( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

629 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:23:03 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 
    「――な――なんだと!?」
 
    「どーして……は、『箱』は、どうしたんだ!」
 
    「―――そうか、やっぱりおめえだったか」
 
    「………!!」
 
    「お前……まさか………」
 
 
 
    「本当はよお。おめえなんざ、今すぐにでも殺してやりてえんだぜ」
 
    「だがな、いーいモンを見つけた」
 
    「そいつらを貰う代わりに、いま、ここでおめえを殺すのは、やめてやらあ」
 
    「どうだ? 悪かねえジョーケン、だろ?」
 
 
 
    「……、……フ。さすが……わがままさだけは、世界一なヤツだ」
 
    「ほめんな、ほめんな。じゃあ―――」
 
 
 
 
    「はじめるか。『拒絶』を拒絶する戦い、を」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

630 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:23:43 ID:mkhCogkg0
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

631 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:24:23 ID:mkhCogkg0
 
 
○前回までのアクション
  _
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
(*゚ー゚)
→謎の空間
 
( ^ω^)
→謎の空間で『異常』
 
( ・∀・)
(゚、゚トソン
( <●><●>)
→ゼウスの屋敷前
 
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
 
 
.

632 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:25:09 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 
   第二十五話「vs【常識破り】Y」
 
 
 
 場に残された者は三人だが、漂う雰囲気や気配、
 感じ取れる息遣いや布擦れの音から察することのできる人数は二人だけだった。
 モララーとトソンは、突如として彼らを出迎えた静寂に、半ば虚を衝かれていた。
 ぼうっとして、思考を練るチカラが弱まった、そう形容できそうな心地だった。
 
 風が何度か吹く。
 『拒絶』がこうして暴れるようになってからというもの、
 このように強めの風が吹くことが多くなった。
 
 世界の基軸があったとして、それを陽炎を見せつけるほどの
 拒絶心を持った『拒絶』たちが歪めようとしているのだろうか。
 厳密に言えば、「ようとしている」わけではなかった。
 酒臭い初老の男が若い女性に近寄ると、その女性の顔が歪むように
 そこに『拒絶』が存在しているから$「界の基軸たるものがぶれるようになった――そう捉えるべきなのだ。
 
 それの最たる例が、今もこの地上のどこかにいる。
 モララーでさえ顔を歪めるほどの『拒絶』だ。
 
 近づくだけで『命運』が『絶望的』になる
 まさに『拒絶』が世界の基軸を揺さぶる∴齡ヤの例と言えるだろう。
 風は吹き荒び、太陽をぶ厚い雲が覆ったかと思えば途端に悪天候に導かれる。
 そう考えれば、彼ら一介の『拒絶』の放つ揺さぶりは、まだ優しい方なのかもしれない。
 少なくとも、立っているだけで世界を破滅に導く――なんてほどではないだろう。
 
 飛んできた木の葉が頬を掠めていった時、トソンははッとした。
 時折、今のように、ネーヨが見せるような長考をすることがある。
 『拒絶』の終着点が彼だとするなら、自分も着々と『拒絶』の完成形になりつつある、と云うことになるのであろうか――
 トソンはふとそう思った。
 
 
.

633 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:26:00 ID:mkhCogkg0
 
 
(゚、゚トソン「ええと、その」
 
( ・∀・)「……」
 
 トソンが、どう「この事」を切り出そうかと思い、言葉を濁していたとき。
 モララーは、黙って「それ」に歩み寄った。
 目の前で人が固まっている=B
 
 見えない壁≠フようなものがあるようで、モララーはそれに手を置いた。
 手を置いている感覚はしないものの、重力に従って手が垂れることなく、
 何かに支えられているため、見えない壁≠ヘ確かにそこにあるのだろう。
 
 トソンもそうわかると、彼に歩み寄った。
 自分も壁をノックでもするかのようにして軽く叩く。
 音はしない≠オかし確かに壁がある=B
 実に不可思議な壁だ。構成要素はこの世の物質ではないだろう。
 自然のうちに、トソンはそう分析していた。
 
 ――一方のモララーは、この壁に覚えがあった。
 
 
( ・∀・)「……トソン」
 
(゚、゚トソン「はい」
 
 トソンの返事の声色が自分の予期していたものと違っていたため、モララーは目を少し大きく開いた。
 壁をノックし、続けてクチも開いた。
 
( ・∀・)「なんだおまえ、この見えない壁≠ノ見覚えはないのか?」
 
(゚、゚トソン「見えないのにどう見覚えをつくれ、と」
 
( ・∀・)「………あ、そうか」
 
 モララーはその言葉の綾がわかり、咳払いをする。
 見開いていた目を元に戻し、きまりが悪そうに頭を掻いた。
 
( ・∀・)「とりあえず……だ」
 
 
.

634 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:26:36 ID:mkhCogkg0
 
 
( ・∀・)「おまえ、この箱≠ノ閉じこめられたこと、ないのか?」
 
( ・∀・)「それも、あの白衣の奴に、だ」
 
(゚、゚トソン「………?」
 
 モララーが、さぞ経験があることが当たり前であるかのような言い方をして訊いた。
 しかしそれに反し、トソンは首を傾げるだけだった。
 モララーは「あれ?」と思った。
 
 妙に話が噛み合わないな、と思い、モララーは更に一歩掘り進んだ質問をする。
 このときの表情は、奇妙なものを目の当たりにした時のそれに似ていた。
 
( ・∀・)「あれ、おまえ『拒絶』だよな?」
 
(゚、゚トソン「何をいまさら」
 
( ・∀・)「いやいや……えっとだな、その」
 
 話が噛み合わないことをぎこちなく思い、蟠りを振り払うようにかぶりを振った。
 そして、大きく息を吸った。
 
 
 
 このままでは本題に触れる前にいたちごっこが続くだけだ。
 モララーはそう思い、ついに核心に迫った。
 
( ・∀・)「えっと、だな」
 
 
 
 
 
( ・∀・)「―――この箱≠ノ閉じこめられねえと、『拒絶』になれねえんじゃねーの?」
 
( 、 トソン「ッ!?」
 
 
.

635 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:27:12 ID:mkhCogkg0
 
 
 ――「『拒絶』になる」。
 それを聞いて、トソンはやや過剰に反応した。
 なぜそうなったのか、モララーはわからなかった。
 
 やはり、どこか話が噛み合ってないな。
 モララーはそう感じ、話を続けた。
 
 
( ・∀・)「……俺も、ショボンも、ワタナベも、あと……アイツも。
      この箱≠ノ閉じこめられたから、『拒絶の精神』が育てられて今みたいになってんだぜ」
 
( ・∀・)「例外は、ネーヨの旦那だけだ」
 
( 、 トソン「………」
 
( ・∀・)「……」
 
 モララーがそう続けていくと、それにあわせてトソンの生気がみるみる減っていることに気がついた。
 どこか、今の言葉でさえ拒絶している――そんな風にさえ見てとることができた。
 
 モララーは、一応『拒絶』の一員として、ほかの『拒絶』と顔を合わせることはある。
 アラマキたちに戦闘を申し込むより前から、彼らは『拒絶』として行動はしていた。
 その当時から、モララーはある違和感を抱いていた。
 
 
 トソンを『拒絶』として認知できない≠フだ。
 
 
 しかし、トソンは『拒絶のオーラ』の塊であるネーヨと同じ空気を吸っても何の反応も見せず
 聞いているだけで腹の底から戻してしまいそうになるショボンの声を聞いても平気でいられるのだ。
 また、ネーヨ本人が彼女を『拒絶』と認めているため、モララーはあまりその違和感を表に出そうとはしてこなかった。
 
 が、その違和感が、今になって地表に露骨に芽吹いてきた。
 
 
( ・∀・)「……もう一度、訊く」
 
 
 
( ・∀・)「――おまえ、『拒絶』か?」
 
 
 
.

636 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:28:08 ID:mkhCogkg0
 
 
( 、 トソン
 
( ・∀・)「なあ」
 
( 、 トソン
 
 
 
(゚、゚トソン
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ・∀・)「……」


 モララーが、トソンの心の底でも覗き込もうとするかのように、彼女を見つめる。
 純粋に、答えを――
 『真実』を、知りたがっている様子だ。
 
 スキル、【常識破り】を使えば、それはわかるかもしれない。
 しかし、よしんばそうしたところで、モララーは納得しないだろう。
 トソン本人のクチから、聞きたいのだ。
 
 『真実』を拒絶し、『嘘』の殻に籠もったモララーだからこそ
 そうすることに、強迫観念に近い使命を感じていた。
 
(゚、゚トソン「……モララー」
 
( ・∀・)「なんでい」
 
(゚、゚トソン「少し、昔話をしてもいいですか」
 
( ・∀・)「昔話ぃ?」
 
 意外そうな顔をする。
 どうして、『拒絶』か否かを答えるために、昔話が顔を出す必要があるのだ。
 そう言いたかったが、モララーはクチにはしなかった。
 ここにきて、トソンが話を逸らそうとはしないだろう、そう信じていたからだ。
 
 
.

637 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:28:47 ID:mkhCogkg0
 
 
(゚、゚トソン「えっと、」
 
( ・∀・)「あ、長くなる?」
 
(゚、゚トソン「へ? ……ま、まあ」
 
( ・∀・)「悪い。じゃあ――」
 
 
 
( ・∀・)「それは、コイツたちとの戦いが終わってからに聞くよ」
 
(゚、゚トソン「!」
 
( ・∀・)「『パンドラの箱なんて、ない』」
 
 モララーは、一旦話を切り上げた。
 そのときの彼が、平生のいい加減なモララーではなく、真剣味を帯びた、真面目な
 ――トソンが今まで見たことのない――モララーであるように思え、トソンは少し動揺した。
 なぜ動揺したのかわからない。しかし今のモララーに、トソンは強烈な違和感を感じ取ってしまったのだ。
 
 すると、モララーは箱≠ノ手をかざし、唐突にそう『嘘』を吐いた。
 直後、はたから見れば空中に浮いているかのように箱≠ノ閉じこめられていた――
 
 
( <●><●>)「ッ」
 
( ・∀・)「よぉ〜〜〜う、『魔王』。お目覚めか?」
 
( <●><●>)「……!」
 
 ――ゼウスが、無防備にも地に落ちた。
 
 
 
(゚、゚トソン「…!」
 
(゚、゚トソン「パンドラの……箱……」
 
 
 
.

638 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:29:24 ID:mkhCogkg0
 
 
 地にうつ伏せになるように横たわったゼウスは、瞬時に後方に跳びはねては体勢を取り戻した。
 モララーに警戒心を抱いてこその、戦闘準備だった。
 しかし、モララーはというと、ただやれやれと首を振るだけだった。
 すぐに殺されると思ったゼウスは、その戦闘意欲の感じられない彼の様子を見て、半ば訝しく思った。
 
 だが、モララーはあくまで『拒絶』だ。
 【常識破り】を有している点からもわかるように、ワタナベ同様不意打ちの頻度は高い。
 ワタナベの場合は物理的な不意打ちだが、彼は不意に即死級の『大嘘』を並べるのだ。
 そう考えると、いくらモララーが戦闘態勢に入っていないからといって、構えを解くわけにはいかなかった。
 
 しかし。
 それでも、モララーに不意打ちを試みようとする様子は見受けられなかった。
 ゼウスは少し不思議に思った。
 
 ゼウスの胸中をあらかた見通していたのか、モララーは「信用ねーなァ」とごちてから、両手を脇腹につけた。
 そして、少し俯く。
 
 
( ・∀・)「俺の標的は、アラマキ――そう、『武神』。『武神』だけだ。
      徒におまえを殺めたりはしねーよ」
 
( <●><●>)「……」
 
( -∀-)「………信用ねーなァ……」
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ・∀・)「……ん?」
 
 自嘲するように笑みを浮かべていると、モララーはある事で
 トソンに違和感を持ち、「あれ」と思いつつ咄嗟にトソンの方を見た。
 
 そのときの彼の顔が意外に満ちていたので、トソンははッとした。
 
 
(゚、゚トソン「ど、どうした?」
 
( ・∀・)「いやあ……」
 
 
 ――やはり、今のトソンは、変だ。
 そう思いつつ、頭を掻いてはクチを開いた。
 
 
.

639 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:30:06 ID:mkhCogkg0
 
 
( ・∀・)「いつもなら『そりゃ、普段から嘘ばっか吐いてますからね』とか言いそうなんだけどなーって思ってよ」
 
(゚、゚トソン「そ、そう?」
 
( ・∀・)「なんか考え事?」
 
(゚、゚トソン「なんでも、ない」
 
( ・∀・)「ほーん」
 
 
 
( ・∀・)「――と、こーんな無防備な姿を見せても、まだ『魔王』は信じねーか」
 
( <●><●>)「……」
 
( ・∀・)「……」
 
 
 あたかも、今の振る舞いが予め定められていたものであったかのように、モララーはそう言った。
 トソンは疑問符を浮かべたが、何もクチにしない。
 閉口したままなのは、ゼウスも一緒だった。
 
 実際、今のモララーに殺意などなかった。
 ただでさえネーヨの命令で、明日攻撃を開始すると定められているのに、
 それを無視して自分勝手に行動し、更に獲物を皆殺しに――なんて事態を引き起こしてしまえば、
 今度は自分が何をされるのか、考えるだけで堪ったものではないのだから。
 
 また同時に。
 モララーが自分で言ったように、今はアラマキしか視界に入っていなかったのだ。
 
 
( <●><●>)
 
( <●><●>)「………」
 
 ゼウスもそれを理解したのか、その場に漂う『魔王』たるオーラが少し薄くなったように思えた。
 そして、構えは引き続き保ったまま、漸くクチを開いた。
 
( <●><●>)「……わけあり、のようだな」
 
( ・∀・)「べッつにー?」
 
 ゼウスが反応を見せてくれたことを半ば嬉しく思ったのか、モララーは語尾を吊り上げて言った。
 両手を後頭部で組み、小石を蹴る仕草を交えて。
 ゼウスを歯牙にかけるまでもない――そう言いたげな様子だった。
 
.

640 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:30:45 ID:mkhCogkg0
 
 
( <●><●>)「……」
 
( ・∀・)「それよりも、だ」
 
( ・∀・)「知りたくないのか? 今、おまえを閉じこめていた箱≠フことを」
 
( <●><●>)「……!」
 
 ゼウスは目を若干見開いた。
 「知っているのか」、そう言いたげな表情を浮かべ。
 
 ゼウスとジョルジュは、二人の――否、ジョルジュの発言を聞けば自ずとわかるように、旧知の仲だ。
 ゼウスがそれを認めないため詳細は未だ明かされていないが、少なくとも
 ジョルジュが『能力者』であること、またその《特殊能力》の全貌についてはゼウスは把握済みであろう。
 その筈なのに、彼がジョルジュの《特殊能力》を知りたがっているのを内藤が見たら、不思議がっていたことだろう。
 
 だが、それも言わば必然だったのだ。
 
 
( <●><●>)「私でさえ知らなかったあの能力を、どうして貴様が知っている?」
 
( ・∀・)「当然じゃねーか。
      あの箱≠ノ閉じこめられたんだからよ、俺も」
 
 
 
 
 
 
 
( ・∀・)「―――ざっと、一年以上は」
 
 
 
 
 
 
.

641 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:31:21 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 

 
 
 
从;゚∀从「なにィ!?」
  _
( ゚∀゚)「声がでけェよ、『英雄』」
 
 
 ゼウスを取り残して――彼は箱≠ノ閉じこめられていたため、
 彼も連れることは物理的に不可能だったのだろうが――ジョルジュ含む彼らは、異次元にやってきた。
 
 そしてジョルジュは、自己の能力を明かすと同時に、ある事≠明かした。
 すると、ハインリッヒがあまりの驚愕に耐えきれず、大声をあげてしまったのだった。
 その甲高い、『英雄』らしからぬ声を聞いて、ジョルジュはもちろん後ろにいた内藤も顰めっ面を浮かべた。
 
 それでもまだハインリッヒは信じられなかったので、恐る恐る、クチを開く。
 
 
从;゚∀从「………聞き違いかもしんねーから、もう一度聞くが…」
  _
( ゚∀゚)「何度でも言ってやるよ」
 
 信憑性がないんだなあ――そう肩を落とすも、挑戦は呑むし、要望は引き受ける。
 ジョルジュは、息を大きく吸った。
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「モララーたちを『拒絶』にしたのは、この俺だ」
  _
( ゚∀゚)「能力で創った『パンドラの箱』に閉じこめて、な」
 
 
 
.

642 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:31:51 ID:mkhCogkg0
 
 
 
/ ,' 3「……っ」
 
从;゚∀从「………!」
 
 二度目の告白だったため、初見よりは彼らに訪れた衝撃は幾分か薄れていた。
 しかしそれでも、衝撃を完全に受け入れることはできなかった。
 
 『拒絶』を『拒絶』にした――つまり、今自分たちの命をも
 脅かす存在を仕立て上げた――張本人、言い換えたところの「元凶」、「黒幕」。
 それが、目の前にいるマッド・サイエンティスト――ジョルジュ=パンドラである、と云う事実を。
 
 それでもやはり、ハインリッヒにとっては衝撃が些か重い。
 ゼウスもアラマキもだが、ハインリッヒ自身も、『拒絶』にこっぴどくやられてきているのだ。
 
 【ご都合主義】には「死以上の苦痛」を与えられ
 【手のひら還し】には『英雄』の資格を剥奪され
 【常識破り】には形式上ではあるが、一度殺され。
 
 
 そんな『拒絶』の親が目の前にいる男だ――
 そうわかると、ハインリッヒは驚愕が一転、代わりに憤怒が途端に沸き上がってきた。
 奥歯を噛みしめては摺り合わせ、強く握った拳を震わせる。
 眉間に入ったひびが、より深く彫られるようになってきた。
 
 
 
 そして
 
 
从#゚∀从「―――てッ…めェェェエエ!!」
 
 
.

643 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:32:37 ID:mkhCogkg0
 
 
 やり場の見つかった、積もりに積もった怒りの矛先が、ジョルジュに向けられた。
 数メートルと云う距離を、飛び出したハインリッヒが一気に詰める。
 この短気な様が彼女らしいといえば彼女らしいのだが、今は抑えてほしかった――そう、その場にいた他の皆が思った。
 
 が、それも杞憂に過ぎなかった。
 そもそも、ゼウスの不意打ちを涼しい顔で止められるジョルジュが、ハインリッヒの不意打ち程度に反応できないわけがないのだ。
 ゼウスを閉じこめたような『パンドラの箱』ではなく、『領域』でハインリッヒの繰り出されかけた蹴りを押さえる。
 その『領域』の向こうで、ジョルジュは不敵に笑んでいた。
 
  _
( ゚∀゚)「……まだ、話は終わってねえぜ。『英雄』さんよ」
 
从#゚∀从「イヤミったらしく呼びやがってよ……クソが!」
 
/ ,' 3「まあ抑えるんじゃ、ハインリッヒ。今はこやつの話が優先じゃ」
 
从 ゚∀从「…………チッ」
 
 事ある毎に神経を逆撫でしてくるジョルジュに苛立ちを覚えるが、アラマキに宥められ、彼女は抑えた。
 確かに、『拒絶』に万策封じられし今、ジョルジュが唯一の命綱のようにも思えたからだ。
 
 自分に向けられたハインリッヒの脚が地についたのを見て、ジョルジュは『領域』を解除する。
 そして、笑みを浮かべるのをやめた。
 
  _
( ゚∀゚)「怒りたい気持ちはわかるぜ」
 
从 ゚∀从「無理に迎合しようなどとは――」
  _
( ゚∀゚)「迎合じゃねえ。本心だ」
 
从 ゚∀从「ハン! どーだか」
  _
( ゚∀゚)「本心じゃなかったら……そうだな」
 
 
  _
( ゚∀゚)「今頃、『拒絶化計画』の妨げとなるお前たちを一斉に
      『パンドラの箱』に閉じこめて、ここに置き去りにしたりしてるぜ?」
 
从 ゚∀从「……!」
 
 
.

644 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:33:20 ID:mkhCogkg0
 
 
 ハインリッヒの目が見開かれる。
 また、内藤の言葉を思い出す。
 
 彼の生み出すそれは、物理法則、因果律、概念の三つから矛盾し独立させた存在なのだ。
 『優先』の効かないそれに閉じこめられては――永久に、脱出不可能。
 つまり、情勢はジョルジュの圧倒的有利となっているのだ。
 そう考えれば、今の言葉には説得力があった。
 
  _
( ゚∀゚)「俺がお前たちに接触する理由もふまえて、そこらの話をしておきてえんだが――」
 
 静まったハインリッヒを見てジョルジュがそう言うと、一旦そこで言葉を濁らせ、視線を逸らした。
 その新たに目を向けた先には、相変わらず体調不良を訴える内藤がいた。
 痛みに慣れてきたのか、先ほどよりは大分取り乱さないようになっていたが、
 流れ出る汗、震わせる腕や躯が、まだ彼の身に起こっている『異常』を訴えていた。
 
  _
( ;゚∀゚)「……その、あんた」
 
( ; ω )
 
 
(;^ω^)「……おっ。僕かお」
  _
( ;゚∀゚)「そう、僕だ。その……話を続けて、大丈夫か?」
 
 苦笑いを浮かべ平生を取り繕おうとする内藤に、ジョルジュが訊いた。
 はたから見れば、今の内藤は明らかな『異常』に見舞われていたのだから。
 問われ、内藤は少し黙ったあと、頭を押さえていた手を離して、答えた。
 
 
.

645 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:33:51 ID:mkhCogkg0
 
 
(;^ω^)「で、できれば、ココにはいたくない…お。そもそも、どーしてココに来る必要があったんだお」
  _
( ゚∀゚)「モララーから逃れるために、シィに咄嗟に動いてもらった――つまり、ただの偶然さ。わりィな」
 
(;*゚ー゚)「パンドラ……。場所、戻そうかしら?」
 
 自責の念に駆られるのか、シィが恐る恐る言った。
 ジョルジュは少し考えて、しかし首を横に振った。
 内藤の顔が少し歪んだように見えた。
 
  _
( ゚∀゚)「研究所――と言いたいが、あそこはだめだ。
      で、他に安全が保証される場所がないから、ココで続きを話させてくれ」
 
(;^ω^)「………ご勝手に、だお」
 
 自棄になったのか、嫌みったらしくそう返して、内藤は座った。
 座ったと言うより、膝の力がすぅっと抜けたかのような感じだった。
 手短に話を済ませる必要がある――ジョルジュは、苦笑いをしながら思った。
 
  _
( ゚∀゚)「……えー、オホン」
 
  _
( ゚∀゚)「時間がない。順を追って話したいところだが、余計なことは省く。いいな?」
 
 ハインリッヒが肯く。
 アラマキは右腕を腰に当て、眉の下から覗かせた眼でジョルジュを見つめるだけだった。
 
 
 
.

646 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:34:24 ID:mkhCogkg0
 
 
  _
( ゚∀゚)「まず、ある理由の上で、俺は『拒絶化計画』を遂行した」
  _
( ゚∀゚)「ショボンやモララーみたいに、一般人の頃から既に強い『拒絶の精神』を持っていた奴を捜しては、
      そいつを『パンドラの箱』に閉じこめる――それだけで、計画の半分は終わっていた」
 
从 ゚∀从「閉じこめて……どうすんだよ」
 
 ハインリッヒの力のない声を聞いて、
 ジョルジュは相対的に元気のある声でそれに返した。
 
  _
( ゚∀゚)「いいことを訊いてくれたぜ。詳しい原理は省くが――」
 
  _
( ゚∀゚)「『箱』に閉じこめて……『拒絶の精神』を、熟成させんだ」
 
从 ゚∀从「熟……成…?」
  _
( ゚∀゚)「ただでさえ強い拒絶心を、増幅させんだよ。助長すんだ」
 
  _
( ゚∀゚)「そうすることで、『拒絶の精神』は極限にまで高まり、《拒絶能力》が生まれる」
 
从 ゚∀从「!」
 
/ ,' 3「!」
 
 《拒絶能力》に、二人が反応した。
 ジョルジュは気に留めず続ける。
 
  _
( ゚∀゚)「だが、これで熟成は終わりじゃねえ」
 
从 ゚∀从「え?」
 
 
.

647 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:35:21 ID:mkhCogkg0
 
  _
( ゚∀゚)「所詮、《拒絶能力》なんてただの面白手品に過ぎねえってことさ」
 
从;゚∀从「――――は!?」
 
 
 ハインリッヒが、身を乗り出す。
 アニジャと一緒だなあ――と呆れて、ジョルジュは目を閉じた。
 やはり、説明が必要か。そう思い、開くのが億劫なクチを開いた。
  _
( ‐∀‐)「『拒絶』の、一番の醍醐味。一番のミソ。それは――」
 
 
  _
( ゚∀゚)「『拒絶のオーラ』だ」
 
从;゚∀从「な、なんで――」
 
/ ,' 3「……! 確かに!」
 
从 ゚∀从「! ジジィ、わかんのかよ」
 
 ジョルジュは「おっ」と思わずクチにし、アラマキを興味深そうな眼で見る。
 その眼差しが、彼の実験の手にかかる被験者を見るときのそれに似ていた。
 
 
/ ,' 3「なんとなくでしかわからんがの……」
 
/ ,' 3「おぬし、ワタナベと対峙していて、なにを感じた=v
 
从 ゚∀从「何って……そりゃ、」
 
 
 
 
( ; ω )「…………拒絶=c。」
 
 
 
 
.

648 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:36:01 ID:mkhCogkg0
 
 
 
从 ゚∀从「っ」
 
 後ろの方にいた内藤が、ちいさく、ちぎれそうなか細い声で、言った。
 思わぬ発言に少し驚いたハインリッヒが、振り返る。
 内藤が、そんな彼女の横を通り、ジョルジュに近づいていった。
 
( ; ω )「近づくだけで、相手を、卒倒させかねない『拒絶のオーラ』は……
.      何をせずとも、『能力者』の九割以上を倒せる、この上ない利得的な武器……と、なるお」
  _
( ゚∀゚)「……!」
 
 
( ; ω )「『拒絶』化する前から、既にある程度の『拒絶のオーラ』を持つ、奴らの拒絶心を強めれば……
.      その『拒絶のオーラ』の、強さと、有効範囲が…ぐッと、広くなる」
 
( ; ω )「そうして育てた『拒絶』は、手にした《拒絶能力》との併用も相俟って、強い――
.      いや、強すぎる程の駒、となる」
 
 
(;^ω^)「―――そんなとこ、じゃないかお?」
  _
( ゚∀゚)「(………コイツ…っ)」
 
/ ,' 3「(儂の言いたかったこと、ぜーんぶ言いよってからに)」
 
 
 たどたどしい語調で、内藤はそう言った。
 アラマキがふてくされる一方で、ジョルジュは面食らったような顔をしていた。
 予想以上の、模範解答以上の正答をずばり言われ、半ば動揺してしまったのだ。
 
 
.

649 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:37:03 ID:mkhCogkg0
 
 
 ――何者だ、コイツ。当てるのは能力だけではないのか?
 訝しげに思い、ジョルジュは、あれこれと推察してみた。
 
 しかし、今においてそんなことはどうでもいいことをすぐに思い出した。
 むしろ、説明の手間が省けた――そう捉えれば、儲けものだ。
 そう割り切って、ジョルジュは鼻息を鳴らした。
  _
( ゚∀゚)「その通りだ」
 
从 ‐∀从「ほう……」
 
 
 
从 ゚∀从「………え? おい、ちょっと待てよ」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
 当初は、その説明でとりあえずジョルジュのそれまでの事情だけは
 納得できた気がしたハインリッヒだったが、そこで途端に猛烈な違和感に見舞われた。
 
 思わず、それが声色に反映されるも、声を発する。
 一方のジョルジュの声は、平生通りだった。
 
从 ゚∀从「今の話を聞くと――」
 
 
 
从 ゚∀从「……まるで、今の『拒絶』はどれも失敗作だ――そう、言いたそうじゃねーか」
 
 
 
 戸惑いを隠しきれていない声で、ハインリッヒが言った。
 それに対して見えた反応は、右の口角が吊り上がったことだけだった。
 
 ハインリッヒは急に冷や汗を浮かべた。
 背中を、冷たいものが走っていくような心地に見舞われた。
 
 現時点で三人の『拒絶』と対峙したが――
 今の段階で、既に感じる『拒絶のオーラ』は凄まじいものであったのだ。
 吐き気を催すし、目眩がしそうで、脳の前頭葉から脳天までの箇所がかき混ぜられるような錯覚に陥ってしまう。
 
 まして、有する《拒絶能力》はどれもとんでもないものばかりだ。
 自分も当然ながら、アラマキや、宿命の敵、ゼウスまで、『拒絶』にはてんで歯がたたないでいたではないか、と。
 それなのに――
 
 
 
.

650 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:42:20 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 『拒絶』は、アレ≠ナ大きなハンディを背負っている、と云うことになるのだ。
 
 
 
 
 
 
   (´・ω・`)『「現実」が望んでいるのは「拒絶」を甘受することだ!』
 
 
  『現実』を自由自在に操る【ご都合主義】。
 
 
 
.                              クルワセ
   从'ー'从『てめえらが知ってる「因果」を、全部「異常」てやる』
 
 
  なにもかもを『反転』させる【手のひら還し】。
 
 
 
 
   ( ・∀・)『俺は、今の段階で一億八千二百三十六万五千八百七十二個の「嘘」を吐いている』
 
 
  最悪な『嘘』を『真実』にしてしまう【常識破り】。
 
 
 
 
 ――コレ≠ナ、ハンディが。
 
 
 
.

651 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:43:11 ID:mkhCogkg0
 
 
从; ∀从「う、嘘………だろ?」
 
 その場に『拒絶』はいないし、『拒絶のオーラ』も感じないのに、
 ハインリッヒは『拒絶』のシャワーを浴びたかのように急に不快感に浸食された。
 
 拒絶が、胸に巣くう。
 脳内をミキサーでかき乱される。
 途端に、心の奥底に押し隠していた恐怖が、浮かび上がってきた。
 
 それを追い払おうと頭を振るうが、一度へばりついた汚れはなかなかにとれなかった。
 徐々に、その恐怖は震えとなって、物理的に彼女の躯を揺さぶるようになる。
 仕舞には歯をがちがちと言わせ、涙すら流すまでに至った。
 
 
从; ∀从「……ど、…。どうして……ンな計画…立てちまったんだよ………ッ」
  _
( ゚∀゚)「……説明する時間と義理が、ない」
 
从; ∀从「は、ハハ……やっぱテメェは敵だ…」
  _
( ゚∀゚)「結構、結構。続きを言うぞ」
 
从;゚∀从「………まだ、あるの?」
 
 
 すっかり弱気になったハインリッヒが訊いたが、今度は逆にジョルジュが訊き返してきた。
 揺らいでいる心に負担を与えるのは得策ではないのだが、それをジョルジュが考慮することはなかった。
 
  _
( ゚∀゚)「逆に訊くが、どうして……」
 
  _                  クルワセ
( ゚∀゚)「どうして俺のこの計画が『異常』られたのか、わからねーのか?」
 
 
.

652 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:43:45 ID:mkhCogkg0
 
 
从;゚∀从「……え…?」
  _
( ゚∀゚)「『英雄』の特権、『優先』ですら防ぐ俺の『パンドラの箱』だぜ?
      すんなり事が進めば、誰もその『箱』を開けれねえ――」
  _
( ゚∀゚)「つまり、本当なら成功するしか道のない′v画だったんだ、元はと言えば」
 
/ ,' 3「じゃが、妨げられた」
 
 ジョルジュが肯く。
 ハインリッヒは引き続きジョルジュを懐疑の眼で見つめるだけだ。
 
  _
( ゚∀゚)「……四人。俺は、『箱』に閉じこめた。初見でな」
  _
( ゚∀゚)「次に見たとき、アイツら、どうしてたと思う?」
 
/ ,' 3「『箱』を開けられるのは、本来で言えばおぬしだけ、なんじゃろう。
.    しかし、どーも話を聞く以上は――」
  _
( ゚∀゚)「察しがいいな。アニジャ以上だ」
 
/ ,' 3「アニジャ……? あやつと、如何なる関係な――」
  _
( ゚∀゚)「今はどーでもいい。それはそうと、お察しの通りだ」
 
  _
( ゚∀゚)「………開けられた≠だよ。
      決して開かれる筈のない、『パンドラの箱』が……」
 
 
从;゚∀从「私でさえ開けれない『箱』を……誰なんだよ!」
 
/ ,' 3「考えが及びもつかんわい」
 
 
 
 
 
.

653 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:44:22 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 
  「―――ネーヨ=プロメテウス」
 
 
从 ゚∀从「っ!」
 
/ ,' 3「……ネー…ヨ?」
 
 やはり、突如として放たれた言葉に、二人は反応した。
 言葉の内容ではない、言葉が放たれたことそのものに、だ。
 
 ジョルジュは、目を細める。
 そして、傍らにいる男――内藤を、睨む。
 
 内藤は、額を脂汗で湿らせているも、その表情だけは、至って真剣そのもののものであった。
 張り付いた笑顔のような顔の裏に、鬼気迫る、形容のしがたい「真剣さ」が見えた。
 
 
 
(;^ω^)「ヤツは……持ち前の、スキルを使って…、各地に置かれた、四つの『パンドラの箱』を……開けた」
 
(;^ω^)「………違うかお?」
  _
( ゚∀゚)「……! なぜ、そこまで知ってやがる」
 
 さすがにそこまで当てられるとは予想すらしていなかったようで、ジョルジュは動揺を隠すことができなかった。
 動揺が転じて、内藤に対して威圧的なオーラを放ちもした。
 しかし内藤は、開き直った。
 
 
(;^ω^)「僕の前じゃ、なーんでもお見通し」
  _
( ゚∀゚)「……こいつァ驚いた。研究のしがいがあるぜ」
 
(;^ω^)「断るお」
  _
( ゚∀゚)「勝手に観察させてもらうことにしよう」
 
 互いが互いに探りを入れあうかのように、言葉を牽制しあう。
 そんななか、傍らにいたハインリッヒはその二人のやり取りに目もくれずいつもの調子で、内藤に訊く。
 
 
.

654 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:44:52 ID:mkhCogkg0
 
 
从 ゚∀从「そのネーヨとやらは……誰、なんだ?」
 
(;^ω^)「……おっ」
 
 内藤は少し意外そうな顔をした。
 しかしその顔も、すぐに戻る。
 
 ――そうか、まだ知らないのか。
 そう自己完結した直後、原因不明の体調不良が悪化したのか、内藤はしゃがみ込んだ。
 カバーし、寄り添うかのように、ハインリッヒが駆け寄る。
 
 肩に手を添えると、どこか、内藤の体温が高いような気がした。
 これはいよいよただ事ではなくなった――ハインリッヒは、危惧する。
 
 
从;゚∀从「おい…、大丈夫かよ」
 
( ; ω )「問、題ない……ッ…わけじゃ、な…いお」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 ジョルジュが腕を組み、黙って内藤の様子を立ったまま見守る。
 アラマキも歩み寄っては、心配そうな顔をして彼を見つめた。
 
 内藤は言葉を発そうとするが、頭痛と倦怠感が増したのか、頭を抱え、そのままクチを閉ざした。
 これではだめだ――ジョルジュはそう思って、深刻な顔をして内藤の代わりにクチを開いた。
  _
( ゚∀゚)「……いま」
 
从 ゚∀从「…っ」
  _
( ゚∀゚)「いまお前たちは、『拒絶』たちと戦っているな?」
 
从 ゚∀从「なにを、今更訊きやがる」
  _
( ゚∀゚)「だってのにプロメテウスのヤローは知らねえのか。おめでてーヤツらだ」
 
从 ゚∀从「……なに?」
 
 
.

655 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:45:26 ID:mkhCogkg0
 
 
 じり、とハインリッヒが一歩前に踏み出す。
 挑発に乗ろうと思ったのか、単純に話の続きが気になったのか。
 しかし、次の一歩を踏み出しはしなかったので、ここで戦闘に発展する――と云うことはなさそうだった。
  _
( ゚∀゚)「お見通し屋さんに話は聞いてねーのか」
 
 ハインリッヒは少し悔しそうに、ゆっくりかぶりを振った。
 呆れた顔をして、力なくジョルジュが笑う。
 ハインリッヒは、それが一層悔しく思われた。
 
从 ゚∀从「話から察すると……四人目の『拒絶』か?」
  _
( ゚∀゚)「四人目?」
 
/ ,' 3「今ンところ儂らが知る『拒絶』は、モララー、ショボン、ワタナベじゃ」
 
 ジョルジュが「へえ」と声をあげる。
 もうそこまで――と云ったニュアンスが含まれているようだ。
 アラマキは顎をさすって、続けた。
 
/ ,' 3「が――そのネーヨとやらは、四人目やない思われるのぅ」
 
从 ゚∀从「なんでだ?」
 
/ ,' 3「話によると、『ネーヨが他の三人を助けた』んやのーて、
.    『ネーヨが閉じこめられた四人を助けた』んじゃないかの」
 
从 ゚∀从「……! で、でも、『ナントカの箱』に閉じこめねーと、『拒絶』にはならねーんじゃ――」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。頭が悪くても、理解できたようだな」
 
从#゚∀从「………いちいち、かんに障るヤローだぜ」
 
 ジョルジュが、一際大きな声を発した。
 純粋に彼女に感心したようだった。
 というのも、彼女の触れたことが、「ネーヨ=プロメテウス」を知る上でもっとも重要となるトピックだからだ。
 
 
.

656 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:46:33 ID:mkhCogkg0
  _
( ゚∀゚)「結論から言うと、そこのジジィが正しい」
 
/ ,' 3「ほ」
  _
( ゚∀゚)「で、『英雄』もな」
 
从 ゚∀从「………え?」
  _
( ゚∀゚)「なんたって、プロメテウスは――」
 
  _
( ゚∀゚)「唯一の、天然の『拒絶』≠ネんだからな」
 
 
 ――ジョルジュが言葉を放ってから、ほんの少しだけ、静寂が生まれた。
 それを埋めるように、ハインリッヒが「どういう意味だよ」とおきまりの言葉で返す。
 しかし、アラマキはそうはしなかった。
 いや、ジョルジュの今の言葉だけで意味を理解した、と言い換えてもいい。
 
  _
( ゚∀゚)「つまり――」
 
/ ,' 3「! 待て、若僧」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
/ ,' 3「大前提として、人を『拒絶』にするには
.    そやつを『パンドラの箱』に閉じこめんと成り立たんわけじゃな?」
  _
( ゚∀゚)「ああ」
 
/ ,' 3「が、それなしで『拒絶』になったー云うことは、そのネーヨっちゅー奴は……」
 
 
从 ゚∀从「…ッ! それほど『拒絶の精神』がでかすぎた=c…!?」
  _
( ゚∀゚)「ピンポーン。大正解だ」
 
 ジョルジュが拍手を送る。
 嫌みったらしく、彼らしいといえば彼らしい拍手だった。
 相手を見下しているような態度が、見てとれる。
 
 
 ジョルジュはその見下す態度のまま、しかし大変なことを言ってみせた。
  _
( ゚∀゚)「つまり、ただの『拒絶』でさえお前たちを瞬殺できるってのに、
      言ったらそいつらの上位互換なんだよ、ネーヨって男は」
 
.

657 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:47:04 ID:mkhCogkg0
 
 
从;゚∀从「――――はァ!?」
 
 ――そして、ハインリッヒは見て判るほどに動揺した。
 目は見開き、躯を咄嗟に退いて。
 アラマキも、オーバーな変化は見せなかったが、それでも動揺していることには違いなかった。
 
 予想通りの反応に、ジョルジュが不本意にも口角をあげる。
 その姿が不気味で、ハインリッヒは必要以上の恐怖をジョルジュから植え付けられることになった。
  _
( ゚∀゚)「さすがにスキルの名前まではわからねーが、スキルの全貌――
      いや、片鱗に過ぎないかも知れねえが、とにかく内容は解析済みだぜ」
  _
( ゚∀゚)「………聞きたい、か?」
 
从;゚∀从「    ……あ、…ああ」
 
 長い沈黙の後、ハインリッヒは、実にゆっくりではあるが、肯いた。
 その姿が滑稽で、ジョルジュは少し笑った。
 が、彼女の気持ちも、わからなくはなかった。
 
  _
( ゚∀゚)「一言で言おう」
 
 
 
 
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「なにも効かない」
 
 
 
 
 
 
 
.

658 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:47:41 ID:mkhCogkg0
 
 
 
 

 
 
 
 
( <●><●>)「……いちね」
 
(゚、゚;トソン「一年…以上ですって!?」
 
( <●><●>)「……。」
 
 モララーの告白を聞いて、ゼウス以上にトソンが驚愕を躯と声で表した。
 『拒絶』の事情を『拒絶』が聞いて驚く、とは面白い光景であったが、モララーは別段それで笑おうとはしなかった。
 それどころか
 
( ・∀・)「おっ、イイ反応見せんじゃねーか」
 
 そんな過去をなんとも思っていないように、振る舞っていた。
 まるで、そんな過去などはじめからなかったものであったかのように。
 
 その様子が不気味に見えた。
 『拒絶』のトソンでさえ、不気味だと思ったようだ。
 ゼウスはそれを不審に思ったが、深くは考えなかった。
 
 
(゚、゚;トソン「な、なぜ閉じこめられ……いや、どうやって出てき…え、えっと……」
 
( ・∀・)「おいおい、俺の耳は二個しかねーよ。クチなんか、一個だけだ」
 
(゚、゚;トソン「……失礼」
 
 トソンが、珍しくも取り乱している。
 ゼウスがそれを「珍しい」と感じることはないだろうが、モララーにとっては意外だった。
 平生ではお茶目な一面を持つも、比較的クールに振る舞っている彼女なのに、と。
 やはり、その点を衝こうとは思わなかったようだが。
 
 
.

659 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:48:14 ID:mkhCogkg0
 
 
( ・∀・)「んなこたーどうでもいいんだ」
 
( ・∀・)「問題はおまえだよ、ゼウス」
 
( <●><●>)「……」
 
 狂気をものにしている二つの瞳が、ゼウスを捉える。
 ゼウスは、迂闊にクチを開けはしなかった。
 
 いや、できなかった。
 すると、その瞳に呑み込まれてしまいそうだったからだ。
 
 そのため、ゼウスは黙る。
 そのまま十秒ほど、時は進んだ。
 モララーは、彼の沈黙を否定と捉えた。
 
( ・∀・)「……訊きたくは、ねえってか」
 
( <●><●>)「嘘吐きに求める情報など、ないのでな」
 
( ・∀・)「そりゃ、そっか。じゃー俺が代わりに質問するぜ」
 
( <●><●>)「……」
 
 頭を掻いて、モララーが言う。
 この間も、ゼウスは気を抜けなかった。
 
 それも、当然だろう。
 彼は【常識破り】なのだから。
 いつ隙を衝いて襲いかかってくるのか、予測できたものではない。
 
 
 
( ・∀・)「おまえと、あの白衣のヤロー」
 
( ・∀・)「いったい、どういう関係だ?」
 
 
 
 そのとき、モララーの顔は、見た目ではいつも通りだったが、
 その裏に、確かに般若の見せるそれのような表情が表れたことを、ゼウスは感じ取れた。
 
 存在が言わば虚構で、この世でもっとも脆い男≠ニされるモララーだが、
 このときだけは確かに、モララーに中身≠感じることができたのだ。
 
 
.

660 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:48:47 ID:mkhCogkg0
 
 
 そのため、ゼウスは一瞬詰まった。
 だが攻撃してくるわけではなさそうだったため、落ち着いて平生に戻る。
 
( <●><●>)「それを聞いて、どうする」
       オレラ
( ・∀・)「『拒絶』には合理的な理由なんていらねーんだよ。答えてくれ」
 
( <●><●>)「こちらにも事情があるのでな。無条け――」
 
 ――刹那、モララーは右の拳をフックで繰り出し、ゼウスのこめかみの手前数センチまで近づけた。
 それも、ゼウスでさえ反応が遅れた――それは不意打ちだったから、でもあるが――ほどの速度で、だ。
 ゼウスはその不意打ちと、反応できなかった自分との両方に、驚いた。
 
 殺気と拒絶とが、顔のすぐ左隣に、在る。
 そのプレッシャーは、ゼウスが動じるほどではないにしろ、大きいことに違いはなかった。
 
 
( ・∀・)「あーそうかい、言ってやるよ、理由をよ」
 
 陽気だったモララーが、露骨に顔を歪めて、言う。
 声も、腹の底から煮えくりかえされたもののように聞こえた。
 ゼウスは、なぜ彼が途端に怒りを露わにしたのか、わからなかった。
 
( ・∀・)「俺、おまえのことはどーでもいいんだけどよ、
      あのヤローだけは許せねーんだわ。それが理由だ」
 
( <●><●>)「……なに?」
 
 「それが理由」と言われたが、さすがの彼でもそれだけで
 「理由」の全貌を理解できなかったようで、詮索を入れる。
 モララーは歯を噛みしめ、すりあわした後、嫌な顔をして答えた。
 
 
 
(  ∀ )「俺を、あんな、理不尽な箱に、ずっと閉じこめやがった、アイツを、
      とことん、トコトンいたぶって殺してえんだよ、こっちはよ!!」
 
( <●><●>)「…!」
 
 
 
 
.

661 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:49:18 ID:mkhCogkg0
 
 
 それを聞いて、ゼウスはピンときた。
 いくら冷静で合理的な判断を下せるモララーでも、『拒絶』なのだ。
 
 狂気に満ち、狂気に動かされ、狂気に呑まれた
 拒絶に満ち、拒絶に動かされ、拒絶に呑まれた
 ショボンやワタナベと同じ、『拒絶』なのだ、と。
 殺人衝動や嗜虐の趣向を持ち合わせ、残忍なことに趣を感じる、彼らと。
 
 ゼウスは一時、モララーはジョルジュに閉じ込められたことを大して気に留めてなかったのか、と思っていた。
 だがそれが『嘘』で、本当は当時の自分を思い出したくもないがためにそう振る舞っただけだったのであろう。
 
 本当は、心の奥底に、そのことを憎み拒み恐れる自分がいた。
 その自分を解放しようと、元凶のジョルジュに仕返しを目論む。
 しかし当時のことは思い出したくない。
 その結果が、今の一連のモララーの動きだったのか。
 ゼウスは自然のうちに、そう解釈した。
 
 
( ・∀・)「ヤツも『能力者』だから、俺がヤツを殺すことには誰も異議を挟まない。
      だけどな、ただ殺すだけじゃトーゼン物足りんわけよ。
      あらゆる『嘘』を使って――ヤツが面白半分で俺に与えたこの《拒絶能力》を使って、
      俺が味わった苦痛を、拒絶を、トコトン味わってもらわねー限りは、な」
 
( ・∀・)「だが、それにゃー時間がかかる。その間に邪魔でもされっと、全てがパアだ。
      だから今は迂闊に手を出せねえ。
      その代わり、ヤツの情報を、集めておきてえ。それだけだ」
 
( <●><●>)「………」
 
 ゼウスは、黙考した。
 モララーの放った言葉を紡ぎあわせて、
 『パンドラの箱』に閉じ込められたから『拒絶』になったこと。
 また、副産物的に《拒絶能力》を得たこと。
 その二つの事実を、導き出した。
 
 そして、そのことがわかって、
 ゼウスは溜息をあくまで胸中で吐いた。
 実際にすればモララーの神経を逆撫ですることになる。
 現状では自分が圧倒的に不利であるため、そのような愚行はしでかさなかったが。
 
 
.

662 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:49:52 ID:mkhCogkg0
 
 
( <●><●>)「……」
 
( <●><●>)「(面倒なことをしてくれたものだ………パンドラ……)」
 
 
 ゼウスが若干目を細めたのを見たのか、
 モララーは突きつけた拳を、ゆっくり下ろした。
 彼も、数度の会話と観察から、彼の感情を読みとるには
 彼の表情の僅かな変化から見出すしかないことを、理解していたのだろう。
 
 そしてそんなゼウスが目を細めたことから、モララーは、
 同情かなにか、マイナスな感情を受け取ったことを察した。
 
 
( ・∀・)「――そういうこった。さて、質問に戻るぜ」
 
( <●><●>)「……ならば、いいだろう」
 
( ・∀・)「引き替えに、今はおまえを殺さないことを約束するぜ」
 
( <●><●>)「……フッ。約束、か。笑わせる」
 
( ・∀・)「………」
 
 モララーははじめから「今は」ゼウスを殺さないつもりでいたが、
 話をスムーズに進めるために、そんなことを言った。
 ゼウスが皮肉るようにそう言うが、ゼウスもゼウスでそうなのであろうことは察していた。
 
 一方、モララーはモララーで、ゼウスがすんなり快諾してくれたことを、半ば訝しく思っていた。
 言動や動向を見る限りで言えば、ゼウスは他の二人より圧倒的に聡明で、冷静な男だ。
 そんな彼が、いくらこの情勢を前にしていたとしても、こう快諾してくれたことが少し不思議だったのだ。
 
 だが、それは言わば当然だった。
 ゼウスも、過去に似たような経験があったのだから。
 このとき、ワタナベを救護室に運んだときのような回顧する気持ちが、戻っていた。
 
 
.

663 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/02(土) 17:50:23 ID:mkhCogkg0
 
 
( <●><●>)「貴様に手を貸すつもりはないが、これだけは言っておこう」
 
 
( <●><●>)「貴様の恨む科学者、ジョルジュ=パンドラは、」
 
 
 
 
 
( <●><●>)「私の、敵だ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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