川 ゚ -゚) クーは夜の管理者のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:16:26.09 ID:zaBlntlR0
大きな硝子窓を覆う薄いカーテンは、朝日を部屋に導き入れる。
一人で寝るにはあまりに大きすぎるベッドに潜る女性は、目覚めの時を拒否しようとした。
寝返りに、シルバーブロンドの長い前髪が眼前を覆う。
銀のセロハンを通したかのように、視界を銀が彩った。
隣には誰も居ない、長い枕の向こう、壁を虚ろに見つめ、クーは溜息を一つ。

川 ゚ -゚) (護ったのは全、失ったのは個……。
      先代、否、失った『彼女』に申し訳が立たない……)

今この瞬間『彼女』の家に赴いて床に額を付き謝っても、『彼女』はこう言うだろう。

――何の事ですか、と。

『偽り』、それは卑怯な力だったとクーは思う。
自分の過ちを許してくれる人物は、もう居ないのだ。

居ないならば自分が忘れれば良い。
その気持ちから、『夜の管理者』として力を振るったあの戦い。
どれだけ気持ちを昂らせようと、しかし自分は忘れる事は出来なかった。
その結果起こした行動は、もしかしたら彼女の気持ちを悪い方向へ持っていってしまったかも知れない。

――忘れたい事を無理矢理に思い出させる事。

それはどれだけ残酷だろうか。
忘れた方が楽な事があるのは知っている。
自分の気持ちも、彼女の気持ちも、十分それに値するだろう。

ドアをノックする音が聞こえる。
厚みのある木を軽く叩く事で生まれる温かみのある音。
閉じた瞼から熱く滲み出る涙を、うつ伏せを向く事で隠した。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:20:06.68 ID:zaBlntlR0
「起きてますか?起きてますね。入りますよ」

金具の軽く軋む音と共に、人の気配を感じる事が出来た。
この屋敷に住んでいるのは自分とあと一人だけだ。誰が入ってきたかなど、安易に想像が付く。
それでも、頑なに寝た振りを続けた。

それはベッドの縁に腰掛けた。
軋む音が、押し付けた耳に響く。

「そのまま寝ていても、新たな夜は訪れ新たな魔神は命を喰らうでしょう」

柔らかな少女の声だ。
それは紛れも無く枕元に腰掛ける彼女より放たれる言葉。

「――良いんですか?自分を卑下する気持ちは分かりますが、その結果、取り返しの付かない事になっても」

例えば、

「彼女が二度と戻らなくなれば、今の御嬢様にとって耐え難い傷となるでしょう」

言葉に、クーは勢い良く上半身を起こす。
額に浮かぶ汗は、彼女の顔を焦燥に色づける。

川;゚ -゚) 「ミセリ……どうしてそんな」

視界の先には、黒のドレスに白のエプロンを身に纏った少女。
セミロングの黒髪に白のヘッドドレスを飾りつけた彼女は、こちらに背中を向けて座っている。

ミセ*゚ー゚)リ「例えば、の話です。でも、御嬢様が戦いを放棄すれば、それは現実となり得る」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:23:15.13 ID:zaBlntlR0
昨夜、デレが襲われていたのは偶然である。
しかし、今宵も魔神が現れるとして自分が赴かなければ――即ち、裏空間に魔神を閉じ込め討伐する事ができなければ、
偶然の被害者として彼女の命が奪われる事は十分にありえる事だ。
尤も、彼女以外の命が奪われたとしてもそれがさらにクーの重圧になる事に違いは無い。
加えて、魔神を討伐できるほどの力を持つ者は現在『夜の管理者』であるクー以外に有り得ない。
他に力があったとしても、騒動に最も近く、最も自分の意思で、言い換えれば、最も早く介入できるのは彼女のみである。

ミセ*゚ー゚)リ「人々の安息を魔獣から護る為の夜の管理者。その字名を持つ御嬢様が責務を手放してはいけない。
      そうなってしまったら、先代に示しが付かないでしょう?」

確かにそうだ。自分はその全てを知って、夜の管理者を名乗った。そして、それは認められた。

けれど。

川;゚ -゚) 「どうしたらいいか、判らないんだ……。間接的にではあるが、私は彼女を護れなかった。
     そんな私がこの先も人々を護って行けるか、そのために何を……」

一拍の空白。口を開いたのは、エプロンドレスの少女、ミセリであった。

ミセ*゚ー゚)リ「……先代の夜の管理者は、大切な人を護る為に魔獣と戦っていました。
       成長の可能性を自ら閉ざしてしまった先代様と、強大な力を振るう"大切な人"。
       護る対象は自分より強かった。でも、先代様は護る側を貫きました。自分の意思で、最後まで」

川 ゚ -゚) 「それには……強い意志が必要だっただろうな」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ。先代様はその意思を以って彼女を護っていました。
      護りたいと思うからこそ護れると、先代様は私に教えてくれました。
      そしてそれが、大きな力となる事も」

ミセリは懐かしむように語った。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:26:15.22 ID:zaBlntlR0
川 ゚ -゚) 「ミセリ」

呼びかけに、彼女は初めてこちらを振り向いた。
透き通るような緑を持つ瞳に、視線を合わせる。

川 ゚ -゚) 「彼女を護る事で清算とする事は、許されるだろうか。
      彼女の大切なものを亡くしてしまったと言う、罪の清算は―――」

ミセ*゚ー゚)リ「答えは自分で見つけたじゃないですか」

彼女の目が、笑みを作る。
小さな頷きにより、前髪が小さく踊った。

ミセ*゚ー゚)リ「強い意志を持って、ですよ」

ミセリは立ち上がる。
左脚を軸とし、両手を軽く広げてくるりと回る事で此方と対面。
リボン結びにしても長く残るエプロンの帯が、薄いカーテンの通す明かりに白く踊る。
柔らかな表情が、クーを安心させる。

ミセ*゚ー゚)リ「さ、朝食にしましょう。私は先に降りて用意をしていますので、御嬢様はお着替えを済ましておいで下さいな」

軽いステップで彼女は退室する。
ドアの金具の奏でる小さな音を聴き、クーは身をベッドから飛び出す。
近くにあるクローゼットを開き、黒ばかりのドレス群と対面した。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:29:18.97 ID:zaBlntlR0
――同時刻。
目覚めの動きが起きたのは一人で寝転がれる程度の広さのベッドだ。
人の身の丈ほどの硝子窓は厚いカーテンで覆われており、薄暗い空間を作る。

デレを現実へと引き戻したのは目覚まし時計の音だ。
三秒ほどのアラームが三ループすると、少女はそのスイッチを叩きつけるように押して停止させる。
眠気に瞼を擦りながら、少女は昨日を反芻する。

―――私の力が至らず、君の両親を失ってしまった……
     あの魔神……ドゥルジ・ナスは、自らが破壊したものを『偽りの存在』とし、世界から消し去る事が出来る。

両親、果たしてそんな者は自分に居ただろうか。
その存在を脳の端に微かに見られるのは、目覚めて間もないからであろう。
そういう夢を、見た気がする。一階に降りれば母親が居て、父親は既に出勤していて、ご飯が用意されていて―――。

そう言えば頭が痛く、体も疲れを感じる。
後者は間違いない。昨夜あれだけ走って、あれだけ非現実的な物に恐怖を感じていたのだ。
前者は何だろうか。それは、意識し始めてから増した気がする。
その痛みは額に汗が滲むほどに大きくなっていた。

これは学校には行けないかな、と彼女は悟る。
痛む頭を支えながら、体を起こす。
落ちる羽毛の布団をそのままに、虚ろな意識で床に足をつく。
立ち上がるのに随分力が要る。
何とか立ち上がって、視界は暗転。近くの机に手をつき、支えにする。
一拍、二拍、三拍。徐々に視界が広がっていく。
荒い呼吸を耳に聞き、電話のある一階へと降りる為にドアノブを捻った。

滑り落ちないように、手摺をしっかりと握り、一歩一歩階段を踏む。
頭の痛みに意識を許さないよう、下りる足を意識して、ようやく電話に辿り着いた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>11 無い と思う] 投稿日:2009/04/06(月) 20:32:32.76 ID:zaBlntlR0
欠席の旨を伝えるのに苦労はしなかった。
自分の声色はいつもとは大きく異なっていたらしい。例えば、聴いた方がすぐに自分の心配をするほどには。
受話器を戻すと、大きく息を吐き、しぼむ風船のように床にへたれ込む。今や肩で息をしている状態だ。

眠るが増か食事が増か。状態から判断するに、まともな食事は摂れないだろう。用意もままならない事に違いは無い。
故に睡眠を選んだ。電話を置いてある、腰よりも少し高い台を支えに、デレは立ち上がる。
再び視界が暗転、四拍をかけて元に戻る。
そして、いつもの五倍は時間をかけて自分の部屋へと階段を上る。
ベッドを確認するや否や、彼女は虚ろな目でそこに倒れこんだ。
掛け布団は気にしない。否、できない。

頭に痛覚・体に疲労、その真ん中、腹部に重りを乗せたかのような空腹感。
危険信号に蹂躙される意識はすぐに睡眠の混濁へと誘われた。
徐々に定まりゆくその色は黒。母体に眠る胎児のように、静かに、無意識にいつか訪れる目覚めを待つ。

・ ・ ・

それはどうと言う事の無い夢であった。
普通に目覚めて、朝食を摂って、制服に着替えて登校して、
授業を受けたら昼食を摂って、授業を受けて、放課後になったら図書室で勉強をする。
暗くなったら家に帰って、夕食を摂って読書なんかで暇を潰してベッドに入る。

あまりにも普通すぎて夢っぽくは無かったが、それは夢だった。
前に同じ夢を見た気がするが、どこか違っている所はあっただろうか。
意識を鮮明へと引きずり上げたのは、一つ鳴らされた呼び鈴だった。
頭痛は、治っていた。
確かめるように床に着いた足に力を入れ、起立。力もちゃんと入る。
肩を後ろに反らせる伸びを一つして、玄関へと向った。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:35:09.53 ID:zaBlntlR0
ドアを開けた先に居た女性は、予期せぬ来客だった。
ドレスにも似た、しかし装飾の控えめな黒のワンピースに、シルバーブロンドの長髪が流れる。
彼女に見覚えがあったのは自覚していたが、とっさに口から出た言葉は、こうだ。

ζ(゚ー゚;ζ「……どちら様?」

川 ゚ -゚) 「君の記憶力を疑うつもりは無いんだがな……まさか本当か?」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、いえ……クーさん、でしたよね?異国情緒溢れる出で立ちなので、つい……」

それを聞くとクーは自分の右腕を見、左腕を見、下半身、足元、黒の靴へと視線を移し右手でスカート部の膝辺りを摘み上げ、見る。
そして思考。腕を組んで目を瞑る事五秒。結果、

川 ゚ -゚) 「確かに、ここでは少し珍しい服装かも知れないな」

ζ(゚ー゚;ζ「あー、いや……少しどころか、私が生まれてこの方本の中でしか見た事の無いような……」

川 ゚ -゚) 「はっはっは、まあ服装は良い」

ζ(゚ー゚;ζ(え?笑って公認スルー?)

川 ゚ -゚) 「まあ服装に関して一つ言う事があるとすればだな、人の振り見て我が振り直せ、だったか?
      とりあえず自分の格好をよーく見るんだ」

何かしらと思いつつ、デレは右腕を見、左腕を見……るまでもなく気づいた。
ずっとパジャマだった。
頬に熱を感じる事から、顔が赤くなっているのだろうと思う。
それを見て、自分の服装を恥じる事の無いクーは、

川 ゚ -゚) 「まあとりあえず着替えてきたらどうだ?話はそれからでも良いだろう」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:39:28.38 ID:zaBlntlR0
デレは私服を持っていない。
そこまで外出するタイプでもないし、外見を気にするタイプでもない。
外出するにしても制服で十分だろうと言う考えが彼女にはある。
故に再びクーの目の前に現れたデレも、もれなく制服であった。
右につけた銀の腕時計が目立つ半袖のブラウスに黒のネクタイ、スカート。
清涼なイメージを与えるそれは、夏場ゆえのものだ。

川 ゚ -゚) 「デレも黒が好きか」

ζ(゚ー゚;ζ「え、いえ……これ、制服ですし」

川 ゚ -゚) 「そうか。まあ色の話は良い」

ζ(゚ー゚;ζ(自分から振っといてそれは無いと思うんだけど……)

川 ゚ -゚) 「で、今日は話があってここに来たんだが……」

遮るように、腹の音が鳴る。
音源は、デレだ。

ζ(゚ー゚;ζ「あ……」

クーが軽く表情を崩す。
生まれるのは柔らかな笑み。

川 ゚ -゚) 「この時間帯に寝間着じゃあ、朝も昼も何も食べずに寝ていたんだろう?」

言われて、腕時計を見る。時間は午後三時。

川 ゚ -゚) 「何か軽く食べに行こうか。代金は出そう」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:42:19.68 ID:zaBlntlR0
歩きながら、クーは考える。
先程言った通り、この時間帯に寝間着を着ていたと言う事は、朝も昼も何も食べずに寝ていた可能性がある。
事実、デレは腹を空かせている。
ならば、朝も昼も何も食べずに寝ている理由は何だ。

その答えはすぐに出た。体調不良。
しかし体調不良なら体調不良でまたおかしい所があるのではないか。
先程呼び鈴を鳴らした時、最初に出てきたのはデレだ。
しかし、体調不良ならば両親のうちどちらかが看病をしていてもおかしくは無いはずだ。
そしてどちらかが看病をしていたならば、呼び鈴を鳴らしたときに出てくるのは両親となる。

しかしデレは自分で出てきた。誰が扉の向こう側に居るか判らないのなら、自分から出てくる理由はあるだろうか?
ここでクーは確信した。彼女の両親はもう『居なかった事』になっている。
それを確かめるには聞いてみるのが一番早いが、もし完全に忘れ切っていないのならば、それを思い出させてしまうかも知れない。
昨日あんな目にあってこのように平静を保っているのは、皮肉にもあの魔神ドゥルジ・ナスの司る『偽り』に因るところが大きいに違いない。
それを、『偽り』の力の抜け切った今思い出させてしまったならばどうなるかは、検討のしようが無い。

言い方は悪いが『今後の彼女の扱い』に関して、その記憶の有無がもたらす影響は大きい。
考える。それをどう聞き出したものかと。
どちらの場合にも共通していて、かつ大きく異なってしまう事象。
それを思いつくのに、時間はかからなかった。

川 ゚ -゚) 「最近、家で何か無かったか?」

おもむろに聞く。
家族と関わりの深い『家』に居て今まで両親を思い出していないのならば、家の事を聞いたくらいではそれを思い出しはしないだろう。
両親が居た『証拠品』なんかはどうなっているのかな、とふと雑念を混ぜる。
確か玄関の靴は一足分しかなかったし、写真の類もそこには確認できなかった。
もしそれらが本当に消えているのだとしたら、ますます魔神の力を侮れなくなる。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:46:15.87 ID:zaBlntlR0
ζ(゚ー゚*ζ「えと、何か……と言うと?」

川 ゚ -゚) 「例えば料理なんかどうだろう。私はたまに自分でこだわりたい物を作る事があるんだが」

料理に関して聞いたのは失敗だと、言った直後に思った。
両親の居る家庭で毎日自分で料理をする娘は流石に居ないだろう。
彼女の記憶から両親が抹消されていて、加えて中途半端に記憶が残っていた場合、結構な引き金になる可能性がある。

ζ(゚ー゚*ζ「うーん……昨日はあの後コンビニにお弁当を買いに行ったんですが……。
       どうも曖昧なんですよね。昨日より前、学校に行く前や帰った後は家に居たのは間違いないと思うんですが、
       家で何があったかって言うのがぜんぜん思い出せないんですよ。
       それこそ、何を食べて……ひょっとしたら何かを作って、それで何をしたのか、テレビの内容さえも、思い出せないんです」

どうやら予想以上に記憶にダメージが行っているらしい。
それか、『両親』がヴィジョン内に含まれる記憶が全て抹消されているか。あの魔神の能力を考えれば、可能性としては後者のほうが強い。
ここまで特定できれば、もう少し踏み込むリスクはだいぶ減っていると言える。

川 ゚ -゚) 「ところで、来客の件はちゃんと親御さんに伝えてきたか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ……それについては、心配は要りませんよ」

何故?とクーは問う。

ζ(゚ー゚*ζ「お父さんもお母さんも、私には居ませんから。
       でも病気になると不思議なものですよね。今日、両親が居る夢を見ました。
       身近に自分を愛してくれる人が居る事を、良いなぁと……目が覚めてそう思いました」

川 ゚ -゚) 「そうか……つらい事を聞いてしまったな。済まない」

だが、両親の記憶がもう戻らない所まで来たという事は確実になった。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:50:13.60 ID:zaBlntlR0
そうして十分ほど歩き、辿り着いたのは一軒の喫茶店。
アンティークな雰囲気の漂う洒落た店内に、クーはかっちりはまっている様に見えた。
コーヒーを二つとスコーンを注文すると、クーは両肘をテーブルに置き、組んだ手の親指に顎を乗せるように位置を取って、話を始めた。

川 ゚ -゚) 「私の家に住まないか」

ζ(゚Д゚;ζ(すんげぇいきなりだ―――!)

吹くコーヒーはまだ来ていなかった。
代わりにデレは漂流教室顔負けの驚愕の感情を湛えた表情で硬直する。
五秒後、注文の品がテーブルに置かれる事でデレは平静を取り戻した。

ζ(゚ー゚;ζ「あ、の……えー……、確かに私、一人暮らしで困ってますけど……何故?」

川 ゚ -゚) 「君が一人暮らしで困っている事を知ったからだな」

ζ(゚ー゚;ζ(何と言うか、すっごい怪しい気がするんだよね……いきなりだし)

川 ゚ -゚) 「ところで、どうして食べないんだ?」

クーはデレの方へ手を伸ばし、スコーンを一つ取る。
それを二つに割ると、片割れを配られていた小皿に置き、持っている方にジャムをほんの少し塗る。
塗られた部分を齧り、数回の咀嚼の元に飲み込む。

川 ゚ -゚) 「毒は入ってないぞ?」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ……一つ、聞きたい事が」

何だ?を了解とし、デレはその疑問を問う。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:53:38.43 ID:zaBlntlR0
ζ(゚ー゚*ζ「どうしてクーさんは……私に良くしてくれるんですか?
       今のこれも、私が空腹で困っているから、一緒に住もうという提案も、私が困っているからと――」

川 ゚ -゚) 「君が困っているから、と言うそのままの理由だよ。裏なんて無いさ」

即答だった。

川 ゚ -゚) 「強いて裏があるとすれば、君に迷惑をかけたことに対する侘びなんだが……
      例えば人を好きになるのに理由や損得は必要無いだろう?それと同じだ」

ζ(゚ー゚;ζ「恋はした事ないので、わかりません……」

川 ゚ -゚) 「そうか。まあ私も推測で言っただけなんだがな」

暫くの沈黙の後、デレは口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「これ……食べても良いですか?」

控えめに出された指先には、スコーンの盛り付けられた皿。
それを見たクーは笑顔を作った。

川 ゚ -゚) 「ああ。少し足りないかも知れないが、夕食が入らないと困るからな」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。それと……、荷物を纏めるのを、手伝って頂けませんか?」

川 ゚ -゚) 「ああ、構わないぞ。条件が一つあるけどな」

左の人差し指を立てて、上を指差して前、デレの方へ運ぶ。

川 ゚ -゚) 「私に敬語を使うのはナシだ。解ったな?」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:56:15.33 ID:zaBlntlR0
喫茶店から出た二人はデレ宅に着くとすぐに作業を開始した。
しかし、問題はすぐに浮かび上がる。
本や参考書を纏めるだけでダンボール二つ。
食器等は向こうにあるから良いとクーが言ったので除外、つまり残りは殆ど肌着類になるわけだが、
それでもダンボール二つプラスアルファは女二人には重い。

川 ゚ -゚) 「君が被服を気にするタイプじゃない事に感謝するよ」

ζ(゚ー゚;ζ「いや……でもこれ、結構多いよ?」

川 ゚ -゚) 「大丈夫だ。私が何なのか覚えているか?」

昨日の夜まで記憶を遡る。
一つの空白を超えた所にあった、彼女が特殊たる所以。
――魔術。

ζ(゚ー゚;ζ「で、でもどういう風に?まさか瞬間移動?」

視線の先でクーは懐から何かを取り出す。

ζ(゚ー゚;ζ「……え?」

携帯電話だった。しかも、見た感じ普通の。

川 ゚ -゚) 「もしもし、ミセリか?今からそっちに向うからその間にちょっとパッと来て荷物運んでおいてくれ。
      見た目?全部ダンボールに入ってる。数は三つだ。え?しょうがないじゃないか、忘れてしまったものは忘れてしまったんだから。
      …………わかった。今度からは気をつける。それじゃ頼んだ」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 20:59:55.49 ID:zaBlntlR0
通話を切ると、ごく普通にそれをポケットに戻し、言った。

川 ゚ -゚) 「さあ行こう。ちょっと遠いぞ」

ζ(゚Д゚;ζ(ふっ、普通―――!)

川 ゚ -゚) 「どうした?」

ζ(゚ー゚;ζ「え、いや……魔術で飛んで行くとか瞬間移動とか……」

聞いたクーははっはっはと笑い、

川 ゚ -゚) 「瞬間移動は人間が使うとマジで死に掛けるから無理だ。
      この魔術は人間が使う点に関しては全く進歩してないからな。用途からしてさほど使えるわけでもないし」

ζ(゚ー゚*ζ「用途って?出来たら便利じゃない?瞬間移動」

川 ゚ -゚) 「魔術の改良って言うのは主に魔獣の討伐の為に行われて来た訳だ。更なる威力、よりよい燃費、素早い発動速度を目指してな。
      魔獣を攻撃する訳ではない魔術……瞬間移動とか、治癒の魔術の改良は、魔獣そのものの討伐に結びつかない。
      殺られる前に殺るのが方針だからな……。故に、あまり改良が成されていないんだ」

一拍の空白を置いて、再び語りだす。

川 ゚ -゚) 「特に瞬間移動は人間が発動するにはリスクが大きすぎる魔術だった。これは、人間が発動しない形にする事で弱点を克服。
      それ以来人間が使う方の瞬間移動術はノータッチ、という訳だ」

ζ(゚ー゚*ζ「人間が使わないって言うのは?」

川 ゚ -゚) 「まあ、紋章とか符とか、そういう形になるな。人間を媒体に起動しなければ害は無いと言う事だ。
      私も瞬間移動術の改良は少しした事があるんだが、どうしても連続二回は発動できない。加えて、移動できるのは自分だけだ」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:03:32.31 ID:zaBlntlR0
ζ(゚ー゚*ζ「魔術……万能って訳じゃないのね」

川 ゚ -゚) 「ああ。まあ他が便利だからそこまで気にはならないがな。
      ……もうこんな時間か。あまり遅すぎると魔神が来るかもしれない。急ごう」

その言葉にデレが腕時計を見ると、午後六時。
夏なのでまだ暗くは無いが、夜と言うには十分の時間かもしれない。

部屋を出ようとするクーの背中に、デレは疑問を投げかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「荷物……置いていって大丈夫?」

川 ゚ -゚) 「ああ。私の家に付く頃には届いているだろう」

家を出る。夏場なので、六時とは言えまだ明るい。
しかし、クーは気づいていた。空気が違う。

川 ゚ -゚) 「デレ」

呼ぶ。返事をするかしないか、その間にデレの体を何本もの光が走り、球を編み上げる。
光の球は上昇。身長の三倍程の高さで静止する。

川 ゚ -゚) 「済まない。また少し我慢してもらう事になる。
      安心しろ。君は私が護る」

言いながら、右手に光を宿す。
視線は五十メートル先の曲がり角。そこから、一つの影が出る。
速度は歩き。肩には身長ほどある大剣を担ぐ金髪の男。
まだ残る明るみにより照らされる大剣の色は、血の滲んだ様な濃紅。
男はクーに歩み寄りながら言う。大声で、クーにも聞こえるように。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:06:04.90 ID:zaBlntlR0
  _
( ゚∀゚)「裏空間なんか展開しちまってよォ……。
     人を護るのが魔獣狩りの仕事だってんなら、お前以外にも魔獣狩りを寄越したらどうだってんだ、なァ?『夜の管理者』よ」

川 ゚ -゚) 「フン……裏空間を展開するのは人を護る事、つまり仕事の一つだろう?
      それに……そのお陰でお前からの不意打ちを逃れられた訳だ」

男は距離五メートルで停止。担いだ大剣を、両手で構える。
  _
( ゚∀゚)「どーして俺が不意打ちなんかする必要があるのよ?それが必要なのは弱者だろうが?」

川 ゚ -゚) 「全く同感だ。それが必要無いお前がどれ程の腕前か……」

夜の管理者は、左肩の前に右手を配置。

川 ゚ -゚) 「期待する――ッ!」

一気に右に振り抜く。
産まれるのは、大気を裂く轟音を伴う光の刃。
波にも似たそれは光る飛沫を撒きながら、大剣の男へ飛ぶ。
狙いは足元。
着弾、同時に光は炸裂。その飛沫は燃え上がる炎に似た逆カーテンを形成する。

しかしその壁は、形成僅か三秒で貫かれた。
それを成したのは弾丸のように空を走る紅の一線。
頭と言う一点を貫く軌道のそれを、クーはしゃがむ事で回避する。
通過にディレイをかけて訪れた風が前髪を乱し、吹き去る音が鼓膜を叩く。
しかし視線は一点、光の幕に集中する。
それが晴れた先、男は間違いなく立っていた。目立った傷も無い。ただ、大剣がクーの背後遠くの地面に刺さっているだけだ。
立ち上がり、ほこりを掃う。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:09:33.20 ID:zaBlntlR0
川 ゚ -゚) 「成程。そこそこの力はあるようだな」
  _
( ゚∀゚)「へッ、お前が生き残れたら、体の持ち主に言ってやれ。
     尤も、俺のお陰でスペックアップしてる部分も多々あるんだがなァ!」

男は右手を眼前に持ってくると、空を切る様にそれを振り下ろす。
軌道は紅く染まると、投擲したのと同じ大剣を形成。
柄を右手で握り、左手を添え、構え。
  _
( ゚∀゚)「俺は暴力、アエーシュマ……夜の管理者、テメェは俺様が狩る!」

跳んだ。大剣を後ろに流し、右肩で体当たりをかけるようにクーへ走る。
対するクーは上への跳躍での回避を体にオーダー。
両膝が溜めを作る。しかしそれが開放される間もなく、クーは非現実を見る。
加速。速度変化により戦術のプロットが崩壊する。跳躍は、間に合わない。

川;゚ -゚)(く……!)

急ぎ、右手に光を宿す。先の攻撃に比べると微かなそれは、アエーシュマの肩の命中により霧散。衝撃緩和の役割を果たす。
しかしクーの体は緩和しきれぬ衝撃により浮き、飛ぶ。痛みに意識を蹂躙されながらも、次の一手を見抜く為の視覚を研ぎ澄ます。
右腕が動くのが見えた。足の溜めも加わり、飛翔、続いて振り上げによる剣撃を推測させた。
動きは全くその通り。飛び掛る紅の一閃を、右手を裏拳のようにぶつける事で弾いた。
着地は同時に行われる。
  _
( ゚∀゚)「指輪か……ハッ、まさか夜の管理者が指輪に頼るとはなァ」

川 ゚ -゚) 「意外と丈夫だろう?私の宝物だ」

言うクーの右手には、既に光が宿っていた。
その光源……中指の根元には、カットを施された黄色の宝石が光る指輪。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:12:21.00 ID:zaBlntlR0
川 ゚ -゚) 「私のターンだ……行け!」

右腕を、指先まで伸ばし振る。
中指が指すのは、出方を窺うアエーシュマ。
光を、開放する。
塵と化した光は一瞬で腕を軸に回る円盤を形成。
その面から、光の矢が連打と言う形を持って放たれる。
軌道は、アエーシュマの頭部を終着点とする。
  _
( ゚∀゚)「中・小型魔獣殲滅用の光弾射出式か……だが!」

足首の動きで跳躍。それは数センチ、一秒にも満たない滞空を成す。
着地。瞬間、靴底で地面を叩く硬い音が響く。
生み出された大跳躍により、光の矢の群れは空しく虚空を切り裂いた。
上昇の過程で、彼は大剣を上空に放る。
  _
( ゚∀゚)「さらに俺の隠し芸!"暴力"と人間のコラボレーションを見よ!」

体を前に振り方向を斜め下に転換。
溜めた足に放った剣が触れると同時、それを思い切り蹴り飛ばす。
まるで壁を蹴ったかのような推力が、アエーシュマに与えられる。
同時に、両手から紅い炎にも似た何かが漏れる。
絵筆を走らせたように空に伸びたそれは剣を形成。
濃紅の双剣を宙という鞘から引き抜くと、体の前に突き出す。
アエーシュマと言う魔神は、今ここに地を穿つ一本の剣となる。
視線の先には、銀の瞳が殺気を放ち、右手に光を携える夜の管理者。
右手を此方に伸ばして対抗とした彼女に、暴風の中でも聴こえる大声で叫ぶ。
  _
( ゚∀゚)「止めてみろよ……俺を!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:15:44.10 ID:zaBlntlR0
対するクーは無言で円盾を形成。
半透明のそれの奥に見える眼はしかし殺意で魔神を貫く。

激突。光が飛沫くが、円盾は形を保つ。
魔神アエーシュマは自らの能力……衝撃増加で距離を取らんとする。
しかし、円盾の奥に見える銀の双眸は、不敵な笑みを作っていた。
  _
(;゚∀゚)(これは……何か仕込みやがったな、夜の管理者……ッ!)

クーは見た。自信に透き通っていた蒼の瞳が、不安によって陰るのを。
ならばこの魔術を持って、その不安を現実に変えよう。

川 ゚ -゚) 「ビンゴだ、魔神」

盾が割れる。魔神の能力発動は許されなかった。
それは数百の割れ硝子にも似た破片となり、全ての切っ先は魔神に向く。

川 ゚ -゚) 「痛みを知れ……暴力!」

破片が発射された。
魔神の体に突き刺さり、小爆発を起こすそれらは絨毯爆撃にも似る。
全てが爆発しきり、ようやく魔神は地に身を投げる事を許された。
  _
(;゚∀゚)「がッ!」

衝撃に、肺の息が漏れる。
  _
(;゚∀゚)(やはり人間……力や速度は俺の能力で何とかなるが、強度や体力は低い……。
     全体的なスペックで言えばこの体は『夜の管理者』には劣っている……ならば!)

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:19:08.08 ID:zaBlntlR0
腕で体を持ち上げ、膝を付き、逆の足で地を押す。
ゆっくりとした手順を踏んでアエーシュマは立ち上がる。
視線の先には、光を右手に宿す夜の管理者。交戦の意思を感じたならば、すぐにあの光は力と化し、この身を穿つだろう。
  _
( ゚∀゚)「あそこの……逃げ遅れだ!」

叫び、左脚で地面を前に蹴る事で体を後ろに飛ばす。
勝てる。この速度なら。
夜の管理者、クーも一拍遅れてその意図を掴む。

川;゚ -゚) (まずい……デレか!)

空中で身を捻り、デレを正面に捕らえたアエーシュマはクーから見れば隙だらけだ。
しかしあれに攻撃を加えるとなると、デレに被害が及ぶ可能性がある。
その思考に追い討ちをかけるように、アエーシュマは両手に短剣を組成。
あのままだとデレを護る球はすぐに割られるだろう。
  _
( ゚∀゚)「ヒャハハハハハ!!!力無き者をいたぶるのもまた暴力ってなァ!!!」

一つだけ。
この状況のみをひっくり返す方法がある。
ただ、その後に関しては賭けだ。
クーは右の指輪を見つめる。

――君は私が護る。

夜の管理者は、体を光の塵へと分解し、霧散した。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:22:09.00 ID:zaBlntlR0
魔神アエーシュマは突然の事態に驚きを隠せなかった。
突然、視界の左上が光った。目線を向けると、現れたのは黒のワンピース、夜の管理者。
その振り下ろしの拳が、脳天に直撃する。
  _
(  ∀ )「が……ッ!?」

光の球への軌道コースが、無理やり真下に修正される。
一時的に暗転した意識が戻ると、背中に着地の衝撃。それに伴う呼気の排出に、金属の落ちる涼しげな音が混じる。
それは、黄色の玉石を飾った指輪だった。
摘み上げ、立ち上がる。
  _
( ゚∀゚)「ハッ……どうした……?夜の管理者よォ……?
     お前の頼みの指輪は俺の手だ……これは……俺の勝ちフラグじゃねーかよ……?」

強がりを言ったものの、体は限界に近い。
しかし魔術行使に必要な指輪は自分の手にある。この指輪は自分の勝利に等しい。

「言……って置く……が」

どこかから夜の管理者らしき声が聞こえる。
その声色は自分と同じく身体の限界を迎えているからだろうか、跡切れを多く覗かせている。

「私の……指輪……は、中々……便利でな……」

アエーシュマの背に冷や汗が流れる。
その黄色の宝玉は、紛れも無く光を放っていた。

凛とした声色が響く。

「お前の負けだ魔神、地獄へ帰れ」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:25:35.09 ID:zaBlntlR0
横になった視界、右にコンクリートの地面を見ながら、上空に光の炸裂を見た。
瞬間移動術を使った体は、所々悲鳴を上げていた。
それでも、動けないほどではない。立ち上がり、足を引きずるように光の炸裂した場所へと向う。
そこには、意識を失ったアエーシュマと指輪が転がっていた。

川 ゚ -゚) (暴力と人間のコラボレーション……あの言葉を真に受けるのならば、転がってる彼は……)

指輪を拾い上げ、右の中指にはめる。同時にそれは光を放ち、右手を覆うほどに大きくなる。
左の手で、アエーシュマを小突き、意識を引き戻す。
光を伴う右の手をアエーシュマの左胸に突き付けながら、問う。

川 ゚ -゚) 「答えろ……お前は誰だ?」

アエーシュマは焦点の合わない目でクーの目を覗き込んでいる。
そして視線を左胸の光宿る手に移すと、言った。
  _
(;゚∀゚)「ジョルジュ……ジョルジュ・長岡だ……」

川 ゚ -゚) 「ふむ……じゃあ目覚める前の最後の記憶は?」
  _
( ゚∀゚)「スーパーで飯を買って……さあ帰ろうと自転車置き場に向おうとした所を……ううん」

川 ゚ -゚) 「そうか……では、魔獣について何か知っている事は?」

それを聞くとジョルジュは少し嬉しそうに、
  _
( ゚∀゚)「おう、俺は元魔獣狩りだ。字名を持つほど強くは無かったんだがな。
     あんたのその手、魔術だろ?あんたも魔獣狩りか」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:28:20.42 ID:zaBlntlR0
足早にその場を立ち去る。
相手が"まだ"アエーシュマであった場合に備え強気を繕っていたものの、瞬間移動術により削られた生気は多い。
頭が、腕が、足が重い。きっと表情は疲労を湛えているだろう。
倒れる前に家に着ければ良いなと思いつつ、光球の浮く場所へ。
デレに心配をかけぬよう、平静を繕う。

川 ゚ -゚) 「終わったぞ、デレ」

光球は地面に降り、ほどけ、一本の糸となって霧散する。
デレの足が、地面を踏んだ。

ζ(゚ー゚;ζ「だ、大丈夫……だった?」

川 ゚ -゚) 「何の事だ」

ζ(゚ー゚;ζ「だって……私と魔神の間に入る時使ったの、きっと瞬間移動でしょ?
       もし、そうだとしたら……」

川 ゚ -゚) 「大丈夫だ」

あくまで平静を装う。

川 ゚ -゚) 「瞬間移動術の改良を試した事があると言っただろう?一回や二回使ったところで、死にはしないさ」

ζ(゚ー゚;ζ「でも……!」

デレは、心配をしている。
自分は、心配をかけない為に平静を装っていると言うのに。
目線より少し低いところにあるデレの頭に、左の手をポンと置き、撫でる。
びっくりしたように、デレは言の葉を紡ぐのを止める。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:31:16.28 ID:zaBlntlR0
川 ゚ -゚) 「大丈夫だ。デレ。心配するな」

撫でる。緩い癖のあるセミロングを、梳くように。
極めて黒に近い茶の髪を、白く長い指に絡めるようにして、撫でていく。
右腕はデレの腰の後ろに回し、彼女を優しく抱き寄せる。

川  - ) 「だい……」

左手が、滑り落ちる。
抱擁が解かれ、脱力は膝に現れる。
それに従い、クーの体は地面に崩れ落ちた。

ζ(゚ー゚;ζ「え……ちょっと……」

突然の出来事に、デレはまず驚く。
続いて現れたのは焦り。自分はどうすれば良いのだろう。
様々な考えが泡のように湧いては弾け、湧いては弾ける。
流れる冷や汗を、額に感じた。
どうすれば―――

「ご心配なく。御嬢様は少々、人に心配をかけるのがお得意でありますので」

後ろから聞こえた声に、デレは振り向く。
そこに立っていたのは、一人の少女。
その右手には一枚の紙が握られ、今まさに発光し、薄い硝子の割れる音と共に霧散するところだった。

ζ(゚ー゚*ζ「メイド……さん?」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:34:20.22 ID:zaBlntlR0
髪とドレスを黒に統べ、ヘッドドレスとエプロンを白に飾る。
その少女は、デレに対して一礼する。

ミセ*゚ー゚)リ「私の事はミセリとお呼び下さい。
       メイドさんでもよろしいのですが、御嬢様も私をミセリと呼ばれますので……」

ミセリは失礼します、とデレの横を通り、足元に崩れたクーを覗くように、しゃがむ。
その胸元に一枚の符を置くと、それは瞬時に光の板と化し、割れるように爆ぜる。
きらきらと光の粒子が落ちると、クーの表情は和らぎ、やがて目を開く。

ミセ*゚ー゚)リ「お迎えに上がりました、御嬢様」

囁く様な声で、告げる。
まずクーは自分を覗き込む翡翠の目の近さに驚く。
そして、回転のし過ぎで空回りする思考から真に問うべき問いを汲み取り、口に出した。

川;゚ -゚) 「ミセリ……どうしてここに?」

同じく囁きに近い声量で問う。
緑眼が、笑みを作った。

ミセ*゚ー゚)リ「落下する御嬢様を見て、心配で迎えに参じた次第でございます。
       さ、お立ち下さい。転送符は荷物と私で使い切ってしまいましたので……」

川;゚ -゚) 「い、いや……ミセリ……その、近い……ぞ?」

笑顔が、ぐいと近づく。

ミセ*゚ー゚)リ「私が近くに居るのは、迷惑でございましょうか?」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:38:48.95 ID:zaBlntlR0
それは声に混じる吐息を感じられるほどの距離で。
そんな事は、と否定の言葉を紡ぐと、ミセリはクーの右手を両手で包むように握る。

ミセ*゚ー゚)リ「ではこのままお立ち下さい。それとも、お疲れでしょうか?」

川;゚ -゚) 「い、いいいいいや、このまま立ち上がるとなると、その……、
     そう、唇が……な?」

ミセリの口元が緩む。

ミセ*゚ー゚)リ「成程。御嬢様はそういうのを御所望でしたか」

川;゚ -゚) 「いやいやいやいや違う違う!その、あれだ。デレもいるし……な!な!?だから落ち着いて!」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですよ。デレ様が見ていらっしゃるのに、全くはしたないお考えで……」

川;゚ -゚) 「え?全部私の所為?」

ミセリは半ば諦めるように顔を離すと、クーの右腕を右の手で掴み、首の後ろを通して担ぐようにし、立ち上がる。
それにより、クーはミセリの肩を借りて起き上がる事となった。

ミセ*゚ー゚)リ(居なかったら良かったのかね、これ)

そんな事を考えつつ、ミセリはデレに向き直る。
エプロンドレスのスカート部を正して、一礼。

ミセ*゚ー゚)リ「お待たせ致しました、デレ様。
       御嬢様と私が、デレ様を屋敷までご案内致します」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/06(月) 21:41:17.44 ID:zaBlntlR0
ミセリとクーが横に並んで歩いているのを、デレが追従する。
そこでクーは、自分とミセリにしか聞こえない声で問う。

川;゚ -゚) (なあミセリ、何か怒ってないか?)

ミセリは、ふぅと溜息。

ミセ*゚ー゚)リ(……御嬢様は、思った事をストレートに口にします。ですので私もストレートに口にさせて頂きます。
       御嬢様は他人に心配をかけすぎです。デレ様にしろ、私にしろ。
       全く、私が荷物運びを終えてデレ様の家から外を見てみれば御嬢様が空から落ちているし……。
       私がそこで窓を見ていなかったらあの魔神を倒した後どうするおつもりでしたか?)

川;゚ -゚) (いや、何だ……まあ)

ミセ*゚ー゚)リ(確かに仕方が無かったのかも知れませんが、あの光球の防壁はあの程度の攻撃、一度や二度くらい防げますでしょう?)

川;゚ -゚) (そこは……彼女を護ると決めた私の意志を尊重してくれても……良いじゃないか)

再びの溜息。

ミセ*゚ー゚)リ(……私の御主人様は全く自分が見えていないようで)

川;゚ -゚) (え?)

それから森の中の館に辿り着くまでの間、ミセリは一つも口を開かなかった。

- 2nd night. 暴力を操る魔人 end


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