( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです

1 名前: ◆5rua49HN2. 投稿日:2012/05/04(金) 21:36:43 ID:X6Chjt0Q0

第一話〜第二十七話までの三行あらすじ


  ニューソク大陸の片田舎、ヴィップの町で魔法道具屋を営む魔法使いの少年ブーン。
  店を営む傍ら、画期的な商品を開発したり、クエストに参加したりと忙しい毎日を送る。
  これは、そんな少年ブーンと仲間達のゆるいファンタジーなお話である。


                v
             /⌒ヽ {○}
           (_^ω^)}{   『( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです』
           〈:::::::\ /つ〉
    ヾ(∪^ω^) 〉::::::::|=| ||                               (O)
,.,.. ,...... (_ u u ,く:::::::::/__| ||,,,,.,.. ,...... ,.... ,,,.,.. ,.... ,,,.,.. ,.... ,,,.. ,.... ,,,.,.. ,.... ,,,.,...,.. .. ,.... ,M|M|iMiiii,从,,,
,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,, ,,,.. ,,,,.,  ̄,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,,,.. ,,,,.,.. ,.... ,.


2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:38:18 ID:X6Chjt0Q0

 〜 ヴィップ南の街道 〜


( ^ω^)「天気は曇天、道行は順調、ここまではまずまずですおね」

(-_-)「もう少し進んだら休憩にしましょうか。この先に水場があるはずです」

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「暑いからって泳いで遊んじゃ駄目だお? あくまで休憩だお」

(∪´ω`)「わんおー」

(-_-)「ハハハ、わんわんお君は少しぐらいならいいんじゃないですか、泳いでも」

(∪*^ω^)「わんわんお!」



     第二十八話 一路南へ曇天行路


3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/05/04(金) 21:40:04 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「しかし、水場の位置知ってるって事は、ヒッキーさんはこの辺りに詳しいんですかお?」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

(-_-)「ええ、まあ。元いた村がこの近くにありますので」

彼の名前はヒッキーさん。
ヴィップの町に新しく赴任してきた司祭で、少しおどおどした所があるが穏やかな人だ。

(∪^ω^)「わんわんお!」

この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。

僕とわんわんお、それにツンとクーとトソン君はヒッキーさんが依頼したクエストを受けて、
ナカノヒトの町に向かう途中だ。
今の所旅は順調で、既に行程の半分は走破している。

現在、クーとトソン君が御者台にいて、ツンが後方の警戒中だ。
僕達3人は特にする事もなく、待機中といった所である。

4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/05/04(金) 21:42:08 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「って事は、ヒッキーさんはこの辺りの出身だったんですかお」

(-_-)「いや、そういうわけでもないのですよ」

( ^ω^)「お? じゃあ、別のとこから引っ越して来たんですかお?」

(-_-)「そうなりますね」

教会の司祭はよっぽどの例外でなければ、一旦はソクホウで修行しなければならない。
そこで司祭としての資格を得て、そのままソクホウで司祭をやるか、地方に派遣されたりする。
極めて稀にそこから冒険者や騎士になる人もいるが、ほとんどいないといってもいいくらい数は少ない。

だからヒッキーさんが別の町の生まれで、この辺りの村に赴任して来ていても不思議はない事になる。

( ^ω^)「それじゃあ、ヒッキーさんはどこの生まれなんですかお?」

(-_-)「正確な所はわかりません」

( ^ω^)「わからない?」

(∪^ω^)「わんおー?」

6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/05/04(金) 21:45:23 ID:X6Chjt0Q0

(-_-)「……私は孤児だったのです」

( ^ω^)「お……」

僕は余計な事を聞いてしまって謝ろうとしたが、ヒッキーさんは気にしないでと言ってくれた。
何でも、ヒッキーさんが生まれたばかりの頃に、ご両親はソクホウ近くで盗賊に襲われ、亡くなったという話だった。
それで身寄りのなくなったヒッキーさんはソクホウの孤児院で育ち、聖職者の道に進む事になったらしい。

(-_-)「両親はずっと旅をしていたらしいので、近隣に知り合いも見付かりませんでしたから」

( ^ω^)「それは……大変でしたおね」

僕は何と言っていいかわからず、視線を落とす。
そんな僕に、ヒッキーさんは逆に謝って来る。

(-_-)「つまらない話をしてしまいましたね。すみません」

( ^ω^)「いや、そんな……」

(-_-)「いえ、実際に少々重い話ですので、あまり他人にすべき物ではないと改めて思いましたよ」

(-_-)「自分はそれほど気にしてないと言うより、両親を覚えていないので、重い話でもないんですけどね」

7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:47:37 ID:X6Chjt0Q0

そう言ってヒッキーさんは少し寂しそうに笑う。

こうしてヒッキーさんの身の上の話を聞くのは初めてだが、これまで苦労して来たのだという事はよくわかる。
覚えていないといっても、両親がいない事は変わらないわけだから、寂しい思いもしたはずだ。

境遇的には僕も似たような物だが、僕にはじいちゃんがいた。
あとドクオさんも、ツンやツンの両親、ショボンもいた。

( ^ω^)「お、そういえば……」

そこでふと思い出したのだが、ヴィップの町に元いた司祭様、あの人は確か……

(゚、゚トソン「前方、モンスターの群れが見えます」

馬車の前方の幌が開けられ、トソン君が顔を出すと同時にモンスターとの遭遇を告げる。
僕達は話を打ち切り、武器を手に馬車から身を乗り出して前方を確認する。


               。//。
          (\/) / 幽 >(ヽ/)

8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:49:09 ID:X6Chjt0Q0

硬そうな甲羅に覆われた真っ赤な体躯に、2対の巨大な鋏。
複数の脚がその身を支え、感情を一切感じさせない真っ黒な目がこちらを見詰めている。

川 ゚ -゚)「何だ、あのデカいカニは?」

(゚、゚トソン「エビではないでしょうか?」

( ^ω^)「正確にはザリガニだお。多分、G(ジャイアント)ロブスターだお」

以前遭遇したGマンティスと同じタイプで、向こうがカマキリだったの対し、こちらはザリガニが巨大化したものだ。
性質も本来のザリガニと似たような物のはずだが、それにしては何故水辺を離れて街道まで来ているのだろうか。

(-_-)「この辺りであれほどの大きさのモンスターは初めて見ますね。どうしますか?」

馬車を止め、距離を取ったまま観察するも、Gロブスターは近付いても来なければ逃げもしない。

( ^ω^)「威嚇射撃でもして追い払いますかお?」

僕らの目的はモンスター討伐じゃないし、素材集めでもない。
無理に戦う必要はないのだ。

9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:51:55 ID:X6Chjt0Q0

Gロブスターにしたって、この街道を守っているわけではないだろう。
避けられる戦いなら避けるべきだ。

(;^ω^)「って、こういう時って真っ先に戦いを挑みに行くやつがいたお」

僕は慌ててツンの姿を探すが、意外にも馬車を降りてはいたものの、すぐ側に立っていた。
  _,
ξ゚听)ξ「何よ? 私だって、いつもいつも考えなしに戦いを吹っ掛けたりはしないわよ」

極めて説得力のない言葉を放ちながら僕の方を睨むツン。
僕は視線を逸らし、ヒッキーさんに方針の決定を促す。

今回のパーティーのリーダーはヒッキーさんだ。
今までは脳筋パーティーばっかりだったので、なし崩し的に僕が考えて決断する事が多かったが、
今回はその必要はないだろう。

意見は出すが、最終決定は任せる事に決めている。

(-_-)「そうですね、追い払えるならその方がいいでしょう」

川 ゚ -゚)「うむ、では殲滅戦といくか」

ξ゚听)ξ「そうね」

11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:54:59 ID:X6Chjt0Q0

(;^ω^)「いや、お前ら僕とヒッキーさんの話聞いてたかお?」

川 ゚ -゚)「追い払うんだろ? 戦って」

(;^ω^)「そうじゃねえお。戦いを避けるって言ってんだお」

僕は不満げな顔をする2人を無視し、魔法の詠唱を始めようとした。
しかしクーが僕の方に手を伸ばし、それを遮る。

川 ゚ -゚)「冗談だって。しかし、追い払うのにわざわざ魔法を使う必要もないだろ?」

そう言ってクーはトソン君の方を見る。
トソン君は察した様に頷き、大剣を鞘から抜き放った。

( ^ω^)「なるほど、あれで目の前の地面でも叩けば逃げて行くおね」

川 ゚ -゚)「そういう事だ。行け、トソン」

(゚、゚トソン「かしこまりました」

トソン君は大剣、ガリアン・ソードを上段に構え、気合の乗った掛け声と共にそれを振り下ろす。

(゚、゚#トソン「えいっ!」

12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 21:56:50 ID:X6Chjt0Q0

剣は孤を描きながら伸び、Gロブスターに迫る。

               ∧ ザクッ!
             x\|,,|/x
          (\/) / 幽 >(ヽ/)


(゚、゚;トソン「あ……」

(;^ω^)「ちょ!?」

しかし、手前の地面を打つはずの一撃は見事に1匹のGロブスターの頭を叩き割った。
避けろよという思いと、これで逃げてくれればという思いが交錯するも、残りのGロブスターは戦闘態勢に入り、
こちらに向かって来る。

(;^ω^)「結局こうなるのかお」

(∪;^ω^)「わんおー」

僕は馬車から飛び降り、杖を構える。
ヒッキーさんには馬車を戦場から遠ざけてもらうよう頼んだ。

13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:00:33 ID:X6Chjt0Q0

(>、<;トソン「すみません、すみません!」

川*゚一゚)「まあ、やってしまったものは仕方ないさ。ドンマイだ、トソン」

ξ*゚一゚)ξ「全く、しょうがないわねえ」

( ^ω^)「おい、お前ら、その笑みを堪えた面は何だお?」

クーはこうなる事を見越してトソン君に頼んだのかもしれないが、今はそれを問い質している時ではない。
残りGロブスターは3匹。
先のトソン君の一撃への反応を見る限り、それほど強いモンスターではないと思う。

( ^ω^)「たまには派手に行くかお」

既にツン達3人がそれぞれGロブスターと交戦している。
楽に倒せるかと思ったが、Gロブスターは正面からの攻撃には対応が早いらしく、
素早く後方に飛び跳ねて攻撃をかわしている。

川#゚ -゚)「このカニ野郎っ!」

(゚、゚トソン「ザリガニですよ、クー様」

ξ゚听)ξ「どっちでもいいわよ」

14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:02:43 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「天なる空を漂う雷の精霊よ、我が矛となりて全てを貫け……みんな、下がってくれお!」

僕の言葉に全員、その場から後方に飛び退いた。
それを見た僕は力ある言葉を解き放つ。

( ^ω^)「サンダー・ストォォォムッ!」

僕の言葉と共に上空からいくつもの雷が飛来し、Gロブスターを射抜く。
雷の精霊の力を借りた広範囲魔法サンダーストーム。
直撃を受けたGロブスターは3匹ともその場に崩れ落ちた。

ヽ( ^ω^)ゝ「見事に必殺って感じだお」

上機嫌でポーズを決める僕に向けられる不満そうな視線が2つ。
心配しなくても味方に落とすようなヘマはしないから安心して欲しいものだ。
  _,
川 ゚ -゚)「そうじゃなくてだな……」
  _,
ξ゚听)ξ「なに、瞬殺してくれちゃってんのよ?」

( ^ω^)「余計な戦闘は避けるって言ったお? さあ、いいから出発するお」

15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:04:19 ID:X6Chjt0Q0

勿論、ツン達が何に対して不満げなのかは理解していた。
しかし僕は、そ知らぬ顔でそれを受け流す。

(-_-)「お疲れ様です」

(∪^ω^)「わんわんお!」
  _,
川 ゚ -゚)「全然疲れてませんが、嫌味ですか?」
  _,
ξ゚听)ξ「役に立たなくて申し訳ありませんねえ」

(;-_-)「え、いや、その……」

(;^ω^)「お前らヒッキーさんに当たるなお。悪かったお、次は補助に徹するから」

(゚、゚トソン「よしよし、皆無事でなによりですね」
つ∪^ω^)「わんお!」

僕はツン達を宥め、再び馬車を走らせる。
この近くの水場で休憩を取ろうと思ったが、水場にはGロブスターが他にもいる可能性があるので、
少し先まで馬車を進める事にした。

16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:06:57 ID:X6Chjt0Q0

ξ゚听)ξ「しかし、どうしてあんなのが街道まで出て来てたのかしらね?」

( ^ω^)「さあ? ここ最近暑いから、巣にしてた水場が干上がったのかもしれんお」

僕は一通り文句を並べ立てて機嫌の直ったらしいツンと共に御者台に座り、馬車を操る。
Gロブスターの生態はよく知らないので何とも言えないが、単に他の水場へ移動している最中だったのかもしれない。

ツンやクーが久しぶりのクエストで張り切ってて、腕試しをしたいのはわかるが、
襲ってこないモンスターまで倒す必要は無いと思う。

もっとも、あれが無害なモンスターだったかどうかなんてわかりようもないのだが。

ξ--)ξ「さっきのはちょっと反省してるわ。街道を外れて少し迂回してもよかったわね」

( ^ω^)「そうしたとしても、追い掛けて来た可能性もあるお」

結局、結果で判断するしかないので、被害の無い手段を選べたという事で満足しておこうと思う。
毎回行き当たりばったりでは困るが、考え過ぎて取れる手段が狭められるのもよろしくない。

( ^ω^)「ジョルジュさん達と組んでた時は、まず僕が動くより先に誰かしら動いてたから」

( ^ω^)「やる事が限られて、却って迷わず済んでたんだおね」

17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:08:44 ID:X6Chjt0Q0

ξ゚听)ξ「あの3人の実力も高かったから、自分の事に専念出来たのは楽だったわ」

今回のパーティーが弱いわけではないが、冒険者としての経験が少ない者ばかりなのは否めない。
とはいえクエスト目的から考えて、戦闘になったとしても人との戦いになるだろうからそこまで不安は無い。
クーはともかく、トソン君は対人戦闘は慣れているだろう。

ξ゚听)ξ「そうね。同じ未知の相手なら、モンスターより人間の方が言葉が通じる分少しはマシよね」

場合によっては今回のクエストではその戦闘すら回避出来るかもしれない。
目的は聖骸布の奪還なので、交渉で取り戻せる可能性もあるだろう。

ξ゚听)ξ「その辺は現地に行ってみないとわかんないんだっけ?」

( ^ω^)「らしいお。そこで教会の特殊任務に当たる人、通称、エージェントと合流するのが最初の目的だお」

ヒッキーさんに下された教会本部からの命令は、聖骸布の奪還の為、
腕の立つ冒険者を4、5人集めてナカノヒトの町に向かい、現地のエージェントと合流しろというものだ。

聖骸布を盗んだ者がそれを闇オークションに流そうとしているらしい事は書かれていたが、
その人物の名前とかそういう情報はなかったらしい。

18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:10:29 ID:X6Chjt0Q0

ξ゚听)ξ「わざわざヒッキーさんに命令なんかしないで、自分達でやればいいのにね」

( ^ω^)「ナカノヒトは教会との仲が険悪だお。表立って動きたくなかったんだと思うお」

治安の悪いナカノヒトの町にも、過去に何度か教会を立ててニューソク正教を布教しようという動きはあったが、
悉く失敗したらしい。

富裕層にとってはニューソク正教の博愛や平等とかそういう概念が目障りで、
貧困層には一銭にならないものにかまけている時間はないとあしらわれた様だ。

ナカノヒト全体が貧しい町で、貧困層だけで構成されているならニューソク正教も受け入れられただろう。
そういう人達の、心の拠り所にもなれたかもしれない。
しかし、ナカノヒトは住民の格差がひどい町でもあるのだ。

( ^ω^)「まあ、何にせよ、行ってみないとよくわかんないけど、危ないから単独行動は厳禁だお」

ξ゚听)ξ「そうね。そこは気を付けさせないとね」

そう言ってツンは背後を盗み見る。
現状では実力的にも身分的にも、そして性格的にも一番危険なのはクーだろう。

19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:12:09 ID:X6Chjt0Q0

(;^ω^)「冷静に考えると、クー連れて来たのは相当まずかったかもしれんお」

ξ゚听)ξ「仕方ないじゃないの、あいつが私達にこの話を持って来たんだし」

それに、クーが行く行くは大陸全土を旅するつもりなら、
保護者のいる内に1度見ておいた方がいい町ではあるとツンは言う。

( ^ω^)「保護者ってなんだお。でもまあ、確かに一理あるお」

僕は軽く笑ってツンに応じ、視線を街道に戻す。
ナカノヒトまでの距離は残り半分を切っているが、出立以来、空はずっと曇っている。
雨にならないだけマシだが、湿度の高い空気は暑さと相俟って気持ち良いものではない。

ξ゚听)ξ「そういえばブーンがあんな大規模な魔法使ったの、久しぶりに見た気がするわ」

( ^ω^)「まあ、そもそもがあんまり使う機会もないお」

僕は冒険者ではなく魔法道具屋が主で、近場の薬草採集程度じゃ強いモンスターとは遭遇しないし、
たまにクエストに出ても先の脳筋のパーティーですぐに乱戦になってるしで、使える場面が滅多にないのだ。

ξ゚听)ξ「あんたって、意外と強力な魔法使えるのよね」

20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:13:45 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「攻撃魔法なら精霊魔法6種の基本と高威力、範囲魔法は使えるお」

意外というのは僕としては心外で、多少の得手不得手はあるが、基本的な魔法は一通り習得している上、
高位の魔法もいくつか覚えている。
精霊魔法以外も使えるし、数だけ言えばもっと多く使えるのだが、よく使うのはこの辺りである。

なんせ僕の師匠は賢者と大賢者だ。
魔法に関しては英才教育に近いものを受けている。

( ^ω^)「それにドクオさんの話だと、僕は結構魔力が高いらしいお。同世代の一般的な人に比べたらだけど」

ξ゚听)ξ「ふーん。流石は、ってとこ?」

( ^ω^)「やっぱそうなるのかおね。子供の頃はそれほどでもなかった気もするんだけど」

魔法に関しては持って生まれた素質に左右される部分が大きい。
後天的に修練で魔力を高める事も出来るが、そもそもの素質が無いと魔法を使う気にもならないだろう。

僕の場合は血筋のお陰で素質があり、かつ、師の的確な指導のお陰で後天的にも成長出来たという事だと思う。

ξ゚听)ξ「ドクオが的確な指導ねえ……」

( ^ω^)「基本的な魔法の事は、ほとんどドクオさんから学んでるお」

21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:15:13 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「昔もちょっとひねたとこあったけど、今よりは素直で親身に教えてくれたんだお」

勿論、自分の師の手前という事もあったのだろうが、ドクオさんは僕にとって先生で、家族のような存在だった。
タイムカプセルの時の様に、子供の遊びにも付き合ってくれる事だってあったのだ。
もっとも、そんな事は言わなくても、いつも僕と一緒に遊んでいたツンはよく知っているんだろうけども。

ξ゚听)ξ「ブーンのおじいさんが亡くなってからよね、あいつが変わったの」

じいちゃんの死がドクオさんの心境にどんな変化をもたらしたのかは僕にはわからない。
子供であった僕には、当時そんな事は話してくれなかった。

しかしいつか僕は、あの頃の話をドクオさんに聞きたいと思う。
僕がもう少し大人になり、ドクオさんが話すに足る人物と思えるようになれた時に。

ξ゚听)ξ「まあでも、別に聞かなくてもいいんじゃない、どうせドクオだし」

ξ゚听)ξ「あんたがあんまりアレに影響されてもいい事ないわよ」

(;^ω^)「そんなばっさりと……」

僕とドクオさんの関係はじいちゃんが亡くなって少し変わったが、
ツンとドクオさんの関係はあまり変わってないように見える。
元々、一緒に住んでいたわけでもなく、適度に距離があったからだろうか。

22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:16:19 ID:X6Chjt0Q0

つい先日も、昔と変わらない2人のやり取りは目にした。
ツンが一方的にドクオさんをなじる、昔と変わらぬ微笑ましい光景を。

そういう所は、少しだけツンが羨ましくも思う。
昔と変わらぬ関係でいられるツンの事を。

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

( ^ω^)「何でもないお。……さて、そろそろどこかで休憩するお」

ξ゚听)ξ「この先に川があるみたいだけど、その辺りにする?」

( ^ω^)「水辺はまた何か出そうな気もするけど、その方が色々と便がいいおね」

ξ゚听)ξ「暑い時期だしね」

( ^ω^)「ちょっとヒッキーさんに聞いてみてくれお。この辺の事なら何か知ってるかもしれないお」

ξ゚听)ξ「りょーうかい」

ツンが馬車内に入り、1人になった僕は考えるとは無く色々な事に思いを巡らせた。

23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:17:49 ID:X6Chjt0Q0

 〜 ヴィップ南の街道 深夜 〜


草木も眠るとはよくいうが、この時期は夜も虫や蛙の声なんかで結構うるさかったりする。
おまけに湿気が多く、蒸し暑いのであまり眠るに適した環境とはいえない。

( ^ω^)「まあ、夜番なんで眠くならなくて助かるけども」

ナカノヒトまで街道沿いには町も無いので、必然的に野宿となる。
交代制で夜番をしているが、今は僕とヒッキーさんの担当だ。

(-_-)「どうしました?」

どうやら僕の独り言が聞こえたらしいヒッキーさんが尋ねてくる。
僕はこの暑さの事を考えていたら、思わず独り言が漏れていたと説明した。

(-_-)「そうですね。今年は随分と暑くなるのが早かった気がします」

( ^ω^)「いわゆる異常気象ですかおね」

(-_-)「かもしれませんね。何かの前触れでなければいいのですが……」

24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:19:32 ID:X6Chjt0Q0

聖職者であるヒッキーさんは信心深い、イコール、こういった予兆めいた事を重く考える性質なのだろう。
実際、異常気象の時は過去に何かしら起こったりした事実もあるから、そう思うのもわかる話だ。
因果関係は明確にされて無いものであったとしても、記憶がそれを深く刻んでしまっていて印象深いのだろう。

それに僕の周辺でも最近は色々と気になる事が起こってもいた。
あまり信心深くない僕ですら、これから何か起こりそうな予感はしているのだ。

( ^ω^)「取り敢えず今の所は、寝苦しそうなのが一番の問題ですかおね」

僕の言葉にヒッキーさんは軽く笑う。
ツン達は場車内ではなく、外で眠っている。

風のない馬車内よりは外の方がいいと思ったのだろうが、残念ながら外も大差は無い。
時折寝苦しそうに唸る声が聞こえて来る事もある。

( ^ω^)「わんおも暑い時は人気ないおね」

(∪-ω-) zzz

これまでの旅の時は、誰かしらが抱いて寝ていたわんわんおだが、この暑さでは流石に躊躇われれるのだろう。
今は僕のすぐ近くで1人で眠っている。
ショボンやミルナさんがいたらこの暑い時でも抱いて眠ってそうだが。

25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:21:49 ID:X6Chjt0Q0

(-_-)「わんわんお君は本当にブーン君によく懐いてますね」

( ^ω^)「わんおは基本的に誰にでも懐きますお」

今の所、唯一の例外を除けばわんわんおが懐かなかった人はいない。
警戒心というものをまるで持ち合わせていないのはどうかと思いもしたが、
むしろ僕の周りには警戒しなくていい人ばかりなのを喜ぶべきかもしれない。

(-_-)「ヴィップの町はいい人ばかりですからね」

( ^ω^)「ヒッキーさんはもう、ヴィップには慣れましたかお?」

(-_-)「はい、お陰さまで」

僕が見た感じでも、言葉通りヒッキーさんはヴィップに馴染んでいるように見える。
これといった問題もなく、日に数人は教会に訪れる人もいる。
それはヴィップの気質のお陰だけでなく、ヒッキーさんの人柄に因る所もあると思う。

(-_-)「どうなんでしょうかね? 自分は前任者の方ほど、人格者ではないと思いますし」

( ^ω^)「お……」

27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:24:13 ID:X6Chjt0Q0

そう言って少し寂しそうに笑ったヒッキーさんの顔で、僕は昼の話が途中であった事を思い出した。
奇しくもそれは、その前任者の事で聞きたい話でもあった。

教会で精霊と遭遇した時にある程度の推測はついていたつもりだったが、
ヒッキーさんの身の上を聞くと話はそう簡単ではないのかもしれない。

( ^ω^)「昼に聞きそびれてたんですけど、前の司祭様はひょっとして……」

(-_-)「正確な所はわかりません。しかし……私の祖父かもしれないと考えていました」

( ^ω^)「かもしれない、ですかお?」

(-_-)「ええ、色々と複雑な理由がありまして、断言出来ないというか、今の所、希望的観測に近いです」

少し長い話になるとヒッキーさんは言うが、どうせ夜番の時間はまだまだあるのだ。
僕はヒッキーさんによければ話して欲しいと頼む。

(-_-)「前任の司祭、ハタライさんは私が教会に入門した時に最初に指導してくれた人でもありました」

教会では、入門者を指導する教官に当たる司祭がいるという事らしかった。
それは専任ではなく、ソクホウの教会の司祭や、その他の町の司祭が受け持つ事になっているらしい。

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:26:12 ID:X6Chjt0Q0

基本的に教会の司祭はソクホウで修行するから、前の司祭様も一時期ソクホウにいたのだろう。
前の司祭様はずっとヴィップにいたと思っていたが、いない時期もあったようだ。
僕は覚えていないが、ヒッキーさんの話だと僕がじいちゃんと暮らし始めた時期と同じ頃らしい。

(-_-)「人の良いおじいさんという感じでしたが、子供心にどこか他人のような気がしない事も感じていました」

教会は下は12歳ぐらいから、上は際限なく入門者を受け入れている。
単に教会の教えを受ける入信のみに止まる人もいれば、深く教義を学び、司祭となるべく修行する人もいる。
後者の場合は、全寮制の学校のような施設で学ぶらしい。

(-_-)「そういう環境でしたし、他に娯楽もありませんから、必然的に人と話す機会は多かったんです」

ヒッキーさんは前の司祭様とよく話すようになり、その身の上も聞いたらしかった。

(-_-)「自分は決して誇れるような人生を歩んで来てはいない」

(-_-)「だから、これはある種の訓戒だと思って聞いて欲しいと言われました」

前の司祭様は、元はあまり人様に言えるような仕事をしていなかったらしかった。
それでも妻子があり、家に帰れば普通の夫、親としても暮らしていたという。

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:29:17 ID:X6Chjt0Q0

ところがある日、仕事上のトラブルから騒動になり、妻を亡くす事になってしまい、
前の司祭様はこれまでの生き方を激しく後悔したとの事だ。

そこで更なる災厄が我が子にまで及ぶのを避ける為、子を施設に預け、
財産を処分して自分は逃亡の旅の果てに教会に入門する事になったらしかった。

(-_-)「その後、預けられた子供はどこかに貰われていったらしかったのですが」

(-_-)「戦争で焼けて記録が残っていなかったようです」

( ^ω^)「なるほど……」

それで断言出来ないという事なのだろう。
もしヒッキーさんの父親が前の司祭さんの息子であったとしても、それを証明する手立てが一切ないのだ。
ヒッキーさんの父親の事も、ヒッキーさんはよく知らないのでそちらから追う事も出来ないのだろう。

辛うじて父親の名前だけはわかっているらしいが、名字はわからないという。
亡くなる直前に立ち寄った宿の主人が、夫婦の会話の中で呼ばれていた名前を覚えていたらしかった。

(-_-)「正直な所、可能性は低いかなとも思っています。子供の頃の憧れの延長線上のものかもしれないと」

今の話だけでは、ヒッキーさんのお父さんと前の司祭様が親子であった可能性の方が低いと判断せざるを得ないが、
ヒッキーさんは血が繋がっていなくても、自分の祖父の様に大切に思っていたという。

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:31:07 ID:X6Chjt0Q0

(-_-)「私はあの方から色々な事を学びました」

(-_-)「教義だけではなく、人として大切にすべき事や、間違いを正す心も、やり直す強さも」

(-_-)「私が無理を言ってヴィップに転属願いを通したのは」

(-_-)「ここに来れば何かわかるかもしれないと思ったからでもあります」

何もわからなかったにしても、自分の敬愛する人が生きた場所を見たかったとヒッキーさんは続ける。

( ^ω^)「生前のご本人には聞かなかったのですかお?」

(-_-)「お子さんの話をする時はとても苦しそうだったので、結局聞けず仕舞でした」

今となっては少し後悔していると、ヒッキーさんはまた寂しそうに笑う。

( ^ω^)「何か力になれたら良かったんですけど、僕は前の司祭様の個人的な事をよく知らないんですおね……」

小さい頃、教会に遊びに行ってクッキーを貰った事は覚えている。
じいちゃんと一緒に聖水を受け取りに行った事もあった。
会えば気軽に話をする間柄であったが、どちらかといえば司祭様がこちらの近況とかを聞いてくれるばかりだった。

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:32:35 ID:X6Chjt0Q0

(-_-)「子供だったのですから、それが当然だと思います」

ヒッキーさんはヴィップの教会に残された前の司祭様の私物を整理して、
そこから何かしらわかればいいと考えているという。
子供の名前でも書かれたものがあれば、ヒッキーさんの父親と同じかどうかはわかるだろう。

施設に預けられ、別の家に引き取られても、名字は変わるだろうが名前は変わっていない可能性はある。

( ^ω^)「僕は前の司祭様の顔や雰囲気はよく覚えていますお」

( ^ω^)「僕が見ても、ヒッキーさんは前の司祭様によく似ていてると思いますお」

(-_-)「ありがとう、そう言ってもらえると何だか希望が湧きますよ」

ヒッキーさんは少し驚いた顔をした後、照れくさそうに笑った。
どんな結果であれ、自分はヴィップに来た事を後悔していないとヒッキーさんは言う。

( ^ω^)「子供だった僕は覚えてませんが、誰かしら司祭様と親しかった人は──」

   川д川〜 フヨン
(;^ω^)「うぉっ!?」

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:34:59 ID:X6Chjt0Q0

(;-_-)「あ……」

突如髪の長い女性の顔が目の前に現れて驚いたが、よくよく見るとあの教会の精霊さんだった。
またヒッキーさんの中から出て来たらしい。

(;-_-)「す、すみません。どうも最近は私の感情が大きく揺れると私から離れる事があるようで……」

しばらく前まで悲しみの精霊的な存在であった所為か、その他の感情が大きい場所にはまだ馴れないのかもしれない。
害はないはずだが、この暗い中で突然出て来られると心臓に悪い。

     川д川〜 フワフワ
(-_-)∩「おいで、サダコ」

( ^ω^)「その子、サダコって名前付けたんですかお?」

(-_-)「ええ、それが母の名前だったらしいので、それを借りました」

サダコは再びヒッキーさんの中に戻る。
精霊憑きの人間で、そう頻繁に精霊が離れるのは珍しいタイプかもしれない。

(-_-)「そういうものなのですか?」

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:36:51 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「感情に憑くタイプの精霊は、ほぼその人と一体化するような感じのはずですお」

ただ、サダコは元は教会の精霊で、感情の精霊というわけでもないからその辺りの線引きは難しい所だ。
逆に、火や風の自然精霊と契約して纏わせる場合だと、体内に入り込むような事は無い。

(-_-)「そうですね、私の感情に影響を与えることもありますから、感情タイプの精霊に近いと思うのですが」

( ^ω^)「精霊の力が強いと、その感情に支配される可能性もあるから気を付けてくださいお」

ヒッキーさん達の場合はその心配は無いと思うが、精霊に感情を支配された例は過去に色々あったはずだ。
中にはそれを研究し、人間の強化手段として使おうとしたものもあった。
かなり非人道的な研究だったので、今は弾劾されて廃れているはずだ。

(-_-)「気を付けます。しかし、そんな研究もあったんですね」

( ^ω^)「ひどい研究だと思いますお」

この手の研究は兵器転用なんかも考えられるので、ひょっとしたらどこかで生き延びている可能性もある。
だとしたらあまり気分のいい話ではない。

( ^ω^)「……っと、さっき言いかけた話ですけど」

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:38:51 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)「ひょっとしたらドクオさんなら何か知ってるかもしれませんお」

僕は話を前の司祭様の事に戻し、昔見た光景を説明する。
ドクオさんもたまに、じいちゃんの代わりに教会に聖水の受け取りに行っていたはずだ。
その時僕も一緒に行った事があり、ドクオさんが司祭様と何かを話している姿は目にした覚えがある。

(-_-)「東の賢者様ですか。未だお会いしておりませんが聡明な方なのでしょうね」

(;^ω^)「あの人、ヒッキーさんのとこに挨拶にも行ってないんですかお?」

今はヴィップに住んでいないとはいえ、ドクオさんも昔は教会にお世話になっただろうに。
礼儀を欠くにも程があるのではないだろうか。

(-_-)「いえいえ、むしろこちらがご挨拶に伺わなければならない身ですので」

( ^ω^)「ドクオさんの庵に行くのはめんどくさいと思うんで、教会に行ってくれるように頼んでおきますお」

僕は今ドクオさんが庵にいない事を説明し、戻って来たらその事を伝えておくと約束した。
いくら神を信じてないといっても、人助けぐらいはしてくれてもいいだろう。

( ^ω^)「どこからどう見てもひねくれた顔してますけど、あれで結構やさしいとこもあるんですお」

(;-_-)「まだお会いしていないので顔の事はよくわかりませんが、よろしくお願いします」

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:40:35 ID:X6Chjt0Q0

そこで話を一旦終え、僕は周囲の見回りをする為に立ち上がった。
今の所モンスターの気配は一切感じない。

( ^ω^)「特に異常なしですお」

(-_-)「お疲れ様です」

周囲をぐるっと歩いて周り、再びヒッキーさんの隣に座る。
もうすぐ夜明けも近いので、そろそろ朝食の下ごしらえでもしておこうか。

( ^ω^)「そういえばもう1つ聞きたい事があったんですお」

(-_-)「何でしょう?」

再び立ち上がろうとした僕だが、その事を思い出して座り直した。
聞きたい事と話しておくべき事の両方があるのだが、どこまで話すべきかはまだ決めかねている。

( ^ω^)「聖骸布についてですお。ヒッキーさんはどういう風に聞いてるのですかお?」

(-_-)「特徴とかそういう話ですか?」

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:43:51 ID:X6Chjt0Q0

この反応だと、例の悪魔の衣に関しては全く聞かされてないのだろう。
もっとも、全く関係ない可能性の方が高いのだからそれも当然か。

そもそも神と悪魔、全く相反するような概念のものが同じものを指す事がおかしいので、
やはりドクオさんの思い過ごしかもしれない。

( ^ω^)「何かいわくありげだったりするんですかおね?」

(-_-)「どうなのでしょうかね……」

(-_-)「ブーン君から指摘があったように、伝承から考えるとあるはずのない道具である気もしますし」

ヒッキーさんの話によると、数百年前の教会の文献には存在している事から、それなりに由緒はあるのかもしれない。

(-_-)「それによると、外見は何の変哲もない貫頭衣のようでしたね」

ただ、前に言ったようにニューソク正教の主神アルァは現人神ではないから、遺体を包む衣はいらないはずなのだ。
言い伝えの中で実体を伴う事はあっても、死んだ事はないようだし、やはりおかしくはある。

( ^ω^)(これが千年以上前の文献に載ってたのなら、疑う必要もなかったかもしれないけど……)

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:46:17 ID:X6Chjt0Q0

数百年なら前の千年期の後に、魔王の衣に別の名前を付けて隠匿しようとした可能性もある。
その名を消す為に別の物として扱うというのは悪い手ではないと思う。

( ^ω^)(もしそうだとしたら、問題はこれを盗んだやつと教会がどこまで知っているかだおね)

(-_-)「どうしました?」

( ^ω^)「あ、いや、ちょっとぼうっとしちゃって……」

黙り込んだ僕に、ヒッキーさんが顔を覗き込むようにして尋ねる。
僕の答えに、ちょっと眠気が差したのだろうと、お茶を淹れましょうかと提案してくれる。

( ^ω^)「どの道、朝食の準備もありますし火を起しましょうかお」

思わず誤魔化しはしたが、魔王の衣の件は皆に話しておくべきかもしれない。
場合によっては想定外の厄介事が飛び込む可能性もある。
低い可能性だとしても、万が一に備えて心構えをしておけば有事の際に対応出来ると思う。

(-_-)「そうしましょうか」

火を起すといっても、魔法を使えば一発なので特に苦労はない。
こういう野営で魔法使いが一番重宝される瞬間でもある。

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:47:57 ID:X6Chjt0Q0

僕は夕飯前にトソン君が集めて来た木の枝を寄せ集め、それに火を点ける。
パンを焼いたりという大掛かりなものの準備はしていないが、ご飯を炊いておにぎりを握るくらいならこれで十分だ。

(-_-)「じゃあ、まずはお湯を沸かしますね」

( ^ω^)「よろしくですお」

僕はヒッキーさんに場所を譲り、馬車内に入る。
食料は十分備えて来たので、途中でどこかの村に立ち寄らなくても十分なくらいはある。

( ^ω^)「お米お米と……」

僕は全員分に足るだけのお米を取り出し、近くの川に向かおうとした。

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「お、もう起きたのかお。おはようだお」

(∪^ω^)「わんお!」

( ^ω^)「皆を起こしちゃうから、もう少し静かにするお」

僕はわんわんおを一緒に連れて川へ向かう。
わんわんおは元気よく走り回りながら僕について来る。

39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:49:10 ID:X6Chjt0Q0
     グルグル
(((^ω^∪三∪^ω^)))「わんわんお! わんわんお!」

( ^ω^)「朝から元気だおね」

(∪^ω^)「わんわんお!」

川の水で顔を洗い、お米を洗って、ついでにわんわんおが泳ぎたがっていたようなので、少し泳がせてあげた。

( ^ω^)つ 三 o「ほうれ、取って来いお」

彡(∪*^ω^)っ「わんわんお!」 ドボン!

(∪*^ω^)○「わんわんお!」

(;^ω^)「いや、誇らしげにしてるとこ悪いけど、僕が投げた石より明らかにデカいお?」

全然違う石を取って来るわんわんおに僕は苦笑する。
まあ、適当な石だったので投げた僕もどれだか判別出来ないのだが、それは明らかに違うと思う。

( ^ω^)つ|「じゃあ、この木の枝にするお。これなら水に浮かぶから見失わないお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:50:54 ID:X6Chjt0Q0

( ^ω^)つ 三 |「ほうれ、取って来いお」

彡(∪*^ω^)っ「わんわんお!」 ドボン!

(∪*^ω^)|o |「わんわんお!」

(;^ω^)「いや、だからデケえお。何で見えてるものまで違うのもって来るんだお」

再度別の木や石で挑戦するも、わんわんおは毎回違うものを持って来てしまう。
それも、僕が投げた物よりも大きい物ばかりだ。
僕は何となく意地になってしまい、成功するまで何度も石や木を投げ続けた。

ξ;゚听)ξ「戻って来ないと思ったら何やってんのよ?」

( ^ω^)「お、ツン、おはようだお。見ての通り、わんおの特訓だお」

(∪;´ω`)「わんおー」

ξ;゚听)ξ「もう、わんお疲れちゃってるじゃないの。馬鹿な事やってないでさっさとご飯の支度しなさい」
つ∪;´ω`)

(;^ω^)「お、ごめんお。つい夢中になっちゃって……」

僕はツンとわんわんおに謝り、馬車の所まで戻る。
しかしながら先の結果には納得いってないので、
このクエストが終わったらまたわんわんおに取って来いの練習をさせようと思う。

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/04(金) 22:52:54 ID:X6Chjt0Q0

ξ゚听)ξ「最初はもっとわかりやすいのにしてあげなさいな」

( ^ω^)「そうだおね。もっとわかりやすい色の付いたのとかにしておけばよかったお」

ξ゚听)ξ「犬には色より匂いじゃないの? 何かあんたの匂いが付いたものとか」

(∪^ω^)「わんお」

( ^ω^)「匂いが付いてそうなものといえば……パンツとかかお?」
  _,
ξ゚听)ξ「ひょっとしなくてもあんた馬鹿でしょ?」

(;^ω^)「冗談だお。今度何か焼いたお肉の匂いがするボールとか作ってみるお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

それから手早く朝食の準備を済ませ、馬車を出発させる。
ナカノヒトまで残り数日、僕は多少の不安は感じつつも、まだ見ぬ新しい町に思いを馳せながら馬車を走らせた。



     第二十八話 一路南へ曇天行路 終


戻る 次へ

inserted by FC2 system