( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:23:20.92 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
 ◆
 
 
 彼女の持ち味はやはり脚、の一言に尽きるのだ。
 嘗て、なんとかと言ったなんとかというグループに属する少女によって
 彼女の特権、 『英雄の優先』 なんて反則じみた技は封印されたわけだが、
 そうされることほうがむしろふさわしかった、と認めざるを得ないほど、
 彼女に適用されるあらゆる 「ご都合主義」 は、どれもが強力だったのだ。
 
 まず、その身体強化は、嘗てでは信じられないほどのものを誇っている。
 最初は、ただ申し訳程度に――といっても一般的な 『能力者』 にとっては
 それだけで既に脅威となっていたのだが――しか強化されていなかったのに、
 今となっては、先ほどの少女と同じくなんとかと言ったジャンルに属していた男を
  『真実』 にさせていたほど、上昇値がすさまじくなっている。
 
 駆ければ、今や音速。
 いや、音でさえ彼女を捉えきるのは不可能ではなかろうか。
 彼女の走りを捉えることができるのは、光と、彼女の意識くらいだろう。
 彼女の脚の描く軌道は、死の成す一つのアートだ。
 どんなに強固な壁も、強固な者も、彼女の脚の大技の前では成す術がない。
 
 ――いや、 「彼女の」 ではない。
 彼女本体の力は、上昇する余地があるというのを見ればわかるように、さして高いわけではない。
 問題は、彼女の持った、持ってしまった能力、【正義の執行】だった。
 
.

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:24:41.66 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
  「絶対に負けない能力」 。
 そんな能力が彼女に与えたのは二つの力だった。
 一つが、対象が 『英雄』 から 『世界』 にシフトされた 『英雄の優先』 。
 自分が望まないものを排他する、ご都合主義、では済まされない、まさに強力すぎる力。
 
 もう一つが、その圧倒的な能力補正となる。
 先駆けとなった【劇の幕開け】でもやはり能力補正はあったのだが、
 それはあくまで 「ある程度はやられつつも逆転する」 という意味合いでの能力補正だった。
 
 ダメージを受け、不屈の闘志が燃えることで、力が増す。
 それはさながら、最初に悪役に負けるも、終盤で巻き返して劇に平和をもたらす英雄のようだ。
 だからこそ、【劇の幕開け】では、 『英雄の優先』 も含め、ある程度のバランスが期待された能力であったと言えた。
 
 ところが、【正義の執行】はどうだ。
 能力補正は今や世界でも随一を誇らせるほど高くなっている。
 一撃必殺で、その一撃を避けるには音速を超えなければならない。
 言い換えるならば、なにか特別な能力が存在しない場合、ただ負けるしかなくなるのだ。
 
  『英雄の優先』 においてもそれは同じで、
 もともとは 「自分をなにか一つの対象から優先させる」 だったものが
  「 『劇』 に存在する不確定因子を取り除くことができる」 になってしまっている。
 
 
.

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:26:24.76 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 身体面においては誰も適うことのなくなった戦闘能力。
 能力面においても誰も適うことのなくなった 《特殊能力》 。
 
 まさしくそれは、一方的な 『正義の執行』 をはじめるだけの、虐殺にも近い能力だったと言えるだろう。
 果たして、それが正義なのか悪なのか、許されるべきなのか許されざるべきなのか。
 それは、今となっては、当の本人ですらわからないそうだ。
 もし、あの少女が 『英雄の優先』 を封じていなければ、彼女の力は神の下に及んでしまっていたかもしれない。
 
 つまり、彼女の――
 ハインリッヒ=カゲキの力は、当初からは想像できないほどに、進化してしまっている。
 嘗ては彼女に勝利したゼウスにアラマキ=スカルチノフだが、
 能力なしではまず勝てなくなった、と言ってもいいだろう。
 それほど、 『劇』 ―― 『世界』 から優遇された、まさに選ばれた少女≠セったのだ、ハインリッヒとは。
 
 
 
   「なーんか、さあ」
 
 
.

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:29:14.14 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 ―――【正義の執行】を進めていた筈のハインリッヒは、地に倒れた。
 その圧倒的な身体能力における補正をフルに生かしながらも、ハインリッヒは倒れた。
 身体のあちこちを負傷で覆い、口からは数本のかすれた血の筋が見受けられる。
 
 しかし、 『英雄』 の、言うなれば第三の補正。
 その 「不屈の闘志」 は、まだ砕けてはいない。
 意識が遠退くものの、ハインリッヒはなんとか、我を確立させ、抗う余力を見せている。
 
 だが、虚心を張る彼女のその悪い癖は、出会って一日も経っていないその相手に見破られていた。
 群青や紫のような髪色を持つ少女は、彼女の頭の上に足を乗せて、言う。
 その声は飄々としたものであるが、その裏にはこの上ない悪意じみたものが感じられる。
 その声を聞いて、早速、ハインリッヒの 「不屈の闘志」 は折れかけた。
 
 
   「もう、いい加減にしね?」
 
   「頑張りすぎなんだっての、おたく」
 
   「いっくらね、おたくが 『英雄』 だかなんだか知らないけどさ、こっちに勝てるわけ、ないっての」
 
   「理屈はわからないけど、とにかく優遇されている……」
 
   「そんな選ばれた少女≠ェ、自分ひとりだけだって思ってた?」
 
   「甘い、甘いねえ。 そんなの、小学生以下じゃないかな」
 
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9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:30:32.58 ID:oVb+OnjX0
 
 
 力を籠めると、その力は振動に変わって、彼女の皮膚を揺らす。
 いよいよ、四肢を動かすことができなくなった。
 このままでは、死とかいうものがいよいよ現実味を増してくる。
 
 だが、どう戦えばいいのか。
 先ほどから、そのことばかりを考えている。
 むしろ、彼女が倒れている理由は、そのただ一点。
 
  「相手が、どんな能力を使い、どう戦えば突破できて、どのように戦えるのか」 。
 ひたすら、そのことばかりを考えていた。
 
 ハインリッヒは思う。
  「敵に勝つには、まず敵を知ることからはじまるのだ」 、と。
 かつての敵、いつぞやの味方、ただいまの他人。
 アラマキとかいう 『武神』 が、そのようなことを言っていたなあ、と。
 
 だが、いくら待てど、耐えれど、探せど。
 まったく、相手のことを知ることはできない。
 それどころか、一方的に自分の余力が削られていくばかりだ。
 
 なんだ、嘘じゃないか。 なにが掟だ。
 ――と思うが、これがただの皮肉、減らず口であることは知っていた。
 理由など、わかりきっているのだ。
 
 自分の観察が足りない、わけではない。
 戦場の掟とやらがでたらめだった、わけでもない。
 
.

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:31:27.87 ID:oVb+OnjX0
 
 
 未知数の力≠ネのだ。
 いくら観察しても無駄だし、知ったところで無駄だし。
 決して適わぬ絶対的な力。
 それが、今自分を下している 「少女」 たちの力なのだ。
 
 似たようなものは、つい最近、味わった。
 なんとかといった、人間の最悪を知り尽くした人たちの持っていたスキルも、
 確かこんな風に、抗うことの許されないような絶対的に近いスキルだった。
 
 それと、よく、似ている。
 つまり、 「強すぎる」 のだ。
 これを、彼らを許さずにしてこの少女たちを許すわけがない。
  『作者』 の彼は、果たして彼女たちのことを知っているのか。
 
 
   「………。」
 
   「あらら、シカトぶっこいちゃって」
 
   「わかってんだよ? それも、どーせアレでしょ」
 
   「倒れてるふりをしてたら、殺されない」
 
   「だから、殺されないうちに、逆転の一手を、考える」
 
   「………ざーんねん。 あちきたちね、そんな漫画みたいに優しい 『悪役』 じゃないんだあ」
 
.

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:32:47.73 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
   「………ガ。」
 
 
 
   「あらら、ガ、だって。 ねえ、死んだ? 死んだ?」
 
   「ねーねー、死んじゃったらどうしよう」
 
   「……そこらへんにしておけ」
 
   「えー、なんでー」
 
   「死ぬわけないじゃん、こいつだって 『英雄』 なんだもん。選ばれた少女≠セもん。自称」
 
   「そいつは、たぶん、吐かない。 『英雄』 だから、どうせ責任感なども強いんだろう」
 
   「そっか。 じゃあ、白衣のほうに吐かせる?」
 
   「そうだな」
 
   「じゃ……」
 
 
 
.

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:33:51.48 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
川 ゚ -゚)「答えてもらおうか、君。」
 
 
 
川 ゚ -゚)「私たちの妹≠ヘ、どこだ?」
 
 
  _ 
(メ; ∀,.)「……………。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:35:03.31 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 

 
 
 
( ^ω^)「……むり」
 
( ^ω^)「なにが……どうなってんの」
 
 
  『作者』 の内藤武運は、見慣れた一室で、ノートを広げ、ペンを握っていた。
 自分が描いた小説の世界、 「パラレルワールド」 に迷いこんでしまった内藤。
 どうして迷いこんでしまったのか、抜け出す手立てはあるのか。
 原理も、理由も、方法も、なにもわからないまま、ここ一週間以上を過ごしていった。
 
 パラレルワールドに迷いこんだ。
 つまり、その世界は、全て自分が創りあげた世界となる。
 出てくる人物も、使われる能力も、進められる展開も、全て知っている。
 
 筈、だった。
 しかし、かろうじて人物や能力の情報がわかっているだけで、
 まったく予想だにできない展開ばかりが迎えられ、
 まして、本来存在する筈のない存在がこの世界に存在しているのだ。
 
 
.

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:36:33.94 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 そんな、あらゆる矛盾や食い違い、疑問。
 ある程度考えてみれば解決するだろう、と内藤は思っていた。
 しかし、一週間経っても、だ。
 まるでわからない、思い出せない、答えを導き出せない。
 
 それどころか、最近――戦いの渦中にいた頃からではあるのだが――
 むしろ、内藤の脳から、あらゆる記憶が抜けていく≠謔、な錯覚さえするのだ。
 
 いや、錯覚ではない。
 事実として、内藤は、本来知っているべきことを、次々と忘れ≠ツつある。
 こちらの理由も、わからない。
 予測が立てられるとするなら、せいぜい 「パラレルワールドの影響だろう」 という程度だ。
 
 そんな予測を立てたところで、まるでなんの情報の足しにもならない。
 だからか、内藤は、半ば諦め気味であった。
 
 
.

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:37:31.06 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 ――― 『拒絶』 との戦いが終わってから、一週間。
 戦った 『革命』 の皆の心に植え付けられたあらゆる心的疲労は、ようやく取り払われただろう。
 ある程度の後遺症は残っていたとしても、戦いの渦中に在った時に比べたら幾分もましだろう。
 
 それは内藤にとっても同じで、幾つも抱いている悩みのうち、一つが解決されたことになった。
 つまり、 『拒絶』 を前にして自分たちが終わってしまうのではないか、という悩みだ。
 だがそれは、 『作者』 である内藤でさえ予想すらできなかった展開の数々により、解消されたのだ。
 予想できないからこそ、こうして助かったと考えれば、更にもう一つ悩みが消えるわけだが――
 
 
 戦いが終わって、 『革命』 の面々は、解散された。
 誰が言ったでもなく、誰が去ったでもなく。
 気がつけば、 『拒絶』 を駆逐した四人は皆、散ってしまっていた。
 
 ハインリッヒは、元の活動に戻るため。
 アラマキは、休息をとるため。
 ゼウスは、屋敷に帰った。
 ジョルジュは、わからない。
 
 そして内藤は、微かな記憶を頼りに自宅に帰った。
 二日ほどしか空けてなかったというのに、一年ほどは空けていたような錯覚がした。
 どれもが懐かしく感じられ、また、愛おしくも思われた。
 使い慣れた机に、パソコンに、ペンに、ノートに。
 そのため、帰ってきた当初の内藤は、しばらくをその感動を味わうために費やしていた。
 
 
.

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:39:18.88 ID:oVb+OnjX0
 
 
 帰ってきてから彼が努めていること。
 それは、このパラレルワールドの解析である。
 しかし、まるで結果が出ていないのは先ほどの通りだ。
 
 だが、手がかりがまるでないわけではない。
 微かではあるが、 「ほかになにがあったのか」 についての手がかりは、あるのだ。
 それは、記憶に新しい。
 裏通りにて内藤が偶然出くわした、あの謎めいた少女である。
 
 
   川 ゚ -゚)『人捜し、かな』
 
   ( ^ω^)『人……捜し…?』
 
   川 ゚ -゚)『幼い頃に生き別れた、妹だ』
 
 
 人捜し≠しているという、少女。
 ただの人を探しているだけの少女、ではない。
 れっきとした 『能力者』 には違いないのだ。
 
 内藤の立てた仮説は、 「あらゆるものを 『封印』 する」 能力。
 そしてそれは、嘗ての 『拒絶』 たちに負けず劣らず、狂った力である。
 
 ただ、目に見えて動いているものを止めるだけではない。
 不可視のものも、因果律からの干渉も、挙句の果てに時間や概念でさえ 『封印』 することができる。
 
.

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:41:07.91 ID:oVb+OnjX0
 
 能力名は、そのうち、思い出す。
 というより、名前など、ただの飾りだ。
 問題は、 「彼女たちはいったい何者なのか」 。
 それだけが唯一にして重要な問題である。
 そしてそれが、いくら内藤が頭を働かせてもわからない問題だった。
 
 焦燥感は、ある。
 目の前に可視的に迫ってきているわけではないため、
 そういった点ではまだ現実味のある焦燥感はないのだが、
 必ず、解決してみせなければならない問題であることについては変わらない。
 
 だからこそこうして、拒絶から解放されたばかりだというのに、
 休む暇も惜しんで、ひたすらに頭を悩ませている、というのだ。
 ゼウスから貰った不思議なまでに高級そうなコーヒーも、ここ一週間で五十以上は飲んでいる。
 
 いま、五十三杯目を飲み干した。
 そろそろ舌が味に慣れてきたようで、疲れ切った様子で内藤は五十四杯目を注いだ。
 毎日よく寝ている筈なのに、もう睡魔が襲ってきている。
 
 疲労からなる眠気は、カフェインだけでは到底抑えることができないようだ。
 注ぐ際、己の手の甲に誤って注いでしまって、内藤は目を見開き飛び上がった。
 だが、それによって眠気がある程度とはいえ覚めた、と考えれば、けがの功名であった。
 
 
( ´ω`)「………疲れたお」
 
( ´ω`)「なんだって言うんだ……パラレルワールドって…」
 
.

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:43:27.83 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 自分の創っていた世界が具現化する。
 
 今となってはもう信じるしかないのだが、
 嵐の吹き去った今改めて考え直すと、やはり到底信じられないことである。
 
 そもそも、原義でのパラレルワールドすら正当化されているものではない。
 一部の熱狂的なオカルトファンと日々を惰性的に過ごしている学者がその存在を信じている程度である。
 創作行為を生業にしているとはいえ本来一般人である内藤が、そう容易くこの存在を信じられるわけもない。
 
 だが、これを否定できないほどには、内藤は見てはいけないものを見すぎてしまった。
 原作の最後の敵に強敵、本来は登場する予定のなくなっていた敵、また敵。
 ここまで考えて、主人公は全く出てこないな、と内藤はようやく気づいた。
 
 そもそも、 『主人公』 とは誰だったのか。
 どんな名前で、どんな内容のどんな能力を使っていたのか。
 一番覚えていなければならないものを忘れていることにもまた、内藤は気づいた。
 
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 そんな隠れているものより目の前に見えている問題を優先して解決すべきなのだから。
 もっとも、その目の前の問題――人捜しの少女――の時点で早速足止めを喰らっているのだが。
 
 
 
 そんな循環する思考にいい加減飽き飽きしてきた頃、
 内藤の家にインターホンの音が鳴り響いた。
 
.

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:45:06.04 ID:oVb+OnjX0
 
 
( ´ω`)
 
( ^ω^)「…え?」
 
 
 条件反射的に、内藤は立ち上がり、玄関のほうに目を遣る。
 一週間前までなら、ふつうに立ち上がっては、ふつうに玄関のほうに駆けていって
 ふつうに覗き穴を見てはふつうに扉を開き、ふつうに応対していた、この来訪者。
 
 だが、一週間前以降で言えば、この音はイレギュラーなものの一つとなっていた。
 本来ならば、パラレルワールドに迷いこんだ日以来、このインターホンは鳴ることはないのだ。
 
 問題は二つ。
 一つ、この世界には 「パラレルワールド」 に存在すべき人物以外現れていないこと。
 もう一つ、そういった人物のなかに内藤の自宅の場所を知っていそうな人がいないこと。
 
 そのため、反射的に立ち上がったものの、すぐに玄関のほうに向かおうとはできなかった。
 様々な思考や懸念や疑問が交錯し、歩き出そうとするのを本能が引き止める。
 
 なぜ、インターホンは鳴った。故障か。故障したとしても勝手には鳴らないだろう。
 ならば空耳か。 空耳で立ち上がったりはしないだろう、それにこのように思考を巡らす程にはその音は現実味があった。
 とするとやはり、インターホンは、確かに鳴ったのだろう。 誰かにボタンを押されて、それにしたがって。
 
 ならば、いま玄関の向こうには誰か来訪者がいて、
 また、この自分、内藤武運に用があるのだろう。
 とすると、応対しないわけにはいかない。
 
.

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:47:12.70 ID:oVb+OnjX0
 
 
 そもそも、一般人がいないと決まったわけではないのだ。
 ひょっとすると、ほんとうに一般人が相手で、新聞の集金にでも来たのかもしれない。
 それどころか、ひょっとすると、無意識のうちに自分は現実の世界に帰ってきていたのかもしれない。
 そう思うと、内藤は当初とは手のひら返して有頂天になり、浮き足立つように玄関のほうへ駆けていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――― 自分の想定できない展開が起こるからこそのパラレルワールドなのだ、
 と内藤が痛感させられたのは、扉を開いてからだった。
 
 
 
.

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:48:40.30 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
( *^ω^)「はい! なんですか―――」
 
 
 
(  ゚ω゚)「―――お……、………?」
 
 
 
 
 
 
 
   「やっと、見つけた。」
 
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「      ッ ! ! ? 」
 
 
   「案外、適当に当たっていけば、そのうち見つかるものなのね」
 
 
.

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:52:16.86 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
(  ゚ω゚)「   ――――ちょ、ちょオオオっと待った!!!」
 
   「……なに」
 
(  ゚ω゚)「なに、はァァこっちのセリフじゃあ!!」
 
 
 
(  ゚ω゚)「な、なんで、なんであんたが……」
 
(  ゚ω゚)「どォォーーーして、あんたが! ここに、いるんだお!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「―――― トソンッ!!」
 
(゚、゚トソン「……名乗ったこと、ありましたっけ」
 
 
 
.

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:55:06.46 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
            /    /\   /\ V              ノ    ヽ
            ,'       ,       i    | ―┼‐   ┌─┐ |   
            ',         l  ,  )  ,'     .|   |       |ニニニ!   レ⌒i  /Τヽ
            V      `ー'`ー'  /    ..レ  ○`   ..└─┘   ノ  し' ノ
 
                       ●  ━━   ┃          ┃
                  ┃  ┃              ┃         ┃ ┃
                ┏┛  ┗┓  ━━━┓  ┃    ┃   ┃ ┃  ┃
                ┃      ┃      ┏┛  ┃  ┏┛   ┃ ┃┏┛
                              ━┛    ┗━┛   ━┛ ┗┛
 
                ┏━━━┓               ┃      ┃   ┃┃
                ┃      ┃            ┃ ┃      ┃
                        ┃  ━━━━  ┃ ┃  ┃  ┣━┓
                      ┏┛            ┃ ┃┏┛  ┃  ┗━
                    ━┛            ━┛ ┗┛    ┃
                                        i  _ ヽヽ
     |  ―‐  ヽ ヽ|ノ   ,        ̄''7   |      ―ナ ´             、
     | 、     7 _フ|ヽ  |   ヽ          | r. /   / −      ├   ,―、 -― ゛ -┼‐
     レ `ー‐  ん、_,,-  レ  _ノ  ヽー‐   レ' レ    / `ー     σ‐    ノ  (_ .   9
 
 
.

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:57:43.26 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
 
     ◆  第四十一話  「vs【暴君の掟】T」
 
 
(゚、゚トソン「ああ、そういや、名前だけは当ててましたね。 ……名前、だけは」
 
(  ゚ω゚)「なめんな!  『作者』 なめんな!」
 
(゚、゚トソン「……私の能力、知らなかったくせに」
 
( ^ω^)「ぐッ」
 
(  ゚ω゚)「………へこたれないお! な、なんだ、今度は僕を殺しにきたのか!?」
 
(゚、゚トソン「…」
 
(  ゚ω゚)「 『革命』 の連中は殺せなかったからってことで、簡単に殺せそうな僕を!」
 
 
                  アンチ
(  ゚ω゚)「ええ!?  『拒絶』 ! トソン!」
 
 
.

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 19:59:09.32 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 トソン=ヴァルキリア。
  『異常』 の多かった 『拒絶』 のなかでも、とりわけ謎の多かった 『拒絶』 。
 
 有する能力、【暴君の掟 《ワールド・パラメーター》 】の正体は不明。
 拒絶する対象も不明。
 拒絶に至った経緯も不明。
 内藤にとっては、それこそ不確定因子となる存在が、目の前に立っていた。
 
 
(゚、゚トソン「……なんだか、めちゃめちゃに言われてますが……」
 
(゚、゚トソン「もう、 『拒絶』 なんてものは存在しません」
 
(゚、゚トソン「……ネーヨさんも、モララーも、みんな。 どこかに、行っちゃいましたから」
 
(  ゚ω゚)「…………、」
 
 
 
( ^ω^)「……え?」
 
.

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:00:20.95 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
(゚、゚トソン「あの戦いが、終わって」
 
(゚、゚トソン「ショボンさんもワタナベさんも消えて………死んで」
 
(゚、゚トソン「残ったのは私と、モララーと、ネーヨさんだけだったけど」
 
(゚、゚トソン「もう、嘗ての私たちみたいに、 『能力者』 を虐殺したり、
.      満たされるために生きたりは、しようとしなくなった」
 
(゚、゚トソン「あのときの、あなたの説得が……彼らを、動かしたのかもしれませんね」
 
( ^ω^)「せっ、とく……」
 
 
 
   ( ^ω^)『なにかを拒絶しようと思う心なんて、脆弱なものなんだお』
 
   ( ^ω^)『だからこそ……僕たちは、涙を流す』
 
   ( ^ω^)『……拒絶したくても、できないものを前にして』
 
 
.

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:01:31.59 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「あ、ああ……」
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)「え、あんた、倒れてなかったっけ」
 
(゚、゚トソン「後から聞きました」
 
( ^ω^)「あ、そうなの」
 
(゚、゚トソン「くっさい説得でしたね」
 
( ^ω^)「ほっとけ」
 
 
.

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:02:24.11 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
(゚、゚トソン「それはいいとして――」
 
(  ゚ω゚)「あっ! そ、そうだお! どーしてあんたが、ここにいるんだお!」
 
(゚、゚トソン「……そこらへんの家を、虱潰しに調べていっ」
 
(  ゚ω゚)「聞いてるのはハウじゃないの! ホワイなの! ホワアアイ!!?」
 
(゚、゚トソン「………騒がしい男」
 
(  ゚ω゚)「……ッ」
 
 
 冷静なさまでそう言い放ったのを聞いて、内藤は少し、面食らった心境になった。
 雰囲気が、嘗ての 『拒絶』 とは思えない程、違っていたのだ。
 
 近くにいるだけで、確かにある程度の嫌悪は感じる。
 そばにいたくない、どこかへ行ってほしい、消えてほしい――と、自然と思う程度には。
 
 だが、だというのに、彼女には、 『拒絶』 の面影が感じられなかった。
 全く別の、そもそもほんとうに彼女はトソンなのか、と疑わざるには得られない程の違和感を感じた。
 それほど、雰囲気が、違っていた。
 
 
.

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:03:19.92 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
(゚、゚トソン「で……なぜ、でしたね」
 
( ^ω^)「……」
 
(゚、゚トソン「そのことなんですが……」
 
 
 
(゚、゚トソン「あなた、 『作者』 …なんですよね?」
 
( ^ω^)「おっ…?」
 
 
 
 突如として問われたことに、内藤は少し驚きを隠せなかった。
 確かに内藤は 『作者』 であり、名前や能力などは言われずとも知ることができる存在である。
 
 しかし、どうして、今になって 『作者』 の肩書きが必要となるのか。
 内藤は、その点が気になった。
 
 
.

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:04:56.11 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「……」
 
( ^ω^)「それが、どうしたお?」
 
(゚、゚トソン「なら、あなたは知ってますか?」
 
( ^ω^)「知ってる、って、なにを」
 
(゚、゚トソン「ワルキューレ」
 
( ^ω^)
 
 
 
 
 
 
 
(゚、゚トソン「封印の解かれた神話=v
 
(゚、゚トソン「選ばれた少女たち――― 『ワルキューレ』 、を」
 
 
 
 
 
.

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:05:55.14 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ;^ω^)「わッ……、……!!」
 
(゚、゚トソン「……知ってるのね」
 
( ;^ω^)「わわ、ちょっと! なんだお!」
 
 
 内藤が反応を示したのを見て、トソンは扉を抜けて玄関にあがってきた。
 内藤の制止も無視して、靴を脱ぎ、すたすた、と奥の方に歩いていく。
 そのこと―― 『ワルキューレ』 ――とトソンのこの行動に気をとられ、内藤はすっかり軽いパニックになった。
 
 辺りをきょろきょろしながら、トソンが内藤の自宅を渡り歩く。
 どうやら来客用の部屋を探しているようだが、トイレだったり風呂だったり、
 挙げ句の果てに庭のほうに出てしまったため、諦めて、トソンは内藤のほうに目を遣った。
 
 傍若無人にも程がある、と思ったが、相手が元 『拒絶』 のトソンだけに、
 内藤も危険を察知できる一般人である以上、へたなことをしようとは思わなかった。
 
 トソンが内藤に道案内を視線で訴えてきたため、呆れ顔になりながらも、
 形の上では来客室もかねている書斎のほうへと、トソンを案内した。
 迷う程大きな家でもないのだが、と内藤がちいさくこぼすと、トソンが威圧を利かせた声で返事した。
 やはり、友好的に接することのできる相手ではなさそうだ、と内藤は思った。
 
 
.

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:06:32.97 ID:oVb+OnjX0
 
 
( ;^ω^)「そ、そっちのソファーにどうぞ…」
 
(゚、゚トソン「…」
 
( ;^ω^)「お茶、淹れますお…」
 
(゚、゚トソン「上座に通すだけの礼儀はあるのに、出すのは茶なのね」
 
( ;^ω^)「さすがに贅沢が過ぎるお! 通してやってるだけ――」
 
(゚、゚トソン「…」
 
( ;^ω^)「―――……ビール、でいいですか。 昼間だけど」
 
(゚、゚トソン「おとなしいお酒がよかったけど……まあ、別にいいですよ」
 
( ;^ω^)「…………」
 
(゚、゚トソン「……なに」
 
( ;^ω^)「………………なんでも」
 
(゚、゚トソン「はやくして」
 
( ;^ω^)「は、はい」
 
.

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:09:16.74 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 パラレルワールドに迷いこむより以前――現実世界にて、
 内藤が個人的な趣味で取り寄せていたビールがあったことを思い出して、
 その大瓶とグラス、加えてチーズを持ち、トソンの前にあるガラステーブルに置いた。
 
 するとトソンは、そのビール瓶を見て、興味深そうな顔をした。
 やはり、バーテンをやっているだけあって、思うところはあるのだろう、と内藤は思った。
 グラスにビールを注いでから、チーズを切る。
 どうしてここまで接待しなければならない、とは思っていたが、しかしそれを形にして表すことはなかった。
 
 
(゚、゚トソン「……いただきます」
 
( ;^ω^)「(本場デンマークのビールだ! 腰抜かせ!)」
 
 
 神妙な顔つきをして、トソンが喉の奥にすぅーっとビールを通す。
 現実世界における日本で大量生産されているビールと違って、
 今しがた内藤が出したのはデンマークで造られている高級品だ。
 
 この一杯を飲ませて、おそらく自分のことを蔑んで見ているであろう彼女を驚かせてやろう、
 内藤はそう思って、本来ならば客人には出さなかった筈のそれを出した。
 
 グラスに注がれたうち半分を飲んでから、トソンはチーズにも手を出した。
 こちらも同じく、現実世界で言うデンマークで作られたサムソーと呼ばれるものだ。
 こちらもやはり、内藤が個人的な趣味で買い揃えたもので、彼女を驚かすために出したものであった。
 
.

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:11:21.39 ID:oVb+OnjX0
 
 チーズとビールを頂いて、トソンは少し、目を見開いていた。
 目論見どおり驚かせることができたため、内藤は少しすかっとした。
 バーテンを驚かせる程の酒やチーズを用意していた自分が、誇らしく思えたのだ。
 
 数秒ほど、その味を噛み締めてから、トソンは顔をあげた。
 少し、悔しそうな顔をしていた。
 
(゚、゚トソン「………」
 
( ^ω^)「……」
 
(゚、゚トソン「なに、にやにやしてるんですか」
 
( ^ω^)「べっつにー?」
 
(゚、゚トソン「ま、まあ、いいんですが……」
 
( ^ω^)「どうだったお、それ」
 
(゚、゚トソン「…………認めたくないけど、」
 
( *^ω^)「けど?」
 
 
 
(゚、゚トソン「よかったです」
 
(゚、゚トソン「懐かしい味がした」
.

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:13:59.52 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( *^ω^)「!! よっし――」
 
 
 
( ^ω^)「―――懐かしい=H」
 
(゚、゚トソン「では、本題に入りたいのですが」
 
( ^ω^)「あ、ちょ、ちょっと……」
 
 酒の話をしたくなかったのか、強引にトソンは話を進めた。
 内藤に構わず勝手に二杯目をグラスに注ぎながら。
 
 
 
(゚、゚トソン「……やっぱり、信じるしかなさそうですね」
 
(゚、゚トソン「あなたが…… 『作者』 である、ということは」
 
( ^ω^)「 『ワルキューレ』 のことかお?」
 
(゚、゚トソン「はい」
 
( ^ω^)「………。」
 
 
.

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:15:55.30 ID:oVb+OnjX0
 
(゚、゚トソン「ワルキューレ」
 
(゚、゚トソン「今日、訪ねさせていただいた理由が……それ、です」
 
( ^ω^)「待つお。 僕も一つ、質問させてもらうお」
 
(゚、゚トソン「……、……なんですか」
 
( ^ω^)「僕が 『ワルキューレ』 を知ってることに関しては、問題ない」
 
( ^ω^)「でも」
 
 
( ^ω^)「……同じことが、あんたにも言えるお」
 
( ^ω^)「どうしてあんたは、 『ワルキューレ』 なんて知ってるんだお」
 
 
( ^ω^)「………この世界じゃあ、知ってる人は、僕と、」
 
( ^ω^)「あと、 『ワルキューレ』 本人しか知らない筈な………の、」
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)「……ちょっと待て」
 
(゚、゚トソン「はい」
 
.

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:20:14.65 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「確か、さっき、あのビールを飲んで懐かしい≠チて言ったよな」
 
(゚、゚トソン「言いましたね」
 
( ^ω^)「あれ、デンマークって国で造られてるビールなんだお」
 
(゚、゚トソン「デンマーク……?」
 
( ^ω^)「知らなくてもいいお。 問題は――」
 
 
 
 
 
( ^ω^)「デンマークは北欧≠チてこと」
 
( ^ω^)「……どうしてあんたは、北欧≠懐かしい≠ニ感じたんだ」
 
 
 
 
( ^ω^)「そして、どうして、僕と当事者しか知り得ない筈の 『ワルキューレ』 を、知っている」
 
 
 
 
.

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:22:31.89 ID:oVb+OnjX0
 
 
(゚、゚トソン「お察しの通りです」
 
( ^ω^)「   ッ!」
 
 話している途中から、内藤は嫌な予感がしつつあった。
 形の成されていないそれが姿を現した時、内藤はそのことに気がついた。
 
 一つ目の疑問。
 北欧で造られたビールを飲んで、懐かしさを感じた。
 
 二つ目の疑問。
 当事者以外知ることのできない存在、 『ワルキューレ』 を、知っていた。
 
 この二つに、同時に答えを示すことができた。
 二つ目の疑問における 「当事者以外知ることのできない」 が、全てを物語っていた。
 また、ワルキューレとは、 「北欧神話」 に由来するものである。
 それを元にして、内藤がこのパラレルワールドの元となった世界に、色を足したのだ。
 
 この二点が紡ぎだす真実。
 つまり、
 
 
 
(゚、゚トソン「……言うまでもないんでしょうが」
 
(゚、゚トソン「私が……その、 『ワルキューレ』 のうちの一人だった、んです」
 
.

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:23:58.06 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 ビールを呷って、三杯目を注ぎながら、言う。
 ビールの件に関してはお構いなしで、内藤が、トソンを見つめていた。
 
 嘘を言っているような顔ではない。
 また、これは嘘吐きがつける嘘ではない。
 つまり、トソンは、紛れもない 「それ」 だった、ということだ。
 
 一度に様々な混乱が押し寄せてきて、内藤の情報処理が一瞬遅れたが、
 三杯目をすぅーっと飲む姿を見て、内藤は我に返った。
 今は、パニック状態に陥っている場合ではなかったのだ。
 
 
( ^ω^)「……本当に言ってんのかお?」
 
(゚、゚トソン「残念ながら、私は嘘はつかないので」
 
( ^ω^)「自分で何を言ってんのか、わかってんのかお?」
 
(゚、゚トソン「………はい」
 
 
 トソンが、飲み終えたビールのグラスを卓上に置く。
 しかし今度は、四杯目を注ごうとはしなかった。
 
 
.

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:25:22.38 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「ワルキューレ……」
 
( ^ω^)「神に選ばれた者しかなることのできない、聖なる人間」
 
( ^ω^)「それに、あんたが……?」
 
(゚、゚トソン「…はい」
 
( ^ω^)「――…ッ」
 
 
 内藤は、軽い頭痛を覚えた。
 今までは目の前には存在していなかった存在だったため、
 ワルキューレ――更なる没の存在――のことを考えるときも、ある程度は楽観的でいられた。
 
 だが、その楽観性は、今この瞬間、消え去った。
 今、目の前にいてビールを楽しんでいたこの少女こそが、そのワルキューレだからだ。
 
 ついに、きてしまった。
 やっと得られた安泰も、この瞬間から、無きに等しいものとなった。
 今度こそ、自分は死んでしまうかもしれない。
 
 そんな懸念を抱くと、自然と頭痛がきてしまったのだ。
 防ぎようのない頭痛は、二日酔いのそれなんかよりもよほどダメージが大きいように思われた。
 
 
.

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:26:15.03 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「………質問は、いい」
 
( ^ω^)「なんだ。 用件、って」
 
(゚、゚トソン「言うまでもなく、おわかりなのでは?」
 
( ^ω^)「……」
 
 
 確かに、その通りであった。
 そもそも、 「神に選ばれた少女、それがワルキューレ」 。
 ワルキューレというものがたったそれだけのことだったならば、なんの問題もないのだ。
 
 しかし、こうして内藤が様々な懸念を巡らせなければならなかったのは、
 ワルキューレはただそれだけの存在ではなかった≠ゥらだ。
 そしてそれは、反応を見る限り、トソンも知っているようであった。
 
 
( ^ω^)「……」
 
(゚、゚トソン「では、聞きます」
 
(゚、゚トソン「ワルキューレ。 なんですか、ワルキューレって」
 
( ^ω^)「……僕を、試してるのかお?」
 
.

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:28:18.93 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
(゚、゚トソン「ええ」
 
(゚、゚トソン「私の能力の件みたいに、肝心な部分が抜けていたら、大変ですから」
 
( ^ω^)「………そうか」
 
 
 内藤は、深呼吸をした。
 息を吸うと同時に、その数々の記憶を蘇らせる。
 ここ一週間頭を働かせ続けたかいがあって、そのことに関しては満足に思い出すことができたのだ。
 
 
( ^ω^)「そもそもワルキューレってのは、僕が例の小説を書くときに使ったネタなんだお」
 
(゚、゚トソン「小説……」
 
( ^ω^)「だけど、これも、あんたたち 『拒絶』 のお話と一緒に、封印された」
 
( ^ω^)「理由はいろいろあるけど、とりあえずは 『強すぎるから』 」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
.

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:29:27.37 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
( ^ω^)「そんな没ネタだけど……不思議と、採用されたお話よりも設定は細かいんだお」
 
( ^ω^)「まず、オーディンって神が、七人の少女をワルキューレに選ぶ」
 
( ^ω^)「選ばれた少女たちには、それぞれ、ある特別な能力が与えられる」
 
( ^ω^)「その能力は 《選定能力》 と言って、例によって強すぎる」
 
( ^ω^)「また、能力と同時に……ある程度の戦闘力も、備わる」
 
 
 
( ^ω^)「ちょうど、拒絶心の補正によって強くなってたあんたたちみたいに、ね」
 
(゚、゚トソン「………」
 
 
(゚、゚トソン「……いいでしょう。 その通りです。 概要、は」
 
( ^ω^)「おっおっ」
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)「……概要……は…?」
 
 
.

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:30:39.81 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
(゚、゚トソン「私がこうしてやってきた理由は、ただひとつ」
 
(゚、゚トソン「……ラグナロク、を」
 
( ^ω^)「え、え?」
 
 
 
 
 
 
.       ラグナロク
(゚、゚トソン「 『 崩 壊 』 を、私は止めたいのです」
 
              ア ン チ
(゚、゚トソン「嘗て、『 拒 絶 』 の暴走を食い止めたときのように」
 
      ワルキューレ
(゚、゚トソン「 『 信 者 』 を……倒してください」
 
 
 
 
 
 
.

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:31:19.59 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(゚、゚トソン「このままでは、世界が崩壊してしまいます」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2013/11/09(土) 20:31:53.04 ID:oVb+OnjX0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      B o o n  s t r a y e d  i n t o  h i s
 
             P a r a l l e l  W o r l d : P a r t  T w o
 
 
 
               W a l k u r e
           ―― 選ばれた少女 ――
 
 
 
 
 
 
 
                                     S t a r t . . .
 
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