- 1 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:33:37 ID:0MyO6C.UO
何も考えずにただ笑っていられるって、一見聞こえはいいのだけど
悲しみから目を反らしたいだけの自分の弱さを認めきれてないみたいで、それはそれでなんだか背徳感も否めなくて
でも、それでも
『ヘイマイダーリン』
その声を聞くと、充足されてしまうんだ。
- 2 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:35:40 ID:0MyO6C.UO
刹那主義のようです
第一話『てつかずの宵の口』
- 3 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:38:42 ID:0MyO6C.UO
- 時計は約束の時間10分前を指している。待ち合わせ場所には余裕で間に合うだろう。
从 ゚∀从(どうせまた5、6分とかビミョーーーな遅刻してくんだろあいつは)
歩く速度を緩めてハインは携帯を開いた。
待受画面では、2ヶ月前に産んだばかりの息子が微笑んでいる。
从 ゚∀从「……」
今年ももう、年末に差し掛かろうとしてる雰囲気だが、今年に入ってからは心身ともに休まらなかった。
妊娠、出産、恋人との別れ。
べつにこっぴどく振られ、捨てられたわけではない。
責任から逃れようとしてるようにしか見えない彼に見切りをつけたのは、むしろハインの方だ。
拗れた原因はともかく、掻き乱した張本人は彼女自身といっても過言ではない。
- 4 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:40:05 ID:0MyO6C.UO
- ( ・∀・)『……妊娠?』
从 ゚∀从『うん』
( ・∀・)『そっか…』
从 ゚∀从『うん』
( ・∀・)『……ごめん…』
从 ゚∀从『……』
( ・∀・)『俺にはさ、知っての通り先立つものが多いわけじゃん…』
从 ゚∀从『……』
( ・∀・)『申し訳ないけど、俺には何もしてやれない』
( ・∀・)『ほんとにごめん……』
从 ゚∀从(…だろうな)
それからは、ほとんど誰にも相談せず一人で出産を決め、産まれた子供は養子縁組で子宝に恵まれない夫婦に引き取っていかれた。
- 5 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:41:23 ID:0MyO6C.UO
- 全部自分で決めたことなのだと無理矢理割り切ってたつもりだったが、すべてを成し得た後の虚無感は大きかった。
子供に、そして彼にも愛情がなかったわけじゃない。
でも、満を持しての妊娠じゃなかっただけに、それに対応できる諸々の能力など彼にはなかった。
ハインより10個は年上だったが、それでも、だ。
もちろんまともに仕事もしてる人だったが、離婚歴のある彼に甲斐性など初めから期待してなかったし、現に収入にしたら同じ店でアルバイトしてるハインと実質互角のようなものだった。
从 ゚∀从(誰も助けてくれない人生……)
ちょうど今の自分のような気持ちなんか、我が子に味わってほしくなかった。
愛情があるからこそ、自分で育てたいと思う気持ちを凌駕するほど、現実というものは絶望的だったのだ。
- 6 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:42:47 ID:0MyO6C.UO
- 同じ飲食店で働く彼の姿が、好きだった。
自分にはない技術やセンスをひけらかされ、それを盗むのが楽しかった。
でも、実際の彼の生活力といったらこんなものだ。
責任取れないとわかっていながらの、刹那的な行為。
そして、実際に起こってしまった事態にもどうにか対応しようという努力も誠意も見せない。
女癖や酒癖が悪いとかじゃないし、ギャンブルもしない。
けど漠然と、いざという時に助けてくれようともしない男にこれ以上ついていこうとなんて思えない。
確かに、ただのフリーターであるハイン一人で抱え込むには重すぎる問題だが、見切りをつけたら早かった。
自分には何もしてくれない癖に、何事もなかったかのような顔で好きな仕事を続けてる彼を、傍でただ見てるだけのほうがかえってストレスだと思った。
こんなにも筋の通せない年上の男がいるものかと、ハインはむしろ侮蔑に近い目で彼を見るようになってしまった。
- 7 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:43:52 ID:0MyO6C.UO
- そんなこんなを経た結果、ハインの手元には何も残らなかった。
彼も、子供も、もちろん妊娠を理由に仕事も手放してしまった。
またすぐ見つかる。
確かにそうは思うが、産後の体の変化というものは侮れず、そして抗えず、それを初めて経験するハインにとって、新たに手に入れるすべてのものが未知なのだ。
痩せにくくなったし、疲れやすくなった。
少し前までは当たり前にあると思ってたバイタリティーが、今はないという変化らしい変化を顕著に感じると、それも心労の起因となるのだ。
自分は変わってしまった。
何もかも、今まで通りではない。
それが、こんなにも心細いものだと思うこともまた、初めての経験だった。
- 8 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:45:21 ID:0MyO6C.UO
- 从 ゚∀从(でもやっぱり、飲食には戻りたいな…)
自分には、これしかないのだ。
高校も大学も志半ばで簡単に見切りをつけてしまったハインが、自分から飛び込んでいきたいと思う世界が飲食業なのだ。
もとより、物覚えは悪くない。
何をやらせても一応一通り器用にそつなく熟すタイプだ。
けど彼女自身が興味を持つかそうでないかで本人の身になる糧は非常に顕著で、飲食業という分野においてはアルバイトといえどプロ意識と向上心は誰よりも高かった。
もちろん評価もされる。
並に人ともコミュニケーションが取れて向上心も高い若者が、有望視されないわけがない。
仕事に反映する能力、もとい仕事にできる分野に興味を持てたならまともなレールが引かれるのは必然である。
中学生の頃のような、アウトローに惹かれる厨二病は卒業したのだ。
…と思ってたらこの体たらく。
同級生の中でも郡を抜いたアウトローな大人である。
- 9 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/10/31(月) 01:46:45 ID:0MyO6C.UO
- でも、逃げなかった。
仕事も娯楽も恋愛も、何もかも手放してまで、やるべきことはやったはずだ。
だったらもう。
やりたい仕事ぐらい手に入れたっていいじゃないか?
ダメならダメで、また見切りをつければいいなんてどっかのダメ男を連想させるような刹那的な考え方だが、今のハインにはそれが精一杯の前向きな気持ちだった。
とにかく必要に駆られて動きたい。そう思って飲食店の求人情報を読みあさり、地元からは離れた都心になんとか就職先を見つけて安堵したところで
<Knock Me Out Now♪The Ground I'm On Is Feeling♪
あいつからの、電話が鳴った。
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