- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:27:09.47 ID:AzEtj/og0
【第一話 〜騎士〜】
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:28:11.70 ID:AzEtj/og0
〜1024年 ヴィップ帝国〜
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:29:20.78 ID:AzEtj/og0
('A`)「…ここ、か」
やっと空が白み始めた。
朝日に照らされた巨大な城は重々しい空気を辺りに撒き散らしている。
朝の冷えも相俟って、城門前広場の空気がピリピリと引き締まる。
吐き出した息は白く染まっていた。
城門の前では既に到着した奴らが屯している。
互いに談笑している奴、押し黙って来る時をただ待っている奴。
('A`)「……」
('A`)「…よっと」
門前から少し離れた所の外壁を背に、座り込んだ。
背中越しに石造りの壁の冷たさが感じられる。
懐から封筒を取り出し、書かれている文字を読んだ。
「新成員募集」
単純に欠員が多くなってきたから新しい成員を募集するというらしい。
ただこの人数の多さには驚いた、三百、いや五百人近くはいそうだ。
('A`)「俺が…騎士ねぇ…」
いつの間にか声が漏れていた。
ドクオの父も、騎士だった。
まだドクオが幼いころに巨龍討伐の任務の時に負った傷が元で死んでしまったらしいが。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:31:15.04 ID:AzEtj/og0
『英雄』と、世間では言われている。
どこが『英雄』なものか。
自分がまだ生まれる前に家を飛び出し、そのまま死んだ男。
とても『英雄』などと持ち上げるような人物ではないというのに。
そんな馬鹿な男がなった騎士に、今からなろうとしている。
へへっ、と自嘲気味な笑いが毀れた。
丁度ドクオの前を歩いていた女が一瞬こっちを向き、怪訝な顔をして足早に立ち去った。
( ^Д^)「おい、お前」
ドクオが顔を上げると、鎧で身を固めた男が目の前に立っている。
背中に巨大な剣を背負い、笑い顔を浮かべながらドクオを見下ろしていた。
間抜けそうな顔。
こんな奴でも騎士になれるのか。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:33:00.31 ID:AzEtj/og0
('A`)「…なんすか?」
(;^Д^)「なんすか? じゃねーだろボケ。おめーも新成員募集の要項見て来た奴だろ?」
もうそんな時間か。
よく見たらもう朝日が昇りきっていた。
( ^Д^)「ついて来い、もう直ぐ始まるから」
('A`)「……」
(;^Д^)「無口な野郎だな…」
男の顔は今度は完全に引き攣っていた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:34:41.46 ID:AzEtj/og0
志願者たちは一様に緊張しているようだ。
どうみてもオッサンという奴から、まだ十代にしか見えない子供のような奴まで。
よく見れば、女もいた。
一般人からしたら、騎士ってのは憧れの的なのだろうか。
まぁ普通の職業より圧倒的に高給ではあるが。
そこまでしてなりたいものなのか、ドクオにはよくわからなかった。
( ^Д^)「あそこが受付、んじゃ頑張れよ」
('A`)「ああ、どうも…」
軽く会釈し、受付へと向かった。
頑張ることなど何も無いのだが。
既に合格が決まっている試験だ、アホらしい。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:36:25.16 ID:AzEtj/og0
ウケツ*゚ー゚)ケ「失礼ですがお名前を…」
('A`)「受験番号1001、ドクオ=ジルベルスタイン…」
受付の女が紙をペラリと捲ると、「ああ」という顔をしながらドクオを見た。
ウケツ*゚ー゚)ケ「…お話は伺っております、こちらへどうぞ」
近くにいた兵士が「こちらへ」と口の動きだけで言ったのが見えた。
お先に失礼します、せいぜい頑張ってくださいね。
他の志願者の視線を感じながら、兵士の後ろにくっついてドクオは城内に入って行った。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:38:47.97 ID:AzEtj/og0
兵士に通された応接間のような部屋。
(兵∵)「しばらくこの部屋でお待ちください」
(兵∵ )
('A`)「あ、はい・・・あとこっちみないでください」
兵士が出て行ってから部屋を見回してみた。
暖炉に煌々と明かりが灯っており、窓には水滴がついている。
部屋の真ん中にあった真紅のソファに腰掛け、窓の外を眺めた。
澄み渡るような快晴、こういうときが一番寒いんだよな、と思った
と、外から喚声が上がった。
察するに試験会場からの声だろう。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:41:51.43 ID:AzEtj/og0
不意に、ドアが開いた。
( ・∀・)「うーっす、おめーが試験免除者か?」
白い鎧に身を包んでいる男。
顔つきは先ほどの男同様、とても騎士には見えない。
背中にはドクオの背丈ほどもありそうな大矛を背負っている。
( ・∀・)「へぇ…おめーがあのジルベルスタイン将軍の…」
ジルベルスタイン将軍。
あの男はそう呼ばれていたのか。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:43:58.23 ID:AzEtj/og0
( ・∀・)「おう、紹介が遅れた。モララー=ブランヴィルだ」
('A`)「…ああ」
モララーは自己紹介をしながら背中の大矛を壁に立てかけた。
よく磨かれているのだろう、刃の部分は辺りの風景を鏡のように映している。
ドクオの向かい側のソファに、モララーは座った。
同時に、また喚声。
( ・∀・)「今年の試験は実戦だ、宮廷魔道士が操る最下層の泥人形相手だがな」
('A`)「…」
なんだ、騎士になる試験というからどんなに難しいものなのかと思ったが。
最下層の泥人形相手とは、ドクオにとってはまったく話にならないレベルだった。
騎士とはそんなものなのか。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:45:46.55 ID:AzEtj/og0
また、喚声。
今度は悲鳴に近かったからもしかしたら誰かが怪我をしたのかもしれない。
( ・∀・)「死人は出ないよう加減するように言ってるんだがなぁ」
窓の外を見ながらサラリと言ってのけた。
この程度の試験で死ぬような奴がいるのか?
そんな奴がわざわざ騎士に志願してくるなんて思えないが。
ドクオの視線に気づき、モララーも視線を戻した。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:47:24.25 ID:AzEtj/og0
( ・∀・)「おう、悪い悪い。 入団の話だな」
( ・∀・)「今日は城内の宿舎に泊まってもらってだな…。
明日、入団式という事で正式に騎士になる式をやって・・・
まぁ騎士勲章をもらうだけだがな」
('A`)「……」
( ・∀・)「返事は?」
('A`)「はい…」
( ・∀・)「返事はきちっとしたほうがいいぜー。
俺はいいけどそういうの、厳しい奴とかいるからな
ま、人のこと言えないけどな!」
へらへらと笑いながらモララーが言う。
こんな奴も、騎士か。
オーラも何も感じられない。
('A`)「……」
とりあえず、苦笑いで返しておいた。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:48:53.22 ID:AzEtj/og0
( ・∀・)「んじゃ、宿舎に案内するからな」
('A`)「はい・・・」
モララーについて部屋を出た。
部屋の前にいた兵士は一礼すると、すぐにまた直立不動の姿勢に戻る。
よく飼われているな、と鼻で笑いたくなる。
丁度、また喚声が響き渡った。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:51:05.24 ID:AzEtj/og0
( ・∀・)「ここがおめーの部屋だからな」
('A`)「……」
城の地下、少し黴臭いところに宿舎があった。
その一番端の、お世辞にも綺麗とはいえない部屋。
それが、ドクオに割り当てられた部屋だ。
( ・∀・)「汚ねーけど…何事も忍耐だからな。
中に室長がいるので、詳しいことはそいつに聞けばいいぞ」
('A`)「ふざけんな…」
( ・∀・)「はぁ?」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:56:19.84 ID:AzEtj/og0
いくらなんでも、騎士にふさわしくなさ過ぎるだろう。
俺は試験免除された一番の出世候補だろ?
('A`)「俺は…」
( ・∀・)「試験免除だから優遇されるとでも思ったのか?」
ニヤニヤと笑いながら、モララーが言う。
ズバリのことを言われて、少し戸惑った。
( ・∀・)「自惚れんなよ、親の七光りで入ったカスが」
(#'A`)「ッ……!」
気づいたら、殴りかかっていた。
次の瞬間、ドクオは冷たい石造りの床に組み伏せられていた。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 18:58:26.86 ID:AzEtj/og0
(;'A`)「!?」
( ・∀・)「まぁ落ち着け、っての」
腕をつかむ力が強くなった。
鈍い痛みに唇をかみ締め、体を捩らせようとする。
(#'A`)「放しやがれ!」
( ・∀・)「放さないからな、放すと飛び掛ってくるし。
まぁ気持ちは判らないでもないぞ」
マウントポジションで、見下される屈辱。
モララーの目に映る惨めな自分を睨みつける。
振りほどいて起き上がろうとしても、身動き一つ取れない。
体格は人並み、それなのにこれほどの力があるとは。
( ・∀・)「うん、その根性、俺は買うぞ。
でもこれだけは覚えとけよ」
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:02:04.64 ID:AzEtj/og0
( ∀ )「調子に乗りすぎるなよ」
凄まじい威圧感。
モララーの周りの空気がピリピリと震えている、気がした。
体の震えが止まらない、背中に嫌な汗が垂れていく。
(;'A`)「……」
睨み返そうと思ったが、できそうにもない。
部屋のドアが不意に開いた。
首は動かせないので、目だけで開いた方向を見る。
男がヒョイと顔を出した。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:05:07.43 ID:AzEtj/og0
( ^Д^)「おう、騒がしいぞ・・・って」
(;^Д^)「モララー団長!? 何やってんすかこんなとこで?」
( ・∀・)「おうプギャー、お前が室長だったのか」
立ち上がりながら、軽快にモララーが言う。
ドクオはまだ起き上がれそうにもなかった。
歯を食いしばり、煉瓦造りの壁の模様を睨みつける。
(;^Д^)「そいつが試験免除の奴ですか? てか新兵相手に何やってんですか」
( ・∀・)「ま、俺なりの教育ってやつだ。
悪かったな、ドクオ」
モララーに手をつかまれ、半ば無理やり立たされた。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:09:18.27 ID:AzEtj/og0
( ・∀・)「んじゃ、後は任すからな」
ニヤニヤと笑いながら、モララーは歩いていってしまった。
背中の大矛がランタンの明かりに照らされ鈍い光を放っている。
また、体が少し震えた。
(;^Д^)「ちょ、団長!」
プギャーが一瞬追いかけようとしたが、溜息を吐いてこちらに向き直った。
「やれやれ」と苦笑いを浮かべている。
(;^Д^)「あの人は本当に勝手なんだから…災難だったな、ドクオ」
('A`)「……」
視線を落とし、プギャーの足元を見つめた。
流れる沈黙、プギャーがまた大きく溜息をついた。
(;^Д^)「無視ですか、ったく…まぁ入れ」
プギャーが扉を開き、ドクオを部屋に招き入れる。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:10:48.94 ID:AzEtj/og0
外観も汚ければ、部屋の中も汚かった。
辺りに散らばったゴミ、書物。
その中に二段ベッドがドーンと置かれている。
およそ騎士の部屋とは思えない。
しかし剣だけは、綺麗に磨かれた鞘に収められて壁に立てかけられていた。
( ^Д^)「おぅ、話は聞いてたけどまさかお前がそうとはなぁ・・・。
ああ、俺の名前はプギャー=シセだ」
にやけた顔で握手を求めてきた。
('A`)「…よろしく」
握手。
プギャーの手は、暖かかった。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:14:56.80 ID:AzEtj/og0
( ^Д^)「うん、あのジルベルスタイン将軍の息子だって聞いたぜ。
かーっ・・・羨ましいぜ、試験免除なんて・・・」
プギャーはそう言いながらベッドの周りと、ベッドの上を片付けていた。
( ^Д^)「んで、お前はモララー団長に何したんだ?」
('A`)「……」
沈黙で返した。
「うん、あのね…」なんて答える義理もない。
(;^Д^)「おう、よーく判ったぜ」
また、プギャーが溜息を吐き出した。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:18:35.87 ID:AzEtj/og0
('A`)「試験免除って、そんな凄いことなのか?」
埃っぽさにドクオは顔をしかめる。
整理整頓と言う言葉を知らないのか、この男は。
(;^Д^)「…自分の聞きたいことしか聞かないのかよ。
それと…一応俺は先輩なんだから敬語を使えっつの。
…まぁ割と異例、だってことは聞いたが。
でも試験免除で入った人は他にもいるぞ。
さっきのモララー団長とかもそうだって聞いたが」
('A`)「……」
なるほど、それで「気持ちは分かる」ってか。
( ^Д^)「まぁ、俺は特別扱いだって自惚れんなって話だ。
試験を受けてようが受けてまいが、扱いは同じなんだからな。」
ベッドシーツをパンパンと払い、ウンウンと頷くプギャー。
('A`)「……」
(;^Д^)「…俺、お前と上手くやってけるか心配でしょうがねーよ」
と、俄かに廊下が騒がしくなった。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:20:36.87 ID:AzEtj/og0
( ^Д^)「遂に新卒どもが来やがったか。
今年はどんな女の子がいるのかなー…。
あ、お前は下使ってくれ!」
それだけ言うと、プギャーは廊下へと出て行ってしまった。
部屋に一人残されたドクオ。
あんな奴が室長、か。
苛立ちを荷物に乗せて壁に投げつける。
そしてベッドに倒れるようにして寝転んだ。
('A`)「……イカくせぇ。」
顔をしかめながら、先ほど言われた事を考えてみた。
「調子に乗り過ぎるな」か。
調子に乗っているつもりなど毛頭無いのだが。
あんな奴に俺の気持ちがわかってたまるか。
壁の方向を向き、チッと舌打ちした。
目を瞑った。
…やがて、深い眠りに落ちた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 19:21:21.19 ID:AzEtj/og0
〜第一話 END〜
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