- 51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:13:12 ID:TqLuedZw0
〜 ナカノヒトの町 東門 〜
( ^ω^)「やって来ましたナカノヒトの町」
(∪^ω^)「わんわんお!」
ξ゚听)ξ「思ったより普通の町って感じね。活気はないけど」
(-_-)「表側は静かな町のようですね」
川 ゚ -゚)「しかし、裏はそうでもない、と?」
(゚、゚トソン「何にせよ、警戒は怠らぬようにしておきましょう」
第二十九話 月の綺麗な夜に
- 52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:14:50 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「取り敢えず、宿泊場所を探すかお」
僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。
僕は今、ヴィップの町の司祭であるヒッキーさんのクエストの依頼を受け、ナカノヒトの町に来ている。
依頼者であるヒッキーさんも同行し、ツンとクー、それにトソン君とわんわんおも一緒だ。
ようやく辿り着いたナカノヒトの町は、一見すると普通の町だが、大陸一治安が悪いと言われている。
いくら治安が悪いといっても、理由もなく町中で襲われるような事は無いと思うが、警戒はしておくべきだろう。
ξ゚听)ξ「ヒッキーさん、そのエージェントって人との合流場所はわかってるんですか?」
(-_-)「はい。指定された宿屋で落ち合う事になっていますから、宿泊先もそこでいいと思います」
( ^ω^)「そりゃ探す手間が省けて助かりますお」
(∪^ω^)「わんお」
ただ問題は、その宿屋の名前はわかるがヒッキーさんはこの町の道は知らないという。
従って、その宿屋を探す必要はあるわけだ。
- 53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:15:57 ID:TqLuedZw0
(゚、゚トソン「町の中央辺りに行けば、案内板ぐらいありそうですが……」
川 ゚ -゚)「その辺りのやつに聞いてみればいいんじゃないか? そこの御仁、この宿屋の場所を知らないか?」
(´・_ゝ・`)「すまない、私も旅人なんでこの町には詳しくないんだ」
クーはいかにも、ここはナカノヒトの町ですとでも答えてくれそうな特徴のない人に話しかけたのだが、
まさかの旅人であった。
それ以前に治安が悪いというイメージで、道を聞くにもお金とか取られたり騙されたりしそうなの雰囲気があるので、
どこか公的な施設を探した方がいいかもしれない。
ξ゚听)ξ「それは警戒し過ぎな気もするけど、そうね、まずはトソンが言うように中央辺りを目指しましょうか」
僕達はツンの言葉に頷き、再び馬車の人となり、町中の道を行く。
ソクホウやメシューマに比べると道の舗装状況は悪く、道幅も狭い。
( ^ω^)「それでもヴィップよりはマシなんだけども」
ξ゚听)ξ「ヴィップは舗装すらされてないものね」
(゚、゚トソン「あれはあれで味があって良いと思われますが」
(∪^ω^)「わんわんお!」
- 54 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:16:49 ID:TqLuedZw0
川 ゚ -゚)「雨の日にわんおと走ったら大変な事になった件」
(;^ω^)「あの茶色の毛玉を見た時、何事かと思ったお」
ξ;--)ξ「雨の日に走り回るのがおかしいんでしょうが」
別の町に来る度に思うが、ニューソク大陸の主要な町と呼ばれる6つのうち、
ヴィップはずば抜けて田舎なのだと感じる。
最南の町キマスタと最北の町イチサンは行った事ないが、それぞれ港町だし、ヴィップよりは発展していると思う。
ここナカノヒトも、少し山を登った場所にあるが、それなりにしっかりとした建物が並び、ヴィップよりは都会だ。
( ^ω^)「この辺りが中央っぽいおね」
川 ゚ -゚)「さしずめ、中央広場といったところか」
治安が悪い町とはいえ、町の運営を司る公的機関がないわけではない。
自治都市の体をなしているのだから、それが集権された施設はある。
本来なら先に町の情勢とかを酒場辺りで聞きたい所だが、その酒場がちゃんとした情報をくれるか怪しいので困り物だ。
ξ゚听)ξ「それならギルドで聞けばいいんじゃないの?」
( ^ω^)「ナカノヒトはギルドも勢力が弱いお。でも、情報ぐらいは聞けると思うから、行き詰ったら行ってみるお」
- 56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:20:20 ID:TqLuedZw0
僕とツンとわんわんおは馬車を降り、予想通り見付かった町の中央庁舎らしき場所へ向かう。
全員で行く必要も無いので、クー達には馬車番として残ってもらう事にした。
ξ゚听)ξ「わんおも連れてくの?」
( ^ω^)「人数配分を3対3にした結果だお」
(∪^ω^)「わんお!」
ξ゚听)ξ「庁舎内を走り回られても困りそうだけど」
( ^ω^)「それなら大丈夫だお」
そう言って僕は自分の背を指差す。
首を傾げたツンの視線の向く先には、これまでは付いていなかったフードがローブに縫い付けられている。
ξ゚听)ξ「ローブ、フード付けたんだ。でも、これが何なのよ?」
( ^ω^)「これはただのフードじゃないんだお。わんお、おいで」
(∪^ω^)「わんわんお!」
- 57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:21:58 ID:TqLuedZw0
僕はわんわんおを抱き上げ、肩越しにフードの中に押し込む。
少々入れ辛かったが、何とかわんわんおはフードの中に納まった。
(∪^ω^( ^ω^)「どうだお、これ?」
ξ゚听)ξ「え……あ、うん……そうね……妙に丸い親子?」
いささかコメントに困るツンの反応を頂いたが、要約すればしっくり行っているという事だろう。
ソクホウからヴィップに戻って以降、次の旅に備えて改造した甲斐があったというものだ。
ξ゚听)ξ「重くない? フードの重みで首絞まったりしないの?」
( ^ω^)「その辺は魔法で何とかしてるお。この首周りはかなり丈夫に作ってるお」
/ ̄\
| ____ | < ワンワンオ!
./ { ^ω^)「こうして被る事も可能だお」
ξ;゚听)ξ「いや、何か上が不自然に大きいわよ?」
わんわんおがこれ以上大きくなったら厳しいが、こうやって隠す事も出来る。
なかなか機能的な作りになっていると我ながら思う。
- 58 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:23:01 ID:TqLuedZw0
ξ゚听)ξ「まあ、あんたがそれでいいなら別にいいけど……」
ツンは少し呆れた様に首を振ると、さっさと庁舎の方に歩いて行く。
単独行動は止めて欲しいので、僕も慌ててそれを追いかけた。
庁舎内は薄暗く、お世辞にも明るい雰囲気とはいい難かったが、一応はちゃんと機能しているようだ。
特に問題もなく、宿の場所を知る事が出来た。
ξ゚听)ξ「愛想の欠片もないわね」
( ^ω^)「すんなりわかったから良しとするお」
僕はぼやくツンを宥めて庁舎を出る。
馬車に戻ると、何故かトソン君が抜き身の大剣を地面に突き立てて馬車の前に仁王立ちしていた。
(゚、゚トソン
(;^ω^)「何してんだお?」
川 ゚ -゚)「戻って来たか。なに、先ほどから胡散臭い物売りがうるさくてな」
- 59 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:24:05 ID:TqLuedZw0
質問の返事が馬車の上のクーから返ってくる。
どうやら待っている間に頻繁に物売りが声をかけて来るのに辟易したらしい。
あまり目立つ事はしないで欲しいが、下手に相手をするのも確かに面倒だろう。
(-_-)「場所はわかりましたか?」
ヒッキーさんが馬車の中から出て来て、申し訳なさそうな顔で尋ねてくる。
多分、クー達の行動を止められなかった事を申し訳なく思っているのだろうが、
僕がこの場にいたとしても止められなかったと思うから気にしないで欲しいと思う。
( ^ω^)「ええ、わかったので行きましょうかお」
早速馬車を走らせ、宿に向かう。
町の情報はこの宿の人か、待ち合わせの相手に聞く事にしようと思う。
(゚、゚トソン「待ち合わせの日時なんかは大丈夫なんですか?」
(-_-)「はい、今日の午後となってまして、向こうから接触してくれる手筈になっています」
川 ゚ -゚)「どんなやつなんだ、その待ち合わせの相手ってやつは?」
- 60 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:26:00 ID:TqLuedZw0
ヒッキーさんによると、教会の中でも主に悪魔祓いを専門とするエクソシストと呼ばれる立場の人らしい。
今回の件は本来ならそんな人が当たるような任務ではない気もするが、
その人は教会でも屈指の腕の立つ人らしいので、今回の件を任されたという話だ。
それはつまり、この件が教会側が重く捉えているという事なのだろう。
出来るなら、僕の不安が杞憂である事を願いたい。
ξ゚听)ξ「その人、何て名前なんですか?」
(-_-)「シブサワ=リナイオ、ニューソク教会最強のエクソシストです」
(゚、゚トソン「シブサワ……」
川 ゚ -゚)「ん? 聞いた事があるのか?」
(゚、゚トソン「噂なら少し聞いた事があります」
何でも、10数年ほど前にソクホウで起きた、貴族同士の諍いからソクホウ全体を巻き込んだ争いになりかけた事件を、
双方の貴族を討ち取る事で解決させた凄腕の人らしい。
ξ゚听)ξ「貴族同士の争いを教会の人間が治めたの?」
(゚、゚トソン「当事者の貴族が騎士側と教会側に分かれていたらしいですね」
- 61 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:26:45 ID:TqLuedZw0
川 ゚ -゚)「そいつは教会側なのに両方を討ったのか?」
ξ゚听)ξ「というかクー、10数年前ならあんたも記憶あるんじゃないの?」
川 ゚ -゚)「いや、さっぱりだ。その頃はまだ政治に興味なかったし」
(;^ω^)「なかったとしても、ソクホウ全体が騒がしかったんじゃないのかお?」
川 ゚ -゚)「うむ、まるで記憶にないな」
(゚、゚トソン「僕も何故両方を討ったかの理由は知りません。非は両方の貴族に等しくあったらしいですが」
教会側の人間も討ってしまって、教会側から処罰が下らなかった理由もわからないとトソン君は言う。
その教会の人間であるヒッキーさんに尋ねてみるも、知らないという答えであった。
川 ゚ -゚)「まあ、別にそれほど興味があるわけでもないからいいけど」
ξ゚听)ξ「そうね、気になるなら本人に聞いてみてもいいんじゃない?」
( ^ω^)「経歴からして怖そうな感じの人っぽいから、遠慮しておくべきかと思うお」
(∪^ω^)「わんおー」
- 62 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:28:09 ID:TqLuedZw0
そこで僕はとある事に気付いた。
そのままにしておくのもまずそうなので、馬車の速度を落とし、路肩に停める。
ξ゚听)ξ「何で停めるのよ?」
( ^ω^)「ちょっと車輪の調子が……」
適当な事を言い、ツンに目配せをして一緒に馬車を降りる。
そして馬車の側面に回り、しゃがみ込んで小声でツンに説明する。
( ^ω^)「そのシブサワって人、クーの顔知ってるんじゃないかお?」
ξ゚听)ξ「そういえばそうね……失念してたわ」
教会の、それも上の方の人間ならその可能性は高いと思う。
シブサワって人がどのくらいの立場なのかはわからないが、下っ端って事はないだろう。
裏方しかやってなかったとしても、むしろその方が実力を考えれば要人の顔を知らないとは考え難い。
秘密裏に警護したりする為に、王族の顔を知っていると思うべきだろう。
今ここで、向こうがどういう態度を見せるか考えても仕方ないが、
こちらはこちらで1つどうするか考えなければいけない事がある。
- 64 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:29:14 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「ヒッキーさんにクーのこと話しちゃうかお?」
ξ゚听)ξ「そうね、向こうが知ってた場合、ややこしい事になりそうだし」
もし問題になった場合、ヒッキーさんがクーの身分を知らないで雇っていたで済まされるかは難しい所だ。
クーの事をちゃんと話し、その上でクーをパーティーメンバーに加えるかどうか決めてもらうべきかもしれない。
ξ;--)ξ「しかし、何でギリギリになってそんな大変な事に気付くのよ……」
(;^ω^)「仕方ないお、ツンだって気付かなかったお?」
ξ゚听)ξ「もう他に隠してる事ないわよね?」
(;^ω^)「別に隠してたわけじゃないお?」
ξ゚听)ξ「でも、千年紀の話もあるしねえ?」
(;^ω^)「あれも、隠してたわけじゃなくて、単に話す機会が……」
結局、ナカノヒトに着くまでに皆に千年紀の話はしておいた。
ドクオさんの危惧する魔王の衣の話も。
- 66 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:30:34 ID:TqLuedZw0
その上で皆ここまで来ているのだから、心構えは出来ている。
もっとも、こんな所で言われても、今更止めて帰るわけにも行かないじゃないとツンには怒られたが。
川 ゚ -゚)「お前ら何やってんだ? まだ直らないのか?」
( ^ω^)「お、クー」
ξ゚听)ξ「ナイスタイミング」
なかなか戻って来ない僕達の様子を見に来たのであろうクーを同じようにしゃがませ、先ほど話していた事を説明する。
クーは神妙な顔で頷いていたが、途中で鼻で笑って僕の話を遮った。
川 ゚ -゚)「そんな事で悩んでいたのか」
( ^ω^)「そんな事って、大問題だお? 何かあったら主にヒッキーさんに迷惑かかるんだし」
川 ゚ -゚)「大丈夫だ。その可能性は考えて準備はしておいた」
ξ゚听)ξ「何の準備よ?」
僕達はついて来いと言うクーに従い、馬車に戻る。
クーは自分の手荷物の中から何かを取り出し、それを身に着けた。
- 67 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:31:40 ID:TqLuedZw0
ノリミ゚ -゚彡「どうだ、これで私が誰かよくわからんだろ?」
(;^ω^)「確かに誰かよくわからんけど……」
ξ;゚听)ξ「ものすごくダサく見えるけどいいの?」
クーは少し所じゃない派手な色合いの、蝶の様な形をしたアイマスクみたいな物を着けていた。
仮面舞踏会にでも出れそうな出立ちである。
確かにこれなら誰かわからないが、目の周りを隠すだけならここまで派手じゃなくても良かったんじゃないかと思う。
ノリミ゚ -゚彡「何を言う。なかなかイカスだろ? なあ?」
(;-_-)「え、あの、その……一体どうしてその様な奇天烈……個性的なマスクを?」
(゚、゚;トソン「えーっと、その、素敵です、はい、その、止め紐とか……」
ノリミ゚ -゚彡「そうだろう、そうだろう、素敵だろ?」
(∪*^ω^)「わんお!」
明らかに不評多数だが、クーは特に気にしてないらしい。
取り敢えずヒッキーさんには、顔を見られたくない相手と偶然出くわすかもしれないからと曖昧にぼかし、
これで押し切る事に決めた様だ。
- 68 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:32:41 ID:TqLuedZw0
ノリミ゚ -゚彡「さあ、出発だ!」
(;^ω^)「出発するからクーは馬車に入っててくれお」
僕はクーを御者台から馬車内に押し込み、馬車を走らせる。
あんなのが御者台にいたら目立ってしょうがない。
( ^ω^)「お?」
走り出してすぐ、ここまでずっともっていた空が破れ、雨が降り出した。
(;^ω^)「とうとう降り出しちゃったかお。ツン、あとどのくらいかおね?」
ξ゚听)ξ「もうすぐよ。あの道を左折、それから2つ目の十字路を右折よ」
( ^ω^)「把握。急ぎたいけど町中だから安全運転で行くお」
(∪^ω^)「わんわんお!」
それから程なくして、僕らは目的地である宿屋、灼爍の錫亭に辿り着いた。
- 69 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:33:39 ID:TqLuedZw0
〜 灼爍の錫亭 入り口カウンター 〜
_、_
( ,_ノ` )y━・~「ようこそ、灼爍の錫亭へ。しかしすまない、客人。部屋は満室なんだ」
宿屋に入ると、やけにダンディで立派な顎の中年の男が煙草を片手に出迎えてくれた。
もっとも、出迎えられたというよりは門前払いという感じだが。
(-_-)「困りましたね。我々は夜の帳が降りる前に床に着かねばならないのですが」
僕が応答するよりも早く、ヒッキーさんが進み出てよくわからない答えを告げた。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「宵闇が世界を閉ざすのは思いの外早い」
(-_-)「しかし、日はまた昇るものです」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「……ふむ、いいだろう。この奥だ」
宿屋の主人らしき人は、ヒッキーさんと何だかよくわからないやり取りをかわすと、僕らに奥に行くよう促した。
今のは何だったのかヒッキーさんに尋ねようとしたが、先にツンが耳打ちしてくれる。
- 71 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:34:57 ID:TqLuedZw0
ξ゚听)ξ「多分、事前に決めておいた合言葉みたいな物でしょ」
( ^ω^)「そういう事かお」
ヒッキーさんが急に詩的になったので驚いたが、そういう事なら納得出来る。
僕達は宿の奥に進み、少し広めの部屋に入った。
そこには大きめのテーブルがあり、椅子がいくつもある所を見ると食堂か談話室みたいな場所だろうか。
少なくとも寝泊りする部屋には見えない。
僕達は適当な椅子に腰掛け、待つことにした。
_、_
( ,_ノ` )「予定より早いな」
しばらくすると、先の宿屋の主人らしき男が部屋に入って来た。
返事は期待してなかったのか、空いていた席に座ると早速話を始める。
_、_
( ,_ノ` )「あんたがヒッキーさんでいいんだな?」
(-_-)「はい、そうです。呼び捨てでかまいませんよ。貴方がシブサワさん、でよろしいんですよね?」
- 72 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:36:47 ID:TqLuedZw0
- _、_
( ,_ノ` )「ああ、俺がシブサワだ」
どうやらただの宿屋の主人ではなく、この人が件のエージェントらしい。
確かに、宿屋の主人にしては顔付きが、良く言えば精悍過ぎると思う。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「呼び捨てでいい、といっても君らの年じゃ呼び難いだろうから好きに呼んでくれ」
そういってシブサワさんは煙草を取り出し、火を点ける。
煙草は嗜好品としてはありふれた物だが、僕の周りには吸う人がほとんどいないので、
その煙はあまり馴染みがなく、少し苦手かもしれない。
その後、今度は僕らが軽い自己紹介をし、本題に入ろうとする。
僕らの自己紹介の間、シブサワさんは値踏みをするような目で僕らを見ていたが、特に何も言われなかった。
歴戦の兵からすると、僕ら年若い冒険者では不安を感じるのではと危惧もしていたが、取り越し苦労だったか。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「俺達がやる事は理解しているかい?」
ξ゚听)ξ「聖骸布ってやつを盗人から取り返すんでしょ?」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「グッドだ。やる事はいたってシンプルだ」
聖骸布を盗んだ人物を取り押さえて奪還する。
交渉の余地はなく、また、教会として盗人と交渉する気は無いという事だ。
- 73 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:38:21 ID:TqLuedZw0
ノリミ゚ -゚彡「という事は、盗人の顔も潜伏先もわかってるのか?」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「……その通りだ。名前はボルジョア。その世界ではそれなりに有名なやつだ」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「潜伏先はわかってるわけではないが、必ず訪れる場所があるのでそこを狙う」
(゚、゚トソン「それはどちらでしょうか?」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「オークション会場さ。品は前日に預ける事になってるからな」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「会場に入られる前にやつを抑える。やつの顔は俺が知っている」
こちらの質問に、1つ1つ具体的に答えてくれるシブサワさん。
ぱっと見、大雑把で怖そうな感じかと思ったが、意外と詳しく教えてくれる。
ただそれは、請け負ったクエストに関する必要な情報だからかもしれない。
僕としては、このクエストの背景にあるものを色々と聞いてみたいのだが、果たして答えてくれるだろうか。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「さっきの質問で気付いていると思うが、実行日オークションの前日、つまりは明後日だ」
一通り必要な情報は聞き終えた。
明日は特に予定はないが、町の地形なんかを把握する必要もあるだろうからのんびりは出来ない。
- 74 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:39:36 ID:TqLuedZw0
- _、_
( ,_ノ` )y-・~「こんなもんか? 他に聞きたい事はあるか?」
(∪^ω^)「わんわんお!」
_、_
( ,_ノ` )「ん? 何だ、ワン公? 何か聞きたい事があるのか?」
シブサワさんは短くなった煙草を灰皿に擦り付け、わんわんおに話しかける。
わんわんおに話しかけながらも、視線はこちらに向けている所からすると、
僕が聞くべきか迷っている事に気付いている風にも見える。
( ^ω^)「根本的な事を聞いてもいいですかお?」
_、_
( ,_ノ` )「何だ? 言ってみろ」
( ^ω^)「何で人手が必要だったんですかお?」
( ^ω^)「シブサワさんの経歴や仕入れた情報を聞く限り、お1人でも十分そうな気がしますお」
僕は意を決して、まずは軽めの質問からぶつける。
軽いといっても結構踏み込んだ質問だと思う。
何となく、全体から感じる不自然さの大元はここだと思う箇所だ。
- 75 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:40:54 ID:TqLuedZw0
現在の状況では、盗人の顔を知っているのはシブサワさんだけなので、人手があっても分けて待ち伏せる事は出来ない。
仮に盗人の強さが相当なもので、人手がいったとしても、僕らではシブサワさんの足元にも及ばないのではなかろうか。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「なかなかいい質問だ。同時に難しくもあるが」
シブサワさんは再び煙草に火を点け、顎に手を当てて天井を見詰める。
不測の事態に備える為、という回答が一番それらしいが、本当の所は教会本部からの指示だという。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「教会本部の言い分では、他にも聖骸布を狙っているやつが現れるという事らしい」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「そうなるといくら俺でも、取り逃がす、もしくは掻っ攫われる可能性は高まるからな」
( ^ω^)「それは……」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「遠慮せずに聞いてくれてかまわないぜ? 多分、俺も君と同じ疑問を感じてるはずだからな」
自分は現場の人間だから上の考えている事はわからないが、推測なら聞かせられるとシブサワさんは言ってくれる。
今の所、シブサワさんはこちらを軽んじた様子はなく、むしろ好意的に見える。
腕の立つ事をかさに、相手を見下してくるような人ではないのだろう。
僕は、この人は信用出来る人だと判断してもいいかと考える。
- 76 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:42:55 ID:TqLuedZw0
ξ゚听)ξ「何故教会本部がそれを知っているのか、知っているのなら相手の情報はあるのか、といった所ですかね」
僕が質問するより早く、僕が思ったことを先にツンが質問する。
ツンも僕と同じく、シブサワさんが信用出来ると考えたのだろう。
_、_
( ,_ノ` )y-・~「相手は本部に聞くまでもなく、推測は出来ている」
_、_
( ,_ノ` )「ラウンジだ」
シブサワさんはまた短くなった煙草を灰皿に擦り付け、そう言い切る。
( ^ω^)「ラウンジって、ラウンジ教国ですかお? 一体なんで……」
_、_
( ,_ノ` )「正しくはラウンジ教国ではなく、ラウンジ聖教だな」
_、_
( ,_ノ` )「まあ、ラウンジ教国自体がラウンジ聖教と似たようなもんだが」
国家絡みではなく宗教絡みだと言いたいのだろう。
だったとしても、ラウンジ聖教がニューソク正教の聖骸布を狙う理由が全くわからない。
_、_
( ,_ノ` )「簡単な話だ。聖骸布はラウンジ聖教にとっても聖骸布だってことさ」
(;^ω^)「はい?」
- 77 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:45:17 ID:TqLuedZw0
聖骸布、定義するなら神の遺体を包む布、いわゆる神具といってよいだろう。
そういった神具が各宗教にあるのは不思議ではない。
ニューソク正教に主神がいるように、ラウンジ聖教にも主神がいる。
故に、ラウンジ聖教にも聖骸布があってもおかしくはないが、
それがニューソク正教と同じものというのは有り得ないだろう。
( ^ω^)「大体、よく考えたらラウンジ聖教の主神ってあれですおね?」
_、_
( ,_ノ` )「ああ、言いたい事はよくわかるぜ」
シブサワさんは僕の言葉に薄く笑みを浮かべる。
僕は納得いかない思いを抱えながら、ラウンジ聖教の主神の姿を頭に思い浮かべた。
ラウンジ聖教主神 アロエリーナ
(○)
ヽ|〃
- 78 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:46:32 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「めっちゃ植物っぽい神様でしたおね?」
ラウンジ聖教はニューソク聖教よりも古代アミニズム的な精霊信仰が強い宗教だ。
あまり詳しくはないが、万物に霊が宿り、それに等しく感謝を捧げ、人は生きているのだとか何とかだったと思う。
それ故かどうかわからないが、ラウンジ聖教の神とされるものは人以外の形のものが多い。
(;^ω^)「聖骸布いらないだろ、これ」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「妄信的なのさ、宗教家ってやつは」
何となくそれらしい言葉でまとめ、煙草に火を点けるシブサワさん。
納得はいかないが、ラウンジ聖教の文献にも聖骸布が載っているのは確かで、
それが遥か昔に盗まれてニューソク大陸に運ばれたという伝承がある以上、向こうが動くのは理に適った話だという。
ξ--)ξ「確かに、納得はいきませんが、理屈はわかる話ですね」
ノリミ゚ -゚彡「問題は、何故ラウンジ聖教はそれが今度のオークションに出ると知ってるのかだな」
クーはマスクの奥で目を細め、シブサワさんを見詰める。
シブサワさんはそこまでは知らないと肩をすくめた。
- 79 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:48:26 ID:TqLuedZw0
- _、_
( ,_ノ` )y━・~「向こうさんも常にエージェントをニューソク大陸に送り込んでるからな」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「そいつらの腕がいいんだろ」
相手が何であれ、自分の役割をこなすだけだというシブサワさん。
しかしながら、僕としては相手に悪意も非もないとなるとやり辛い。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「まあ、気持ちはわかる。なるべく事を構える前に奪還、撤退と行きたいとこだな」
(゚、゚トソン「ラウンジ聖教側はどのくらいの人数がいるのでしょうか?」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「さてな。少なくとも、下っ端は何十人といるだろうな」
ノリミ゚ -゚彡「腕利きも来てるのか?」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「そうだな、しばらく前にラウンジの聖女がニューソク大陸に来てるって噂はあったが……」
( ^ω^)「ラウンジの聖女?」
(∪^ω^)「わんおー?」
- 80 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:49:47 ID:TqLuedZw0
聞き慣れない単語に首を傾げていると、シブサワさんが説明をしてくれる。
何でも、ラウンジ聖教の教えにある大切な日に生まれた、簡単にいえば救世主的な存在らしい。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「ご大層な肩書きだが、これがまた実力も名前負けしてないって噂なんだな」
ξ゚听)ξ「つまり、強いってことですね?」
若干ツンの顔が嬉しそうに見えたが、無茶はしないで欲しいと切に願う。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「ついでに言うと、ラウンジの聖女が来てるなら、その御付も来てるだろうな」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「そいつらがまた強いって話だ。俺としても、こいつらとやりあうのは避けたいとこだな」
そう言いながらも笑みの浮かんでいるシブサワさんに、どちらが強いのか聞いてみたくもあったが、
どちらにしても僕らでは太刀打ち出来ないと思うので止めておいた。
_、_
( ,_ノ` )y-・~「他に聞きたい事はあるかい? なければ具体的な当日の配置を説明したいが」
( ^ω^)「もう1ついいですかお? これ、世間話レベルとして聞いて欲しいのですが」
_、_
( ,_ノ` )y-・~「世間話ね……。言ってみな?」
- 81 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:51:22 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「シブサワさんは魔王の衣って知ってますかお?」
_、_
( ,_ノ` )y-・~「名前はな。むしろ君らのような若い人間が知ってることの方が驚きだが、それが……」
そこでシブサワさんは、はたと口を閉じ、顎に手を当て考え込むような仕草をした。
( ^ω^)「あの……」
_、_
( ,_ノ` )y・~「賢者に姫……そういう事か……いや、しかし……」
シブサワさんは口を開こうとした僕の方に手を伸ばし、ちょっと待ってくれというような仕草をする。
思わず漏れたらしい呟きの中には、少し気になる単語もあった。
とはいえ、これは今言うべきことなので、僕は制止にかまわず告げる事にした。
( ^ω^)「煙草、危な……」
。、_
(;,_ノ゚ )「どあちゃッ!?」
どうやら少し遅かったようで、シブサワさんが持ったままだった煙草の火が手まで到達したようだ。
途中で気付かないものかと不思議に思うも、それだけ集中していたという事なのだろう。
- 82 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:53:46 ID:TqLuedZw0
- _、_
( ,_ノ` )「失礼、少々取り乱してしまったね」
(;^ω^)「大丈夫ですかお?」
慣れたものだと笑うシブサワさんに、僕も乾いた笑いを返す。
それより本題の質問の方はどうなったのか気になるので、途切れた答えの続きを聞いてみる事にした。
_、_
( ,_ノ` )「……そうだな、何も答えられないと返すしかないのかな」
( ^ω^)「知らないとかではなく、答えられないですかお」
含みのある物言いに不満げな視線を向けるが、シブサワさんはただ、すまないとだけ答えた。
_、_
( ,_ノ` )「すまんな、これは貸しにしておいてくれ」
( ^ω^)「ただの世間話ですし、そういうのはいいですお」
この件で心当たりがあるのなら、是非とも話して欲しい所だが、シブサワさんは僕達に話す義理もないだろう。
僕としては何か関係があるとわかっただけでも一応の進歩なので、ここで引き下がっておくことにする。
_、_
( ,_ノ` )「重ねてすまんが、俺はちょっと行く所が出来た」
- 83 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:54:54 ID:TqLuedZw0
部屋は空いてるので適当に使ってくれてかまわないと言い残し、シブサワさんは部屋を出て行った。
(;^ω^)「え、いや、適当にって言われても、それに配置の話とか……って、もういねえ」
慌てて後を追うも、部屋の外にはもうその姿はなく、宿を出てみてもやはり見付けられなかった。
仕方ないのでシブサワさんの言葉に従うしかないにしても、宿の営業の方はどうするのだろうと思ったが、
ドアにはいつの間にか休業の看板がぶら下げられていたので気にしなくてもよさそうだ。
ξ゚听)ξ「急に何だったのかしらね?」
( ^ω^)「わからんお」
(∪^ω^)「わんわんお」
先ほどの部屋に戻り、今後の事について皆と話し合う事にした。
シブサワさんの動向は気になるが、全くの不案内なこの町で探すのは不可能に近いだろう。
回答を拒否されたし、探って欲しくもないはずだ。
(;-_-)「どうやら相当な厄介事に巻き込んでしまったようですね。本当に申し訳ない」
ヒッキーさんが申し訳なさそうに謝って来るが、これはヒッキーさんの所為というわけではない。
僕達は取り敢えず、今後の事について話し合うことにした。
- 84 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:56:18 ID:TqLuedZw0
ξ゚听)ξ「オークション会場周辺は見ておくべきでしょうね」
(゚、゚トソン「ですが、場所がわかりませんね」
宿屋の場合と違って、闇オークションの会場を庁舎で調べられるかは難しい所だ。
闇と付くぐらいだから、隠されていると思うべきだろう。
逆に、町外の人間である僕ですら闇オークションの存在は知っていたのだから、
意外と会場はオープンにされている可能性もある。
ノリミ゚ -゚彡「雨降ってるし、面倒だからシブサワが帰って来てからにしようぜ?」
(∪^ω^)「わんおー」
極めて駄目な意見を述べる蝶々仮面だが、まずは宿屋内を見てみてもいいかもしれない。
部屋の確保と、ひょっとしたらシブサワさんの仲間がいる可能性もあるから、いたら聞いてみればいいだろう。
状況から考えて、宿泊客がいるとすればそれはシブサワさんの仲間だと判断出来る。
ξ゚听)ξ「そうね、それが先でもいいわね」
ノリミ゚ -゚彡「その後は昼食にしよう。腹が減ったよ」
(∪^ω^)「わんお!」
- 85 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:57:38 ID:TqLuedZw0
宿屋の中と外も調べてみたが、残念ながら宿泊客はゼロだった。
部屋の数は3階建ての建物の中に少人数用の部屋が10以上あったので、1人1部屋使う事に決める。
馬車は建物の裏の厩舎に仕舞われていたので、そのままで問題ないだろう。
川 ゚ -゚)「じゃあ、飯食いにいくか」
誰もいないとわかったので、クーはマスクを取っていた。
しかし、ここを空けて全員で外に行くわけにも行かないので、二手に別れる事にする。
川 ゚ -゚)「私、トソン、ヒッキーさんが最初でいいんだな?」
ξ゚听)ξ「いいわよ。でも、気を付けなさいよね?」
(-_-)「私がずっと留守番していてもいいのですが……」
( ^ω^)「人間、誰だってお腹は空きますお。遠慮せずに行って来てくださいお」
僕達はヒッキーさん達を送り出し、さっきの部屋ではなく入り口カウンター付近に設けられていた談話スペースに座る。
長旅の疲れか、ちょっと眠気が差しているが、寝てしまうわけにもいかない。
ξ゚听)ξ「眠いなら寝ててもいいわよ?」
( ^ω^)「大丈夫だお。まあでも、今日は早めに寝る事にするけどね」
(∪^ω^)§「わんわんお」
- 86 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 22:59:13 ID:TqLuedZw0
僕とツンは適当に世間話をしていたが、話題は自然と先ほどのシブサワさんの反応にシフトして行った。
1度情報を整理しておいた方がいいと、お互い考えていたようだ。
_,
ξ--)ξ「ややこしい事になってるわね」
( ^ω^)「聖骸布なのかそうでないのかわからないけど、どちらにしても簡単に終われそうもないおね」
今の所、わかってる他勢力はラウンジ聖教のみだが、他にも聖骸布、
もしくは魔王の衣として奪おうとしている勢力がある可能性はゼロではない。
そのくらい、いわくありげな品だと思う。
ξ゚听)ξ「真っ当な手段、と言っていいかわからないけど、オークションで落札しようとしている人もいるかもね」
( ^ω^)「シブサワさんの話だと、盗人は名の知れたやつらしいし」
( ^ω^)「狙われてる事が知られると、姿を見せない可能性もあるお」
ξ゚听)ξ「しかしあの人、クーのマスクは完全にスルーしてたわね」
( ^ω^)「関わらない方がいい人だと判断したんなら、その判断は正しいと思うお」
ここから事態がどう転ぶのか全く想像つかないが、取り敢えず僕らに出来る事は、
シブサワさんの指示に従って動く事ぐらいだ。
考えても仕方がない部分は多々ある。
- 87 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:00:27 ID:TqLuedZw0
ξ゚听)ξ「正直、嫌な関わり方してるわよね」
(;^ω^)「だおね。先行きが見えないにも程があるお」
(∪*^ω^)§「わふわふお」
僕は一心に骨っ好をかじるわんわんおの頭を撫でる。
僕達もわんわんおの様に、今は何も考えずにのんびり構えておく方がいいのかもしれない。
ξ゚听)ξ「ま、その方がいいのかもね」
ξ゚听)ξ「いざとなったら退く事も考えておきましょ」
( ^ω^)「考えるだけじゃなくて、ちゃんとその時は実行してくれお?」
つ∪*^ω^)§
ξ゚听)ξ「当たり前でしょ。この状況で無茶はしないわよ」
そう言うとツンは椅子に深く身を預け、目を瞑る。
眠りはしないつもりだが、眠ってしまったら起こしてくれと言い添えて。
- 88 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:02:03 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「さて、どうしたものかおね」
それから間もなく、穏やかな寝息が聞こえて来たが、そのままにしておいた。
僕自身は眠らないよう、わんわんおを撫で回しながら取り留めないことを考える。
( ^ω^)(ナカノヒトの町には初めて来たけど、観光とかする気分じゃないおね)
つ∪^ω^)
何かを考えようとすると、自然とクエストの事に頭が行き、重い気持ちになる。
考え過ぎると動けなくなりそうなので、取り敢えずは割り切る事にしよう。
( ^ω^)(少なくとも、盗人を捕まえるのは悪い事じゃないお)
つ∪´ω`)
僕は、余計な事は気にせず、本来のクエストの目的に集中しようと決めた。
この後食事を取ったら、その為の準備に時間を当てよう。
僕は、盗人捕縛用にどんな道具が有効かを考えながらクー達の帰りを待った。
(∪´ω`) zzz
- 89 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:03:28 ID:TqLuedZw0
〜 灼爍の錫亭 2階の部屋 深夜 〜
( -ω^)「お……」
ふと目が覚めた。
時間を確認すると、まだ寝ているべき時間である。
そう思ってまた眠ろうとするが、どうにも寝付けない。
何だか妙な違和感がある。
どうも少し早寝し過ぎたのかもしれない。
( -ω-)「いや、やっぱ何か変だお……何か……音?」
僕自身の体調の問題かと思ったが、どうも違う気がする。
何かしらの外的刺激があるようだ。
( ^ω^)「……何だお、この音?」
気の所為で済ませてしまえそうな微かな響きだが、僕の耳に何かが聞こえて来る。
しかし、その音は意識がはっきりするにつれて消えてしまった。
- 90 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:05:19 ID:TqLuedZw0
(∪´ω`) zzz
すぐ隣にいるわんわんおを見るも、何も聞こえてないのかぐっすりと眠っているようだ。
もっとも、聞こえていても起きない可能性はあるが。
僕は、わんわんおを起こさぬよう、そっと身を起こす。
( ^ω^)「雨は止んでるおね」
僕が眠りに付くまで激しく降っていた雨はいつの間にか止んでいた。
となると先ほど感じた音は雨音ではないのだろう。
( ^ω^)「行ってみるかお……」
この町でこんな時間に外に出たりすると後でツンに怒られそうだが、何だか気になる音だった。
僕1人ならヤバそうな人に絡まれても、魔法で逃げ切れそうだし、外に出る事に決めた。
( ^ω^)「ちょっと行って来るお」
(∪´ω`) zzz
僕は起こさない程度の小声でわんわんおに声をかけ、音を立てぬよう静かにドアを開いた。
- 91 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:06:50 ID:TqLuedZw0
( ^ω^)「雨上がりの夜は涼しいお」
外に出ると、ここ数日の暑さからは考えられないほどの冷たい風を感じた。
雨上がりな事と、この町が少し高所にある事が関係しているのかもしれない。
( ^ω^)「宿の場所がわかんなくなったら洒落にならんから、あまり遠くへは行かないようにするお」
取り敢えず音の出所の可能性として考えられる、部屋の窓があった方向へ向かう事を決め、歩き出す。
治安が悪いと聞いていたので外は真っ暗かと思いきや、魔法の灯りが道に備え付けられており、
歩くのに支障はなかった。
( ^ω^)「星がよく見えるお」
雨雲の去った空には満天の星が瞬いている。
雨上がりの夜空は、洗い立ての様で普段より澄んだ感じがした。
( ^ω^)「月も出てるお。綺麗だおね」
半分よりは丸い月が東の方の空に見える。
僕は見知らぬ町の見知らぬ空に見惚れて、しばし立ち尽くしていた。
( ^ω^)「お?」
- 92 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/07(月) 23:08:14 ID:TqLuedZw0
ふと、また何かが聞こえてきた気がした。
部屋の中で聞こえた時よりは、幾分はっきりとしたものだ。
( ^ω^)「人の声……いや、これは……」
僕は音の聞こえて来る方へ小走りで向かう。
次第に建物はまばらになり、灯りの数も減って行く。
しかし近付くにつれ、それははっきりと僕の耳に届くようになって来た。
( ^ω^)「歌だお……」
それは消して大きな声ではない。
どう考えても、宿屋の部屋の中で眠っている僕の耳に届くような音量ではなかったはずだ。
しかしながら、僕にはそれが聞こえた。
月を背に、朽ちた建物の屋根の上で歌う、彼女の歌声が。
ζ(-、-*ζ 〜♪
第二十九話 月の綺麗な夜に 終
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