- 649 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:34:31 ID:jhBsMllgO
-
◆
これは、都村トソンが、まだ高校一年生の頃。
彼女がVIPの女子高校にいた時に起こった事件だ。
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- 650 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:53:15 ID:jhBsMllgO
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−1−
都村トソンは、最近推理小説に凝っている。
特に、警部や警部補など、刑事が中心となる小説だ。
見た目に反し、活字を読むのさえ嫌になるほどの知能の持ち主が本を読むことが
できるというのは、それが活字であることさえ忘れさせるほどの魅惑を持っているからだ。
二月の頭頃、放課後に都村は図書室を訪れた。
彼女は、推理小説を返却し、また新しい小説でも借りようと思ったのだ。
だが、図書室を訪れると、彼女は違和感をおぼえた。
図書室に静けさがつきあうのは当然だが、今回の静けさとはそれではない。
図書室には誰もいないのだ。
普段は、図書部の人間含め、二、三人は生徒がいるものだ。
ところが、貸し出しを担当する生徒ないし先生でさえ、そこにはいなかった。
不思議な気持ちになりながらも、都村は図書室に足を踏み入れた。
普段は暖房が効いているはずの室内はひどく寒く、窓も開いてないのに風が吹き込んできていた。
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- 651 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:54:59 ID:jhBsMllgO
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(゚、゚トソン「返しますよー…」
とうとう不安になってきた都村は、とりあえず隣の司書室に向けて声をかけた。
司書室は、廊下からも図書室からも入ることのできる、図書の整理や保管などを請け負っている場所だ。
その扉は閉まっているので、当然向こうに伝わるはずがないが、都村は、とりあえず言ってみた。
受付のカウンターに本を置き、都村は司書室の扉の前に立った。
やけに静かだ。ただ、風の吹く音が聞こえる。
時折、木の葉が風で揺れる音も混じって聞こえてきた。
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- 652 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:55:55 ID:jhBsMllgO
-
(゚、゚トソン「……失礼します」
司書室への扉に、手をかけた。
鏡に映る自分の顔は、ひどく不安げで、
後ろのポニーテールもしおらしかった。
(゚、゚トソン「……先生?」
( )
(>、<トソン「!」
.
- 653 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:56:47 ID:jhBsMllgO
-
司書室を開いた瞬間、都村は激痛に見舞われた。
頭部を、硬い、重いなにかで、思い切り殴られた。
出会い頭であることを踏まえると、相手は扉の向こうで待ちかまえていたのだろう。
それは一瞬の出来事だったため、都村は相手の顔を見ることができなかった。
いや、見ていたとしても、彼女はその名を口にできなかっただろう。
都村は、その場で、床に崩れ落ちた。
相手はそれをじっと見下ろしていた。
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- 654 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 16:59:25 ID:jhBsMllgO
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−2−
県警への一本の通報が、彼らを動かした。
殺人事件のため、所轄ではなく警察本部が出動することになった。
VIP県警、刑事部、捜査一課前の廊下にて、捜査一課長のドクオに、
不機嫌な顔を見せるショボーン警部は、次々細かな指示を受けていた。
('A`)「舞台となる、鳳凰学園と言えば、この国でも有数のお嬢様学校だ」
(´・ω・`)「そうらしいですね」
('A`)「そこで、向こうの校長も、なるべく事件を公開しないように、捜査を頼んでいらしている」
.
- 655 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:01:57 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「目撃者が生徒なら、箝口令を敷くのは不可能に近いですよ」
ショボーンは、ドクオの言わんとしていることを汲み取り、先にドクオにそう意見した。
すると、ドクオは少し硬い顔が和らいだ。
('A`)「その点は問題ないよ。目撃者のふたりとも、教師だからね。
ただ、被害者のひとりは、生徒だ。くれぐれも、捜査には細心の注意を払うのだよ」
(´・ω・`)「捜査の前に、まずその目撃者の話を聞きたいのですが、どちらに?」
('A`)「男のほうが、真山田ネーヨ(まやまだねーよ)という、数学専攻の教師だ。
現場である図書室で待っていると聞いた」
.
- 656 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:05:02 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「わかりました。
. では、あとだれか手の空いているやつを連れていってもいいですかね?」
とショボーンが言うと、ドクオは開いている捜査一課の扉を覗き、なかにいる者を確認した。
茶色の髪が揺れる女刑事を見て、ドクオは扉を閉めた。
('A`)「三月クンがいるじゃないか」
(´・ω・`)「三月イナリ(さんがついなり)刑事ですか」
('A`)「確か、あの子はキャリア組だったね。
ショボーン君、彼女にも丁重に頼むよ」
(´・ω・`)「びしばし鍛えておきます」
ショボーンはにこやかでない顔でそう言うと、ドクオは雑務があるからと言って、帰っていった。
捜査一課に入り、すっかり孤立していた三月イナリを呼んだ。
他の者は、皆、別の捜査をあたっている。
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- 657 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:06:46 ID:jhBsMllgO
-
三月は皆から仲間外れにされていたようで、どこか寂しげだった。
といっても、キャリアの、しかも女刑事となると、こうなる運命なのだと、彼女自身よくわかっているらしい。
ショボーンが呼ぶと、彼女はやはり冷静なそぶりでショボーンのもとへ行き、事件の概要について、説明された。
(´・ω・`)「まあ、概要はこんなとこだよ」
イ(゚、ナリ从「わかりました」
(´・ω・`)「走るぞ。ついて来い」
イ(゚、ナリ从「はい」
.
- 658 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:08:09 ID:jhBsMllgO
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パトカーに乗り込み、サイレンを鳴らして、舞台となる鳳凰学園へと向かった。
ショボーンがパトカーで運転する隣で、三月は、とにかくメモにびっしり概要を書いていっていた。
空気が冷たくなり、耐えかねたショボーンは、ハンドルをきりながら三月に話しかけた。
(´・ω・`)「いやに仕事熱心だね」
イ(゚、ナリ从「ありがとうございます」
(´・ω・`)「イナリちゃんのおとうさん、確かアルプス県警の警部だよね」
イ(゚、ナリ从「尊敬できる父です」
(;´・ω・)「……あ、そうだよね。うん」
.
- 659 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:09:27 ID:jhBsMllgO
-
三月は、仕事は仕事でプライベートから完全に切り離すタイプのようで、
ショボーンへの応答も、すべて事務的で、ショボーンはおもしろくなかった。
少しくらいおどけてくれても、叱りやしないのに。ショボーンはそう思っていた。
そして、ショボーンのほうも言葉が詰まり、またしてもパトカーは静かになった。
サイレンだけが、けたたましく鳴っていて、緊張感が高まってきていた。
問題の高校に近づけて、先に来ていた鑑識のパトカーの後ろにショボーンたちのパトカーを留めた。
駆け足で図書室に向かった。
確か、図書室は北館の三階だったな、と脳内で復唱しながら、ショボーンは三月をつれてそちらに向かった。
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- 660 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:12:15 ID:jhBsMllgO
-
−3−
(`・д・)ゞ「警部、お疲れ様です!」
(´・ω・`)ゞ「おう」
既に、図書室及び司書室内は鑑識で溢れていた。
敬礼されるたびにショボーンは応えていくが、
三月に敬礼をする者は、気のせいか、少なかった。
が、彼女はまったく動じる様子を見せなかった。
(´・ω・`)「さて、真山田さんはいるかな」
ショボーンが呟くと、三月は司書室のほうを指さした。
開かれた扉の向こうでは、真山田と警官と、もうひとり女性がいた。
(´・ω・`)「どうも」
(`・д・)ゞ「警部、お疲れ様です!」
(´・ω・`)「おう。ところで、そちらが発見者の?」
というと、男のほうはすぐに返事をした。
比較的痩身で、まるでもやしのような髪型と、
それは数学教師の典型例といった様子だった。
.
- 661 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:14:06 ID:jhBsMllgO
-
( ´ー`)「真山田です。数学の教師やってます」
(´・ω・`)「県警のショボーンです」
イ(゚、ナリ从「三月です」
(´・ω・`)「そちらは?」
真山田の隣にいた女性にふると、女性もあわてて応えた。
リi、゚ー ゚イ`!「ろ、狼シグン(ろうしぐん)です!」
(´・ω・`)「やはり、発見者ですか」
リi、゚ー ゚イ`!「そ、そうだと思……いや、どうなんだろ…アレ、いったい――」
(´・ω・`)「わかりました、とりあえずは落ち着いてください」
リi、゚ー ゚イ`!「は、はぃ……」
狼のほうは、落ち着きがなかった。
殺人事件となると、やはり動転するのはいたしかたがない。
しかし、男のほうはそうでもなかった。
単に鋼の神経なだけか、程度に思っていた。
どこも、殺人で狼狽するのは女だ。
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- 662 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:16:36 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「いきなりで申し訳ないですが、
. 早速事件発見当初の状態から話してもらっていいですか?」
と言うのを聞いて、三月は手帳を取り出した。
これなら、真山田が早口で言っても大丈夫だな、と思った。
( ´ー`)「はい。というか、もともと死体を見つけたわけじゃないんですよ。
最初は、そちらの狼先生に、生徒が倒れているから来てくれと呼ばれて来て、あ、その生徒は今救急車で運ばれました。
狼先生がその生徒を介抱している時に、ふと窓の外を見下ろすと、はじめて、死体が――」
(´・ω・`)「おおむね、理解しました」
( ´ー`)「そのあとは、驚いてすぐに警察に電話しました。現場にはいっさい触れていません」
(´・ω・`)「賢明な判断、ありがとうございます」
( ´ー`)「いえいえ」
.
- 663 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:18:29 ID:jhBsMllgO
-
速筆な三月は、もう証言内容を書き終えていた。
それを見て、ショボーンは確認作業に入った。
(´・ω・`)「では、いくつか質問をさせていただきますが、よろしいですか?」
( ´ー`)「ええ」
(´・ω・`)「まず、時間ですが――」
( ´ー`)「確か、四時半過ぎだったかな?」
(´・ω・`)「では、外もだいぶ暗かったでしょうね」
( ´ー`)「ええ」
(´・ω・`)「どうして、窓の外を、しかも見下ろそうなんて思ったのですか?」
( ;´ー`)「え?」
.
- 664 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:19:40 ID:jhBsMllgO
-
真山田が、狼狽した。
すかさずショボーンが補足説明をした。
(´・ω・`)「その生徒が介抱された、彼女を介抱する、
. それだけでよかったのに、なぜ窓の外なんかを?」
(;´ー`)「なんで、と言われましても……」
真山田は考え込んだ。
ショボーンは、その彼の動作が怪しく見えた。
( ´ー`)「やっぱり……なんとなく、でしょうか」
(´・ω・`)「なんとなくねぇ」
( ´ー`)「ほら、よくあるじゃないですか。
分かれ道で、なんとなく右を選んだら正解だったとか」
(´・ω・`)「それは単なる勘です」
( ´ー`)「ぼくはこれでも勘はいいほうですから」
(´・ω・`)「ほう」
.
- 665 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:21:05 ID:jhBsMllgO
-
ショボーンが探りを入れようとすると、今度は狼が応えた。
おどおどしながら、ショボーンの顔色を見て説明をした。
リi、゚ー ゚イ`!「えっと、私が図書室に来ると、なぜか生徒が倒れていて、しかも気を失っているものだから、
びっくりしちゃって、たまたま近くにいた真山田先生に助けてもらったんです」
(´・ω・`)「そうなのですか?」
ぎろっと真山田のほうを見ると、彼は首を縦に振った。
.
- 666 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:23:17 ID:jhBsMllgO
-
( ´ー`)「そうです。あ、思い出しました。こういう時って、必ずどこかに証拠とかあるものだから、
狼先生が介抱している間、図書室内を散策し、そういった証拠を見つけようと思ったのです。
なにぶん、その矢先で死体をみたので――」
(´・ω・`)「気になったのですが、なぜ、外は薄暗くて、しかもここ三階から
. 見ているのに、それが死んでいるって判ったのですか?」
すると、真山田は「なんだそんなこと」と言いたげな顔をした。
( ´ー`)「血が、ぶわあって広がってるのは、さすがに見れますしね」
(´・ω・`)「そういうことですか」
(´・ω・`)「……ん、転落死で、頭蓋骨粉砕? いや、たかが三階でそんな――」
.
- 667 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:25:12 ID:jhBsMllgO
-
ショボーンが独り言を言っていると、検死官が三月のもとへやってきた。
死体の簡単な検死の結果がでたというので、それを報告したのだ。
三月は、ショボーンのぼやきに対応するよう、手帳にそれを書き並べながら言った。
イ(゚、ナリ从「警部。害者の死因は、転落死でなく、鈍器による撲殺です。
転落は、死後すぐに起こった一件と見ていいとのことです」
(´・ω・`)「………撲殺?」
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- 668 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:26:36 ID:jhBsMllgO
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−4−
ショボーンは怪訝な顔をしたが、三月は淡々と続けた。
イ(゚、ナリ从「そうとう、硬くて重いものと見ていいそうです。
……どうやら、目下捜索中のようですね」
(´・ω・`)「じゃあ犯人は、害者を撲殺したのち、わざわざ地面に落としたというのか」
そこは、学校の敷地と敷居との狭間で、三階から落とせば、
万が一ではあるが、通行人から目撃者が出てくることもある。
というのに、犯人がわざわざ図書室から下に落とした理由が、掴めないでいた。
.
- 669 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:27:47 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「表の道路まで投げ飛ばそうとしたが、
思いのほか重くてあそこになってしまった、のでは」
(´・ω・`)「そうかねぇ」
怪訝そうにショボーンは言った。
実際、そうだとすると、ますます死体の発見がはやくなる。
ショボーンが、その通りをぱっと見たところ、人通りは少なく、
数十分に一度乗用車が通る程度だが、放課後の図書室と比べれば、発見される確率は格段に高いだろう。
しかも、投げる際に、犯人まで下に落ちる可能性も、少なからずあり得る。
そんなリスクを負ってまで、外部に投げ捨てるわけがわからなかったのだ。
.
- 670 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:29:48 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「それと、凶器の行方だ。重くて硬いとなれば、すぐに見つかるんじゃないのか?」
イ(゚、ナリ从「現在、ご覧のように図書及び司書室にて捜索していますが、万が一を考え、
三階の廊下や部屋全域にくわえ、落とされた場合にあり得そうな場所も捜すよう指示したところです」
(´・ω・`)「それで、まだ見つからないと」
イ(゚、ナリ从「犯人も、そう簡単には見つからない場所に隠したのでしょう。当然の心理です」
(´・ω・`)「しかし、学校にそのようなものの持ち込みは難しいだろう。
. よくて、野球部のバット程度だが、その野球部じゃない限り、
. 一撃でしとめるのにバットじゃなぁ。さすがに心許ないだろう」
.
- 671 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:30:42 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「また、報告では、野球部ではそういった紛失されたバットは一本もないようです」
(´・ω・`)「手回しいいね」
イ(゚、ナリ从「ありがとうございます」
このような、冷静でクールな性格の三月は、同僚から避けられている。
それはキャリアだからという嫉妬もあるのだが、それだけでなく、
三月の、仕事に対しての熱意が尋常ないというのもあるのだ。
それと相まって、ますます彼女が孤立する原因となってしまったのだろう。
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- 672 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:32:44 ID:jhBsMllgO
-
−5−
(´・ω・`)「ところで、害者のデータだが」
ショボーンが言うと、三月はすぐに手帳を開いた。
イ(゚、ナリ从「名治すー(なちすー)、三十三歳で、家庭科の教師を勤めています。
死亡推定時刻は現在不明。鈍器のようなもので後頭部を殴られ、
即死後、高いところから落とされたものと見られます」
(´・ω・`)「おふたりは、亡くなった名治先生とは、どういった関係ですか?」
今度は、真山田と狼を見て言った。
その質問に、真山田から応えた。
( ´ー`)「ぼくとは請け負う学年も、専攻もまるで接点がないので、
名治先生とはそれほど知り合っていたわけではないですね」
イ(゚、ナリ从「害者の担当は一年、しかも副担任です」
( ´ー`)「そうでしょ?
ぼくは二年生を持ち、教える相手は二年ないし三年ですから。
挨拶程度はしますが、言うほど親密じゃあなかったですね」
.
- 673 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:34:01 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「では、狼さんは?」
リi、゚ー ゚イ`!「私は、主に三年生に教えています、生物専攻です」
(´・ω・`)「名治先生との交流は?」
と聞くと、狼は少し口ごもった。
ショボーンが続けて尋ねようとすると、応えた。
リi、゚ー ゚イ`!「一応、私も三十三で、独身仲間ですから、一緒にごはんに行くことくらいは――」
(´・ω・`)「その割には、彼女の死亡に、ショックを受けないんですね」
リi、゚ー ゚イ`!「私、彼女が死んだなんて、信じてないんです」
(´・ω・`)「ほう」
ショボーンの様子が少し変わった。
眉をひくつかせ、相手の顔を食い入るように見ている。
.
- 674 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:35:02 ID:jhBsMllgO
-
リi、゚ー ゚イ`!「きっと、いまの医療技術でしたら、彼女は助かるんでしょ?」
(´・ω・`)「……?」
リi、゚ー ゚イ`!「カエルの筋肉に電気ショックをくわえるとびくんって動くように、
きっと、骨の補強さえできれば、また名治先生も生き返るんでしょ?」
(;´・ω・)「―――」
今度は、ショボーンが口ごもった。
狼は、本気で名治が蘇ると思っているように見えた。
だが、名治は、頭蓋骨が砕け、出血も多量、即死なのに更に三階から突き落とされている。
いくら医療が万能になってきつつある現代でも、名治の治療はあきらかに不可能だ。
それを、狼はわからないのだろうか。
ショボーンは、少しお気の毒に思えた。
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- 675 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:36:52 ID:jhBsMllgO
-
−6−
目撃者との話もほどほどに、ショボーンは捜査の指揮をとっていた。
この国の警察は優秀だ、普段なら、あっという間に何らかの証拠を持って駆けつけてくる。
しかし、今日は違った。
凶器となりそうな、硬く重いものということで、まずは消火器が調べられた。
ショボーンも、これが凶器ではないか、とにらんでいた。
が、消火器には埃が積もっていて、触られた跡すらなかった。
次に、図書室の入り口付近にある、鷹を象ったブロンズの像を調べさせた。
が、こちらは台にひっついており、台付きでは到底殴ることすらできなそうだったので、指紋だけ採取して切り上げた。
.
- 676 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:39:14 ID:jhBsMllgO
-
北館に面している道路や、校内の敷地も捜させたが、やはりそれらしきものは見つからなかった。
ショボーンは、いよいよ顔が渋くなってきた。
(´・ω・`)「妙だ」
イ(゚、ナリ从「凶器は、もしかしたら犯人が持ち去ったのかもしれませんね」
(´・ω・`)「じゃあ、凶器から辿るのはもう少しあとにするか」
イ(゚、ナリ从「では、どうされますか」
(´・ω・`)「図書室に戻ろう」
そう言って、ショボーンは司書室を抜け図書室に戻った。
扉を抜けてすぐそこに、今し方鑑識も調べている窓がある。
ここにある窓は開いてあって、おそらく犯人は近くで
名治を撲殺、のちにここの窓から落としたのだろう。
だが、床を調べている鑑識からは、一向に報告はこない。
.
- 677 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:40:47 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「血液が飛び散ったような跡は、見つからないかね?」
(`・д・)ゞ「はッ! 目下捜索中でございます!」
(´・ω・`)「ご苦労。見つければ、すぐに報告するんだ」
(`・д・)ゞ「ははァ!」
血の気の多いこの鑑識は、ショボーンに労いの言葉をいただけて、嬉しそうだった。
鼻歌なんかを歌いながら、四つん這いでそこらを調査している。
ショボーンは三月と向き合った。
(´・ω・`)「犯人は、ここか司書室で名治を背後から襲い、
. すぐに下に突き落とした。それはなぜだ?」
イ(゚、ナリ从「万が一息の根が残っていた場合のことを考えての、保険でしょう」
(´・ω・`)「それもあるだろう。だが、鑑識の報告がないのを見ると、別の可能性がでてくるよ」
イ(゚、ナリ从「はい?」
(´・ω・`)「犯人は、きっと、現場が図書室であることを、知られたくなかったんだ」
.
- 678 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:42:59 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「現場に跡を残さないのはわかりますが、なぜそう言えるのでしょうか」
(´・ω・`)「それは、床に血痕が一滴もないところにある。
. ここで害者が殴られたとしたら、必ず、一滴でも血は飛ぶ。
. それすらないということは、犯人はよほど工夫して殺したと見ていい。
. また、犯人が、現場が図書室であることを隠したかったのであれば、
. なぜここから地面に突き落としたのか、説明がゆく」
イ(゚、ナリ从「しかし、すぐに図書室がばれましたよね」
(´・ω・`)「確か、生徒が倒れているというのを聞いてやってきた真山田さんが、ふと窓の外を見ると――」
言い掛けたことを呑み込んで、ショボーンは「あっ」と言った。
話題を一転させ、ショボーンはあることを聞いた。
.
- 679 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:45:35 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「そういえば、その生徒に、話聞けないのかな?」
イ(゚、ナリ从「少々お待ちください」
三月は携帯電話を取り出した。
狼が介抱したほうの被害者は、近くの石井病院という大きな病院に搬送されたと聞く。
派出所の警官が応対し、パトカーに乗せて送っていったのだ。
気を失っているだけで、しばらくすれば治りそうだが、
殺人事件に絡んでいるとなると、万が一がある。
電話を終えると、三月はショボーンに言った。
イ(゚、ナリ从「現在こちらに向かっている、というより、もうここに着いたようです」
(´・ω・`)「ちょうどいい。会わせてくれ」
イ(゚、ナリ从「中庭、噴水前のベンチに居ます」
.
- 680 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:47:23 ID:jhBsMllgO
-
−7−
ふたり揃って図書室を出て、一階に降りた。
中庭にでると、中央に見える噴水がきれいだった。
それのまわりには、ベンチが沿って置かれている。
そのなかのひとつ、警官の隣に、頭に包帯が巻かれた少女が座っていた。
( ><)ゞ「あ、お疲れ様です」
(´・ω・`)ゞ「おう」
警官に、ショボーンは敬礼を返した。
後ろから着いてきた三月は、警官に質問をした。
すると、警官は鼻の下をのばし、答えた。
イ(゚、ナリ从「この子がそうなのか」
(*><)「はッはい! イナリ刑事、お疲れ様なんです!」
イ(゚、ナリ从「うむ、ご苦労」
(*><)「ではこれで!」
警官は三月にもう一度敬礼をして、そのままパトカーに乗って帰って行った。
三月と話すときだけ、妙に気分が昂揚しているように見えて、ショボーンはおもしろくなかった。
.
- 681 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:49:06 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「あいつの名前知ってるか?」
イ(゚、ナリ从「稚内なにがしだったと」
(´・ω・`)「稚内か。まあ、どこかで見たことある奴だ。覚えとけよ、稚内」
イ(゚、ナリ从「とにかく、この子がそうです。名は――」
三月が、頭に包帯を巻いた、全身を白にまとった少女を指さして言った。
ショボーンもようやくその少女を見ると、顔色が豹変(かわ)った。
名前を言われる前に、ショボーンはその名前を叫んだ。
.
- 682 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:50:04 ID:jhBsMllgO
-
(゚、゚トソン
(´・ω・`)「―――!」
イ(゚、ナリ从「都村――」
(;´・ω・`)「トソンちゃん!」
イ(゚、ナリ从「存じておりましたか」
(;´・ω・`)「ともだちだよ。それよりも、トソンちゃん、無事なのか」
(゚ー゚トソン「?」
かなり周章した様子で、ショボーンは少女を呼びかけた。
だが、少女は天使のような笑顔を見せ、首をかしげただけだった。
ショボーンは、どうも彼女の様子がおかしいと思った。
.
- 683 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:51:27 ID:jhBsMllgO
-
(;´・ω・`)「トソンちゃん、傷が響くのか? 言葉を失った?」
(゚ー゚トソン「…?」
イ(゚、ナリ从「警部。そのことなんですが――」
(;´・ω・`)「僕だよ、ショボーン。イツワリ警部。思い出した?」
(゚、゚トソン「……」
ショボーンの友人である少女、都村は、力なく首を横に振り、俯いた。
膝の上に置かれた両手に、力が籠められたのが見て判った。
ショボーンが狼狽えているのを、三月は気にせず、彼女の様態について説明した。
イ(゚、ナリ从「都村トソン、十六歳。鈍器のようなもので、頭部を前から殴られたと見ています」
(´・ω・`)「鈍器――」
イ(゚、ナリ从「幸い、外傷はなし。ですが――」
(゚、゚トソン「?」
イ(゚、ナリ从「彼女は、記憶喪失です」
(´・ω・`)「!」
.
- 684 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:52:09 ID:jhBsMllgO
-
イツワリ警部の事件簿
Extra File.1
(´・ω・`)とある忘れられた事件のようです
.
- 685 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:55:29 ID:jhBsMllgO
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−8−
静かな噴水庭園の前で、三月イナリに告げられた様態に、
ショボーンは驚き通り越して、それが嘘ではないのかと疑いもした。
だが、三月は決してジョークを言う人間ではない。
それが仕事中となれば、なおさらあり得ない。
ショボーンは、都村をちらっと見て、確認をとってみた。
彼女は、かなり優しい笑顔を、ショボーンに向けていた。
(´・ω・`)「自分の名前、知ってる?」
(゚ー゚トソン「……知らない」
(´・ω・`)「僕の名前は?」
(゚、゚トソン「……知らない」
(;´・ω・`)「僕はショボーンで、君はトソン! 都村トソン!」
(;、;トソン「……知らない!」
(;´・ω・`)「……なんてことだ」
.
- 686 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:57:33 ID:jhBsMllgO
-
都村とショボーンとは、半年以上のつきあいがある。
だが、ショボーンの知っている都村とは、クールで知的なイメージ、しかし、本当はドジな、そんな少女だ。
天使のような笑顔は見せないし、ショボーンに刃向かうこともないはずだ。
ショボーンはそれを理解し、いよいよ都村の記憶喪失に疑いなくなった。
(´・ω・`)「イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从「はい」
(´・ω・`)「記憶喪失の症状について、把握できているデータを」
イ(゚、ナリ从「病院によると、彼女の記憶障害の原因は、鈍器による脳の損傷と見られます。
外部性による逆向性健忘であり、殴られるより以前の記憶が一時的に消えてしまったわけです。
逆に言うと、負傷後、つまり事件発生以降の記憶は生きています」
(´・ω・`)「……俗に言う記憶喪失、というわけだね」
ショボーンは、肩を落とした。
信じたくはないが、彼女は、紛れもない記憶喪失であることが確信された。
.
- 687 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 17:59:23 ID:jhBsMllgO
-
(゚、゚トソン「私、気が付けば病室にいました」
(´・ω・`)「目を覚ます前までのことは、なにも?」
(゚、゚トソン「はい」
イ(゚、ナリ从「担当医師によると、この記憶障害は一時的なものであるため、
ふと記憶を取り戻すことがあるようです」
(´・ω・`)「そうか……」
(゚、゚トソン「……ごめんなさい」
(´・ω・`)「気にしないで。トソンちゃんは悪くないんだよ」
と言ったが、ショボーンは内心苛立ちを覚えていた。
証言を聞くことができない以上に、親しい友人が
ひどい目に遭わされたというのが、許せなかったのだ。
.
- 688 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:00:56 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「トソンちゃん、君は誰かに殴られたんだ」
(゚、゚トソン「…?」
(´・ω・`)「思い出せないかな。その、君を殴った、相手を」
そのショボーンの追究を止めたのは、三月だった。
イ(゚、ナリ从「無闇に追究すると傷に響きます」
(´・ω・`)「そうか」
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「トソンちゃん、ゆっくりでいい。
. なにか思い出したら、僕を呼んでね」
(゚、゚トソン「……うん」
都村は肯いた。
彼女は、様態は安定しているので、しばらくは病院を離れていても大丈夫と聞いた。
彼女の監視役に、誰か警官をひとりよこしてもらうよう、ショボーンは電話した。
すると、たまたま手が空いていた、稚内とか言う警官が再びやってきた。
.
- 689 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:01:38 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「彼女がなにか思い出したら、すぐ僕を呼べ」
( ><)「はい」
イ(゚、ナリ从「あくまで記憶障害だ。丁重に扱うようにしろ」
(*><)ゞ「はいッ!」
(´・ω・`)「彼女から目を離すなよ」
( ><)「はい」
イ(゚、ナリ从「喉が渇いたと言ったら自腹でなにか飲み物を与えろ」
(*><)ゞ「イナリ刑事の命令ならッ!」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
.
- 690 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:06:28 ID:jhBsMllgO
-
−9−
ショボーンと三月は図書室に戻った。
階段を上りながら、ショボーンは三月に尋ねた。
(´・ω・`)「そういえば、イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从「はい」
堅い三月につられて、ショボーンは一旦咳払いをした。
そして、真顔で、少し改まった口調で訊いた。
(´・ω・`)「確か、君も幼い頃に記憶喪失になったんだね」
イ(゚、ナリ从「……」
三月は眉をひそめた。
(´・ω・`)「君の過去を洗おうというわけではない。
. ただ、トソンちゃんと同じ記憶喪失者として、
. 話を聞きたいんだ。いいかい?」
最初は、三月は黙っていた。
口を尖らせた姿は、普段冷静な三月と比べると
非常に感情的に見えて、そのギャップが愛らしかった。
三月イナリは、堅い性格ではあるが、顔かたちはとても美しいのだ。
イ(゚、ナリ从「……私は、幼い頃、ある事件に巻き込まれました」
.
- 691 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:08:10 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「確か、かなり大きな事件だったね。警視庁、県警と、警察がいくつも動いて」
イ(゚、ナリ从「人伝(ひとづて)に聞いた話では、相手は凶悪な連続殺人犯で、
最後の犯行の際、私は左目に相手の一撃を受けました」
と言って、左目の創(きず)を、手で、覆い隠すようにあてた。
少し、三月のセンチメンタルな一面が見られて、ショボーンは不思議な気分になった。
おぼつかない様子で、三月は語りを続けた。
イ(゚、ナリ从「左目は完全に機能しなくなり、同時に記憶障害を引き起こしてしまいました。目を覚ましたのは一週間後。
病院で、目を覚ますと、目の前には右目に創を持つ人が立っていたのです。彼は自らを警部と名乗りました」
.
- 692 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:09:38 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「警部で隻眼の人間と言えば、僕の知る限り一人しかいない」
イ(゚、ナリ从「はい。三月ウサギ警部です。彼は、私と同じく殺人犯に右目をやられたと言っていました」
(´・ω・`)「でも、いざ目の前に立たれても、それが父親とわからなかった……?」
低姿勢でショボーンは聞いてみた。
三月は対照的に、堂々として応えた。
イ(゚、ナリ从「はっきり言うと、そうです。彼が自分の父など、未だに真かはわからないのです」
(´・ω・`)「記憶は戻らないんだね?」
イ(゚、ナリ从「いつか戻る……。そう信じて過ごしてきました。しかし――」
.
- 693 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:11:25 ID:jhBsMllgO
-
三月が言う前に、ショボーンは「わかった」と言った。
三月は、自分で、口が過ぎたと反省し、俯いた。
(´・ω・`)「トソンちゃんも……そうなる可能性が?」
イ(゚、ナリ从「あり得るのではないのでしょうか」
(´・ω・`)「(……助かってくれよ)」
ショボーンは、ポケットのなかでぐっと握り拳をつくった。
すると、中にキャンディーが入ってあるのに気づき、
ひとつとって、「糖分も必要だぞ」と言い、三月に与えた。
「仕事中なので」と即答で断られたが、ショボーンは強制はしなかった。
.
- 694 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:13:22 ID:jhBsMllgO
-
−10−
図書室は、相変わらず鑑識が動き回っていた。
司書室の扉の指紋は採取し終えていたので、次は図書室の指紋を採取していた。
司書室からショボーンと三月は室内に入り、鑑識でごった返す狭い司書室を抜けて図書室に入った。
中に進んでいくと、ショボーンのもとに一件、報告が入った。
(`・д・)ゞ「警部、司書室のほうの扉ですが、図書部員やその顧問など、司書関係の人間の指紋しかありませんでした」
(´・ω・`)「名治、真山田さん、狼さんのものもか?」
(`・д・)ゞ「はい。お二人とも、図書室からふつうに入ったとのことですから、おそらくそちらにあるかと」
(´・ω・`)「至急、調べろ。照合が合わない指紋があれば、すぐに僕を呼べ」
(`・д・)ゞ「はッ!」
.
- 695 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:15:55 ID:jhBsMllgO
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そう言って、鑑識のひとりはすぐに作業に戻った。
ショボーンの言った「照合の合わない指紋」とは、都村もしくは犯人のものを指している。
都村の指紋なら問題ないのだが、犯人となると、急遽事件が進展する。
それならまだいい、ショボーンが危惧しているのはそれとはまた別の進展だ。
(´・ω・`)「(指紋が見つからなかった、ということはないよな)」
もし部外者と思わしき指紋が見つからなければ、だ。
犯人は司書の人間で、そうなると更に捜査が必要となる。
しかし、司書の人間ではないのだ、とショボーンは自答していた。
(´・ω・`)「(もしそうなら、トソンちゃんをほったらかしてここから逃げるものか。
. 司書の場合、絶対に現場が図書室とばれちゃあいけないんだ。
. トソンちゃんも同じように下に落とすなりするだろう)」
都村が倒れていたせいで、犯行現場がすぐに特定できたのだ。
それを考えると、犯人が司書とはとうてい思えない。
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- 696 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:18:59 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「(それか、トソンちゃんを始末する前に誰かがきた? でも、そうなると凶器はどこに隠したんだ?
. 狼さんが真山田さんを呼んだのも、近くを通りかかったに過ぎないから、
. ということは狼さんもその場を離れていない。それ以降警察が来るまで
. ずっと二人はここにいたのだから、そうなると、犯人は犯行から現在に至るまで、逃げられないんだ)」
(;´・ω・)「(これが成立しないとなると、犯人は図書関係の人間ではない……つまり)」
(;´・ω・)「やめだ。考えるのはやめよう」
.
- 697 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:20:52 ID:jhBsMllgO
-
ぐったりしたショボーンを見て、三月が声をかけた。
目をしばたたいて、ショボーンは応えた。
(´・ω・`)「司書室も図書室も、扉から指紋を拭き取られた形跡がない以上、
. もし指紋から部外者が割れなかったら、これは大変な事件になる」
イ(゚、ナリ从「どうしてですか?」
(´・ω・`)「根本的に、犯人は、図書に内通している人間ではないからだ」
と言って、ショボーンは今し方自分が行き着いた推理を説明した。
イ(゚、ナリ从「はあ」
(´・ω・`)「それに、犯人が指紋を拭き取らなかったというのも不思議な話なんだ」
イ(゚、ナリ从「まずは報告です。待ちましょう」
(´・ω・`)「そうだな」
そう言って、鑑識の報告を待った。
まず、図書室に潜んだ犯人は、名治がくるのを待った。
来てから、どうにかして血痕を残さず撲殺、三階から地面に投げ捨てた。
そこに都村がきたのは、偶然か、必然か。
犯人は引き続き都村を殴り、始末しようとした。
しかし、運悪く狼が訪れ、投げ落とせなくなった。
.
- 698 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:22:26 ID:jhBsMllgO
-
これが、今のショボーンの推理だ。
しかし、そうだとすると犯人は逃げ出せないし、凶器も隠せない。
図書室全域は隈無く捜査させたため、そのようなことはない。
すると、別の推理ができる。
名治を殺害後、都村を殴った。
狼の姿を見て、犯人は隠れたのではない。
別の、幻のルートから逃げたということだ。
ショボーンが推理していると、後ろから鑑識がショボーンを呼んだ。
(`・д・)ゞ「警部、結果がでました」
(´・ω・`)「報告しろ」
(`・д・)ゞ「はい。司書のもの以外に、狼氏、真山田氏の指紋だけが見つかりました」
その報告に、ショボーンは目をまるくした。
付いていなければならないはずの指紋が、報告になかったからだ。
.
- 699 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:23:36 ID:jhBsMllgO
-
−11−
(´・ω・`)「なんだと? ほかにはなかったのか?」
(`・д・)ゞ「以上で間違いありません。拭き取られた形跡も見あたりません」
(´・ω・`)「……わかった、ご苦労」
鑑識がさがったあと、三月が詳細を聞いてきた。
ショボーンが結果を話すと、三月は首をかしげた。
イ(゚、ナリ从「それが、どうしたのですか」
(´・ω・`)「わからないのかい?」
ぶぜんとして、ショボーンは言った。
(´・ω・`)「……ないんだよ、被害者である、名治氏とトソンちゃんの指紋が」
イ(゚、ナリ从「あ」
三月もようやく気づき、駭(おどろ)いた。
ショボーンの懼(おそ)れていた事態が、起こってしまったのだ。
(´・ω・`)「これでは、殺人も、傷害も、無理じゃないか!」
.
- 700 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:25:24 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「ちょっと待ってください」
(´・ω・`)「ん」
ショボーンは、三月の待ったを、まるであの男のような言いぐさだな、と胸中で軽く笑った。
彼とは、優秀で、近寄りがたい存在であるということを踏まえると、お互い似た者同士だな、とも思った。
イ(゚、ナリ从「犯人と害者が、一緒に入室した可能性もあります」
(´・ω・`)「僕もそれを考えた。だがしかし――」
イ(゚、ナリ从「退出する際に指紋が付く――というお考えですか」
(´・ω・`)「ああ」
イ(゚、ナリ从「ですが、元から扉が開いていたなら、その点は問題ないです」
(´・ω・`)「犯人が、犯行をするのに扉を開けっ放しですると思う?」
イ(゚、ナリ从「………」
.
- 701 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:26:44 ID:jhBsMllgO
-
三月は、口ごもった。
扉に犯人と被害者、両方の指紋がないというのは、まさに奇々怪々なことなのだ。
犯人が図書部などの人間でもなく、狼、真山田を除外すると、
いったい犯人と害者は、どこから進入し、どこから退出したのだろうか?
また、その際の犯行方法、凶器、都村を置き去りにした理由、様々な謎が生まれる。
イ(゚、ナリ从「窓」
(´・ω・`)「ん?」
ふと思い出したかのように、三月は呟いた。
窓を指さし、ショボーンを見て、三月は言った。
イ(゚、ナリ从「窓から出入りした、とかはどうですか」
ショボーンは「いいね」と相づちを打った。
彼は、のしのしと歩き、窓に近づいた。
(´・ω・`)「調べてみよう」
.
- 702 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:29:07 ID:jhBsMllgO
-
−12−
窓から外装を見ると、おもしろいことがわかった。
配水管か排水管かは定かでないが、それと思わしき太いパイプが
取り付けられているのだが、それのふとさは直径三十センチはあったのだ。
人が通る分には問題のないふとさだった。
また、パイプをたどって、上下につながるパイプを上り下りすれば、
四階に行ったり、若しくは二回に行ったりできそうだった。
図書室の丁度真上に位置する部屋は家庭科の調理室、真下に位置する部屋は社会科教室だ。
図書室の右隣には、PTAや生徒会が使う会議室で、反対側に行くと階段の踊り場にたどり着く。
もしかしたら、犯人は都村を傷害後、狼に見つかりそうになったため、
ここから上記の三方向に向かい、別の場所に逃げることができたのかもしれない。
それを思うと、検証の価値は十二分にあった。
.
- 703 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:30:07 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「社会科教室及び調理室も調べますか?」
(´・ω・`)「むやみな捜査は控えるよう言われてるんだ」
イ(゚、ナリ从「では、どうすれば」
(´・ω・`)「まあ、待て。今からしなくちゃいけない実験がある」
そう言って、ショボーンは鑑識に話をして、窓の外に降りた。
パイプに乗ると、足を滑らせてしまいそうで、「おっと」と言ってあわてた。
窓の桟に手をかけ、室内にいる三月に、これから自分がとる行動を目に焼き付けておけ、と言った。
イ(゚、ナリ从「どうするのですか?」
(´・ω・`)「ここから別の場所にいけるか、やってみるんだ」
下から全身を吹き抜ける風が、高所にいるという実感をさせた。
トレンチコートがはためき、少し怖かった。
.
- 704 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:31:29 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「ここを踏んで上にいけば……」
(;´・ω・)「うおッ!」
イ(゚、ナリ从「!」
パイプを取り付けている金具に足をかけたが、体重を載せたところ、急にパイプが断末魔をあげて軋みはじめたのだ。
これではまずいと思い、すぐにパイプの上に降りた。
金具は錆がひどく、老朽化していたので、もし上に逃げたとすると、金具が耐えられそうになかった。
.
- 705 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:34:27 ID:jhBsMllgO
-
(;´・ω・)「………上は危ないな」
(´・ω・`)「下は……」
パイプを辿って下に向かったと考えて、パイプを見ていくと、やはり金具が老朽化していた。
上に上るよりかは幾分かは楽そうだったが、それでも難しそうだった。
(´・ω・`)「(難しいな)」
踵を返し、今度は横方向にと、会議室のほうへ進んでいった。
三月の視界からショボーンが見えなくなり、彼女は少しそわそわした。
ショボーンは少し抜けているところがある。
落ちたりでもしたら、大変なことだ。
下にいた警官はいまはもういないので、誰も受け止める者はいない。
しかし、それは杞憂に過ぎなかった。
ショボーンがひょっこりと顔を出したのだ。
.
- 706 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:36:05 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「……」
(´・ω・`)「会議室の前まではいけたけど、窓から一メートルほど手前で
. パイプが行き止まりになったから、中に進入するのは無理だ」
イ(゚、ナリ从「………」
(´・ω・`)「どうした?」
イ(゚、ナリ从「あ、いえ、なんでも」
「どっこいしょ」と声をかけ、ショボーンは図書室に上がり込んだ。
砂埃のついた壁に服を擦っていたため、ショボーンの服は少し黒ずんでいた。
それをはたいて、彼はパイプからの逃走ルートの現状を三月にも伝えた。
(´・ω・`)「ここから外に逃げ、姿を隠すのだけはできるけど、図書室からはどこにも逃げられないよ」
イ(゚、ナリ从「では、逃走ルートははじめからなかった、と」
(´・ω・`)「あのおおきな木には移れたけどねぇ」
イ(゚、ナリ从「木?」
.
- 707 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:37:34 ID:jhBsMllgO
-
ショボーンは、図書室から見える、近くに植えられた大きな木を見た。
真冬なのに青々とした葉がついており、ほかの枯れ木と比べて明らかにこの木だけが浮いていた。
その木からとってきたであろう葉を一枚、三月に見せた。
やや硬い葉で、芋虫の餌にはならなさそうだった。
(´・ω・`)「冬なのに、木ってね。珍しい」
イ(゚、ナリ从「あれは確か、世界樹ですね」
(´・ω・`)「世界樹?」
.
- 708 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:39:23 ID:jhBsMllgO
-
−13−
イ(゚、ナリ从「警部は、神話の、ユグドラシル……『世界樹』をご存知ですか?」
(´・ω・`)「神話のほうは、名前だけ」
イ(゚、ナリ从「昔、この国でも最北端に位置する地域、キタコレにてこの木が見つかったと聞きます。
極寒の地、キタコレの、しかも冬だというのに、青々とした葉をつけていたのが、とても神秘的だったそうです。
くわえ、樹齢何百年も生きることから、当時の人々は神話になぞって『世界樹』と名付けたようですね」
(´・ω・`)「……」
(;´・ω・)「神話関係ないじゃん!」
イ(゚、ナリ从「私に言われましても」
三月に、その世界樹の説明を受けて、ショボーンはもう一度窓の外にそびえる世界樹に目をやった。
三階部分にまで幹が見えることから、ずいぶん大きく見えるが、ほんとうはまだまだ大きく育つのだろう。
.
- 709 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:41:00 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「あそこから木登りのように降りれないかな」
イ(゚、ナリ从「難しいでしょうね。掴む場所もないし、足をかける場所もない。幹の表面に、刃物の跡も残っていない。
しかも、誰かに見つかりやすいため、リスクが高く、犯罪者の心理に適っていません」
(´・ω・`)「じゃあ、幻のルートはなかった、ということか」
ショボーンは露骨に肩をすくめ、ため息をついた。
脱出ルートがなかったことは、犯人は都村を始末せず
逃走したこととなり、司書関係の人間ではないことを指す。
これでは、犯人を割り出すのは難しくなった。
なぜなら、図書室と司書室の扉には、司書関係の人間と狼、真山田の指紋しかなかったからだ。
.
- 710 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:42:05 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「まいったな……これじゃあ密室同然じゃないか」
イ(゚、ナリ从「もっと単純だったのでは?」
(´・ω・`)「ん?」
イ(゚、ナリ从「犯人が、目撃者というケースです」
(´・ω・`)「……そうなりますぅ?」
イ(゚、ナリ从「そうなります」
三月はきっぱりと言った。
ショボーンは対照的に、漠然と応えた。
犯人が狼と真山田のうち片方だけとなると、立証は簡単そうだが、
共犯だと、立証は物証だけしか頼りにならないから、面倒なのだ。
ショボーンは、司書室で待機している狼と真山田に、話をうかがいに行った。
.
- 711 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:43:28 ID:jhBsMllgO
-
−14−
( ´ー`)「ぼくのアリバイ、ですか」
(´・ω・`)「ええ」
真山田は、頭を掻いた。
いずれ自分にも疑いの目がかかると思っていたが、
それが、自分が思っていたよりも早かったからだ。
リi、゚ー ゚イ`!「アリバイって?」
イ(゚、ナリ从「アリバイとは、現場不在証明です。
四時半頃、もといあなた方が現場を訪れるまでにとっていた行動をお教えください」
リi、゚ー ゚イ`!「ほえぇ……」
三月が、丁寧に説明を施した。
狼も、急にアリバイを求められ、戸惑っていた。
すると、真山田が先に応えた。
.
- 712 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:46:36 ID:jhBsMllgO
-
( ´ー`)「もともと、ぼくは補習を請け負ってたのですよ。
北館の教室で教えていたのですが、復習用のプリントを
取りにいこうと本館三階の数学準備室に向かって、
その帰りに、狼先生に呼ばれまして」
そう言って、近くの机の上に置いていたかごに指をさし、「これが例のプリントです」と言った。
何種類もあるアルファベットが、ショボーンの目を刺激した。
それが十枚弱ある。
おそらく、補習を受けていた生徒は七、八人程度だろう。
このことには、偽りはなさそうだった。
だが、この程度ではアリバイとしては弱かった。
(´・ω・`)「では、その生徒に聞けば?」
( ´ー`)「はい。といっても、数学準備室でだいぶ時間を喰ってしまったので、時系列は多少ずれますが」
(´・ω・`)「はあ。では、犯行時刻は、廊下を歩いていたか、数学準備室にいたかですかね」
( ´ー`)「はい。ただ、数学準備室にはほかに誰もいなかったので、証明はちょっと……」
.
- 713 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:48:05 ID:jhBsMllgO
-
(;´・ω・)「(今回の犯行は、極端な話、一分もあれば充分に行えるんだ。
プリントをとった帰りにでも、殺せる。
この程度じゃ、アリバイにはならない……。)
では、そちらは」
リi、゚ー ゚イ`!「受験科目に生物を選んでいる生徒に、みっちり知識を叩き込んだあとです」
(´・ω・`)「と、言うと?」
ショボーンが促すと、狼は流暢に答えた。
心なしか、眼が輝いていた。
リi、゚ー ゚イ`!「週末に、多くの大学での、最終の受験が待ちかまえているのです。
放課後も使い、生徒に生物を、また要望があれば地学等も教えています。
私、担当科目、毎年のように替わりますから」
と言って、照れくさそうな笑顔を見せた。
この言葉にも、偽りはなさそうだった。
.
- 714 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:49:28 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「では、今日も?」
ショボーンが言葉を濁して訊くと、狼は少し狼狽えた。
ショボーンは「おや」と思った。
リi、゚ー ゚イ`!「今日は、その。四時で切り上げて……」
(´・ω・`)「ほほう。それはなぜですかな?」
リi、゚ー ゚イ`!「コピーしてたはずのプリントが、なくなってたんですよ。
教科書の範囲外の要点を押さえるプリントだから、なくては補習ができないため――」
(´・ω・`)「……なくなった?」
リi、゚ー ゚イ`!「原板は家だから、コピーもできなかったので。
職員室か生物準備室を捜せば、ひょっこり出てくるかもですが……。
あ、そうだ、警部さんも捜していただけませんか?」
(;´・ω・)「結構です。じゃあ、四時半頃のあなたは?」
.
- 715 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:51:07 ID:jhBsMllgO
-
リi、゚ー ゚イ`!「半泣きのまま、プリントを捜してました。
いや、ぼろぼろに泣いてたなあ」
(;´・ω・)「は、はぁ……」
言われてみれば、狼の目尻のほうに、うっすらと涙の跡が見えた。
本気で捜していたのだなとは思えたが、それでもアリバイとしては弱かった。
ショボーンは礼を言って、司書室をでた。
今の彼は、かなり難しい顔をしており、隣にいる三月が彼に畏怖の念を抱いていた。
.
- 716 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:53:50 ID:jhBsMllgO
-
−15−
(´・ω・`)「妙だ」
イ(゚、ナリ从「どうされました?」
(´・ω・`)「目撃者が疑われるというのはよくあるケースだ。
. もし犯人が目撃者だとすると、犯人もそれをわかっているはずなんだ。
. なのに、二人ともアリバイがないとなると、あの二人は犯人じゃないのかもしれんな」
イ(゚、ナリ从「強固なアリバイほど崩しやすいですが、あやふやなアリバイほど崩せないものはないですしね」
(´・ω・`)「ああ」
二人は図書室をでて、ショボーンは腕を組みながら廊下を行ったり来たりしていた。
眉をひそめ、頭の中で、今回の事件の内容を整理しているのだ。
それは、言い換えれば、数々のちいさな状況証拠の末端をつなぎ合わせ、
か細くてもいいから、なにかロジックの繋がりを求めているのだ。
だが、ロジックを追うには、なにかが足りなかった。
ショボーンにいらいらが募りはじめた頃、三月の電話が鳴った。
初期設定のまま変更していない、シンプルな着信音だった。
.
- 717 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:55:01 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「三月です。……ああ、ご苦労」
二、三言話すと、三月は電話をきった。
部下との通話のようで、なにか報告を受けたようだった。
電話をポケットに入れると、彼女はショボーンに走るよう促して、中庭に向かった。
ショボーンは、報告の内容が、うっすらと掴めた。
それがいいことか悪いことかは、わからなかったが。
(´・ω・`)「トソンちゃんが?」
イ(゚、ナリ从「ええ。思い出したことがある、と」
(´・ω・`)「なるほど。急ごう」
(´・ω・`)「(……なんで僕に電話しないんだ!)」
階段を駆け下りながら、ショボーンはそう思った。
.
- 718 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:56:57 ID:jhBsMllgO
-
−16−
噴水がきれいな、中庭にでると、やはり寒かった。
トレンチコートを着込み、ショボーンは噴水前のベンチに歩み寄った。
そこには、稚内と、病人の姿の都村がいて、都村も、立っていた。
(´・ω・`)「報告しろ」
( ><)「彼女が、頭が痛いというので、どうしたのかと聞くと、
なにやらうっすらと思い出したことがあるみたいなんです」
(´・ω・`)「トソンちゃん?」
都村を見ると、先程までとは違い、きりっとした、まじめな顔になっていた。
この顔だけ見ると、記憶喪失者とはとうてい思えなかった。
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「どうしたんだい? 思い出した?」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「私、図書室に行った」
(´・ω・`)「!」
.
- 719 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 18:59:31 ID:jhBsMllgO
-
都村は、ゆっくり言った。
自分の身体を抱き、続けて
( 、 トソン「寒い。図書室のなか、寒い」
(´・ω・`)「さ……寒い?」
(゚、゚トソン「図書室には、だれもいなかった。
. だから室内から司書室に行こうとした」
(´・ω・`)「(待て、報告にトソンちゃんの指紋は――)」
廊下と繋がる図書室、司書室の扉、及び二つを直接つなぐ扉のどれにも、
都村の指紋はなかった。しかし、都村は開いたと言っている。
(゚、゚トソン「開いた瞬間――」
(´・ω・`)「瞬間?」
(゚、゚トソン「……」
( 、 トソン「うう……」
(´・ω・`)「無理はしなくていい。思い出せないなら、そう言っていいよ」
そこで、出会い頭に殴られたのだろう。
都村は、当時のことを思い出したのか、頭を押さえ、少し悶えた。
ショボーンはすぐに彼女をなだめた。
.
- 720 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:01:27 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「図書室には、ひとりだった?」
(゚、゚トソン「………えっと」
(゚ー゚トソン「うん。ひとり」
イ(゚、ナリ从「そう」
(;´・ω・)「ま、待て。
(データと食い違いすぎるぞ)」
イ(゚、ナリ从「はい?」
(´・ω・`)「戻るぞ。現場を見直す」
イ(゚、ナリ从「はい」
三月が返事をすると、都村が心配げに
(゚、゚トソン「私は?」
(´・ω・`)「トソンちゃんも、よかったらついてきて」
(゚ー゚トソン「………はい!」
.
- 721 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:02:22 ID:jhBsMllgO
-
都村は、とびきりの笑顔で、応えた。
それを見て、ショボーンは都村の手をひいて、一緒に駆けだした。
三月も、彼女のスピードに合わせた。
( ><)
( ;><)「え、僕は!?」
遠くのほうで、稚内の声が聞こえた。
しかし、ショボーンは「知るか!」とだけ言って、彼を置いてけぼりにした。
.
- 722 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:03:20 ID:jhBsMllgO
-
−17−
三月が、図書室にいる鑑識のひとりを捕まえ、話を聞いた。
鑑識は三月の美貌に見惚れるも、すぐにはっとして応えた。
(`・д・)ゞ「はい。確かに、三つの扉全てを調べましたが、都村氏の指紋は見つかりませんでした」
イ(゚、ナリ从「拭き取られた跡もだな?」
(`・д・)ゞ「はい。間違いありません」
イ(゚、ナリ从「……とのことです」
(´・ω・`)「……妙だ」
ショボーンは、腕を組んで、考えた。
都村が嘘を言ったようには見えなかったし、そもそも彼女が嘘をつく理由はどこにもない。
記憶喪失しているのだから、つくはずもないのだ。
.
- 723 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:04:51 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「(いや、記憶喪失しているからこそ、なにか記憶違いをおかしているかもしれないんだ)」
記憶を失う前の、ある二つの場面での出来事が一つに重なり、
いまのように、現実と矛盾したのかもしれない。
そう考えると、都村の記憶は、まるであてにならないのだ。
と、ショボーンは、真っ先にこの結論に至った自分を、悲しく思った。
イ(゚、ナリ从「ほんとうに、ここを開いた?」
(゚、゚トソン「たぶん……」
(´・ω・`)「トソンちゃん、ちょっとここをうろちょろしてみなよ。なにか思い出すかも」
(゚、゚トソン「……うん」
.
- 724 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:05:49 ID:jhBsMllgO
-
都村は、言われるがまま、図書室を散策しはじめた。
ショボーンは、それほど現場保存を徹底しない刑事のため、
別にたとえ彼女が本に触れようが、さほど気にしないのだ。
それよりも、三月はショボーンの真意に気づいた。
イ(゚、ナリ从「人払いをしてまで言いたいことは、なんでしょう」
ショボーンが三月に言おうとしたことは、都村の記憶に関するものだ。
言及される側としては、おもしろくないことこの上なしだろう。
脳に障るかもしれないことを配慮して、ショボーンは都村に
聞こえないように、彼女に散策を勧めたのだ。
それを、三月は一瞬で見抜いた。
.
- 725 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:06:33 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「この扉を開いた瞬間、殴られた。彼女の記憶では、そうだ」
イ(゚、ナリ从「しかし、気のせいでしょう。指紋がありません」
(´・ω・`)「発想を変えるんだ。気のせいでは、この証言は生まれない」
イ(゚、ナリ从「と、仰ると」
(´・ω・`)「この証言で、確実にわかることがひとつ、あるんだ」
ショボーンは両手でピースをつくって、ニッと笑った。
彼がこうする時は、決まってなぞなぞを出すときだ。
.
- 726 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:07:54 ID:jhBsMllgO
-
(´・ω・`)「ここでクイズ。トソンちゃんの
. 『図書室から司書室に向かおうと扉を開いた瞬間、出会い頭に殴られた』
. という証言から、実際にはなにがあったのか、わかることはなんだと思う?」
イ(゚、ナリ从「実際には……というと?」
(´・ω・`)「彼女は、記憶違いを起こしている。それは、指紋の件からして、間違いない。
. では、彼女の身に関して、ほんとうはなにが起こったんだと思う?」
三月は、ショボーンの言っている意味がよくわからなかった。
記憶違いを起こしている都村は、なにかを勘違いしているため、証言を鵜呑みにはできない。
しかし、証言のある一部分だけは、紛れもない事実を述べている。
ショボーンは、それを答えろ、と言っているのだ。
.
- 727 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/24(土) 19:09:24 ID:jhBsMllgO
-
イ(゚、ナリ从「図書室、司書室というのは記憶違いです」
(´・ω・`)「だから、図書室の扉を開いた瞬間殴られた、これは違う」
イ(゚、ナリ从「では……?」
(´・ω・`)「トソンちゃんはどこかの#烽開いた瞬間に殴られたんだ。
. そこが、ほんとうの殺人現場だったんだ!」
.
- 734 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:06:22 ID:ESs.Bz4MO
-
−18−
イ(゚、ナリ从「なるほど」
(´・ω・`)「それは隣の会議室かもしれないし、どこかのトイレかもしれない。
. とにかく、そこで扉を開いた瞬間に、殴られたんだ」
イ(゚、ナリ从「では、校内全域を捜せば――」
三月が言いかけたのを、ショボーンはとめた。
苦い顔をして、彼は続けた。
(´・ω・`)「無理なんだ。むやみに捜査すると、上の人のかんに障る。
. 捜査に踏み出すには、なにか納得されるような根拠がいる」
イ(゚、ナリ从「……そう、ですか」
(´・ω・`)「確実なのは、トソンちゃんが思い出してくれることだが――」
(´・ω・`)「……待てよ?」
イ(゚、ナリ从「どうしました?」
ショボーンの顔に変化が見られた。
(´・ω・`)「ひとつ、気がかりなことを思い出してね」
イ(゚、ナリ从「なんでしょう」
(´・ω・`)「彼女の証言を思い出してよ」
イ(゚、ナリ从「扉を開いたら――」
(´・ω・`)「違う違う。もっと、前。
. 彼女は、不思議なことを言ったんだ」
.
- 735 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:07:02 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「―――寒い≠チて、ね」
( 、 トソン『寒い。図書室のなか、寒い』
(´・ω・`)『さ……寒い?』
.
- 736 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:08:05 ID:ESs.Bz4MO
-
都村は、回想の際、図書室の気温に言及した。
だが、ショボーンはそれをずっと怪訝に思っていたのだ。
なぜなら
(´・ω・`)「図書室は、というより、校内全域は、どこも暖房がかかっているはずなんだ」
イ(゚、ナリ从「それも記憶違いでは?」
ここが公立学校なら、あるいは異なったかもしれない。
しかし、ここは、違う。
私立の学校で、部屋のほとんどには空調設備が備わっている。
図書室であれ、教室であれ、室内にいれば寒いと思うことはないのだ。
三月の当然の推理に、ショボーンは賛同しなかった。
.
- 737 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:09:19 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「この証言には、ふたつの問題点がある」
イ(゚、ナリ从「ひとつは、場所の問題ですね」
(´・ω・`)「そうだ。仮に図書室で寒さを感じたのなら、図書室で窓を開けていないとだめだ。
. しかし、それだと犯人はトソンちゃんを下に突き落とす機会があった、ということ。
. なのに、犯人はトソンちゃんを始末していない。寒さを感じたのは、少なくとも図書室じゃないんだ」
イ(゚、ナリ从「では、もうひとつは?」
(´・ω・`)「この校内で、寒さを感じる場所が、室外しかない、ということだよ」
.
- 738 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:12:12 ID:ESs.Bz4MO
-
−19−
(´・ω・`)「しかも、あの言いぐさでは、一瞬だけ外にいたとは思えない。
. 少なくとも一分は、寒さを感じていたような言いぐさだ」
イ(゚、ナリ从「でも、彼女は――」
(´・ω・`)「殴られるより前は、通常の思考なんだから、意味もなくじっと寒いところにいるはずがない。
. ということは、殴られたあとに、寒いところにいたと考えるべきなんだ」
イ(゚、ナリ从「待ってください、彼女は図書室に横たわっていたはずですし、
図書室内では、このように暖房もかかっているのですよ」
耳をすませば、空調機が温かい風を吐いているのが聞こえる。
図書室全域の室温を均一に上げるため、風向はあちこち変わる。
そして、問題だが、この暖房は生徒が自由に触れるものではないし、
犯人に言わせても、わざわざ暖房を切る意味は全くない訳である。
ということは、都村は殴られてから狼と真山田に介抱されるまでの間、
図書室とは違う、どこか寒い場所にいた、ということになるのだ。
.
- 739 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:13:27 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「………もしかしたら、それが今回の事件だったのかもしれないな」
イ(゚、ナリ从「今回の、というと?」
(´・ω・`)「トソンちゃんの件だよ。
. この、トソンちゃんの寒い≠フ真意がわかれば、事件は解決するはずなんだ」
イ(゚、ナリ从「警部はどうお考えですか」
(´・ω・`)「データが足りないな」
口を尖らせて、ショボーンは言った。
解決は目の前だと言うのに、なにかがショボーンの
行く手を阻んでいて、それがもどかしかった。
なぜ、都村は感じるはずのない寒さを感じたのか。
.
- 740 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:20:10 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「(考えろ……。トソンちゃんは図書室に入り、司書室に向かった。
. そこで、扉を開いた瞬間に、殴られて……)」
(;´・ω・)「(違う違う。少なくとも図書室では襲われてないんだった。
彼女は、どこか別の場所で襲われて、そこから……そこから……?)」
(;´・ω・)「そこから……移動させられた?」
イ(゚、ナリ从「?」
ショボーンが、ぼそっと独り言をつぶやいた。
聞き取れなかった三月が振り向くと、ちょうどショボーンの後ろのほうに都村が見えた。
うろちょろしていて、きょろきょろしている。
彼女は、鑑識に話しかけられると、笑顔で返していた。
そして、彼女が踵を返したとき、彼女の身体からなにかが落ちるのを、三月は見た。
.
- 741 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:21:30 ID:ESs.Bz4MO
-
(;´・ω・)「なぜだ……犯人は、なぜ?」
イ(゚、ナリ从「(あれは……なんだろう)」
三月が、その都村の身体――もしくは、着ている服――からはらりと
落ちたものに気をとられ、ショボーンをほったらかして、それを確かめにいった。
都村も三月が近寄るのに気がついて、笑顔で三月に挨拶をした。
(゚ー゚トソン「どうされました?」
イ(゚、ナリ从「これ……」
手袋をつけ、それを拾った。
やや硬い質感の、葉っぱだった。
それを見て、都村は首をかしげた。
(゚ー゚トソン「なんですか、それ」
イ(゚、ナリ从「さあ。君の身体から落ちたのだぞ」
(゚、゚;トソン「え? うそだ」
イ(゚、ナリ从「これは――世界樹の葉?」
.
- 742 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:22:44 ID:ESs.Bz4MO
-
−20−
三月は、図書室からすぐそこに見える大木、世界樹を見た。
間違いない、この葉っぱはあそこにある世界樹のものと同一だ、と三月は確信した。
しかし、なぜ葉がそこに、しかも都村の身体から見えたのか、それはわからなかった。
イ(゚、ナリ从「つむ……おほん。トソン、ちゃん」
(゚ー゚トソン「はい?」
イ(゚、ナリ从「まさかと思うが、君、稚内と一緒に木登りでもした?」
(゚、゚;トソン「ま、まさか!」
イ(゚、ナリ从「(だろうな……)」
稚内が付き添っていたらあり得そうだったが、まあ病人が木を登るわけあるまい。
すると、三月はもしやと思い、都村を奥に誘った。
.
- 743 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:24:02 ID:ESs.Bz4MO
-
イ(゚、ナリ从「すまない、カーディガンをとってくれないか?」
(゚、゚トソン「は、はい」
病人の着用する、清潔な服の上から羽織られた、
紺のカーディガンを指して、三月は言った。
都村は言われた通りカーディガンをとった。
首をかしげる都村の、服に手をかけた。
イ(゚、ナリ从「無礼を承知で頼むが、ちょっとだけ脱いでくれ」
(゚ー゚トソン
(゚、゚;トソン「え!?」
.
- 744 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:27:04 ID:ESs.Bz4MO
-
周りには、少なくなったとはいえまだ鑑識がうろちょろしている。
皆、成人の男性だ、女子高生の都村が抵抗をおぼえるのもしかたがない。
イ(゚、ナリ从「語弊が生じたか。
ただ、ちょっと服を揺すってくれ。
まだ葉っぱが付いているかもしれない」
(゚、゚;トソン「こ……こう?」
都村は恥じらいながら、ちょこんと服をつまみ、上下に揺すった。
少しすると、はらりと、葉が足下に落ちたのが見えた。
下着か、インナーか、定かではないが、世界樹の葉が付いていたようだ。
その葉を拾い上げ、三月はますます怪訝な顔をした。
.
- 745 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:28:16 ID:ESs.Bz4MO
-
イ(゚、ナリ从「これはいったい……」
(゚、゚;トソン「私、病院でこの服に着替えたんですが」
イ(゚、ナリ从「いや、葉っぱはこの服の内側に付いている。
病院に搬送される前に付いた、とみたほうがいいだろうな」
イ(゚、ナリ从「ただ……」
イ(-、ナリ从「(それだと、事件当時、または事件直後の出来事だ。なぜ、世界樹が関連する?)」
三月は少し考えていたが、いくら思考に耽っても、一定の結論には至らなかった。
とにかくショボーンにこのことを伝えようと、葉を持ち、都村と一緒にショボーンのもとへ戻った。
.
- 746 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:30:10 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「ん?」
イ(゚、ナリ从「あの世界樹の葉ですが、都村さんも持ってたのです。
いや、たまたま身体にくっついていた、ですが」
(´・ω・`)「なんで?」
イ(゚、ナリ从「病院に搬送されるより以前に付いたのだけは確かです」
(´・ω・`)「ふつう、そんなのが付いてたら気づくな。
. それが付いてた、ということは、それは事件と同時に付いたと見ていいな」
イ(゚、ナリ从「私もそこまでは考えたのですが、いったい、なぜかは――」
すると、ショボーンは「あっ!」と大きな声を出した。
都村と三月は同時に肩をびくつかせ、ショボーンを見た。
近くにいる鑑識に聞こえるように、ショボーンは言った。
そのときのショボーンの姿だが、三月の目には、立派な刑事として映っていた。
(´・ω・`)「手の空いている者は、僕についてこい。
. 指紋の照合の用意をして、だ!」
.
- 747 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:31:17 ID:ESs.Bz4MO
-
−21−
そう言って、ショボーンは急に駆け出した。
そのため、三月と鑑識は驚いて、慌てて彼のあとに続いた。
足の速い三月は、すぐにショボーンと並んだ。
息を弾ませながら、三月はショボーンに聞いた。
イ(゚、ナリ从「どうしたのですか」
(´・ω・`)「わかったんだ。トソンちゃんが、事件後ほんとうにいた場所が!」
イ(゚、ナリ从「ほ、ほんとうの?」
(´・ω・`)「世界樹の根本を調べるぞ。それで事件は解決する」
イ(゚、ナリ从「は……はい!」
このときに三月の目に映ったショボーンの姿は、とても格好良かった。
.
- 748 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:33:38 ID:ESs.Bz4MO
-
冬でも枯れない木として有名な世界樹だが、さすがに落ち葉も多かった。
ショボーンは、この落ち葉に付いてある指紋を片っ端から調べていけ、と指示した。
だが、枚数として、ざっと百、二百枚は超えている。
この寒さの中、そんな作業を強いられ、鑑識たちは狼狽えたが、それを見てショボーンは喝をいれた。
(´・ω・`)「僕の推理が正しければ、この落ち葉のなかに必ず犯人の指紋がある。
. 犯人を追い詰める、唯一の証拠かもしれないんだ! 気を抜くな!」
(`・д・)ゞ「は……はい!」
(´・ω・`)「散れ!」
.
- 749 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:35:54 ID:ESs.Bz4MO
-
鑑識の士気をあげ、ショボーンは踵を返した。
三月は「おや」と思い、彼にどうしたのかと聞いた。
イ(゚、ナリ从「世界樹の根本を調べるのでは?」
(´・ω・`)「まだ調べてない場所がある。そこに残りの鑑識を全員動員させる」
イ(゚、ナリ从「全員……」
荒っぽいやり方だな、と三月は思った。
図書室は調べなくていいのか、と聞くと、ショボーンは即答した。
(´・ω・`)「あそこはあれ以上調べてもなにもでない。
. おい、おまえ!」
(`・д・)ゞ「はい」
ショボーンは、近くを通りかかった鑑識を捕まえた。
彼は慌てることもなく、ショボーンの指示を仰いだ。
(´・ω・`)「残りの鑑識を全員連れて、四階、ちょうど調理室の辺りを調べろ。
. そこで凶器になりそうなものは全て、血液反応を調べるんだ」
(`・д・)ゞ「はい!」
イ(゚、ナリ从「……四階?」
(´・ω・`)「いくよイナリちゃん。僕らも行くんだ、ほんとうの現場に」
.
- 750 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:37:18 ID:ESs.Bz4MO
-
−22−
四階、丁度図書室の上に位置するところへと向かった。
報告では調理室と聞いたが、そこは厳密に言えば調理準備室だった。
調理室というだけあって、凶器になりそうなものはかなりあった。
包丁にはじまり、ピック、ピザカッターなど、刃物ならいくらでもあるのだ。
ただ、被害者である名治も都村も、鈍器のようなもので殴られている。
鈍器に限って言うと、そこには凶器になり得そうなものは少なかった。
(´・ω・`)「調理準備室の真下は……」
調理準備室の窓から顔をのぞかせ、真下を見た。
風が自分の顔を攻撃し、冷たかったが、そんなことは今は気にならなかった。
それよりも、ショボーンがガッツポーズを見せたのは、
丁度目の前に、世界樹がそびえ立っていたからだ。
.
- 751 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:40:08 ID:ESs.Bz4MO
-
続いて、ショボーンは目測で窓の大きさを調べた。
窓はガラス製による横開きのもので、大きさは総合して二メートルはある。
(´・ω・`)「やはり……」
(`・д・)ゞ「警部!」
調理準備室の扉を強く開き、続けて鑑識が声を張り上げた。
待ってましたと言わんばかりにショボーンが応えた。
鑑識の顔色はとてもよかった。
(´・ω・`)「お。見つかったか?」
(`・д・)ゞ「ええ。消火器の角に、うっすらと。これが凶器でしょうか?」
(´・ω・`)「その消火器の、重量は」
(`・д・)ゞ「割と重たいです。まあ、この程度なら子どもでももてますが。
. しかし、遠心力を付ければ、殺害など簡単と思われます」
(´・ω・`)「指紋はなかったんだな」
(`・д・)ゞ「ええ」
.
- 752 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:41:27 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「……よし。よく見つけた。ご苦労だったな」
(`・д・)ゞ「いたみいります」
報告を終え、鑑識は退室した。
未だに現状を把握しきれていない三月が、
ショボーンの顔を見ると、彼のほうは実に満足げな表情をしていた。
(´・ω・`)「イナリちゃん、いくよ」
イ(゚、ナリ从「今度はどちらへ?」
(´・ω・`)「決まってるじゃない」
三月に歩くよう促し、一緒にショボーンも歩き始めて、同時に言った。
(´・ω・`)「犯人を捕まえにだよ」
.
- 753 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:42:21 ID:ESs.Bz4MO
-
−23−
時折、三月の目の前に浮かぶ、地獄絵図のような光景がある。
それはいつの記憶かもわからぬ、遠い日の記憶である。
左目から見える光景は、真っ赤だ。
右目から、かろうじて見えた光景がある。
生命の灯火が消えたあとも、決して娘を離さず抱擁する母。
右目の近くを斬られ、血を流し、気を失った、姉か妹かもわからぬ、己の姉妹。
そして、絶えず声をかける、父の姿。
そのときの父の姿と、ショボーンの今の姿が、どこか、重なって見えた。
犯人を追い詰める時のショボーンの顔は、どことなく、惹かれるなにかを感じさせたのだ。
.
- 754 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:44:56 ID:ESs.Bz4MO
-
無口になった三月を連れて、ショボーンは司書室に向かった。
狼と真山田の二人は、呑気に談話をしていた。
その姿を見て、ショボーンは彼らに歩み寄った。
(´・ω・`)「いいですか」
( ´ー`)「はい」
リi、゚ー ゚イ`!「アリバイの話ですか?」
(´・ω・`)「いや、アリバイはいいんだ。……もう」
リi、゚ー ゚イ`!「?」
悲しそうに、言って、ショボーンは俯いた。
そして、ゆっくり後ろに手を回し、ベルトのホルダーから手錠を取り出した。
じゃらじゃらとした鎖の音は、何度聞いても聞き慣れなかった。
その取り出した手錠の意味することがわかって、真山田はぎょっとした。
.
- 755 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:45:48 ID:ESs.Bz4MO
-
( ´ー`)「……もしかして」
(´・ω・`)「お迎えにあがりました」
( ´ー`)「……」
真山田の額に、脂汗がびっしょりと浮かんできたのが見えた。
三月はもしや、と思った。
イ(゚、ナリ从「警部、犯人は――」
(´・ω・`)「――今回は、いたってシンプルな事件でした」
イ(゚、ナリ从「!」
.
- 756 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:46:55 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「図書室で、名治氏を撲殺。現場が図書室であるという事実を隠すために、更に突き落とした。次いで、都村氏が襲われた。
. この、なんの変哲もない事件を解決するのに、たいへんな労力を要しました。それはなぜか?」
( ´ー`)「……」
(´・ω・`)「犯人によって、事実が工作されたからです」
リi、゚ー ゚イ`!「……!」
(´・ω・`)「おわかりですね?」
.
- 757 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:47:44 ID:ESs.Bz4MO
-
ショボーンは、そっと手錠を突き出した。
(´・ω・`)「狼シグン。名治殺害容疑、及び傷害の疑いで逮捕する」
.
- 758 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:48:45 ID:ESs.Bz4MO
-
−24−
ショボーンの言った言葉は、決して大きな声で放たれたものではなかった。
当人に聞こえるよう、つぶやきに近いものだった。
なのに、その言葉は、三月、真山田、そして狼、皆の胸の奥底に、深く、重くのしかかった。
数秒ばかしの静寂が生まれるのも、仕方がないことだった。
リi、゚ー ゚イ`!「……え?」
( ´ー`)「狼…先生?」
(´・ω・`)「異論はあるか?」
ショボーンが聞くと、狼は少したじろいだ。
顔をやかんのように紅潮させ、荒い息遣いで、ショボーンにくってかかった。
.
- 759 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:49:41 ID:ESs.Bz4MO
-
リi、゚ー ゚イ`!「しょ、証拠でもあるんですか?」
(´・ω・`)「証拠じゃない。犯人が、あなた以外にはあり得ないんだ」
(´・ω・`)「第一発見者……だからな」
リi、゚ー ゚イ`!「第一発見者だからって犯人になれば、警察はいりませんよ」
ぶぜんとして狼は言い返した。
かなり熱り立っていて、まさに一触即発と言えるような状態だった。
(´・ω・`)「違うんだ」
リi、゚ー ゚イ`!「はい?」
(´・ω・`)「今回の犯行トリックを使うには、自身が第一発見者になるしかないんだ」
( ´ー`)「え……」
イ(゚、ナリ从「警部には、その犯行トリックがおわかりで?」
(´・ω・`)「ああ」
(´・ω・`)「明かしてやろう、ほんとうの殺人ルートを」
.
- 760 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:53:08 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「ほんとうの殺人現場は、ここ、図書室じゃない。
. 四階の、調理準備室だ」
(;´ー`)「なんですって!? ここじゃないのですか!」
(´・ω・`)「それが、犯人――狼さんの策略です。
. おかげで、ずいぶんと時間を無駄にしてしまったものだ」
リi、゚ー ゚イ`!「どうして調理準備室が殺人現場なんですかっ!」
(´・ω・`)「じゃあ逆に聞こう。現場が図書室であるという根拠は?」
リi、゚ー ゚イ`!「都村さんが倒れていて……」
(´・ω・`)「ほかには?」
リi、゚ー ゚イ`!「……」
リi、゚ー ゚;イ`!「……ぁぁ…」
.
- 761 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:54:45 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「そうだ、図書室が現場だと思った理由はトソンちゃんの有無。
. ……逆に言うと、それだけなんだよ。
. つまり、彼女をあそこに寝かせておくだけで、現場を偽れたのさ」
イ(゚、ナリ从「!」
(´・ω・`)「僕らは、名治さんの一件から、犯人は、図書室が現場であるということを隠したがっていた
. ふしがあったのではないか、と思っていた。だが、実際は逆だった」
(´・ω・`)「犯人は、図書室が現場であるということにしたかったんだ」
(;´ー`)「なぜですか!」
(´・ω・`)「そうすることで、事件を錯乱できる。自分を容疑者からはずせるからです」
.
- 762 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:56:09 ID:ESs.Bz4MO
-
リi、゚ー ゚イ`!「でも、所詮それは独りよがりな推理でしょ!」
(´・ω・`)「ところが、これが見つかると、どうもそう言ってられないんですよね」
と言って、持ってきた、凶器の消火器を見せた。
血は拭き取られていたが、それは、現代の科学力では、いとも容易く発見できる。
指紋も拭き取られていたが、犯人がわかっていれば、それはどうでもいいようなことなのだ。
ショボーンは手袋をはめ、消火器を逆手に持った。
振ってみるだけで、Gが腕の全体にかかるのが実感できた。
(´・ω・`)「これ。四階、調理室前にあった消火器ですが、こいつが凶器です。血液反応がでました」
リi、゚ー ゚イ`!「……」
(´・ω・`)「犯人は、名治さんをこいつで殴り、下に突き落とした。
. 次いで、トソンちゃんを気絶させ、三階に運んだ」
リi、゚ー ゚イ`!「待ってください、警部さん」
狼が、にんまりと笑った。
彼女には、まだまだ余裕があるように思えた。
.
- 763 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:58:26 ID:ESs.Bz4MO
-
−25−
リi、゚ー ゚イ`!「彼女、スリムですが、人間なのだから、消火器に比べるとすごく重いです。米袋を持つのとではわけが違います。
細腕の私が、彼女を抱いて、誰にも見られずに素早く運べると思いますか?」
狼の腕は、確かに女性らしいしなやかなものだった。
消火器を振ることは、遠心力を用いるなり加速させるなりと
なにかと説明がつくが、こればかりはどうしようもなかった。
四十キロを超えるとなれば、数秒は引きずるようにして運べても、
抱きかかえ、そして手早く運ぶのは、彼女には不可能だろう。
腕力、スピード、時間、人目。四つの条件が立ちはだかるのだ。
ところが、ショボーンは狼以上ににんまりと笑った。
.
- 764 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 15:59:39 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「それが、今回の事件で一番の謎でした。
. 彼女の移動ルートが、掴めなかったのです」
( ´ー`)「移動って、抱いて廊下をわたる以外にあるのですか?」
(´・ω・`)「あったのですよ。
. 幻のルート≠ェ」
(;´ー`)「幻……?」
ショボーンは、司書室の窓を思い切り開いた。
冬の冷たい風が吹き込んできて、室内の暖房による熱が逃げた。
そしてショボーンは、前方に見える、世界樹を指した。
(´・ω・`)「信じられないことだが」
(´・ω・`)「犯人は、トソンちゃんをこの樹に投げたんだ」
.
- 765 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:02:21 ID:ESs.Bz4MO
-
リi、゚ー ゚;イ`!「……っ!」
( ;´ー`)「な…投げたって、信じられない!
あなたの話では、確か都村さんを三階に移動させて――」
(´・ω・`)「ここから、窓の外にでて、パイプを伝うと世界樹の枝に乗れるのですよ」
( ´ー`)「!」
(´・ω・`)「いくら四十キロ、五十キロあっても、投げるのは簡単だ。振り子の原理さえあればな」
イ(゚、ナリ从「……まさか」
(´・ω・`)「そう。ここから世界樹に目掛けてトソンちゃんを投げ、単身になった犯人は
. 一人で三階図書室に移動し、パイプを伝ってトソンちゃんを回収した。
. これが幻のルート≠セ!」
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- 766 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:03:04 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「吊すようにトソンちゃんを持ち、壁に体重をかければ、足を踏み外さない限りは回収に成功する」
(´・ω・`)「あとは、彼女を図書室に寝かせて、誰でもいいから目撃者≠連れてきた」
( ´ー`)「!」
(´・ω・`)「あくまで、名目上は『女の子が倒れている。助けてほしい』と言って……」
リi、 ー ;イ`!「………」
.
- 767 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:05:44 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「真山田さんが死体を発見したのは偶然だろうが、それでもいつかは警官が見つけるでしょう。
. そこで、殺人事件発覚だが……狼さん、あなたは、ここで錯覚をねらった」
( ´ー`)「錯覚、とは?」
(´・ω・`)「ふつうに第一発見者となれば、疑いがかかるのは必然だ。
. だが、彼女の場合、違う。彼女が見たのは、倒れているトソンちゃんだ。
. 名治殺害の件については、さほど追究されなかったでしょう」
(´・ω・`)「そして、錯覚とは現場の錯覚です。
. トソンちゃんの件で、現場が図書室であると思われ、図書室が重点的に調べられる。
. 狼さん、あなたはこれをねらったんだ。図書室を調べようが、なにも出てこないんだからね……」
リi、゚ー ゚;イ`!「……」
(´・ω・`)「この犯行は、自身が第一発見者にならないと成立しないんだ。
. すなわち、狼さん」
(´・ω・`)「あなたが、犯人だ」
.
- 768 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:07:38 ID:ESs.Bz4MO
-
−26−
狼は、思わずショボーンから顔を背けた。
時折肩を震わせ、自分で自分を抱いている。
真山田が心配そうに見つめるが、彼女はだんまりとしていた。
ショボーンが、「終わった」と一息ついた時だ。
狼が、吠えた。
リi、゚- ゚イ`!「ちがうっ!!」
(´・ω・`)「違う、とは?」
リi、゚- ゚イ`!「なによ、あなたのへっぽこな推理。証拠のかけらもない!
世界樹を経由した移動ルート? そこを通った、という証拠があるのですか?」
ショボーンは一度口を閉じた。
狼が、熱り立っているからだ。
(´・ω・`)「……ありますよ」
そしてショボーンは、ビニル袋に入った、ある一枚の葉を見せた。
この時期に、青い葉を見せることができるのは、世界樹だけだ。
その葉を、狼に突きつけた。
(´・ω・`)「彼女の服に、付いてましたよ」
リi、゚- ゚イ`!「えっ…」
.
- 769 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:09:52 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「服と言っても、今着ている服ではない。……制服からだ。
. 妙ですね、なぜこのようなところに、世界樹の葉っぱが?」
リi、゚- ゚;イ`!「きっと……付いたのに気が付かなかったのでしょう」
(´・ω・`)「登校中の話なら、確かに合点がいきます。
. ただ、そうだとすると必ずクラスメートがそれに気づく。
. 登校中に付いたものだとすると、おかしいのですよ」
(´・ω・`)「そして、体育の授業があったとして、それでもクラスメートが気づく。
. トソンちゃんの服に世界樹の葉が付いて、誰も気づかないのは放課後だ。
. ……おわかりですね?」
リi、゚- ゚;イ`!「移動の際に付いた……とか言わないでしょうね」
.
- 770 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:11:04 ID:ESs.Bz4MO
-
すると、ショボーンは掌を強くたたいた。
乾いた、おおきな音が狼の鼓膜を揺らした。
(´・ω・`)「その通りですよ。ほかに付くタイミングがないからね!」
ショボーンは、したり顔で言った。
だが、狼は思いのほか動揺していなかった。
リi、゚ー ゚イ`!「待ってください。放課後と言っても、事件は四時半より少し前。
放課後になって、一時間もあるのです。その間に彼女が世界樹の下を歩き、葉が付いたら?」
(´・ω・`)「……」
リi、゚ー ゚イ`!「それが、たまたま今の今まで付いたままだった。それだけです」
(´・ω・`)「………」
ショボーンは、急に黙りだしてしまった。
狼の反論に、異議を唱えようともしない。
狼は、これでショボーンの推理ショーはおしまいか、と安堵した。
.
- 771 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:12:48 ID:ESs.Bz4MO
-
リi、゚ー ゚イ`!「……もしかして、茶番劇はこれでおしまいですか?」
(´・ω・`)「………」
リi、゚ー ゚イ`!「なぁんだ、おしまいかぁ。いきなり犯人扱いしてくるから、びっくりしちゃった」
(´・ω・`)「………」
リi、゚ー ゚イ`!「じゃ、帰っていいですか? 帰って、復習プリント捜さなくちゃ」
(;´ー`)「狼先生……」
リi、゚ー ゚イ`!「やだなぁ真山田先生。私が犯人なわけ、ないじゃないですか」
(´・ω・`)「………」
リi、゚ー ゚イ`!「……はい。では、これで――」
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- 772 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:13:54 ID:ESs.Bz4MO
-
狼が帰路に着こうと、足を踏み出した時だ。
司書室の扉が、いきなり強く開かれた。
ショボーンは「やっときたか」とぼやいた。
(`・д・)ゞ「警部、こちらにおられましたか!」
(´・ω・`)「どうした」
(`・д・)ゞ「差し入れです。とびきりホットな……」
(´・ω・`)「報告しろ」
(`・д・)ゞ「はい!」
ユニークな鑑識は、さっとビニル袋に入った葉を一枚、ショボーンに見せた。
狼はぎくりとした。
嫌な予感しか、しなかったのだ。
まるで、いまから一秒、時が進めば、なにもかも終わってしまう、そのような不思議な気持ちになっていた。
だが、無惨にも、狼のタイムリミットは、定刻通り一秒後に来てしまった。
(`・д・)ゞ「世界樹の落ち葉のうちひとつに、狼シグン氏の指紋が見つかりました!」
.
- 773 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:16:01 ID:ESs.Bz4MO
-
−27−
(´・ω・`)「……あなたは、放課後も、受験生のためにずっと講義を開いてましたね」
(´・ω・`)「つまり、放課後はトソンちゃんとは違い、室外には出ない」
(´・ω・`)「まして、教師であるあなたが、こんな、校舎と塀で囲まれた裏道を歩くはずがない」
(´・ω・`)「仮に、出勤中にたまたま付いたなら、それは払うでしょうから、指紋も付く。
. しかし、その葉が見つかるのは、学校の敷地内でなく、塀を隔てて反対側、一般道路だ」
(´・ω・`)「以降に関しても、あなたは体育教師でもないのだから、外にでるはずがない」
(´・ω・`)「もし、もしですよ。あなたが自身の身の潔白を訴えるなら」
(´・ω・`)「この葉に付いた指紋は、いったい何なのか」
(´-ω-`)「……答えていただきましょう」
.
- 774 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:17:05 ID:ESs.Bz4MO
-
リi、゚ー ゚イ`!「……」
リi、゚ー ゚イ`!「う…嘘だ…」
リi、゚- ゚イ`!「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」
リi、 - イ`!「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
リi、;д;.イ`!「うそだぁぁぁぁぁぁァァァァァぁぁぁっぁあ!!」
狼は、その場に、へなへなと跪いた。
そして、最終的に絶叫した。
それは、野生のオオカミが、孤独を嘆き、夜な夜な遠吠えをするかのように。
彼らのその遠吠えのように、それは、悲観に充ちた、哀しい、彼女の最後の絶叫だった。
.
- 775 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:18:11 ID:ESs.Bz4MO
-
.
- 776 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:19:12 ID:ESs.Bz4MO
-
−28−
狼は、個人的な用件のもと、名治を呼び出した。
名治の専攻である家庭科の、調理室に。
名治が調理室から準備室に入ろうとした瞬間に、消火器で思い切り殴るつもりなのだ。
( )
リi、 - イ`!『(きた!)』
扉が開かれた瞬間に、狼は消火器を振り下ろした。
ほんとうなら、これで終わるはずだったのだ。
彼女が名治を始末すれば、あとはなにも起こらずに済んだ。
.
- 777 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:20:10 ID:ESs.Bz4MO
-
しかし、狼はここで思わぬ誤算が生じていたことに気が付いた。
扉の向こうに立っていたのは、待ち人、名治ではなかったのだ。
(>、<トソン『きゃっ』
リi、゚ー ゚;イ`!『あっ!』
名も知らぬ我が校の女子生徒が立っていたのだ。
誤って殺めるわけにはいかない。
慌てて勢いを殺そうとするも、元から勢いのついていた消火器の威力は落ちなかった。
殺害するまでには至らなかったが、少女は倒れてしまった。
狼はたいへんなことをしてしまった、と、後悔で青ざめた。
.
- 778 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:21:19 ID:ESs.Bz4MO
-
準備室に彼女を運び、安静にさせておくと、調理室に誰かが入ってきたのがわかった。
誰だと思うと、その人は「狼さーん」と、よく通る声で狼を呼んでいた。
しまった、よりにもよって今着いてしまったのか。
狼は慌てた。
計画通り殴り殺すには、扉の前で消火器を構え、出会い頭を討つしかないのだが、
狼は扉の前から離れているので、いま準備室の扉を開けられると、非常にまずいことになる。
名治を殺せないだけでなく、この少女について、様々な尋問を受けるだろう。
リi、 - イ`!『(そうだ)』
狼は、陽動作戦をとることにした。
少女を世界樹に目掛けて投げるのだ。
誤って枝の上には乗らず、そのまま落ちてもいい。
とにかく、名治の注意を世界樹に向けるのだ。
.
- 779 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:22:00 ID:ESs.Bz4MO
-
世界樹の葉が散る音が、うるさく聞こえた。
同時に、どんっと何かが落ちた音も聞こえたので、名治は何事かと思い、窓の外を見た。
そこには、世界樹の上に眠る生徒がいるではないか。
名治はただ事ではないと思い、生徒に呼びかけた。
狼は、今だ、と思った。
ハソ;゚−゚リ『君、だいじょ――』
リi、゚- ゚イ`!『……っ』
ハソ − リ『ぶッ……!』
.
- 780 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:23:41 ID:ESs.Bz4MO
-
狼は、渾身の力を籠め、消火器を振り下ろした。
名治の後頭部を砕き、一撃にして名治の意識は失われた。
だが、問題はここからだった。
名治は、世界樹の枝に横たわっている少女を案じ、窓から身を乗り出していた。
上半身は、窓の外に出ていたと見ていいだろう。
狼は、その後頭部を殴った。
絶命し、身体を支えていた手に力が入らなくなった名治は、重力に従い真っ逆さまに墜落してしまったのだ。
これでは回収はおろか、名治のもとに向かうことさえ難しい。
また、死体を回収しようにも、出血が地面についてしまったのだ、これはさすがに隠しようがない。
そして、少女も回収しなければならない。
気絶した少女があんなところにいるのは、きわめて不自然で、すぐに見つかりそうなものだからだ。
狼は頭を抱えた。
どうしたものか、と。
.
- 781 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:25:30 ID:ESs.Bz4MO
-
すると、この少女を利用した、ある作戦が思いついた。
リi、 - イ`!『(図書室を使えば……)』
この調理室の真下に、図書室が在る。
狼の考えた作戦は、こうだ。
少女を図書室に安置し、自分は「この少女の」発見者を装う。
少女の救済を名目に、誰かに助けを求める。
その誰かは、きっといつかは名治の死体を見つけるだろう。
自然なかたちで、事件を発覚させ、且つ疑いのかからない第一発見者となることができるのだ。
今日が司書のいない日であること、パイプを伝って、世界樹の枝まで向かえることができるのは調査済みだ。
少女を回収し、図書室に寝かせ、自分はあくまで悲劇の発見者として、演じさえすればいい。
狼の、自分のこの作戦は、完璧だった。
.
- 782 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:26:52 ID:ESs.Bz4MO
-
−29−
リi、゚ー ゚イ`!「……その葉っぱ」
(´・ω・`)「これですかな」
リi、゚ー ゚イ`!「私じゃなくて、あの女の子に付いてたの。
真山田先生に警察への通報を委(まか)せたあと、葉っぱが付いてるのに気が付いてね。
とにかく、世界樹を使った移動ルートがばれるわけにはいかなかった。
凶器の消火器も見つかるモトだし」
(´・ω・`)「それで、つい」
リi、゚ー ゚イ`!「ええ。真山田先生を呼ぶときは手袋もはずしたし……。
まさか、葉っぱが致命傷になるなんて、信じられなかった」
(´・ω・`)「……」
.
- 783 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:28:32 ID:ESs.Bz4MO
-
(´・ω・`)「世界樹は、生命の尽きない植物として有名です」
リi、゚ー ゚イ`!「そう、なんですか」
(´・ω・`)「ですが、木というものは、葉を散らさなくてはならない。枯れ木に成ることのない木は、魅力的ではないのですよ。
. 人間も、一緒。潔白を散らさない人間は、いないものだと僕は思ってます。
. 少しばかし葉を散らしてこそ、人間ですから。
. ただ、あなたは散らすものを間違えた。……それだけだったのです」
リi、゚ー ゚イ`!「……」
束の間の静寂が生まれた。
ショボーンも狼も、なにも話さなくなった。
そして、ショボーンが狼に手錠をかけようと近づいた時だ。
いきなり、司書室に誰かが入ってきたのが、その場にいる人間皆、わかった。
.
- 784 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:30:01 ID:ESs.Bz4MO
-
(゚ー゚トソン「先生!」
リi、゚ー ゚イ`!「?」
元気いっぱいの声で、少女、都村トソンがやってきた。
すっかり、体力も万全に戻ったようだ。
ショボーンがぽかんとして見ていると、都村は狼に近づいては
(゚ー゚トソン「チョコの作り方教えてくれるって、家庭科の授業中言ってましたよね。教えてください!」
(´・ω・`)「え?」
ショボーンが言葉を詰まらせた。
イ(゚、ナリ从「確か彼女は、生物専攻の――」
と、三月が言いかけたのを止めたのは、狼だった。
目に涙を浮かべながら、狼はささやいた。
リi、゚ー ゚イ`!「私……といっても去年の話ですが、もともとは、家庭科の先生だったんです」
ショボーンは、彼女に手錠をかけられなかった。
任意同行というかたちで、彼女を、連れて行った。
.
- 785 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:31:15 ID:ESs.Bz4MO
-
.
- 786 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:32:57 ID:ESs.Bz4MO
-
−30−
署に向かった、その帰りのパトカーにて、ショボーンは運転席でハンドルをさばいていた。
隣にいる三月は、事件は終わったというのに、やはり静かだ。
息が詰まったショボーンは、世間話でもしようか、と婉曲に持ちかけたが、拒まれた。
しばらく静寂が続くと、沈黙の均衡を破ったのは、三月のほうだった。
イ(゚、ナリ从「警部」
(´・ω・`)「なんだい」
イ(゚、ナリ从「警部は、あの事件の担当刑事だったんですね」
(´・ω・`)「あの事件というと」
イ(゚、ナリ从「私が記憶を失った、猟奇殺人事件です」
(´・ω・`)「……」
.
- 787 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:34:23 ID:ESs.Bz4MO
-
それは、二十年ほど昔の話だ。
アスキーアート、ラウンジ、アルプス、そしてVIPと、各地で殺人事件が起こった。
警察の捜査により、犯人を特定できたらしいのだが、追い詰める際、警察はミスを犯した。
そのせいで、VIPにて、襲われた家族があった。
結果、その家族の事件が決め手で、犯人をようやく追い詰めた、と捜査資料には綴られている。
その、最後にねらわれた家族というのは、三月の家族だった。
一方で、担当刑事は若かりし日のショボーン刑事である。
三月は、このことが常に頭の中で引っかかっていた。
イ(゚、ナリ从「担当刑事なのだから、私の、記憶を失う以前の、私のことを知っているのではないのですか?」
(´・ω・`)「また、その話か」
イ(゚、ナリ从「話してほしいのです。……お願いします」
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- 788 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:35:24 ID:ESs.Bz4MO
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ショボーンはハンドルをきった。
タイヤの擦れる音に続いて、三月が言った。
イ(゚、ナリ从「……それと。私の父は、ほんとうに三月ウサギなのでしょうか」
(´・ω・`)「……」
イ(゚、ナリ从「違う気がして、ならないのです。事件のこと、全然知らないのだから……」
それを言うとき、後半の声がぶれたように聞こえた。
すぐに咳き込んだ三月だが、ショボーンはその声を聞き逃さなかった。
この三月イナリ、仮面をつけると非常にクールで冷静なのだが、内面は、ひどく脆いのだろう。
ショボーンは言葉を選んだ。
(´・ω・`)「……思い出したくないんだろう」
イ(゚、ナリ从「でも、娘であり、被害者でもある私にくらい――」
と、三月が言いかけたのを、ショボーンは遮った。
(´・ω・`)「誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ」
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- 789 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:36:39 ID:ESs.Bz4MO
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−31−
二月八日、ショボーンは石井病院を訪れた。
都村の件で、ショボーンに用があるそうだ。
記憶が戻ったのか、もしくは様態が変わったのか。
それはわからなかったが、ショボーンは不安しか感じなかった。
受付に都村の件で来たと言い、待合室でコーヒーを呑んでいる時だ。
後ろから、肩をトンとたたかれた。
振り返ると、天使のように可愛い笑顔を見せる、都村が立っていた。
彼女には、隣に担当医であろう医者が付き添っていた。
ショボーンは反射的に立ち上がった。
(;´・ω・`)「トソンちゃん、治ったのかい?」
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「トソンちゃん?」
(゚、゚トソン「……警部」
(´・ω・`)「!」
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- 790 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:38:00 ID:ESs.Bz4MO
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(;д;トソン「あぁぁぁっぁ……けいぶぅ!!」
(;´・ω・`)「おわっ!」
都村がショボーンのことを認識すると、顔をくしゃくしゃにして泣き、ショボーンに抱きついた。
都村が、自分のことを警部と呼べた以上、記憶は戻ったのだな、そう思うと、ショボーンは嬉しかった。
〈::゚ー゚〉「若干の後遺症が残ることはあるが、いたって健康な状態に回復したぞ」
(´・ω・`)「じゃあ、記憶は――」
〈::゚ー゚〉「問題ない、戻ったぞ。なにかあれば、また医師に頼めばいいのだ」
(;д;トソン「こわかったぁぁ……ッ!」
(´・ω・`)「……」
(´-ω-`)「ありがとうございます、先生」
〈::゚ー゚〉「彼女の、治りたいという意志が強かっただけだ。医師は、患者の意思を尊重して当然だ」
(´・ω・`)「なにかあれば、また。先生」
〈::゚ー゚〉「石のようにカタい信頼関係を。石井しいし医師だ」
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- 791 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:39:03 ID:ESs.Bz4MO
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ショボーンは石井医師に礼を言い、都村を連れて病院をでた。
パトカーに乗り、事情聴取に応じるためにと、所轄まで向かった。
ショボーンが、ほっと胸をなで下ろすと、都村も、少しずつ泣くのをやめてきた。
嗚咽はまだ聞こえるが、都村は顔をあげた。
(゚、゚トソン「警部、なにからなにまでありがとうございます」
(´・ω・`)「……これが仕事だからな」
(゚、゚トソン「カッコつけても、惚れませんよ」
(;´・ω・`)「べッべらぼうめ!」
(゚ー゚トソン「……くすっ」
(´・ω・`)「ったく……」
都村の復活ということで、ショボーンも、この事件以来はじめて安堵することができた。
事件の最中は苛立っていたのが、今ではすっかり穏やかな気持ちでいられる。
都村も、かなり晴れやかだった。
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- 792 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:39:58 ID:ESs.Bz4MO
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(´・ω・`)「そういや、なに読んでたの?」
(゚、゚トソン「へ?」
(´・ω・`)「事件より以前、図書室に、本を返しにきたんだろ?」
(゚、゚トソン「ああ……」
都村は顎に手をあてた。
まだ記憶が戻ったばかりだから、脳の回転は遅いのだろうか。
少しして、彼女は手をたたいた。
(゚、゚トソン「推理小説」
(´・ω・`)「ん?」
(゚、゚トソン「すっごくおもしろい推理小説です。刑事が主役の」
(´・ω・`)「刑事ものねぇ」
ショボーンは苦笑した。
現役の刑事としては、複雑な心境なのだ。
どうも、刑事小説にはフィクションの色が強い。
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- 793 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:41:24 ID:ESs.Bz4MO
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(゚、゚トソン「とってもおもしろいんですよ。オチ教えてあげますね」
(;´・ω・`)「あ、おいそれはだめ――」
都村はいじわるで話のオチをばらそうとした。
ショボーンはその本を読むことはないだろうが、
オチだけ言われるのは、気分的にいいものではない。
制止しようとすると、都村が「あれっ!?」と大声をあげた。
(´・ω・`)「どしたの」
(゚、゚;トソン「あ……あ…。小説のオチだけ忘れちゃった……!」
(´・ω・`)
(´・ω・`)「ぶぷっ」
「あああああああッ! 読み直さないと!」
パトカーのなかで響きわたる、都村の嘆きを聞いて、ショボーンはつくづく思った。
「やっぱり、忘れちゃいけないことのほうが多いか」
パトカーは、ゆっくり署へと向かう。
青信号にかわったので、ショボーンはゆっくりペダルを踏んだ。
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- 794 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/12/25(日) 16:42:19 ID:ESs.Bz4MO
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イツワリ警部の事件簿
Extra File.1
(´・ω・`)とある忘れられた事件のようです
おしまい
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