( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです

1 名前: ◆5rua49HN2. 投稿日:2012/02/11(土) 22:46:16.36 ID:LDnEm0Z50

 〜 魔法道具屋サンライズ 〜


( ^ω^)「第1回、サンライズ経営会議を始めるお」

ξ゚听)ξ(∪^ω^)川 ゚ -゚)

ξ゚听)ξ「いや、経営会議って、いきなり何なのよ?」

( ^ω^)「何なのって、そのままの意味だお。今後のお店の営業戦略について話し合うお」

川 ゚ -゚)「店長、お店の営業戦略の一環として、まず私のバイト代を上げましょう」

( ^ω^)「却下だお。クーはまず仕事をちゃんと覚えるまでは研修時給だお」

(∪^ω^)「わんわんお!」



     第十一話 訪れ来たるは迷い人


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:47:22.13 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「とにかく、売り上げを上げるためにはどうしたらいいか考えるお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

ξ゚听)ξ「というか、何で話がそこまで戻ってんのよ? 新商品の話はどうなったのよ?」

彼女の名はツン。
隣の武術道場の娘で、いわゆる幼馴染というやつだ。

川 ゚ -゚)「まずは従業員のやる気を向上させる為にも、時給はあげるべきだと思うんだ」

彼女の名前はクー。
新米冒険者だが僕に借金がある為、普段はサンライズのアルバイトもやっている。

(∪^ω^)「わんわんお!」

この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。

( ^ω^)「事情が変わったし、新商品を考える前に経営戦略をまず考えるお」

( ^ω^)「それと、時給の話はいいアイデア出したら考えてやるお」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:49:07.68 ID:LDnEm0Z50

事情が変わったと言っても、それほど大きな何かがあったわけでもない。
常連であった冒険者のジョルジュさん達がこの町を離れた事に因る売り上げ減少と、
僕が苦心して考えた新商品が今1つウケが良くない事ぐらいだ。

ξ゚听)ξ「ウケも何も、あんたのアイデアはワンパターンの上、どこか抜けてるのよね」

川 ゚ -゚)「目的とアイデアが乖離し過ぎてるな」

(;^ω^)「僕の考えがちょっと時代の先を行き過ぎてただけだお。着眼点は悪くなかったはずだお」

僕としては飲み薬タイプの薬草の難点、苦くて不味い事を克服して売りに出そうとしてみたのだが、
どれも客の購買意欲を書き立てる商品には至らなかった。

ξ゚听)ξ「ゼロから考え直すのなら、まずその薬草の味を何とかするってとこから離れなさい」

(;^ω^)「何でだお!? それは道具屋としてのアイデンティティを否定される様なものだお?」

ξ;゚听)ξ「いや、そんな大層なものじゃないでしょ? 望まれてないとこ強化してもしょうがないでしょうが」

川 ゚ -゚)「大体、苦いのが嫌なら砂糖でも混ぜておけばいいだろ」

( ^ω^)「お、それはいいアイデアだおね。シンプル過ぎて思い付かなかったお。じゃあ、薬草の砂糖漬けを……」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:50:31.34 ID:LDnEm0Z50

ξ#゚听)ξ∩「だから、薬草から離れろつってんでしょうが!」

川 ゚ -゚)「折角今のアイデアで時給上げてもらえるかと思ったのに……」

ツンが拳を振りかざし僕に睨みを利かせつつ、まずはこの町の冒険者の現状と傾向を考えた調査をすべきだと主張する。
どういうクエストに出向く事が多いのか、その際に必要になる道具、あると便利なものなど調べろとの事だ。

川 ゚ -゚)「だが、この町のクエストの傾向はかなり偏ってるぞ?」

自身も冒険者として、この町でいくつかのクエストをこなしたクーの話では、
モンスター討伐か素材の取得、単純な採集のクエストが大半らしい。
まあ、その位は僕も知ってはいたが。

そもそも、それを踏まえての薬草押しだったのだ。

ξ゚听)ξ「でも、近場での討伐クエストなら同じ薬草でも塗り薬の方が需要はあるんじゃないの?」

飲み薬タイプは疲労回復や自然治癒力を高めるものだ。
近場でのクエストなら比較的かかる時間は短いから、ツンの言う通りだろう。

( ^ω^)「そっちもそっちでアイデア考えていたんだけど、匂いを押さえるぐらいしか思い付かなかったんだお」

ξ;゚听)ξ「そういうのより薬効を上げる事考えなさいよ」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:52:19.83 ID:LDnEm0Z50

簡単に言ってくれるが、薬草に含まれる成分は決まっており、
薬効上げるのはその純度を高める必要があるから難しい以前にコストも上がる。

ついでに言えば、効果が上がったと謳い文句にしてみても、実際使用してみないとわからないし、
多少上がってるくらいじゃ使っても気付き辛いだろう。
新商品として売り出すにはインパクトが弱いのだ。

ξ゚听)ξ「確かに、売りとして謳うには難しいとこね」

(∪^ω^)「わんおー」

店自体の信頼を高める為には、個々の商品の質を高める事は重要な事だが、時にはキャッチーさも必要だ。

結局、何かを改良して商品にするには現状のままだと難しいという結論に落ち着きそうだ。
そうなるとあとは、別の所から商品を仕入れて転売するぐらいしかない。

( ^ω^)「と言っても、他の町から特産品を仕入れて来るならそれなりの手間がかかるお」

ヴィップの特産品を他の町に売る場合も同様だ。
数日かけて移動する元を取る為には、それなりに多くの品を取引する必要があるだろう。
そうなると馬車や護衛を雇う費用とか経費もかさむ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:54:10.15 ID:LDnEm0Z50

川 ゚ -゚)「そこまで行くと、魔法道具屋というよりは交易ショップになるな」

( ^ω^)「考え方としてはありなんだろうけど、僕としては地域密着型で行きたいんだおね」

交易もそうだが、冒険の道具だけなく、一般の雑貨の様なものも扱って手を広げるのも戦略としてはありなのだろう。
だが、ここはじいちゃんの代からずっと魔法道具屋で冒険者相手の店だったから、それを変えるのも忍びない。
道具屋の店長と被るという理由も若干ある。

( ^ω^)「ただ、せっかく店番要員がいるんだし、たまには仕入れに遠出してみるのもいいかもしれないおね」

別の町でもクエストでも、僕自身が店から離れられる機会はクーのお陰で増やせるのだ。
交易とまで行かずとも、変わった商品を仕入れてみるのも面白い。

川 ゚ -゚)「というか、クエストならむしろ私が出向くべきだろ」

ξ゚听)ξ「あんたじゃまだ頼りないわよ」

( ^ω^)「それもあるけど、まず商品になりそうな品物の目利きが出来ないお?」

モンスターの素材なんかは適当にもって帰って来てもらえればいいが、薬草や鉱石、
それに遺跡なんかにある骨董品とかクーではさっぱりわからないだろう。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:56:10.34 ID:LDnEm0Z50

川 ゚ -゚)「それは確かに……」

( ^ω^)「店が暇な時にでも、クエストに役立ちそうな薬草や鉱石の知識はおいおい教えてあげるお」

川 ゚ -゚)「それは助かるな」

クーはひとまずそれで納得してくれた様で、よろしく頼むと頭を下げて来た。
前々から思ってはいたが、身分の割にそうやって素直に頭を下げる事が出来るのは好ましいと思う。

( ^ω^)「遠出する場合は仕入れはいいとして、問題はこの町から持って行くものなんだおね」

ξ゚听)ξ「でも、ヴィップで特産品って言われてもすぐに思い付かないわよね」

ヴィップの町近辺で採れる物は、そう多くはない。
薬草類は豊富だが、鉱石はほとんど採れない。

だからこその薬草押しの部分もあったのだが、現実問題、
新種の素材としての薬草でも見つけなければ画期的な効果の物は作れない気がする。
薬草は冒険者の必須となる道具なだけに、基本的な用途の物は研究はし尽くされている所もある。

( ^ω^)「ドクオさんみたいに薬草を使った新しい薬を研究してる人もいるんだけど」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:58:10.48 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「あれは駄目な例でしょ」

(∪^ω^)「わんお」

ばっさりと切り捨てられてしまったが、新しい用途の薬を開発出来てる点ではすごい事なのだ。
ただ、使い道が無いか残念なだけで。

川 ゚ -゚)「1度その賢者って人に会ってみたいものだな」

ξ゚听)ξ「止めときなさいよ、目が腐るから」

(∪^ω^)「わんおわんお!」

( ^ω^)「残念さんの事は置いといて、あと考えられる商品は護符か聖水かおね」

どちらも採集するようなものではないが、商品として需要があるのはこの辺りだ。

護符は僕が書くので、羊皮紙のような丈夫な紙さえあれば問題はない。
しかし、この辺りのモンスターは魔法を使ってくるような高い知性のモンスターはいないので、
そこまで売れる物でもない。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 22:59:21.48 ID:LDnEm0Z50

物理攻撃に対する耐性を高める護符が作れればいいのだが、護符でそれは難しいのだ。
結界の様な大掛かりなものか、神聖魔法の分野である。

川 ゚ -゚)「質問なんだが、聖水って本来教会で扱うものじゃないか?」

( ^ω^)「だお。それを仕入れて、効果を高めて売るんだお」

聖水は聖職者が神の力を持ってして、水を清めて魔を払う力を持たせたものだ。
信仰心のない僕がものすごく平たく解釈すると、神聖魔法で水を変質させたものという事になる。

聖水の用途は主に魔除けと破魔だ。
聖水を地面に撒き、即席の結界にしたり、自分に振り掛けてモンスターが近寄り難くするのが前者の効用で、
武器等に塗布し、モンスターに対する攻撃力を高めるのが後者である。

川 ゚ -゚)「うん? 破魔というのは悪魔や死霊に対して効果があるんじゃなかったっけ?」

( ^ω^)「流石にクーはその辺知ってるんだおね」

王都ソクホウには聖騎士団もあるくらいだし、
教会がそれなりに力を持っているから神や悪魔の概念は浸透しているのだろう。

宗教に興味がない人は、その辺りはあまり区別してないのだ。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:00:32.68 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「教会的には悪魔は神に対する反対の概念だけど、悪魔もモンスターには変わりないお」

ある特定のモンスターを教会が悪魔と呼んでいるだけだ。
大体において悪魔と呼ばれるモンスターは知性と魔力が高く、人語を解するものが多い。

( ^ω^)「悪魔の発祥の起源とか説明すると長いので割愛するお」

死霊は死んだ人やモンスターが更にモンスターになったもので、肉体のあるゾンビのようなタイプと、
肉体のない霊魂のような存在のものがいる。
多少、存在自体の定義が変わってくるのだが、その辺りはまた機会があれば話そう。

( ^ω^)「とにかく、魔力の高いモンスターには神聖魔法、破魔の力は効果が高いんだお」

モンスターは多かれ少なかれ、人よりは高い魔力を有しているので、
結果的に聖水はほとんど全てのモンスターに対する攻撃力を高める事が出来る事になる。

( ^ω^)「まあ、その辺りの雑魚に使っても効果のほどは実感出来ないと思うけど」

ついでに言うと、神聖魔法は治癒や身を守る効果の魔法が多く、攻撃に扱う魔法はごく限られている。
何故かと言われれば、宗教上の理由となるのだろう。

川 ゚ -゚)「なるほどな、勉強になった」

ξ゚听)ξ「1つ気になる事があるんだけど」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:02:02.90 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「何だお?」

ξ゚听)ξ「聖水って、神聖魔法で作られてるんでしょ?」

ξ゚听)ξ「神聖魔法が使えないあんたがどうやって効果を高めるのよ?」

( ^ω^)「ああ、言い方が悪かったお。正しくは、普通の人が使いやすくするんだお」

聖水は神聖魔法で作られ、聖職者が用いる道具である。
それを聖魔法の使えない信仰心もない一般の冒険者が使っても、効果のほどはかなり抑えられてしまう。

川 ゚ -゚)「そういえば清めの儀式なんかは、からなず聖職者が執り行うな」

( ^ω^)「作りたての聖水ならすぐに効果を発揮出来るらしいんだけど、時間を置くと弱まるみたいなんだお」

正確には、沈静化するだけで弱まってはいないらしいのだが、再発動させるには神聖魔法が必要の様だ。
故にそれの効果の維持と、使用時にちょっとした術式を発動させて効果の浸透を高める細工を施して商品としていた。

( ^ω^)「今はこの町に聖職者の人がいないから、扱ってないんだけどね」

扱えれば人気商品になるのはわかっているのだが、入手経路が立たれている現状では諦めるしかない。
破魔の効果目当てで買って行く人は少ないが、採集採掘クエスト用のモンスター避けとしての需要はある。
冒険者以外でも念の為に持っておく人もいるくらいだ。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:03:44.18 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「じゃあ、教会から司祭様を派遣してもらうのがこの店にとって一番の改善策じゃないの?」

( ^ω^)「ものすごく他力本願な気もするけど、その通りだお」

大体において、1つの町に最低1人は司祭または司教がいるのが普通だ。
信仰心はなくても、冠婚葬祭を扱ったり、悩み相談や子供の教育等、
色々と地域に密接した役割を担ってくれる司祭は住民から必要とされている。

現在、ヴィップの町には司祭はいない。
2年前、前任の司祭が高齢で亡くなって以降、誰も赴任して来ないのだ。

川;゚ -゚)「ヴィップはそれなりに名のある町だよな? 2年も赴任して来ないなんておかしくないか?」

(;^ω^)「いや、教会の事情とかそういうの僕にはさっぱりポンだお」

ニューソク大陸の教会の本部はソクホウにある。
ヴィップは僻地だし、信仰が薄い土地だからひょっとしたら忘れられてるのだろうか。

( ^ω^)「あとで町長に確かめてみるかお」

ξ゚听)ξ「シャキンさんの方が話が早い気もするわ」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:05:14.32 ID:LDnEm0Z50

川 ゚ -゚)「っと、シャキンといえば今日はバーボンハウスに行く日だった。今何時だ?」

ξ゚听)ξ「もうすぐ10時よ」

川;゚ -゚)「うわ、もうバイトの時間じゃないか」

そう言ってクーは挨拶もそこそこ店を飛び出し、バーボンハウスに向かう。
クーはサンライズのバイトでもあるが、同時にバーボンハウスのバイトもしている。
借金返済への道は険しいのだ。

( ^ω^)「ついでにシャキンさんに司祭様の事聞いておいてお……って、聞こえてなさそうだおね」

(∪^ω^)「わんおー」

ξ--)ξ「ま、あとで自分で聞いた方が良さそうね」

ツンも稽古や畑仕事があるんじゃないかと思ったのだが、今日は暇な様だ。
適当に椅子を引っ張り出し、わんわんおとじゃれあってる所を見ると居座る気満々の様だ。

( ^ω^)「クーは上手くやれてるかおね?」

ξ゚听)ξ「心配?」
つ∪^ω^)

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:07:07.65 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「そりゃまあ、酒場での仕事なんてやった事ないだろうし、心配だお」

酒場に限らず、仕事自体がほとんどやった事がないはずだ。
僕の店で店番は経験しているが、ここでは接客と片付けぐらいで大した事はやっていない。
しかし、ここよりもだいぶ忙しいバーボンハウスなら、やる仕事は色々あるだろう。

ξ゚听)ξ「別に、バーボンハウスも今日が初めてってわけじゃないでしょ? 心配し過ぎよ」

クーは既に何度かはバイトとしてバーボンハウスで働いている。
シャキンさんもいい人だし、特に問題があったとは聞いてないし、上手くやれているのだろう。
ツンが言う様に僕の心配し過ぎかもしれない。

クーは愛想は悪いが、ここの仕事でも飲み込みは早かったし、無難にこなしていた。
もうそろそろ研修期間は終わってもいいだろう。

ξ--)ξ「……ま、友達としては心配もするでしょうね」

( ^ω^)「クーにはちゃんと働いてもらって借金返済してもらわなければならないから、心配もするお」

僕は笑ってツンに言葉を返す。
ツンも肩をすくめ、笑っていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:08:23.59 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「すぐミセリよりは使い物になりそうだけどね」

( ^ω^)「あながち無いとも言えないのが恐ろしいお」

それからもたわいない話をし、店番をしていたが今日も客が訪れる事はない。
町が平和なのは良い事だが、こうも客が来ないと暇を持て余す。

時刻はそろそろお昼になりそうだ。

ξ゚听)ξ「お昼はパスタがいいわ」
つ∪^ω^)「わんわんお!」

(;^ω^)「図々しいにも程があるだろ」

居座るどころかお昼ご飯までたかる気満々のツンだが、
僕としては話し相手とわんわんおの遊び相手がいてくれるのは助かる話でもある。

( ^ω^)「じゃあ、お昼は薬草スパゲティでいいおね?」

ξ;゚听)ξ「何で商品でもないものまで薬草入りなのよ」

( ^ω^)「健康にいいし、味のアクセントだお」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:10:07.49 ID:LDnEm0Z50

基本的に薬草は苦いものが多いが、使い方次第では程よい味わいになるのだ。
今回、薬草新商品を作る際に色々試したので、薬草を料理に使う事にはだいぶ長けてきたと我ながら思う。

ξ゚听)ξ「あんた、魔法道具屋じゃなくて魔法料理屋でも開いた方が良かったんじゃないの?」

( ^ω^)「引退したらその道も考えてみるお」

美味い物を食べるのは楽しい事だ。
だから美味い物を作るのも楽しい。

ξ゚ー゚)ξ「それは否定しないわね。薬草パスタ、期待してるわ」

( ^ω^)b「任せろお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

そんな事を話していたら、店のドアが静々と開かれた。
ドアベルがほとんど音を奏でないほど、ゆっくりとした物だった。

( ^ω^)「いらっしゃいませですお」

ξ゚听)ξ「いらっしゃいませー」
つ∪^ω^)「わんわんお!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:12:07.51 ID:LDnEm0Z50

(-_-)

見た所、客の風貌は冒険者には見えない位ほっそりとしていた。
手には杖を持ち、それに荷物の袋が提げられている。
同業の可能性もあるが、全く見覚えのない顔だし旅人なのだろうか。

入って来た客はかけられた声にびくりと反応し、おどおどと左右を見回す。
露骨に不審者な態度だが、僕は笑顔で再び声をかける。

( ^ω^)「ここは魔法道具屋サンライズですお。何かお探しのものがございますかお?」

客は反射的に頷き、その後首を振るというよくわからない反応を示しその場で固まってしまう。

(;^ω^)「えっと……」

(∪^ω^)「わんわんお!」

(;-_-)「ひっ……」

いるのを把握していなかったのか、犬が苦手なのか、わんわんおの鳴き声に客は数歩後退る。
僕は一言謝罪し、ツンに目配せしてわんわんおを任せた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:13:44.22 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「それで、ご用件は何でしょうかお?」

(-_-)「えっと……その……」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「……」
つ∪^ω^)

(-_-)「あの……」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「……」
つ∪^ω^)

(-_-)「その……」

(;^ω^)「……」

ξ#゚听)ξ「……」
;;つ∪;^ω^)

(-_-)「えっと……」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:15:15.80 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「僕の名前はブーン=ナイトウといいますお。この魔法道具屋サンライズの店長ですお」

このままだと一向に埒が明かず、苛々したツンが切れそうだったので、ひとまず自己紹介と世間話を始めてみる。
回りくどいが何かしら聞き出せるかもしれない。

( ^ω^)「こっちが長馴染みのツンで、ペットのわんわんおですお」

ξ゚听)ξ「どうも、はじめまして」
つ∪^ω^)「わんわんお」

(;-_-)「あ、はい、ぼ、僕はヒッキー=コーモーリです。そ、その、はじめまして……」

その作戦が功を奏したのか、客、ヒッキーさんから話を聞きだす事に成功した。
何でも道に迷ったらしく、ようやく見つけた建物に入ってみただけのようだ。

つまりは、残念ながらヒッキーさんは客ではないという事だ。

(;-_-)「お、お仕事中にすみません……。その……この町は初めてなものでして……」

( ^ω^)「かまいませんお」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:17:09.45 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「しかし、迷うにしたって、この店って町外れですしもっと他の建物に辿り着きそうですけどね」

僕は笑いながら冗談交じりにそう言ったが、ヒッキーさんは結構な方向音痴らしく、
ヴィップの町にも東側から入って来たらしい。

ヴィップより東には街道は一応あるが町はないし、旅人がそちら側から来るのはかなり珍しい事だ。
ヒッキーさんは南の方の小さな村から来たらしいが、随分とひどい迷い方をした様である。
街道から外れてモンスターに襲われなかったのは幸いな事だ。

ξ゚听)ξ「それで、ヒッキーさんはどちらにご用がおありで?」

(-_-)「あ、はい、その教会に行きたいのですが……」

( ^ω^)「残念ながらこの町の教会に行っても何もないですお?」

建物はあるが司祭がいないので、行った所で何もないし、そもそも鍵が掛かって中に入れない。

(-_-)「ええ、わかってます。あ、その前に町長さんの所に行かないと……」

( ^ω^)「お?」

僕はヒッキーさんの言葉に引っかかるものを感じ、その姿をよくよく見直してみる。
童顔だが話した感じ、僕より結構年上なのかもしれない。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:19:22.52 ID:LDnEm0Z50

旅用のフード付きのマントを身に着け、フードは被っておらず、首元にはペンダントか何かの鎖が見える。
荷物が提げられた杖は飾り気が無く先端が巻くように捩れていて、
僕はそれを見てようやくヒッキーさんの職業に見当がついた。

( ^ω^)「ひょっとしてヒッキーさん、司祭様ですかお?」

ξ;゚听)ξ「え? こんな薄汚いのに?」

(;^ω^)「ツン!」

(;-_-)「あ、いや、アハハ……はい、その、一応司祭やってます」

牧杖、いわゆる司教杖を手にしていたヒッキーさんはやはり司祭らしい。
ツンの感想もわからなくはないが、長旅をして来たのなら仕方のない姿ではある。

なんにせよ、ヒッキーさんの目的もわかった事だし、僕は早速町長の所へ案内する事を申し出る。

(-_-)「ありがたいですけど、お仕事中だったのでは?」

( ^ω^)「しばらく店を閉めるくらいかまいませんお」

ξ゚听)ξ「どうせ暇ですし」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:21:54.10 ID:LDnEm0Z50

(;^ω^)「余計な事は言わんでよろしい」

(∪^ω^)「わんわんお!」

(;-_-)「アハハ……」

冗談交じりの会話だったのだが、ヒッキーさんは申し訳なく思っているのか、
道だけ教えてくれればと僕の申し出を固辞される。
しかし、ヴィップに来るのに道に迷ってた人が道を教えるだけでちゃんと辿り着けるか疑問である。

(;-_-)「そ、それはまあ……何とかなると思うかな……?」

( ^ω^)「時間もかかりませんし、僕としても商売人としての打算的な考えもあるんで案内させてくださいお」

僕の言う所の打算、聖水の話をヒッキーさんに話し、今から仲良くしておきたいのだと正直に伝える。
聖水を道具屋で扱う事自体はそう珍しい事でもないし、話し辛いわけでもないのだが、
お互い利があるとわかれば頼みやすく思ってくれるだろう。

ヒッキーさんはそんな僕の言葉に納得したように頷いてくれる。
ヒッキーさんが神聖魔法を使えない可能性もあったのだが、この反応だとどうやら使えるみたいだ。

(-_-)「じゃ、じゃあ、申し訳ないけど案内お願いできますか?」

( ^ω^)「勿論ですお」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:23:37.68 ID:LDnEm0Z50

僕はヒッキーさんと共に店を出る。
ツンは言わずもがな、この珍しい状況に首を突っ込まないはずがないだろう。
わんわんおを抱えたまま、僕らに付いて来る。

( ^ω^)「司祭様は南の方のご出身なんですおね?」

(;-_-)「その、司祭様ってのは止めてもらえませんか? そんなにすごいものじゃないんで」

( ^ω^)「司祭様は司祭様ですお?」

先にも述べたように、司祭が町で担う役どころはそれなりに多い。
自ずと人々から尊敬を集め、敬われているのが常だ。
少なくとも、前任の司祭様は尊敬に値する人だったと思う。

(-_-)「それは前任の方の人徳のなせる業ですよ」

自分は若輩者ですし、尊敬に値する人物ではないと謙遜されるヒッキーさん。
僕達はその奥ゆかしい態度を尊重し、司祭さん、またはヒッキーさんと呼ぶ事で納得した。

若干、奥ゆかしい通り越して人見知りの様な感じにも見えなくないが、
時間が経って慣れてくれると、その余所余所しさも消えるのではないかと思う。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:25:26.93 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「ヒッキーさんは、この町に2年も司祭さんが赴任してこなかった理由は知ってます?」

(-_-)「それは……適任者がいなかったらしいとは聞いていますね……」

ヴィップの町はニューソク正教、主神アルァの教えを教義とする、
通称アルァ教がほとんどと言っていいほど根付いていない地だ。
ヒッキーさんは少し濁した言い方をされたが、信仰の薄いこの地に好んで来たがる司祭はいないのかもしれない。

( ^ω^)「でも、司祭さんは生活に必要とされてるんですけどね」

司祭にとって本来はついでの様な業務なのだろうが、ヴィップの町ではそちらの方で必要とされている。
ヒッキーさんもきっと歓迎されると思う。

(-_-)「そちらも司祭の大切な役割ですよ」

宗教家としての側面、神を信じ、その恩恵により人々に救いを与えるのが司祭としての本来の役割であるが、
人として人々の為になる行動をするのも司祭が負うべき役目だとヒッキーさんは言う。

( ^ω^)「正直、神様を信じてない自分が教会のお世話になるのは気が引けてる部分もありましたお」

(-_-)「そんな事気にしないでください、とは立場上言っちゃ駄目なんでしょうけど」

(-_-)「気軽に相談して頂ければ、私としても嬉しいものですよ」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:27:07.66 ID:LDnEm0Z50

平和な時世だと宗教を心の拠り所にする人も少なくなり、教義や祭祀に関わる仕事は減るものらしい。
その理屈は何となくわかるが、都合の悪い時だけ神に頼るのも何だか申し訳ない気もする。

( ^ω^)σ「あの家ですお」

話している内に、目的地である町長の家が見えて来た。
ここまで来れば迷う事は無いだろうが、話を早くするため、僕が町長に話を通す事にした。

(-_-)「わざわざ案内ありがとうございます」

( ^ω^)「どういたしましてですお」

( ^ω^)「話は通しておきましたので、あとは町長さん達が色々やってくれると思いますお」

(-_-)「何から何まで本当にありがとうございます」

( ^ω^)「困った時はお互い様ですお。また後日、落ち着かれた頃に聖水の件でお話に伺いたいと思いますお」

( ^ω^)「あ、教会しばらく放置されてましたし、人手が必要なら声をかけてくれれば手伝いますお」

(-_-)「いえ、そこまでお頼みするのは申し訳ないですよ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:29:09.39 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「どうせ暇な店ですし、かまいませんよ」

(;^ω^)「だから暇って言うなお。いや、手伝う時間ぐらい作れますからお気軽にどうぞですお」

(-_-)「アハハ……。ありがとうございます。皆さんに神のご加護のあらん事を」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕らはヒッキーさんに別れを告げ、時間的に昼飯時だったので店には戻らずバーボンハウスに向かった。
薬草パスタは次回のお楽しみという事にする。

( ^ω^)ノ「おいすー」

川 ゚ -゚)「いらっしゃいませー……って、ブーンか」

バーボンハウスで僕らを迎えてくれたのはシャキンさんではなくクーだった。
シャキンさんは奥で仕込みをしているらしい。

( ^ω^)「ランチ2つと肉頼むお」

川 ゚ -゚)「うむ、ランチ3つと肉だな」

(;^ω^)「さり気なく自分の分も頼もうとすんなお」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:31:00.55 ID:LDnEm0Z50

僕は恨みがましい目で見てくるクーを無視し、カウンター席に着いてシャキンさんを呼んでくれるように頼む。
どうせ後々耳に入るだろうが、一応司祭が町に来た事を伝えておこうと思う。

川 ゚ -゚)「ケチ臭い店長だな」

( ^ω^)「時給減らすぞ、バイト」

ξ゚听)ξ「そもそも、あんたまだ仕事中でしょうが」

川 ゚ -゚)「早めの食事休憩でもいいだろ?」

ξ;゚听)ξ「今から忙しくなる時間帯なのに、なに馬鹿な事言ってんのよ」

クーはなおもぶつぶつ言いながらも素直に注文を書き、シャキンさんを呼びに行く。
僕への態度はともかく、一応ちゃんと働けているようで安心した。

(`・ω・´)「おう、よく来たな」

(∪^ω^)「わんわんお!」

(*`・ω・´)「よく来たねー、わんおちゃん! すぐ美味しーいご飯用意するから待っててね!」

相変わらずのシャキンさんに苦笑しながらも、僕は司祭の件を伝える。
シャキンさんも司祭が赴任して来る事を知らなかったらしく、驚いた顔をしていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:32:11.26 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「ギルドからそういう話は聞かなかったんですか?」

(`・ω・´)「まあ、教会とギルドはあんまり仲がいいわけでもないからな」

とはいえ、全くそういう話が聞こえて来なかったのもちょっと意外だというのがシャキンさんの感想らしい。
隠蔽するような情報でもないし、連絡の不備か急遽決まったかのどちらかだろうとシャキンさんは言う。

ξ゚听)ξ「やっぱり来たがる人がいなかったから、決めるのに揉めてこんなに間が空いたのかしらね?」

( ^ω^)「この町に赴任して来ても、宗教家としては働き甲斐が無いだろうからね」

ヒッキーさんはああ言ってくれはしたが、実際の所はどうなのだろうか。

僕はシャキンさんが調理している間に皿洗いをしていたクーに意見を聞いてみる。
王家に縁あるクーなら、僕らよりはその辺りの事情に詳しいかもしれない。

川 ゚ -゚)「知らん」

( ^ω^)「役に立たねえな」

川 ゚ -゚)「昼飯すら奢ってくれない強欲店長に教える事は無い」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:34:07.53 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「奢ったら教えてくれるのかお?」

川 ゚ -゚)「いや、知らない物は教えられんよ」

( ^ω^)「……うん、まあ、そうだおね」

冷静に考えれば王都にいたとしても、教会の人事とか内情がわかるものでもないだろう。
クーなら立場上、知りえた機会はあったかもしれないが、そう簡単に内情が知られているのもそれはそれで問題だ。

川 ゚ -゚)「ただ、一般的な流れで言えば今回の件は少し変わっていると思う」

( ^ω^)「お?」

ヒッキーさんは南の方の小さな村から来たと言っていたが、
一般的に地方に赴任する司祭は教会の本部があるソクホウから派遣される。
元々その地に住んでいた人が任命される事もあるが、それにしたって1度はソクホウで修行をしてからの話だと。

川 ゚ -゚)「今回来た司祭、ヒッキー殿だったか? 彼がもといた村にソクホウから派遣された司祭が赴任したんだろ?」

その代わりにヒッキーさんがこの町に来る事になったらしいのは先ほど本人から聞いた。
クーが言うには、何だか回りくどい気がするとの事だ。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:35:52.37 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「別に移動ぐらいあってもおかしくないんじゃないの?」

川 ゚ -゚)「どうだろうな? 司祭が複数人いる都会の教会ならともかく、田舎は地域密着型みたいなとこがあるからな」

ころころ変わるのも不都合だろうとクーは言う。
確かに、以前の司祭様は僕が生まれる前からずっとこの町にいたはずだ。

川 ゚ -゚)「何かしら理由はあったんだろうが、その理由までは想像付かんよ」

( ^ω^)「だおね。教えてくれてありがとだお」

何かの折に本人に聞いてみてもいいだろう。
無理に聞きだす必要はないが、少し興味が湧いた。

川 ゚ -゚)つ「ん」

( ^ω^)「何だお、その手は?」

川 ゚ -゚)つ「何だも何もないだろ? 情報料だ」

そう言ってクーは更に手を僕の方へ突き出して来る。
たまにはクーに食事を奢ってあげようとも考えていた僕だが、
こうも露骨に要求されると意地でも奢りたくなくなってしまうのは何故だろうか。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:37:09.55 ID:LDnEm0Z50

(∪^ω^)つ「わんお!」

川 ゚ -゚)つ「って、お前じゃない。ああ、もう、よしよし」

クーの差し出した手にわんわんおが反応する。
その程度の情報で情報料をせびろうなど図々しい事だが、文句を言いながらもわんわんおを撫でるクーを見て、
僕はシャキンさんにお願いする事にした。

( ^ω^)「今日のクーのお昼ご飯、僕につけといてランチ出してあげてお」

川*゚ -゚)「流石店長、太っ腹!」
つ∪^ω^)

ξ゚听)ξ「……ったく、相変わらず甘いわね。てか、ブーンにたからなくても、まかない飯は出るんでしょ?」

川 ゚ -゚)「出るし、それも美味いんだが、よく言うじゃないか」

川 ゚ -゚)b「他人の飯は美味い」

( ^ω^)「格言っぽく適当な事言うなお」

言いたい事は分からなくもないが、そんな格言は存在しない。
僕もツンも呆れて、ほぼ同時に大きな溜め息をついた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:38:59.08 ID:LDnEm0Z50

(`・ω・´)「らっしゃい。おーい、クー、サボってんなよ」

川 ゚ -゚)「おっと、客が増えてきたみたいだな。それじゃあ、また後でな」

わんわんおを椅子に下ろし、クーは注文を取りにテーブル席に向かう。
その姿はなかなか様になっており、シャキンさんにこっそり勤務態度を聞いてみたが、
思った以上にちゃんとやっているようで安心した。

(`・ω・´)「物覚えはいいし、手先も器用だ。あれでもう少し愛想があれば満点なんだが。ほれ、ランチお待ち」

そう言いながらシャキンさんは僕らの前にランチのプレートを並べる。
今日のメインは魚らしい。
綺麗に焼き目の付いた大振りの魚が香ばしい匂いを漂わせている。

(`・ω・´)「今朝揚がったモオト湖産の魚だ。美味いぞ」

(*^ω^)「いい匂いですお」

ξ*゚听)ξ「随分食べ応えがありそうですね」

(∪*^ω^)「わんわんお!」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:40:58.83 ID:LDnEm0Z50

わんわんおの前にも魚の乗った皿が置かれている。
それもちゃんと骨をとって身をほぐしたやつだ。
下手すれば僕らの料理より手間が掛かってるのではなかろうか。

(*`・ω・´)「わんおちゃん、魚も食べられるだろ? 折角だからな」

( ^ω^)「犬ですし、問題ないと思いますお。わざわざすみませんお」

むしろ犬なら骨ごとでもかまわなかったと思うのだが、小骨は危険だとシャキンさんは主張する。

ξ゚听)ξ「魚の食べ方の汚いあんたの方が、わんお用の魚食べた方がいいぐらいよね」

(;^ω^)「失礼な。魚ぐらい綺麗に食べられるお」

僕は普段より慎重に魚の身を剥がし、口に運ぶ。
香ばしい皮のパリっとした食感と、程よく火の通った肉厚の身が口の中で混ざり合い、旨味が広がる。

ξ*゚听)ξ「これ、すごく美味しいですね」

(*^ω^)「美味いお!」

(∪*^ω^)「わんわんお!」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:42:19.41 ID:LDnEm0Z50

僕らの反応にシャキンさんは満足そうな笑みを浮かべる。
シャキンさんはクーから注文を受け、また調理に戻って行った。

ξ゚听)ξ「しかし、いいタイミングだったわね」

( ^ω^)「ほぶだぼ……ゴクン……そうだおね」

拳をちらつかせるツンに慌てて口の中の物を飲み込んでから答える。
いいタイミングとはヒッキーさんの事だろう。
丁度司祭が来てくれたらという話をしていた時だったから、本当にいいタイミングだ。

ξ゚听)ξ「これで新商品の目処は立ったわけね」

( ^ω^)「実際は新商品というより、再販みたいなもんだけどね」

聖水の需要は確実にあると思うから、多少は収入の増加が見込める。
ただ、それだけで満足するのは店としても魔法使いとしても納得のいく事ではないので新商品は考え続けるとは思うが。

ξ゚听)ξ「まずは売り物になる事前提で考えなさいよ?」

( ^ω^)「当たり前だお」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:44:13.63 ID:LDnEm0Z50

これまでだって常に売り物として考えて来たのだ。
決して遊びで商品を考えていたわけではない。

そう主張すると、何故かツンは呆れた様な哀れんだ様な視線を僕に向けて来た。

ξ゚听)ξ「まあ、向上心は認めるけどね」

( ^ω^)「……ちゃんと結果も出してやるお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕は視線を料理に戻し、醤油を付けた魚の身を口に運ぶ。
塩加減はいい塩梅だが、焼き魚にはほんの少し醤油を足らして食べるのが好みだ。

ξ゚听)ξ「……さっきの話だけどさ」

( ^ω^)「お? さっきの?」

司祭が来た話だと付け足し、理由に1つだけ心当たりがあるとツンは言う。

ξ゚听)ξ「クー絡みって線よ」

( ^ω^)「お……」

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:45:30.02 ID:LDnEm0Z50

背後を見て、クーが僕らから離れているのを確認してからツンは小声で言った。

確かに、その線はあるかもしれない。
最近この町であった大きな変化といえばクーの事だろう。
そしてクーを連れ戻しに来た人がいたとしても不思議は無い。

その場合、居場所がバレた経緯は気になるが。
僕としては解呪は失敗していない自信はあった。

ただ、その理由だと先の話にあった回りくどさの説明としては弱い部分もある。
クーを連れ戻したいなら大っぴらに連れて帰ればいいだけなのだ。
事を大きくしたくないのかもしれないが、別に向こうは悪い事をしているわけではないのだし。

ξ゚听)ξ「それは私もそう思うわ」

なんにせよ、今は推測の域を出ない話だ。
真偽のほどがどちらにせよ、僕らは様子を見る事に決めた。

( ^ω^)「しかしここ最近、色々と変わった事が起きるおね」

ξ゚听)ξ「そうね。人の行き来が無いわけじゃないけど、変化の無い町ってイメージあったし」

クーの事もそうだが、天空竜の事や見慣れぬモンスターが立て続けに現れた事など、色々起こった気がする。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:47:12.50 ID:LDnEm0Z50

ξ゚听)ξ「そういえばモンスターの件はドクオには相談したのよね? 何て言ってた?」

( ^ω^)「偶然だろう、としか」
  _,
ξ゚听)ξ「使えないわねえ……」

( ^ω^)「まあ、でも、それで片付いちゃうぐらいの事だってのもあるんだおね」

それぞれの出来事の関連性が見えて来ないし、それで何か重大な事件が起きたわけでもない。
この町に限らずどこかで何か、例えば戦争が起きたなんて話はないし、モンスターに町が襲われたという話もない。

結局、僕の気にし過ぎかなというのが僕の中でも結論付けられようとしていた。

ξ゚听)ξ「その方が自然かしらね」

( ^ω^)「だお」

僕は最後の魚の身を口の中に放り込み、よく味わってから飲み込んだ。
そして箸を置き、両手を合わせて感謝の意を示す。

( ^ω^)「ごちそう様でしたお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:48:39.65 ID:LDnEm0Z50

(`・ω・´)「おう、いい食べっぷりだ。こう綺麗に平らげてくれると作った甲斐があったってもんだ」

ξ゚听)ξ「ブーンの皿はそんなに綺麗でもないですけどね」

(;^ω^)「そ、そんなことないお」

(`・ω・´)「ハハハ、ツンの食べ方は綺麗過ぎるからな。比べたらブーンがかわいそうだ」

僕としてはがんばって綺麗に身を剥がしたつもりだが、
ツンの皿と見比べると明らかに汚いのは言われずとも自覚している。
昔からツンは魚の食べ方が上手かった。

ξ゚听)ξ「わんわんおにも負けてるし」

(∪*^ω^)「わんお!」

(;^ω^)「わんおの分は最初っから骨なかったんだから当たり前だお!」

(`・ω・´)「次は骨まで食べられるやり方で調理しておくよ」

(;^ω^)「いや、別に負けたとか気にしてないんで、そこまでしなくていいですお」

気の毒そうな目で見てくるシャキンさんに僕は慌てて大きく手を振って拒否の意を示す。
冗談で言っているのだと思うが、料理に対して凝り性のシャキンさんならその位しかねないのが怖い所だ。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:50:08.64 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「そういえば今日はショボンいないんですかお?」

僕は話を変えるべく、また司祭の話をしたら一番喜ぶであろうショボンの行方をシャキンさんに尋ねるが、
ショボンは現在森にキノコ採りに行っているらしい。
ショボン達店の人間が採集に行くのはあまりなかった事だが、バイトが増えたので人手が割けるようになったのだろう。

ξ゚听)ξ「ショボンってキノコ見分けられるんですか?」

(`・ω・´)「おう、俺が教え込んだからな」

教え込んだと言ってもあいつは物覚えがいいからそれほど苦労しなかったと、どこか嬉しそうな口調で言うシャキンさん。

普段ショボンに怒鳴っている姿がよく見られるが、それも愛情の裏返しというか、
ショボンが教えれば出来る子だからそうしているだけなのだろう。
親1人子1人、お互いを思い合っている仲の良い親子なのだ。

( ^ω^)「……」

そんなシャキンさんの姿に、ショボンの夢を知る僕は少しだけ胸が痛んだ。
今回、ヒッキーさんが町に来た事でショボンは神聖魔法を習いに行くだろう。
そこでもしショボンが自信を深めたら、きっとソクホウに行き、聖騎士になる道を選ぶのではなかろうか。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:51:07.67 ID:LDnEm0Z50

ヒッキーさんの事は僕が伝えなくても遠からずショボンの耳に入る。
だから、僕が負い目を感じる必要はなく、また、夢を応援したいという気持ちもあるのだが、
シャキンさんの笑顔を見ていると何だか悪い事をしている様な気がしてしまう。

( ^ω^)(あ、夢といえばタイムカプセル……)

そういえばすっかり忘れていたが、タイムカプセルも掘り返さなければならなかった。
埋めた場所は大体の見当が付いているが、どうせならショボンも誘ってみようかと思う。
改めて夢の、聖騎士の話をするいい機会かもしれない。

今後ショボンがどうするのか、決めるべき時はそう遠くない。
どちらが本人の為になるのか僕にはわからないが、ショボンの納得のいくまで相談に乗る位は出来るはずだ。

それにショボンならツンにタイムカプセルの事を内緒にしてくれるだろう。

(`・ω・´)「今日のディナーはこの魚とキノコのソテーの予定なんだ」

( ^ω^)「それは美味そうですおね」

笑顔でショボンの成果を待ちわびるシャキンさんに、僕も笑顔を返した。
お昼に魚を食べたばかりだが、晩ご飯にまた食べに来ようかと思ってしまう。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/11(土) 23:53:09.55 ID:LDnEm0Z50

( ^ω^)「それじゃ、僕らはこの辺で」

(`・ω・´)「おう、毎度。また来いよ」

ξ゚ー゚)ξ「はい。ごちそう様でした」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕らはシャキンさんに別れを告げ、バーボンハウスを出る。

( ^ω^)「さて、午後からはちゃんと働かないとだお」

僕らはツンと別れ、お店に戻る。
その後は、冒険者の客が多少は来てくれたので若干の売り上げがあった。
何だかんだ言っても、最低限の需要はあるし、聖水も商品に加わればもう少し売り上げ増も見込めるだろう。

( ^ω^)「この調子で明日もがんばるお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕は明るい気持ちで1日を終える事が出来た。



     第十一話 訪れ来たるは迷い人 終

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/11(土) 23:58:26.14 ID:LDnEm0Z50

【登場人物紹介】

( ^ω^) ブーン=ナイトウ(ブーン=ホライゾン)
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営んでいる少年。
祖父は伝説の大賢者であるバーン=ホライゾンだが、その事を知るものは少ない。

ξ゚听)ξ ツン=ディレード
武術道場の娘でブーンの幼馴染。
武術の腕は確かで、道場で師範代を任されている。

(∪^ω^) わんわんお
ブーンのペット兼使い魔。
子犬の姿だが、本当は竜の中でも最強の力を誇る天空竜の転生したものである。

('A`) ドクオ=ボッテューツ
ヴィップの町の南東の方にある庵に住む残念な容姿の賢者。
ブーンの祖父の弟子でブーンの師匠に当たるが、本人は師匠と呼ばれるのを嫌っている。

川 ゚ -゚) クー=スナオ(???=???)
サンライズにペンダントの解呪の依頼を持ち込んだ新米冒険者。
色々と秘密があるらしいが詳細は不明。今はブーンに借金を返すためにヴィップの町に滞在中。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/11(土) 23:59:18.63 ID:LDnEm0Z50

(`・ω・´) シャキン=バールボー
酒場バーボンハウスのマスター。
バーボンハウスはギルドからのクエストの斡旋もしており、冒険者達の溜まり場となっている。

(´・ω・`) ショボン=バールボー
シャキンの息子でブーンの幼馴染。
聖騎士を目指しているが、その事を知っているのはブーンとツンのみ。
  _
( ゚∀゚) ジョルジュ=ナガオカ
ヴィップの町を拠点としていた冒険者。長柄の両手斧を武器とし、ハイン、ミルナとパーティーを組んでいる。
現在は武器の強化の為にメシューマの町にいる。

( ゚д゚) ミルナ=コッチオ
ヴィップの町を拠点としていた冒険者。モーニングスターを武器とし、ジョルジュ、ハインとパーティーを組んでいる。
現在は武器の強化の為にメシューマの町にいる。

从 ゚∀从  ハインリッヒ=タカオカ
ヴィップの町を拠点としていた冒険者。2振りの蛮刀を武器とし、ジョルジュ、ミルナとパーティーを組んでいる。
現在は武器の強化の為にメシューマの町にいる。


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