」

(´・ω・`)「どうしたの?」

(;^ω^)「いや、何か妙に厳しい顔してて、声掛けづらい感じだお……」

戦闘中でもあんなしかめっ面の2人はそう見れるものじゃないと、内藤はショボンに説明する。
内藤はそのまま、入り口近くの席に座る2人を見送った。

(´・ω・`)「ふーん……ケンカでもしたのかな、あの2人」

(;^ω^)「わかんないお……でも、ケンカなら大体ジョルジュさんがぶっ飛ばされてすぐ終わりそうなもんだけど……」

ξ゚听)ξ「……」

恐らく、ジョルジュ達はわかっているのだろうとツンは判断した。
今回の件に深く関わっていたであろう弟者辺りが、仲の良いジョルジュに話していても不思議はない。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:43:05.29 ID:PeIFOlEH0

ξ゚听)ξ「……」

(;^ω^)

ツンは、ショボンにジョルジュとハインリッヒの普段のケンカの様子を説明している内藤の方へ目を向ける。
本来であれば、内藤へも何らかの説明が先にあってしかるべきはずだった。
今回の話、この島全体の重要な話は、SA搭乗者として島の防衛の要を担っている内藤は真っ先に知るべき類のものである。

しかし、そうしなかった。
それは多分、皆が内藤の事を良く理解してくれているからだとツンは思う。

ξ--)ξ(聞けばブーンはきっと……)

( ゚д゚ )「皆さん、お忙しい中御足労、ありがとうございます」

ツンの思考は、いつの間にか壇上に上がっていたミルナの声によって遮られた。
いつもならまず副司令であり仕切り慣れてるワカッテマスが壇上に上がりそうなものだが、やはり司令が直接話すべき話
なのであろう。

( ^ω^)「お、何か始まったお?」

ξ゚听)ξ「ええ……」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:44:30.01 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「今回集まってもらった件ですが、まずその前にご報告が1件」

( ^ω^)「……」

( ゚д゚ )「と言ってもほとんどの方がご存知でしょうが、先日、残存勢力との接触を図る為の任務に赴いていたSA06が帰還しました」

搭乗者のしぃ君も無事ですという、ミルナの言葉にざわついてた室内が徐々に湧き上がった拍手に埋め尽くされた。

( ゚д゚ )「ありがとうございます。是非とも今の拍手をしぃ君に聞かせたあげたいものです」

未だしぃの意識は戻らぬものの経過は良好で、数日以内には目覚めるのではという見通しらしい。

(*^ω^)「良かったおー……」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、ホントに……」

自信に課せられた役目があるとはいえ、しぃの回復は本当に喜ばしいものだと内藤は思う。
心からの笑みを浮かべる内藤の姿に、隣にいたツンも思わず微笑んでいた。

( ゚д゚ )「……それで、本題ですが」

( ^ω^)「お……」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:45:57.81 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「しぃ君の持ち帰えった情報によると、この島以外にも残存勢力は存在します」

( ^ω^)「!」

ミルナの言葉に先ほどより大きなどよめきが起こる。
ミルナはそれを片手を挙げて制し、話を続ける。

( ゚д゚ )「場所はアメリカ西海岸。現在、地球上に残る全ての勢力がそこに集結しつつあるという事です」

ξ゚听)ξ「……」

さらに広がるどよめきを余所に、ツンはミルナをじっと見詰めていた。
今のミルナの発言で、いったいどれだけの人間がこの後の話の展開を予測出来たのだろうか。

( ゚д゚ )「……」

ミルナは喧騒の中、娘であるツンの全くぶれる事のない視線に気付いてた。
その目が物語ることの意味はミルナにはよく理解出来た。
全く誰に似たのやらと思うも、あの眼光は自分のそれを色濃く受け継いだのかもしれないと1人思う。

少なくとも、彼女の母、自分の妻であったデレはもっと柔和な視線を向けてくれる人であった。
ツンがああも強くなったのは、ひとえに自分が不甲斐なかった所為なのであろう。
立派に育ってくれたと喜ぶべき話なのではあろうが、少々複雑な気分である事も否めない。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:48:09.32 ID:PeIFOlEH0

しかし、ミルナはその視線を受けながらも、ここで全てを話す必要があると考えていた。
口にすれば島を割らんばかりの騒ぎになるであろう決定を。
それを伝える事が、生命を賭して任務を果たしてくれたしぃへの責務でる。

( ゚д゚ )「……つきましては、その件に関してのVIP島の今後の方針をお伝えします」

( ^ω^)「お?」

ξ゚−゚)ξ「……」

( ゚д゚ )「我々は今月24日をもって島を放棄し、アメリカの残存勢力と合流いたします」

( ^ω^)「!」

これまでにないほど大きくなった喧騒の中、誰よりも早く内藤は立ち上がっていた。
まっすぐに向けられた視線がミルナのそれとぶつかった瞬間、内藤は喧騒を切り裂く様に叫んでいた。

(;^ω^)「司令! この島を放棄ってどういう事ですかお!?」

( ゚д゚ )「言葉通りだ」

(;^ω^)「何で──!?」

( ゚д゚ )「理由は言うまでもない。我々はより生き延びられる道に全力を尽くすべきだ」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:49:34.45 ID:PeIFOlEH0

いつの間にか室内の喧騒は止み、内藤とミルナの会話だけが響き渡る。
理路整然と放棄理由を述べるミルナに、内藤は言葉に詰まり、反論も覚束無い。

(;^ω^)「これまで皆が守ってきた島をそんな簡単に捨てるなんて!」

( ゚д゚ )「簡単じゃないさ。そこに至るにはこちらも苦渋の決断をしたとわかって欲しい」

(;^ω^)「でも──!」

( ゚д゚ )「死んでいった皆も、我々がより生き残れる道を選ぶと思う。それは共に戦った君が一番よくわかっているだろ?」

(;^ω^)「!」

ξ゚−゚)ξ「……」

まるで勝負にならない口論だとツンは内藤の顔を見上げる。
文字通り大人と子供の争いで、さらに元は議員であったミルナに内藤が勝てる要素など微塵もないのだ。

( ゚д゚ )「理由は他にもある」

(; ω )「……」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:50:44.66 ID:PeIFOlEH0

ξ゚−゚)ξ「……」

内藤が述べているのはただの感情論だ。
前もって全ての事態を検討し、最良の道を探って来たミルナの言い分に届くはずもないのはわかっている。

しかしながら、内藤の感情論は島民なら誰しもが持っているものだと思う。
当然ミルナにもそれがあり、ミルナはそれを押し殺して正論を並べているのだ。

( ゚д゚ )「存続を考えれば──」

(; ω )「それでも!!!」

(;゚д゚ )「!?」

ξ゚−゚)ξ「!?」

(; ω )「それでも僕はこの島を守りたいんですお!!!」

そう叫んだ内藤は、次の瞬間には出口に向かい駆け出していた。
あまりの急な行動に誰も止める事は出来ず、我に返った時には既に内藤は外に飛び出していた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:52:17.69 ID:PeIFOlEH0

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

内藤が何かしでかすのではという予測はしていた。
ツンはそれを止めるつもりでいたが、いざその時が来ても内藤の顔を見たら一歩も動けなくなってしまった。

内藤の顔に、その目に浮かんだものを見て。
内藤の決意、約束さえも凌駕する悲しみの前に。

(;゚д゚ )「ツン、内藤君を──」

言われずともそうするつもりだ。
ツンは内藤を追い、出口の方へ走る。

从 -∀从「……頼む」
  _
( -∀-)

出口近くに座っていたハインリッヒはツンに一言声を掛け、同じくジョルジュが深く頷いた。
この2人も気持ちは内藤と同じなのかもしれない。
事前に聞かされていても、こうも辛そうな顔をしているのだ。

ツンは足を止め、2人に頷き返し、その場でミルナの方へ振り向く。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:53:56.03 ID:PeIFOlEH0

ξ゚−゚)ξ「お父さんの馬鹿!」

(;゚д゚ )「!?」

いささか理不尽ではあるが、もう少し上手くやってほしかったとツンは思う。
決してミルナの所為ではないとわかっているが、腹立たしいのは腹立たしいのだ。
正論で説得しようとしたのだろうが、幾度も戦場を駆けていようとも内藤はまだ子供なのである。

ツンはまたくるりと踵を返し、外に向かって駆け出した。

(;゚д゚ )「い、いや、その、ツンちゃん? お、お父さんだってこんな事は……」

ツンは弁解する全くミルナの方を全く振り返る事はせず、内藤を追って走り去った。

(;゚д゚ )「あ、あのね、ツンちゃん、お父さんはね、基地の司令として……」

( <●><●>)「もうツンさんはいませんから聞こえませんよ?」

追いすがろうと手を伸ばすミルナを引き止め、ワカッテマスは全員に席についてくれる様に頼む。
内藤の気持ちは皆もわかるだろうが、今は話の続きを聞いて欲しいと前置きをして、ミルナに続きを促す。

(;゚д゚ )「ツンちゃ〜ん……」

(;<●><●>)「あの、親馬鹿もその辺にして頂けるとありがたいのですが……」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:55:19.41 ID:PeIFOlEH0



(;゚д゚ )「失礼、少々取り乱してしまって申し訳ない」

それから約10分ほどの中断を挟み、ミルナの話は再開された。
最近娘が冷たいというミルナの愚痴を聞くのに、そのくらいの時間を費やしてしまった。

(;<●><●>)「本当に申し訳ないと思います、ええ……」

ワカッテマスが疲れた顔でミルナの横にある説明用のモニターのスイッチを入れる。
そこには島の地図が映し出される。

( ゚д゚ )「……皆さんの中にも、内藤君と同じ気持ちの方も数多くいらっしゃると思います」

襟を正したミルナの言葉に、島の皆は深く頷く。
ひょっとしたらミルナも含め、全ての島民がこの決定には納得がいってないのではないかと思えるほどだ。

( ゚д゚ )「ですが、我々には時間がないのです」

ざわつく室内にミルナは言葉を切り、居並ぶ面々の顔を見渡す。
出来るなら言いたくはない言葉ではあるが、それを伝える事が使命だと自分に言い聞かせ、ミルナはゆっくりと口を開く。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:56:29.88 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「……この島は、フェイスの攻撃により確実に滅びます」

沈痛な面持ちで発せられたミルナの言葉に、室内はこれまで以上のどよめきに包まれる。
矢継ぎ早に届く質問を片手で制し、ミルナは一歩脇にずれ、変わりにワカッテマスがモニターを示し言葉を引き継ぐ。

( <●><●>)「こちらをご覧ください」

先ほどから映されていた地図をさらに拡大させ、島の防衛ラインよりも遥か先を映し出す。
そこには、基地の人間なら誰もがわかるであろうフェイスを示すマークが大量に記されていた。
その中に一際大きく記されたマークが、大軍の中に巨大フェイスも含まれている事を示している。

( <●><●>)「先日ジョルジュさんに偵察に出てもらった結果、この島に4方から大量のフェイスが侵攻して来ている事が判明しました」

淡々と述べるワカッテマスに、室内は水を打った様に静まり返る。
苦々しげなジョルジュの舌打ちだけがワカッテマスの耳に届いた。

( <●><●>)「現在わかっていることを簡潔に述べます」

この件が判明したのは、しぃが持ち帰った記録からだ。
巨大フェイスの侵攻がその兆候だという。

巨大フェイスの侵攻、フェイスの侵攻の沈静化、そして大規模な侵攻。
過去にも同じ様な一連の事例が他の地域でもあったという。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 22:58:40.96 ID:PeIFOlEH0

( <●><●>)「そして未だそれを退けた地域は記録にないという事です」

静寂が支配する室内をワカッテマスの声だけが響く。
ワカッテマスはしぃの持ち帰った記録の内容を淡々と事務的に話し続けた。

( <●><●>)「……以上が我々がこの島を放棄する決断に至った理由です」

話の終わりを告げるワカッテマスの言葉にも、島民から返って来るのは沈黙のみだ。
ワカッテマスはミルナを一瞥し、脇に下がる。

( ゚д゚ )「その脱出の最終期限が先に告げた24日です」

ミルナはワカッテマスの話を引き継ぎ、さらに説明を重ねる。
主に事務的な事、脱出の大まかな流れだが、島民は誰もが真剣にミルナの話に耳を傾けている。

( ゚д゚ )「……といった具合になります。……では、何か質問がございましたら──」

ミルナがその言葉を言い終えるよりも早く、いくつもの手が挙がった。
ミルナは頷き、一人の島民の男に発言を促した

(´・_ゝ・`)「これまで通り奴らを殲滅し、この島に残るという道は取れないのですか?」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:00:20.02 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「正直な所、無理だと思います」

間髪入れず答えたミルナに、島民達がまたどよめく。
曲りなりにこれまで島を守って来れたのに、諦めが早過ぎないかと疑問の声も上がる。

( ゚д゚ )「巨大フェイス1体でも我々は厳しい戦いを強いられました」

それが今回は4体は確実にいるのだ。
それを殲滅するだけの戦力はこの島には残されていないという。

(´<_` )「……一応、補足はしておくが、あれから巨大フェイスとの再戦をシミュレートして対策も練ってはある」

未だ納得のいかない様子の島民に向かい、弟者が立ち上がって発言する。

(´<_` )「だがしかし、4体は厳しい」

それぞれ距離はあり、時間も多少は残されているから同時に相手にする事はないが、如何せん4連戦は無謀だと弟者は言う。

(´<_` )「殲滅出来る可能性もゼロではないが、こちらも確実にSAの数機は墜とされるだろうな」
  _
( -∀-)「……」

弟者の言葉に、ジョルジュが苦い表情を浮かべた。
いつもの勝気な言葉で反論しない事が、弟者の言葉を肯定している。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:01:58.93 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「そこで全てのフェイスが殲滅出来ればその戦いに生命を賭す価値もあるでしょう。しかし……」

それでこの戦いが終わるわけでもない。
それでフェイスの元を断つ事が出来るわけでもないのだ。

( ゚д゚ )「各個撃破されるのを待つよりは、残存勢力を合流させて反撃の機会に備える。それが我々人類に残された最後の生存手段なのです」

事はこの島だけの問題ではないのだとミルナは結ぶ。
生き残り、真の平和を掴む為にこの決断をしたのだと。

ミルナの言葉に、これ以上異を唱えるものは誰もいなかった。
現状分析の正しさを理解し、若い生命を失う事を恐れ、そしてこれまで生命を預けて来たミルナの悲痛な表情に、事実を受け入れるしか
ないと心を決めたのだ。

(´・_ゝ・`)「……それしかないんですね」

( ゚д゚ )「現状では、それが最善だと考えています」

今すぐに結論を出せる話ではないのはわかっているが、自分達に残された時間が少ないという事を重ねてワカッテマスが添える。

( <●><●>)「こういった事態に備えて脱出の準備も行っても来てはいましたが、こうも早く使う羽目になるとは想定外でしたので……」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:03:47.98 ID:PeIFOlEH0

( ゚д゚ )「脱出ルート想定等、作戦立案は済んでいます」

一刻も早く、具体案の検討に移りたいとミルナは言う。
ミルナは全員の意思を確認するかの様に、室内を見回す。
ミルナと目が合った島民達は皆、複雑な表情を浮かべながらもゆっくりと頷いた。

( ゚д゚ )「では……」

从'ー'从「ちょっといいかしら」

(;´_ゝ`)「ナベちゃん?」

意外な人物が声を上げた事により、思わず普段の呼び方をしてしまった兄者を弟者が小突く。
渡辺は兄者に向けて微笑み、またミルナの方を向く。

( ゚д゚ )「はい、何か質問等ありましたら遠慮なくどうぞ」

从'ー'从「ごめんねー、ミルナちゃんのお話の邪魔しちゃって」

(:゚д゚ )「いえ、邪魔とかそういうのはないですよ。しかし、ミルナちゃんはちょっと……」

从'ー'从「フフフ、ごめんなさいね、ミルナちゃん」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:05:20.62 ID:PeIFOlEH0

全く話を理解してない様なワタナベの物言いに、ミルナは若干頭を抱えつつも質問を促す。
まるで緊張感の感じられない渡辺の様子ではあったが、その口からは思いがけない言葉が飛び出す。

从'ー'从「島に残るという選択肢はありかしら?」

(:゚д゚ )「は……? あ、いや、方針としましてはこの島を守るのは困難という結論から、脱出という──」

从'ー'从「ごめんなさい、言い方が悪かったわね」

右手を軽く振って、まるで世間話をするかの様な身振りで話す渡辺に、ミルナは渡辺が何を言いたいのか理解出来ていなかった。
しかし、そんな渡辺を見据える兄者の目には、何事かを察した様な色が浮かんでいた。

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「兄者?」

そんな兄者に弟者は声をかける。
いつになく真剣と言うべきか、そんな表情の兄者が少し心配になった。

( ´_ゝ`)「……ん? ああ、何でもない」

(´<_` )「そうか? ……渡辺さんが何を言いたいのかわかってるなら、兄者が言ってあげた方が良くないか?」

弟者の言葉に、兄者は一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐにそれは柔和な笑顔に変わった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:07:10.79 ID:PeIFOlEH0

( ´_ゝ`)「……流石我が弟と言うべきかな」

(´<_` )「何だ突然?」

( ´_ゝ`)「いや、やはり俺の事をよくわかってくれてると思ってな……」

(´<_` )「今更だな」

それとお互い様だと、弟者もわずかに笑顔を見せながら言う。

( ´_ゝ`)「ああ……そうだな」

(´<_` )「……で、どうするんだ」

( ´_ゝ`)「いや、いいんだ。あれは、ナベちゃんが言わなきゃ意味がない事なんだ……」

自分が言うべき言葉ではないと兄者はゆっくりと首を振った。
そんな兄者の視線を受け、渡辺は再度ミルナに告げる。

从'ー'从「……島に希望者だけ残ってもいいかしらね?」

(:゚д゚ )「……え?」

渡辺の言葉にざわつく室内を余所にが、兄者を始めとした一部の島民は深く頷いていた。
弟者はそれが何を意味するのか、兄者の深い悲しみを帯びた瞳からようやく察する事が出来た。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:09:02.18 ID:PeIFOlEH0



( ^ω^)「お……」

中央公民館を飛び出した内藤は、何も考えずに走っていたつもりだったがいつの間にか基地の方に足が向いていた。
何故と考えるまでもなく、これまでも全力疾走する時は大体においてフェイスの襲撃で基地に急ぐ場合が多かったからだと
内藤は結論付けた。

冬空の下とはいえ、全力疾走で額には汗が浮いている。
内藤は少し考えた後、基地に入る事にした。

( ^ω^)「……」

基地の内部に向かうエレベーターの中、内藤は先のミルナの話を反芻していた。
慎重なミルナの事だ、検討に検討を重ねた挙句の結論だったはずだったのだろう。
結論にまでの道筋は、最前線で戦っている内藤には聞くまでもなく理解出来ていた。

(  ω )「……わかってるお」

わかっているのだ。
ミルナがきっと正しい事も、自分が間違っているであろう事も。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:10:57.10 ID:PeIFOlEH0

(  ω )「……それでも」

それでも内藤は……

(  ω )「それでも僕は、この島を守りたいんだお……」

内藤達が、そして死んでいった仲間達が守ってきたこの島を、捨てるという決断が内藤にはどうしても受け入れられずにいた。

( ^ω^)「お……」

やがてエレベータが止まり、ドアが開く。
これといって行き場所を考えてなかった内藤は、ボタンを適当に押していたのでそれが何階なのか理解はしていなかったが、
開くドアに釣られるようにエレベーターを降りた。

( ^ω^)「ここは……病室フロアかお」

内藤は案内板の階表示を見てどこに降りたかを理解した。
病室フロアは現在ほとんど使われてないが、一部屋だけ、確実に使われている部屋がある。

( ^ω^)「折角だからしぃさんのお見舞いに行くかお……」

内藤は手ぶらでお見舞いもどうかと思ったが、どうせまだ意識は戻っていないのだ。
それほど形式ばる間柄でもないので、内藤はしぃの病室に向かう事にした。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:13:16.35 ID:PeIFOlEH0

( ^ω^)「こんにちは、ドクター」

/ ,' 3 「おや、内藤君、こんにちは。お見舞いかな?」

( ^ω^)「はい、しぃさんの顔を見に」

/ ,' 3 「そうかそうか。しかし、残念がならしぃ君の意識はまだ戻っておらんのぉ……」

さも残念そうに言うドクターに、内藤は深く頷いて返す。
顔を見るだけでいいのでと、内藤はドクターに断り、しぃの病室に足を踏み入れた。

( ^ω^)「お邪魔しますお」

意識はないとは言え、女性の部屋だ。
そういえば一人でお見舞いに来たのは初めてかもしれない。
内藤は若干の緊張を覚えながらもしぃの眠るベッドのそばに近付く。

(*- -)

( ^ω^)「……」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:14:55.87 ID:PeIFOlEH0

以前お見舞いに来た時よりは少し血色が良くなっている様に感じられたが、未だその目は閉じられたままだ。
規則正しい寝息が、順調に回復しているのだろうと想像出来て内藤は少しだけ安心した。

( ^ω^)「しぃさん……」

(*- -)

あるはずのない返事を待つ間、内藤は色んな事を思い出していた。
目の前の女性、しぃの事。
そしてその恋人であるギコの事。

本当に仲睦まじい2人だった。
そして数少ない、本職の軍人でもあった。

( -ω-)「……」

目を閉じればまだまざまざと思い出せる2人並んだ笑顔。
思い出の中の2人は、SA搭乗者の中で最年少だった内藤の事をいつも何かと気がけてくれていた。

内藤にとってギコとしぃは少し年の離れた兄や姉の様な存在だったのだ。
ひょっとしたら2人は、自分事をを息子の様に思ってくれていたのかもしれないと内藤は思う。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:16:47.70 ID:PeIFOlEH0

( -ω-)「……」

しかし、そんな2人が並んで笑顔を見せてくれる事はもうないのだ。
ギコは島を守る為にその身を犠牲にした。
しぃはこの島が生き残る為の任務を果たし、床に伏せっている。

( ^ω^)「守らなきゃ……僕が……」

ギコが守ったこの島を、しぃがいるこの島を。
皆が生きるこの場所を、内藤は守りたいと切に願う。

しかし……

(  ω )「……それを捨てるのかお」

恐らく、決定は揺るぐ事はないだろう。
島の誰もがこの島を離れる事を良しとしなくても、それが生き残る為の最善の手段なら従うべきなのだろう。
ミルナ達が断腸の思いでこの決断を下した事をわからない内藤ではない。

しかし、島を捨ててまで生き延びる事に意味があるのかと思ってしまう自分がいるのも確かだ。

( ^ω^)「僕は……どうすればいいんだお?」

簡単には割り切れない。
これまでの事、死んでいった仲間達の事を思い、彼らに誓った思いを抱え、内藤は自分がどうするべきなのかわからなかった。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:18:34.16 ID:PeIFOlEH0

「……ブーン君の好きにすれば良いと思うよ」

( ^ω^)「……お?」

突然、懐かしく、柔らかな声が内藤の耳に届いた。
慌てて意識を声の元に向けるも、考えるまでもなくここにいるのは自分ともう1人しかいない。

(*゚ー゚)「君は自分でちゃんと考えられる子。だから、迷った時は自分を信じなさいって、言ったよね?」

( ^ω^)「しぃさん!?」

(*゚ー゚)「おはよう、ブーン君」

先ほどまで眠っていたはずのしぃが、上体を起こし内藤の方に笑顔を向けていた。
少し頬がこけているものの、しぃは以前と変わらない柔和な笑顔を湛えている。

( ^ω^)「意識が!? ドク──」

慌ててドクターを呼びに行こうとした内藤の手をしぃが掴む。
内藤はその手の冷たさと、意外なほどの力強さに思わず動きを止めた。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:20:23.28 ID:PeIFOlEH0

(;^ω^)「しぃさん……?」

(*゚ー゚)「ねぇ、ブーン君」

(;^ω^)「はい?」

しぃは内藤の手を掴んだまま、何も言わずに内藤の目を見詰める。
内藤は突然の事に狼狽したが、それが何を意味するかを悟り、思わず目を伏せてしまった。

(;-ω-)「……」

(*゚ー゚)「……そっか」

しぃは笑顔のまま、やさしげな口調のまま、ただそれだけを呟いた。
内藤は痛む胸に、言わねばならぬ言葉も絞り出せずに目を伏せたまま身を震わせていた。

(*゚ー゚)「ねぇ、ブーン君」

(;-ω-)「はい……」

(*゚ー゚)「ちょっと行きたい場所があるんだけど」

(;^ω^)「……はい?」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:22:25.15 ID:PeIFOlEH0



(*-ー-)「うーん、風が気持ちいねー」

(;^ω^)「大丈夫ですかお? 揺れは平気ですかお?」

(*゚ー゚)「平気、平気、このくらいSAの揺れに比べたら何ともないでしょ?」

(;^ω^)「そりゃそうかもですが……」

内藤はしぃを後ろに乗せた自転車を漕ぎながらため息を吐く。
病み上がりのしぃにこの冷たい風は良くないかと思っていたが、意外にもしぃは元気そうに見える。
どうしてこうなったのかを振り返ると頭を抱えそうになるが、連れ出してしまったものは今更しょうがない。

(*゚ー゚)「やっぱりこの潮風を浴びると、帰って来たなーって気がするねー」

( ^ω^)「そうですね」

内藤はしぃをこっそり連れ出した事を心の中でドクターに詫び、自転車を漕ぐ事に専念した。
兄者作のセイクリッド永久機関テスト用自転車は、以前よりはペダルが軽くなったようにも感じられた。

( ^ω^)(……後ろがいつもより軽いだけかも知れんね)

気の強い幼馴染に聞かれればどんな目にあうかわからない言葉を心の中で呟き、内藤は坂道を登る。
しぃが目を覚ましてくれた事はこの上なく嬉しい事だが、行く先を考えると胸が痛む。
先のやり取りで既に理解はしたのであろうが、まだ内藤には伝えなければならない事があった。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:24:53.24 ID:PeIFOlEH0

ギコの最後の言葉をしぃに伝えなければならない。

(*゚ー゚)「あ、今日渡辺のおばあちゃんのお花屋さんはお休みなの?」

( ^ω^)「あ、はい、今は多分中央公民館の方に……」

(*゚ー゚)「中央……そっか……」

察しの良いしぃは、その言葉だけでどういう事か悟ったようだ。
自分が持ち帰った記録が、この島の未来にどういった影響を及ぼすかも理解していたのだろう。
しぃは掴まる内藤の背に、小さくごめんねと謝った。

( ^ω^)「しぃさんが謝る話ではないですお」

しぃは任務を果たしただけなのだ。
ただ1人で、過酷な任務を完遂させたしぃのお陰で、この島は生き延びられる。
内藤はそんな言葉を淡々と呟く様に並べ立てた。

(*゚ー゚)「無理しなくていいんだよ」

( ^ω^)「お?」

しぃの言葉は吹く風に消え、内藤の耳には届かなかった。
内藤は敢えて聞き返す事はせず、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:26:46.46 ID:PeIFOlEH0



(*゚ー゚)「ここも久しぶりに来たなー。あ、運転ご苦労様。ありがとね」

( ^ω^)「いえ、お安いご用ですお」

内藤は自転車を止め、しぃが降りたのを確認してから自分も降りた。

島の西のはずれ、海を臨む小高い丘の上にある小さな空間。
時々1人で、それかツンと一緒に訪れているこの場所は、いつも通りの静けさを湛えていた。

(*゚ー゚)「おー、綺麗に掃除されてるね、感心感心」

しぃは意外なほどしっかりとした足取りで1人奥に進む。
内藤はそれを少し離れた位置で追従する。

(*- -)「それで……」

( ^ω^)「こっちですお……」

足を止め振り返ったしぃが全てを言い終える前に、内藤はしぃの前に回り、しぃが望む場所に案内する。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:28:46.86 ID:PeIFOlEH0

( ^ω^)「これがギコさんの………お墓ですお」

(*゚ー゚)「ありがとう」

しっかりとした足取りで、まっすぐにギコの墓の方を向いたまま歩くしぃを、内藤は無言で見詰めていた。
内藤はこの場を離れ、しぃ1人にさせてあげるべきかと考えたもしたが、まだ伝えるべき事が内藤にはある。
しゃがみ込み、手を合わせるしぃに向け内藤は口を開く。

( ^ω^)「約束を守れなくてすまない……そう伝えてくれと、ギコさんが……」

(* − )「!」

(*゚ー゚)「そっか……、ありがとう」

ほんの一瞬だけ、しぃの顔から全ての表情が消えたが、次の瞬間にはまた内藤に向けて笑みを浮かべていた。

わかっている。

わかっているのだ。

ギコの事も、島のことも、そして自分がどうするべきかも。

自分が年長者として、軍人として、残されたものを、ギコが残してくれたものを守らなければならないと。
自分がどう言う顔をすべきかも、しぃはわかっているのだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:31:05.34 ID:PeIFOlEH0

( ^ω^)「僕は入り口の方に戻ってますお」

待っているので必要なら呼んでくれと、内藤はこの場を辞そうとする。
2人っきりにさせてあげないと気丈なしぃの事だ、内藤の手前、泣く事も出来ないだろうと内藤は思う。
笑顔の奥にある悲しみに気付かないほど、内藤は冷たい人間ではない。

(*゚ー゚)「待って」

( ^ω^)「お?」

(*゚ー゚)「聞かせて。ギコ君の事、皆の事。私がいない間に起こった事を」

心苦しいかもしれないけれど、出来れば聞かせて欲しいと、しぃは内藤に頼む。
内藤はしぃの目を見詰め返し、ゆっくりと1つ頷いた。

( ^ω^)「わかりましたお……」

内藤は少しずつ、しぃがいない間に起こった事を話し出す。
思い出を噛み締める様に、先に逝った仲間を懐かしみ。
この場に眠る皆を思い起こしながら、内藤はしぃに全てを伝える。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:33:38.38 ID:PeIFOlEH0



( ^ω^)「……それで、しぃさんを発見して連れ帰ったんですお」

(*- -)「……」

しぃは時々相槌を打ちながら、内藤の話を黙って聞いていた。
内藤が全てを話し終えると、最後に大きく1つ頷き、内藤に言う。

(*゚ー゚)「大変だったんだね」

( ^ω^)「だったんでしょうね……」

他人事の様に言う内藤に、しぃは少し首を傾げてみせた。
生き延びる為には戦うしかなかった内藤は、大変だとか考える暇もなく、そして仲間の犠牲の上に生き延びた自分が大変だった
等と言う資格がないのではないかと思っていた。

(*゚ー゚)「そんな事はないよ」

( ^ω^)「けど、僕は……」

自分があの時もっと上手くやれていればと、後悔する材料には事欠かない。
ギコの時だって、自分がギコの代わりにセイクリッド・サークルを使っていればギコは生き延びられたのかもしれないのだ。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:35:27.12 ID:PeIFOlEH0

( ^ω^)「僕は……」

それを言えば、きっとしぃは怒るだろう。
内藤自身も、ギコの想いを、誇りを傷付けるようで言葉には出来ない。

それでも内藤は思う。
目の前で悲しみをひた隠し、笑顔を向けるしぃの顔を見ると、自分がギコの代わりに死ぬべきだったのではないかと思ってしまうのだ。

(*゚ー゚)「ブーン君は立派に戦った」

(*゚ー゚)「立派に島を守って来たんだよ」

(*゚ー゚)「それは誇っていい事だよ」

(*^ー^)「だから、そんな顔しないで、ね?」

( ^ω^)「……」

これまで以上の笑顔を向けるしぃに、自分はどんな顔をしていたのだろうかと内藤は思う。
叱られるのを待っているような、しょげ返った子供の様な顔だったのだろうか。
それとも、悲劇のヒーローを気取った様な陰鬱な顔だったのか。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/27(土) 23:37:28.73 ID:PeIFOlEH0

どちらにしろ自分が情けないと内藤は思う。
気を使っていたはずのしぃに逆に気を使われ、慰められる始末だ。
今一番慰めが欲しいのは、しぃのはずなのに。

( ^ω^)「皆がいたから、守れたんですお……」

内藤はただそれだけを搾り出し、言葉にした。
頭を垂れ、しぃの笑顔を見れずに。

(*-ー-)「皆がいて、そしてブーン君がいたから守れたんだよ。お疲れ様」

それと、ありがとう、というしぃの言葉と共に、内藤は頭の上に柔らかな感触を感じた。
それが自分の頭を撫でるしぃの手だと気付くのにさほどの時間はかからなかった。

そういえばこの人はすぐこうやって頭を撫でる癖があったなと、懐かしむ様な気持ちで、内藤はされるがままにしていた。
同じ様に、ギコもよく頭を撫でて来たが、あの人の場合は無骨で力強く、撫でられると頭がくらくらしたものだったと思い出していた。

(*゚ー゚)「ん? どうしたの?」

( ^ω^)「あ、いや、ちょっと昔を思い出してましたお」

昔というほど過去の事ではない。
1年にも満たない、その程度の昔だ。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/28(日) 00:01:03.86 ID:ydwppyzz0

それでも過去は思い出になり、いつしか薄れて行く。
忘れる事は悲しいけれど、それに囚われていては前に進めない。

( ^ω^)「ギコさんもそんな風に撫でてくれる事ありましたけど、ギコさんに撫でられると髪の毛が大変な事になってましたお」

だから内藤は笑う。
笑顔で思い出を語る。

忘れない様に、囚われない様に。
前に進む為、島を守る為に。

(*^ー^)「ギコ君、デリカシーなかったからねー」

しぃもきっとそれがわかっている。
だから笑顔でいるのだと、内藤は思う。

2人は笑い合う。
笑顔で思い出を語る。

失ってしまった大切な人の事を。
穏やかなこの島の日常を。

色鮮やかな記憶を。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/28(日) 00:03:03.88 ID:ydwppyzz0

( ^ω^)「しぃさんがいない間、洗濯物溜める事が多くって、同じ服を何日も着てましたお」

(;*゚ー゚)「うわ、最悪……。まさかパンツとかもじゃないよね?」

何でもない日々の話。
くだらな過ぎて笑ってしまう様な話。

そんな日々の繰り返しで人は生きているのだと、内藤もしぃもわかっていたから。

( ^ω^)「食事はマシな方でしたが、味が一方向に偏るんですお」

(*゚ー゚)「ギコ君、メリハリのきいた味付けが好きだったからね」

(;^ω^)「辛過ぎるのはちょっと勘弁でしたお……」

だから今は、思い出を語る。
今だけは、笑顔で語る。

また明日から戦う為に。
大切な人が残したものを胸に、しっかりと前を向く。

内藤としぃは、ドクターとツンが迎えに来るまでずっと思い出を語り合っていた。

2人は吹く風の中、ずっと笑い合っていた。


    ( ^ω^)は島を守るようです  後々編 終わり


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