- 281 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 13:55:44 ID:b3SRmyjoO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
.
- 282 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 13:57:03 ID:b3SRmyjoO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
( <●><●>)
从'ー'从
→戦闘終了
从 ゚∀从
( ^ω^)
→ワタナベ戦の外野
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
.
- 283 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:00:11 ID:b3SRmyjoO
-
第十七話「vs【常識破り】T」
午前中から営んでいるバーは、そう多くない。
やはり、客層のほぼ九割以上が午前中に訪れるのをよしとしていないのが、その理由に挙がる。
また、昼間から飲酒するのを快く思わない風潮もあるのだ。
昼間にこなすべき仕事と云う名の社会貢献をこなし、それで溜まった鬱憤を
晴らすべく午後に酒を求めにやってくる客の方が圧倒的に多い。
あとは眠るだけ。
そう云った事実が気兼ねなさと云うものを与える。
そんな時に呑む酒は、昼間の労働の疲れも相俟って一層うまくなるものだ。
しかし、ネーヨのように、呑みたい時に呑むという者も少なくはない。
酒とはあまり気分でない時に呑むものではない。
呑みたい、と思ったときに呑んではじめて、呑んだと云う充足感に満たされるものだ。
その衝動がたまたま昼間に訪れた。
ただ、それだけのことに過ぎなかった。
ネーヨが酒を呷って、喉を鳴らす。
食道を伝い、胃のなかにぼしゃんと酒が落ちる実感がする。
酒豪である故アルコールが回るのはまだまだ先だが、前述の通り
酒を呑んだと云う充足感だけで気分的に酔うことも可能であった。
バーボンハウス店内が静かでも、雰囲気を醸し出す照明にブルーのバックライト、幾何学模様をしたインテリア、そして物静かなバーテン。
そのバーテンが女性と云うのがしっくりこないが、淑やかで黙々とグラスを磨く姿はなかなか様になる。
目を瞑り、後頭部で縛った髪を揺らさず、さながら瞑想のようにグラスを磨く。
見る人が見れば、それだけで充分酒の肴になり得た。
.
- 284 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:01:42 ID:b3SRmyjoO
-
ネーヨの隣には、空席を一つ挟んでモララーが座っている。
いくら敵ではないと言っても、有する拒絶の精神が強すぎるため、モララーだろうと至近距離には居たくないのだ。
無礼などそっちのけで、本能を優先させた上で空席を設けた。
ネーヨがその程度の事を気にするような人でないことも知っている。
知っているからこそ、自我を優先させた。
おかげで心地が拒絶に浸食されることはない。
あとはうまい酒と何らかの上質な肴を以ていれば良いのだ。
だが、モララーはとてもそんな気分にはなれなかった。
手に握られることもない、白い液体が入ったグラスを見れば明らかだ。
それが汗を掻いているのを見れば、尚更である。
バーに酒を呑みに来て、牛乳を出されて満足そうな顔を浮かべる人がどこにいるだろうか。
まして、それに水が注がれていれば尚のことである。
学業を研鑽させてこなかった者ならば暴動に出て、
知識をふんだんに得ている者ならば告訴さえし得るだろう。
それほど、モララーにとってはその事実が悲しかった。
しかし今となってはもう騒ぎ立てるつもりはない。
罵声、暴言、中傷、悪口を闇雲に並べていっても、元凶であるトソンの前ではただの戯言、妄言のようになってしまう。
それをつい先ほど身をもって知ったモララーは、静かに、意味深長な視線を牛乳に与えるだけだったのだ。
一口飲んでみたが、一言で、且つ明確な言葉で表現するなら、「薄い」。
水で割って飲むものでないことは百も承知である。
まして、こんなところで飲むものでないことも自明の理だ。
その『常識』と牛乳が、モララーにこの上ない敗北感と虚無感を与えているのだろう。
トソンは、ただカウンターの向こうでほくそ笑んでいただけだった。
.
- 285 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:04:02 ID:b3SRmyjoO
-
モララーは新しい酒を頼もうにも目の前に牛乳が残っている限り、その注文ははねのけられるだろうと考えた。
実際、牛乳を無視して注文しても、同じようにトソンに無視されるだけだったのだから。
そのため、汗で濡れたグラスを掴み、意を決して一気に呷った。
ただでさえ水割りで薄い牛乳が、溶けた氷によって更に薄められている。
モララーは軽い嘔吐感と惨めさを得た。
ネーヨがニタニタと笑みながら「お」と冷やかすように声を漏らすと
モララーはグラスを、音を大げさに立ててカウンターに叩きつけた。
水溜まりに打ち付けたため、水飛沫がちいさく踊る。
それが跳ねてモララーの右手についたが、モララーは拭おうとはしない。
トソンに目で次なる注文を訴えてから、隣で嫌な笑みを浮かべているネーヨの方を向いた。
( ´ー`)「牛乳好きなんだな。今度奢ってやるよ」
( ・∀・)「そーじゃなくて」
無表情だったトソンが、つい噴き出した。
手を滑らせグラスを落としそうになったのを、咄嗟にスキルを使って阻止する。
今のスキルの適用で自分だけ周りより五秒長い時を過ごした=B
それにモララーもネーヨも気づかない。
もはや気に留める光景ですらないので、気づくこともできないのだ。
( ・∀・)「堂々と宣戦布告してから一夜……あいつらはどーなったと思う?」
( ´ー`)「ん?」
回転椅子を廻してネーヨと向かい合う。
ネーヨも頬杖をついてモララーの話を聞く体勢に入った。
トソンも耳がモララーの方に向いている。
.
- 286 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:05:35 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「あいつら。ショボンとワタナベだよ」
( ´ー`)「そういや帰ってきてねえな」
( ・∀・)「死ぬ筈はないにしても、もう何時間も経ってるぜ。さすがに合流はしてるだろうしな」
(゚、゚トソン「あなたが憂慮することでもないでしょう。はい、抹茶のハイボール」
( ・∀・)
モララーが気になっていたことを述べると、それにトソンが口を挟んだ。
客同士の会話に首を突っ込んだのは、自分もその会話をしている一員であると云う事実があるためと、
単純にモララーにグラスを渡すためである。
緑色をした液体が、どこか炭酸を帯びたのか泡を浮かべているように見える。
少なくとも、モララーの眼にはそうはっきりと映っていた。
目を閉じても焼き付き、開いてもそう映り、『俺の目は正常だ』と、
『嘘』――にならない嘘を吐いたが、光景は変わらなかった。
モララーは先ほどの牛乳の水割りの悪夢をもう忘れることができた。
口内に残っていたそれの風味もまるで『嘘』のように消え、
代わりに新たに植えられるであろう様々なマイナスの心地にモララーはげんなりとした。
ハイボールとは、酒を炭酸飲料水で割った、若者に人気の新しい酒である。
口当たりの良さと、いくらでも呑めるような爽やかさが売りだそうだ。
少なくとも、モララーの目の前のそれに、爽やかさなど感じられないが。
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- 287 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:07:02 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「大方、ショボンさんが手を抜いているところにワタナベさんが合流した。その逆も然り」
(゚、゚トソン「で、意地の悪い両者が揃ったものだから、たぶん相手をからかいにからかい抜いている最中だと思いますね」
( ´ー`)「そんなひでえ奴らだっけか、あの二人」
( ・∀・)「ぜってー今のおまえよりは素直だ」
(゚、゚トソン「? ナンノコトデショウ?」
( ・∀・)「……」
モララーはそのグラスがまた汗を掻く前にと、すぐに手に取った。
それでわかったのだが、このグラスはつい十秒前までは牛乳が入っていたグラスだ。
抹茶の苦みに炭酸飲料水、そして薄い牛乳がうっすらと混じった何か。
モララーはさすがに飲み倦ねていた。
ネーヨはその姿に一瞥を与えることはなかった。
モララーがその飲み物に悪戦苦闘する間、トソンの方を向くことにしたようだ。
ネーヨとしても、その飲み物をあまり好く思わなかったのだろうか。
それとも、男が悶え苦しむ様など、見たくないのだろうか。
とにかく、モララーの方は見ないことに決めた。
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- 288 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:08:27 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「もしだがよ、あの二人が負けてたらどうする?」
(゚、゚トソン「【ご都合主義】と【手のひら還し】が、ですか? まさか」
( ´ー`)「まさかたー言うが、実際二人に勝たれたら、宣戦布告はもう終いだぞ。それでもいいのかよ」
(゚、゚トソン「あの二人が負けるような人に、私が通じるとも思えないですし」
トソンは、自分を皮肉るように言った。
ある程度の自分の地位は自覚しているのだ。
自分がショボンやワタナベと張り合って、倒せると云う自信など全く沸いてこない。
( ´ー`)「それを言っちゃあおしまいよ」
( ・∀・)「トソンはともかく、俺や旦那ならわからないぜ。ってか、旦那が負けるはずもない」
(゚、゚トソン「どうでした? 抹茶のハイボール」
( ・∀・)「ゲロまずかった」
モララーは空の――内側に緑色が霞んで見える――グラスをトソンに押し返した。
「次はまともなもので」と釘を刺してから、無言で次なる注文をした。
モララーの口臭に些か違和感を感じる。
それをトソンが指摘すると、モララーは筋肉を強張らせた。
.
- 289 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:09:43 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「……ネーヨさんがねえ……」
トソンはシェイカーに何かを数種類注いで、蓋をしてはおもむろに振り始めた。
その姿を見ると、まさにバーのカウンターの向こうに立つ資格があると言える。
時々パフォーマンスも見せながら、トソンはそう呟いた。
ネーヨはいつも通りの表情を保つだけだった。
( ´ー`)「俺の戦いに勝つも負けるもねえよ」
( ・∀・)「どーだか」
(゚、゚トソン「……何人か倒してきたのですか?」
トソンがそう聞く頃に、シェイカーの音は止んだ。
グラスにパフォーマンスをしながら注ぐ。
する必要のないパフォーマンスを無意識のうちにしてしまうのは、もはやバーテンとしての悲しい性だろう。
きれいな色のカクテルを受け取ったモララーは、ひとまず匂いを嗅いだ。
そして『俺は腹を壊さない』と情けない『嘘』を吐き、四方八方から注がれた液体を眺める。
モララーがグラスを手に取り喉に液体を通したのは、それから三十秒ほど経ってからのことだ。
その間、ネーヨはトソンの素朴な疑問に答えていた。
やはり、何も――拒絶以外――感じさせない表情である。
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- 290 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:12:33 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「なんだっけな。あれから一匹はヤったけどよ」
(゚、゚トソン「ぴき…」
トソンは苦笑を浮かべる。
ネーヨは同じ顔で続けた。
( ´ー`)「ああ、そうだ。【逆転適応】とか云う、な」
( ´ー`)「全ての力から『逆転』る、とか言ってたわ。完全にトソンの天敵だな」
(゚、゚トソン「ム……」
そう言われ、トソンはムスッとした。
自分の力が他の『拒絶』に及ばないことは、自覚している。
また、その理由もきちんと把握している。
だが、いざその自分の未熟さを指摘されると、やはり面白くないと思ってしまう。
ネーヨは気まずく感じたのかはたまたただの気分か、トソンにも似たような質問をふっかけた。
モララーはやっとグラスに口をつけた。
( ´ー`)「そういうおめえはどうなんだ」
(゚、゚トソン「?」
( ´ー`)「何人かヤったのか?」
(゚、゚トソン「誤解を招くような言い方はよしてください」
( ・∀・)「うめえ」
(゚、゚トソン「……まあ、一人。ゲスをぺしゃんこにしましたね」
( ´ー`)「ぺしゃんこ……パスカルを『操作』したな?」
( ・∀・)「パイナポー!」
トソンはテレパシーのようなもので肯いた。
無言の肯定を受け取ったネーヨはそうか、と少し笑った。
トソンのような淑やかな女性が、あろうことかプレス機で相手を殺したからである。
.
- 291 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:14:46 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「やっぱトソンも満たされてえ気持ちはあんだな」
(゚、゚トソン「だから語弊が生じますって」
( ・∀・)「レモーン!」
(゚、゚トソン「モララー」
( ・∀・)「ごめん」
トソンがモララーを制すると、ネーヨは漸くモララーの方を見た。
その胸中では、こいつはなにをやっていたんだ、と呆れるような言葉を呟いていたことだろう。
モララーが陽気なのは知っているが、陽気と幼げなのは紙一重だ。
モララーが騒いでいたのを、近所の少年が呆けていたのと同じものであるかのようにネーヨは感じ取っていた。
モララーは名も知らないカクテルを口に含んだ。
何が入っているのかもわからないが、その色と味、酸味から、柑橘系の果物が入っているのだろうと思った。
内容を知ろうと思えば訊けたのだが、別に謎に包まれたままの方が趣深い。
また、なかにいかがわしいものを入れられているかもしれない、とも懸念していた。
モララーとしてはこちらの方が大きかっただろうか。
モララーの、中身が半分ほど残っているグラスが置かれたのを見て、ネーヨは口を開いた。
( ´ー`)「おめえはどうだったよ」
( ・∀・)「んん?」
( ´ー`)「誰かヤったか?」
( ・∀・)「俺?」
ネーヨの質問に、淡泊な言葉でしか返さない。
あまり興味のない話題なのだろうか。
若しくは、勿体ぶって話をより大きくしたいのだろうか。
どちらであろうと好ましく思えなかったトソンが、先に口を開いた。
.
- 292 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:17:50 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「一人、去なしたようです」
( ´ー`)「へえ」
( ・∀・)「あらま意外!……みたいな顔すんなよ」
指摘すると、ネーヨは笑った。
まさに図星で、ワタナベのように心を読んだのか、と。
( ´ー`)「だってよ、ある意味じゃワタナベよりも好戦的じゃねえか、おめえは。
だから、逆に少ねえことが意外だったんだよ」
( ・∀・)「そう?」
モララーは、宣戦布告役を自ら買って出たのを見ればわかるように、実に好戦的だ。
有するスキルも戦闘においては強力だし、モララー自身戦闘力は高い。
素手でもパワーアップしたハインリッヒ相手になら勝つ自信がある。
ゼウスには劣るが、それもスキルを使えば楽だ、と。
そんなモララーが、『能力者』を狩ることもなく
こんなところで油を売っているのがネーヨにとっては意外だったのだ。
モララーにとってはそうでもなかった。
といっても、ただの気まぐれにすぎなかったのだが。
(゚、゚トソン「我先にと飛び出しそうな感じでしたのに」
( ・∀・)「そう?」
トソンはちいさく肯く。
ネーヨも合わせて「ああ」と声を漏らした。
モララーは少し照れ臭くなり、困ったような顔をして頭を掻いた。
.
- 293 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:18:51 ID:b3SRmyjoO
-
ここまでならただの和やかな――内容はさて置いて――談話にすぎなかった。
だが、何を面白がったのか、トソンは
(゚、゚トソン「あ。もしかして」
( ・∀・)「んん?」
わざとらしくそれだけ言って、モララーの興味をあおる。
注意を引きつけて、モララーがこちらの話を聞こうとしたのを確認して、左の口角を吊り上げる。
(゚、゚トソン「実は『能力者』が怖いんですか?」
( ・∀・)
そして、露骨にモララーを挑発した。
( ・∀・)
( ・∀・)「ハア?」
( ・∀・)「いやいや、ちょ」
トソンに弱いモララーは、首を俯けて横に振り、右手を前に突き出して同じく左右に振る。
いい反論するための言葉が浮かばないのか、少しそこで言い倦ねていた。
少しして、呆れたような顔をしてトソンを見上げる。
トソンは意地の悪い嫌な笑みを浮かべ、モララーを見下すように見ていた。
.
- 294 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:20:29 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「図星なのね」
( ・∀・)「おいおい、そりゃーないぜ」
( ・∀・)「俺だぜ? 一応スキルかて持ってんだ」
モララーが言っているスキルとは、言うまでもなく【常識破り】。
『拒絶』との全面戦争を宣戦布告に行った際に披露してみせたもので、
ゼウスたちは未知の力に腰を抜かしたことだろう、それほどのものだ。
『嘘』を『混ぜる』。
下手に使えばショボンの【ご都合主義】以上の凶悪さ、残虐さをも生み出してしまう。
そんなスキルを持っているのに、なぜ挑発されるのかがわからなかった。
さすがに、同胞相手に本気で殺しにかかる――
なんてことはなかったが、だとしても少し気分が悪かった。
自尊心を愚弄されるような心地になった。
それを、顔を見て察せないのか、トソンはそれを続けた。
(゚、゚トソン「ああ……確かに強いですね、そのスキルは=v
( ・∀・)
(゚、゚トソン「でも、結局それ頼みなんでしょ?」
( ・∀・)
( ・∀・)
.
- 295 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:22:21 ID:b3SRmyjoO
-
そこで、モララーは気づいた。
「ああ、まだコイツ怒ってるな」と。
そこで、モララーはなぜこれほど彼女が機嫌を損ねているのか考えてみた。
買い物の邪魔をしたからか、いやトソン自身のスキルを使えば一瞬で買い物を終えられる。
その旨を自分に告げてくれれば、『嘘』を暴いてやらないこともない。
ネーヨは例のセーターの少女にはあれ以上言及しない以上、ここにいてもすることはないのだから。
ならば、そのセーターの少女のせいか。
どのようなスキル――能力かはわからないが、とにかくネーヨが
不自然な仕草を見せるほどには強力であることはわかっている。
モララーが本気を出さなければ――『相手が死んでいる』と云う『嘘』でも吐けば――到底相手にできないものだ。
そんな強力な、『拒絶』でもない『能力者』と出会してしまったことに対して
己の未熟さを知り、不機嫌になっているのだろうか。
だが、そうだとも、思わなかった。
なんにせよ、謎は謎として霧は残るかもしれないが、根に持つほどではない筈である。
それはモララーの感性にすぎないのだが、トソンもその程度で取り乱すほど気が短いとは思えない。
――と、そこまで考えて、原因がわかった気がした。
モララーは「あ」と言って、手を叩いた。
( ・∀・)「犬」
(゚、゚トソン「!」
.
- 296 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:24:13 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「イヌコロ置いて無理やりここに連れてこらされたのがそんなに嫌だったのか?」
(゚、゚トソン「え、いやそういうわけでは……」
トソンが少し動揺し、語尾を揺らす。
モララーはそうに違いないと確信した。
( ・∀・)「じゃあ許してくれよ」
( ・∀・)「『イヌコロは本当はここにいるんだから』」
(゚、゚トソン「っ!」
【常識破り】。
空間を歪めて、例のビーグルを呼び寄せた。
▼・ェ・▼「あんっ!」
(゚、゚*トソン「!」
トソンはいつの間にかカウンターの上に載っているビーグルを見て、思わず頬を綻ばせた。
ネーヨがトソンの豹変りように思わず微笑をこぼしていると、
トソンは我を忘れて両手を前に伸ばし、ビーグルに自分の胸に飛び込むように促した。
言われるまでもなく、と言わんばかりにビーグルは飛びつき、トソンの胸に抱かれた。
モララーは始終にやにやしていた。
トソンが柄にもなくでれっとした表情でビーグルを撫でているのだ。
日頃冷たい仮面をかぶり、モララーに罵声を浴びせるトソンとは
別人のようで、日頃の悔しさも助長してモララーはかなり笑った。
その笑い声に気づいたのはそれから五秒後のことで、
ネーヨも顎に手を当てトソンをじっくり観察していたときだ。
トソンは顔から耳まですっかり真っ赤にさせて、少し俯いた。
そしてビーグルを胸に抱いたまま、元のように冷たい――けど半透明な――仮面をかぶった。
.
- 297 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:26:04 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「飲食店に店主の許可なく動物を連れ込むなど、言語道断です」
( ;∀;)「ぎゃっはは……」
( ・∀・)「……え?」
(゚、゚*トソン「この子――いや犬は、あとで私の方から餌――処分しておきますから、
あなたは罰として店から出ていってください」
( ・∀・)
説得力など、皆無。
しかし、この場における権力者はトソンだ。
いくらビーグルを愛でているとはいえ、モララーを苛めるのが好きなトソンだ。
モララーは呆気にとられた。
( ´ー`)「ちょうどいいや、いっそゼウスん家行ってこいよ。
アニジャはいねえからこの際暴れてもいいぞ」
( ・∀・)「え、いや俺まだ酒呑んでな」
(゚、゚*トソン「マスター命令です、いってらっしゃ……くすぐったい!」
( ・∀・)
そう言いきる前に、ビーグルがトソンの頬を舐めた。
そこでトソンは再びビーグルとのじゃれ合いを始めた。
こうなるとこちらの声など届かないのだろう、モララーはそう思って溜息を吐いた。
いくらマスターといえど強制力はない。
モララーは気に留めずここに居座っていてもいいのだ。
だが、そうしなかったのにはわけがある。
ネーヨの提案に、少しピンときたのだ。
そうだ、と一理は思ったのだろう。
だが、仮に行くとしても酒を呑んでからだ。
そうしようとしたら
( ・∀・)「とりあえず呑――む?」
.
- 298 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:27:43 ID:b3SRmyjoO
-
手を伸ばした瞬間、そこのグラスは消えた。
モララーがはッとして前を見ると、ビーグルを片腕で抱いて、右手にグラスを持ち口に向けて傾けるトソンがいた。
その色は、まさしく数秒前までモララーの目の前にあったカクテルと一致する。
「しまった!」とモララーは落胆した。
( ´ー`)「飲みさしでいいのか」
(゚、゚トソン「残飯処理で食費を浮かすのです」
( ・∀・)「あああああああ俺の酒がああああああ」
トソンは次は時間を『操作』し、モララーが瞬きをしている間に悠長にカウンターを回って
客席側から――つまりモララーの後ろから――モララーのグラスをとって
またカウンターの向こうに引き返して、と云う一連の行動をしていた。
モララーのスキル以上に日常生活に役に立つそれは、なかなかトソンの私生活に貢献していた。
『拒絶の精神』がそのようなものに利用されていいのか――
ネーヨは、そんなことを考えたりもしてみた。
自分は無駄なことでは、いやそもそも滅多なことではスキルを使用しないのだ。
(゚、゚トソン「さあ、行くのですモララー」
( ´ー`)「あいつら呑気にしてたら戻ってくるよう言っといてくれよ」
( ・∀・)「あいつらって……まさかショボンとワタナベ?」
( ´ー`)「まさかゼウスを連れてこい、と?」
( ・∀・)「いや……いやわかってたけどさ……。やだよ俺、あいつらと酒呑むの……」
.
- 299 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:29:36 ID:b3SRmyjoO
-
モララーが煙たがられるのはその《拒絶能力》のせいだが、
ショボンとワタナベは、その面倒臭い性格が煙たがられる原因となっているのだ。
ショボンの場合は面倒な言い回し、嫌な笑い。
ワタナベの場合は文字通り手のひらを返す様。
酒を呑む場において、これほど席を隣にしたくない人はいないだろう。
まして、二人ともアルコールが回ると一層性格が面倒なものになるのだ。
そう云ったニュアンスで言うと、二人は微笑を浮かべた。
( ´ー`)「俺だって嫌だ」
(゚、゚トソン「私だって嫌です」
( ・∀・)
モララーは、少なくともトソンをからかうのはやめよう、と決心した。
( ´ー`)「じゃ、行っ」
( ・∀・)「わーったよ行ってくるよ!」
( ・∀・)「『俺はゼウスん家の近くの森にいるんだからな!』」
そう言うと、モララーは先ほどまでそこにいたのが『嘘』のように、跡形もなく消えてしまった。
半ばやけくそだったようで、似合わない捨て台詞を吐いて。
( ´ー`)「あ、行っちまった」
.
- 300 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:31:49 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「今頃どうしてますかね、彼ら」
( ´ー`)「ショボンとワタナベのタッグは嫌なもんがあるな。……性格的な意味でよ」
ネーヨが言うと、トソンはふと彼らの会話が容易に推測された。
倒れている向こう側の人の頭でも踏みつけたりして、会話してそうだ。
ワタナベは、くるくる回りながら言っているのだろう。
ショボンはやはり両掌を肩の高さにあげ、やれやれとでも言っているのだろう。
(´・ω・`)『僕は肺を破裂させたいんだけど。それか、脳の体積を十倍に』
从'ー'从『うわ、趣味ワッル〜。毛細血管を枝の分かれ目からちぎるほうがよくない〜?』
(´・ω・`)『きみこそ酷い趣味だね、反吐が出る。それなら肺の大きさを十分の一に……』
从'ー'从『とりあえず達磨にしね?』
(´・ω・`)『同意だ』
――考えると、トソンは思わず噴き出した。
こんな内容で笑えるトソンを見ると、やはり彼女も拒絶の精神を持っているのだなとわかる。
ネーヨも同じようなことを考えていたのか、若しくはほかのことか。
とりあえずトソンに合わせて微笑を浮かべ、それを隠すようにビールを呷った。
( ´ー`)「まあモララーは普段は冷静だから、二人をまとめれるだろうよ。いい『拒絶』持ってるし」
(゚、゚トソン「……それも、そうですね……」
( ´ー`)「…?」
.
- 301 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:33:01 ID:b3SRmyjoO
-
ネーヨは、急にトソンの顔から覇気が見られなくなったことに気がついた。
なぜか、しょんぼりとして、眉も下がっているように見える。
心なしか、ビーグルの耳も垂れたように見えた。
なにか彼女の気に障ったことでも言っただろうか。
そう思って話を聞こうとすると、先にトソンが口を開いた。
(゚、゚トソン「……ネーヨさん」
( ´ー`)「おう」
トソンは少し俯いた。
顔に影ができて、目元が暗くなる。
( 、 トソン「やはり……」
( 、 トソン「私が『拒絶』になるのは、向いてなかったのでしょうか……」
( ´ー`)「……」
突然の言葉に、ネーヨは黙りとした。
頬杖をついて、ビールを呷る。
トソンは尚も続けた。
ネーヨのこれは、言わば話を聞こうではないかと云う一つの合図なのだ。
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- 302 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:34:41 ID:b3SRmyjoO
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( 、 トソン「ショボンさんは【ご都合主義】」
( 、 トソン「ワタナベさんは【手のひら還し】」
( 、 トソン「モララーは【常識破り】」
(゚、゚トソン「……皆、『拒絶』らしいスキルですね。
有する『拒絶の精神』もすばらしいものだし」
( ´ー`)「そら……純粋な『拒絶』≠セからな」
(゚、゚トソン「そう……。つまり私は濁ってる」
(゚、゚トソン「だからスキルも見劣りするものだし、メンタル面もかなり劣ってる。
自我を保つ面でも、拒絶の面でも」
( ´ー`)「……」
ネーヨは少し黙った。
それでもトソンは言葉を紡ぎ続ける。
(゚、゚トソン「私、怖いのです」
(゚、゚トソン「周りを『拒絶』しないと自我を保てない自分が」
(゚、゚トソン「なのに、濁った『拒絶』で、スキルも微妙で」
( 、 トソン「……なんのために、『拒絶』になったのか」
( ´ー`)「……」
ネーヨは、なぜトソンがこんなことを急に言い出したのか、わかったような気がした。
黙って聞き流すように耳を傾けていたが、ネーヨは開くつもりのなかった口を開くことにした。
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- 303 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:36:06 ID:b3SRmyjoO
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( ´ー`)「トソン。少なくとも、おめえは今となっては立派な『拒絶』だ」
(゚、゚トソン「でも」
( ´ー`)「『拒絶』に囲まれても平気なツラできる一般人なんて、いやしねえよ」
( ´ー`)「それに、おめえのスキル……、…………だっけか?」
記憶が曖昧なのか、声はちいさくなる。
トソンは自分のスキルと言われただけで、名前を言われずともなにを言いたいのかを察した。
( ´ー`)「あれは《拒絶能力》でなくて、でも同時に《拒絶能力》なんだからよ」
(゚、゚トソン「……」
( ´ー`)「……」
静かになり、ビーグルの揺れる尻尾の音しか聞こえない。
トソンがなにも言う気を起こさなくなったので、ネーヨは閑話休題、とした。
あまり湿っぽい話は好きではないのだ。
せっかくの酒も、内容が内容だと一気にアルコールが飛んだような味になってしまう。
ただでさえ冷めてしまいそうな状態なのに、それでは二重の意味でまずい。
残り少ないビールを、最後まで味わいたいと思っていた。
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- 304 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:37:13 ID:b3SRmyjoO
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( ´ー`)「……ま、深く考えんな。俺は昔話は嫌えなんだ」
(゚、゚トソン「すみません」
( ´ー`)「俺も詳しくは事情は聞かねえ。だからなんとも言えねえが……」
(゚、゚トソン「いいんですそれで。ありがとうございます」
そう言うとすっかり吹っ切れたのか、元のように目を閉じてグラスを磨き始めた。
ネーヨが言おうとしたことを、聞くまでもなく理解する。
その、話を聞いて真剣な答えを返してくれた、と云うだけでトソンはある意味満足なのだ。
ネーヨも女性の感性や話の分からない男ではない。
黙って、元の体勢に戻る。
そして、ネーヨの好きな静かな空気になる。
余ったビールを片手に、頬杖をついたままネーヨはあることを考えていた。
トソンに初めて出会った日のことを、思い浮かべて。
( ´ー`)「(……封印の解かれた神話≠ネんて、漫画の世界だけだと思ってたんだがなあ)」
( ´ー`)「(ワルキューレ≠ネんて、よ)」
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- 305 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:38:59 ID:b3SRmyjoO
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◆
時は少し前に遡る。
あらゆる『因果』を『反転』させてきたワタナベは、生死は不明にせよ、とにかく倒した=B
つまり、それは『拒絶』を受け入れず拒絶した――と云うこと。
ショボンに続いてワタナベ、と二連戦であり、三人とも大きな傷をそれぞれ負ったが、とにかく存命だ。
それがどれだけ大きなことで、どれだけ彼らや内藤に希望をもたらすものか。
少なくとも「絶対に勝てない」と云うわけではないことだけは、彼らもわかったことだろう。
それは自信につながり、希望につながり、未来につながる。
自分たちが生きていて、『拒絶』を全てはねのける、という将来につながる。
だから、内藤も当初ほどは焦ってはいなかった。
【ご都合主義】によってハインリッヒが悲惨な目に遭わされた時は
どうしたものかと常に死を覚悟していたのが、今ではこうだ。
すっかり、戦争後は平和ボケすると云うジンクスに踊らされているわけだ。
内藤は屋敷で嫌な汗がべっとりついた躯を洗った。
服は多種多様なものが揃っているようで、内藤はとりあえず白のティーシャツとジーパンを失敬した。
コートは着なくてもいいだろうと思い、濡れてもいるわけだからメイドに洗濯を委せる。
この薄いティーシャツからだと自分の情けない肉つきが露わになってしまうが、致し方ない。
そう割り切って、今日一日はこの服装でいようと思った。
ややサイズが大きかったことに関してはもはやなにも言うまい、と。
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- 306 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:40:10 ID:b3SRmyjoO
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从 ゚∀从「どこに行くんだ?」
( ^ω^)「お……」
メイドに案内してもらって、屋敷から出ようとした。
そこを、やはり風呂上がりのハインリッヒに呼び止められた。
髪がやや湿っているのが色っぽいが、まだ子供のような容姿のハインリッヒに惹かれることもない。
首から提げたタオルが、彼女に子供らしさを更に与える。
純粋な疑問だけを持った瞳で、内藤はハインリッヒを見た。
( ^ω^)「この世界だけど、やっぱり僕が元いた世界と似通った部分ばっかだお。
探索もかねて、ちょっと羽を伸ばしてくるつもりだお」
从 ゚∀从「羽って……まだ『拒絶』は全滅してねえぞ」
( ^ω^)「それもそうだけど……」
内藤はハインリッヒの疲労を知らない。
純粋に、格闘や技の被弾で得た肉体的疲労。
ショボンやワタナベに植え付けられた拒絶、精神的疲労。
まして、【正義の執行】における『英雄の優先』を封じられたことによる気疲れも生じる。
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- 307 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:41:29 ID:b3SRmyjoO
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そんなハインリッヒの疲労は確かに知らない、のだが、
内藤は内藤で、精神的疲労はひどいものだったのだ。
迷いこんでしまったパラレルワールド。
絶え間なく襲いかかってくる規格外な強さしか持たない敵、敵、また敵。
死がそこらの石ころのようにすら思える、狂ったとしか思えない『能力者』や『拒絶』の戦闘。
アンバランスな能力同士の衝突によって要求される、理不尽な解説。
『作者』にとって言わせれば、登場人物なんかの数倍は気疲れを背負っている、と言いたかった。
言わば、現場監督なのだ。店長なのだ。リーダーなのだ。
全ての責任を背負った、重大な立場なのだ。
ハインリッヒたちの疲労の何割かは肩代わりしている、そんな気さえしていた。
だから、ハインリッヒは無事でも内藤は少し安息が欲しかった。
ゼウスの屋敷であったりと変わった部分はあれど、ベースは内藤が元いた世界の筈だ。
すると、飲食店も元のままだろう、そう思うと少しそちらの方へ寄ってみたくなった。
金は、もし通貨が同じならばポケットに入っていた額で何とかなるだろう。
足りなくても、ゼウスに何とか言えばあわよくば工面してくれるかもしれない。
あのゼウスがそんな粋な計らいを――とは思うが。
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- 308 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:42:44 ID:b3SRmyjoO
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ゼウスは、ワタナベを担いで救護室に向かったまま、帰ってきていない。
まだ救護室にいるのかもしれないし、どこか別の部屋にいるのかもしれない。
ゼウスの部屋に勝手に居座っていても、勝手に物を触らない限りは
咎められないだろうと思った上で、内藤たちはそこにいた。
ほかに使うべき部屋は浮かばないのだ。
初日に寝た部屋などがあるが、メイドはその部屋は今日はない、と言っていた。
内藤はそのとき、訳が分からなかった。
( ^ω^)「なんならじーさんも来るかお? いい酒教えるお」
/ ,' 3「酒かの? おぬしの数百倍は博識じゃぞ」
(*^ω^)「そうかお? じゃあ――」
/ ,' 3「昼に酒を呑もうなんておぬしよりは、の」
( ^ω^)「行ってきますお」
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- 309 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:44:16 ID:b3SRmyjoO
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内藤はメイドに先導を委せ、部屋から出ていった。
内藤にいくあてがあるのかと言われては、どう答えるかに悩まされる。
と云うのも、「現実世界では」酒屋だった店なのだ。
もしそこがパラレルワールドの所為で他の店に変わっていれば、すぐさま流浪の旅に変わる。
深くは考えず、あくまでも羽を伸ばす気構えだった。
メイドが次々と道なき道を進んでいく。
やはり、毎日屋敷の構造は変わっているようだ。
変わってないのは各部屋の内装だけで、通路などは日替わりとなっている。
当初からずっと抱いていたその疑問だが、以降この屋敷に
住まわせてもらうためにも、その疑問だけは晴らしておきたかった。
からくりがわからなければ、おちおち外出するのでさえ難しくなる。
その旨を告げると、メイドは気むずかしい――実際は蝋で固められたような――顔をした。
爪゚ー゚)「ゼウス様よりお尋ねください」
( ^ω^)「お……どうしてもだめかお?」
爪゚ー゚)「承りかねます」
そう言って、メイドは閉口した。
どうやら本当に話すつもりがないらしい。
メイドだけあって、雇い主のゼウスの言いつけは絶対なのだろう。
それも仕方ない、と思った。
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- 310 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:45:41 ID:b3SRmyjoO
-
( ^ω^)「……」
歩いていって、蝋燭が並ぶ廊下になった。
この三本目の火を消して台を引っ張ることが、次の通路へと向かうための方法となる。
メイドが迷いもせずそうすると、隠し扉のようなものが下から上に上がるように開かれた。
潜るように二人は進む。
内藤は終始無言になっていた。
メイドと話をしていると、あることが気になったのだ。
しかしなぜか記憶が曖昧なのだ=B
( ^ω^)「(顔も声も一緒……。やっぱり、初日のメイドと同一人物だおね?)」
( ^ω^)「(でも……なにかがひっかかるお)」
次の通路の、入ってから二つ目にある花瓶を台から取り、四つ目の台に載せる。
そうすると、先ほどまで花瓶が載っていた台から音が鳴った。
そこから奥に進むような構造なのだろう。
( ^ω^)「(……そもそも)」
( ^ω^)「(この屋敷には、このメイド一人しかいないのかお?)」
内藤が、疑問の核心に迫りそうになった時に、メイドに呼ばれ、なかに入るよう促された。
それまで進めていた推理が一瞬のうちにあぶくになった。
内藤はなにを考えていたのかすら忘れ≠ト、言われるがまま進んでいった。
外の世界とこことを繋ぐ大きな扉が前方に見えた。
あと少しなのだ。
そう思うと、先ほどまでの疑問は芽はおろか根から消えてしまった。
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- 311 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:47:13 ID:b3SRmyjoO
-
( ^ω^)「ありがとうだお」
爪゚ー゚)「礼には及びません」
メイドが軽く会釈をする。
内藤は帰ろうとするメイドを慌てて制した。
まさか呼ばれるとは思っていなかったのか、メイドがワンテンポ遅れて振り返る。
しかし表情はいっさい変わっていない。
( ^ω^)「毎度毎度こうやって案内してもらうのもなんだか悪いお。
ゼウスに何とか言って、僕たちだけで外に出られるようにしてほしいお」
爪゚ー゚)「問題ありません」
( ^ω^)「お?」
内藤が、無理だろうと半ば諦めていた提案をすると、
メイドがどうってことはないと言いたげな口振りでそう返したため、内藤は虚を衝かれたような顔をした。
爪゚ー゚)「ご自身の感性に従って進んでいただければ、迷うことはありません」
( ^ω^)「は?」
勘でからくりを解いて進んでいけば罠にも引っかからず、安全に進める、とメイドは言った。
内藤がそれにまさかと思うのも全く不自然ではなかった。
こんなに入り組んだ屋敷を、初見の者がどう迷わずに進めるというのだ。
内藤がそんな目をすると、メイドは補足をいれた。
爪゚ー゚)「私が先導せずとも『マザー』が導いてくださいます」
(;^ω^)「ま……?」
爪゚ー゚)「では私はこれで」
(;^ω^)「あ、ちょ……」
内藤がもう少し話を聞きたいと思い呼び止めようとするが、今度はメイドは振り向かなかった。
なにか裏があるのだろうか。
それとも、それもゼウスから箝口令でも敷かれているのだろうか。
.
- 312 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:49:20 ID:b3SRmyjoO
-
――ここでゼウスと云う単語を出すと、内藤は「あ」と呟いた。
( ^ω^)「……そういや、アイツも『マザー』なんて言ってたお」
◆
救護室の碧色の液体に浸かれば、ゼウスならば∴齒uで治癒が終わる。
それも、本人の性質ではなく、この液体の性質で、だ。
ゼウスは自分の完治を実感したのち、寝かしておいたぼろぼろの女性を担ぐ。
躯、特に下半身のあった部分を半壊させた、ワタナベを。
これが、あのワタナベなのか。
【ご都合主義】をも圧倒すると云う【手のひら還し】なのか。
にわかには信じられないが、傷ついてない顔を見ると彼女がワタナベだ、とわかる。
その顔には、涙が流れた跡がくっきりと残っている。
どう考えても苦しい筈なのに、どこか安らいだ顔をしている。
ゼウスは彼女を見て少し思い詰めてから、浴槽にかけられた
梯子を上り、紐でワタナベの手足を繋いで液体に浸からせた。
静かに音を立てて沈んでいく姿は、ホルマリンに漬けられる死体を彷彿とさせる。
その姿を浴槽の正面から見上げて、ゼウスは思考に耽った。
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- 313 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:50:38 ID:b3SRmyjoO
-
( <●><●>)「……」
最初はわからなかった。
全てが全て豹変っていて、しかも初見の時に対面したのはほんの数十秒ほど。
だが、彼女の泣き顔を見れば、すぐに記憶が発掘された。
ゼウスは何度もその記憶を推敲し、真偽を問うたが、間違いはなかった。
そう思い、内藤の言葉を利用してうまく言いくるめ、彼女を治癒させる理由をつけた。
これが正義なのか悪なのか、ゼウス本人にはわからない。
だから、訊くのであった。
( <●><●>)「……これは、これで正しかったのだろうか」
静寂に投げかけた言葉に、返事はない。
ただ、ワタナベの呼吸によって生じる気泡のみが、音を鳴らす。
だが、この言葉は「その人」に届いている、と信じて、言葉を続ける。
( <●><●>)「これは、私がとうの昔に捨てた筈の、良心なのだろうか。慈悲なのだろうか」
( <●><●>)「自分のなかでは、彼女に恩を売ることでいつか【手のひら還し】を利用する――
と云う言い訳めいた動機に基づくものなのだ、と言い聞かせている」
( <●><●>)「だが……実のところは誰にもわからないだろうな」
( <●><●>)「………お前以外は……」
そう言って、ゼウスは救護室を去った。
.
- 314 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:51:56 ID:b3SRmyjoO
-
◆
森の中は、見たこともないような小動物から繁った植物、
弱肉強食の世界で朽ちていった者、と様々な物が広がってできていた。
ワタナベの暴走により一時は避難した彼らも、危険が去ったのを
動物的本能によって知り得たようで、徐々に戻ってきつつあった。
そこで漂っている空気は、束の間の平和、平穏、穏便。
無力な動物たちが住むのに心地よい空間となっていた。
ゼウスの屋敷からは危険な香りはなぜか漂ってこない。
だから、こうやってゼウスが発する『恐怖』に怯えることなくうのうと暮らすことができるのだ。
そこには、危険な要素は存在していない。
していないから、小動物は急に逃げたりなどしないのだ。
だが。
小動物は、急に再びその場から逃げ出した。
理屈や論拠なんて必要のない、本能が鳴らした警笛によってで、だ。
ミミズから鷲まで、その種類は実にさまざま。
なぜ彼らが逃げ出したのだろうか。
答えは、すぐそこにあった。
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- 315 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:53:08 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)
音も気配も発さずに、モララーが現れたのだ。
うん、と背伸びをして、首筋の関節を鳴らす。
周囲の景色を一通り目に焼き付けてから、ここがどこかを把握した。
北の方向に、屋敷のようなものが見える。
つまり、ここはゼウスの屋敷の南に位置する森だ。
そうとわかれば、森から抜け出して玄関に向かえばいい。
モララーはやけに辺りが静かなのを感じて、少し不思議に思った。
ショボンやワタナベが暴れていれば、嫌でも音は轟くのに。
尤も、もしかすると入れ違ったのだろうか、不思議なものだ、程度にしか思わなかったようだが。
とにかく、モララーは森から抜けた。
( ・∀・)「……そうでもなかった」
抜け、玄関前の広場のようになっている空間を見て、モララーはそう呟いた。
地が割れ、血痕があちこちに残り、大きな穴も空いていて、白骨のようなものもある。
巨大な岩が砕けたようなものもあり、一帯が――今は乾いているが――濡れていたような形跡もある。
とても自然的に発生したとは思えないものがそこら中に
転がっていたため、一戦交えたあとだな、としか思えなかった。
とすると、彼らは存分に暴れ回った後なのだろう。
モララーはちいさく溜息を吐いた。
.
- 316 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:54:07 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「派手にやってくれてよ。これじゃあ俺の楽しみがないじゃねーか」
玄関に向かう際、傍らにあった白骨を蹴り飛ばして、ぼやく。
我先にと飛び出さなかったのが悪かっただけなのだが、これでは呆気ない。
ショボンにはなにを奢ってもらおう、そんな楽観的なことを考えつつも、モララーは屋敷の扉に手をかけた。
扉を開こうとするが、なぜか異様に固く、開こうとしなかった。
モララーは「ん?」と、疑問符を浮かべてみせた。
鍵がかかっているだけなのならばいいのだが。
そう思って、モララーは『実は鍵が開いている』という『嘘』を吐いた。
しかし。
(;・∀・)「んん?」
門は開かなかった。
馬鹿な、確かに『嘘』を『混ぜ』たのに。
モララーは、そう思うと、少し焦りを見せた。
.
- 317 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:54:57 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「はぁー。こんな事もあるんだな」
が、焦りを見せたのはほんの一瞬だ。
世の中には、ネーヨのような理不尽なスキルまで出回っている。
自分のスキルが通じない日くらいあるのだろう、そう割り切ったのだ。
そして、「押してだめなら引いてみな」の理論を思い出して、モララーはにんまりと笑んだ。
向こうが出迎えてくれないならば、こちらが出迎えればいいのだ。
ショボンたちがもうハインリッヒたちを葬っていれば、吐いてもなにも変わらない『嘘』。
それを、まるで毎日の朝にコーヒーを呑むかのように吐いてみせた。
( ・∀・)「しゃーねーな」
( ・∀・)「『オラ、出てこいよ三人。隠れてたって無駄だ、俺はもう見破った!』」
.
- 318 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:55:59 ID:b3SRmyjoO
-
――モララーがそのようにスキルを発動した途端、モララーは驚愕した。
それそのものが『嘘』ではないのか、と自身を疑ったほどだった。
それがなぜかは、言うまでもないだろう。
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
(;・∀・)「!?」
.
- 319 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:57:01 ID:b3SRmyjoO
-
ショボンとワタナベに襲われた筈なのに、三人とも存命だったから≠セ。
アラマキ、ハインリッヒ、ゼウス。
彼らは、一体自分たちの身になにが起こったのか理解できず、一瞬たじろいだ。
素っ頓狂な声を発し、互いに互いの顔を見合わせる。
一方のモララーは、驚きはしたが、すぐに平生を取り戻した。
いくら『現実』が信じられないものだからといって、それを否定するほど、モララーは自分に甘くはないのだ。
だから、この『現実』を甘んじて受け入れた上で、腰に手を当て不敵に笑むことにした。
戸惑う彼らに、鶴の一声を浴びせる。
三人がモララーの方を向いたとき、モララーは、やはり『拒絶』らしい笑みを浮かべていた。
見ているだけで全てを拒否したくなるような、嫌な笑みを。
( ・∀・)「よぉ〜〜う、おまえたち。一日ぶりだな」
从;゚∀从「てッてめえは――ッ!!」
( ・∀・)「おっ、覚えといてくれてた? 嬉しいぜ」
指を震わせながら突きつけるハインリッヒに一瞥を与え、モララーは更に口角を吊り上げた。
そして三人を視野に収め、口を開く。
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- 320 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/27(木) 14:57:57 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「そうさ、俺は『拒絶』イチのイキでクールなナイスガイ。人呼んで、モララー=ラビッシュ」
( ・∀・)「歴史に刻まれる名だ。よぉ〜〜く覚えといてくれよな」
モララー、三人の互いが予期しなかった再会。
それは、焦燥でも不安でも昂揚でもなく
ただ、はちきれんばかりの拒絶だけが、支配していた。
.
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