- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/04/06(月) 02:39:43.05 ID:zaBlntlR0
- 世界はニ度の創世を経験した。
二度目の創世の時に世界に放たれた世界の敵『魔獣』。
それに組織的に対抗する為、神が遺した力『魔術』は誰にでも扱える『機械』へと姿を変える。
世界は機械に染まった。
同時に、魔獣も殆どの討伐を成功。
魔獣を産み出す根源を残し、神の子達には殆どの平和が約束されていた。
物語は、ある夜から始まる。
川 ゚ -゚) クーは夜の管理者のようです
1st night. 偽りと不浄を司る獣
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 02:44:43.20 ID:zaBlntlR0
- 少女は駆けていた。
闇夜と言うベールに覆われた安息。確かにそれは静寂と言う形で存在していた。
しかし、少女は逃げる。安息は最早存在しないと悟ったから。
ずしりと重い足音が、軽快なステップで少女を追っていた。
―――
午後八時。電車を一本逃したもののデレの帰路は順調に進み、最後の行程に近づいていた。
塀や柵によって形取られた道を曲がる。
その先に見えるのが、自分の家だ。
しかし、電気が付いていない。両親がまだ帰っていないのだろうか。
普段ならとっくに帰ってきて、夕食の準備も済んでいるはずである。
距離が近づくと、デレは庭に奇妙なものを見ることが出来た。
黒い何かが門から道に出ている。
この時の気持ちは好奇心だろうか、焦燥だろうか。
何れにせよ、それが恐怖に変わるのに時間は必要なかった。
近づく。それは巨大な狼だった。縦幅だけでも、人の二倍。
夜闇に融ける様な黒の四肢は、しかし月光によってそれを視認できた。
デレが近づいたとき、それはちょうど前足で何かを吹き飛ばしたところだった。
その二つの細長い――人影。ふわりと広がる髪を持つ一つと四角い鞄を持つ一つ。
紛れも無く彼女の両親であった。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 02:49:50.73 ID:zaBlntlR0
- 死人を見たときに驚きに声を上げるのは『人が死んでいる』事を理解できるからだ。
刺し傷なら流れ出る、若しくは飛び散った血液や血に光る刃物、首吊りなら顔色悪くぶら下がった人体。
それらは容易に人に『死』を連想させる。
しかし、デレの両親は『消えた』。
その場から跡形も無く、まるで元々居なかったかのように。
『死』を見たわけではない。故にデレはパニックに陥る事は無かった。
代わりに、恐怖がデレを支配する。
紫に染め上げられた思考の中、視覚が告げる。
あの獣は、次の獲物を狙っている。
行動を起こすには十分の情報だった。
デレは駆ける。獣から逃げる為に。
やがて獣は獲物に気づいたのか、ゆっくりと方向転換をすると巨大な脚で速度を作り、デレを追い始めた。
―――
ζ(゚ー゚;ζ(やばい……追ってきてる……!)
デレの脳裏に両親の消滅したヴィジョンが蘇る。
不思議な事に、あれが両親であった事を思い出すのに時間がかかった。
まるで半透明の記憶、例えば、車の窓からちらと見えた看板のように。
ζ(゚ー゚;ζ(いいえ……あれは紛れも無く私の両親……そして私もこのままじゃ……)
記憶の曖昧さにより勝ることとなった生存本能の下、デレは駆ける。
獣の重い足音の軽快なステップは、衰えを知らない。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 02:54:42.75 ID:zaBlntlR0
- 疲れに肺が締め付けられる中、突然周囲がほの明るく照らされる。
デレを中心に照らされたのではなく、他に光源がある照らされ方だ。
光は、後ろの方から来ていた。
共に、獣の足音が落ちる音に変わる。
ベタンと、獣は駆けを止めた。
デレが逃げながら後ろを振り向くと、獣の眼前の地面に光の柱が突き刺さっていた。
高さは、獣の顎辺りまで。
周囲を照らしているのは、それだ。
「随分と追い足が遅いじゃないか?お前は実験対象か?」
足を止める。
この気持ちは、突然の声に対する好奇心だ。
川 ゚ -゚) 「可哀想な奴だ、元は神であると言うのに」
声の主は光の柱に着地する。
黒い服を着ているという事は、光に照らされているゆえ容易に判断できる。
そのシルエットは、ワンピース状である。スカートの裾や袖口に飾り付けられたレースやフリルから判断するに、ドレスの類だろう。
異国的な服装に関する疑問は、好奇心により弱らされていた。
川 ゚ -゚) 「そこの少女」
後ろに居るデレに告げる。
刹那、デレの体の回りを光の糸が乱舞し、球という形を持ってデレを捕縛する。
それが浮遊する。女性と同じくらいの高さまで上がると、それは空中で静止。
川 ゚ -゚) 「手荒になって済まない、この化け物を片付けたら説明させて貰う」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 02:59:42.77 ID:zaBlntlR0
- 女性は光の柱から飛び降り、柱を挟んで獣と対峙する。
紅い光を放つ目を見上げて、言う。
川 ゚ -゚) 「お前が暴れてもここには全く被害は及ばん。精々暴れろ、実験動物。
―――その方が、私も暴れ甲斐があると言う物だ」
その意思を汲み取ったのか、言葉を理解できたのか。獣は前足を素早く振るい光の柱を叩き折る。
倒れ行くそれは横の住宅に接しようかと言うところで霧散した。
同時に、彼女は後ろに跳躍。その右手には光が溢れ出す。
獣は飛び掛った。彼女を噛み千切らんと顎を広げて。
対する彼女は光を得た右手を向ける。瞬間、光は巨大な壁を形成し、獣を弾き飛ばす。
獣の下敷きとなった建物は、まるで実体映像のように形を変える事無く獣を受け入れた。
獣はばねの様に素早く跳んで立ち上がり、再び彼女と睨み合う。
彼女の右手には、また光が満ちていた。準備はOKとでも言うように。
川 ゚ -゚) 「相手にならん。まるで相手にならんぞ"魔神"。
せめて貴様の主人に伝えろ。お前の敵はお前の想像以上に強い、と」
魔神、と呼ばれた獣は咆哮する。
それは冷たい夜の空気を震わせる。
魔神の前脚に、青白い粒子が纏わり付く。
螺旋を描くそれは次第に密度を増し、青白い光となって前脚を包んだ。
ほぉ、と彼女は笑む。
川 ゚ -゚) 「良い物を持っているじゃあないか、魔神。地獄への土産には十分だな?
尤も、貴様等に死後の概念があるかどうかは謎だがな」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:04:37.72 ID:zaBlntlR0
- 一息。
川 ゚ -゚) 「―――来い」
魔神が跳ぶ。
後ろ足の溜めは既に済んでいる。それを思い切り伸ばし、前進の力を産み出す。
結果は加速。鋭く弧を描く軌道コースの着地点にあるのは、黒に身を包む女性。
前足を前に突っ張るように伸ばし、着地と同時に潰す算段だ。
対する女性は右手の光を壁として具現させ迎え打たんと画策するが、
川 ゚ -゚) (……いかん)
早く気づけたのが幸いだった。
体の動きがワンテンポ遅い。
右手の、光を操る魔力の流れに至っては、恐らく壁や盾への具現は間に合わない。
川 ゚ -゚) (恐らくは、先程の咆哮……成程、『不浄』か。小細工を―――!)
右足に後ろに跳ぶ命令を送る。魔神の前脚はそこまで迫っていた。
跳んだ。同時、魔神の前足が先程まで体のあった場所に突き刺さる。
衝撃は、青白い光の波紋を伴って現れた。
前脚から開放されたそれは、地面と言う支えを失ったところに衝撃を食らい吹き飛ぶ彼女を飲み込まんとする。
飲んだ。しかし何かが起こったかと言えば、その答えはNO。
だが単純な落下は彼女に莫大なダメージを与える事となる。
右手の、光を操る力の復活は僅かに間に合わない。
川 ゚ -゚) (……仕方あるまい)
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:10:11.41 ID:zaBlntlR0
- 彼女が空中で一つ目を瞑ると、背に一対の黒い翼が展開。
それの一振りにて体制を整え、着地の衝撃を和らげる。
着地。同時に右手中指――正確には、そこにつけられた指輪――に魔力の感覚が戻る。
背の翼は闇に融けるように霧散していた。
三度目の対峙。
魔神の威嚇の唸りが闇夜を支配する。
川 ゚ -゚) 「防ぐだけと言うのも存外つまらないな。
実験動物に高度な行動パターンを要求するのは酷か」
彼女は尤も、と前置きし、
川 ゚ -゚) 「元が神だからか、人の言葉は理解できるようだがな」
その証明とでも言う様に、魔神の口の端からはその牙が姿を覗かせている。
その眼光は怒り。象徴する色は、紅。
染み出る殺意は刃よりも鋭く、氷よりも冷たい。
神経の糸が緊張する感覚を、彼女は心地良く感じる。
川 ゚ -゚) 「見せてみろ、その殺意の証明を―――」
言うか言わないか、魔神は跳びかかる。それしか能が無いかのように。
しかしその威力は絶大。命中が死を意味する前脚が、彼女の眼前に迫る。
右手に光は宿していない。その意味する意思は、回避。
彼女は後ろに跳ぶ。衝撃から逃れられるように、着地よりも幾拍か早く。
魔神の前脚が地面を突く。その後ろ足は再びの攻撃に備え溜められていた。
連撃だ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:15:19.84 ID:zaBlntlR0
- 川 ゚ -゚) 「……殺しに来たな、良いぞ良いぞ。暴れて見せろ。
お前が暴れれば暴れるほど、お前の主人に絶望を背負わせる事ができる」
前脚、突進、顎と、全てを後ろ跳びで回避する。
同時に彼女は右手に光を集め始める。
ニ撃目を跳んでは手指を塵として覆い、
体を跳んでは光の手袋と化し、
顎を跳んでは球状に手を包む。
再びの顎を上への跳躍で避けると、光の宿る右手を魔神の頭頂へ向ける。
光は七の矢へと具現し、魔神の頭頂へ連射。
それは突き刺さると、硝子の割れるに似た音を立て砕ける。
痛みからか、魔神は咆哮という形の叫びを上げる。
叫びに混じる七度目の砕音を後ろに聴き、彼女は着地。
回れ右で魔神に向き直る。
頭に七度の矢を食らった魔神は、地に伏していた。
川 ゚ -゚) 「こうして姫は偽りと不浄を司る魔神を打ち破り、世界を清らかなる真実へと導いた……」
魔神が立ち上がり、彼女に向き直った。
満身創痍のいでたちは、逆に恐怖を抱かせる。
捨て身の一撃も厭わないような覚悟を匂わせる、そんな恐怖だ。
しかし彼女はその恐怖を笑みを持って受け入れた。
川 ゚ -゚) 「私もそんな結末は御免だ」
何故ならば、
川 ゚ -゚) 「お前は下僕でありお前を倒して得る平和は一時に過ぎない」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:20:51.13 ID:zaBlntlR0
- 川 ゚ -゚) 「私が望むのは永久の安息だ。消えろ、一時の平和を残して、永遠の平和の為に」
魔神は跳びかかる。一頭の獣として。
主の仇敵を食らいつくし、主の平穏の為に。
下僕でも構わない、主に尽くせるのならば。それが、
「―――下僕トイウモノノ唯一ノ『価値』――!」
顎が開かれる。
彼女の見たそこは、永遠の暗闇。
は、と彼女は笑う。嘲りの色を含めて。
彼女の右手には既に光が宿っていた。
川 ゚ -゚) 「喋れたのか。だが、下僕は喋るな。喋って良いのは―――」
右手を左肩の向こうまで流し、一気に『一』の字を描くように右に振り抜く。
筆を走らせたような軌跡を残し、それは光の刃と化し、襲い来る魔神を迎え撃つ。
その光は果て無き暗闇を湛える顎を照らし、両断した。
刃に切り裂かれるなり、その部位は黒の粒子となり闇夜に帰す。
頭、前脚、胴、後脚と来て、尾まで霧散して、魔神はこの世界から消えた。
川 ゚ -゚) 「"自ら"に誇りを持つ者だけだ」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:25:03.97 ID:zaBlntlR0
- 川 ゚ -゚) 「さて」
彼女の背後に、光の玉に包まれたデレが降りる。
腰くらいの高さまでそれが降りると、光は解けて中に護っていたデレを降ろす。
川 ゚ -゚) 「先に自己紹介をさせて貰おう。私はクーだ」
振り返った先に居たデレは、出来事の流れの早さに呆けていた。
数秒の間をおいてはっと我に帰った彼女は自分の名を名乗る。
川 ゚ -゚) 「デレ、か。それじゃあ次は謝罪だ。
私の腕が及ばず、君にまで被害が及ぶ所だった。済まない」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、こちらこそ……危ない所を助けていただき、ありがとうございました」
川 ゚ -゚) 「礼には及ばん。ところで、私は『説明させて貰う』と討伐前に言ったのだが、説明に入っても良いかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「え……はい、どうぞ」
どうも一方的で、やりにくいなとデレは感じる。
言葉から感情を欠片も感じられない事も関係しているのだろう。
怖い相手ではあるが、助けてもらったのは事実だ。悪い人ではない。
川 ゚ -゚) 「さて……何から説明したものかな……」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:30:22.43 ID:zaBlntlR0
- ζ(゚ー゚*ζ「あ……じゃあ、私が疑問に思っている事から聞いて行って良いですか?」
川 ゚ -゚) 「ああ、そっちの方が私も助かる」
ζ(゚ー゚*ζ「まずは……あの獣は何ですか?魔神……と呼んでいたようですが」
問に、クーはふむ、と思考する。
川 ゚ -゚) 「どうだろうな、魔神は魔神だ、と言うのは簡単なんだが……。
字面で見れば『魔』の『神』だな。この『魔』と言うのが即ち―――」
無言の一拍。
川 ゚ -゚) 「魔獣」
ζ(゚ー゚*ζ「魔獣とは……一般的に知られている物で良いんですか?」
即ち、現段階ではその討伐は殆ど終了し、その根源を残すのみとなった人間の敵。
川 ゚ -゚) 「そうだな、その魔獣だ」
ζ(゚ー゚*ζ「でもそれなら……なぜあの魔獣……魔神は、
既に討伐の終了した大型級に相当するサイズだったんですか?」
川 ゚ -゚) 「そうだな、それこそがこの話の重要ポイントだ。あれは―――」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:35:04.45 ID:zaBlntlR0
- ―――
曰く、
彼女の所属していた研究機関は魔獣の根源に作用し、魔獣を人の意のままに――削除も生成も――コントロールできるシステムを開発した。
無論、この研究の目的は世界からの魔獣の排除である。
しかし、研究員の一人がシステムを持って逃亡、クー以外の研究員はシステムにより具現された魔獣により殺された。
生き残った彼女が彼を探して数ヶ月、日付で言えばちょうど昨日に突然彼からの連絡が来た。
内容を要約すれば、こうだ。
明日からの五夜、魔神を仕向ける。すべてを倒す事ができたならばシステムを返す。
―――
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、さっきの魔獣が……」
川 ゚ -゚) 「ああ。奴の言っている『魔神』に違いなかろう。これで一つ目の疑問は解けた。
次を言ってくれ」
自分に対する疑問に答えると言う事は、自分に対する手掛かりを相手に掴ませるという事。
それが余裕から来るものなのか信用から来るものなのかは分からないが、少なくとも敵意は無いと判断した。
―――或いは、知っても無駄と言う可能性もあるかも知れないが、あまり考えないでおこう。
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、あの魔神を倒した光について……」
川 ゚ -゚) 「ああ、それは魔術だ。と言っても、今じゃ魔術を知る人も少ないだろうな」
彼女は結果を叩きつけて必要に応じて補足説明をするタイプらしい。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:40:31.67 ID:zaBlntlR0
- 川 ゚ -゚) 「魔術が機械に代わった事は知っているな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ……機械は誰にでも使えるから、それによって魔獣討伐も進んだと世界史で習いました」
川 ゚ -゚) 「そうだな、機械は誰にでも使える魔術だ」
デレが疑問符の付いた表情を作ると、クーは満足そうな表情を浮かべる。
川 ゚ -゚) 「やはりそこだな。簡単に言えば機械と言うのは魔術を勝手に行使してくれる道具だ。
魔術式への魔力の転送、式の発動、行使……今こそは全て機械で行われるが、かつてはそれを人が行っていた」
懐中電灯の発光、携帯ライターの着火等、それらは全て機械にインプットされた魔術式を機械が発動しているのだと、彼女は告げた。
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、燃料筒の中身は……」
川 ゚ -゚) 「ああ。勿論魔力だ」
関心するデレの様子を見て、クーは微笑んでいた。
しかしすぐに表情を曇らせる。何か言いにくそうな表情を保ち、しかしやがて決心が付いたのか、その重い口を開く。
川 ゚ -゚) 「ところでデレ……君は、『覚えている』か?」
不意を付く質問に、デレは疑問する。
覚えている、と言う事は、忘れかけているかも知れないと言う事。
ふと、デレは『思い出した』。忘れ掛けていたものを。
ζ(゚ー゚*ζ「私の……両親?」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:45:07.88 ID:zaBlntlR0
- 川 ゚ -゚) 「思い出してくれたか。それを覚えるか忘れるか、どちらが良いかは私には判らない。
しかし、これは私の失敗だ。その上で謝りたい。
私の力が至らず、君の両親を失ってしまった……済まない」
彼女に対して怒りの気持ちは湧いてこなかった。逆に湧いて来たのは疑問だ。
仮に、自分は何か出来ただろうか。両親若しくは自分を救う。否、出来ない。
それに、何故だか知らないがそれは覚えていても仕方が無い事に思えるのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「いえ……良いんです」
違うな、とクーは判断する。
この表情は、知的好奇心。知りたがっている気持ちがあると。
しかし、あの魔神の力によってそれを消されかけている。
川 ゚ -゚) 「あの魔神……ドゥルジ・ナスは、自らが破壊したものを『偽りの存在』とし、世界から消し去る事が出来る」
言われて、デレの脳裏に再びあのヴィジョンが蘇った。
前脚で叩き飛ばされた両親が跡形も無く消えるシーン。
川 ゚ -゚) 「君が僅かにでもそれを覚えているのは、破壊された瞬間を見たからだ……。
その記憶を……」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、良いんです……」
遮るように、デレが言った。
ζ(゚ー゚*ζ「もうそのシーンも、両親が居た現実も、ぼんやりとしか思い出せないんです……。
思い出そうとしても、もうその事は考えるなって、私の心にそう言われている……そんな感じです」
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 03:50:16.09 ID:zaBlntlR0
- ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、帰ります……助けていただき、ありが」
川 ゚ -゚)「待ってくれ!」
彼女の声にへの返しは、大きめの声で行われた。
懐からメモ帳とペンを取り出し、何かを速記し、破く。
川 ゚ -゚) 「私の家への地図だ……何か困ったら、来て欲しい」
それを受け取ったデレは驚いた顔で、
ζ(゚ー゚*ζ「そんな……迷惑じゃありませんか?」
川 ゚ -゚) 「否、私の力が至らずこうなってしまった。その責任を私は負うべきだ」
デレは困った表情をしていたが、紙を胸ポケットに仕舞うと、
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。それじゃあ、本当に困ったらお世話になりに行きますので」
それではさようならと続けて、彼女は帰路へと付く。
川 ゚ -゚) (『偽りと不浄』……その力だけは、本物と認めざるを得ない、か)
残された彼女もまた、黒のコートを闇に躍らせ吸い込まれるように闇へと消えて行く。
唯一つ、シルバーブロンドの髪のみが月に照らされていた。
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