- 706 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:12:36 ID:Cu3pgnGE0
〜 イチサンの町南西の海 マリン・サースガ号内 〜
;;(;^ω^);;「……」
;;ξ|ii゚听)ξ;;「……」
;;(|ii´_ゝ`);;「北は今の時期過ごしやすいって言ってたの誰だよ……」
;;(;^ω^);;「誰だったでしょうかおねえ……」
;;+(´<_`iil);;「ハハハ、見事な雪景色だねえ……」
(∪^ω^)「わんわんお!」
第三十七話 雪に染まりし最北の町
- 707 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:15:51 ID:Cu3pgnGE0
(;^ω^)「この季節に雪とか有り得ないお」
僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。
(;´_ゝ`)「最近、異常気象が各地で頻発しているのは聞いていたが、ここまでとはな……」
彼の名前はアニジャさん。
王都ソクホウで武器職人をやっていて、からくり・サースガの異名を持つ人だ。
(´<_`;)「イチサンについたらまずは防寒具を揃えないとまずそうだね」
彼の名前はオトジャさん。
アニジャさんの弟で、トレジャーハンターをやっていて、冒険野郎サスガイバーの異名を持つ人だ。
僕とツン、わんわんお、クー、トソン君、ヒート、そしてアニジャさんとオトジャさんはアニジャさん達の船で、
ニューソク大陸最北の町、イチサンに向かっている最中だ。
ニューソク国の王であるモナー王から直々に承ったクエスト、魔王の頭骨を探す為である。
ξ;゚听)ξ「あとどのくらいで到着ですか?」
(´<_` )「1時間ぐらいで着くと思う。ツンさんもクーさん達の様に船内に入っていた方がいいよ」
- 708 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:20:22 ID:Cu3pgnGE0
さほど大きい船ではないが、ボートというわけではないので船内に部屋はある。
甲板にいるよりは船内にいた方が暖かいのは確実だ。
先ほど覗いた時、クーなんかは寒いので毛布を頭から被っていた。
僕はローブで多少の温度調節が出来るから少しはマシなのだが、それでもちょっと寒いと思う。
ξ゚听)ξ「ですけど、監視は必要なんでしょ?」
( ^ω^)「それは僕達がやるから大丈夫だお」
ただ寒いだけならまだいいのだが、それによって海面に流氷なんかが存在する可能性もある。
それをいち早く発見し、回避、もしくは破壊する為に監視が必要なのだ。
( ^ω^)「この場合、破壊するのは僕の魔法が一番適役だし」
(´<_` )「で、僕とアニジャが遠眼鏡で監視と船の操作をすると」
(;´_ゝ`)「俺も船内に入ってたいんだけどな……」
アニジャさんの呟きは無視し、ツンを船内に入らせる。
ツンは申し訳なさそうな顔をしていたが、既に役割分担は出来ているので気にしないで欲しい。
( ^ω^)「まあ、それほど大きい流氷は来ないでしょうしね」
(´<_` )「まだこのくらいの寒さでは海面が完全に結氷することもないだろうね」
- 709 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:23:51 ID:Cu3pgnGE0
この船は砕氷船ではないので、海面が凍っていた場合は進めなくなってしまう。
その場合は僕が魔法で溶かす事になるだろうけど、このくらいの寒さならそこまでの事態にはならないだろう。
グルグル
(((^ω^∪三∪^ω^)))「わんわんお! わんわんお!」
( ´_ゝ`)「流石わんこだ。雪の中でも元気だな」
( ^ω^)「雪は初めてのはずですけど、寒さには強いみたいですお」
僕は舞い落ちる雪の中を嬉しそうに走り回るわんわんおを捕まえる。
元気なのは良い事だが、船上を走り回られるのはちょっと怖い。
( ^ω^)「もうすぐ陸地に着くからおとなしくしてるお」
つ∪^ω^);;
僕がわんわんおを抱いていると、アニジャさんが自分にも抱かせてくれと言って来る。
この寒さで、もふもふなわんわんおは大人気である。
(*´_ゝ`)「フフフ、愛いやつめ」
つ∪^ω^);;
- 710 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:25:51 ID:Cu3pgnGE0
わんわんおが不審者オーラ全開のアニジャさんに噛み付かないか心配だったが、大丈夫だった様だ。
やはりわんわんおが噛み付くのはドクオさんだけらしい。
( ^ω^)「しかし、アニジャさんにはホント申し訳なかったですお」
( ´_ゝ`)「ん? ああ、気にするなって。この寒さは想定外だったが、たまには旅もいいもんさ」
現在、このクエストに参加する予定がなかったアニジャさんがこの船に乗っているのは偏に僕の所為である。
アニジャさんはああ言ってくれるが、本当に申し訳なかったと思う。
(´<_` )「ブーン君が悪いわけじゃないよ。アニジャの事なら気にしないで」
( ´_ゝ`)「そうそう。オトジャの言う通りだぞ」
( ´_ゝ`)「それでも気になるってのなら、イチサンに着いたら飯おごれ。それで勘弁してやる」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
僕は2人の言葉に頭を下げ、海上の監視に戻る。
アニジャさんが船に乗る事になったのは、サースガ邸に貴族が訪ねて来る様になったからだ。
どこで聞いたのか、サースガ邸に逗留している僕に会う為だ。
- 711 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:28:13 ID:Cu3pgnGE0
一応、尋ねて来た貴族の人達は王の言葉を守り、
僕の事を公にしない為にアニジャさんの武器を見に来た体で来てくれはしていた。
しかしながら、日に何人も来られるとアニジャさんはその応対で作業が中断するし、
僕としてもあまり会いたいわけではなかったので、早めに出発してソクホウを離れる事にしたのだ。
その際、アニジャさん達や今まで伝えていなかったトソン君達にも僕の出自の話をした。
何故こうなったかの理由はちゃんと説明しておかないと申し訳ないと思ったのだ。
約1名以外は皆驚いてはいたが、それで何かが変わるわけでもないからとすんなりと受け入れてくれた。
その驚かなかった1名、ヒートはじいちゃんの事をよく知らないようだった。
取り敢えず僕が悪いわけではないならどうでもいいと言ってくれた。
(´<_` )「そろそろイチサンの港が見えるはずだ」
( ´_ゝ`)「はーるばる来たぜイチサンへー、っと」
つ∪^ω^)「わんお!」
( ^ω^)「このまま問題なく行けそうですおね」
僕の予想通り、そこからは特に問題も起こらず、無事イチサンの港に入港する事が出来た。
- 712 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:29:11 ID:Cu3pgnGE0
〜 イチサンの町 西部 〜
(゚、゚トソン「あれ? アニジャさんは船に残られるのではなかったのですか? 何でいるんです?」
(:´_ゝ`)「上陸して開口一番がそれ? 俺が来ちゃ駄目なの?」
僕達はイチサンに入港し、船を停泊させて町へ向かう。
トソン君が言ったように、アニジャさんは船内で武器作りの作業をするという名目で来ているが、
折角来たのだから観光もしたいのだろう。
;;川lii゚ -゚);;「取り敢えずは服屋を探そうか。海上よりはマシだが、寒くてかなわん」
(´<_` )「そうだね。まずは防寒具を揃えようか」
僕等はクーの提案を受け入れ、服屋を探す。
幸い、港に近い場所に防寒具を扱っている店があったので、それぞれ厚手の毛皮の上着や手袋などを買った。
∩ξ゚听)ξ∩「ちょっと動き辛いわね……」
( ^ω^)「まあ、しょうがないお」
- 713 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:30:09 ID:Cu3pgnGE0
戦闘になりそうな場合も考えて、なるべく動きやすい物を選びたかったが、そんな都合のいい防寒具はなかった。
精々、厚手のインナーとかサポーターみたいな部分的に着けるものぐらいだろう。
ξ゚听)ξ「外に探索にいく場合はそっちにするしかないかな」
ノパ听)⊃「この程度の寒さで情けないぞ、我がライバル!」
ξ゚听)ξ「クー、あんたちょっと着込み過ぎでしょ。何枚ズボン履いてんのよ」
ヽノハT儺)ノ「無視すんなよー」
ξ゚听)ξ「うるさい、近付くな」
この程度の寒さは問題ないと言い切るヒートさんは、普段通りの胴着のままだ。
見ているこっちが寒くなりそうな格好で、明らかに僕らや現地の人と比べても浮いている。
ξ゚听)ξ「あんたの所為でこっちまで変な目で見られそうなのよ。せめて上着くらい羽織ってなさい」
ノパ听)∩"「心頭滅却すれば火もまた涼しという言葉を知らんのか? そんなものは心の持ち様で何とかなる!」
ξ゚听)ξ「逆よ、馬鹿」
- 714 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:31:21 ID:Cu3pgnGE0
川*゚ -゚)「よし、これで何とかなるな」
つ∪^ω^)「わんわんお!」
完全防寒仕様で、ちゃっかりわんわんおまで抱いたクーが先に立って歩き始める。
ひとまず目的地は長老の家という事で、そこを探す事にした。
( ´_ゝ`)「ま、適当に現地の人に聞いてみれば知ってるだろうな」
(´<_` )「失礼、そこの人。この町の長老の家というのはどこにあるのかご存じないかい?」
(´・_ゝ・`)「すまない、私も旅人なんでこの町には詳しくないんだ」
オトジャさんはいかにも、ここはイチサンの町ですとでも答えてくれそうな特徴のない人に話しかけたのだが、
まさかの旅人であった。
その後の、別の人に尋ねると今度は現地の人だったようで、場所を教えて貰うことが出来た。
( ^ω^)「古いようで新しい町って印象だお」
歩きながら見る町の景色は、積もった雪の所為で今一つわかり辛い所もあったが、比較的新しい建物が多い様だ。
戦争で焼失している箇所も多いのだから、建物は新しくて当然である。
しかし、何となく町全体から昔ながらの町の様な雰囲気を感じる。
( ^ω^)(そして僕にとっては、色々と考えさせられる町なんだおね……)
- 715 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:33:10 ID:Cu3pgnGE0
(´<_` )「古くからのしきたりや慣習が色濃く残っている町だからね」
町から感じる新旧織り交ざった感じは、1度壊れ、
復興する際に人々が拠り所とした物がそういった慣習や地縁であったからだとオトジャさんが説明してくれる。
戦後の混乱で、王都からの援助もままならぬ中での復興作業を行った結果、
古い村社会の様な形態が自然と形成されたという。
川 ゚ -゚)「だから町長ではなく、長老と呼ばれているのか」
(´<_` )「正式な役職名は町長なんだけどね。慣習的にそう呼ばれてる事もあるようだね」
港近辺や商業区域などは近代的な作りになっているが、町の多くは地縁社会だと、
オトジャさんは歴史家のような知識を披露してくれる。
(´<_` )「なに、トレジャーハンターの嗜みだよ。歴史を知っていれば、遺跡や財宝の発見の助けになるからね」
(゚、゚トソン「なるほど、勉強になります」
ξ゚听)ξ「そういう歴史的な背景も気になりますけど、独特の建物の造りは気候の影響が大きいんですよね」
(´<_` )「そうだね。降雪量の多い地域だから、屋根が荷重に強い造りになってたりするね」
( ^ω^)「この辺じゃ、このくらい雪が積もるのは珍しくもなんともないでしょうおね」
(´<_` )「だろうね。ただ、この時期でこの積雪は流石に珍しいだろうけどね」
- 716 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:34:45 ID:Cu3pgnGE0
ノハ*゚听)「よーし、見てろよ、わんお!」
(∪*^ω^)「わんわんお!」
∩ノハ*゚听)∩「必殺! でんぐり返しスペシャル!」
(∪*^ω^)「わんお!」
何やら騒がしい声がすると思ったら、ヒートとわんわんおが雪上をはしゃいで転げ回っていた。
気付けば既に2人とも雪塗れだ。
ξ;゚听)ξ「止めなさい! ここ、普通の通りなんだから、ほら、通行人の邪魔になってるでしょ!」
現地の人であろう道行く人々は、はしゃぐヒート達を見て笑っていた。
悪感情は持たれていないようだが、流石にちょっと恥ずかしいと思う。
ノハ*゚听)「だが断る! 食らえ、大座亜轟ッ!」
ξ#゚听)ξ「当たるか、このアホ!」
(#)´_ゝ`)「グボァッ!?」
- 717 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:36:12 ID:Cu3pgnGE0
回転しながら突進して来るヒートをひらりとかわすツン。
ヒートはツンの背後にいたアニジャさんを薙ぎ倒し、回転を止めて起き上がる。
ノハ*゚听)「やるな、流石は我がライバル!」
ξ#゚听)ξ「だからライバルって呼ぶな! あんたと同類に思われたくないのよ!」
( ^ω^)「2人とも、遊んでないで先に行くお」
∩(∪*^ω^)∩「わんお!」
僕の呼びかけにヒートの真似をして転がるわんわんお。
なかなか上手いが、ヒートの様に連続して転がる事は出来ないらしい。
( ^ω^)「あとでたっぷり遊ばせてあげるから、ひとまず長老さんの家に行くお」
つ∪*^ω^)「わんわんお!」
(´<_` )「ほら、アニジャも遊んでないで行こうか」
(#)´_ゝ`)「いや、俺は遊んでたわけじゃ……」
そんなこんなで僕達は、イチサンの町中を歩き、長老の家に辿り着いた。
- 718 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:37:35 ID:Cu3pgnGE0
〜 イチサンの町 長老宅 〜
長老宅はそれほど大きな建物ではないが、全焼を免れたらしく、古い造りが残る部分が目立つ。
ヴィップと同じく、町の運営は庁舎ではなく個人宅をそのまま使っているらしい。
受付でビコーズさんからの書簡を渡すと、程なくして長老と面会する事が出来た。
( ^ω^)「お忙しい中、時間を取って頂いてありがとうございますお」
(*゚ー゚)「ようこそ、イチサンの町へ。私は町長のシィ=ダンヴォールです」
通された部屋には長老というにはだいぶ若い女性が待ち受けていた。
どうやらこの人がイチサンの町の長老らしい。
僕らは出された温かいお茶を頂きつつ、それぞれ軽く自己紹介をした。
(*゚ー゚)「ソクホウからの長旅でお疲れでしょう。必要なら、宿所の手配をさせますが」
( ^ω^)「いえいえ、そんな事でわざわざ長老さんのお手を煩わせるつもりはありませんお」
(*^ー^)「そうですか? では、本日はどういった御用向きで、この 町 長 宅にお目見えで?」
- 719 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:38:42 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「いくつか長老さんに聞きたい事があるんですお。勿論、わかる範囲で答えて頂ければ結構ですお」
_,
(*^ー^)「わかりました。この 町 長 にわかることであれば、いくらでもお聞き下さい」
( ^ω^)「助かりますお。長──」
突然、質問をしようとした僕の脇腹に軽い衝撃が走る。
何事かと思えば、何故かツンが僕に肘鉄を食らわせていた。
(;^ω^)「急に何だお?」
ξ;゚听)ξ「いい加減に察しなさい、馬鹿」
ツンが僕の耳を引っ張り、こっそりと長老さんの方を指差して耳打ちをする。
心なしか長老さんの顔が引きつっているように見えるのは気の所為だろうか。
(;^ω^)「えっと……長──」
_,
(#^ー^)「はい、 町 長 がお答え致しますので、御質問をどうぞ」
そこでようやく僕は、長老がやけに自分のことを町長と強調して言っている事に気付いた。
ひょっとして自分が長老と呼ばれることを気に入ってないのだろうか。
- 720 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:40:33 ID:Cu3pgnGE0
- _,
(#^ー^)「前町長が高齢だった事もあり、その跡を継いだ私も慣習的な呼び名で呼ばれる事はありますが」
_,
(#^ー^)「正式な役職は町長ですので、出来ればそう呼んで頂きたいですね」
(;^ω^)「そ、そうですおね、失礼致しました」
(∪^ω^)「わんおー」
_,
(#^ー^)「いえいえ、お気になさらず」
そう言ってくれる長老……町長さんだが、その顔はどう見ても怒っていて、気にしないわけにはいかない。
交渉の最初から大きく躓いたのは明らかに僕のミスだ。
こういう場合はさり気なくお世辞を混ぜて、挽回せねば商売人の名が廃る。
( ^ω^)「お綺麗ですし、明らかに老なんてお年に見えませんお」
(*^ー^)「あら、お上手ですね。お世辞は結構ですよ」
( ^ω^)「いえいえ、ホントにお若く見えますお」
(*^ー^)「いくつに見えます?」
( ^ω^)
- 721 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:41:32 ID:Cu3pgnGE0
町長から浴びせられる質問に僕は思わず固まってしまう。
何の気なしに出された質問の様に聞こえるが、これは答えを誤るととんでもない事になる。
町長の様に、年齢の事を気にしている妙齢の女性に対しては特にだ。
この場合、気を悪くさせない様に、明らかにお世辞とわかるほどの若い年齢を答えるのが一番無難な回答だ。
しかし、露骨なお世辞を嫌う人もいるから絶対ではない。
逆に一番よろしくないのは、実年齢にかなり近い数値で、少しだけ上の回答だろう。
妙にリアリティがあり、実年齢より老けて見えるのだと落ち込ませてしまう。
それならいっそ大幅に上に外して冗談にしてしまう方がまだいい。
( ^ω^)(考えろ……、考えるんだ、僕。町長さんはいくつに見えるかお?)
10代は当然有り得ないとして、20代前半も恐らくないだろう。
20代前半ならまだ余裕や自信に溢れ、ここまで年齢の事は気にしないはずだ。
( ^ω^)(ならば30……いや、40……駄目だお、ここは慎重に……)
(*^ー^)
熟考するほどの時間はない中、僕はこれまで培って来た商売人としての経験や眼力を総動員し、
1つの回答に辿り着く。
誤れば今回のクエストに対し、大幅に影響する可能性のある回答を、僕は極めて自然な調子で口にする。
- 722 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:43:10 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「3……いや、28ってとこですかお?」
(*^ー^)
( ^ω^)(外したかお!? いや、外すのは前提! 問題は上か下か、差はいくつかだお……)
僕は町長の一挙手一投足に注視し、返答を待つ。
握る手の平に汗が滲むのを感じた。
(*゚ー゚)「あー、惜しいですね。そこまで若くないですよ」
( ^ω^)「お? そうでしたかお?」
外した。
しかしこれは想定内。
問題はその差分だ。
(*^ー^)「でも、かなりいい線いってましたよ。流石、商売をやっておられるだけはありますね」
( ^ω^)(Yes!)
- 723 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:44:35 ID:Cu3pgnGE0
先ほどまでとは違う、穏やかな微笑み。
どうやら僕は彼女が望む、お世辞とはわからぬ程度に近い範囲の下の回答を導き出せたようだ。
リアリティを感じられる範囲で、年齢より若く見られたと上機嫌にさせる事が出来た。
(*^ー^)「正解は32でしたー」
少しおどけた調子で正解を発表する町長。
だいぶ機嫌を直してくれたようなので、これでこの後の話はスムーズに行きそうだ。
( ´_ゝ`)「ん? 十分長老って年じゃね?」
(*^ー^) ピキッ
( ゚ω゚)
アニジャさんの一言で、極寒の地の空気が更に冷たさを増し、瞬時に凍り付く。
笑顔のままの町長の顔が、心なしか震えて見えるのが寒さの所為であれば良かったのに。
(´<_`;)「馬鹿! アニジャ、レディに対して失礼な事を言うんじゃない!」
( ´_ゝ`)「んー? 俺、何か悪い事言ったか?」
(´<_`;)「いくらホントの事でも言って良い事と悪い事があるだろ? いいからアニジャは黙って──」
- 724 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:46:07 ID:Cu3pgnGE0
ξ#^竸)ξ///⊃「はい、ドーン!」
神速の踏み込みからのツンの両の拳がアニジャさんとオトジャさんの腹に突き刺さる。
2人は断末魔の悲鳴を上げる事もなく、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
(;^ω^)「えーっと……その……大変お見苦しい所をお見せして……」
_, ,_
(#^ー^)「いえ、お気になさらず。どうぞ、この 長 老 に御質問下さい」
(;゚ω゚)(滅茶苦茶怒ってらっしゃるぅぅぅぅっ!!!)
ものすごく聞き辛い空気の中、僕は引きつった笑顔で質問を催促する町長さんに、事の経緯を説明する。
この状態で話を聞いてくれるのはビコーズさんの紹介状があるからだろう。
王家の印がなければ、即刻追い出されていてもおかしくはなかったと思う。
_, ,_
(#^ー^)「なるほど、お話はわかりました……」
(;^ω^)「そ、そういうわけでして、その、何か知っている事があれば、教えて頂ければと……」
極めて低姿勢からの僕のお願いに、引きつっていた顔を真顔に戻し、町長はしばし考え込む。
そのものずばりの答えを期待しているわけではないが、何らかの探索の指針になる情報は入手したい。
- 725 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:47:48 ID:Cu3pgnGE0
(*- -)「難しい所ですね……御存知の様に、ここは竜との戦争で町の多くが消失し」
(*- -)「過去の記録もだいぶ焼けてしまってますので」
( ^ω^)「はい、……話には聞いておりますお。ですから、口伝とかそういった物に期待するしかないのかと」
( ^ω^)「そう思って、町長さんの所を訪ねたというのもありますお」
(*゚ー゚)「シィで結構ですよ。……そもそも役職で呼ばれるから、こういう空気になったんですし」
(;^ω^)「ホントすみませんお。そう呼ばせてもらいますお」
(*゚ー゚)「はっきり申してしまえば、その様な魔具についての伝承は聞いた事はありません」
(;^ω^)「そうですか。では、他を当たるべきですかおね」
(*゚ー゚)「ただ、1つ気になる事はあります」
(;^ω^)「お?」
(*゚ー゚)「どうして皆さんはそれがここにあると思ったんです?」
- 726 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:49:29 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「それは、そういう噂があると……」
川 ゚ -゚)「なるほど、確かに不自然だな」
(*゚ー゚)「お気付きになられましたか?」
僕が何の事か考えていると、いち早く気付いたらしいクーが話に割って入った。
そして未だ理解していない僕に、どういう事か説明してくれる。
川 ゚ -゚)「ソクホウにまで知れ渡っている噂が、何故この町の町長であるシィさんが知らないのかって話さ」
クーの言葉に、シィさんが頷く。
なるほど、そう言われると確かに不自然だ。
(*゚ー゚)「町長といえど、町も歩けば日常的に買い物などもしています」
(*゚ー゚)「その際に買い物帰りの奥様方と、世間話に興じる事もあるのですよ」
噂話に疎いわけではないという事だろう。
となると、どういう事かになるのか、何となく僕にも見えて来た。
( ^ω^)(そういう噂はなかったって事かお?)
- 727 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:51:22 ID:Cu3pgnGE0
少なくとも、大々的な噂にはなっていないと考るべきだろう。
だとすれば、信憑性についてはかなり薄い事になってしまう。
それなのに、僕らを北に行かせたという事は、確証があったかそれとも無駄足を踏ませたかったかのどちらかだ。
( ^ω^)(これはちょっと出直した方がいいかもしれんお)
北にある事を疑いもせずにここまで来たが、裏付けは全く取っていない。
取るまでもなく信用出来る相手だと考えていたのだ。
僕は思わずツンの方に視線を向ける。
(*゚ー゚)「あ、お茶のおかわりをお持ちしますね。どうぞご寛ぎ下さい」
シィさんはかなり空気が読める人らしく、いいタイミングで席を外してくれる。
お茶は口実で、僕らに話す時間をくれたのだと思う。
( ^ω^)「助かりますお」
僕はシィさんに頭を下げ、シィさんが部屋を出るとすぐに皆と相談を始めた。
まずは先ほど僕が考えていた事を話すと、すぐにクーが自分の考えを示してくれる
- 728 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:53:22 ID:Cu3pgnGE0
川 ゚ -゚)「恐らく信憑性はあったのだと思うぞ」
( ^ω^)「僕もどっちかと言えばそう思ってるお。けど、それだと……」
川 ゚ -゚)「何故皆まで言わなかったか、だろ?」
( ^ω^)" コクッ
ビコーズさんが北にあると確信していたのだとすると、その理由や、
ひょっとしたらどこにあるかまで把握していた可能性もある。
だとしたら、何故それをあの時に僕達に教えなかったかがわからない。
(゚、゚トソン「僕はその理由が何となくわかる気がします」
川 ゚ -゚)「ああ、私も何となくそうじゃないかなと思ってる」
ξ゚听)ξ「教えなかった明確な理由があるの?」
(゚、゚トソン「明確な理由といいますか、あの方ならやりそうかなと」
川 ゚ -゚)「あれだな、あの人から物を習う時は大体そんな感じなんだよな」
- 730 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:56:02 ID:Cu3pgnGE0
2人の言い分によると、ビコーズさんは大体において全て答えを教えてくれる事は稀で、
ある程度は自分で考えさせるように仕向けてくるのが常だったという。
( ^ω^)「なるほど。けどそれって、勉強とかそういう話の場合だおね?」
(;^ω^)「割と重要なクエストの際にそういう情報を渋るのはどうかと思うお」
ξ゚听)ξ「……だから、勉強なんじゃないの?」
(;^ω^)「お? どういう……」
ツンに聞き返そうとしたが、その視線の向き、クーの方を見ている視線で僕は言葉の意味を察する事が出来た。
すぐに魔王の頭骨を見付けて帰るだけなら、クーに経験を積ませる機会は減るだろう。
(;^ω^)「納得がいくようないかないような……」
川 ゚ -゚)「そういう所がある人だ。諦めろ」
他人事の様に言うクーだが、試されているのが自分だと知ればどういう顔をするだろうか。
- 731 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:57:13 ID:Cu3pgnGE0
ξ゚听)ξ「噂について詳しく聞かなかった私達のミスよ。ここまで来たんだし、信じて乗るしかないわ」
(;^ω^)「ツン……」
ツンはビコーズさんが今一つ信用出来ないと言っていた。
てっきりこの流れだと、腹を立てて一旦ソクホウに帰るとでも言い出すと思っていたので少し意外だった。
ξ゚听)ξ「ま、それで納得したとして、今度どうするべきかよね」
ノパ听)「腹が減ったから昼飯にしようぜ!」
(∪^ω^)「わんわんお!」
ξ゚听)ξ「ヒートは黙ってなさい。わんおもね、もうちょっと我慢してて」
ビコーズさんの思惑に乗るとして、この後シィさんから何を聞き出すべきか。
考え付くのはまず、この町で現在起こっている異変だろう。
川 ゚ -゚)「それは聞くまでもなく、この異常気象と言われそうだがな」
- 732 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:58:31 ID:Cu3pgnGE0
ξ゚听)ξ「そうね。そもそもこの異常気象の原因は何なのかしら?」
( ^ω^)「原因がわからないから異常気象なんじゃないかお?」
ξ゚听)ξ「わからないだけで、ないわけじゃないでしょ?」
(゚、゚トソン「となると、それを探すべきなのでしょうかね」
ξ゚听)ξ「全く関係ない可能性も考えると、他に何かおかしなことが起こってないかも聞くべきでしょうね」
率先して話を主導していくツン。
聞いていると的確に感じるし、僕は助かるが少し珍しいかもしれない。
僕達は現在町で起こっている事を色々と聞いてみるという事でひとまず方針を定め、シィさんが戻るのを待った。
(*゚ー゚)「お待たせしてすみません」
それから程なくして戻って来たシィさんは何人かの女性を従え、お茶とお菓子の乗った皿を僕達の前に並べる。
ノハ*゚听)「おお、美味そうだ!」
(*^ー^)「どうぞ召し上がれ。私の手作りですが、お口に合えば幸いです」
- 733 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 22:59:52 ID:Cu3pgnGE0
シィさんに勧められるままに、あまり馴染みのない形をした焼き菓子を手に取る。
独特の風味があり、人によっては苦手と思うかもしれないが、僕はそれなりに美味しいと感じた。
ξ゚听)ξ「早速ですが、いくつかこの町の事でお聞きしてもよろしいでしょうか?」
(*゚ー゚)「はい、私に答えられる事であれば何なりと」
まず異常気象についてだが、予想通り原因はわからないらしかった。
過去にそういった例があるか聞いた所、かなり難しい顔をされてしまう。
(*゚ -゚)「あるにはあったらしいのですが、もし今回の理由もそれが原因なら、かなりの大事になりますね」
( ^ω^)「具体的に聞いてもよろしいですかお?」
(*゚ -゚)「これはまだ未確認なので、口外しないよう願います」
ξ゚听)ξ「はい、お約束します」
(*゚ -゚)「過去にこの時期に雪が降った時は、氷竜が飛来した所為だと言われております」
(;^ω^)「氷竜って、あの?」
- 734 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:01:48 ID:Cu3pgnGE0
氷竜、天空竜と同じく古代竜の1匹で、その力は強大だ。
もしこの雪が氷竜が原因だとすれば、盟約を破って氷竜がこの地に来ているのかもしれない。
だとすれば、かなりの大問題である。
ξ゚听)ξ「なるほど、ではそちらは私達が追っている件とは関係なさそうですね」
(;^ω^)「お? どういう……あ……」
ξ゚听)ξ
σ∪^ω^)
そういえばビコーズさんは、今の所、竜に動きはないと言っていたはずだ。
それが間違いであれ正解であれ、氷竜の事を知らなかった時点で今回の件とは関係ないと判断出来る。
どちらにしろ僕としては、万が一の事を考えるとわんわんおを連れて古代竜には会いたくないので、
別方向から探すべきだろう。
(*゚ー゚)「その他で最近噂になっている事といえば、幽霊船でしょうかね」
川;゚ -゚)「幽霊船? 随分と不気味な噂だな……」
シィさんの話によると、イチサンの北の海に最近海難事故が頻発している場所があるという。
軽いものでは船体が破損したり、マストが破けたり、
ひどいものになると船体に穴が開いて船が沈んだケースもあるらしい。
- 735 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:03:24 ID:Cu3pgnGE0
(*゚ -゚)「その時に決まって濃い霧が立ちこめ、不審な船の目撃情報があるのですが……」
その船には人気がなく、現在も運用されているとは思えないくらい朽ちた見た目をしていたという。
(゚、゚トソン「それで幽霊船ですか……」
僕達はしばし考える。
この手の幽霊、亡霊話は、何かしらのモンスターか、もしくは魔法ないし魔法道具が原因とされる事が多い。
そう考えると、魔王の頭骨という魔具はこの条件に当てはまる。
調べてみるのも有りかもしれない。
+(´<_`*)「幽霊船! 浪漫溢れる響きだね!」
( ^ω^)「あ、オトジャさん起きたのかお」
僕はもう1回眠らせようと拳を握るツンを押し止め、オトジャさんに見解を聞く。
トレジャーハンターはこういった怪現象にも詳しかったりするのだ。
(´<_` )「そうだね、極めてシンプルに考えるなら、千年紀を迎えて力を取り戻した魔王の頭骨が」
(´<_` )「沈んだ船に力を与えている可能性はゼロじゃないと思う」
- 736 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:06:00 ID:Cu3pgnGE0
過去にそれと知らず魔王の頭骨を積んだ船が沈み、
今になって蘇ったという浪漫溢れる話じゃないかとオトジャさんは予想する。
そこに浪漫があるかどうかはともかく、その説明だと1つ気になる事もあった。
( ^ω^)「確か3つの魔具って、単体じゃ力を持たないんじゃなかったんですかお?」
魔王の衣をモナー王に渡した時、ビコーズさんがそんな事を言っていたのを覚えている。
しかし、オトジャさんの話によると、それは正しくないという事だ。
(´<_` )「ソクホウに戻ってから色々と調べたんだが、それは魔王の衣に限った話だね」
(´<_` )「魔王に近付くに連れてその力は増すようだよ」
簡単に言えば、魔王の朱玉、魔王の頭骨、魔王の衣の順で強い力を持つらしい。
特に魔王の朱玉は、単体でもかなりの魔力の増幅効果を持つとか。
( ^ω^)「よくそんなの短期間で調べられましたおね」
+(´<_` )「まあ、僕にかかればこの位はね」
- 737 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:08:07 ID:Cu3pgnGE0
川 ゚ -゚)「頭骨はわかるが、朱玉は何なんだ? 何でそれほどの力があるんだ?」
(´<_` )「朱玉の別名は、魔王の心臓とも呼ばれているからね。そう考えれば納得いくだろ?」
オトジャさんのお陰で今の疑問は氷解したが、代わりに気になる事も出て来た。
魔王の朱玉はメシューマの闘技大会の賞品にされている。
それほど力のあるものを賞品にするとは、客寄せにしては少々物騒だ。
ξ゚听)ξ「今はその話は後回しでいいでしょ」
(゚、゚トソン「在り処がわかっているのなら、王家の方で直接交渉するでしょうしね」
川 ゚ -゚)「だな。じゃあ、この幽霊船を調査してみるって方向でいいのか?」
クーの言葉に僕は全員の顔を見渡す。
その他の噂話もシィさんに聞くとしても、皆特に反対はない様だし、この件は追ってみてもいいだろう。
+(´<_` )「というわけで町長さん、その幽霊船が出る海域とやらを詳しく教えてくれませんか?」
(*^ー^)「お断りします」
(´<_`;)「え?」
- 738 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:11:04 ID:Cu3pgnGE0
(*゚ー゚)「この件は住民との協議の結果、今の所極秘で私が預かっております」
(*゚ー゚)「私としては教えてあげたい所ですが……」
(*^ー^)「長 老 としての立場では、その腕に信の置けないものに無闇に話すのは憚られますので……」
(;^ω^)(うわあ……根に持たれてるお……)
にこやかに微笑みながら、先ほどの意趣返しとばかりにきっぱりとオトジャさんに言い放つ長……シィさん。
失言した1人であるオトジャさんに話させたのはまずかったかもしれない。
もっともらしい言い分だが、その顔を見る限り、先ほどの意趣返しなのだろうなと思わざるを得ない。
ξ゚听)ξ「それなら、腕が確かならいいという事ですか?」
(*゚ー゚)「そうですね。何でも聞いて下さいと言っておきながら、無下に断るのも理不尽ですし……」
< カタン
( ^ω^)「お?」
(∪^ω^)" ピクッ
不意にドアの方で小さな音が鳴った。
視線をそちらに向けると、ドアが開いたわけではない様だ。
- 740 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:16:10 ID:Cu3pgnGE0
(;^ω^)(まさか幽霊だなんてタイムリーな事はないおね……)
視線を下げると、わんわんおがゆっくりとドアの方へ向かう姿が見えた。
そしてその先にも、わんわんおより少し小さめの影が1つ。
. ∧∧
.(*゚∀゚)「なー」
川 ゚ -゚)「何だ、猫か」
(*゚ー゚)「ああ、私の飼い猫のつーです」
部屋に入って来たのは真っ黒い猫であった。
名前はつーというらしい。
よく見ると、ドアに小さな猫用の回転ドアがついていた。
. ∧∧
.(*゚∀゚) (^ω^∪)
( ^ω^)「お、わんお、ケンカしちゃ駄目だお」
- 741 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:17:36 ID:Cu3pgnGE0
気付けばわんわんおはつーの少し手前で立ち止まり、じっとその様子を観察している。
過去に他の犬と遊ばせた事はあったが、猫と遊ばせた事はない。
ほとんどの猫は、嬉しそうに吠えながら近付くわんわんおに警戒心を抱いて逃げてしまう。
いきなり走って行かない所を見ると、わんわんおも少しは学習したのだろうか。
. ∧∧
.(*゚∀゚) (^ω^∪)...
そのままじりじりと近付き、わんわんおはつーの目の前まで辿り着く。
つーの方は微動だにせずそれを見詰めていた。
ξ゚听)ξ「犬から逃げないんですね」
(*゚ー゚)「やんちゃな子ですので、怖がらないんだと思います」
川 ゚ -゚)「肝の据わった猫だな」
話そっちのけで僕達は2人の様子を見守る。
動物同士が戯れる姿は、見ていて心が和むものだ。
- 742 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:19:23 ID:Cu3pgnGE0
. ∧∧ナッ バキッ
.(*゚∀゚) (#)ω<∪)そ
⊂彡
(;^ω^)「あ……」
(;*゚ー゚)「あらら……」
どうやらファーストコンタクトには失敗したようだ。
つーはわんわんおの横っ面を叩くと、そのままシィさんの所へ走る。
(;*゚ー゚)「すみません、うちのつーが……」
つ*゚∀゚)「なー」
(;^ω^)「いや、まあ、犬と猫ですしね。そう簡単には仲良くなれないでしょうお」
つ)´ω`∪)
申し訳なそうにするシィさんがだつーが悪いというわけでもない。
種族の違いという壁はなかなか高いものであろう。
猫が子猫で犬が成犬とか、子供同士なら仲良くなることもあると思うが、見た所、つーは大人の猫に見える。
- 743 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:22:03 ID:Cu3pgnGE0
(´<_` )「そうそう、動物同士のケンカはよくある事ですよ。お気になさらずに」
+(´<_` )「さて、シィさん、先ほどの話ですが……」
(*^ー^)「お断りします」
ξ゚听)ξ「あの、シィさん、先ほどの腕を示すという件ですが……」 ノ(´<_`iil)\ ズーン……
(*゚ー゚)「はい、そうでしたね。えーっと……あ……」
何かを思い付いたのか、少々お待ちくださいとの言葉を残し、シィさんはつーを抱いたまま部屋を出ていった。
それからさほどの時間をおかず、シィさんは戻って来る。
(*゚ー゚)「お待たせしました。ちょっと失礼」
つ*゚∀゚)
(゚、゚トソン「あ、はい」
シィさんは椅子には座らず、部屋の奥、窓の方に向かう。
(*゚ー゚)「こちら、お見えになりますか?」
つ*゚∀゚)
そう言ってシィさんは、つーを両手で抱いて僕らの方に見せ付ける。
- 744 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:24:43 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「見えますけど、かわいい猫ですおねとしか言えないですお」
(*゚ー゚)「どうもありがとう。ですが、見て欲しいのはこの首輪です」
つ*゚∀゚)「なー」
つーの首には飼い猫らしく、首輪が付いている。
ごく普通の首輪に見えるが、正面に何か大きめの丸いものが付いていた。
(*゚ー゚)「ここに先ほどの幽霊船が出る海域の情報書き記したものが入れてあります」
( ^ω^)「お……」
(*゚ー゚)「ここは1つ、ゲームでもしましょうか」
川 ゚ -゚)「ゲーム?」
(*゚ー゚)「さあ、つー」
∧∧
彡(*゚∀゚)っ「なー」
つーは一声鳴くと、シィさんが開けた窓から外に飛び出していった。
これはつまり、情報が欲しければつーを捕まえろという事であろうか。
- 745 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:27:15 ID:Cu3pgnGE0
(*^ー^)「その通りです。あ、町の人から海域の情報を聞こうとしても無駄ですよ?」
(*゚ー゚)b「先ほど緘口令を敷きましたから」
ξ;--)ξ「用意周到な事ですね……」
ツンはそう言って肩をすくめたが、この状況ではシィさんの言うゲームに付き合うしかなさそうだ。
( ^ω^)「まあ、そういう事ならちゃちゃっと捕まえて……」
(*゚ー゚)「そうそう、武器や魔法の使用は禁止でお願いしますね」
(;^ω^)「お、武器はわかるとして、魔法もですかお?」
(*゚ー゚)「あくまで皆さんの腕試しですので、あんまり簡単に終わっては試せないでしょ?」
川 ゚ -゚)「仕方ない、乗ってやろうじゃないか。なに、猫ぐらい簡単に捕まえて見せるさ」
d(゚、゚トソン「はい、猫の1匹や2匹、我々にかかれば軽く一捻りですよ!」
(;^ω^)「捻るなお。あんまり無茶はやめてくれお」
- 746 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:28:32 ID:Cu3pgnGE0
(*^ー^)「言い忘れてましたけど、つーは町の皆さんにも人気がありますので」
(*^ー^)「つーの手助けをするために貴方達の妨害をしてくる人もいますけど、上手く退けて下さいね」
ξ;゚听)ξ「なるべく手加減しますけど、そちらもあんまり無茶させないで下さいね?」
何だか思ったより大袈裟な状況になって来ているが、今更後には引けない。
こちらには身の軽いツンやヒートもいる事だし、何とかなるだろう。
( ^ω^)「って、あれ? そういえばヒートは?」
先ほどから随分と静かだなと思ってヒートの姿を探してみると、その姿が見当たらない。
q(゚、゚トソン「こちらに」
ノハ--) zzz...
(;^ω^)「寝てやがるお……」
トソン君が指差す先にヒートの姿はあったが、完全に熟睡状態だった。
それを僕が起こすより早く、ツンが揺り起こす。
- 747 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:30:29 ID:Cu3pgnGE0
ノハう-)「んあ……? 昼飯か?」
ξ#゚听)ξ「その前に一仕事。猫を捕まえるのよ! お昼ご飯はその後!」
ノパ听)「よしわかった! 猫だな! 行くぞ!」
そう言うなりヒートは開いていた窓から飛び出して行った。
この調子なら簡単に捕まえてくれそうだと期待出来るが、問題も1つある。
(;^ω^)「ヒート、つーの姿見たっけかお?」
ξ;--)ξ「……戻って来た時に教えましょ」
(*^ー^)「それじゃあ、皆さん方も準備はよろしいですか?」
(*^ー^)つ「第8回、チキチキつーちゃん捕獲大作戦、スタート!」
(;^ω^)「第8回って、今までにも同じ事やって来たのかお?」
(*゚ー゚)「皆さん達の様に、何かしらの情報を求めて来た冒険者相手にやった事ありますよ」
(;^ω^)「何となくそんな気はしてましたお」
- 748 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:34:11 ID:Cu3pgnGE0
ξ゚听)ξ「じゃあ、私も行きましょうかね」
(*゚ー゚)「さて、実況席の準備しないと。あ、よろしければそちらから解説を1人お借りしたいのですが」
(;^ω^)(この人、滅茶苦茶楽しんでるおね……)
何でこんな事になったのかと頭を抱えつつも、こうなったらやるしかない。
とはいえ魔法が使えない状況では、僕に出来る事はだいぶ限られて来る。
( ^ω^)「ここは1つ、わんおにがんばって貰おうかお」
(∪*^ω^)=3「わんわんお!」
( ^ω^)「お、随分と気合入ってるおね。頼むお!」
彡(∪*^ω^)っ「わんお!」
僕は窓から飛び出していくわんわんおを見送り、自分も窓から外に出る。
真っ白なわんわんおの姿は、雪に紛れて既によく見えない。
( ^ω^)「がんばれお、わんお」
- 750 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:35:51 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「あ、解説はそこで寝てるアニジャさんで」
(*^ー^)「お断りします」
( ^ω^)「ですおねー」
僕は実況席を作ると言うシィさんを手伝う。
この流れだと、僕が解説をしないといけないのだろうか。
(*゚ー゚)「ギルドの方に手伝って貰って、遠視の魔法道具、通称カメラも設置しますのでここは特等席ですよ?」
(;^ω^)「本格的過ぎるお」
(*゚ー゚)「それを媒介に魔法で指示を出すのも許可しますが?」
( ^ω^)「おk、そうさせて貰いますお」
僕は用意した席に着き、目の前の水晶を眺める。
これを媒介にしろという事だろう。
更にここに映る映像を、向かいの家の壁に投影する様だ。
中々に高度な技術を使っているが、用途がだいぶ残念な気もする。
- 751 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/07(土) 23:37:51 ID:Cu3pgnGE0
( ^ω^)「何か祭りみたいな雰囲気になって来ましたおね」
気付けば町の人がぞろぞろと町長宅前に集まって来ていた。
更に屋台を引っ張って来て、商売をしている人もいる。
思わず僕も混ざりたくなってしまうが、残念ながらそういうわけにもいかない。
(*゚ー゚)「娯楽が多い町ではないですので、何かにつけて騒ぎたがる所があるんですよ」
( ^ω^)「なるほど……」
( ^ω^)(でもきっと、町の人じゃなくてあんたが一番騒ぎたがってるだろと思うお……)
(*゚ー゚)b「それじゃあ、勝負ですね、ブーン君!」
( ^ω^)b「負けませんお、シィさん!」
こうして、幽霊船の情報を得る為の、僕達のくだらなくも激しい戦いの火蓋が切って落とされる事になった。
第三十七話 雪に染まりし最北の町 終
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