(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

6 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:30:21.53 ID:y+uhRp1L0
 
 1章「銃声」

(´・ω・`)「じゃあこの話はどうかな。僕がはじめて男にも目覚めるようになったキッカ」

(゚、゚トソン「事件でお願いします」

(´・ω・`)「あれは事件だったのさ、用を足している時にふと」

(゚、゚トソン「大声出しますよ」

(´・ω・`)「イヤン」

おどける仕草を見せた警部は、身体をくねらせて乙女チックなポーズをとる。
その姿、実に浅ましく、吐き気を催す。
私がそんな素っ気ない態度を見せると、
彼は一転してまじめな姿を矯飾し、静かに語り出した。


(´-ω-`)「あれは……高校生自分かな、用を足している時にふと」

(゚、゚トソン「ズコーッ」

前言撤回だ。
この人は、ふざける時にはとことんふざける。
今のまじめな態度は何だったのだ、と問い詰めてやりたいものである。


.

7 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:33:26.51 ID:y+uhRp1L0


シュユにして、列車は、大きなカーブに差し掛かった。
海岸に沿って旋回するので、右に曲がることになる。
緩やかながら、列車のスピードはすさまじいもので、
遠心力で威され、すっかり私は口数が少なくなる。

その力で窓側に押しつけられ、警部の話にツッコミを入れたきり、
警部と話をすることなく窓の外を見ていた。
今、警部がまじめに話をしても、耳を貸せないだろう。
轟き渡る、線路を走る車輪の音が鼓膜を細かく揺らすので聞いていられないのだ。

更に頭蓋骨を窓に当てているので、列車本体の振動も直に伝わる。
たとえるなら、間近で道路工事を見ているような気分だ。


.

8 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:34:45.71 ID:y+uhRp1L0


こうして窓の外を見ていると、実にこの列車が速いかがわかる。
左列から見えるのは海だからいいものの、ふと気にかかり山側の景色を見ると、
すごいスピードで左から右へと流れる木々が見え、とても「景色を楽しむ」のは難しく思える。
窓は開かないが、もし顔をのり出すと風で呼吸は難儀だろう。

(´・ω・`)「揺れるなぁ……」

(~、~トソン「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…」

(´・ω・`)「遊ぶな煩い」

(゚、゚トソン「ふぇーん」


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9 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:36:35.82 ID:y+uhRp1L0


扇風機のアレと似ている。

回転している羽に向かって声を発すると、その声の波動が羽にきられ、
それぞれが断片となって跳ね返ってくるのであの声となる。
揺れている車体に頭蓋骨をつけ、振動しているさなか声を発すると、
振動により声が揺れ、あのときの声が出る。

なにが言いたいのって、ちょっと楽しいのだ。
すぐに警部にどやされたが。


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10 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:37:41.27 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「……」

(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「車内販売はまだかよ」

(゚、゚トソン「まだ走って20分も経ってませんよ……」


私がそういうと、不機嫌そうな顔をしている警部は、左手首を捻って時計を見た。
揺れの所為か、なかなか時刻の判別が難しいらしく、
彼がじっと目を凝らして見つめていると、急に大声をあげた。

(´・ω・`)「12時……20分!」


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11 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:39:33.17 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「そもそも、駅でなにか買わなかった警部が悪いんです」

(´・ω・`)「暫くはお茶で我慢するか……うわっ」

「のわッ!」

(;´・ω・`)「す、すみません」

(゚、゚トソン「あ〜あ」


車内販売が来るまでの間、お茶で腹を埋めようという手段に出たのか、
警部は乗車前から持っていたペットボトルを取り出して、フタを捻った。
お茶はまだ買って間もない様子で、全体の二割も飲んでいなかった。
つまりほぼ満タン、そしてこの列車の揺れだ、何の備えなしにフタを開ければ、当然


「おい、濡れたぞ! クリーニング代出せ!」

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12 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:42:42.01 ID:y+uhRp1L0


中のお茶は開けた弾みで飛び散る。

車体は右への旋回から直線へと戻るところだった。
もともと先程まで感じていた遠心力に抵抗すべく、警部は遠心力と反対方向に身体を傾けていたのだが、
その遠心力がなくなったと同時にフタを開けてしまったため、その身体を傾けていた方向にお茶は飛ぶ。
お茶は、警部の隣、右列で後ろから二番目に座っている(つまりB−7の)人にかかった。
男の着ている白いコートの左肩に、早速、茶色の染みができようとしている。


(´・ω・`)「すみませんね、クリーニング代はラウンジ県警にツケといてくれませんか」

「……え、警察?」

やや若い男の声が若干怯んだ。
先程まで威勢のいい声だったのが、一瞬にして拍子抜けに。


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14 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:45:08.82 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「あ、自分はこういうものでして」

そういうと、警部は、よくドラマとかで見る、
あの「胸ポケットから警察手帳をチラッと見せる」動作をした。
それは一瞬だったが、確かに警察のシンボルマークがあてられていたのが確認できた。


「……」

(´・ω・`)「こちらの不始末ですみません、クリーニング代でし」

「……あー、いいやヤッパ。
 もともと近いうちにクリーニングに出そうとしてたんだし、ついでだからいいよ」

(´・ω・`)「そんな、悪いですよ」

「いいっつってんだろ!
 じゃなくて……いいですよ、警察にこんなコート……」


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15 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:48:47.18 ID:y+uhRp1L0


すっかり腰が低くなったその男性を尻目に、警部はお茶目にそう返した。
男性も意気消沈というべきか、尻込みしている。
そりゃあ、警察にクリーニング代の請求、というのもおかしな話だが、それ以前に。


(゚、゚トソン「それ職権濫用では……」

(´・ω・`)「違う違う。誠意に基づいて丁寧に対処しようとしただけで……」

(゚、゚;トソン「いやいや、明らかに脅しにかかったでしょ『俺は警察だぞ文句あっか』って!」

(´・ω・`)「えー」


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16 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:50:24.91 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「しかも、あなたVIP県警に戻るのでは」

(´-ω-`)「……」

警部は少し考え込み(己の執った行動に非があったかを思い返しているのかはわからない)、
目を見開いて再びお茶目にこう言った。

(´・ω・`)「もしそれでVIPに請求されて、ほんとうに払わされちゃヤだしね」

(´・ω-`)「寧ろ、恐喝か何かで逮捕されるよ、ラウンジに」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「うっわ最低!」


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17 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:52:50.69 ID:y+uhRp1L0


今、これ見よがしにけらけら笑っているのが、
なんと警察で上から六番目にお偉い人だというのだ。
もし私が彼の下に配属されるのであれば全力で亡命する。
それはもう警察泣かせるくらいにボイコットしてやる。

ちなみにその男は、始終自分の手帳らしきものを凝視しているので
私たちの会話は、列車の揺れる音に掻き消されているのもあって、おそらくは耳にまで届いていないと思う。
それにしても、警察と聞いただけで弱くなる、言わば権力の犬とは、実に情けない。


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19 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:54:22.55 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「ねえ、暇だったら、そこらでワゴン引いてないか偵察に行ってきてくれない?」

(゚、゚トソン「えー」

(´・ω・`)「いや?」

嫌というより、怖い。
こんなに揺れているなか列車を移動すると、今の一連の出来事みたいに、何かいちゃもんを付けられるかもしれない。
警部ならなんとかして対処できそうだけど、今の私にできると言えば股をひ土下座くらいしかない。

それに、もしワゴンが来ていたらそれを扱っているのはたぶんあの人だ。
乗車の際にぶつかった、あの女性である可能性がある。
視線があった途端に「あらヤダ、さっきのおかしなコじゃない(裏声)」と言われるかもしれない。


(゚、゚トソン「うーん……どうしよっかな」

(´・ω・`)「ついでにトイレにも行ったらいいし」


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21 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:56:15.03 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「トイレ?」

(´・ω・`)「二号車にあるよ」

二号車の一番後ろ、二号車と三号車を繋ぐ通路に乗務員室があるのだが、それの隣にあると言う。
そういえば乗車の際、見たような気がしないでもない。


(゚、゚トソン「ちょうどよかった、じゃあ行ってきます!」

(´・ω・`)「乗務員の人いたら早く来いって言っといてね」


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24 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 15:58:32.99 ID:y+uhRp1L0


少しだが、尿意が感じられなくもないので、せっかくだからトイレに向かう。
一号車と二号車の間には重い扉があるのだが、
確か二号車と三号車の間は、乗務スペースがある手前設けてないはず。
乗り込む際、あの場所に扉はなかったような。

………あれ?


(゚、゚トソン「なにかが引っかかる」

席を離れ、警部に聞こえないように呟き、
すぐそこの扉を渾身の力を籠めて開き、歩み出した。


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25 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:01:21.64 ID:y+uhRp1L0


もともと深いことを考えるのは性に合わず、推理なんて最も苦手な部類に入る。
学校で、直観力を鍛える授業とかがあったのだが、皆が全問正解する中私だけが間違えて、という記憶もある。
右脳を使って考えるのはニガテなのだ。


(゚、゚トソン「(にしても、乗客ほんとうに少ないな)」

皆始発の列車に乗ったのか、将又ニュー速鉄道を利用しているのか。
とにかく、二号車も見た感じ、もはや田舎町で運行しているバスのような光景だった。
根本的にこの列車はバスみたいな造りなので、そう見間違えるのもおかしくはない。
一号車も結構がらがらだったので。


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26 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:05:01.93 ID:y+uhRp1L0


直線を走っているから、遠心力を気にしなくて済む分、
思っていたよりかは、気兼ねなく目的地に辿り着いた。

重い、車両と車両とを繋ぐ扉がなく、トイレと乗務員室がある。
乗務員室と言っても、コの字型になっていて、言ってしまえば、解放空間とすらなっている。
誰もが自由に入れそうなので、ちょっとまずいとは思うが。

と、ここまでは考えるも、トイレは利用中ではないので、急いで入る。
そんなに尿意はなかったのに、トイレのことばかり考えていると、いつの間にか洪水寸前となっていた。


(゚、゚トソン「……?」

トイレの隣、異彩を放つその乗務員室(寧ろ乗務用のスペース)には、ぽつんとワゴンだけが置かれていた。
しかし、乗車時にも気になったのだが、オオカミ鉄道のサービスワゴンは、
従来のそれに比べて、若干、どころかかなり異なる造りをしていると思う。


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27 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:06:59.48 ID:y+uhRp1L0


取っ手を握って手前に飲み物、先頭に食べ物を置いている辺りは
特に変には思わないのだが、全体的に、大きい。
中に大量の在庫を入れているだけなのかもしれないが。


しかしその割には、その場にはお菓子が散乱している。
しかも、載っていたであろう品物、ほぼ全部だ。
かわいそうに、先程のカーブで揺れて散らばったのだろうか。
テーブルクロスらしきものを上から被せているが、それでは不十分だったのだろう。


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28 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:08:17.26 ID:y+uhRp1L0



(゚、゚トソン「(乗務員いないのかな……)」

それが最初の疑問だった。

こんなに散らかっているのに、誰も片付けないのか。
しかも、ブロック状のチョコレート菓子など壊れにくいものはともかく、
ポテトスティックやチップス、板チョコ類がこうも散らかっていては
そのうち幾つかは、元のカタチをとどめていないものがあるに違いない。

尚且つ、こんなところにこれらを放置していたら、
ちいさな子供が持って行ってしまうかもしれないのに。


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29 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:10:52.89 ID:y+uhRp1L0


何はともあれ、考え事は何よりも後回しにしてしまうという私の脳は、尿意を優先した。
別に私に何か非があるわけでもなく、かといってあの怪我の多い乗務員を呼ぶのは抵抗がある。
あの人以外の乗務員でも探したいところなのだが。

トイレは至って簡素で素朴な造りで、
洋式のソレと鏡、洗面台、トイレットペーパーが備え付けられていて、補充用のものは全て天井部、
しかしその割には便器に座っても脚は伸ばせない。
芳香剤が設置されているが、だいぶ前のものを使っているのか、大して香りは感じられない。
そして何より、

(゚、゚トソン ガタゴトン…

(゚、゚トソン ズパァンドドドド…

(゚、゚トソン「うるせぇ」


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30 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:12:19.61 ID:y+uhRp1L0


電車のトイレも飛行機のトイレも、どうしてこんなに煩いのだろう。
今、車輪がレールを走る轟音が、ダイレクトに耳に伝わる。
そして、横開きのこの扉も煩く振動するせいで、落ち着けない。
トイレというものは、安らぎの時間を与えるものではないのか、オオカミ鉄道に抗議してやりたい。


デニムをおろし、便座に着く。
嘘だろ、座ったら更に骨振動で騒がしい。


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31 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:13:47.64 ID:y+uhRp1L0


出すものを出してデニムを着用、レバーを倒し、水を流す。
この轟音のなか、こうしてこぽこぽと音が聞こえる分、
普段の流水の音は相当なものだとうかがえるが、のんびりその音を聞いている必要もない。
早く戻らないと、警部ににやにやと見つめられる羽目になるのだ。

そしてこの扉、なにがやっかいなのかって、開こうとして力を加えると、一気にその方向にスライドし、
それが出っ張りの部分にぶつかって大きな音が響くので、迷惑極まりない。
大きな音を出さないようにするには、開く方向と反対方向にゆっくり力を加えながら、そっと全開する以外にないのだ。

(゚、゚トソン「ゆっくり……」バァン

(゚、゚トソン


別にこういう構造になっているのだから、それが原因で大きな音が鳴っても、誰も咎めないのだ。
だから堂々として、何食わぬ顔して戻ればいいのだ。


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32 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:14:50.86 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「さて、戻ろ」ドンッ

(>、<トソン「きゃっ!」


トイレを出てすぐに、今日で何度目になるだろう、また人にぶつかってしまった。
トイレの前を偶然歩いていた人だろう、しかしなぜこうも私は不注意なのだろうか。

今度こそ終わったのかもしれない。
なんたって相手は、すごく厳ついのだ、思わず畏怖の念を抱く程に。


(゚、゚;トソン「すすスミマセン!」

(`・ω・´)「……チッ」


確かに聞こえた。
「なんだコイツ」と思わせる、舌打ち。


.

33 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:16:26.04 ID:y+uhRp1L0


(;、;トソン「スミマセンスミマセン!」

(`・ω・´)「……フン」


私は今からトランクにでも詰まれて、海外に売りに出されるのだろうか。
睡眠薬で浸されたハンカチを、口元に押さえられるのだろうか。
お金なんて五桁あるかどうかって程度だし、発育もよくないから私はどうすれば!


とトンデモな被害妄想を繰り広げるも、
その厳つい男は、こちらに一瞥を下したきり何もせず、そのまま一号車の方面へ歩いていった。
その表情は焦燥に駆られていて、
先程お茶の件で難癖つけてきた男とはおそらく違う意味にて冷や汗が垂れていた。
歩いていく時も妙に小走りで、そう、なにか大切なものを探しているかのような。


(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「『急がなくても回れ』を教訓にしよう」

私も、いそいそとその場を去り、
少しでも早く一号車に戻って座りたいと願っていた。


.

34 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:18:42.86 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「お。遅かっ……」

   (`・ω・´)゚、゚トソン

(´・ω・`)「……」

(゚、゚トソン「(この人も一号車だったのか……)」

(´・ω・`)「……」

(`・ω・´)「……」

(゚、゚トソン「(えっなにこの雰囲気。二人は知り合い?)」


(´・ω・`)「……」

トイレから出てまっすぐ一号車に向かうと、同様に、ついさっきぶつかった男も歩いているのが、前方に見えた。
興味本位で、後をつけたいと思い、急ぎ足で彼の後ろをマークしたのだけど、特におかしいことはなくそのまま一号車に入った。
そして男が扉をすっと開け、それが閉まらぬうちに押さえ、私もくぐり抜けた矢先で二人が対峙した。


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36 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:20:27.37 ID:y+uhRp1L0


扉に填められているガラス越しに私が見えたのか、
警部は、扉が開いたと同時に私に視線を投げかけ、そして茶化そうとしたんだと思う。
ところが警部は、私の前を歩く男を見るやいなや、言葉を発するのをやめ、静かになった。
私はつい、二人が知り合いなのか、若しくはただメンチを切り合っているだけなのかはわからないが、このただならない雰囲気だけは感じ取った。

喧嘩でもはじまるのか? と内心ドキドキしていた私の心情を余所に、
存外二人はなにもすることなくすれ違い、男は警部を越えて歩いていった。
それについ動じて、一瞬足が竦んだが、すぐに自分の席に着いた。


(゚、゚トソン「……今の人、知り合いですか?」

(´・ω・`)「え? あ、他人のそら似」

(゚、゚トソン「……ほんとかなぁ」

(´・ω・`)「ほんとほんと」


.

37 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:21:39.40 ID:y+uhRp1L0


事の真相も抉れないまま、警部は深追いをさせないようにか早速話をすり替えた。
いや、もともとはその話だったはずなのだから気にかけないが。

(´・ω・`)「車内販売、どうだった?」

(゚、゚トソン「ああ、それが……」


しっかり椅子に深く腰掛け、若干前に屈むようにして話す体勢に入る。
そんな大層な話ではないのだが、こうした方がちょっとしたムードを作り出せる。

そうして私はゆっくり口を開き、トイレ前にて目撃した場景を語る。


.

38 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:22:52.61 ID:y+uhRp1L0


その、短いようで長い、どうでもいい話を、警部は興味深そうに聞いていた。
私が最後まで語り終えると、真剣な表情が薄れ、普段の警部になる。
そしてこちらを見て、顔は笑っていないのだが、おどけた様子でこう返した。


(´・ω・`)「ハハハ。事件の香りがするねぇ!」

(゚、゚トソン「おっイツワリ警部の出番ですか!?」

(´・ω・`)「……イツワリ警部ってやめてよ恥ずかしい」


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39 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:24:01.58 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「……オホン。まあ、別に乗務員の不始末だろうし、放っておけばいい」

(゚、゚トソン「そうかなぁ……」

(´・ω・`)「でも、そんなに散らかっていたら、車内販売はまだだろうね」

(゚、゚トソン「私もお腹空きました。なにか買おうかな」

(´・ω-`)「僕のもお願いできる?」

(゚、゚トソン「嫌です」

(´・ω・`)「はぁ……大人はつらいよ」

(゚、゚トソン「当然でしょ」


再び、二人の間に静寂が生まれる。
その僅かな時間でさえも愛おしい。
かといって、無理に話をするのもなかなか堪える。


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40 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:25:42.58 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「……30分かぁ」

(´・ω・`)「この列車、いつ頃にVIPに着くっけ?」

(゚、゚トソン「ううんと、発車から2時間くらいで着くはずですよ」


VIPとラウンジの県境は、鬱蒼とした森林と打ち寄せる荒波の海のダブルパンチとなっていて、
完全に二つに仕切られたカタチをとっているため、徒歩で片方へ向かうのはなかなか難しい。
山の中にある村、また村を辿っていくと軽装でも着くのだが、
普通はこういった長距離走行の列車か地下鉄、若しくは船を使うことが多い。

長距離走行の列車以外にはほとんどが各駅停車か準急ばかりなので、目的地が終点で定まっているならニュー速鉄道かオオカミ鉄道のコレを利用するのが早い。
ちなみに、オオカミ鉄道がニュー速鉄道に勝っている点といえば、あちらよりも少し早く着くことくらいだろうか。


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41 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:28:07.34 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「うひゃー速い。いや、そうでもないか」

(゚、゚トソン「まあ、座席の配列はバスみたいな感じで広々としてるし……」

(゚、゚トソン「こっちの方が楽じゃないですかね?」

(´・ω・`)「だから僕らはこっちに乗ってるんだよバーカ」

(゚、゚トソン「むっかー」


そうこうして、
車内の先頭の壁に掛けられている、
あのデジタル表示の時計が31分に変わる頃、
一号車と二号車とを繋ぐこの扉は開いた。


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42 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:29:49.21 ID:y+uhRp1L0


(#゚;;-゚)「よいしょ」

(゚、゚トソン !

(#゚;;-゚) !


絆創膏や傷跡が目立つ顔のあの女性が、そこには立っていた。
相変わらず細い手足で、大きなワゴンを運んできた。
数分前、あれほど散らかっていた商品を一人で片づけたのか、ほんとうに微々たるものだが息遣いが荒く感じられる。

ワゴンに載っているは、チョコ菓子やポテトスナックが大半を占めており、
幾つか、ドリンクも備え付けられている。


.

43 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:30:56.05 ID:y+uhRp1L0


彼女が一号車に乗り込んだと同時に私と彼女は視線が合った。
向こうにとっての私の印象はいざ知らず、私にとっては恥ずかしいハプニングばかりである。

乗る時に駆け込み乗車、
そして大胆に転倒、
挙げ句訳も分からず体当たりをかました、
数分にも満たないであろう時間の間に、この体たらくである。


(#゚;;-゚)「……」

(゚、゚;トソン「あわわわわ」


.

44 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:32:39.92 ID:y+uhRp1L0


私の心情を知っての行動かはわからないが、彼女を――否、ワゴンを――見かけた警部は、
急にテンションがあがったのか彼女に早速声をかけた。
ワゴンを上から下まで見つめて、どれにしようか、どれにしようかと
まるで子供のような無邪気な視線を送っているのが嫌でもわかる。


(´・ω・`)「すみません、食べ物はどんなのがあるんですか!?」

(゚、゚トソン「(見ろよ)」



(#゚;;-゚)「今、ここに並べてあるものしかないですね……」

(#゚;;-゚)「ちょっとこちらの方でハプニングがありまして、多くの商品が売り物ではなくなったのですよ」


購買意欲満々の警部を前に、そう淡々と内情を述べる。
しかし、その顔色からして、彼女は全くその事態に同情していないように窺える。


.

45 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:34:11.06 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「ああ、そういやかなり散らばってましたね」

(#゚;;-゚)「!」

(゚ー゚;トソン「ひっ!?」


その「ハプニング」に思い当たる節があったので、
それを何気ない会話のつもりで話しかけると、
思いっきりキツい視線でにらみつけられた。

もしかして体当たりの件をまだ根に持っていらっしゃるのかもしれない、
そうだとすると非常に恥ずかしい。
顔から火が吹きそうである。

と思ったのだが、暫しの沈黙のあと、
彼女の口から思いがけない展開になってしまう。



(#゚;;-゚)「あのおドジな人!」

(゚、゚トソン

(;、;トソン「ひぇええええ! おドジ!?」


.

46 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:36:32.91 ID:y+uhRp1L0


いきなりひどい言われようをされた。
それだけならいいのだが、更に警部が食いついてきたのだ。
どういうつもりか、それはお菓子を選ぶ時以上に目が輝いている。


(´・ω・`)「え、なになに? なにやらかしたの?」

(#゚;;-゚)「……」

(゚、゚;トソン「警部は黙っててください!」


この人に
「駆け込み乗車しちゃって」
「転んでおでこ打って」
「一号車と間違えてこの人にぶつかりました」
……なんて言ったら、かなりバカにされるのはわかっている。
そしてVIP警察の人に瞬く間に広まり、しばらくの間ネタにされるかもしれない。


.

47 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:37:56.42 ID:y+uhRp1L0


(#゚;;-゚)「……あっ」

(#゚;;-゚)「こ、これは失礼!」ペコ


乗務員の女性は事の重大さ(?)を察したのか、すぐに無礼を詫びた。
まあ、普通の人であれば「おドジ」なんて言われたらクレーム沙汰だから、
当然と言えば当然なのだが、私はそう抗える気力も威勢もない。

そして引き続いて女性は警部に話しかけた。
そういえば、なにかを売買しようとしている途中だった。


(#゚;;-゚)「……あなた、警部さんですか?」

(´・ω・`)「えっ。あ、はい」

(゚、゚トソン「……」


警部の立場の件に触れ、不意を突かれた警部がたじろぐなか、
警部であるのを確認した女性はワゴンの陳列棚を漁り、
なかから、ちいさめな赤い箱のお菓子を取り出した。


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48 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:39:10.89 ID:y+uhRp1L0


私が、ついさっきの会話にショボーンさんのことを警部と呼んだから
警察の人だ、というのを察したのはわかるが、
どうしてそれをほじくり返す? という疑問が浮かんだ。
同時に、警部にお茶の件で難癖をつけてきたあの男性のことも思い浮かんだ。
あの人も、ショボーンさんが警察であるというのを聞くや否や態度が一変した。
私が警察によく(無実の罪で)ご厄介になってきたせいで、
警察に対する意識が麻痺しているだけなのかもしれないが、
ここまで警察に警戒をするものだろうか。


しかし、その男性とこの女性とで違うのは、
この人は警察と聞いても態度を一変する事はなく、ただセールストークに持ち込みたかっただけなのだ。


(#゚;;-゚)「警部、なんとご多忙そうなお仕事でしょう」

(#゚;;-゚)「こちらなんかはおすすめですよ、甘いです」

(´・ω・`)「うへ、女の子にそう言わせちゃ買わないわけにはいかないな、ください」

(#゚;;-゚)「ありがとうございますっ」


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49 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:40:55.83 ID:y+uhRp1L0


なんと仕事熱心なことか。
警部がいい男とかわいい女の子には弱い、というのを勘で察したのか、
女性は私と会話するときには感じられない程の女子力を発揮し、
まるで過去に水商売にでも手を出していたのかと
思わせるような接客で、業績アップを図った。


女性が警部に売ったのは、ブロック状のチョコレートで、
2センチ角のそれが8個封入されて180円、
お得かと聞かれれば、いいえと答えるほかない。


小銭を彼女に渡した警部は、早速と言わんばかりに箱から
小分け袋を取り出し、封を破った。
カカオ本来の香りに甘みがだいぶ加えられたような匂いがそこらに広がる。


(´・ω・`)「おっこれは甘そうだ」

(´・ω・`) ハムッ


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50 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:42:46.47 ID:y+uhRp1L0


チョコをくわえて、口の中で舌を巧みに使い
存分に味わっている警部を見て、
女性はにこやかになりながら
これ見よがしに解説を加える。


(#゚;;-゚)「少量の糖分の摂取は、集中力の増加にもつながります」

(#゚;;-゚)「これを食べて、お仕事がんばってくださいね」

(´・ω・`)「いやあ、ここの会社はサービスが行き届いてるね」


すると、謙遜するかと思えば
彼女は控えめになりながらも、こう言った。


(#゚;;-゚)「いえいえ。警部ともあるお方に無礼などとても」

(゚、゚トソン「……」


やはり、この女性もショボーンさんの「警部」という肩書きに執着していた。
警部に親しく接することで、国家権力に抵抗してませんよ、
というアピールなのかもしれないが、それをするには前提がある。


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51 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:44:24.64 ID:y+uhRp1L0


「後ろめたいことをした上で」警察の人と親しくなり、
その後ろめたさをカバーするという事だ。
実は、この時、私はなんともいえない悪寒を感じていた。


(#゚;;-゚)「ではごゆっくりどうぞ……警部さん」

(´・ω・`)「……」


重そうなワゴンを押して、彼女は営業に戻る。
まあ、今の一連の流れに不自然な箇所は数ヶあれど、
別段気にするようなことはない。
そのはずなのに、警部は笑顔で女性を見送ったのち、途端に小難しい顔をして思考に耽った。


(´・ω・`)「……」

(゚、゚トソン「あの、どうしました?」

(´・ω・`)「ん? ……匂うね」

(゚、゚トソン「えっ事件!?」

(´・ω・`)「違う」


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52 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:46:23.20 ID:y+uhRp1L0


警部は鼻をつまんで、
鼻声になりながらそっと私に耳打ちした。

(´・ω・`)「……これは、パルファンか」

(゚、゚トソン「ぱるふぁ……?」

(´・ω・`)「香水さ。かなり匂いの度がキツい、ね」

(゚、゚トソン「ほえ?」


言われてから注意深く匂いを嗅ぐと、
確かに香水らしき匂いは感じられた。

しかし、それとは別の、
また強烈な匂いが混じっていて、
そのせいで香水とは気づかず今までスルーしていたようだ。


(´・ω・`)「ああ、君、たべもの関連以外については鼻は利かないほうだっけ」

(゚、゚;トソン「食いしん坊じゃないんだから……」


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54 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:47:50.19 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「……ここで質問だ」

(゚、゚トソン「はい?」

警部は耳打ちをやめ、依然前屈みのまま私に問いを投げかける。
微妙に真剣な表情なため、私はつられて若干緊張している。


(´・ω・`)「君、さっきもあの人に会ったんだね?」

(゚、゚トソン「うぐ。それがなにか?」

(´・ω・`)「そのとき、派手な、香水の匂いを感じなかったかな?」

(゚、゚トソン「香水の……?」


私は、乗車時のことを思い出す。
不覚ながら駆け込み乗車をしてしまい、その応報を受け転倒、
そして混乱し、急ぎ足で一号車に向かうも、
方向を誤り乗務員のスペースに突っ込んだ。

そして……



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55 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:49:19.10 ID:y+uhRp1L0


……あのとき、匂いなんて感じられたか?

いいや、そのような匂いは感じなかった。
いくら焦っていても、そんなにキツい香水なら、
肩と肩が触れ合う距離であれば、匂えるはずだ。


(´・ω・`)「どうだい」

(゚、゚トソン「……いいえ」

(´・ω・`)「やはりな」

(゚、゚トソン「でも、それがどうかしたのですか?」


当時彼女が匂わなかったからって、それが何か事件に繋がるものなるとは思わない。
しかしそれに反し、警部はにんまりと笑んだ。


(´・ω・`)「これは……」

(´・ω・`)「香るねぇ……事件の香りが……!」


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56 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:51:46.64 ID:y+uhRp1L0


イツワリ警部の恐ろしいところは、
訳も分からないところから推理を展開するところであって、
たとえ些細な異変でも、そこからロジックを展開するのだ。
そのロジックを、彼はこう述べた。

(´・ω・`)「君の話によれば、20分過ぎ?に、散乱されたお菓子とワゴンがあったんだよね?」

(゚、゚トソン「あ、はい……」

(´・ω・`)「それを彼女も知っている。ハプニングだ、と」

(´・ω・`)「それを留意してもらって、さっきの話になる」

(゚、゚トソン「は、はぁ」


一呼吸し、警部は続けて推理を展開した。
妙に目が活き活きとしている。

(´・ω・`)「発車の際には香水はつけてなかった、今はつけている」

(´・ω・`)「ということは、発車から今までの間に香水をふったんだ」

(゚、゚トソン「え? え?」


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57 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:53:01.33 ID:y+uhRp1L0


わからないのかい、と警部は嘲笑気味に言って、
私がわからない点を述べる間もなく、
警部はそれらが意味することを説明した。


(´・ω・`)「本来はふる必要はなかったんだ、その香水は」

(´・ω・`)「でも、ふった。これは言い換えると」

(´・ω・`)「『キツい香水を、使わざるを得ない状況が発生した』と考えるべきなんだ」

(´・ω・`)「どうだい? ワゴンの『ハプニング』と密接な関係がありそうだろ?」

(゚、゚トソン


(゚、゚トソン「おお!」


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58 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:55:50.21 ID:y+uhRp1L0

その数々の些細な異変から編み出したか細いロジックの線を、警部は見事渡ってみせた。
私ならどうでもいいの一言で蹴るだろうに、警部はそれらを一本の線で結ぼうとしつつある。
しかし、腑に落ちない点がある。

(゚、゚トソン「なんで香水を使ったんですか?」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「あ」

(゚、゚トソン「ズコー」

今の今まで展開してきた推理は何だったんだ、と思わせるも、
警部は「まあいいじゃない」と言って、ふたつめのチョコを口にほうばった。
少し味わって、彼は「若しくは」と言った。

(´・ω・`)「もしかしたら、強烈な臭いが衣服に着いたんじゃないかな」

(゚、゚トソン「なんで」

(´・ω・`)「お菓子の散乱の際、飲料水がべちゃ!と」

(゚、゚トソン「まあ、ありそうだけど」


……しかし、まあ。
よく、都合よく持っていたな、パルファンなんて香水。

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59 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 16:58:01.41 ID:y+uhRp1L0


警部は一頻り話し終え、満足げにふんぞり返ると、
思い出したかのようにもう一度乗務員の女性の方を見た。
彼女はUターンして戻ってきたところで、ちょうど警部の隣にいた。
いや、厳密に言うと、警部の隣にあるのはワゴン、その奥に彼女がいた。


(#゚;;-゚)「いやですから……」

「だから俺だって! 覚えてねぇのかよ!」

(#゚;;-゚)「すみません、存じてません」



(´・ω・`)「……」

(゚、゚トソン「喧嘩、してますね」


お茶の人の声がすると思ったら、
彼と乗務員の女性は、何やら話題までは掴めないが、諍いを起こしていた。
あの、自分より位が下そうな人に対しては
態度が大きい人が、一方的に食ってかかっている。
それに対し、女性はとにかく頭を下げていた。


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60 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:00:23.73 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚トソン「どうしたんだろ……」

(´・ω・`)「こら」ゴチン

(;ー;トソン「いったーい!」

(´・ω・`)「人のプライベートな話を盗み聞きしちゃいけません」

(゚、゚;トソン「プライベートじゃないでしょ!」

お茶の人の顔も見えず、ワゴンが死角になって、2人の対峙した姿が見られない。
だから、見るついでに、話をより詳しく聞こうとすると、警部に痛い一撃をもらった。
人の話を盗み聞きするのがよくないのは知っているが、
なにも拳骨までしなくてもいいではないのだろうか。


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61 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:04:16.99 ID:y+uhRp1L0

(´・ω・`)「はいはいこの話はおしまい。
      トソンちゃんも食べる? 甘いよ」

(゚、゚トソン「太るのでいいです」

(´・ω・`)

(´;ω;`)「ふ、ふ、ふと、りゅぅぅぅぅ!!」バンバン

(゚、゚;トソン「なななんですか! その人をバカにするような笑い方」

(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃ! バカにしてるんだよ実際!」

(゚、゚;トソン「そんなに笑わなくていいじゃないですか、もぉー!」

この人の変なところ、
それは笑いの沸点がアンバランスで、
全く笑いのツボがわからない。
しかし、人をバカにして笑うのが
すごく好きなのは確かである。

どうやら、曰く食いしん坊な私が、太るのを
気にしていたのがツボに入ったみたいなのだ。
失礼にも程があるとは思わないか。

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62 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:05:56.09 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「……ふぅ」

随分と笑い、疲れたのか、
警部は、笑い終えて一息つく。
私も反抗に気が滅入ってしまい、
どっと疲れが押し寄せた。




―――そのとき。





   パァン!



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65 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:10:48.46 ID:y+uhRp1L0

(゚、゚トソン「えっ」
   、_
(´・ω・ )「!?」


列車の揺れる音だけが車内にこだまし、
車輪の擦る音が、微かに、そして確かに
聞こえるだけだったこの空間に

乾いた破裂音、
しかもかなり大きめなものが、
響き渡った。

それは馴染みがあって、
そして馴染みのない音のため、
最初私はそれが何の破裂音なのか、
把握できなかった。

しかし、決して耳がおかしくなったわけではない、
確かにその音は鳴ったのだ。
私がその音の正体を考える前に、
絹を裂くような女の悲鳴が聞こえ、
同時に警部も動いていた。

(# ;;- )「きゃっ……! ―――!?」

(´・ω・`)「何事だ!」

.

66 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:12:06.48 ID:y+uhRp1L0


(゚、゚;トソン「え、なに!?」

「なに今の音……銃声?」

「きゃあああああああああ!」



方向性はある程度違えど、
少なからずやにぎやかだったはずのこの一号車、
それは一発の銃声で、一気に地に堕ちた。

(゚、゚トソン

一号車は途端にパニックに見舞われた。
ある者はテロか何かの仕業と思い、
ある者は誰が銃を持っているのかを探したり
被害者は出たのか、誰が撃ったのか、
またテロがあったのか若しくは銃声ではないのか。

どれもが見当のつかないさなか、
警部は立ち上がって瞬時に現状把握に努めた。


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67 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:15:06.00 ID:y+uhRp1L0


(´・ω・`)「………」

私も彼に続いて車内の各所に目を配った。
皆(といっても人数は10人も満たないが)が
パニックに陥るなか、銃を持っている者はおらず、
血を流す者、そしてテロと思わしき組織もいない。
しかし、微かに「臭う」。


(´・ω・`)「……臭うな」

(゚、゚トソン「これって、かや」


私が警部に話しかけようとするとき、
私の右斜め後ろ、一号車と更に後ろを
繋ぐ扉が、かなり強引に開かれた。
横開きのそれが壁を叩く、凄まじい音に皆そちらを向く。
一番近い場所にいた私も勿論振り向いた。

そこには警部の着ているトレンチコートに似た、
その深緑を着ている人と、
ベージュを着ている人の二人が立っていた。
深緑の方が、大きな声を張り上げる。


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68 名前: ◆wPvTfIHSQ6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 17:18:27.97 ID:y+uhRp1L0



( <●><●>)「静かにしろ! 警察だ!」




 イツワリ警部の事件簿
 File.1

 (´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

 1章
  「銃声」

    おしまい



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