从 ゚∀从百合は咲耶、乙女は散り急ぐ徒花のようです

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:40:53 ID:KIHi1AcEO
復讐なんてものは毒と同じだ。
いつかは俺の全身を蝕み、死へと追いやるのだろう。

从 ゚∀从「もし、俺の生と引き換えに事を成せるならば、この命を捧げてもいい」

それは嘘偽りのない本音だ。
だけど、その為になりふりを構わないというのは駄目なんだ。

それを知ったのは、かつて友と呼んだ少女の未来を奪ったときだった。

从 -∀从「オオカミ……」

復讐なんて怨嗟に取り憑かれた時点で、俺は狂っているのだろう。

ならばせめて、正しく狂おうと決めた。

自分の心の中に設けた一線、その線より向こうへは行かない。

从 -∀从「でも、そんなのはただの強がりに過ぎないのかもしれないな」

本当に進退が窮まったとき、俺は赤鬼にならずにいられるのだろうか。



この赤く染まった手は何かを掴むことができるのだろうか。



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31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:41:40 ID:KIHi1AcEO





从 ゚∀从百合は咲耶、乙女は散り急ぐ徒花のようです




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32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:43:51 ID:KIHi1AcEO
第二次世界大戦。
世界全土を巻き込んだこの争いを知らぬ者など、そうはいないだろう。

その大戦中に一つの強力な兵器が用いられた。
名前を原子爆弾という、つまるところの核兵器だ。

現在では大量虐殺兵器として国際問題にも多々上がるそれは、世界で唯一日本という極東の小さな島国にのみ投下された。

たった一度の爆撃で国内屈指の都市、広島は壊滅した。
その際の死者は十万人を越えたといわれる。

このように凶悪な原子爆弾は、熱や爆発による衝撃以外にも、一つの攻撃性を持っていた。
それが放射能だ。

原子核から放たれる強力な放射線を身体に受けると、人間は細胞のDNAなど重要な生体分子を傷つけられる。
それによって爆撃で直接死に至らなくても、多くの被爆者が苦しむこととなった。

しかし、その生体分子を傷つけられた人間の中で、異様なDNA変化を見せる者達がいた。
それはある種では進化とも呼べる異変。

皆女性である彼女らは、被曝以前より健康であるどころか、人間では有り得ない能力まで得ていた。

まず共通して見られたのが常軌を逸した身体能力。
そこからは個々によって違うが、どれも物理法則を度外視したものが多い。
手から炎を放つ、空を飛ぶ等々、正に超能力と呼んで差し支えない力を彼女達は有していた。

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:46:09 ID:KIHi1AcEO
それから間もなく、日本政府は乙女と名付けた彼女達の、戦術利用を決定する。
大和乙女作戦と呼ばれるそれは、大成功を収めた。

再度投下される予定だった、原子爆弾を積んだ爆撃機を海上で撃墜。
幾つものアメリカ軍の空母や戦闘機が、人間の手によって太平洋の藻屑と消えた。

攻め込む度に甚大な被害を受けるアメリカ。
国力が尽き自国の防衛に手一杯な日本。
身動きの取れない両国の争いは、休戦という形で終結する。

その際休戦条件として提示されたのは、

・互いに今後両国間の戦争で核兵器を使用しないこと
・アメリカは日本に経済支援を行なうこと
・以降乙女を兵員として採用しないこと


事実上、大和乙女作戦に音を上げたアメリカからの和平交渉だった。


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34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:47:42 ID:KIHi1AcEO
東京都の一等地に存在するオフィス街。
その中でも一際目に入る高層ビルの最上階の一室で、ジョルジュホールディングス社長ジョルジュは、日本軍からの報告書に目を通していた。
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( ゚∀゚)「はあ……、果たして喜ぶべきか、悲しむべきか」

報告書とはいっても媒体は紙ではなく、電子メールだ。
複雑に暗号化された文章を読み解き内容を理解すると、彼は思わず溜め息を漏らしてしまった。
  _
( ゚∀゚)「これだけの戦果を一人でね」

内容はハインが中東の作戦で、どれだけ革命軍という名のテロリストに被害を与えたかというもの。

まずは彼女の生還を喜びたいところだったが、さすがにこの数字を見せられては複雑な心境になってしまう。
  _
( ゚∀゚)「やはり父親としてはなあ」

一通り確認した後、ジョルジュがPCの画面右下に存在する時計に目を移すと、時刻は午後一時を回ろうとしていた。
  _
( ゚∀゚)「……そろそろか?」

ジョルジュが美しい木目をした重厚なウッドデスクの陰に隠れると同時に、入口のドアが唸りを上げて飛び掛かってくる。

木製のドアはデスクに打ち当たると、部屋を揺るがす衝撃と、けたたましい破裂音を残して砕け散った。

ジョルジュの頬を嫌な汗が伝う。
後少しでも行動が遅れていたら、砕け散っていたのはドアでは済まなかっただろう。

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:49:18 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「よお親父、久し振り」
  _
( ゚∀゚)「蹴破る以外の選択肢はないのか、お前には!」

从 ゚∀从「別にいいじゃねえか。減るもんじゃなし」
  _
( ゚∀゚)「扉は減るだろ、なくなるんだよ。お前の胸と同じぐらいなくなる」

从#゚∀从「ああん? いつから自殺志願者になったんだテメェは」
  _
(;゚∀゚)「落ち着け、その方法は自殺じゃなくて他殺っていうんだ」

从 ゚∀从「安心しろ、ニュースでは自殺と報道されるからよ」
  _
(;゚∀゚)「嫌な権力の使い方を身に着けるな!」

親子仲は良好とは言い難いが、それでも軽口が叩ける程度には悪くないとジョルジュは思っている。
だからこそ、血の繋がった愛娘を止められない自分の無力さが歯痒い。
  _
( ゚∀゚)「ハイン、お前さ。今回の一件だけで、自分がどれだけの人間を殺したのか分かっているのか?」

从 ゚∀从「人聞きの悪いことをいうな、俺は人を殺してなんかいねえ。ゴミ掃除をしただけだ」

幼い頃の事件を境に、ハインの価値観は固まってしまった。
それに依ると、テロリストには人間としての最低限の尊厳すら存在しない。

从 ゚∀从「ボランティアみたいなもんだな。ああ、軍から金は貰ってるから清掃の仕事が正しいか」

この台詞が冗談ではなく心からのものなのだから、ジョルジュは頭を抱えたくなる。

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:50:28 ID:KIHi1AcEO
  _
( ゚∀゚)「お前の気持ちは分かる、俺だって憎いのは同じだ。だが、あいつは復讐を望むような人では」

从 ゚∀从「黙れ」
  _
( ゚∀゚)「黙らない! 俺はお前の父親だ! 娘が間違っているのなら――」

从 ゚∀从「黙れっ!! 無駄なんだよ。母さんを守れなかったお前の言葉は、決して俺には届かない」
  _
( ゚∀゚)「……ハイン」

从 ゚∀从「お前の正論ぶった耳当たりのいい台詞では、俺の心には響かないんだよ」
  _
( ゚∀゚)「それでも、俺は」

从 ゚∀从「この話は終わりだ。平行線はどこまでいっても交わりはしねえ」

何度目になるのか当人達にも分からない口論を、いつも通りハインが打ち切って終わらせる。

妻と娘を守れなかった罪悪感も働いて、そこまで深い拒絶の色を見せられると、ジョルジュとしても口をつぐむしかなかった。

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:51:46 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「親父も暇じゃないんだろ、それよりも建設的な話をしようぜ」
  _
( ゚∀゚)「そう、だな。色々とお前に伝えなければいけないこともあるしな」

从 ゚∀从「まずは俺からの報告を一点。中東の革命軍とやらに母さんを殺した組織が関与してるってのは、恐らくデマだ」
  _
( ゚∀゚)「なぜそう思った?」

从 ゚∀从「基地を幾つか潰して家捜しをした。協力してる組織に日本のものはなさそうだったよ」

十年前ハインの母を殺した組織は、幼いながらも超能力者である乙女を用意していた。
だから日本の組織だろうとハインは目星をつけている。

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:52:46 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「そもそも仮に尊王攘夷派のやつらの仕業だとしたら、海外と手を組むはずがないしな」

尊王攘夷派は、今のところ最も可能性が高い相手だ。
彼等はまず第一に、神の血族である天皇以外の者が、超常の力を使えるのが気に食わないらしい。

从 ゚∀从「この現代で天皇が神の一族なんて、本気で信じてる国民がどれだけいることやら」
  _
( ゚∀゚)「奴等は、異国人である俺と結婚した彼女が許せなかった、か」

从 ゚∀从「気にかかるのは嫌っているはずの乙女を使ったことだが、毒を持って毒を征すみたいなやつらだからなあ」

これはあくまで仮定の話なので、犯人が分からない以上ハインは、どんなに小さな可能性にも全力で飛び付いて来た。

39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:54:08 ID:KIHi1AcEO
  _
( ゚∀゚)「俺からお前に伝えることはあれだ、お前を呼び戻した理由でもあるのだが」

从 ゚∀从「乙女学府に入れってこったろ?」
  _
( ゚∀゚)「お見通しって訳か」

从 ゚∀从「お上からの圧力だろ。それで建前はなんて?」
  _
( ゚∀゚)「海外で非人道的な手段を用いて、乙女を作り出す実験がされているのは知っているな」

从 ゚∀从「暗黙の了解ってやつだな。日本人女性以外で乙女になれた例は今んとこねえってのに、なんにせよ胸っ糞の悪い話だ」
  _
( ゚∀゚)「そして乙女が産んだ女児は、乙女になることも知っているな」

从 ゚∀从「当然だ、俺は母さんから力を貰ったんだからよ。この髪も母さんのもののままだったら……」

ハインの曾祖母にあたる人物が被曝した際、DNA変化により現れた現象の一つが、黒髪から赤髪への転換だった。
それ以来彼女の力を受け継ぐ者は、女児を出産して力を受け渡すまで、紅蓮の髪を宿すこととなる。

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:55:31 ID:KIHi1AcEO
  _
( ゚∀゚)「だがお前は純粋な日本人じゃない。ハーフだ」

从 ゚∀从「つまり海外は日本人女性じゃない乙女、俺のDNA情報を喉から手が出る程欲しがってる訳だな」
  _
( ゚∀゚)「お前を海外から守る、っていうのがその建前になる」

从 ゚∀从「本音は?」
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( ゚∀゚)「……怖いんだろうさ。俺とお前が日本を裏切るのが」

从 ゚∀从「なるほど(ザ・ワールド)。親父の母国なら、俺も親父も簡単に国籍を取得できるもんな」
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( ゚∀゚)「今なるほどザワールドとかいわなかったか?」

从 ゚∀从「なにいってんだよ。俺は十五だぜ? 俺が産まれた年に丁度終わった番組を、知っているはずないだろう」
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( ゚∀゚)「それもそうだな。……あれ、なんでそんな詳しく」

从*゚∀从「トランプマンの衣装がキンキラキンで格好いいことなんて全然知らねえよ、チクショーかっけえなっ!」
  _
(;゚∀゚)「そしてまさかのトランプマンファン!?」

ハインが真面目な話を長時間続けられないのは母親譲りだなと、ジョルジュは少し微笑ましくなる。

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:56:54 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「冗談は置くとして、さてどうしたもんかね」
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( ゚∀゚)「圧力といってもお前が気にする必要はないぞ。娘一人を匿うぐらいの力は、俺だって持っているんだからな!」

从 ゚∀从「やっぱ俺いくわ。乙女学府に」
  _
( ゚∀゚)「わーお、あっさり」

从 ゚∀从「冗談でいってんじゃねえぜ。学府でトップクラスの生徒となれば、色々便宜を計ってもらえるらしいからよ」
  _
( ゚∀゚)「…………」

結局は、母の仇討ちを果たすのに有効かどうか、それしかハインの眼中には存在しない。

まるで十年前のあの日から時が止まってしまったように、彼女の生き方は少しもぶれない。

42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 21:58:34 ID:KIHi1AcEO
  _
( ゚∀゚)「ハイン、俺は昔お前の母に尋ねたことがあったんだよ。なんでそんな力があるんだろうなって」

从 ゚∀从「なんだよいきなり」
  _
( ゚∀゚)「それで彼女はなんて答えたと思う? 在り来たりだけど大切な人を守るため、だとさ」

紅の髪に、自分の血と返り血で全身を朱に染め上げて、弱々しく笑いながら語る女性。
その言葉の返答を貰ったときジョルジュは、彼女が守る誰かの分、自分が彼女を守ってあげたいと思った。
  _
( ゚∀゚)「お前の振り上げた拳は簡単に人を殺せる。だが、人を救うことができるのも忘れるな」

从 -∀从「……説法か?」
  _
( ゚∀゚)「敵を倒して結果的に誰かを助けたのと、誰かを助けるために敵を倒すのは別物ってことだよ」

从 ゚∀从「分かった、一応心には留めておいてやるよ」

ハインには言葉遊びのようにしか聞こえなかったが、ジョルジュの言葉に母の姿が重なって見えた気がした。


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43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:00:26 ID:KIHi1AcEO
かつて広島市と呼ばれた地に存在する乙女学府は、日本という国において最も特殊な場所といっても過言ではないだろう。

表向きは乙女が犯罪等を犯さないように教育する養成所として知られ、ここを卒業した者は一般社会でも強い信用を得られる。

だが実際のところは国が厳しく監視し、能力強化を重点として乙女達を競い合わせている戦場。

――通称、地獄の花園と呼ばれる。

从 ゚∀从「ここが乙女学府か」

三等分されたエンブレムが輝く黒塗りの車に護送されて、ハインは自分の背丈の二倍以上もある、アーチ状の校門前へと届けられた。

从 ゚∀从 (それにしてもあの車は乗り心地よかったな。今後はあの車種オンリーにしよう)

などと、セレブリティ爆発なことを考えていると、門が自動で開いた。

从 ゚∀从「こんなだだっ広いのに、案内とかないのか? 不親切なことこの上ないな」

過去の広島市と比べれば数分の一程度の面積しかないとはいえ、小さな村ぐらいには広い。

この中で学府の中枢である、乙女学院を探すのはなかなかくたびれるに違いないだろう。

从 ゚∀从「ぶつくさいっても始まらねえか」

自分の足で適当に探すかと、ハインはのんびり歩を進めることにした。

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:05:19 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「もっと殺風景な場所だと思っていたんだが」

近代化したビル群は学府の入口付近にしか存在せず、石畳の遊歩道をしばらく進むと多くの緑が目に入った。

道端では花が鮮やかに色付き、街路樹は微風に揺れ爽やかな葉擦れの旋律を奏でる。
ふと立ち寄った公園では噴水が虹を描いていた。

――あまりにも平和だ。

ハインは気を張り巡らせている自分が、どうにも浮いた存在であるかのように感じてしまう。

从 ゚∀从「馴染めねえ。俺がこんなん着てるだけでも違和感バリバリだってのによ」

現在ハインが身に着けているのは、特殊な繊維で編み込まれた戦闘用の強化服だ。
という具合に条件だけに焦点を当てれば物々しいが、外見はブレザータイプの可愛らしい学生服になっている。

ここが普通の学校であれば、制服目当てで入学する女生徒も現れそうな程、装飾を凝らした逸品である。

45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:07:25 ID:KIHi1AcEO
ハインはスカートの裾に手を伸ばし、やおらに摘んでみた。
すると膝の辺りを不意にくすぐられたような感触を受ける。

从*>∀从「ひうっ!? なんだってスカートってやつは、こんなにもはき心地が悪いんだ」

制服の表面は高級な布地で作られており、肌触りがとてもよい。
子供の頃以来スカートなどはくことのなかったハインにとっては、むしろそれがくすぐったくて仕方ない。

从 ゚∀从「だいたいペチコートってなんだよ。どこのお嬢様だよ俺ぁ」

大手会社の社長令嬢ともなれば本当にお嬢様なのだが、当の本人には一切そういう自覚がなかった。

長らく戦場を転々としていた影響なのか、それとも元来の気性なのか、むしろ粗野なぐらいが楽でいいとハイン自身は感じている。

从 ゚∀从「つうか、ここが本当に地獄の花園か? イメージとなんか違うんだけど」

想像力豊かな十五歳の少女の妄想では、
公園の噴水に浮かぶ白蓮は血を吸って紅に染まり、そこらには闘いに敗れた乙女が死屍累々と転がっている。

つまりは地獄絵図を思い描いていた。

それはただの妄想というだけではなく、鮮明な現実として、近い光景を戦地で目撃したこともある。

戦死した兵士の身ぐるみを剥ぐ子供を。
地雷を踏んで絶命した幼子の墓穴を掘る老人を。

そして、こんな人っ子一人いないゴーストタウンを。

46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:08:39 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「いや待て! なんで俺は誰にも出会ってないんだ?」

学府内には乙女以外にも生活している人はいる。
その多くは学府の関係者だったりするのだが、少なくとも衣食住に関係する建物ぐらいは存在した。

从 ゚∀从「まばらにだが飲食店や住宅は確かにある。なら、なんだ――っ!?」

その疑問に対する答えとでもいわんばかりに、近くで地響きと共に土煙が上がった。
ハインは深く考える間もなく、本能に従って騒ぎの元へと駆け出す。

从 ゚∀从「ったく、なんだってんだよ!」


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47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:09:46 ID:KIHi1AcEO
ζ(゚ー゚;ζ「うくぅっ!? はあ、はあ……」

*(‘‘)*「弱いくせに調子に乗ってるからそうなるのよ」

⌒*リ´・-・リ「ヘリカル、ちょっとやり過ぎじゃないかな?」

*(‘‘)*「やり過ぎなんてことあるもんですか! こいつは私達のお姉様に色目を使って」

ζ(゚ー゚;ζ「色目なんて、向こうが勝手に――」

*(‘‘)*「色目を使っていないなら、お姉様があんたなんか相手にするものですか!」

ヘリカルと呼ばれた少女は、右手に持った片手剣を掲げる。
装飾過多で実用性より宝剣としての趣が強い剣だが、刀身に纏う威圧感は本物だ。

殺気を向けられた少女、デレは身をよじって逃げようとするが、それすらかなわない。

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:11:29 ID:KIHi1AcEO
*(‘‘)*「リリ、ちゃんと止めてるんでしょうね」

⌒*リ´・-・リ「まあ、一応やってるよ。本当はこういうの僕の趣味じゃないんだけど」

*(‘‘)*「趣味も何もないわ。こんな弱っちい子にお姉様を盗られてもいいの?」

⌒*リ´・-・リ「盗られるって。僕はそっちの気ないし、ただ従姉妹が増えるだけだよ」

*(‘‘)*「あーもー! 友達甲斐がないわねえ」

⌒*リ´・-・リ「友達だから、私怨に付き合ってやってるんじゃないか」

*(////)*「バカっ! 真顔でそういうこと言わないで頂戴」

ζ(゚ー゚*ζ「では、私はそろそろこの辺で――」

*(‘‘)*「おっと、逃がさないわよ。そうね、貴女には身体に消えない傷を残した後、裸にひん剥いて道端にでも吊してあげるわ」

*(‘‘)*「二度と変な気を起こさないように、ねえっ!」

天高く伸びた宝剣が、無慈悲に振り下ろされる。
身動き一つとれないデレは、目を強く閉じるので精一杯だった。

49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:12:51 ID:KIHi1AcEO
ζ(゚ー゚*ζ「……あ、れ?」

いつまでも襲ってこない衝撃に、デレが恐る恐るまぶたを上げると、目に入ったのは燃えるような紅蓮。

从 ゚∀从「ここの流儀は知らねえけどよ、多対一っていうのはどうも好きじゃねえ」

一人の見知らぬ少女がデレを庇うように立ち塞がり、ブレザーのポケットに両手を突っ込んだまま足先で剣を受け止めていた。

*(‘‘)*「な、なによ、あんた」

从 ゚∀从「ごめんあそばせっと!」

紅蓮の少女ハインは、靴で押しとどめていた宝剣を、ただ力任せに蹴り返す。

*(;‘‘)*「きゃっ!?」

あまりの反発力にヘリカルは尻餅をついてしまい、勢いよく跳ね返った剣は後方の大地へと突き刺さる。

何が起こったのか理解したときには、すでにヘリカルは大股開きの屈辱的な格好をさせられていた。

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:14:38 ID:KIHi1AcEO
*(;‘‘)*「くっ! リリ、デレはいいからそこの赤いのを止めて!」

⌒*リ´・-・リ「分かってるよ!」

止めるとはどういう意味だと、ハインはリリを注意深く観察する。
相手も超能力者である乙女だ、どんな物理法則を超越した力を持っているか分からない。

すると、リリの足下に存在する影が面積を縦に伸して、大地を浸食し始める。
影という二次元の世界でそれは生を吹き込まれたように動き、ハインの影に纏わりつき羽交締めにした。

从 ゚∀从「おお? なんだこりゃ」

締められているのはあくまでも影だ。
であるにも関わらず、なぜかハインは思うように身体を動かすことができない。

*(‘‘)*「ふふ、かかったわね。どこの誰か知らないけど、私達に喧嘩を売ろうなんていい度胸じゃない」

ヘリカルは嗜虐的な笑みを見せ、罠にかかった獲物を品定めするようにハインに歩み寄る。

いつの間にか地面に突き刺さっていた宝剣は消え失せ、彼女の手には先程とは別の宝剣が握られていた。

51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:15:30 ID:KIHi1AcEO
*(‘‘)*「リリの裏世界の住人と私の宝剣職人、この二つで私達は無敵なの」

从 ゚∀从「あのよ、ベラベラと馬鹿みたいにおしゃべりすんのは勝手だが、そんな無防備に近付いていいのか?」

*(*‘‘)*「無防備? ふふ、あははははは! 無防備なのは貴女の方でしょうが!」

从 ゚∀从「いいならいいけどよ、そこはもう俺のレンジ内だぜ!」

*(;‘‘)*「――うげぇっ!?」

今もなお影で縛られ続けているはずのハインの拳が、ヘリカルの鳩尾に深くめり込んだ。

52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:16:54 ID:KIHi1AcEO
*(;‘‘)*「お、おええええぇぇぇ!!」

⌒*リ;´・-・リ「ヘリカル!? なんで、僕はちゃんと止めているはずなのに!」

从 ゚∀从「知らねえよ。確かにちょっと動き辛いけど、この程度なんでもねえ」

⌒*リ´・-・リ「名も知られていない乙女が、僕の神威を上回るなんて」

从 ゚∀从「見知らぬのは当然だろ。なんつっても俺は今日学府に入学したんだからな」

ハインは紅に輝く、絹のように柔らかい頭髪を翻し、一歩一歩リリとの距離を詰める。

⌒*リ;´・-・リ「くうっ!」

从 ゚∀从「別に鬼じゃあるまいし、取って喰いやしねえよ。……そこの馬鹿を連れて尻尾巻いて逃げるならな」

⌒*リ´・-・リ「選択肢はなし、か。ここは退かせてもらうよ」

怨恨の籠った瞳でヘリカルはこちらをねめつけるが、退き際はわきまえているのか、リリに肩を借りて一も二もなく去っていった。

53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:18:23 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「さてと、乙女学院はどっちかねえ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、あの!」

从 ゚∀从「ああ? あー、そういえばなんかお前やられてたんだっけ」

ζ(゚ー゚*ζ「あの、ありがとうございました」

从 ゚∀从「気にすんな。俺は多対一という条件が気に入らなかっただけで、お前を助ける気なんて微塵もなかったんだからよ」

ζ(゚ー゚*ζ「例えそうだとしても、それでも、私は運命を感じたんです!」

デレは瞳を潤ませ頬を紅潮させながら、ハインの側へと寄ってくる。

从 ゚∀从「運命?」

ζ(^ー^*ζ「はい。ついに見つけました……私のお姉様っ!!」

从*-∀从「むぐぅ!?」

眼前一杯にデレの顔が広がったかと思った次の瞬間、ハインの唇に柔らかくて弾力のある、みずみずしい何かが押しつけられていた。

54 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:19:34 ID:KIHi1AcEO
从////从「むーむー!!」

ζ(////*ζ「おねぇ、ふぁま……」

正体不明のぬめった生暖かい何かはハインの唇をこじ開け、強引に口内へ侵入してくる。
歯茎をなぞりあげ、軟口蓋をつつき、水音を立てながら舌に絡み付いた。

粘膜と粘膜が擦れ合い、腰の抜けるような快感を生み出しながら、互いの口内を熱い液体が行き来する。

ファーストキスはレモン味などという例え話も世にはあるが、デレは口を切っていたのか、



ハインの初めては鉄の味がした。


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55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:21:00 ID:KIHi1AcEO
从 -∀从「はあ、入学初日からなんか疲れたな」

ハインは制服を適当に着崩し、ベッドへ仰向けに倒れ込む。

あてがわれたのは六畳一間の何の変哲もない部屋だ。
学府にはいくつかの寮が存在するのだが、特に高い成績を収めておらず、どの勢力にも属していない者はここへ案内されるらしい。

从 ゚∀从「安っぽい部屋だって聞いたけど、なかなかいいベッドじゃん」

从 -∀从「ふあぁ、なんか眠くなってきた……」

長時間のフライトにジョルジュとの会談、更にまた広島空港まで飛行機で飛んで、学府への車移動。
そしてヘリカル達とやり合って、なぜかファーストキスまで奪われて、検査されて、学府の基本的な説明を受けて。

戦場で十分な睡眠を取らず闘うことがざらにあったハインでも、さすがに今日ばかりは疲弊していた。

从 -∀从「もうこのまま寝てもいいよな? おやすみ……」

まぶたが自然と重くなり、意識が暗闇へと落ちていく。

56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:22:20 ID:KIHi1AcEO
正に眠りにつこうとしているその瞬間、無遠慮にもドアをノックする音が響いた。

从 ゚∀从「――開いてるから入ってきて構わんぞ」

ハインは警戒心を強め、急ぎ頭を覚醒させる。
部屋の外へ向けて声をかけると、扉の向こうから現れたのは、

o川*゚ー゚)o「こんちまたまた。いやあ、こちらが新入生さんのお部屋っすかねえ?」

見知らぬ人物だった。

从 ゚∀从「誰だ、お前」

o川*゚ー゚)o「そんな怖い顔なさらずに。自分はここの寮生の代表をやらせてもらってるキュートっていいます、以後よろしくっす!」

从 ゚∀从「無所属、低成績の代表か」

o川*゚ー゚)o「あう、耳が痛いお言葉で。でもうちみたいな低成績寮は数多くあるんすけどねー」

o川*゚ー゚)o「中には高成績でも、長年住んでる寮が気に入ってるからって出ていかない人もいるんすよ?」

从 ゚∀从「それがお前だと」

o川*^ー^)o「にゅふふ、それはどうっすかね。まあ上を目指す気概があるなら、そのうち自分とも闘ることになると思いますけど」

その笑みは暗に答えを物語っていた。

57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/26(木) 22:24:55 ID:KIHi1AcEO
从 ゚∀从「そんで、用は挨拶に来ただけか」

o川*゚ー゚)o「そうっすけど、……帰る前に一つご忠告を」

キュートの人懐っこい柔和な顔が引き締まる、まるでここからが本題といわんばかりに。

o川*゚ー゚)o「――制服のまま寝ると皺になって大変っすよ」

从;゚∀从「そんなことかよ!」

o川*゚ー゚)o「いやいや、マジで大変なんすよ? 自分も昔それでくしゃくしゃにしてしまいましてね」

从 ゚∀从「わかったよ、ちゃんと着替えて寝ることにする」

o川*^ー^)o「そいつは何よりで。では今宵はここらでおさらばっす、新入生さん」

来客が去り、静寂が戻った部屋でハインは一人ため息を漏らした。

从 -∀从「寝る気分じゃなくなっちまったな……」

从 ゚∀从「とりあえず日課の筋トレでもするかね」



第二話 完


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