( ^ω^)とモンスターのいる農場のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:03:54.52 ID:YSFIMB+WO
拝啓天国のあんたへ。
天国ってとこはどうだ?
あんたの好きな花はたくさんあるか?

あんたが死んでもう10年。
俺は俺なりの幸せを見つけた。
今は人間と一緒に暮らしている。

……あんたが俺に言った言葉も、今もちゃんと覚えてるぜ。
だから俺は……


( ^ω^)「ギコ?どうしたんだおそんなとこで黄昏て」

(,,゚Д゚)「ん……?ああ、ちょっとな」


俺は、俺なりに生き続ける。


―――大切な家族を守るために、ずっと

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:05:45.44 ID:YSFIMB+WO





※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





( ^ω^)とモンスターのいる農場のようです
【ケンタウロス が あらわれた!】





※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:07:37.63 ID:YSFIMB+WO
( ^ω^)「なんだお?悩み事かお?」

ξ゚听)ξ「なやみー?」

ノパ听)「ややみー」


(,,゚Д゚)「違ぇよ。……ちょっと昔を思い出してただけだ」

( ^ω^)「昔……?そういえばギコってロマ達と面識があったおね。昔何があったんだお?」


(,,-Д-)「昔、か」

( ^ω^)「……?」


(,,-Д-)「…………できればこの話はしたくないんだが……」

(,,゚Д゚)「まぁいい。お前には話しといた方がいいかもしれない。……ちょっと覚悟して聞けよ」

( ^ω^)「お……」


(,,゚Д゚)「……10年ほど昔だ。俺は、ケンタウロスの集まる集落に棲んでいた」



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:09:45.43 ID:YSFIMB+WO
その集落には多くのケンタウロスがいた。
俺はそこで両親と一緒に暮らしていた。

そこでの暮らしはなかなか楽しかった。
森で狩りをしたり、木の実を採ったり、川で魚を釣って生活する……平和なものさ。

いや、平和な物だった。


その日俺は、山へ狩りに行っていたんだ。
朝から夕方まで狩りをして、俺はそこそこの獲物を持って集落に戻った。

でも、集落に戻った時、俺は唖然としたよ。


(;゚Д゚)「なんだよ……これ」


……血の臭いが酷かった。
そこら中に転がる、ケンタウロス達の死体、死体、死体。
その中に交じって、人間の死体もちらほらあった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:11:57.80 ID:YSFIMB+WO
生き残ったケンタウロスは少数だったし、その中の大半もひどい怪我を負っていた。
俺の親父もそうだった。


(;゚Д゚)「おい親父!しっかりしろ!」

(;^Дメ)「ん……?ギコ……か」

(;゚Д゚)「何があったんだよ!おふくろはどうした!?」

(;^Дメ)「人間に……襲われたんだ……。……母さんは…………もう……」

(;゚Д゚)「人間!?なんで!!」


(;^Дメ)「理由は……わからん……」

(;゚Д゚)「そんな……理由もなく、こんなことするのかよ」

(;^Дメ)「わからない……と言っただけだ……。理由がないとは……限らん……」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:13:50.23 ID:YSFIMB+WO
親父の言葉はほとんど耳に届かなかった。
その時の俺は……とにかくそいつらに―――人間に復讐する事しか考えられなかった。
仲間を……大切な家族をあんな目に遭わせた奴らにな。


(;^Дメ)「ギコ……ゴフッ!!ゴホッ!」

(;゚Д゚)「もういい!喋るな!!今、薬草を……」

(;^Дメ)「いいか……ギコ……。バカなことは考えるなよ……お前は……」


( ^Дメ)「―――生きろ」


それが最期の親父の言葉だった。
それを聞いて、すぐに薬草を取りに行って戻ってきたら……親父はもう事切れていた。

悔しかった。
俺が集落にいれば、きっとみんなを助けられたのに。
……そう思っていた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:16:00.26 ID:YSFIMB+WO
それから俺はすぐに人間達に復讐する方法を考えた。
そして魔王の力を借りるという考えに至った。
腕っぷしには自信があったから、俺も魔王軍に入れてもらおうと思ったんだ。

人間と魔族は対立するもの同士。
その魔族のトップである魔王の軍ならば、人間を思う存分殺せる……とな。


俺は大急ぎで魔王の城へと向かった。
とにかく、早く人間達に復讐したかったんだ。

……確か丸三日ほど走りつづけたと思う。
魔王城についた頃にはもうヘロヘロだった。

結局俺は城門前でぶっ倒れて、意識を失った。


(,,-Д゚)「……ん……?」


気がついたら、俺は医務室のような場所にいた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:18:36.87 ID:YSFIMB+WO
从'ー'从「あ、気がついたみたいだね〜」


そこにいたのはワタナベだった。
……鎧の上から白衣を着て、なんか楽しそうにしていたな。


从'ー'从「びっくりしたよぉ〜。お城の前で倒れてるんだもん」

(,,゚Д゚)「……そうか」

从'ー'从「でもどうしたの?見たところ怪我もしてないし、熱もないみたいだけど」

(,,゚Д゚)「いや……少s」グーキュルル…


从'ー'从

(,,゚Д゚)


从'ー'从「おなか空いてるんだねぇ〜。食べ物取ってくるからちょっと待ってて〜」


ワタナベの第一印象は……そうだな、イライラする喋り方の女、だったな。
だが、かなり高い魔力の持ち主だってのも感じてた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:21:16.29 ID:YSFIMB+WO
从'ー'从「はい、どーぞ」

ミ;゚Д゚彡「ワタちゃんひどいから!それフサのおやつだから!!」


……そういえばフサにはこの時会ってたんだった。
まぁ、人型だったし、初めてこいつを見たときのセリフが間抜けな物だったから忘れても仕方ないな、うん。


(,,゚Д゚)「……ふぅ」

从'ー'从「食べ終わったね〜。じゃあ、2、3質問していいかな?」

(,,゚Д゚)「……好きにしてくれ」


从'ー'从「とりあえず、名前聞いてもいいかな?」

(,,゚Д゚)「……ギコ」

从'ー'从「ここには何の用で来たの?」

(,,゚Д゚)「……魔王軍に入ろうと思ってな」

从'ー'从「そうなんだ〜」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:22:52.25 ID:YSFIMB+WO
ワタナベの質問はそういう簡単なものばかりで、別段返答に困ることもなかった。
だが、時折感じる殺気の籠もった視線のおかげでこっちは気が気じゃなかったがな。


从'ー'从「じゃあ最後に、魔王軍に入るならどの部隊がいいかな?近衛兵隊とか、守衛とか」

(,,゚Д゚)「……人間が殺せれば、どこでもいい」

从'ー'从「あ……」

(,,゚Д゚)「どうした?」

从'ー'从「……ギコくん。私達は人間を殺さないよ?」

(,,゚Д゚)「なっ―――」


ワタナベの言葉は衝撃的な物だった。
俺の住んでいた集落は魔王城からかなり離れていたから、魔王が人間と共存する道を選んだなんて話は寝耳に水だったからな。

はっきり言って信じられなかった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:25:33.47 ID:YSFIMB+WO
信じられない、という気持ちは段々と怒りに変わり、俺はそこを飛び出した。
とにかく魔王に一言言いたかったんだ。
ワタナベも慌てて追ってきたが、足は俺の方が速い。

そのまま通路を走って行くとマヌケ面した魔物を見つけた。
俺はそいつに魔王の居場所を聞こうとつかみかかった。


(;´・_ゝ・`)「お、おぉっ!?」

(#゚Д゚)「おい、お前!ちょっと聞きたいことがある!」


―――そいつが魔王だとも知らずに、な。


(#゚Д゚)「魔王はどk……」

(#ФωФ)「何をしとるか貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」


魔王はどこにいる。
そう言い終わる前に俺の体は宙を舞っていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:27:25.98 ID:YSFIMB+WO
不意打ちだったから、空中で体勢を立て直すことは出来なかった。
無様に背中から落ちて腰を打ったよ。

……ん?
ああ……馬の方の腰だ。


(;ФωФ)「デミタス!大丈夫であるか!?」

(;´・_ゝ・`)「うん……。ちょっとびっくりしただけ」


(;-Д゚)「や……ろぉ」

(#ФωФ)「貴様!何者だ!!争いが望みとあらば四天王が1人、ロマネスクが相手となるぞ!」

(;゚Д゚)「な……四天王!?」


从;'ー'从「はぁ、はぁ……やっと追いついたよ〜」

(#ФωФ)「ワタナベ!いいところに来た!そいつを捕らえろ!!」

从;'ー'从「ふえ!?ギコくん何かしたの!?」

lw´‐ _‐ノv「なんか面白そうな匂いに釣られてきました」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:30:14.61 ID:YSFIMB+WO
(#゚Д゚)「くそっ!離せ!」

从;'ー'从「もぉ〜。こういうことがあるかもしれないからお部屋から出る時は兵を連れていって下さいって言ったのに〜」

(´・_ゝ・`)「それよりトイレの数を増やした方がいいと思わない?この広い城の中に一つだけってのは明らかな設計ミスでしょ」

( ФωФ)「……多くの魔物は外で適当に済ましてしまうからな」

(#゚Д゚)「無視すんなゴルァ!!」


( ФωФ)「して若造、何用だ。返答如何によっては命だけは助けてやる」

(#゚Д゚)「おい!そこのアホ面魔王!」

(´・_ゝ・`)「あ、そんなこと言うとデミちゃん傷ついちゃうよ」

(#゚Д゚)「人間を殺さないってどういうことだ!ふざけんな!それでも魔族か!!」

lw´‐ _‐ノv「おやおや。ケンタウロスにしては血気盛んだね」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:32:15.59 ID:YSFIMB+WO
(´・_ゝ・`)「逆に聞こうか。ではなんで魔族は人間と敵対する必要がある?」

(#゚Д゚)「そんなの、人間が俺たちの敵だからに決まってんだろうが!」

(´・_ゝ・`)「誰が決めた?」

( ФωФ)「!」


(,,゚Д゚)「………………は?」

(´・_ゝ・`)「どこの誰がいつ決めた?人間は魔族の敵、魔族は人間の敵だって」

(,,゚Д゚)「……知るかよ」

(´・_ゝ・`)「誰も決めてないんだよ。いつの間にか、こうなってた」

(´・_ゝ・`)「そしてこの既存の考えにとらわれ続けていたら、次代は生きていけない」

( ФωФ)「デミタス……」


(´・_ゝ・`)「……私達の大切な友人……いや、家族……かな。……その人の言葉だ」

(,,゚Д゚)「……だが」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:34:17.20 ID:YSFIMB+WO
(,,゚Д゚)「その大切な友人を、家族を、人間に殺されたらどうだ?」

(´・_ゝ・`)「!」

(;ФωФ)「っ!」


(#゚Д゚)「そいつはなんも悪くなかった!もちろん人間に対して害なすことなど少しもしなかった!!」

(#゚Д゚)「なのに人間に殺されたら!それでもお前は同じことが言えるか!?」


(´ _ゝ `)「っ……」

(;ФωФ)「デミタス……」


(#゚Д゚)「敵なんだよ!人間は!!魔族と人間は敵同士で、決して相容れないんだよ!!」



lw#´  _ ノv「やめて!!」

(;゚Д゚)「っ……!?」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:36:26.93 ID:YSFIMB+WO
lw´  _ ノv「やめて……頼むから」


从;'―'从「……」


(´ _ゝ `)「……」


(;ФωФ)「……」


(;゚Д゚)「……?」



それまでの様子から一転。
急にみんな黙りこくってしまった。
……まるで決して触れられたくない物に触れられてしまったような……。
そんな感じだ。

特にデミタスとシュールは明らかに様子がおかしかった。
唇を真一文字に結んで、拳をぷるぷると震わせて……。
必死に、何かに堪えているみたいだった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:38:30.50 ID:YSFIMB+WO
( ФωФ)「……ギコと言ったな」

(,,゚Д゚)「あ……ああ」

( ФωФ)「お主も大切な者を人間に奪われたのか」

(,,゚Д゚)「ああ……」


( ФωФ)「そうか……。だが、お主が憎むべきは人間ではない」

(#゚Д゚)「あ゙ぁ?殺したのはにんげ……」

( ФωФ)「人間という種族の『誰か』だ。全ての人を恨んではならぬ」

( ФωФ)「……そして、ケンタウロスを殺すことができる人間とならば、その者が何かも容易に想像がつく」

(#゚Д゚)「なんだと!?教えろ!どこのどいつだ!!」

( ФωФ)「最近、人間の王が代替わりしたのは知っているか?」

(#゚Д゚)「知らねぇよ。人間の事情なんて」

( ФωФ)「その王が対魔族の特殊部隊を作り出したらしい。……すでに何件かの被害報告を受けているし、それで間違いないだろう」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:40:14.74 ID:YSFIMB+WO
(#゚Д゚)「やっぱり人間は敵じゃねぇか!!」

( ФωФ)「……違う」

(#゚Д゚)「どう違うんだよ!現に人間に殺されてる魔物がいるんだろ!?」

( ФωФ)「『それが』人間なのではない。『それも』人間なのだ」

(#゚Д゚)「……っ!意味わっかんねぇ……!!」


( ФωФ)「ならば、探すがよい。我輩が言った言葉の意味を。人という種族の持つ本来の姿を」

(#゚Д゚)「なんだよ……それ……」

( ФωФ)「お主はまだ若い。何を企んでいるか知らぬが、それを行動に移す前に少し考えるのだな」


( ФωФ)「……行け。お主が望む物はもうここにはない」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:42:40.75 ID:YSFIMB+WO
結局俺は罰を受けるでもなく、ロマネスクが言った言葉の意味を知ることもできないまま魔王城を後にした。
残ったのは行き場のない怒りだけ。

俺はあてもなく歩いた。
ただ気の向くままに、一人、歩き続けた。


自分が今何をやるべきか見失っていたんだ。


やがて俺は人間の住む村にたどり着いた。
時間は夕食時だったから、外にあまり人はいなかった。

そこでぼーっとつっ立ってると、どこからか「魔物だぁぁぁぁっ!!」って声がした。
それを皮切りに家の中から次々と人間達が飛び出してきた。
その手には様々な得物を持って。


―――ああ、これが人間か。


そう思った。
ただ俺がそこにいた、それだけで俺に襲いかかろうとしている。

その時の俺にはそれで十分だった。
人間達を殺しにかかるには……な。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:44:18.65 ID:YSFIMB+WO
抗がう奴は殺した。
例えそれが女、子供であってもだ。

弓を放てばそれを防げる者はだれもいなかった。
腹を強く殴れば大量の吐瀉物と共に血を吐き出し、そのうち動かなくなる。


人間とはこんなに脆いのものなのか。
そのくせに魔族に敵対して、何もしていない魔物を殺して―――


そう思ったら頭に血が上った。
弓は使わず、ひたすらに殴った。
自分の手で人間を傷つけているという実感が欲しかったんだ。

程なくして、その村から生きている人間はいなくなった。
俺自身もあちこち怪我をしていたが、気にならなかった。


それからしばらく、人間の住んでいる村を見つけては襲い、多くの人間を殺す生活が続いた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:46:39.38 ID:YSFIMB+WO
人間は弱かった。
魔族に抗う術を持った者などほとんどいないことに気づいた。

それが慢心を生んだのかもしれない。

ある村で俺は、1人の男に猟銃を向けられた。
それまでにも何度か銃を向けられたことはあったが、撃たれても簡単に避けられるし、
撃たれる前に潰すこともできたから、特に危険視はしていなかった。


男は銃を持ったままガタガタと震えていた。
撃つ勇気がないのだろうと思い、そいつを潰そうと一歩前に出た。

その時だった。


(,,゚Д゚)「……あ?」


どこかで乾いた音がしたと思ったら、脇腹を鈍痛が襲った。
何が起きたのか目で確認しようとした時、今度は後脚に激痛が走った。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:48:17.70 ID:YSFIMB+WO
(;-Д゚)「ぅあ゙っ!?」


ようやく自分が危険な状況下に置かれていることに気づき、慌ててそこから駆け出した。
その間にも俺はあちこち撃ち抜かれ、体の至る所に傷を負ってしまった。


初めて人間が怖いと思った。
人間への恐怖が募ると同時に、憎悪も強まっていった。




足を引きずりながら、ひたすらに逃げ続けて……気がついたら、一軒の家の前にいた。
人間の家だった。

このままここにいたら殺される。
そうは思ったが、もう体は動かなかった。



……そのまま俺はゆっくりと意識を手放した。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:50:14.32 ID:YSFIMB+WO




(メ-Д゚)「……?」


次に目が覚めたら、俺は大量の花に囲まれていた。
俺は死んで、ここはきっと死後の世界なんだ。

そう思って少し歩こうとしたら、体は動かなかった。
よく見たら体の至る所に包帯が巻かれていて、時折薬草を塗り込んだ跡が覗いた。

まだ死んでいなかったんだ。俺は。


(メ゚Д゚)「……ここは……?」


|゚ノ ^∀^)「あ、気がついた?」


(;メ゚Д゚)「っ!?」


首だけ動かして辺りを確認していると、突然人間の女が入ってきた。
驚いて身構えようとすると、体のあちこちが悲鳴をあげた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:51:56.65 ID:YSFIMB+WO
(;メ-Д゚)「ぅぐぁっ!?」

|゚ノ;^∀^)「動いちゃダメ!ひどい怪我なんだよ!?」


女は慌ててこっちに寄ってきて、包帯の上から傷の一つに触れてきた。
優しく、慈しむように。


(;メ-Д゚)「ぐっ……!触るな……っ!!」

|゚ノ;^∀^)「きゃあっ!?」


痛むのを我慢し、左腕で女を突き飛ばした。
華奢な体つきの女は特に抵抗もなくその場に倒れ込んだ。

だが、無理に動かしたせいか、左肩の包帯が千切れ、そこから黒っぽい血液が溢れてきた。


|゚ノ;^∀^)「あっ!いけない!」


女はすぐに立ち上がり、傷口にハンカチを押し当てた。
薄いピンク色だったハンカチは瞬く間に黒く染まってしまった。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:53:54.18 ID:YSFIMB+WO
(;メ-Д゚)「ぐぁっ!?お前……何を……!!」

|゚ノ;^∀^)「じっとして!」


振り払おうとしたが、強く傷口を押さえられた痛みでそれは出来なかった。


|゚ノ;^∀^)「ああ……やっぱりこれじゃダメだわ。ちょっとここ押さえてて」

(;メ゚Д゚)「てめぇ、何が……」

|゚ノ#^∀^)「いいから!!」


女の剣幕に、思わず言うとおりにしてしまった。
すでにハンカチは血を吸ってぐしょぐしょになっていた。

そそくさとその場を離れた女は、大量の布と包帯を持って戻ってきた。
手馴れた手付きで布を当て、くるくると包帯を巻き付けていく。


(;メ-Д゚)「いだっ……いでででででで!!!?」

|゚ノ ^∀^)「我慢してね。男の子でしょ」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:55:50.20 ID:YSFIMB+WO
ぎゅう、と強く包帯を巻き、女はほっと一息ついた。
一方の俺はあまりの痛みにしばし悶えるしかなかった。


|゚ノ#^∀^)「もう!怪我してるんだから大人しくしてなきゃダメでしょう!!」

(;メ-Д゚)「……」


女はそう俺を叱りつけた。
こいつは何を言ってるのだろうと、その時はそう思った。


|゚ノ ^∀^)「もう……。ついでに他の包帯も換えるから大人しくしててね」

(メ-Д゚)「……」



俺が何も答えずにいると、女は黙って他の包帯を取り換え始めた。
傷口に触れるときは優しい手付きだったが、包帯を巻きつける時だけはなぜか乱暴だった。

かなりの痛みを伴ったけど、声を出すのはなんだか悔しかったから我慢した。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/12(月) 23:57:45.11 ID:YSFIMB+WO
|゚ノ ^∀^)「これでよし、と」

(;メ-Д゚)「ふー……ふー……」

|゚ノ ^∀^)「どうしたの?」

(#メ゚Д゚)「ど……どうしたの?じゃねぇよ!なんだあの乱暴な巻き方は!!」

|゚ノ ^∀^)「乱暴にしたわけじゃないのよ?こうしないと、血を止められないから」


外した包帯を抱えながら、女はそう答えた。
その体勢のまま、困ったような顔をして昨夜は大変だっただの、
弾を取り出すのが疲れただの、運ぶのに苦労しただの文句を垂れた。

それらの言葉はあまり頭に入ってこなかった。


この女は俺を助けた。
その事実が信じられなかったからだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:00:13.47 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ ^∀^)「すぐにご飯作るね。野菜スープだけど、いい?」

(;メ-Д゚)「……おい」

|゚ノ ^∀^)「なぁに?」

(;メ-Д゚)「なんで俺を助けた」

|゚ノ ^∀^)「なんで……って、変なこと聞くのね」

(#メ-Д゚)「質問に答えろ!!」

|゚ノ ^∀^)「そんなに大声出しちゃだめよ。傷に響くわ」

(#メ-Д゚)「いいから!」


|゚ノ ^∀^)「……助ける理由なんて、いらないわ。あなたが怪我をしてたから助けたの。それだけよ」


女は表情を一つも変えず、さも当たり前のようにそう答えた。
とても裏があるようには思えない、そんな顔で。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:02:48.81 ID:cQj/I5MYO
(#メ-Д゚)「……わけわかんねぇ」

|゚ノ ^∀^)「そう?」

(#メ-Д゚)「俺は魔物で、お前は人間だ。なのになんで俺を助けたりなんかするんだ」

|゚ノ ^∀^)「人間は魔物を助けたらいけないの?」

(;メ-Д゚)「……は?」

|゚ノ ^∀^)「あなたも私もおんなじ生き物なのに?」


女が何を言ってるのか、俺には理解できなかった。
だが、女の方も俺の言葉が意味不明とでも言いたげな表情をしていたのが、もっと理解できなかった。

女はしばらくあごに手を当てて何かを考えていたが、
突然何か閃いた様子で手をたたいき、こちらに歩み寄ってきて―――


|゚ノ ^∀^)「えい!」

(;メ@Д゚)「のぁがっ!?」


……傷口を殴った。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:04:38.26 ID:cQj/I5MYO
(;#メ-Д゚)「な、何すんだてめぇ!!」

|゚ノ ^∀^)「痛かった?」

(#メ゚Д゚)「当たり前だろ!!」

|゚ノ ^∀^)「うん。当たり前だよ」


|゚ノ ^∀^)「怪我した所を叩かれたら痛いの。私も、あなたも」

(#メ゚Д゚)「……何が言いたいんだよ」

|゚ノ ^∀^)「痛いのもおんなじ、嬉しいことも、嫌なことも、きっとおんなじ」

|゚ノ ^∀^)「だから、私とあなたはおんなじ生き物なの。わかる?」

(#メ-Д゚)「……わけわっかんねぇ」


その時はそう言った。
でも、きっと心のどこかではなんとなく理解はしていたんだと思う。

人間も、魔物も同じなんだってことを……な。


|゚ノ ^∀^)「……」

(メ゚Д゚)「待て、わかったから、わかったからまた殴ろうとすんな」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:06:35.45 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ ^∀^)「じゃあ、朝ご飯にするね」

(メ゚Д゚)「……好きにしろ」


|゚ノ ^∀^)「……あ!」

(メ゚Д゚)「……なんだよ」

|゚ノ ^∀^)「あたし、レモナ。よろしくね」


女……いや、レモナは、そう言った。
子供のような……無邪気な笑顔を俺に向けて……そう言った。

レモナは他の人間とは違う。
まだ人間を怖れ、憎む気持ちは変わらなかったが、レモナだけは大丈夫だと、確信もなくそう思った。


(メ-Д゚)「……ギコ」

|゚ノ ^∀^)「えっ?」

(メ-Д゚)「ギコ。……名前だ。」

|゚ノ*^∀^)「……うん!よろしくね!ギコくん!」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:09:15.91 ID:cQj/I5MYO

レモナは花を育てて売っていた。
このご時世に花を欲しがる奴なんてそういないだろうに。


|゚ノ ^∀^)「買う人がいなくてもいいの。お花を育ててるだけで、あたしは楽しいから」


……レモナの考えは俺にはなかなか理解できないものだった。
魔族の考えと、おそらく人間の考えとも少しズレていたろう。

その時は、俺はレモナと人間とを切り離して考えていた。
レモナは人間だが、他の人間とは違う、と。
ノットイコールで無いにしろニアイコールでいたのは間違い無かった。


(メ゚Д゚)「……花……ねぇ」

|゚ノ ^∀^)「ギコくんはどう?花、好き?」

(メ゚Д゚)「食える花はな」

|゚ノ ^∀^)「……ギコくん、モテないでしょ」

(メ゚Д゚)「ほっとけ」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:12:06.04 ID:cQj/I5MYO
花を買いに来る人間なんて、もちろんいなかった。
そのおかげで俺は安心して養生することができた。

ただ一つ、問題があるとするならば、レモナの存在だ。


(;メ-Д゚)「いでででででで!!お、おい!血は止まってんだからそんな強く締めるな!!」

|゚ノ;^∀^)「あ、ごめん!ついクセで……」

(;メ゚Д゚)「……ったくよぉ。傷が開いたらどうすんだ」

|゚ノ ^∀^)「そしたらあたしがまた治してあげる!」


俺はレモナを……一人の人間を受け入れようとしていた。
人間は自分の仲間を、家族を殺した敵なのに。

レモナを見ていると、自分の中での人間の価値観が壊れてしまうような、そんな気がしたんだ。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:14:01.84 ID:cQj/I5MYO
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、レモナは事あるごとに俺に絡んできた。


|゚ノ ^∀^)「ねぇねぇ、ギコくんっていくつなの?」

(メ゚Д゚)「……しらねぇよ。俺たちは歳を数えたりしないんだ」

|゚ノ ^∀^)「ふーん……。じゃああたしよりずっと年下かもしんないんだね!これからはレモナお姉ちゃんとお呼び!」

(メ-Д-)「……少なくともお前よりは生きてる」

|゚ノ;^∀^)「えっ?じゃあギコお兄ちゃんって呼ばなきゃいけないのかなぁ」

(メ゚Д゚)「……なんでそうなる」

|゚ノ ^∀^)「じゃあ、ギコおじちゃん?」

(#メ゚Д゚)「なんでそうなる!!」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:16:42.41 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ*^∀^)「ねぇねぇギコくん見て見て!!」

(メ゚Д゚)「なんだよ……」

|゚ノ*^∀^)「ほら!これ!蝶の蛹だよ!!」

(メ゚Д゚)「お、うまそうだな」


|゚ノ ^∀^)「…………」

(メ゚Д゚)「……なんだその目は」



そんなレモナに時に癒されたり、時に苛立たさせられたりしながら時は過ぎていった。
たくさんの花に囲まれたレモナの家は、俺にとっては異空間だった。
その証拠に、俺の怪我はあっという間に治ってしまった。

俺の治癒能力が向上したのか、ただ時の流れが早くなったように感じただけなのかは今でもわからない。


……いや、嘘だ。
多分、楽しかったんだ。レモナとの生活が。

……だから、時が過ぎるのが早く感じたんだろう。
ここに来てからもそういう経験が何回もあるから……な。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:18:51.87 ID:cQj/I5MYO
いつしか俺は、レモナへの少しの敵対心すらも無くしていた。
代わりに、変な感情が芽生えていた。


|゚ノ ^∀^)「傷の方はすっかりよくなったみたいだね」

(,,゚Д゚)「……そうだな」

|゚ノ ^∀^)「……」

(,,゚Д゚)「……なんだよ」


|゚ノ ^∀^)「ううん……ギコくんともお別れなのかなーって」

(,,゚Д゚)「……そうだな」


怪我が治った以上、もうそこに用はないはずだった。
だけど、なぜかそこから離れるのが躊躇われたんだ。


(,,゚Д゚)「けど……よ。俺、実は帰るとこが無いんだ」


気がついたら、そう口に出していた。
帰る場所を奪ったのは、レモナと同じ人間だっていうのに。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:21:12.61 ID:cQj/I5MYO
それを頭の中でなんとなく理解しながらも、言葉を止めることはできなかった。
俺の復讐心は「レモナと一緒にいたい」って気持ちには勝てなかったんだ。


(,,゚Д゚)「で……だ、迷惑じゃなければ……」


自分の心の中の整理が出来ていないのと、気恥ずかしさのせいで肝心の事は口に出せなかった。
けれど、レモナは俺の言いたいことを理解してくれたようで、俺の手を取り、満面の笑みで


|゚ノ*^∀^)「じゃあギコくんもここに住めばいいよ!今日からここがギコくんのお家だよ!」


……そう言ってくれた。
嬉しかった。
幸せだった。

今まで感じたことのない温かさで満たされていく感じがした。


きっと、あれが俺の初恋ってやつだと思う。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:22:59.61 ID:cQj/I5MYO
それからの日々は、本当に楽しかった。
人間への復讐だとかそういう考えはいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。

ただレモナと一緒に花を育て、同じ食卓を囲んで、他愛のない話をする。
それだけのことが幸せだった。
他の物なんて何も必要ないとすら感じた。


レモナがそばに居てくれるだけで、よかった。
それだけでよかったんだ。




ある日、突然の来客があった。
俺は慌てて裏へ隠れたから、一体どんな人間が来たのかわからなかった。

もしかしたら俺が襲った村の誰かが、俺がここにいることを知ってきたのか、
それとも、親父達を襲った王国の特殊部隊とやらがやってきたのか。

いずれにせよ、この幸せな生活が壊されてしまうんじゃないかと思うと、怖くて仕方なかった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:25:27.76 ID:cQj/I5MYO
しばらくして、レモナが戻ってきた。
いつも明るい笑顔の彼女にしては珍しく、少し落ち込んだ様子で。


(,,゚Д゚)「……誰、だったんだ?」


不安をなるべく表に出さないようにして、なんとかそれだけ聞いた。
レモナは頬を緩ませ、少し照れくさそうな顔をして


|゚ノ*^∀^)「えへへ……あたしの恋人」


そう言った。
予想外の答えだった。

だが、俺が予想してたのと全く別の方向から思い切り心を抉る答えだった。

俺の初恋は、俺が何かをすることも出来ぬまま、唐突に終わりを告げたのだった。


|゚ノ ^∀^)「……?どうしたの?」

(,,∩Д∩)「……泣いてねぇし」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:27:32.59 ID:cQj/I5MYO
がっつり傷心した俺を余所に、レモナはその恋人の話をし始めた。
……なんとも残酷な奴だ。


|゚ノ ^∀^)「……彼、ね。今、王国の兵士として働いてるの」

|゚ノ ^∀^)「だから、なかなか会えなくて……今日みたいにたまに顔出しても、すぐに帰っちゃうんだ」


(,,゚Д゚)「王国の兵士……だと?」


上の空でレモナの話を聞いていたが、そこだけははっきりと聞こえた。
その恋人とやらは王国の兵士として働いている。
レモナは確かにそう言った。


|゚ノ ^∀^)「……うん」


確信から確定へ。
レモナは消え入るような声で肯定した。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:30:03.92 ID:cQj/I5MYO
嫉妬と憎悪の感情が首をもたげる。
しかしそれらが動き出すことはなかった。
レモナがひどく寂しそうな、悲しそうな表情をしていたから。


(,,゚Д゚)「……レモナ?」

|゚ノ ^∀^)「……バカみたいだよね。殺したり、殺されたり」


それは自分に向けられた言葉ではない。
なのに胸が締め付けられるような感じがした。


|゚ノ ^∀^)「彼……ね、双子のお兄さんがいたの」

|゚ノ ^∀^)「少し引っ込み思案なところがある彼と違って、お兄さんは明るくて、みんなのリーダーみたいな人だった」


ちょっと変わってるところもあったけどね、と続け、無理に笑顔を作る。
一体レモナは何を嘆いているのか、何を悲しんでいるのか、俺にはわからなかった。

それが悔しかった。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:32:07.71 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ ^∀^)「……でも、2年前に彼の住んでた村が魔物に襲われて……お兄さんが、亡くなって」


|゚ノ ^∀^)「……彼、お兄さんの仇を討つんだって言って、王国の兵隊に志願しにいったの」

(,,゚Д゚)「……」


レモナの恋人と俺は、どこか似ていた。
俺は人間に家族を奪われ、そいつは魔物に家族を奪われた。

そして、俺は人間を、そいつは魔物を憎んだ。


|゚ノ ^∀^)「……バカみたいだよね」


レモナはそう呟くと、そっと俺の左胸に手を当ててきた。
俺は何もせず、レモナの白くて小さな……それでいて少し荒れた手をただ見つめていた。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:34:22.75 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ ^∀^)「覚えてるかな。あたしとギコくんはおんなじって言ったこと」

(,,゚Д゚)「……ああ」

|゚ノ ^∀^)「おんなじなの。家族が殺されたりしたら、悲しいし、殺した相手が憎くなる」

|゚ノ ^∀^)「人間も、魔物もきっとそう」

|゚ノ ^∀^)「やられて、やり返しても、またやり返されるのに……知っててみんな知らん顔」


|゚ノ ^∀^)「辛くても、苦しくても、悲しくても、誰かがそれを堪えて、我慢しないと、復讐の連鎖は終わらないのに」


|゚ノ ^∀^)「殺されて……殺して……また殺されて……また殺して……」

|゚ノ  ∀ )「……もう、うんざりなのにね」


(,,゚Д゚)「レモナ……」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:36:06.43 ID:cQj/I5MYO
なんで人間と魔族が敵対しているか。
それは誰にもわからない。いつの間にかこうなっていた。

……そう魔王が言っていたのを思い出した。


発端は何かはわからない。
だが、その『何か』をきっかけに復讐が復讐を呼び、今のようになったのだろう。

レモナは、それを嘆いていた。
俺の左胸に手を当て、俯いたままで。

肩を震わす彼女を抱きしめようと伸ばした手は、中途半端な位置で止まっていた。
果たして俺に彼女を抱きしめる権利があっただろうか。
怒りに身を任せ、何人もの罪のない人間を殺した俺に……。


(,,゚Д゚)「……レモナ」

|゚ノ  ∀ )「……ん?」


そんな醜い俺の過去を彼女にだけは知られたくなかった。
出来れば隠しておきたかった。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:38:16.68 ID:cQj/I5MYO
(,,゚Д゚)「……俺も、そのバカみたいな奴の1人だ」


でも、言わなければならない気がしたんだ。
自分の過去を、自分の罪を。

その時にはロマネスクの言葉の意味もわかっていた。
俺の家族や仲間を殺したのは人間だ。
そして、俺を助けて、人間と魔族の争いを憂いている彼女も、人間なのだ。


レモナは俯いたままで俺の話を聞いていた。

人間に仲間を殺されたこと、魔王城に行って追い返されたこと、罪のない人間を虐殺したこと。
全て包み隠さず話し終えたら、ようやくレモナが顔を上げた。

何を言われてもいい、それなりの覚悟はあった。
もしかしたら失恋で多少自棄になっていたのかもしれないが。


|゚ノ ^∀^)「……辛かったんだね」


……だから、レモナのその言葉は予想外だった。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:41:17.48 ID:cQj/I5MYO
(,,゚Д゚)「軽蔑……しないのか?」

|゚ノ ^∀^)「すると思った?」

(,,゚Д゚)「……だってよ、人殺しだぜ?」

|゚ノ ^∀^)「軽蔑されるかもって思うってことは、それが悪いことだってわかってるってことだよね?」

|゚ノ ^∀^)「……それで、そのことを後悔してるから、あたしに話してくれたんだよね?」


……やっぱりレモナは変わり者だった。
だがもし、人間がみんなレモナみたいな奴だったら、きっと争いなんて起きなかったろう。

そんなのはただの妄言でしかない。
必要なのは過去がこうだったらの仮定を考えることではなく、理想の世界へ導くための過程を考えることだ。


(,,゚Д゚)「……俺は……もうあんな馬鹿なことはしない」

|゚ノ ^∀^)「……うん。それでいいよ」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:43:51.83 ID:cQj/I5MYO
俺の答えに満足したのか、レモナは一度弱々しく笑った。
そしてまた俯いて……こつん、と頭を俺の腹あたりに当ててきた。


|゚ノ  ∀ )「ギコくんはいい子だね……」

(,,゚Д゚)「……子供扱いするな」

|゚ノ  ∀ )「ホント……バカ……。こんなことしたって……アニジャさんは帰って来ないのに……」


そっとレモナを抱き寄せてみた。
抵抗はされなかった。

レモナは……いや、人間は俺達ケンタウロスよりも小さい。
力も弱いし、体力も、魔力だってない。

俺が怖れていたのはこんな弱い種族だったのか、
俺が憎んでいたのはこんな矮小な生物だったのか。


彼女の言葉を借りるなら、「バカみたいだ」と……そう思った。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:46:29.42 ID:cQj/I5MYO
その次の日にはレモナも元の調子に戻ったみたいだった。


|゚ノ ^∀^)「今度帰って来てまだ魔物がどうこう言ったりしたらビンタしてやるんだから!」


レモナはそう言いながら何も無い空間にビシバシと張り手をかましていた。
「ワン、ツー!ワン、ツー!」とかけ声もいれながら。

それからはまたいつも通りの生活が戻ってくる。



……そう思ってたんだ。

レモナの恋人が来たその翌日にも、また来客が来た。
そいつらはノックも無しにずかずかと上がり込んできた。

幸い俺は奥の部屋にいたからそこからすぐに身を隠すことが出来た。


|゚ノ;^∀^)「あ、あなた達、誰ですか!?」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:48:07.47 ID:cQj/I5MYO
俺を匿い、レモナはすぐにそいつらに向かい合った。
足音しか聞こえなかったが、おそらく三人組だったと思う。


「失礼。我らは王国の対魔物特殊部隊の者だ。
最近この周辺に凶暴な魔物が出たとの情報を聞いた。何か知ってることはあるか」


|゚ノ ^∀^)「……いいえ。こんな辺鄙なところに現れる魔物なんていません」

「……嘘をついていないだろうな。魔物を匿ったりすれば、反逆罪で死刑だぞ?」

|゚ノ ^∀^)「本当の話です」


本気とも脅しともとれない男の言葉に臆せず、レモナはそう答えた。
しばらくの沈黙の後、三人分の足音は遠ざかって行った。


|゚ノ ^∀^)「……もう大丈夫みたい」

(,,゚Д゚)「……ああ」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:50:48.65 ID:cQj/I5MYO
レモナは笑っていたが、俺はどういう表情をすればいいかわからなかった。
男達の言った魔物の事は、俺に間違いない。

その日はすんなり引き返してくれたからよかったものの、その後もごまかし続ける事は不可能だ。

もし俺がいることがバレたら、自分だけでなく、レモナの命も危ない。
俺自身がどうなろうと構わないが、レモナを危険にさらすのだけは嫌だった。


自分はこれ以上ここにいてはいけないと、そう思った。


(,,゚Д゚)「なぁ、レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「ギコくん。ちょっと来て」


俺の言葉はレモナに遮られ、中断させられた。
仕方なくレモナについて行くと、彼女はある花の植えられた鉢を俺に差し出した。
淡い紫色の小さな花がいくつもついている、そんな花だ。


|゚ノ ^∀^)「それ、あたしの花なんだ」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:53:35.48 ID:cQj/I5MYO
にっこりと笑って、レモナは続けた。


|゚ノ ^∀^)「『エリカ』花言葉は『分け隔て無く愛する心』……それと―――――」



|゚ノ  ∀ )「『孤独』」



博愛と孤独の花……エリカ。
彼女はそれと自分を重ね合わせていた。


|゚ノ ^∀^)「あたし、子供の頃からこんな性格でね、周りから浮いてたの」

|゚ノ ^∀^)「お父さんもお母さんも、小さい頃に死んじゃったし……ずっと1人だった」


|゚ノ ^∀^)「そんなあたしの話し相手は、お花達

|゚ノ ^∀^)「どんな話をしても、変な顔一つせずに、静かに聞いてくれた」

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:56:16.53 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ ^∀^)「……それでね、お花屋さんを始めて、彼と、彼のお兄さんに会ったの」

|゚ノ ^∀^)「2人とも優しくて、あたしは初めて友達ができたって喜んで……」

|゚ノ ^∀^)「もう、1人じゃないんだなって、思ってたのに……」


|゚ノ ^∀^)「お兄さんが死んじゃって……彼は遠くに行っちゃって……」

|゚ノ ^∀^)「また、1人ぼっち」



|゚ノ ^∀^)「でも、今はギコくんがいる。あたしと一緒にいてくれる」

(,,゚Д゚)「レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「ねぇ、これからも、一緒にいてくれるよね」

(;゚Д゚)「っ……」


|゚ノ  ∀ )「ねぇ…………」

(;゚Д゚)「…………」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 00:58:33.19 ID:cQj/I5MYO
それが彼女の願いだった。
このままでは彼女の身が危ないというのに彼女はそう願った。

やっぱりレモナは、残酷な女だ。


(,,゚Д゚)「レモナ、俺は……」

|゚ノ  ∀ )「……言わないで。……もう、1人は嫌なの」

(,,゚Д゚)「…………」





そして俺は、弱い男だ。



それから一週間はその連中……今で言う『魔物狩り』の連中は来なかった。
俺は正直気が気ではなかったが、それでもやはり、レモナと一緒にいるのは楽しかった。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:01:00.67 ID:cQj/I5MYO


「おい、小娘」


|゚ノ;^∀^)「なんです―――――っ!?」





……そして、俺が恐れていた事態が起きた。




なんの因果か、また俺が山で狩りをやってる時に奴らがやって来たんだ。






115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:02:48.61 ID:cQj/I5MYO
(,,゚Д゚)


獲物を持って意気揚々と帰ってきた俺の目に飛び込んで来たのは、
レモナの家を取り囲む十数人の兵士達と、外に放り出され散らかった花の残骸。






そして、その中心で、腹を剣で貫かれているレモナの姿だった。






(,,゚Д゚)「あ……」


間抜けな声が出て、手からその日の獲物が滑り落ちた。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:05:04.21 ID:cQj/I5MYO
(,,゚Д゚)「あ……あ……」


レモナの腹から剣が抜かれる。
兵士はその場に倒れそうになるレモナの胸ぐらをつかみ、何かを叫ぶ。
少し間が空いて、再びレモナの体に剣が突き立てられる。


(,,゚Д゚)「あ――ああ――――」


まるで音のない寸劇を見ているようだった。
視界に移る色は白と黒。
音は聞こえず、そこがどこなのか、一体何が起きているかも理解はできなかった。


(,, Д )「ああああああああああああ」


自分が声を発していることに気づき、少しずつ世界に色が戻って来て
何人かの兵士達が俺の方を向いて
レモナがその場に崩れ落ちて

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:07:00.92 ID:cQj/I5MYO








(# Д )「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!」




怒りが、憎しみが、絶望が、五感を支配した








123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:10:10.58 ID:cQj/I5MYO
向かって来る兵士たちを殴り倒し、レモナを刺した兵士を目指す。


「―――――!―――――!?」


そいつらの言葉はもはや音としても耳に入ってこなかった。


「――――!――――!!」


視界に入る銀色の鎧が目障りだから殴り飛ばした。


「―――――!?――――!!」


殴っている感覚も無かった。
自分が走っているのかどうかも怪しいものだった。

―――レモナを刺した奴を殺す。

ただその一心のみが体を動かしていた。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:12:12.51 ID:cQj/I5MYO

(#゚Д゚)「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」


その兵士は臆することなく俺に向かってきた。
レモナの血の付いた剣を片手に俺の首を取らんと振りかぶる。


その顔面に、俺は拳を突き刺した。


鉄の兜の上から、兵士の顎の骨が砕ける感触がした。
衝撃で兜は脱げ、剣がその手から離れる。

それを奪い、無様に転ぶ兵士を見下ろした。
……すっげぇ間抜けなツラしてたよ。


「―――――……!?―――!!」


俺がゆっくり近づくと、そいつは何かを必死に訴えていた。
もちろん、その言葉は俺には届かなかったが。

……もっとも、砕けた顎で何かを喋ろうとしたところで言葉にはならなかったろうけど。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:14:16.85 ID:cQj/I5MYO
俺は無言のまま剣を振り上げた。
兵士は血と涙と鼻水でグチャグチャになった顔で何かを言い続けてた。


(,,゚Д゚)(……やっぱり、人間はクズだ)


必死に命乞いをする兵士の姿を見てそう思った。
なんて自分勝手なんだ、って。



(#゚Д゚)「らあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」

「――――――!!!!」




「だ―――ぇ!!」



(;゚Д゚)「!?」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:16:59.42 ID:cQj/I5MYO
ダン、と音を立てて剣は地面に突き刺さった。
……ちょうど、兵士の耳の真横辺りに。


兵士を殺そうと、剣を振り下ろした瞬間に、声が聞こえたような気がしたんだ。
それで、手元が狂った。


問題はその声だ。
いったい誰が。

そう思って振り返ると、目が合った。



―――地面に横たわり、苦しそうに息をしながらこちらを見つめるレモナと。


|゚ノ; д )「ダメ……だよ…………殺し……ちゃ…………」


今度ははっきりと聞こえた。
殺すなと、レモナはそう言った。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:19:38.44 ID:cQj/I5MYO
(#゚Д゚)「ふっざけんな!!こいつは、お前を……!!」

|゚ノ; Д )「ダメなの!!」

(;゚Д゚)「っ……!」


瀕死のレモナの必死の懇願。
俺の言葉はまたも彼女に遮られた。


|゚ノ; д )「……その人を……殺したら……止まらないの……」

(;゚Д゚)「何がだよ!わけわかんねぇよ!」

|゚ノ; д )「……復讐……止まらないの……止めないと……」

(;゚Д゚)「っ……でもっ……でもよぉ!!」

|゚ノ; д )「お願い…………ここで止めて……そうじゃないと……止まんない……」

(;゚Д゚)「っ〜……!!」

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:22:00.02 ID:cQj/I5MYO
(#゚Д゚)「くそったれが!!」

「おぶぅ……!!」


最後に兵士の腹を思い切り踏みつけすぐにレモナに駆け寄った。
他の兵士達はすっかりすくみあがっているようで、動かなかった。


|゚ノ; ー )「……うん……いい子」

(;゚Д゚)「喋るな!すぐ、助けてやるからな!!」


俺はレモナを抱え上げて、走り出した。
傷は深かったがすぐに手当てすれば助かると思ったんだ。


(#゚Д゚)「どけやゴルァァァァ!!」


「うわぁ!」

「ひぃ!!」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:23:13.28 ID:cQj/I5MYO
とにかく全力で走った。
ここに来る前に見つけた村の場所はなんとなく覚えていたから、そこへ向かってひたすらに走った。


(,,゚Д゚)「!」


村までの距離は大して無かった。
あとは医者さえいればレモナは助かる、そう思った。


(;゚Д゚)「おい!!この村に医者はいるか!!怪我人だ!!助けてくれ!!」


叫んだ。
村全体に響き渡るような、大きな声で。




―――しかし、返ってきたのは……。


(;メ-Д゚)「っ……!?」

「魔物め!また来やがったな!!」

「おい!早く逃げろ!!」

「銃持ってこい!!今度こそ撃ち殺してやる!!」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:25:16.26 ID:cQj/I5MYO
(;メ゚Д゚)「お、おい!やめてくれ!!俺はただこいつを……!!」


「撃てぇ!殺せぇ!!」

「来るなぁぁ!!魔物めぇぇ!!」



―――返ってくるのは罵声と悲鳴、それと弾丸ばかりだった。


(;メ゚Д゚)「話を聞いてくれ!!俺はどうなってもいい!こいつを助けてくれよ!!」


……誰も聞く耳を持ってくれなかった。
俺を襲う弾丸は少しずつ増え、このままではレモナに当たるかもしれないと思い、俺は逃げ出した。


(;メ゚Д゚)「くそっ……!レモナは同じ人間だろ!!」


俺には理解出来なかった。
人間を人間が傷つけ、人間は人間を救ってくれない。

―――それ「も」人間だ

そう、誰かがつぶやいた。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:27:24.59 ID:cQj/I5MYO
(;メ゚Д゚)「誰か!!」



それからも俺は走りつづけた。
村を見つけては助けを求めた。



(;メ゚Д゚)「頼むから!!」



だが、返ってくる言葉はどこも同じようなものばかりだった。



(;メ;Д゚)「こいつを……!!」



それでも俺は走り続けた。
レモナを救ってくれる人間がいると信じて、ひたすらに。



(;メ;Д;)「助けてくれよぉぉぉぉぉぉ!!!」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:29:02.97 ID:cQj/I5MYO


―――日が暮れた。
もうレモナはすっかり冷たく、軽くなっていた。


(;メ;Д;)「ぜってぇ助ける……助けるからな……」

|゚ノ  ー )「ギコくん……」

(;メ;Д;)「安心しろ、絶対助けるから……絶対に……」

|゚ノ  ー )「人間を……恨まないでね」

(;メ;Д;)「誰が恨むか!お前だって人間だ!」

|゚ノ  ー )「うん。あたしも人間……だよ」

(#メ;Д;)「『お前も人間』じゃない!『お前が人間』なんだよ!!」



(メ;Д;)「そうじゃないと……やってらんねぇよ……」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:30:57.91 ID:cQj/I5MYO
|゚ノ  ー )「ありがとうね。ギコくん」

(メ;Д;)「うっせぇ!礼は元気になってから言いやがれ」

|゚ノ  ー )「楽しかった」

(メ;Д;)「楽しかったってなんだよ!過去形にすんな!!バカやろう!!」


|゚ノ  ー )「ギコくん、覚えておいてね。人間も魔物も、おんなじなんだよ」

(メ;Д;)「わかってらぁ!一々言うな!そんなこと!!」

|゚ノ  ー )「ふふ……安心」


|゚ノ  ー )「良かった……。最期に1人じゃなくて」

(メ;Д;)「最期ってなんだよ!!まだあきらめんな!!」


|゚ノ  ー )「ギコくん。あたしのお願い、聞いてくれる?」

(メ;Д;)「……願い?なんだ?言え……、言ってみろ」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:32:17.06 ID:cQj/I5MYO










|゚ノ  ー )「生きて。……そして、幸せになって」











152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:34:06.08 ID:cQj/I5MYO
(メ;Д;)


(メ;Д;)「はは……なんだよ、それ」


(メ;Д;)「それ、お前には何の得もないじゃん」


(メ;Д;)「……あ!ほら、明かりだぞ!」


(メ;Д;)「あそこならきっとお前を助けてくれるさ!あと少し頑張れよ!」



(メ;Д;)「誰かぁぁ!!こいつを助けてくれぇぇぇぇ!!おぉぉぉい!!」







俺は、レモナがすっかり黙って、呼吸を放棄しても走り続けた。
……結局、誰もレモナを救ってはくれなかった。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:34:50.04 ID:cQj/I5MYO


日が昇った頃、俺は神社に辿り着いた。
……すっかり冷たく、硬くなったレモナを抱えて。


(メ Д )「誰かぁ……こいつを助けてくれよぉ……」


絞り出すような声で、そう言った。
そして、それに答える声が聞こえた。


从 ゚∀从「……助けろ……って無茶言うなよな」

(メ Д )「!」


朦朧としていて、姿は良く見えなかったが俺はとにかくその声にすがりついた。


(;メ Д )「頼む……俺はどうなってもいいから……こいつだけは……」

从 ゚∀从「だから、無茶言うなっつーの」

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:36:12.11 ID:cQj/I5MYO




从 ゚∀从「……死んでるよ。とっくにな」


(メ Д )


冷徹とも言えるその言葉は、俺を現実に引き戻した。

……とっくにわかってたんだ。
レモナが死んでることなんてな。


レモナは助かるって自分に言い聞かせることで、現実から目を背けていただけだったんだ。



そっとレモナを下ろし、俺は拳を地面に叩きつけた。


(メ Д )「何やってんだよ……俺。そばにいたのに……一番守りたい人を守れないなんて……よぉ」

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:38:13.20 ID:cQj/I5MYO
俺はひたすら自分の無力さを嘆いた。
一番近くにいたのに、ずっとそばにいてやればよかったのに。
あいつらが来ることだってわかっていたのに。
対策なんていくらでも立てれたんじゃないか。


後悔はどんどん溢れてきて、止まらない。


……そのままだったら俺はきっと絶望からは抜け出せなかったろう。


从 ゚∀从「……おい、馬野郎」

(メ Д )「……あ?」

从 ゚∀从「確かにお前はこいつの命を救えなかったかもしんねぇ」


从 ゚∀从「でも、こいつは十分救われたみたいだぜ?」

(メ Д )「どういう……」

从 ゚∀从「見てみろよ、こいつの顔」

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:39:25.43 ID:cQj/I5MYO


(メ゚Д゚)「あ……」






               |゚ノ* ー )






朝日に照らされたレモナの顔は、綺麗だった。
そしつ生前と同じ、あの笑顔を携えたままで……。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:40:30.46 ID:cQj/I5MYO
从 ゚∀从「……こんな幸せそうな顔してんのに、お前はこいつを救えなかったって言えるか?」

(メ゚Д゚)「はは……は……」


(メ;Д;)「あははは……バッカみてぇ……」


バカみたいだと思った。

彼女を救えなかったと嘆いていた自分が
こんな幸せそうな顔をして死んだ彼女が




从 ゚∀从「おい、馬野郎」

(メぅД゚)「……なんだよ。チビ狐」

从#゚∀从「あ?殴んぞコラ」

(メ゚Д゚)「いいから用件言え」

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:41:42.45 ID:cQj/I5MYO
从 ゚∀从「……ちっ。墓作るんだろ?手伝ってやんよ」

(メ゚Д゚)「……そうか」

从 ゚∀从「感謝しろよな。神様に手伝ってもらえんだから」

(メ-Д゚)「おーおー。ちっこい神様だのー」

从#゚∀从「てめっ……!んなこと言うなら手伝わねぇぞ!!」

(メ゚Д゚)「構わねぇよ。……むしろ、1人でやりたいくらいだ」

从 ゚∀从「…………あー、そうですか。じゃあ俺は手伝わねーよ。勝手にやれ」

(メ゚Д゚)「ああ。……悪いな」



俺はそこから少し移動して、見晴らしのいい場所にレモナの墓を作った。
野生の魔物に食い荒らされたりしないように、できるだけ深い穴を掘って。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:43:11.00 ID:cQj/I5MYO
レモナを埋めてから、俺はあてもなく旅に出た。
もう一度、世界を見てみたかったんだ。
レモナと出会って、価値観もずいぶんと変わったから。

いろんなとこを見て回った。
……ただ、王国には行く気にはなれなかったがな。

もちろん魔王城の方にも行った。
ちらっと見て帰るつもりだったけど、門の前で偶然ロマネスクを見つけてしまった。

別に無視してもよかったが、なんとなくそんな気にはならなかった。


(´ФωФ)「……む?お主は……」

(,,゚Д゚)「……よぉ」


ロマネスクは少し疲れた様子だった。
あの濃いメンツを相手にしていれば、まぁ疲れもするだろう。


( ФωФ)「雰囲気が変わったな。……なにかあったのか?」

(,,゚Д゚)「まぁな。お前の言う人間って奴に会ったんだ」

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:44:17.38 ID:cQj/I5MYO
( ФωФ)「……そうか」

(,,-Д-)「安心しろ。もう人間を殺して回るとか言いださねぇからよ」


( ФωФ)「それで、これからどうするのだ?」

(,,゚Д゚)「そいつとちょっと約束したんだ。それを果たしに行ってくる」

( ФωФ)「む、そうか。……気をつけろよ」

(,,゚Д゚)「ああ。じゃあな」



ロマネスクと別れてからも、旅を続けた。
レモナの家にも寄った。
不思議なことに、そこは綺麗に片付けられていた。

でも、家の中に誰かが住んでいる様子はなかった。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:45:47.78 ID:cQj/I5MYO
花も無くなっていた。
ただ、その花を除いて。


(,,゚Д゚)「エリカ……?」


小さな花をいくつも咲かせる花。
レモナが自分と重ね合わせた花。

それだけがポツンと残っていた。
花言葉の『孤独』を体現するように。


(,,゚Д゚)「……ここに置いてあっても、いつか枯れちまうよな」


俺はそれを鉢ごと持って走り出した。
こんなところで寂しく咲いているんじゃ可哀想だ。
そう思って。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:47:11.90 ID:cQj/I5MYO
(,,゚Д゚)「あんなとこで寂しく咲いてっから孤独なんて花言葉つけられんだぞ」


持ってきた場所は、レモナの墓。
鉢から取り出して、静かに植え替えた。


いつか、そこ一面に咲いてくれるように祈りながら……。



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *



(,,-Д-)「……それから10年。俺は旅をしながら、レモナの墓へ通い続けた」


(,,゚Д゚)「で、墓に行ったその帰り道に……お前達と出会ったんだ」

( ^ω^)「……お」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:49:19.12 ID:cQj/I5MYO
(,,-Д-)「……悪いな。退屈な話をして」

( ^ω^)「そんな、退屈なんかじゃ……」

(,,゚Д゚)「静かにしろ。起こしちまうぞ」

( ^ω^)「お?」



ξ--)ξ「すー……すー……」

ノハ--)「んぎぁ……んぐ……」


( ^ω^)「いつの間に……」

(,,゚Д゚)「話し始めてすぐだったな。……ま、こいつらに殺すだの殺されるだのの話が聞かれなくてよかったのかもな」

( ^ω^)「おっ……」

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/13(火) 01:50:58.94 ID:cQj/I5MYO
(,,-Д-)「しっかし随分長い間話し込んじまったなぁ。もうそろそろ飯の時間だろ?」

( ^ω^)「とっくに過ぎてるお」

(;゚Д゚)「マジかよ!!」


ξぅ兪)ξ「……ごはんー?」

ノハぅ-)「うきゅ……」


(^ω^ )「ばっちり反応するところはさすがだおね……2人とも」


(,,゚Д゚)「おい、早く飯食いに行くぞ!」

( ^ω^)「はいはいわかったから。少し落ち着けお」


( ^ω^)「まったく……レモナさんが今のギコを見たらどう思うか……」

187 名前: ◆4br39AOU.g 投稿日:2011/12/13(火) 02:31:35.44 ID:pteGnRvbO
少し遅めの昼食の後、みんなでレモナさんのお墓参りに行った。
ギコは照れくさそうな顔をしていたけど、すごく嬉しそうだった。



( ^ω^)(レモナさん、ギコは今日も元気ですお)


( ^ω^)(そして、彼は今幸せですお。ブーンは自信を持ってそう言えますお)


小さな墓石の前で手を合わせて、自分のできる精一杯の報告をした。


風が吹き、辺り一面に咲いた色とりどりのエリカがさわさわと音を立てる。



きっと彼女も、この花達も、もう孤独ではないだろう。




|゚ノ*^∀^)つ<;∵)ノシ【おしまい】


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