- 168 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 08:57:59 ID:gwC.eNX2O
-
第四話「vs【連鎖する爆撃】」
その怪力からは想像もつかない痩身。
目にかかるかかからないか、程度に切られた黒い前髪。
細めた眼に口角の下がった優しい顔つき。
茶色のズボンに赤いシャツ、黒いコート。
そして、丁寧な口調。
無知な者がそんな姿を見て、誰が彼をゼウスと認識できるだろうか。
二十代前半のフリーターとしか思えないだろう。
しかし、不用意に近づけば、待ち受けているのは死か地獄だ。
( <●><●>)「アラマキにハインリッヒ、そして私」
( <●><●>)「……見事に三大勢力の頭が揃っているな」
/;,' 3「ゼウス……ッ!
貴様ッどうしてここに!」
.
- 169 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 08:59:22 ID:gwC.eNX2O
-
アラマキが焦燥を見せた。
ゼウスは平生を保っているというのに、
対照的なまでにアラマキは焦っていた。
しかしゼウスはそれを笑わない。
ハインリッヒもアラマキも、自然と戦闘が止まり、そちらを見ていた。
从 ゚∀从「………てめぇが……ゼウスか?」
( <●><●>)「試してみるか?」
从 ∀从「……よくも……」
ハインリッヒの意識は、完全にゼウスに向いていた。
今なら隻腕のアラマキでもハインリッヒに打ち勝てるが、
そのアラマキも、今はゼウスしか眼中になかった。
ハインリッヒが握り拳をちいさく震わせた。
数秒経ったかと思うと、彼女は眼を見開いた。
从#゚∀从「よくもヒートをぉぉぉぉぉぉぉッぉお!!」
( <●><●>)
.
- 170 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:02:25 ID:gwC.eNX2O
-
【大団円《フィナーレ》】により手に入れた『無重力水泳』は、
能力発動者のダウンにより、もう消滅していた。
ハインリッヒは、持ち前の脚力を用いて、ゼウスに向かって躍り出た。
しかし、ゼウスは動かない。
ハインリッヒなど歯牙にかけるまでもない、と思ったが故の態度か。
だが、一方のハインリッヒは、妹を殺され怒りに震えていた。
否、ハインリッヒに限らず、身内を殺されたとなれば
仇討ちを目論むであろうことは容易に予測がつくだろう。
そして、誰が言うまでもなく、二人がいまから戦闘する、とも。
しかし、アラマキがそれを許さなかった。
/ ,' 3「『解除』するぞ」
从;゚∀从「ぅあッ」
ハインリッヒを止めるべく、
アラマキは彼女を【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】で強引に止めた。
その場でくずおれるハインリッヒの向こうでは、
ゼウスが既存の武術のそれではない構えを見せていた。
.
- 171 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:06:20 ID:gwC.eNX2O
-
( <●><●>)「おや。かかってこないのか」
( <●><●>)「即殺してやろうかと思ったのだがな」
/;,' 3「阿呆! ゼウスを殺すんなら、なぜに無鉄砲に突っ込む!」
从 ∀从「……ヒートぉ……」
ゼウスは構えを解いた。
そして、隣にいた内藤を、ぎろっと睨んだ。
彼を生み出したのは自分だが、実物が現れたと思うと、怖くて仕方がなかった。
だが、ゼウスはどこか内藤に対しては鄭重に振る舞っていた。
それが自己の利益に繋がるためだろうか、と内藤は考えた。
しかし、それでも溢れ出てくる不安は拭いきれなかった。
( <●><●>)「こんにちは、『作者』さん」
(;^ω^)「よ、よくご存じで……」
( <●><●>)「あなたに少し、お話があるのですが」
( <●><●>)「よろし――」
ゼウスが手を差し伸べた瞬間、彼は急に両手を地につけしゃがみ込んだ。
同時に、アラマキがゼウスたちの上を通り過ぎていった。
跳び蹴りを見舞おうと思ったのだろう。
内藤から見れば、どこぞから流星が飛んできたかのように思えただけだった。
直後、ゼウスは両足をぴんと伸ばして、その蹴りを真上に放った。
/ ,' 3「儂の重力を――『解除』」
( <●><●>)「ほう」
蹴りを喰らう一瞬前に、アラマキは自身の躯を浮かせた。
重力を一時的に『解除』することで、空中でも咄嗟に回避が成立するのだ。
それで間一髪で蹴りを避けたのち、アラマキは近くに降りた。
.
- 172 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:08:33 ID:gwC.eNX2O
-
/ ,' 3「今のをかわすか」
( <●><●>)
アラマキは、嘲りの混じった声でそう言った。
虚勢のつもりで放った呟きだったが、
ゼウスはそれに対し見向きすらしなかった。
アラマキを無視し、ゼウスは内藤に言葉をかけた。
ゼウスが言おうとしていたことは自然のうちにすり替わっていた。
( <●><●>)「『作者』さん、お話は彼らを殺してからでよろしいでしょうか?」
(;^ω^)「こ、殺しちゃだめだお……」
( <●><●>)「じゃあ――」
( <●><●>)「『爆撃ッ!!』」
/ 。゚ 3「!?」
.
- 173 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:10:22 ID:gwC.eNX2O
-
ゼウスは唐突に、そう言い放った。
ゼウスの持つ能力、【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】。
一度でも攻撃に成功した場合、以降はゼウスの任意で
相手を回数制限なく爆発に見舞えるというものだ。
問題はその発動条件で、一度でも攻撃を
与えてないのであれば、爆発を引き起こすのは不可能だ。
しかし、今のゼウスは、アラマキにダメージを
与えていないのにも関わらず能力の発動を宣言した。
アラマキもそれを妙に思い、明らかに驚愕して身構えた。
次の瞬間
( <●><●>)「もらった」
/;,' 3「ぐおッ!!」
爆発ではなく、ゼウスの跳び蹴りが<Aラマキを襲っていた。
.
- 174 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:13:20 ID:gwC.eNX2O
-
爆撃を宣言することで、アラマキには当然戸惑いが生じる。
いまのゼウスの発言が、能力の発動のそれとしか捉えられなかったからだ。
「ばかな、なぜ能力が使える」、と。
そこを、ゼウスが衝いた。
アラマキやハインリッヒが能力を応用して走るのではなく
もともとの実力での走行速度が尋常なく速いゼウスならば、
一瞬の戸惑いを持たせるだけで、それを衝くことができる。
プロのキックボクサーのそれよりも重い蹴りを、ゼウスは見舞った。
そして、【連鎖する爆撃】のトリガーが満たされてしまった。
なにも、必要なのは出血や骨折ではない。
とにかく「攻撃を見舞えれば」いいのだ。
/;,' 3「――!」
( <●><●>)「『爆撃ッ!!』」
/;,゙ 3「ぐおッ……」
ゼウスが一歩跳んで後退した直後、アラマキの左こめかみの当たりを爆発が襲った。
直径一メートルの小規模な爆発だが、破壊力は充分にある。
アラマキの左頬を、やや多めの血が伝った。
.
- 175 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:14:46 ID:gwC.eNX2O
-
そして、ゼウスの恐ろしさはその爆発の威力ではなく連打性だ。
小規模な爆発だからこそなのか、一秒間に三度程度なら連続して爆発を起こせる。
アラマキに回避などの為す術も与えないまま、三連続で爆発が起こった。
まずはアラマキが元いた位置の一歩後ろ、後退りした直後。
地雷でも踏んだかのように、足下が爆発した。
瞬間的に跳躍すると、今度は頭上で爆発が起こった。
身を屈めて自らの慣性を『解除』し、被害を抑えた。
直後に、顔面を覆っていた両腕のうち右腕の中央から爆発が起こった。
体勢が崩れ、アラマキは受け身をとることなく地に落ちた。
ゼウスが指をびしっと突きつけた。
言葉にはせずとも、『爆撃』を唱えるのだろう。
.
- 176 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:18:40 ID:gwC.eNX2O
-
しかし、それは叶わなかった。
从 ∀从「『イッツ・ショータイムッ!!』」
( <●><●>)「!」
从 ∀从「てめぇは、てめぇだけは……、私が潰す!」
( <●><●>)「……そうか、『英雄』もいたのか」
ゼウスは突き刺した指を引き、向きをハインリッヒの方に持って行った。
そしてアラマキを爆発が襲ったと同時に、ハインリッヒは飛び出した。
【劇の幕開け《イッツ・ショータイム》】と同時に、
つまり初っ端から、『英雄』は本気を出していた。
从 ∀从「………仇は」
从 ゚∀从「俺がうつ」
( ^ω^)「……!」
.
- 177 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:25:28 ID:gwC.eNX2O
-
内藤は、ハインリッヒの瞳に変化が現れたのがわかった。
【劇の幕開け】により瞳が赤くなったのには何らおかしな点はないが、
その奥に、欠けたところが上を向いた三日月のような白い模様が見えたのだ。
キャラ設定に準拠しない変化だったため、内藤は戸惑った。
「なにかがおかしい」と云った心境で胸中がいっぱいだった。
仮にここが内藤の創りあげた世界であるのなら、
当然それらは元の小説の設定に忠実なはずである。
それに逆らっているのを見て、尚更内藤は妙な心地で満たされた。
ハインリッヒが一歩踏み出した。
そして体躯を低くし四本足のようになると、
残像を残してハインリッヒがそこから消えた。
脚力の強さは作中でも随一の彼女が、高速で移動した証だった。
それを見た瞬間、ゼウスは後方に裏拳を放った。
内藤がそちらに目を遣ると、周囲に砂埃が舞った。
ゼウスの隣に内藤がいるので、その時の状景はよくわかった。
.
- 178 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:27:47 ID:gwC.eNX2O
-
ハインリッヒは、ゼウスの背後をとろうとした。
それをゼウスが読んだのか、躊躇わずに後方に裏拳を置いた。
その動きを見ていたようで、ハインリッヒは途端に地を蹴って砂埃と共に宙に舞った。
直後に、ゼウスはバックステップをとった。
二、三歩ときれいに跳び、数十メートルの距離を空けた。
どうしたのだと思うと、内藤の隣、ゼウスが
元いた位置に、ハインリッヒの踵落としが炸裂していた。
( ^ω^)「(『慣性に優先』して、慣性を無視して
重力に身を任せて落下したのかお……?)」
それらを見て、驚きも戦きもせず、内藤は冷静に分析していた。
そして、その分析は合っていた。
ハインリッヒが【劇の幕開け】を展開している間、
一瞬だけ彼女が何かに大して自身を『優先』させることができる。
慣性の力は、物理的に存在している規則だが、その慣性に
流されるがままの自分の存在を『優先』させ、それに逆らった、ということだった。
.
- 179 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:31:09 ID:gwC.eNX2O
-
内藤は、その判断力の良さに驚いたわけではない。
彼女が、『慣性に優先する』なんて発想を
抱いたことに半ば驚きを示していたのだ。
(;^ω^)「(―――いやいや、待て、待てっ!)」
内藤は顔をぶるんぶるん振るった。
この間も、ハインリッヒとゼウスは
目にも留まらぬ速さで動き戦っている。
(;^ω^)「(慣性に優先って……)」
(;^ω^)「(まんまアラマキの技じゃないかお!)」
アラマキの【則を拒む者】は、ありとあらゆる力を『解除』する能力だ。
その汎用性は意外に高く、ハインリッヒの跳躍や跳び蹴りを悉く妨げてきた。
重力を解除することで、相手に抵抗のしようがなければ瞬殺も可能なその能力だが、
ハインリッヒのいまの能力の使い方は、限定こそされているものの、
その【則を拒む者】とほぼ同じだった、内藤は誰かにそう言いたかった。
「慣性に優先する」のも「慣性を解除する」のも、大した違いはないからだ。
.
- 180 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:33:06 ID:gwC.eNX2O
-
原作での彼女の立ち回りは、強化された圧倒的な身体能力と速度で相手を翻弄するのだ。
そこでは、今はまだ『英雄の優先』は使えないが、仮に使えていたとしても、
このように能力を乱用するようなキャラクターではない。
アラマキに影響されたことで、自身の能力の新たな
使い道を知った、そうとしか理由付けすることができなかった。
(;^ω^)「(だいぶ物語のずれが出てるみたいだお……)」
内藤は考える。
(;^ω^)「(でも、もしそうだとすると……)」
(;^ω^)「(もしかして……『あいつら』も居たりするのかお)」
(; ω )「(……じゃあ、いまこいつらが戦ってると……もしかしてっ!)」
.
- 181 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:34:21 ID:gwC.eNX2O
-
◆
( <●><●>)「……ばかな」
ゼウスは、ハインリッヒの動きを読むことに専念していた。
彼女は、姿勢を低くしてからのダッシュで相手の背後をとることが多い。
そして地に両手をつき両足を駒のように回転させて連撃を加えるなど、
とにかく脚を使った攻撃が多いことは、わかっていた。
ゼウスの脳はスーパーコンピューター四台では足りない程の、
まさに化け物としか呼べないような知能指数を持っている。
文字が十個以上ある関数でも、一度設問を聞いただけで即答してしまうような。
そんな彼の肉弾戦の主なスタイルが、「読む」ことだった。
相手の腕の動かし方、呼吸のリズム、視線など全ての要素を観察し、
次なる行動を叩き出して、それの一枚上をゆく攻撃を放つのだ。
.
- 182 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:35:32 ID:gwC.eNX2O
-
しかし、彼は若干当惑していた。
彼女の動きが読めないのだ。
それよりも、聞いたこともない能力を使っているではないか、と。
彼女の能力は「自身を強化する」「特定の能力者からのサポートを受ける」
「なにかから自分を優先させる」の三つであることはわかっているし、
実際彼女はそれらしか用いてない。
しかし、能力の使い方が従来のそれとは違う、そう思っていた。
内藤の抱いた当惑と同じものだ。
( <●><●>)「(力の法則に対しても優先できる、だと?)」
从 ゚∀从「ちぇあッ!」
( <●><●>)「(……解せない)」
相手の動きが読めなくても、迫ってきた攻撃を避けるだけならばできる。
必要最小限の動きで間一髪攻撃を避け、次に
ハインリッヒが向かうであろう避難場所に攻撃を放つ。
.
- 183 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:38:18 ID:gwC.eNX2O
-
しかし
从 ゚∀从「(――『重力にも優先』ッ!)」
( <●><●>)「(……なぜ、恒久的に逆らえるのだ)」
明らかに、アラマキとの戦闘の時とは動きが違っていた。
かつて『無重力水泳』を受け取った時と同じように、
宙を自由に飛び回っているのだ。
そう思うのも、おかしくはなかった。
アラマキとの戦闘を見ていただけあって、ゼウスの当惑は増しに増しつつあった。
アラマキとの戦闘の時では、彼女が
自分を優先させるのは一瞬≠オかできなかった。
もしこの能力を継続させて使えるなら、放たれた石も
アラマキからの攻撃も、一切喰らわなかったはずだ。
だが、宙を飛び回るということは、恒久的に
重力に対して『優先』していることになる。
とても彼女がアラマキとの戦闘で手を抜いていたとは思えない。
実際、何度も殺されかけていた。
そうなると、残る答えはひとつしかなかった。
从 ゚∀从「どらァ!」
( <●><●>)「……」
.
- 184 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:39:36 ID:gwC.eNX2O
-
◆
(;^ω^)「(動かしてたのはペンだけだったから気づかなかったけど……)」
内藤の疑問は、「なぜハインリッヒが能力の
未知なる使用法を見いだしたのか」に帰結していた。
(;^ω^)「(考えるまでもないけど……。
ゼウスもハインリッヒもアラマキのじーさんも、みんな生き物≠セったんだお)」
(;^ω^)「(作中じゃ、僕が書いた通りにしかならないけど……いまは違う)」
( ^ω^)「(このパラレルワールドじゃあ……彼らは生きてる=j」
( ^ω^)「(時間の経過とともに、リアルタイムで成長していってるんだお)」
( ^ω^)「(つまり――)」
( ^ω^)「能力も成長していってる≠フかお……?」
.
- 185 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:41:03 ID:gwC.eNX2O
-
それが、作者内藤の出した一番濃厚な仮説だった。
ハインリッヒがなにかに優先する――逆らう――能力を使えるのは、おかしくない。
問題は、内藤はそれを文字に著してはいないことだ。
まだ実現していない能力を使えていることが、不思議で仕方がなかった。
内藤がこの世界に来てしまった時は、言うまでもなく、
現在連載されている彼の小説のいまの時間軸より前の世界だ。
だからハインリッヒは優先の能力を使えないと思っていた。
しかし、いまこうしてハインリッヒとゼウスが戦っているのは、
彼が現在書いている小説よりも未来の世界ではないのか。
内藤は、そう思った。
その時間の経過を経て、「ハインリッヒの優先の能力が原作でも
使える時間軸」になったから、優先の能力を使えるようになった。
そう考えると、彼女が、内藤ですら知らない
能力の使い方を知っていても不思議ではなかった。
.
- 186 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:41:45 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「……止めるしかない、お」
内藤は二人の戦いを止めるべく、一歩踏み出した。
しかし、それに二歩目はなかった。
内藤のすぐ後ろで、声がかけられたのだ。
はっとして振り向くと、そこに人はいない。
足下を見ると、衣服がぼろぼろで
所々出血しているアラマキが這いつくばっていた。
/T,゙ 3「ブーン君や」
(;^ω^)「じーさんッ! 大丈夫なのかお!?」
/T,゙ 3「助けようとせんかったくせによう言うわ」
そう言っては力なく笑った。
そして立ち上がっては埃を払った。
血も拭い、ふらつきながらも立ち上がった。
内藤の心配など二の次のようだった。
.
- 187 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:43:06 ID:gwC.eNX2O
-
/ ,' 3「あやつ……ハインリッヒの能力じゃがの、儂と
闘り合った時となんか違う気がするんじゃ」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「それは、きっとゼウスも思ってるお」
/ ,' 3「っ! ちゅーことは」
( ^ω^)「おっ。僕でさえ、驚いてる」
/ ,' 3「……」
アラマキは思うところがあったのか、それっきり口を閉ざした。
内藤も黙って二人の戦いを見つめていた。
止めるタイミングを計っていた。
瞬きをしているうちに二人の位置が変わっているのだから、ついていけないのだ。
一見すると、ゼウスは逃げてばかりのように見えた。
一歩跳んでは距離を空け、先読みの攻撃を繰り出す。
それを、ハインリッヒは悉く避けていた。
.
- 188 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:44:14 ID:gwC.eNX2O
-
しかし、ゼウスのそれは逃げではない。
それはこの場にいる二人ともがわかっていた。
誰に言うまでもなかった。
先読みができないなら、後隙を衝けばいい≠フだ。
( ^ω^)「……じーさん」
/ ,' 3「……」
( ^ω^)「二人、止めてくれお」
/ ,' 3「……は? なんでじゃ」
その問いに、内藤はやや口ごもった。
彼にパラレルワールドの話を持ち出す時と似たような躊躇だった。
( ^ω^)「たぶん、というか絶対、この物語は捻れてるお」
/ ,' 3「ああ」
( ^ω^)「だとすると、ひとつ、仮説が生まれるんだお」
/ ,' 3「なんじゃ?」
アラマキが深刻そうな顔で訊いた。
.
- 189 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:45:53 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「あんた……こんな連中、知ってるかお?」
/ ,' 3「?」
内藤の喉が微かにふるえた。
その喉を風が優しく撫でた。
( ^ω^)「能力者を妬み、恨み、憎み、悪しく思う、
能力を完全に封じる反能力者の集い=v
( ^ω^)「――『拒絶(アンチ)』を」
/ ,' 3「……あんち?」
( ^ω^)「重力を解除しようが、自分を優先させようが、
無限に爆撃を見舞おうが、全て『拒絶される』。
そんな連中だお」
内藤がそう言うとき、彼はアラマキの仕草を観察していた。
もし知っていれば、反応だけでわかると思ったからだ。
アラマキは話を聞く前から一貫して、ぼうっとしていた。
いざその名を聞いてみても、釈然としなかったようだ。
少し考えたあと、腕を組んでふぅ、と溜息を吐いた。
結果は同じだった。
.
- 190 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:47:36 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「……知らないかお」
/ ,' 3「『レジスタンス』に次ぐダークホースか何かかの?」
( ^ω^)「そんなんじゃないお」
( ^ω^)「――ただ、能力者を嫌う。
世界を嫌う。
運命を嫌う。
自分を嫌う。
なにもかもを、嫌う」
( ^ω^)「そして生まれたのが、じーさんらが持つ
純粋な《特殊能力》とは異なる《拒絶能力》で、それを使うんだお」
/ ,' 3「………わからんの」
アラマキが長らく考えた先での答えが、それだった。
目を細め、前方での戦いを見守る。
やはりハインリッヒの持つ【劇の幕開け】はなにかが変わったようで、
もし原作通りであれば力量差的にハインリッヒが負けそうなのを、
むしろ押しているようにも見えるほど、成長していた。
怒号のような雄叫びが聞こえるので、内藤は耳が痛くなった。
アラマキに説明をして、すぐに二人の戦いを止めてもらおう、と思っていた。
.
- 191 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:49:44 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「『拒絶』の連中は、ほんとうなら僕の
小説にも出演するはずだったんだお」
/ ,' 3「はずだった……?」
( ^ω^)「するはずだったんだけど、《拒絶能力》が理不尽にも
強すぎて、物語が進まないことが懸念されたんだお」
/ ,' 3「……でも、作中に出てないならいいんじゃ――」
/ ,' 3「……! そうか!」
アラマキが手を叩いた。
地を蹴り空を切る拳や脚の音が飛び交う空間の中、
その乾いた音だけはしっかりと内藤の耳に届いた。
アラマキも、内藤の言いたいことがわかった。
( ^ω^)「ハインリッヒが『英雄の優先』を使えてる以上、あり得るんだお。
……作中には出てない、『拒絶』の連中が来るとか」
/ ,' 3「……」
内藤は恐ろしさのあまり、身が竦んだように見えた。
だが、アラマキからそういった様子は見られなかった。
しかし、それは『拒絶』を恐れていないからではない。
ただ、実感がないだけなのだ。
いざそのようなことを言われても、
アラマキが実際に彼らに会ったことがあるわけではない。
内藤は一度は『拒絶』の存在を描いたものの、実際は登場していない。
アラマキが、『拒絶』を知る術はないのだ。
.
- 192 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:51:20 ID:gwC.eNX2O
-
(;^ω^)「……ぶっちゃけ、がちで強すぎるんだお。
一人いるだけで世界が消えてしまいそうな程。
三大勢力のあんた、ハインリッヒ、
そしてゼウスが組んでも負けそうなくらい……」
/ ,' 3「それほどなのか」
( ^ω^)「……いつか来るであろうそいつらに備えたいから――」
( ^ω^)「ゼウスも、味方に引き入れたいんだお」
/ ,' 3「………」
/;,' 3「……はぁッ!? なんじゃと!?」
いまの言葉に、アラマキは心底驚き、声を荒げた。
それほど信じられない言葉だったのだ。
ゼウスは、言わばアラマキやハインリッヒの宿敵であり、天敵でもある。
政治的関係上においても、その対立は明白だ。
そんな相手を、なぜ仲間として受け入れるのか。
そんな相手に、どうやって説得するのか。
アラマキは、訳がわからなかった。
.
- 193 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:53:13 ID:gwC.eNX2O
-
いまも、こうしてハインリッヒとゼウスは戦っている。
言い換えれば、互いが互いの命を奪い合っている。
それを見た上での判断だとするなら、愚かだ、とさえ思った。
だが、内藤は退かない。
半ば意地になって、強く言い放った。
(;^ω^)「いいかお、僕は作者だお!
騙されたと思って――」
内藤が次の言葉を紡ごうとした瞬間
遠くの方で、ハインリッヒの呻き声が聞こえたような気がした。
.
- 194 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:54:18 ID:gwC.eNX2O
-
( ;゚ω゚)
ゼウスの右足が、ハインリッヒの腹部に命中していた。
まるで、その一瞬だけスローモーションで
流れたかのように、その光景はゆっくり見えた。
随分と時間がかかったが、ゼウスの方は無傷だった。
ハインリッヒは、嘗てのアラマキと同様に、
初撃を喰らわないよう立ち回るだけで精一杯で、
肝心の攻撃を喰らわせることはままならなかったようだ。
脚を振り抜いた先で、ハインリッヒがとばされた。
彼女が地に背中を打ち付けようとした瞬間
( <●><●>)「『爆撃ッ!!』」
从;゚∀从「――ッ!!」
,・;》∀从
ゼウスがそう吠えた。
そして、着地と同時に、ハインリッヒの右頭部から爆発が起こった。
.
- 195 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:55:34 ID:gwC.eNX2O
-
続けて、ゼウスは吠えた。
防御のため身体を丸めるハインリッヒに、無情なまでに『爆撃』を加えた。
爆発続きで、爆風に呑まれ遠くの方まで飛ばされていった。
アラマキも目を丸くしてゼウスの方を見ていた。
やはり無表情のまま、淡々と爆風を加えるのみだった。
(;^ω^)「ほ、ほら! ハインリッヒは死なせちゃまずいお! とめろ!」
/;,' 3「――どうなっても知らんぞ!」
そう言い残して、アラマキは駆け出した。
回復力はすばらしいようで、三度ほど爆発を
喰らっているのにも関わらず、動きは平生と変わらなかった。
しかし、それをゼウスが受け入れるはずがなかった。
アラマキの一歩目で、ゼウスは彼の方を向いた。
( <●><●>)「貴様を放っておくと思うかッ!」
/;,' 3「ぐお…!」
.
- 196 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:56:48 ID:gwC.eNX2O
-
アラマキは、まだ手負いだ。
つまりゼウスの【連鎖する爆撃】はまだ生きている。
ゼウスがびしっと指を突きつけると、アラマキの
一歩目の足下から爆風が真上に上がった。
トラックに跳ねられたかのようにアラマキは飛ばされた。
同時にゼウスはアラマキの方に駆け出した。
着地しそうなアラマキの腹に、鋭い蹴りを見舞った。
意識が朦朧とし出したアラマキが、その力の向きを『解除』するのは無理だった。
蹴飛ばされた先で、やはり着地と同時に爆発が起こった。
ひときわ大きな爆風が、アラマキを呑み込んだ。
だが、ゼウスはそれを見届けなかった。
そこで爆発すると決まっていた≠ゥのような振る舞いで、
続けてハインリッヒの方に向かって駆け、飛びかかった。
.
- 197 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:57:36 ID:gwC.eNX2O
-
从;゚∀从「……随分と痛ぇコトしてくれんじゃ――」
( <●><●>)「能書きは遺書に綴っておけ」
ハインリッヒが何かを言おうとしたが、
ゼウスには端からそれを受け入れる気はなかった。
アニメや漫画などでは、悪役が主役の
セリフの最中に襲うことはご法度されているが、
ゼウスにはそのような常識は通用しない。
ただ殺せるなら殺す≠ネのだ。
.
- 198 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 09:59:27 ID:gwC.eNX2O
-
ふらふらで立ち上がったハインリッヒとの距離、三メートル。
ゼウスは、まず『爆撃』を唱え、ハインリッヒの足下から地雷のような爆風が吹き出した。
左半身の服は焦げ、血がだらだらと垂れている。
その上から更にこの爆風を受ければ、左半身は機能しなくなるだろう。
ハインリッヒはとっさに『英雄』が爆風に『優先』するよう能力を発動した。
結果、爆風はハインリッヒの身体を避けるかのように動き、
その高熱すらハインリッヒを襲わなかった。
だが、それこそがゼウスの狙いだった。
同時に二つからは『優先』されない≠ニいう【劇の幕開け】の弱点を突き、
自身に火の粉が降りかからないように、左足でハインリッヒの右半身を蹴り込んだ。
あえなく飛ばされたハインリッヒを、着地際に更に爆風が襲いかかった。
それに自身を『優先』させ、絶命に至らぬよう施した。
.
- 199 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:01:46 ID:gwC.eNX2O
-
再び、ハインリッヒは立ち上がった。
ヒール オ レ
从; ∀从「……悪役は黙って英雄にやられればいいものを――」
( <●><●>)「知らん」
三十メートルほど離れていたのを、ゼウスは全力で駆け抜けた。
ハインリッヒがジャンプしそうだったのを、
彼女を凌駕するジャンプ力でより高い位置に就き、
一回転して踵落としをハインリッヒに向けた。
从;゚∀从「ねじ曲がりなッ!」
( <●><●>)「――ッ」
.
- 200 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:03:33 ID:gwC.eNX2O
-
ゼウスの鋭い踵落としがハインリッヒの脳天を狙う。
そうなるはずだったが、それとは異なる展開を見せた。
ハインリッヒが宙へと向かう力が解除された≠ゥのように、ふわっと地に足をつけた。
計算が狂ったゼウスは、その踵落としを見舞えるはずもなく、空をむなしく切った。
その空を切る音は、遠くにいる内藤にまで聞こえてきた。
从 ゚∀从「忘れたのか? 『英雄』は何にだって『優先』されんだぜ?」
( <●><●>)「……」
从 ゚∀从「ンなもん、とっくに読んでら」
( <●><●>)「!」
ゼウスが胸中で『爆撃』を唱えようとすると、
あたかもハインリッヒはそれをあらかじめ
待っていたかのように、にんまりと笑んだ。
直後に地雷のような爆風がハインリッヒを襲った。
このとき、ゼウスはハインリッヒのちょうど真上に位置していた。
.
- 201 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:04:39 ID:gwC.eNX2O
-
ハインリッヒが、爆風に自身を『優先』させたかと思った次の瞬間
从 ゚∀从「ヒーローアッパー!」
( <◎><●>)「――ッ!!」
ハインリッヒが、それこそ目にも留まらぬ速さで飛び上がり、
ゼウスの顎を、握りしめた拳で殴りあげた。
予想だにしなかった展開ゆえに、ゼウスにはそれを避ける術はなかった。
元々ゼウスが考えていたのは空中での攻防であるため、
地上からの素早い攻撃には対処できなかったのだ。
そして、殴られたと同時にゼウスは何が起こったのかを理解した。
彼女は、爆風と同時に自身を『優先』させ、被害を受けなかった、のではない。
爆風の『熱』だけに優先させ、その『風』には何もしていなかったのだ。
.
- 202 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:06:26 ID:gwC.eNX2O
-
爆発の一番の恐ろしさは、その破壊力や轟音ではなく、熱風にあるとされている。
逆に言えば、その熱風にさえ優先できれば、
爆発を自身にとって価値のある利器として使うことができる。
跳躍と同時に爆風という追い風を受け、ゼウスが視認できない速さで
アッパーカットを繰り出し、ゼウスに漸くダメージという
ダメージを与えることができた、というわけだった。
空中で体勢を整え、回転しながらゼウスは後方に着地した。
その着地際を狙うべく、ハインリッヒは追い討ちを仕掛けようとした。
( <●><●>)「……」
ゼウスが、ハインリッヒがやってくるその道中で『爆撃』を見舞おうとした。
しかし、それは無理だった。
気がつけば、ハインリッヒは後ろにいたのだから。
( <●><●>)「!」
从 ゚∀从「『音速の壁に優先して』やってまいりまし――」
从#゚∀从「たッ!」
(;^ω^)「!?」
.
- 203 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:07:41 ID:gwC.eNX2O
-
ハインリッヒが、音速を超えたパンチをゼウスに向けた。
とっさに左腕でそれをあしらおうとする。
しかし、いくらゼウスと言えど、音速には抗えず、
その拳が心臓に向けられたのを別の場所へ流すのは不可能だった。
だから、ゼウスは手段を選べなかった。
とっさにとった行動は
从;゚∀从「……うおわッ!」
( <●><●>)「……くっ」
二人の間で、爆発を引き起こした。
その規模は比較的小さな方だが、二人とも零距離でそれを喰らった。
そのため、衝撃、火傷、轟音の三つが、彼らを襲った。
既に『音速の壁に優先』していたハインリッヒが、爆発から身を守ることはできなかった。
平生ではポーカーフェイスを保っているゼウスでも、少し苦悶の声を漏らした。
とは言っても、爆風を受けたスーツの
胸元の部分が黒く焦げただけで済んだのを見ると、
この服装には爆発対策がされているであろうことがわかる。
.
- 204 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/30(土) 10:13:11 ID:gwC.eNX2O
-
二人とも、同時に着地した。
ハインリッヒの方は身体も服装もぼろぼろで、
無事着地できただけで精一杯だといった印象を持たせた。
( <●><●>)「……私に『護身』まで使わせますか」
从;゚∀从「は、ハハ……」
从;゚∀从「(あのアッパーとあの爆風を間近で喰らって、まだダメージがねぇのかよ……)」
ハインリッヒは威勢こそ変えなかったものの、
内心ではそんな感想しか浮かんでこなかった。
ゼウスは攻撃用の『爆撃』だけでなく、
護身用の『爆撃』でさえ用意している。
遠ざかっても『爆撃』を見舞われ、
近寄って攻撃を仕掛けようとしても『爆撃』で護られる。
ゼウスに勝てるのだろうか。
いつしか、そんな不安しか彼女のなかを駆け巡らなかった。
.
- 205 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:15:24 ID:gwC.eNX2O
-
( <●><●>)「……訊きたいことがある」
从 ゚∀从「…なんだ?」
ゼウスは一旦攻撃の手を休めた。
ハインリッヒも、休めてくれるのはありがたいので、ゼウスの話を受け入れた。
( <●><●>)「【劇の幕開け】……その能力の全貌を、だ」
从 ゚∀从「……言うまでもねぇよ」
从 ゚∀从「――ただ、英雄が優先される世界となる、だけ」
それはゼウスもアラマキも内藤も知っていた。
しかしそれはあくまで物理的ななにかを自分より下にするだけで、
物理法則を破ったりなど、目に見えないものを自身より下にする
なんてことは、少なくとも内藤の思い描いていたものではなかった。
ゼウスが持つデータのなかでも、同様だった。
『慣性に優先する』『音速の壁に優先する』『重力に恒久的に優先する』
そんな芸当ができるなど、聞いたことすらなかったのだ。
.
- 206 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:16:26 ID:gwC.eNX2O
-
从 ゚∀从「――それだけか?」
質問が終わったのかと思い、ハインリッヒはそう尋ねた。
ゼウスが首肯すれば、すぐさま戦闘が再開されそうだった。
このチャンスを、内藤が利用しないはずがなかった。
茂みから飛び出し、大声を発して二人の気をひいた。
内藤はゼウスからもハインリッヒからも殺されることはないと
自覚しているため、何ら恐怖は持ち合わせていなかった。
(;^ω^)「ま、待つんだお!」
( <●><●>)「なんですか」
从 ゚∀从「公演中に『観客』が舞台に乗り込んじゃだめなんだぜ」
(;^ω^)「いいから聞くお!」
身振り手振りを交えて、内藤は何とか二人のうち
どちらか一方でも死なないように、争いを食い止めにかかった。
.
- 207 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:18:50 ID:gwC.eNX2O
-
内藤はふつうの人間ではなく、話によれば自分たちの作者であるため、
ゼウスとハインリッヒも、話を聞いた方がいいのではないか、という気になり、耳を傾けた。
内藤の語調はすごく荒かった。
その必死さは、二人にも伝わっていた。
(;^ω^)「ちゃっかり殺し合いしてるっぽいけど、しちゃだめだお!
理由はあとで話すから、戦いは――」
从 ゚∀从「――殺すな、ってか?」
(;^ω^)「……」
その時のハインリッヒの語調からは、紛れもない殺気が混じっていた。
邪魔をするならお前も殺す、と言わんばかりの。
そのため、一瞬内藤は口ごもった。
从 ゚∀从「……掛け替えのない妹を殺されて、だ」
从 ゚∀从「『許してやれ』ってんなら、いくらあんたの頼みでも聞けないな」
从 ゚∀从「……こいつは、俺の敵だ」
ハインリッヒがそう言うと、ゼウスも肯いた。
( <●><●>)「私にとって、ハインリッヒとアラマキは真っ先に排除すべき敵です。
……停戦協定など、馬鹿げています」
両方とも、内藤の想定し得た回答だった。
だが、だからといってひくわけにはいかなかった。
内藤としては、二人の関係よりも、世界の行方の方が気気がかりで仕方がなかったのだ。
.
- 208 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:19:59 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「……じゃあ、ゼウス」
( <●><●>)「なんでしょう」
( ^ω^)「――あんた、『拒絶』って知ってるかお?」
( <●><●>)「……アンチ?」
ゼウスのその声を聞いて、やはり知らないか、と内藤は呟いた。
そのため、アラマキにしたような話を再び持ちかけた。
なにもかもを嫌い、否定した存在。
なにもかもを拒む最悪の能力、通称《拒絶能力》を操る。
それが、『拒絶』と。
その能力の一例までは挙げなかったが、
一応は一通りを話した。
それで納得してくれれば、内藤としては助かった、
のだが。
( <●><●>)「解せません。私のネットワークにかからない存在など、無い。
『拒絶』など、聞いたことがない以上、信じることはできませんね」
( ^ω^)「そ、そうかお……そうかお?」
.
- 209 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:21:10 ID:gwC.eNX2O
-
その答えを聞いて、内藤は戸惑った。
ゼウスの持つネットワークは、確かに世界規模のもので、
この世界では内藤の知識に次いで、全てのものを
知り尽くしていると言っても過言ではないのだ。
そんなゼウスがそう言うのだから、
ひょっとすると、これは自分の考えすぎじゃないのか、と思いもした。
『拒絶』がいないとしたら、問題はない。
だからといって殺し合えとは言えないが、
一応、内藤は少し胸を撫で下ろせた。
( <●><●>)「だいたい、『拒絶』にはどんな輩がいるのでしょうか?」
ゼウスがそう訊いてきた。
少し安堵できていたので、内藤はせっかくだし答えよう、と思った。
話をすることで二人の戦闘が止まるなら問題ない、とも。
( ^ω^)「存在しない連中の例を挙げるのもなんだけど……」
( ^ω^)「とにかく、後ろ暗いっていうか、危険っていうか」
.
- 210 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:22:11 ID:gwC.eNX2O
-
( ・∀・)「とにかく受け入れられるものがない≠チて感じだよな?」
( ^ω^)「そうそ――――」
( ;゚ω゚)「!?」
( <●><●>)「ッ!」
从;゚∀从「だ……誰だッ!」
( ・∀・)「俺のことか?」
( ・∀・)「いま、ここで息をして、立って、
おまえらと話をしてる俺のことか?」
.
- 211 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:23:30 ID:gwC.eNX2O
-
内藤、ハインリッヒ、ゼウスしかいなかったであろう空間に、
一人の男が、何の前触れもなく、そこに立っていた。
ゼウスは、闇討ちが得意なぶん、闇討ちされるのにも慣れている。
たとえどのような戦闘の最中でも、別の敵の存在が現れたら、それを必ず認識できるのだ。
それなのに、ゼウスでさえ、この男の存在を認識できていなかった。
( ・∀・)「俺のことはいいじゃない」
( ・∀・)「それよりも、気づいてないのか?
そこにもう一人いるのに」
从;゚∀从「は? ……ハ?」
男が指をさしたところを、ハインリッヒは振り返って睨みつけた。
しかし、なにもいない。
何事かと思いハインリッヒが向きを戻すと、男は笑った。
( ・∀・)「……」
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッハ!!
騙されてやんの! そこには誰もいねぇよ!」
(;^ω^)「……!」
.
- 212 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:24:43 ID:gwC.eNX2O
-
男は、腹を抱えて大げさに笑った。
聞くだけで吐き気すらをも催させる笑い声だった。
思わず、耳を塞ぎたくなる心地になる。
しばらく笑って、男は元の飄々とした顔つきに戻った。
( ・∀・)「――ってのが、『嘘』。
本当にそこに人はいるよ。なぁ、アニジャ?」
从;゚∀从「……は?」
訳も分からないまま、ハインリッヒは振り返った。
すると、確かにそこに人はいた=B
無愛想な顔つきで、やや汚れたカッターシャツを着ている男が。
不気味な男に言われると、カッターシャツの男、アニジャは肯いた。
( ´_ゝ`)「……もっとましな紹介はできないのか……?」
( ;∀;)「だってよ、見ろよこの間抜け面!
今晩のおかずにだってできるぞ! ギャッハハハ!」
( ´_ゝ`)「……フーン」
.
- 213 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:25:42 ID:gwC.eNX2O
-
( <●><●>)「……誰だ」
男の笑い声を無視し、ゼウスはアニジャに尋ねた。
このままでは埒が明かないと思ったのだ。
( ´_ゝ`)「……んー、どう紹介しましょうか」
アニジャが首を傾げた。
その直後、固まっていた内藤が、漸く声を発した。
覚束ない、地に足がついてないような声だった。
(;^ω^)「――紹介なんかしなくてもわかってるお……」
( ´_ゝ`)「お?」
アニジャが内藤を見た。
明日に希望を持てない、そんな瞳だった。
(;^ω^)「あんたは……アニジャ=フーン。
そして、こっちが、モララー=ラビッシュ……だお?!」
( ・∀・)「おー。見抜かれてたとは」
( ´_ゝ`)「……『不運』だ……」
.
- 214 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:27:29 ID:gwC.eNX2O
-
不気味な男、モララーは感嘆の声をあげた。
同時に、アニジャはどんよりとした声を発した。
( <●><●>)「……訳が分からないので――」
( <●><●>)「殺すッ!」
( ・∀・)「!」
突如として現れた彼らを危険な人材と判断したのか、
ゼウスは、得意の闇討ちのようにノーモーションから
一瞬でモララーの背後に回り、手刀を首筋に突き刺した。
それは内藤も、モララーも認識できない速さだった。
いきなり、モララーを殺しかねない攻撃だった。
しかし。
結論から言うと、ゼウスは殺し損ねた。
厳密に言えば、ゼウスはたまたま転んでいた=B
( <●><●>)「……ム…?」
( ・∀・)「……」
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッハ!! 転んでやんの!」
.
- 215 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:28:39 ID:gwC.eNX2O
-
転んだため、突くはずだった手刀は、土を削っていた。
訳も分からないまま、ゼウスはとっさに立ち上がっては、後退した。
モララーはゼウスの無様な姿を見て、笑っていた。
( ´_ゝ`)「……あんた、『不運』だな」
( ´_ゝ`)「たまたま転んで、殺し損ねるなんて」
アニジャが、そう言った。
それを聞いて、内藤は自分の中の何かを確信した。
そうすると、いよいよ震えが止まらなくなってきた。
声まで震えないよう注意して、言葉を紡いだ。
(;^ω^)「なにが『不運』だお……」
( ´_ゝ`)「ん?」
(;^ω^)「それは、紛れもない能力……」
(;^ω^)「【771《アンラッキー》】じゃないかお!!」
( ´_ゝ`)「……」
.
- 216 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:30:13 ID:gwC.eNX2O
-
内藤の言葉を受け、アニジャは黙った。
代わりにゼウスが口を開いた。
( <●><●>)「どういうことです」
( ^ω^)「……こいつの能力、それは」
( ^ω^)「自分の身の回りで、どうしようもない
『不運(アンラッキー)』を引き起こしてしまう、
そんな最悪な能力なんだお……」
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは、口を開こうとしなかった。
だが、内藤がそう言い終えると、彼は口を開いた。
未来に希望を見いだせないような、暗い声だった。
( ´_ゝ`)「『不運』だ……。
だが、それ、五割が当たりで、五割がはずれだな」
(;^ω^)「お?」
( ´_ゝ`)「俺のこれは……
《特殊能力》や《拒絶能力》じゃないってことさ」
(;^ω^)「…………?」
.
- 217 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:32:11 ID:gwC.eNX2O
-
それを聞いて、内藤は首を傾げた。
意味が分からなかったのだ。
アニジャの言いたいことが。
彼らの会話を止めようとしたのか、
モララーが二人の間に割って入った。
近くにいるだけで、『現実』を放り投げたいと思える程、気分が悪かった。
( ・∀・)「まーまー。それより、俺たちがきた理由を言ってやろーぜ」
( ´_ゝ`)「……そうだな」
从 ゚∀从「…理由?」
ハインリッヒがそう訊くと、アニジャは数回咳払いをした。
そして、やはり聞くだけで悲しい気持ちにさせる声で、「理由」を話した。
( ´_ゝ`)「……あんたら、ハインリッヒ、ゼウス、あとアラマキ。
あんたらの同士討ちを引きとめにきたのさ」
.
- 218 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:33:05 ID:gwC.eNX2O
-
( <●><●>)「……止める?」
ゼウスが聞き返した。
だが、内容が変わることはなかった。
( ´_ゝ`)「俺はどうでもいいんだが……こいつとかがさ、困るんだ。
餌同士で殺し合われちゃ、な……」
(;^ω^)「……」
( ・∀・)「――お、なんだ? 言いたいことでもあんのか?」
ふと、モララーが内藤の顔色を見て、言った。
アニジャの言葉を聞いて、内藤の顔が蒼いのが真っ青になったからだ。
あってはならないことだ、と言い聞かせている。
しかし、実際に起こり得てしまった。
内藤の心境は、そんなものだった。
モララーが厭な視線を送るなか、内藤は言った。
.
- 219 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:34:13 ID:gwC.eNX2O
-
(;^ω^)「……これ設定したのはデビューする数ヶ月前
だから、記憶があやふやなんだけど……」
(;^ω^)「モララー。……あんた、『拒絶』かお?」
( ・∀・)「(設定……?)
ああ、よぉくわかってるじゃねーか。」
( <●><●>)「!」
从;゚∀从「……さっき言ってたアンチって……!」
モララーの返答を聞いて、ゼウスとハインリッヒも当惑した。
存在しないであろうと思っていたものが、現れたからだ。
(;^ω^)「……じゃあ、もしかして」
(;^ω^)「『拒絶』の連中で、『能力者』を殺し合う――とかすんのかお?」
( ・∀・)「よくわかってんじゃん」
( <●><●>)「……ッ!」
.
- 220 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:35:12 ID:gwC.eNX2O
-
( ・∀・)「俺はいま、モーレツにおまえらを殺したい。満たされたい=B
だけど、それだと他の『拒絶』との約束を
破っちまうから、今回は忠告にきただけ、さ」
(;^ω^)「……」
その言葉を聞いて、内藤の背筋を冷たいものが突き抜けていった。
それはハインリッヒも同様だった。
得体の知れない恐怖――拒絶――が、迫り来る感覚だった。
( ・∀・)「……ま、そういうわけだから。
せいぜい俺ら『拒絶』を受け入れてくれ。じゃーな」
( <●><●>)「逃がすかッ!」
( ・∀・)「無理無理」
( <●><●>)「!」
.
- 221 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:37:18 ID:gwC.eNX2O
-
( ・∀・)「だってよ。
『俺らがここにいる』ってのは――」
( ・∀・)「『嘘』だから、だ」
.
- 222 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:39:05 ID:gwC.eNX2O
-
ゼウスが詰め寄ったのは、紛れもない真実だ。
だが、モララーがそのように言うと、彼らは文字通り消えてしまった=B
気配など感じない。
足跡もないし、存在していたという事実がまるで全部『嘘』のように思えた。
内藤だけでなく、ハインリッヒも、ゼウスも。
モララーとアニジャの姿が消えてから、数十秒して
ゼウスは屈めていた姿勢から、まっすぐに立ち上がった。
( <●><●>)「……なにがあったのだ」
( ^ω^)「モララーは、『自分たちはここにいる』という『嘘(フェイク)』を、
自然のうちに『混ぜ(シェイク)』ていたんだお」
从 ゚∀从「……なんだそれは」
( ^ω^)「『嘘』を『混ぜる』能力――
そう、【常識破り《フェイク・シェイク》】。
《拒絶能力》のひとつ、だお」
从 ゚∀从「……」
.
- 223 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:40:51 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「……どうやら、恐れていた事態が起こってしまったようだお」
( <●><●>)「さっき言ってた『拒絶』の恐ろしさ……信用しましょう」
( ^ω^)「! じゃあ――」
( <●><●>)「ハインリッヒ――いや、『レジスタンス』のリーダー、ハインリッヒ=カゲキ。
私は、一時休戦を申し出よう」
ゼウスは、ハインリッヒに手をさしのべた。
その瞳に、殺意は感じらせない。
まず、ゼウスはモララーと違い、安易には『嘘』を吐かないのだ。
それは、内藤だからこそ知り得る情報だった。
内藤が望んでいた展開が、やってきた。
心強く思い、内心では不謹慎ながらも喜びもした。
だが、ハインリッヒは拒んだ。
さしのべられたゼウスの手を、はたいた。
从;゚∀从「―――ば、バッキャロー!
なんでてめーと組まなきゃなんねーんだよ!
俺ら、言わば虎と龍だぞ!」
( <●><●>)「……」
.
- 224 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:42:03 ID:gwC.eNX2O
-
从;゚∀从「だいたい――」
「その話、乗ろう」
( ^ω^)「!」
ハインリッヒが次なる言葉を紡ごうとした時。
背後から、声が聞こえた。
振り返ると、全身がぼろぼろのアラマキが立って、手を差し出していた。
その瞬間、ハインリッヒは黙り込んだ。
/#)' 3「今の青年……モララーとか言ったな。
あやつの心、限りなくどす黒かったように見えた。
あながち、ブーン君の言ってることは間違いでないように思えるしの」
从;゚∀从「……」
/#)' 3「それに。
いくらゼウスと言えど、手を組めるなら心強いことこの上なし、じゃしのぅ。
まあ、ゼウスが隙を見せたら寝首を刈ったりはするが……」
( <●><●>)「愚か者が。一時休戦を組むだけであって、仲直りしたわけではあるまい」
/#)' 3「当然じゃ」
.
- 225 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:43:39 ID:gwC.eNX2O
-
/#)' 3「――儂の傷を治し、『拒絶』を倒すまでの間は
襲わない、と約束するなら、手を組もう」
( <●><●>)「………ああ」
そう言うと、二人は握手を交わした。
決して、二人の間に友情が芽生えたようになど、一切見えない。
しかし、共通の目的が生まれた以上、組まざるを得なくなった――そんな状況だった。
それを見ていたハインリッヒは、声を荒げた。
なにかをぼやいていたみたいだったが、最終的には
从;゚∀从「……二人が組んだら『レジスタンス』は潰されちまうじゃねーか。
しゃーなしだ、俺も組んでやるよ」
( ^ω^)「!」
从 ゚∀从「………ただし。ヒートのことを許したつもりはこれっぽっちもない」
( <●><●>)
从 ゚∀从「その『拒絶』とかいうふざけたヤローどもを追い返したら……
まずは真っ先に、てめえを肉塊にする。
………必ず、だ」
( <●><●>)「……ああ。私にとっても貴様は目障りだ。
足を引っ張りそうに思えたら、即殺しよう」
从 ゚∀从「上等だ」
.
- 226 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:46:01 ID:gwC.eNX2O
-
そう言って、ハインリッヒも手を差し出した。
結果、宿敵同士の三人が手を重ね合うような、
何とも言えない構図ができあがった。
国軍はもとより王国を代表する戦士、アラマキ=スカルチノフ。
王国よりも強力な力を有する裏社会のボス、ゼウス。
第三勢力として力を伸ばしてきた『レジスタンス』のリーダー、ハインリッヒ=カゲキ。
原作では決して手を組むことのなかった「最強」の三人が――
『王国の三大勢力(ビッグ・スリー)』が、今、手を組んだ。
つまり、それは裏も表も合わさった、一国が団結したことになる。
それが今後にどのような影響を及ぼすのかは、内藤でさえわからない。
しかし、わかることもあった。
この世のなにもかもを拒絶する、『拒絶』。
彼らを倒さない限りは、この世界は大変なことになってしまう、ということだ。
先ほど突如として現れた【常識破り】と【771】。
彼らの言い残した言葉が、いつまでも内藤の心の奥底に留まっていた。
.
- 227 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:47:28 ID:gwC.eNX2O
-
( ・∀・)『俺はいま、モーレツにおまえらを殺したい。満たされたい=B
だけど、それだと他の「拒絶」との約束を
破っちまうから、今回は忠告にきただけ、さ』
つまり、彼の背後には、まだ複数人もの『拒絶』が存在していることになる。
一人いるだけで世界のなにもかもをねじ曲げてしまうような存在が、多数いるのだ。
その内容を、内藤は知っている。
そして、それらがいかに恐ろしいのかも、知っている。
また、「満たされたい」ということは、この予告された殺人は
言わば自身を満たすための衝動的な殺人≠ノすぎない。
つまり、『拒絶』はなんの躊躇いもなく、『能力者』を襲うのだろう。
それが終わったら、どうなるか。
自身を満たしてくれるものがなくなった次の彼らの行動は、至極単純。
世界を滅ぼすのだ。
.
- 228 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:48:47 ID:gwC.eNX2O
-
( ^ω^)「(『拒絶』は物語には登場してない以上……
もう、ここから先の展開は僕でさえ読めない。でも……)」
/#)' 3
从 ゚∀从
( <●><●>)
( ^ω^)「(原作ではほぼ最強の三人が、手を組んだ。
これで、『拒絶』の思うがままの展開はないはず――だお!)」
内藤は拳を強く握りしめ、倒れそうになったアラマキを介抱した。
そしてゼウスは自身の屋敷に戻るといい、彼らを連れて帰還した。
こうして、パラレルワールドは動き出したのであった。
.
- 229 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:49:57 ID:gwC.eNX2O
-
◆
ノハメ,呀)
( )「これがカゲキ姉妹の末っ子か……?」
( )「そうじゃないのかしら」
ヒート=カゲキは、ゼウスに倒されてしまった。
彼の『爆撃』で飛ばされた先の茂みで、二人の男女が立ち会っていた。
いつからいたのかはわからない。
ただ、内藤たちがいなくなって数時間経ってから、言葉を発したのだ。
それまでは、ずっとヒートの動きを観察していた。
( )「随分と派手にやられたな。……死んだか?」
( )「死んだら死んだで諦めるしか――」
女がヒートの脈をとった。
しかし、反応はない。
希望的観測を見いだせなかったため、女は溜息を吐いた。
が、その数秒後、ヒートは反応を見せた。
.
- 230 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:50:38 ID:gwC.eNX2O
-
ノハメ,呀)
ノハメ,呀)「……………う……、……」
( )「っ!」
( )「生きてるわ!」
男も女も、途端に慌ただしくなった。
すぐさま男がヒートを抱え上げた。
( )「絶命しないうちに、研究所に運ぶぞ!」
( )「ええ」
( )「能力を使うしかないか?」
( )「……みたいね」
.
- 231 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/06/30(土) 10:51:18 ID:gwC.eNX2O
-
そして、
彼らが立ち上がった時、
朧気に照らす月明かりが、彼らの顔を晒しだした。
_
( ゚∀゚)「じゃあ、任せるぞ」
(*゚ー゚)「……わかった。
【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】ッ!」
最後にその場に残ったのは、
ただひとつの静寂だけ、だった。
.
戻る 次へ