- 800 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:21:50 ID:ejxBY3uY0
〜 魔法道具屋サンライズ 午前 〜
( ^ω^)「今日は客足が鈍いおね」
川;´ -`)「うだー……」
(∪;´ω`)「わんおー」
( ^ω^)「お? どうしたお? 朝から元気ないお?」
川;´ -`)「そりゃ元気もなくなるだろ。何だ、この暑さは?」
(∪;´ω`)「わんわんおー」
第二十六話 姫の想い、騎士の誓い
- 801 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:22:46 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「季節柄、暑くもなるお?」
僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。
川;´ -`)「季節柄って言ったってな、ヴィップはソクホウより北にあるし、もう少し涼しいもんじゃないか?」
彼女の名前はクー。
新米冒険者だが僕に借金がある為、普段はサンライズのアルバイトもやっている。
(∪;´ω`)「わんおー」
この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。
ソクホウへの旅からヴィップに戻り、1ヶ月と少しの時が過ぎた。
季節も進み、これから暑い日も多くなるだろう。
僕はいつも通り店を営業しているが、バイトで入っているクーもわんわんおも何だかすごくだれている。
言うほど暑いかなと思ったが、確かにこの時期にしては少し暑くなるのが早いかもしれない。
- 802 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:24:18 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「多分、王宮は精霊で空気の流れを調節したりしてるから、普通のとこより涼しかったんだお」
川;´ -`)「そういえば季節の変わり目は、魔法使い達が忙しそうにしていたな」
王宮とかの大きな建物は、各所に風の精霊を配置し、風を送るように魔法を仕掛けてある事がほとんどだ。
王宮ともなると、暑い時は氷や水の精霊、寒い時は火の精霊なども使って大規模な仕掛けを施してあるかもしれない。
恐らくクーは、今まで世間一般よりは暑い日でも快適に過ごせて来たはずだ。
川;゚ -゚)「なるほど。離れてみてわかる王宮の有り難さだな……」
( ^ω^)「そういう事だおね」
(∪;^ω^)「わんおー」
川;゚ -゚)「しかしだな、この店だって一流の魔法使いがいるわけじゃないか?」
( ^ω^)「風の精霊を設置するぐらいなら出来るけど、熱風をかき回すだけだお」
川;゚ -゚)「氷の精霊は使えないのか?」
( ^ω^)「使えないって言うか、この季節に氷の精霊がどこにいると思うんだお?」
- 804 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:25:37 ID:ejxBY3uY0
精霊とは基本的に自然界に存在するものだ。
風の精霊なんかだと、屋外ならどこにでも目にする事が出来るくらい多く存在するが、氷の精霊とかはそうはいかない。
特に暑い季節のこの地方では、全くと言っていいくらい自然界で目にする事はないだろう。
川;゚ -゚)「じゃあ、王宮なんかではどうやってたんだ?」
( ^ω^)「多分、氷の精霊と仲良くなって、どこかに囲ってたんだと思うお」
低位の精霊は高度な知性は有さず、言葉を通して意思の疎通を図る事は難しいが、仲良くなる事ぐらいは出来る。
精霊を使役して唱える精霊魔法を使い続けていれば、その精霊と仲良くなり、力を貸してくれやすくなるのだ。
川;゚ -゚)「使われて仲良くなるのか? よくわからんな」
( ^ω^)「顔馴染みになるって感じだお。精霊魔法の詠唱は精霊に対する語りかけでもあるから」
( ^ω^)「何度も話しかけてくる人なら次第に打ち解けもするお?」
(∪;^ω^)「わんお」
川;゚ -゚)「だが、毎回同じ精霊に頼むわけではないだろ? 場所が変わればいる精霊も変わるはずだ」
( ^ω^)「その辺はよくわかってないんだけど、精霊は全体意思みたいなものがあるって考えられてるお」
- 805 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:28:15 ID:ejxBY3uY0
簡単に言えば、風の精霊は自然界の各所に無数に存在するが、その全てが感覚を共有しているという話だ。
( ^ω^)「高位の精霊はまた違ってくるんだけど、低位の精霊はそういう風に考えられてるお」
例えば、ヴィップの教会に憑いていた精霊なんかは高位の精霊で、あれはもう単一の存在と考えるべきであろう。
元は別の精霊だったはずだが、年月を経て固有の意思を持ち、力を付けて独自の姿を形成していったと思われる。
自然界でも稀にそういう事はあり、時にはそれがモンスター化する事さえもある。
川;゚ -゚)「精霊についての講義はいいとして、ブーン店長は氷の精霊と仲良くなったりしてないのか?」
( ^ω^)「数人の精霊と契約してるけど、それは食料保存庫にいてもらってるお」
研究を主とする魔法使いは、基本的に数人の氷の精霊や火の精霊と契約しているのがほとんどだ。
契約といってもそれほど格式ばった物ではないが、
研究の為に温度変化をさせたくない物を保管するのを精霊に手伝ってもらう事はよくある。
川;゚ -゚)「よし、わかった、私も食料保存庫に篭ろう」
( ^ω^)「働かねえとバイト代は出さないお?」
川;゚ -゚)「そんな、ひどいッ!」
(;^ω^)「いや、当たり前だお。馬鹿なこと言ってないで仕事しろお」
- 806 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:32:25 ID:ejxBY3uY0
とは言ったものの、暑さの所為か客足も鈍い。
薬草おにぎりや薬草パンの売れ行きも芳しくない。
ちなみに、おりぎりやパンの置いてあるスペースにも氷の精霊はいるのだが、クーは気付いていない様だ。
あと、僕のローブにも。
川;゚ -゚)「そういえばブーン、何で今日は魔法使いのローブなんか着てるんだ?」
( ^ω^)「魔法使いのローブは温度変化に強いんだお。勿論、魔法使いが着た時限定だけど」
川;゚ -゚)「何だと……? クッ……私も魔法使いを目指せば良かった……」
( ^ω^)つ彡「ほれ、風送ってやるからがんばれお」
つ∪*^ω^)「わんおー」
川;゚ -゚)「ぬるい風は止めろ。余計に不快だ!」
文句を言いながらもクーは仕事を再開する。
しかし、すぐにだれて来て、ぐったりとして動かなくなった。
川;´ -`)「暑い……」
( ^ω^)「暑いおね」
- 807 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:36:08 ID:ejxBY3uY0
川;´ -`)「こんなに暑いと仕事にならないのではないか?」
( ^ω^)「暑かろうが寒かろうが、客はいつでもやって来るもんだお」
川;´ -`)「しかしだな、先ほどから全く客足が途絶えているではないか?」
クーの言う通り、見事なまでにお客が来ない。
急に暑くなったから、皆色々と暑さ対策に忙しかったり、やる気が出なくて涼しい所に篭っているのかもしれない。
川;´ -`)「こう暑い時って、この町ではどうやって涼むんだ?」
( ^ω^)「森の方は比較的涼しかったりするから、そっち行ったり水辺で涼んだりするんじゃないかお?」
川;゚ -゚)「それだ! 水だ!」
( ^ω^)「仕事中だお」
川;゚ -゚)「まだ水しか言ってないだろ?」
( ^ω^)「どうせ店閉めて水浴びにでも行こうって言うんだお?」
そう切り返す僕にクーは言葉を詰まらせる。
どうやら図星だったようだ。
- 809 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:39:59 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「そういうのは、バイトが休みの時に行けばいいお」
川;゚ -゚)「しかし、ここしばらくはずっと店開けてたし、たまにはいいじゃないか、ほら、慰安旅行って事で」
どうせ客も来ないしと、クーはしつこく食い下がる。
まあ確かに、今日は恐らくほとんど客が来なさそうな気もするから、閉めてもかまわないかなあと少しは思い始めていた。
たまにはわんわんおを遊ばせる為に水浴びに行くのもいいかもしれない。
川;゚ -゚)「ほら、ツン達も誘ってさ。美女と水浴び出来るんだぞ? 男ならそこは乗っかるべきだろ」
( ^ω^)「わーい、嬉しいなーお」
_,
川;゚ -゚)「清々しいまでに棒読みだな。何だよ、なーおって。猫かよ」
(∪^ω^)「わんおー」
川;゚ -゚)「……よし、わかった、脱ごう」
(;^ω^)「何がわかったらそういう結論になるんだお」
川;゚ -゚)「こう、きっちりした格好で仕事してるから暑いんだ。もっとラフな格好なら少しはましだろ」
- 810 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:41:33 ID:ejxBY3uY0
川;゚ -゚)「エプロン着けて前向いてたら見えないだろうし、下着でもかまわんな」
(;^ω^)「止めろお。ここが変な店と勘違いされそうだし、確実に僕がツンに殴られるお」
暑さの所為か、クーの思考がぶっ飛んで来ているようだ。
このままだと何を言い出すかわかった物じゃないし、諦めて涼みに行く事にした方がいいかもしれない。
( ^ω^)「うーん……どうせ今日は赤字になるっぽいし、これをお弁当にして行ってみてもいいかおね」
優に5、6人分の昼食になるくらいは余っている薬草パンと薬草おにぎりを見詰め、僕は呟く。
ついでに魚でも釣って、晩のおかずにするのもありかもしれない。
川*゚ -゚)「うんうん、そうしようそうしよう! それじゃ、私はツン達を呼んでくるからな?」
そう言うが早いか、クーは店を飛び出していった。
まだ行くとは決めていないのだが、どうやら決定事項にされてしまったらしい。
外は余計に暑いだろうに、何だかんだで意外と元気なようだ。
( ^ω^)「ま、たまにはいいかお」
(∪^ω^)「わんお」
僕は肩をすくめ、釣り道具の準備をする為に店の奥へ入っていった。
- 811 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:43:30 ID:ejxBY3uY0
〜 モオト湖北岸 〜
川*゚ -゚)「水だ!」
ξ゚听)ξ「ここに泳ぎに来るのも久しぶりね」
(゚、゚トソン「この辺は泳ぎやすそうな場所ですね」
( ^ω^)「ヴィップではこの辺りが一番メジャーな水遊び場だお」
(∪^ω^)「わんわんお!」
結局、クーに押し負けた僕は、店を閉めてモオト湖まで遊びに来た。
しかし、来てみたら来てみたで涼しげな風が心地良く、楽しい気分にさせてくれる。
( ^ω^)「さて、美味い魚を釣るお」
川;゚ -゚)「って、ブーン、お前は泳がないのか?」
早速釣りの準備をする僕に、クーは不満げな顔をする。
泳ぎたくないわけじゃないが、今日の売り上げが赤字な以上、晩ご飯分ぐらいは何とかしたい所なのだ。
- 812 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:44:49 ID:ejxBY3uY0
ξ゚听)ξ「釣り下手なのにね」
(;^ω^)「うるさいお、今日こそは大物ゲットしてみせるお! でも、駄目な時はツンさん、お願いします」
何気にツンは僕の数倍釣りが上手い。
せっかちな性格のくせに、釣りの時は打って変わって慎重になる。
子供の頃に釣り対決で、30匹以上の大差をつけられて負けた思い出は今もトラウマだ。
ξ;゚听)ξ「あれは正直すまなかったと思ってるわ」
川 ゚ -゚)「まあいいさ。晩飯はブーンに任せて我々は水浴びを楽しもうじゃないか」
そう言ってクーは森の奥に歩いて行こうとしたが、数歩進んだ所で立ち止まり、こちらを振り向いた。
川 ゚ -゚)9m「おっと、覗くなよ、ブーン? 覗いたら金取るからな?」
( ^ω^)「そんなもん覗かねえお。つーか金で解決しようとすんなお」
川 ゚ -゚)「そんなもんとは何だ、そんなもんとは」
川 ゚ -゚)b「ツンならともかく、私の身体──ごめんなさいごめんなさい、拳を収めてください、ツン様」
- 813 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:46:32 ID:ejxBY3uY0
ξ#^竸)ξ「いいから行くわよ、ほら、トソンも」
( ^ω^)「お? トソン君は別にその辺で着替えればいいお?」
(゚、゚トソン「え?」
( ^ω^)「お?」
(∪^ω^)「わんお?」
僕の言葉にきょとんとした顔をするトソン君。
何故かツンもクーもポカンとした顔でこちらを見ている。
(;^ω^)「何だお? 僕、何か変なこと言ったかお?」
何だか場が変な空気に満ちてしまったが、男同士なんだから別にその辺で着替えてもらってもかまわないと思うのだが。
ξ;--)ξ「ああ……やっぱりそうだったのね……」
(;^ω^)「やっぱりそうって、何がやっぱりなんだお?」
- 814 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:48:52 ID:ejxBY3uY0
川 ゚ -゚)「ひょっとしてブーンはトソンが男だと思ってたのか?」
(゚、゚トソン「え?」
( ^ω^)「お?」
(∪^ω^)「わんおー」
( ^ω^)「ひょっとしなくても男の子じゃないのかお?」
(゚、゚トソン「え?」
( ^ω^)「お? ……あれ?」
僕の言葉に何だか複雑な表情を浮かべるトソン君。
額に指を当て、呆れた顔をするツンに笑いを堪えているクー。
これはひょっとしなくてもやらかしてしまったのだろうか。
( ^ω^)「トソン君……じゃなくて、トソンちゃん?」
(゚、゚トソン「ちゃんと呼ばれるような年でもないですし、僕はどっちでもかまいませんが」
- 817 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:51:39 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「でも、『僕』って……」
(゚、゚トソン「騎士は男社会でしたし、家庭の事情もありましてこういう言葉遣いになりました」
( ^ω^)「……」
僕はトソン君と出会ってからの数ヶ月間の事を思い起こす。
男の子なら逞しくならなきゃ駄目だと言い、ご飯をおごる時は大盛りご飯を強要した事もあった。
力仕事を任せた事も……これはまあ、僕よりすごい力持ちだからいいのかもしれないけど、
それにしたって女の子に力仕事を押し付けたのは男としてどうなのか。
他にも男の子だと思って、色々とこき使った覚えがいくつも思い浮かぶ。
( ^ω^)「えーっと……その……」
川 ゚ -゚)「ちなみに、私より年上だからな?」
(;゚ω゚)「えええええええええっ!? マジでええええええっ!?」
(゚、゚;トソン「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
(;゚ω゚)「聞いてませえええええええんっ!」
- 818 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:55:23 ID:ejxBY3uY0
僕は並んで立つクーとトソン君をまじまじと見比べる。
身長は勿論の事、身体の発育具合なんかは圧倒的な大差でクーに軍配が上がる。
何と言ってもあのツン以下だ。
一言で言い表すなら棒だ。
ひのきの棒とひのきの棒+1だ。
ξ#^竸)ξ「おい、今こっち見て何か余計な事考えただろ?」
(゚、゚;トソン「僕はまあ、自覚してますのでどうでもいいですけど」
川*゚ -゚)「この2人の間に立つと優越感が半端ない──ごめんなさいごめんなさい、脛は蹴らないで、ツン様」
これはやらかしたというレベルではない。
僕より1つ年上のクーより年上という事は、確実に僕より年上という事だ。
その年上の人に対して、僕は子供に対するような態度でずっと接してしまっていた。
(;゚ω゚)「お使いとか頼んで、報酬を飴で済ませたりしてごめんなさああああいっ!」
(゚、゚;トソン「いえ、別に、あれはあれで嬉しかったですし……」
- 820 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:56:35 ID:ejxBY3uY0
その他にも謝る事が色々と山積みなので、僕はひたすら平身低頭して詫びる。
トソン君は特に気にしてないと言うが、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいである。
しかも、知らなかったのは僕だけのようだ。
クーは当然としてツンも、更にはショボンすらもトソン君の年の事は知っていたらしい。
(;^ω^)「というか、ツンも僕が誤解してた事に気付いてたなら教えてくれお」
ξ゚听)ξ「あんたが妙にお兄さんぶるのが見てて面白かったんで、つい……」
(;∩ω∩)「やめて! 確かにちょっと弟出来たみたいで嬉しかったのは否めないお」
僕は兄弟はいないし、友達も同年代、仕事で付き合う客も年上という状況である。
ヴィップの町にも子供達はいるが、大体の子供はツンのとこの道場に通っており、
よく師範代に馬鹿にされてる僕の事を兄の様に尊敬してくれる子は皆無なのだ。
故に、真面目で素直なトソン君を弟の様な気持ちで見るようになったのは自然な事だろう。
(゚、゚;トソン「えっと、何かすみません……その、お兄ちゃん?」
(;∩ω∩)「やめて! 人を見る目なくてホントすいません!」
- 821 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:58:15 ID:ejxBY3uY0
僕は両手で顔を抑えたままその場に蹲った。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで居たたまれないにも程がある。
そんな僕に、気にしないでくださいというやさしい言葉をかけてくれて、
トソン君はツン達と共に森の奥へ歩いていった。
( ^ω^)「……」
(∪^ω^)「……」
( ^ω^)「……ひょっとして、わんおも気付いてたりしたのかお?」
プイッ
(^ω^∪)「わんおー?」
(;>ω<)「気付いてたんなら教えてくれお!」
つ};^ω^{⊂ 「わんお!?」
腹立ち紛れにわんわんおをくしゃくしゃに撫で、無茶を言ってみる。
客を見る目にはそれなりに自信があったのだが、この様だと説得力が無さ過ぎる。
( ^ω^)「まあ、過ぎた事はしょうがないお。気持ちを切り替えて釣るお」
(∪^ω^)「わんお!」
- 822 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 22:59:21 ID:ejxBY3uY0
僕は釣り竿の準備を終え、湖岸に向かう。
わんわんおもついて来たが、釣りをする僕よりツン達に遊んでもらった方がいいだろう。
( ^ω^)「ツン達が戻って来るまで、しばらく静かにしててお」
(∪^ω^)「わんおー」
泳ぐ場所からは少し離れ、釣竿を構える。
ここに釣りに来るのは久しぶりだ。
( ^ω^)「さあ、いっくおー!」
上段にかまえ、釣竿を勢いよく振り下ろす。
風を切る音と共に錘の付いた針が宙を舞い、ぽちゃんという小さな水音と、どぼんという大きな水音が響く。
( ^ω^)「……どぼん?」
バシャバシャ
゚,゚。(∪^ω^)っ"「わんお! わんお!」
(;^ω^)「ちょ、わんお!? お前まで飛び込んじゃ駄目だお!」
- 823 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:00:07 ID:ejxBY3uY0
投げ込んだ釣り針に反応したのか、わんわんおも湖に飛び込んで釣り針目掛けて泳いで行く。
泳がせるのはこれが初めてだが、なかなか上手な犬掻きだ。
しかしながら釣り針に噛み付かれるのはまずいので、素早く釣り糸を巻き上げた。
(∪:^ω^)「わんお!?」
目標が消えて戸惑ったのか、ぐるぐると回りながら泳ぎ続けるわんわんおを呼び戻す。
陸に上がったわんわんおは、身体を震わせてお約束のように水飛沫を僕に食らわせた。
ブルブルブル
゚・゚。.(((∪>ω<))).。゚・゚
(;^ω^)「それは少し離れてからやってくれお」
結局、ツン達が戻ってくるのを待つ事にして、僕は草むらに横になる。
水辺の木陰は涼しく、昼寝には最適だ。
( -ω-)「たまにはこんな穏やかな午後もいいおね」
(∪^ω^)「わんわんお」
横になって目を閉じた僕の周りをわんわんおはぐるぐる回っているようだ。
折角の外だし、遊びたいのだろう。
- 824 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:01:26 ID:ejxBY3uY0
( -ω-)つ"「その辺走り回って来ていいお?」
(∪^ω^)つ"「わんわんお!」
横になったまま適当に手を伸ばすと、わんわんおはそれにじゃれ付く。
熱中すると甘噛みと犬キックが強烈になって来るので、適度な所で手を隠さねばならない。
川 ゚ -゚)「もう釣りは諦めたのか?」
( -ω^)「んお?」
薄く目を開けると、水着に着替えたクーが僕を上から覗き込んでいた。
そういえば水着なんていつ準備したのだろう。
どう考えてもツンの水着は借りて着れないはずだから、来る前にどこかで買ったのだろうか。
( -ω-)「諦めてないお。釣ろうとするとわんおも水に飛び込んじゃうんで、皆が戻って来るのを待ってたんだお」
僕は再び目を閉じ、じゃれ付いたままのわんわんおごと腕をクーの方に向けた。
川 ゚ -゚)「ふむ、そういう事ならば私が遊んであげようか」
つ∪^ω^)「わんお!」
- 825 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:03:11 ID:ejxBY3uY0
手の中からわんわんおの重みが消えたのを確認し、上半身を起こす。
そして早速釣竿を手にしようと思ったが、何故かクーはまだそこにいた。
( ^ω^)「泳ぎに行かないのかお? 暑い暑いってぼやいてたお?」
川 ゚ -゚)「泳ぐさ。しかし、ここまで来ればもう涼しいしな」
日はまだ高いが木陰は風もあり、確かに泳がずとも涼は取れるだろう。
しかしながら折角水着に着替えたのだから、思う存分泳いで来ればいいと思うのだが。
川 ゚ -゚)「そうなんだが、こういう時は感想の1つも言うもんじゃないか?」
何の話かと思いきや、水着の感想を言えという事なのだろう。
そう言われても、涼しそうですねとか、向こうでひのきの棒+1が恨めしそうに睨んでますよぐらいしか思い付かない。
仕方ないので端的に見たままを言い表す事にした。
( ^ω^)「青い水着ですおね」
_,
川 ゚ -゚)「ブーンは何と言うか、そういうとこ枯れてるよな」
( ^ω^)「そうかお?」
言わんとせんことはわからないわけではない。
ただ、若くして店を継ぐ事になり、そちらの方に傾倒していた僕は若干考え方が老成しているのだと思う。
- 826 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:04:19 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「大体、商売中でもない時に友達にお世辞言ってもしょうがないお?」
川 ゚ -゚)「お世辞じゃなく、本心で言えばいいだろうに」
( ^ω^)「でも、もし僕が……」
_、 _ キリッ
( ^ω^)+「綺麗だお」
( ^ω^)「なんて真顔で言ったら爆笑するお?」
川 ゚ -゚)「そりゃ、するけど」
( ^ω^)「だお? てか、あっさり認めるなら最初から言うなお」
川 ゚ -゚)「まあ、私は笑うが喜ぶやつもいるだろ?」
( ^ω^)「その前に確実に拳が来るから止めとくお」
僕の言葉に肩をすくめ、クーはつまらんとか何とか言いながらツン達の方に歩いていった。
わんわんおも一緒に行ったので、僕は改めて釣りに取り掛かる。
- 827 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:06:46 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「まずは1匹釣るお」
釣り針を投げ込み、その場にしゃがみ込む。
釣りは忍耐が肝要だ。
僕は息を殺し、じっとその時を待つ。
( ^ω^)「……」
待つ。
( ^ω^)「……」
待つ。
( ^ω^)「……」
待つ。
( ^ω^)「……」
待つ。
- 828 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:08:14 ID:ejxBY3uY0
(;^ω^)「いや、これだと手抜きも甚だしいお」
僕は糸を巻き取り、釣り針の状態を確認するも、エサは付いたままだ。
僕はポイントを変えるべく別の場所に投げ込むも、竿はぴくりともしない。
(;^ω^)「エサを取られもしねえお……」
その後もポイントを変えては釣り針を投げ込むが、釣れるどころか全く食い付きもしない。
釣り下手だと自覚はしていたが、ここまで来ると何かの呪いかと勘ぐってしまうほどだ。
||ヽ( ^ω^)>「呪いの釣竿、牙魔威蘇! ブーンは呪われてしまった!」
(゚、゚;トソン「ええと……」
あまりの釣れなさに、おかしなテンションで釣竿片手にポーズを取っていると、いつの間にか側にトソン君が来ていた。
僕は何事もなかったかのように釣竿を降ろし、ごく普通の調子で尋ねる。
( ^ω^)「どうしたんだお? もう泳がないのかお?」
(゚、゚;トソン「今のは……ええと、何でもないです、はい」
- 829 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:09:08 ID:ejxBY3uY0
一通り泳いで来て今は休憩中だとトソン君は言う。
向こうを見ると、クーは岸辺に座っており、ツンは湖の中ほどまで泳いで行っているようだ。
わんわんおの姿が見当たらなかったが、トソン君の話だとツンと一緒らしい。
(;^ω^)「ツン、わんおをどこまで泳がせる気だお」
(゚、゚トソン「わんお君、意外と泳ぎは達者でしたよ」
わんわんおに泳ぎを教えた事はないが、ああいうのは動物の本能として自然に身に付くものなのかもしれない。
しかし、よく考えたらわんわんおの中身は犬じゃないし、天空竜の記憶があるにしても、
竜の泳ぎ方は犬掻きじゃない気がする。
( ^ω^)「まあ、ツンもそこまで無茶はしないおね。……多分」
僕の言葉にトソン君は軽く微笑み、僕の隣に座る。
トソン君は釣りの見学に来たという事らしかった。
( ^ω^)「釣れない釣りほど見てて楽しくない物はそうないお」
(゚、゚トソン「釣果は上がってないのですか?」
- 830 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:10:47 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「見ての通りだお。今日はどうも食い付きが悪いお」
正確には、『今日も』なのだが、そこはわざわざ言う必要もないので黙っておく。
話を聞く所に、トソン君は釣りをした事がないらしい。
ソクホウ近くには海も大陸一の湖もあるというのにもったいない事だと思う。
トソン君は僕が話す、過去に釣り上げた魚の話をさも興味深げに聞き入っている。
主にツンが釣った魚の話なのだが、主語を省いただけなので別に嘘は吐いていない。
( ^ω^)「ちょっとやってみるかお?」
(゚、゚*トソン「いいんですか?」
今日の感じだとなかなか釣れないと思うが、試しに竿を振ってみて気分を味わうぐらいは出来るだろう。
僕はトソン君に竿を渡し、投げ方の説明をした。
( ^ω^)「あんまり遠くまで投げなくていいから、力み過ぎないようにだお」
||⊂(゚、゚*トソン「は、はい! やってみます!」
トソン君は剣を構える時のような綺麗な型で竿を上段に構える。
そのまま1つ息を吐くと、気合の乗った掛け声と共に竿を力強く振り下ろした。
- 831 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:11:58 ID:ejxBY3uY0
ヾ⊂(゚、゚*トソン「えいっ!」
勢い良く飛んで行く針と糸、そして竿。
(;゚ω゚)「ちょ!?」
(゚、゚;トソン「あ……」
遥か遠くで水飛沫を上げる僕の呪われし魔竿・牙魔威蘇。
力み過ぎずを意識したら思わず手を緩めてしまったとトソン君は謝り、すぐに湖に飛び込む。
(;^ω^)「いや、まあ、着水した程度で竿は壊れないと思うからいいけど……」
突然の事に驚いてしまったが、あの程度で折れたりはしないだろう。
トソン君は竿を後ろ手に持って泳いで戻って来た。
(゚、゚;トソン「すみません、これ、大丈夫でしょうか?」
( ^ω^)「大丈夫だお。本体はただの木だし、そのくらいじゃ折れたり……」
トソン君から竿を受け取り、確認しようとしたが何やらずっしりとした重みがある。
もしやと思い、糸を巻き上げるとそこには程よい大きさの魚が1匹。
( ゚ω゚)つ(・|<)< ピチピチ
- 832 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:12:51 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚;トソン「えーっと……その……」
( ゚ω゚)「初釣果おめでとうだお!」
(>、<;トソン「ホントすみません! その、こんなつもりじゃ……」
ひたすら謝るトソン君だが、別にトソン君が悪いわけではない。
そう言いながらも僕の顔はだいぶ強張ってたようで、トソン君は何度も頭を下げ続ける。
ムニー
o< ^ω^ >o「ちょっと想定外過ぎて驚いただけで、怒ってないお」
(゚、゚;トソン「は、はい……すみません」
釣れた魚を魚篭に移し、後で美味しく調理してあげる事を約束する。
そう言いながらも、いつの間にか子供に対する様な物言いになっている事に気付き、慌てて口調を改めた。
( ^ω^)「この調子で、全員分釣ってくれるとありがたいですお」
再びエサを付け、釣り竿をトソン君に渡す。
しかし、トソン君はそれを困ったような顔で見詰めていた。
- 833 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:14:00 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「お? 折角だから気にせず釣ってくださいお?」
(゚、゚トソン「……僕って、いっつも空気読めてませんよね」
そんな事はないと言おうとしたが、確かに行動が想定外の事は多々ある。
しかしそれは、どっちかというとそそっかしさから来るミスだったりするので、空気が読めてないわけではないと思う。
(゚、゚トソン「色々気を使わせてしまってすみません」
(゚、゚トソン「先ほどの年齢の話とかも、本来は僕がちゃんと話していれば……」
(;^ω^)「あれはこっちが全面的に悪いと思うお。ホント、すみませんお」
(-、-トソン「僕自身、誤解される事があるのはわかっておきながらの事ですから、やはり僕の所為だと思います」
( ^ω^)「やっぱり騎士やってると、男の様に振舞ってないと大変だったんですかお?」
(゚、゚トソン「実を言うと、そちらはそうでもなかったのですが……」
( ^ω^)「お?」
そちらはそうでもなかったという事は、トソン君が理由に挙げたもう1つの方、家庭の事情の所為という事だろうか。
- 834 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:14:41 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚トソン「はい、そうです」
( ^ω^)「……それは、聞いてみてもいい話ですかお?」
(゚、゚トソン「店長……お世話になっているブーンさんになら話してもいいかと思っています」
(゚、゚;トソン「あと、話し方はこれまで通りのフランクな感じでいいですよ?」
(゚、゚トソン「こんな喋り方の僕が言うのもどうかと思いますが、急にそうされると非常に違和感が……」
( ^ω^)「わかったお、そうさせてもらうお。僕もちょっともどかしい感じはしてたお」
僕とトソン君は互いに笑い合い、釣竿を地面に降ろして座った。
(゚、゚トソン「僕の家、トソン家は過去に騎士団長を輩出した事もある、それなりに由緒ある貴族の家系でした」
しかし、トソン君のお父さんの代はそれほどの功績も上げられず、平たく言えば落ちぶれつつあったらしい。
その上子供もなかなか出来ず、ようやく出来た子供は女の子、それがトソン君で、ひどく失望されたらしかった。
(゚、゚トソン「近年は実力主義というか、女性が騎士になったり政治に携わったりするのも容認されていますが」
(゚、゚トソン「20年ほど前は騎士の社会も政治の世界も、完全に男性のものだったとの事です」
- 835 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:15:30 ID:ejxBY3uY0
だからトソン君を男の子のように育てたというのだから、ひどく短絡的だと思う。
別に女の子でも、婿養子を取るとか他にも手段はあったはずだ。
(゚、゚トソン「そうですね。でも、当時の父は周りがよく見えてなかったんだと思います」
これ以上自分に子は望めないと思ったトソン君の父親は、トソン君に期待を込めて家名と同じ名前を付け、
男の子として育てたらしい。
(゚、゚トソン「その事を隠して育てられていたわけではないのですが」
(゚、゚トソン「僕自身、家の事情は幼いながらに漠然と理解していたので、男の子の様に振舞っていました」
幸いな事にと言っていいのかわからないが、トソン君は武芸の才能があったようで、
幼くして王族の警護の任に付く事になったという。
とはいえ、10歳程度の子供に本気で護衛をさせようと思ったわけではなく、
同じ年頃の少々やんちゃなお姫様の遊び相手として選ばれたようなものらしかった。
( ^ω^)「それがクーなんだおね」
(゚、゚トソン「はい、それが私とクー様の初めての出会いでした」
昔からクーは結構無茶する子で、王宮を抜け出してはソクホウの町を出歩いていたらしい。
それを止める為にもトソン君が付いたらしいが、結局引っ張りまわされて自分も抜け出す事が多かったらしかった。
- 836 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:16:47 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚トソン「とはいえ子供でしたし、町中でもそれほど遠くまで行けたわけでもないのですが」
( ^ω^)「昔っから、クーに引っ張り回されてて大変だったんだおね」
(゚、゚トソン「はい……じゃなかった、それはそれでまあ、楽しくもありましたし」
最初に本心が漏れているので取り繕ってもしょうがないと思うが、楽しかったのもトソン君の本心の様だった。
クーに付き従うのに必死で、家のこととか忘れていられる時間でもあったからと。
(゚、゚トソン「家の事は重荷というわけでもなかったんですが、回りから奇異な視線を向けられる事もしょっちゅうで」
(゚、゚トソン「否応なしに考えさせられる事が多かったんです」
(゚、゚トソン「でも、そんな事は気にせず遊ぶぞとクー様に引っ張り回されてたのは、ある意味救われてました」
クーは意図してそうしていたわけではないのだろう。
王族として育てられた上から目線の勝手さなのか、本人の性格の問題かは別として、
クーの行動は結果的にトソン君の助けになっていたらしい。
(゚、゚トソン「そんな事もありつつ、僕もクー様も成長し、僕はクー様の護衛の任を辞し、騎士になりました」
- 837 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:18:58 ID:ejxBY3uY0
そのままクーの護衛を務めるという選択肢もあったが、成長したクーが公の場に出る場合の護衛としては、
最低でも騎士の資格を有していないと体裁が悪いという理由もあったらしかった。
(゚、゚トソン「自分で言うのもおこがましい話ですが、僕は武芸の腕には自信があったので」
(゚、゚トソン「騎士として結構な功績を上げる事が出来ました」
トソン君の強さに関しては、僕が実際に戦った経験から見てもかなりのものだと思う。
騎士として真っ向から戦うなら、あの怪力は相当手強いはずだ。
(゚、゚トソン「それで、その頃はもう、女性だからと白眼視されるようなことも減っていたのもありまして」
(゚、゚トソン「聖騎士にならないかとスカウトされたんです」
聖騎士ともなればクーの護衛としての体面も十分だし、何より家としても誇れる職業だ。
行く行くは国家の要職に就く事だって夢ではないはずだった。
(゚、゚トソン「丁度そんな時に、僕に弟が生まれました」
( ^ω^)「お……」
- 838 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:20:40 ID:ejxBY3uY0
どういった経緯でこれ以上諦めていた子供を作る気になったのかはわからないが、
とにかく生まれたのは念願の正真正銘の男の子だったらしい。
(゚、゚トソン「僕は素直にその事を喜びました」
(゚、゚トソン「家督は当然その子に譲ろうと思ってましたし」
(゚、゚トソン「姉として、半分は兄としてもその子の手本になるべく聖騎士として力を尽くそうと思ってました」
しかしながら父親からトソン君に下された言葉は、騎士を辞め、家に戻って来るようにというものだったらしい。
(゚、゚トソン「家に戻り、女らしく花嫁修業をしろ。いい嫁ぎ先を探してやる」
(゚、゚トソン「そんな言葉でした」
( ^ω^)「それは……」
その言葉はトソン君にとって、これまでの人生の全てを否定するような物だったのだろう。
半ば強制的に男の様に育てられ、家の為だとそれに応えて聖騎士にまで上り詰めようとした矢先に、
その全てを捨てろというのはあまりに酷な事だと思う。
- 839 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:22:02 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚トソン「その時に思いました」
(-、-トソン「僕は父にとって、家にとって何だったのだろうかと」
( ^ω^)「……」
(゚、゚トソン「そして出た結論は、僕は僕自身の存在を否定されたのだという事でした」
結局、父にとっては跡継ぎとなる男子が必要なのであって、
女であった自分は仕方なく使わざるを得なかった代役に過ぎなかったのだとトソン君は言う。
それに対し、僕は何を言うべきか言葉が見付からなかった。
トソン君に対する哀れみ、トソン君の父親に対する憤り、色々な感情は浮かぶが、
今更僕がそう思った所で全ては過去の事なのだ。
そんな僕の表情に気付いたのか、トソン君は少し申し訳なさそうな顔をして言う。
(゚、゚トソン「大丈夫ですよ。全部終わった事ですしね」
(゚ー゚トソン「当時はそれこそ死ぬほど悩んで落ち込みましたが、今はちゃんと吹っ切れてますから」
父の事や家の事は今でも思う所は色々あるが、恨んではいないし弟の事も大切に思っているとトソン君は言う。
少なくとも、聖騎士にまでなれたのは父のお陰なのだからと。
- 840 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:23:40 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「ひょっとして、その吹っ切れた切欠というのは……」
(゚、゚トソン「はい、姫様……おっと、今はクー様ですね。クー様のお陰です」
トソン君が初めてヴィップの町に来た時、クーに自分が騎士になった理由の事で話をしていた。
あの時の雰囲気からするに、クーが何かしらトソン君の救いになったのは想像出来る。
(゚、゚トソン「その頃は護衛もやっていなかったので、疎遠になっていたのですが」
(゚、゚トソン「ある時、町でばったり出会いまして」
( ^ω^)「また王宮を抜け出していた?」
(゚ー゚トソン「はい、成長しても相変わらずのご様子でした」
(゚、゚トソン「で、その時の僕は相当暗い顔をしていたのでしょうね」
トソン君の顔を見るなり、挨拶もそこそこにちょっと付き合えと言われて町外れまで引っ張られていったという。
(゚、゚トソン「ソクホウの北西側は教会の領分なので、当時まだ騎士だった僕はよく知らない場所だったのですが」
(゚、゚トソン「そこに高台があったんですよ」
- 841 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:25:23 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚トソン「これといった施設もない、1本の大きな木があるだけの」
と言っても、その時は2人ともその高台に何があるのかは知らなかったらしい。
聖域とか何とかな位置付けで、立ち入りを禁止されていた区域だったようだ。
クーはそこに何があるのか気になっていたらしく、何度か忍び込もうとしたが悉く失敗していたらしい。
トソン君の話には関係ないが、王族でも立ち入りを禁じられる場所というものに僕は少し興味が湧いた。
(゚、゚トソン「何とか監視の目を潜り抜けてそこに辿り着いたんですが、やっぱり大きな木が1本あるだけでした」
(゚、゚トソン「仕方ないので木に登ってみたのですが、そこは町が一望出来て眺めのいい場所でした」
そこでようやくクーはトソン君に何があったのか話せと言って来たという。
(゚、゚トソン「それで僕は父の事、家の事を正直に話し、自分には何の価値も無いと思っていると打ち明けました」
(゚、゚トソン「しかしクー様は、そんな事は無いと言ってくれました」
(゚、゚トソン「現に、少なくともこの場所に来る為に僕の存在は必要で、価値はあったと」
いたずらの片棒を担がせた事を例に挙げるのもどうかと思うが、その言葉は嘘ではなかったのだろう。
そんなくだらない事でも実を伴っている事には変わりなく、自分が役に立った事を実感出来たとトソン君は言う。
- 842 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:27:05 ID:ejxBY3uY0
(゚、゚トソン「目的を見失ったのなら私が目的になってやる」
(゚、゚トソン「お前は私を守る為に聖騎士になれ、クー様は笑顔でそう言ってくれました」
(゚ー゚トソン「あの時見たクー様の笑顔と町の景色は、きっと一生忘れないと思います」
結局、その後教会の人間に見付かって大事になりかけたらしいが、首謀者が姫という事もあり、
お咎めは無かったという事だ。
(゚、゚トソン「実際、聖騎士になる時もクー様が家の方に口添えをしてくれました」
(゚、゚トソン「それで僕は聖騎士になり、今に至ります」
( ^ω^)「なるほど……。クーもたまには良い事言うおね」
話し終えたトソン君はどこか満足げに見える顔で微笑んでいる。
その顔には迷いは一切見られない。
(゚、゚トソン「そうですね。僕は自分がどうあるべきか、あの時に心に決めましたから」
(゚ー゚トソン「自分の進む道で迷う事はもう無いと思います」
- 843 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:28:26 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「うん、いいお話を聞かせてもらったお」
(゚、゚*トソン「話しておいてなんですが、こう改まって人に話すと少し気恥ずかしいものですね」
実際、いい話だったと僕は思う。
そしてトソン君にぶれない芯がある事は羨ましくも思う。
( ^ω^)「トソン君……っと、しゃべり方はともかく、呼び方はまずいおね」
( ^ω^)「トソンさんと呼ぶべきだおね」
(゚、゚トソン「それもトソン君のままでいいですよ。ブーンさんが店長で偉いんですから」
( ^ω^)「偉くないし、偉いとしても仕事中だけだお」
( ^ω^)「でもまあ、それで呼び慣れちゃったからそうさせてもらうお」
(゚ー゚トソン「はい、これからもよろしくお願いしますね、ブーン店長」
トソン君は笑顔でそう言ってくれるが、
トソン君はあんまりうちではバイトに入ってなかったりするのは今は言わないでおこう。
それでも店長と呼んでくれるのは、クーの雇い主という事だからだろうか。
- 844 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:29:32 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「さて、それじゃあ改めて釣るかお」
(;^ω^)「このままだと晩ご飯がトソン君の以外は無しになっちゃうお」
晩ご飯は任せろみたいな事言っておいて、釣果1匹では顔が立たない。
その1匹もトソン君の釣果なので、全くもって不甲斐ない状況である。
(゚、゚*トソン「……」
( ^ω^)「お?」
そんな事を考えてると、トソン君が何やら熱の篭った視線で釣竿の方をじっと見ている。
どうやらまだ釣り足りないようだ。
釣果はあったが、さっきのは厳密には失敗の産物なので納得いかないのだろう。
( ^ω^)「もう1回やってみるかお?」
(゚、゚*トソン「いいんですか?」
僕が頷くとトソン君は嬉しそうに竿を受け取る。
そしてすぐ様、先ほど同じく綺麗な型で上段に構えた。
- 845 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:31:00 ID:ejxBY3uY0
( ^ω^)「力み過ぎず、緩め過ぎずだお」
(゚、゚*トソン「は、はい!」
( ^ω^)「着水したら竿を持ちやすい位置で固定して待って、引きがあったら釣り上げるんだお」
(゚、゚*トソン「はい、投げる、固定する、待つ、釣り上げるですね!」
( ^ω^)「グッドだお。さあ、行ってみるお」
(゚、゚*トソン「はい、行きます!」
ヾ⊂(゚、゚*トソン「えいっ!」
振り下ろされる竿に従い、勢い良く飛んで行く針と糸。
今度はちゃんとトソン君の手に竿は残っている。
少し力が入ったのか、針は右奥に向かって斜めに飛んで行ったが、湖から逸れてはいないので問題はないだろう。
(゚、゚*トソン「力まず、緩めず、投げる……着水したら……したら……えっと……」
- 846 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:32:41 ID:ejxBY3uY0
(>、<*トソン「釣り上げる!」
(;^ω^)「ちょ、早過ぎるお!?」
トソン君は針が水音を響かせた瞬間、糸を一気に巻き上げる。
流石にそれは何も釣れないだろうと苦笑いを浮かべた瞬間、針に付いていた何かが空中で外れて僕の顔に飛来した。
(;○ω○)「ぬおッ!? 何ぞこれ!?」
濡れそぼった何かが顔に張り付き、僕の視界を奪う。
慌ててそれを引き剥がすが、思いの他柔らかい、布のような感触が僕の手にはあった。
(゚、゚;トソン「あ……」
(;^ω^)つ○=○-「布のようなって言うか、これ、布だおね……」
どこかで見覚えのある青い布に、僕は視線をゆっくりと湖の方に向ける。
_,
川#゚益゚)
つ⊂
そこには両手を胸の前に当てた、般若のごとき形相のクーがいた。
- 847 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/17(火) 23:34:22 ID:ejxBY3uY0
(;^ω^)「いや、僕は悪くな……」
ナニヤッテンノヨー!!! ナンカコノオチモヒサシブリー!!!
ξ#゚听)ξ三///つ(#)゚ω゚).・。 ’
(#)゚ω゚)「ぼ、僕は無実だ……お……」ガクッ
川#゚ -゚)「何やってんだ、この駄目騎士がああああっ!!!」
(;、;トソン彡「ひぃぃっ!? ごめんなさああいっ!!!」
(∪;^ω^)「わんわんおー」
僕は薄れ行く意識の中で、今日も釣果はゼロなのだろうなと漠然と考えていた。
第二十六話 姫の想い、騎士の誓い 終
戻る 次へ