( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

456 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:50:32 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
 
 
.

457 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:52:13 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
○前回までのアクション
 
川 ゚ -゚)
→逃亡
 
( ^ω^)
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
 
( ・∀・)
→撤退
 
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議 
 
 
.

420 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:13:15 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
  第二十話「vs【771】T」
 
 
 
 アニジャ=フーンは、こめかみの汗を拭って、襟を整えた。
 
 ネーヨ=プロメテウスが足早に小屋を飛び出していったのが最後、
 気が付けばネーヨのその足取りを追うことはできなくなっていた。
 性格からして、たとえ目の前に世界一旨い料理があったとしても決して走って取りにはいかない筈の彼なのに。
 なぜか、アニジャが彼を追うことはできなかった。
 
 アニジャも足は速い方である。
 ただ長身ゆえに脚が長い、と云うだけだが、常人よりは少なくとも速い。
 ネーヨを常人と云う一括りに入れるわけにはいかないのだが、
 そうだとしても徒歩のネーヨに撒かれるまではいかないだろう。
 
 ネーヨだって人間だ。
 本気で走ればそうとは限らないが、少なくとも無意識下による徒歩に関しては常人と同等の速度であるだろう。
 街中――それも方角を考えると裏通り――に向かった、と云うことまではわかったが、それ以上の収穫はない。
 
 寂れた繁華街の通りの真ん中を、ポケットに手を突っ込み顔を俯けながらアニジャは歩く。
 寂れた、とは閑古鳥が鳴いている、と云うわけではない。
 文字通り、「寂れている」のだ。
 
 どこぞの廃病院とも知れない不気味さを醸し出しており、ひびの入ったコンクリートの壁や砕け散った窓ガラスなどが見える。
 ここは治安の悪いこの王国でも上位に入るほどの治安の悪い街であり、方角やネーヨの考えそうな目的からして
 ネーヨはこの近辺に来たのではないか、とアニジャは予想したのだが、はずれだったようだ。
 
 人為的な物音がしない。
 得体の知れない虫が這っていたり、カラスや凶暴な野良犬がゴミを漁ったりこそしているが、
 人間が活動しているような音は、全く聞こえてこなかった。
 こう云うところならば強姦や強奪などするのに適していそうな気もするが、当のアウトローたちもこの不気味さまでは好まないのだろうか。
 地盤が見えている通りを見ながら、アニジャはふとそう思った。
 
( ´_ゝ`)「…臭いな」
 
 意識を繁華街に向けると、「風」が気にかかった。
 生温く、湿気が高く含まれている不快な風。
 その湿気も助長しているのか、なにかの腐敗臭がアニジャの鼻を突く。
 とても、鼻をつまんだ程度じゃ解消されそうにない臭いだ。
 
 
.

421 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:14:02 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 血の匂いは幾度となく嗅いできたが、腐敗臭は未だに慣れない。
 王国の裏通りで嗅ぐことは頻繁にあるのだが、血の匂いと違い、こちらはひとえに「腐敗臭」と言っても、その臭いはまさに千差万別の世界なのである。
 慣れたは慣れたでまた問題があるが、この王国で暮らす者として未だに腐敗臭に嫌悪感がさすのは些か大きなハンデとも言えた。
 そう云った環境面にてマイナスな影響を受けると云うのは、地味ながらも厳しいものなのだから。
 
( ´_ゝ`)「帰ったらオニオンスープでも食うか」
 
 嫌な臭いを嗅いだのを気分的にだけでも解消しようとすると、真っ先にオニオンスープが浮かんできた。
 イメージの世界から、湯気に香ばしい玉葱の匂いを乗せてアニジャの嗅覚を刺激してくる。
 オニオンスープ自体好物であるアニジャにとって、そのイメージはアニジャに空腹をもたらすものともなった。
 湧いてくる唾液が、その証拠である。
 
 ネーヨもいないことは既にわかっていたし、オニオンスープを呑むと云う使命も課されたので、アニジャは踵を返した。
 先ほどまで見てきた看板や壁の光景が、再びアニジャの前方に立ちはだかる。
 空は心なしか薄暗く、黄砂でも吹いてきそうなほど不穏な空気が漂っている。
 
 少し口を閉じたままその光景を舐めるように見て、そして歩き始めた。
 なぜ、ここまで荒廃した地域が出てくるのだろうか。
 アウトローや『能力者』が暴れる地域が出てくるまでは理解できるにしても、
 さすがにその人たちでさえ寄りつかない地域ができるとは、理解しがたいものがある。
 
 政治家も政治家で、治安の悪化に乗じてのし上がってくるくらいなら、
 こう云った治安を晴天へと誘(いざな)うような公約をしてくれれば投票するのに、
 とアニジャは思ってから、その馬鹿馬鹿しさに少し笑ってみせた。
 
 
.

422 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:15:18 ID:ZhkTU.Uk0
 

( ´_ゝ`)「そんな政治家がいるならこんな地域はでてこないよな」
 
 なにをわかりきっていたことを、とアニジャは自嘲する。
 別に正義に目覚めているわけでもなければ、昨今の政治に不満を抱いているわけでもない。
 ただ「自分の理解できないもの」を「悪」と決めつけると云うような心理状況に近いそれである。
 
 疲れているな、とアニジャは思い、頭をぽりぽりと掻いて先を急ぐことにした。
 未だに、この鼻を突く腐敗臭はするのだ。
  
 
( ´_ゝ`)「……あ」
 
 数歩進んだところで、アニジャはぴたりと止まった。
 口を少し開いて、糸目は上向きとなる。
 
( ´_ゝ`)「……そうだ、これは『不運』だったんだ」
 
( ´_ゝ`)「なんで撒かれたのかと思えば……」
 
 ふと、心当たりが浮かんだのだ。
 なぜ、徒歩のネーヨに撒かれたのか、について。
 普通なら、速度でも勝っていて、視力的にも問題がないのに見失うことなど、ない。
 
 だが、そこで『異常』――『不運』が起こったとしたら。
 アニジャは、そう考えると納得した。
 他に濃厚な線を見つけだすことが不可能であると思われるほど。
 
 
.

423 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:16:02 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 アニジャは文字通り【771《アンラッキー》】なだけあって、日常生活においてもこのような『不運』はよく起こるのだ。
 無意識のうちに、それも対象すらわからぬうちに引き起こされる『不運』であるため、対処のしようがない。
 なにもこんなところで発動されなくてもいいのに――
 アニジャは自分を情けなく思い、鼻で軽く笑った。
 
( ´_ゝ`)「………帰ろ」
 
 もう他に『不運』が起きないように、と祈って、アニジャはこの不気味な繁華街から抜けることにした。
 ぼうっとしていると、そのうち野犬などに襲われそうだ。
 家では、湯気をたてているオニオンスープが待っている。
 「待っていろ」と心の中で呟いて、アニジャはまた一歩を踏み出した。
 
 
 
 
 
 
 ――そこで、声がかけられるとは思いもしなかった。
 アニジャは、背後から男に声をかけられた。
 無人だと思っていたため、アニジャは最初それが人間の声とは気づかなかった。
 
 やや高いが、男の声だ。
 アニジャに制止を呼びかけている。
 敵意を感じることはなかったが、どうも友好的には感じ取れなかった。
 こんなところで友好的に接してくる男など、いる筈もなかろうに。
 
 そう思うも、アニジャは聞こえていないふりをして足を進めた。
 すると、もう一度声が聞こえた。
 
 
  「ちょっと君、止まりなさい」
 
 
 聞き違いや気のせいではない。
 確かに、それは制止を呼びかける声だ。はっきり聞こえた。
 ここまで来ると応じないわけにはいかない。
 アニジャは足を止め、振り返った。
 
 
.

424 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:16:43 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
(・∀ ・)「ちょっといいかね?」
 
 紫色のシャツの上から黒いロングコートを羽織った、男だった。
 黒いテンガロンハットの、広い鍔から覗き込んでくるように見える眼は、アニジャをじっと見つめていた。
 帽子のせいで顔つきを見ることはできないが、声色からしておそらく二十歳余りだろう。
 身長は、その年齢にしては平均かやや高めの、目測一七〇後半。
 体格はよく、痩身のアニジャと比べると力もありそうだった。
 
 その口振りから、アニジャは最初警察官かそう云った類の人かと思ったが、容姿からはとてもそのようには見えない。
 少し警戒心を抱いて、アニジャは体躯をその男の方に向けた。
 気が付けば腐敗臭も感じなくなっていた。
 意識が、目の前の男に完全に注がれていたからだ。
 
 警察官のような手振りを交えながら、男は歩み寄ってきた。
 手をぷらぷらさせたり、首を上下に揺らしたりと、やや自尊心が強そうに見える。
 なんとなく、アニジャはこの男を好きになれない、そんな気がした。
 そんなこととはつゆ知らず、男は話しかけてきた。
 
(・∀ ・)「こんなところで、どうしたんだ? ここは一般人が来るところじゃないぞ?」
 
 やはり、口調だけは警察官のようである。
 この黒いロングコートが藍色だったなら、警察官と見間違えていたかもしれない。
 だが、囮捜査などと云った事情であるだけなのかもしれないと思い、アニジャはあくまで低姿勢で接することにした。
 
 アニジャと云う人間そのものに後ろ暗いことはないのだが、裏の繋がりが多岐に渡っているのだ。
 その繋がりを模索されては、面倒なことに巻き込まれかねない。
 ここは偶然道に迷った観光客のふりをして、帰るのが一番だ。
 
 
.

425 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:17:50 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( ´_ゝ`)「観光にきたのですが……案内人とはぐれてしまって……」
 
 元からアニジャの声はこのようにか細いものなのだが、この状況下では心細さの顕れのように聞き取れるため、説得力はあるだろう。
 言葉を発してから、アニジャはふと思った。
 痩身だし、この声の細さ。疑われはしないだろう。
 
 実際、相手もそのことに関してはさほど疑おうとはしてこなかった。
 だが、吐いた嘘の内容がやや問題だった。
 
(・∀ ・)「どう迷ったらここに着くのかがわからないが……」
 
( ´_ゝ`)「…あ」
 
 
 
 アニジャはすかさず口を閉ざす。
 ――しまった、勘ぐられたか。
 
 アニジャにしては珍しく墓穴を掘ってしまったのだが、相手はあまり警戒心を抱いていないようだった。
 「不思議だな」と思っただけで、必要以上に追究してくることはなかったのだ。
 
 裏通り――廃墟に現れる者として、この警戒心の無さは問題ではあるのだが、今回はそれが幸いした。
 むしろ、その幸いが転じて自身の死に繋がるのだが、アニジャはこの男には何もしようとはしなかった。
 
 そもそも、廃墟に現れる以上、ただの凡人と云う可能性は低いだろうからだ。
 一般人なら、この廃墟の不気味さを嫌うし、そうでなくてもいつかは能力を持つ賊に狩られる。
 ただのラッキーボーイであるだけなのかもしれないが、アニジャは「運」なんてものは信じていない。
 もしそうだとして、なんらかの真実味のある要素が彼を護ったのだろう、としか考えなかった。
 
 
.

426 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:19:00 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 『能力者』なら、無理に触発して厄介事を作る必要もない。
 触らぬ神に祟りなし。
 アニジャは適当にあしらって、帰ろうとした。
 
( ´_ゝ`)「とりあえず自分は帰ります」
 
(・∀ ・)「……」
 
 踵を返して、手をぷらぷら振りながらアニジャは歩み出した。
 振った手は少ししてからポケットに収め、また俯いて猫背になって歩く。
 痩身で長身なため、未来に希望がない大学生のような風格を持っている。
 あとは余計なことはせず、黙って帰ればいいのだ。
 
 
 
 
(・∀ ・)「ちょっと待ちなさい」
 
 
 
 ――アニジャは、戦闘の心構えをした。
 
 男の、やけに低くなった声がしたのだ。
 あわせて、アニジャは足を止める。
 背後から伝わる気配を察知して、いつでも戦闘に入る準備をする。
 
 アニジャの能力は能動的には発動できないので戦闘向きとは言えないのだが、肉弾戦ならある程度の心得はあった。
 といっても、剛ではなく、柔である。
 力のないアニジャは、相手の力を利用して骨や関節を折ったりするのだ。
 それがアニジャにとって一番利得的なスタイルであり、また疲れないからだ。
 
(・∀ ・)「きみ」
 
 声が続いた。
 
 
 
 
 
(・∀ ・)「『拒絶』について、なにか知ってるかい?」
 
 
 
 
 
.

427 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:20:26 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 

 
 
 
从 ゚∀从「モララー……」
 
 モララーが消えてから、ハインリッヒはぼそっと呟いた。
 モララーは、嵐によく似ている。
 目の前にやってきている時は凄まじいものなのに、過ぎ去るとそれまでの被害が『嘘』のようになくなるからだ。
 
 目の前で【常識破り】を披露していた時はハインリッヒは絶望しか感じなかったのに、
 消えた今となってはそのようなマイナスの感情はすっかり取り払われていた。
 それがどことなく嵐のような気がして、ハインリッヒは複雑な気持ちになった。
 
 同様に、アラマキも複雑な気持ちになっていた。
 だが、同じ心情でもその内容はハインリッヒのようなものではない。
 
/ ,' 3「意外に人間味のあるやつじゃの」
 
 嫌味を籠めて言ったのか、感心するように言ったのか、その声色と表情からはわからない。
 しかし、憤怒を見せているわけでないことは確かだ。
 
 『拒絶』はすべてを拒絶する――
 そう聞いていたのだが、実はそうではない、と。
 護るべきものはあるのだ、とわかって、少し『拒絶』の意味をわかった気になることができた。
 あくまで気、なので、全貌を知ったわけではない。
 
( <●><●>)「殺すべき対象であることに変わりはない」
 
 二人の呟きを聞いて、吐き捨てるようにゼウスは踵を返した。
 屋敷に戻ろうと、無駄の一切ない動きで扉へと向かう。
 二人は彼についていこうと、半ば慌てて歩き出す。
 そのときのゼウスは、不安や絶望など感じていそうではなかった。
 いつも通りの沈着な態度で、取り乱すことは一切ない。
 
 気がつけば、モララーにつけられた傷の『嘘』はなくなっていた。
 帰る際に、『嘘』を暴いたのだろう。
 別に傷を負わされたままでも、救護室に向かえばすぐに全快するのだが。
 
 【常識破り】の脅威を知ってなお、ゼウスは狼狽することはなかった。
 それはゼウスの元々の性格のせいでもあるのだが、以前にゼウスは身を以て【常識破り】を見せられていた。
 同じ手品を二度見ても驚かないのと同じなのであろう。
 
 
.

428 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:21:34 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
从 ゚∀从「じゃあどーやって殺るんだよボケ」
 
( <●><●>)「……ふん」
 
 鼻を鳴らすだけで返し、ゼウスは扉をくぐった。
 やはり、広大すぎるこの屋敷は、心強さを与えるとともに、心細さも与えるものとなっていた。
 
 
 エントランスへと続くモノトーンを、三人が歩く。
 甲冑がその目で彼らの適性審査をしているようにも見えた。
 その間、三人の間に会話などと呼べるものは存在しなかった。
 もとより馴れ合いの集団ではなく、加えて徒に会話を交わすほど心を許しているわけでもないからだ。
 
 社会的関係よりトライアングルを結ぶように敵対しあっている三人。
 ハインリッヒは妹をゼウスに殺され、アラマキはゼウスに二度の敗北を許している。
 だがゼウスのサポートのおかげで、壊滅的なダメージを受けていたにもかかわらず今のように動くことができる。
 
 ゼウスもゼウスで裏切りや寝首をかかれる可能性は高く、一人では【手のひら還し】に掠らせることすらできなかった。
 【ご都合主義】にいいように操られもしたし、【正義の幕開け】や【則を拒む者】のようなトリッキーな能力ではないため、
 一人では『拒絶』を拒絶することはほぼ不可能に近いと言えるだろう。
 
 そんな、複雑な同盟関係が、今のぎすぎすとした関係を作っているのだろう。
 そうでなければ、情など持ち合わせていないゼウスは彼らを「即殺」している。
 『全能』のゼウスは、自分にメリットがなければ同盟など組む必要がないのだ。
 
 
.

429 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:22:32 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 ゼウスの部屋について、漸く言葉と云うものが発せられた。
 ハインリッヒでもゼウスでもなく、年長者のアラマキの、だ。
 ハインリッヒはハンモックの上に、ゼウスは自分の椅子に腰を下ろし、アラマキはベッドの上に前に屈むように座った。
 元々薄暗い部屋のため、顔に影ができて、太い眉や髭も相俟って『威圧』の度合いが濃くなっている。
 その『威圧』から発せられる声は、すごく重いものとなっていた。
 
/ ,' 3「ふん、じゃなかろうに。
    【ご都合主義】は……ひーろーずわーるど?とやらで倒し、
    【手のひら還し】は概念の齟齬とタイムロゴで無理矢理倒すことはできたが……」
 
/ ,' 3「正直言っての、両方とも倒せたのは奇跡以外のナニモノでもないじゃろうて」
 
 ゼウスを鋭い眼で睨みつけ、現状が絶望的であることを再認識させようとした。
 持っている『拒絶』のオーラも、持っている《拒絶能力》も、確実に最初の二人を上回っているに違いない。
 今のような心構えでは、ラッキーは続かない、と言いたかったのだ。
 
 
.

430 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:23:28 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( <●><●>)「その脳は飾りか」
 
/ ,' 3「……ぬ?」
 
 噛みつくように、ゼウスが言い返した。
 
( <●><●>)「『拒絶』の共通点を挙げてみろ」
 
/ ,' 3「……はあ?」
 
 急に何を問うか、とアラマキは思った。
 だが、ゼウスは決して冗談を言う男ではない。
 一瞬呆気にとられたが、気にせず思いつく限りを挙げていった。
 
/ ,' 3「……まず、直視できないほど、場の空気を最悪にする、言うなれば『拒絶のオーラ』。
    で、特定のものに関する憎しみの度合いが『拒絶の精神』ってとこかの。
    また、その精神が強いほど強うなる《拒絶能力》。
    あと、トチ狂った思考。こんなもんかの」
 
 そして、挙げ終えたアラマキが最初に聞いたのは、ゼウスの溜息のような息だった。
 ゼウスは露骨に感情を吐露することも顕すこともないので、その僅かな変化で心情を見抜く必要がある。
 今の場合、若干強めに吐かれた息が失望や嘲りを顕している、ように。
 
 彼は求められていた答えが挙げられなかったのを嘆いたようなので、アラマキは少し不思議に思った。
 ――他に共通点など、あるのかの?
 と、少し思考に耽ってみたが、それらしきものは出てこない。
 
 あとは、精々「『能力者』を殺して満たされる」ことくらいだが――
 
 
 
/ ,' 3「! 手加減≠ゥ!」
 
( <●><●>)「単細胞が漸く進化したか。その通りだ」
 
 アラマキははッとして声を発した。
 それにゼウスもあわせてきた。
 肯いて、アラマキを見る眼をより鋭いものへと変えた。
 
.

431 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:24:49 ID:ZhkTU.Uk0
 
  
( <●><●>)「一言に『満たされる』と言っても、その内容は多岐に渡る。
         圧倒的実力差を見せつけることによる優越か、嗜虐的行為にて絶望を見せつけることによる快感か。
         前者ならば能力差の段階で勝敗――生死は決まるのだが、後者の場合は違う。
         徐々に相手を虐げる必要があるため、ある程度は手加減しなければならないからな」
 
/ ,' 3「で、きゃつらは『拒絶を受け入れさせる』ことが何よりの快楽――!」
 
 
 ゼウスは肯いた。
 アラマキも、ゼウスの言いたいことが全てわかった。
 答え合わせも兼ねて、出題者のゼウスは話を続ける。
 
 
( <●><●>)「拒絶を受け入れさせるには、その《拒絶能力》や狂気、絶望を存分に与えなければならない。
         そうでなければ、『拒絶』がわざわざ手加減して戦う理由がないからな。
         【ご都合主義】だの、【手のひら還し】を前にして瞬殺されないのを見るだけで明らかだ」
 
从 ゚∀从「……そっか」
 
 ハンモックの上から、上体を起こしたハインリッヒは言った。
 寝ているものかと思ったが、耳を貸していたようだ。
 二人は驚くこともなく、ハインリッヒに意識を向ける。
 
从 ゚∀从「ショボンにさ、言われたんだよ。なんか、こう――」 
 
 
 
 (´・ω・`)『とんでもない!
.       拒絶したくなる「現実」を受け入れてくれなきゃ、
.       僕がはるばるここまでやってきた意味もないよ』
 
 (´・ω・`)『確かにそんな「現実」にすることもできるけど、さ。
.       「拒絶」を味わわないうちに死なれちゃ、全く満たされないからね』
 
 
 
.

432 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:25:40 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 ハインリッヒは、あのときのショボンを思い出した。
 実にいきいきとしていて、だからこそ見ているだけで吐き気をも催す『拒絶』のオーラ。
 言い換えれば、心の底からショボンはそうなることを願っていた、と云うことだ。
 実際にその場にいて、味わって、戦ったハインリッヒだからこそ、その言葉には説得力があった。
 
 裏付けができたとわかって、アラマキは安堵したいような、危惧を感じるべきであるような、複雑な気持ちになった。
 ベッドを軋ませ、渋い顔をする。
 
/ ,' 3「ゼウスよ、おぬしの言いたいことはわかる。
    大方、きゃつらが手加減することで生じる隙に付け入るっちゅーなハラじゃろ?
    じゃがな、向こうさんかて呆けたおらん」
 
/ ,' 3「ショボンを倒せたのはハインリッヒの覚醒、それもブーン君の手助けあって、じゃ。
    まあ、おぬしは知る由もなかろうが……
    で、ワタナベかて、きゃつが油断しすぎたから、ああなったんじゃよ」
 
/ ,' 3「残党……少なくとも、モララー。きゃつは利口じゃぞ?
    常に『嘘』を吐き続けとる以上、常にその存在を把握し記憶しておかねばならん。
    それをこなしとるモララーから、はたして隙を見いだせるもんかの?」
 
 
.

433 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:26:40 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( <●><●>)「見出すより他に法はない。もとより勝算に望みが見られない戦いなのだ」
 
 ゼウスは頑なに言い返した。
 隙を見出す、の一点張りだった。
 
 頭脳も優れ、不意打ちの得手であるゼウスなら、針の穴ほどの隙であろうと付け入ることはできるかもしれない。
 だが、ハインリッヒとアラマキの場合そうもいかないのだ。
 ただでさえ一対一では勝利できていない現状なのに、他のサポートなしでゼウス側が勝利できるとは到底思えない。
 また、相手はショボンやワタナベよりも格が上と思われる。
 アラマキも、頑なに否定するより他になかった。
 
/ ,' 3「かぁ〜〜ッ。モララーが『手負い』を『嘘』にできる限り、おぬしの能力は適用されんのじゃぞ。
    儂も、コレを受動的に使おうにも『解除されない』っちゅー『嘘』吐かれたら終いじゃ。
    ハインリッヒが『劣後』される存在となっとる限り、三人じゃ勝算はないと思うがの」
 
( <●><●>)「……」
 
 両者の主張が共に正しい以上、真偽を決するのは確実性だ。
 確実性で考えると、ゼウスの主張が非現実的であるのがわかる。
 すると、ゼウスの脳を以てしても、反論する余地はなかった。
 ハインリッヒの覚醒した能力ならばあわよくば可能性はあったかもしれないが、現実の話にたらればは存在しない。
 ゼウスは黙りとするしかなかった。
 
 
从 ゚∀从「ワタナベはいつ回復すんだよー」
 
 静まった室内で、ハインリッヒはそう訊いた。
 己の無力さに罪悪感を感じたし、実際自分の能力なら可能性はあるかもしれない、と思ったからだ。
 
 だが、その答えが最初から用意されていたかのように、ゼウスは即答した。
 
( <●><●>)「少なくとも一日二日では全快は無理だ。
         胴体、特に下半身を失っており、意識も半壊している。
         細胞の動きを活発にさせ再生を早めさせても、時間がかかる」
 
从 ゚∀从「……チッ」
 
 ハインリッヒはうなだれるように舌打ちした。
 自分が無力であるのが、悔しいのだ。
 【大団円】がいれば話は変わってくるのだが、彼女は目の前の男に殺された。
 その男と共闘しなければならないことに皮肉を感じ、ストレスが溜まった。
 
 
.

434 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:27:58 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( <●><●>)「応援を呼ぶことは考えられるが――」
 
 ゼウスが向きを戻して言うと、背後から即座に声が返ってきた。
 若々しくも刺々しい、ハインリッヒの声だ。
 
从 ゚∀从「ハン! ヒートがいれば、【常識破り】だろうとチョロかったのにな。
      どっかの誰かに殺されたせいでよお!!」
 
( <●><●>)「結果論から何が導き出せるのだ?」
 
从#゚∀从「……てめぇ、肉塊にされてぇか?」
 
( <●><●>)「『優先』のされない『英雄』など、即殺以外の結末がわからないな」
 
 ハインリッヒの額に浮かんだ血管が、今にも弾けそうな気がした。
 ハインリッヒは拳を震わせ、ハンモックの上に立ち上がった。
 揺れるハンモックの上で、ハインリッヒも揺れる。
 そのハインリッヒが、怒りで更に揺れる。
 
 そして
 
 
 
从#゚∀从「……ッ。『イッツ・ショータ――」
 
 
 
/ ,' 3「じゃかあしいッ!」
 
从; ∀从「ギャッ!」
 
( <●><●>)「ッ…!」
 
 
.

435 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:28:45 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 ハインリッヒが【正義の執行】を始めようとすると、アラマキが一喝した。
 同時に、ハインリッヒもゼウスもがくんと体躯を落とした。
 急に、力を入れていた足や首から力が抜けたのだ。
 
 言うまでもない。
 アラマキが、自分を支えている力を『解除』した。
 途端に背骨が消えたかのように、地に伏すことになる。
 そうすることで、動きだそうとする両者を止めたのだ。
 
 不安定なハンモックの上でいきなりそうされたので、ハインリッヒはハンモックの上から転げ落ちた。
 趣のある絨毯に、額からぶつかる。
 材質は従来のものと変えてあるのか、絨毯のおかげで衝撃は和らいだものの、床の硬さにハインリッヒは思わず一瞬喘いだ。
 
从 ゚∀从「つッ……」
 
( <●><●>)「……貴様」
 
/ ,' 3「ここで仲間割れたァおぬしらカルシウムが足りとらんの。
    『拒絶を拒絶する』目的は一緒なんじゃから、もうちっと仲良うせんか」
 
从 ゚∀从「……胸クソわりぃな」
 
( <●><●>)「全くだ」
 
 
/ ,' 3「……で、応援じゃが」
 
从 ゚∀从「アテあんのか?」
 
 ハインリッヒは噛みつくように言ってきた。
 アラマキはかぶりを振った。
 
 
.

436 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:31:09 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
/ ,' 3「アテ、ちゅーても確実性があるわけじゃあない」
 
从 ゚∀从「まどろっこしいな」
 
/ ,' 3「ブーン君じゃよ」
 
从 ゚∀从「んあ?」
 
 ハインリッヒは虚を衝かれたような顔をした。
 予想だにしなかった返答だった。
 
 内藤に、何ができるのだろうか。
 既に【常識破り】の実体は知っているため、これ以上彼にできる役割はない筈だが。
 そう思っていたのが顔に出たらしく、アラマキは「ちゃうわい」と言った。
 
/ ,' 3「あくまでこの世界はブーン君の規則に則っとる。
    じゃから、可能性を創れる≠烽がおらぬか、訊くんじゃよ。
    そやつをこっちに引き入れて、対処するんじゃ。
    向こうさんの全貌は明かせておるからの、後出しじゃんけんっちゅーわけじゃ」
 
从 ゚∀从「ああ……そっか、アイツ『作者』とやらだったんだっけな」
 
( <●><●>)「半信半疑ではあるが」
 
从 ゚∀从「私もだ」
 
/ ,' 3「儂もじゃよ。
    ……じゃが、信憑性はある。異議はなかろう?」
 
 アラマキが二人を交互に見ると、二人とも小さく肯いた。
 「なんでも見抜くことができる能力」なんてものが存在し得るこの世界で、内藤の主張を裏付けることは不可能だ。
 だが、実際に幾度となく対象の全貌を明かしているため、彼が『能力者』だろうと『作者』だろうと、関係はない。
 信頼に足る情報、と云うことには違いないのだ。
 
.

437 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:32:25 ID:ZhkTU.Uk0
 
  
( <●><●>)「だが、必至がかかっている状態からでは、どのような手を指しても詰みは免れないぞ」
 
从 ゚∀从「必至? 詰み?」
 
( <●><●>)「将棋と云う遊びを知らなかったか。無知を考慮せずにすまない」
 
从#゚∀从「そういう意味じゃねーよボケ! つまり何が言いてぇんだっつー話!」
 
 ハインリッヒがハンモックに上りながら吠える。
 ゼウスは若干の優越感に浸りながらも、続けた。
 
 
( <●><●>)「全てを『嘘』にされる現状がある限り、如何なる対策を練ろうがどの道負ける、と云う意味だ」
 
( <●><●>)「必至のかかった状態なら、王を逃がそうが詰めろをかけようが敗北が確定するのと同様に、な」
 
从 ゚∀从「…あ……」
 
 
( <●><●>)「グーでもチョキでもパーでも勝てない手を出されては、後出ししようにも後出しできる最善手がない」
 
/ ,' 3「つまり、何もできず一方的にやられるっちゅーなわけか」
 
( <●><●>)「それ以外の方法として、相手が油断した隙にひびを入れて、ダムを壊すより他に仕方がないのだ」
 
从 ゚∀从「てめぇ、まどろっこしい言い方が気に入ってんのか? はっきり言えよ」
 
 
( <●><●>)「……」
 
/ ,' 3「今のはさすがに解るべきじゃよ、お嬢さん」
 
从 ゚∀从「え、え? なんだよ……」
 
 
 ハインリッヒは少しあたふたとした。
 そこに、少女らしい愛らしさが垣間見えた。
 普段は男勝りなため、貴重な光景のように見えた。
 尤も、アラマキもゼウスも興味のない話だが。
 
 
.

438 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:33:09 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
/ ,' 3「……とにかく」
 
/ ,' 3「ゼウスよ、おぬしにアテはないんかの?」
 
 アラマキは気軽に訊いてみたのだが、対照的にゼウスは急に重苦しい表情――眉が若干降りただけだが――になった。
 ――地雷を踏んだか?
 と一瞬不安に思ったが、それは杞憂で済んだ。
 ゼウスは取り乱すこともなく、落ち着いて言い放った。
 
 
 
( <●><●>)「そのような仲間など、私には必要ない」
 
 
 
 
 
 
.

439 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:33:58 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
 

 
 
 
 
( ´_ゝ`)「『拒絶』……?」
 
 アニジャは、言葉を失った。
 
(・∀ ・)「知らないか?」
 
 その態度を、この男は異なった意味で受け取った。
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 アニジャは「知っている」。
 いや、知っている以上の関係だ。
 だからこそ、アニジャは言葉を失った。
 
 理由は単純だった。
 『拒絶』とは、そう易々と知られていい言葉ではないし、知られる筈もない言葉である。
 よほどの情報通や組織のボスでない限り、知る由もない。
 なのに、『拒絶』と云う言葉が、無関係者から放たれたからだ。
 
 一方の男は、このアニジャの動揺を、知らないからこそ顕れたものだと受け取った。
 本人としても元々望み薄で訊いた質問だったため、そう受け取るのが普通だったのだ。
 
 そして、アニジャはその解釈を受け取ることもできた。
 首を傾げて、アニジャは答えた。
 
( ´_ゝ`)「知らないが……」
 
(・∀ ・)「そうか。じゃ――」
 
( ´_ゝ`)「待て」
 
 
.

440 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:34:51 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 アニジャは、ここでそのままお開きにさせるつもりはなかった。
 いわば「知っている」事自体がタブーである言葉なのである、『拒絶』とは。
 
 なぜそれを知っているのか。
 なぜそれを質問したのか。
 なぜこのような裏通りにいるのか。
 
 アニジャは、最低でもこれらを聞き出さないわけにはいかなかった。
 なにを詮索されるかわからず、その不確定要素はいわば脅威だからだ。
 
 また、アニジャには『拒絶』を知られるわけにはいかない私的な理由があった。
 それが、彼にこのような行動をとらせる要因にもなった。
 
 制止されぴたッと躯を固めた男は、アニジャの方を見た。
 若干、醸し出す雰囲気が厳しいものとなる。
 
( ´_ゝ`)「『拒絶』って、なんだ?」
 
(・∀ ・)「きみには関係ない話さ」
 
 アニジャがさり気なく訊くと、男はやや頑なにそう言った。
 まるで、答えるつもりはない、と言いたげに。
 
 ここでアニジャは考えた。
 もし『拒絶』について無知ならば、ここまで重々しい空気は作り出さないだろう。
 言い換えれば、「知っている」からこそ、このような態度をとれるのだ。
 つまり、この男は
 
 
( ´_ゝ`)「(……なにか、知っているな)」
 
 
.

441 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:36:06 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 そう思ってからのアニジャの行動は速かった。
 
 
( ´_ゝ`)「観光がてらに、ここらの事を知りたいんだ。土産を遣ると思って、聞かせてくれないか?」
 
(・∀ ・)「これは極秘事項であり、一般人が触れてはいけない事なのだ」
 
( ´_ゝ`)「大丈夫だ。明日になればここを発つ身。厄介事には巻き込まれんさ」
 
(・∀ ・)「そう云う話ではない」
 
( ´_ゝ`)「ギャングか何かか? 俺はそう云うのは好きなん―――」
 
 そこまで言うと、男が懐に手を忍ばせた。
 アニジャが流暢に話すのを一旦止めると、男は若干厳つい顔をした。
 
 アニジャは耳がいい。
 耳をすませると、なにかの音が聞こえた。
 ちいさな金属音が、鳴った音。
 
 男がそれ≠見せるまでもなく、アニジャはその音、そしてそれ≠フ正体を見抜いていた。
 決して一般人が持つべきではない―――
 
 
( ´_ゝ`)「おいおい、なんのつもりだ?」
 
 
(・∀ ・)「……」
 
 
 黒く、鈍く光る、大型拳銃。
 口径からして、その銃口から放たれる弾丸はアニジャを骨ごと貫けそうだ。
 
 アニジャはあくまで飄々とした観光客を演じている。
 両手を挙げて、冗談混じりの笑みを見せた。
 
 だが、男の顔はより一層厳しくなるだけだ。
 
 
.

442 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:37:27 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
(・∀ ・)「無駄な詮索はやめていただこう」
 
( ´_ゝ`)「そうか。じゃあ俺は失礼――」
 
 その男の眼が冗談ではないことを知り、アニジャはそう言って背を向けようとした。
 すると、直後に銃声がした。
 廃れた繁華街に、それがこだまする。
 銃弾は、アニジャの鼻の先を掠めるように飛んでいった。
 
 瞬間、アニジャは口を閉じた。
 途端に気分が冷たいものになった。
 ぎろッと、男の方を向く。
 やはり、銃口はアニジャに向けたまま。
 その標的は、アニジャの額に向けられていた。
 
 
(・∀ ・)「悪いな。帰国後に無駄に詮索されると厄介だから――」
 
( ´_ゝ`)「ッ!」
 
 直後、アニジャは無意識のうちに重心を左に預けていた。
 右腕の袖を、銃弾は無慈悲にも貫いてゆく。
 アニジャの背筋を、冷たいものが走っていった。
 
 
(・∀ ・)「ここで死んでもらう」
 
( ´_ゝ`)「(……『不運』だ………)」
 
 
 男の持つそれは、デザートイーグルと呼ばれるもの。
 銃に慣れた者でも肩を外しかねない威力を持ち、とても一般人が持ちそうにはないものだ。
 それを持ち、また涼しい顔で撃つ以上は、一般人ではない、と云うことだろう。
 
 少なくとも、アニジャとしてはここで処理しておかなければならない道端の小石だろう。
 たとえ小石であろうと、生かしておけばもしかすると転ける――失敗する――かもしれないからだ。
 
 
 『拒絶』化計画が。
 また、自分の持つ計画が。
 
 
 
.

443 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:38:07 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( ´_ゝ`)「交換条件だ」
 
(・∀ ・)「ハ?」
 
 視界の端に逃げ道を確認して、アニジャは言った。
 なにを交換するのかと、男は呆気にとられる。
 
( ´_ゝ`)「あんたは、なぜ『拒絶』の情報を求めるのか。代わりに――」
 
(・∀ ・)「だから、きみには関係――」
 
 
( ´_ゝ`)「こちらは、『拒絶』の情報をやろう」
 
(;・∀ ・)「ッ!」
 
 
 瞬間、男は虚を衝かれたようで、眼は見開き、銃を握った両手は重力に従って少し垂れた。
 重心を前にかけていたのか、前方に倒れそうだったので、咄嗟に右足を前に出す。
 完全に、動揺したようだ。
 
 アニジャはその隙を衝いて、確認しておいた逃げ道へと走り出す。
 動揺した男がそれに反応できたのは、二秒後だった。
 はッとして、アニジャの腿に銃を向け、すぐさま撃った。
 
 だが、ろくに狙いも定めず当てずっぽうに放った、しかも反動が強いがゆえに手がぶれたので、文字通り的外れな場所へと着弾した。
 その間にアニジャは路地裏に逃げ込む。
 男は、銃では無理だと判断してすぐさまそれを懐に戻し、自分も駆け出すことにした。
 
(;・∀ ・)「チッ……!」
 
 路地裏は、やはり廃墟だけに無惨な光景となっていた。
 腐った死体や崩壊した壁、飛び散った瓦礫、腐敗臭。
 
 アニジャは、それらを避けたり、時には利用したりして上手く男との距離を離していく。
 一方男はこう云った地で走るのには慣れていないのか、徐々に距離を離されていくのを実感していた。
 
 少し走ると、二手に分かれる分岐点に着いた。
 既に体力はなく、息を急き切ってしまう。
 男は「逃がしたか」と思った。
 
 
.

444 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:39:04 ID:ZhkTU.Uk0

 
 瞬間。
 
 
( ´_ゝ`)「呑むか?」
 
(;・∀ ・)「っ!」
 
 アニジャは、分岐点の上≠ノいた。
 分岐点となる壁の上の方が一部砕けており、どう移ったのか、アニジャはそこから男を見下ろしていた。
 
 男は有無を言わず先に手が動いていた。
 再び取り出した銃で、アニジャのいる穴にめがけて撃った。
 だが、着弾したのはその穴よりやや上の部分だ。
 アニジャが顔を出していれば貫けていたのだが、男が懐に手を突っ込んだと同時に顔を引っ込めていた。
 
 男は「くそッ」と吐き捨てた。
 そして、少し考える。
 
(・∀ ・)「……」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 少し考えた上で出した答えは、
 
 
 
(・∀ ・)「……呑もう」
 
 
( ´_ゝ`)「お」
 
(・∀ ・)「聞かせてくれ。まず――」
 
 男が顔を上に向けてそう言った。
 アニジャは「フーン」と言いたげな顔をする。
 
( ´_ゝ`)「まず、その物騒な物を仕舞おうぜ、旦那」
 
(・∀ ・)「……わかった」
 
 言われて、男は素直に仕舞う。
 懐から手が引かれたのを見てから、アニジャは右の口角を少しあげた。
 「いいぞ」と上から声が聞こえたので、男は
 
(・∀ ・)「まず――」
 
.

445 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:40:18 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
(・∀ ・)「なんで手前が『拒絶』を知っているか≠セ」
 
( ´_ゝ`)「!?」
 
 
 男がそう言って右目を細めると、アニジャは異変を感じた。
 まるで、アラマキに重力を『解除』されたかのような、浮遊感。
 
 だが、実際には浮いていない。
 男の足下に引き寄せられるように£n面に叩きつけられたのだ。
 アニジャは一瞬なにが起こっているのかわからなかった。
 地面に叩きつけられ唯一わかったのは、
 
( ´_ゝ`)「……あんた、『能力者』か」
 
(・∀ ・)「ほう……。随分とこっちの話が通じるじゃないの」
 
 そう言って、男は足を地面に横たわるアニジャの頭に載せた。
 男の声は、対面した当初のものとは全く違っていた。
 
 アニジャは『不運』を感じ、不意を衝いて逃げだそうと僅かに四肢に力を入れた。
 それを微かな頭の動きで感知したのか、男は釘を刺した。
 
 
 
 
(・∀ ・)「逃げ出したら、瓦礫で手前を雁字搦めにするぞ」
 
( ´_ゝ`)「……!」
 
(・∀ ・)「ここらにはいっぱい素材≠ェあるからな。逃げようものなら――」
 
 男は、そう言うと右手を何もない空間へと向けた。
 いや、何も――ではない。
 中央に、ぽつんと烏の死骸があった。
 
 直後
 
 
(・∀ ・)「『瓦礫』ッ!」
 
( ´_ゝ`)「ッ……」
 
 
.

446 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:40:54 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 その烏を囲むように、そこらに散らばっている瓦礫が集まりだした。
 といっても、凄まじい速度で、だ。
 瓦礫と瓦礫とがぶつかり合い轟音を奏でた。
 その音と砂煙に、アニジャは一瞬目を閉じた。
 
 
( ´_ゝ`)「……?」
 
 目を開くと、死骸があったところには岩の塊があった=B
 よく見ると、それは幾つもの瓦礫で出来上がった塊だった。
 アニジャが言葉を失ったのを見て、男は笑った。
 
 
(・∀ ・)「予言してやろう」
 
(・∀ ・)「手前は情報だけを残して、死ぬ」
 
( ´_ゝ`)「……いまの、能力は……」
 
 
 
 
 
(・∀ ・)「【集中包裹《ザ・クラッシュ》】」
 
(・∀ ・)「今から、手前を抱擁する者の名だ」
 
 
 
 
.


448 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:42:29 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
( ´_ゝ`)「なに……?」
 
(・∀ ・)「まあ、こちらの質問に答えれば、すぐに殺すのはやめてやる」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 「選択肢はないのか」と心中で軽くうなだれて、肯く素振りを見せた。
 それを足の感触で察知した男は、ニヤリと笑んだ。
 
(・∀ ・)「答えろ。手前はなぜ『拒絶』を知っている?」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 アニジャは溜息を吐き、「いきなりか」と思った。
 てっきり殺す前に――と思っていたのが、だ。
 
 アニジャが黙っていると、男は声を低くした。
 
 
(・∀ ・)「答えろ」
 
( ´_ゝ`)「……くそ」
 
 アニジャは、こうなった今でも逃げ延びる術を探している。
 ――否、術は既に見つかっている。
 問題は、いつそれを行うか、なのだが。
 
 このままではそれを実行する前に殺されてしまう。
 それを、後頭部から伝わる圧力で察していた。
 だから、アニジャは答えるほかなかった。
 
 
.

449 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:43:13 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
(・∀ ・)「しっかし……手前もアレだな」
 
( ´_ゝ`)「…?」
 
 アニジャが答えようとすると、男はなぜかそれを止めるかのように言った。
 アニジャがまだまだ粘るものかと思ったがゆえの、説得か何かだろうか。
 
(・∀ ・)「妙な交換条件とやらを出してなければ俺に目をつけられることもなかったのにな」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 アニジャは開こうとした口を閉ざす。
 この男がどうでるか読めなかったからだ。
 
 すると、男は溜息を吐いた。
 そして、吐き捨てるように言った。
 
 
 
(・∀ ・)「………『不運』だったな、手前」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「!!」
 
 
 
 
.

450 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:43:52 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 瞬間、アニジャは眼を見開いた。
 同時に、アニジャは籠めていた力を放って上半身を捻り、後頭部に載せられていた頭を払いのけた。
 
 男は不意を衝かれ、同時にバランスを崩す。
 なんだ、と思っていたうちに、アニジャは逃げ出していた。
 隙を見せた自分に非があるとはいえ、これは男にとってはプライドを傷つけられたのと一緒だった。
 
 予想だにしていなかった、この場面での逃走。
 能力も見せたから抵抗はしないと思っていただけに、この不意打ちは大きかった。
 
( ´_ゝ`)「残念だったな!」
 
 アニジャの言葉を、自分の失態に塩を塗るためのものだと
 勘違いした男は、怒りに我を忘れ、アニジャを目で追う。
 そして、開いた右手をばッと伸ばした。
 周囲に瓦礫があるのを確認することもせず、大声で言い放った。
 
 
 
( ´_ゝ`)「本当は、俺じゃなくて―――」
 
(#・∀ ・)「『瓦礫』ッ!!」
 
 
 そして、男は突き出した右手を拳に変える。
 これと同時に、選択した素材とやらが対象に『抱擁』するのだろう。
 
 その素材たちが自分の身に飛んでくる前に、アニジャは言い返すように大声で言った。
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「―――あんただよ、『不運』なのは」
 
 
(#・∀ ・)「ハ――」
 
 
 
 
 
.

451 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:44:24 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
(;・∀ ・)「―――ッナアアアアアアアア!?」
 
 
 ――男が気づいた時、それ≠ヘ確かに自分の方に向かってきていた。
 前から、右手から、左手から。
 背後から、頭上から、明後日の方角から。
 
 
 ―――大量の、瓦礫が。
 
 
 
 
.

452 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:45:02 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
(;・∀ ・)「(ッ! まさか……)」
 
 
 
 視界全体を、代償問わない瓦礫が埋め尽くしていく。
 
 
 
(;・∀ ・)「(対象を、あいつじゃなくて……)」
 
 
 
 瓦礫と瓦礫が打ち合う音が聞こえてくる。
 
 
 
(; ∀ )「(間違えて、俺に―――)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

453 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:45:43 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
 

 
 
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 凄まじい轟音が響いたかと思うと、そこには瓦礫の塊≠ェできていた。
 瓦礫の隙間から、突き出されたままの男の右手だけが伸びていた。
 それはびくともせず、手首から先が地面に向いていた。
 
 アニジャはそれを少し見つめてから、無言でそれに背を向け、ポケットに手を突っ込み歩き始めた。
 やはり猫背で、未来に絶望しか抱いていないような顔色である。
 
 ちいさな、『抱擁』し損ねた瓦礫を蹴飛ばした。
 そして、思い出したかのように「あ」と呟いた。
 
 
( ´_ゝ`)「……結局、あいつが何者か聞き出せなかったな」
 
 
 
( ´_ゝ`)「………『不運』だ……」
 
 
 
 そう言って、アニジャは再び歩き始めた。
 
 
 
 
 
 
.

454 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:46:23 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
 
 
 

 
 
 
 一人の男が、如何なる『因果』か、そこ≠ノ立っていた。
 男のいる空間だけ暗黒のうねりができているような、圧倒的、そして『絶望的』なオーラ。
 
 
(    )
 
 
 世界に存在しているだけで、全ての規律を歪めてしまいそうな。
 この存在、否、概念が在るだけで全ての可能性を消し去ってしまいそうな。
 
 「神の唯一の失敗作」と称しても良いほど、その男が持つオーラは最悪なものだった。
 『拒絶』でも、圧倒的な『拒絶』のオーラを持つモララーでさえ
 足下に及ぶことは疎か、対抗しようと云う意欲すら持つことができない程の「負」。
 
 この男の吐き出す息が、大気と混ざり合うことで、この惑星すら崩壊しかねない。
 それほどなのだ、この男の持つ空気の狂おしさは。
 
 男は、瓦礫の塊から伸びている一本の手を見る。
 
 
(    )「………自爆か、『不運』なヤローだ」
 
(    )「……いや、憑(つ)いてなかった、と言うべきか」
 
 
 男は、その腕をへし折ろうかと思った。
 特に意味はない。
 ストレスが溜まっているとか、気味が悪いなどではない。
 一般人が何気なく音楽を聴こうかと思うのと同じように。
 男は、この腕をへし折ろうと思ったのだ。
 
 すると、男の声に反応したのか。
 その腕は、ぴくりと動いた。
 
 
.

455 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/01/21(月) 20:47:17 ID:ZhkTU.Uk0
 
 
(    )「おめでてェヤローだ……まだ生きてやがる」
 
(    )「……いや、自分の持つスキルだから、咄嗟に加減をしたのか?」
 
 男がにやにやしながら呑気に考察していると、
 なぜか、呑み込まれていた男を『抱擁』していた瓦礫が、一枚ずつ剥がれていった。
 それを見て、男は「おや」と思った。
 
 
(    )「剥がれる……? どうなッてンだ、おい」
 
(    )「……そうか、オレサマが来たから……」
 
 
 男が、不敵に笑んだ。
 瓦礫がまた一枚、一枚と剥がれる。
 
 
(    )「抑えてねェとなァ……。憑いてねェぜ」
 
片リ;∀ ・)「……ぐァ……?」
 
(    )「絡まれたら面倒だ……撤収するか」
 
片;・∀ ・)「……ガ…………ッ!」
 
 
 男を『抱擁』する瓦礫が、徐々に剥がれていく。
 それを背にして、その男は、のっそりと歩き始めた。
 やはり、『絶望的』なオーラを携えて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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