- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/11/11(金) 04:06:54 ID:984SgHBY0
- ※注意
このお話は、徐々にブーン系小説に『なっていく』物語です。
そのため幾つか事前にお知らせしたいことがあります。
1:地の文多め
というかほぼ地の文です。苦手な方は無理して読まないでね。
2:オリジナルキャラが登場
ブーン系の『お外』のキャラは苗字のみの表記をしています。見つけても怒らないでね。
3:フィックション!!
僕自身は右も左もあんまり分かってません。そもそも鳥じゃねーし。
4:拙い
堪忍してやぁ……。
5:超不定期更新
堪忍や、堪忍やでぇ……。
以上が許せる方で、更に時間がある方で構いませんので
是非読んであげてください。では。
- 2 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:08:34 ID:984SgHBY0
- ――天城 茎太郎
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトヨンマルニ 14:02
『今より三年前、我が国はその国土を失いました。その引き金になったのがこの八月二十三日――』
でっぷりとした腹を抱えた男性将校が、その体を軍服という権力で身を包み壇上でスピーチをしている。
無論その言葉は僕ら新兵となる大馬鹿野朗共に向けられたものだ。
あの醜く膨れ上がった体躯で戦場を駆けることは無いのだろう。彼は安全圏にしかその身を置かないつもりなのだ。
胸にはその安全圏から悠々と勝ち取ったであろう勲章がギラ付いている。
その将校の頭上には【環東戦術機構軍入隊式】と書かれた横断幕が虹のように掲げられ、
左右には【入隊おめでとう】などとアホらしい垂れ幕がぶら下がっていた。
更にアホらしいことに、壇上の端にはマスコットだかなんだか知らないが、3m程の白いずんぐりとした着ぐるみが配置されている。
あんなもので僕らの気を和らげようとしているのだろうか。
どっかりとした円錐状の足はシャンプーの容器のような括れの無い胴に直結している。
腕はこれまた円錐状で太く、足元に届くほどダラリと長く垂れていた。
これでは仮に中に人間が入っているとしても満足に動かせないだろう。
頭と思しき部分には、苛立ちを助長させる以外の機能があるとは思えないニヤけ顔がくっ付いている。
- 3 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:09:32 ID:984SgHBY0
( ^ω^)
それがピクリともせず、ただ猫背のまま壇上から僕を見下ろしていた。
- 4 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:10:38 ID:984SgHBY0
- 現在は不要になった中学校を新兵用の士官学校として改装したこの環戦軍那覇基地の体育館。
そこに敷き詰められた新兵60人。
誰もが緊張を顔に貼り付けながら粛々とスピーチに耳を傾けている。
あのぬいぐるみに誰一人として疑問を口にすることなく、ただ只管口を噤み、眼前だけを睨む。
それもその筈、僕らの周りには銃を持った、実際に戦場を駆け抜けるタイプの兵士が四・五人程その眼を光らせていた。
粗相をしたら殺されるかもしれない。
そう思わせる迫力が、彼らと、彼らの持つ人殺しの道具から漂っていた。
咳の一つ、瞬きの一つですら、その引き金を引く要因になり得るかもしれない。
恐らく、殆どの新兵はそう考えている筈だ。
嫌な緊張感から汗が吹き出る。眼鏡が滑る。ズレる。
ピントが合わなくなる。
だがそのズレすら直せない。怖いのだ。
それが本当に、“引鉄”になりかねない。シャレとしても三流以下だ。
なんとなく、昔からそうだったなと、頭の中で苦笑する。
- 5 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:12:07 ID:984SgHBY0
ぼやけた視界を目の動きだけで泳がせる。
主賓席というのだろうか。僕らのパイプ椅子がキッチリと隙間無く並べられている右前方には、
壇上の軍人と同じく軍服で身を包んだ数人が水などを飲みながら談笑している。
まるでスピーチにも、使い捨てであろう僕らにも興味が無い様に。
その中で一人だけ、そうただ一人の女の将校だけは
睨眼上げるように整然と据えられた襤褸椅子に整然と腰掛ける僕らを見ていた。
モザイクが掛かったかのように不安定な視界の中、その女だけはハッキリと僕の視界の中、像を成していた。
まるで品定め。
八百屋の軒先に並ぶ南瓜の群れから、中身のつまったものを選別する時のような。
ペットショップのケースの外から、一番長生きしそうな子犬を選ぶ時のような。
そんな眼を女はしていた。
思わず眼が合わないように壇上に視線を戻してしまう。
あの眼を見たら、死線を越えさせられる気がしたんだ。
戦場に送られる。
軍人ならば当たり前の事だが、あの女を見ているとそれがとても、耐え難い羞恥に思えた。
僕は、三年前のあの日、いやそれよりもっと以前から、人が
――怖い。
- 6 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:13:05 ID:984SgHBY0
殺すのも、殺されるのも、怖い。
戦時下でも変わらない。変われない。だから誰か僕と代わってくれ。
天城「助けてくれ」
自分の口からそう零れた気がして、僕は慌てて口を真一文字に結んだ。
周りを見渡す。銃を構えた先輩達が一斉にこちらを睨みつけている錯覚すらした。
しかしこの世界に比べても、あからさまに小さな体育館という空間ですら、僕という個人に興味が無いように、
先程と変わらない様子が続いていた。
昔から思ったことがすぐ口にでる事があった。
いや、喋りながら考える癖というか、ともかくそういう悪癖が僕の中に存在していた。
中学生の頃、駅前に居を構える(もちろん無許可だが)ホームレスに襲われたことがある。
爪の先まで真っ黒に垢を溜めた、薄汚いを通り越して不潔な老人に向かって、可哀想、と呟いてしまったのだ。
その瞬間生きる気力も無いような、弱弱しい体からは考えられないような俊敏な動きで、彼は僕の首を捕らえた。
ただの片手一本に喉下を締め上げられているだけにも関わらず、微動だに出来なかったことを覚えている。
徐々に帳を下ろす視界の中で僕は聞いた。
「ガキが、俺に同情するな」
- 7 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:14:02 ID:984SgHBY0
『我々日本人の魂は不滅となり、現状存在を塗り替えられた我が国を、その困難より救い出し――』
――日本人の魂。
そんなもの、三年前の今日よりも、もっと前から無かったんだ。
僕がホームレスに殺されかける前から
僕らはずっと、誰かに飼われていた。
そして、ただ、すこし前にその飼い主が代わった。
- 8 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:15:19 ID:984SgHBY0
( ^ω^)「Long Long Ago のようです」
原作:機動旅団八福神 著:ツン荷台教信者
第一話 『晴天ノ霹靂』
- 9 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:17:18 ID:984SgHBY0
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトヨンニィニィ 14:22
「あれ、なんだろう」
三年前の今日、沖縄にその人工の災厄は突如飛来した。
その災厄を乗せた数機の不審機影は沖縄市の上空を悠然と通過した。
米軍基地がある沖縄市の上空である。
にも拘らず誰も、何もしなかった。
いや、何もしなかったというと語弊がある。
もちろんその不審機影の存在は米軍、そして日本政府の一部は把握していた。
それが沖縄に到達する以前にである。
更にその不審機影をどうするかの話し合いの場まで持たれた。
だが、それだけである。
その電話越し、ネット越しの議会の間に、沖縄市は死んだ。
機影から投下されたのは、八つの金属のボールである。
そのボールは沖縄市の一部と米軍キャンプ瑞慶覧を囲むように
縦10キロ、横10キロ、高さ500メートルの直方体を形成すべく、それぞれの頂点部分に向かって自律制御の下動き出した。
ボールの大きさは半径2m程度の真球形。そんな物が地上に四つ、上空に四つ配置されたのだ。
しかし沖縄人、いや日本人は不審に思わなかった。
いや、不審に思ったにしろ、だから何をする訳でもなく、ただそのありえない人工物を眺めるだけだった。
中には何かのイベントだと思った人もいるだろう。
あるいは米軍の新兵器だ! と面白がって近づいた若者もいただろう。
もしくは、そんなものに眼もくれず、日常を楽しむ親子もいたのかも知れない。
そして起動音。
- 10 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:19:00 ID:984SgHBY0
- ――西暦2015年 八月二十三日 ―ヒトフタイチサン〜ヒトフタイチゴ 12:13〜12:15
沖縄市は電子レンジの中にいた。
まず、木々が炭化した。青々と茂る街路樹は残らず焼け落ちた。
次に、生物が沸騰した。
ブクブクと皮膚の下が泡立ち、ぱちん、とその泡が弾けると
中から脂肪とか筋肉とか血液とか、つまりは生体の内容物がごちゃ混ぜになったものが噴出した。
やがて噴出すものがなくなると徐々に黒ずんでいき、最終的には木々と同じ。炭化した。
電子機器は例外なく全て火花を撒き散らしぶっ壊れた。
街灯や車などの鉄は赤熱化するものまであった。
次々に死体が出来た。
いや、出来たのは死体だけではない。
阿鼻、叫喚、人々の叫びの渦は火の粉と共に巻上げられ、五百億立方メートル内を満たした。
即席の地獄が、出来上がった。
- 11 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」[sage] 投稿日:2011/11/11(金) 04:20:16 ID:984SgHBY0
体内が沸騰し、体外が焼け焦げる。
眼球を満たす水分は瞬く間に蒸発して破裂する。
下腹部が不自然な程盛り上がったかと思うと、肛門から赤黒い何かを間欠泉の様に噴出す。
辺り一面に漂う香りは、ステーキに酷似していた。
死ぬ。
死ぬ。
死に悶える。
苦しむ。
苦しむ。
苦しみもがく。
殺される。
殺される。
殺されきる。
見えない箱を不可視の悪魔が飛び交い、可視の煉獄を創造する。
史上最悪の大虐殺だった。
- 12 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」[sage] 投稿日:2011/11/11(金) 04:22:32 ID:984SgHBY0
- 二分後、範囲内99・99%の生物が死に絶えた後に、その八つの球体は満足したかのように機能を停止。
ご丁寧に自爆。爆散した。
後に【ナインフォーデッド】と呼ばれる戦後初めての日本に対する国土侵略の始まりだった。
【明けの明星】と呼称されることになった八つの球体――ハイテク兵器を投下したのは、中華人民共和国。
現在の亜細亜共栄連邦である。
僕がまだ幼かった頃。参戦権だか、憲法9条だかのニュース番組の内容が何故か色濃く残っている。
日本は米国が守ってくれるから核武装は必要ない。
自国を必要最低限守るだけの自衛隊があればいい。
戦争反対。
アメリカ万歳。
きっと戦争なんて、僕らが死ぬまで起こりませんよ。
全部、嘘だった。
中国は沖縄市に投下した最新兵器によって混乱した本土に対し、次は単純な爆撃を繰り返した。
先の【明けの明星】の投下により、日本の防衛網が非常に愚鈍であることが露呈し、科学の発展した今日でも
旧時代的な侵略行為は未だ有効であるとの判断を下されたのだろう。
特に自衛隊基地・米軍基地周辺は念入りに焦土にした。
【明けの明星】での大量虐殺によって酷く混乱した政府、米軍はほぼ何の対処も取れず、
ただ呆然とまるで雨でも受けるように多数の爆弾を受け入れた。
もちろんその過程で幾つかの中国の爆撃機は撃墜した。
議会の決議を待たずして基地を飛び出した米軍・自衛隊空軍が奮闘したのだ。
ただ、それすらも遅すぎた。
最早焼け石に水。
そもそも爆撃によって殆どの軍基地は壊滅していたし、物量的にも中国の兵器数の方が日本本土にある全兵器の何十倍も勝っていた。
死に体の日本は米国に、世界に見捨てられた。
- 13 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:24:19 ID:984SgHBY0
初めこそ中国対日米の形を取っていたが、
中国、米国両者ともに核保有国であるが故に
両国共に核爆撃による壊滅の泥沼シナリオを回避したかった米国は
やがて日本の了解を得ずに停戦の議会の場を設けた。
【ナインフォーデッド】から一年半後の事である。
その議会の場で、日本は中国に差し出された。戦争を終わらせる供物として。
約72年振りに日本は“敗戦”した。
こうして日中戦争は終結し、日本は中国の属国となった。
そして2018年現在、日本人口約7000万人は、一縷の希望も無いまま、ただ生きていた。
――いや、最早日本という国は消滅した。故に日本人は、死に絶えたのだ。
- 14 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:26:41 ID:984SgHBY0
2017年春には日本と中国との挟撃によって朝鮮半島の全てを掌握。
2018初頭に、中国・朝鮮・日本の三カ国に加え、東南アジアの幾つかの国を従えて、【亜細亜共栄連邦】が成立した。
その勢いのままロシアと、米国への牽制の意味合いを込めて東亜露共同防衛条約が結ばれた。
米国は日米安全保障条約を破り、日本をスケープゴートとした事から信用を失い始め、
その覇権の座をを亜細亜共栄連邦へと明け渡す形になるもの間近である、とこの出来立ての国の軍部、そして政府はもっぱら噂している。
と同時に、必ずや米国は世界の中心のポジションを守るべく総力戦を仕掛けてくるとも。
つまり、第三次世界大戦の開戦の風潮が、間違いなく高まってきていた。
そしてかつての日本、現【極東支部国】は徴兵を開始。
既に基礎の出来上がっている自衛隊を中心に、兵士を生産し始めた。
今日この体育館にて糞真面目に下らないスピーチを聞いているフリをしている僕らこそ、
その徴兵された訓練兵第三号。
自衛隊ではなく、ただの素人の寄せ集めで出来た、【環東戦術機構軍】に組み込まれる。
- 15 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:28:15 ID:984SgHBY0
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトヨンニィハチ 14:28
『君達の入隊を心より歓迎します。今から三ヶ月は訓練兵として精進と鍛錬に励み
そこにいる彼らのように立派な兵士となってくれる事を切に願います』
――豚将校の長いスピーチはその言葉で締めくくられた。
さも満足げに壇上を降り、主賓席へと腰を下ろす。添えられた水を一気に飲み干すと、脂ぎった額を一度ハンカチで拭いた。
???「あれ、さ」
天城「……はい?」
???「あれ、可愛いね」
不意に隣の席から小声で語りかけられる。
首は動かさず、視線のみ右方向へ動かした。
ついでにサッと眼鏡も直した。
少女が座っていた。
僕の肩程に頭の天辺が位置している。
ハッキリ言って、ここに座る以前から気になっていた。
小学校を改装した基地の一角で入隊式の説明を受けている時から、場違いな存在感を振りまいていたから。
別に女性が軍に入る事に対しての物珍しさじゃない。
現に主賓席には目つきの悪い女将校が座っている。
だた、この隣の少女は、なんというか、あまりにも脆弱そうだった。
昔、母に買ってもらったお菓子のおまけのちゃちい人形を想起させる。
戦場で役に立たないこと間違いなしの体躯だし、顔も何処と無く間抜けだった。
口は半開きで、未だ垂れ幕の下微動だにしない着ぐるみを見つめている。
髪の色は薄気味悪く黄緑と白が混ざった様な色で、軍に入る前はパンクロッカーかなにかだったのかなと思った。
軍規上、女子・男子共に黒髪、ショートカットが義務付けられてるこの式場で、少女の存在は否応無く浮いていた。
オセロだったら確実に逆転不可能。というかオセロのルールに習って黒髪に変化すべき状況だった。
そんなふわりと浮いている印象だからこそ脆弱に見えた。良く言えば“儚い”んだろうけど、
この形容はこれから戦争する人間には必要ない。
やはり、脆弱というのが正しい。
少女は尚も続ける。
- 16 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:29:41 ID:984SgHBY0
少女「顔がね、ブーンに似てる」
天城「ブーン?」
少女「施設のね、外の犬。フェンス越しだけど、飼ってたの」
天城「静かにしたほうがいいよ」
少女「ブーン、ブーンって鳴くの。犬なのにね。面白かった」
天城「ほら、睨んでる」
少女「平気、あたし、そういうんじゃないから」
天城「……」
それきり僕は黙る。会話が成り立ってるようで成り立っていない。
不毛なやり取りだし、何より銃を携帯する兵士の視線がこちらを向いているように感じてならなかったからだ。
『続きまして、連邦大使の張泉民のご挨さ――』
- 17 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:30:32 ID:984SgHBY0
- 音は、無かった。
銃撃の音も、爆撃特有のあの撃ち上がる花火のような音も。
ただ突然に、体育館の天井が爆ぜた。
爆風により、僕ら新兵はただ一人の例外なくパイプ椅子から投げ出される。
転げながら仰ぎ見る天井は左前部がごっそりと無くなっていて、入隊式日和だと言わんばかりの晴天が覗いていた。
ヒンッと一際高い音と細長い黒影がが僕の頭上を通りすぎる。
次に聞こえたのはがり、とも、ごり、とも付かない奇妙な音で。継いでゴボボという水音に紛れた濁った悲鳴が聞こえた。
尻餅の状態から、自分の後方を見るために四つん這いになる。
そこには、吹き飛んだ鉄骨に腹部を貫かれ、壁に縫い付けられるよう串刺しになった兵士の姿があった。
携帯していた銃は何の役にも立たなかったようで、地面に死体が如く転がっていた。
内臓、肋骨、背骨、ありとあらゆる体内機関を寸断し、鉄骨は彼から生える。
口からは湧き水のように滾々と血が吹き出し、ゴボゴボという音を立てていた。
- 18 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:31:32 ID:984SgHBY0
『退避ィ!!』
大使のスピーチの代わりに響くのは避難警報と退避命令。
「やべぇぞ!」
「逃げろ!」
「オイオイ戦場に出る前に死ねるかよ!」
「やだ、やだぁ」
「新兵共、取り乱すな! 速やかにここから出ろぉ!」
「火災! 報告!」
「各員持ち場に配置!」
『警戒発令! 基地内にて105発生!』
その喧騒の中、僕は、死体になりつつある彼から目を離せなかった。
新兵は逃げ惑い、将校たちはいの一番に安全な場所へと導かれる。
狭い出口に向かって、他者を蹴り飛ばし、なじり、そうやって己のみの保身を望み駆ける。
頭上から落ちてきた瓦礫に潰された者がいる。
転げた際に、他者に脚を踏み砕かれた者がいる。
炎が燃え移り、叫び、暴れる者がいる。
その中で、僕は目の前の【オブジェ】を見つめていた。
- 19 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:32:25 ID:984SgHBY0
ぎしり。
気付けば奥歯をコレでもかと噛み締め、痛いくらいだった。
失禁してないのが幸運に思えるほど僕の腹の内は震えていた。
天城「これは、夢か?」
また、口から漏れる。驚くほど震えていた。
夢でないことは、この熱気と、モノが焼ける臭気とが十分主張している。
にも関わらず、とりあえず言ってみたという風に僕の口から下らない現実逃避の言葉が紡がれた。
それに気付いた僕はより一層口を硬く結び、眼を見開いたまま得体の知れない渇きに身を支配されていく。
少女「逃げないの?」
磔の彼と睨めっこしていた僕の後頭部に声が掛かる。
その瞬間まるで魔法でも解けたように、自分でも驚く速度で振り返った。
少女「逃げろぉ」
右隣の少女が、炎の中、踊ってた。
- 20 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:33:51 ID:984SgHBY0
- くるくると、ひらひらと、彼女は廻る。
何がそんなに楽しいのか、顔には笑みを浮かべて。
くるくる。
眼を閉じて、体の隅々からこの状況を楽しむ情報を得るように。
ひらひら。
革めて、おもちゃのように見えた。
しなりと伸ばされた腕は枯れ木のように細く、軸にされている脚は柳の枝のように心許無かった。
少女「死ぬぞぅ」
歌うように、そんな事を言う。
その一言に、僕の内情はカッと燃えた。
天城「た、助けないと」
また口から飛び出たのは、自分でもくだらないと思える言葉だった。
少女「誰を?」
天城「あ、あの人」
少女「あれ、死ぬよ?」
天城「でも、なんとかしないと!」
少女「なんとかって、どうするの?」
天城「わかんないよ! で、でもなんとかしないと!」
少女「だから、なんとかってなに?」
天城「わからないって言ってるだろ! でも!」
少女「ふーん。じゃあ、早くしたら?」
少女は死にかけの兵士に対してその白黄緑の髪の毛一本程の興味すら沸かないように、ただ僕を見下ろしていた。
嘲笑するわけでも、同情するわけでも、協力するわけでも、強制するわけでもなく、
ただ淡々と僕を見つめていた。
- 21 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:34:44 ID:984SgHBY0
途端僕の内側が再度熱くなった。どうしてかは分からない。
ただ、この少女の言う通り、あの兵士を死なせてはいけない気がした。
それは非常に悔しいことのように感じたんだ。
天城「くそっ!」
僕は叫んで立ち上がる。
膝は振るえ、普段の二分の一の速度すら出ない。
それでも僕は紅く染まる壁に向かって走り出した。
少女「じゃあね、さよなら」
これが今生の別れであるかの様な挨拶を僕は背中で受け取った。
くそ、くそ、くそっ!
死んでたまるか、死なせてたまるかっ!
徴兵だから仕方なく軍に入って、戦争なんか大嫌いで、人間なんて大嫌いで。
でも、畜生、なんだこれは。
なにがこんなに悔しいんだ。
- 22 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:36:19 ID:984SgHBY0
――内藤 チーコ
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトヨンサンサン 14:33
「内藤」
既に死体となっている壁の物体に走り寄る天城をみてなお、内藤の心中は穏やかだった。
別に彼を哀れだとも思わないし、偽善者とも思わない。内藤は至極冷静の中にいた。
もし仮にここが戦場となるべき場所でなく、ただの一般道で、
そこに苦しんでいる人間がいたら内藤は迷わず助けただろう。
だが現実ここは戦場に成りつつあり、
故に彼女には人の命を救う事よりも重要度の遙かに高い使命が存在していることを理解していた。
ただ、二度自分の姓を呼ばれるまで、彼の背を見つめていたのも事実で。
「内藤」
口をだらしなく半開きにした状態のまま、声の方へ首だけ向ける。
そこには、入隊式中、終始新兵共を睨眼あげ、品定めをするような視線を送っていた女将校が立っていた。
軍人にしてはやや長めのセミロングを肩で切り揃え、前髪はくしゃりと横に流されている。
体躯ははやり軍人にしては細く、その身を包む軍服は拘束具のようにタイトなものであることが分かる。
下半身はやはりタイトなスカートが膝上ぴったりで揃っていて、黒の皮ロングブーツだけが、異様に炎の妖光を反射していた。
内藤「都村さん、やるの?」
都村「軍曹と呼べ」
内藤「ぐんそー! やるでありまするか!」
都村「……まぁ、いい。用意しろ。大丈夫か?」
内藤「やる気は、あります」
都村「結構。……あそこの新兵は何だ?」
内藤「助けるんだって、死体」
都村「気になるのか?」
内藤「いや、全然」
都村「そうか。あちらの処理は私がする。お前は準備だ」
- 23 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:37:56 ID:984SgHBY0
- 都村と呼ばれた女性はそれだけ言うと、腰に据えた小型の通信器具で連絡を入れる。
間髪入れずに飛び込んできた兵員の群れは、彼女と、そして壇上の着ぐるみを素早く運び出した。
内藤「いってきまーす」
ひらひらと手を振る内藤を一頻り見つめると、踵を返し、天城の元へ向かった。
近づくにつれ、天城の叫び声と、そして息絶え絶え――いや、息絶えた男の輪郭がハッキリしてくる。
縋る様に死体の肩を揺する男を見て、例え、あの兵士が生きていたとしてもコイツに救護は任せられないと思った。
一歩半の間合いを残し、尚も叫ぶ男の後姿を見る。
実に下らないエゴイズム“正義感”で命を投げ出すのは戦場でもっとも愚かな事だと、改めて感じる。
戦場で優先されるべきは絶対的に上官の命令である。
今現在この体育館内には避難命令が出されている。それは放送、そして上官達の声で少なくとも全新兵は把握しているはずだ。
既にいなくなったヒヨっ子共がその証拠。
にも関わらずコイツは死体とお遊びだ。
――ウィルス。
ふいにそんな言葉が浮かぶ。あるいはエラー。
命令に背き、隊を混乱させ、やがて内部から壊死させる。
その原因になるのは必ずコイツのような人間であることを彼女は知っているのだ。
- 24 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:38:52 ID:984SgHBY0
都村「何をしている」
冷たく、突き刺さるような声で天城の背を射抜く。
天城「助けるんです」
顔すらこちらに向けず、天城は言う。その両手は死体の肩に食い込むほどきつく握られている。
都村「こちらを向け」
都村は言い放つ。
それに対して実に愚鈍な動きで天城は振り返る。その双眸にはうっすら涙が溜まっていた。
しかし、その涙を露ほども気にせぬ様子のまま、彼女は握り締めた手の甲で彼の頬を打ち抜いた。
ゴド、という音と共に地面に肩から崩れ落ちるソレを見て、都村は続ける。
都村「何故殴られたか分かるか」
天城「……」
ロングブーツの先で、彼の腹部を蹴り上げる。
瞬間、胃の内容物をぶちまけながら何度も咳き込む天城を見下し、再度問う。
都村「何故蹴られたか分かるか」
天城「……助け、られなかったから、です」
脚を振り上げ、思い切り踏みつける。が、という声が足元の愚者から漏れるが、
ソレすら生ぬるいというようにギリギリと踏みつけたまま捻った。
顔は冷静そのものだが、その内には激しい怒りの炎が渦を巻いているのが眼に取れた。
- 25 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:39:50 ID:984SgHBY0
- 都村「誰が、助けろと命を出した」
天城「……」
都村「貴様らに出されたのは退避命令だ」
天城「……」
都村「私の問いかけも一度無視した」
天城「……」
都村「上官の問いかけはイコール自白の命だ」
天城「……」
都村「貴様はそれも破った。規律を乱した。わかるか?」
天城「……はい」
都村は天城のわき腹を踏みにじっていた靴を放すと、そのまま後ろに振り上げる。
所謂サッカーボールキックの要領で、天城の顔を蹴り飛ばした。
つま先が頬に突き刺さり、奥歯の何本かが折れる感触がした。
体自体は動かなかったが、酷く強い痛みが口内を満たし、咳き込む度に血反吐と、それと白いカケラが飛び出した。
都村「二度と命令に背くな。いいな、二度とだ」
天城「……はい」
都村「では、付いて来い。これは命令だ」
若干血に濡れたつま先を意にも介さず再度踵を返す。そのまま通信器具を取り出しつつ出口へと歩き出した。
天城は蹴られた右頬を押さえながらノロノロと立ち上がる。
この痛みよりも、更に痛い部分があるとは、死んでも目の前の女に言う気にはなれなかった。
――死体は、置いていった。
- 26 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:42:46 ID:M2H/Egqw0
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトヨンゴォサン 14:53
『こちら005、敵影確認。映像を送る』
『807了解、映像確認』
『……こいつは、一昨日のブリーフィングで見た、米国の』
『距離700、高速で移動中です。目標、那覇基地だと思われます』
『分かりきってる、そんなこと!』
『敵機、米国無人強襲兵器と判明。LL‐L型“ブリューナク”』
『003がやられた! 主力兵装はやはりレーザーです!』
『ああ、ここからでも見えたよ。糞忌々しい。センスのカケラもない造形だ』
都村「飛行場に誘え。そこで迎え撃つ。内藤――AAが配置済みだ」
『807了解、00隊聞こえたな。飛行場へ敵機誘導。無駄に挑発して反撃を食らうな。避けることを優先しろ』
都村「以上、通信終わる」
そういうと、軍用ジープ助手席に腰掛ける都村は通信器具を膝の上に置いた。
運転席に座る兵士は、飛行場へ向かいます、とだけ言うとハンドルを切る。
後部座席には右頬を惨めなほどに腫らした天城が腰掛けていて、ぼんやりと東の空を見つめていた。
幾つものヘリの中心に円筒形の黒い塊が浮いている。底――地面を向いている方には先端に針のようなものが飛び出していて、
まるで黒い注射器のようだと天城は連想した。
それ以外には一切の装飾はなく、一体どうやって浮いているのかも不明だった。
ただ、馬鹿でかい複数のプロペラが奏でる協奏曲の中で、あの注射器だけが気味が悪いほどに静かだった。
- 27 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:44:02 ID:M2H/Egqw0
取り囲むヘリは、少しづつ目標の位置をずらしている様で
追ったり追われたりの牽制を繰り返しながら、ある場所へと確実に誘導しているようだった。
その過程で一機、また一機と、注射器の先端から飛び出す光子の帯に打ち抜かれ、爆焔を上げながら墜落していく。
恐ろしいほど静かな一撃は、黒いカラーと相俟って、暗殺者のように映った。
それに比べてヘリのなんと喧しい事か。
米国――人殺しの技術を讃える気は更々無いが、無人且つ無音の兵器を目の前にすると、
どことなく薄ら寒い戦争への恐怖が下腹部から湧き上がってくる。
中国の明けの明星然り、あのブリューナク然り、技術の進歩というものは
より残酷に、より簡単に人を殺す事にモノを特化させる最高の手段に思えてならなかった。
天城「あんなものに、勝てるのか……?」
思わず口に出る。
途端自身が拙い事を口走った事を自覚し、空いている左手で口元を覆った。
都村「……貴様は」
都村が口を開く。また殴られる気がして天城は身を強張らせた。
が、彼女から飛んできたのは、質問であった。
都村「貴様はアレに勝てるか?」
天城「……は?」
- 28 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:45:36 ID:M2H/Egqw0
思わず疑問符が出る。
すると後姿からでも分かるくらい不機嫌な声で、再度都村は言う。「貴様はアレに勝てるのかと聞いている」
質問=自白命令と先程教え込まれた天城は口元から手を外し、口を開いた。
喋れば喋るほど頭が“くるくる”と回転していくのが自分でも解る
天城「360°×360°の自由な機動力。強力なレーザー。今現在わが軍の武装ヘリの攻撃は全て外れ、相手の攻撃は全弾命中です。
あんな物、蚊をラジコンで殺すような感じです。上下左右に振り回されれば旋回能力の低い航空兵器はもちろん、陸軍兵器等は頭上から狙い撃ちでしょう。
更に第一射――体育館の屋根を吹き飛ばした時の攻撃とわが基地のレーダー有効範囲から考えるに、かの兵器はほぼ成層圏に近い場所から撃ったはずです。
恐らく命中率は低いと思われますが、あの射程は脅威です。今の私ではどのような兵装を用いたとしても勝ち目はありません」
都村「……なぜ、命中率が低いと」
天城「第一射で、わざわざ新兵ばかりが集う体育館を攻撃するメリットがないからです」
都村「……あの場には私含め重役、将校が複数人いたぞ。連邦の大使もだ」
天城「人間は、代わりが利きます。あの場にいた誰が死んでも二・三日で代わりの仕官が任命されるはずです。」
都村「……続けろ」
天城「が、兵器や建物はそうは行きません。再配備までに時間と膨大な金が掛かります。狙うならまずそこです」
都村「……」
天城「武器庫、火薬庫、格納庫。相手の戦力を無効化し、且つ戦闘可能な状態まで復旧させるのに時間をかける。それが一番なはずです。
しかし相手はそれをしなかった。始めは牽制、あるいは試運転のためかと思いました。しかしあの注射器は現に成層圏から我々が視認可能な距離まで降りてきました。
ただの新兵器の実験なら、わざわざ迎撃される可能性を増加させる降下などする必要がないと考えます」
運転席の男が下手糞な口笛を吹いた。都村は黙ったままだ。
続きを待っているらしい。天城は察知して考察を話す。
- 29 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:47:35 ID:M2H/Egqw0
天城「故に相手はある程度破壊目標を決めてこの強襲に挑んでいるのだと思われます。
しかし成層圏からでは命中精度の問題でその目標に当たらなかった。
だからこそ近づいて再度レーザーを撃っているのでしょう。
ただ、数の多い武装ヘリに邪魔されてそれも困難になっているように思われますが」
都村「……以上か」
天城「……はい」
都村は大きく溜息を付き、くるりと振り返った。
眉間には深く皺を作り、眼前の天城を睨眼上げるように見やる。
都村「……貴様、私の事も替えの利く将校だというのか?」
天城「あ、いえ! そういう訳では!」
慌てて取り繕う天城を尚も睨みながら再度都村は溜息を吐き出した。
都村「まぁ……いい。では、お前はこのまま全滅するのを待てというのだな?」
天城「あ、いえ。レーザー兵器といっても無限に照射できるわけではないでしょうし、起動時間に制限がないとも考えられません。
つまりはエネルギー切れです。ある程度したら帰還すると思います。
そのために一機なのでしょう。本当に全滅させる気なら複数機で来てしかるべきです。多分ただの時間稼ぎか――」
都村「しかし、やられっぱなしなのは変わらんのだな」
天城「あ、え、ええと」
都村「――貴様、名はなんと言う」
天城「天城、天城茎太郎《アマギケイタロウ》です」
都村「天城、先程、あのブリューナクを蚊と呼んだな?」
天城「あ、あくまで機動が!」
都村「蚊を殺すのは何か知ってるか?」
天城「――は?」
- 30 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:49:03 ID:M2H/Egqw0
都村は何がおかしいのか、くつくつと笑い出した。
そしてそのままボソリと呟く。
――人間、だよ。
膝の上の通信機を再度口元に持っていき、チャンネルを替える。
そして言った。
都村「内藤、遊び相手がやってきた」
- 31 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:50:57 ID:M2H/Egqw0
――同刻:飛行場
『遊び相手がやってきた』
通信はこの陰鬱とした空間を満たすとプツリと切れた。
真っ暗な空間。まるで母親の胎内の様な――。
そこまで思って、内藤は母親の胎内など知らないかもしれない事を急に思い出し、一人だけの空間でひひ、と低い笑いを漏らした。
内藤「君の名前は、ブーンね」
内藤は噛み締めるように言う。と同時に、眼前が淡く光り、外の情景が映し出された。
画面の端に映る敵影が自動でロックされ、距離が算出、表示される。
その他ごちゃごちゃとした表示が画面のそこかしこに出てきて、内藤は煩わしさを覚えた。
内藤「ブーン、数字全部消して。頭いたくなる」
その声に呼応するように胎内に声が響いた。
( ^ω^)「チーコちゃん、消したら戦いずらいお」
なんとも間の抜けた、あどけなさを残す声。それがやんわりと内藤を嗜める。
しかしそれでも内藤は頭を振り、声の主に文句を付けた。
内藤「消せー。邪魔だー」
(; ^ω^)「チーコちゃんが負けたら怒られるの僕だお!」
内藤「消さない方が負けるぅ。ごちゃごちゃ嫌ぁ!」
(; ^ω^)「チーコちゃん……」
内藤「チーコいうなぁ! 内藤って呼べ! 名前好きじゃないの!」
( ^ω^)「はぁ、分かったお。消すお。名前も内藤って呼ぶお。これでいいかお?」
このやり取りが面倒になったのか、はたまた内藤を思いやっての措置なのかは分からないが、
ともかく内藤の要望は全て通り、モニターには肉眼で見るのと変わりない景色のみが映し出されるようになった。
声の主はもう一度大きな溜息を付くと、それから声を発しなくなった。
- 32 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:52:40 ID:M2H/Egqw0
その静けさの中、内藤は鼻歌を歌い出す。
内藤「Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are〜♪」
これから行う遊びが、さも楽しみで仕方がない様に、
彼女は歌う。そして廻る。
酷く調子の外れた狂人の唄。
くるくる。
内藤「Up above the world so high,
Like a diamond in the sky〜♪.」
黒煙を左翼から吐き出しながら、武装ヘリがヨロヨロと前方に落ちる。
そのまま墜落、爆発し、土砂を巻き上げる。
真っ白い内藤の分身が茶色く汚れる。
内藤「Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are〜♪」
そして黒煙を突き破って、漆黒の注射器が姿を現した。
静かに、それでいて明確な殺意を抱いて。
内藤の方を向く底部から伸びた槍の穂先が淡く光り出した。
内藤「遊び相手、みぃーっけ」
- 33 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:54:11 ID:M2H/Egqw0
- ――飛行場外縁部
西暦2018年 八月二十三日 ―ヒトゴマルマル 15:00
天城はジープから身を乗り出す。「なんですかアレは!?」
真っ白い何かが飛行場に仁王立ちしていた。
それは時たまゆらゆらと体を揺すったかと思うと、
急に思い出したかのようにじたばたと手足を動かす。まるで癇癪を起こした子供の様に。
蹴り飛ばされた頬の痛みも忘れ、食い入る様にその奇妙な物体に眼を凝らす。
よくよく見れば、それはあの体育館で壇上の横、垂れ幕の下で不気味で間抜けな表情を湛えたままこちらを見下ろしていた
奇妙な気ぐるみに相違なかった。
3mほどの真っ白な巨体は尚も身を揺すり、己の存在を主張する。
そしてそれからくるくると廻り出した。
天城「あ」
あの回転。
あれは、ついさっき。
天城「あ、あの中に、いるんですね!?」
天城は後部座席から身を乗り出し都村に問う。
それに対し都村はさも当然かのように答える。
都村「対戦術的強襲装甲――AAだ」
- 34 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:55:23 ID:M2H/Egqw0
天城「あの中に、いるんですよね!?」
都村「ああ、いる。お前が出来ないと言ったことをやろうとしている」
天城「だ、無茶です!」
都村「お前がアレの何を知っている」
天城「だ、だって、レーザーですよ!? 重金属霧でも発生させないと!」
都村「お前は、アレの、外《兵器》も内《搭乗者》も、知らないだろう」
天城「な、中は女の子でしょう!? あの、ちっちゃい!」
都村「お前は……そうだな。勇み足だ。なんでも己の事物で押し測り、先行し、やがて死ぬ。
その死により隊は乱れ、崩壊する。うん。そうだ、お前はそういう奴かも知れんな」
天城「な……っ!」
都村「実態を知らないのに、あまり語ってくれるなよ。お前はAAも、内藤も、軍も、私も、死も、生も、何も知らん。ただの屑だ」
- 35 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:56:34 ID:M2H/Egqw0
天城がその言葉に反論しようとした時、飛行場に一機の武装ヘリが墜落した。
その轟音に上官に食って掛かろうとした目線を向けると、巻き上がる黒煙の中から
それよりも余程黒い無骨な注射器が顔を覗かせている場面が眼に入る。
天城「ゼロ距離!」
叫び、ジープから飛び降りようとする。
訳も分からぬまま飛行場を取り囲むフェンスへと走るつもりだった。
しかし、飛び降りる直前思い切り尻を押され、そのまま顔面から地面に追突した。
都村「お前が言って何になる!」
凛とした声が響く。「死体が増えるだけだ!」
鼻血が噴出す。鼻骨が折れたかもしれない。
だが、あの少女に突きつけられた悔しさを何故かこの場面で思い出し、
即座に顔を上げた。何とかしなきゃ、また、口からそう漏れた。
見開いた双眸が捉えたのは極太のレーザーの中に消え逝く白い着ぐるみだった。
天城「……あ、あぁぁあぁぁっぁあぁぁああ」
情けない、気の抜けた声が喉の奥から漏れ出す。
鉄骨に貫かれた兵士が口から出した血の泡のような声だと頭の片隅で思った。
- 36 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 04:58:16 ID:M2H/Egqw0
レーザーはそのまま飛行場のフェンスを軽々と溶かし、都村たちが乗る軍用ジープの横をすり抜け地面に着弾した。
大地は抉れ、巨大なクレーターが一瞬で形成される。
爆風はジープをこれでもかと揺らし、その威力の凄まじさを存分にアピールした。
荘厳な閃光。眼を開けていられないほどの眩い光線。
それが刹那に満たない速度で地上を蹂躙せしめたのだ。
眩さに思わず眼を瞑った天城の頭上――ジープから、声がした。
都村「見ろ、天城。アレが――人間だ」
眼を、開ける。
飛行場には黒い注射器がふよふよと、それと、その三分の一程度しかない白い着ぐるみが、依然睨み合っていた。
黒の異形の円筒と相見える白のシルエットはまさしく人間のソレを象っていた。
着ぐるみ、いやAAには一切の破損は見られなかった。
そしてAAはその双腕を勢い良く振り上げ、注射器の《顎》を跳ね上げる。
ガ、とギ、の混ざり合った、鉄を拉げさせる音がする。
武装ヘリが何千発と放った弾丸一撃すら当たらなかった体が初めて苦痛に歪む。
自身の三倍もある鉄の塊は、発射口を易々と宙に向ける。
そのがら空きのどてっ腹、胴体の側面に蹴りを放った。
軽い動作に見えた。体重も何も乗ってない、体術要素のカケラもない出鱈目な蹴り。
ただその一撃を受けて、ブリューナクは地面と平行に、まるで滑るように吹き飛んだ。
- 37 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:00:16 ID:M2H/Egqw0
継いで、鉄が無様に歪む音が聞こえた。
ヤツが自らの体を持ってして出した音だ。
ただし自発的ではなく、己よりも小さな着ぐるみによってだが。
米国無人強襲兵器はどこかにその体がぶつかり損傷が拡大するよりも早く、急激な速度で上昇する。
吹き飛んだ慣性を感じさせないほぼ垂直の機動で弾丸よりも早く宙へと逃げた。
内藤「どこいくの、ダメだよ。ブーン」
だがそれを確認した内藤、そして
( ^ω^)「逃がさないお」
ブーンと呼ばれたその対戦術的強襲兵器は、かの機体が手の届かぬ高さまで逃げるよりも早く跳躍した。
飛行場のコンクリートで舗装された地面が衝撃で割れたガラスのように罅入り捲れ上がる。
まるで薔薇の花弁だ。
そしてその石の花を地面に咲かせた存在は、直角に上昇したブリューナクに向けて弾け跳ぶように急接近する。
自らの体を脚力のみで射出した勢いを保ったまま、再度敵機の側面に拳を振るう。
小型爆雷炸裂の衝撃にも勝るとも劣らない威力が拳の一個に集約される。
二度目の打撃はその機体を更に歪ませ、凹ませる。あの白い着ぐるみにかかれば、あの黒金の暗殺者もアルミ缶同様らしい。
そのままブリューナクがまた吹き飛ぶよりも早く、人間と比べれば限りなく巨大な掌でガッチリと針の部分を掴んだ。
そしてベギリ、と折り曲げる。
まるで痛みでも伴ったかのように、ブリューナクは中空で暴れ狂った。
恐らくAAを振り落とそうとしているのだろう。しかしそれとは逆に、白の着ぐるみはすっかり折れ曲がった発射口を伝って
ジリジリと機体を登ってくる。
時には殴りつけ、時には膝蹴りを行い、全身くまなく小型クレーターを作るかのように、執拗に打撃を加え続ける。
澄み渡った青空に似つかわしくない金属を穿つ音。
その甲高い歪みの音色は、無人の筈の兵器が上げる絶叫にも聞こえた。
- 38 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:01:24 ID:M2H/Egqw0
尚もブリューナクは暴れるが、振りほどく事は愚か打撃を中断させることさえ出来ない。
装甲はめちゃめちゃに歪みきり、内部のレーザー照射機構や軌道補正装置などが次々と押しつぶされる。
炸薬によって鉄を打ち出すパイルバンカーの一撃に等しいそれが、殺意のカケラも見えない表情の白い巨人から何十発と見舞われる。
その度に、黒光りした無人兵器のボディが畑の畝が耕されるように深く掘り返される。
内藤「あはははははははははははははははは」
AAの中の内藤は、断続的な笑いを続けている。
彼女にとって、本当にこの戦闘行為は遊びなのだろうか。
( ^ω^)「内藤。その笑いキモイから止めるお」
内藤「うっさいよぉ。でも、もう壊そうと思う」
( ^ω^)「おっお。それがいいお。こんなものがあったら人殺しがいつまでも終わらないお」
内藤「違うよ。お腹、空いたから」
( ^ω^)「……」
AA――ブーンはその双腕でガッチリとブリューナクの体を掴むと、大きく仰け反った。
まるでジャーマン・スープレックスのようだ。しかしここは空であり、叩きつけるべきマット《地面》は遙か下にある。
故にそのまま後方に一回転。ぐるり。もう一回転。ぐるり。もう一回。もう一回。
ぐるぐるぐるぐるぐる。
急激な上下の変化に追いつけなくなったのか、度重なった打撃の雨により内部の移動系制御装置が破損していたのかは分からないが、
ブリューナクは成すすべなく、ぐるぐると縦回転を続けたまま、その機体に取り付く存在と共に重力に引かれるように落ちていった。
ゆっくりと、だが確実に加速しながら地面へ吸い込まれていく。
落下速度も、回転速度も、その上限が存在しないかのように一方的にベクトルを増大させる。
- 39 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:02:44 ID:M2H/Egqw0
内藤「おお、眼が廻る」
それでいて魔槍を振り回す白い巨人の搭乗者は暢気にこの状況を楽しんでいた。
加速が加速を呼び、回転が回転を早める。
視界が天、地、天、地と走馬灯のように入れ替わる。
その浮遊感と現実感のなさが、心地よかった。
人間の体には限界が存在する。
地を駆ける、かの動物たちよりも早く走ることができない。
力ですら同じ類人猿であるサル共に劣る。
脚の無いイルカですら自分の何倍もの高さを飛翔できる。
それに比べて人間のなんと脆弱な事か。
浅ましく能書ばかりを垂れ、己の利己のためにどの様な悪行でも平気《兵器》で行う。
殺し、騙し、犯し、奪い。自身の愚昧で矮小な体を覆い隠すように権力の鎧に縋りつく。
自身の下らぬプライドのために何処までもその領地を広げる。他人へ、他所へ、他国へと。
それが人間の本質であり、限界なのだろう。
だが、この体は違う。この着ぐるみは――ブーンと一緒の内藤《あたし》は違う。
人間と化け物の境界を飛び越え、新しい何処かへと、何処へでもいける。
飛んでいけ、何よりも、何処よりも疾く、強靭に。
ヒトの地平線《Horizon》を――越えるのだ。
- 40 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:04:54 ID:M2H/Egqw0
内藤「だぁぁありゃあああああ!!!!」
彼女、内藤の中で何かが最高潮に達したとき、思い切りその掴んでいたモノを地面へ向かって叩き付けた。
中空から地面まで100mほどの距離を一瞬で無にし、その米軍の兵器はまるで墓標の様に地面に突き刺さった。
ただし叩きつけられた衝撃で体はくしゃくしゃに歪み切り、丁度ジュース缶を上から踏みつけたときの様に
背丈を大幅に縮ませていた。
その墓標の前に、ブーンと内藤は降り立った。落下の衝撃を寸分も感じさせない澱みない挙動で。
内藤「楽しかったよ」
( ^ω^)「おっ、バイバイだお」
それだけ言うと拳を振り上げ――。
- 41 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:05:44 ID:M2H/Egqw0
- 天城「すごい……」
思ったことがすぐ口に出るところが、汚点だと天城は自負している。
だがその悪癖は消えるような素振りは見せなかったし、今日もまたそのせいで散々な眼にあった自覚もある。
その天城を持ってしてもまだ、口からは言葉が漏れる。
圧倒的な力。
驚異的な機動力
超越的な防御力
そのどれもがあの対戦術的強襲装甲に詰まっていた。
あるいは既に消えてしまった日本という国を再び取り戻すための希望さえ詰まっていると錯覚してしまう程に
それは力強く、雄雄しく見えた。
しかし。
天城「あれは……人を殺すやつだ」
兵器であることに違いなかった。
いつの間にか罅入っていた眼鏡越しに、フェンスの中で起こる現実感の無い出来事を見つめる。
土煙の中、鉄の墓標を完全に破壊しようと殺意のカケラも見えない造形のソレは太く長いソレを振り上げる。
が、それよりも先に、ヒィ、という甲高い音が中空に響いた。
( ^ω^)『あ』
白の巨人がその一言だけ漏らしたのが聞こえた気がした。
- 42 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:06:32 ID:M2H/Egqw0
瞬間、天城が今まで経験したことの無い爆音と、熱風が辺りを包む。
“自爆”の言葉が浮かんだ。
目の前のフェンスが、吹き飛んできたコンクリートによって易々拉げ突き破られる。
それを避けるように頭を抱えて地べたに伏せる。
空気の焦げる不愉快な匂いを内包した風が、コンクリの次に飛んできた。
米軍無人兵器は、自爆したんだ。
その卓越した技術力の結晶を、無様に内部まで、隅々まで調べ上げられるのを良しとしなかったのだろう。
それが自律した機能なのか、それとも遠く太平洋を挟んだ地の誰かが遠隔操作していたのかは分からないが、
ともかく自壊を持って、ブリューナクの一生は幕を閉じた。
が、それよりも。
天城「あ、あの子が」
天城は口内の砂利を吐き出しながら、口から漏らす。
あの爆発の中で到底無事でいるとは思えなかった。
何故だろうか。あの時の、串刺しの兵士の前の会話を思い出す。
- 43 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:07:17 ID:M2H/Egqw0
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
天城「た、助けないと」
少女「誰を?」
天城「あ、あの人」
少女「あれ、死ぬよ?」
天城「でも、なんとかしないと!」
少女「なんとかって、どうするの?」
天城「わかんないよ! で、でもなんとかしないと!」
少女「だから、なんとかってなに?」
天城「わからないって言ってるだろ! でも!」
少女「ふーん。じゃあ、早くしたら?」
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
- 44 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:08:27 ID:M2H/Egqw0
天城「クソォ……ッ!!」
短い咆哮。
天城は勢い良く立ち上がりフェンスに穿たれた穴に身を滑らせた。
後ろからは、あのジープの運転席の男の制止の声がする。
でも、それでも天城は止まれなかった。
結局彼を突き動かしているのは、ただ単純な悔しさだった。
遠まわしに“口だけの人間”と言われたような悔しさを、
その惨めな思いを払拭するためには、あの少女に認めてもらわなければならない気がしてならなかった。
爆発の中心は、飛んできた熱風よりもなお熱く眼を見開く事さえ困難だった。
舗装してあったはずの飛行場は、大災害にでも見舞われたかのように罅割れ、下の大地が覗いている。
燃えるものなど何も無いはずなのに所々に火が上がり、天城は幼い頃に何かで見た東京大空襲の一場面を思い出した。
今は逃げ惑っているのではなく、目的を持って火の合間を進んでいるはずなのに、
何処かで自分自身を空襲から逃れる人々と重ねていた。
( ^ω^)『すいませーん』
視界を覆う火と黒煙の中から不釣合いなほど間の抜けた声がした。
天城は蔓の曲がった眼鏡をもう一度かけ直して声の方へ歩を進める。
( ^ω^)『ここでーす、助けてくっださーい』
そこには白い巨人が仰向けに倒れていた。
体の所々に火が燃え移っている。
数秒ほどその巨体を前に呆然としてしまったが、頭を振って意識を取り戻す。
- 45 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:09:56 ID:M2H/Egqw0
- 天城「み、みずを!」
この逼迫した状況で天城は水を求めた。求めてしまった。
ぐちゃぐちゃに破壊されきった飛行場のど真ん中で水を。
辺りを素早く見渡すが、もちろん近くに水道やら消火器などが転がっているはずも無く。
荒涼と破壊し尽くされた世界に囲まれてるという事実だけが否応無く彼を襲う。
その景色はより彼を追い詰めていく。
みず、みず、みず。
“たこになったおかあさん”
数年前に、国語の教科書で読んだ話を唐突に思い出した。
天城「みず!」
天城は自分のベルトに手を掛け、ガチャガチャと外し出した。
焦りのせいか上手く外せなかったが、それでも無理に引きちぎるようにベルトを取り去った。
そしてそのまま一気にズボンとパンツをズリ下げる。
(; ^ω^)『ぎゃあ』
着ぐるみから短い悲鳴が上げられた。
- 46 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:11:16 ID:M2H/Egqw0
- しかしそれを気にしている暇はないというように、縮み上がったソレを摘み、
目の前の巨人に纏わり付く炎に向けた。
天城「みず〜! みず〜!」
うわごとの様に呟きながら、粗末なものを必至に凝視する。
一向に体内から水分が射出される気配が無いことに苛立ちと焦りを感じる。
天城「くそぉ! でろ、でろよぉ!!!」
下から水が出て欲しいのに、上から――瞳から意図せず涙が零れる。
その水分ですら下に廻ってくれ、と天城は本気で思っていた。
天城「あぁあぁあああぁあああぁあああああ!!!」
どれだけ叫ぼうと出ないものは出ないのに、尚も彼はそれを向ける。
そのあまりにも、必死で、理解の範疇を超えた行動に対し、巨人の内部の内藤は声をかけた。
(; ^ω^)『や、火じゃなくてね、さっきので、エアコンが』
天城「エアコン?」
双眸から零れる雫を、アレを触った手で擦り消しながら上擦った声を上げる。
(; ^ω^)『エアコンが壊れたっぽくて、ムレるの』
天城「……」
(; ^ω^)『でもこれ、一人じゃ空けらんないから、背中』
天城「……」
(; ^ω^)『空けてほしいだけだから、その』
天城「……」
( ^ω^)『それ、しまって』
天城はいそいそとパンツとズボンを上げ、投げたベルトを拾い装着した。
その間に巨体はいつの間にかうつ伏せになっていた。
- 47 名前:( ^ω^)「Long Long Ago のようです」 投稿日:2011/11/11(金) 05:12:22 ID:M2H/Egqw0
( ^ω^)『背中にチャックあるから』
天城は無言のままその土に塗れた背の中心に隠れた巨大なチャックを下ろしてあげた。
すると、蝶が蛹から羽化するように、ゆっくりと、白黄緑色した髪の少女が這い出してきた。
内藤「アツ、結局外もアツ」
そんなことをぼやきながら、至極無事な様子でいるそれを見て、再度天城の眼に涙が溜まった。
思わず、右手を差し出してしまう。
しかし少女はその右手を睨みつけると、それを頼りにすることなく、自分の力のみでスクっと立ち上がった。
その貧相なボディラインにぴったり張り付いた厭に光沢のあるボディスーツを気にしながら、少女は天城に言った。
内藤「その手、あれ触ったやつでしょ」
第一話 『青天ノ霹靂』 了
戻る 次へ