( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです

249 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:34:18 ID:j3o9BgmQO
 
 
 
 
 
 
       Boon strayed into his
 
        Parallel World: Part Two
 
 
               unti
           ―― 拒絶 ――
 
 
 
 
 
.

250 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:35:37 ID:j3o9BgmQO
 
 
  第五話「vs【ご都合主義】T」
 
 
 「ただ、能力者を嫌う。世界を嫌う。運命を嫌う。自分を嫌う。
  なにもかもを嫌う。そして生まれたのが、《拒絶能力》。」
 
 そんな設定を内藤が考えたのは、
 彼がこの小説を手がけるより数ヶ月前、まだプロットを練っていた頃の話だ。
 当初はその作品には「能力系バトルのインフレーション」というコンセプトを与え、
 それに見合うようなとんでもない能力を考案していった。
 
 なんらかの形で《拒絶能力》を得た『拒絶』と呼ばれる集団だが、
 内藤が当初予定していた主人公のパーティーでは絶対勝てないことを知り、
 やがて、『拒絶』は永久に日の目を見ることはなくなった。
 
 それを『拒絶』は知る由もない。
 知ったところでどうしようもないのだが。
 問題があるとするなら、それは内藤の方だ。
 
 
.

251 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:37:00 ID:j3o9BgmQO
 
 
 現実世界からパラレルワールドに迷いこんだ原因は、まだ欠片も掴めていない。
 流れるように四連戦を見届け、気がつけば予期せぬ展開を迎えていた、というのだから。
 
 内藤としては速く現実世界に帰りたいのだが、
 それでは、取り残されたこの世界の戦士たちが
 いつかは『拒絶』に呑み込まれるであろうことは容易に予測がついた。
 
 彼に、戦士たちに対する思い入れがあるかないかは問題ではない。
 ひとつ、内藤は帰ろうと思っても帰れない。
 ひとつ、『拒絶』の持つ《拒絶能力》は異常なまでに強力である。
 ひとつ、内藤は『拒絶』への対抗策を知らない。
 ひとつ、『拒絶』が導く物語の展開も、知り得ない。
 
 とにかく、不確定要素が多すぎるのだ。
 内藤が自由に母国へ帰れたならば、なにも問題はなかったのだが。
 
 それができない以上、彼らと共闘することになる。
 しかし、希望的観測を見出せない。
 対抗策が存在するのかどうかでさえ怪しい相手に挑んで、明日はあるのだろうか。
 そんな不安が、内藤をひたすら襲っていた。
 
 戦うのは自分ではないのに。
 内藤はあたかも自分が戦っている気になって、不安を覚えていた。
 
 
( ^ω^)「……うお」
 
 
.

252 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:38:41 ID:j3o9BgmQO
 
 
 ゼウスに連れられやってきた「アジト」だが、どういうことか
 そこは裏路地や地下都市ではなく、堂々と屋敷を構えた豪邸だった。
 
 圧巻され、思わず内藤は言葉を失った。
 『作者』である以上設定はするものの、それは紙面上の話であって
 実物をお目にするなど、本来ならあるはずがない話だ。
 だから、実物を前にして驚かない方が不自然だ。
 
 堂々と門を通り、堂々と玄関の方へ向かっていった。
 ほかの皆も、敷石を渡り大きな扉の向こうへと入っていった。
 
 扉を抜けたと同時に、複数のメイドと思わしき女性が
 コートや手荷物などを預かろうとする。
 ゼウスは慣れているようで、歩きながらにして
 着ているコートをメイドに脱がせ、そのまま運ばせた。
 
 ゼウスは邸内を案内する姿勢を見せなかった。
 「勝手に着いてこい」と言いたげなオーラを発していたので、
 ハインリッヒも構わず彼の後を追いかけた。
 
 アラマキを抱えている内藤が、早足でどこかへと向かう
 ゼウスを追えるはずもないが、一生懸命後を追おうとした。
 
 しかし、運動不足の三十台男性に老人とはいえ
 一人の男を運ぶのはなかなかに堪えるようで、
 エントランスへと向かう長廊下の半分ほどでへたってしまった。
 
 
.

253 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:39:48 ID:j3o9BgmQO
 
 
 するとメイドの一人が話しかけてきた。
 
 
爪゚ー゚)「お持ちしましょうか?」
 
(;^ω^)「……お?」
 
 全体的に黒の比重が大きいメイド服を着た彼女が、手を差し出してきた。
 確かに荷物と言われれば荷物なのだが、これは人間だ。
 まして、女性に運ばせるような代物ではないことくらい、内藤もわかっていた。
 
 だから、お言葉に甘えるわけにはと思っていた時。
 そのメイドは、内藤に有無を問わずアラマキを奪い取り、
 アラマキの負傷を広げないよう介抱して、内藤の横に就いた。
 
 ゼウスが率いるメイドであるだけあって、
 腕力や知能指数は人並み以上なのか、とわかった。
 作中で描写することのないシーンなので、内藤が既知の事実であるはずもない。
 
 
(;^ω^)「すごい力持ちだおね……。
      それ、たぶん最低でも六十キロはあるのに」
 
爪゚ー゚)「メイドですから」
 
 とだけ言って、メイドは会話を止めた。
 無駄な会話はしないよう言われているのかもしれない。
 
 
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254 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:40:57 ID:j3o9BgmQO
 
 
( ^ω^)「(ま、それはそれでいいけど……ん?)」
 
 ふと、長廊下の内装に目がいった。
 煉瓦模様の壁で、そこからアーチを描くように天井がまるくなっている。
 モノトーンのモザイク画が描かれているが、何が描かれているのかはわからなかい。
 
 また、中世ヨーロッパのような格調高い鎧が両方の壁に沿って等間隔に並んでいる。
 それらは決決まって、右手に持った剣を手前に寄せ上に向けていた。
 目を覆う仮面の向こうには、騎士の目が見えそうで、内藤は若干怖く思った。
 
 
 
( ゚ ゚)
 
(;^ω^)「――!」
 
 
 ――怖く思った、次の瞬間、本当に仮面の向こうに目が光ったように見えた。
 が、インテリアのなかに本物の騎士を
 待機させるはずもないだろう、と内藤は自身を説得した。
 ゼウスの屋敷なのだから、なにがあってもおかしくない、とは思いつつも。
 
 
.

255 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:42:28 ID:j3o9BgmQO
 
 
 やがて長廊下を抜けると、先ほどまでのモノトーンが占めていた空間とは違い、
 赤い絨毯や橙がかった白光を見せるシャンデリアなどが
 ひときわ目立つエントランスへと辿り着いた。
 これもゼウスの趣味なのか、と思いつつ、内藤が足を進めようとした時。
 
 
( ^ω^)「――あ」
 
 ゼウスを見失った今、どこに向かえばわからず内藤は立ち止まってしまった。
 壁にかけられている蝋燭の、炎の揺らめく音が聞こえてきそうな程に静まり返った。
 メイドは息を殺し、ただのお仕えをする道具に成り下がっていた。
 
 両端には階段があって、そこを上ると二階へと繋がる大きな扉があり、
 その上には大昔の肖像画のようなものが飾ってある。
 目的地がゼウスの私的空間であるならば、やはりこの扉だろうが、迂闊な行動はできない。
 
 エントランスを見渡すだけで、扉は正面のそれ以外に六つもある。
 また、屋敷の外見で言えば、その扉の先に更に廊下が続くことだろう。
 内藤は早速迷子になってしまった。
 
 
爪゚ー゚)「ゼウス様ですか?」
 
(;^ω^)「……?」
 
 途方に暮れた時、メイドがそう話しかけてきた。
 息を吸い込みもせず急にだったので、内藤は驚いた。
 メイドの方を見ると、やはり蝋で塗り固められたような表情で、次なる言葉を紡いでいった。
 
 
.

256 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:43:41 ID:j3o9BgmQO
 
 
爪゚ー゚)「こちらです」
 
( ^ω^)「……おー」
 
 そう言うと、二階の正面扉ではなく、二階に上って右手の扉の方へ向かっていった。
 ここにきてゼウスのメイドが嘘を吐くはずなどないだろうと考え、内藤は着いていった。
 
 階段を上る途中でも、この屋敷の凄さは身にしみた。
 手すりの始終のところにも、細かい獅子の彫刻があるのだ。
 手すりの道中でも花の彫刻がされており、とにかく細かい。
 階段にも敷かれた絨毯も、金縁の模様が非常に凝っていることがわかった。
 
 とにかく圧巻されている内藤を、メイドは連れて行った。
 扉の向こうは、ただの控え室といったような雰囲気だった。
 扉を背にして縦に細長い部屋で、その長い辺を端から端まで埋める長い鏡が特徴的だった。
 
 自分の姿が鏡に映し出される。
 アラマキを抱いているメイドの姿も。
 
 
.

257 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:45:38 ID:j3o9BgmQO
 
 
 しかし、この扉は入り口の扉の向かいにあるのに、メイドはそこに向かわなかった。
 長い部屋の六割ほどを歩いたのち、内藤をその場所にまで来るよう促した。
 内藤は言われるがままメイドの隣に駆けてきた。
 そこで立ち止まったのはいいが、全く意味がわからなかった。
 
 ここからどうすれば、と思った時。
 メイドは、直角に向きを変え、鏡の方に歩いていった。
 
 
(;^ω^)「な、なにを――」
 
爪゚ー|ー゚爪
 
( ^ω^)「……え?」
 
 
 それは、ぶつかるだろう、と思った内藤の予想を大きく斜め上に上回っていた。
 メイドは、鏡のなかに吸い込まれるように、奥へと進んでいった。
 
 内藤がその後のその鏡を見ても、何ら異変はない。
 どういうことだ、と思ったが、直後に答えはわかった。
 この鏡のこの部分は、フェイクだ。
 
( ^ω^)「ここを入るのかお……?」
 
 試しに手を伸ばすと、鏡のその部位に触れた瞬間、波紋を広げるように複数の円ができあがった。
 間違いないだろうと考え、思い切って全身で飛び込んでみた。
 
 その先は、薄暗い、そして細い廊下だった。
 少し先に、地下へと向かう階段がある。
 
爪゚ー゚)「こちらです」
 
 すると、先ほどのメイドがやはり同じ表情で内藤を出迎えた。
 内藤があっけらかんとしていると、メイドは向きを変え階段をすたすたと降りていった。
 内藤も追いかけざるを得なかった。
 
 
.

258 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:49:06 ID:j3o9BgmQO
 
 
 階段を下りきった先では、古臭い木製の扉があった。
 内藤がそこから出ようとするのを、メイドが制した。
 
 はっとして内藤が手を止めると、メイドは木製の扉ではなく
 その右横の壁に手をかけ、煉瓦のうちの一つを押した。
 すると重い音がちいさく鳴り、スイッチが鳴る音が聞こえた。
 
 次の瞬間、内藤たちのいたところはエレベーターのように下に下りていった。
 つまり、この木製の扉もフェイク。
 隠しスイッチを押してエレベーターを起動しなければ、目的地にはつけないということだった。
 
 エレベーターの着いた先では、エントランスへと繋がる
 廊下のような、モノトーンカラーが支配する部屋があった。
 
 目的地の円いテーブルの上にはチェスボードがあるし、
 壁にかけられたダーツの台には複数矢が刺さっている。
 どれも、二十のトリプルリングに刺さっていた。
 
 メイドがその奥に見える扉へと進むと、ノックをした。
 中から、ゼウスの声が聞こえ、メイドは
 アラマキを内藤に返さず、そのままでお辞儀をした。
 
 内藤が戸惑っていると、メイドは扉の隣に取り付けられた
 ダストシュートのなかに、アラマキを抱えたまま身を投じた。
 内藤が追いかけようとすると、扉からゼウスが顔を出した。
 
 
( <●><●>)「なにをしているのです」
 
 
.

259 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:50:21 ID:j3o9BgmQO
 
 
(;^ω^)「アラマキのじーさん抱いたまま、
      メイドさんがこっちに落っこちたんだお!」
 
( <●><●>)「彼女は、アラマキを救護室に運ぼうとしただけでしょう。
         その矢先で貴方が道に迷うものだから、臨時的に案内をしただけで」
 
( ^ω^)「お……。そうなのかお?」
 
 救護室、というのも初耳だが、今の説明で彼は大方納得いった。
 内藤の顔から冷や汗がひいたのを見ると、ゼウスは
 扉を大きく開いて、内藤へ中に入るよう促した。
 
 中は、内藤が予想していたような「裏社会のボスが
 傘下の組織を統べるための部屋」ではなかった。
 ただ、ベッドと電気スタンドの取り付けられた机、
 複数の本棚、あとテーブルの上のマグカップくらいしか、目立つものはなかった。
  案外、本当に凄い組織のボスの私的空間とは、
 こういう簡素なものではないのだろうか、と内藤は思った。
 
 
.

260 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:52:46 ID:j3o9BgmQO
 
 
( <●><●>)「あなたからは、いくつか聞かなければならないことがあります」
 
( ^ω^)「お…?」
 
 そう言われてテーブルの上に出されたのは、白いマグカップに注がれたコーヒーだった。
 色合い的にミルクは入ってないし、砂糖も混ぜられてなさそうだった。
 
 内藤はテーブルを前に、ゼウスと向かい合うようにソファーに座った。
 コーヒーを手にとって、軽く香りを嗅いだ。
 内藤の知っているコーヒーとは思えないほど、高貴な香りだった。
 
 目を丸くさせながら、内藤はコーヒーを一口のんだ。
 やはり、とても自分が知っている味とは思えなかった。
 のんだ後少し溜息をこぼして、マグカップをテーブルに置いた。
 
 
(;^ω^)「凄いコーヒーだお……」
 
从 ゚∀从「これだからお偉いサンは嫌いなんだよ」
 
( ^ω^)「お?」
 
 内藤が横を見ると、ハンモックの上からハインリッヒが顔を出した。
 彼女はハンモックに揺られていたようで、内藤が言ったのに対してそう返した。
 眠かったのかと思ったが、実際はただゼウスと同じテーブルを囲むのが嫌なだけだった。
 
 現に、ハインリッヒの服装や身体は傷ついたままである。
 近くにいるだけで、彼女の気分を害さないはずがなかった。
 内藤は、そんな彼女を見て「負傷は大丈夫なのか」とおよそ見当はずれなことを思っていた。
 
 
.

261 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:54:00 ID:j3o9BgmQO
 
 
( <●><●>)「コーヒーはいいのです」
 
( <●><●>)「――まず、あなたが何者か、この世界は何なのか。
         詳しく聞かせてください」
 
(;^ω^)「わわ、わかったからそんな眼するなお!」
 
( <●><●>)「これは素です」
 
 ゼウスは少しムッとしたように見えた。
 彼もコーヒーをすすって、ソファーの背凭れに身を預けた。
 ハインリッヒには目もくれていないようだった。
 
 それよりも、ゼウスは内藤のことしか興味がなかった。
 自分の生きているこの世界が、彼によって
 創られたものだと言われて、誰が納得できようか。
 
 内藤は「えらいことになった」と思った。
 コーヒーの感動が、早速薄れそうになっていた。
 
 
( ^ω^)「えっと……何、って言われても」
 
( <●><●>)「あなたがこの世界を創った=Aでよろしいのですね?」
 
( ^ω^)「……たぶん、間違いないお」
 
 
.

262 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:55:39 ID:j3o9BgmQO
 
 
 たぶん、と言ったところに、まだ内藤のなかでの疑心が表れていた。
 『能力者』だの、『拒絶』だの、『レジスタンス』だのを聞くだけで
 ここが異世界であること、そしてそれが自分の小説が元になっていることを理解していた。
 
 だが、それでも内藤の持つ常識がそれを上回っていた。
 馬鹿な、ふざけている、そんな思いは未だ破られていなかった。
 
( ^ω^)「僕は、元の世界では小説家をしてるんだお」
 
( <●><●>)「はい」
 
( ^ω^)「で、仕事として書いていた小説の世界が、この世界とほぼ同じ。
      違う点は、ハインリッヒの『英雄の優先』や『拒絶』なんて存在は
       元の小説には出していない、ってところだお」
 
( <●><●>)「それが本当だとするなら、なぜあなたが
         この世界に迷いこんだのか、わかりませんか?」
 
 そう問われ、内藤は一瞬口ごもった。
 
 
.

263 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:57:29 ID:j3o9BgmQO
 
 
( ^ω^)「アラマキの仮説通りだとすると……」
 
( ^ω^)「ここが、僕が創った世界のパラレルワールドじゃあないかってことくらいで……」
 
( ^ω^)「まったくわかってないお」
 
( <●><●>)「……そうですか」
 
 
 少し、室内が静かになった。
 ハンモックが揺れる音が微かに聞こえる程度だった。
 
 腕枕をして天井を見つめるハインリッヒも、
 内藤の話を聞き、いろいろ思い当たる節を考察していた。
 
 内藤が三口目のコーヒーをすすった頃、
 ゼウスは別のことを質問した。
 
 
 
( <●><●>)「……本題です」
 
( ^ω^)「お?」
 
( <●><●>)「『拒絶』の実体ですよ」
 
( ^ω^)「……!」
 
 
 いつかは問われると思っていたことだった。
 むしろ、そのためにここに連れてこられたようなものなのだ。
 
 ここがどんな世界で、内藤が何者か。
 それは、いくら聞かれても確たる証拠は提示できない以上、
 ゼウスも、聞くだけ無駄だ、とわかっていた。
 
 ならば、その二つを根拠なく内藤の言うとおりなのだと
 仮定すると、残った解決すべき疑問はただひとつしかない。
 
 
 それが『拒絶』だった。
 
 
.

264 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 18:58:39 ID:j3o9BgmQO
 
 
 だが、ここでひとつ問題があった。
 確かに内藤はこの世界の創世者で、知らないことはない。
 しかし、それはあくまで過去に紙面上に出した情報の範囲内での話だ。
 
 『拒絶』は、出演させると物語が破綻してしまう恐れがあったため、それは白紙に戻された。
 そのため、ゼウスやアラマキに与えられたような細かな設定はなく、
 《拒絶能力》の持つ穴や各々の戦闘パターンなど、不確定要素が多いのだ。
 
 実際、アニジャ=フーンとの会話で、奇妙なことが起こった。
 百発百中するはずの内藤の言葉が、はずれたのだ。
 アニジャの持つ【771《アンラッキー》】は、《特殊能力》や《拒絶能力》ではない、と。
 それを考えると、内藤の知らないところで『異常』が起こっているのかもしれない。
 
 だから、内藤の言葉は絶対ではない。
 内藤はそういったことを懸念していた。
 
 
.

265 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:00:32 ID:j3o9BgmQO
 
 
( ^ω^)「……まあ、根本的には皆『なにもかもを嫌う』という点で共通してるお」
 
( <●><●>)「それは、過去の出来事が原因でそういった
         精神の病を患った、ということで?」
 
( ^ω^)「そうだお」
 
 
( ^ω^)「とにかく僻んでる。
      歪んでる。
      狂ってる。
      だから、彼らの持つ《拒絶能力》も
      他を寄せ付けない強力なものになってしまって……」
 
 それは、一度モララー=ラビッシュと出会ったことで既にわかっていた。
 『嘘』を『混ぜる』能力、【常識破り《フェイク・シェイク》】。
 彼の戯言をひとつ聞くだけで、『真実』が混沌たるものになってしまうのだ。
 
 
.

266 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:01:43 ID:j3o9BgmQO
 
 
 ゼウスも、あのような能力は見たことがなかった。
 だからその分余計に、『拒絶』に対する印象が強かった。
 
 
( ^ω^)「モララーが最初に拒絶したものは、『真実』。
      それも、過去のトラウマが原因でだお」
 
( <●><●>)「各人によって、拒絶したものが違うのですか?」
 
 ゼウスが少し声を大きくした。
 新事実を聞いて、少し驚いたのだ。
 
 内藤にとって、その反応は予想の範疇にあった。
 だから、ゼウスとは対照的に落ち着いていられた。
 
 
( ^ω^)「いま全部語るのはごめんだけど、拒絶するものは人それぞれ」
 
( ^ω^)「……こうしてるうちに、どこかで何かが拒絶されてるんだお」
 
 
 
 
.

267 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:04:19 ID:j3o9BgmQO
 
 
 

 
 
 同時刻、某所の裏通りで二人の男が対峙していた。
 街灯が届かない位置で、月明かりでさえそこにまで光を届けることはできない。
 そんななか、小柄な男が、自分より頭一個分は背が高い痩身の相手の胸倉を掴んでいた。
 
 ドスの利いた声を発して一歩、また一歩と相手を押していた。
 ついに壁にまでたどり着くと、再び小柄な男が声を発した。
 
 
<゚Д゚=>「手前、いいからカネ出せよ」
 
(;=゚ω゚)ノ「だ、だから持ってないんだょぅ……」
 
<゚Д゚=>「ハァ? 嘘こけよ、さっき宝石店から出てきたじゃねーか!」
 
(;=゚ω゚)ノ「そそ、そこで全部使っちゃったんだょぅ……」
 
<゚Д゚=>「じゃあその宝石を出せよ」
 
(;=゚ω゚)ノ「うグ……っ」
 
 
(;=゚ω゚)ノ「誰が渡すかょぅ!」
 
 痩身の男は、震えながらも向かいの男に吠えた。
 だが、それで相手が萎縮することはなかった。
 むしろ、火に油を注いだような結果になってしまった。
 男の胸倉を掴む手の力が強くなった。
 
 
.

268 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:06:04 ID:j3o9BgmQO
 
 
<゚Д゚=>「は? まさかおまえ、俺に逆らうの?」
 
<゚Д゚=>「【超圧力《インパルス》】っつー《特殊能力》を持つ俺に刃向かうってハラか?」
 
 
 
(    )「…」
 
 
 
(;=゚ω゚)ノ「カンベンしてくれょぅ……」
 
<゚Д゚=>「じゃあカネか何か出せ、そうすりゃ打撲だけで許してやる」
 
(;=゚ω゚)ノ「う……うわあああああああああ!!」
 
<゚Д゚=>「っ!」
 
 
 恐怖に耐えかねた男は、奇声を発して掴まれていた腕を
 振り払い、男の横をくぐって表通りの方へ逃げていった。
 一瞬の隙を衝かれたことと、逃げようなどと思われたことで
 男は自尊心が傷つけられ、ついに彼を本気にさせた。
 
 
<゚Д゚=>「【超圧力】ッ!」
 
(;= ω )ノ「ふにゃ!」
 
 
 男がそう吠えると、痩身の男は途端にコンクリートの地面に倒れ込むようにひれ伏した。
 まるで、上から見えないなにかに押しつぶされたようにも見えた。
 
 小柄な男が睨みを強くするたび、ミシミシと音がする。
 徐々に痩身の男がコンクリートの地面にめり込んで行っていた。
 
 
.

269 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:09:47 ID:j3o9BgmQO
 
 
 完全に男が地面にめり込んだところで、
 小柄な男はにやっと笑んでそちらの方へ歩んでいった。
 痩身の男は必死に地面から起きあがろうとするが、
 手足もめり込んでいるため、思うように動けない。
 
 
(;= ω )ノ「た…助け…」
 
<゚Д゚=>「なに逃げてンだ? あぁん?」
 
 小柄な男が、踵で足下の男を踏みにじりそうな程強く踏みつけた。
 男は大して力を入れていなさそうなのに対して、
 なぜか痩身の男の頭蓋骨は悲鳴をあげていた。
 
 その疑問に答えるかのように、男は言葉を発した。
 
 
<゚Д゚=>「俺はな、『圧力を操る』ことができンだよ。
     こうして軽く踏むだけで何倍もの力を出せるしよ、
     逃げようとしても気圧を動かして地面に叩きつけれンだ」
 
(;= ω )ノ「あががががガガガ!!」
 
<゚Д゚=>「泣け、喚け、泣き叫べ。それか、観念してカネを出せ!」
 
(;= ω )ノ「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
 
 
.

270 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:11:15 ID:j3o9BgmQO
 
 
 【超圧力】の男の踵に籠められる力が強くなった。
 それに比例して、痩身の男の悲鳴も大きくなった。
 頭蓋骨が、徐々に骨折へと向かっているのがわかった。
 
 だが、痩身の男は【超圧力】の男の要望に応えない。
 それどころか、このまま死をも望もうとしているように見えた。
 
 だから、男はつまらなくなった。
 険しい表情に戻り、静かにこの男を殺そうとした。
 
 
<゚Д゚=>「……チッ。今日も収穫はなしか」
 
(    )「…」
 
<゚Д゚=>「あ? 誰だ手前」
 
 フィニッシュに入ろうと、足を数十センチ上げた時だった。
 一人の若い女性が、男の視界に入った。
 橙がかった茶髪を後頭部で縛る彼女は、無表情で男に近づいていった。
 
 
(    )「…」
 
<゚Д゚=>「……見たな?」
 
<゚Д゚=>「見たからにはただじゃ済まさんぞ」
 
(    )「…」
 
<゚Д゚=>「……」
 
 
 男は数歩彼女に近寄った。
 そして【超圧力】で彼女を制そうとした。
 
 
.

271 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:12:32 ID:j3o9BgmQO
 
 
 だが、そこで彼女の顔のつくりが美しいことに気がついた。
 暗がりのなかだったため、わからなかったのだ。
 
 そうわかると、男には徐々に性欲が湧いてきた。
 いよいよ、男の顔から汚らわしい笑みが表れてきた。
 
 
<゚Д゚=>「……」
 
<゚Д゚=>「姉ちゃんよ、殺されたくなかったら
     黙って俺の言うことを聞くんだな」
 
(    )「…」
 
<゚Д゚=>「……たまんねぇな……」
 
 
 女性はまだ口を開かない。
 諦めたのかと早とちりをした男は、足下の男など忘れ、
 性欲のあまり、興奮して女性に飛びかかった。
 
 だが、数メートルの距離だったのに、
 飛びかかった直後には彼女は目の前から消えていた。
 
 おかしいと思った男の背後から、女性が掌を男の背中に突きつけた。
 同時に凄まじい圧力に見舞われ、女性が突き飛ばせるとは思えない距離を男は転がっていった。
 
 
.

272 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:14:18 ID:j3o9BgmQO
 
 
<゚Д゚=#>「痛…、手前殺されてぇか!?
      オンナだと思って甘く見てやったのによぉ!」
 
 わけもわからず背中をさすりながら、男は虚勢を張った。
 いま起こった怪奇現象を検討しようともせず、
 ただ突き飛ばされたことに怒りを抱くことしかできなかった。
 
<゚Д゚=#>「【超圧力】ッ!」
 
(    )「…っ」
 
 
 だから、手加減なしで男は【超圧力】を発動した。
 女性はわけもわからず地面にひれ伏した。
 同時に、身体全体に強い圧力がかかったのを理解した。
 
 男はその姿を見て、気が済むまで殴って蹴り、あわよくば情欲をも処理しようと思った。
 男が彼女に近づこうと、足を踏み出した時だ。
 男は信じられない光景を目の当たりにした。
 
 
 
 (    )「……大したことないですね」
 
<゚Д゚=;>「――!? 手前、なんで立ってられンだよ!
      何パスカルの圧力があンのか、わかってんのか!?」 
 
 
 女性が、なにもなかったかのように立ち上がったのだ。
 
 だが、男が全力で【超圧力】を発動すると、やがてトラックをも
 スクラップにしてしまう程の圧力を発揮するのだ。
 だから、人間がそれに抗って立ち上がれるはずもない。
 
 
.

273 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:16:51 ID:j3o9BgmQO
 
 
 男が狼狽していると、女性が先に口を開いた。
 
 
(    )「パスカル……。確かに、ゼロがいくつつくか
      わかり得ない程の圧力でしたね。
      ですが、今の圧力はパスカルでいうと∴黹pスカルもありませんよ」
 
<゚Д゚=;>「!?」
 
 
 男が驚愕と理解不能さの余り、後ろに倒れそうになった。
 直後に、それを誰かに支えてもらった。
 
<゚Д゚=;>「…?」
 
 男がわけもわからないまま後ろを振り返ると、
 そこには先ほどまで前方にいた女性が肩を支えていた。
 
 まさかと思って前を見ると、その女性が先ほどまでいた場所にはなにもなかった。
 いつの間にか、男から怒りや情欲と云ったものは消え、
 ただ得体の知れない恐怖のみが彼を満たしていた。
 
 
.

274 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:17:56 ID:j3o9BgmQO
 
 
<゚Д゚=;>「た、助けてくれ! 悪かった、俺が調子のってたよ!」
 
(    )「はい?」
 
<゚Д゚=;>「今まで掻っ払ってきたモン全部やるから、許してくれ!」
 
(    )「…」
 
<゚Д゚=;>「………は、はは」
 
 
<゚Д゚=>「だから―――」
 
 
<゚Д゚=#>「俺に押し潰されなァァァッ!!」
 
 
 
 男は、謝るふりをしたのち、油断したであろう女性に殴りかかった。
 そして発生する圧力を【超圧力】で増幅させ、人体に穴を空けようとした。
 相手が一般人なら、それは可能なのだ。
 
 
 しかし。
 
 
 
(    )「愚かな」
 
<゚Д゚=>「!!」
 
 
 
.

275 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:18:49 ID:j3o9BgmQO
 
 
 コンクリートを発泡スチロールのように貫ける拳が
 目の前の女性にはまったく通用しなかった。
 相手が異常な程硬いのかと思ったが、拳に来る
 反動の小ささから、そうとは言えないとわかった。
 
 どちらかというならば、相手を優しく撫でたような感じだった。
 クッションを殴った感じにも似ていた。
 詰まるところ、まったく手応えが感じられなかった。
 
 
(    )「私、そういう『パスカル』だの『圧力』だの、嫌いです。だから――」
 
<゚Д゚=;>「―――ッ!」
 
 
 
 
 
(゚、゚トソン「私の手の圧力を受けて、死んでください」
 
 
 
 
.

276 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/11(水) 19:21:09 ID:j3o9BgmQO
 
 
 女性は男の顔を両手で優しく挟んだ。
 かと思うと、直後に男の顔は女性の手によって挟み潰された。
 
 それは、豆腐を潰したかのような呆気なさだった。
 男はその掌から来る圧力を操ることもできず、そのまま絶命した。
 
 顔を文字通り失い倒れ込んだ男を、女性は見下ろした。
 そして溜息をこぼした。
 
 
 
 
(゚、゚トソン「――満たされない」
 
 
 
( 、 トソン「もっと――満たされたい」
 
 
 
 
 
.

282 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:20:28 ID:wWpLrlqIO
 
 
 

 
 
( <●><●>)「具体的な対抗策が浮かぶまでは、
         そちらの被害を食い止めるのは不可能です」
 
( ^ω^)「わかってるお」
 
 
 ゼウスの人情を無視した発言を、内藤はしかと受け止めた。
 
 その通りなのだ。
 たとえ各地で『拒絶』による撲殺計画がされていようが、
 いまの内藤たちには何もできないというのが現実だからだ。
 
 まして、アラマキが戦線離脱しているのが大きい。
 「力をもって攻めなければ殺せない」という『常識』がある限り、
 その『力』を操るアラマキはいた方が格段に戦力があがる。
 
 そんな彼がいないため、下手に出られないというのは歯痒かった。
 だが、それが『真実』である以上、抗いようはない。
 
 
.

283 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:21:57 ID:wWpLrlqIO
 
 
( ^ω^)「アラマキ……。彼は、どれくらいで治るんだお?」
 
( <●><●>)「【全ての統治者《マザー・ブレイン》】次第です」
 
( ^ω^)「ま……?」
 
 
 唐突に『能力者』と思わしき言葉を聞かされたため、内藤は戸惑った。
 それを察したゼウスは、すぐに解説を施した。
 
 
( <●><●>)「この屋敷で、メイドを操っている大元、
         と言えばおわかりいただけるでしょう」
 
( ^ω^)「(知らない名前だお……)」
 
 内藤は、その【全ての統治者】を知らなかった。
 だが、もうそんなことではあまり驚かなくなってきていた。
 
 ただでさえ『異常』が乱発している世界なのだ。
 少しくらい内藤のまったく知らないなにかが在っても、おかしくない。
 そう自分を納得させ、その話はやめた。
 
 わからないならわからないでいいのだ。
 治ってから行動すればいいのだから、と。
 
 
.

284 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:23:29 ID:wWpLrlqIO
 
 
( <●><●>)「それよりも……。私やハインリッヒにしてみれば、
         他の《拒絶能力》が如何なるものかを知りたいですね」
 
从 ゚∀从「勝手に人の名前を使いやがってよ。……いけ好かん野郎だ」
 
 ハンモックの上から、ハインリッヒがぼやいた。
 当然のように、ゼウスはそれを無視していた。
 このような仲で同盟が組まれたのが、不思議なくらいだった。
 
 
( ^ω^)「他の……」
 
 
 内藤は顎に手を当てた。
 急に言われて、他に誰がいたかなど、そう容易く思い出せるものではない。
 古い引き出しを次々開いていき、嘗て書き残しておいたメモを探していた。
 
( <●><●>)「……」
 
 その間に、ゼウスはコーヒーを半分ほどのんだ。
 別に苦味など感じない。
 
 コーヒーを、ただカフェインを得るためだけの
 飲料水としてでしかみていなかった。
 
 
.

285 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:25:53 ID:wWpLrlqIO
 
 
( ^ω^)「……」
 
 
(;^ω^)「ッ! 一人思い出したお!」
 
( <●><●>)「なんでしょう」
 
 
 腕を組み、顔を俯けていた内藤が顔をがばっとあげた。
 ゼウスはマグカップをテーブルに置き、内藤の顔を見た。
 
 非常に狼狽している表情だった。
 彼が『拒絶』の存在を懸念したときと同じようなものだった。
 その顔色から察するところ、【常識破り】のような恐ろしい《拒絶能力》だと思われた。
 そのため、ゼウスも些かばかりの覚悟を抱いた。
 
 
(;^ω^)「名前はうろ覚えだから言わないけど……。
      奴が拒むもの、それは『現実』!」
 
从 ゚∀从「……現実ぅ?」
 
 ハンモックから片足だけを垂らしているハインリッヒがそう復唱した。
 内藤は「そうだお」と肯いた。
 
 
(;^ω^)「『絵空事』を『現実』に変えてしまう《拒絶能力》……」
 
(;^ω^)「もう一口言うなら、『現実』を都合のいいようにねじ曲げる能力、だお!」
 
( <●><●>)「いまいち理解できませんね」
 
 
.

286 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:27:54 ID:wWpLrlqIO
 
 
( ^ω^)「僕ら小説家の世界では、『非現実的な展開を都合よく持ってこさせる』
      ことを『ご都合主義』なんて言うんだけど、
      それを現実の世界でやってのける奴なんだお」
 
从 ゚∀从「ご都合主義ねぇ」
 
( ^ω^)「あんたならわかるかお、ハインリッヒ」
 
 名を呼ばれたハインリッヒは、垂れさせていた足を引っ込め、上体を起こした。
 うん、とのびをして、内藤の問いにふてぶてしく答えた。
 
 
从 ゚∀从「知ってるも何も、ウチの世界じゃ、んなもんはご法度なんだよ」
 
( <●><●>)「まあ、言いたいことはおおむねわかりました」
 
( <●><●>)「……しかし、【常識破り】とどう違うのですか?」
 
(;^ω^)「どうも何も、まるっきり大違いだお……」
 
 
.

287 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:28:38 ID:wWpLrlqIO
 
 
从 ゚∀从「あんま違わねーだろ」
 
(;^ω^)「……じゃあ、今僕が思いつく限りで、
      一番わかりやすいたとえを言うと」
 
 
 
 
(;^ω^)「……【大団円《フィナーレ》】の完全強化版……なんだお」
 
 
 
 
( <●><●>)「!」
 
从;゚∀从「!」
 
 
 
.

288 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:30:38 ID:wWpLrlqIO
 
 
 昼間、ハインリッヒの妹の、ヒート=カゲキという女性とアラマキは対峙した。
 『英雄』であるハインリッヒを補佐する《特殊能力》の持ち主だ。
 
 『脚本(げんじつ)』を『脚色(かきかえ)』るそれは、
 アラマキを完膚なきまでに打ちのめせる程の効力を輝かせていた。
 原作では、ヒートの存在がハインリッヒを抗いようのない
 強力なキャラクターにお膳立てしているようなものなのだ。
 
 それの完全強化版となれば、彼らが驚かないはずがない。
 【大団円】は『英雄』、つまりハインリッヒしか強化できない。
 しかし、それの完全強化版となれば
 
 
(;^ω^)「自身を強化できるし、世界の因果を崩壊させることもできる。
      しかも、それはモララーの『混ぜる』ような『嘘』じゃない。
      全部が全部、ノンフィクションで起こるんだお」
 
从;゚∀从「『嘘』…だよな?」
 
(;^ω^)「『嘘』じゃないお。
      そいつは残酷な、そして無情な『現実』を拒んだ。
      結果、都合のいいように『現実』をねじ曲げる《拒絶能力》を手に入れたんだお……」
 
 
.

289 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:31:31 ID:wWpLrlqIO
 
 
 内藤がそれらを言った直後は、暫くは室内は静寂で満たされた。
 ハインリッヒは口をあんぐりと開いて、内藤を見つめている。
 ゼウスはにわかには信じがたいようで、腕を組み渋い顔をしていた。
 
 
 その沈黙を破ったのは、内藤の腹の音だった。
 真剣な話の合間での、その間抜けな音は、彼らの
 時計から抜かれた電池を再度はめ込むことに繋がった。
 
 ハインリッヒはぷっと噴き出し、ゼウスは元の無表情に戻った。
 腹をさすって気恥ずかしそうに、内藤が謝った。
 
 
(;^ω^)「よく考えたら、朝からなにも食べてないんだお」
 
( <●><●>)「もう夜です。ならば当然でしょう」
 
从 ゚∀从「……ケッ」
 
 
 
 
.

290 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:34:41 ID:wWpLrlqIO
 
 
 

 
 
 翌朝、内藤は八時過ぎに起床した。
 パラレルワールドに迷いこんでから初めてとった睡眠だったため、
 緊張の余り眠れないのではないかと思ったが、存外そんなことはなかった。
 むしろ気疲れが相俟って、普段以上に爆睡していた。
 
 前日、ゼウスがメイドを遣わせ用意させた食事を
 とったのちは、内藤が先に倒れるようにベッドに就いた。
 
 食事の場面では『拒絶』の話が会話の全てを占めており、
 それによる精神的な疲れが、彼を眠りへといざなったのだ。
 
 
( ^ω^)「……む…」
 
 朝、来客用寝室で上体を起こした。
 やはりこれは夢でないのだろうか、という淡い期待があったのだが、
 そんな希望は悪い目覚めと共にいとも容易く打ち砕かれてしまった。
 
 暫くぼうっとしていると、部屋の扉が開いた。
 ゼウスかと思ったが、来たのはメイドだった。
 ワゴンに朝食を載せ、やってきたのだ。
 
 
爪゚ー゚)「お早う御座います、内藤様」
 
(;^ω^)「え、あ、おはようだお……」
 
 
.

291 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:36:08 ID:wWpLrlqIO
 
 
 銀のワゴンの上には、無糖のコーヒーとサンドイッチがあった。
 勝手に食えということなのだろう、と内藤はわかった。
 顔を洗ったりしたいところなのだが、とぼやいていると、
 メイドは言伝を頼まれていたようで、内藤にそれを伝えた。
 
 
爪゚ー゚)「内藤様、ゼウス様は只今外出なされています」
 
( ^ω^)「外出?」
 
爪゚ー゚)「集会とのことでございます」
 
( ^ω^)「(そういや、そんな設定だったなあいつ……)」
 
( ^ω^)「わかったお。あとハインリッヒはどこだお?」
 
爪゚ー゚)「シャワールームでございます」
 
( ^ω^)「(居てくれてよかった……)
      ありがとうだお。じゃあもういいお」
 
爪゚ー゚)「畏まりました」
 
 
 そう言い残して、メイドは部屋を去った。
 少しして、内藤はマグカップを手に取り、コーヒーを胃に流し込んだ。
 やはり苦かったが、寝起きの怠さを覚ますにはちょうどよかった。
 
 これが『現実』なのだと甘受して、内藤はサンドイッチをひとつ、口に放り込んだ。
 やはり内藤の知っているそれとは違い、非常に美味なるものだった。
 
 
.

292 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:37:15 ID:wWpLrlqIO
 
 
( ^ω^)「(信じられないけど……もう、覚悟を決めるしかないお)」
 
 内藤のいう「覚悟」は、これから起こり続けるであろう
 『異常』を全て『現実』だと認め受け入れる「覚悟」だった。
 
 何度も自問してきたものだが、こうして就寝してもなお元の世界に
 帰ってこれない以上は、自分はこうなる運命だったのだ、と。
 それは、覚悟を決めたと同時に、諦めがついた瞬間だった。
 
 
( ^ω^)「暫くはここでお世話になるだろうし……屋敷を探検するかお」
 
从 ゚∀从「やめときな。罠という罠があちこちにあんだ」
 
( ;゚ω゚)「あにゃあああああああああああああっ!!」
 
 内藤が独り言をこぼすと、
 その真後ろに立っていたハインリッヒがそう言った。
 
 気配すらをも感じさせなかったので、
 内藤は慌てて布団を蹴飛ばして床に転がった。
 
 
.

293 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:38:15 ID:wWpLrlqIO
 
 
 この部屋には一人しかいないものだと思っていた上に、
 ハインリッヒはシャワーを浴びていると聞いていたため、
 内藤がここまで露骨に驚くのも無理はなかった。
 
 呆れた様子で、ハインリッヒは枕元から内藤の隣へと飛び移り、
 内藤を見下したまま、言葉を続けた。
 
 
从 ゚∀从「この屋敷は毎日造りが変わってる。
      メイドに案内されない限り、私たちは外にすら出られないぞ」
 
( ;゚ω゚)「(毎日変わる……?)
      そそ、そうかお……」
 
 鼓動が鳴り止まぬ胸を何とか宥め、内藤は立ち上がった。
 不審な点は抱いたものの、いまはそれを検討する余裕すらなかった。
 
 落ち着けたので、内藤はコーヒーを飲み干した。
 コト、とワゴンの上に載せると、待っていたかのように
 ハインリッヒが手をたたき、よし、と言った。
 
 
.

294 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:39:14 ID:wWpLrlqIO
 
 
从 ゚∀从「表に出よう。ゼウスん家にいると思うと、胸クソ悪ぃんだ」
 
( ^ω^)「おー」
 
 
 
 
(;^ω^)「――なーに言ってんだお!
      アラマキも全快じゃないのに、『拒絶』に
      見つかるかもしれないってのは自殺行為だお!」
 
从 ゚∀从「もし『拒絶』の力がホンモノなら、こんなドールハウスにいたって一緒さ。
      私は朝の散歩は欠かさないんだ。……行かねってなら、置いてくぞ」
 
(;^ω^)「あお……ま、待ってお!」
 
 
.

295 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:40:18 ID:wWpLrlqIO
 
 
 内藤の制止むなしく、ハインリッヒはメイドを呼んで自分たちを案内させた。
 諦めきれない内藤はなんとかハインリッヒを説得しようとするが、
 なぜか、不自然なまでに断られてしまっていた。
 
 
从 ゚∀从
 
(;^ω^)「(おかしいお! 僕の説得がまるで通じないなんて……)」
 
 
(;^ω^)「くどいようだけど、外は――」
 
从 ゚∀从「やだ」
 
 ハインリッヒは、やはりかぶりを振った。
 内藤の言葉をろくに聞かず。
 
 内藤は、いよいよ怪しく思ってきた。
 ハインリッヒの様子が変なのだ。
 何者かに操られた≠ゥのように、外へと向かっている。
 
 内藤は、ひとつの仮説が浮かんだ。
 浮かんだというより、思い出した=B
 
 
 
(;^ω^)「(……待てよ……、これってどこかで……)」 
 
 
 
 それは、原作が創られる前、ちょうど『拒絶』の存在を練っていた時だった。
 各人の魅せ方、演出と云ったものを考えていた当時のことを、内藤は思いだしていた。
 
 
.

296 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:42:11 ID:wWpLrlqIO
 
 
 内藤がふと思い出したもの、それは『拒絶』と主人公との出会い、だ。
 主人公はある日、決して足を向けない近くの森に、なぜか無性に行きたくなった。
 それに理屈や根拠なんてものはなく、本当になぜかそうなっただけ≠セった。
 
 主人公は「なんであそこに出向こうとしているのだ」という疑問と
 「はやく森に着きたい」という願望が共存していた。
 
 ここを読んだ人は、なぜ主人公がそこで森に出向こうと
 したのかわからなくなるだろう、とある程度の予想をしていた。
 
 答えは、簡単。
 主人公は誘われた。
 
 
 ――否、そういう物語にさせられた=B
 
 
 
( ;゚ω゚)「――――ッ!!」
 
 
 もしそうだとすれば――?
 
 内藤がそう思うと、咄嗟にハインリッヒの手を掴み、強引に動きを止めようとした。
 だが、そのときは既に門の目の前だ。
 モノクロの空間で、メイドとハインリッヒと内藤がいる。
 ここにきて、内藤がハインリッヒを止められるはずもなかった。
 
 
(;^ω^)「待て、ハインリッヒ! 門の向こうにいるのは――」
 
 
.

297 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:43:02 ID:wWpLrlqIO
 
 
 
 不自然に進む『現実』。
 
 
 ハインリッヒは、門に手をかけ、一気に押し開いた。
 メイドは相変わらずの表情で隣にいる。
 
 内藤は思わず目をつむった。
 だが、『現実』が変わるはずもなかった。
 
 
 
 門の向こうには、人が立っていた。
 
 タキシード姿の紳士のような男が、
 律儀に立っては溢れんばかりの笑みをこぼしていた。
 
 
 ここにきて、ハインリッヒは正気に戻った。
 自分はなにをしていたのか、一瞬思い出せなくなった。
 
 しかし、目の前の人物から発せられるオーラを
 感じ取ることで、なんとなくではあるが察することはできた。
 
 
 
(; ω )「……遅かっ…た……」
 
 
从;゚∀从「………誰だ、あんた」
 
 
 
 
.

298 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:44:56 ID:wWpLrlqIO
 
 
 
(    )「誰、と問われましても、ねぇ」
 
(    )「そうだ、『実は僕はあなたの親だった』なんて
     『現実(ストーリー)』はどうでしょう?」
 
(    )「伏線? そんなのいりませんよ。
     そういう『現実』だった≠フだから」
 
 
 
(;^ω^)「(この、目の前の『現実』を拒みたくなるような不快感――間違いない!)」
 
 
 
(    )「にしても、やはりさすがだねえ、この《拒絶能力》は」
 
(    )「自分の好きな『現実』を創り出せる」
 
(    )「『ゼウスが外出している隙にハインリッヒのみを
     相手に強襲する』という『現実』の通りだ!」
 
 
(    )「―――まあ」
 
 
 
.

299 名前: ◆qQn9znm1mg 投稿日:2012/07/12(木) 15:46:20 ID:wWpLrlqIO
 
 
 
(´・ω・`)「そんな【ご都合主義《エソラゴト》】、実際にあるはずねーけどよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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