( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

125 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:37:13 ID:4Ozh1CRYO
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
 
 
.

126 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:37:43 ID:4Ozh1CRYO
 
 
○前回までのアクション
 
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
 
从 ゚∀从
→気絶
 
( <●><●>)
→戦闘不能
 
( ´ー`)
→散策中
 
( ・∀・)
( ^Д^)
→戦闘終了
 
 
.

127 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:38:59 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 
  第十三話「vs【手のひら還し】X」
 
 
 
 必死の抵抗だった。
 ワタナベから、マシンガンのように飛んでくるありと
 あらゆる攻撃をアラマキが避けられる術も本来はあったのだ。
 
 右から、上から、下から、左から、不可思議な方面から。
 奥から、手前から、斜めから、観測不可能な方面から。
 飛んでくる攻撃は、その一撃が即死に値する。
 
 そんななか、アラマキの方針は「とにかく時間を稼ぐ」なのだ。
 だから、多少は手加減をしてでも、防御や回避に
 徹するに越したことはなかったはずだった。
 
 だが、相手が『拒絶』のワタナベであった場合、
 アラマキとて本気で撃ち合わなければ、
 その方針を徹することはまず不可能となるのだ。
 
 相手の命を、一瞬後には奪ってやるという心構え。
 それがなければ、文字通りあっという間にアラマキの心臓はもぎ取られてしまう。
 ワタナベは、もうとっととこの戦いを終わらせようとしているからだ。
 
 ここで、仕上げとしてアラマキを完膚なきまでに打ちのめす。
 あらゆる『因果』を悉く『反転』させて、アラマキに『拒絶』を植え付ける。
 そうすることではじめて、ワタナベは目的を達したことになるのだ。
 
 その目的には、少なからず必要なものがある。
 「相手の必死の抵抗」と「相手の生への執着心」、この二つだ。
 
 アラマキは、その両方を持て余すほどに持っている。
 だから、ワタナベは他の二人とは違って
 このように真っ向から戦いを挑んでいるのだろう。
 
 アラマキに言わせてみれば、それはとんだ迷惑な話だった。
 
 
.

128 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:40:25 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(;^ω^)「よせ、アラマキッ!」
 
 屋敷の陰に身を寄せながら、内藤は叫ぶ。
 たとえその言葉に意味がないものだ、とはじめから
 わかっていたとしても、内藤は叫ばざるを得なかった。
 
 勝つ『因果』は、存在しないのだ。
 全てが全て、『反転』させられるから。
 【手のひら還し】という『拒絶』が、それを拒むから。
 ワタナベが、『拒絶』だから。
 
 
 なおも戦闘は続く。
 内藤の必死の声は、その戦闘で発せられる
 様々な音によって、きれいにかき消されていた。
 
(;^ω^)「そいつ、ワタナベに――」
 
 ワタナベが、回転しながら裏拳を三連続で水平に放った。
 さながら駒のような動きで、残像が消える前に新たな残像を
 重ねていたので、比喩ではなく本当に駒のような動きだと言えた。
 
 アラマキがその回転にかかる慣性を『解除』しようとすると、
 ワタナベはそれを『反転』させ『入力』された状態に戻す。
 
 アラマキも内藤がなにか言っているのには気がついていたのだが、
 とてもその声を認識しようという気にはなれなかった。
 
(;^ω^)「通じる『因果』なんて、なにもないんだおッ!」
 
 駒の一回転半の終わりに、ワタナベは回し蹴りを放った。
 拳の攻撃から急に足が入ったが、アラマキは動じることはない。
 
 
.

129 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:41:39 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 ワタナベの動きから力を『解除』させ、一瞬動きを止める。
 『解除』が『入力』に『反転』されるその一瞬の隙を衝いて、
 右腕に全体重を載せてアラマキは殴りかかった。
 
 だが、ワタナベが能力を発動させるのにかかる時間と
 アラマキが全力で「破壊」をぶつけるのにかかる時間とで
 圧倒的に前者が速かったというのは、言うまでもない。
 
 アラマキの拳の軌道が『反転』させられ、
 拳はワタナベから遠ざかるように弾き返された。
 
 アラマキはその軌道を利用した。
 躯を拳より速く右に捻っては、時計回りに一回転した。
 慣性と速度の恩威を充分に受けた裏拳は、『拒絶』とは
 言えど、「当たれば」即死に値する破壊力を生み出す。
 
 瞬きをしていたうちに反対方向から飛んできた裏拳。
 ワタナベは「のわっ」と呟いてはその軌道も『反転』させた。
 
 それすらをも読んでいたようで、アラマキは
 今度は躯を左に捻って、正拳突きの構えを一瞬でとった。
 慣性という名の力は『反転』させられたことで
 既についているため、拳に力を籠める必要はない。
 
 溜めなしから、突如として放たれる正拳の軌道を、
 ワタナベが『反転』させることはできなかった。
 
 能力とは、基本的に発動速度は思考相当なのだ。
 己の思考がついてこなければ、どんな力もうまく使いこなせない。
 
 そして、アラマキのこの攻撃は、
 その能力そのものにおける弱点を衝いたものだった。
 
 
.

130 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:43:12 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(;^ω^)「――おっ!?」
 
 これには思わず内藤も声をあげた。
 アラマキの拳が、ワタナベの顔に触れたのだ。
 
 だが、打撃音はしない。
 これはなにを表すのか。
 
 アラマキの打撃による負荷を一時的に『解除』したのだ。
 そうすることで、アラマキの拳ではワタナベに負荷は
 かからなかった≠ニいうひとつの『因果』が生まれる。
 
 のちにこの発生していた力を『入力』すれば、
 嘗ての因果関係はそのままで、突如として現れた
 発生源不明の負荷がワタナベを襲うのだ。
 
 ワタナベの顔の左半分を奪った攻撃は、これを用いていた。
 因果関係をリセットすることで、『因果』の『反転』を受け付けないように。
 
/ ,' 3
 
 アラマキは、声にこそしなかったものの、確かな手応えを感じたようだった。
 ここで『入力』すれば、ワタナベの顔にかかった負荷を
 首が支えきれず、胴体から引きちぎれることになる。
 
 そうなることを祈って、アラマキは胸中で『入力』を念じようとした。
 
 
 
从'ー'从「ばーか」
 
/ ,' 3「……?」
 
 だが。
 ワタナベは、にやにやとしていた。
 
 どこか不審に思ったアラマキは、力を『入力』するのをとめた。
 妙な胸騒ぎがしたのだ。
 
 
.

131 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:45:26 ID:4Ozh1CRYO
 
 
从'ー'从「おんなじ手が二度通じる、って思ってた?
      ばっかじゃねーの?」
 
/ ,' 3「どうした、怖じ気づいたか」
 
 アラマキは口ではこう言っていたが、内心では不安を感じていた。
 ワタナベのこれが、不意打ちを狙うための戯言や虚勢ではないことを察していたのだ。
 それは、つまり何かの『因果』を『反転』させたことにつながる。
 
 ワタナベは鼻でアラマキを笑った。
 見下すような視線で、アラマキを見つめた。
 
从'ー'从「因果関係は、何も負荷に関するものだけにあるんじゃねえんだよ」
 
/ ,' 3「……?」
 
 
从'ー'从「拳が肌に触れた瞬間、その接触に関する因果関係を『反転』させました」
 
从'ー'从「いま『入力』すると、おめーの顔が吹き飛ぶんだよっ」
 
从'ー'从「拳が触れられたのは、おめーなんだからな!」
 
/ ,' 3「……なに……?」
 
 アラマキは、少し考えてから、小さく声を発した。
 てっきり、隙を衝いて殴りさえすれば勝てる、と思っていたのだ。
 
 だが、接触という観点から『因果』を『反転』させることが
 できるなら、それこそ勝つことができなくなってしまう。
 
 そして、同時に別のことも思い出した。
 いや、ずっと心に留めていたことではあったが、
 自然と強く意識させられてしまうようになった。
 
 ワタナベは、自身の時間の進行をも『反転』させることができるのだ。
 そして、実際にそれで吹き飛んだはずの左目が元に戻っていた。
 
 
.

132 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:46:10 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 もしワタナベが接触における因果関係を『反転』させなくても、
 時間の進行を『反転』させればすぐに元のワタナベに戻ってしまう。
 それも、殴られる前のワタナベであるため、再度
 『解除』された力を『入力』して――などということもできなくなるのだ。
 
 アラマキは、更に時間を稼ごうと思った。
 語調も選ぶ言葉も、やけに辿々しくなってきていた。
 
 
/ ,' 3「のぅ」
 
从'ー'从「死ねえええええっ!」
 
从'ー'从「なぁに〜?」
 
/ ,' 3「……、……」
 
 
.

133 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:47:03 ID:4Ozh1CRYO
 
 
/ ,' 3「是非聞かせてほしいことなんじゃが、
    おぬしは、どうして『拒絶』になったんじゃ?」
 
从'ー'从「なにコイツ、少しでも長生きしたいってハラ?」
 
/ ,' 3「うぬ……冥土のみやげに、のぅ」
 
从'ー'从「ふーん」
 
/ ,' 3「……少しでいいんじゃ、聞いても良いかの」
 
从'ー'从「ヤ」
 
/ ,' 3「良くなかったか」
 
从'ー'从「なに急に。命が惜しいの?」
 
/ ,' 3「うむ。
    逝く前に、な」
 
从'ー'从「へぇ〜。で?」
 
/ ,' 3「死ぬんなら、せめて穏やかに死にたいんじゃ」
 
/ ,' 3「ろくでもない死に様ほど、軍人にとって情けない最期はなかろうて」
 
从'ー'从「そうなんだ〜。ボク軍人じゃないけど、わかるよ〜。嘘だけど」
 
 
.

134 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:48:10 ID:4Ozh1CRYO
 
 
/ ,' 3「……、……」
 
从'ー'从「ん〜?」
 
 意味がありそうでなかった会話は、アラマキのいきなりの沈黙で終わった。
 状況が掴めず、ワタナベは少し妙な心地になった。
 笑顔のまま、首を傾げてはいるものの、アラマキの考えが読めなかったのだ。
 
 
 アラマキは、心の中で「気づけ」と言っていたのだから。
 
 
/ ,' 3「……ふむ」
 
从'ー'从「なによさっきから〜。
      『気づけ』なんて言っちゃってさ〜」
 
从'ー'从「はッ! まさかボクのこと好きなの!?
      や〜ん、戦渦の告白〜!」
 
 ワタナベの推理が追いつく前に、アラマキは少し後退した。
 結局アラマキの考えは読めなかったが、それを悟らせないように
 ワタナベも得意の戯言と不気味な動きでアラマキを牽制した。
 
 アラマキは聞く耳こそ持たないが、少なくとも
 ワタナベが大して賢くなかったことには感謝していた=B
 
 胸の高鳴りを抑え、真意を悟られないよう最大限の注意を払って、アラマキは言った。
 
 
.

135 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:49:30 ID:4Ozh1CRYO
 
 
/ ,' 3「おぬしの最大の過ちは、トドメを刺さなかったことと、思いこみが過ぎたところじゃ」
 
从'ー'从「ハ? ボクが言うのも何だけど、
      きみ様子がコロコロ変わってなくね?」
 
/ ,' 3「儂は確かに言ったぞ」
 
/ ,' 3「『儂の宿敵にの、おぬしなんかの数百倍は不意打ちのうまいきゃつがいてのぅ』
    『そのフリがフェイクであること自体、むしろお約束なんじゃよ』……とな」
 
从'ー'从「?」
 
 
/ ,' 3「……こっからは、連携が物を言う」
 
/ ,' 3「委せたぞ」
 
 
从'ー'从「だから、ナ――」
 
 
 ――いよいよ、ワタナベもわけがわからなくなってきた頃。
 少し離れたところから、聞こえるはずのなかった声が聞こえた=B
 
 
 その声は、凛々しく、太く、大きく
 そして、誰よりも
 「恐怖」を植え付けるものだった。
 
 
 
 
.

136 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:51:09 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 
 
 
  「『爆撃』ッ!!」
 
 
从'ー゚从「――ッッ!?」
 
 
 
 その怒号に近い声が聞こえた瞬間、ワタナベの
 足下から地雷の何倍も強い威力の爆発が起こった。
 
 その轟音、熱風、破壊力はどれも凄まじく、
 予想だにしていなかったものだったため、
 ワタナベはわけもわからず爆発に呑まれる他なかった。
 
 服が焦げ、皮や肉が溶け、どうしようもない痛みが緊急信号を送る。
 だが、これだけでは終わらなかった。
 
 
 その爆発を――いや、あの声を聞いたと同時に。
 アラマキもまた、怒号に近い声を発していたのだ。
 
 
 
 
/ ,' 3「『入力』ッ!!」
 
 
 
 
 
 
.

137 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:52:19 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 
 瞬間。
 
 
 
从'ー゚从
 
 
 
 
 ワタナベの胴体が、粉々になった。
 
 
 
 
 
.

138 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:53:16 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 

 
 
 『拒絶』でも、人間らしい一面を持っていることはある。
 そもそも、『拒絶』しているのは特定のあることに関してのみであり、
 内藤は「すべてを拒絶した」と言っているが、意外と受け入れるものは多いのだ。
 
 日頃は、一般人である。
 が、誰も、その無表情の裏に《拒絶能力》が潜んでいることを知らない。
 
 【常識破り】然り。
 【ご都合主義】然り。
 【手のひら還し】然り。
 
 社会の歯車となって、のうのうと生きている人のなかに、
 『拒絶』が紛れ込んでいるとしれば、一般人はどうなるだろうか。
 逃げ惑い、命が惜しいばかりに泣きわめくだろうか。
 男なら土下座、女なら裸になって『拒絶』にすがりつくだろうか。
 
 正解は、「なにもしない」だ。
 実際にそのようなことが判明したところで、
 『拒絶』は一般人に手を出すことはないのだから。
 
 『拒絶』のオーラも抑えることができるようで、
 『能力者』や敵と対峙する時以外は、
 その『拒絶』のオーラは鳴りをひそめられているのだ。
 
 
.

139 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:54:48 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 朝、十時を過ぎるとスーパーは開店し、瞬く間に人また人で埋め尽くされる。
 目玉商品は飛ぶように売れ、今日もにぎわいを見せるのだ。
 
 そのスーパーは、川沿いに建っている。
 その川は公園から流れてきており、自然に溢れている。
 緑の向こうには、内藤武運が住人だった家が建っているが、それを知るものは今はいない。
 
 そして、トソンと呼ばれる少女は、そこを歩いていた。
 公園を川沿いに進んでは、木の上から降り注ぐ朝の日射しを身体全体で受け止める。
 俗にいう木漏れ日にこうも風流を感じるとは、トソンは思ってもみなかっただろう。
 
 風もどことなく心地よく思える。
 髪を風に預けては、さらっと右の髪を耳の後ろにかけた。
 どこか肌寒くも思えるなかで、ぼうっとしながらスーパーへの道のりを歩む。
 
(゚、゚トソン
 
 その容貌だけを見れば、決して彼女を『拒絶』とは思えないだろう。
 ワタナベ以上に美しい少女で、顔立ちが整っているのだ。
 淑やかな性格も相俟って、『拒絶』になるまでは彼女を好く思う男性は多かったとされる。
 
 舞う木の葉を見て、またも風流を感じた。
 この世界が、この朝の公園のように爽やかなものだったら『拒絶』の精神など生まれなかったろうに。
 ふと、トソンはそんなことを思った。
 
 すると、隣の茂みから音が鳴った気がした。
 その音が、トソンの歩みを止めさせた。
 
 トソンが何だと思うと、また茂みが揺れた。
 風の音ではない、人為的なもののように思えた。
 
 
.

140 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:56:12 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 だから、トソンは無意識のうちに《拒絶能力》を発動させた。
 途端に、トソンの聴覚は通常の何十倍にも発達した。
 いや、発達したのはトソンの聴覚ではない。
 茂み一帯の音が、何十倍にも大きくなったのだ。
 
 トソンはじっとそこを見つめ、音にも集中する。
 草や枝がこすれあう音、何かが地を踏みしめる音。
 トソンは、必ずそこに誰かがいるという確信を持った。
 だから、トソンは足音を《拒絶能力》で消して、歩み寄った。
 
(゚、゚トソン「……」
 
 茂みまで、あと一メートル。
 トソンは、茂みを取り払おうとした。
 強化された掌で茂みを払えば、一瞬でそこら一帯を野原にすることができるのだ。
 
 
 だが。
 それより先に、向こうが動いた。
 向こうは、茂みから飛び出した。
 
▼・ェ・▼「あんっ!」
 
(゚、゚トソン「!」
 
 予想だにしなかった展開だったため、トソンは思わず顔を腕で覆った。
 だが、飛び出したそれはトソンの想定していたものではなかった。
 あっけらかんとした顔でそれを見つめると、それは再び鳴いた。
 
▼・ェ・▼「あんっ!」
 
(゚、゚トソン「……い、いぬ?」
 
 
.

141 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:57:48 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 発動していた《拒絶能力》は自然のうちに消えていた。
 唖然としたトソンは、構えも解いて、その犬をじっと見つめた。
 
 ビーグルか、若しくはその雑種だろうか。
 垂れた大きな耳と茶褐色の毛皮が、愛らしい。
 
 ビーグルはちぎれそうなほど尻尾を振って、舌を出しては声を発していた。
 トソンに好感を抱いているようで、透き通った瞳でトソンを見つめる。
 トソンは、知らずのうちにしゃがみ込んで、両手を差し出していた。
 
 その動作の意味を理解したビーグルは、トソンの胸に飛び込んだ。
 トソンの頬を何度も舐め、尻尾を振り続けた。
 
(゚、゚トソン「く、くすぐった……」
 
▼・ェ・▼「ハッハッ……」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 ビーグルの抱き心地はよかった。
 全身ふさふさで、温もりも感じる。
 確かな体重も感じ、そのビーグルが確かに生きていることを知った。
 
 自然のうちにビーグルの頭や背中を撫でた。
 それに反応してか、ビーグルもトソンの頬や鼻を舐める。
 得たことのない感触をくすぐったく感じ、思わず頬がゆるむ。
 
(゚、゚トソン「……首輪がない」
 
 撫でていると、ふとそのことに気がついた。
 野良犬か、捨て犬だろうか。
 飼い主がいないことに気づいて、トソンは撫でるのをやめた。
 
 ビーグルはもっと撫でてくれと言わんばかりに鳴く。
 そんなビーグルも、トソンと同じで孤独な存在なのだ
 とわかり、トソンには親近感に近い感情がわいてきた。
 
 
.

142 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 13:59:13 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(゚、゚トソン「捨てられるなんて……」
 
▼・ェ・▼「クーんっ」
 
(゚、゚トソン「わかったからねだらないの」
 
 ビーグルが催促するので、再びトソンは撫でた。
 するとやはりビーグルは尻尾を振る。
 実に人懐っこい犬らしく、もうすっかりトソンに懐いていた。
 
 思わず、トソンからも笑みがこぼれた。
 柄でもない声も発し、ビーグルとじゃれる。
 平生ではクールなトソンも、このビーグルに対しては形無しだったのだ。
 
(゚、゚トソン「ちょ……」
 
▼・ェ・▼「ハッハッハッ……あんっ!」
 
(゚ー゚トソン「………ふふっ」
 
( ・∀・)「ずぅ〜いぶんと楽しそうじゃねーか。俺も混ぜてくれ」
 
(゚、゚トソン「っ!」
 
 ――トソンがビーグルのことを愛らしく思っていると、
 急に背後から音もなくモララーが現れた。
 現れると同時にそう声を発したので、トソンは咄嗟にビーグルを抱きながら立ち上がった。
 
 モララーはけらけら笑って、トソンを見る。
 一方のトソンは、訝しげな顔をしてモララーを睨んだ。
 モララーはその鋭い視線に耐えかね、両手をちいさく挙げた。
 
( ・∀・)「おお怖い怖い。なんだよ」
 
(゚、゚トソン「背後に急に現れる癖、なおした方がいいですよ」
 
( ・∀・)「そうかいそうかい。冗談の通じねえ女だな」
 
(゚、゚トソン「それほどでも」
 
( ・∀・)「へっ」
 
 
.

143 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:00:54 ID:4Ozh1CRYO
 
 モララーは、【無私の報せ《アクシデント》】と呼ばれる男と戦ったばかりだった。
 疲れや負傷など全く見られないが、どこか興奮しているのがわかった。
 だから、トソンが警戒するのも致し方なかった。
 
 モララーは手を下ろすと、にやにやと笑った。
 トソンは嫌な気分になって、少し後退りした。
 
(゚、゚トソン「なんなんですか」
 
( ・∀・)「え? いやぁ」
 
( ・∀・)「いぬっころ、ずっと抱いてんだなってよ」
 
(゚、゚トソン「いぬ?」
 
(゚、゚トソン
 
▼・ェ・▼「クぅん……」
 
(゚、゚トソン
 
(゚、゚トソン「わわっ!」
 
 言われてトソンが視線を下ろすと、未だに胸に抱かれているビーグルと目があった。
 はッとして、トソンは半ば投げ捨てるようにビーグルを下ろした。
 向こうの茂みに隠れるように、ハンドサインを送って。
 
 だが、ビーグルは帰ろうとしない。
 尻尾を振って、トソンをじっと見上げる。
 愛らしい顔で見つめてくるため、トソンは困った。
 その様子を見て、モララーはまた笑った。
 
( ・∀・)「好かれてんだな。よかったじゃねーか」
 
(゚、゚トソン「別にそういうわけじゃ……
     ほら、帰りなさいって」
 
▼・ェ・▼「ハッハッ……」
 
(゚、゚トソン「もう……」
 
 それを見て、またモララーは笑った。
 トソンは、仕方がなかったためビーグルを追い返すのをやめた。
 
 溜息を吐いて、トソンは再び歩き出した。
 ビーグルがそれに必死について行く。
 モララーも、彼女にあわせて歩き始めた。
 
.

144 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:02:56 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「今からどこに行くんだ?」
 
(゚、゚トソン「スーパーに、食材を」
 
( ・∀・)「へえ、意外だな」
 
 口角を少し吊り上げて、モララーが返した。
 その意味ありげな笑みに、トソンは少しムキになった。
 
(゚、゚トソン「どういう意味ですか」
 
( ・∀・)「意外に人間らしくてよ」
 
(゚、゚トソン「意味が分からない」
 
( ・∀・)「別にいいけどな」
 
(゚、゚トソン「もう……」
 
 そう言って、モララーはフードをかぶった。
 少し風が冷たかったからだ。
 
 しかし、トソンが「似合ってない」というと、
 モララーは渋々フードを脱いだ。
 どこか、不満げな顔をしていた。
 
 
( ・∀・)「………ところでよ」
 
(゚、゚トソン「なに」
 
 モララーの顔が、急に真剣なものになったので、トソンも畏まった。
 ポケットに手を突っ込んだまま、モララーは前だけを見て、トソンに言う。
 
( ・∀・)「実際、どうなんだ。満たされてっか?」
 
(゚、゚トソン「……そんなこと」
 
 トソンの視線が若干下がった。
 
 
.

145 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:05:17 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(゚、゚トソン「私はショボンさんやワタナベさんほど、飢えてるわけじゃないので」
 
( ・∀・)「へえ、そうか。まあそうだわな」
         ノウリョク
(゚、゚トソン「この『拒絶』がある限り、進んで満たされようとは別に思いませんね」
 
( ・∀・)「おまえらしいわ、ったくよ」
 
(゚、゚トソン「……ムぅ」
 
 トソンは足下に視線を遣った。
 ビーグルは短い足で懸命にトソンに遅れないように動いている。
 トソンの歩幅は少し狭くなった。
 
(゚、゚トソン「あなたはどうなのですか」
 
( ・∀・)「ん? 俺?」
 
 唐突に訊かれたので、モララーは少し驚いた。
 トソンが肯いたので、モララーは小さく唸った。
 考えてなかった質問なので、答えを用意するのに時間がかかった。
 漸く出た答えを、それとなくで答えた。
 
( ・∀・)「さっきも一人潰してきたけど、大して気持ちよくねえや」
 
(゚、゚トソン「弱かったから?」
 
( ・∀・)「いや、弱かなかったけどな。
      なんでも、『事故』を操るんだってよ。それも因果律からだ」
 
(゚、゚トソン「因果律……」
 
 
.

146 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:08:27 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「俺らの間でさえ、おまえやワタナベやアイツ≠ヘ操れねえんだ。
      普通の『能力者』とヤれば、たぶんイイ線いくぜ。
      ただ、相手が悪かっただけだ」
 
 モララーがあっけらかんとした様子で言うと、
 トソンは自分が低く見られたのをよく思わなかったのか、ムキになって言い返した。
 
(゚、゚トソン「尤も、ただの『事故』じゃあその三人にすら効きませんがね」
 
( ・∀・)「そう言うと思ったぜ、意地っ張りさん」
 
(゚、゚トソン「……む」
 
 トソンが少し、眉間にしわを寄せた。
 それを見て気まずく思ったモララーは、語調をほんの少しだけ速めて
 
( ・∀・)「――まあ、確かにそうだわな」
 
(゚、゚トソン「?」
 
( ・∀・)「いくら衝突事故が起こってもだ。
      おまえならその威力が最低レベルまで落ちる。
      ワタナベなら、トラックが潰れるか跳ね返されるか、
      とりあえずなんかが『異常(くるわせ)』られちまう」
 
( ・∀・)「で、アイツ≠ネら、そもそも『事故』の対象そのものがおかしくなるな。
      それか、『事故』が更に事故って、当人が死ぬか」
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ・∀・)「俺も『拒絶』だけどよ、さすがにああはなりたかないぜ。
      狂ってるなんてレベルじゃないしな。
      人間らしさなんか『絶望的(ゼロ)』だ」
 
(゚、゚トソン「私、彼のことはそれほど存じてないのですが――」
 
 
.

147 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:09:59 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 そこまで言うと、モララーは肯いた。
 それを踏まえた上で、モララーは続けた。
 
( ・∀・)「能力名なんざ知らねーが、とにかくアイツの近くに居ちゃやばいことが起こるんだ。
      運が憑(つ)きる≠オ、
      運が凶(わる)くなる≠オ、
      運が亡(な)くなる≠だぜ」
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ・∀・)「トソンはまだ遭(あ)ってないだろうが、むしろ遭うなよ。
      ネーヨの旦那じゃなきゃ、あんなのの相手なんか到底できん」
 
(゚、゚トソン「……会わない方がよさそうですね」
 
( ・∀・)「ああ、遭わない方がいい」
 
 そう言うと、トソンは少し頬を膨らませた。
 自分と住む次元の違う男が同じ『拒絶』に
 いると知って、つまらなく思えてきたのだ。
 
 モララーも嫌な話題を出したせいか、少し気怠そうに見えた。
 モララーは『拒絶』のオーラこそ凄まじいが、人間的な一面は持っているのだ。
 
 だから、『拒絶』の精神と関係なく、苦手なものは苦手で嫌いなものは嫌いである。
 まして、アイツ≠フことを考えたせいで、吐き気が催されもしたのだ。
 決して、いい気分ではないだろう。
 
 気分を晴らそうと、モララーは話題をかえた。
 今交戦しているであろう、ショボンのことだ。
 
 
.

148 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:12:19 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「ショボン、どうなってると思う?」
 
(゚、゚トソン「彼……ですか?」
 
 トソンも、急に話題がかわったせいで少しどきっとした。
 後味の悪い話から、急に普通の話になったからである。
 内容がショボンだったため、トソンは少しは落ち着けそうだった。
 モララーもワタナベもショボンも、皆性格はかなりひねくれているのだが、
 ショボンに関してはまだ他よりも交流はあるのだ。
 
( ・∀・)「いきなりゼウスん家に突っ込んでよ。今頃圧勝してるんじゃねえか?」
 
(゚、゚トソン「でも、話を聞いている感じでは『能力者』の中でも
     相当な遣い手の三人が相手なんでしょ? いくら彼でも……」
 
( ・∀・)「いやいや。【ご都合主義】だっけか、アレは正直言ってやべぇよ。
      マジで闘り合えば、この俺でも負けるかもしれんからな」
 
(゚、゚トソン「と言うと?」
 
( ・∀・)「出会い頭で、いきなり『俺なんか存在していなかった』
      っつーな『現実』にされちまうと、もう即死さ。
      俺がその時『俺はここに存在している』っつー『嘘』を
      吐いてなきゃ、抗いようなく消えちまうんだからよ。
      ……ま、実際はそうはなんねーけど」
 
(゚、゚トソン「確かに、そんな用途もある、と自慢されました」
 
( ・∀・)「ただ、だ。懸念事項があるとすれば」
 
(゚、゚トソン「なんですか?」
 
 
.

149 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:14:32 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 モララーが少し勿体ぶったので、すかさずトソンは訊いた。
 モララーも別に隠すつもりはなかったので、素直に答えた。
 
 彼がゼウスたちに宣戦布告しに行った際、彼は
 『俺はここにいない』という『嘘』を吐いて、存在を消して偵察をしていたのだ。
 アラマキやゼウス、ハインリッヒ。
 更に言えばヒートの戦いも見ていた。
 
 だからこそ感じた、懸念事項があった。
 
( ・∀・)「ジジイの能力は大したことねえんだけど、あいつは面倒臭そうだったな」
 
(゚、゚トソン「どなたですか?」
 
( ・∀・)「『英雄』だよ」
 
 
(    )「…」
 
 
 モララーが『英雄』という単語を言ったとき。
 どこか近いところで、その人は反応をした。
 
 モララーがそのことに気づくはずもなく、
 『英雄』について感じたことを告げていく。
 
( ・∀・)「話によれば、なにもかもから『優先』されるんだってな。
      ショボンが本気を出してなかったら、ひょっとすると
      『現実』に『優先』されて負けるんじゃねえかな、って」
 
(゚、゚トソン「ゆうせん……」
 
( ・∀・)「『英雄だから許される』とか言って、物理法則とか概念論まで無視し出すんだぜ。
      やってることはネーヨの旦那と全然変わってねえよ」
 
 
(    )「…」
 
 
(゚、゚トソン「それは面倒そうですね」
 
( ・∀・)「まあ、仮定だけど――」
 
 
.

150 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:16:04 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(゚、゚トソン「!」
 
( ・∀・)「!」
 
 モララーとトソンは、その異変に気がついた。
 いま、一瞬で、風景が変わった≠フだ。
 いや、変わっただけなら彼らは違った反応を見せただろう。
 実際は、変わったわけではない。
 
( ・∀・)「……おい」
 
(゚、゚トソン「なに」
 
( ・∀・)「あの看板、さっき通り過ぎたよな……?」
 
 モララーは、右手にあるドラッグストアを指さして言った。
 それは数十秒前、モララーとトソンが会話をしている最中に通り過ぎた店だった。
 その店が、いま右手の方に建っている。
 
 とてもチェーン店だとは思えない。
 ドラッグストア以外にも、コンビニや駐車場など、建物や風景が悉く一緒なのだ。
 
 つまり、これは変わった≠ニいうよりは
 戻った≠ニいう方が語弊は生まれないだろう。
 
 
 自分たちの立っている場所が、
 少し前の位置に戻されている=B
 
 
 明らかな『能力者』の匂いを感じ取ったモララーは、
 即座に『俺はここにいる』という『嘘』を吐いた。
 トソンも、やはり目つきが『拒絶』のものになった。
 
 途端に静かになった。
 事情を知らないビーグルの愛らしい鳴き声くらいしか、聞こえるものはなかった。
 
 少し経っただろうか。
 モララーのでもトソンのでもない声が、した。
 
 
.

151 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:17:02 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 
  「『英雄』は、どこ」
 
 
 
( ・∀・)「!」
 
(゚、゚トソン「…ッ」
 
( ・∀・)「『隠れんな、もう見つかってるぜ!』」
 
 
 モララーは、そう吠えた。
 『嘘』を『混ぜ』て、その声の主を見つけだすために。
 
 すると、モララーの言った通り、その姿は見えていた=B
 二人と十数メートルほどの距離を空け、立っている。
 
 その少女は、無垢な瞳でモララーを見つめていた。
 
 
 
 
(#゚;;-゚)「『英雄』は、どこ」
 
 
 
.

152 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:18:12 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「……」
 
(゚、゚トソン「なんですか、いきなり」
 
 ぼろぼろのセーターはサイズは大きいのか、少女の胴や腕をすっかり包み込んでいた。
 ショートパンツが少ししか見えず、そこからすらっと伸びる白い脚にも絆創膏や傷跡があった。
 右の足首の方は、包帯までもが巻かれている。
 
 栗色と黒の入り交じったショートヘアーがその白い肌と相俟ってよく栄えているが、
 顔には傷や絆創膏が多く残っており、二人に不気味な印象を持たせた。
 小さく枯れそうな声も、トソンが《拒絶能力》を
 発動していなければ、彼らに聞こえることはなかっただろう。
 
 それほど、ひ弱そうな少女だった。
 トソンの言葉を無視して、少女は続ける。
 
(#゚;;-゚)「わたしの『英雄』、どこ?」
 
(゚、゚トソン「……」
 
(#゚;;-゚)「ねえ」
 
( ・∀・)「答えてやるよ」
 
 トソンが押し黙ると、少女をじっと見つめていたモララーが口を開いた。
 少女は動じることなく、右拳を顎にちょこんと当て、再度訊いた。
 モララーの顔つきは、【無私の報せ】を倒した時と同じようなものになっていた。
 
 
.

153 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:20:31 ID:4Ozh1CRYO
 
 
(#゚;;-゚)「おしえて」
 
( ・∀・)「じゃあ、説明をしろ」
 
(#゚;;-゚)「へ?」
 
 
( ・∀・)「おまえ、今『時を巻き戻した』だろ」
 
(゚、゚トソン「……え?」
 
 少女ではなく、トソンが聞き返した。
 少女は、ぽかんとした表情のまま、首を傾げていた。
 モララーはなおも強い語調で続ける。
 
( ・∀・)「おまえ、『能力者』だな?
     その全貌を教えてくれたら、こっちも教えてやるよ」
 
(#゚;;-゚)「ぜんぼう?」
 
( ・∀・)「答えろ」
 
 小学生のようにも見える少女は、また首を傾げた。
 モララーはその姿を見て、舌打ちをした。
 少し少女の様子を見つめてから、モララーはきッと言った。
 
 
( ・∀・)「……ったく」
 
(#゚;;-゚)「おしえてくれる?」
 
( ・∀・)「しゃーねえから――」
 
 
 
 
( ・∀・)「死ね」
 
(# ;;- )「っ……!」
 
 
 
.

154 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:23:05 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 モララーは少女の後ろに立っていた=B
 【常識破り】を使ったのだが、少女は初めてそれを見るのだ。
 いきなり背後から現れたモララーに、少女は怯えた。
 
 だが、決して手加減はしないモララーだった。
 現れたと同時に、手刀を少女の腹に突き刺した。
 鮮血が噴き出し、地面のキャンバスに赤い色を塗った。
 
( ・∀・)「……ふん」
 
 大したことはなかった、そう思ってモララーは唾を吐き捨てた。
 地面にくずおれる少女に向けて、だ。
 不気味な少女ではあったが、やはり『拒絶』にとっては取るに足りない存在だ、と。
 
 
 
 だが。
 少女は、口を開いた。
 
 
       カ ッ ト
(# ;;- )「『撮りなおし』」
 
( ・∀・)「?」
 
 
(゚、゚;トソン「……モララー」
 
( ・∀・)「なんだ?」
 
 
 
.

155 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:24:38 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 
(;・∀・)「――って……ッ!?」
 
 
 少女が呟いた瞬間、トソンは驚愕した。
 少女の後ろにいたモララーは元いたようにトソンの隣にいて、
 鮮血を噴き出したはずの少女の腹には何も異変がない。
 
 そして、同じ『拒絶』だからなんとなく分かる。
 ――いまのモララーは、『俺はここにいる』という『嘘』を吐いてない。
 
 モララーもそのことに気づき、当惑した。
 滅多に取り乱さない二人だが、このときは動揺してしまった。
 
 すぐさまモララーは『嘘』を吐く。
 だが、胸の高鳴りはやまない。
 何が起こっているのか、把握できなかったのだ。
 
 少女は、モララーを見て、再び言った。
 
 
(#゚;;-゚)「『英雄』のばしょ、おしえて?」
 
( ・∀・)「……なんだコイツぁ……」
 
(#゚;;-゚)「わたし? わたしは、でぃだよ」
 
(゚、゚トソン「ディー?」
 
 
 少女は肯かず、自らの主張だけを続けた。
 
(#゚;;-゚)「わたしは、なのったよ。
    だから、『英雄』が、どこにいるか、おしえて?」
 
 
.

156 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:25:47 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 気味が悪くなってきたトソンは、モララーに代わって前に出た。
 『英雄』の場所を教えるためではない。
 
 
 《拒絶能力》を使って、彼女を殺すためである。
 
 
 
(゚、゚トソン「『一秒が、一btcmになります』」
 
( ・∀・)「! お、おい――」
 
 モララーが止めようとした直後、
 少女はトソンの拳によって心臓を貫かれた。
 
 文字通り、「一瞬」。
 一瞬のうちに、トソンは少女の前に移動した。、
 そして、非力そうなトソンが軽く少女の胸を
 つついただけで、その心臓の部分は吹き飛ばされた。
 
 あえなく倒れた少女を見て、トソンは呟いた。
 
 
(゚、゚トソン「『一グラムも、一アルファになりました』」
 
(゚、゚トソン「尤も、もう解除していますが」
 
( ・∀・)「急に本気出すなよ、びっくりすらぁ……」
 
 
.

157 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:26:45 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)
 
(゚、゚トソン
 
 
 
 モララーは、自分の手を見た。
 すると、またしても自分の『嘘』が打ち消されていることに気がついた。
 
 いや、打ち消されたのではない。
 これも、やはり戻っていた≠ニ言うべきなのだ。
 その根拠も、ある。
 
 なぜなら
 
 
(#゚;;-゚)「おねーちゃんも、ひどい」
 
(#゚;;-゚)「わたし、かえるね」
 
 
(゚、゚;トソン「―――ッ!?」
 
 
 少女は、何事もなかったかのように立っていたからだ。
 そして、モララーの『嘘』が解けたのを見ると、ある一つの仮定が浮かぶ。
 
 モララーが『嘘』を『混ぜる』前の時間に戻された≠ニ。
 
 
 
.

158 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:27:49 ID:4Ozh1CRYO
 
 
 少女が帰ろうとしたので、モララーは当然それを制する。
 能力を使って踵を返した少女の正面に立ち、胸倉を掴みあげた。
 泣きそうな顔をする少女を揺すって、訊いた。
 
( ・∀・)「おまえの、能力は、なんだ?」
 
(#゚;;-゚)「……ひ…」
 
( ・∀・)「答えろ――」
 
(#゚;;-゚)「『撮りなおし』……っ」
 
( ・∀・)「ちょ……――」
 
 
(;・∀・)「――ナァァ!?」
 
 
(#゚;;-゚)「おにぃちゃんも、こわい……ばいばい……っ」
 
(゚、゚トソン「待て――」
 
(;・∀・)「追うなっ!」
 
(゚、゚トソン「え?」
 
 トソンが再び少女に向かおうとすると、モララーが制した。
 予想外の一言だったので、トソンは驚いて足を止めた。
 不思議そうな顔をしてモララーを見つめると、
 モララーは少し深呼吸をしてから、口を開いた。
 
 
.

159 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:28:49 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「……『作者』っつーやつが言ってたんだけど」
 
(゚、゚トソン「はい」
 
( ・∀・)「まず『英雄』には、【大団円《フィナーレ》】っつーな
      言ったらショボンみたいなバックがいるんだよ」
 
(゚、゚トソン「【ご都合主義】みたいな……?」
 
( ・∀・)「それだけで面倒なんだが、『作者』曰く、
      更にバックがいるらしいんだよ。
      それが、俺が『英雄』を懸念する理由のひとつだ」
 
( ・∀・)「……どういう意味かっつーとだな……」
 
(゚、゚トソン「……?」
 
 
 モララーは、最後に一度、深呼吸をした。
 そして眼を見開いて、言った。
 
 
.

160 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/13(木) 14:30:59 ID:4Ozh1CRYO
 
 
( ・∀・)「アイツ……ひょっとすると、カゲキの娘かもしれないぞ」
 
(゚、゚;トソン「か――カゲキ!?」
 
( ・∀・)「おい、買い物は終了だ。
      ネーヨの旦那に会いにいくぞ。
      ……作戦会議だ」
 
(゚、゚;トソン「っ! ちょっと、まだ何も買ってな――」
 
( ・∀・)「喚くな!
      『俺らはバーボンハウスにいるんだ!』」
 
(゚、゚;トソン「あああ! モララーのばか!」
 
 
 エンドレス
 『夢幻』に繰り返された公園における時の流れは、
 いま、平穏を以て漸くいつも通りに戻ることができた。
 
 だが、モララーの胸中では、『嘘』のような不安が渦を巻いていた。
 『拒絶』すべき対象が、増えたのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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