- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/19(木) 17:23:58.91 ID:hdpHx7lx0
さみしい、ひかりの粒々が
君にふり注いでいくのを
ただ ぢっと 見ていた。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:24:37.77 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)
これは兄者
(´<_` )
これは弟者
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:25:42.15 ID:hdpHx7lx0
- ( ´_ゝ`) 「ああ、もう、寒くて仕方がねえや。
何が悲しくて冬の時期に北の方に向かわなきゃいかんのだ。
ここでも既に寒いのに、最果ての地なんて、考えただけでも恐ろしい。」
(´<_` ) 「兄者が、亀に土下座して謝っても足らないくらいのらりくらりと、無計画に旅を進めてきたからだろう。
きちんと考えて、夏の時期に最果ての地へ着くようにすればよかったんだ。
あんたがいきなり、びっぷを隅から隅まで見せてやると宣言してからうン十年、
何回の夏が最果てを訪れたことか。」
( ´_ゝ`) 「……さあて、そろそろびっぷの旅も終わりか。
びっぷを隅々まで旅してやろうと決意して、ずいぶんと長いことかかったな。
もらと出会ってからいろんな国を渡ってきた己れだが、いちばん愛着のあるのはこの国だ。
名残り惜しくもあるが、ひとところに留まっておくには、
己れたちの人生は長すぎるし、仕方のないことだな、うん。」
(´<_` )「待て、どこへ行く」
(;´_ゝ`) 「暖かいところなら何処だって行くさ!お前だって知っているだろう、己れは寒いのだけは我慢ならんのだ!」
(´<_` )「その言い方だと他のことは我慢出来るみたいじゃあないか。熱いのもぐろいのも我慢ならんくせに。
兎に角、仏の心を持つ俺でもここばかりは譲られない。」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:26:07.40 ID:hdpHx7lx0
- (;´_ゝ`)「お前なあ、己れは宗教にはさっぱり疎いが、いくらなんでも仏に失礼だぞ。
世の中には悟りを開くために断食してそのまま死ぬ仏だって居ると聞く。
どうだ、お前から一番遠いだろう、いい加減にしろ。」
(´<_` )「ふん、修行が足りないから断食なんて馬鹿な行いに及ぶのだ。
人生とは食うことと見つけたり、これこそ俺の座右の銘。」
(;´_ゝ`)「ええい、黙れ黙れ。己れはお化けが怖い性質だ、あんまり仏を馬鹿にして、恨まれて驚かされたらかなわん」
( ´_ゝ`)「……しかしお前、やけに最果ての地にこだわるじゃないか。
食うこと以外にはまるで関心の無いお前が、珍しい。
いったい何があるっていうんだ、あの土地に。」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「……へえ、本当に珍しいこと。
やれ仕方がない、たんまり着込んで船に乗り込むか」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:27:39.89 ID:hdpHx7lx0
どんぶらこ どんぶらこ
(;´_ゝ`)「こんなボロ船、いつ沈むかわかったもんじゃねえ。
弟者、今なら間に合うぞ、己れを背負って元の土地へ泳ぐべきだ」
(´<_` )「なあ、兄者」
(;´_ゝ`)「な、なんだ?」
(´<_` )「あんたの唯一の取り柄は、中々物を忘れないということだが、産まれたときのことは覚えているか?」
( ´_ゝ`)「はあ、流石の己れといえども、そのへんは朧げにしか覚えてないな。
この常人離れした記憶力は、数多くある己れの取り柄のひとつではあるが、
産まれてからしばらくは生死の境を彷徨ってたもんで、多分そのせいだろうが……」
(´<_` )「なんと。今はこんなにも死ににくいのに、産まれてすぐは死にかけていたのか」
( ´_ゝ`)「海の石の力が凄すぎて、人間であるこの身体の方が吃驚してたんだ、っていう風に母様には言われたな。
ま、結局のところどうなんだかは、さっぱりわからん。
海の石が一体なんなのか、どうして人に宿るのか、どういう力を人に及ぼすのか、具体的なことは何一つわかってない。
今もそうだが、昔はもっとわかってなかった。……だもんで、死にかけで産まれてきた己れは、都合が良かった。」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:29:19.09 ID:hdpHx7lx0
- (´<_` )「と、いうと?」
( ´_ゝ`)「死にかけの理由が理由だけに、そのへんの医者じゃあ話にならん。
どこからか嗅ぎつけたか、魔術とかそういう怪しい力に詳しい奴らが母様の元にやってきて、
助けてやるから己れを貸せと云ってきた。
このままでは死んでしまうのは明らかだったもんで、母様は泣く泣く己れをそいつらに渡した。
そいつらのお陰で命が助かったのは確かだが、まったく非道い目にあった。
劇薬を飲まされて苦しみのたうちまわるところを観察されたり、
四肢を切られてみたり、内蔵をえぐられてみたり」
(´<_` )「なんだ、今と大して変わらないじゃないか」
(;´_ゝ`)「ああ、己れも吃驚だ……。」
(´<_` )「ふうん、そうか。……俺は、産まれたときのこと、覚えてるンだ。」
( ´_ゝ`)「へえ、そういえばお前の昔の話は聞いたことがなかったな。
誰が美味しかったとか誰が不味かったとかはよく聞くが」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:30:51.81 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「ただ、覚えてンのが……最初に喰った人のこと」
( ´_ゝ`)「ああ、やっぱりそういう話か…」
(´<_` )「いや、今日のはいつもと違う。いかにも兄者の好きそうな話だ、期待していいぞ」
( ´_ゝ`)「なんだ、自覚してんのか……それで?美味い団子を出す店の話か?」
(´<_` )「つまり、俺が一番最初に喰ったのは、母様だったってことだよ」
( ´_ゝ`)「……」
(;´_ゝ`)「そ、そりゃあ、お前」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:31:39.23 ID:hdpHx7lx0
- (´<_` )「母様は、産婆の世話にもならず一人で俺を産んだ、らしい。
母様の腹を喰らって、母様の姿に変容して立ち上がったとき、周りに誰も居なかったからな。
今思えば、随分若い、まだ少女ってくらいの年齢だったから、何か事情があったのかもな」
( ´_ゝ`)「……じゃあお前、本当の自分の顔ってやつを、知らないんだな」
(´<_` )「ああ、母様しか知らないことだな。
まあ、今の顔、冴えないなりにそこそこ気に入っているから、それは別にいいんだが」
(;´_ゝ`)「ああそうかい。じゃあ、何が別に良くないっていうんだ?」
(´<_` )「今向かってる最果ての地は、俺の産まれた場所だってことだよ。」
(;´_ゝ`)「……な、なんだお前、つまり……里帰り?」
(´<_` )「それは違う気もするが……。まあ、どうでもいいっていやあ、どうでもいいんだけど、少し気になってな」
( ´_ゝ`)「そりゃお前、気になるだろう。己れは少しばかり嬉しいよ、お前が人間らしい気持ちを持っていてくれて。
口を開けば腹が減った心臓が食いたい腸が食いたいしか言わないお前が…」
(´<_` )「母様を殺したことを激怒してた男を返り討ちにしたんだが、そういえばアレ父親だったんじゃねえかって」
(;´_ゝ`)「…」
(´<_` )「で、そいつもかなり若かったからもしかしたらまだ生きてるかもしれねえなって」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:32:10.20 ID:hdpHx7lx0
(;´_ゝ`)「そういう大事なことはもっともっと早く云え!なんなら己れと出会った瞬間に云っておけ!
やい船長、風よりも早く最果ての地へ向かいやがれ!」
( ・−・ )「いつ沈むかわかりゃしないボロ船に無理いいなさんな」
(´<_` )「そうだぞ、兄者。
だいたい既に死んでても船のせいじゃなくて兄者がのらりくらりとしていたせいなんだから別にいいぞ」
(;´_ゝ`)「お、お前そんなこと一言も言わなかったじゃねえか!
知ってたら己れだってそれなりの計画立てて行動するっての!」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:32:52.90 ID:hdpHx7lx0
- (;´_ゝ`)「おう、此処が最果ての地………」
(´<_` )「おや、兄者、本当に寒さには弱いのか。痛いのは嫌といいつつそこそこ耐えるのに」
(;´_ゝ`)「莫迦、己れ様を舐めるんじゃねえ、寒いのは嫌だけどそこそこ平気だ。
だけどよ、お前、これ寒い寒くないの問題じゃなくてよ、吹雪で前が見えないじゃねえか……。
よくあのボロ船沈まなかったな。
ところで、弟者、自分の産まれた村なり里なり、何処かわかってンのか?」
(´<_` )「覚えてはいるが、道が見えない以上は行けないだろう、常識的に考えて」
(;´_ゝ`)「……じゃあどうするんだよ、こんな何も無いところで…」
(´<_` )「とりあえず腹ごしらえだな」
(;´_ゝ`)「せっかく人間らしい理由で此処に来たんだからちったあ自重しやがれ!」
(´<_` )「どんなときでも腹は減るだろ。あんまり無茶苦茶なこと言うんじゃない」
(;´_ゝ`)「何で己れが悪いみたいになってるんだ!納得できん!
兎に角だな、どこか村に着くまでは食事は無し!
己れはこんな寒いところでは指一本たりとも露出しない!」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:33:26.82 ID:hdpHx7lx0
さくさく
さくさく
さくさく
( ´_ゝ`)「……このままじゃあ、死ぬかもな」
(´<_` )「兄者が?なんでだ?」
( ´_ゝ`)「ああいや、多分死なねえだろうけど、こんだけ冷やし続けると、そのうち身体の方が動かなくなると思う。
さっきも云っただろ、身体は普通の人間なンだよ。お前は大丈夫なのか?」
(´<_` )「左手が壊疽して動かないけど平気だぞ?」
(;´_ゝ`)「「己れよりやばい状態じゃねえか……」
(´<_` )「しかし兄者を喰ったら治るやもしれん」
( ´_ゝ`)「なんだ嘘か」
(´<_` )「まあ嘘だけど、身体が動かしにくくなってきた気はするな」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:34:14.69 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「二人揃って地蔵になるのは勘弁したいところだなあ…」
(´<_` )「もらでも呼べば?」
( ´_ゝ`)「こんな寒いところに呼んだら後からお礼として何を要求されるかわからんぞ」
(´<_` )「じゃああの山火事娘」
( ´_ゝ`)「……つんのことか?つんは寒いところが己れより苦手だぞ。
炎を当てにしてるんだろうが、あいつは未熟ゆえ、気持ちがそのまま力に影響してしまう。
寒いとさっぱり力が出せないだろう。たぶん己れたちより先に倒れるな」
(´<_` )「あの役立たずめ」
( ´_ゝ`)「そう云ってやるな、そもそももらとお前が役に立ちすぎなンだよ。
しかしどうするかねえ、せめて一息つけりゃいいんだが。
此処で深呼吸でもしようものなら、雪で喉が詰まっちまう……」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:35:13.36 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「おお、珍しい、生きてる人間とは」
(;´_ゝ`)「う、うわっ?!」
/ ,' 3「おや、吃驚させてしまってすまないね……
しかし、死ぬ前に出逢えてよかった。迷ってしまったのだろう?
ろくな物は出せないが、吹雪がマシになるまでうちに来ると良い」
( ´_ゝ`)「む、そうさせて頂けると助かるが……良いのか?」
/ ,' 3「私はどうしようもない悪人だが、それでも少しくらいは良心がある。
そんな格好で出歩いているということは地元の人間ではないということは察しがつくし、
この吹雪の中、此処から一番近い村まで行くことがどれだけ難しいか理解している。
つまり、私が見捨てれば君達はほぼ間違いなく死んでしまう。
それをわかっていて見捨てるなんてことは出来ないさ……」
( ´_ゝ`)「悪人などとんでもない。本当に有難い、申し訳ないがお言葉に甘えさせていただく。
己れは兄者、こっちは弟者。貴方は?」
/ ,' 3「兄者さんに、弟者さんだね……私は荒巻と云う。
さ、頑張ってついてきてくだされ、はぐれたりしないよう。見つけれられる自信がないのでね……」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:35:37.11 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「成る程、洞穴を利用して家を作っているのか……」
/ ,' 3「こんな風に、自然の力が強い土地で生きていくにはね、自然の力を利用するのが一番ですよ」
( ´_ゝ`)「流石だな、この厳しい環境で生きていくには、他の土地よりも多くの知恵と力を持っていなければ出来ないだろう」
/ ,' 3「ほっほ。それは勿論ある。先祖から伝わる知恵は何よりも財産さ。
だけど、自然ってのは強すぎる。もちろん、恩恵も多く受けているけれども、
こんな場所じゃあ、殺されちまうことのほうが多いんじゃないかね。
春になって雪が溶けると、殺されちまった人が何人も出てくるもんさ……。
私が今まで此処で生きてこれたのは、知恵だの力だののお陰じゃなくて、運だとつくづく思うね。
そうして、君達もね。本当に幸運だった」
( ´_ゝ`)「ああ、本当に有り難う。まったく無知の状態で来てしまって。貴方は命の恩人だ」
/ ,' 3「褒めても、粗末な汁以外は出せないよ」
(;´_ゝ`)「あ、暖かい汁物……!こんなに神々しく見えたのは初めてだ!」
/ ,' 3「碌な具材は無いけれど、身体を温めるくらいはできるだろ……たんとおあがり」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:37:10.19 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「弟者さんも、遠慮せず」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「ああ、すみません。そいつはそのう、色々ありまして……
特殊な物以外口に出来ない上に人間としても出来てない莫迦でして……」
/ ,' 3「おや……詮索はしないけれど、
その特殊な物は、こんな場所でも手に入れられるのかね?
寒さはそれだけで体力を消耗させる。しっかり食べないと進めないよ。
ああ、そうだ。目的地は何処なんだい?
差し支えなければ教えてくれないか、案内出来るやもしれない。」
(´<_` )「さいはて村」
(;´_ゝ`)「弟者!お前もっと言い方あるだろ!」
/ ,' 3「……」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:37:50.29 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「兄者さん、別に構わないよ、さっきも言ったけど私は碌な人間じゃあない……悪人だ。
礼儀を尽くしてもらうほどの価値も無い。
なあ、弟者さん。ひとつ質問をしても良いかね。
ずいぶんお若く見えるけれど、どうしてさいはて村のことを知っている?」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「……どういうことだ?」
/ ,' 3「兄者さんはご存じないようで。さいはて村は……もう無いのです。
最果ての地の地図は内地には売られていないと聞きます。
そもそも、無くなってしまってから、もう五十年も経つのですから、
地図からもすっかり消えている筈です。
さいはて村の名前を知っている人など本当に限られている筈だ。」
(;´_ゝ`)「も、もう無いって、どうしてだ?雪に埋もれてしまったのか?」
/ ,' 3「……弟者さんは、村がもう無いことを知っていたようですね。
その理由も知っているのでは?」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:39:01.03 ID:hdpHx7lx0
- / ,' 3「……」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「……弟者?」
(´<_` )「……兄者、簡単なことだ。村人が全員死ねば、村は滅びる。
この土地は、住める場所が少ないから、村と村の距離が遠く、
滅びるのは内地よりもずっと容易いのだ」
( ´_ゝ`)「つまり、さいはて村の村人は全員死んでしまったのか……。
なぜだ?やはり、天災か?それとも、伝染病でも流行ったのか?」
/ ,' 3「……もう、夜も更けました。長いこと歩いてお疲れでしょうし、もうこの辺で話はやめにしましょう。
明日、吹雪が弱まったらご案内します、かつてさいはて村であった場所へ。
そこでまた、色々話をしようじゃないですか。さいはて村が滅んだ理由や……他のことも。」
(;´_ゝ`)「ほ、本当ですか。何から何まですみません。」
/ ,' 3「いいんですよ。この毛布、使ってください」
( ´_ゝ`)「しかし、二枚ももらってしまっては、貴方の分が無くなってしまうのでは?」
/ ,' 3「私は大丈夫です、服の構造からして君達のものとは違いますから」
( ´_ゝ`)「いや、本当になんと云ってよいやら。有り難う。
感謝のあまり、有り難うという言葉すら安っぽくなってしまいそうだ」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:39:26.91 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「貴方は、良い人なんですね」
(;´_ゝ`)「この状況では明らかに貴方のほうが良い人だと思うが……。」
/ ,' 3「君は私の過去を知らないから、そんなことが言えるだけのこと」
( ´_ゝ`)「む……。しかし、貴方の過去がどんなものであろうと、今ここに居る貴方が親切なら、己れは感謝に値すると思う」
/ ,' 3「兄者さん。
そう、そりゃね、瞬間だけ切り取ればそうですよ。
でもね、過去が消えることは絶対に無いし、どんなときでも今に繋がっているのです。
生きるということは積み重ねですよ。
雪が降りつもって覆い隠すことだってありましょうよ。今みたいにね。
でも、下に死体が埋まっいると知っていてなお、雪化粧だとか、銀世界だとか云えますか?
何もしらないまま雪景色を見て……綺麗だと云うことはありましょうよ。
けれど……春になれば……雪が溶けて…死体が出てくる。
春は……明日来るでしょう。きっと。」
( ´_ゝ`)「……」
/ ,' 3「おやすみなさい、兄者さん。良い夢を。」
(´<_` )「……」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:40:04.97 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「弟者、お前、中入れよ、風邪ひくぞ。
……いや、ひきそうにもないけど己れが気になるから中に入れよ」
(´<_` )「おお、兄者。みろ、息が白いぞ」
(;´_ゝ`)「お前って、わかりにくいようで、わかりやすいな。
誤魔化さなくたって何も聞いたりしないから、さっさと寝ろよ。
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)「なんだよ」
(´<_` )「俺は……たまに、よくわからなくなる。兄者と違ってまだ若いからかもしれん。」
( ´_ゝ`)「なにが、わからないんだ?」
(´<_` )「たまに、感情が湧くときがある……だけど、その感情をなんて呼べばいいのかわからない。」
( ´_ゝ`)「今、湧いてンのか、感情が」
(´<_` )「多分な。人間様の感情が動く仕組みについてはそこそこ理解しているつもりなんだが、自分に当てはめることは本当に難しい」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:40:30.19 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「感情……楽しい、苦しい、怖い、嬉しい、悲しい、恥ずかしい、悔しい……まあ、そういったところか。
難しいな。感情なんてもんは基本的なもんだから……ちなみに、それは何色をしている?」
(´<_` )「色か。白色だな」
(;´_ゝ`)「また、難しいな。明るい色だから良い意味にもとれるが、何もない空虚な感情ともとれる……」
(´<_` )「白色と、赤色と、青色だな」
(;´_ゝ`)「お前、己れを困らせようと、わざと難しくしてないか?」
(´<_` )「いや。感情のことに関しては、とんとわからんから、兄者を困らせることすら出来ない」
( ´_ゝ`)「ふうん……。まあ、考えてみりゃ、そら複雑だよな。母様を殺したのは事実だし、父親も村が滅びたってンなら死んじまってるか、
そうでなくても探すあてもねえし。探せたとしても返り討ちにしたっていう過去もあるし。
生まれ故郷や、親兄弟ってのは、本当に不思議なもんでねえ。郷愁の念って言葉もあるくらいだし。
どんなことがあって、絆がねじりにねじれても、いい感情にしろ悪い感情にしろ、何らかの感情を抱かずにはいられないんだよなァ。
ただでさえ、複雑な問題だってのに、人間初心者の弟者じゃあ、途方に暮れても仕方ねえやな。」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:40:51.86 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「それは、実体験か?」
( ´_ゝ`)「……まあ、な。」
(´<_` )「まあ、もう少し考えてみるよ。兄者はさっさと寝ろよ、寝不足で倒れてもおぶってやらねえぞ。」
( ´_ゝ`)「お前、頭の出来が悪いんだから、あんまり考えこむんじゃねえぞ。」
(´<_` )「俺の頭の出来が悪いのは、兄者しか食べてないせいだろう。まあ、承知した。」
(´<_` )
(´<_` )「……兄者」
( ´_ゝ`)「なンだ?」
(´<_` )「いや……なんとなく呼び止めたくなったから呼び止めたが別に用は無いから行っていいぞ」
( ´_ゝ`)「お前は欲望に忠実だな……」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:41:24.81 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「まあいい、今に始まったことでもねえや。
じゃあ、寝るぞ。おやすみ」
(´<_` )「ああ」
(´<_` )「……兄者!」
(;´_ゝ`)「だから、なんだよ!」
(´<_` )「多分、何か云いたくて呼び止めたんだが、何を云ったらいいかわからないんだが、知ってるか?」
( ´_ゝ`)「何かって……」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「わかった」
(´<_` )「おお、流石だな兄者」
( ´_ゝ`)「己れはいつだって流石だっての。やい弟者、有り難うって云ってみろ。」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:42:25.01 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「む、俺はそれがいいたかったのか?」
( ´_ゝ`)「まあ、多分な。」
(´<_` )「有り難うとは、感謝の言葉だが、俺は兄者に感謝しているのか?」
( ´_ゝ`)「してるんじゃねえの。」
(´<_` )「実に適当だな。流石だな兄者。」
(´<_` )「では、ありがとう。」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「どういたしまして。」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:43:52.91 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「おはよう。よく眠れましたか?」
( ´_ゝ`)「ああ、有り難う。毛布のお陰で良く寝られたよ。天気の方はどうだ?」
/ ,' 3「それは良かった。最善の状態とまではいえませんが、十分に村まで行けるでしょう」
( ´_ゝ`)「……あれ、弟者を知らないか?」
/ ,' 3「いえ……」
( ´_ゝ`)「まさか先に行ったとかじゃないだろうな……」
/ ,' 3「可能性はありますね。これくらいの天気で、土地勘があるのなら、村まで行くことはさほど難しいことではありません」
( ´_ゝ`)「……荒巻さん。あの弟者は色々と至らないところがあるし、いや、至らないところばかりだ。
色々あった。色々やってきた。だけど今は己れの弟なんだ。どうか、多めにみてやってくれ」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:44:49.57 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「……良い人は、良い人でも、それが過ぎると、ただの愚か者に成り下がるってのは、知ってますか?」
( ´_ゝ`)「ああ、それは、良く言われるな」
/ ,' 3「私が昨日云ったこと、覚えていますか?」
( ´_ゝ`)「『過去が消えることは絶対に無いし、どんなときでも今に繋がっているのです。 生きるということは積み重ねですよ』」
/ ,' 3「記憶力は良いようですが、理解力は無いようで?」
( ´_ゝ`)「随分と手厳しいですね」
/ ,' 3「これは失礼。……行きましょう。」
( ´_ゝ`)「ええ、お願いします」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:48:51.43 ID:hdpHx7lx0
さくさく
さくさく
/ ,' 3「さあ……さいはて村へ、ようこそ」
( ´_ゝ`)「これは……確かに、滅んだ、というのが相応しい様子だな。
人っ子一人どころか、犬猫の一匹も見当たらん。」
/ ,' 3「狼なら、居るやもしれませんがな……。さあ、あの人に会いに行きましょう。」
( ´_ゝ`)「おや、居る場所の検討がついているのかい」
/ ,' 3「出来れば、居なければいいと思いつつ、向かうのですよ」
( ´_ゝ`)「そうか、それは……難儀だな」
/ ,' 3「……」
( ´_ゝ`)「きっと、あいつは居るだろうから」
/ ,' 3「……」
さくさく
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:53:54.78 ID:hdpHx7lx0
- (´<_` )「やあ、兄者、遅かったじゃあないか。寝坊でもしたか?」
( ´_ゝ`)「お前が、早起き過ぎるンだって……。
しかし、さいはて村の更にさいはて、立っているのもやっとと云うようなこんなあばら屋に、
お前と荒巻さんが言葉も交わさないままに待ち合わせたのは、
いったいどういう理由があるのだ」
(´<_` )「兄者、今俺が持っている、この感情をなんと呼べばいいのやら、俺にはまったく検討がつかん。
憶測だが、これはずっと普通のものを喰って普通に生きてきた人間にだって、
説明し難い感情じゃないかって思う。嗚呼、感情ってのはまったく厄介だ。
みんながみんな、俺のように心を読めたならこんなことを悩まずに済んだのに。
俺の知るかぎり、感情に言葉が追いついた例はない」
( ´_ゝ`)「そんなの、当たり前じゃないか。言葉なんて、目安にしか過ぎないンだから。
目安っつっても、大切な目安だけどな。
人が感情を伝えるとき、伝えられるとき、言葉だけじゃ勿論足りない。
瞳の輝き、声の温度、その表情、身振り手振り、
まあ、そういうもんをめいっぱい使って、ようやっと伝えてるもんさ。
それだけ使ってもなお、全てを正しく伝えられることは少ないが。
その感情が大事なものであればあるほど、もどかしくって仕方がない」
(´<_` )「もどかしい、ああ、今の俺の感情は正にその言葉が一番近い。
兄者、俺はもどかしいのだ。なんとも云えぬ感情が溢れて、混ぜこぜになって、
俺を惑わせる。……まるで、人間だ」
( ´_ゝ`)「お前は人間だって、己れも、お前もずっと云ってたろうが。」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:57:38.63 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「そうだ……そうだな。まあいい、考えたってわからないものはわからない。
本当に大事なことなら、こちらから頼まずとも、考えなければいけない時が訪れてくれるだろう。
こういった前向きな姿勢は、兄者には無い、俺の良いところだな。」
( ´_ゝ`)「こういう場面に向き合ってみると、つくづく、
己れはお前の兄とか、父とか、そういうもんなんだなって思い知るよ。
お前はちっとも気付いちゃいないだろうし、他の誰も気付かないだろう。
まさか、鬼畜生の御雨が、まるで人間みたいな感情をちらつかせながら己れを見ているなんてな。
なあ、弟者、何か言いたいことがあるンなら、他の余計なことはいらないから、
云ってみろよ。」
(´<_` )「……」
(´<_` )「兄者。此処は、俺が産まれた場所だ」
( ´_ゝ`)「そうか」
(´<_` )「夜通し考えても理由は思いつかなかったが、兄者に見て欲しかったんだ。」
( ´_ゝ`)「そうか……。」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 17:59:52.02 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「ううむ、此処に来てみれば、自然と言葉が湧き出るのではないかと思ったが、
なかなかどうして、そう上手くはいかないものだな。
いやはやまったく、人間様とは難儀なものよ。
仕方ない、兄者、有り難う」
(;´_ゝ`)「お前、有り難うってのは、なんて云ったら良いかわからないときに
適当に云えば良いってわけじゃねえよ。
まア、幸いにも、この場においてはあながち間違いってわけじゃねえ、
むしろ、最適な言葉だともいえるが……」
(´<_` )「ううむ、やはり俺は流石だな。」
(;´_ゝ`)「莫迦野郎が……」
/ ,' 3「……」
/ ,' 3「随分と、仲が良いよいですな。まるで、兄弟か……親子のようだ」
(´<_` )「ああ、そんなことは俺にだってわかっているさ。
例えば血が繋がっているよりも、ずっと貴重なもので繋がっている人が居るなら、
血のつながりなど、くそくらえってなモンさ。」
/ ,' 3「ああ、まったく、これだけ生きてきて中で、一番の吉報だよ、そりゃあ……」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 18:04:26.49 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「……兄者さん。約束通り、お話しましょう、この村が滅びた理由。
そうしてついでに、私が悪人になったいきさつをね」
/ ,' 3「最初に村人が全員死んだ理由からお話しましょうか。
……殺されたのですよ。鬼と、鬼の子に」
(´<_` )「おや、やっぱりあんたが殺したのか」
/ ,' 3「……」
/ ,' 3「私には、妻がおりました。といっても、妻は村の権力者の一人娘、
私は孤児院で育てられた、何処の馬の骨とも知れぬ男。
所謂、身分違いの恋でした。もちろん、私と妻以外は誰も祝福してくれませんで、
式を挙げることも断られてしまいました。当時こそ、そのことを恨んだり嘆いたりしましたがね、
結果としては、私と妻以外の方が正しかった。
私達は、実らぬ恋という状況に溺れ、着の身着のまま、元居た村を逃げ出しました」
( ´_ゝ`)「なんでい、浪漫があっていいじゃねえか」
/ ,' 3「そりゃあ、あんなことがなけりゃ、私だって、
恋に危険はつきものだとか、若い頃はなンだってしてみろだとか、
したり顔で君達に語ることが出来たでしょうが、どっこい、そうはいかなかった。
流れ着いたさいはて村で、私達はなんとか生計を立てることが出来るまでになりました。
さいはて村の人々は、実に良い人々でしたよ、
何も持たぬ私達に、同情と、この家と、さらには仕事も与えてくださいました。
生活は厳しかったけれども、愛する者と二人で生きていける手立てがるという事実を
覆すほどのものでは到底ありません。
………幸せでしたなァ……。」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 18:26:41.10 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「慎ましいながらも、幸せな生活。
妻が身篭ったことは、その延長線上にある、自然な出来事でした。
気のきかない私ですが、精一杯身重の身体をいたわり、
そして妻も、日に日に膨らむ腹をみて、まるで聖母のように微笑んでおりました」
( ´_ゝ`)「……」
/ ,' 3「あの日は、吹雪でした。そう、丁度、昨日とおなじくらいのね。
だから、なんとなくそわそわして、ふらふらと歩いて、君達を見つけたというわけです。
……話を戻しましょう。その日、仕事のため朝から山に登っていた私は、
吹雪のせいで、いつもよりずっと遅くにこの家に帰ってきました。
兄者さん、吹雪は音を奪います、ですから、戸に手をかけるその瞬間まで、私は幸せでいられました……」
/ ,' 3「戸を開けると、血の匂いが立ち込めました。
あの、肝が冷える感覚、今でも忘れられません。
すぐに私はいつも妻の居る部屋へ向かいました。
ええ、この部屋ですよ。そこに血の跡が残っているでしょう。
獣が吹雪に紛れて妻を襲ったのだと考え……銃を構え、駆けつけました」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 18:42:05.29 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「今考えても、信じられない光景ですよ……
産まれたばかりの赤子が、妻の腹を食いちぎっているだなんて。
臍の緒がつながったまま、先程まで自分の居た場所を、
それは嬉しそうに、体中真っ赤にして、貪り食っているのです。
私の子供が、私の妻を食んでいる」
/ ,' 3「その事実を上手く飲み込めなくて、
しかし、ただ……ただ、妻を救わねばと、私は自分の子供に銃口を向けた」
(´<_` )「だけど、まだあんたの妻は生きていた」
/ ,' 3「そう、そして、云ったんだ……
いいの、と……何が良いのか、私にはさっぱりわからない。
情けないことに、もう、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、
死にゆく妻に叫びました。何が良いというのかと……」
/ ,' 3「私は、妻の静止も聞かず、再び銃口を向けました。
しかし、これは未だに信じられないのだが、赤子はいつの間に妻の姿になっている。
臍の緒を妻の細い指で千切って、それを妻の小さな口で食んでから、
赤子は……いや、私たちの子供は、私に一撃をくれてから、この家を立ち去りました」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 19:03:08.61 ID:hdpHx7lx0
- (´<_` )「そうそう、確かそこの壁を殴って出ていった覚えがあるぜ」
(;´_ゝ`)「老朽化のせいじゃなくてお前のせいかよ……寒くてかなわん」
/ ,' 3「は、は……お陰でこの家まで雪が入ってきて、参ったよ……。
私は何も出来ず……妻に雪が降り積もっていくのを、黙ってみていた……
最初は、囲炉裏の火が上手い具合に照らしてよ、光の粒が妻に降り注いでるみたいだった…
妻の腹にぽっかりと空いた穴に、雪が降る……、最初は妻の体温ですぐに溶けるが、
そのうち、妻の身体も雪と同じ温度になっちまってな……」
(´<_` )「そンなこたァ、どうでもいいっての。
聞きたいのは、なんであんた、村人を殺したんだ?
村人を皆殺しにはしなかった。せいぜい、ニ、三人喰っただけ。産まれたばかりだし、寒かったしな。
俺が誰かを殺すのは、ただ単に食うためであって、皆殺しにしたいとかそんなことを考えたことはねえ。
だのに、風の噂で聞いたところによると、さいはて村の人間は、鬼に皆殺しにされたなんて云うじゃねえか。」
/ ,' 3「……あの鬼畜生めが、妻の姿をして人を喰いやがって、お陰で家に村人がおしかけた。
いや、無理もねえわな。しかし、うちには妻の死体と放心状態の私しか居ない。
事情を話すと、同情されたがな……だけど……鬼を産んだ妻は呪われたのだと皆が云った。
妻の身体をこのあたりで燃やしたり、埋めたりするのは土地が呪われると。
だから……狼やなんやらの、獣に食わせなくてはならんと」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 19:15:36.78 ID:hdpHx7lx0
- / ,' 3「この家も燃やさなくてはならないとな……
そして、……なんとかして、あの鬼を殺さねばならんと……」
( ´_ゝ`)「……」
/ ,' 3「私は……、何故だかわからん、妻の身体を獣に喰わせること、
妻との思い出のこの家を燃やされること、勿論それらも許せんかった。
そうして、おそらく私も殺されるのだということも悟って、それも納得出来なかった。
だけど、それらよりも……あの鬼を殺すのだと云う言葉が、
放心のあまり、どこか夢見心地だった私を現実へと引き戻した。」
(´<_` )「……それで、殺したのか。良い人々を?」
/ ,' 3「ああ……」
(´<_` )「莫迦だな、そんなことしなくても、村人なんかに殺されねえよ、俺は」
(;´_ゝ`)「弟者……」
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 19:32:31.24 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「兄者さん。私は村人を全員殺しました。命乞いをする声も聞かず、女も子供も全て殺しました。
私にも、どうしてなのかわかりません。だって、鬼を……この場合、鬼の子というべきでしょうね。
この村にとっての鬼は、間違いなく私の方なのですから。
……鬼の子を最初に殺そうとしたのは、他でもないこ私。どうして村人たちを止める必要がありましょう?
もしかすると、現実離れしたことばかりが起こったせいで、夢と勘違いをして、あんなことをしたのかもしれません……」
/ ,' 3「……」
( ´_ゝ`)「貴方が昨日云った、雪解けは、もう終わりましたか?」
/ ,' 3「ええ……」
( ´_ゝ`)「春というにはあまりに寒いが、まあいいだろう。それでも己れにとってはあんたは良い人だ。
汁物と、毛布をくれた、あたたかい人だよ。変わらないさ」
/ ,' 3「本当に、愚かなおひとだ」
( ´_ゝ`)「ほっとけ、生まれつきだ」
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 19:48:11.14 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「荒巻さん、過去は確かに消えない。一度してしまったことは、取り返しがつかない。
どんな過去も今の自分に繋がっている……けれど、だからって過去に囚われていたって仕方ないじゃないか。
己れも、取り返しのつかない過去のひとつやふたつ、持っている。
正直な話し、今でもそれに取り憑かれ、後悔の波に溺れてしまいそうになることも多い。
けれど、なあ、もう一度いうけど、仕方ないじゃないか」
/ ,' 3「仕方ないで済ませることが、出来ることと出来ないことがあるだろう……」
( ´_ゝ`)「己れが、あんたが殺した人の親友だったり、恋人だったりしたら、それは別だ。
もしそうであるなら、殺されるのもある意味理にかなってるわな。
だけど……今、あんたは己れたちの、ただの命の恩人だ。
それどころか、弟者をこの世に産んでくれた大きな切っ掛けの一つじゃあないか。
己れたちには、貴方を悪人などと云う理由は無い。
荒巻さん、人は、変われる。それなのに、過去に何かしてしまったからと、今を犠牲にして諦めることないじゃないか。
今より大事な過去なんて、あるかい?過去に繋がっている今を、犠牲にしてまで過去を守るのかい?」
(´<_` )「あんたは、哀れだな。」
(;´_ゝ`)「弟者!」
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:07:27.12 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「許して欲しかったんだろう、ずっと。
哀れなやつだ、兄者が許してやると云っているのに、聞き入れないとは。
ああ、つくづく、俺は仕合わせだ、兄者と出逢えて、許されたから。
だから俺は、人間で居ても良いのだ。他の誰も認めなくても、兄者が許すなら、俺は人間なのだ」
/ ,' 3「お前に、何がわかる……」
(´<_` )「何ひとつ、わからない。でも、お前もそうだろう?
俺は、兄者ほど言葉を上手く使えないし、感情もよくわからない。
だけど、もし生きているなら、会ってみたいと思っていた。
しかしまあ、いざ会ってみても、よくわからない感情しか湧いてこない。
嬉しいとか、そういうわかりやすい感情を期待していたのだが。
なあ、あんたはどうだ?」
/ ,' 3「……」
(´<_` )「あんたもよくわかってないのか。まあ、そんなものかもな。
……ああ、でも、……あんたの妻を喰って、悪かったな。美味しかったぞ」
/ ,' 3「ふ、ざけるな……」
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:16:01.26 ID:hdpHx7lx0
(´<_` )「俺はいつでも大真面目なんだがなァ。
あんたの妻、つまり、俺の母様は、そりゃもう美味かったよ。
美味かったけど、多分、俺は食うべきじゃなかったんだろうとも思う。
今まで何百人と喰ってきたけど、そんな風に思ったことはなかったから、
よくわからないけど、俺にとって、特別だったんだろうな。」
/ ,' 3「……ッ、帰れ!」
( ´_ゝ`)「!」
/ ,' 3「帰れ……帰ってくれ!私の妻を殺した奴に、私の妻について言われるのは不愉快だ!
帰れ!」
(´<_` )「ああ、帰るさ。兄者が寒いと文句を云うもんで」
(;´_ゝ`)「弟者……」
(´<_` )「帰ろう、兄者。吹雪いてきたら拙いだろう」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:21:50.77 ID:hdpHx7lx0
( ´_ゝ`)「お、弟者、いいのか?お前……」
(´<_` )「何が?……ああ、そうだ」
(´<_` )「おい、莫迦野郎」
/ ,' 3
(´<_` )「あんたなんか、生きてても死んでても、俺は痛くも痒くも無いけどよ。
……長生きしろよ。」
( ´_ゝ`)「!」
/ ,' 3「……」
(´<_` )「さ、帰るか」
( ´_ゝ`)「……そうだな」
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:23:56.14 ID:hdpHx7lx0
/ ,' 3「………」
/ ,' 3「畜生………、畜生……ッ…」
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:37:53.87 ID:hdpHx7lx0
さくさく
さくさく
さくさく
( ´_ゝ`)「あ、晴れてきた。青い空なんて久しぶりに見たなァ」
(´<_` )「そうそう、丁度こんな感じだったんだ」
( ´_ゝ`)「うん?何が?」
(´<_` )「感情の色、聞いただろう。白と、赤と、青だってさ。
俺が初めて母様を喰って、村人を何人か喰って……
気付いたら朝になってて、こんなふうに晴れてたンだ。
真っ白な山と、真っ赤な血と、こんな風に晴れた空。
こういう感情、なんていうんだろうな?」
( ´_ゝ`)「………なんでえ、まるで人間みたいなカオしやがって」
(´<_` )「あー、寒いさむい。兄者鍋でも喰いてえな」
( ´_ゝ`)「おう、前言撤回だ」
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/01/19(木) 20:38:48.30 ID:hdpHx7lx0
ふりかえらぬ子の背中に降り注ぐものが
さみしい光の粒でないのは
君がくれた 奇跡だろうか
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