( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです

129 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:10:56 ID:HVM3QHaY0

 〜 ナカノヒトの町 北東の外れ 〜


( ^ω^)「あれは……」

ζ(-、-*ζ 〜♪

( ^ω^)「デレ?」

ζ(゚、-*ζ「ん?」

( ^ω^)「こんばんはだお」

ζ(゚ー゚*ζ「おや、御機嫌よう」



     第三十話 1つ屋根の上で


130 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:12:28 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「何でこんなとこに……」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

ζ(゚ー゚*ζ「それはこちらのセリフですぜ、ヴィップの町の魔法道具屋さん?」

彼女の名前はデレ。
自称旅の僧侶だが、色々と謎の多い人だ。

聞こえてきた音に導かれ、夜のナカノヒトの町を徘徊して辿り着いたのは町の外れの方の廃屋だった。
その屋根の上に、何故かヴィップ、そしてメシューマで出会ったデレが座って歌っていた。

( ^ω^)「自分は旅人だから、どこにいても不思議はないって言いたいのかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そういう事だねー」

それに対し、魔法道具屋店長である僕がこの町にいる方が不自然だとデレは言いたいのだろう。
しかしながら今の僕は魔法道具屋店長ではなく、一介の冒険者の様なものだ。

( ^ω^)「そこ、登っても大丈夫かお?」

131 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:13:19 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「どうだろね。体重的にヤバいかも」

(;^ω^)「僕はそんなに太ってないお」

そうは言ったものの、デレがこの廃屋にどうやって上ったのか見当も付かない。
建物の中には入れそうもないので、裏手に梯子か何かあるのかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「梯子はないね」

( ^ω^)「じゃあ、どうやって登ったんだお?」

ζ(゚、゚*ζ「努力と根性?」

( ^ω^)「具体的な手段だお」

デレは肩をすくめ、屋根の反対側にあった大きな木を指差す。
なるほど、あれを登って枝を伝って屋根に降りたのだろう。

ζ(゚、゚*ζ「というか、何で登って来るの?」

( ^ω^)「ここはデレの家かお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、知らない家。誰も住んでないみたいだけど」

133 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:14:54 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「じゃあ、僕が登っても問題ないお?」

ζ(゚、゚*ζ「そういうんじゃなくて、どうして君がそうするのかを聞きたかったんだけどなあ」

僕はデレの言葉を聞き流し、木に登る。
大きいが分かれた枝も多く、登りやすい形状だったので、それほどの苦もなく屋根に辿り着いた。

( ^ω^)「月が綺麗な夜だおね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだねー」

僕はデレの隣に座る。
デレは視線を空に向けており、僕もそれに倣った。

( ^ω^)「何でこんなとこで歌ってたんだお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだねえ……、月が綺麗だったからかな?」

( ^ω^)「そうかお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだよ」

それっきり、デレは口をつぐみ、空を見続ける。
聞きたい事は色々とあったが、僕も何故か同じように無言で空を見続けた。

134 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:16:19 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ^ω^)「……」

そのまま、ただずっと空を見上げていた。
実際には5分も満たない時間だったはずだが、それは何だかひどく長い時間のように感じた。

ζ(゚ー゚*ζ「空が好きなの?」

( ^ω^)「好きだお。でも、昼の青い空の方が好きだったお」

しかし、こんな月や星の綺麗な夜空も悪くないと僕は考えを改めた。

( ^ω^)「真っ暗な空は、昔は何だか怖かったんだおね」

昔見た空も、晴れていた時は月や星の輝きはあったはずだ。
けれど、世界を暗くしてしまう夜の空が、子供の頃の僕は好きじゃなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「暗いのが怖いのはわかるなあ」

暗いと何だか気分が落ち込むからとデレは言う。
しかし、月や星のある夜空は十分に明るく、楽しい気分になれるとも言った。

135 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:17:59 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「つまり、楽しいから歌ってたのかお?」

ζ(^ー^*ζ「そういうことだねー」

にこやかに笑うデレ。
よくわからない、繋がっていないような会話だが、僕は何となく楽しい気分になれた。
きっと彼女の笑顔がそうさせてくれるのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「で、どうだった?」

( ^ω^)「何がだお?」

ζ(゚ー゚*ζ「私の歌を聞いた感想は」

( ^ω^)「お……そうだおね……」

彼女の歌を聞いたのはこれが初めてではない。
ヴィップの町の教会でも聞いた。

ただ、あの時は魔法的な何かも含んでいたと思うが、それでも綺麗な声だと感心した覚えがある。

136 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:19:18 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「結構声大きいおね」

ζ(゚、゚*ζ「そこは上手いとか、素敵な歌だとか、もっと色々褒めるとこあると思うな」

僕の冗談めかした感想に、デレは口を尖らせる。
しかし実際、かなり大きな声だったとも思う。
なんせ寝てる僕を起こすぐらいなのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そんな大声じゃなかったと思うけどねー」

( ^ω^)「まあ、普通に考えれば窓閉めてたし、距離あったしで聞こえるわけないんだおね」

多分、聞こえたのは僕の気の所為で、実際に聞こえたのはこの近くに来てからなのだろうと思う。
宿を出た辺りでは聞こえなかったのだし、寝ぼけでもしてたのだろう。
そうでなければ説明が付かない。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、聞こえたことは嬉しいと思うよ」

( ^ω^)「お? どうしてだお?」

ζ(゚ー゚*ζ「私が歌ってたのはね、幸せを願う歌なんだよ」

( ^ω^)「幸せを願う歌?」

137 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:21:03 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「そう、幸せを願う歌」

ζ(^ー^*ζ「全ての人がほんの少しだけでも今より幸せになれるように、ってね」

( ^ω^)「それ、前にも言ってたおね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだっけ? まあ、いつでも言ってますけどね、それが私の願いなんで」

( ^ω^)「願いねえ……。何だか漠然としてる願いだおね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうかな? わかりやすいと思うけどね」

ζ(゚ー゚*ζ「確かに、君みたいに痩せますようにとか具体的な願いじゃあないですけどねえ」

(;^ω^)「誰もそんなこと願ってねえし。そもそも、僕は標準体型ちょこっとプラスぐらいだお」

ζ(^ー^*ζ「冗談だよ、じょ−だん」

そう言ってデレはまた笑う。
何だか今日は機嫌がいいのか、よく笑顔を見せてくれる気がする。

しかしながら、僕はそれほど太っていないと思うので、そんな願いは持っていない。
どうせ願うなら、商売繁盛とかを願うと思う。

138 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:22:19 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「それもまた、幸せの1つじゃないかな?」

( ^ω^)「確かに、商売繁盛したら幸せだお」

他人の幸せを願うのはデレが聖職者だからなのか、それとも彼女がそういう人だからなのか、
僕にはよくわからないが、どちらにしろいい願いだと思う。

ζ(゚ー゚*ζ「だから、幸せを願う歌が多くの人に届いたのなら、私としては嬉しいんだよ」

( ^ω^)「なるほど。でも、僕には届いたけど、一緒に寝てたわんおには届かなかったみたいだお」

ζ(゚、゚*ζ「おや、それは残念ですなあ」

ζ(^ー^*ζ「でもきっと、あのわんこ君はもう十分幸せだから届かなかったのかもね」

我ながらちょっと意地悪な回答をしたと思ったが、デレはそれを意に介さず、また笑顔を見せる。
その笑顔を正面から見てしまった僕は、自然と笑みが浮かんで来て、からかい続けるのを断念せざるを得なかった。

( ^ω^)「そうかもしれんお。毎日沢山のご飯あげて、いっぱい遊んであげてるし」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ご飯で思い出したけど、約束の品プリーズ」

そう言って両手を差し出すデレ。
何の事かと思いきや、そういえば約束してた事があったのを思い出した。

139 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:24:05 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)「あ、あれは今度ヴィップに来た時にって約束じゃなかったかお?」

ζ(゚、゚*ζ「そうだっけ? ……私、お腹空いてるんだけどなー」

(;^ω^)「そう言われても今は薬草パン持ってないし、何も……あ、骨っ好ならあるお」

ζ(゚、゚*ζ「骨っ好? それ何?」

(;^ω^)「わんおのおやつだお」

ζ(゚ぺ*ζ「うーん、わんこ君のご飯は流石にねえ……」

ひょっとしたら食べられるかもと手を伸ばすデレだが、それは止める事にした。
成分的には食べても問題はないとしても、わんわんお用にだいぶ硬く作ってある。

ζ(゚皿゚*ζ「歯並びには自信あるんだけどな」

(;^ω^)「そういう問題じゃねえお」

その言葉通り、綺麗に並んだ白い歯を見せるデレ。
だからといって、犬のご飯を食べるのは違うだろうと。

140 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:25:16 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「てか、さっきの話だけど、何で少しだけ幸せを願うんだお?」

僕は無理矢理話を変えようと、先の話で感じていた疑問を口にする。
どうせ願うなら、すごく幸せになれるように願えばいいのではと思う。

ζ(゚ー゚*ζ「最初っから幸せ全開になっちゃったら、後がつまんないじゃない?」

今より少しだけ幸せになって、それでがんばろうという気になれるくらいが丁度いいとデレは言う。
高望みをし過ぎるのも良くないし、少しだけならまた何度でも幸せになれるだろうからと。

( ^ω^)「うーん、わかるようなわからんような……」

ζ(゚ー゚*ζ「人間、そんな何でも出来るわけじゃないからね」

ζ(゚ー゚*ζ「私の身の丈に合う願いは、そのくらいなんじゃないかなあって思うんだねえ」

少しおどけた調子でデレは言う。
しかしながら、その目は真面目そのものだ。
きっと心からそう思っているのだろう。

( ^ω^)「どっちにしても、悪い願いではないと思うお」

ζ(^ー^*ζ「そりゃあ、どうも」

142 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:27:05 ID:HVM3QHaY0

デレの笑顔に僕も笑みを返す。
他にもっと色々聞きたい事があるのだが、この笑顔の前には何だか切り出しにくく感じてしまう。
多分それは、僕がこの笑顔をもっと見ていたいからなのかもしれない。

ζ(-、-*ζ 〜♪

そんなことを考えていると、デレはまた歌い出した。
先ほどと同じ歌みたいだから、幸せを願う歌なのだろう。

( -ω-)

僕は目を閉じ、デレの歌に聴き入った。
こうやって腰を据えてじっくり聴くのは初めてだが、やはり上手いと思う。
聴いていると何となく心が安らぐ気がする。

ζ(-、-*ζ 〜♪

( -ω-)

デレの声と少しの風の音だけが、星空の下に舞い踊る。
僕はそのまま、デレが歌い終えるまでただ黙って聴いていた。

143 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:28:42 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「……ご清聴ありがとねー」

( ^ω^)
  つ) パチパチパチ

いつかと同じく、歌い終えたデレは大袈裟なお辞儀をする。
僕はその姿に素直に拍手を送りたい気分になった。

( ^ω^)「上手いおね、歌」

ζ(゚ー゚*ζ「おや、やけに素直に褒めてくださいますねえ?」

( ^ω^)「デレは変な人だけど、歌だけは初めて会った時から認めてるお」

ζ(゚、゚*ζ「本人を目の前にして変な人って……。君はひどいなあ」

口を尖らせ、膨れっ面をして見せるデレに僕は肩をすくめておどけて返した。
どう考えても、その行動を見る限りデレが変な人なのは揺ぎ無いと思う。

ζ(゚ー゚*ζ「私は私でちゃんとポリシーに則って行動してるんですがねえ」

( ^ω^)「それじゃあ、今回もそのポリシーに則ってここにいるのかお?」

( ^ω^)「ヴィップの教会に来た時と同じように」

144 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:31:51 ID:HVM3QHaY0

このままだらだらと取り留めない会話を続けて、デレの歌を聴いていたいという気持ちも強くあったが、
僕は本題を切り出す事にした。
これまで聞きたかったことを聞くにはいい機会でもあるのだ。

ζ(-、-*ζ「おやおや、そう来ましたか」

今度はデレが肩をすくめ、ゆっくりと首を振る。
毎度のごとく、正直に話してはくれなさそうではある。

しかしながら、僕達がここにいるのは、ヴィップの教会絡みの延長だ。
同じくその場にいたデレが、偶然このナカノヒトにいるというのも出来過ぎている。

( ^ω^)「ひょっとしてデレも……」

ζ(゚ー゚*ζ「残念ながらそれに答えてあげる事は出来ませんなあ」

デレは片手を挙げ、僕の言葉を制す。
だが、僕もそれで簡単には引き下がるつもりはないので、再び口を開こうとした。

ζ(゚、゚*ζ「どうやらそんな状況でもなくなっちゃったみたいだからねえ」

( ^ω^)「お……」

145 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:33:22 ID:HVM3QHaY0

デレの言葉で、周囲に注意を向けると、いつの間にか人の気配がある事に気付く。
それも複数の気配に囲まれている気がする。

( ^ω^)「いつの間に……」

ζ(゚ー゚*ζ「随分と数がいらっしゃるみたいですなあ」

( ^ω^)「みたいだおね。……でも、何か変だお」

人にしては不自然なほどはっきりと魔力を感じられる。
既に呪文を詠唱中なのか、それとも人ではない何かなのか、どちらにしろ、あまり好ましい状況とは言えなさそうだ。

相手の意図をどうこう考えるより、まずは場所を変えた方がいいだろう。
足場が悪く、遮蔽物の全くないこの場所は守るには向かないと思う。

( ^ω^)「まあ、とにかくここは離れるべきだお」

ζ(゚、゚*ζ「……」

僕はデレの返事を待たず、身を低くして屋根の縁に向かい、そこから下を覗き込んだ。
暗くてよく見えないので、弱めの灯りの魔法を灯し、光を下に向ける。

146 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:35:03 ID:HVM3QHaY0

  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)


(;^ω^)「うおっ!?」

光に照らされた先には、予想通り複数の人間がいたが、その全てが同じ仮面を被っているという奇妙な光景だった。
それも虚ろな笑顔の仮面で、暗闇に佇むその姿は何だか薄ら寒い物を感じる。

(;^ω^)「何だお、あれ? 人間……だおね?」

見た所、魔法を使っている様子もないが、やはり魔力の感じがおかしい。
具体的に説明するのは難しいが、強いて言うなら人より精霊に近い感じがしないでもない。

( ^ω^)「さて、向こうさんが何の用事かわからんけど、取り敢えず逃げるお」

ζ(゚、゚*ζ「……」

そう言って僕はデレの方を見るも、デレは未だ座ったままで逃げようという気配はない。
僕はデレの方に近付こうとしたが、にわかに周りの動きが騒がしくなったので再度視線を下に戻す。

    オワオワ    オワオワ    オワオワ    オワオワ    オワオワ    オワオワ    オワオワ
 \(^o^) \(^o^) \(^o^)//(^o^)\ (^o^)/ (^o^)/\(^o^)//(^o^)\\(^o^)  (^o^)/
     \    \            /    /                    \/

147 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:36:42 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)「って、登って来ようとしてんのかお?」

一斉に家の壁にへばりつき、よじ登ろうとしている仮面の集団。
僕らが登った様に、木を使うという発想はないらしい。
やはり簡単には登れず、壁からずり落ちるが、今度は他のやつがその落ちたやつを踏み台にして登って来る。

(;^ω^)「何か気持ち悪いお。でも、皆この家に近付いてる今ならあの背後に……」

飛び越して降りれば逃げられる、そう言おうとした矢先、何かが上空から降って来た。


           ( ゚∋゚)


(;゚ω゚)「なっ!?」

突如現れた、鶏の頭を模した仮面を被った半裸の男。
それは降って来たと言うような生易しいものではなく、屋根をぶち抜かんかのごとく重々しい轟音を響かせて降り立った。
実際、その重量に廃屋が耐え切れなかったのか、足が屋根にめり込んでいる。

( ゚∋゚)

(;゚ω゚)「……」

148 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:38:03 ID:HVM3QHaY0

先の笑い顔の集団と同じく仮面の男ではあるが、こちらはまた別の意味で異様な雰囲気を醸し出している。
仮面とは言ったが、顔全体を覆うような形状からして覆面と言った方が正しい鶏の面は、
どことなくユーモラスに見えるも、体格とのアンバランスさでむしろ怖さが増す。

剥き出しの上半身からわかる鍛え上げられた肉体は、
あのクノッソスの遺跡で戦ったミノタウロスに引けを取らないかもしれない。
両腕の手首から肘にかけて丸い円形の金属が取り付けられているが、あれは盾の一種だろうか。

ただ1つわかるのは、近接戦闘を強いられるこの狭い足場で戦うのは圧倒的に不利であろうという事だ。

ζ(゚ー゚*ζ「おや、ク──」

(;゚ω゚)「逃げるお!」

ζ(゚、゚;ζ「え? ちょ!?」

僕はエア・シューズの魔法を唱え、デレの方に走る。
そのままデレを肩に担ぎ、一気に屋根を飛び降りた。

ζ(゚д゚;ζ「うひょあ!?」

(;^ω^)「舌噛むから黙っててお! ウインド・バリア!」

149 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:40:18 ID:HVM3QHaY0

空中で風の障壁を纏い、着地の衝撃を軽減させる。
若干速度が足りず、魔法の強度が低かったのか少し足にきたが許容範囲だ。
僕はそのまま笑いと鶏の仮面集団を背にして、この囲みを突破する事に成功した。

ζ(゚ー゚;ζ「ちょっとちょっと! 私は大丈夫だから降ろ──んむ!?」

(;^ω^)「だから舌噛むって行ったお? 取り敢えずこの場から離れるお!」

ζ(=、=;ζ「あへはへひははいっへばー」

(;^ω^)「何言ってるかわからんお」

包囲網は突破出来たが、まだ逃げ切れたわけではない。
後を見ると笑い仮面の方がぞろぞろと追って来ているのがわかる。

僕はデレを担いだまま、町の中を疾走する。
どこへ逃げればいいかなんて、思い付く場所は1つしかない。

(;^ω^)「取り敢えず僕が泊まってた宿に逃げるお。話はそれからだお」

ζ(=、=;ζ「ほろひてー!」

150 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:41:48 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)「確かこっちだったおね……」

僕は何となく見覚えのある道を走り、角を曲がり宿を目指す。
しかしながら走り続けていると、段々と見覚えのない景色になっていった。

(;^ω^)「あれ? さっきの角逆に曲がるんだっけかお?」

(;^ω^)「引き返して……」

速度を緩める事無く、道の端から端に大きく孤を描いて方向転換する。

  オワオワ  オワオワ  オワオワ
  (^o^)  (^o^)  (^o^)

(;^ω^)「って、もう追い付いて来たのかお?」

だいぶ引き離したと思ったが、いつの間にか正面に笑い仮面が数人立ち塞がっていた。
僕はそのまま中央の笑い仮面に向かって、デレを担いでいない方の肩を前に向けて体当たりを仕掛ける。

ζ(=、=;ζ( ^ω^)>「必殺! ブーン・ショルダークラッシュ!」

(^o^) オワー!

152 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:43:36 ID:HVM3QHaY0

意外にあっさりと笑い仮面を吹き飛ばす事が出来、僕は再び逃走する。
そのまま先ほど間違えたと思しき角を曲がり、一路宿を目指すも、どうもこの道も違う気がする。

(;^ω^)「これは迷ったかもしれんお」

ζ(゚、゚;ζ「おーい、そろそろ降ろしてってばー」

(;^ω^)「まだ止まるわけにもいかんから我慢してくれお」

舌の痛みは取れたのか、ようやくデレが認識できる言葉で語りかけてくるが、まだ状況は安全とは言えない。
とはいえこのまま全力で走り続けるのも限界に近いので、少々厳しい状況だ。

ζ(゚、゚;ζ「せめて逆に担いでくれませんかねえ。前見えないし、流れる景色が超怖いんですけど」

(;^ω^)「もうちょっと我慢してくれお」

デレの苦情をスルーし、そのまましばらく走り続けたが限界が来たようだ。
笑い仮面の姿もないようだし、僕は足を止め、デレを肩から下ろした。

(;´ω`)「もう……ゼエゼエ……限界……ハァハァ……」

153 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:45:10 ID:HVM3QHaY0

ζ(゚ー゚*ζ「お疲れさーん。お水飲む? そこに水溜りあるけど」

(;´ω`)「飲めるかお……ハァハァ……」

中腰で息を整えている間に周りの風景を確認したが、全く見覚えのない通りだ。
逃げ切れはしたが、ここから宿に戻るのは大変かもしれない。

ζ(゚、゚*ζ「後先考えてないにも程があるねえ」

(;^ω^)「あの状況なら仕方ないお? つーかあれ、何だったんだお?」

ζ(゚、゚*ζ「……」

( ^ω^)「デレはあれが何だか知ってるかお?」

∂ζ(゚、゚*ζ「うーん……取り敢えず話は後にするべきかな」

そういってデレが指を差した先には、いくつかの人影が蠢いていた。

  オワオワ  オワオワ  オワオワ オワオワ
  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)

154 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:46:35 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)「追い付かれたのかお?」

僕はすぐさま身構え、呪文の詠唱を始める。
散々走り回って疲れているので、強力な魔法を使うのは少し厳しい。
せめて杖を持って来るべきだったが、ない物ねだりをしても仕方がない。

          オワオワ  
  オワオワ    (^o^) オワオワ
  (^o^) オワオワ   (^o^)
     (^o^)  


こちらに考える時間は与えてくれないようで、笑い仮面は全員こちらに向かって走って来る。
その動きは緩慢で統率が取れてるとは言い難く、各自がバラバラに襲い掛かって来た。

( ^ω^)「距離を取って各個撃破といくかお! ウインド・カッター!」

デレを下がらせ、一番先頭を走っていた笑い仮面に風の魔法をぶつける。
襲撃者とはいえ、恐らく人間なので殺傷能力の高い魔法は使わない事にした。

風の魔法を食らった笑い仮面は、先の体当たりの時と同じくあっさりとその場に崩れ落ちた。

( ^ω^)「こいつら……弱い?」

155 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:48:34 ID:HVM3QHaY0

異様な雰囲気に後込みしてしまったが、どうもこの笑い仮面はあまり強くなさそうだ。
あの鶏仮面がいなかったら、逃げずに戦っても何とか出来たかもしれない。

          オワオワ  
  オワオワ    (^o^) オワオワ
  (^o^)      (^o^)

(;^ω^)「けど、こいつら全くひるまないお」

倒れた仲間を意に介さず、速度を緩める事無く向かってくる残りの笑い仮面達。
仮面越しだから当然といえば当然なのだが、一切の感情を感じさせずに向かってくる姿は薄気味が悪い。

僕は下がりつつ風の魔法を連続して放ち、残りの笑い仮面達を打ち倒した。

(;^ω^)「ふぅ……。これで片付いたかお?」

近くに笑い仮面の姿はもうないようだが、あの時廃屋を囲んでいた笑い仮面はもっと数が多かった。
のんびりしているとまた襲われかねないので、早急にこの場を離れるべきかもしれない。

( ^ω^)「ひとまずここを離れるお。話はそれからに……」

言い掛けた僕の言葉を掻き消す、大きく重々しい音が辺りに響く。
背後からの聞き覚えのある音に恐る恐る振り返ると、そこには予想通りの姿があった。

156 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:50:07 ID:HVM3QHaY0

           ( ゚∋゚)


(;^ω^)「あいつも追い付いて来たのかお!?」

僕はデレの前に立ち塞がるように身構える。
まともにやり合ったら勝てそうにもないので、仕掛けて来る前に強力な魔法で一気に片付けたいとこだが、
現状のコンディションでは無理そうだ。

(;^ω^)「デレ、先に逃げてくれお!」

僕は着地した姿勢のまま蹲る鶏仮面から目を離さずに、背後にいるはずのデレに声を掛ける。
ここは逃げるべきだと思うのでそうするつもりだが、またデレを抱えて逃げるのは無理だと判断する。

ζ(゚ー゚*ζ「ん? ああ、大丈夫だよ」

(;^ω^)「大丈夫って何がだお? いいから逃げるんだお!」

思わず振り返り、デレの肩を掴んで揺さぶる。
その瞬間、鶏仮面が動き出した。

( ゚∋゚)

(;^ω^)「くっ!?」

157 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:51:13 ID:HVM3QHaY0

跳躍し、一気にこちらに迫って来る鶏仮面。
僕はデレを押し倒す様にして飛んで距離を空け、その攻撃を回避する。
そしてすぐ様立ち上がり、背後を確認すると、鶏仮面は先ほどまで僕が立っていた場所に拳を突き立てていた。

ζ(゚、゚;ζ「ちょっと、いきなり何をするのかなあ、君は?」

水溜りで服が汚れたと怒るデレを引き起こし、再び身構える。
あの体格では鈍重かと思ったが、先の動きを見る限りは思いの他身は軽いようだ。
この分だと逃げるのにも苦労しそうだ。

(;^ω^)「仕方ないお。ここは腹を括るしかなさそうだお」

僕は鶏仮面を睨み付け、呪文の詠唱を開始した。
鶏仮面は警戒する様子もなく、無造作に近寄って来る。

( ゚∋゚)

(;^ω^)(余裕綽々って感じだおね……さて、どうするかお)

使う魔法は既に決めている。
広範囲魔法を使うには距離が近過ぎるので、単体用の高威力の魔法しかない。
そもそも町中なので、有効範囲が広過ぎる魔法は使うわけにも行かないのだが。

158 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:52:52 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)(詠唱間に合うかお……てか、間に合っても当たるかどうか……)

様々な不安が頭を過ぎるも、やるしかない事はわかっている。
僕はやたらと大きく聞こえる自分の鼓動の音を聞きながら、その時を待った。
 スッ
∩( ゚∋゚)

間近まで迫った鶏仮面が右手を振り上げた。
この攻撃をかわし、魔法をぶち当てる。
やる事は至ってシンプルだ。

問題は攻撃をかわせるかと、この魔法で倒せるかだが、今更そこで悩んでも仕方がない。
僕は鶏仮面を注視し、いつでも動けるよう膝を曲げ、ほんのわずかに姿勢を低くした。

ζ(゚ー゚*ζ「クックル、ストップ!」

(;^ω^)「え……?」

唐突に背後から声がする。
その声の主も、掛けられた相手が誰なのかも瞬時に理解したが、それが何を意味するのかすぐには繋がらなかった。
そして混乱が僕の動きを止めた次の瞬間、僕の頭上を何かが越えて行った。

159 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:54:14 ID:HVM3QHaY0

( ゚∋゚)「!?」
  _、_
( ,_ノ` )「全く……これは一体どういう状況なんだ、少年?」

(;^ω^)「シブサワさん!?」

飛来した何か、シブサワさんはそのまま鶏仮面に空中から蹴りを放ったようだが、鶏仮面はそれを苦もなく受け止めた。
シブサワさんは受け止めた鶏仮面の腕を蹴り、僕の隣に降り立つと煙草に火を点ける。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「こんな夜中にこの町をうろつくとは、馬鹿なんだか度胸があるんだか……」

(;^ω^)「すみませんお。色々と想定外の事がありまして……」

煙草を片手に余裕のある態度を見せながらも、シブサワさんの注意ははっきりと鶏仮面の方に向けられている。
少なくとも、侮ってはいないのだろう。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「俺としてはやり合うの避けたいと言ったはずだが……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「出来ればこの状況の説明をしてもらえるとありがたいんだがね」

そう言われた所で、説明したいのは山々だが僕としても状況はよくわかっていない。
何となく外に出たら知り合いにあって、よくわからない集団と大男に襲われたとしか説明出来ないのだ。

160 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:55:57 ID:HVM3QHaY0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「やれやれ……。という事は、この状況は全くの偶然の産物という事か」

(;^ω^)「そうなりますお。僕もわけわかめですお」

僕らの会話の間、何故か鶏仮面は襲い掛かって来る事はなかった。
それどころか直立不動の姿勢でこちらを見守っているようですらある。

いや、正しくはこちらではなく、僕らの更に奥であろう。

ζ(゚ー゚*ζ

僕は未だ維持していた魔法を解除し、デレの方を向く。

( ^ω^)「デレ、君はあの鶏仮面と知り合いなのかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「おいおい、お前さん、そんな事も知らずにあいつとやり合おうとしてたのかい?」

(;^ω^)「お?」

僕は視線をシブサワさん、デレ、鶏仮面の方へ順に向ける。
シブサワさんとデレはどちらも肩をすくめ、鶏仮面は相変わらずの直立不動で微動だにしない。

どうやら状況をわかっていないのは僕だけらしい。

161 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:57:35 ID:HVM3QHaY0

(;^ω^)「デレ、君は一体……」

ζ(゚ー゚*ζ「私はただの旅の僧侶ですぜ、ヴィップの町の魔法道具屋さん」

この中では一番見知った相手であるデレに質問するも、おどけた態度で相変わらずの答えしか引き出せない。
僕は再度デレに尋ねようとするが、それよりも早く答えは隣から返って来た。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ただの旅の僧侶じゃないだろ? なあ、ラウンジの聖女さん」

(;^ω^)「え?」

ζ(-、-*ζ「そういうご大層な名前は好みじゃないんですがねえ」

ζ(^ー^*ζ「そう呼ぶ人もいますなあ」

そう言ってデレは、あの屋根の上で見せたのと同じ笑顔を見せる。
そんなデレの答えで、僕の中でいくつかの事象の答えが生まれ、新たな問題が生成されて行く。

(;^ω^)「ラウンジの聖女って……それはつまり……」

ζ(゚ー゚*ζ「つまり?」

(;^ω^)「僕達の敵……なのかお?」

162 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 22:59:04 ID:HVM3QHaY0

僕の口を吐いた答えに、デレはまたも笑顔を浮かべる。
こんな時だというのに、僕は思わずその笑顔に見惚れてしまう。

ζ(゚ー゚*ζ「それは……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「俺達次第、か?」

ζ(^ー^*ζ「そうなりますかねえ」

お互いの目的次第では敵になる可能性もあるが、率先して争う理由もない。
昼のシブサワさんの話とデレの態度から考えるにそんな所だろう。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「あんたらの目的はどっちだ? 神具か? それとも……」

ζ(゚ー゚*ζ「どっちも……と言いたい所だけど、私達は別件だね。どっちがそっちの本件かは知らないけど」

ζ(゚、゚*ζ「今のニューソクにあれは置いておけないというのが、こちらの見解ですなあ」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「そいつは残念だ。俺達はあんたらの敵の様だ」

敵、つまりはデレ達の狙いも聖骸布という事らしい。
状況理解の乏しさから、率先して会話には加われない僕は、2人の会話から得られる情報を分析する事に努めた。
ひどくもどかしい事だと思う。

163 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:01:09 ID:HVM3QHaY0

ζ(-、-*ζ「おやおや、それはまた残念な事で」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「……なら、今ここで潰すかい?」

(;^ω^)「……」

お互い身構える事もなく、物騒なやり取りを交わしている。
今の会話の流れからすれば、自ずと戦う事になるのは理解出来るが、正直な所僕はデレとは戦いたくない。

デレにはヴィップの教会で助けられているし、メシューマで薬草パンをご馳走する約束もした。
少なくとも彼女が悪い人だとは思えないし、僕としてはもう友達のような気でさっきまで話をしていたのだ。
それが僕の一方的な思いであったとしても。

ζ(゚ー゚*ζ「それはご勘弁願いたいですなあ」

答えを告げる直前、ほんの一瞬デレが僕の方を見た気がする。
その仕草の意味する所が僕と同じ気持ちであれば嬉しい事だが、本当の所はわからない。
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「ではこの場は退かせてもらおうかね」

ζ(゚ー゚*ζ「ご自由にどうぞ」

164 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:02:55 ID:HVM3QHaY0

デレはまた恭しくお辞儀をし、鶏仮面、クックルと呼ばれた男の方に向かう。
僕はデレとクックルの間に立っていたので、必然的にデレは僕の方に向かって歩いて来る事になる。

( ^ω^)「デレ、君は……」

ζ(゚ー゚*ζ「私は、全ての人がほんの少しだけでも今より幸せになれるように願ってるよ」

( ^ω^)「うん、知ってるお」

ζ(゚ー゚*ζ「漠然としてる上に、小さいようで大きい願いだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「それをいい願いだと言ってくれた君とは争いたくないと思ってる」

( ^ω^)「うん、僕もだお」

僕の言葉にデレは笑顔を見せ、僕の横を通り過ぎて行く。
僕はそれを追う事はせず、シブサワさんの方へ視線を向けた。
  _、_
( ,_ノ` )「さて、宿に帰るか」

( ^ω^)「はいですお」

165 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:05:33 ID:HVM3QHaY0

僕達はそのまま、デレとは反対の方向に向かって歩き出す。
道がわからない僕は、シブサワさんに従って歩くしかない。
他に道を知らない以上、そちらが僕の進む道だっただけだ。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「何から聞くべきかねえ……」

( ^ω^)「僕に答えられる事なら何でも聞いてくださいお。その代わり……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「俺が答えられる範囲なら答えてやるさ」

しばらく無言で歩いていたが、おもむろにシブサワさんが煙草を取り出し、火を点けた。
それを皮切りにシブサワさんは今日の事を聞いて来る。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「お前さんとラウンジの聖女の関係は何だ?」

( ^ω^)「顔見知りですお。僕は友達ぐらいの感覚でしたけど」

僕はヴィップでの事、メシューマでの事、そして今夜の事を順を追って説明する。
別段隠しておくような事はないので、ありのままを告げた。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「なるほどね。お前さんにとっては全くの偶然でしかないわけだな」

166 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:07:33 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「はいですお。でも、向こうもそうなのかはわかりませんお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「だろうな。意図的に接触して来た可能性もあるわけだからな」

ただの可能性の話なので、もし仮にそうだとしても彼女がそうする理由は僕にはわかりようもないのだ。
しかし、彼女と話した内容やその行動から察するに、それはないかなとも思う。
ほとんど世間話しかしていないし、会っても質問するのは専ら僕で、彼女の方から探りを入れて来る事は無かった。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「もし目的があったとしたら、お前さん自身に会ってみたかったという所だろうな」

( ^ω^)「僕自身にですかお?」

あくまで仮の話だがとシブサワさんは続ける。
僕自身、この場合はきっと大賢者の孫という意味だろう。
そしてこの推論を立てられるシブサワさんも、それを知っているという事に繋がる。

( ^ω^)「シブサワさんは僕の事……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「一応、中央の裏方は長くやってるんでな、お前さんの出自は知ってるよ」

( ^ω^)「そうですかお」

167 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:09:18 ID:HVM3QHaY0

そこからしばらく沈黙が続いた。
まだ聞きたい事は山ほどあったが、何となくこちらから口を開くのが躊躇われてしまった。

そのまま歩き続け、ようやく見覚えのある場所に辿り着いたが、シブサワさんはもう少し歩かないかと提案して来た。
僕が頷くと、シブサワさんは軽く礼の言葉を口にした。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「今回の件には関わった理由はなんだい?」

( ^ω^)「それも偶然ですお、多分」

ヒッキーさんが依頼したクエストは、僕達を名指しで依頼されたわけじゃない。
僕達以外の冒険者が受ける可能性だってあった事を考えると、偶然と考えた方が筋は通る。

当然、そうじゃない可能性もないわけじゃない。
その場合はまずヒッキーさんの事を疑うのが一番容易い手段だ。
考えたくはない手段ではあるけども。

( ^ω^)「シブサワさんは僕の事、疑ってますかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「その質問には意味が無いと思うぜ?」

答えはイエスでもありノーでもあるとシブサワさんは言う。
疑うのが仕事のような物だから、何でもまず疑ってかかるのは当たり前だが、
疑っていたとしてもそれを馬鹿正直に本人に告げないとも。

168 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:11:36 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「今、馬鹿正直に告げてくれてるじゃないですかお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「答えになってない答えを告げた所で、どうにもなりはしないさ」

( ^ω^)「まあ、そうですおね。馬鹿な質問でしたお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「いいさ。……ただ、個人的にはお前さんの事は嫌いじゃないぜ」

( ^ω^)「そりゃどうもですお」

それから僕達はデレの事、ラウンジ聖教の事を話し合った。
彼女達の狙いが聖骸布であるならば、今後ぶつかるのは避けられないのだ。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「向こうが2人なら何とかなるとは思うんだがな」

ラウンジの聖女は強いとはいっても肉弾戦に長けてるわけではないらしい。
その御付、クックルをシブサワさんが抑えれば数で押せると。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「こっちには聖騎士までいるからな」

( ^ω^)「やっぱりトソン君の事も知ってるんですおね」

169 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:13:37 ID:HVM3QHaY0

トソン君は今は聖騎士の鎧は着けておらず、自己紹介でも聖騎士の事には触れていない。
そうなるとクーの事もばれていると見る方がいいのだろう。

何でシブサワさんがそれを不問にしているのか聞いてみたくもあるが、
こちらからクーの事を話すのもどうかと思うので、聞くならこの件が片付いてからにしようと思う。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ただ、それは御付が1人の場合だ」

(;^ω^)「お……、ひょっとして、あのクックルって人みたいなマッチョがまだいるんですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、いるぞ。マッチョではないがマッチョより凶悪なのがな」

ラウンジの聖女の御付は、本来2人いるとシブサワさんは言う。
結局、クックルとはまともに戦ってはいないが、あれが強いだろうというのはその身に纏う空気でわかる。
そのクックルより凶悪というのだから、どんな相手なのか考えたくもない。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「まあ、見た目はただの優男らしいがな」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「……ん? そうか、お前さんは知ってるかもしれんな」

( ^ω^)「お? 僕が知ってる人ですかお?」

170 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:15:32 ID:HVM3QHaY0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「西の賢者だよ」

( ^ω^)「西の……あ、ドクオさんのライバルって人……確か名前はモララーとかいう……」

正しくは、御付というよりは後見人のようなものらしいとシブサワさんは言う。

(;^ω^)「確かに、ドクオさんレベルの人が出て来たら、僕らでは相手になりませんお」
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「更にいえば、聖女の言う所の本件に関わっている連中が手を貸さないとも限らないしな」

そちらはそれほどの手練はいないが、数はそれなりにいるという話だ。
そうなると数でも負ける事になり、敗色は濃厚だろう。
どうやらだいぶ分の悪い状況になって来ているらしい。
  _、_
( ,_ノ` )「まあ、こっちも別件、向こうの言う所の本件だが……ってややこしいな」
  _、_
( ,_ノ` )「とにかく、こちらも俺達とは別の件で来る連中の手を借りる事も出来なくはない」

問題はまだその人達が到着していないことだがと続け、シブサワさんは再び煙草を取り出す。

( ^ω^)「その本件とか別件とか、気になってたんですけど聞いてもいいですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「当然気になるよなあ……。俺としては、聞かない方がいいと思うんだが」

171 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:16:54 ID:HVM3QHaY0

聞けばどうしても余計な事を考えてしまうだろうし、自分としては聖骸布奪還に集中して欲しいと思っているが、
知らないと知らないで万が一の場合に対処出来ないだろうから悩み所だとシブサワさんは複雑な表情をする。

( ^ω^)「どうせなら、ちゃんと知った上で行動したいんでお願いしますお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「やれやれ……何にでも首を突っ込むのは感心しないが……」

(;^ω^)「耳の痛い言葉ですお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「そういえばお前さん、変な仮面と会わなかったか?」

( ^ω^)「一番変だったのはあの鶏仮面だったと思いますけど、それ以外にも笑い顔の仮面の集団に会いましたお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「既にばっちりと関わってるってわけか……。仕方ない、話してやるよ」

( ^ω^)「シブサワさんはあの仮面の正体を知ってるんですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、知っている。あれがさっき言った別件の話だ」

( ^ω^)「何なんですかお、あれ? 人間にしてはすごく不自然な感じがしましたお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「人間だ。正しくは、強制的に精霊を憑依させられた人間兵器の試作品ってとこか」

(;^ω^)「それって……」

172 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:18:56 ID:HVM3QHaY0

奇しくもそれは、ナカノヒトに来る途中でヒッキーさんとの話の中で考えたことだ。
精霊を人に憑かせる研究、そして兵器転用。
廃れたはずの研究が生き残っているという事か。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「概ねそんな所だ。理解が早くて助かる」

10年以上前にここ、ナカノヒトの町でそういった研究が行われていたらしい。
研究材料と称して子供をさらっては非道な研究が繰り返されていた。

当然、国もそれを看過する事はせず、騎士団や教会の手によって止めさせる事は出来たが、
研究を行っていた魔法使いは取り逃がしてしまったようだ。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「その後、そいつはラウンジに渡って同じ研究をやっていた事がわかっている」

そして再びこの地に戻って来た事が最近発覚したらしい。

つまりはその研究を止めさせ、魔法使いを捕らえる事が別件の話で、
ニューソクもラウンジも同じ目的で動いてるとの事だ。

( ^ω^)「同じ目的なら協力すればいいような気もしますお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「効率を考えればそうだが、それぞれに面子もあるからな」

事がそう簡単ではないのはわかっている。
同じ研究をラウンジで行っていたのなら、ラウンジでも過去のニューソクと同じような被害が出ているはずだ。

173 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:20:50 ID:HVM3QHaY0

ラウンジがそれを捕まえたがる理由もわかるし、状況から考えるに、
ラウンジは外交をすっ飛ばして裏で動いてるのだろうからそういうわけにも行かないのだろう。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「こっちは俺達の仕事じゃないから説明はこの位にしておく」

( ^ω^)「あ、1個だけ質問いいですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、いいぜ」

( ^ω^)「質問というか、気になったことなんですけど」

( ^ω^)「あの笑い仮面、不気味は不気味でしたけど、えらい弱かったですお」

あれが研究の成果なら、人道的な問題だけで研究自体の脅威はないと思う。
当然、需要もないだろうから、研究を続けるメリットもないのではないだろうか。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「試作品だからな。失敗作と言い換えてもいい」

あの笑い仮面は精霊の憑依には成功したが、思うように効果をなさず、感情を極端に抑制し、
自我をなくしてしまったものらしい。

本来なら感情の抑制と増幅の切り替えが出来、
人間が本来持つ能力の制限を解除出来るのが成功例だとシブサワさんは説明する。

174 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:23:19 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「その成功例っているんですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「何人かはいるらしいが、よくわかっていないな」

普通の人間の戦闘能力を軽く凌駕する従順な兵士。
もし成功例がいたとすれば、きっとどこでも重宝されるだろう。
あくまで裏の世界での話だが。

( ^ω^)「嫌な研究ですおね……」
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「ああ、胸糞悪い話だ」

そう吐き捨てるように呟くと、シブサワさんは短くなった煙草をいつの間にか取り出していた灰皿に擦り付けた。

シブサワさんの話で色々と理解は出来た。
しかし、まだまだわからない事も多々ある。
空気的にそろそろ話はお仕舞いなりそうだったが、僕は駄目元でもう1つ質問をぶつける事にする。

( ^ω^)「そういえば何で僕やデレが狙われてたんですかおね?」
  _、_
( ,_ノ` )「質問は1つじゃなかったのか?」

( ^ω^)「そこを何とか、もう1声お願いしますお」

175 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:25:17 ID:HVM3QHaY0
  _、_
( ,_ノ` )「……その件に付いては想像はつくが、そもそも逆の可能性もある」

( ^ω^)「逆?」
  _、_
( ,_ノ` )「聖女があいつらをおびき寄せてた可能性さ」

シブサワさんの推測では、ラウンジとしてはあくまで本件はその研究の主犯を捕まえる事で、
聖骸布の方は本腰を入れてないのではないかという事だ。
  _、_
( ,_ノ` )「俺が調べた限りだと、聖女達だけが聖骸布奪還に当たっている節があるからな」

ラウンジ聖教自体は、聖骸布をそれほど重要視していないとシブサワさんは考えているようだ。
そちらの方はむしろデレ達の独断で、その行動を許す代わりに研究の主犯を捕まえる件も手伝っていると。

( ^ω^)「つまりは囮だったわけですかお」
  _、_
( ,_ノ` )「その可能性はある」

( ^ω^)「でも、デレが囮だったとして、釣れるとは……いや、釣れるのかお」

ラウンジの聖女ともなれば、捕まえればいくらでも交渉の材料として使えるだろう。
逃亡の為の手段や、身代金の獲得など、色々と有益なはずだ。
聖女が1人でいるという状況で動かないはずがない。

176 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:28:16 ID:HVM3QHaY0

( ^ω^)「となると、僕は見事にそれを邪魔したわけですかお……」
  _、_
( ,_ノ` )「あくまで推測だ。仮にその通りだったとしても、お前さんが気に病む話でもないさ」

そう言ってシブサワさんは僕の肩をぽんぽんと軽く叩く。
手に染み付いた煙草の臭いがはっきりとわかった。
  _、_
( ,_ノ` )「さて、そろそろ帰るか。流石に明日に、いや、もう今日だな、響くだろ」

(;^ω^)「響く所か、もう東の方の空が明るくなって来てますお」

幸いと言っていいのか、クエスト本番は明日だ。
休息は取れるだろう。
今日知った情報を皆にも伝えないといけないので、あまりのんびりもしていられないが。
  _、_
( ,_ノ` )「まあ、今話した事は他の連中に伝えてもかまわない。あまり大っぴらに話されても困るが」

( ^ω^)「わかってますお。世間話の種にするには重いと思いますし」

僕らは踵を返し、来た道を逆に進む。

177 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 23:31:36 ID:HVM3QHaY0
  _、_
( ,_ノ` )「おっと、忘れてた」

( ^ω^)「お?」
  _、_
( ,_ノ` )「これで貸し借りはなしだな」

( ^ω^)「お……、あれは世間話だから別に……」

(;^ω^)「むしろ、助けてもらった分と話してもらった分でこちらが借りてますお」
  _、_
( ,_ノ` )「それもそうか。じゃあ、そいつは貸しとくさ」

そう言ってシブサワさんはにやりと笑みを浮かべ、また煙草を取り出す。
煙草の煙が朝焼けの空に薄く棚引いた。



     第三十話 1つ屋根の上で 終


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