- 788 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:40:15 ID:Od7z4gzA0
-
「……? なんだ、おまえ」
キリヒラ
「俺か? ……フン。世界を『開闢』く者だ」
「………ップ」
「?」
「ギャーッハッハッハッハッハッハハハハハハハハッッ!!
. な、なんだおまえ! いきなり笑わせるんじゃねーよ! ギャッハハハハハハ!!」
「おう、笑え笑え」
「―――ッ。おい、ちょっと待て」
「なんだ」
「どうして……俺と、向かい合っていられる?」
「はァ?」
「俺の声を聞いて、どうして、そんな平気なツラしてられんだ?」
「……なんだ、そんなこと」
「………おい。答
「あーあーうるさい。
. お前は、黙って、そこに入ってりゃーいいんだ」
「なあ、返事は?」
「――なーんて、な。できるわけ、ねえよ」
「検体ナンバースリー……えっと、モララー=ラビッシュ」
.
- 789 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:40:51 ID:Od7z4gzA0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 790 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:41:23 ID:Od7z4gzA0
-
○前回までのアクション
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→撤退を見せる
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
→モララーたちと対峙
( ^ω^)
(*゚ー゚)
→傍観
( ´_ゝ`)
→ネーヨから逃亡
( ´ー`)
→アニジャを追跡
.
- 791 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:42:02 ID:Od7z4gzA0
-
第二十九話「vs【771】Y」
アニジャは走った。
途中で転んだり、上から壁の破片が落ちてきたりと『不運』に見舞われたが、
一歩道を踏み外せば即死すらあり得る裏通りで、彼が迷うことはなかった。
それは、裏通りに通いなれているというのもあるのだろうが、
裏通りなんかよりも更に恐ろしい存在――ネーヨ=プロメテウスが背後にいるから、もあったのだろう。
つい数分前までは、和やかさが伴っていたかは別として、ごく平凡な会話を交し合っていた仲だ。
ネーヨはアニジャの実態を知らないだろうと思っていたし、アニジャ自身もネーヨに対しなんとも思っていなかった。
それが、ネーヨのほんの一言で、ここまで――本来在るべき関係まで――関係が一変するなど、考えられただろうか。
腐った死体やそれに群がる見たことのない虫。
嘔吐された跡が生々しく残っている街灯の足元。
その街灯のランプは当然の如く割られており、そのなかに蜘蛛が巣を張り巡らせていた。
そこには見るからに毒々しい蛾の、無残にも食い散らかされた姿が見受けられる。
その蛾と未来の自分とが重なって、アニジャは寒気がした。
よけいなものは見ないようにして、ただとにかく走り続ける。
目的地など、特に考えていない。ただ、ネーヨが知らなさそうな場所だ。
ネーヨが本気を出せば、どこに向かってもすぐに身元が割れ、襲われるのだろうが。
そうだとしても、可能性のある道を、アニジャは選びたかった。
ふと、脳内に、ジョルジュの研究所が浮かぶ。
そうだ、あそこに何かネーヨから逃れる打開策が眠っているかもしれない。
『拒絶』のデータや過去の観察日誌のなかに、いい情報が隠されているかもしれない。
そう思うと、いつの間にか、足取りはジョルジュの研究所のほうへと向けられていた。
ジョルジュの研究所は、ここから駆け足で向かっても三十分はかかるだろう。
人目に触れられない――そもそも、人の寄り付きそうにない場所に建てられているからだ。
それまでに、足がやられるだろうか。
それとも、ネーヨに追いつかれてしまうだろうか。
もしかすると、この裏通りに迷って命が喰われるかもしれない。
さまざまな可能性が脳裏を掠めるが、アニジャは諦めなかった。
いつ『不運』が起こるか、わからない。
ルーレットにも似たその『不運』の行く末に、自分の無残な死がないことを、ただ祈るしかなかった。
祈るだけではだめだから『不運』だと言うのに。
.
- 792 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:42:36 ID:Od7z4gzA0
-
だんだんと、裏通り特有の薄暗さが晴れてきた。
ここからはしばらく、森が続く。
西に向かえば嘗てジョルジュと偶然出くわした廃墟が見えるのだが、向かうのは北東だ。
さっそく悲鳴を上げ始めた膝の皿に鞭を振るい、自分も奮い立てる。
走っている間は、死――いや。死ではない。「拒絶」だ。
拒絶と隣り合わせに在る自分を実感し、ただ冷や汗を流すことしかできなかった。
いくら自分の持つ力が「運」にまつわるものだからといって、その運ひとつでネーヨから逃げられるとは思わない。
つまり、こうしていま自分は逃げているが、それも無駄。彼は、そう、自分でわかっていた。
しかし、だからといって足を休めるわけにはいかない。
その間、なぜ自分の実態がばれたのかを、彼は考えはじめた。
が、それもすぐにやめた。
相手はネーヨだ。最初から気配でなんとなく察していたのか、もしくは『英雄』の親とされる存在から聞いたのか。
ネーヨのことだから、知る方法や察しのつく機会はかなりあったのだろう、
それにいまさらそれを知ったところで、いまのアニジャにはなんの変化も訪れないのだ。
無駄な考察は諦めて、とにかく、走り続ける。
走ってばかりだ、と、アニジャは自嘲したい気分になった。
だが、そう思うのも当然だった。
アニジャは、『不運』を引き起こす。
それはどんな人が相手であれ通用する、強力には違いないものだ。
だが、それは所詮運であるし、それ以上に、彼は大した格闘技術を身につけていないのだ。
そこらにいるアウトロー相手なら互角に闘いあう程度の力こそ持っているが、
モララーやハインリッヒなどの本格的なファイターには適いなどするはずがない。
結果、アニジャは、必然的に逃げることを選択する機会がほかと比べ圧倒的に多くなる。
走ってばかりで、当然なのだ。
.
- 793 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:43:08 ID:Od7z4gzA0
-
――とそこで、ふと、アニジャは速度を緩めた。
だんだんと、見ない景色が眼前に広がってきたからだ。
辺りをきょろきょろとしながら、現在の状況を、必死に脳内でまとめる。
五キロメートルほど走っただろう。
走るのをやめたとたんに溢れてきた汗と、それに伴う発熱作用がそれを物語っている。
しかし、そのわりには、既に見覚えのない場所に立っていた。
(;´_ゝ`)「おかしいな……確かにいつもの道できたのだが……」
ジョルジュの研究所は、切り立った崖の、中にある。
崖の中腹にある入り口は、鬱蒼とした森林が隠している。
日光すら入ってくるのを許さないので、入り口を見つけ出すには慣れが必要だ。
それを踏まえても、ネーヨの追跡を振り切るのに相応しい場所だと思っていたのだが――
根本的に、その崖が、見つからない。
昔に起こった地殻変動でできあがった崖で、それそのものは遠目からでも視認できる。
しかし、それすら、いま立っている位置からでは、見つけることができなかった。
もう見えるはずなのに――
(;´_ゝ`)「ッ! こんなときに……!」
原因は、すぐに判明した。
アニジャに言わせてみれば、いまさら触れるまでもないことだった。
. アンラッキー
ただの『 不 運 』。
.
- 794 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:43:52 ID:Od7z4gzA0
-
(;´_ゝ`)「――クソッ! アイツを殺すまで、死ぬわけには―――」
アニジャが自分の運命――こんな『不運』を身につけてしまった――をいまさら恨み、しゃがみこんでは地を殴った。
そちらに気をとられ、膝の痛みや肺の活発な呼吸運動の苦痛を、感じなくなった。
顎や髪を伝って、汗が乾いた砂地に滴り落ちる。
涙や雨にも似た、まだら模様がそこにできあがった。
どうすればいい。
そう思って立ち上がろうとしたとき、アニジャは後ろから、声をかけられた。
「アイツって、誰だ?」
(;´_ゝ`)「ッッ!」
.
- 795 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:44:24 ID:Od7z4gzA0
-
咄嗟に振り返る。
声の主は、振り返るまでもなく、その声色と、彼が発しているオーラでわかった。
筋骨隆々で、しかしクールな――その実はなにも受け付けてないだけの――顔色を浮かべる、男。
自分の知る限りでは、彼以上に強い者など存在するはずがないと言える、『拒絶』。
振り返って、彼の、おそらく最後になるであろうその姿を、見納める。
やはり、はじめて会った頃と変わらぬ、彼らしい姿であった。
ジーンズに白いシャツと、ラフな恰好で。
角刈りで、洒落っ気にまるで興味を示さない、白と薄橙の中間のような肌を持つ。
どこにでもいそうな風貌と、決してほかにはいないオーラとを携える、
( ´ー`)「これでもおめえのことは嫌えじゃねえからよ、置き土産として聞かせてほしいわ」
(;´_ゝ`)「………、……くそ…」
――ネーヨ=プロメテウス。
別名、『オール・アンチ』。
.
- 796 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:45:07 ID:Od7z4gzA0
-
◆
動いたのは、ハインリッヒだった。
モララーの背後に、ハインリッヒは脅威を感じた。
相手が【常識破り】で、過剰な警戒をしていたからこそ感じた、脅威だ。
草陰が、動いた。
決して風がもたらす揺れではない。
そこに何かが隠れているという、人為的な揺れだった。
いくら『英雄』の資格を剥奪されていても、持ち前の脚力は健在だ。
地面を蹴って瞬間的に加速し、モララーの横を縫うように駆け抜ける。
その速さと唐突さに、不覚にもモララーは対応することができなかった。
草陰まで、十メートルを切った。
目と経験則でだいたいの的を定め、そこに向かうように跳び蹴りを図る。
超低空で、走っているとなんら変わらないような、横に平行移動でもしているかのような跳び蹴りだ。
それは槍のように鋭く、実際、槍のように着地点を抉るのだろう。
ハインリッヒは、実際はそれが全くの脅威でなく、またモララーと関係がなかったとしても、
その不確定要素を、なんとか芽吹かないうちに摘み取っておきたかった。
そしてそれは、彼女だけに関わらず、アラマキやゼウスにも、通じるところがあった。
彼らも、不自然な草の揺れは、感じ取っていたのだ。
トソンとモララーは、そういったことには長けていないのか、そのことには気づかなかった。
ハインリッヒが飛び出したのを見て、咄嗟に振り返ることしかできなかった。
槍と化したハインリッヒの、その先を見定める。
なんてことのない、茂みだ。
そこにいったい、なにが―――
.
- 797 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:45:42 ID:Od7z4gzA0
-
すると直後、ハインリッヒが喰らいつく寸前、茂みにまたも変化が現れた。
いや、変化ではない。
そこから、音の主が飛び出してきた=B
それは、ハインリッヒの懸念とは違って、ただの、小動物だった。
茶色の毛並みで、ひときわ大きな耳が特徴的な――
▼・ェ・▼「!」
从;゚∀从「ッ?」
(゚、゚;トソン「――ッ! 待って!!」
現れた正体にモララーの策略がなさそうだと察したハインリッヒだが、その槍の軌道を、いまさら変えることはできない。
しまった、無駄に動いてしまった――その程度しか、ハインリッヒには、考えるところがなかった。
しかし。その後ろのほうで、動いた人がいた。
トソンが、ハインリッヒと同じようにその小動物の正体を見つけた瞬間、目を疑った。
小動物――そう、ビーグルが。
バーボンハウスに置いてきたはずのビーグルが、こんなところに、やってきたからだ。
そしてそれは、自分を追いかけてきたものであることを、すぐに理解した。
その証拠に、茂みから顔を出したときのビーグルは、尻尾を振っていた。
.
- 798 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:46:16 ID:Od7z4gzA0
-
トソンは、無駄だとわかっていても、制止しようとした。
自身の能力を使えばまだ間に合ったかもしれないが、突然現れたビーグルと、
それに喰らいつこうとするハインリッヒを前に生まれた焦燥と動揺が、トソンの制止を妨げた。
だから、ただ立ち尽くして、その情景を見届けることしかできなかった。
そんなトソンは、右手だけを前に伸ばしかけ、走り出そうとしたまま、固まっている。
視覚情報が伝える、目の前の、ハインリッヒの跳び蹴りの様子が、スローモーションのように映し出される。
そして
从;゚∀从
(゚、゚トソン
◎、
`' 。
▼,.`ラ,、*ィ
゙゚▲
.
- 799 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:46:48 ID:Od7z4gzA0
-
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン
ビーグルは、ハインリッヒの蹴りを喰らって、なおも原型を保てるはずがなかった。
それどころか、文字通り、木っ端微塵になってしまった。
ちいさな血飛沫があがる。同時に、内臓が多く、噴き出される。
骨も粉々に砕かれたようで、氷の結晶のように、それらが舞い上がっては、乾いた地にぱらぱら、と降り注がれた。
その雪は、赤黒く染まったものもあるし、本当に真っ白なものもある。
宙にいた状態から、ハインリッヒは不恰好に着地した――いや、地に転がった。
モララーの策略が絡んでいると思っていた矢先で虚を衝かれたため、体勢を崩したのだ。
その調子でビーグルへの蹴りも外していれば、まだ救いようはあったのかもしれないが、そこは小説のようにうまく行くことはなかった。
ハインリッヒが、状況を理解できないまま立ち上がるが、
その間、この場にいる人のなかで、誰一人として言葉を発したものはいなかった。
一方で、最初に動きを見せたのは、トソンだった。
走りかけのまま止まっていたところから、再開するかのように、彼女は走り出す。
が、全力疾走ではなく、力の抜けた様子で、ぱたぱたと駆け寄る。
「なにがあった」と混乱し、戸惑っているハインリッヒを無視して、トソンは、その砕け散った残骸を前に、しゃがみこんだ。
ハインリッヒとトソンに面識はないのだが、このときのトソンの表情が虚無一色で
気味悪く思ったハインリッヒは、ゆっくりと後退し、彼女から着実に離れていく。
.
- 800 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:47:21 ID:Od7z4gzA0
-
(゚、゚トソン
トソンは、ビーグルだった肉塊を落ち着いた所作で、すくいあげる。
どれが顔で、どれが前足で、どれが胴体で、どれが尻尾かわからないが、確かにそれは、元はビーグルだった。
まだ、温かい。滴り落ちる血液や組織液が、トソンの服を濡らす。そこからも、温かみが感じられた。
それに、まだ、重い。
バーボンハウスで抱いていたときほどの重さはなかったが、それでも一キロ弱はあった。
そこに生命がまだ残っている可能性を感じて、トソンは口を開く。
ビーグルに、呼びかけようと思ったのだ。
(゚、゚トソン「 」
が、名前をまだつけてなかったことをトソンは思い出した。
嘗ては、バーボンハウスをきれいにして、ビーグルを飼う環境をつくってから改めて名づけようと思っていた。
それを思い出し、やがて、ゆっくりと口を閉じる。
しかし、名を呼ぶまでもなく、ビーグルがそれに返事を返せないであろうことは、すぐに察しがついた。
返事をするための、犬らしく前に尖った口も。
感情を示すのに使われる、愛らしく振れる尻尾も。
『拒絶』に汚れたトソンを唯一じっと見つめる、その透き通った瞳も。
そのどれもが、いま抱いている肉塊の、どこにも見当たらなかったからだ。
それに気づいて改めて、ビーグルを抱き寄せる。
血生臭く、どろどろとした液体が服を通り越して己の躯を汚すとわかっていながらも、それを
ビーグルを、強く抱きしめた。
.
- 801 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:47:54 ID:Od7z4gzA0
-
トソンを汚す液体が、服に染み渡ってくる。
どれも醜く、臭く、どろっとした、不快さしか与えないであろう液体だ。
だが、それで汚される服の一箇所に、透明な、透き通った液体が染みついた。
それは雨や汗のようで、トソンの服、袖の手首あたりのところに、まだら模様を形成していった。
(;、;トソン「 」
( ・∀・)「と……トソン………?」
彼女の異変に気づいたモララーが、慌てて駆け寄る。
アラマキとゼウスはただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
なにが起こったのか。それは、把握している。
ハインリッヒがビーグルを粉々に砕き、それに気づいたトソンがビーグルを抱いて、号泣しはじめた。
ただ、それだけの話だ。
だが、「それだけ」で済ませてはならないような、そんな感じがした。
動けない≠フだ。
威圧されているわけでもなく、恐怖に戦いているわけでもない。
もっとも的確な言葉で表現するなら、彼らを縛っているのは、紛れもない「予感」だったのかもしれない。
トソンの奇行を目の当たりにして、このあとに起こるであろうことが
なんとなくではあるが見当がつき、それが、彼らを金縛りにしたのだろう。
それはモララーも一緒で、なにか、不穏な何かが、トソンのなかに生まれてくるのを感じた。
いままでは『拒絶』のなかでも別にオーラを感じさせなかった、『拒絶』なのかどうかを疑っていたトソンから
嘗て自分が親友に裏切られた――モララーが死んだ――ときに感じていたものを、感じ取ることができた。
それは、拒絶、ではない。
正確に言えば、それは―――絶望=B
.
- 802 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:48:52 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン「あ、あ………ッ…、……」
(;・∀・)「トソン、どうした! 答えろッ!!」
――そうとわかった瞬間、モララーの顔に、焦燥が張り巡らされた。
なにかから逃げ出すかのように、トソンの両肩に置いた手を使って、彼女を後ろから揺さぶる。
トソンは力なく、無抵抗に、されるがままに揺れただけだ。
ポニーテールの髪が、ただむなしく、揺れる。
次第に、自分のなかにあった落ち着きや余裕が、トソンのなかに芽生えた絶望に脅かされていくのを感じた。
焦りしか、感じなくなる。
汗を流し、鼓動を速め、目を見開き、筋肉が硬直しようとするのを、抑えることはできなかった。
そして、トソンは、肉塊を抱えたまま、立ち上がる。
ふらふらと立ち上がった彼女の足は、どこか覚束ない。
全身の筋肉に力が入らないのか、彼女は、肉塊を抱く腕ですら、震えていた。
モララーが彼女を揺らし、正気に戻そうとするが、このときでもう、手遅れだった。
トソンが死人のように口を開き、声にならない声を放つ。
いよいよだめか、そう思ったモララーは、ハインリッヒと同じように、ゆっくりと後退して行く。
トソンの声が、遠く離れていてもかすかにだが聞こえるようになってきた。
それに合わせてか、肉塊を抱いていた腕が耐えきれなくなったようで、肉塊が落ちる。
気味の悪い音とともに地に落ちて、かたちが変わった肉塊を、トソンは見下ろす。
( トソン「―――あ――……、…――ッ…――」
从;゚∀从「な、なにが……」
ハインリッヒが、事の重大さに気づいたときには、既に遅かった。
そしてついに、トソンは、自我を保つことができなくなった。
.
- 803 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:49:25 ID:Od7z4gzA0
-
( 口 トソン「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!
. ああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああ゛あ゛あああ!!
. あああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああッッ!!
. あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!!」
(;・∀・)「くそッ! まさか、ここで―――」
――― 『拒絶』、トソン。
――――― 覚醒。
.
- 804 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:50:15 ID:Od7z4gzA0
-
◆
アニジャは、一歩後退した。
目を背けたくなる衝動に駆られるが、決して逸らさないようにする。
少しでも精神的に弱い一面を見せてしまえば、そこを衝かれ、目の前の『拒絶』に侵食されるような――
そんな不安が、無根拠ながらも確実な予測としてそこにあったからだ。
汗を多く流し、疲れているアニジャとは対照的に、ネーヨの見て呉れに見てわかるような変化は見られなかった。
いつも通りの涼しい顔をしていて、シャツは汗で濡れてないし、靴にも泥はぜんぜん付いていない。
つまり、ネーヨは、ここまで走ってこなかった、となるのだろう。
瞬間移動だ。
この男の場合、その程度のことなら顔色ひとつ変えずにすることができる。
走ることを『拒絶』したのだ。
やっぱり、走って逃げても無駄だったんだなあ――アニジャは、溜息を吐いた。
( ´ー`)「疲れて声もだせねえ、か。ちったァ運動しろよな」
(;´_ゝ`)「………し、心配、ありがとよ」
( ´ー`)「お、クチ利けんじゃん。よかったぜ、悲しいお別れをせずに済む」
(;´_ゝ`)「お別れ……ねぇ」
具体的な言葉が放たれたので、アニジャの抱いている自分の『命運』の予想に、現実味が足された。
更に一歩、後退する。
ネーヨが追ってくる気配はないが、そんなことは彼にとってはなんの関係もない。
「ただ、そこにいるから殺す」。そんな考えさえあれば、一瞬でアニジャを殺すのだろう。
改めて恐怖を――拒絶を感じ、アニジャは唾を呑みこんだ。
.
- 805 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:51:36 ID:Od7z4gzA0
-
( ´ー`)「どうした。どうして、俺をそこまで拒絶する」
(;´_ゝ`)「いままでは免疫があったんだが、それが対応してない新たな『拒絶』が流行ったみたいでな。
. ワクチン、貰いにいくつもりだったんだ」
( ´ー`)「ワクチンなんていらねえよ。ただ、甘受すればいいんだ、おめえはよ」
(;´_ゝ`)「………ひとつ、聞かせてくれ」
( ´ー`)「おめえの病状か?」
(;´_ゝ`)「どうして、旦那が、俺を殺す必要がある」
( ´ー`)「……」
アニジャのなかにあった抗体こそ意味を成さなくなったが、
それでもアニジャは必死に、ネーヨと云うウイルスを前に立ち向かおうとした。
それを意外に思ったのだろうか、ネーヨは黙った。
(;´_ゝ`)「確かに俺は、ジョルジュの手先――と捉えられても仕方ないだろう。
. でも、あんたらに危害を及ぼすつもりはないんだ。ただ、肩書きがあんたらにとって目に毒なだけで。
. それを、ワタナベとかならともかく、どうして旦那の気に障ってしまうっていうんだ?」
( ´ー`)「なるほど、な」
ネーヨはやっぱりそうなるかあ、と思って、肯いた。
だが、それに対する答えは、既に出ていた。
( ´ー`)「俺は、さっきも言ったけどよ、別にどうでもいいんよ。おめえのことなんか」
(;´_ゝ`)「……」
「でも」。ネーヨは続ける。
( ´ー`)「殺さねえと、おめえ、モララーに八つ裂きにされるぜ。
そうでなくとも、『拒絶』の拒絶対象の連れなんざ、生かしといて『拒絶』の面々にとっていいわけがねえ。
それが、答えだ」
(;´_ゝ`)「………」
.
- 806 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:52:10 ID:Od7z4gzA0
-
今度は、アニジャが黙った。
正論――かどうかはわからないが、納得させられる内容であることには違いなかった。
黙ったら未練がないものと見られて、殺されかねない。
アニジャは、とにかく何か言葉を紡ごうとした。
(;´_ゝ`)「……、…」
( ´ー`)「……」
しかし、言葉にならない。
声帯が恐れをなしたのか、震えようとしないのだ。
口をぱくぱくと動かすだけで、なにも声と云う声は出てこなかった。
見かねたのか、ネーヨが代わりに口を開いた。
( ´ー`)「……今度は、俺に聞かせてくれねえか」
(;´_ゝ`)「…?」
すぐに殺そうとしないのを見て、アニジャは「おや」と思った。
( ´ー`)「もし、おめえが本当に『拒絶』に危害を与えるつもりがなかったんなら」
( ´ー`)「どうして、『拒絶』のなかにもぐりこんだ?」
(;´_ゝ`)「………そ、それか」
ようやく、アニジャは声を出すことができた。
びっしょりと額や頬を濡らす汗を、拭う。
落ち着きを取り戻そうとしつつ、アニジャは答える。
.
- 807 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:52:52 ID:Od7z4gzA0
-
(;´_ゝ`)「前にも、言ったよな。小屋で、だ」
( ´ー`)「……ああ、あんとき」
(;´_ゝ`)「俺はあんたらには興味がない」
( ´_ゝ`)「俺にとっての、唯一の『拒絶』。……それが誰かは、あんたもよく知ってるだろ」
( ´ー`)「……弟、か」
「ああ」と、アニジャは肯いた。
先ほどまで震えた声だったのが、このときだけは、はっきりとしたものになっていた。
( ´_ゝ`)「どうせ死ぬんだったら、俺の計画、教えてやるよ。聞いてやってくれ」
( ´ー`)「おう」
( ´_ゝ`)「俺は、弟を―――」
( ´_ゝ`)「オトジャ=フーンを、殺すために。あんたらと、つるんでいた」
.
- 808 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:53:30 ID:Od7z4gzA0
-
◆
(;・∀・)
从;゚∀从
/;,゚ 3
トソンがひとしきり叫んだかと思えば、皆のほうに向いた。
顔を俯かせているため、前髪が顔を隠す。
そのせいで、いまのトソンの心情が、わからなかった。
だが。
先ほどまでトソンが感じていた絶望は、一瞬にして、感じられなくなった。
その代わり、モララーを除く皆が感じることのできたものがあった。
( <●><●>)「………どういう、ことだ」
/;,' 3「あやつ、さっきまで、こんなんじゃなかったぞ!」
ゼウス、アラマキ、ともに焦燥を露わにした。
先ほどまで、蚊帳の外に出されているような心地だったのに。
気がつけば、彼らの空気に呑みこまれていたのだ。
二人さえ感じ取ることのできた「それ」を、もっとも痛感したのは、ジョルジュだった。
肌に、びりびりとやってくるその空気を、冷静に分析するまでもなく、実態を解明した。
不遜な態度を見せていたのが、いつの間にか、研究者としてのジョルジュに戻っていた。
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- 809 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:54:05 ID:Od7z4gzA0
-
_
( ;゚∀゚)「この感じ……くそっ。そういうことか」
(;・∀・)「……」
ジョルジュが現状を分析したようなので、モララーが、彼を見た。
このときだけは、彼に対する憎悪が、湧いてこなかった。
从;゚∀从「お、おい! アイツ、何があったんだ!」
_
( ;゚∀゚)「言うまでもねえよ。あいつは――」
(;・∀・)「『拒絶』化した―――のか?」
_
( ゚∀゚)「! あ、ああ。たぶん、そうだ」
(;・∀・)「………………。」
从;゚∀从「……逆に言えば、さっきまでは、『拒絶』じゃなかったのか?」
_
( ゚∀゚)「たぶん、そうだ。俺は、あんな女、知らなかったんだからな」
/ ,' 3「『拒絶』……化……ッ」
アラマキは、そう知って、鳥肌がわき立ってきた。
ワタナベと死闘を繰り広げた身として、『拒絶』の名が語る、その恐ろしさは充分知っている。
そんなワタナベと同格の彼女が、目の前にいるのだ。
咄嗟に、戦闘モードならぬ、戦争モードにスイッチを切り替える。
非情になりきり、自らの勝利のみを考える、『武神』としてのモードに。
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- 810 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:54:38 ID:Od7z4gzA0
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(;・∀・)「………ッと……、トソン……?」
( 、 トソン
モララーは、二つのことに、戸惑っていた。
ひとつ、『拒絶』の一員だと思っていたトソンが、本当は『拒絶』でなかったこと。
また、ただの『能力者』だったトソンが―――とうとう、『拒絶』になってしまったこと。
『拒絶』の一人としては、彼女の『拒絶』化は、むしろ、笑って受け入れるべきなのだろう。
しかし、モララーは、そうしなかった。
彼女の身を案じては、本来在るべきものと違う感情が、胸中で渦を巻く。
心配、不安、同情、煩悶、苦悩――拒絶。
モララーはなんとか自分を奮い起こして、歩き出すトソンを押さえにかかった。
制止しようとし、踏みとどまるように促す。そして、事情を話せと言う。
ところが、トソンは、モララーのその差し伸べる手を、乱雑に振り払った。
明らかに態度が違う――そう思うと、モララーは、複雑な心境になった。
モララーの制止を振り切り、トソンは歩く。
やがて、ハインリッヒの前に、立った。
背の低いハインリッヒを、やや長身なトソンが見下ろす。
ハインリッヒは戦う姿勢をとるが、トソンは手を出そうとはしない。
ただ、ハインリッヒの前で
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- 811 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:55:09 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン
手を、天高く、突き上げただけだ。
そこから振り下ろしたり、実はそれはフェイントで蹴りを喰らわせたりするのか、とハインリッヒは警戒した。
が、その手に、そのような意味は全く含まれていなかった。
一言、トソンはつぶやく。
パラメート
( 、 トソン「『 操 作 』」
从;゚∀从「ハ?」
直後。
この星は、崩壊した。
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- 812 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:55:44 ID:Od7z4gzA0
-
◆
( ´ー`)「あの狂人を、か」
アニジャにとっての、唯一の『拒絶』。
それは、「神の唯一の失敗作」と称され、
ただそこにいるだけで世界の規律を乱してしまいそうな、
どうしようもなく最悪で、最凶で、最低な男だった。
オトジャが気を抜けば、あっという間に世界は滅びるかもしれない。
この星の核に『異常』が起こり、大爆発を起こし得るかもしれないのだ。
それほどの男をこの世から消し去るために、アニジャはアニジャなりの計画を以て、生きてきた。
そして、その男の名は、ネーヨも当然知っていた。
紛れもない『拒絶』の一人にして、モララーを黙らせるほどの狂った『拒絶の精神』を持っているのだから。
また、狂っているのは『拒絶の精神』だけではない。
その、有する《拒絶能力》も、目も背けたくなるほどの狂いっぷりだった。
インフェルノ
【運の憑き】。
『不運』ではすまないような、あらゆる災難を呼び込む能力。
これが《拒絶能力》なのに対してアニジャは《異常体質》とされていることから、完全な上位互換となるわけではない。
が、そんな差が気にならないほど、この《拒絶能力》は、本人の性格ともあいまって、狂ったものであった。
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- 813 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:56:54 ID:Od7z4gzA0
-
アニジャが、兄として、この弟を滅ぼそうとするのも、肯ける話だった。
だから、そう言われて、ネーヨは疑おうとしなかった。
むしろ、同情するような眼差しでアニジャを見る。
( ´_ゝ`)「昔、な。一度は、殺害――とまではいかなかったが、封印することができたんだ。
俺の運と、ジョルジュの『箱』とで、な」
( ´ー`)「よかったじゃねーか」
( ´_ゝ`)「が、『不運』はむしろ、俺たちにあった。誰かが、『箱』を開けたんだ」
( ´_ゝ`)「あんただよ、ネーヨの旦那」
( ´ー`)「………」
ネーヨが、黙る。
( ´_ゝ`)「中途半端に『箱』に閉じ込めてしまったせいで、アイツは、
いたずらに『拒絶の精神』を増幅させただけで還ってきやがった。
アイツのスキルが強化されて、なんていうオマケつきだ」
( ´_ゝ`)「しかもそのせいで、アイツのスキルは無意識下でも適応されるようになった。
おかげで、遠く、遠くからアイツだけをピンポイントで『箱』に閉じ込めることすらできなくなった。
『箱』を閉じ込めようとしても、運を亡(な)くされるせいで、別のなにかを閉じ込めてしまうか、なにかが起こっちまう」
( ´_ゝ`)「そこで、ジョルジュの指示で、俺はあんたらのところに潜りこんだ。アイツを封印する術を探って、な。
ところが、だ。アイツは、一向にあんたらのもとに帰ってこない」
( ´ー`)「オトジャが連中と顔を合わせたのは、トソンが来るよりも前。その一回きりだ。
あいつはあいつなりに、満たされるなにかをしていたんだろうよ」
と、悪びれた様子を見せず、ネーヨが言った。
が、反省の色を見せないことに、アニジャがとやかく言うことはなかった。
( ´_ゝ`)「……というわけだ。確かに、ジョルジュは『拒絶』にとっちゃあ拒絶の対象だろう。
でも、俺の目的は、いま言ったように、弟ただ一人。
で、アイツが『拒絶』である以上、ネーヨの旦那が直接手を下すこともできないだろ?」
( ´ー`)「……」
( ´_ゝ`)「だから、俺を殺すのは、もう少し待ってほしい。
アイツが消えるか封印されたら、そのときは俺も死を甘受しよう。どうだ?」
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- 814 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:57:26 ID:Od7z4gzA0
-
苦肉の策で、そう提案する。
ネーヨは、少し、考えるそぶりを見せた。
アニジャはこのとき、気が気でなかった。
こうは言っておきながら、いつ殺されるかがわからず、またそのことで軽い恐怖を感じていたからだ。
アニジャは実生活に未練は残していない。
唯一の未練は、オトジャだけ。これに関しては、嘘はついていない。
正真正銘の、本心だ。
それを、ネーヨが、汲み取るのか――
( ´ー`)「事情があんのは否定しねえけどよ」
( ´_ゝ`)「!」
そんなもん、
知らねえよ。
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- 815 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:58:06 ID:Od7z4gzA0
-
◆
从 ゚∀从「ッ!」
/ ,' 3「っ!」
( <●><●>)「……ッ」
その瞬間。
彼らは、なにが起こったのかはわからなかったが。
確かに、その瞬間に、『異常』が起こったことを、把握した。
一瞬、なにがとは言わないが、『異常』が、己を包んだ、
そんな錯覚を抱いたため、ハインリッヒをはじめとする三人は、きょろきょろとした。
何が起こったのだ――そう思い。
ハインリッヒの前にいるトソンは、わけがわからない、と言いたげな顔をしていた。
目の色が、少し、薄くなる。
そんな、動揺で満たされるなかで。
彼らとは違い、動揺よりも焦燥を感じている人が二人、いた。
モララー=ラビッシュと、ジョルジュ=パンドラである。
ジョルジュは「なにが」起こったのかについて、心当たりがあった。
ぼんやりと浮かぶそれを考えては、悪寒がするのを抑えようとする。
息を急き切っているモララーを見て、ジョルジュはその霞がかった心当たりが正しいことを、確信する。
/;,' 3「おい! いま、何が―――」
_
( ;゚∀゚)「モララー! いま、そいつは――」
アラマキが動揺する理由もわかるが、ジョルジュはそれどころではなかった。
事情の説明はあとからいくらでもできる。
だが、現在進行形で進んでいる問題解決は、いましか、できない。
だから、ジョルジュは、アラマキを無視してモララーに話しかけた。
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- 816 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:58:37 ID:Od7z4gzA0
-
( ;・∀・)「……ッ。なんだ!」
_
( ;゚∀゚)「ひょっとすると、いま――」
ジョルジュの言わんとすることを、モララーは読み取る。
彼は、科学者だ。アラマキたちがわからなかった「これ」に、唯一気づくことができたのだろう。
そう思い、モララーは肯いた。
( ;・∀・)「ああ、そうだよ、クソッタレ! トソンは、いま……」
( 、 トソン
( ;・∀・)「この星を、つぶした――いや。爆発させた=I」
_
( ;゚∀゚)「……くそッ!」
从;゚∀从「ど、どういう意味だ!」
ハインリッヒが乱暴に問いかける。
それに答えたのは、モララーでもジョルジュでもない男だった。
息も絶え絶えな声で、ぼそり、ぼそりと、言葉を紡いでいく。
その声は、実際はそうでもないのに、なぜか、かなり懐かしいような気がした。
「彼女は、温度を『操作』したんだお」
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- 817 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:59:07 ID:Od7z4gzA0
-
从 ゚∀从「パラメート……?」
从;゚∀从「――って、テメェ!」
ハインリッヒは、がばッと振り返る。
そこには、顔面に粒のような汗をびっしり浮かべた、内藤が立っていた。
相変わらずにへらとした笑みを浮かべ、しかし深刻そうな空気を携えながら、歩いてくる。
(;^ω^)「なんだお?」
从;゚∀从「いつから起きてた――」
_
( ;゚∀゚)「ンなこたァどーでもいい! おい、お前!」
トソンは、まだ現状が把握できてないのか、ただ、呆然としていた。
太陽を見上げるかのように、高く突き上げた右手を、じっと見つめる。
その隙を見計らって、ジョルジュが内藤に近寄った。
_
( ゚∀゚)「いまのは、なんだ! わかるんだろ、お前なら!」
(;^ω^)「……なーんとなく、だお?」
_
( ゚∀゚)「いいから、言ってくれ! 対策が練られねえ!」
(;^ω^)「……じゃあ」
内藤は、どうやら、多少は後遺症が残るも、復活したようだ。
病み上がり同然の彼にいきなり多くを話させるのには抵抗を覚えるが、それでもジョルジュは話してもらった。
ジョルジュにとって、内藤個人よりもこの世界、なのだ。
.
- 818 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 21:59:42 ID:Od7z4gzA0
-
(;^ω^)「一瞬肌が焼けた感じがした、でも一瞬後にはこうして元に戻ってる。それを踏まえると――」
( ^ω^)「トソンは、温度を『操作』して、この世に存在してはならない数字をたたき出させた」
_
( ゚∀゚)「温度……やっぱり、そうか」
( ^ω^)「それに核が『異常』を来され、爆発。
宇宙の隅から隅まで届くような、とんでもない大爆発が起こったと推測されるお。
……僕の推測で言うなら、温度を現在の三十兆乗のそれに『操作』したんじゃないかお」
从;゚∀从「はぁ!? さんじゅ――」
( ^ω^)「で、星は崩壊したけど、この場にいるなかで唯一、生き延びてる人間がいた」
( ^ω^)「モララーだ」
( ・∀・)「………」
全員が、モララーに視線を向ける。
内藤は続けた。
( ^ω^)「『ここに存在していない』モララーは、
爆発したあとの星を見て何が起こったのかを推理し、咄嗟にこう『嘘』を吐いた」
( ^ω^)「『星が爆発を起こしたのは、嘘だ。トソンは、なにもスキルを使わなかった』。
………違うかお?」
.
- 819 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:00:16 ID:Od7z4gzA0
-
そう言って、内藤はモララーを見る。
モララーは訝しげな顔をしつつも、内藤にだけ聞こえるような声で、言った。
( ・∀・)「……『作者』、とか言ったな」
( ^ω^)「お」
( ・∀・)「その話、信じるよ」
( ^ω^)「…!」
内藤は、いまの言葉に、ただならぬ違和感を感じた。
しかし、矢継ぎ早に放たれた次の言葉で、その違和感は埋められてしまった。
だが、とにかく、いまの内藤の推測が全て本当であることは、否定しないモララーを見てわかった
( ・∀・)「トソンを―――」
( Д トソン「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
( ;・∀・)「――くそ!」
モララーはなにかを言おうとしたが、トソンの絶叫に遮られた。
直後、再び星は爆発した。
モララーが、それを『嘘』にする。
そのやり取りが、繰り返される。
最初は狂気に任せてスキルを乱用していたトソンだが、
何度やってもモララーに『嘘』にされるのを見て、次第に、スキルを使うのをやめるようになった。
.
- 820 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:00:57 ID:Od7z4gzA0
-
( ;・∀・)「………」
从;゚∀从「い、いまの………なんだ?」
ハインリッヒが、訊く。
それに近い内容の質問を、ゼウスとアラマキもした。
( <●><●>)「……いまのも、その彼女のスキル……なのか?」
/;,' 3「ずいぶんと、何度も肌が焼けた気がしたんじゃがの……。いったい、何回、あやつは――」
そして、それに近い内容の答えを、モララーが言った。
( ・∀・)「聞いて驚け。いまの一瞬の間に、一年が経過していた」
(;^ω^)「ッ!」
_
( ;゚∀゚)「一年だと!?」
.
- 821 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:01:28 ID:Od7z4gzA0
-
( ・∀・)「……で、やっと、おさまった」
( 、 トソン
そう言って、トソンのほうを見やる。
内藤たちも、なにも言葉を話そうとしないトソンを、見つめる。
静かに、ゆっくり、呼吸をしている。
腕は自然体のままで、握っても開いてもいない手が、垂れている。
顔もやはり俯いたままだった。そのせいで、表情が読み取れない。
モララーが全てを『嘘』にしたため、事の一部始終はわからないが、
狂気に満ちたトソンが発動したスキルの回数は、数え切れないほど。
モララーの体感時間からして、一年間もの間、トソンはこの星を爆発させ続けた=B
それの繋がるところ、ビーグルが殺されたことによる『拒絶』になる。
『拒絶』になった際の副作用だ、と、ジョルジュがちいさく、トソンに聞こえないような大きさで言った。
モララーは、当初の目的とは一転、いまは覚醒したトソンを宥めることで頭がいっぱいだった。
憎悪すべきはずのジョルジュのことなんか、もはや二の次となっていた。
トソンに拒絶させる気を削がせて、間接的にスキルの発動を食い止める。
その結果が、一年と云う時の経過なのだろう。
『拒絶』の恐ろしさを、彼らは、改めて、思い知らされた。
トソンが動く。
モララーは説得しようと、それに応じる。
.
- 822 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:02:03 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン
( ・∀・)「………トソン」
トソンは、まっすぐモララーのほうに向かう。
改心してくれたのか、我に返ってくれたのか。
とにかく、モララーは彼女の『拒絶』を、受け止めるつもりだった。
彼女の――得体こそしれないが――その有するスキルに立ち向かえるのは、いまのところ、モララーしかいない。
だから、二重の意味において、彼女を説得するのはモララーが適役だった。
( 、 トソン
( ・∀・)「おまえのその、つらい気持ちは、よくわかる。俺も、それに似た感情を、持ってた」
( 、 トソン
( ・∀・)「『拒絶』だ。で、さっきみたいに、狂気に振り回されたまま、軽く一年は、過ごしてきた。俺も」
( 、 トソン
( ・∀・)「……だから、トソン」
( ・∀・)「落ち着いてく―――」
.
- 823 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:02:41 ID:Od7z4gzA0
-
――直後、トソンは、モララーに殴りかかった。
平生の、非力な彼女からは想像もつかない、かなりの速さをで、だ。
モララーの左のこめかみから頭蓋骨を破壊するかのように、右腕を放つ。
スキルを使っているのかと思ったが、実際は違った。
もし彼女がスキルを使った上で殴っていたなら、モララーは反応できなかったからだ。
持ち前の戦闘能力で、そのトソンの唐突な攻撃を、かろうじて、かわした。
膝をたたんで、上体を重力に従わせて地に落とす。
結果、トソンの拳をもろに受けることは、なかった。
なかった、が―――
/;,゚ 3「も、モラ……ーッ!!」
从;゚∀从「おいッ! 大丈夫か!!」
( メ∀・)
.
- 824 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:03:14 ID:Od7z4gzA0
-
モララーは、顔、右目に、大きな傷を負った。
肉が抉られ、鮮血が飛び出す。
その負傷に気づいてから、モララーとトソンは、全く動こうとしなかった。
ハインリッヒたちが、思わず声をかける。
しかし、モララーは反応しなかった――いや、できなかった。
一瞬、頭の中が、真っ白になったのだ。
少しして、自分の両手の掌を見つめる。
そして、右手だけを、顔、負傷した箇所に近づけた。
傷を手で覆う。
生温かい液体が、掌に、ぶわあっと広がってゆく。
――そしてわかる、紛れもない『真実』。
トソンが、同志のはずの自分を、攻撃した。
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- 825 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:03:47 ID:Od7z4gzA0
-
( メ∀・)「……………な………」
( メ∀・)「……なんで……………」
一同が、硬直した。
.
- 826 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:04:35 ID:Od7z4gzA0
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( メ∀・)「……なんで………使えないんだ………」
( メ∀・)「なんで、使えないんだよ……【常識破り】………」
从;゚∀从「な……ッ――――」
_
( ;゚∀゚)「なにィィィィィィィッィイ!?」
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- 827 名前:同志名無しさん 投稿日:2013/02/09(土) 22:05:07 ID:Od7z4gzA0
-
「『俺は攻撃を受けなかった』んだぞ………」
「どうして………消えないんだよ、コレ……………」
―――それは。
「この世でもっとも脆い男」が、ついに、崩壊してしまった、ときだった。
.
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