- 30 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:30:23 ID:kbXXvSyMO
- 第三話『地面が音もたてず』
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- 31 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:31:47 ID:kbXXvSyMO
- その日はまだ、冬の余韻が残っていた。
暦の上では桜咲き誇る春満開だが、乾燥した冷たい風から身を守るように縮こまりながら参加した入学式当日から、ハインは学業に意欲などなかった。
从;゚∀从(さーみー……み、み…水ぼうそう、う…魚の目…め…め……目潰し……)
中学も高校も大学も、入学式はいつも寒かった気がする。
とりわけ中学校なんて惰性で入学しただけであって、人にも勉強にも特に興味がなかったハインは、ただ義務教育に縛られ、受け入れも抗いもせず身を委ねてただけだった。
- 32 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:32:57 ID:kbXXvSyMO
- でも何故か人見知りもしないし、勉強もやればできた。
もともとは、なんの問題もなく学校生活を送れるはずの基盤は持ち合わせてたのだ。
でも、だからこそなのだろうか。
从 ゚∀从(行儀よく真面目なんて糞食らえだ!!)
刺激が、欲しかった。
- 33 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:34:00 ID:kbXXvSyMO
- 義務教育を強いられてるただの中学生が、平穏な日常というものに有り難みを感じるわけもなく、もちろん興味を持つ分野によってその後の人生を左右するとなんか微塵も思わずにやりたい放題やった。
万引き、喧嘩、家出。
全てが単なる度胸試しの域を出なかったけども、中学生のハインらにとってはそれだけで充分刺激的だった。
正しいことだなんて思ってない。
万引きは窃盗罪だし、喧嘩は傷害。それぐらいの認識はあったが、あえて大人が咎めることに臆することなく手をつける。
間違ってるとはなんとなく理解してたけど、それがアイデンティティだった。
- 34 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:35:03 ID:kbXXvSyMO
- でも、いわゆるヤンキーと認識されてる人種は、得てして仲間意識が強く排他的だ。
敵と見做した者には容赦ないが、敵だと思う基準は、呆れるほどいい加減で自分勝手である。
ミセ*゚ー゚)リ『あいつ→o川*゚ー゚)oやっちゃわね?』
从 ゚∀从『…え、なんで?』
ミセ*゚ー゚)リ『ムカつくから。最近調子乗ってね?うざくね?』
从 ゚∀从『…俺べつに何もされてねぇしな…』
仲間が、何がそんなに気に入らないのか、何も伝わらなかった。
ハインも喧嘩はしょっちゅうだったが、大概は売られた喧嘩を買うばかりで、自分から相手を痛め付けるとしたら、それなりの理由があった。
だから、自分が直接何かを被った相手じゃないとどうも気が進まない。
でも
ミセ*゚ー゚)リ『は?何言ってんの?それでも仲間?』
『仲間意識』というものを大幅に勘違いしたヤンキーの気質は、それすらも許さなかった。
- 35 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:36:20 ID:kbXXvSyMO
- だんだん嫌気がさしてきた。
ムカついてもいない相手と喧嘩をしたり
べつに欲しくもないものを万引きしたり
眠い目をこすりながら仲間に付き添って夜中家を抜け出したり
それの何がそんなに楽しいのか、見出だせなくなってきていた。
そして何より
ミセ*゚ー゚)リ『ムカつく。うざい。ぶっ飛ばす』
この連中と、同じ人種にカテゴライズされることが嫌になってきた。
- 36 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:37:52 ID:kbXXvSyMO
- それからは必死に勉強した。
最初からまともに授業を受けていれば、ハインの頭でなら人並み以上にできたことかもしれないが、基礎を作る前に放り投げたせいでほとんどマイナスからのスタートになってしまった。
でも、やればできた。
確かに追いつくことは容易ではなかったが、やればやった分だけ身になった。
その努力家な気質が身を結び、自分が腹立つ理由さえも明確にできないヤンキーなどいないであろう、有名名門高校に合格した。
確かに高校にヤンキーはいなかったが、休み時間でも参考書に目をくっつけて読みあさるような堅真面目な同級生とも気が合わず、とてもじゃないが楽しいとは少しも思えない高校生活だった。
- 37 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:40:09 ID:kbXXvSyMO
- 真面目な連中からは不真面目と言われ、不真面目な連中からはガリ勉と言われ、優等生にも劣等生にもなりきれなかった。
从 ゚∀从(つまんねー…)
ハインはいつも一人だった。
明確なイジメや嫌がらせはなかったが、笑い合える対象がいないというのは、一人でいることをさほど苦とも思わないハインにさえ堪えた。
人間、いないものとされることが一番の苦痛なのだと聞いたことがある。
それを具現化したのが今の自分だと気づいたハインは、誰にも告げることなくフェードアウトするように高校を退学した。
3年生の、12月のことだった。
- 38 名前: ◆U/fBd6yyE. 投稿日:2011/11/03(木) 00:41:52 ID:kbXXvSyMO
- そこから先取得しなきゃいけない単位などもう僅かだ。
高校卒業の資格を得るために必要な単位は、通信教育であっさり取得し、また難関な名門大学を受験した。
マイナススタートとはいえ『誰かを見返したい』と思った時、どういうわけかハインは力を発揮する。
お陰で大学にも合格したし、自分のことを不真面目と見下してた同級生にただ『ざまぁみろ!!』と叫ぶことにも成功したが
そこから先のビジョンは皆無だった。
そんな刹那的で浅はかな目標しかなかったハインは、例によって入学式を迎えた頃には既に燃え尽き症候群だったが
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
そこで出会ったのが、彼だった。
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