( ^ω^)は魔法道具屋さんのようです

296 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:43:20 ID:hkY0cu1Q0

 〜 ナカノヒトの町 北部中央通り 〜


(;^ω^)「どうしますかお、ヒッキーさん?」

(;-_-)「え? わ、私ですか?」

ξ;゚听)ξ「シブサワさんが動けないんですから、決断するのはヒッキーさんの役目ですよ!」

(;-_-)「そ、そうですね。し、しかし、今動いて大丈夫でしょうか?」

(゚、゚;トソン「派手に動くと正体不明の敵に狙われる可能性はありますが……」

ノリミ;゚ -゚彡「動かなければマルタスニムと火の手が襲ってくる、か……」

(∪;^ω^)「わんおー」



     第三十二話 戦火の逃走劇


297 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:45:07 ID:hkY0cu1Q0

(;^ω^)「とにかく、ここに留まるわけにもいきませんお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

僕達は今、苦しい状況に立たされている。
ナカノヒトの町で盗人ボルジョアを捕まえるべく待ち伏せていたはずが、
精霊兵器の研究者であるマルタスニムという男に急襲され、シブサワさんが負傷してしまった。

しかも正体不明の敵、恐らくは灰衣の魔法使いではないかと思しき者の影まで見え、状況は最悪だ。

(;-_-)「そうですね。火の回り方次第では、私達も焼け死んでしまいます」

(;-_-)「ここは私が馬車に防御魔法を張りつつ、後退するしかないでしょう」

ノリミ゚ -゚彡「そんな事してヒッキーさんの魔力がもつのか?」

(;-_-)「もたせるしかないでしょう? やらなければ死ぬだけです」

いつになく強い調子でヒッキーさんはクーに答える。
年長者として聖職者として、僕らを守ろうと必死なのだろうと思う。

298 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:46:35 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「僕も風の結界を張りますお。それで何とかなればいいんですが……」

ξ゚听)ξ「……そんなのんびりした事言ってられなくなって来たわよ?」

ツンが僕達を守るように1人前に出る。
その視線の先には、こちらに走り寄る1つの影がある。

川 ゚ 々゚)

ノリミ゚ -゚彡「厄介な奴が真っ先に来たか」

(゚、゚トソン「ここは僕が引き受けます。皆さんはお逃げください」

トソン君はツンの横に並ぼうとしたクーの更に前に進み出る。
現状、あの精霊兵器完成型ことクルゥに勝てる可能性が一番高いのはトソン君である事は確かだ。

しかし、不意を突かれたとはいえ、歴戦の勇士であるシブサワさんをも倒した相手である。
勝てる可能性そのものがかなり低いと考えざるを得ない状況で、トソン君をクルゥに挑ませるわけにはいかない。

d(゚、゚トソン「大丈夫です。あいつを倒してすぐに追い付きますから、先に行っててください」

ノリミ;゚ -゚彡「いや、それは駄目だ。逃げる事を最優先に考えるんだ」

299 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:48:03 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「クーの言う通りだお。逃げるなら全員で逃げるお」

ξ゚听)ξ「……と言っても、逃げる準備が整うまで、足止めは必要でしょ?」

そう言うとツンは、僕の返事を待つ事無く、クルゥの方に走り出す。

(;^ω^)「ツン、無茶だお!」

ξ゚听)ξ「大丈夫よ、あくまで足止めに努めるから、その間に逃げる算段をね!」

川 ゚ 々゚)「グオァァァァァッ!」

ξ゚听)ξ「ハッ!」

止める暇もなく、ツンは既にクルゥと交戦状態に入る。
手数を減らし、防御に徹する事で言葉通り足止めに終始している様だ。
ツンを援護すべく、トソン君もそれに参戦する。

( ^ω^)「ヒッキーさん!」

(-_-)「はい、すぐに防御魔法を張りますよ」

ツンの思いを無駄にせぬ様、すぐに逃げる準備に取り掛かる。
勿論ツンを置いて行くつもりはなく、逃げる時には無理矢理にでも引っ張って行く事も辞さない。

300 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:50:07 ID:hkY0cu1Q0

ノリミ゚ -゚彡「マルタスニムはこちらに来る気はないらしいな」

( ^ω^)「きっとさっきのでビビったんだお。こっちとしてはラッキーだお」

恐らく正体不明の襲撃者の事を警戒しているのだろう。
マルタスニムの援護が加わればクルゥの足止めすら難しくなるだろうから、本当に助かったと思う。

(-_-)「準備は整いました」

( ^ω^)「ツン!」

ξ゚听)ξ「わかったわ!」

川 ゚ 々゚)「グルォァァァァッ!」

ξ#゚听)ξ「このッ!」

クルゥの凶刃が煌めき、鮮血が舞う。
ツンは左腕を薄く切り裂かれながらも、カウンターで右の拳をクルゥのボディに食らわせた。

川 ゚ 々゚)「グォッ!?」

ツンの一撃でよろめくクルゥだが、その表情は一切変わらない。
普通の人間なら悶絶もののボディブローでこれなのだから、恐るべきタフさだ。

301 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:51:16 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「食らえお! ウインド・ブロウ」

川 ゚ 々゚)「グルォォッ!?」

ツンがクルゥから離れる隙を作る為、僕は突風を起こす魔法を唱える。
殺傷力はほぼゼロの、相手を吹き飛ばす為の魔法だ。

既によろめいていた所為もあってか、クルゥは踏ん張る事が出来ずに後方に吹き飛ばされていく。
ついでに後方のオワタ兵も巻き込んだので、マルタスニムの視界も奪えただろう。

ξ゚听)ξ「乗ったわ!」

ノリミ゚ -゚彡「よし、トソン! 馬車を!」

(゚、゚トソン「はい!」

トソン君が馬に鞭を入れ、馬車を急発進させる。
僕達は何とかこの場を切り抜ける事が出来たが、まだ安心は出来ない。

町の至る所で火が上がり、所々道が塞がれている。
元々よく知らない町で、道も不案内だ。
逃げ切れるかどうかはわからない。

302 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:53:07 ID:hkY0cu1Q0

ξ゚听)ξ「取り敢えず東へ向かいましょう」

少しでも知っている場所へ向かうべきだとツンは主張し、
僕達がこの町に来た時に使った東門の方へ向かう事を提案する。

現在僕らがいる場所は、町の北部中央辺りに位置する。
町の北門もあるが、北は山の中に続く道で馬車向きではないからツンの意見に賛成した。

(;-_-)「今の所、正体不明の襲撃者が攻撃を仕掛けてくる気配はありませんね」

(;^ω^)「油断は出来ませんお。そもそも、その気配を感じさせずに攻撃してくるんですし」

僕とヒッキーさんは防御魔法の維持に務めており、周辺を警戒する余裕はない。
このまま魔法を維持しっぱなしは辛いが、あの威力を考えると緩めるわけにもいかないのだ。

( ^ω^)「ツン、さっき受けた傷は大丈夫かお?」

ξ゚听)ξ「かすり傷だから平気よ」

ツンはそう言ったが、未だ出血は続いている様で、押さえていた布を赤く染めている。
僕はクーに止血用の薬草をツンに塗ってくれる様に頼んだ。

303 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:54:38 ID:hkY0cu1Q0

(;-_-)「すみません、本来なら私が止血の魔法を使えばよいのですが……」

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫ですよ。防御魔法で手一杯でしょうし、気にしないでください」

トソン君が馬車の御者を務め、僕とヒッキーさんは魔法で馬車を防御している。
シブサワさんは気を失っており、ツンとクーは馬車内で治療、わんわんおは大人しく馬車内に座っているので、
現状、周辺の警戒に当たれるものがいない。

ξ゚听)ξ「軽くでいいからね。すぐに終わらせて、後方の監視に付かないと……」

ノリミ゚ -゚彡「ああ、わかった。だが、監視は私がやるからツンは休んでろ」

一瞬、抗議しようとする素振りを見せたツンだが、クーの有無を言わせぬ視線に渋々頷く。
クーは手早く治療を終え、馬車の後部に向かった。

( ^ω^)「あんまり無茶しないでくれお」

ξ゚听)ξ「してないわよ……と言いたいとこだけど、さっきのはちょっとヤバかったわ」

攻撃を捨てて防御に徹したことで何とか対峙する事は出来たが、
まともに戦っても勝てる相手ではないと肌で感じたとツンは言う。

304 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:56:12 ID:hkY0cu1Q0

ξ--)ξ「やり辛いのよね。人間、ううん、生き物と戦ってる感じがしなくて」

単純に力や速さもすごいが、呼吸に始まり、体の動かし方や痛みに対する反応など、
どれも普通の人間とは思えない相手だったらしい。

( ^ω^)「それって、精霊によって無理矢理動かされてるって感じかお?」

ξ゚听)ξ「そうそう、そんな感じかもね。精霊かどうかはわからなかったけど」

それからしばらく馬車を走らせたが、何者に襲撃される事もなく、もう間もなくして門に辿り着こうとしていた。

ξ゚听)ξ「……このまま逃げ切れればいいけどね」

( ^ω^)「状況が状況だし、このまま逃げていいのかってのもあるおね」

現在、ナカノヒトの町は至るとこで火災が起きており、ひどい有様だ。
途中で逃げ惑う人々も数多く目にしたが、逃げ切れてない住民もいるだろう。

自分達の生命も危うい状況では、そんな事を考える余裕もなかったが、こうして落ち着いてくると、
本当にこれで良かったのか気になってしまう。

305 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:57:31 ID:hkY0cu1Q0

(-_-)「……」

特に聖職者であるヒッキーさんは、その事が気になっているのだろう。
先ほどからずっと苦しげな表情を浮かべて、時折小さく首を振る仕草が見て取れる。

( -ω-)「でも、戻った所で何が出来るのかってのもあるお」

ξ゚听)ξ「……」

(-_-)「……」

僕の言葉に2人は表情を曇らせ、黙り込む。
想定外の襲撃だったとはいえ、今回僕らは後手後手に回り過ぎた。
1つ1つの対応も最上の手が取れたとは言い難かったと思う。

最終的に負傷者2名で退却という、ひどい結果に終わったのだ。

( ^ω^)「シブサワさんが言ってたように、僕らは甘かったのかおね……」
  _、_
( ,_ノ` )「……そうでもねえさ」

306 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 22:59:33 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「シブサワさん! 気が付いたんですかお? 傷は痛みませんかお?」

(∪^ω^)「わんわんお!」
  _、_
( ,_ノ` )「ああ、大丈夫だ。すまんな、迷惑を掛けた」

シブサワさんは身を起こし、馬車の端に背を預けて胡坐をかく。
途中、傷が痛むのか辛そうな表情を見せることもあった。
  _、_
( ,_ノ` )「やれやれ、もう年かね。ああも無様に負けちまうとはな」

ξ゚听)ξ「不意打ちでしたし、仕方ない部分もあると思いますよ」
  _、_
( ,_ノ` )「ありがとう。だが、そろそろ引退を考える時期かもな」

シブサワさんは自嘲気味に笑みを浮かべ煙草を取り出す。
立場上、失敗は許されない仕事が多い状況で、この様ではどうしようもないと吐き捨てる様にシブサワさんは言う。
失敗がそのまま死に繋がるような仕事なのだからと。
  _、_
( ,_ノ` )「お前さん達に助けられちまったな。感謝するぜ」

( ^ω^)「クエストの仲間なんですから、当然ですお」

307 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:01:26 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「おっと、愚痴が長くなっちまったな。現状の説明を頼む」

僕はシブサワさんが気を失ってからの事を説明する。
それほど時間が経ったわけでもないので、大きく状況は変化していないから説明は短くて済んだ。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「まあ何だ、その状況を切り抜けられたお前らが甘いなんて事はないさ」

( ^ω^)「お……、さっきの話ですかお?」

( ^ω^)「でも、僕はオワタ兵を殺すのを躊躇って、全力で戦えませんでしたお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「それが普通さ。今回は相手が悪かっただけだ」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「本来ならああいう例外の相手をする為に、俺みたいな裏の人間がいるんだ」

普通の冒険者が相手をする様な奴じゃないとシブサワさんは言う。

ξ゚听)ξ「でも、今後もああいう相手と遭遇するかもしれませんし」

ξ゚听)ξ「その時は相手が悪かったですまない事も出て来るかもしれません」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「かもな」

308 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:03:48 ID:hkY0cu1Q0

ξ゚听)ξ「それなら……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「だからと言って、そう簡単に割り切れるものじゃないだろ?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「答えはこれから時間を掛けて考えるもんさ」

ξ--)ξ「言いたい事は何となくわかりますけど、今時間を掛けてられる状況ですかね?」

ツンはシブサワさんの言葉に納得がいかないようで、皮肉を交えて答える。
僕も正直納得いかないが、今後皆の身が危うい状況に陥ったら、殺すのも辞さない覚悟で魔法を撃つと心に決めた。
実際に撃てるかは、その時になってみないとわからないが、みすみす大切な人達を失うわけにはいかない。

( ^ω^)(じいちゃんはどんな気持ちで魔法を撃ってたのかおね……)

ふと僕の中に、そんな疑問が湧いて来た。
竜との戦争だけでなく、人間同士の戦争を終わらせる為に戦いに介入したじいちゃん。
撃てば人が死ぬとわかっている魔法を、戦争を終わらせる為に使って来たのだ。

それに比べれば、僕の葛藤なんてささやかなものかもしれない。
けれど、本質的な物は同じかもしれない。

309 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:05:44 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「まあ、確かに、時間がなさそうだな……」

(;^ω^)「!?」

シブサワさんの言葉で僕は1つの不自然な気配に気付いた。
どうやら追い付かれたらしい。

( ^ω^)「クルゥ、精霊兵器完成型が追い付いて来てるみたいですお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「この分だと直に追い付かれるか……」

( ^ω^)「恐らくは」

(;-_-)「今張っているのは対魔法障壁ですので、物理攻撃を仕掛けて来られると防げませんね」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「馬でも攻撃されて馬車が横転したらちょっとまずいか」

ξ゚听)ξ「止めて迎撃するしかなさそうですね」

僕達は東門まであと少しという所で、馬車を止めざるを得なくなった。
他のオワタ兵やマルタスニムの姿はなく、クルゥ1人の様だ。
ならばさっさと足止めして再び逃げるべきだ。

310 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:08:05 ID:hkY0cu1Q0

クルゥがわざわざ追って来た事からするに、マルタスニムは僕らを標的としたのだろう。
もたもたしていると他のオワタ兵も追い付いてくる可能性は高い。

ノリミ゚ -゚彡「向こうは1人だ。仕留められるならここで……」
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「どうだろうな。行けると思うか?」

シブサワさんは自分と同じくクルゥの相手をしたツンに話を振る。
ツンからはいつものような強気な回答は返って来ず、無言で首を振るだけだった。
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「だよなあ。このケガじゃおじさんは役立たずだしな」

( ^ω^)「じゃあ、足止めの方向で。僕が何とかしますかお」

川 ゚ 々゚)「ァァ……ウォァ……」

進み出た僕の前に、クルゥが少し離れた建物の上から降って来る。
相変わらず見ているのいないのかわからない目付きなので、目潰しの類はきかなさそうだ。
  _、_
( ,_ノ` )y-・~「いっそ、おじさんに任せて逃げるって手もあるぞ?」

311 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:10:40 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「役立たずは大人しく馬車の中に引っ込んでてくださいお」

シブサワさんの魅力的な申し出を丁重にお断りし、クルゥの方に向かう。
武器での近接戦闘では絶対に勝てないのはわかっているので、打ち合うつもりはない。
それはトソン君に任せると決め、道を空けるべく横にずれる。

(゚、゚トソン「いざ、尋常に勝負!」

川 ゚ 々゚)「グルァ……」

先ほどよりはだいぶ緩慢な動きでクルゥはトソン君の斬撃を受け止める。
力強さは変わっていないが、速度はかなり落ちている。
ここまで走って来たので疲れたなんて事は無いと思うが、これはチャンスかもしれない。

(゚、゚#トソン「せいっ! やあっ! とうっ!」

川 ゚ 々゚)「グォ……」

防御されるのもかまわず、トソン君は立て続けに打ち込む。
一見無駄の様に見えるが、恐らくトソン君の狙いはクルゥの持つ得物の方だと考えられる。

312 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:12:36 ID:hkY0cu1Q0

(゚、゚#トソン「チェストーッ!」

川 ゚ 々゚)「グルォ!?」

力強く振り下ろされた一撃に、クルゥの持つナイフの様な得物の片方が破壊される。
続けて放たれるトソン君の攻撃を、クルゥは残った片方の得物で防ごうとした。

( ^ω^)「ここだお!」

僕は防御姿勢で動きの止まっているクルゥの元に走り、唱えていた魔法を解き放つ。
片方の手は空いているが、迎撃されても素手ならそう怖くはない。

(#^ω^)「サンダァァァァ・ブレェェェェイクッ!」

雷の精霊の力を借り、自らの手に雷を宿す上位魔法サンダー・ブレイク。
僕の使える数少ない超接近戦用魔法だ。
僕は光り輝く掌をクルゥの胸に打ち付けた。

川 ゚ 々゚)「グォォォォォォォォッ!!」

短い破裂音がして、クルゥの身体が痙攣しながら後方によろめく。
如何に丈夫なクルゥとて、心臓に電気ショックを与えられたらしばらくは動けないはずだ。

313 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:15:28 ID:hkY0cu1Q0

(;^ω^)「というか、普通死ぬおね……」

下手をすれば殺しかねない威力のある魔法だったが、案外すんなり撃つ事が出来た。
複雑な思いはあるものの、もしそうなっても後悔はしないつもりだ。

ノリミ゚ -゚彡「今なら捕獲出来るんじゃないか?」

(;^ω^)「あいつを押さえ付けてられる縄とか思い付かないお」

(゚、゚トソン「僕を縛って自由を奪った魔法の縄があるじゃないですか?」

( ^ω^)「うん、その発言は誤解を招きそうだから止めてくれお」

(;^ω^)「つーか魔力切れだお。これだけ魔法使えば流石にもたないお」

戦闘でそれほど魔法を使ったわけでもないが、逃げる際にはずっと防御魔法を維持していたのだ。
今はまともに魔法が使える状態じゃない。

かといって止めを刺すかといわれれば、それは躊躇ってしまう。
結局、シブサワさんが言ったように時間を掛けて考えてしまっている自分がいるのだ。
一旦は覚悟したのに、これではやはり甘いと言われても仕方がない。

314 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:17:37 ID:hkY0cu1Q0

ξ゚听)ξ「今はあれは放って置くしかないわね。すぐ逃げましょう」

( ^ω^)「そうするお。皆馬車に……って、あれ? シブサワさんは?」

ふと気付くと、シブサワさんの姿がない。
一刻を争う時に何をしているのかと思ったら、程なくしてすぐ側の路地から出て来た。
  _、_
( ,_ノ` )「すまない、ちょっと情報をな……」

ノリミ゚ -゚彡「何かわかったのか?」
  _、_
( ,_ノ` )「ああ、悪い知らせと悪い知らせ、それに悪い知らせがあるがどれから聞く?」

(;^ω^)「全部同じじゃないですかお。どれでもいいですお」

ξ゚听)ξ「それよりもまず逃げる方が先よ。とにかく乗って!」

「そうはさせんホマ!」

背後から聞こえて来た声は、振り向かずとも察せられる粘着質で厭らしい響きがあった。
これが1つ目の悪い知らせだと、シブサワさんの溜め息交じりの呟きが聞こえる。

316 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:19:09 ID:hkY0cu1Q0

( ^^ω)「私の邪魔をしたお前達を逃がすわけには行かないホマ」

ξ゚听)ξ「あら、てっきり物陰に隠れて縮こまってるものだと思ったら、お早いお着きね」

( ^^ω)「フン、あれがお前達の仲間じゃないなら恐れるに足らんホマ」

マルタスニムは厭らしい笑みを浮かべ、僕達の前、門へ続く道に立ち塞がる。
僕達が防御魔法を張って逃げた事で、あの攻撃が僕達の仲間のものではないと察したのかもしれない。
先回りして待ち構えられるとは、マルタスニムの事を侮り過ぎていた。

ノリミ゚ -゚彡「だがお前の切り札はあそこでお寝んねしてるぞ?」

( ^^ω)「ほほう、なかなかやるホマね」

( ^^ω)「やはり私から離れ過ぎると命令が曖昧になって良くない様だホマ」

( ^^ω)「クルゥ、いつまで寝てるホマ。さっさと立つホマよ」

ヽ川 ゚ 々゚)ノ「グァァァ」

(;^ω^)「なっ……」

317 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:20:59 ID:hkY0cu1Q0

マルタスニムが声を掛けると、クルゥは何事もなかったかの様にぴょこんと起き上がった。
いくらなんでも痺れが取れるのが早過ぎる。

( ^^ω)「私はそんな所で寝てろと命令してないホマ。こいつらを全員殺せと命令したはずホマ」

川 ゚ 々゚)「グルァ……」

クルゥはその言葉に従う様に、僕らの方へ向かって来る。
若干動きがぎこちないのは、先の魔法の影響がまだ残っているからかもしれない。
同時に背後のマルタスニムの周囲にはオワタ兵が集まって来て、僕達は囲まれる形になってしまった。
  _、_
( ,_ノ` )「どうやらあいつにとって命令は絶対らしいな」

(;^ω^)「起きろと言われたから起きたって事ですかお? 無茶苦茶過ぎますお」

命令を理解しても、身体が動かなければ遂行出来ないはずだ。
それでも動けてしまう精霊兵器の恐ろしさを、僕は改めて実感する。

ξ゚听)ξ「で、どっちを突破する? こうなったら馬車を捨てて各自散り散りに逃げるしかないと思うわよ?」

(゚、゚トソン「無念ですがそれしかなさそうです。私が片方を惹き付けますので……」

318 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:23:52 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )「残念ながらそれは却下だ」

(;^ω^)「お?」
  _、_
( ,_ノ` )「お前らには馬車で逃げてもらわねばならない理由があってだな。それが2つ目の悪い話なんだが」
  _、_
( ,_ノ` )「まあ、説明は後だ。ひとまず凌ぐぞ。その後直接マルタスニムを狙う」

どう考えても、この状況ではツンの示した方針の方が上策だと思う。
このまま囲まれた状況で凌いでも、援軍の当てがない以上、ジリ貧だと判断するしかない。
となればシブサワさんが示した後者の策を狙うしかないだろう。

( ^^ω)「この状況で逃げないとは、なかなか肝の据わった連中ホマね」

( ^^ω)「よし、お前達若い連中は殺さず捕まえて新たな研究材料にしてやるホマ!」

ノリミ゚ -゚彡「慎んでお断りさせてもらう」

僕らは円陣を組み、互いの背を守るように位置取って戦う。
どちらかと言えば戦場を駆け回って戦う方が得意なツンやシブサワさんだが、今は守りに徹してもらう。

(;^ω^)「つーかそもそもシブサワさん、戦えるのかお?」
  _、_
( ,_ノ` )「まだ杖は無用のお年頃さ」

319 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:25:34 ID:hkY0cu1Q0

(゚、゚トソン「足が小刻みに震えてますけど大丈夫ですか?」
  _、_
( ,_ノ` )「なに、ちょっと身体が冷えただけだ」

止めても無駄だと判断して、僕はこれ以上何も言わない事にした。
誰かを守りながら戦うのは苦しい状況でもある。

(;^ω^)「ヤバくなったらお前だけでも逃げるお?」

(∪;^ω^)「わんわんお……」

僕はフードの中のわんわんおに小声で話しかける。
今更だが万が一わんわんおに何かあったら、それは竜と人間の関係に今後とてつもなく大きな禍根を残してしまうので、
それだけは避けねばならない。

川 ゚ 々゚)「グルゥァァァァァ!」

ξ゚听)ξ「あんたの相手は私がしてあげるわ!」

ツンはクーをかばうように位置を交代し、クルゥの攻撃を受け止める。
ケガもあるし、ツンもそう長いことクルゥの相手は出来ないだろう。

320 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:27:13 ID:hkY0cu1Q0

( ^^ω)「ホマホマホマ! 足掻けホマ! その顔が絶望に染まる様を私に見せるホマ!」

(゚、゚#トソン「黙れ! この顔面福笑い!」

(#^^ω)「ホマッ! このガキ! 誰が顔面福笑いホマ!」

ノリミ゚ -゚彡「いや、福笑いは顔面しかないんだし、福笑いだけでいいだろ?」

(;^ω^)「そういう話じゃねえお」

(゚、゚トソン「それもそうですね。よし、じゃあ、この福笑い野郎!」

(#^^ω)「このクソガキ……人が大人しくしてれば調子に乗りやがってホマ」

トソン君の挑発が癪に障ったのか、マルタスニムは足を止めて呪文の詠唱を始める。
現状、固まっている僕らは遠距離から強力な魔法で一網打尽にされる恐れがあり、それは避けねばならない事態だ。
しかしながら魔法の詠唱は大きな隙を生むのも確かで、この場を突破するにはそこに賭けるしかないと僕は判断していた。

( ^ω^)「今だお!」

僕は自分とトソン君になけなしの魔力でエア・シューズの魔法を掛け、マルタスニムの元に走る。
オワタ兵を薙ぎ倒し、呪文が完成する前にマルタスニムを倒すべく距離を詰める。

321 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:29:08 ID:hkY0cu1Q0

(;^^ω)「ホマッ!? オワタ兵、私を守れホマ!」

よほど慌てたのか、詠唱を続けながらオワタ兵に指示を出すマルタスニム。
詠唱を止め、下がればいい話なのだが、そこまで頭が回らないのだろう。

( ^ω^)「トソン君!」

(゚、゚#トソン「くらえぇぇぇぇッ!」

オワタ兵を防いだ僕の背を踏み台にトソン君が跳躍する。
トソン君に踏まれない様に、フードを被ってわんわんおは退避させておいた。
そのままトソン君は、上空から渾身の一撃をマルタスニム目掛けて叩き付ける。

(;^^ω)「ホマァァァァッ……」

( ^^ω)「なーんちゃって。ウインド・ブロウ!」

(;^ω^)「なっ!?」

(゚、゚;トソン「うわっ!?」

マルタスニムは上空のトソン君目掛けて風の魔法、先ほど僕が使ったのと同じ突風を起こす魔法を放つ。
空中で防ぐ手立てのないトソン君は大きく後方に吹き飛ばされる。

322 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:31:15 ID:hkY0cu1Q0

( ^^ω)「あまりなめるなホマ。お前らの考える事なんてお見通しホマ」

(;^ω^)「クッ……ここまでかお……」

奇襲に失敗し、分断されてしまった僕らがこれ以上攻撃を凌ぐのは厳しい状況だ。
あとは逃げの一手しかないが、それすらも難しいかもしれない。

( ^^ω)「そう悲しそうな顔をするなホマ。若い割にはよくやったホマ。最後にお前の名を聞いて……」

 オワー
(#)^o^))゚゚ω)「ホマァァァァッ!?」

(;^ω^)「え……?」

突如後方から飛んで来たオワタ兵がマルタスニムの横っ面に激突し、マルタスニムはもんどり打って倒れる。
気付けば嘶きと鬨の声が前方から聞こえていた。

(;^ω^)「馬……? って、これって……」

見覚えのある紋章の付いた旗を掲げた騎馬隊が、次々とオワタ兵を打ち倒して行く。
転倒していたマルタスニムは慌てて起き上がり、脇の路地に向かって逃げて行った。

(;^ω^)「ニューソク騎士団!? どうして……」

323 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:33:38 ID:hkY0cu1Q0
  _
(#゚∀゚)「邪魔だァァァッ! 道を空けやがれ!」

(;^ω^)「ジョ、ジョルジュさん!?」
  _
(#゚∀゚)「あ?」
 _
(;゚∀゚)「って、ブーン!? 何でお前がここに?」

駆っていた馬を急停止させ、僕の前に立つ人は、紛れもなくソクホウにいるはずのジョルジュさんであった。
僕らは驚きながらも、後続の馬に跳ね飛ばされぬ様道の端に移動する。

(;^ω^)「それはこっちのセリフですお? 何でジョルジュさんがここにいるんですかお?」

そう言ってから僕は1つ思い当たる事があるのに気付いた。
ジョルジュさん達が追っていた相手、灰衣の魔法使いの影がこの町で感じられた事に。
  _
( ゚∀゚)「って事は当たりか。わざわざソクホウから馬かっ飛ばして来た甲斐あったぜ」

( ^ω^)「そういう事ですかお。しかし、何ですかお、この状況は? 何でニューソク騎士団と一緒に?」
  _
( ゚∀゚)「ギブアンドテイクってやつさ。フィレンクトのおっさんとちょっとな……」

詳しい事はまた後でと、ジョルジュさんは馬に跨る。

325 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:36:35 ID:hkY0cu1Q0
  _
( ゚∀゚)「すまねえ。やつを追いかけなきゃならねえからな」

( ^ω^)「いえ、正直あのタイミングで来てくれて助かりましたから、十分ですお。ありがとうですお」
  _
( ゚∀゚)「そうか? それなら良かったが。それじゃあ、また後でな」

( ^ω^)「はいですお。灰衣の魔法使いには気を付けてくださいお」
  _
( ゚∀゚)「おう。……ちなみに、俺以外も来てるからな」

( ^ω^)「お……」

そう言い残し、ジョルジュさんは馬を駆り、一瞬にして視界から消えて行った。

周りを見ると既に立っているオワタ兵の姿はない。
粗方ニューソク騎士団によって倒された様だ。
マルタスニムもクルゥの姿もないが、マルタスニムが逃げたのは目にしたし、クルゥも恐らくは逃げたのだろう。

从 ゚∀从ノシ「ブーン!」

( ^ω^)「お、ハインさん!」

327 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:40:28 ID:hkY0cu1Q0

ジョルジュさんが残した俺以外という言葉の意味を考えるまでもなく、
ハインさんがこちらに手を振って近付いて来ているのに気付く。
ツン達と一緒にいた所からするに、また1から状況を説明する必要もないだろう。

从 ゚∀从「大変だったみたいだな」

(;^ω^)「割と本気で洒落になってませんでしたお」

从 ゚∀从「そうか。……よくがんばったな、偉いぞ」

思い掛けず慣れ親しんだ顔を見た安堵からか、つい素直に弱音を吐いた僕をハインさんががっしりと抱き締める。
突然の事に驚いたが、それよりも先に緊張の糸が緩んだらしく、力が抜けて倒れそうになってしまった。

从;゚∀从「おいおい、ホントに大丈夫か?」

(;^ω^)「す、すみません。ちょっと魔力を使い過ぎたみたいで……」

从;゚∀从「ちょっとまずいかこれは。おい、ミルナ!」

ハインさんが僕を支えたまま後方に声を掛ける。
それに気付いたミルナさんが僕の方へ走って来た。

328 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:42:24 ID:hkY0cu1Q0

( ゚д゚)「久しぶりだな、ブーン」

(;^ω^)「お久しぶりですお、ミルナさん」

从;゚∀从「挨拶はいいから、馬車まで運んでやってくれ」

( ゚д゚)「ああ、すまんな。どれ……」

(;^ω^)「お手数かけますお」

( ゚д゚)「よいしょっと」
つ∪^ω^)

(;^ω^)「……」

从 ゚∀从「……」

(* ゚д゚) ヨシヨシ
つ∪^ω^)「わんわんお!」
  _,
从 ゚∀从「……オーケィ、ミルナ。まずはわんすけを地面に降ろせ。話はそれからだ」

(; ゚д゚)「いや、すまん……つい、な……」

329 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:44:54 ID:hkY0cu1Q0

僕はミルナさんに支えられ、馬車の所まで戻る。
皆無事のようだが、ヒッキーさんの姿が見えない。
  _、_
( ,_ノ` )「町の住民の救助に向かったよ」

( ^ω^)「お、それでいないんですかお」

ようやく戦闘が終わったばかりで疲れているはずなのに、頭の下がる思いだ。
逃走中も随分と気にしてたようだったし、本来戦闘なんかより、人助けの方がヒッキーさんにはあっていると思う。
  _、_
( ,_ノ` )「1人抜けるのは痛いが、4人でがんばってもらうしかないか」

( ^ω^)「お? 何をがんばるんですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )「言っただろ? お前らには馬車で逃げてもらわねばならない理由があるって」

( ^ω^)「聞きましたけど、もう逃げる理由はないですお?」
  _、_
( ,_ノ` )「そうだな、じゃあ言い方を変えよう」
  _、_
( ,_ノ` )「お前らには馬車で追い掛けてもらいたい」

( ^ω^)「誰をですかお?」

330 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:46:10 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「なあ、ブーンよ、お前、俺達の本来の目的忘れてねえか?」

シブサワさんは呆れた様に肩をすくめ、煙草に火を点ける。
僕は本来の目的という言葉で、やっとシブサワさんが何を言いたいのか理解出来た。

(;^ω^)「あ、ボルジョア?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「あいつ、この騒ぎでヤバいと思ったのか、南へ逃げたらしい」

( ^ω^)「南というと……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「キマスタの町だ。そこからラウンジにでも渡るつもりだろうな」

なるほど、この騒ぎですっかり忘れかけていたが、僕らの本来の目的はボルジョアから聖骸布を取り戻すことだ。
そのボルジョアが逃げたのなら、それを追うのは道理である
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「キマスタまでは馬車でここから約5日、向こうも馬らしいから急ぐ必要がある」

( ^ω^)「把握。すぐに行きますかお」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「頼む。申し訳ないが、俺はここに残らねばならん」

331 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:49:04 ID:hkY0cu1Q0

この状況の後始末をしなければならないからと、シブサワさんは辺りを見回す。
未だ町の中では、煙が上がっている箇所がいくつも見られる。
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「この傷じゃ、足手纏いになるというのもある」

( ^ω^)「寝てなくて大丈夫なんですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「そんな暇はないさ。騎士団との折衝もあるしな。やれやれ、面倒な事だ」

それからすぐに僕達は馬車の準備をした。
シブサワさんが交渉したらしく、馬は騎士団の所有する良い馬を借りられたので、多少は速度が上がるだろう。

( ゚д゚)「俺達も手伝えれば良かったんだが……」

ξ゚听)ξ「準備を手伝ってくれただけで十分ですよ」

ノリミ゚ -゚彡「ジョルジュ達を追わなくていいのか?」

从 ゚∀从「この後追うから気にするな。つーかお前、ダサい仮面着けてるよな」

(゚、゚;トソン「すみません、もう少しオブラートに包んだ発言をお願いします」

ハインさん達とは初対面のトソン君の紹介も既に済んでいるようだ。
親しげに話している様子が見て取れる。

332 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:51:25 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)「マルタスニムは逃げたんですかおね?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「恐らくな。まだ町中にいるかもしれないが、それも騎士団には説明しておくさ」

从 ゚∀从「……」

ξ゚听)ξ「どうしたのよ、ぼうっとして?」

从 ゚∀从「あ……? いや別に……あのおっさん、口臭ひっでえなって」

ξ゚听)ξ「止めなさいよ。そういうのは思ってても口にしないのがマナーよ。聞こえるとあのおっさん凹むから」
  _、_
( ,..ノ` )y━・~「……デダ、マダミカクニンナンダガ」

(;^ω^)「ちゃんと口開けてしゃべってくださいお。口臭は気になりませんから!」

僕達は馬車に乗り込み、出発に備える。
比較的元気なクーが御者台に付くが、疲れてる事には変わらないのでこまめに交代すべきだろう。
  _、_
( ,_ノ` )「おっと、言い忘れてた、ブーン」

( ^ω^)「何ですかお?」

333 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:53:42 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )「今日の騒動中に姿を見せなかった、ラウンジの聖女達がボルジョアを追っているらしいって話だ」

( ^ω^)「お……」

散々な1日だったが、デレ達と事を構えずに済んだ事は安堵していたのに、それは気が早かったらしい。
今日の騒ぎを避け、既に追っているとなると先にボルジョアに追い付かれる可能性が高い。
  _、_
( ,_ノ` )「聖女達は2人組だったらしいから、恐らく鶏野郎も一緒だろう」

( ^ω^)「出来れば、デレ達に追い付かれる前にボルジョアに接触したいですおね」
  _、_
( ,_ノ` )「その方が賢明だろう。幸い、向こうは聖女にあのデカブツだ」
  _、_
( ,_ノ` )「馬術に長けてるとは思い難いから、何とかなるかもしれん」

ノリミ゚ -゚彡b「馬の扱いなら任せろ。これでも馬術は得意な方なんだ。目一杯飛ばして行く」

(;^ω^)「馬を潰さないようにお願いするお」
  _、_
( ,_ノ` )「任せたぜ。それと最後に1つ……」

( ^ω^)「言い残し多いですおね。手早くまとめてくださいお」

334 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:55:56 ID:hkY0cu1Q0
  _、_
( ,_ノ` )「まあ、そう言うな。……聖骸布を確保したら、宮廷魔術師殿に届けてくれ」

( ^ω^)「お? ビコーズさんにですかお? 教会ではなく?」
  _、_
( ,_ノ` )「そうだ。頼んだぜ」

( ^ω^)「いいですけど、理由を教えてくださいお」
  _、_
( ,_ノ` )「残念、時間がない。また今度な」

(;^ω^)「ちょ、そのくらいすぐ言えるでしょうお?」
  _、_
( ,_ノ` )「こないだの貸しをチャラにしてやるから」

( ^ω^)「それは今日助けた分で返しましたお」
  _、_
( ,_ノ` )「それもそうか。じゃあ、1つ貸しておいてくれ」

極めて軽い口調だが、目は真剣そのもののシブサワさんに、僕は渋々頷いて返す。
気になる話だが、届け先がビコーズさんならそのビコーズさんから理由を聞けるかもしれない。

335 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:58:15 ID:hkY0cu1Q0

ノリミ゚ -゚彡「話は終わったか? 出すぞ?」
  _、_
( ,_ノ` )「ああ、やってくれ。気を付けてな」

( ^ω^)「シブサワさんも無理し過ぎないでくださいお」
  _、_
( ,_ノ` )「わかってるさ。それじゃあな」

( ^ω^)ノシ「またですお」

( ゚д゚)ノシ「元気でね、わんおちゃん」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕達はシブサワさん達に別れを告げ、再び馬車を走らせる。
色々あり過ぎた1日はようやく終わりそうだが、クエストに関しては何1つ終わらせられていない。

( ^ω^)(……負けたおね、僕達は)

マルタスニムは想定外の相手で、それもかなりの使い手だった。
だったとしても、僕達が負けた事には変わりはない。
負けた事も自体、あんな非道な奴を捕まえられなかった事も悔しくてたまらない。

336 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/26(土) 23:59:49 ID:hkY0cu1Q0

( ^ω^)(また戦う機会は来るだろうかお……)

このままシブサワさんなり騎士団なりによって、マルタスニム捕まえられればそれが一番良い。
けれど心のどこかで、再戦の機会を望んでいる自分もいる。

( ^ω^)(でも、今のままじゃ勝てないおね……)

ノリミ゚ -゚彡「どうした? 中で休んでなくていいのか?」

隣で黙り込んで座っていた僕にクーが声を掛けてくる。
大丈夫だと答えようとしたが、それよりも速く再度クーが口を開いた。

ノリミ゚ -゚彡「まだ終わっていないさ」

( ^ω^)「お?」

ノリミ゚ -゚彡「今回は私達の完敗だったが、クエストはまだ失敗じゃない」

( ^ω^)「お……」

ノリミ゚ -゚彡「だから、そんな顔するなよ」

338 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/27(日) 00:01:19 ID:4tN.ZBj20

どうやらクーに僕の思いは見透かされていたらしい。
一番何も出来なかったのは自分なのだと、クーは悔しそうな顔をする。

川=゚ -゚)「だが、落ち込んでばかりもいられない。私たちにはまだ出来る事がある!」

クーはそう力強く宣言すると、着けていた仮面を外し、馬車の中に放り投げた。

川=゚ -゚)「絶対に聖骸布は私達が取り返すぞ!」

( ^ω^)(……仮面の跡ついてるお。ダセえ)

川=゚ -゚)「おい、返事はどうした?」

( ^ω^)ノ「お、おー、絶対取り返すお!」

川=゚ー゚)「うむ、それで良い」

クーは仮面の跡をつけたまま、にこやかな笑みを向けて来る。
僕はそれがおかしくて、ようやく笑顔を見せる事が出来た。



     第三十二話 戦火の逃走劇 終


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