( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

371 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 14:57:26 ID:yFbeLTKIO
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
 
 
.

372 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 14:58:58 ID:yFbeLTKIO
 
 
○前回までのアクション
 
( ^ω^)
川 ゚ -゚)
(’e’)
→対面
 
( ・∀・)
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→対面
 
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
 
 
.

373 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:00:01 ID:yFbeLTKIO
 
 
 
  第十九話「vs【常識破り】V」
 
 
 
 モララーが今『混ぜ』ている『嘘』の数を聞いて、アラマキとハインリッヒは圧倒された。
 というより、あまりにも非現実的な数字であったため、実感ができすらしない。
 とても嘘を吐いているような雰囲気には見えなかったが、ハインリッヒとしてはそれそのものが『嘘』であると疑わざるを得なかった。
 
 
从;゚∀从「――ハ!?」
 
 低い身長、そして左目の方にかかる程長く白い髪の向こうから、見上げるようにモララーを見つめる。
 呆気にとられ、圧巻され、圧倒され。
 ただ言葉にできない感情を、ハインリッヒは目で訴えた。
 
 その感情を、モララーは読みとれたのだろうか。
 少なくとも、その表情や眼光を受け取って、決して強気でいるとは察しないだろう。
 敵意を削ぐことができたようで、そのためモララーは別段なにかをしようとは思わなかった。
 
 
.

374 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:01:31 ID:yFbeLTKIO
 
 
/ ,' 3「――ってのが『嘘』じゃな?」
 
 一方、冷静なままでいられるアラマキが慎重に答えた。
 太い眉の下から覗く鷲のような眼光が、モララーのなよなよとした躯を捉える。
 『威圧』的なその視線を受け取って、一般人なら平伏すか逃げ出すかするであろう筈が、
 モララーはアラマキを細めた横目で一瞥を与えてから、鼻で笑う程度だった。
 
 アラマキは「なにがおかしい」と静かな――しかしずっしりと重い――声で訊いた。
 ハインリッヒが動揺しているからこそとれた、沈着な態度だった。
 若い女性が動揺している隣にいる老いた紳士とは、得てしてそのようなものなのだ。
 
 
( ・∀・)「んな『嘘』吐いたって何のトクにもなんねーよ。俺は利得的な嘘しか吐かねーんだ」
 
 おどけるような態度もとらず真面目にそう言い放ったため、一見すると『嘘』とは思えない言葉だ。
 尤も、平気な顔してとんでもない『嘘』――それこそ、ハインリッヒの前例のように
 誰かを殺すと云った――を吐くモララーの言葉だから、信用に値するわけではないのだが。
 その前例と比べると、真偽を悩ませる程度の信憑性はあったと言えるのだろう。
 
 
.

375 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:02:50 ID:yFbeLTKIO
 
 
从 ゚∀从「おかしいぜ。それが本当だとすっと、なんでそんな一億レベルの数字の一の位までぴたりと言えたんだ?
      まさか、今までずっと数えてきたとか言わんよな?」
 
 その点に気づき、ハインリッヒが強気に出る。
 モララーの放った『嘘』の数、それは本人曰く一億を超えていた。
 しかし、概数ではなくきちんと一個単位で答えてみせた。
 そこにこの拒絶の突破口があるのではないか、と思ったのだ。
 
 まあ、言うまでもなくモララーはその程度のことで口車にのせられるような男ではない。
 むしろハインリッヒの言葉を待ってましたと言わんばかりに反応を見せた。
 
 
( ・∀・)「ああ。数えちゃいねー」
 
从 ゚∀从「ハン! 認めやがったな、ほら吹き――」
 
 
 
 
( ・∀・)「『俺は今までに吐いてきた嘘の数を把握している』っつー『嘘』を吐いたんだからな」
 
 
 
从;゚∀从「――!?」
 
 瞬間、ハインリッヒは恐怖と云う名の拒絶を感じて、姿勢を低くさせた。
 意識してとった行動ではない。
 まさに、本能が告げた防衛反応だった。
 
 モララーはのっぺりとした顔のまま続けた。
 
 
.

376 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:04:22 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ・∀・)「その『嘘』も含めた数が、さっき言った通りだ」
 
( ・∀・)「物理的なモンだけじゃねえ。
      概念、因果律、時間軸、精神、次元。
      俺の『嘘』は、それこそ多岐に渡ってんだぜ。
      むしろ、一億個程度で済んだのか――ってことに驚いたな、俺は」
 
( <●><●>)「……時間軸?」
 
 そこで、黙っていたゼウスが口を開いた。
 腹の穴の痛みこそするが、それを顔に出す男ではない。
 その苦痛を意識して声にするなど、以ての外の話である。
 
( ・∀・)「トソン――つっても知らんよな。俺の連れのその女にゃ負けるが、俺も歳とってんだぜ」
 
从;゚∀从「………どういう意味だよ」
 
( ・∀・)「俺、何歳に見える?」
 
 唐突に、モララーがハインリッヒにそう訊いた。
 顔をぐッと近づけ、指を自身の鼻先に向けて。
 
 拒絶の精神を発している男に瞬間的に詰め寄られて、ハインリッヒは少し腰が引けた。
 それを声にしなかっただけで、よく耐えた、と自分で褒めもしたほどだった。
 
 
.

377 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:05:48 ID:yFbeLTKIO
 
 
 ぱッと一般人がモララーを見たところ、二十台には見えるだろう。
 美形なだけで本当は三十路に入っているかもしれないが、それ以上だとは思えない。
 若々しい体つきに、若々しい声と、若々しい要素が揃っているのだから。
 
 自身も若いハインリッヒは、嫌な予感がしつつも思ったままのことを言った。
 
 
从 ゚∀从「……私と同じくれぇじゃねーのかよ」
 
 
 すると、モララーは大笑いした。
 左手で腹を、右手の人差し指でハインリッヒを指して。
 
 
( ;∀;)「ギャッハハハハ!! お、おまえ、実は婆さんかよ! ロリ系のくせに!」
 
从;゚∀从「は―――ハ?」
 
 声が耳に障る。
 耳鳴り以上の不快な音がすぐそこから発せられる。
 苦い顔をしてハインリッヒが一歩後退りしたところで、モララーは笑い声を発するのをやめた。
 ぜえ、ぜえ、と呼吸を整え、涙を拭っている間も、ハインリッヒからはその不快な心地は拭えない。
 
 
( ・∀・)「俺、二百歳ちょっと」
 
从 ゚∀从
 
 
 
.

378 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:07:01 ID:yFbeLTKIO
 
 
从;゚∀从「ハァァァァァァッ!? てめえふざけんのも――」
 
( ・∀・)「『この時の流れ』は、全部『嘘』。そう言って何度もやり直したからな」
 
从 ゚∀从「――ッ!」
 
 そこで、ハインリッヒははッとした。
 一瞬はさすがに冗談だ、と思ったが、考えてみれば理屈が通るのだ。
 モララーが時間相手でさえ『嘘』を適用させられるのであれば、それを利用しない筈がない。
 
 モララーの『嘘』が適用されない範囲は、考え得る限りでは無いのだ。
 もしかすると、その規格外なスキルに自然のうちに圧倒され、「モララーは強い」と思ってしまったのかもしれない。
 
 理屈なんて通らない論外で、
 定見など持つ筈もない不条理で。
 
 
 文字通り―――常識破り。
 
 
.

379 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:08:41 ID:yFbeLTKIO
 
 
 ハインリッヒは、「こいつに勝てるのだろうか」と、幾度となく抱いてきた不安を、抱いた。
 その規模は過去最大級の物であることにも、薄々気づいていた。
 
 モララーは、本当に、強い。
 いや、「強い」のではなく、次元が違う。
 「勝つ道理が存在しない」、モンスターだ、と。
 
 
( <●><●>)「………用件は…私たちに恐怖を植え付けにきただけ、か?」
 
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッ!! お、おまえが言うとシュールだな!
      『恐怖』の代名詞、ゼウスさんよォ!!」
 
( <●><●>)「……」
 
( ;∀;)「ハハ………」
 
 
( ・∀・)「…ふぅ」
 
( ・∀・)「用件、ねぇ」
 
 
 そこで、モララーの顔は真面目なそれに戻った。
 『拒絶』は皆表情豊かなのであろうか、とゼウスは考える。
 ただワタナベとモララーがそうであるだけなのであろうが、感情の起伏が激しいと云うことには違いないだろう。
 
 
 感情が引き起こした最悪の感情が、拒絶。
 その拒絶に呑み込まれたのが、彼らなのだから。
 
 
.

380 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:09:48 ID:yFbeLTKIO
 
 
 モララーは腰に両手を当て、肩幅ほどに足を開いた。
 首を数度左に傾け、視線は三人の間を往復させる。
 モララーが口を開いたのは、それから数秒経った頃のことだった。
 
 
 
( ・∀・)「ワタナベとショボンを、呼び戻しにきたんだよ」
 
/ ,' 3「……っ」
 
 
 ――アラマキも、ハインリッヒも、ゼウスも。
 その言葉を放った時のモララーの表情だけは、見逃すことはなかった。
 
 拒絶でも、憤怒でも、狂喜でもない。
 寂寥が、彼の顔面を覆ったからだ。
 
 まさか、『拒絶』がそのような哀しい表情をするなど、思いもしないだろう。
 だから、彼のその表情と声色は、意外の一言で済む話ではなかった。
 
 
.

381 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:12:46 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ・∀・)「なんでだろうな。ワタナベもショボンも、命だけじゃなくて
      存在そのものがこの次元から消えてる気がすんだ」
 
 
 ショボンは、「底のない落とし穴」に落とされてしまい、内藤の見解によると
 「次元として存在しない次元」で永遠に落ち続ける『現実』を目の当たりにしているようだ。
 既存の無限次多元のどれにも属さない、言わばショボン専用の新たな次元であるため、
 そこに存在ごと落ちたショボンは、この世から存在そのものが抹消されたと言ってもいい。
 
 ワタナベは――と考えると、アラマキは不思議に思った。
 ゼウスが救護室に運んだのではなかったのか、と。
 今はそれを口にすることはなかったが。
 
 
( ・∀・)「まさか、【ご都合主義】と【手のひら還し】が死ぬなんてよ。
      死ぬわけねーって楽観視してただけに、ショックはでかいな」
 
/ ,' 3「……」
 
( ・∀・)「どうしたんだよジジィ」
 
 
.

382 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:13:42 ID:yFbeLTKIO
 
 
 アラマキが何か言いたげな顔をして、モララーをじっと見つめた。
 その視線に気づいて、モララーは半ば挑発するように問いかける。
 アラマキがそこから更に言葉を返すのに、時間がかかった。
 
 
/ ,' 3「……それをも『嘘』にして、あやつらを生き返らせたりはせんのじゃのう、ての」
 
( ・∀・)「ジジィ、嘗めてんのか」
 
/ ,' 3「!」
 
 瞬間、モララーの拳がアラマキの顎にぴたりとつけられていたことに気が付いた。
 ノーモーションからの、まさに一瞬。
 どのような『嘘』を吐いたのかは言うまでもなく想像できる。
 アラマキは、その行動に驚きを隠せなかった。
 
 それ以上に、いきなり剥き出しにされたモララーの殺気にアラマキは圧倒された。
 先ほどまではおどけた様子だったモララーが、なぜかいきなり殺気を奮い立たせたのだ。
 強者のモララーがそうしただけに、びりびりと肌で感じるそれにアラマキはただたじろぐだけだった。
 
 
.

383 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:15:22 ID:yFbeLTKIO
 
           コ レ
( ・∀・)「俺の【常識破り】はあくまで『嘘』、虚構なんだぜ」
 
( ・∀・)「虚構のショボンやワタナベを生み出して、俺が喜ぶとでも思ってんのか?」
 
/;,' 3「………」
 
( ・∀・)「それに、『もう一度あいつらのスキルを使ってもらったらいい』とかほざいたら、顎かち割るぞ」
 
 
( ・∀・)「そんな、虚構の勝利なんざ渡されても――」
 
 
 
 
( ・∀・)「……俺は、ちっとも満たされねーんだからよ」
 
 
 
.

384 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:16:39 ID:yFbeLTKIO
 
 
/ ,' 3「…っ」
 
 モララーがそう言うと、顎につけていた拳を離して、モララーは踵を返した。
 両手は力なくポケットに突っ込まれ、顔を俯かせたモララーは彼ら三人のもとから遠ざかるように歩いていく。
 
 ざっ、ざっ、と地面の砂を削る音が、この彼らを取り巻いている静寂に程良くマッチする。
 それに相俟って、モララーの背中には哀愁が感じられるようにもなっていた。
 
 アラマキは、暫くの間、そのまま立ち尽くしていた。
 何も言葉を発さずに、ぼうっと。
 
 
 
 
.

385 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:17:54 ID:yFbeLTKIO
 
 
 

 
 
 
(-、-トソン
 
 トソンは、淡々とグラスを磨き続ける。
 汚れがひどいとか、それに血痕が残っていたとか云う理由ではない。
 ただ、惰性的にそうすることがバーテンらしさを醸し出すからしているだけだ。
 
 実際にこうして磨いている間に考えていることは、付いている汚れをとることなどではなかった。
 今晩の献立はどうしようか、とか。
 モララーのせいで買い物が邪魔された、とか。
 あとでどんな酒を呑もうか、とか。
 隣でごろごろしているビーグルのこと、とか。
 ――ビーグルの今後、とか。
 
 取り立てて言うまでもないことばかりで、心中に留めるのが相応しいものばかりだ。
 その心情は穏やかでも、緊張でも、虚無でもない。
 至って平生の、「トソン」と云う心情である。
 
 
(-、-トソン
 
 カウンターを挟んで向かいにいるネーヨのことを意に介さない。
 自分の世界に入り込み、トソンと云う思考を巡らせる。
 
 それに飽きたのか、ネーヨは空のグラスを左右に傾けるのもやめ、カウンターにそれを置いた。
 その音でトソンが気づくかと思ったのだが、依然トソンは目を瞑りグラスを磨き続けている。
 ネーヨはやれやれと思ってから、仕方なく口を開くことにした。
 
 
.

386 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:18:52 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「トソン」
 
(-、-トソン
 
 だが、返事はない。
 静かな呼吸音しか聞こえない。
 
 
( ´ー`)「トソーン」
 
(-、-トソン
 
 ネーヨが再度呼びかける。
 やはり、返事はない。
 無視をしているのかそれが平生なのか。
 
 ネーヨは判断に困ったが、ネーヨが頬杖を付くと、トソンの足下にいたビーグルが、今度は腹を見せて左右に揺れ始めた。
 その小動物特有の理解し難い行動を知ってか、トソンの頬が僅かにだが歪んだ気がした。
 それをネーヨが見落とすわけがない。
 
( ´ー`)「おめえ、実は起きてんだろ」
 
(゚、゚トソン「まあ」
 
( ´ー`)「なんつーやつだ」
 
 
▼・ェ・▼「くーん…」
 
(゚、゚トソン「あ、もう……。餌は後でモララーに買いに行かせるから、待ってて?」
 
▼・ェ・▼「くぅ……」
 
( ´ー`)「……なんつーやつだ」
 
 
.

387 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:19:57 ID:yFbeLTKIO
 
 
 ネーヨは何度目になるかわからない溜息を吐いた。
 溜息を吐くたび、幸運が逃げる。
 そのような言葉を幾度となく聞いてきてはいるけれど、吐かざるを得ない時は自然と唇の隙間から零れ出るのだ。
 
 トソンが透き通った瞳を通してネーヨの顔色を写真のレンズで写すかのように見る。
 シャッターを切るように瞬きもしてみる。
 真面目すぎる、と叱られもするトソンではあるが、『拒絶』たるネーヨと馴れ合うつもりなど到底ないのだ。
 
 寡黙、が似合うその姿にもネーヨは飽き飽きしていた。
 だから、そんなトソンの所以など考えもしなかった。
 
( ´ー`)「客、来ねえのな」
 
(゚、゚トソン「……?」
 
 ネーヨがそれほど興味なさそうに訊いてみると、トソンは首を可愛らしく傾げるだけだった。
 その質問の真意はおろか表面の色すら読みとろうとはしないのだから、ネーヨもこれは重症だ、と苦笑した。
 トソンと云う女性は、得てしてその真面目さが性分なのだ。
 
 
.

388 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:21:04 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「一応、店じゃねーかココ。俺らに奢ってばっかだわ他の客は来ねえわで、大丈夫なのかよ」
 
(゚、゚トソン「運営なら問題ないです。お金は適当に掻っ払えばいいだけですから」
 
 悪びれた様子をその片鱗すら見せずにしれっと言ってのけたため、ネーヨは若干引いた。
 ネーヨは倫理や道理、などと云ったものを意識することはないのだが、トソンの考えには同意できなかったのだ。
 そして、バーを運営する背景にそのような事情があるとわかると、酒の味が濁る気がしたのだ。
 
 裏通りに赴けば、嘗てネーヨが直面したクックルと云う賊に見られたように、
 掻っ払いと云う行為は日常茶飯事であるとわかる。
 
 しかし、賊は低俗、とネーヨは考えている。
 低俗な輩と同じ事をする人が目の前で自分に酒を注いでいる、と考えるだけで酒の味も変わるのだ。
 酒とは実に面白い、とネーヨは思った。
 
 
 ――と彼が無関心な顔色を浮かべていると、トソンが言葉を続けた。
 彼女の口はまだ止まるつもりはなかったそうなのだ。
 
(゚、゚トソン「それに、元マスターに叱られます」
 
( ´ー`)「……元マスター?」
 
 
.

389 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:22:26 ID:yFbeLTKIO
 
 
(゚、゚トソン「ショボンさんですよ」
 
( ´ー`)「そうだったんだ」
 
 ネーヨは口先だけで応える。
 
(゚、゚トソン「驚かないのですね」
 
( ´ー`)「興味ねえしな」
 
(゚、゚トソン「……はあ」
 
 トソンは、褒められると思って期待で胸を膨らませていたところ
 その予想とは裏腹に褒められなかった、そんな小学生の気持ちになった。
 
 酒の肴にでもなるだろうから、ネーヨは食いつくと思っていたのに。
 そう思うと、若干興醒めに近い心情になった。
 トソンは幸せを逃がして溜息を吐いた。
 
(゚、゚トソン「……ショボンさん、モララーの宣戦布告の前日に、急に私にバーを委せてきたのですよ」
 
( ´ー`)「それより前もおめえがバーテンじゃなかったっけか?」
 
(゚、゚トソン「それはお手伝い、言うところの見習いです」
 
( ´ー`)「確かに動きは覚束なかったけど、よ」
 
 トソンは差し出されたグラスを取り、酒を注ぐ。
 淡い赤色がライトの反射で栄えるそれを、ネーヨに返した。
 上戸のネーヨはいくら呑んでも簡単に酔うことはない。
 
 
.

390 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:23:48 ID:yFbeLTKIO
 
 
(゚、゚トソン「そんなこのバーを、客足が遠退くくらいで閉店しちゃっては、何をされるか堪ったものじゃありません」
 
( ´ー`)「だからって、酒がまずくなるようなことは言うなよ」
 
(゚、゚トソン「私は正直ですから」
 
 やはり悪びれる様子もなく答える。
 店内に犬を連れ込んでいる――正確に言えばモララーのせいではあるが――
 時点で、掻っ払いが悪いも何もないのだろうが。
 ネーヨが酒を口に運ぶのも、ネーヨのように無関心な心構えで見るだけであった。
 
 グラスの半分ほどを一気にのみ干して、ネーヨはグラスを置いた。
 トソンを見ると、彼女はいつの間にかグラスを磨く作業に戻っている。
 目を閉じ、淡々とするその姿は人間によく似せたロボットのように見えなくもない。
 これでは何も面白くないので、ネーヨは仕方なくトソンの話にのることにした。
 
 何よりも大事なのは、酒だ。
 ――今は。
 
 
.

391 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:24:49 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「けどよ、いくらショボンだからってなんでおめえに店譲ったんだ」
 
 語尾を吊り上げ、わざとらしく問いかけた。
 漸く褒めて≠烽轤ヲたトソンは、内心で喜んで、話に応じる。
 
(゚、゚トソン「わかりません」
 
( ´ー`)「……おい」
 
(゚、゚トソン「ただ……」
 
( ´ー`)「ただ?」
 
 
 
(゚、゚トソン「こう云う『現実』になるのだ――って、わかってたのかもしれません」
 
(゚、゚トソン「それか……そう云う『現実』にした≠ゥ……」
 
 
( ´ー`)「……どう云うことだ?」
 
(゚、゚トソン「恐らく――考えたくはないですが」
 
 トソンは、知らぬ間に速くなっていた呼吸を、整えた。
 何かに夢中になると生命活動すら疎かになる、面白い体質なのだ。
 
 
(゚、゚トソン「ショボンさんは、今頃……」
 
 
 
.

392 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:27:30 ID:yFbeLTKIO
 
 
( 、 トソン「……」
 
( ´ー`)「……」
 
 そこで、トソンは次の言葉を発さず、少し俯いた。
 照明の角度の影響で、トソンの顔色は壁となった影のせいで見ることができない。
 しかし、トソンが、それとなくマイナスな言葉を紡ごうとしていたのだろう、とだけわかることはできた。
 
 
( ´ー`)「どうでもいいけどよ」
 
(゚、゚トソン「!」
 
 
 ネーヨが予想外の言葉を発して、トソンがそれに食いつかないわけがなかった。
 どうでもいいわけがない、ショボンは仲間――いや、同志だぞ。
 
 喉まででかかったその言葉を、無理矢理押し込める。
 結果、肺が一瞬大きく膨れ上がっただけとなった。
 その動きは、カウンター越しではわからなかっただろう。
 
 
( ´ー`)「生きている以上、死ななくちゃならねえんだよ。
      それが『現実』で、ショボンはその『現実』の名の下に生きる以上、それには抗えねえんだ」
 
( ´ー`)「モララーだってそうだ。『嘘』で塗り固めた蝋燭みてえな男だが、
      『それは嘘の塊である』っつー『真実』には抗えん」
 
( ´ー`)「みんな、案外そう云うもんなんだよ。『拒絶』だろうとな」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
.

393 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:28:25 ID:yFbeLTKIO
 
 
 トソンは、黙り込んだ。
 『拒絶』の代名詞が言おうと説得力は皆無な言葉ではあるが、トソンの心を数ミリでも揺さぶるには充分なものだった。
 その言葉でトソンの何かが変わる、と云うわけではないのだが。
 
 ネーヨは姿勢を正して、トソンに指を突きつけた。
 掌を上に、トソンに挑発するように突きつけた人差し指の関節をかくかくと動かせる。
 
( ´ー`)「俺が『拒絶』の在り方っつーもんを見せてやるよ」
 
(゚、゚トソン「?」
 
 
 
 
( ´ー`)「俺の心臓を、拳で貫いてみろ」
 
 
 
.

394 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:29:41 ID:yFbeLTKIO
 
 
(゚、゚トソン「!」
 
( ´ー`)「おめえのスキルなら、ダイヤモンドだろうと、指ぱっちんで破壊できんだろ?」
 
 それは知っている。
 トソンの能力ならば、この世界に存在してはならないべきである筈の数値を叩き出す事ができるのだ。
 兆の兆乗、も。
 無限の更に上の数値、も。
 
 わからないのはそこではない。
 なぜ急にこの男は。
 ただ、それだけだった。
 
 ネーヨは尚も続ける。
 
 
( ´ー`)「たった一人の男を、ばらせねえっつーのか?」
 
(゚、゚トソン「……どうして、見え透いた挑発を?」
 
( ´ー`)「挑発じゃねえよ、講座だ」
 
(゚、゚トソン
 
 
( ´ー`)「教師が身を賭して生徒に教えんだよ、『拒絶』を」
 
( ´ー`)「ショボンやモララーがするような虚構の『拒絶』じゃねえ―――」
 
 
 
.

395 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:31:12 ID:yFbeLTKIO
 
 
 
( ´ー`)「ホンモノの『拒絶』を、なあ」
 
 
( 、 トソン「……」
 
 
 不敵な笑みを浮かべるネーヨに、トソンは口を子供のように尖らせるだけだった。
 自分が文字通り子供のようにされている気がして、嫌な気分になった。
 それがネーヨの目論見――挑戦の効果に過ぎないものとは知らず。
 
 
 
 ネーヨが、そんなトソンに一瞥を与えてグラスに手を伸ばした時
 
 トソンは、ネーヨの真後ろに、右拳を構えて現れていた。
 
 
 
 
.

396 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:34:48 ID:yFbeLTKIO
 
 
 

 
 
 
( ^ω^)「人……捜し…?」
 
 
 このような場所で放たれるには些か不釣り合いな言葉を聞いて、内藤はきょとんとした。
 頬をなぞる風が実体を伴っているようで気味が悪く、一歩道を逸らせば
 腹を空かせたハイエナ――『能力者』――が飛びかかってくるような、裏通りで。
 
 内藤は、知らずのうちに唾を音を立てて呑み込んでいた。
 同時に、少女が内藤への光を遮るように背を向け歩き始めたため、見えづらかった容姿を見ることができた。
 背中、エス字の窪みの部分にまで伸びた髪は、とても艶やかだ。
 
 その色に合うようにセレクトしたのか、羽織った薄手のコートも藍色だ。
 黒いストールを、胸の谷間の部分をシャツ越しに隠すように巻き、その尾ひれを背中に垂らしている。
 彼女が歩くたびに、そのストールは風に乗って、ひらひらとなびく。
 
 寒色、それも暗い色が好きなのか、下もデニムのショートパンツを選んでいた。
 太股の半分も覆わないそれは、彼女自身のボディラインが美しいからこそ、実に体格に映えていると言える。
 
 皮のロングブーツが、そんな長くすらっとした脚を一層際だたせているのだろう。
 内藤の目には、悩殺されかねない程の魅力を以て映されていた。
 
 
.

397 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:37:03 ID:yFbeLTKIO
 
 
 だが、そんな容姿よりもある一点を内藤は凝視していた。
 右手にはめられた銀のブレスレットから垂らされている、鍵を象ったアクセサリーだ。
 名乗らなくてもいいから、そのブレスレットについて話を聞いてみたい、と内藤は思った。
 それほど、それが――鍵が、重要な気がしたのだ。
 
 内藤に背を向け、少女は足を進めていく。
 裏通りに散らばるコンクリートの破片、血液や精液の跡、儚くも散った命などを踏みしめ、止める様子を見せない。
 冷静な『能力者』ならば、ここで足を止める筈もないのだろう。
 内藤は、言ってから気が付いた。
 
 しかし、少女は踵を返さないものの、口を利いてくれはした。
 
 
川 ゚ -゚)「幼い頃に生き別れた、妹だ」
 
 
 それを聞いて、内藤はしめた、と思った。
 これを利用すれば、この少女とコンタクトをとれるかもしれない、と思ったのだ。
 『拒絶』に負けず劣らない存在である可能性の高い、少女と。
 『拒絶』の一件と違い、前以て事を止められるならば、とるべきコンタクトがない筈がない。
 
 
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398 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:38:44 ID:yFbeLTKIO
 
 
 実を言うと――実を言うまでもなく、内藤は一刻も早くこのパラレルワールドから帰還したいのだ。
 
 
 規格外の力が横行する、世界。
 治安や平和などからかけ離れた、世界。
 そして、自分が生み出したのだと云う、世界、から。
 
 生きた心地がしない。
 常に黒い霧が内藤の心臓を鷲掴みにし、握りしめることで血圧を上げているのだ。
 一寸先は闇、塞翁が馬の意味を、身を以て知りたいとは思う筈もない。
 
 常に何事も躯が資本で、命が先立って人生があるのだ。
 このままでは、生きると云う誇りを持って生きているのではなく、不安と共生し合っている、虚構の命ではないか。
 そう思うと、ますます暗黒のスパイラルに陥ってしまう。
 
 
 では、そう易々と帰られるのか。
 方法が無いと云う、物理的な意味で言うなれば帰れないだろう。言うまでもない。
 しかし、そこでもしその方法があったとすれば――?
 
 
.

399 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:40:20 ID:yFbeLTKIO
 
 
 嘗て、ドクオと会った段階でその方法が在ったならば、内藤はなんの迷いもなく帰還していたことだろう。
 物理的には可能で、それを止める要素が何一つないからだ。
 
 しかし、「今」はどうだろう。
 『拒絶』が『能力者』たちを狙い、惨殺や虐殺、抹殺を謀っている、「今」は。
 
 嘗て、このような空想を抱いたことがあった。
 内藤がそのときに出した答えは、ノーだ。
 
 目の前に在る脅威が自身の人生、命を脅かしていると云うのに、なぜ帰ることができようか。
 言い換えれば、方法があろうと、内藤に「帰る」と云う選択肢はなくなる。
 そして、それは脅威が存在する限り、適用されるのだ。
 
 
 ――目の前に、新たな脅威がいるんだお。
 
 静かに息を整えながら、内藤は思った。
 たとえ、『拒絶』を根絶やしにしようと。
 続けざまになにか脅威が現れれば、やはり帰れなくなるではないか、と。
 
 その脅威が、目の前にいる。
 その脅威を排除できるならば、内藤としてとるべき選択は、それ≠セったのだ。
 
 
.

400 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:42:19 ID:yFbeLTKIO
 
 
 少女は、そこでぴたりと足を止めた。
 止める筈もなかろう、と思っていた足を、少女は止めたのだ。
 
 内藤は思わず目を細めた。
 そして、少女は月によく似た街灯を、見上げた。
 
 
( ^ω^)「じゃあ、僕も捜すの手伝――」
 
 
 しかし
 
 
川 ゚ -゚)「『自分で汗を掻かず、他人に汗を掻かせたことで逢うことができました』」
 
川 ゚ -゚)「そんな『終焉』を、果たして妹は笑って受け入れてくれるのだろうか」
 
( ^ω^)「……っ」
 
 少女は、内藤の申し出を全部聞き届けるまでもなく、嫌みったらしく言った。
 同時に、内藤は口を無理矢理閉じさせられたような、そんな錯覚に陥った。
 内藤の位置からでは彼女の表情は窺えないのだが、声色からするに、
 発言内容とは裏腹に少女の顔は無一色であろう、と思われた。
 
 そして、内藤がたじろいだのにはもう一つ理由がある。
 言っている内容に文句の一つもつけられず、そして少女の心情を端的に顕しているように思えたからだ。
 
 幾年もの歳月をおいて出逢えた肉親において、他人の協力が緩衝材となっていたならば、その感動は薄れるに違いない。
 それどころか、当の肉親への愛情が空虚なもののように思われるのではないだろうか。
 そう考えると、内藤の申し出を受け入れる必要性はどこにもない。
 してやられた、と内藤は思ったわけだ。
 
 少女は続ける。
 
 
.

401 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:43:35 ID:yFbeLTKIO
 
 
川 ゚ -゚)「近々……ほかの妹にも捜索を手伝わせるよ」
 
(;^ω^)「お?」
 
 内藤の耳に届いた言葉に、不吉なものが混じっていたような気がした。
 だから、内藤は少し顔をしかめた。
 ぎゅっと拳を握りしめているのに気が付いたのは、このときだ。
 
 それゆえ、内藤が話をより細密に訊こうとしたとき。
 少女は少し俯いた。
 
 
川 ゚ -゚)「こんな能力も与えられた≠フに……その妹を、見つけられないんだ」
 
 
川  - )「時間を『封印』することだって、できるのに」
 
(;^ω^)「ちょ、あん―――」
 
 
 
 
( ^ω^)
 
 
( ;゚ω゚)「!?」
 
 
 
.

402 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:45:21 ID:yFbeLTKIO
 
 
 内藤は、一瞬目を疑った。
 瞬きすらせず少女を凝視していたのが、一瞬にしてその少女が消えてしまったからだ。
 
 いくら『能力者』と言えど、信じられなかった。
 先ほどまで持っていた不安や緊張なども相俟って、衝撃は一層強かった。
 
 同時に、内藤は「しまった」とも思った。
 ――脅威が、逃げてしまった。
 
 
( ;゚ω゚)「おおおおおおおおおおッ!」
 
 
 内藤は思わず、奇声をあげて走り出した。
 自分や少女を照らしていた街灯に向かって、様々なものを踏み散らかして。
 何も考えられず、気が付けば半ば本能的に走り出していた。
 
 
 ――ふざけるなお、『拒絶』どもを倒したらすぐに帰るんだお!
 
 内藤はそう思って、無意識のうちに走り出していたのだろう。
 なんとかして『拒絶』を根絶やしにすることができた上で「方法」が見つかれば、それでゲームは終わるのだ。
 逆に言えば、『拒絶』と云う目の前の脅威を払えば、帰られる可能性が僅かだろうと出てくるのだ。
 
 だが、そこであの少女たちと云う脅威が新たに加われば、どうだろう。
 現段階でそれが脅威と決まったわけではないが、内藤の原作者としての本能は、それを脅威と確信している。
 
 そんな彼女が――いや彼女の言い分からして、「たち」。
 彼女たちが脅威と姿を変えて内藤たちの前に現れては、内藤としては手遅れだ。
 
 
 今度は、その脅威を払わなければならない。
 
 
.

403 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:47:43 ID:yFbeLTKIO
 
 
 『拒絶』と云う第一ステージでさえ、あれほどあの三人は負担を負っている。
 なのに連続で脅威が迫ろうものなら、いつかは倒れてしまうだろう。
 どんな耐震性の強い家屋でも、何度も連続で揺らされては耐震材からぽきりと折れてしまうのだ。
 
 帰りたい、と願う内藤にとって
 ここで少女を逃がしたことは、延命ならぬ延死≠ノ繋がる。
 生きているか死んでいるかわからない状態≠ェ、長引いてしまうのだ。
 
 
( ;゚ω゚)「(そりゃー、僕も小説で次のステップへとあがるために伏線を敷いたりはするお。
      でも、なにもそんなことまでこの世界に反映されなくてもいいのにお! お節介だお!)」
 
 奇声は止んだが、足は止まらなかった。
 僅かな角度の変化により、先ほどまで見えていた街灯が建物に隠れて
 見えなくなってしまったが、それでもその方角に向かって内藤は走り続けた。
 
 砂利やコンクリートの破片を蹴っ飛ばす。
 たまに、腐敗臭の絶えないゴミ箱の中身をとばしたりもした。
 
 暗いこの周辺で、街灯も遠ざかっていき、いよいよ本格的な闇が内藤を包み始めていった。
 そんな頃、ついに内藤は走るのをやめざるを得なくなった。
 フェードアウトしていくように駆け足を止め、そして静止する。
 内藤の息は、嘗てない程に荒れまくっていた。
 
 
.

404 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:49:04 ID:yFbeLTKIO
 
 
 中腰になり、膝の上辺りをがしっと掴む。
 気づいていなかった汗が洪水のように溢れ出してきて、服を、ズボンを、髪を濡らす。
 喉が渇ききって、息を吐き出すたびに痛みを感じる。
 いきなり走り始めたため、若干目眩も襲ってきたようだ。
 だが、今はそんなことが気にならない程、内藤は焦っていた。
 
 なぜあそこまで焦ったのだろうか。
 おそらく、内藤の、原作者としての単なる勘、だろう。
 自分ならあの少女を伏線に次なるステージへと物語を進ませる=B
 そんな小説家らしい発想が本能的に浮かんできてしまったので、こうなった。
 根拠はなくとも、これが内藤自身でも考え得る限り最適な推測だった。
 
 
( ; ω )「………」
 
 着々と、息が元に戻ってくる。
 それを実感して、内藤は漸く姿勢を元に戻した。
 シャツなどがびっしょりと濡れたことで、裏通りの暗い風が冷たく感じる。
 頭も一緒に冷やされたのか、内藤はやっとこさ落ち着くことができた。
 
 
.

405 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:50:17 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ^ω^)「……時の流れを『封印』して、僕の動きを間接的に止めた隙に逃げたのか、お。そら追いつかんわ」
 
(   ω )「………説得は、無理だった……か」
 
 自嘲するように、額の汗を右腕の肘辺りでぬぐい取る。
 近くの壁にもたれ掛かるように、内藤はふらふらと傾きだした。
 
 ぎい、と音を立てるように内藤は体重をかける。
 すると、足が重くなっていることに気が付いた。
 気を抜くと、ここで倒れてしまいそうだ。
 内藤は気をしっかりと保って、ぐッと堪えた。
 
 新たなる脅威が生まれる筋書きであろうと、「今」にはなんの支障も来さない。
 それよりも、「今」に支障を来している脅威、『拒絶』を意識しなければならないのだ。
 そう自分に言い聞かせて、内藤は首を振るった。
 
 
.

406 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:51:42 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ^ω^)「だいぶ走ってきたけど……」
 
 そして、ここがどこかを把握しようと、壁にもたれ掛かるのをやめた。
 その壁から少し距離をとって、辺りを見渡そうとする。
 
 だが、その前に、内藤はそのもたれていた壁に目がいった。
 理由は、単純だった。
 
 それは壁ではなく、扉だった≠フだ。
 
 木製でできているのであろうが、相当磨かれたようで、艶やかな光沢を放っている扉だった。
 その扉の斜め前に、蛍光灯が内蔵された置くタイプの看板が目に入った。
 黒地にオレンジの、洒落た字体で店名らしき文字列が記されてあった。
 日本語ではない。異国語だが、なんとなくで読めるものだった。
 
 内藤は独り言が漏れているのも忘れて、その名前を読み上げる。
 
 
( ^ω^)「バーボンハウス=c…?」
 
 
 
 
 
.

407 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:52:46 ID:yFbeLTKIO
 
 
 

 
 
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ´ー`)「どーした? 面食らった顔してよ」
 
 バーボンハウス店内、バーテンのトソンはネーヨを前に硬直していた。
 そんなトソンを宥める傍ら嘲るかのように、ネーヨが諭す。
 だが、ネーヨがそのように振る舞うから、一層トソンは硬直することになるのだ。
 
 自分の心臓が貫かれ、大量に出血している≠フにも関わらず、ネーヨは平生のまま酒を呷っていた。
 トソン自身が『拒絶』で『異常』と言えども、流石にそれを見てふつうだ、とは言えなかった。
 生死の概念を『反転』させたワタナベでさえ、心臓を貫かれたその瞬間をも真顔でいられる筈がないのに。
 この男は、至って真顔で、それどころか含み笑いを交えて、呑気なことを言っているではないか。
 
 自身の腕力における数値をでたらめなそれに改竄し、それで貫いたのに。
 心臓は跡形もなく吹き飛び、血もそれに伴ってごっそりなくなっている筈なのに。
 
 
 ネーヨは、生きていた。
 
 
.

408 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:54:06 ID:yFbeLTKIO
 
 
 ネーヨの胴体から、トソンは腕を引き抜いた。
 赤色ではなく、寧ろ茶色に近い血液が、べっとりと腕にへばりついている。
 粘着性があるのか、軽くどろっと血液が腕にまとわりついてくるのを見て、トソンは吐き気すら覚えた。
 ――否、吐き気を覚えていられる余裕すらなかった。
 
 引き抜いた腕をじっと見つめて、トソンは黙り込んだ。
 空っぽな脳で、必死に現状把握に努めようとする。
 それから五秒した頃であろうか。
 ネーヨがにやりと笑むと、にわかには信じられない光景がトソンの瞳を攻撃した。
 
 
(゚、゚トソン「……!」
 
 腕に付いていた、吐き気をも催す程の量の血はおろか、ネーヨの胴体の穴、
 カウンターに付着したおぞましい量の血、その全てが何事もなかったかのように消えてしまったのだ。
 ネーヨを殴った感触も消えたし、覚えていた筈の吐き気すら消えている。
 それを見て、トソンが驚かない筈もないだろう。
 
 そんなトソンの状態を背中で感じ取ったのか、ネーヨは軽く笑った。
 背後のトソンに向けて、まるで父親が息子に何かを教えるかのように、語り始めた。
 
 
.

409 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:55:02 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「俺は、全てを『拒絶』し、全てを『拒絶』すんだぜ」
 
( ´ー`)「心臓に穴が空いた? 出血がひどい?」
 
( ´ー`)「んなもん、」
 
 
 
 
 ―――知らねえよ。
 
 
 
 トソンは、その言葉を聞いた途端、震え上がった。
 違う、人間の発すべき言葉ではない。
 言葉だけではない、その言葉に籠もったオーラも、だ。
 こんなもの、人間が出すことを許されたものではない。
 
 
.

410 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:56:24 ID:yFbeLTKIO
 
 
 声帯でさえ畏縮したのだろうか、トソンは何かを言おうにも口をぱくぱくさせるだけだ。
 それでさえ背中で悟ったネーヨは、続けた。
 
 
( ´ー`)「『現実』に準拠した『拒絶』じゃねえし、『真実』や『因果』に準拠した『拒絶』でもねえ」
 
( ´ー`)「俺に――つまり、『拒絶』に準拠した、『拒絶』だ。何事にも絶対的な、『拒絶』だぜ」
 
( ´ー`)「そう云う意味で、あいつら――ショボンたちは不完全だ、つったんだよ」
 
 
(゚、゚トソン「   …… 。」
 
 
 ネーヨはそう言ったきり、再び酒を呷り始めた。
 もう何杯目にはいるだろうか、だと言うのにまだのみっぷりは変わっちゃいなかった。
 トソンはなんとも言えない、形容しがたい気分になって、ただ呆然とするだけだった。
 
 すると、ネーヨがグラスをいい音を立ててカウンターにたたきつけた。
 それは、それまで意識の世界に居たトソンを、現実の世界に呼び戻した音だ。
 はッと我を取り戻して、トソンは所定の位置に戻る。
 
 ネーヨはやはり不敵な笑みを浮かべたまま、右手で頬杖をついた。
 トソンが手際よく酒を注ぐのも見ずに、ただぼうっと明後日の方向を眺めていた。
 その方角に、求めているものがあるのだろうか、と。
 どうでもいいようなことを、考えながら。
 
 
.

411 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:57:13 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「……本当に、誰も来ねえな」
 
 少しして、ふと出た言葉がそれだった。
 酒を待つまでの間に、繋ぎとして放ったものだ。
 トソンは手をなめらかに動かしながら、応える。
 
(゚、゚トソン「そりゃそうでしょ、まだ閉店時間です」
 
 他に客が、来るはずもないでしょ。
 そう言った時、ネーヨは少し意外そうな顔をした。
 トソンは、一瞬それが自分に向けられているような気がして、どうしたのだ、と思った。
 
 だが、それが自分に向けられていないとわかったのは、
 すぐに表情を取り戻したネーヨが放った、言葉を聞いた時だった。
 ネーヨは頬杖にしている右手に力をいれ、頬にしわをつくる。
 そしてふてぶてしいまでに不敵な笑みを浮かべては、言うのだった。
 
 
 
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412 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/14(月) 15:57:52 ID:yFbeLTKIO
 
 
( ´ー`)「……来たぜ。おもてなししな」
 
(゚、゚トソン「は? なんの―――」
 
 
 直後、入り口の扉が鈍い音を立てる音が聞こえた。
 はッとして、加えてまさか、と思って、トソンはそちらの方向に目を遣った。
 すると
 
 
 
 
(;^ω^)「やってますかー…?」
 
 
 
( ´ー`)「……」
 
(゚、゚トソン「――…っ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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