- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:01:30.09 ID:D74Gz1YX0
江戸より遠く離れた奥羽の地。
そこで一人の赤子が生まれた。
神の血筋として生まれたはずのその子は、悪魔と罵られることとなる。
生まれると同時に、傍にいた多くの人間の命を奪ったのだから。
小さな産声は誰の耳にも届かない。
赤く、ただひたすらに赤く、世界を染め上げる。
その時を知る村人はいない。
ただただ、事実だけが歴史書に記されることとなる。
――――火の中より赤子生まれ出でたる、と。
【月ノ封印】
参幕────上弦 前篇
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:02:37.78 ID:D74Gz1YX0
( -ω-)「うう……」
ξ-听)ξ「私たち……生きてる?」
少女の疑問は尤もである。
遥か上空に打ち上げられ、そこから自由落下をしてきたといっても過言ではない。
それでも二人が無傷だったのは、彼らを投げ飛ばした張本人の力に守られていたからであろう。
細かいことを言えば、人ではなかったが。
ξ゚听)ξ「どうなっちゃったの?」
( ^ω^)「おそらく……彼に飛ばされたのではないかと……」
桃源郷から二人を運んだ力。
それと同じ要領で、二人は崩れゆく島から脱出させらたのだ。
ξ゚听)ξ「……あの龍は?」
( ^ω^)「生きてはいないでしょうお」
目の前で身体よりも数倍も大きい岩に埋もれてしまった。
その身に受けた傷の深さを考えると、とても生きているとは思えなかった。
ξ--)ξ「そんな……」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:04:17.49 ID:D74Gz1YX0
落胆する少女。
その気持ちは分かる内藤であったが、
叫ばずには居られなかった。
(; ^ω^)「ここは……どこなんだお──っ!!」
きっと元いた場所に帰されるのだろう、と思っていた内藤の予想は大きく外れ、
縁もゆかりもない地に飛ばされたのだ。
右も左も木々に覆われ、四方を山に囲まれた場所に。
叫んでしまうのも納得の所業である。
悲嘆に暮れている少女に睨まれるが、内藤は今後のことを考えなければならないのだから、
いつまでも悲しんでいる余裕は無い。
( ^ω^)(というか、別段悲しむほどの仲でも……)
流石に口に出すのは憚られたため、黙って現在地を特定できるものを探す。
二人の後ろには大きな湖があり、辺りは森林にしか見えない。
四面どこを見ても高い山に囲まれていた。
(; ^ω^)(この湖がなかったら死んでたおね……)
着水と同時に気を失わなかったのが唯一の救いだった。
少女を陸まで引っ張り上げたところで力尽き、今に至る。
崩落から脱出したのは朝の内であったが、既に太陽は高い所へ登っている。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:05:08.66 ID:D74Gz1YX0
ξ゚听)ξ「で……これからどうするのよ?」
湖がある場所など数限りはなく、さらに周りに山しか見えないとなれば、特定できるはずもない。
馬がなければ少女は長距離を移動することもできないため、状況的には相当厳しいと内藤は再確認する。
( ^ω^)「そう言われましても……地道に山を抜けるしかないと思いますお……」
ξ゚听)ξ「これを……?」
四方の高い山々を順番に指していく。
( ^ω^)「見たところ、ここらにある木の実は火を通さないと食べれないものですから、
早めに移動しないと飢えてしまいますお」
ξ゚ー゚)ξ「火? 火ならあるじゃない」
少女は掌の上に小さな火の玉を生み出した。
風に煽られゆらゆらと揺らめくが、弱々しくは無い。
( ^ω^)「姫様、いつの間に使えるようになったんですかお?」
ξ゚听)ξ「わからない。気づいたらできるようになってた」
適当な返事ではあったが、そもそもどのような力かもわかっていないのだ。
少女に説明を求めるのは酷な話だ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:06:58.61 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「では、これで食糧問題は解決しましたお。
後はどこへ向かうかですが……。あちらに向かいますお」
内藤が指差す山は最も高く、少女はすぐに反対する。
ξ゚听)ξ「な、何で一番高い山を選ぶのよ! あんなの登り切れる訳ないじゃない!」
( ^ω^)「あの山の向こうに霧がかかってますお?
見えにくいですが、あの向こうには富士があるんじゃないかと思うんですお」
たった一つの単語で、少女の意見はひっくり返った。
家から出たことのなかった彼女にとって、それ魅力的な存在だったのだ。
ξ゚ー゚)ξ*:.。. :*゜゚・「富士って……日本一高い山の!?」
( ^ω^)「はいですお」
ξ゚听)ξ「そ、それならそっちに向かいましょう」
意気揚々と歩きだす少女。
それまでの感傷が嘘であったかのように。
( ^ω^)「というより、姫様、楽しんでませんかお?」
ξ゚听)ξそ
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:08:15.01 ID:D74Gz1YX0
ξ゚听)ξ「内藤、これだけ草木が茂ってると歩きにくい」
内藤は諦めたように溜息をつき、彼女のための道を作り始めた。
細かい枝を刀で叩き折り、蜘蛛の巣を払う。
身体を使い道を作り、森の中を進んでいった。
そして──────
ξ#゚听)ξ「どういうこと?」
(; ^ω^)「いや……あの……」
ξ#゚听)ξ「私は何で同じ場所に戻ってきてるのか聞いてるんだけど?」
数刻の時を擁して、二人は森を小さく一周し湖のところまで戻ってきたのだった。
木々の間を真っすぐ歩いていたはずが、少しずつ曲がっていたのだ。
ξ#゚听)ξ「役に立たないわね……私に任せなさいよ。このくらい!」
掲げられた両手の間に火球がぐるぐると荒れ狂う。
人を簡単に炭にしてしまうような高熱の炎が、
森の中心で放たれればどうなるかわかっていないようだった。
(; ^ω^)「姫様っ!? 駄目ですお!!」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:09:34.89 ID:D74Gz1YX0
ξ゚听)ξ「なんでよっ?」
( ^ω^)「もしあれが富士だとすれば、あの向こうには人がたくさん住んでるはずですお。
目立つことをすれば、またあいつらに襲われるかもしれませんお」
あいつらとは謎の仮面装束のこと。
その恐ろしさを思いだしたのか、両手の間の業火は火の粉を散らし消える。
ξ゚ -゚)ξ「そ、それは困るわ……」
植物に囲まれたこの場所で火事が起きれば間違いなく内藤達は焼け死ぬだろう。
その想像に震え、説得がうまくいったことに一安心する。
( ^ω^)「木に傷をつけながら歩けば、真っすぐ進めると思いますお」
ξ゚听)ξ「今度戻ってきたら承知しないからね」
前回よりも激しく切り傷をつけ印を残して、ゆっくりと前に。
道なき道を、言葉の如く切り開く。
二人は一言も喋らずにひたすら歩いた。
というより、内藤は両手を動かすのに忙しく話す余裕すらない。
そして──────
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:11:10.79 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「……姫様」
ξ゚ー゚)ξ「内藤……」
( ^ω^)「……戻ってきましたお」
ξ#゚皿゚)ξ「言わなれくてもわかってるわよ───っ!!」
少女の小柄な体から全力の蹴りが放たれた。
素人軌道の緩やかなカーブを描く。
( ゚ω゚)「うおおおおお!?????」
小さな一撃と侮っていた内藤は直後、湖の中に頭から飛び込むこととなった。
疑問符を浮かべて首をかしげる少女。
視線を落とすと、激しい炎が跡をひいていた。
少女の足から溢れる炎が爆発的な力を加算していたのだ。
結果、高い水柱が上がることになった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:13:28.84 ID:D74Gz1YX0
(#)ω^)「ごほっ……」
想定外の出来事に驚く暇もない。
内藤は陸まで必死に泳ぎ、そのまま倒れこんだ。
失いかけた酸素を必死で集める。
( ゚ω゚)「っふ─ゅふ──っふ──」
ξ゚听)ξ「気持ち悪いわね……」
そうなる原因の少女は余りにも残虐な一言を浴びせ、
隣に座り内藤の呼吸が落ち着くのを待つ。
ξ#゚听)ξ「日が暮れちゃうじゃない。どうやったらこの森から出れるのよ!」
( ^ω^)「今思い出しましたお。……富士の樹海と言えば、魔の樹海……。
もしここがそうだとするとですおね……」
そこまで言った時、かつて耳にした話を口に出す。
一度迷い込んだものは屍になっても出てこない。
夜には亡者が血肉を求めてさまよっている、と。
ξ;゚听)ξ「どうしてそんな大事なこと忘れてるの!?
どどどど……どうするのよ!?」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:15:00.82 ID:D74Gz1YX0
( ´ω`)「噂であることを願う出しかないですお……」
長く、無駄に終わった散策により疲れ果てた二人は、水辺の木に寄りかかる。
太陽は既に傾いており、山の尾根に沈んでいく。
少女が力を使い、渇いた枝に火をつける。
頼りない焚き火はぱちぱちと火花を散らせ燃え上がる。。
歩き回った時に手に入れた木の実を水で洗い、
地面に作った窪みに小石を敷き詰め、湖の水を十分に溜める。
その中に木の実を沈め、水を沸騰させる。
灰汁を取り除く簡単な作業ですら、普段使っている調理具がないと難しい。
水は次第に抜けていくため足さなければならず、
十分に加熱が終わったのはひと時と少しかかった。
その間少女が文句を呟いていたのは言うまでもない。
梟の長い一声を背景に味気ない食事を口にする。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:16:32.13 ID:D74Gz1YX0
「ほ────────ぅ」
( ^ω^)「ふ、梟は魔除けの鳥でして、その鳴き声には特殊な力がですね」
内藤は脳裏によみがえった伝承を口に出し、瞬時に後悔した。
ξ;゚听)ξ「そ、そうなんだ。それなら梟がいるから安心ね」
「ほ─────っおおぁぎぃ……ぎぃ……」
ばきばきと骨の砕く音が鳴き声を潰した。
残ったのは生命を貪り食らう音。
くちゃくちゃと、闇夜に響く。
( ^ω^)ξ゚听)ξ「…………」
魔除けの鳥はあっけなく退場する。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:18:06.23 ID:D74Gz1YX0
ξ;゚听)ξ「魔除けの鳥じゃなかったの!?」
少女は声を押し殺した上で詰め寄る。
(; ^ω^)「……魔除けの鳥ゆえに強き魔は、それを食し力を蓄えると言う話も……」
涙目の少女は内藤の隣にぴったりとくっつく。
青年はすぐに刀を抜けるよう、右手を柄に添える。
緊迫した時間が過ぎていく。
突如、何かが空向こうに飛び去った。
焚火に僅かばかり照らされたその姿は、少女ですらよく知る鳥。
ξ゚听)ξ「燕……」
春になれば軒先に巣を作り、子に餌を運ぶ姿は家の中からでもよく見えていた。
自由に飛び回るその鳥は、彼女にとって憧れであった。
(; ^ω^)「なんという大きさ……」
その大きさに恐怖しつつも、思考は明瞭に働いていた。
今見た燕に思い当たることが一つあったからだ。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:19:29.92 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)(都合が良すぎだお……)
最初の遭遇すら偶然ではなかったのかとすら考えてしまう。
呪われた大樹。
──蓬莱の玉の枝
封じられた龍。
──龍の頸の珠
化物燕。
──燕の産んだ子安貝
全てを繋げるのは一つの物語。
─────── 竹取物語 ───────
空姫の言葉を思い出す。
『その中に出てくるかぐや姫が五人の求婚者に求めた宝。
それが何らかの関係を持つらしい。実際にどれほどのこの件に絡んでくるのかは知らんが、
奴らは躍起になってそれを探している』
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:21:21.71 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)(どういうことだお……なんで現実に物語が当てはまるんだお……。わけがわからんお……)
ξ゚听)ξ「内藤……これ……何?」
集中していた内藤は、話しかけられて初めて気づく。
小さな何かが二人を取り囲んでいることに。
(∵) (∵) (∵) (∵) (∵)
妖精と称しても問題なさそうなそれらは、火を囲み踊り始める。
石の様に転がり、人の様に両手両足を動かし。
(∵)「あ」(∵)「あ」(∵)「あ」(∵)「あ」(∴)「お」
拍子をとって。
たん、たん、たん、たん、ころん
たん、たん、たん、たん、ころん
ξ゚ー゚)ξ「この子だけ阿呆なのね。可愛いじゃない」
見た目の無害さに、少女はつい心を許してしまう。
そして、それに触れてしまった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:23:15.16 ID:D74Gz1YX0
ξ゚听)ξ「っ!」
弾かれたように手を離す。
(; ^ω^)「どうなされたのですかお!?」
それに触れた右手は、およそ人の物とは思えないほどに黒く染まっていた。
同時に熱い吐息を吐いて苦しそうに呻きだす。
座っているだけの力もないのか、全身を内藤に預けていた。
(∵)「あー」(∵)「あー」(∵)「あー」(∵)「あー」(∴)「おー」
彼らは踊るのをやめない。
火を中心にしてぐるぐると回る。
( ^ω^)「こいつら……なんなんだお……」
内藤は少女の額に手を当てて驚く。
( ^ω^)「すごい熱だお……」
ξ;--)ξ「はぁっ……はぁっ……」
( ^ω^)「どうすれば……」
(∵)「だ」(∵)「だ」(∵)「だ」(∵)「だ」(∴)「でん」
五匹は踊りをやめ、内藤に向き直り、同じ動きで手招きをしていた。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:24:08.11 ID:D74Gz1YX0
(#^ω^)「信用できるわけないお……」
無害を装って近づき、触れば高熱にさらされる。
そんなのを信用してついていけば、どうなるか分かったものではない。
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∴)「ごろ」
内藤についていく意思がないとわかったのか、頭を激しく振り始めた。
その小ささからは想像できないほどの音が鳴り響く。
( ^ω^)「ぐっ……」
少女を守るように背に隠す。
音は次第に強くなっていく。
( ^ω^)「!?」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:25:25.57 ID:D74Gz1YX0
(∵)「かさ」(∵)「かさ」(∵)「かさ」(∵)「かさ」(∵)「かさ」
(∵)「ぴちゃ」(∵)「ぴちゃ」(∵)「ぴちゃ」(∵)「ぴちゃ」(∵)「ぴちゃ」
(∵)「しゃん」(∵)「しゃん」(∵)「しゃん」(∵)「しゃん」(∵)「しゃん」
(∵)「どん」(∵)「どん」(∵)「どん」(∵)「どん」(∵)「どん」
草葉から、緑の個体が
湖面から、半透明の個体が
夜空から、黒い個体が
土中から、黄金色の個体が
内藤達を取り囲むように次々と現れる。
わらわらと集まり、それぞれが特有の音を出す。
音は交わり響き合う。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:26:21.42 ID:D74Gz1YX0
内藤を急かすかのように、小人の交響楽団は荒々しく演奏をする。
それらは内藤達の前に道を作る。
通れと言わんばかりに、列を作って。
(; ^ω^)「行けってことかお……」
苦しむ少女を背に負う。
進むしか道はないように思えた。
内藤が一歩を進むことで、合奏は一気に大人しくなる。
ξ;--)ξ「ない……とう……」
少女はうなされ続ける。
その腕からは身の毛もよだつほどの瘴気が溢れだしていた。
小人は内藤の前後左右を跳ねて進む。
身体に触れたらどうなるか想像もつかない内藤は気が気ではない。
(; ^ω^)「何処まで行けば……」
森の深くに進んでいく。
小人たちに触れた木々は腐敗し、その枝を落としていく。
内藤が進みやすいように道は作られていた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:27:31.94 ID:D74Gz1YX0
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∴)「ごろ」
まともな食事を摂ってなかったことも重なり、疲労は限界に達する。
それでも背に感じる重みを力に変えて歩く。
次第に道は上りになっていき、内藤の体力を奪う。
(; ^ω^)「はぁっ……はぁっ……」
視界はぼやけ、足が震え歩けなくなる。
内藤の体は重力にひかれ、背の低い草をかき分け落ちた。
(; ^ω^)「っ……!」
幸いにして落差はほとんどなく、這いずり前に向かうが、ついに気を失った。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:28:41.24 ID:D74Gz1YX0
━━━━━━━━── →← ──━━━━━━━━
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∴)「ごろ」
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」
富士の樹海には小さな祭壇が泥沼の上にひっそりと佇んでいた。
小人たちはその祭壇を幾重にも囲っている。
中心にはうつ伏せに倒れている内藤。
その背には少女が背負われたままであった。
少女の右腕は肩口まで暗闇に染まっている。
祈るような動作を始める小人。
儀式に割り込むかのように、意識のない二人に空から声がかけられた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:30:25.22 ID:D74Gz1YX0
「起きよ……」
突如として風が巻き起こり、包囲網が崩される。
内藤と少女は未だ意識を失ったままであった。
「仕方のない」
闇夜から現れた化物は二人を順に掴みあげ飛び去った。
内藤は頬にあたる冷たい風で目を覚ます。
( ^ω^)「お……!?」
後ろへ過ぎ去る景色に頭が混乱する。
「目を覚ましたか」
翼のはばたく音が二度、三度、ゆっくりと高度が下がっていく。
大地に下ろされ、内藤は声の主を見上げる。
(; ^ω^)「大燕……」
<_ノ::`゚フ「いかにも。我が名高き妖燕、艶尾。我を見て驚かぬとは……」
翼を広げれば10尺にも届くのではないかと思えるほどの巨体。
その黄色い瞳は内藤達を見下ろす。
- 36 名前:忘れ物 投稿日:2011/12/02(金) 21:31:02.14 ID:D74Gz1YX0
<※一尺 = 30cm>
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:33:09.74 ID:D74Gz1YX0
(; ^ω^)「この数日お前みたいなのばっかりだお……。艶尾……私たちをどうするつもりだお?」
<_ノ::`゚フ「随分と波瀾な日々を過ごしておるようだ。どうするつもりとは心外だな。我は助けてやったというのに」
(; ^ω^)「妖怪は……人を喰うものだお」
<_ノ::`゚フ「その通り。だが、我は賢鳥。そこらの脳無しとは違う。契約をしようではないか」
( ^ω^)「契約……?」
<_ノ::`゚フ「うぬが我を信頼してくれるのであれば、我が羽を与えよう。一振りで百里を跨ぐ優れものである」
<_ノ::`゚フ「汝が我と共に呪いを解いてくれるのであれば、我は汝の呼びかけに一度だけ答えよう」
( ^ω^)「守るのかお……?」
確かめる意味などないのは分かっていた。
内藤が護るべき少女は今も苦しんでいる。
どのような不利な契約であったとしても、そこに光明が見える限り彼に選択肢は無いのだ。
<_ノ::`゚フ「必ず」
( ^ω^)「艶尾、契約は成立だお。知っていることを全て話せお」
<※1里は5町とし、現在の距離で約545m>
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:34:34.25 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「ふん……。小娘が呪いに侵されているのは間違いない。我の一族それでも多く死んだ。
小娘ごときがなぜ未だに死なぬのか……。原因はあの小さき物の怪だろう?」
( ^ω^)「姫様はあれに触った瞬間にこのようになってしまわれたお」
<_ノ::`゚フ「厄介な怪だ。我の力では倒せなんだ。いや、正確には殺しはしたかもしれぬ。
あれが死ぬような存在であれば、だが。その数の多さに辟易し逃げかえってきた」
(#^ω^)「それならどうやって呪いとやらを解くんだお!」
<_ノ::`゚フ「話を聞くと言ったのだ。黙っておれ。あんまり舐めるなよ……人間。
汝と慣れ合うための契約ではないことを痛みで教えた方がよいか?」
その瞳に宿る殺意を感じ、契約の盾の薄さを知った内藤。
妖燕が本気になればいつでも殺されるのだと。
<_ノ::`゚フ「まあよい。あれが活動を活発にしだしたのは十数年前。
昔からあの辺りに大量におったわ。祭壇から漏れだした精気が、植物に形を与えたのがあれだろう」
( ^ω^)「植物なのに人に害為すのかお?」
<_ノ::`゚フ「むしろ何故植物が人間に害を為さないと言えるのだ? 彼らは黙しているだけだ。
力があれば自らを脅かす存在に対して抵抗しようと考えるのは当然ではないか」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:36:22.21 ID:D74Gz1YX0
艶尾の言葉は自然界を代表しているともとれた。
人間による犠牲は後を絶たない、と。
内藤は返す言葉がなかった。
しかしそれでは納得できないことがあった。
なぜ少女を病に犯した後、内藤を襲うことなく祭壇まで導いたのか。
艶尾の話を区切ることができずに、結局聞けなかったのだが。
<_ノ::`゚フ「汝のすべきことは祭壇の結界を綻ばせることだ。あの祭壇は我らには近づけぬ。
人間にしか近寄ることができぬよう結界で守られてある」
(; ^ω^)「そ、それは大丈夫なのかお。
祭壇は神事を行う場所だお。壊せば姫様の呪いが解けなくなるんじゃないかお……?」
それだけではない。
怒り狂った不気味な小人が襲いかかかってくる可能性も否定できない。
<_ノ::`゚フ「これも人の無知ゆえか……」
会話に疲れた艶尾は嫌悪感を隠さない。
教えるという行為は得意ではないのだろう。
<_ノ::`゚フ「あれは神の祭壇なぞではない。あれは神を『殺した後に』作られたのだからな」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:37:24.78 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「!?」
<_ノ::`゚フ「神を殺し、その魂を封じたとしているようだが。祭壇は神の怒りをおさめるために建造されたのだと。
かの地が人に悪影響を及ぼしている可能性は十分にある。……呪いとしてな」
( ^ω^)「…………」
神殺し。
遥か昔から人の死は呪いを生むものであった。
神のそれならば段違いに強力だと言うのが相場だ。
( ^ω^)「どうすればいいんだお?」
<_ノ::`゚フ「我が囮をし、汝が祭壇を破壊する」
( ^ω^)「ちょっ、ちょっと待ってくれお。人間の力じゃあの大きさのものは壊せないお」
小さいとはいえ、内藤が倒れても十分な幅がある。
力のみで壊せるはずがない。
<_ノ::`゚フ「人の力で壊せるとは思わぬ。汝は結界の根幹となるものを見つけだし、僅かでも歪めればよい。
さすれば我が塵一つ残さぬ」
( ^ω^)「……わかったお」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:39:19.12 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「小娘はここにおいてゆくぞ。足手まといになる。して、汝は我を信頼し、話を聞いてくれた。二つ目の契約はどうする」
その質問に答える必要は無かった。
どのような時であっても主に尽くすのが内藤の理想とする従者の姿だ。
ただ一言を決意を持って告げる。
( ^ω^)「あの祭壇に連れて行けお」
<_ノ::`゚フ「よかろう」
内藤は曲がった爪の上に立つ。艶尾は力強く羽ばたき、一気に上昇した。
━━━━━━━━── →← ──━━━━━━━━
<_ノ::`゚フ「下ろすぞ」
祭壇の真上まで滑るように飛び、急降下する。
内藤が降りたのも確認せず、再び舞い上がった。
今度は内藤からも見える高さに留まる。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:40:46.67 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「結界の根幹……」
改めて見ると、祭壇は四隅に背の低い棒が刺さっているだけの簡素な作りであった。
それらを蹴ってみるが、びくともしない。
( ^ω^)「ってぇ……」
(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∵)「がら」(∴)「ごろ」
<_ノ::`゚フ「来たか……さっさと探せい!」
艶尾にせかされ足下をじっと見つめるが、光が薄くほとんど何も見えない。
じりじりと泥沼の中を祭壇に近寄る小人は、八つ裂きにされ宙に舞う。
( ^ω^)(壇上にあるとは限らないおっ!)
短い階段を駆け下り祭壇を一周するが、結界の起点となるものは見つからない。
( ^ω^)(せめて、どんなものか分かれば……)
落ちていた石でところ構わず傷をつける。
祭壇自体は相当に古いものらしく、傷をつけることは十分に可能であった。
変化がない艶尾の様子は結界が健全であることを意味している。
( ^ω^)「くそっ!」
泥の地面を強く叩く。
腕が泥の中に沈むことはなく、堅いものに阻まれる。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:43:09.08 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「……そうかお!」
泥の上に人がまっすぐ立てるはずがないのだ。
足が沈んでいかないのは不自然。
( ^ω^)(つまり……ここだおっ!)
手に持った石を何度も、何度も地面に打ち付ける。
場所を少しずつずらし、激しく打ち続ける。
がきり、と歪な音がし、何かの欠けた手ごたえを内藤は確かに感じていた。
( ^ω^)「艶尾っ! 泥の下だおっ!」
<_ノ::`゚フ「わかっておるわ!!」
無数の、妖力を含む羽が泥の中に突き刺さる。
それらは共鳴し、より広範囲へと影響を及ぼす。
<_ノ::`゚フ「動くなよ人間」
複数の振動波が形成され大地を揺るがす。
祭壇の真下に作られた封印陣を刻み込んだ台座は、粉々に砕かれた。
内藤の一撃で緩んでいた結界もまた完全に消え去る。
<_ノ::`゚フ「ようやった……」
翼の一振りで生み出された槍のような嵐が、
内藤に飛びかかった小人を祭壇と同時に一撃で抉った。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:43:50.13 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「やったお! 姫様のところに連れ帰ってくれお」
<_ノ::`゚フ「……待て」
その眼差しは内藤ではなく、大きく抉れた祭壇の闇に注がれている。
<_ノ::`゚フ「まだ終わっておらぬ……」
祭壇は破壊され、小人は消えた。
それは即ち勝利だと確信していたことが過ちであった。
なぜ富士の樹海と呼ばれているのか、その本当の意味を内藤は知らなかった。
<_ノ::`゚フ「我としたことが……迂闊だった」
─富士の樹海─
富士の麓にある広大な樹海をさす。
溢れた精気が育てた森林は、迷い込んだものを逃さない天然の迷路。
─不治の樹海─
治らない病は呪いであり、その素は樹海の毒。
大自然の意思が力を得て具現化したもの。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:46:07.69 ID:D74Gz1YX0
風の槍で抉られた祭壇に開いた深い穴。
その奥に何があるのか、内藤にはわからない。
わからないはずなのに、嫌な汗が出る。
最初に反応したのは、聴覚。
水が滴り、腐った肉がこぼれる音。
べちゃべちゃと不快な音。
次に嗅覚。
鼻がひん曲がるような異質な臭い。
眩暈を覚えるほど強烈な刺激臭。
最後に視覚。
骨に僅かばかりの血肉がついた人骨。
両手には人の腕に似合わない武骨な二振り。
─不死の樹海─
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:47:36.96 ID:D74Gz1YX0
(; ^ω^)「なんなんだおこいつは!?」
<_ノ::`゚フ「胸の珠を見よ。あれがここに封印されておったのだろう。
我は勘違いをしておった。祭壇の封印はあれのためであったのか……」
内藤の身を砕かんとする振り払いの攻撃。
二、三歩を一気に下がり距離を開ける。
(; ^ω^)「っ!」
泥の下にある足場は先程破壊された。
そのために体重移動ですぐに足をとられる。
<_ノ::`゚フ「一旦上に逃げるぞ」
艶尾が内藤の身体を持ちあげる。
体にかかった浮遊感を拭い、地上の驚異についてすぐさま問う。
(#^ω^)「説明しろお艶尾!」
<_ノ::`゚フ「初めて見たわ。溢れんばかりの生命力が珠の中に籠められておる。
噂に聞く龍の頸の珠で間違いなかろう……」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:48:55.30 ID:D74Gz1YX0
( ^ω^)「ちょ、ちょっと待てお。やっぱり龍の首の珠って存在するのかお?」
<_ノ::`゚フ「我のような怪がおるのに龍がどうして存在しないと思う?
其の頸の珠も当然に存在しよう」
( ^ω^)(どういうことだお……。龍はあの島にいたはずだお……。
それとも龍が生きていても頸の珠は手に入るのかお……?)
<_ノ::`゚フ「どうも妙だな。龍の首の珠が闇に染まっておる……。
確かあれは五色の光を放っておるはず……。我の知らぬ何かがある……か」
艶尾の知識は遥か昔から受け継がれてきた。
妖燕は力の弱った親を喰い、その全てを己のものとする。
連綿と受け継がれる知識との相違点に困惑する。
独り言の意味は内藤にはわからない。
彼我には圧倒的な記憶の差があった。
( ^ω^)「どうするんだお……あれを倒さないと姫様がっ!」
<_ノ::`゚フ「黙って見ておれ」
祭壇を破壊した風の嵐が一直線に骸骨を襲い、その身を抉りとった。
残った骨は音をたてて崩れ落ちる。
( ^ω^)「!?」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:50:16.29 ID:D74Gz1YX0
胸にあった珠から黒い触手が伸びたかと思うと、
泥の中から人骨を引っ張り上げた。
骨はばらばらになり最も戦闘に適した形へと再構築される。
<_ノ::`゚フ「そういうことか……」
( ^ω^)「あんなのどうやって倒すんだお……」
<_ノ::`゚フ「完全にあれを破壊してしまえばよい。
さすれば小娘の呪いも解ける。呪いの原因は、我が見るところあの珠の力に相違ない」
<_ノ::`゚フ「珠の力が尽きるまで殺し、壊し続けるしかあるまい。
あの珠の封印は、中にある何かを抑えられず自壊しよう」
二つの人骨を用いた四つ腕の化物は、艶尾の翼の一振りで消し飛んだ。
四つで組み上げられた時、それは長弓を持っていた。
矢が番えられる前にその体の統制を失う。
三度、骨の身体を葬った。
珠は身体を作り直すのをやめ、静かに佇んでいた。
( ^ω^)「やったのかお……?」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:53:42.02 ID:D74Gz1YX0
空にいた内藤はその異常な光景に釘づけになり、前言を撤回する。
大地が波打つかのように何度も揺れる。
空から見下ろす内藤には一目瞭然であった。
ひときわ大きく森が脈打ったとき、祭壇のあった沼地に歪みが集中する。
<_ノ::`゚フ「くるぞ……」
内藤にはそれが何かすぐには判別がつかなかった。
沼地から噴き出した大量の骨は宙に浮かぶ珠を飲み込む。
ひときわ大きく闇が噴き出し、全ての骨を完全に覆った。
( ^ω^)「!!」
闇が晴れた時、星の光に照らされる姿には見覚えがあった。
────龍。
( ^ω^)(これだけ短期間の間に二度も目にするとは思わなかったお……)
強靭な爪も、鋭利な牙も、骨だけの翼も備えていた。
唯一、下半身を持たないことだけが異なっている。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:55:06.98 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「この樹海に存在する全ての死者の骨肉を集めたか……。おそらくこれを倒せば終わりぞ」
大きく振りあげられた腕は内藤達を真上から襲う。
空を自由に飛び回る艶尾に攻撃は当たらない。
回避と同時に背後へ叩きこむ攻撃は、その身を僅かに削るだけ。
<_ノ::`゚フ「堅い……。密度も相当なものだな……」
振り回される腕を紙一重で避け続ける。
当たれば絶命は免れない。
( ^ω^)「どうするんだお……」
<_ノ::`゚フ「強力な奴で片づける。本物の龍には到底及ばんが、あの程度の模造品であれば充分だろう。
さらに高く飛ぶぞ。少し覚悟せい」
言葉の意味がわかったのは地上の龍がさらに小さくなってからだった。
( ^ω^)「寒っ……」
夏の夜にも関わらず、吐息は白く奥歯が震える。
吹き荒れる風は容赦なく体温を奪っていく。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:56:52.05 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「動いてくれるなよ……」
燕の甲高い鳴き声が夜の山に響き渡る。
四方から呼ばれた厚い雲が星を隠した。
<_ノ::`゚フ「再び眠れ、屍よ」
艶尾の尾羽が付け根を下に並べられる。
内包する妖力で最も殺傷能力の高い円錐形状に変化し、
その一つ一つに集められた雲が凝縮されていく。
雲が晴れた時、内藤が目にしたのはたった三本の尾羽。
<_ノ::`゚フ「やれ」
それが、消えた。
人間が捉える事のできる速度を優に超え、骨龍を貫通した。
一瞬後に高圧の水が傷口を大きく抉る。
内藤の目の前に残っているのは地上まで続く航跡雲。
それをなぞって着弾地点をみると、龍のいた場所に円形の窪地ができていた。
( ^ω^)「…………」
想像を絶する威力に開いた口がふさがらない。
艶美の完全勝利にしか見えなかった。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:57:39.06 ID:D74Gz1YX0
しかし……。
一本の矢が夜空を切り裂き、艶尾を貫いていた。
<_ノ::`゚フ「っく……」
艶尾は内藤を抱えたまま地面に墜落した。
内藤を守るために背から地面に叩きつけられる。
(; ^ω^)「艶尾っ!」
<_ノ::`゚フ「喚くでない……掠っただけだ」
たった一本の矢にも関わらず、黒い翼は半分ほどもがれていた。
(; ^ω^)「何が起きたんだお……」
<_ノ::`゚フ「おそらく、あれは直撃の寸前に本体を分離させたのだろうな。
僅かな骨肉とともに」
(; ^ω^)「まだ生きてるのかお……?」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 21:59:25.88 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「いくつか……分かったことがある。
死骸ではないものを操ることができない。もし生きているものをやつれるのであれば、我や汝がとうに操られておる。
そして、珠その物に意思は無く、中に閉じ込められている何者かの意思を感じる」
<_ノ::`゚フ「祭壇と龍の頸の珠で二重に閉じ込めていたのだろうな。
つまり……相当数の死骸を失ったあれならば、今の汝でも倒しうる」
( ^ω^)「無茶を言うなお……あんな化物……」
会話の最中にそれは木を叩き折って現れた。
大人ほどある太さの幹が、ゆっくりと倒れる。
片腕しかない骸骨。
姿形はもはや人間を成していない。
(; ^ω^)「一人分の骨もなかったのかお……。これならっ!」
強く踏切り、懐に飛び込む。
迎え撃つ骸骨は力任せの乱雑な軌道で剣を振りまわす。
(#^ω^)「おおっ!」
鋭い突きの一撃が、剥き出しの珠に突き刺さる。
( ^ω^)「これで……終わった……お?」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 22:00:58.63 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「離れろっ!」
艶尾の忠告は間に合わず、内藤は動けない。
傷から溢れ出て来る液体は、何をするでもなくそのまま闇に溶け消えゆく。
内藤の目の前で龍の頸の珠は粉々に砕け、目に見えない粉末となって消え去った。
( ^ω^)「ごほっ……っぉ……」
極小の粒子を吸いこみ、むせる内藤。
<_ノ::`゚フ「ふむ……一体何が封印されておったのだ?」
( ^ω^)「それよりも早く! 姫様の元へ連れて行くお!」
<_ノ::`゚フ「掴まっておれ……」
少女の腕は元の色を取り戻していた。
最も内藤は空で気絶してしまい、少女に叩き起こされたのだが。
<_ノ::`゚フ「これで我が一族も安穏に暮らせよう。契約の対価だ」
一枚の羽が内藤の目の前を浮かんでいた。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 22:02:36.06 ID:D74Gz1YX0
( ´ω`)「ありがとう……だお……」
<_ノ::`゚フ「それを一度振るれば空に舞い上がり、二度振るえば目的の地へ辿りつくことができよう。
それを吹けば我が一度だけ力を貸す。……もう夜が明けようとしておるな……。
明日の夜、つまり今日の夜になれば、この近くの人里にまで運んでやろう」
病に侵された少女の目覚めを待つことなく、
魔と戦った内藤は日の光が当たらない場所に移動し、深い眠りについた。
━━━━━━━━── →← ──━━━━━━━━
ξ゚听)ξ「ふぁ……」
少女が目を覚ましたのは自らの身に違和感があったからだ。
隣で寝ている内藤を起こすこともなく考える。
ξ゚听)ξ(右腕……暖かい)
呪いに苛まれていたはずの右腕は自分のものではないかのように感じる。
己の指示通りに動いているはずなのに拭えない不安。
ξ゚听)ξ(気のせい……よね……)
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 22:03:15.09 ID:D74Gz1YX0
<_ノ::`゚フ「目を覚ましたか」
ξ゚ -゚)ξ「?」
突然声をかけられ、その主を探す。
そこには出会った時よりも二回りほど小さい妖燕の姿。
<_ノ::`゚フ「汝はなんだ? 我が一族を殺す呪いをその身に受けてもすぐに死なず、
その身に人にあらぬ力を内包しておる。人の形をしておるのが不気味なくらいだ」
ξ゚听)ξ「私は正真正銘、人間よ。人の間から生まれた、人間」
<_ノ::`゚フ「本当にそう思うのか? 我の一族であれ、最初から怪であったわけではない。
時を経て変わってきたのだ。生物から妖へと、生き残るために」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 22:04:27.02 ID:D74Gz1YX0
ξ;゚听)ξ「でもっ……」
<_ノ::`゚フ「どうでもよいがの……。さて、隣のそれをさっさと起こせ」
少女の反論は、軽く流される。
隣で丸まって寝ているのは内藤は、口からだらしなく涎を垂らしていた。
( ´ω`)「姫様……」
小さな声で寝言を呟く。
言葉には満ちた優しさが、その温もりが少女をの心を揺らす。
ξ--)ξ「馬鹿……無理して……」
内藤は全身のいたるところに傷を負い、服は泥にまみれていた。
その姿を見て少女は、瞳の端に僅かに涙を浮かべる。
感謝の声は、少し小さすぎて青年の耳には届かなかった。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/02(金) 22:05:04.77 ID:D74Gz1YX0
ξ゚听)ξ 不可思議姫幻想記のようです
フカシギヒメ ゲンソウキ
参幕────上弦 前篇 了
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