(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

41 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:20:12 ID:hZF5R6oIO



3章「アーボンオレンジ」


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42 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:23:14 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「車掌長命令により、
     令状がない限り無駄な捜査は省かせていただきます」



(; <●><●>)「!?」

(´・ω・`)「……なんだって?」


一度深呼吸を挟み、
でぃさんは落ち着いた様子で、彼ら警察に説明をする。
落ち着いているのだが、どこか焦りを感じる。
まあ、当然だろう。


(#゚;;-゚)「だから、正式な手続きを踏んだ上でないと捜査を認めない、と。
     これは本社の方からの判断でもあります」


警察相手に、捜査をするな、と対抗してきているのだから。
しかもそれは彼女の意志ではなく、ただの言伝にすぎないのだから。


(; <●><●>)「しかし……」

ワカッテマスさんは戸惑う。
オオカミ鉄道本社の方から、ストップがかけられたのだ。
当然、腑に落ちないだろう。


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43 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:24:58 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「発砲があったのは事実――」

(#゚;;-゚)「――ではないですよね?」

(´・ω・`)「……!」

珍しく、警部が口ごもった。
そして、建て前強気な彼女は
続けてその事情を説明する。
これも上の人からの伝言なのだとすると、非常に不利となる。


(#゚;;-゚)「確かに私自身は銃声“らしき”音は聞きました、
     硝煙の匂いがするの“かも”しれません」

(#゚;;-゚)「……しかし、その証拠がないのも事実です」

(´・ω・`)「それを今から――」


警部が反論するも、それもまた彼女によって制止される。

(#゚;;-゚)「その事実関係の追究に、
     ワゴンの捜査は必要ありません」

(;´・ω・`)「………遅かった、か」

そうつぶやき、落胆する警部に
追い打ちでも仕掛けるのか、
そのまま彼女は続けた。


.

44 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:26:15 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「しかし、怪我人は不在、弾痕も見当たりません」

(#゚;;-゚)「捜査の必要性はない、そう判断なされたようです」

( <●><●>)「それは違います」

(#゚;;-゚)「……刑事さん」


ふたりの言い合いの間に、
一旦手を止めていたワカッテマスさんが口を挟んだ。
きょとんとするでぃさんに、彼が食ってかかる。
少しでぃさんがかわいそうだとは思うが、
彼が納得いかないのは当然であるわけで、
とても擁護しようとは思えない。



( <●><●>)「弾痕がすぐ見える場所にないだけの可能性が非常に高いのです」


.

45 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:28:47 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「……と、もうしますと?」

( <●><●>)「この列車は、ご存じの通り揺れがやや激しい。
       撃ち損ねを考慮する必要があるのですよ……
       たとえば、誤ってソファーを貫いてしまった、とか」

(#゚;;-゚)「……」


まあ、言われてみれば筋は通っている。
ソファーに弾丸が埋もれた場合、
摘出にはひと手間かかる上に、
ソファーは黒地の布を使われているので
まず弾痕も見つけにくいと言える。

しかし、反論の手だてでも考えているのか、
仕切りにでぃさんは時計で時刻を確認している。


.

46 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:30:07 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「……それは、列車が到着したのちに捜査をすればいいのでは?」

( <●><●>)「……」

この彼女の提案に、ワカッテマスさんは一瞬動きが止まった。
しばらく悩み、なにやら唸っている。

(; <●><●>)「―――……!」

(#゚;;-゚)「でしょ? なにも今捜査をする必要性は……」

(; < >< >)「〜〜〜〜……」

(#゚;;-゚)「……聞いてます?」


しきりに唸っているワカッテマスさんを
心配したのか、でぃさんが彼に応答を求める。
尚もなにやら思考に耽るなか、
彼は一度目を瞑って深呼吸してから答えた。

それはでぃさんが予想していた答えよりも
遙かに斜め上をゆく答えだっただろう。




( < >< >)「……」

( <●><●>)「わかりました、いまここで言いましょう」

(#゚;;-゚)「はい」

( <●><●>)「……実は」




( <●><●>)「この場に、殺し屋が存在しているのかもしれないのです」



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47 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:31:55 ID:hZF5R6oIO


彼は、そう言った、乗客皆に伝わるよう大声で。
私は、偶然そのような話を予め聞いていたため
驚かなかったものの、普通こんな事を聞かされては


(;#゚;;-゚)「なっ!?」

(´・ω・`)「なんだと……?」

「え?」
「殺し屋だと!?」
「きゃっ……きゃあああああ!」


(゚、゚トソン「………」

当然、パニックに陥る。


( <●><●>)「……可能性、の話です」


彼はそう前置きして、ゆっくり彼は
ワカンナインデスさんが私にしたような説明をした。
彼の数倍はわかりやすい説明の仕方で。


.

48 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:33:37 ID:hZF5R6oIO


それを興味深く聞いていたでぃさんは、
またも時計を見、そして彼に返す。

(#゚;;-゚)「……根拠は、それだけですか?」

( <●><●>)「はい」

(#゚;;-゚)「………では、捜査を認めます」

( <●><●>)「じゃあ――」


「ただし」と、大きな声で彼女が遮った。
殺し屋の下りで一瞬焦りが窺えたのだが、
今はもうそのような様子は見られない。


(#゚;;-゚)「発砲があった事実関係のみ、
     それに関する捜査を許します」

(#゚;;-゚)「一号車以外に捜査のメスをいれたり、
     関係のないと思われるものへの
     執拗な捜査は許しません」

( <●><●>)「……」



.

49 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:35:26 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「それで結構」

ワカッテマスさんが言葉を詰まらせるなか、
警部は軽くそう告げた。

彼はワゴンに執着していたので
少しは反論をすると思ったが、
そんなことはなかった。




しかし、警部は彼女に提案をする。

(´・ω・`)「聞き込みは、していいんだね?」

(#゚;;-゚)「発砲に関する事情徴収、
     及び持ち物検査に限らせていただきます」

(´・ω・`)「そうか」

警部はやけにあっさり認めた。
こんなに軽い人だったっけ、と思っていると、
早速条件を破綻させるようなことを聞きだした。



(´・ω・`)「でぃちゃん、このワゴンのことなんだけど……」

(#゚;;-゚)「却下させていただきます」

(´・ω・`)


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50 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:37:12 ID:hZF5R6oIO


(;´・ω・`)「いや、これは単なる疑問なんだ。
      妙に匂うからね」

(# ;;-゚)「………臭う?」

(´・ω・`)「ぱるふぁ……香水の、ね」

(´・ω・`)「心当たりない?」

(#゚;;-゚)「えっ?」


パルファンの件について警部が「質問」すると、
不意を突かれたのかでぃさんは再びきょとんとする。
なんのことかわからない、みたいな顔だったのだが、
意味を理解したのか彼女は軽い口振りで警部に返した。


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51 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:40:06 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「あ、ああ……お恥ずかしい話、こぼしちゃいまして」

(´・ω・`)「こぼす?」

でぃさんは若干顔を赤らめた。
そのことを警部を追究すると、
言葉を濁らせつつも、彼女は香水の件を説明した。

(#゚;;-゚)「その……ワゴンの近くに私物の香水を置いてたのですが、
     例の揺れで中身をぶちまけちゃいまして」

(´・ω・`)「はーん。それが、このくさい原因か」

(#゚;;-゚)「も、申し訳ありません」

でぃさん曰く、
ワゴンの近くの台に私物の香水を置いていたのだが、
それがおよそ30分前に起こった強い揺れのせいで
ワゴンの中心部(収納スペース)に落下、
割れはしなかったものの中身の大半がそこにこぼれたと言う。



.

52 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:41:39 ID:hZF5R6oIO


しかし、その事情を聞き終えた警部は謝礼を述べ、
身を一旦引いた警部に代わりワカッテマスさんが話を伺っている。



(´・ω・`)「……こぼした、か」

(゚、゚トソン「しかし警部、パルファンがどうしたんですか?」

(´・ω・`)「え?」

(゚、゚トソン「何度も諄いようですが、
     たかだか匂いでそんな……」

(´・ω・`)「……」


警部は近くに歩み寄り、
私の耳にそっと顔を近づけぼそぼそしゃべった。

(´・ω・`)「……限りなく怪しい」

(゚、゚トソン「しかし、ワカッテマスさんも気にしてないようですよ」

(´・ω・`)「わかってないなー」

(゚、゚トソン「ム!」


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53 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:45:33 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「パルファンは、香水の中でもとにかく濃度の高い高級品なんだ」

(´・ω・`)「一滴たらすだけですばらしく香るのに、そんな大量にこぼしたって……」

(´・ω・`)「それじゃあこんな程度の匂いじゃ済まないよ」


私は一度、注意深く、且つでぃさんにバレないように鼻を利かす。
微かに匂う香水の香り、
それとよくわからない悪臭も漂っているのがわかる。
もし大量にこぼしたならもっともっとすごい匂いがする、
と警部は言うが、果たしてそうだろうか。


(゚、゚トソン「警部が勘違いしてるんじゃないんですか?
     コロンか何かと」

(´・ω・`)「最初は僕もそう思ったよ」

「でも……」と逆接を挟み、彼は続けた。


(´・ω・`)「さっき、僕はパルファンと口走ったのに、彼女は否定しなかった。
      これはパルファンで間違いない」

(゚、゚トソン「聞き取れなかっただけじゃ……」

(´・ω・`)「じゃあ聞き返すだろうよ。
      『パルファン?』って」

(゚、゚トソン「!」


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54 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:47:27 ID:hZF5R6oIO


そこで先程の会話が生きてくるのか。
後から、これがパルファンでないとわかれば、
限りなくでぃさんは怪しくなる。

それは本件となんら関係のない話だと思うのだが、
嘘をつく以上は何かワケがあるはずだから
それを口実に証言を聞き出せる。

もちろんそれも本件とは一見関係のない話の可能性が高いが、
警部は、何度も、そういうどうでもいい証言から事実を導き出してきた。



(#゚;;-゚)「さて……」

ワカッテマスさんと話を終えたでぃさんは、
一段落終えたような顔で、警部に歩み寄る。
警部もそれに気づき、中腰だったのを
背筋を伸ばしてまっすぐ立つ。

でぃさんは、ワゴンに手をかけて一言。


(#゚;;-゚)「片付けさせていただきますね」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「は?」


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55 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:49:04 ID:hZF5R6oIO


彼から、なんと拍子抜けな声が出たものか。
警部は完全に呆れかえった顔で、
私やワカンナインデスさんに毒を吐く時に近い声色になっている。
一方でぃさんは、相変わらず時計を気にしながら
警部の出方をうかがっている。


(´・ω・`)「いやいや、いやいやいやちょい待ち」

(#゚;;-゚)「なぜですか?」

あまりにも唐突な一言に、警部は混乱したのか、
顔を俯かせて両手掌を見せ「まあ待て」とハンドサインを送っている。
数秒して、反論の手だてが思い浮かんだのか、顔をあげた。


(´・ω・`)「なんでさ、証拠物件と――」

(#゚;;-゚)「――なりません」

(´・ω・`)「え?」


.

56 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:52:17 ID:hZF5R6oIO


((#゚;;-゚))「先程も言いましたが、この件に関して、ワゴ……ん……」グラグラグラ…

((゚、゚;トソン「きゃっ!? 今度はなに!?」ガッタン

でぃさんがまたさっきの話をしてワゴンを持って行こうとすると、
30分前感じたのと同じくらいの激しい揺れが電車を襲った。
その揺れは、一度目同様に一瞬で、
縦に数十センチはいくのではないかと思う程に揺れた。

ひどい轟音が車内を駆け巡り、静かだった乗客もざわついてきた。
その衝動の余韻に駆られつつも、皆が落ち着きを
取り戻しつつあるタイミングででぃさんは言った。


(#゚;;-゚)「……失礼、最近決まった時刻に、
     ご覧のような激しい揺れが当列車を襲うのです」

(;´・ω・`)「一応聞きたいんだけど、なんで?」

(#゚;;-゚)「線路の老朽化に伴い、少々ぼろが出てきたのでしょうね」

申し訳なさそうな顔色で頭を下げる。
警部がその点に突っ込みたさそうな顔をするも、
無視して彼女は本題に入った。


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57 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:54:19 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「とにかく、本件と関係ない以上は
     このワゴンは撤収させていただきます」

(´・ω・`)「いや、弾痕の調査を終えるまでは……」

(#゚;;-゚)「その必要には及びません」


なぜ、
なぜ彼女はそこまでしてワゴンを隠すのだろう?
これも上からの命令か?


(#゚;;-゚)「もしワゴンのボディに弾丸が当たれば、
      少なからずや金属音がします」

(#゚;;-゚)「お菓子に被弾したのならその中身のお菓子が散乱するだろうし、
     ドリンクの容器に当たれば間違いなく中身が吹き出ます」

(´・ω・`)「だけど……」

(#゚;;-゚)「……すみません、持って行かないとだめですので」


彼女が、最後にぼそっとそう言い残し、
強引にワゴンを引っ張って私の横を通り、
そのまま一号車から出て行った。


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58 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:56:36 ID:hZF5R6oIO


腑に落ちない、と言いたげな警部の気持ちはわかるのだが、
これも「命令」であるなら彼女に同情しないでもない。
彼女がワゴンにしたことと言えば
香水をぶちまけた程度、さして別に問題はなく、
おそらく彼女は、ワゴンを調べさせても問題ないと
思っているに違いないが、どこの世界も上司には逆らえないのだ。


(´・ω・`)「……まあ、あとで無理矢理にでも調べて見せるさ」

「………おい」

(´・ω・`)「はい?」


でぃさんが退室したあと、
静かだった乗客のうちひとりが警部に声をかけた。
席で言うと警部の隣のB−7、あのお茶の人だろう、
ちょうど警部も彼の横に立っていたので
声をかけやすかったのかもしれない。



(`・ω・´)「……結局、話はどうなったんだ」


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59 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:58:20 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「なにが、ですかな」

(`・ω・´)「殺し屋の件だよ。
      もしそうだとすると、怖くて
      ここには居られないのだがな」

(゚、゚トソン「(お茶の人って彼だったんだ……)」


私の隣に座っていた人、それは私も面識がある人だった。
トイレから戻ってくる際、ぶつかってしまった人である。

この強面っぷり、ドスの利いた低い声、
視線だけで人を殺せそうな鋭い目つき。
私が警部ならとっさに「おまえが犯人だ!」
と、特定してしまいそうな程に怖かった。

しかし、お茶の人と声が若干……
いや、全然違う気がする。


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60 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 16:59:51 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「ハハ、ご心配なく」

(´・ω・`)「もし殺し屋があなたを狙っても、
      返り討ちにしそうですからね、見た目的に」

(`・ω・´)「……私が銃に勝てる、と」

(´・ω・`)「第一印象です」


こんなに怖い人相手でも平然と毒を吐ける
警部にある種の尊敬の視線を送っていると、
警部は、またも鼻を利かせ、
執拗に彼のまわりの匂いを嗅ぎだした。



(`・ω・´)「何してんだ」

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「……匂いますねぇ」


警部が、笑った。


.

61 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:02:41 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「あなた、シトラスの香りが漂っていますけど」

(´・ω・`)「もっと具体的に言うと、みかんのような……」

(;`・ω・´)「……だから、どうした」


あれほど威圧感を発していた男から
僅かながらの焦燥感が感じられた。
そして警部は、続けて「シトラス」について話を進める。


(´・ω・`)「これは……そうですね、
      こんな香水じゃないですか?」

そういって彼が何気なく出したもの、
男は当初それの意味するところがわからず、
彼がとりあえずでそれに貼られてある文字を
読んでみたところ、途端に顔色を悪くした。


(;`・ω・´)「……あ、『アーボンオレンジ』……」


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62 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:04:36 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「香りますねぇ、このみずみずしさ、
      酸味を感じさせる高濃度な……」

一度男が彼にとてつもない焦りを感じていたであろうはずが、
男は開き直ったか元の威厳のある顔をして反論した。

私は、そもそもこの香水のなにが悪いのかがわからないのだが、
黙ってふたりのやりとりを見つめている。

(`・ω・´)「ハッ! アーボンオレンジがなにかあるかね?」

(`・ω・´)「私はこの香水をよくつけているのだ、
      ミストタイプで使いやすいしな」

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「………ぷっ」

(`・ω・´)「あ?」


まあもっともな反論をする男に、
警部はなにか言うのかと思えば、
その直後、私の想像できる展開とは
全く別の展開となった。



(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃ!
      あ、アーボンオレンジをですか!? ぶひゃひゃ!」

(`・ω・´)「……」


.

63 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:07:39 ID:hZF5R6oIO


ああ、睨んじゃってるよこの人。
そして睨まれちゃってるよ警部。

ここで殴り合いでも起これば、
たぶんだれも止められないと思う。


(´;ω;`)「いまのあんたの態度を見てわかった!」

(`・ω・´)「ハ?」

(´・ω・`)「あんた……」



(´・ω・`)「“生の”アーボンオレンジを塗ったな?」


(`・ω・´)「……ハ?」

警部は、彼の何からそんなことを
断言したのかはわからないが、
少なからずや男はなにかに動揺していた。
根拠はわからずも、男は、警部の言った
自分が“生の”アーボンオレンジを使ったことを否定する。


(`・ω・´)「なにを急に」

(´・ω・`)「……実は、ね」


.

64 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:09:37 ID:hZF5R6oIO


男の前で挑発でもするかのように、
アーボンオレンジの香水を左右に揺らす。
ちゃぷちゃぷと音を鳴らし、その存在を
存分にアピールした上で、語った。


(´・ω・`)「“ミストタイプ”の『アーボンオレンジ』の香水なんて、存在しないんだ」

(;`・ω・´)「………なんだと?」


警部は確かに言った、
“ミストタイプ”の『アーボンオレンジ』の香水は存在しない、と。
しかし、今、彼が持っているその香水が
その“ミストタイプ”の『アーボンオレンジ』ではないのか。

私は不思議に思うも、警部は
依然怪しい笑みを浮かべている。


(;`・ω・´)「……意味が分からないな」

私も、男とは違う点でだが
意味が分からないことがある。
警部は、あからさまに嘘をついている。
なぜ、嘘をつくのかがわからないのだ。


.

65 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:11:40 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「存在しない香水で香らせる……」

(´・ω・`)「生の、でないとあり得ない」

(;`・ω・´)「……」


男は、暫く黙った。
しかし、少しして彼は開き直ることに決めたのか、大声をあげた。


(`・ω・´)「ああ、そうさ。
      私は生のアーボンオレンジを使った。
      それで、何かあるのか?」

(´・ω・`)「……」


彼の言っていることは理に叶っている。
嘘をついた(?)のはいただけないが、
所詮「だからどうした」なのだ。

そういう私の考えとは裏腹に、
警部は彼に確認をとった。


(´・ω・`)「……ほんとうに、生、ですね?」

(`・ω・´)「男に二言はない」

(゚、゚;トソン「(嘘つけ!)」


.

66 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:13:26 ID:hZF5R6oIO


男が完全に開き直りそう断言した。
これで警部の気が済むと思ったら、
真逆に事が運ばれることになってしまう。

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「ぶぷっ」

(`・ω・´)「あ?」


警部は唇を噛みしめ、顔を歪めている。
端から見れば、ただ悔しいだけのように窺えるが、実は違うのだ。
彼がこんな顔をするとき、それは。




(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!
      あ、あんたサイッコーにぶぁーか! ぶひゃひゃ!!」


笑い狂う。




(#`・ω・´)「貴様何のつもりだ、さっきから人を見下すような事を!」

男はついに我慢の限界になったのか、
座席に取り付けられているテーブルを強く叩いた。
その打撃音が車両内に響き、一瞬だがその場は静まり返った。
男の怒りは当分おさまらないだろうと皆が思う中、
警部は大笑いの余韻に尚も浸っている。


.

67 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:15:04 ID:hZF5R6oIO


(´;ω;`)「ひー…ひー…」

(´・ω・`)「……うぉっほん」


独特の咳払いをして、呼吸をととのえている。
男が静かに警部を見守る中、警部は口を開いた。


(´・ω・`)「……今のが、嘘。
      これは歴とした“ミストタイプ”の『アーボンオレンジ』の香水だ」

(`・ω・´)「……貴様、何が言いたい?」

(´・ω・`)「僕はね、あんたからほんとうの証言を
      引きずり出そうとして、鎌掛けたの」

(´・ω・`)「そして、今証言したよねぇ?
      『生のアーボンオレンジを塗った』と」

(`・ω・´)「……」

(´・ω・`)「今更前言撤回なんてさせないよ? ここにいる乗客みーんなが証人だ」

(`-ω-´)「……」



.

68 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:17:02 ID:hZF5R6oIO


依然男は黙って、警部の話を聞いていた。
結局、警部は、その巧妙とも言い難い作戦にて
一見どうでもいいような証言を引き出したにすぎない。
それも、相手が逆上して殴りかかるかもしれないハイリスクな現場において。


(`・ω・´)「……」

(`・ω・´)「フン。それがどうした。
      “生のアーボンオレンジを使いました”なんて証言、なんの需要もないように思えるが?」

( <●><●>)「そうですよ警部」


男に加算するように、ワカッテマスさんが賛同した。
ワカッテマスさんが、というより、
おそらくここにいる皆がその点を不審に思っているだろう。
なぜ、そこまでしてそんな証言を得たかったのか。

.

69 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:18:26 ID:hZF5R6oIO


( <●><●>)「生だからって、何が変わるのですか」

(´・ω・`)「じゃあワカッテマスにクイズだ」

(; <●><●>)「……フリーダムですね」



(´・ω・`)「生のアーボンオレンジ、
      香水のアーボンオレンジ。
      さて、相違点はどーこだ?」


警部は彼にそうクイズをだし、
両手で人差し指のみを突きだして、
あたかも写真を撮る際にピースを
するときのような構えをとった。


このクイズの意味するところ、
「生のアーボンオレンジを使うことでなにが変わるのか」
を証明しようとしているに違いない。


.

70 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:19:31 ID:hZF5R6oIO


( <●><●>)「……」

( <●><●>)「やっぱり、香水用に加工されたのと
       そうでない、の違いですかね」

(´・ω・`)「言い換えると?」

( <●><●>)「天然と人工の違いくらいしか……」

ワカッテマスさんがそういうと、
警部は軽く拍手をした。
手と手を叩く音だけが響く。
しかし、やはり警部の意図は読めない。


(´・ω・`)「そう、いい言葉で表現してくれた」

(´・ω・`)「人工と天然……
      市販のりんごジュースを飲むのと生のりんごの果汁を飲むくらいに違うよね」

(゚、゚トソン「それがどうしたんですか……」

(´・ω・`)「おっ」


.

71 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:20:39 ID:hZF5R6oIO


警部の考えが読めないまま、ついに本音がぽろっと出てしまった。
しかもそれを警部にもろに聞かれ、こっちに振り向かせてしまった。
余計なことしたかなぁ、と反省するが、
意外に彼はちょうどいいやと言って私に歩み寄ってきた。


(´・ω・`)「じゃあ次はトソンちゃん」

(゚、゚トソン「えっ」

(´・ω・`)「“香水のアーボンオレンジ”にはなくて
      “生のアーボンオレンジ”にあるもの、なーんだ?」

(゚、゚トソン「えっ」


急に乗客の視線が私に集まったのを実感した。
嘘、こんななかではずしたら恥曝しもいいところではないか。
しかし、黙っているわけにもいかない。
答えを必死に考えるも、事件に関係しそうな答えは思い浮かばない。


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72 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:21:49 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「難しく考えなくていい。
      さっき僕が言ったことを思い出して」

(゚、゚トソン「さっき……」


記憶は数十分前に遡る。
椅子に座っていて、警部の香水の自慢を聞かされていたのは覚えている。
ウン十万はする高級な香水を撒かれ、リラックスできたのも覚えている。
そういえばあのとき、いろいろと豆知識を得意げに語られていた気がする。


(゚、゚トソン


(゚、゚トソン「キタコレでのみ手に入る!」

(´・ω・`)「バーカ」

(;、;トソン「えっ違うの!?」


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73 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:23:21 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「それは両方一緒じゃないか。
      100%の果汁にはある作用があったよね?」

(゚、゚トソン「ひゃく……」

(゚、゚トソン「あ、治癒とか?」


このとき、私はちょっぴりボケたつもりで言ったのだ。
正解がわからないのだから、ここは無能な振りをして
警部に呆れさせ、とっとと話を戻してもらおう、と。

そう、思ったのに。



(´・ω・`)「そう、アルコールなどいっさい化合されていない
      生粋のアーボンオレンジ、それの意味するところ」

(´・ω・`)「それは、治癒力の有無だ」

(゚、゚トソン「あってたんだ……」

(´・ω・`)「なんだって?」

(゚、゚;トソン「なんでもないです」


慌てて首を振る。
警部が自慢げな顔をするなか、勘で当てました、
だなんて言えそうにもない。
警部はすぐに本題に戻った。


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74 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:24:48 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「それは数%でも他の物質を許さない、
      完璧な純度を誇る場合のみ効力を発揮する」

(´・ω・`)「しかし、あくまで香りを目的として使うなら、
      それ専用に化合された香水を使えばいいのだが、
      そうしなかったんだあんたは」

(´・ω・`)「つまり、香りなんかどうでもよかった、
      別の用途で使いたかったんだろ?」

( <●><●>)「……治癒」


黙り込んだ男を前に淡々と解説を続ける警部に、
ワカッテマスさんが補足を入れた。
いや、解説をスムーズに進めるための策だろう、
彼もこの話の必要性を感じていないと思っているのだろうか。


(´・ω・`)「そうさ。
      あんたは治癒を目的でアーボンオレンジを塗った」


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75 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:27:07 ID:hZF5R6oIO


(`・ω・´)「なにを根拠に!」

この流れになってはじめて男は口を開いた。
だがそれに動じることなく、
寧ろ逆手にとったのは警部だ。


(´・ω・`)「それを今から調べるのさ」

(´・ω・`)「ワカッテマス、こいつの身体チェックをしろ」

( <●><●>)「え?」


警部のまさかの発言、
彼が事の如何を問う前に警部が動いた。




(´・ω・`)「こいつは身体のどこかに大きな傷を持っている!」


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76 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:29:32 ID:hZF5R6oIO


(゚、゚;トソン「(そ……そっかぁ〜!)」

警部は、端から香水なんてどうでもよかったのだ、
なにかと理由をこじつけて、
男の身体チェックに乗り込みたかったのだ。
あの「生のアーボンオレンジを塗った」という証言が嘘でも、
身体チェックに乗り出せる事には違いない。

普通にチェックするのに持ち物は許されても、
身体の異常を調べたいのですなんて言ったって
令状も警察本部からの報告もない今、却下されるに違いない。
傷がなかろうと乗客が見守る中、
服を脱ぐことすら躊躇われる。

まして彼はひょっとするとヤのつく人かもしれない、
その抗争の際の傷があったりすると、非常に気まずいことになる。
ワカッテマスさんも警部の発言の真意がわかったのか、彼に続いて動いた。



(;`・ω・´)「な、やめろ! さわるな!」

( <●><●>)「しかし、傷があったらなんなんですか?」


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77 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:31:33 ID:hZF5R6oIO


そう警部に反論するも、手は男を捕らえようとしている。
一応上司の命令だからそのように動くも、
彼は真意がわかったはずなのにまだ食らいつく。
しかし警部は、たった一言で、ワカッテマスさんの
刑事としてのモチベーションをマックスにまで引き立てる。


(´・ω・`)「生のアーボンオレンジを使っている以上、
      出血するような傷はあるはずなんだよな」

(´・ω・`)「……たとえば、弾丸が貫通した穴とか、ね」

( <●><●>)「!」


それ以上、ワカッテマスさんは反論しなかった。
男と取っ組み合いになり、男の腕っ節のよさから若干ワカッテマスさんが押されるも、
腕っ節のよさならワカッテマスさんもそう容易く負けるはずがない。

彼は身長は180を超え、
上腕二頭筋は1リッターのペットボトル並にはあるのだから。


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78 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:38:22 ID:hZF5R6oIO



刹那、男に異変が生じた。



(;`・ω・´)「―――ッ!」

( <●><●>)「! ここか!」


ワカッテマスさんが男の右腕に触れた瞬間、
男は声にならぬ悲鳴をあげた。
汗は一気に吹き出し、右腕も後ろに引いた。
何より、顔が苦痛で歪んでいる。
それを見逃さなかったワカッテマスさんは、
彼よりも速く右腕を強く握った。



――瞬間、男は凄まじい悲鳴をあげた。



(;` ω・´)「ぎゃああああああッ!!
       このッ!」


握っているワカッテマスさんの手を執拗に殴るも、
全く威力がなさそうで、ワカッテマスさんも全く怯んでいない。
しかしそれでも反撃を繰り返す男を、警部が制した。



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79 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:41:32 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「よし、そこを調べろ」

( <●><●>)「袖、めくらせてもらうぞ」

殴ってくる男の左腕を警部の左手で、
のたうち回り、蹴ってくる足をワカッテマスさんが上から覆い被さるようにして押さえる。
そして急ぎながらも丁寧に、ワカッテマスさんは
男の左腕に通されている上着の袖をあげていく。

その生地は若干ぶ厚めなようで、
傷口に刺激を与えないように捲るのは難しそうだった。


(;`-ω・´)「………」

(; <●><●>)「け、警部、これは……」

(;´・ω・`)「……ひどい、な」


ワカッテマスさんが、
こう腑に落ちない顔色を見せる中、
警部も同じく辛辣な表情を浮かべている。

男は諦めたのか、静かに彼らに「ソレ」を見せていた。


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80 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:45:29 ID:hZF5R6oIO


腕には、かなり大きな、しかも
いくつもの「切り傷」が刻まれていた。

それは昔の古傷なんてものではない、
真新しい、それはついてから一時間もしていないであろう生々しい傷だった。
止血が施されているようで血が垂れることはなけれど、
ワカッテマスさんが強く握ってしまったせいか血が滲み出てきている。
膜は張っているのでまだましかと思われるが、膜が見えるということは、
すなわち肉が見えているということだ。

乗客のなかにはひぃっと悲鳴をあげるものもいたが、
警部が彼の傷を見て笑うことはできなかったという。
なぜか、なんて言うまでもない。
これはどう見ても……


( <●><●>)「しかし……
       これは『弾痕』ではないですね、どこからどう見ても」

(;´・ω・`)「明らかに、鋭利な刃物できられたような傷だな」


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81 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:47:15 ID:hZF5R6oIO


二本、三本と線がいっているその傷は限りなく怪しくて、
まさに非日常的なものでこそあるものの、
ワカッテマスさんがそれを責めることはできなかった。


もともと、警部も「弾痕は彼に当たったのだろう」という推理を
誰に言わずともしていたのだから。


( <●><●>)「……一応、メモしておきますか」

先ほど警部によって指示されていた、
位置取りの記入はとうに済んでいて、
今はそこにデータを書いている。

それを横目で見ながら、
男は依然冷や汗を流し、警部に訴えかけた。


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82 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:49:15 ID:hZF5R6oIO


(;`・ω・´)「……確かに、治癒目的で生のアーボンオレンジを塗った。
       あまりおおっぴらに見せられる代物でもない」

(;`・ω・´)「しかし」

(;`・ω・´)「この傷は、発砲事件と全く関係のないものだ」

(´・ω・`)「……」


警部が、はじめて彼に対し口を閉ざした時だった。


(`・ω・´)「だから、このことは忘れ――」

( <●><●>)「――るわけにはいきません」

(´・ω・`)「…ワカッテマス」


すっかりしょぼくれた(?)警部と
バトンタッチしたのか、ワカッテマスさんが彼と対峙した。
どうやら、そう簡単に退くわけにはいかないらしい。
当然男も反論する。


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83 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:52:44 ID:hZF5R6oIO


(`・ω・´)「ハ? 切り傷があったら、なにが問題なんだよ」

( <●><●>)「その前に、お名前をお聞かせください」

(`・ω・´)「……唐突だな」


急に彼が名前を聞いてきたので驚いたことだろう。
しかし、名前もわからぬままこうして張り合っていたこと自体が珍しい。
男は少し間を置いて名を述べた。


(`・ω・´)「本田シャキーン、と人は呼ぶ」

( <●><●>)「本田、シャキーンさん、ですか。
       私、VIP県警の若手ワカッテマスと申します」

(`・ω・´)「そりゃーどうも」


ワカッテマスさんも自己紹介をし、軽くお辞儀をした。
男改め、シャキーンさんの名前を書こうと、ワカッテマスさんは手帳を開いた。
彼がメモし終え、すぐに本題へと軌道修正がなされた。


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84 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:54:44 ID:hZF5R6oIO


(`・ω・´)「……でよ、この傷は発砲事件と何ら関係ないのは自明の理であろう。
      何か問題でも?」

( <●><●>)「……なにか、錯覚なされてますね」

(`・ω・´)「ハ?」

( <●><●>)「わからないのですか?
       今がたとえ発砲事件の捜査中であれど、
       このような傷の存在意義に変化はありません」

( <●><●>)「お尋ねします、なぜこのような傷を?」

(;`・ω・´)「あぁ!? 悪いかよ自分で誤って腕きっちゃあ!」



「お待ちください!」



(`・ω・´;)「誰だ!」


ワカッテマスさんは、事件とは関係ないと思われる、
いや実際関係ないであろうこの傷のことを尋問した。
ただ、おおっぴらに見せられる傷ではないという以上、
当然後ろめたい出来事があったに違いない、


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85 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:56:16 ID:hZF5R6oIO


男は自分で腕を切った、と過失である旨を
主張したが、それをワカッテマスさんが疑う前に、
私の右後ろ、扉が大きな音をあげて開き、
そこから制止を求める声が放たれた。


今度は誰だ、と皆がそちらを向くと、
見慣れた人物が立っているではないか。


(#゚;;-゚)「その取り調べ、私にも同席させていただきます」

警部に散々匂われていたワゴンの行方は人知れず、
手ぶらの彼女は女性とは思えぬ凛々しさを醸し出していた。
それは警察の捜査に一般人が干渉するのと同義、
警部が許すはずもない。
そう思ったのだが、今は条件が違った。

彼女も、代理ではあるが立派な関係者ではある。
そして、もしワゴンの「ハプニング」もふまえ
この事件に関係があるのなら、彼女の同席は
警部にとっては願ってもない展開ともなりうる。


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86 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:57:24 ID:hZF5R6oIO


(´・ω・`)「……ハ?」

(#゚;;-゚)「私を差し置いての捜査は
     許されてないのですよ?」

(´・ω・`)「……ふぅん」

でぃさんが警部のもとへ駆けよった。
それと同じ頃に、尋問を喰らっていた
シャキーンさんも怒鳴り散らす。
自分が発砲の犯人だ、と決めつけられたのを
前提にされているのが気にくわないのだろう。


(;`・ω・´)「自分で切ってしまったんだよ、この傷は……文句あるか!?」

(´・ω・`)「でもねぇ」

(#゚;;-゚)「警部さん」

(´・ω・`)「ん?」


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87 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 17:58:44 ID:hZF5R6oIO


シャキーンさんの主張は、でぃさんの一声でかき消された。
早速彼女はなにをしでかすのかと思えば、

(#゚;;-゚)「えっと、この傷……どうなさったんですか」

(´・ω・`)「え?」

(#゚;;-゚)「由々しき事態です、説明をお願いします!」

(゚、゚トソン「ズコーッ」


状況の説明を要求してきた。
こういう場面でそういうのは、
時間の無駄になって迷惑なのだが。

しかし、かといって彼女の監視下においての捜査でないと
許されない手前、警部もしぶしぶ応じる。

(´・ω・`)「弾痕の捜索にあたってたら、こんなもの見つけちゃって」

(´・ω・`)「確かに弾痕ではないのだけど、なにかありそうだし」

(;`・ω・´)「だからこれは関係ないっつってんだろ!」

(#゚;;-゚)「………」


.

88 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:00:41 ID:hZF5R6oIO


シャキーンさんがしびれを切らしたのか、
徐々に口が悪くなっている。
怒鳴る機会が多くなり、
彼が言葉を発そうとするたびにその場の空気が揺らぐ。
その怒声を間近で聞いても怯むことなく、
でぃさんも応戦する。


(#゚;;-゚)「これは、当列車で……?」

(`・ω・´)「それがどうした!」

(#゚;;-゚)「………」

(#゚;;-゚)「……失礼、あまりにも非現実的すぎて目が眩みましたわ」

(`・ω・´)「ハ?」

間髪入れずシャキーンさんが返す。
すると、でぃさんは少し嘲るような笑みを浮かべ、
手で口を少し隠すようにして話す。


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89 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:03:02 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「だって、そのような大きな怪我を、しかも発車後に負うなんて、
     よっぽど大層な『事件』がない限り、ありえないでしょ」

(;`・ω・´)「―――あ」

(#゚;;-゚)「警部さん」


シャキーンさんが間抜けな顔をした時、
でぃさんはその顔を拝めないように立ち回り警部に話しかけた。
シャキーンさんは呆然となり、じっと傷を見ている。


……しまった。
それが彼の心情だろう。
発砲事件にとらわれすぎて、
その傷の意味の在り方を忘れてしまったのか。
本来なら事実関係を追究されるのがオチだ。
ワカッテマスさんの「錯覚」とはこのことだろう。


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90 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:05:29 ID:hZF5R6oIO


(#゚;;-゚)「……持ち物検査、すべきですね」

(#゚;;-゚)「このような傷を負えるような鋭利な刃物、
     当然ながら売店でも車内販売でも取り扱っておりません」

(´・ω・`)「そういってくれると思ったよ」

(;`・ω・´)「ちょ……待て!
       誤解だ、私はナイフなどもっていない!」


その彼の訴えに、
警部でもワカッテマスさんでもなく、でぃさんが反応した。

(#゚;;-゚)「あら、ご自身で負ったんじゃないのですか?」

(#゚;;-゚)「でしたら、争いがあったこととなる」

(#゚;;-゚)「発車後の列車内にて血を流す争い……放っておけませんね」

(;`・ω・´)「……」



(゚、゚;トソン「(……おかしい!)」


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91 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:06:37 ID:hZF5R6oIO


でぃさんは、どこかがおかしい。
ワゴンの件で執拗にワゴンを隠そうとしたり、
明らかに捜査の妨害にも努めていた。
そのくせ戻ってきたら、今度は
シャキーンさんを徹底的に責めている。
彼女の言動、行動、態度、どれも腑に落ちない。
それはおそらく警部も不審に思っているだろう。

だが、シャキーンさんに対して言っていることも正論だ。
シャキーンさんは、よほど「持ち物検査」が困るらしい。


(`・ω・´)「……」

(`・ω・´)「いいだろう。
      しかし銃は持ってないからな」


――はずが、彼はえらくあっさりと持ち物検査を認めた。
その言葉を聞いた警部、ワカッテマスさんの二人は彼に歩み寄る。
その際、ワカッテマスさんが再びアナウンスをはじめた。


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92 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:10:02 ID:hZF5R6oIO


( <●><●>)「えーと、予定よりだいぶ遅れましたが、
       皆さんにも後々持ち物検査を行います」

( <●><●>)「決して物を隠す、などしないように」

(´・ω・`)「じゃあ、調べるぞ」

(`・ω・´)「好きにしろ」


ワカッテマスさんがお得意のアナウンスをする中、
警部は真っ白な手袋の裾をきゅっと引っ張り、
足下に置かれていた赤茶色のカバンに手を伸ばした。

それは一概にカバンと言っても、従来のショルダーバッグらよりも大きい。
ボストンバッグが1/4スケールになったようなものだ、
と考えていただければ語弊は生まれないだろう。
ボタンをはずしてジッパーをゆっくり引っ張る。

なかからハンカチや手帳などが見える。
それをシャキーンさんもじろじろ見ていた。
自分がこの持ち物検査に引っかかるはずはないだろう、
そんな自信に満ちた顔をしている。
が、それでもそわそわとして、落ち着きがない。


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93 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:11:19 ID:hZF5R6oIO


そして中を漁る警部。
慣れた手つきで物色するも、ケータイや免許証など
身分を証明するものは入ってなかった。
これはハズレか、そう懸念された持ち物検査だが、
警部が一番奥に手を突っ込んだとき、それは翻った。


(´・ω・`)「!」

その何かが警部の手に触れたとき、
警部のしょぼくれた顔は一気に活気に満ちた、
しゃきんとした顔にみるみる変わっていった。


(;`・ω・´)「ま……まさか……」

シャキーンさんがそう呟いた時、警部が叫んだ。



(´・ω・`)「おいワカッテマス、これを見ろ!」

(;`・ω・´)「なに!?」


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94 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2011/09/02(金) 18:14:10 ID:hZF5R6oIO


カバンの奥から取り出したソレは、緑のタオルに包まれている。
それに包まれている物はひとつだけではない、
ふたつくらいの何かが包まれている。

ちょうどアナウンスを終えていたワカッテマスさんもそれを見る。
タオルを開き、中に入っているものを視認した。



(´・ω・`)「……血の付いたナイフ、それと」

( <●><●>)「“拳銃”ですね」

(`・ω・´)「な……」






(;;`゚ω゚´)「 な ん だ と ォ ォ ォ ォ ォ ォ ! ? 」




(;´・ω・`)「ワカッテマス、身柄を拘束しろ!」

(; <●><●>)「しかし手錠は持ってません」

(;´・ω・`)「こんのばかたれぇぇぇ!」





 イツワリ警部の事件簿
 File.1

 (´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

 3章
  「アーボンオレンジ」

    おしまい



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