( ^ω^)マインドB!のようです
- 333 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:12:13 ID:HrEMyD8U0
- 津田ツンの家は父子家庭である。
大きな薬品会社の重役として働く父と、一人娘のツン。
決して貧しくはないが、たった2人だけの淋しい核家族。
父と娘の静かな暮らしが、都心の欧風住宅にあった。
ツンがまだ幼い頃は、祖母が通いでなにかと世話をしてくれていたが
その祖母も、孫娘が中学にあがる頃に亡くなり。
自然、家のことは長女のツンが担当するところとなった。
掃除洗濯や料理等の家事全般は、祖母の手伝いで幼い頃から自ずと身につけてきた。
会社では重要なポジションに就いていて、毎日夜遅く帰ってくる父親。
そんな父に、余計な負担や懸念をかけることなど出来ない。
甘えてはいけない。我慢しなくてはいけない。
子供でいてはいけない。
“ツン”は、しっかりしなくては、いけなかった。
.
- 334 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:13:12 ID:HrEMyD8U0
爪'ー`)y‐「じゃ、行こうか」
ξ゚听)ξ「うん」
火の始末、及び各部屋の消灯の有無を一通り確認し、戸締りをして家を出る。
誰もいない家に向けて「いってきます」はもうしない。
昔は毎日欠かさず声に出していた気がするけれど、いつの頃からか
父も私もそういうことは自然とやめてしまっていた。
- 335 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:13:54 ID:HrEMyD8U0
- 爪'ー`)y‐「ツン。お父さん、今日も帰りが遅くなるんだけど大丈夫かな?」
ξ゚听)ξ「大丈夫よ。それよりお父さん、歩きタバコはやめてってば」
爪;'ー`)y‐「あ、あー、ごめん。いや吸う気は無いんだよ。ほんと。
こうして持つのが癖になっちゃってさ」
ξ゚听)ξ「だったらまず、持ち歩くのをやめることから始めないとね。
家で吸わなくなったのは嬉しいけど、会社に着いたらその分吸うんでしょ。
意味無いじゃない」
爪;'ー`)y‐「そ、そんなことないよー。あはは」
困ったように浮かべた父の笑顔には、誤魔化しの色が仄めいていた。
- 336 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:15:53 ID:HrEMyD8U0
- ξ゚听)ξ「……」
“デレ”が姿を現わしてから
父から私に対しての気配りが大げさになったような気がする。
大の愛煙家である父が禁煙を決意したのも、その配慮の一つであることは明らかだった。
きっぱりやめると宣言しておいて、その実なかなか守れてはいないようだけど。
こうして毎朝家を出る時間を一緒にするようになったのも、昨年の春に父が言い出したこと。
その為父の出勤時間に合わせて、少しだけ早めに家を出なければいけなくなった。
そうは言っても、元々早めに登校する習慣が身についているし
HRの時間までは本を読むなりして潰せるので、特に苦には思わない。
それよりもこの年にして毎朝一緒に家を出、駅前のバスターミナルまで付き添われて
親に手を振って学校へ向かうというのは、どうにも気恥ずかしくて未だに納得がいかない。
学校くらい1人で行けるわよ。ほんとに、お父さんは心配性なんだから。
- 337 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:17:03 ID:HrEMyD8U0
……とはいえ、早くにやもめの身となった父にとって
私にとって父がそうであるように、たった一人の家族なのだ。
その一人娘がある日突然、
せいぜい小説やテレビのドキュメンタリーでしか耳にしたことの無いような
その治療法や発症要因さえ未だはっきりと解明されていない、理解不能な病を患い、
こうして特殊学級のある学校に通っているのだから、必要以上に気を揉む気持ちも分かるけれども。
爪'ー`)y‐「金曜日は1時限目から特別授業の日だったよね」
ξ゚听)ξ「うん」
爪'ー`)y‐「ああ、そういえばこの前言ってたっけね?今日は確か……」
信号が赤に変わり、2人、白線の前で待ちぼうけを食らう。
隣で取り留めのない話を続ける、頬のこけた横顔は、気のせいかやつれて見えた。
ξ゚听)ξ「……」
- 338 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:17:51 ID:HrEMyD8U0
- 自分の仕事以外のことには滅法弱く、苦労性で何かと気負いをする、そんな人だから。
だからもしかしたら、娘の発病の原因が、
ずっと放ったらかしにして、重荷を背負わせた自分にある
なんて。悪いペシミズムに囚われて一人抱え込んでいるのかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「―――あ!」
爪'ー`)y‐「え?」
……ただでさえ日頃、仕事で頭を悩ませストレスに身を磨り潰しているこの人に
これ以上余計な心配なんてかけてはいけないのにな。
- 339 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:18:51 ID:HrEMyD8U0
「デレ!!」
ξ゚听)ξ「―――、え」
爪;'−`)「駄目じゃないか!
急に走っちゃいけないって、お父さんいつも言ってるだろう!?」
気がつくと視界は真っ暗で、煙草臭いコートに頭を押し付けられていた。
頭上で、鬼気迫る剣幕の父が焦燥の混じった大声をあげている。
依然赤信号の横断歩道、その白線のギリギリ手前。
隣で同じように信号待ちしていたサラリーマンの、ぎょっとしたような顔。
さっきまで見ていた景色が微妙にズレていて、自分達が少しだけ移動していることに気がついた。
- 340 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:20:14 ID:HrEMyD8U0
- ξ;゚听)ξ「??」
直前の会話やいつも通りの朝と、今の状況が結びつかない。
パパがこわい顔をしてる。どうしてだろう?
フと、視線を道路の方へ向けると
先ほどまで指先で弄ばれていた筈の、マイルドセブンの一本が
いつの間にかアスファルトの地面を転がって、走ってきた車にくしゃりと轢き潰されるところだった。
爪; −)「もうちょっとで大変なことに……」
ξ;゚听)ξ「お、お父さん」
困惑しつつも、頭上の相手にそっと声をかけた。
デレなら父のことを「パパ」と呼ぶ。私はツンだと、目を見て訴えれば落ち着いてくれる筈だ。
すぐに父にもアイコンタクトが通じたようで、うんうんと、微かに頷くと
強い力で抱きしめていた腕から徐々に力が抜けていくのが分かった。
- 341 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:21:07 ID:HrEMyD8U0
- 爪;'−`)「……いきなり道路に飛び出そうとしたんだよ。危なかった……」
急に声のトーンが高くなったから、すぐにデレだって分かったよ。
そう、一つ大きな息を吐き出しながら付け足す。
ξ;゚听)ξ「あ……ありがとう。ごめんね、お父さん」
父がいなかったら、そのまま道路に飛び出していたかもしれない―――
状況を飲み込むに従い、徐々に早くなる鼓動と、じわりと走る嫌な感覚。
ξ;゚−゚)ξ(もう、デレったら)
悪い子。
すぐにデレの姿を探したが、もうあの子は見つからなかった。
普段とは違う取り乱した様子の父を見て、怯えてどこかへ行ってしまったに違いない。
後でうんと叱ってやらなくちゃ……。
- 342 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:22:26 ID:HrEMyD8U0
- 私自身、普段から彼女が簡単に出てきてしまわないよう気をつけているし
先生や周囲の人達に、安全に関する基本的な約束事は常々言い聞かせてもらっているのだが
それでも幼い子供のこと、今みたいに突拍子無く出てこられたらどうしたって防ぎようが無い。
ξ゚听)ξ「……何か見つけたのかしら?」
爪;'−`)「そうかもしれないね。嬉しそうな顔をしてたから」
それにしても一体、何に反応して急に意識の奥から浮上したのか。
横断歩道の向こうを見渡してみても、デレが心奪われそうな店やオブジェ等は見当たらなかった。
ξ゚听)ξ「………!」
―――――その時、不意に。
- 343 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:23:11 ID:HrEMyD8U0
- いなくなってしまったデレの姿を無意識に追ううち、フッと
彼女の残していった微かな記憶の断片が集い、言葉となって浮かんできた。
掬い取れたのはたった一言。
ξ゚听)ξ(―――――”公園”?)
……大好きな公園を見つけたと思って、つい走り出してしまったのだろうか。
馬鹿なデレ。こんな都心の住宅街の真ん中に、公園なんてある筈無いじゃない。
……それとも、何かを見て
いつも行く公園の情景が瞬間的に思い出されただけなのだろうか?
一体何を見て?
辺りを見渡しても、公園が連想されそうな物など何も見つからない。
ξ゚听)ξ「……」
……物、で無いとしたら。
あるいは人、だろうか?
- 345 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:24:22 ID:HrEMyD8U0
爪 −)「ツン」
暗闇から手繰り寄せた細やかなメモリの欠片で、輪郭をそっと形作ろうとするその前に
再び伸びてきた大きな手によって しかと抱きしめられて
私の視界はまた、煙草の匂いのするコートに覆い隠された。
爪;−;)「……お前になにかあったら、お父さん、もう生きていけないよ」
ξ゚−゚)ξ
ごめんね。お父さん。ありがとう。大好きよ。
取り留めもなく浮かんでは消える、短い言葉の端々と
何処かから込み上げてくるあたたかな感情は
私とデレ、どちらのものだったんだろう。
- 346 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:25:39 ID:HrEMyD8U0
- + + + + + + + + + + + +
(´<_` )「おはよう」
ξ゚听)ξ「おはよー」
(`・ω・´)「おはよう羽生君!」
(*^ー^)「おはようございます」
それぞれ自分のクラスで朝のHRを済ませてきた4人が
3階、廊下奥の突き当たりにひっそり位置する特別教室へと集まる。
基本的に真面目な生徒揃いなので、今し方教室の戸をくぐったしぃをラストに
始業の10分前には既に全員が自分の席に着いていた。
- 347 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:28:25 ID:HrEMyD8U0
- (`・ω・´)「そうだ弟者、羽生君にも聞いてごらんよ」
(*゚ー゚)「ふぇ?」
着席して早々、思いがけず自分の名を出されたしぃは
きょとんとした顔をして、順にシャキンと弟者の方を見る。
(´<_` )「あ、はい。
しぃちゃん、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
(*゚ー゚)「?はい」
(´<_` )「あのさ。午前中にマインドBクラスの授業がある日って、午後の授業疲れたりない?」
(*゚ー゚)「……へ?」
(´<_`;)「いや、俺の場合すごく眠くなったりするんだよ。授業もちょっとダルいし……
体育で動きまわった後みたいな」
(;゚ー゚)「……う、うーん……」
(;゚ー゚)「どうだろう……。
……あんまり感じたことは無いかも、です」
(´<_`;)「そっかぁ」
- 348 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:29:50 ID:HrEMyD8U0
- (*゚ー゚)(……むしろなんか、すっきりする、ような……?
………気のせいかな)
(*゚ー゚)「……津田先輩は?そういうことあるんですか?」
ξ゚听)ξ「ううん。まあ、たまにはあるけど。いつもってわけじゃ無いわね」
(´<_`;)「じゃあやっぱうちの馬鹿が無駄に騒いでエネルギー使いすぎるせいだ」
ξ゚ー゚)ξ「苦労人ねーw」
溜息をつき、がっくり肩を落とす弟者。その傍らでシャキンは首を傾げた。
(`・ω・´)「そうかな?
僕が見てる分だと、つーも兄者と同じくらいはっちゃけて、疲れそうに見えるけどなぁ」
(;゚ー゚)「そ、そうなんですか……?」
ξ゚听)ξ「じゃあ、体質の違いかしら?」
- 349 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:31:09 ID:HrEMyD8U0
- (`・ω・´)「そういえばショボンもよく言ってたな。『兄さんの後は体が痛い』って」
(`・ω・´)「激しい運動なんかした後、筋肉痛に悩まされるのは決まってショボンの方なんだ」
(´<_` )「へぇー」
(`^ω^´)「僕にとってはむしろ心地良いくらいなんだけどな。
同じ体なのに、感じる痛さが違うなんて不思議だな!」
意図してかそうではないのか。
”つー”の話にしぃが不安を感じた矢先、自然に話題を逸らして
爽快に笑うシャキンの姿は、流石このクラスのリーダーと思わせた。
ξ゚听)ξ「ふーん……。あ!そういえば
マインドBへの交代が体にも影響を与える例って、前に先生が話してくれたわよね」
(´<_` )「ああ。俺が本で読んで驚いたのは、
盲人の人格に交代すると実際に目が見えなくなるっていう外国の人の話で―――」
(*゚ー゚)「……」
- 350 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:32:00 ID:HrEMyD8U0
( ^ω^)ノ「みんなー、おはようだお!」
ちょっとした朝の雑談が一段落したところで、教室の戸が開きそこから見慣れた笑顔が覗いた。
各々あいさつを返す皆の視線は、自然、教室に入ってきたブーンの後を追う。
( ^ω^)「ふっふっふ。みんな、噂の新入り君が気になるようだおね」
4人の予想に反して、含み笑いをするブーンの背後に続く者はいなかった。
- 351 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:33:57 ID:HrEMyD8U0
- ―――――今週明けの月曜日。
基本人格とマインドB達に、担任教師であるブーンからあるお知らせがあった。
( ^ω^)「今日は特別なお知らせがあるお」
( ^ω^)「このクラスに新しく、男の子が一人。
体験入学生としてやって来ることが決まったお!」
―――――急遽決まった体験入学生の受け入れ。
このクラスに来る生徒ということは 勿論マインドB発症者だ。
その男子生徒に別人格が現れたのは、つい一月程前のことらしい。
ここから少し離れた私立の高校に通う一年生で、体験入学期間は約一ヵ月。
最初の一週間は通常授業は受けず、マインドBクラスにのみ出席することとなっている。
- 352 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:35:52 ID:HrEMyD8U0
- その為既に、昨日のうちに一番廊下側に近いシャキンの席の隣に机と椅子が運び込まれ
短期間だがこのクラスの一員となる 5人目の生徒が来るのを待っていた。
予てから聞かされていた連絡によれば
今日が体験入学第一日目となる筈だ。
ξ゚听)ξ「……だった筈だけど?」
(`・ω・´)「まだ来ていないんですか?」
今朝は別の話題に弾みがつき、皆の口からその話が出てくることは無かったが
頭の隅では全員が、その体験入学生のことを気にしていたのだった。
( ^ω^)「ふっふー。実はもう来てます。
じゃあ、早速入ってもらおうかお」
- 353 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:36:35 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「挨拶をお願いするお、猫塚君」
ブーンの呼びかけに、皆の視線が教室の入口に集まる。
開け放たれたままだった木製の戸口に、件の人物が姿を見せた。
(*゚ー゚)ξ゚听)ξ「「「………」」」(´<_` )(`・ω・´)
( ^ω^)「紹介するお!今日からこのクラスのメンバーになる―――」
- 354 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:37:35 ID:HrEMyD8U0
( ,,^Д^)「はじめまして!猫塚タカラと申します!!」
( ^ω^)「………猫塚タカラ君だお!みんな、仲良くしてあげてお〜」
気合の入った自分の台詞を取られ、力無くよろめくブーンを尻目に
にこやかな笑みを浮かべた男子生徒は、大げさにも取れるような礼儀正しいお辞儀をした。
- 355 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:39:19 ID:HrEMyD8U0
- 教室の隅まで届く、はきはきした威勢の良い声。
その姿には、初めての場所、見知らぬ人々を前に物怖じする様子など微塵も感じさせない。
あまりにも堂々としたその登場に
面食らった何人かは数秒、体験入学生・猫塚タカラをぽかんと見つめた。
( ,,^Д^)「今日からこの教室でお世話になります!皆さんよろしくお願いします!」
- 356 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:40:04 ID:HrEMyD8U0
- ガタッ
(`・ω・´)「僕は八又シャキンだ。よろしくな猫塚君!」
ξ゚听)ξ「……二年の津田よ。よろしく」
(´<_` )「同じく二年の流石だ。よろしくな」
(*゚ー゚)「一年の、羽生っていいます。……よろしくね」
( ,,^Д^)「よろしくお願いします!!」
真っ向勝負は望むところと、席から勢いよく立ち上がるシャキン。
負けじと大きく名乗りをあげれば、後の面々もそれに続き、一人一人自己紹介を重ねていく。
まぁ、新たな顔ぶれ紹介の最初の流れとしてはかなり良い雰囲気だと言えるだろう。
その光景を見て、ブーンは満足気に微笑んだ。
- 357 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:40:58 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「タカラ君は前から話してあったとおり、しぃと同じ一年生だお。
通常授業も受けるようになったらそっちでも同じクラスになるから、色々教えてあげておね」
(*゚ー゚)「あ……は、はい」
『猫塚タカラ』と黒板に大きな字で書き終え、ブーンがしぃに向き直ったところで
一時限目始業を告げるチャイムが校内に鳴り渡った。
どうやら一時限目はこのまま、タカラについて紹介の時間になりそうだ。
( ^ω^)「ではタカラ君、みんなに簡単な自己紹介をして欲しいお」
( ,,^Д^)「はい!」
- 358 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:41:51 ID:HrEMyD8U0
- ( ,,^Д^)「えっと、まず……。ボクは、基本人格の方です」
( ,,^Д^)「もう一人の方―――マインドBは、ギコっていう名前です。
先生の方から既にお話し頂いてると思いますが
彼が現れるようになったのはつい一ヵ月程前のことで、ボク自身最初は信じられませんでした」
(*゚ー゚)
( ,,^Д^)「……でも母や、周りの人からボクが”ギコ”の間に検査してもらった病院や診察所で
マインドBだと診断されたと聞きました」
( ,,^Д^)「先生に教えて頂いた、”共在意識”っていうのがまだよく分からないから
ボクの方からギコに話しかけたりする事は出来ません。
その”ギコ”のことも全く分からないし、謎の意識喪失や時間の混乱もあって
診断結果を聞かされた当初は、ただただ不安と恐怖心しか無かったです……」
ξ゚听)ξ(´<_` )
( ,,^Д^)「でも、ブーン先生からこのクラスのお話を聞いて
ここで是非授業を受け、自分の症状と向き合ってみたいと強く思ったんです!」
( ,,^Д^)「母は既に専門の病院への入院手続きを進めていたようなんですが、
何度も説得し頼み込んだ結果、こうして体験入学することを許してくれました」
(`・ω・´)
- 359 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:45:16 ID:HrEMyD8U0
- そこまで一気に言って、一呼吸置くと
タカラはその顔に満面の笑みを浮かべて明言した。
( ,,^Д^)「このクラスに来ることが出来て、ボク、本当に嬉しいです!!」
(;^ω^)「……お、おー。先生も嬉しいお!はい拍手!」
ξ;゚听)ξ「よ、良かったわね……」
ξ;゚听)ξ(なんか八又先輩とキャラかぶってるなぁ……)(゚ー゚;)
(`;ω;´)「良かったな猫塚君!僕らも君を大いに歓迎するぞ!」
(´<_`;)(なんで泣いてんのこの人?)
あまりにも煌々として真っ直ぐなタカラの人間性に、約一名を除いてたじろぐ一同。
- 360 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:46:00 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「はい!ありがとうだおタカラ君。じゃあ席に座ろうかお」
( ^ω^)「タカラ君とギコ君の席は、端っこになるけどシャキンの隣ね。
黒板とか見えにくかったらまた言ってお」
( ,,^Д^)「はい!」
( ,,^Д^)「よろしくお願いします!えっと……シャキン、先輩」
(`・ω・´)「好きなように呼んでくれ給え!」
もし何かあっても、しっかり者のシャキンの隣ならばまず間違いは無い。
そう考えての席順だったが、早くも意気投合しそうな2人はなかなか良いコンビになれそうだ。
- 361 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:46:42 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「……さて、と」
挨拶と自己紹介が終わり、タカラが席に着いたところで
ブーンは紙袋から黒い表紙の綴込ファイルを取り出し、ポンと教卓に広げた。
( ^ω^)「それじゃあそろそろ、出席確認しましょうかお!」
( ,,^Д^)「!」
タカラも、このクラスで行われる“出席確認”の話は前もって聞かされていた。
自らもマインドBを持っているとはいえ、他人が目の前で人格交代する光景にはやはり興味が湧く。
出席簿をパラパラとめくり、今日の日付のページを開くブーン。
そこにはちゃんと”猫塚タカラ/ギコ”の名前が加えられていた。
( ^ω^)「ギコ君にも次からは、出席確認に加わってもらうからね。
それと、マインドBのみんなにまた
さっきと同じ自己紹介してもらわなきゃいけないかもしれないけど、それは覚悟しておいてお」
( ,,^Д^)「はい!」
- 362 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:47:23 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「じゃあみんな、準備はいいかお?
いつもどおり、リラックスしていくお〜」
(*゚ー゚)ξ゚听)ξ(´<_` )(`・ω・´)
しぃ、ツン、弟者、シャキン。それぞれの顔を確認すると、名簿表に記された名前を読み上げる。
軽く息を吸い、ブーンはニヤッと笑った。
今度はタカラの方が気圧されてもらう番だ。
( ^ω^)「出席番号1―――」
- 363 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:48:34 ID:HrEMyD8U0
( ;^Д^)「……は〜」
タカラに再び黒板の前へ立って、皆の前で自己紹介をしてもらう必要は無さそうだ。
出席確認が済み交代した彼らに、ブーンから一言、タカラについての説明が終わるや否や
皆興味津々といった様子で好きに自分の席を離れ、右端、五つ目の机へと集い
呆気にとられるタカラの周りを取り囲み、その顔を覗き込んでいた。
(*゚∀゚)「あひゃひゃ!面白い顔だな、お前!」
( ´_ゝ`)「うわ、顔の系列先生と似てる。目尻の筋肉引き攣ったりしないの?」
お馴染みの高調子な声で、ケタケタと笑うつー。
その傍らでは兄者が、困惑しつつも依然笑顔を保ったままのタカラの顔を凝視しながら
無遠慮にも指でちょいちょいつついている有り様だ。
ツンツン( ´_ゝ`)σ( ;^Д^>⊂(^∀^*)アヒャヒャヒャー
「ひゃ、ひゃめてくだひゃいぃ〜!」
- 365 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:50:09 ID:HrEMyD8U0
- (;^ω^)「こら、めっ!2人とも、ちょっとは遠慮ってもんを学んでくれおおぉ」
(`・ω・´)「悪いな猫塚君、許してやってくれ。
兄者もつーも悪気がある訳じゃないんだ。
ただ、どうしようもなく馬鹿ってだけなんだ」
( ;^Д^)「い、いえ……って、あれ?」
面白がって好き勝手始めた無作法者2人の手から逃れ、シャキンの傍に避難する。
安心するように一息ついたタカラは、シャキンの顔を見て首を傾げた。
( ;^Д^)「シャキン先輩は、シャキン先輩のままなんですね?」
(`・ω・´)「ああ、言うのが遅れてしまったな。僕はマインドBの方なんだ」
(`・ω・´)「基本人格はショボンっていうんだ。
少し事情があって、人前にはあまり顔を出さなくてね。
でもいずれは君にも紹介したい。その時は是非よろしくしてやってくれ!」
( ,,^Д^)「はー……」
チョイ、チョイ
( ,,^Д^)「?」
- 367 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:51:40 ID:HrEMyD8U0
- シャツの裾をそっと引っ張る感覚に気がついて、背後を振り向く。
ζ(゚ー゚*ζ
すると、先ほどまであまり口数も多くは無く、どちらかといえばクールな印象を受けた津田が
両手を背に回して、人懐こい笑みを浮かべていた。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと……タカラおにぃちゃん!」
( ,,^Д^)「へ?あっ、はいっ」
席から立ち上がった今、さほど背の高くないタカラと津田とではその身長に大した差は無い。
なのにその、人好きのする笑顔を携えこちらを見つめる彼女は
気のせいかうんと幼い子供のように、タカラの目には映った。
- 368 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:52:42 ID:HrEMyD8U0
- ζ(゚ー゚*ζ「わたし、デレっていうの。よろしくね」
( ,,^Д^)「え、あ……」
本来なら自分より先輩である筈の津田から
お兄ちゃんと呼ばれることに若干の戸惑いを見せるタカラ。
だが、今目の前にいる彼女は、どことなく幼さを感じさせる雰囲気や口ぶりからして
きっと自分より年下の、恐らくは子供の人格なのだろう。
外見は高校生でも、精神がうんと年下だったり、あるいはその逆である場合。
それが、この教室では至極当然、日常の一部としてあり得ることなのだ。
( ,,^Д^)「は……はい、こちらこそ。よろしくお願いします!」
ζ(^ー^*ζ「えへへ」
そう納得し挨拶を返すと、デレは照れたようにはにかんだ。
- 369 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:53:37 ID:HrEMyD8U0
- (*´_ゝ`)「知らない人にもちゃんと挨拶出来るなんて、
なんて礼儀正しくていい子なんだデレちゃん!」
(`・ω・´)「出来ないお前に問題があるんだ」
( ;^Д^)「あはは……」
ζ(^ー^*ζ「ね、タカラおにぃちゃん。
おにぃちゃんもきっと、すぐにこのクラスのこと大好きになるよ。
だから、一緒にお勉強がんばろっ!」
若干吊り目気味のツンの目が、デレになると途端
ふわりと柔らかくなって幼い表情が形造られる。
タカラに向けられた、どこまでも純粋であどけないその笑顔はただ眩しく。
例を用いて喩えるならば、それはまさに、このクラスに舞い降りた愛の使徒のような。
:*:・。ζ(^ー^*ζ
( ,,^Д^)
( *^Д^)「……はい!がんばりまーす!!」
- 371 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:54:34 ID:HrEMyD8U0
- (#´_ゝ`)「あっお前!惚れたな!?今!デレちゃんに惚れてしまったな!!?
このロリコン!お前なんかに俺のデレちゃんはやらんッ!!」
Σ( ;^Д^)「えええぇ!!?」
(`・ω・´)「一丁前に彼氏に娘を取られる父親気取りか?
いい加減大人しくしろこの野郎」
(;´_ゝ`)「ぎゃー!シャキ兄ギブギブ絞まってる絞まってる!!」
(*゚∀゚)「あひゃひゃー、兄者の顔色死人色ー」
(;^ω^)「お前ら、一応言っとくけど今授業中だからね?怒られんの先生だからね?わかってる??」
普段より一層騒がしさの増した教室内に、多少の頭痛を覚えるブーンだが
何はともあれ体験入学期間中、タカラとは楽しくやっていけそうだ。
- 372 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:56:08 ID:HrEMyD8U0
- ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
( ^ω^)「……と、いうわけで。みんな、何か質問はあるかお?」
(*゚∀゚)∩「はーい!先生、先生!」
最初のドタバタが落ち着き、皆が席に着いた後。
改めてブーンは教壇上から5人に向き直った。
m9 ( ^ω^)「はい!そこのつーちゃん」
(*゚∀゚)∩「あひゃ!ギコってやつは?来ねーのか?」
Σ(`・ω・´)「何っ!?つーがその名前を覚えていたなんて!」
Σ(;´_ゝ`)「やばいぞタカラ、お前のマインドBもうロックオンされてるぞ!何やらかしたんだ!?」
Σ(;^Д^)「なんでそうなるんですか!?」
(*゚∀゚)「シめるぞシャキ兄!兄者も!
つーちゃん、人の名前覚えんのは得意なんだかんな!」
ζ(゚ー゚*ζ「ほんとかなー?」
( ^ω^)「うんうん。ナイス質問だお、つー。
先生も正直話すタイミング見失ってたとこだったお」
- 373 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:57:42 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「確かに、本来なら今日みんなに紹介するのはギコ君の筈だったお」
そう。
持前の明るさや率直性もあり、早くもクラスに溶け込んでいるタカラだが
正式にこの特別教室の生徒となり、授業を受けることになるのはマインドBのギコの方なのである。
クラスの4人も、体験入学生が来るという事前の連絡では「猫塚ギコ」の名前を聞かされていた。
( ^ω^)「でもギコ君には、今日は自分の好きなタイミングで出てきてもらうよう言ってあるお。
だから、授業時間中一度も出てこなくてもいいし、ただ見ているだけでも良いし」
( ^ω^)「タカラ君にも、まずこのクラスのことで知ってもらわないといけないこともあるしね。
次から出席確認には加わってもらうけど、期間も一ヵ月あるから
2人にはゆっくり慣れてってもらうことにしたお」
(*゚∀゚)「ふーん……」ジー
(;^Д^)「そ、そんなじろじろ見たって出てきませんよー」
( ´_ゝ`)「タカラ、交代は?自由に出来んの?」
( ,,^Д^)「あ、そ、それも出来ません。ボクの方からギコに話しかけたりは出来なくて……」
そうして、タカラにまたあれこれと聞いたり、各々のことを話すうち
時間はあっという間に過ぎて、校内に鳴り響く鐘の音が一時限目の終了を知らせた。
- 374 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:58:48 ID:HrEMyD8U0
- + + + + + + + + + + + +
( ^ω^)「はいみんな、その場所でいいからちゅうもーく」
休憩時間開始と共に教室を出ていき、数分後再び戻ってきたブーン。
再びタカラを囲み、一つの机に集まっていた全員がそちらに顔を向ける。
横に引かれた教室の戸は、何故かそのまま開かれたままだ。
( ^ω^)「みんな、月曜日に先生が言ったお知らせ、覚えてるかお?」
(*゚∀゚)「あひゃ?体験入学生が来るってお知らせ!んで今日来た!」
( ^ω^)「そうだおね。それともう一つは?」
(*゚∀゚)「ひゃ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……あ!」
- 375 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 21:59:34 ID:HrEMyD8U0
- ( ´_ゝ`)∩「はいはい!教育実習生も来ることになった!」
( ^ω^)「ピンポン正解!」
(*゚∀゚)「??」
(`・ω・´)「やっぱその事は覚えてなかったか……」
(*゚∀゚)「きょーいくじっしゅーせーって?」
ζ(゚ー゚*ζ「先生のお勉強しに来る先生だよね!いつ来るの?」
( ´_ゝ`)「デレちゃんの方が分かってんじゃねーか」
- 376 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 22:00:24 ID:HrEMyD8U0
- ( ^ω^)「うん、実はね。
その教育実習生さんが来るのも、今日なんだお」
(`・ω・´)「!」
(*゚∀゚)「あひゃ?」
(;´_ゝ`)「え、マジで?」
ζ(゚ワ゚*ζ「わぁっ、今日なんだ!」
( ,,^Д^)「……」
( ^ω^)「偶然重なっちゃったんだけどおね。
ちょっと急なことで、みんなに連絡出来なかったんだお。ごめんお」
( ^ω^)「それでだお。
タカラ君に続いて、もう1人知らない人が教室にいたら、みんな驚くと思って。
だから今日は、教育実習生さんのことは2時限目に紹介することにしたんだお」
これは特に、しぃとつーのことを考慮しての案だった。
初めて会う大人に目の前で観察された状態では、
人見知りの気があるしぃは怖気づいて人格交代が上手くいかないかもしれないし
目が覚めて見知らぬ大人が部屋の中にいたら、つーは警戒の姿勢を取るだろう。
- 377 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 22:03:13 ID:HrEMyD8U0
- (`・ω・´)「……じゃあ」
( ^ω^)「うん。今、教室まで来てもらってるお」
その言葉が終わると同時
開け放たれたままだった教室の戸口に、動く人影が見えた。
(*゚∀゚)( ´_ゝ`)ζ(゚ー゚*ζ(`・ω・´)( ,,^Д^)
静かな驚きに息を飲み、見守る生徒達の前へ
ゆっくり、均整のとれた歩みで歩を進めていく。
- 378 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 22:04:02 ID:HrEMyD8U0
こつん。
こつん。
こつ………。
( ∀ )
宵の空に輝く 金色の三日月が笑った。
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- 379 名前:名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 22:04:47 ID:HrEMyD8U0
( ・∀・)「初めまして。
dat大から来ました、教育実習生の愛流モララーです。
今日から宜しくお願いします」
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