( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

325 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:19:25 ID:sp8t79x2O
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
 
 
.

326 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:20:14 ID:sp8t79x2O
 
 
○前回までのアクション
 
( ^ω^)
→外出
 
( ・∀・)
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→対面
 
从'ー'从
→療養中
 
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
 
 
.

327 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:22:18 ID:sp8t79x2O
 
 
 
  第十八話「vs【常識破り】U」
 
 
 
 モララーの登場を、少なからず歓迎する者はいなかった。
 彼のことをどう思うかはそれぞれであろうが、決してプラスの評価などは持っていない。
 特に危害を加えられたわけでもないのにこれほどまで
 嫌悪を抱かれるのは、モララーの言わば特技でもあるのだろう。
 
 だが、それはモララーにとどまらない特技だった。
 『拒絶』である以上――『拒絶の精神』を持つ以上――必ず発するオーラは不快なものなのだ。
 その量を調整することこそできるだろうが、今のモララーは抑制に意識を割いてない。
 つまり、体臭のようにモララーの持つオーラがにじみ出てくるわけであった。
 
 
/ ,' 3「はて、昨日の今日でもう襲うと申すのか?」
 
( ・∀・)「そうされてーか?」
 
 目を瞑っても耳を塞いでも鼻を摘んでも感じる、拒絶。
 五感を全て塞いだ上で隔離空間のなかにでも潜まないと、
 目と鼻の先にいる彼の持つ拒絶感など遮ることができない。
 
 肌がぴりぴりと痛むのだ。
 細胞が警笛を鳴らし、平生を求める。
 
 
从 ゚∀从「いっぺんに三人も相手する気かよ」
 
( ・∀・)「アリが三匹揃ったところで的が大きくなるだけなんだぜ、知ってっか?」
 
 なかでも、その最たる要因は、モララーの「強さ」だろう。
 話を聞いたところで釈然としないだろうが、
 こうして面と向かうことでわかることは必ずあるのだ。
 
 
 モララーは、強い。
 それも、ショボンやワタナベ以上に。
 
 
.

328 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:24:17 ID:sp8t79x2O
 
 
( <●><●>)「戯け。どんな大きな靴だろうと、三匹が離れていれば一度に踏むことはできない」
 
/ ,' 3「その踏み損ねた蟻に靴の上を登られるのはどんな気分かの?」
 
( ・∀・)「登らせね――いや、そもそも踏む必要がねーよ」
 
 ゼウスやアラマキの段階で既に「規格外」でこそあるのだが、
 モララーに至っては、もはや「規格」と云う言葉で括ること自体が無礼に値する。
 そのような気さえ、彼らは感じているだろう。
 
 ハインリッヒがゼウスに全く攻撃が通じなかった時に感じた焦燥に、それは似ていただろう。
 この原因は、果たして有する《拒絶能力》のせいか、それとも――
 
 
 
从 ゚∀从「蟻如きに畏れをなして、踏めねぇってか? それとも慈悲か?」
 
( ・∀・)「そうじゃなくてさ――」
 
 ハインリッヒが嘲笑を交えて言う。
 適うはずがない、となんとなくでわかるのにそう言った理由は、
 彼女がショボンに強気を見せていたのと同じものである。
 そのためか、三人とも自分が蟻であることに反応を見せない。
 むしろ、蟻と認めた上で倒してやろう、という姿勢すら窺えるのだ。
 
 モララーはそこで語尾を濁すと同時に右腕を地面と平行に挙げた。
 下を向いた掌はそのままで、モララーはニヤリと笑った。
 
 
 
( ・∀・)「『おまえは、もう死んでいる』」
 
 
.

329 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:28:54 ID:sp8t79x2O
 
 
/ ,' 3「ハ?」
 
( <●><●>)「―――ッ」
 
 
 アラマキが首を傾げたところで、先に反応を見せたのは、ゼウスだった。
 ゼウスにつられて、アラマキもゼウスの視線を辿る。
 
 すると、アラマキも反応を見せた。
 モララーの指先の先では
 
 
从 ∀从
 
 
/ ,' 3「ッ!」
 
 ハインリッヒが急にその場でくずおれたのだ。
 力なく地面に伏して、それっきり動かなくなった。
 
 アラマキとゼウスが固まっていると、モララーは腕を元のように垂らした。
 左手を脇腹に当て、姿勢を崩しては
 
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッ!!
      『踏まないで殺す』んじゃねえ、『踏むまでもなく殺す』んだよバーカ!」
 
/;,' 3「ッ! 『嘘』を『混ぜ』たのかッ!!」
 
 ――モララーの『拒絶』は、【常識破り】。
 『嘘(フェイク)』を『混ぜる(シェイク)』する、と云う、まさにその通りなスキル。
 それを用いられて、ハインリッヒが――
 
 
 
( ・∀・)「そのッとおぉぉぉ〜〜〜りッッ!
      俺の『嘘』は、す〜〜べて『真実』に早変わり!!
      ――ってのが『嘘』なんだけどな」
 
 モララーは、再び大声で笑い始めた。
 『真実』を拒絶した『因果』、それは【常識破り】を使わせることにつながった。
 それをまざまざと見せつけられ、アラマキの胸中にも「拒絶」が生じた。
 スキルと直結するそれではない、単なる拒絶感が。
 
 
.

330 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:30:44 ID:sp8t79x2O
 
 
( ・∀・)「………まあ、さ」
 
/;,' 3「?」
 
 モララーは含み笑いをやめた。
 何だと思うと、倒れたはずのハインリッヒが起きあがった。
 後頭部をさすりながら立つ姿は、まるで何事もなかったかのように思わせられる。
 
 ハインリッヒは少しきょろきょろして、困った顔をした。
 
从 ゚∀从「……あれ?」
 
/;,' 3「ハインリッヒ!」
 
( ・∀・)「『さっきの嘘』は『嘘』。だからハインリッヒは立ち上がれたんだよ」
 
( <●><●>)「『嘘』だの『真実』だの、全てが嘘のように聞こえるな」
 
( ・∀・)「中身がないってか? よく言われるぜ、それもワタナベによぉ。
      アイツの方がよっぽど中身がないと思うんだがな」
 
 「中身がない」とは、モララーの場合は日頃から『嘘』を吐きまくるから、
 ワタナベは言ったこともすぐに『反転』するから、なのだろう。
 的を射た言葉ではあるが、モララーの言葉が信じられないことに代わりはない。
 
 ハインリッヒは会話の内容と一瞬飛んでいた記憶から
 いま、自分の身になにが起こったのかを理解したようだった。
 そして「バケモノめ……」と小さく呟いた。
 
 
.

331 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:31:34 ID:sp8t79x2O
 
 
 モララーはその小声を聞き逃すことはなかった。
 不思議な顔をして、ハインリッヒの方を向いた。
 
( ・∀・)「バケモノはおまえたちだろ」
 
从;゚∀从「……は?」
 
 
 モララーは、かねてからの疑問を、ついに言った。
 
 
 
( ・∀・)「ショボンと、ワタナベ」
 
 
( ・∀・)「アイツらに、何した?」
 
 
 
 
.

332 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:35:43 ID:sp8t79x2O
 
 
 中身がないとは思えない、明らかに重みを持った言葉だった。
 威圧感とはまた違う圧倒される何かを感じ、ハインリッヒはたじろぐ。
 一方のモララーは真剣な顔のまま、睨むようにハインリッヒ含む三人を見ていた。
 
 彼らに、表情の変化はない。
 それが何を意味するのか、モララーはわかった。
 わかった上で、訊いた。
 
( ・∀・)「まさか、いくら俺より弱い『拒絶』だからといって、おまえたちが殺せた、っつーのか?」
 
/ ,' 3「………当然じゃ」
 
( ・∀・)「……」
 
 途端、モララーは険しい顔をした。
 やはり、殺されても仕方のない戦闘だからといって、同胞が殺されるのは面白くないようだ。
 また、圧倒的に能力面では勝っている筈の二人が負けたという以上、
 自分も万が一の確率でやられるかもしれないのだ。
 そう考えると、モララーが気を損ねたことにも合点がゆく。
 
 ――否、万が一ではない。
 そもそも、ショボンやワタナベが負けると云うこと自体、既に万が一なのだ。
 万が一が二度連続で起こると云う確率など、天文学的数字であることが考えるまでもなく、わかる。
 つまり、能力面で勝っていることが勝敗につながるわけでは
 ないと云うことを、あの二人は示した上でこの世を去ったのだ。
 
 ――まさか、この俺も奴らの二の舞にならねーよな?
 
 
 モララーは、少し不安を感じた。
 持っているスキルは中身がない≠ニ云う特性である以上、脆いのだ。
 自身をこの世でもっとも脆い男≠ニ、誰かに称されたこともあった。
 
 ――尤も、『嘘』を見抜かれても
 その『嘘』を解除しない限りは『嘘』は『真実』のままで在るのだが。
 それが『真実』を『拒絶』すること、なのだ。
 
 
.

333 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:37:21 ID:sp8t79x2O
 
 
( ・∀・)「ショボンも、ワタナベも、理屈じゃおまえらみたいなアリには負けねーんだぜ」
 
/ ,' 3「じゃが、負けた」
 
( ・∀・)「つまり、油断してたってこった」
 
 モララーはポケットに手を突っ込んだ。
 そして、続ける。
 
( ・∀・)「恐竜が負ける道理を知りてーが……
      あ、耳に入られたら死ぬんかもな。耳栓でもし」
 
 直後、モララーは血を吐いて倒れた。
 言葉が途中で途切れ、不自然に――ある意味においては自然に――倒れる。
 地面に伏して、続けて血を吐いて、赤い水溜まりを作る。
 後頭部にフードが載って、表情はいよいよ見えなくなった。
 
 そこからワンクッション挟んで、アラマキとハインリッヒは漸く仰天した。
 一瞬前まで健全そのものだったモララーが、このような様態になったのだから。
 だが、ゼウスが右の手刀に付いた血をハンカチで拭う後ろ姿を見て、「もしや」と思った。
 
 
/;,' 3「ぜ、ゼウス!」
 
从 ゚∀从「………不意……打ち?」
 
 
( <●><●>)「彼女といい、自己主張が旺盛な輩だ」
 
 
 
 
.

334 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:39:01 ID:sp8t79x2O
 
 
 
 
 
( ・∀・)「確かにな。以後気をつけるぜ」
 
 
 
从;゚∀从「!?」
 
/;,゚ 3「ッ!!」
 
( <●><○>)「―――ッ」
 
 
 ゼウスが、ああ言って振り返った瞬間。
 モララーは、手刀を腹に突かれる前と同じように
 ポケットに手を突っ込んだままの姿勢で、しかしハインリッヒとアラマキの背後に現れた。
 ゼウスの不意打ちと同じよう――否、それ以上に前触れを感じさせない出現で、二人は驚いた。
 
 また、その出現と同時にゼウスの腹に穴が開いた。
 それも、ゼウスがモララーに与えたような負傷だった。
 
 ゼウスといえど、腹に穴が開いて立っていられる筈もない。
 くずおれそうになるのを、辛うじて右膝で踏みとどめ、片膝をつく。
 
 モララーはその砂を踏みしめる音を聞いて、振り返った。
 振り返ったというよりは、上半身を捻っただけだ。
 ポケットから手を出そうとすらしない。
 ゼウスを、所詮その程度の存在だ、と見做しているかのようだった。
 
 
.

335 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:41:55 ID:sp8t79x2O
 
 
( ・∀・)「ワタナベは『生死の概念を反転させる』っつーように
      受動的じゃねーと対策できねーそうだけどよ、俺は違うぜ」
 
 ゼウスにそう吐き捨て、続けてモララーは言う。
 
( ・∀・)「あ、それと、今後のために言っといてやるがよ」
 
从 ゚∀从「……な、なにを」
 
 ハインリッヒの声が震えているのを聞いて、モララーは微笑を浮かべた。
 
 
( ・∀・)「俺がいま『混ぜ』てる『嘘』の数だよ」
 
/;,' 3「……ハ?」
 
( <●><●>)「……そ…いうことか」
 
( ・∀・)「お、ゼウスはとりま意味だけはわかったみてーだな」
 
( ・∀・)「まーゼウスだしぃ? おッつむ良いしぃ?」
 
( ・∀・)「でもまあ、残り二匹のために、言ってやるけどよ」
 
 
 モララーは漸く躯全体をこちらに向けた。
 
 
 
 
 
( ・∀・)「俺は、今の段階で一億八千二百三十六万五千八百七十二個の『嘘』を吐いている」
 
 
 
 
 
.

336 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:44:08 ID:sp8t79x2O
 
 
 

 
 
 
(;^ω^)「あり……?」
 
 内藤は、当惑を声にして発した。
 それも、行き先だった店に向かう途中で、である。
 
 物的ななにかが変わっていたわけでは、ない。
 そこにある建物が別のものに変わっていたり
 見たこともないような道が伸びていたり
 そう云った、可視される違いではないのだ。
 
 では、何が彼に当惑のタネを撒いたのか。
 それは、その街並みが持つ雰囲気そのものである。
 
 無機物である筈のそれらが、無言の圧力と云う物を内藤に与えているのだ。
 うねりをあげ、混沌が渦を巻いているように、その一帯には何とも言えぬ暗い、黒い空気が漂っていた。
 
 まるで、巨大な肉食生物が、口を広げ獲物が入ってくるのを待っているかのように。
 そこに一歩踏み入れることに対して、細胞が警笛を鳴らす。
 その原因が掴めず、内藤はただたじっているだけだった。
 
 勢いよく飛び出した矢先で、そんなはっきりしない理由で
 引き返してこれば、笑われる元であろう。
 せめて原因がわかれば帰ってもいいところなのだが、
 それができれば既にここで立ち往生する理由もない。
 内藤は歩き倦ね、どうしたものか、と首を傾げていた。
 
 この先に、確かにバーがあった筈である。
 一度、作品にバーの描写をする際、参考にしようと取材半分で向かったことがあるのだ。
 名前は忘れたが、その雰囲気には言葉にし難いムードが漂っていた。
 
 また、内藤はそのムードを楽しみたいがためだけに訪れようとしているわけではない。
 バーと言えば、情報交換の場として相場が決まっているわけだ。
 
 
.

337 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:46:27 ID:sp8t79x2O
 
 
 内藤は、能力や戦闘においては無力そのものだが、
 その有する情報に関しては決して彼らに引けを取らない、むしろ重宝されるべき存在である。
 それを自覚しているため、せめて正確な情報を彼らに与えられやしないか。
 ――と、内藤は内藤で考えるところがあったのだ。
 
 バーで得た情報を元に、残りの『拒絶』の内容を思い出すことができれば。
 それは、自分たちにとって、絶大なアドバンテージを得ることに成り得る。
 内藤がそのアドバンテージを得ようとした矢先での壁が、その目に見えない「拒絶」だった。
 
 内藤は少しその場にとどまってみた。
 表通りを歩いていた時はそうでもなかったのに、その店に向かおうと
 人気の少ないであろう道を進んでいると、徐々に感じてくる「拒絶」。
 
 コンクリートが剥き出しとなっており、罅が入っていたり、
 またスプレーで落書きがされていたりしている。
 内容がとてもお粗末な文字列だったのを見ると、描いたのは恐らくはぐれ者だ。
 
 内藤は力なく笑って、自身で自身に決断を迫った。
 とても気味が悪いところだ。
 いつまでもここにとどまるくらいなら、博打のつもりででも進むか引くかする方がいい。
 
 頭を掻いて、内藤は一歩、また一歩と前に進んだ。
 引く、と云う決断を捨てたわけではない。
 ただ勝手に、足が動いてしまうのだ。
 まるで、その雰囲気に呼び寄せられているかのように。
 
 
.

338 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:47:26 ID:sp8t79x2O
 
 
(;^ω^)「あの店……こんなところにあったかお……?」
 
 当時の状況を思い出す。
 店は、そこらにあるようなそれらの中の一つに過ぎない、いわゆる普通の店だった筈だ。
 少なくとも、足を運び入れるだけで戸惑いを感じさせるような立地ではなかった。
 
 ごく自然と入れる位置の、
 ごく自然な店構えで、
 ごく自然な看板だ。
 
 それがなぜ、肌でわかる程空気が違うのだろうか。
 建物が一緒とすると、考え得る別の答えは「世界観」である。
 
 パラレルワールドに迷いこむ際、建物は一緒でも、世界観はがらっと変わった筈なのだ。
 政治が機能しておらず、軍事力に比重をかける残念な政府。
 そんな政府を攻め落とそうとする、裏組織の連中。
 漁夫の利を得ようとする、第三勢力、チンピラの集団。
 
 そう云った要素が反映されるならば、自然と空気や雰囲気と云ったものも変わる筈である。
 それが原因でこの空気を作り出しているとするのなら――
 
 
 
 ――ここは、裏通り。裏社会への第一歩。
 
 
 
 
.

339 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:48:22 ID:sp8t79x2O
 
 
( ;゚ω゚)「っ!」
 
 それがわかった瞬間、内藤は背筋が冷たくなった。
 目は見開かれ、全身の筋肉が硬直する。
 
 ――どうして気づかなかったんだお!
 心中で、何度も叫ぶ内藤。
 その理由は、自分は裏社会の恐ろしさを誰よりも知っているから、だろう。
 
 また
 
 
 
  「ちょっと、そこのお兄さぁぁ〜ん」
 
 
 
 ――右肩に感じる、手の重み。
 耳の内側をくすぐるような、嫌な声。
 そして、背骨の芯をなぞるような、オーラ。
 
 背後には、誰かがいる。
 
 
 
.

340 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:49:46 ID:sp8t79x2O
 
 
( ;゚ω゚)「あッひゃあああああああ!!」
 
 咄嗟に、前に転ぶように飛び込んだ。
 だが、肩に残ったこの嫌な感触はすぐには消えない。
 
 しかし、そんなことよりも今は、後ろにいる人を認識することが最優先だ。
 内藤は抜けた腰に鞭を打って、何とか振り返った。
 群青色の服を着た不気味な男が、怪しげな笑みを浮かべていた。
 
 
(’e’)「うひ…ふひひヒヒひ………」
 
( ;゚ω゚)「(み、見るからに怪しい……ッ)」
 
(’e’)「ねェお兄さぁぁん……」
 
(’e’)「ちょっとイイ事しない〜?」
 
( ;゚ω゚)「けけッけ結構でふ……す!」
 
 この男の放つオーラが、『拒絶』のそれとは違うベクトルを持つ
 気味の悪いものであったため、内藤は恐れ戦く他なかった。
 尻餅をついたまま後退りし、距離を空けようとする。
 だが、内藤の後方は即ち、裏社会へ着々と進んでいる、と云うことになる。
 
 
.

341 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:51:29 ID:sp8t79x2O
 
 
 鼻につけたリング、手首に残る多くの傷、声に合わない巨漢、
 怪物にでもなりたかったのか、こめかみに埋められたボルトと、男の容姿は明らかに異常だった。
 更に恐怖心をくすぐる猫撫で声が、それらに拍車をかけていた。
 
 内藤にとっては、アラマキたちがいないため
 頼りどころがないことこそが最大の恐怖ではあったが。
 
 とにかく、内藤に逃げ以外の選択肢はない。
 なにか、些細なものでもいいから《特殊能力》を持っていれば応戦できるのだが、ない。
 素手で戦うなど、相手が子供でもない限り勝つ見込みなどあるはずもない。
 
 逃げないのは愚か者のすることだ。
 内藤は、すぐさま逃げよう、と試みた。
 
(’e’)「頼むわよぉぉ〜逃げないでよぉぉ〜」
 
(;^ω^)「ちょッ僕急いでいるので――」
 
(’e’)「やだぁぁ〜ん! 逃げるつもりなら、手加減は――」
 
 
 
 
(’e’#)「しねぇぞゴルァァァァァァァッァア!!」
 
( ;゚ω゚)「ぎえああああああああッ!!」
 
 
 男の顔が、声が、躯が、豹変った。
 
 
 
.

342 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:53:49 ID:sp8t79x2O
 
 
 このままではまずい。
 内藤は本能的にそう察して、急いで立ち上がろうとした。
 その途中で咄嗟に男に背を向け、駆け出す。
 
 不格好と笑われようが、負け犬だと罵られようが、逃走できればそれで勝ちなのだ。
 根性論を信じる愚者に愚弄されようと、内藤は痛くもかゆくもない。
 足の速さには自信があるので、なんとか男を撒けたら――そう思うと
 
 
(’e’#)「逃がさんぞッ!」
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 男は、急にびしっと人差し指と中指を突き出すように内藤の足の方を指した。
 すると、内藤は足に――否、地面に違和感を感じた。
 
 がしっ、がしっ、と質感のあった地面から、質感が消えた≠フだ。
 若干溶けかかっている氷の上で滑り止めのない靴を履いて走ったかのような感じがする。
 そしてやはり、その氷の上で走るものならば転ぶように、内藤もその場で転んで、つーっと滑っていった。
 
 その先の壁にぶつかって、内藤はわけがわからないものの咄嗟に近くの電柱にしがみついた。
 滑ることはなくなったが、違和感は残ったままである。
 
 内藤はその場ですぐに、相手の能力の考察に入った。
 どんなキャラクターのものであろうと、能力ならば――例外があったが――自分が知らないものはないのだ。
 それさえ把握できれば、あわよくば逃げ出せるかもしれない。
 内藤は現状把握に努めた。
 
(’e’#)「う、うふふ、フフフふ……もう逃げらんないわよぉぉ〜?」
 
(;^ω^)「(この、行動を制限するかのような能力……
      身に覚えがないわけでも、ない。……でも)」
 
 
(;^ω^)「(地面を氷にする能力なんか、あったかお……?)」
 
 
.

343 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:55:10 ID:sp8t79x2O
 
 
 現段階でわかっていることは、以下の四点だ。
 ひとつ、自分が走った地面が、まるで氷のようになって踏みとどまれなくなった点。
 ひとつ、転んで地面に激突したのにも関わらず、滑っていって
 このように電柱にしがみつかないと滑り続けていたであろう点。
 ひとつ、それは一定の区間を自在に男の任意で操れる点。
 ひとつ、男はこの状況下でも平生のまま歩ける点。
 
 真っ先に思い浮かんだのが、対象物の属性、性質、特性を変化させるものだ。
 風を石にして攻撃する、木の葉を硫酸にする、光に殺傷力を持たせる、など。
 
 そうだとすると、内藤が滑り続けた理由がわかる。
 地面を氷にすれば、いくらでも滑るのだ。
 だが、そうだとすると男が歩けることに疑問点が残る。
 
 一定区間の属性を変化させることはできるが、それは不可視のものである。
 しかし男はずかずかと歩み寄ってくる。
 目に見えない変化が起こっているのに、それに物怖じせず歩んでくる事など、果たしてできるだろうか。
 自分が誤って氷の上に足を踏み入れるのかもしれないのに。
 
 また、根本的な点で内藤は不審がっていた。
 そのような能力、つくった記憶がなかったのだ。
 あったとしても、もっと別の能力にするだろう。
 
 ならば、他にはないのか。
 考えていると、先に男が動いた。
 
 
.

344 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:56:17 ID:sp8t79x2O
 
 
(’e’)「電柱にしがみついてちゃ……」
 
 
(’e’#)「やぁぁ〜よッ!!」
 
(;^ω^)「ぬおっ!」
 
 
 またも男が指を突きつけると、電柱に回していた内藤の手が
 つるっと滑り、勢い余って電柱から手を離してしまった。
 馬鹿な、しっかりとしがみついていた筈なのに――
 
 そう内藤は思うが、そんなことに憂えている暇はない。
 男が更に歩み寄ってくるのだ。
 二人の距離は、七メートルを切った。
 
 
 ――そこで、内藤はひとつの可能性を掴んだ。
 いま、指紋を貼り付けていた筈の電柱の肌が、
 つるっと滑ったことによって生まれた可能性だ。
 
 内藤は、そこである感想を抱いた。
 
 
 ――摩擦が、効かなくなっている?
 
 
 
.

345 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:57:59 ID:sp8t79x2O
 
 
(;^ω^)「――ッ! そうか、『摩擦』だおッ!」
 
(’e’)「!」
 
 
 そこからの行動は速かった。
 内藤は思ったままの言葉を口にした。
 そのキーワードは、ずばり『摩擦』。
 
 対象物の属性を変化させる能力は創った記憶がないが、
 『摩擦』を『手付かず(フリー)』にする能力≠ヘあった、と。
 
 電柱にはしがみつけないので、壁に手をつける。
 まだここはつるつるしていないため、手をつければ滑ることは抑制できるのだ。
 そこで内藤はしがみつきながら、威勢だけ立派にさせては大声で言い放った。
 
 
 
(;^ω^)「ネタはあがってるお!
      【不協和音《フリー・フリクション》】ッ!!」
 
(’e’;)「――ッ!?」
 
 
 男が、動揺した。
 
 
 
.

346 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 20:59:51 ID:sp8t79x2O
 
 
 内藤が――躯を固定できず緊張した筋肉のせいで――
 ぶるぶる震えながら、左手の指を突きつけて続けた。
 
 
(;^ω^)「対象物の『摩擦』を『手付かず』にして、相手に思う通りにさせない《特殊能力》ッ!」
 
(;^ω^)「僕の踏み込みやしがみつきによって生じる『摩擦』を、あんたは『手付かず』にしたんだお?!」
 
(’e’;)「〜〜〜ッ!?」
 
 全てが図星だったようで、男は狼狽を隠しきれなかった。
 歩ませていた足は自然と止まって、背を反って驚愕を露わにしている。
 見た目一般人の中年に、たった数度の能力の適用で鼻を明かされるとは思いもしなかったのだ。
 
 内藤は「いい感じだ」と思った。
 少なくとも、相手にとって能力を明かされることは、さぞかし嫌な気分を生まされることになるだろう。
 そこで相手に必要以上に不安を押しつけることができれば、
 地面の摩擦が消えようと内藤にも逃げのチャンスは生じる。
 特に、こう云った知性の低そうな男だと、尚更だ。
 
 内藤はここで相手の本名や趣味などもばらして、更なる負担を押しつけようと考えた。
 躯の向きを変えて、逃げる準備もする。
 そして
 
 
(;^ω^)「ばればれなんだお、【不協和音】の―――」
 
(’e’;)「………!」
 
(;^ω^)「―――………」
 
(’e’;)「……」
 
 
 
.

347 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:01:08 ID:sp8t79x2O
 
 
(’e’)「……?」
 
( ^ω^)「………」
 
 
(;^ω^)「……あれ、名前なんだっけ」
 
(’e’)「………」
 
 
(’e’)「……は?」
 
(;^ω^)「(しまった! いちいちモブキャラの名前なんざ覚えてねーおォォォォォ!!)」
 
 
 内藤は、そこで頭を抱えた。
 せっかく相手に与えた精神的不安も、今の内藤の失態を見て一気に取り払われたようだ。
 現に男は、虚を衝かれたような顔だったのが、一転呆気にとられたような顔をしている。
 
 名前を思い出せないなら趣味や特徴、住所などでも良いと思い再度思いだそうとしたのだが、
 名前すら思い出せないキャラクターの、より詳細な情報など覚えている筈もない。
 
 内藤がうんうん唸っているうちに、男は痺れを切らして、歩み寄ってきた。
 内藤がそれに気づいたのは、距離が四メートルにまで詰め寄られた時だ。
 
 
.

348 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:02:58 ID:sp8t79x2O
 
 
(’e’)「……一瞬びびっちゃったけどぉ……」
 
(;^ω^)「!」
 
 
 内藤がふと顔をあげると、目の前に男がいた。
 狂気にうち震えた顔でも、憤怒に歪ませた顔でもない、無表情だった。
 その無表情に、裏通りならではの皺による影が映っていたので、不気味さが増していた。
 ただでさえ不気味なのに、これでは内藤の顔が歪む理由にも肯ける。
 
 
(’e’)「相手の能力を見抜く能力?
    タマの奪い合いじゃ、役立たずなのねぇぇ〜?」
 
(;^ω^)「(完全に開き直った! もうこの作戦は無理か……!)」
 
(’e’)「それにぃぃ〜…」
 
(;^ω^)「おわっ!」
 
 内藤の頭部のすぐ上を掠めるように、男が右フックを放った。
 いや、フックかと思えたが、直後に擦るように壁を下から上に突き上げた。
 
 直後、内藤の頭の上で爆発が起こったかのような音が響いた。
 ぱらぱらとコンクリートの破片が飛び散る。
 内藤の頭にもそれが載るので、内藤は恐怖を実感できてしまった。
 
 
.

349 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:05:03 ID:sp8t79x2O
 
 
(’e’)「『手付かず』ってことはつまり、強化もできるのねん?
    だからワタクシのカミソリパンチは世界一〜ってねェん」
 
(;^ω^)「さ……さいですか……」
 
(’e’)「だから……」
 
 
 
(’e’*)「食べさせてもらうわよん?」
 
( ^ω^)
 
 
 内藤は、男の股間部がズボン越しで
 膨れ上がっているのに、気が付いた。
 
 
( ^ω^)
 
( ;゚ω゚)「ええええええええええッ!? 賊じゃなくってゲイ!?」
 
(’e’)「賊とか身包み剥ぐのとかって、卑怯じゃなァい?
    ワタクシはね、欲求を満たせたらあとは何でもいいのぉぉ〜ん」
 
( ;゚ω゚)「お金出すから見逃してええッ!!」
 
(’e’)「だめ」
 
 直後、男のカミソリパンチがまたも内藤の頭上を通り過ぎていった。
 地面と平行に刻まれた傷は、人間がつくったとは思えないものだった。
 コンクリートの壁が抉れて、しかし男の拳には傷ひとつないのだから。
 
(’e’)「ワタクシはね、セント=ジョーンズ。
    逃げようとしたら、穴と云う穴を抉りまくるわよん?」
 
( ;゚ω゚)「(どーしてこんなキャラを創ったんだお僕の馬鹿………!)」
 
 セントの手が、内藤に伸びる。
 命の保証はできたとしても、内藤としては死にたい気分だった。
 
 
.

350 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:07:25 ID:sp8t79x2O
 
 
 
 
 
.    ロック
  「『封印』」
 
 
 
 
 ――その一瞬に放たれた言葉を、内藤は聞くことができた。
 だが、あまりに急な言葉であったため、その意図を理解することはできなかった。
 
 
 
 
.

351 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:08:46 ID:sp8t79x2O
 
 
(’e’)
 
( ; ω )
 
 
 
( ^ω^)「………お?」
 
 しかし、ひとつ違和感があったとするなら。
 セントの動きが、固まってしまったことだ。
 
 手は、内藤の鼻先数センチのところまで伸びている。
 どういうことだ――と内藤が不審に思った時。
 
 
(’e’;)「……!? 手足が動かねェ…ッ!!」
 
(;^ω^)「だッ誰だお!?」
 
 セントが苦悶の表情を浮かべて、言った。
 その瞬間、いきなりセントの動きが止まったのは第三者の影響だ、とわかった。
 そのため、内藤はそう声を発した。
 
 どこにいるのか、わからない。
 気配すら感じない。
 
 だが、確かにその人はそこにいる。
 だから、セントに『異常』が来されたのだ。
 内藤が声を発しない理由はなかった。
 
 
.

352 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:10:44 ID:sp8t79x2O
 
 
 すると、「声」は答えた。
 
  「おっと……。邪魔しないほうがよかったか?」
 
(;^ω^)「そんなことないです、ありがとう! でも誰だお!」
 
(’e’#)「だッ……誰だあああああああああああッ!!
      オレの邪魔をするやっつぁあああああああああああああ!!」
 
 セントも冷静さを失って、「声」に恫喝を浴びせる。
 しかし「声」が動じることはない。
 落ち着き払った声で、「声」は返した。
 
 
  「私は男、特に男同士、と云うものが嫌いでね。つい手を出してしまったよ」
 
 
  「なんて汚らわしい」
 
 
 セントは、そのぼそッと放たれた一言に反応した。
 
 
(’e’#)「てッ……て、てめ…えええええええええええッ!!」
 
(’e’#)「空気抵抗が…肌に与える『摩擦』を……『手付かず』に!!」
 
(;^ω^)「ッ! おい、危な―――」
 
 
.

353 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:13:48 ID:sp8t79x2O
 
 
 セントの能力の適用に、内藤はその「声」に危険を知らせた。
 万有物と万有物とが接触するのに、必ず摩擦は生じる。
 セントは、空気と肌が擦れ合うのを『手付かず』――
 つまり摩擦を増幅させて、全身の肌をずたずたにさせようとでもしたのだろう。
 
 内藤が危惧しない筈がなかった。
 ここで「声」が死ねば、自分を助けてくれる人はいなくなるのだから。
 
 
 しかしその危惧は杞憂に過ぎなかった。
 
 
 なぜなら、なにも起こらなかった≠フだから。
 
 
 
  「大馬鹿者が。貴様の能力など、既に『封印』している」
 
 
(’e’)「!」
 
( e ;)「が……ガアアアアアあああああああああああッ!!」
 
(;^ω^)「!? な、なにが――」
 
 いや、なにも起こらなかったどころか、セントは急にもがき苦しみだした。
 内藤は状況を把握するのが間に合わず、混乱状態に陥っていた。
 そんな内藤を見たためか、「声」は言った。
 
 
.

354 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:19:58 ID:sp8t79x2O
 
 
 
  「お返しに、貴様の、体内での空気の流れを『封印』した」
 
( e ;#)「!!?」
 
 
  「ついでに心臓の動きも『封印』。肺の運動も『封印』。筋肉の膨張も『封印』。
   関節部の動きも『封印』。血液循環も『封印』。
   痛覚以外の機能も『封印』。体内の時の流れも『封印』。死も『封印』。」
 
 
( e )
 
 
( ;゚ω゚)
 
 
 内藤は、絶句した。
 先ほどまで生き生きとしていたセントが
 急に謎の死を遂げたかのように固まってしまったのだから。
 目は白眼を剥き、開きっぱなしの顎からは生気が感じられない。
 これが先ほどまで動いていた生物なのか、と疑ってしまう程。
 
 
.

355 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:21:38 ID:sp8t79x2O
 
 
 また、絶句した理由は他にもあった。
 『封印』と云う言葉を聞いて、少しなにかが引っかかったのだ。
 

( ;゚ω゚)「『封印』……ッ」
 
  「……?」
 
( ;゚ω゚)「(いた! なにもかもを『封印』する≠ニんでもないボツキャラッ!)」
 
  「どうした。貴様には何もしてないのだが」
 
(;^ω^)「(はッ!)
      なな、なんでもないですお! ありがとうございますお!」
 
  「私の性分でやったまでだ」
 
 
 ――昔、これも『拒絶』と同じように構想だけした$ン定があった。
 それらをボツにした理由は複数あるのだが、それの最たるものは『拒絶』と一緒。
 
 ただ、強すぎるから。
 
 どんな名前だったか、どんな人がいたか、どんな能力があったか。
 そのほとんどを忘れているのだが、そのなかの一人が「彼女」だと云う確信だけはあった。
 名前も能力名もわからないのだが、不思議とそう云う自信はあったのだ。
 
 そこで、その霧を払おうとしない理由はない。
 もしかすると、『拒絶』以外のなにかも動いているのかもしれないのだ。
 それを知っていてみすみす見逃すほど、内藤はこの世界に冷たいわけではない。
 
 地面に摩擦の概念が復活しているのを確認して、内藤は立ち上がった。
 地に足はついているのに、足が震え、壁に手をかけないと満足に立てない。
 内藤は根気だけで直立しては、目の前の空間に声を投げかけた。
 
 なにもない、空間。
 そこに話しかける光景を一般人が見れば、内藤を異常者だと思いこむだろう。
 しかし、そんな通行人などいない上に、内藤が今更奇行に躊躇することなどないのだ。
 
 
.

356 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:23:20 ID:sp8t79x2O
 
 
(;^ω^)「……姿を現せお」
 
  「?」
 
(;^ω^)「あんたが『自分の可視される姿』と『気配』を
      『封印』していることくらい、とっくに見抜いてるお」
 
  「……」
 
(;^ω^)「……」
 
 その場に、漸く静寂が生まれた。
 誰もいないであろう裏通りであるため、本来はこうでなくてはいけないのだ。
 裏通りの雰囲気を考慮したわけではないのだが、自然と静寂は生まれていた。
 
 少しして、彼女は答えた。
 
  「……貴様は、何者だ」
 
(;^ω^)「ただの小説家で、能力なんてものはないお」
 
  「………そうか」
 
(;^ω^)「今度はこっちが訊くお」
 
  「なんだ?」
 
(;^ω^)「名前と……ここに来た、目的」
 
  「………ふぅむ」
 
 
.

357 名前:同志名無しさん 投稿日:2012/12/28(金) 21:26:19 ID:sp8t79x2O
 
 
 女は声で考える素振りを見せる。
 内藤は、女の姿が見られない。
 だが、その声だけでなんとなく姿を見ている気にはなれた。
 
 少しして、溜息と同時に女が姿を現した。
 そして、内藤の質問に答えるのであった。
 
(    )「名乗るほどの者ではないとして……目的、か」
 
(;^ω^)「(……鍵のブレスレット……?)」
 
 
 女の容姿は、端的に言うと「美しい」だった。
 街灯に照らされた艶やかな黒髪が、より美しさを引き立てている。
 しかし、逆光ゆえ女の顔が見えなかったのが、難点だった。
 
 すると、女は踵を返しながら口を開いた。
 その一瞬だけ、顔を見ることができた。
 
 
 
 
川 ゚ -゚)「人捜し、かな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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