( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです

1 名前: ◆5rua49HN2. 投稿日:2012/02/12(日) 22:39:11.42 ID:U/bfJ6u10

 〜 魔法道具屋サンライズ 〜


( ^ω^)「いらっしゃいませですお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

(-_-)「こ、こんにちは……」

( ^ω^)「お? ヒッキーさん? 何かご用でしょうかお?」

(-_-)「え、ええ、ちょっと……」

( ^ω^)「お?」

(∪^ω^)「わんお?」

(-_-)「町長さんに聞いたんですけど、君は優秀な魔法使いなんですね」

( ^ω^)「優秀かどうかはともかく、魔法使いではありますお」

(-_-)「……」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:40:15.02 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「ヒッキーさん?」

(-_-)「その……魔法使いである君に頼みがありまして……」

( ^ω^)「お……、魔法使いとしての僕にですかお? 一体どんな?」

(-_-)「解呪を手伝ってもらえないかと……」

( ^ω^)「解呪ですかお? それはかまいませんけど、何の解呪ですかお?」

(-_-)「その……教会の解呪を……」

(;^ω^)「教会!?」

(∪^ω^)「わんお?」



     第十二話 神、時々精霊、所によってまた神

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:41:40.53 ID:U/bfJ6u10

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお、ヒッキーさん。一旦話を整理しましょう」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

(;-_-)「そ、そうだね、ご、ごめん……。いきなりこんな事言われても意味がわからないですよね」

彼の名前はヒッキーさん。
先日、ヴィップの町に赴任してきた司祭で、少しおどおどした所がある人だ。

(∪^ω^)「わんわんお」

この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。

(;^ω^)「教会の解呪って、建物自体って事ですかお? 教会の建物がどうかしたんですかお?」

教会は前任の司祭様が亡くなって以降、建物は閉じられて使われていなかった。
本来ならたまに掃除とかしておくべきだったのだろうが、町内の建造物とはいえ、
その所有権や諸々の権利はニューソク正教にあった。

故に、向こうの意向が定まるまでは様子見という事になっていたのだが、
それが予想外に長引いて約2年ほどの放置期間が出来てしまっていたのだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:43:07.01 ID:U/bfJ6u10

先日ヴィップに来たばかりのヒッキーさんだが、既に教会には行ったのだろう。
少々どころではない特殊な依頼に、僕は混乱しつつも状況を正しく把握するべく質問をする。

(;-_-)「えっと……ちょっと漠然とした話なんですけど……」

昨日、僕達と別れた後ヒッキーさんは町長と話し、教会の鍵を受け取って教会に向かったらしい。
鍵を開け、中を覗いて見るとそこは異様な空気に満ちていたという。

(;-_-)「長らく締め切ってたからという理由では説明の付かない、何だか異質な空気でした」

ヒッキーさんは一旦鍵を閉め、今日はこちらに泊まるようにと言ってくれた町長の家に戻ったとの事だ。

( ^ω^)「なるほど……。確かにちょっと漠然とした話ですおね」

具体的に何かあったわけでもないが、気の所為と言い切る事も出来ない。
ヒッキーさんは司祭だし、神聖魔法も使えるという話だからそういった空気には敏感な方だろう。

( ^ω^)「何かが住み着いてるってのが、可能性としては一番大きいかもしれませんお」

(-_-)「うん、僕もそう思います」

(∪^ω^)「わんおー」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:44:30.44 ID:U/bfJ6u10

ただ、そうなると色々と気になる事が出て来る。
そんなものがずっと町中にいたのに誰も気付かなかった事とか、
そもそも教会にそういった害のあるものが住み着く事があるのかとかだ。

(-_-)「当然、本来なら教会は悪魔に対する防御結界を張ってあるはずなんですけど……」

悪魔、この場合はモンスターも含めてよいだろう。
そういったものが侵入しない様に、教会は神聖なる力で守られている。
司祭がいない状態でも、建物自体に張られていた結界は機能していたはずだとヒッキーさんは言う。

(-_-)「しかし、昨日近付いた感じでは結界がなかった様な気がします」

( ^ω^)「経年劣化したとかですかおね?」

(-_-)「わからないですね。ただ、そう簡単に切れるような結界は張っていないはずですが」

外観からは建物が壊れた場所は見付からなかったし、窓も施錠されてた様だ。

( ^ω^)「うーん……。とりあえず見て見た方が早いかもしれませんね」

何が起こっているのかわからないし、気の所為の可能性もある。
どちらにせよ、実際に見て、空気を感じてみない事にはわからない。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:46:10.76 ID:U/bfJ6u10

多少の危険もあるかもしれないが、今のところ町に何らかの害を及ぼした形跡もないし、
比較的おとなしい部類の物が住み着いてるのではなかろうか。

(-_-)「お願い出来ますか? 勿論、依頼料は……」

( ^ω^)「代金はいいですお」

それは悪いというヒッキーさんだが、この町で起こった事件なのである意味町の人間にも責任はある。
当然ながら昨日来たばかりのヒッキーさんの所為ではないのだし、何かしら大掛かりな事になったとしても、
料金を請求するなら教会の本部か町長にしようと思う。

( ^ω^)「取り敢えず様子見って事で行ってみましょう」

僕は店を閉め、ヒッキーさんと共に教会に向かう。
わんわんおはお留守番だ。
ついでに、ツンやクーにも知らせない事にする。

知らせると確実について来るのだろうが、この手のモンスターは恐らく物理攻撃がきかない、
実体のないタイプだと推測される。
何かしら実体のあるタイプのモンスターなら、教会の建物が壊されて侵入してるはずだ。

後でこの事を知ったら文句を言われそうだが、まあ、多分大した事のない相手だろうから僕だけで十分だろう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:47:29.49 ID:U/bfJ6u10

(-_-)「すみませんね。本来は本職の僕がやるべき話なんですけど……破魔の魔法は苦手で……」

( ^ω^)「ヒッキーさんは回復系の魔法が得意なんですかお?」

(-_-)「魔法自体があまり得意ではないんですけどね……守護の魔法とかそっちなら多少は……」

人には得手不得手があるのだから仕方のない話だ。
戦いに赴く司祭なんて滅多にいないし、悪魔払いを請け負う司祭もある種の専門職だと聞いた覚えがある。
今回の事はかなり特殊な事態で、ヒッキーさんが何の対策も取れないとしても仕方のない話だ。

( ^ω^)「ヤバそうな相手だったら魔法のエキスパートに頼む事にしますお」

(-_-)「ああ、確か、この町の近くに賢者様が住んでるんですよね?」

( ^ω^)「様はいらないですお。まあ、一目見たら様付ける気無くすと思いますけど」

(;-_-)「え? どんな人なの?」

そんな事を話しながら歩き、僕らは教会に辿り着いた。
町の北西部、民家からは少し離れた丘の上に教会はある。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:49:07.12 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「ちょっと周りを見て来ますお」

僕はヒッキーさんに教会の前で待ってもらい、周りをぐるっと回ってみた。
教会は礼拝堂と居住スペースが一体となっているが、それほど大きな建物ではない。

一通り見てみたが、ヒッキーさんの話通り壊れた場所もなければ窓は雨戸が付けられており、鍵も掛かっていた。

( ^ω^)「どこもおかしい所はないですおね」

(-_-)「そうですか……」

( ^ω^)「それじゃ、入ってみますかお」

(;-_-)「え、もう?」

( ^ω^)「まあ、そうしない事には何にもわかりませんし」

不安そうな顔をするヒッキーさんだが、ここで躊躇していても何も始まらない。
昨日の体験がそうさせるのだろうが、調べるなら中に入る以外手はないのだ。

( ^ω^)「何なら、まず僕だけで入ってみますけど」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:50:55.99 ID:U/bfJ6u10

(-_-)「いや、僕も行きますよ。依頼しておいてそれは流石に悪いですし」

ヒッキーさんに鍵を開けてもらい、僕は両開きのドアを勢いよく押し開く。

( ^ω^)「お……」

ヒッキーさんの話通り、教会の中から流れ出す空気がどこかおかしい。
暗く重苦しい、纏わり付くような感覚がある。

( ^ω^)「どこから……」

僕は教会の中に足を踏み入れ、周囲を見回す。
教会の中は薄暗く、祭壇の後ろのステンドグラスから差す光だけが唯一の明かりだ。

( ^ω^)「雨戸を開けておくべきでしたお」

(-_-)「そうですね、一旦出ま──」

ヒッキーさんがそう言いかけた瞬間、大きな音がした。
音のした方向、背後を振り向くと入り口のドアが閉じられている。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:52:07.14 ID:U/bfJ6u10

(;^ω^)「……こういう場合、大体開かなかったりするんですおね」

(;-_-)「ハハハ……」

案の定、ヒッキーさんがドアを開けようとしてみたが開く気配はなく、僕らは閉じ込められてしまった様だ。
少々迂闊だったが、取り敢えずこれでここに何かがいる事は確定だろう。

(;-_-)「随分と余裕ですね」

( ^ω^)「まあ、最悪、魔法でぶち破って出ればいいですしね」

魔法がきかなかったらどうしようかと思うが、元々解呪の依頼を受けてここに来たのだ。
原因を探って解決する事を優先しよう。

( ^ω^)「まずは、この嫌な空気がどこから来てるかですおね」

(-_-)σ「それは多分、向こうでしょうね」

ヒッキーさんが指す方向は教会の奥、祭壇がある場所だ。
僕の見解も同じで、向こうの方がこの嫌な空気の濃度が濃く感じられる。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:54:10.25 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「流石に不用意に近付くと怖いんで、明かりを何とかしましょうかお」

僕は呪文を唱え、杖に光を灯した。
それほど強い光ではないが、周囲を照らすぐらいなら十分だ。
あまり強力な光を照らして不用意に刺激するのは避けたいと思う。

( ^ω^)「中は綺麗なもんですおね」

何かが住み着いているはずだが、室内が荒らされたような形跡はない。
机や椅子が、かつて見た覚えのあるままの状態で並んでいる。

( ^ω^)「お、燭台もちゃんとあるみたいですお。それ点ければ、幾分調べやすくなりますお」

机の上と壁に燭台が置かれているのがわかる。
窓から十分に陽が入るし、夜に教会に来た覚えはなかったのでこの燭台が点いてる所は見たことなかったが、
蝋燭が設置されている所を見ると、機能はしているのだろう。

( ^ω^)「とはいえ、中央を抜けるのはちょっと怖いので、壁際から行きましょうかお」

僕らは一緒に壁際へ向かう。
状況の把握がきちんと出来てない現在、二手に別れるのは危険だろう。
まずは片方の壁の燭台に火を点ける事にした。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:55:27.64 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「特に何か仕掛けてくる様子はなさそうですおね」

(-_-)「そうですね……嫌な気配は依然として残ってますが」

僕は一番入り口に近い壁の燭台に魔法は使わずマッチを擦って火を灯した。

( ^ω^)「……」

(-_-)「……」

幸いにも蝋燭は風化している様な事もなく、点灯する事が出来た。
それに対する反応は何もない。

( ^ω^)「まあ、明かり目掛けて襲ってくるなら、最初の魔法の時に来るでしょうしね」

僕はヒッキーさんを促し、壁を伝って次の燭台に向かう。
嫌な空気が濃くなるのが肌で感じられるが、臆せず進む。

( ^ω^)「点火、と……」

極力明るく振舞ってはいるが、実際に火を点ける時は内心おっかなびっくりである。
嫌な空気もさることながら、真っ暗な教会というのは雰囲気があり過ぎる。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:57:08.34 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「どうしますかお? 今真ん中辺りですけど、このまま奥に進みますかお?」

一旦戻って反対側の壁も点けるという手もある。
個人的にはこのまま進んで祭壇の方へ近付く方がいいかと思っているが、先にこの辺りを調べてみるのもありだろう。

(-_-)「1つ調べたい事があるのですが」

ヒッキーさんは教会に張ってあるはずの結界の状態を調べたいという。
このタイプの教会の建物は、壁際の柱が結界の役目を果たすように配置され、術式を施されているはずらしい。

しかし現在は明らかに結界が働いている様子はない。
中が荒らされている様子がないのにこの状況は不自然といえば不自然だ。

( ^ω^)「そうですおね、ちょっと調べてみましょうかお」

僕らは最も近くにあったそれらしい柱の方に向かう。

( ^ω^)「これ……ですかおね? 術式が書いてないですけど」

(-_-)「術式は隠されてるんですよ。本来なら極秘事項なんですけど、今は仕方ないですね」

そう言ってヒッキーさんは何かの詠唱を始める。
聞き覚えのない術式なので、恐らくは神聖魔法なのだろう。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 22:59:07.15 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「お、何か浮かび上がって来ましたお」

ヒッキーさんの魔法に反応し、柱に結界の術式が浮かび上がる。
こちらは特殊なものではなく、通常の結界術式のようだ。

(-_-)「……おかしいですね」

( ^ω^)「これだと発動しなさそうですおね」

記述された術式を追ってみると、所々欠けている部分がある。
一応の体裁は為しているが、この術式だと結界は正しく張れないのではなかろうか。
事実、現在結界は張られていない。

( ^ω^)「これ、教会の建物が建てられた時に設置されたものですおね?」

(-_-)「だと思います。結界を張る事前提で、この位置に柱があるのでしょうし」

術式もその時に記述されたはずの物だと推測出来る。
であるならば、教会の建立当時は結界が正しく働いていたカはずだ。
最初から間違っていたら話は別だが、流石にその時は気付いてその場で修正しただろう。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:00:12.85 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「あんまり意識した事はなかったですけど、多分、昔は結界が働いてたと思いますお」

思い返してみると、教会には独特の荘厳な空気があったが、それは結界の所為だったのかもしれない。

(-_-)「それが今は働いていない……」

( ^ω^)「何だか嫌な感じですおね」

現状から判断するに、これは人為的に書き換えられたと判断せざるを得ない。
間違いにしては不自然な空白がいくつか見られる。
となると、これがいつ書き換えられたのかが気になる所だ。

( ^ω^)「今思うと、前の司祭様の葬儀の時はまだ働いてた気もしますお」

(-_-)「それが2年前でしたよね」

それ以降、教会が閉鎖されてからという事になるが、そうなると誰がやったか判断するのは難しい。
閉鎖されている教会に近付く事はなかったので、時期を絞り込む事も出来ない。
建物の状態を考慮すれば、鍵を使って入ったとみるのが妥当だろう。

そうなると容疑者は絞られて来る様に思えるが、実際の所はどうなのだろうか。
鍵の線から単純に考えれば町長だが、町長は魔法は使えない。
町長宅から鍵を盗み出し、侵入した後に鍵を戻した場合も考えられるが、それだとなおさら容疑者の特定は難しい。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:02:13.47 ID:U/bfJ6u10

それに、教会側が鍵を持っていた可能性もあるし、現段階では誰がというのを考えるのは不毛そうだ。
ただ、結界を表示させる魔法の事を考えると教会側の方が怪しくはあるが。

( ^ω^)「取り敢えず、問題を解決させる事を優先しますかお」

結界を再起動させれば、この嫌な空気は払えるのではないかと考えられる。
住み着いた何かを払わなければいけない可能性もあるが、その場合でも結界があれば力を弱められるだろう。

(-_-)「それがいいでしょうね」

ヒッキーさんは頷き、懐から羽ペンの様な物を取り出した。
そしてまた僕の知らない術式を唱え、柱に文字を書き出す。

( ^ω^)「そのペンに魔法をかけたんですかお?」

(-_-)「そうです。この柱に書くための特殊なインクとでもいった所でしょうか」

そう聞くと何だか地味だが、知らない魔法は興味深い。
僕は術式を書き込むヒッキーさんの手元を熱心に観察していた。

(-_-)「これでいいはずです」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:03:28.27 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「手馴れたもんですおね」

(-_-)「修行時代によく書かされたものなので……」

そういえばヒッキーさんは守護の魔法が得意だと言っていた。
結界もそちら側に分類されるので、手際がいいのだろう。

( ^ω^)「これ、1つだけ発動させてもあんまり意味ないですおね?」

(-_-)「ごく近い範囲なら単体でも効果を為しますが、基本的にはいくつか繋げて使うものですね」

このタイプの教会は、6本の柱に術式を施して結界を構築しているらしい。
残り5本、ひとまず修正が終わったものから順に発動させて行く事にした。

(-_-)「じゃあ、発動させますね」

( ^ω^)「よろしくですお」

ヒッキーさんは柱に片手を当て、呪文の詠唱を始める。
僕はそれに気を取られ、周囲の警戒を怠ってしまっていた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:05:09.38 ID:U/bfJ6u10

          川;;;;;;川

(;゚ω゚)「!?」

何かがいた。
僕らの横、祭壇側の空中に浮かぶ黒い何か。

それが人の形をしていると理解した時には、僕を黒く重い何かが包んでいた。

(;゚ω゚)「あ……」

悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい

僕の中に流れ込む負の感情。

そして映し出される顔。


          (   )


これは……誰の……

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:06:50.14 ID:U/bfJ6u10

(;-_-)「ホーリー・サークル」

白い光が広がり、僕を包む黒を霧散させる。
少し足がもつれたが、何とか踏み止まりヒッキーさんの方に身を寄せた。

(;^ω^)「た、助かりましたお。すみません、ちょっと油断しましたお」

(;-_-)「僕も油断してましたよ。いきなり仕掛けてくるとは……」

ヒッキーさんを中心に白い光の半円が僕らを守るように広がっている。
これがヒッキーさんの守護の魔法なのだろう。
この魔法内ではあの嫌な空気が浄化されている様だ。

(;^ω^)「ヒッキーさんはあの顔を見ましたかお?」

(;-_-)「かろうじて何かがいたのはわかったけど、顔まではよく見ませんでした」

ヒッキーさんの話では、僕が黒い靄のような物に包まれるのを見て慌てて結界魔法の詠唱を中断し、
守護の魔法に切り替えたという事らしい。

魔法の強度といい、詠唱の速さといい、ヒッキーさんは意外とやる人なんだと僕は認識を改めた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:08:07.45 ID:U/bfJ6u10

(;-_-)「一応これ、スペシャルなんですよ。僕の唯一の取り柄といった所ですよ」

(;^ω^)「そうなんですかお?」

未知の魔法に色々と興味は尽きないが、今はその話は後回しにして先ほどの黒い影の分析を優先させねばならない。
僕は感覚を研ぎ澄ませ、先の黒い影の気配を探る。

(;^ω^)「離れて行ったみたいですおね……」

(;-_-)「気配はしませんね……」

先ほども突然現れたのだし油断は出来ないが、ヒッキーさんは一旦魔法を解いた。
瞬間的な防護壁としては優秀らしいが、長時間の維持は大変の様だ。

( ^ω^)「さっきの黒い霧、この空気と同様に負の感情に満ちてましたお。ただ……」

(-_-)「ただ?」

( ^ω^)「負の感情が悲しみだけだったんですおね」

(-_-)「悲しみですか?」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:10:31.34 ID:U/bfJ6u10

あの時僕を襲った悲しみは、恐らくあの黒い霧がもたらしたものなのだろう。
僕は悲しみの中、眼前の黒い影ではなく、他の誰かの顔を見ていた。

( ^ω^)「悲しみを喚起させるモンスター……いや、悪霊ですかおね」

そのキーワードで思い付くモンスターなら、精霊の一種であるバンシーがいる。
悲しみから生まれ、悲しみをもたらす精霊。
バンシーは人を失意の淵に追いやり、悲しみを広げる事から精霊というよりは悪霊扱いされる。

(;^ω^)「でも、それだとちょっと説明が付かないとこもあるんですおね」

(-_-)「そうなんですか?」

( ^ω^)「バンシーは性質の悪い精霊なんで、悲しみを拡散しようとするはずなんですお」

だが、ここにいるあの黒い影が教会から出て町に悲しみを広げた形跡はない。
ここ数日の間に住み着いた可能性もあるから一概には言えないが、どこかしら違和を感じる。

(-_-)「正体は気になりますが、考えてもわからなそうですので、ひとまず結界の復旧を優先させましょうか」

( ^ω^)「そうした方がよさそうですおね」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:12:10.03 ID:U/bfJ6u10

再び襲って来る事も考えられたが、僕が警戒と囮になり、
ヒッキーさんが結界の復旧と僕が霧に包まれた場合の浄化を担当するという事で作業を再開した。
依頼を受けて来た割にあまり働かない役割だが、現状はこれがベストだろう。

(;-_-)「大丈夫ですか? 下手すれば何度も精神攻撃を受ける事になりますけど……」

( ^ω^)b「そう何度も同じ攻撃を食らってやるほどヘボじゃないですから安心して下さいお」

僕は親指を立て、自信満々に答える。
万が一食らったとしてもすぐにヒッキーさんに浄化してもらえば済む話だし、それほど危険はないと思う。

(-_-)「じゃ、じゃあ、まずこっち側の壁の柱の結界を復旧させましょう」

( ^ω^)「了解ですお」

それから僕達は順々に柱の結界を復旧させて行った。
案の定、柱に着く度に何かが襲って来たが、2人の力を合わせて事無きを得た。

( ;ω;)エグ……エグ……

(;-_-)「だ、大丈夫ですか?」

( うω;)「大丈夫ですお。満を持して発売した薬草ピザが売れ残ったのは幻、わかってますお」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:14:02.38 ID:U/bfJ6u10

黒い霧に包まれる度、悲しいビジョンを見せられたが、それは幻なのだ。
出す新商品がことごとく売れ残るなんてあるわけがない。

( うω;)「わかってても恐ろしい場面だったお」

自身の内部から悲しみが湧き出してくる。
そんな感じの精神攻撃みたいなものなのだろう。

ただ、そうなると最初に見た顔はなんだったのかよくわからないのだが、
あの時は僕の内部というよりは外から与えられたイメージだった気もするので、また別なものだったのかもしれない。

(;-_-)「えっと……取り敢えずこれで結界の復旧は終わりましたので、繋げますね」

( うω;)「よろしくですお」

ヒッキーさんが少し長めの呪文を唱えると、空気が変わるのがわかった。
先ほどまでの淀んだ空気が薄れ、かつて感じた荘厳な空気が満ちて行くのがわかる。
全体に行き渡るのはもうしばらく掛かるだろうが、これであの黒い影の力は弱まりそうだ。

(-_-)「それじゃあ……」

( ^ω^)「祭壇の方に行ってみましょうかお」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:16:07.18 ID:U/bfJ6u10

僕達は教会の中央を燭台に火を灯しながら進み、祭壇に向かう。
警戒しつつ歩いていたが、何かが起こる事もなく、祭壇の前まで辿り着いた。


          ヽ(冫、)ノ


( ^ω^)「相変わらず威厳の欠片もない神様ですおね」

(;-_-)「そ、そんな事は……ないんじゃないかな?」

(;^ω^)「自信無げな上に疑問系で言われても説得力ないですお」

祭壇の後にそびえ立つ、ニューソク正教の主神アルァの像。
この姿はニューソク正教を開いた昔の人が夢に見た神の姿を現したものらしいが、
その人はかなり絵心がなかったんだろうと推測出来る。

( ^ω^)σ「まあ、そんな事よりも……」


          川;;;;;;川


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:18:02.88 ID:U/bfJ6u10

僕はアルァ像の前に浮かぶ黒い影を指差す。
灯した蝋燭の明かりのお陰で今ははっきりとその姿を確認出来る。

表情こそ長い髪に隠れて見えないが、その影は人の形をしており、真っ黒な貫頭衣の様なものを纏っていた。
風もないのに一定のリズムでなびく様に揺れる服が、人ならざるものである事を認識させてくれる。

(;-_-)「いますね……」

( ^ω^)「けど、動きませんおね」

川;;;;;;川

結界のお陰か、先ほどまでのような強力な負の感情は出ていないような気もする。
このまま動きのない内にさっさと浄化させてしまった方がいいのだろうが、発生原因とか色々と解明しておかないと、
何となくすっきりとしないものがある。

(-_-)「そうですね。この件は本部にも報告する必要があるでしょうし、調べられる事は調べておきたいですね」

ヒッキーさんの同意も得たので、僕は黒い影の方に向かう。
ヒッキーさんに控えててもらえば、先ほど同様、何かの際にも対応は出来るだろう。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:19:48.74 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)ノ「おいすー」

川;;;;;;川「……」

気さくに話しかけてみるが、良い反応も悪い反応もない。
言葉が通じてない可能性もあるが、精霊は人語を解する事が出来る物が多い。
これほどはっきり姿を見せる事が出来るなら、それなりに力のある精霊ではあるはずだ。

( ^ω^)「君は一体何なんだお?」

川;;;;;;川「……い……」

( ^ω^)「……い?」

川;;;;;;川「…しい……」

( ^ω^)「……しい?」

dζ(゚ー゚*ζ「悲しい、って言ってるんじゃないかな?」

( ^ω^)「なるほど。まあ、普通に考えればそうですおね……」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:21:10.45 ID:U/bfJ6u10

(;゚ω゚)「って、あんた誰ええええ!?」

いつの間にか僕の隣に見た事もない女性が立っていた。
人差し指を立て、さも当然のように自分の考えを述べる姿に普通に返事をしてしまったが、全く知らない顔だ。

(;-_-)「え? 知り合いじゃなかったの?」

突然現れたと思ってた女性だったが、ヒッキーさんは彼女が教会に入って来たことに気付いていたらしい。
彼女に声をかけようとしたのだが、人差し指を口に当て、その後僕と彼女が知り合いの様に指を指し示したので、
黙って見ていたという。

(;゚ω゚)「違いますお! 貴女、どちら様ですかお!?」

ζ(゚ー゚*ζ「名乗るほど物のでもございませんが、ただの旅の僧侶ですよー、エヘヘ」

混乱しつつも僧侶という言葉に改めて彼女を見てみるが、フード付きのマントだし、
そこから覗ける衣服も一般的な旅装束の様で、彼女の職業までは判別出来ない。
彼女はヒッキーさんと違っては杖も持っていなかった。

(;^ω^)「そ、それで一体何の用でここに──」

dζ(゚、゚*ζ「シーッ」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:23:07.23 ID:U/bfJ6u10

(;^ω^)「え? あ……」

僕は彼女の仕草の意味する事に気付き、彼女の視線を追う。

川;;;;;;川「…しい……悲し…………しい……悲しい…………い……悲しい……悲しい……」

黒い影は次第にその語勢を強め、ひたすら悲しいと嘆く。
それに呼応するかのごとく、黒い霧がその身を覆って行く。

(;^ω^)「何かヤバげな感じだおね……」

(;-_-)「今の内に浄化させるべきでしょうかね」

ζ(゚、゚*ζ「……この子は、何をそんなに悲しんでるんだろうね?」

(;^ω^)「そんなのわかんないお。大体、これが何なのかもわかんないんだし」

彼女の事を詮索するのは後回しにし、というよりはそうせざるを得ない状況なので、一旦置いておく。
今はこの黒い影の方を何とかすべきだろう。
発生原因等、色々と調べたかったが悠長な事は言ってられないかもしれない。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:25:23.26 ID:U/bfJ6u10

ζ(゚、゚*ζ「この教会って、最近何か悲しい事があったの?」

( ^ω^)「最近まで締め切ってあったお」

( ^ω^)「だから、もし何かあったとしたら、2年前に司祭様が亡くなった事ぐらいだお」

ζ(゚、゚*ζ「なるほどね……」

そう言うと彼女は無造作に黒い影の方に近付いて行く。

(;^ω^)「ちょ、何やってんだお!?」

思わず彼女を追う様に僕も足を踏み出してしまったが、そんな僕達を黒い霧が包み込んだ。

(; ω )「!?」

ζ( 、 *ζ「……」

悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:27:07.21 ID:U/bfJ6u10

最初に黒い霧に包まれた時と同じ様に、悲しみが僕の中に直接流れ込んでくる。

悲しい。

何が悲しいの?

そしてまた、僕の中に響く声。
しかし、今度は2つの声が聞こえる。

悲しい。

どうして悲しいの?

(; ω )(これは……)

1つは最初に聞いた声、黒い影のもの。
もう1つの声、それは……

……から……悲しい。

どうしてなの?

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:29:07.97 ID:U/bfJ6u10

(; ω )(彼女の声……?)

川;;;;;;川「……から……悲しい」

ζ( 、 *ζ「どうしてなの?」

どうやら彼女はこの状況下に置いて、黒い影に語り掛けている様だ。
何とも無茶をする人だが、それが奏功しているのか、僕達を包む黒い霧が少しずつ薄れている気がする。

(  ω )(ヒッキーさんは……)

(;-_-)

ヒッキーさんは、僕らを見詰めたまま微動だにしない。
その視線の先を追うと、彼女がその手を広げてヒッキーさんの方に向けていた。
手を出すなという事なのだろう。

川;;;;;;川「……なったから……悲しい」

ζ( 、 *ζ「どうなったから?」

川;;;;;;川「……なくなったから……悲しい」

ζ( 、 *ζ「なくなったの? 誰が?」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:31:07.68 ID:U/bfJ6u10

          (   )


(  ω )(あれは……)

彼女の問いに呼応するかの様に1つの顔が浮かび上がる。
恐らく、1番最初に霧に包まれた時に見た顔だと思う。
ぼやけてしまっていて誰なのかは判別出来ないが、僕は直感的そうだと感じた。

川;;;;;;川「……が」

ζ( 、 *ζ「あなたの大切な人だったの?」

川;;;;;;川「……」


          (´_´)


返事の代わりに再び誰かの顔が浮かび上がる。
今度は先ほどよりははっきりとその顔が判別出来た。
そして僕は、その顔に見覚えがあった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:33:12.06 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「前の司祭様……?」

いつの間にか黒い霧は完全に晴れてしまっていた。
司祭様の顔が消えた先には、黒い影、いや、黒が薄れたので今は単なる人影というべきか。

川д川「……」

( ^ω^)「君は誰なんだお?」

川д川「……」

ζ(゚ー゚*ζ「この教会に憑いていた精霊さんってとこだろうね」

( ^ω^)「お……」

彼女の言葉で、僕はいくつかの事実と推測を導き出した。
この教会はそれなりに年月を経た建物だ。
長い年月を経た物に精霊が宿る事はそう珍しい事ではない。

場所が教会だけに、神との混在が出来るのかという疑問もあるのだが、ニューソク教は精霊の存在を否定していないし、
精霊は自然現象のようなものとして扱われていたはずだ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:35:22.49 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「で、この子はずっと教会共にあり続け……」

(-_-)「そこに住まう人、訪れる人を見守り続けた、という事ですね」

当然、もっとも長く見て来たのは、そこに住まう人、つまりは前の司祭様だったのだろう。
精霊とて感情はあるので、長く見続けてきた司祭様には愛着が湧いてたのだろうし、いなくなって悲しくも思っていた。

普通ならそこでまた新しい司祭が赴任し、また新たな生活に悲しみを忘れる事が出来たのだろう。

(-_-)「でも、誰も赴任して来なかった……」

訪れる人もなく、全く変わる事のない世界に、この子はきっと悲しみだけを膨らませていったのだろう。
しかし、それだけだったら多分こんな風に悪霊の様に変化はしていなかったはずだ。

( ^ω^)「きっと結界が働いてなかった所為で、悪い精霊も呼び寄せちゃったんだおね」

この辺は推測だが、結界がなくなった事で、
負の感情に惹かれて近付いて来た悪霊の類を逆にこの子が取り込んで行ったのではないかと思う。
その結果、更に悲しみが増幅され、それに支配されてしまうほどになってしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「そんなとこじゃないかな?」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:37:07.09 ID:U/bfJ6u10

僕の推論に極めて軽い調子で彼女が同意を示す。
ヒッキーさんも頷いている事から、そう的外れな推論ではないと思う。

( ^ω^)「それで、どうしますかお? 今は影が薄れているとはいえ、また悪霊化しないとは限りませんお?」

(-_-)「うん……それはそうなんだけど……」

僕が受けた依頼は解呪で、それを果たすならこの子を浄化させるというのが僕の取るべき行動だ。
しかしながら、この子がこうなった経緯や思いの出所を考えるとそうするのは忍びない。

(;^ω^)「取り込んだ悪霊だけ浄化させるとか、正直無理臭いでしょうし……」

(;-_-)「やれなくはないかもしれませんが、この子ごと消してしまいそうですね」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、私がやってみましょうかねえ」

(;^ω^)「は?」

ζ(-、-*ζ 〜♪

そう言うなり彼女は目を閉じ、歌を歌い出した。
あまりに突然で、そして自然な様に、僕はぽかんと口を開けたまま見入ってしまう。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:39:08.19 ID:U/bfJ6u10

ζ(-、-*ζ 〜♪

川д川「……ぅあ」

( ^ω^)「これは……」

(-_-)「聖歌……」

聖歌、聖なる歌は一般的には神を讃える歌なのだが、恐らくこれは少し違うと思う。
この歌自体が何らかの魔法、きっとこれは彼女のスペシャルなのではないだろうか。

ζ(-、-*ζ 〜♪

( ^ω^)(なんて綺麗な声なんだお……)

(-_-)「……」

川 - 川

澄んだ歌声は教会中に響き渡り、まだ完全には晴れ切っていなかった空気を清らかなものに変えて行く。
精霊の顔も心なしか穏やかになっている様だ。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:41:17.34 ID:U/bfJ6u10

ζ(゚ー゚*ζ 〜♪

( ^ω^)「お?」

歌う彼女の視線がこちらへと向けられる。
僕らにも歌へとでも言っているのかと思ったら、少し違う様だ。
視線は僕と言うより、ヒッキーさんの方へ向いていた。

(-_-)「君は……ずっとこの教会を……そしてここに住む人を見守ってくれていたんだね」

ヒッキーさんは精霊の方へ歩み寄り、その手を精霊の頭へと伸ばす。
そしてそのままやさしく頭を撫でる仕草をした。

(-_-)「ありがとう」

川ー川

精霊は一瞬微笑んだ様な表情を見せ、掻き消える様にその姿を消した。
立ち尽くす僕らを、彼女のやさしい歌声が包んでくれる。

(-_-)「……」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:43:03.08 ID:U/bfJ6u10

( ^ω^)「もういいと思いますお」

ζ(゚ー゚*ζ「……ご清聴ありがとねー」

礼を言うのはこっちの方なのだろうが、彼女はおどけた様に大袈裟にお辞儀をしてみせた。
その滑稽な仕草に僕もヒッキーさんも思わず微笑んでしまう。

( ^ω^)「あの子、消えたわけではないですおね?」

(-_-)「恐らく、また教会に憑いてくれてるんだと思います」

vζ(゚ー゚*ζ「だね。これにて一見落着、っと!」

彼女のお陰で、教会の解呪は無事に成功したとみていいだろう。
実際に解呪したわけではないし、一番働いてないのは僕な気はするが、依頼料は請求しないから勘弁して欲しいものだ。

ただ、まだ一件落着とは言えないのだが。
精霊の事は解決したのかもしれないが、彼女については聞きたい事が沢山ある。

( ^ω^)「とにかく、助かりましたお。ええっと……」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:44:58.70 ID:U/bfJ6u10

ζ(゚ー゚*ζ「通りすがりの旅の僧侶ですぜ、へへん」

どうやら名乗るつもりはないらしいが、聞きたい事は多々ある。
彼女の名前、素性、そして目的。
彼女は何故このタイミングでこの場に現れたのか。

( ^ω^)「それで、旅僧さんはここに何しに来たんですかお?」

ヽζ(゚ー゚*ζ「ただの通りすがりですよー」

( ^ω^)「……」

何故か片手を挙げ、元気良く答えてくれるがその態度とは裏腹に、肝心の答えの方は徹底的にぼかす様だ。
恩人を疑うのは心苦しいが、現状では怪しさ大爆発の不審者だ。

ζ(¬、¬*ζ「そんな疑いの目で見なくても、悪い事しに来たわけじゃ御座いませんぜー」

(;^ω^)「あ、いや……そういうわけじゃないお……」

どうやら僕の考えは見透かされてたようで、何とも言い難い目で睨まれてしまう。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:46:25.67 ID:U/bfJ6u10
ζ(゚ー゚*ζ「アハハ、別に怒ってないから気にしないで。まあ、確かに怪しい登場の仕方しちゃったしね」

ζ(゚ー゚*ζ「ここに用事があったの。来たのが今日だったのはたまたま。目的は内緒」

( ^ω^)「……その目的って、ここの結界が働いてなかった事と関係してますかお?」

ζ(゚、゚*ζ「うーん……、一応断っておくと、私がやったんじゃないからね?」

dζ(゚ー゚*ζ「で、関係性は内緒、なんて言うとあるって言ってるようなもんだから、ヒ・ミ・ツって事で」

(;^ω^)「内緒も秘密も変わんないお」

ζ(´ー`*ζ「ウヒヒヒヒ」

どうも彼女のペースにかき回され、一向に聞きたい事が聞けてる気がしない。
年の頃は僕と同じか少し上ぐらいだろうが、世慣れている感じを受ける。

(-_-)「あなたはどちらの……、いえ、詮索するのは野暮ですね。色々とありがとうございました」

そう言ってヒッキーさんは深々とお辞儀をする。
確かに、恩人に対してこれ以上詮索するのは失礼かもしれない。

それに、極めて個人的な感想だが、この人が悪い人には思えない。
少なくともあの歌声や精霊に語りかける姿を見る限り、彼女がやさしい人なのだというのはわかる。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:48:14.94 ID:U/bfJ6u10

ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ、私は大した事してませんぜー」

ζ(-、-*ζ「正しいものが正しくあるべき場所に帰っただけで」

ζ(゚ー゚*ζ「お礼を言うならここを大事に使ってた、前の司祭さんとやらにでせう」

(-_-)「……はい、ありがとうございます」

言いたい事は全て言い終えたとでもいわんばかりに、彼女は満足げに微笑み、出口の方へ歩いて行く。
僕はその背に向け、呼び掛けた。

( ^ω^)ノシ「ありがとうございましたお。僕はブーン=ナイトウ、縁があればまたお会いしましょうお」

ヾζ(^ー^*ζ「じゃーねー、ブーン君。次会った時は、デレちゃんって呼んでねー」

( ^ω^)「お……」

僕は最終的には名前を教えてくれた彼女、デレを見送り、ヒッキーさんの方へ向き直った。
ヒッキーさんは感慨深げに教会の天井を見詰めている。

( ^ω^)「……きっと見守ってくれてますお」

(-_-)「うん……」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/12(日) 23:50:07.07 ID:U/bfJ6u10

ヒッキーさんにも2つほど聞きたい事はあったのだが、今聞くのも無粋というものだ。
それに最初の1つ、スペシャルの件は後日詳しく聞くとしても、後者の方は恐らく聞くまでもないのだろう。
過去にここで見た穏やかな顔と、今ここにある穏やかな顔、それの意味する所がそのまま答えなのだと思う。

(-_-)「さて、荒れてはいませんでしたが結構埃とか積もってますし、がんばって綺麗にしないといけませんね」

( ^ω^)「そうですおね。あの精霊さんが喜んでくれるよう、がんばらないとですお」

掃除も手伝うと申し出たのだが、流石に店を閉めてまで手伝ってもらうわけにはいかないとヒッキーさんが言うので、
後日アルバイトを派遣するという事で納得してもらった。

( ^ω^)「早いとこ教会に営業再開してもらって、聖水売って欲しいんですお」

(;-_-)「営業って言い方はどうかと思うけど、一刻も早くこの町の力になれるようにがんばりますよ」

苦笑するヒッキーさんに僕も笑顔を向ける。
きっとまた、この教会はかつての様に賑わう事になるはずだ。

そうなればきっと、あの子もずっと笑顔でいられるのだろう。


          川ー川



     第十二話 神、時々精霊、所によってまた神 終


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