- 44 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:15:14 ID:pHa6iGt.O
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 45 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:15:45 ID:pHa6iGt.O
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→対峙
从 ゚∀从
→気絶
( <●><●>)
→戦闘不能
( ´ー`)
( ゚∋゚)
→戦闘中
.
- 46 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:17:17 ID:pHa6iGt.O
-
第十一話「vs【手のひら還し】V」
元々整備のされていない裏通りだが、この日は特別だった。
柱という柱は折れ、壁はクレーターのような穴がいくつもできている。
ガラスの破片が散らばっているのはいつものことだが、
今日はそのなかに床のコンクリートが混じっていた。
ここを裸足はもちろん、普通の靴を履いていようと
足の裏に切り傷ができることは必至だろうと思われる。
そして、ひたすら、声と打撃音とが響き渡っていた。
人気の少ない裏通りだ、それらの音は鮮明に聞こえていた。
というのも、裏通りでは、クックルが男にしがみついていた。
クックルの服装は見事に乱れ、所々が赤黒く滲んでいる。
埃で黒く汚れた部分よりもそれは多かった。
顔に関しては瘤だらけで、腫れすぎて元の顔がわからなくなっていた。
口や鼻からは一筋、二筋の血が流れている。
歯も欠けたり折れたり抜けたりと、それは悲惨だった。
だが、生きている。
幸か不幸か、クックルは生きている。
横たわりながらも、必死に上体だけでも、と起こし、
男の太い脚にしがみついて、何かを必死に訴えていた。
(`゙#)∋%)「待って……く、れ…ッ!」
( ´ー`)「しつけーな。離せよ」
.
- 47 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:18:22 ID:pHa6iGt.O
-
命が惜しい故命乞いしているのかと思いきや、
クックルは、帰ろうとする男を必死に引き止めていた。
脚にしがみついては、男が蹴り払おうとするのも耐えている。
依然涼しい顔をしている男は、いい加減煩わしく感じてきていた。
なぜ殺されかけた男にここまで固執するのかわからなかったのだ。
男は、クックルが大したことない『能力者』だと見切って、
殺すのでさえ気が引けてしまい、引き返そうとしていた。
弱い者を相手にしても、ただ疲れるだけなのだ。
それなのに。
クックルは、男を帰そうとしない。
(`゙#)∋%)「俺を……弟、子にしッ…てく……れ!」
( ´ー`)「ハァ?」
(`゙#)∋%)「俺…より、強、いや…つなん――て、はじめッて見たんだ……!」
クックルは言わば男に惚れたのだ。
それも、その有する規格外の強さに。
だが、これは男にとっては迷惑以外のなにものでもなかった。
強さを認められても、何とも思わないのだ。
.
- 48 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:19:45 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「俺は弟子はとらねー主義でよ」
と男は返したが、これは心に思ってもみない言葉だ。
ただ、昔ドラマか何かで聞いた記憶のあった
フレーズを、適当に投げてみただけなのだ。
それほど、男にとってはどうでもよかった。
興味が催されない者と一緒にいても、何も満たされない。
男が認めた人間は、この世に十人もいるかすらわからない。
そして、そのうちおよそ半分は自分と同類≠ネのだ。
(`゙#)∋%)「ぞこを、な んと。か……ッ」
クックルは依然諦める姿勢を見せない。
【逆転適用《アップダウンロード》】をはじめて破った
男であるだけに、意地でも関係を持っていたかったのだ。
いよいよ声も掠れてきた。
胃から噴き出てくる血のせいで、まともに話せないのだ。
時折吐血もしてみせる。
だが、クックルは腕の力を緩めない。
男がその気になれば振り払うことくらい容易いのだが、
男にはその気が起こる気配すらなかった。
( ´ー`)「面倒くせーなおめえ」
(`゙#)∋%)「だの゙ぶ………! ぼべにはばなだじがいね゙え……!」
( ´ー`)「何言ってんのかわかんねーよ」
(`゙#)∋%)「ぼば………ッ……―――!」
すると、クックルは赤黒い血を大量に吐き出した。
負荷に耐えきれなくなった身体が、ついに音をあげたのだ。
.
- 49 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:22:37 ID:pHa6iGt.O
-
クックルは男にしがみついていたため、その血は
男の穿いていたデニムのズボンにもべっとりと付いてしまった。
生地を通して伝わってくる感覚が、男にとっては堪らなく不快極まりなかった。
だから、そんな不快感や嫌悪感も
( ´ー`)「あーあ。汚れちまった」
( ´ー`)「ま、知らねーけどよ」
男の持つスキルで、全部『拒絶(うちけ)』した。
そしてクックルに対する感情も全部『拒絶』した。
すると、瞬く間にクックルのことはどうでもよくなった。
足下で痙攣しながらも尚手を離さないクックルを蹴り飛ばした。
脚に絡んでいるゴミを蹴り払うこと≠ネど、当然の行為だろう。
それが人だったなら多少は敬遠したが、所詮ゴミだ。
クックルは蹴飛ばされ、ついに物言わぬ身に成り果てた。
壁にもたれかかって俯く姿は、実に賞賛されるべき敗者と呼ぶに相応しかった。
( ´ー`)「血って結構重いんだな。クリーニングに出すか」
( ´ー`)「いや、モララーに頼んでこの汚れを『嘘』にしてもらうのもいいかもな」
独り言を漏らしながら、表通りに向かって男は歩いていった。
この姿で表通りに出れば、すぐさま悲鳴をあげられるか警察を呼ばれるだろう。
男にとってはその両方は別にどうでもいいのだが、
あまり人に構ってもらわない方が気が楽でいいのだ。
そうである以上、注目を浴びるというのは実に嫌だった。
.
- 50 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:23:51 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「【逆転適用】程度でボスにのし上がれるようじゃ、
ここらの賊は高が知れてるな。やっぱ表通りに戻るしかねーか」
ポケットに手を突っ込んで、歩みを速めた。
血痕がぽつぽつと地面に残っていく。
そして、殺風景であるこのキャンパスに、不吉な斑点模様を残していった。
男は知らずのうちに次なる目的地を考えていた。
根城に戻るのもいいが、それでは惰性で暮らしてきた今までと変わらない。
それが嫌だから、こうして外出しているというのに。
だが、楽しみであることも少なからずあった。
それは、少し前に男が発見した望みだった。
( ´ー`)「あいつらはどーやってんのだろうな」
首をもたげて、より遠くの方を見た。
この先を曲がっていけば、表通りに着く。
( ´ー`)「モララーには死なれちゃ困るな。
この汚れも拭ってもらわなくちゃなんねーしよ」
( ´ー`)「たまにはバーボンハウスで呑むか?
トソンはまだ死んでねーよな?
俺ぁ酒の入れ方わかんねーよ」
.
- 51 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:25:09 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「……ま、あんな能力があるんじゃ、死ぬに死ねねーだろうけどよ」
男の手にした望みとは、自分と同類の者たちを見つけたことだ。
なにもかもを拒絶するような連中に対してだけは、気を遣わずに済んだ。
打ち明けられるものこそないが、同じく拒絶する者同士、存外簡単に交友を築くことができたのだ。
――尤も、その程度で仲良くなれるのであれば
それは決して『拒絶』とは言わないだろう。
少なくとも、この男はそう思っていたが。
『拒絶』を体現する男。
ネーヨ=プロメテウス。
この世の全てを拒絶した、この男は。
.
- 52 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:26:29 ID:pHa6iGt.O
-
◆
アラマキは、数歩足を進めたところで立ち止まった。
風が頬を伝う冷や汗の存在を教えてくれたのだ。
背後から感じる気配に警戒を配り、じっと止まった。
アラマキも、わかっていた。
顔の一部を砕いた程度では、ワタナベは死なないことを。
アラマキは、体力が全快した後、
すぐに屋敷の入り口まで戻ってきた。
そして直ちに門から出ようとしたのだが、外で
ハインリッヒたちと『拒絶』が戦っているのを察した。
いまのこのこと顔を出せば、せっかくの回復も無駄になる。
情勢で言えば、ハインリッヒもゼウスも絶望的なのだ。
そこで自分がやられると、昨日の今日でもう『拒絶』に
全面的に敗北した――などという最悪な結果を招くことになる。
だから、その相手を、ワタナベを観察したのだ。
壁に指でちいさな穴を明け、そこから戦いの動きをチェックした。
アラマキが軍人だった頃、いくつもの掟があった。
戦いを有利に進めるための掟で、
それをアラマキは全部覚え実行していた。
そのなかの一つに、このようなものがあった。
其の珀伍拾陸、「見る事、則ち勝つ事に値するなり」。
相手を知ることが自身の勝利への一番の近道なのだ、ということだ。
.
- 53 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:27:58 ID:pHa6iGt.O
-
そのためワタナベを観察した。
すると、【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】などという
如何にも『拒絶』らしい、最悪な《拒絶能力》を使うことがわかった。
前後の流れから、その能力の詳細を推理する。
本人が『反転』と何度も言い、また実際にハインリッヒを
『優先』から『劣後』へと『反転』させていたことから、
アラマキもゼウス同様、自力で【手のひら還し】の全貌を理解できた。
対処のしようはあるのか。
そう考えたところ、割と早くにその答えはできた。
『打撃という行為』も
『打撃のベクトル』も
『被害者と加害者の事実関係』も
そのどれもをくぐり抜けることのできる攻撃を。
/ ,' 3「……」
アラマキは自分の拳を見た。
本当に今の作戦でうまく行ったのか、不安だった。
失敗したなら失敗したでいい。
早くこの懸念事項を振り払いたかった。
アラマキはちらっとワタナベの方を見た。
しかし反応はない。
止めど流れる夥しい量の血が、晒されているのみ。
風に吹かれてカーディガンや髪が靡くが、目は開かない。
本当に死んでいるのかは疑いたくなるが、
逆にこの惨状を見て生きているとも言い難い。
本来ならここでなにもなかったかのように去る男なのだ、アラマキは。
しかし、相手が『拒絶』、しかも【手のひら還し】のワタナベとなると話は違った。
彼女は、死んでいると見せかけて、手のひら返して起きあがりかねないのだ。
実際、ゼウスがワタナベの心臓を貫いた時も、何事もなかったかのように
起きあがっては、悠々とハインリッヒを打ちのめしたではないか。
.
- 54 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:29:42 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……」
――と、アラマキはえらく長らく考えたが、
これといった明確な答えは出てこなかった。
わからないものは、わからないのだ。
今、彼女の身にいったいなにが起こっているか、など。
心の中で五秒を数えてから、アラマキはよし、と肯いた。
いつまでもここにいては、ほかの『拒絶』に見つかりかねない。
アラマキは再び踵を返して、屋敷の方へと戻っていった。
/ ,' 3「(ミソも脳漿も飛び散った。死んだに違いない)」
ざっざっ、と地面を擦る音が鳴る。
心のなかのもやもやを振り払えないまま、アラマキは「戦場」をあとにした。
その油断が、よくなかったのだ。
アラマキがそれを振り払おうとする一瞬前に、アラマキは視界が暗転した。
背中を反り、それが飛び出しそうなほど眼を見開いた。
そして、背中の一点から来る痛烈な痛みを感じた。
背骨が折れかねないその威力を、アラマキは不意に喰らった。
/;,゚ 3「………カ……ッ…!?」
備えてすらいなかった攻撃を、もろに受けたアラマキは
為す術もないまま、屋敷の扉にまで飛ばされた。
その扉に、胸板から、思い切り叩きつけられた。
腹の中の空気を出し切ったような声が出た。
全身が痺れ、脳が異常を訴えている。
.
- 55 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:31:10 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキが状況を理解し終える前に、背後から怒号に近い声が聞こえた。
女のような若々しい声は、先ほどまでと何ら変わる様子はなかった。
アラマキはその言葉を無意識のうちに聞き届けるよりほかになかった。
というのも、過去に自分が覚えた言葉が放たれたからだ。
そして、それはまるでアーミーレディとでも呼ぶに相応しい声ほどの清々しいだった。
「戦場における掟ッ! 其の捌拾弐ッ!」
「死してなお、語らざる者おらざりき<b!!」
从゚ー(;・从「死んだと思っても、四肢をバラさねえ限り
安堵はできねえんじゃねえのおおおおおおおおっ!?」
/;,' 3「カ、ハ……――
(……やはりしくじったか!)」
.
- 56 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:33:26 ID:pHa6iGt.O
-
完全にゼウスのそれと同じくらいの精度を持ったワタナベの
不意打ちが、見事無防備だったアラマキに命中した。
右の掌底で、アラマキの背中の中心よりやや左寄りを衝いた。
アラマキは心臓がその衝動に襲われたため、
一瞬ポンプの動きが止められてしまった。
否、鍛え抜かれた肉体だからこそ、それだけの被害で収まったと言った方がいい。
走る際に自身にかかる抵抗を全て『反転』させることで、
通常の倍もの加速を味方につけることができる。
そんな状態で突き出されたワタナベの掌底だと、
象に踏まれる以上の威力を持っていると考えてもいいのだ。
一瞬血の循環が止まったせいで、アラマキは地に膝をつけてしまった。
ひどく躯が重く感じられ、視界はまだ安定していない。
しかし、このままではワタナベの追撃を受けることになる。
アラマキは、咄嗟に右に向かって躯を倒し、即座に転がった。
直後飛んできた、ワタナベの流星にも勝る跳び蹴りで
ゼウスの屋敷の強固な壁は簡単に砕かれてしまっていた。
爆音に近い音が轟いて、近くの森が鳴いたようにも聞こえた。
砂煙が舞う中、ぱらぱらと壁の破片が落ちる。
その爆音で目が覚めたアラマキは、首を振るって気付けをした。
ワタナベから十メートルほど離れているが、この調子だと
一瞬でも気を抜いた直後に肉片になってないとも言えない。
唾を呑むことすらできないアラマキだが、それでも
蹴りに使った足を壁から抜いたワタナベの顔をみることはできた。
一瞬見せた鬼のような形相は、忽ち消えていた。
だが、殺気だけは変わっていなかった。
从'ー(;・从「なんで――」
.
- 57 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:34:32 ID:pHa6iGt.O
-
最後の破片が音を立てて落ちた時。
ワタナベはアラマキを恫喝するように叫んだ。
从゚ー(;・从「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおして
『反転』できねえんだよおいぃぃぃぃぃぃぃぃッぃい!!」
/;,' 3「(仕留めるんじゃった! たとえ『反転』されようとも!)」
その叫び声は、近隣の森を吠えさせるのに充分だった。
危険を察知した鳥は生存本能の赴くが儘に飛び立ち、
ひっそりと息を殺して生きていた小動物はより遠くへと逃げ始めた。
凶暴な肉食動物や猛禽類でさえも、決して同じ
場所に定住しようなどと思う者はいなかった。
世紀の大地震を察知した時よりも、
大袈裟すぎる規模で動物たちが逃げ始めたのだ。
逃げなかった動物は、アラマキただ一人だ。
今のワタナベの恫喝で、耳が痺れていた。
手から滲み出てくる汗は、拭うことができない。
ただ、この一瞬一瞬を、ひたすらワタナベを見るためだけに使っていた。
勝つためでも、負けるためでもない。
『拒絶』を拒絶するためである。
.
- 58 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:35:44 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「オラアアアアアアアアアッッ!!」
ワタナベは吠えながら、人差し指を天に向けた。
何かするのかと思ったが、なにも変化は訪れない。
/;,' 3「……?」
アラマキも空を見たが、なにも変わらない。
ただのフェイクか、程度に思っていた。
だが、数秒後。
確かにそれ≠ヘやってきた。
轟音と巨大な影を伴って、空から。
小惑星と呼ぶには大きな隕石が、この場所に向かって。
/;。゚ 3「なにィィィィィッィイ!?」
从゚ー(;・从「【手のひら還し】ッ!
墜ちるはずのなかった流星だって墜とせるのにッ!」
すると、後方、森の奥の方から妙な音が聞こえた。
風が風を斬るような、残虐な音が。
視認しようとするものなら、その隙を衝かれる。
聴覚だけで、アラマキはそれを判断しようとした。
なにかが、木の肌を斬っている。
なにかが、地面や岩石を削っている。
なにかが、舞った砂を空へ空へ、と押し運んでいる。
―――鎌鼬。
.
- 59 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:37:11 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「この星に在る全ての風のベクトルも操れるのにッ!」
/;,' 3「(鎌鼬を意図的に引き起こせるじゃと!?)」
鎌鼬とは、旋風のようなもので発生する真空がなにかに当たることで
あたかもそれを斬るかのように引き裂いてしまう自然現象だ。
滅多に起こることのない自然現象なのに、
いま、起きそうにない場所で起きている。
そして、それもワタナベの技≠セった。
この星に存在する全ての風のベクトルを『反転』させ、
同時にそのやってくる風にかかる抵抗も『反転』させ、
凶器と化した風を一ヶ所に集め、風の集団をつくる。
同じ箇所で恒久的に風の向きの『反転』が繰り返され、そのたびに
風が加速することで、擬似的な鎌鼬が発生した――としか、説明ができなかった。
そして。
ワタナベはまたしても吠えた。
从゚ー(;・从「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
地に右の掌を付け、左手でその手首を押さえた。
アラマキがどうするのか、と思った直後。
嘗てのハインリッヒほどではないが、彼は地面に異変を感じた=B
.
- 60 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:38:33 ID:pHa6iGt.O
-
咄嗟にジャンプしてみると
先ほどまでアラマキが立っていた場所で
地面がぱっくり割れる程の地殻変動が起こっていた。
/;。゚ 3「はッ――ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?
な、なんじゃコリャ?!」
安全地帯に着地できるように、体重を移動させた。
その頃、ワタナベは掌を離してふらふらと立ち上がっていた。
不敵に笑って、アラマキを睨んでいた。
从゚ー(;・从「地殻の動きも『反転』させて地割れを起こせるのにッ!」
从゚ー(;・从「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉして!
てめえの攻撃だけは防げなかったんだよァァッ!!」
そのとき、流星がアラマキ目掛けて墜ちてきた。
あらゆる抵抗と軌道を『反転』され枠からはずれたそれが、
ちょうどアラマキの頭上にやってくるように。
またそのとき、後方にあった鎌鼬がアラマキの方へとやってきた。
近づいたものを無惨に切り裂く、切捨御免の悪魔が。
さらにそのとき、着地したその足場でも地割れが起きる寸前となっていた。
アラマキを呑み込むように、永遠の闇へといざなうように。
.
- 61 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:42:16 ID:pHa6iGt.O
-
イレギュラー・バウンド
从゚ー(;・从「【手のひら還し】ッッ!」
クルワセ
从゚ー(;・从「てめえの策略を『異常』てやらぁぁぁぁぁッぁあ!!」
完全に狂ったワタナベが、あらゆる自然現象を
『異常』てアラマキに間接的に襲いかかった。
どれも、まともに喰らえば死は免れないものばかりだ。
だから、同時に迫る三つの脅威から逃れなければならない。
アラマキは判断に迫られた。
生きていることを最前提に置いた、確かな方法を、一瞬で。
そして、その一瞬で唯一浮かんだのは
この『異常』られた『則』を『拒む』ことだった。
/;,' 3「(同時にやるしかないか――こいつ≠!)」
もうジャンプしても間に合わない。
そうすれば、地面を踏む力のせいで地割れに呑み込まれるからだ。
転がっても無駄だ。流星はそこら一帯を一気に呑み込んでしまう。
後退してもだめだ。背後から実体を伴わない殺人鬼が迫ってきている。
.
- 62 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:42:55 ID:pHa6iGt.O
-
だから
「『解除』ッッ!」
【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】。
彼が降臨するよりほかに、仕方がなかった。
.
- 63 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:44:01 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「ッ!!」
すると、不可思議なことが起こった。
地殻変動を起こしていた地面が、元通り正常なかたちへ戻ってゆく。
風は一瞬でその姿を消し、実体を伴わない殺人鬼は
実体のもととなる実体から存在しなくなってしまった。
流星は、ぴたっと止まっては、ただの落下物のように
アラマキの頭上に墜ちてきた。
こうなってはただの岩石だ。
アラマキならばいとも容易く破壊することができる。
やってきたそれを、拳に渾身の力を籠めて殴った。
凄まじい音と同時に大岩は芯から砕け、近くに散乱した。
ワタナベが壁を蹴り壊したように、ぱらぱら、と音が鳴る。
そして、このときに発生した砂煙が晴れる頃には、
アラマキは構えをして、ワタナベをじっと睨んでいた。
眼を見る限りでは、明らかな殺気と闘争心しか窺えない。
完全に、彼は戦闘モードから「戦争モード」に入っていた。
じっと敵を睨み、決して視界の中央からずらさない。
獲物を狩る時の虎のように、その眼はぎろりと鈍く光っていた。
先ほどまでの焦燥など微塵にも感じさせないで、
ただ一秒先で起こる戦闘のことだけを考えていた。
.
- 64 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:45:04 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从
一方のワタナベは、今のアラマキの能力に面食らっていた。
信じられない、といった様子で、ただ唖然としていた。
流星の動きを大胆にも止めてから破壊し、
開かれた地殻を元のように押し返してしまった上で、
殺傷能力を兼ねる鎌鼬の風の軌道を根刮ぎ止めてしまったのだ。
アラマキのことをなにも知らないワタナベにとっては、
まさに奇々怪々たる出来事以外のなにものでもない。
また、起こっては堪らない出来事でもあった。
自分の『拒絶』が拒絶されたのだ。
なにかを『解除』されたことによって。
その気になればアラマキの生死の概念を『反転』させ
抗うことを許さないまま心臓を貫いた上で再度それを『反転』させる。
そうすれば問答無用で「勝利」することはできるのだ。
しかし、それは『拒絶』の名の下では「敗北」同然なのだ。
自分――拒絶――を相手に受け入れさせなければ、
真の意味での「勝利」は掴み取ることなどできない。
だから、なんとしてでも相手の、アラマキの能力を
『拒絶』した上で勝利しなければならなかった。
.
- 65 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:48:12 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从
从'ー(;・从
从'ー(;・从「……」
鬼のお面がとれて、元のワタナベ=アダラプターの顔へと戻った。
きょとんとして、『拒絶』と思わせない童顔でアラマキを見つめる。
相手の警戒心を緩めかねない表情だったが、
アラマキはその程度では注意を欠くことはない。
だが、ワタナベはそんなつもりでそんな表情をしたのではない。
純粋に、物珍しさ故に生じる好奇の眼差しだった。
体内に緊張を張り巡らせているアラマキが、それを知ることはなかったが。
从'ー(;・从「……ねえ」
/ ,' 3「なんじゃい」
アラマキが低く返した。
明らかに殺気の色で塗りたくられている。
ワタナベがそれに怖じ気づくことはないが、
それでも、気分は決していいものではなかった。
从'ー(;・从「どうして」
从'ー(;・从「どうして、跳ね返せないの、この負傷」
ワタナベは、砕けた顔の左半分を指して言った。
嫌みを言うようでも言いがかりをつけるようでもない。
ただ、純粋に知りたがっているようなものの言い方だった。
一般人が見れば、失禁さえするレベル。
決して人の目に晒してはいけないような顔だ。
頭蓋骨から頬骨の下部に至るまで、すっかり原型をとどめていない。
.
- 66 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:52:41 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……」
从'ー(;・从「事実関係も『反転』できねぇんだよ」
まず、殴るという行為には必ず力の動きが存在する。
それを『反転』させることでその腕の向かう方向が逆になり、自分のもとに拳がやってくることはない。
自分が意識していなかったり、敢えて技を喰らう場合には
『反転』は適用せず、通常の『因果』に従ってやってきた拳を受けるが。
それでも、殴られた瞬間に発生する負傷を拳に押し返したりもできるはずなのだ。
この用法で『反転』させたならば、アラマキの腕は吹っ飛んでいるはずである。
しかし、隻腕とは言え彼の腕はぴんぴん動いている。
そして、自分のこの負荷は残ったままだ。
それでもまだ、被害者と加害者という事実関係も『反転』できる。
実際にアラマキに殴られて傷を負った以上、その事実関係を
『反転』させればアラマキの顔の左半分が吹っ飛ぶはずなのである。
そして、ワタナベにとってはこの『反転』ができないのが一番の謎だった。
完了してしまった攻撃である以上、前者二つはさて置くとしても、
完了してから適用される℃Oつ目の『反転』が
できないというのは、明らかに『異常』が起こっている。
少なくとも、この疑問を解決させない限りは
ワタナベは一生満たされないままで過ごすことになるだろう。
自分の《拒絶能力》に欠陥があったのだ。
すなわち、それは自分の『拒絶』がその程度だった、と言っているのにすぎない。
言い換えれば、『拒絶』を受け入れさせることが最大の快楽となる
ワタナベにとって、それは決して認めることのできない欠陥だったのだ。
.
- 67 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:55:56 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……教えてやろうか」
/ ,' 3「おぬしが『因果』を『拒絶』する以前に――」
ジェネラル キャンセル
/ ,' 3「儂が『 則 』を『拒絶』したからじゃ」
――アラマキの有する【則を拒む者】は、同盟を結んだ
三人のなかでもっとも《拒絶能力》に近いものだった。
だからこそ、不謹慎な親近感が湧いたし、相手より先に物事を
『拒絶』することで間接的に相手の『拒絶』を拒絶することもできた。
もし、今屋敷の陰で震えている内藤がアラマキを
『拒絶』のように紹介するなら、こう言うことだろう。
(;^ω^)『やつが「拒絶」したのは「法則(ジェネラル)」ッ!』
(;^ω^)『あらゆる「法則」を「解除」することが、
やつの司る「拒絶」となるんだお!』
(;^ω^)「………そう、【則を拒む者】ッ!」
.
- 68 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:57:31 ID:pHa6iGt.O
-
――その当人は、脳内で必死に物語の行く末を追っていた。
そして、いま起こってしまった『異常』を解析していた。
その答えは朧気には浮かんでくるのだが、ただ拡大解釈を
しているだけかもしれないと思うと、断言はできないでいた。
アラマキは、その『異常』の原因を既に知っていた。
ワタナベはそれを心を読むことで知ることもできるのだが、それはしなかった。
アラマキの口から、言わせたかったのだ。
/ ,' 3「儂は、おぬしを殴った時に、その力そのもの≠『解除』した」
从'ー(;・从
アラマキが語り出すと、ワタナベは黙った。
じっとアラマキの目を見て、不意打ちを
試みようともせず、真剣に話を聞いていた。
/ ,' 3「そして、『入力』した。それだけじゃ」
从'ー(;・从
そして、始まったアラマキの解説は、十五秒で終わった。
その時間は、アラマキにとっては長かったが、
ワタナベにとってはあまりにも短すぎた。
釈然としない。
自分が求めていた答えからかけ離れていたのだ。
理屈も論拠も裏付けも、まるでない。
なにがどう作用したからそうなったのか、にアラマキは触れていなかった。
実際に起こり得た以上はアラマキの解説が正しいことに
なるのだが、ワタナベがそれで納得するはずもない。
从'ー(;・从「――で?」
/ ,' 3「で、って、しまいじゃよ。ほんとにそれだけじゃ」
.
- 69 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 15:59:25 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはちいさく言った。
とても嘘を吐いているようには見えなかった。
だが、そう至極当然の如く語られても、ワタナベは理解できなかった。
再びワタナベが黙ると、見かねたアラマキが続けて言葉を発した。
/ ,' 3「……じゃあ」
アラマキが、構えを解いてワタナベから目を逸らした。
この状況では、ワタナベは不意打ちをしないだろうと考えた上での行動だった。
少しアラマキがきょろきょろすると、「お」と言って一点を見定めた。
その先は、屋敷の陰。
尻だけを見せて隠れている、内藤の姿が見えた。
地に伏して未だに震えているようで、アラマキに見られても彼は全く気づかないでいた。
/ ,' 3「ブーン君や」
( ; ω )「(【手のひら還し】ってあんなにやばい能力だったのかお!?
いやいやいや、でもいくらなんでも強すぎるっていうかむちゃくちゃだお!)」
/ ,' 3「……」
内藤は、改めて《拒絶能力》の恐ろしさを実感していた。
自分で創ったはずなのに、それが信じられなかった。
内藤の出す小説はおろか、おそらく世間で
お披露目することさえ叶わないであろう理不尽な能力。
バトル小説を手がけるものとして、
【手のひら還し】は恐怖以外のなにものでもなかった。
そして、その恐ろしさも熟知しているため、
内藤の心の底に積もる恐怖は倍増していた。
.
- 70 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:01:01 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはそんな内藤の心中を察してか、
再び、今度は森が鳴くほどの大声を出した。
/ ,' 3「ブーン君ッ!!」
( ;゚ω゚)「あひゃい!!」
呼ばれて初めて内藤は反射的にびしっと立ち上がった。
兵隊のように、アラマキの方へ向きを正した。
それを見て、アラマキは
/ ,' 3「今の話聞いておったじゃろ?」
(;^ω^)「へ、あ、え?」
/ ,' 3「なぜ【手のひら還し】が効かないのか=B
そこのお嬢さんに言ってやっとくれ」
そう言って、ワタナベを指差した。
相変わらずきょとんとして、今度は内藤の方を見た。
状況を理解し「またか」と思った内藤は、心の中で嘆いた。
(;^ω^)「(どーして毎度毎度解説しなくちゃだめなんだお!
ちったーこっちの気持ちも考えろ!)」
が、実際はそう心の中でぼやいても、誰も聞かない。
内藤は気怠そうな顔をして、頬を掻いて答えた。
(;^ω^)「えっと……たぶん、で言うなら……」
(;^ω^)「ひとつだけ、心当たりがあるお」
.
- 71 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:02:51 ID:pHa6iGt.O
-
二人は肯きはしなかったが、目で肯いていた。
( ^ω^)「じーさんの拳がワタナベに触れたときに、
あんたが『反転』させたのはベクトル――だお?」
从'ー(;・从
( ^ω^)「ベクトル反射は、言うまでもないけど
そこに『力』が発生してないとできないお。
で、じーさんはその『力』を『解除』した。
……つまり」
( ^ω^)「発生していない力は『反転』できない=B
そしてじーさんの攻撃でワタナベは傷つかなかった=B
……だから、ベクトル反射はできなかったんだお」
从'ー(;・从「――ハ?」
( ^ω^)「…っ」
ワタナベは、瞼を動かさずぎろっと内藤を睨んだ。
その圧倒される視線に、内藤は少したじろいだ。
从'ー(;・从「殴られた事実をも『反転』してんだぜこっちは。
こいつがおれを殴った以上は――」
( ^ω^)「じーさんの攻撃で、ワタナベは傷つかなかった。
ワタナベは被害者でこそあれじーさんは加害者じゃない≠だお」
从'ー(;・从「っ!」
.
- 72 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:04:36 ID:pHa6iGt.O
-
ワタナベは、漸く理解した。
事実関係を『反転』させるには、
加害者と被害者の両者が揃わなければ成立しないのだ。
アラマキが殴った際、ワタナベにダメージは訪れなかった。
そうである以上、アラマキは加害者ではない。
そして、『入力』したのはワタナベへのダメージではなく
この世に存在する物理法則のうちの一つだ。
アラマキは物理法則をめちゃめちゃにしただけで、
決してワタナベに訪れた『因果』には干渉していないのだ。
だから、『反転』できなかった、と。
/ ,' 3「……というわけで」
アラマキが言う。
/ ,' 3「納得したかの? 儂、早くおまえさんを殺したいんじゃがなあ」
余裕綽々といった態度で、ワタナベの方を見た。
ワタナベはぽかんとしているだけだった。
決して、殺されることに動揺しているわけではなさそうだった。
从'ー(;・从
/ ,' 3「……」
ワタナベは答えず、少しばかりの静寂が流れた。
内藤は汗を拭うこともなく、そそくさと元いた屋敷の陰に逃げ込んだ。
風が数度吹き、ワタナベの紫の髪をなびかせた。
もし胸に穴が空いておらず、顔の左半分が砕けていなければ
さながら少女漫画に出てくる主人公を思わせる構図となっていただろう。
アラマキが、もういいだろう、と考えたときだ。
ワタナベはちいさく呟いた。
.
- 73 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:05:23 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー(;・从「……やっとだ」
/ ,' 3「?」
ワタナベが、砕けた顔の左半分に手を触れようとしたとき。
それを見ていたアラマキは、仰天した。
ワタナベの砕けたはずの左半分が、元に戻った≠フだ。
从'ー'从「片目しか使えないのって、結構不便なのよね〜」
/;,゚ 3「―――ハァッ!? お、おぬ―――」
从'ー'从「遅ぇ」
/ ,' 3「っ!」
一瞬呆気にとられたが、アラマキは自分の
足下にワタナベがいたことを即座に察知した。
反射的に後退し、迎え撃てるように構えた。
四の五の考えるのはまだ先だ。
今は迫り来る脅威を払わなければならない。
そのことだけ考え、ワタナベと対峙した。
.
- 74 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:06:54 ID:pHa6iGt.O
-
ワタナベは畳んだ足を地につけた。
そこから地を蹴り出し、瞬間的に加速してアラマキに肉薄した。
そして、狂気を感じさせる笑みを浮かべ、アラマキの顔面に掌底を打った。
あまりにも速すぎる動きに、アラマキは瞬きほどの差だけ出遅れた。
だが、電光石火の攻撃をも去なすアラマキ元帥が
この程度の攻撃をかわせないはずもなかった。
重心を後ろに預けて膝の力を抜いた。
自分の残像の鼻っ柱を突き抜ける掌底が見えた。
その掌底の元、ワタナベの胴体の右胸に拳を繰り出した。
先ほどと同様に、一度その力を『解除』して
時間差でワタナベにダメージを与えるように。
だが
从'ー'从「へッ!」
/;,' 3「――ッ!?」
まるでビデオの巻き戻しを体現するかのようにアラマキの
攻撃という行為は、見事に巻き戻されてしまった。
三段階における『反転』の、その一。
とある動作における『反転』による、可逆。
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- 75 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:08:20 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「鼻ッ!」
/;,' 3「『解除』ッ!」
从'ー'从「お?」
アラマキの一瞬動きが止まったのを、見逃すはずがない。
もう一度、顔面に鈍く重くのし掛かる掌底を放とうとした。
その点から点を結ぶ時間はコンマ一秒も掛からないのだが、
アラマキにとってはその程度の速さなら充分能力を適応させることができる。
掌底を放つのに籠められていたワタナベの力を『解除』し、動きを止めてみせた。
嘗てハインリッヒやゼウスには使わなかった類の用途だった。
腕の力が消え、勢いだけが残っているワタナベの躯を迎え撃つように
再びアラマキは右の鉄拳でワタナベの肺を貫こうとした。
だが、これも『反転』させられる。
触れたかどうかというタイミングで、腕の動きが巻き戻された。
このままでは埒が明かないと思ったアラマキは、
ワタナベの動きを、『解除』によって止めて咄嗟に後退し、間合いを空けた。
十メートルにも満たない距離では間合いを空けたとは言えないのだが、
とにかく零距離での攻防だけは避けたかったのだ。
零距離では、反射神経の良さだけが、攻防に露骨に表れるからだ。
破壊力は衰えてなくとも、反射神経に関してはわからなかった。
もし一瞬でも出遅れてしまえば、その瞬間に終わるのだ。
アラマキとしては、気休め程度にでも間合いがほしかった。
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- 76 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:09:43 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「ひゅ〜ッ。なかなか面白いワザ使うね!」
/;,' 3「………」
ワタナベは嘲るかのように言って、拍手した。
当然だが、アラマキは祝礼された気は全くしなかった。
死の宣告をされているような心地がした。
だが、ワタナベは止まった。
殴打の嵐を浴びせられては体力負けするところだったが、
ワタナベはにやにやしてこちらを見ているだけである。
アラマキはこのチャンスをものにしようと思った。
少しでも時間を稼いで、逆転の一手を考えようとした。
/ ,' 3「………のぅ」
从'ー'从「なぁに〜」
ワタナベには感づかれていない。
心の声を『反転』させていないのか。
とにかく、アラマキはしめた、と思った。
/ ,' 3「どうして……顔の傷が治ったんじゃ?」
从'ー'从「ほえ〜」
ワタナベはくねくね躯を曲げ、おどけてみせた。
気の抜ける声を発して、ふざけているとしか思えなかった。
/ ,' 3「儂かて『なんで負荷を反転できなかったのか』を答えた。
次はおぬしの番じゃぞい」
从'ー'从「ふえ〜」
やはり、くねくねさせている。
時々可愛く振る舞ってみせたりと、緊張感を欠かせる動きだった。
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- 77 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:10:58 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはそれを意に介せず、じっとワタナベを睨んだ。
最初は無視しようと思っていたワタナベだが、
仕舞いにはその視線が煩わしく思えたので、渋々答えた。
気の抜けた声は、このときで既に発さなくなっていた。
从'ー'从「ま、いいけどサ」
ワタナベは軽く咳払いをして、真顔に戻った。
やはり、彼女が真顔に戻ると、彼女が『拒絶』であることを思い起こさせた。
从'ー'从「一度しか言わねぇからめんたまかっぽじってよく聞きやがれ」
从'ー'从「ボクは、ボクの体内での時間の流れ≠『反転』しました」
/;,' 3「ッ!?」
从'ー'从「顔を殴られる前の時間まで巻き戻した
結果、傷は初めからなかったもの≠ノなりました」
从'ー'从「これでオケイ?」
/;,' 3「(な――なんじゃと!?
じゃあ……いっくらダメージを与えても、無駄じゃないかッ!)」
从'ー'从「うん、ムダ」
/ ,' 3「っ!」
心の声を読まれて、アラマキははッとした。
ワタナベは表情を変えずに続ける。
.
- 78 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:12:36 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「そして、時間を稼ごうとして無粋な質問をするのも、ムダ」
从'ー'从「どんな奇策を思いついても、全部わかるんだから」
/ ,' 3「…………(そうか、心を読むのか)」
从'ー'从「戦場における掟、だっけ?」
从'ー'从「それも、さっききみの心の中を覗いて、其の壱から
最後まで、ぜーんぶ丸暗記しちゃったもんね」
/ ,' 3
それは何気なく放った言葉だった。
だが、その何気ない一言がアラマキの怒りを買ったことは
今のワタナベは全く予想もしていなかった。
/ ,' 3「おぬし」
从'ー'从「あ?」
アラマキが一歩、詰め寄った。
/ ,' 3「戦場の恐ろしさを知らぬ者が、なにをほざくか」
从'ー'从「……?」
このとき、ワタナベは。
漸く、アラマキの瞳に宿った黒色が、目に入った。
じりじりと、しかし一歩一歩を強く踏みしめ、
アラマキは確かにワタナベのもとに歩んでいった。
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- 79 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/11(火) 16:13:46 ID:pHa6iGt.O
-
「『生死の概念』を『反転』した?」
「死を恐れたが故に、死を『拒絶』したのか」
「青い……実に青いぞ、小童ァ!」
「戦場における掟、其の弐拾ッ!」
「死を怖るる者、死よりも猶耐え難し<b!」
/ ,' 3「畏まれいッッ!!」
.
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